説明

電気化学エネルギー貯蔵器ならびに電気化学エネルギー貯蔵器の熱的安定化のための方法

少なくとも1つの空間的に限界付けられたガルバニ電池(1、1a、1b、1c)を有する電気化学エネルギー貯蔵器において、ガルバニ電池は、ガルバニ電池の内部で少なくとも局所的な限界温度超過の発生時に、ガルバニ電池の内部の熱発生(2、2a、2b、2c)をガルバニ電池の空間的境界を介して行われるガルバニ電池の熱放散(3、4、5)レベル以下にまで低下させる構成要素または構成ユニットを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気化学エネルギー貯蔵器ならびに、電気化学エネルギー貯蔵器とくにリチウムイオン蓄電池の熱的安定化のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術として、電気化学エネルギー貯蔵器の熱的安定化を達成するためのさまざまな解決手法が知られている。米国特許第5,574,355号明細書は、蓄電池の充電に関連して使用するために熱暴走を検知する検知器を開示している。この検知器は、蓄電池の内部抵抗または導電率を測定するための回路を有している。この回路は蓄電池内部導電率の上昇または蓄電池内部抵抗の低下を検知して、相応した出力信号を発生する。この出力信号は当該蓄電池における熱暴走の切迫または発生を警告していることになる。上記回路は蓄電池の充電プロセスの制御に使用することができる。
【0003】
米国特許第5,642,100号明細書は、電気通信中継ステーションの蓄電池ないしこの蓄電池に接続された蓄電池充電システムのエネルギーマネージメントシステム、熱暴走を制御するための方法および装置を開示している。このシステムは電源から電流を取り出し、整流器を経て上記蓄電池および負荷装置に電流を転送する。このシステムは、上記蓄電池を電流から遮断可能な低圧遮断スイッチを有している。一方の測定抵抗は、整流器を流れる電流フローを表す第1の信号の発生に使用される。さらに別の測定抵抗は、負荷装置を流れる電流フローを表す第2の信号の発生に使用される。マイクロプロセッサを使用して、上記第1の信号と上記第2の信号との差を表す第3の値が発生させられる。このマイクロプロセッサは、上記第3の値が所定の閾値を上回る場合に熱暴走を警告する信号を発生させるためにも使用される。この場合、上記蓄電池は電流遮断されることができる。
【0004】
米国特許第5,710,507号明細書は、1回路と、予備蓄電池用充電回路のモードをセレクトするための該回路の使用方法とを開示している。モードをセレクトするための上記回路は、予備蓄電池の温度を測定するために予備蓄電池に接続された、温度値に変換するための測定値変換器(温度センサ)を含んでいる。上記回路は、さらに、加熱モードもしくは充電モードをセレクトするために温度変換器に接続されたモード変更回路を含んでいる。加熱モードにおいて予備蓄電池は外部電源によって加熱される。充電モードにおいてこのエネルギー源は当該蓄電池の充電に使用される。
【0005】
米国特許第7,061,208号明細書は、蓄電池の温度を調整するための温度調整器を開示している。この調整器は2つの接触箇所を有する熱電測定値変換器(センサ)を備えている。第1の接触箇所は1個以上の蓄電池と熱的連結され、第2のインタフェースは、第2のインタフェースの熱効果を促進する熱動作促進媒体と熱伝達可能に連結される。第1のインタフェースと第2のインタフェースとは互いに逆に作動する。つまり、これらはバッテリの極性に応じて熱放出または熱吸収を行う。こうして、温度調整器は蓄電池を冷却冷または加熱することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,574,355号明細書
【特許文献2】米国特許第5,642,100号明細書
【特許文献3】米国特許第5,710,507号明細書
【特許文献4】米国特許第7,061,208号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の公知文献による種々異なる装置ないし方法のそれぞれは、さまざまな短所と結びついている。本発明の目的は、電気化学エネルギー貯蔵器の熱的安定化を達成するためのできるだけ効果的な方法ならびにこの方法を実現する電気化学エネルギー貯蔵器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は独立請求項に記載の方法及び電気化学エネルギー貯蔵器によって達成される。
【0009】
本発明による電気化学エネルギー貯蔵器は少なくとも1つのガルバニ電池を有し、前記ガルバニ電池は構成要素または構成ユニットを内在もしくは外在させており、当該構成要素または構成ユニットは、前記ガルバニ電池の内部で少なくとも局所的な限界温度超過の発生時に、前記ガルバニ電池の内部における熱発生の少なくとも一時的な減少、または電池周囲環境への前記電池の熱放散の少なくとも一時的な増大、あるいはその両方を生じさせる。
【0010】
少なくとも1つのガルバニ電池を有する電気化学エネルギー貯蔵器の熱的安定化のための本発明による方法において、前記ガルバニ電池に内在または外在している構成要素または構成ユニットは、前記ガルバニ電池の内部で少なくとも局所的な限界温度超過の発生時に、前記ガルバニ電池の内部における熱発生の少なくとも一時的な減少、または電池周囲環境への前記電池の熱放散の少なくとも一時的な増大あるいはその両方を生じさせる。
【0011】
本発明によって設けられた、ガルバニ電池の内部で少なくとも局所的な限界温度超過の発生時に、当該ガルバニ電池の内部における熱発生の少なくとも一時的な減少および/または当該電池周囲環境への当該電池の熱放散の少なくとも一時的な増大をもたらす構成要素または構成ユニットは、溶解した形または不溶解の形で当該ガルバニ電池の内部に存在し、好ましくは、当該電池の電気化学的活性要素を形成する、または電気化学的プロセスを促進もしくは可能にする電池要素を形成するいずれかの構造体であってよい。つまり、この構造体は、たとえば電極またはセパレータの内部ないし外周に配された、または電解質中に混入された、たとえば、化学物質または化学物質の混合物であってよい。ただし、これらはまた構造的な構成要素または構成ユニットであってもよい。たとえば、好ましくはセンサ信号たとえば当該電池の温度を表す測定信号によって制御され、たとえば物質を放出するまたはたとえば当該電池内部の物質移動のための移動経路を開閉し、これによりまたはその他の処方で、当該ガルバニ電池の内部における熱発生を当該電池の空間的境界を介して行われる当該電池の熱放散レベルにまで低下させる、またはそれ以下のレベルにまで低下させる構成要素または構成ユニットである。好ましくは、電気機械式、電子式またはメカトロニクス式の構成要素または構成ユニットである。
【0012】
本発明の説明において、電気化学エネルギー貯蔵器とは、エネルギー貯蔵器内部で電気化学反応が進行することによって電気エネルギーを取り出すことのできるあらゆる種類のエネルギー貯蔵器として理解されるべきである。この用語は、特に、あらゆる種類のガルバニ電池とりわけ一次電池、二次電池およびそれらの電池の相互接続によって形成されたそれらの電池からなる蓄電池を含んでいる。この種の電気化学エネルギー貯蔵器は、一般に、いわゆるセパレータによって分離された正負の電極を有する。電極間には電解質によるイオン移動が生ずる。ただしまた、燃料電池も電気化学エネルギー貯蔵器として理解される。
【0013】
これに関連して、電気化学エネルギー貯蔵器の熱的安定化とは、当該電気化学エネルギー貯蔵器内部の少なくとも局所的な限界温度超過から生ずることがある損壊もしくは損傷から当該電気化学エネルギー貯蔵器を保護するのに適したあらゆる対策として理解される。この場合、少なくとも局所的な限界温度超過とは、少なくとも1つの箇所または1つの空間領域に一時的または持続的に限界温度超過を惹起する温度または温度分布が当該電気化学エネルギー貯蔵器内部に一時的に発生することと、理解することができる。
【0014】
これに関連して、ガルバニ電池の内部または電気化学エネルギー貯蔵器内部の熱発生とは、たとえば化学反応熱としてまたはその他の散逸過程によって当該ガルバニ電池の内部または当該電気化学エネルギー貯蔵器内部に形成される単位時間当たりの熱量として理解されることとする。ガルバニ電池または電気化学エネルギー貯蔵器によるそれらの周囲環境への熱放散は上記の熱発生とは区別されなければならない。こうした熱放散はガルバニ電池または電気化学エネルギー貯蔵器の外側境界を介した熱移動によって行われる。
【0015】
特定の条件下、たとえば、ガルバニ電池の内部または電気化学エネルギー貯蔵器内部で吸熱性化学反応が進行するあるいは、たとえば、ガルバニ電池の内部または電気化学エネルギー貯蔵器内部にヒートシンクが存在する場合には、熱発生は負の値を帯びることがある。ただしそれにもかかわらず、熱発生なる用語は当該数値の前置される符号とは関係なく使用される。同様に、熱移動は、ガルバニ電池の内部または電気化学エネルギー貯蔵器内部から外部に向かって行われるだけでなく、たとえば一方のガルバニ電池がそれに隣接する他方のガルバニ電池から熱を吸収する状況では、逆方向にも行われることになる。こうしたケースにおいて、熱放散は負の値を帯びるが、これが熱吸収に等しいことは明らかである。こうした理由から、熱放散なる用語は熱吸収のケースも含んでいるものとする。
【0016】
本発明の好適な実施形態ならびにその発展形態は従属請求項に例示されている。
好ましい電気化学エネルギー貯蔵器においてまたは、電気化学エネルギー貯蔵器の熱的安定化のための好適な方法において、当該電気化学エネルギー貯蔵器のガルバニ電池の内部の少なくとも1つの化学反応または少なくとも1つの物質移動は少なくとも局所的に作用し、それにより、当該ガルバニ電池の内部の熱発生は当該ガルバニ電池の空間的境界を介して行われる当該電池の熱放散レベルにまで低下させられるか、またはそれ以下のレベルにまで低下させられる。化学反応または物質移動への作用によるこうした熱発生の制御は多くの場合比較的速やかに行われるため、電気化学エネルギー貯蔵器の迅速かつ効果的な熱的安定化の達成が可能である。それゆえこれによって、たとえば、電気化学エネルギー貯蔵器内部の自動促進温度上昇によって当該エネルギー貯蔵器が破壊される恐れのあるいわゆる「熱暴走」の発生時もしくはそうした事態の切迫時のような極端な状況下においても、速やかな熱的安定化が実現可能である。
【0017】
さらに別の好ましい電気化学エネルギー貯蔵器において、または、電気化学エネルギー貯蔵器の熱的安定化を達成するためのさらに別の好ましい方法において、当該ガルバニ電池の内部の少なくとも1つの化学反応または少なくとも1つの物質移動は少なくとも局所的に阻止、したがって抑制、制限または阻害される。化学反応のこうした少なくとも局所的な抑制、制限または阻害は、とりわけそれが発熱性化学反応であるか当該化学反応の生成物が同じく当該ガルバニ電池の内部で進行する発熱性反応の出発原料であれば、特に効果的な電気化学エネルギー貯蔵器の熱的安定化が実現する。
【0018】
ガルバニ電池の内部の化学反応または物質移動の阻止は好ましくは、たとえば局所的な温度に応じてまたは局所的なイオンの流れの密度に応じてイオンの流れに影響を与える適切な、セパレータ素材および/またはセパレータ構造によってもたらされる。このようなセパレータ素材またはセパレータ構造は好ましくは、限界温度が超えられると孔を通じたイオン移動を低下させる材料物質でコートされた多孔質または微孔質の支持体から構成される。
【0019】
ただし、同じように好適な実施形態として、または上述の好適な実施形態と組み合わせとして、限界温度を超えると孔を通じたイオン移動を低下させる材料物質で電極をコーティングすること、したがって、アノードまたはカソードをこの種の材料物質でコーティングすることも好都合である。
【0020】
本発明のこの種の実施形態の1つでは、好ましくは、過熱の恐れがある場合にガルバニ電池をその周囲環境から電気的に切り離す温度ヒューズが使用される。これは、その他の実施形態と組み合わせることも可能である。またはヒートポンプ、たとえば温熱および冷熱伝達箇所を有すると共に好ましくは双方の熱伝達箇所間の熱エネルギー移動を行う半導体素子を有するペルチエ型ヒートポンプと組み合わせることも可能である。その他の別個に行われる形態もしくは組み合わさるべき形態は、バッテリ電流を測定するための電流センサを用いた電流遮断ないし電流制限である。この種の装置および類似の装置を組み合わせることにより、電気化学エネルギー貯蔵器の熱的安定化は、相応した個別的対策に比較して、著しく改善される。
【0021】
さらに別の好適な電気化学エネルギー貯蔵器において、または電気化学エネルギー貯蔵器の熱的安定化のさらに別の好適な方法において、当該ガルバニ電池の内部の熱伝導率は少なくとも局所的に、一時的または持続的に高められる。これは、好ましくは、ヒートポンプによっても行うことができる。このようなヒートポンプは、たとえば、好ましくはガルバニ電池の内部に、同時にほぼもしくは全面的にその他の電池要素との間の物質交換から隔離されている場合でも実効熱移動が可能となるように配置されたペルチエ型ヒートポンプによって構成することができる。この種の実施形態を採用することで、好ましくは、本発明のその他の実施形態とも組み合わせることにより、このガルバニ電池の内部からこの電池の空間的境界への熱移動を高め、その結果、当該電池から当該電池の周囲環境への熱放散を高めることができる。
【0022】
さらに別の好適な実施形態における電気化学エネルギー貯蔵器において、または、電気化学エネルギー貯蔵器の熱的安定化のさらに別の好適な方法において、当該電池の空間的境界を介して行われる当該電池の熱放散は少なくとも局所的に、一時的または持続的に増大する。この場合にも、好ましくはヒートポンプたとえばペルチエ型のヒートポンプを使用することも利点がある。
【0023】
この種のヒートポンプは、本発明の上述した全ての実施形態に関連して、好ましくはマイクロプロセッサと結びついたセンサ信号たとえば温度センサの信号またはこのエネルギー貯蔵器または該貯蔵器の一連の電池のいずれかの電池によって放出または吸収される熱流を測定するためのセンサの信号によって制御可能である。
【0024】
当業者にはその専門的知見に基づいて、以上に説明した本発明の実施形態のいくつかを組み合わせることは可能である。本願明細書で例示して説明することのできないその他の実施形態については、当業者はその専門的知見を利用して本願明細書の説明からそうした本発明に含まれる実施形態を見出すことができる。従って、本発明は本願明細書に例示して説明した実施形態に制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ガルバニ電池を有する電気化学エネルギー貯蔵器の内部における熱発生および熱放散を概略的に示す図である。
【図2】多数のガルバニ電池を有する電気化学エネルギー貯蔵器の内部における熱発生および熱移動状況を概略的に示す図である。
【図3】セパレータによって切り離された多数の電極からなるスタックを有する電気化学エネルギー貯蔵器を概略的に示す図である。
【図4】通常使用時の電気化学エネルギー貯蔵器の内部におけるイオン移動プロセスと熱移動プロセスとを概略的に示す図である。
【図5】イオン移動が局所的に高い使用状態における、電気化学エネルギー貯蔵器内部のイオン移動プロセスと熱移動プロセスとを概略的に示す図である。
【図6】本発明の好ましい一実施形態による、イオン移動が局所的に阻止および/または化学反応が局所的に阻止される電気化学エネルギー貯蔵器を概略的に示す図である。
【図7】本発明の好ましい一実施形態における、ガルバニ電池の内部の熱伝導率が局所的に高い電気化学エネルギー貯蔵器を概略的に示す図である。
【図8】本発明の好ましい一実施形態における、ガルバニ電池の内部の熱伝導率が局所的に高く、かつ、ガルバニ電池の外側境界を介した熱放散も局所的に高い電気化学エネルギー貯蔵器を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、好ましい実施形態に基づき、図面を参照して、本発明を詳細に説明する。
図1に概略的に示したように、ガルバニ電池1の内部では、発熱化学反応の反応熱として、またはその他の散逸過程に基づいて熱発生2が生じる。こうした熱発生は、この発生した熱がガルバニ電池の外側境界1を経て相応したレベルの熱放散3として排出されない限り、ガルバニ電池の内部の温度上昇と結びついている。その場合、熱発生が熱放散を上回るもしくは上回っている限り、温度は上昇し続ける。他方、熱発生が熱放散を下回るもしくは下回っている限り、温度は低下し、熱発生と熱放散とが等しいもしくは等しい限り、温度は一定のままである。
【0027】
この場合、外側境界を介したガルバニ電池の熱放散3は、基本的に、ガルバニ電池の外側境界領域の温度によって、つまり、たとえばパッケージングシートの温度によって、またはハウジングの温度によって決定される。ただし、ガルバニ電池の内部の熱発生2は、先ず、ガルバニ電池の内部の温度を上昇させる。その際、ガルバニ電池の内部の熱移動プロセス(その規模および程度は基本的に熱伝導率によるとともに、さらには、多くの場合、その他の事象たとえば対流によっても規定される)を経てガルバニ電池の内部に温度平衡が生じ、その結果として、ガルバニ電池の内部の温度と電池境界の温度とが同一化する。ただし、このプロセスは即時に行われるわけではなく、一般に遅れと結びついており、しかもこの遅れ時間はガルバニ電池の内部の素材の熱移動特性に依存している。
【0028】
特に、いわゆる「熱暴走」の切迫時またはその発生時、つまり、たとえば電池内部で発熱性化学反応が急速に進行する場合には、ガルバニ電池の内部の熱移動プロセスは一般に、ガルバニ電池の内部の温度上昇が危険な限界温度を越えて高まるのを阻止するには十分ではない。
【0029】
たとえば図2に示したような、多数のガルバニ電池からなる蓄電池においては、多数の電池が互いに隣接する電池境界を経て熱の流れ4、5を交換することにより、状況はさらに複雑になる。たとえば、電池1a、1cに隣接したガルバニ電池1b内の熱発生2bが隣接電池内の熱発生2a、2cよりも大きければ、少なくともしばらく後には、相対的に高温の電池1bから相対的に低温の電池1a、1cへの熱移動4は、相対的に低温の電池から相対的に高温の電池への熱移動を上回ることになる。これによって、これらの隣接電池の熱発生2a、2cのみでこれらの電池が過熱に至るのではなく、隣接する電池1a、1cへの上述した熱供給が生じ、これによって同じく隣接電池1a、1cの過熱が招来され得ることになる。こうした効果によって、過熱電池がそれに隣接する電池を同じく過熱させ、こうして、単一の電池のいわゆる熱暴走から生ずる上記の多段式効果によって隣接する多数の電池が熱暴走状態となる。
【0030】
上述した現象と結びついた電気化学エネルギー貯蔵器内のガルバニ電池の過熱を回避するため、本発明によるところの、空間的に限界付けられた少なくとも1つのガルバニ電池を有する電気化学エネルギー貯蔵器は、ガルバニ電池の内部で少なくとも局所的な限界温度超過の発生時に、当該ガルバニ電池の内部の熱発生をその空間的境界を介して行われるこの電池の熱放散レベルにまで低下させるか、またはそれ以下のレベルにまで低下させる機能を有する構成要素または構成ユニットを内在もしくは外在させている。
【0031】
図3は、正極8と、負極9と、両者の間に配置されてガルバニ電池の内部の短絡を阻止するセパレータ10とからなるいわゆる電極スタックを有するガルバニ電池を概略的に示している。集電体6、7間の電子の流れに対応するイオンの流れ11はこれらのセパレータを貫いて流れる。
【0032】
図4に概略的に示したように、セパレータ10を貫く電極間のこうしたイオンの流れ11は熱発生に至ると共に、ガルバニ電池の内部からガルバニ電池境界への相応した熱移動12に至る。ガルバニ電池の通常使用において、熱放散3したがって、ガルバニ電池の内部からガルバニ電池の外側境界を経て電池の周囲環境中に行われる熱移動は、電池の温度を限界値にまで上昇させないようにするのに十分である。
【0033】
しかしながら、ガルバニ電池の内部のさまざまな障害の結果として、その領域14における局所的な温度上昇と結びついた、イオンの流れの密度の局所的な増大13あるいは電気化学的反応の進行速度の局所的な増大13が生ずることがある。このような状態は図5に概略的に示されている。こうした状態がやや長時間にわたって持続し、しかも、熱放散12がそれに相応して高くならない場合には、当該領域14の温度はさらに上昇し続け、その結果として、電池内のその他の領域の温度も上昇し続けることになる。その結果として、温度上昇が危険な限界を上回る温度上昇に至るかどうかは、それと結びついた散逸過程の速度に依存する。
【0034】
図6は、本発明の好ましい一実施形態として、イオン移動が局所的に阻止15ないしまたは化学反応が局所的に阻止15されることになる、本発明による電気化学エネルギー貯蔵器を概略的な形で示している。図6は、化学反応または移動プロセスを阻止するためのメカニズムによって互いに相違する本発明の一連の実施形態の共通的な全体像を具体的に示している。その際、上述した阻止はそれぞれ相異したやり方及び形態で実現可能である。
【0035】
第1の実現可能な形態は、所定の電池反応を阻害する物質を通常使用時にはこの物質が効果を発揮しないようにしてガルバニ電池の内部に収容する点にある。これは、たとえば、電池電極近傍またはセパレータ構造内に収容される熱可塑性カプセル材料内に適切な試薬を封じ込めることによって行うことができる。その際、熱可塑性封じ込め材料の融点を適切な方法で選択することにより、電池内部の温度が所定の限界値つまり当該材料の融点を超える際に、電気化学的電池反応を阻害する試薬が熱可塑性材料の融解によって放出されるように構成することができる。
【0036】
さらに別の実現可能な形態は、当該阻害試薬の放出をイオンの流れの程度に依存させることに基づいている。本発明のこの実施形態は、温度上昇をもたらすと考えられる化学反応の阻止が、当該温度上昇が限界値に達する前にすでに実施可能であるという利点と結びついている。これによって、電池内部における温度同化の遅れの問題は回避もしくは緩和される。本発明のこの実施形態は、当該阻害試薬を含んだカプセルコーティングを電極に施し、この電極を介したイオンの流れが一定の値を超える場合に当該試薬が放出されるようにすれば、特に好都合である。
【0037】
電池反応を局所的に阻止するためのさらに別の実現可能な形態は、液状の電解質ではなく、たとえば、ゲル状の電解質を使用する点にある。こうしたゲル状電解質の化学的組成を適切に選択することにより、限界温度以下時におけるこうした電解質のイオン伝導率を高く保つと同時に、一定の限界温度の到達時または該温度の超過時にはこの電解質のイオン伝導率を顕著に低下させて、当該限界温度の到達時または該温度の超過に際し該電解質が実質的に絶縁体となるようものである。この種のゲル状またはその他の非液状または粘性電解質を使用する場合、電気化学的電池反応を局所的に大幅に抑制して、電池の熱暴走を回避することができる。上記目的には、イオン移動を妨げる反応不活性物質の分散液を含む、たとえば非液状または粘性電解質が適当である。そのようなものとして、好ましくは、有機ポリマーが使用される。
【0038】
ガルバニ電池の電池反応を阻止するためのさらに別な実現可能な形態は、セパレータを多孔質支持体として形成し、該支持体(好ましくは該支持体の表面)に熱作用下で融解する物質をコーティングすることである。好ましくは、熱作用下で融解する物質は、イオン移動を行うことのできる非コーティング区域が残存するようにしてセパレータの表面にコーティングされる。このことは、たとえば、熱作用下で融解する物質がセパレータに行列様格子状に被着されることによって実現することができる。熱作用下で融解するこの物質は、かくて、所定の限界温度の到達時もしくは該限界温度近傍で融解し、こうして、セパレータ支持体のイオン透過率は大幅に減少し、これによって、ガルバニ電池の電池反応は効果的に阻止される。
【0039】
図7は、それらの特徴をその他の実施形態の特徴と組み合わせることもできる、さらに別な一群の実施形態を具体的に示している。この一群の実施形態において、局所的に高度に生成された熱の局所的に高度な排出はガルバニ電池の内部の局所的に高い熱伝導率を利用して行われる。
【0040】
本発明のこれらの実施形態を実現するための実現可能な形態の一つでは、温度の上昇につれて熱伝導率が増大する材料物質が電池内部に収容される。この種の材料物質は比較的多数が知られていると共に十分な調査研究も行われている。この場合、好ましくは、ガルバニ電池の活性要素に対して化学的に不活性な挙動を有するこの種の材料物質が選択される。この種の材料物質は、好ましくは、分散液または溶液として、ガルバニ電池のその他の成分と混合されてよい。ただし、この種の材料物質をたとえばセパレータ構造中に混入し、こうして製造されたセパレータが温度の上昇につれて増大する熱伝導率を有するようにすることもできる。従って、温度上昇に際してガルバニ電池の熱放散ならびに熱移動を高めて、電池内部のさらなる温度上昇が阻止されるようにすることができる。
【0041】
温度上昇に際するガルバニ電池の内部の熱伝導率を高めるさらに別の実施可能な形態では、適切なヒートポンプたとえばペルチエ型ヒートポンプが適切な方法で電池内部に収容されている。このような場合、当該電池は能動熱移動を行うことができるようになる。この種のヒートポンプはマイクロプロセッサを援用し、センサ信号によって制御可能であり、この場合、当該センサ信号は好ましくは電池内部で測定された温度を表している。この種のヒートポンプへの供給エネルギーは、好ましくは、安定化さるべきガルバニ電池自体から該電池の電極ないし電気接続端子を経て取り出すことが可能となる。
【0042】
ヒートポンプとくにペルチエ型のヒートポンプは、好ましくは、電池の外側境界を介して行われる熱放散の向上にも使用することができる。その他の実施形態の特徴と組み合わせることもできるこの種の実施形態は、図8によって具体的に示されている。たとえば、イオン移動の増大に起因して温度発生が高まる領域13では、電池内部において、電池の外側境界に対する熱移動の増大16が生じる。従って、本発明のこれらの実施形態において、電池の外側境界へ移動された熱は、適切な対策によって増強され、電池の外側境界をして排熱17される。こうして、その他の領域の電池境界18に比較して高度な熱放散17が電池の当該外側境界において実現される。
【0043】
上記の特徴を達成する実現可能性な形態の一つでは、電池境界への熱移動の向上を図って、ヒートポンプとくにペルチエ型のヒートポンプが使用される。さらに別の可能性は、冷却物質を該物質およびそれと共に周囲環境に対して高い熱放散が行われるようにしてガルバニ電池外周領域の外側境界で局所的に流出させる点にある。そのために特に適していると考えられるものは、高い熱容量と共に好ましくは高い蒸発速度を有するゲル状物質である。ゲルは、そのゲル状稠度によって揮発性冷却成分の早期逃散を妨げるが故に、本実施形態の実現に特に適している。水は大きな熱容量を有しているが故に、水分含有物質の使用がその他の着眼点(たとえば、ガルバニ電池の成分とのできるだけ強度な化学反応)と矛盾しない限りにおいて、水系ゲルはこれらの実施形態の好都合な実現可能性を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのガルバニ電池(1、1a、1b、1c)を有する電気化学エネルギー貯蔵器であって、
前記ガルバニ電池は構成要素または構成ユニットを内在もしくは外在させており、当該構成要素または構成ユニットは、前記ガルバニ電池の内部で少なくとも局所的な限界温度超過の発生時に、前記ガルバニ電池の内部における熱発生(2、2a、2b、2c)の少なくとも一時的な減少、または電池周囲環境への前記電池の熱放散(3、4、5)の少なくとも一時的な増大、あるいはその両方を生じさせる電気化学エネルギー貯蔵器。
【請求項2】
前記ガルバニ電池の内部における熱発生(2、2a、2b、2c)の前記少なくとも一時的な減少、または前記電池周囲環境への前記電池の熱放散(3、4、5)の前記少なくとも一時的な増大あるいはその両方は、前記構成要素または前記構成ユニットを通じての、前記ガルバニ電池の内部での少なくとも1つの物質移動、または少なくとも1つの化学反応、あるいは前記物質移動と前記化学反応との少なくとも局所的な作用によって生じる請求項1に記載の電気化学エネルギー貯蔵器。
【請求項3】
前記ガルバニ電池の内部における、少なくとも1つの化学反応または少なくとも1つの物質移動あるいはその両方は、少なくとも局所的に阻止される(15)ことを特徴とする請求項2に記載の電気化学エネルギー貯蔵器。
【請求項4】
前記ガルバニ電池の内部の熱伝導率は、少なくとも局所的に、一時的または持続的に高められる(16)ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電気化学エネルギー貯蔵器。
【請求項5】
温度の上昇につれて熱伝導率が増大する材料物質が前記ガルバニ電池の内部に収容されていることを特徴とする請求項4に記載の電気化学エネルギー貯蔵器。
【請求項6】
前記ガルバニ電池の内部の熱伝導率は、前記ガルバニ電池の内部の少なくとも1つのヒートポンプによって少なくとも局所的に、一時的または持続的に高められる(16)ことを特徴とする請求項4または5に記載の電気化学エネルギー貯蔵器。
【請求項7】
前記ヒートポンプは、前記ガルバニ電池の内部で測定された温度を表すセンサ信号によって制御されることを特徴とする請求項6に記載の電気化学エネルギー貯蔵器。
【請求項8】
少なくとも1つのガルバニ電池を有する電気化学エネルギー貯蔵器の熱的安定化のための方法であって、
前記ガルバニ電池の構成要素または構成ユニットは、前記ガルバニ電池の内部で少なくとも局所的な限界温度超過の発生時に、前記ガルバニ電池の内部における熱発生(2、2a、2b、2c)の少なくとも一時的な減少、または電池周囲環境への前記電池の熱放散(3、4、5)の少なくとも一時的な増大あるいはその両方を生じさせることを特徴とする方法。
【請求項9】
前記ガルバニ電池の内部における熱発生(2、2a、2b、2c)の前記少なくとも一時的な減少、または前記電池周囲環境への前記電池の熱放散(3、4、5)の前記少なくとも一時的な増大あるいはその両方は、前記構成要素または前記構成ユニットを通じての、前記ガルバニ電池の内部での少なくとも1つの物質移動、または少なくとも1つの化学反応、あるいは前記物質移動と前記化学反応との少なくとも局所的な作用によって生じることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ガルバニ電池の内部における、少なくとも1つの化学反応または少なくとも1つの物質移動あるいはその両方は、少なくとも局所的に阻止される(15)ことを特徴とする請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記ガルバニ電池の内部の熱伝導率は、少なくとも局所的に、一時的または持続的に高められる(16)ことを特徴とする請求項8から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記ガルバニ電池の内部の熱伝導率は、温度の上昇につれて熱伝導率が増大する前記ガルバニ電池の内部の材料物質によって少なくとも局所的に、一時的または持続的に高められる(16)ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ガルバニ電池の内部の熱伝導率は、前記ガルバニ電池の内部のヒートポンプによって少なくとも局所的に、一時的または持続的に高められる(16)ことを特徴とする請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記ヒートポンプは、前記ガルバニ電池の内部で測定された温度を表すセンサ信号によって制御されることを特徴とする請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−509674(P2013−509674A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535665(P2012−535665)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【国際出願番号】PCT/EP2010/006475
【国際公開番号】WO2011/050930
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(511173550)リ−テック・バッテリー・ゲーエムベーハー (85)
【Fターム(参考)】