説明

電気化学キャパシタ

【課題】サイクル特性を向上させることが可能な電気化学キャパシタを提供する。
【解決手段】電気化学キャパシタは、正極および負極と共に電解液を備える。正極および負極のうちの少なくとも一方は高分子電解質を含有し、その高分子電解質はフッ素化炭素鎖および酸性官能基を含む。電解液はイオン液体を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、正極および負極と共に電解液を備えた電気化学キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学キャパシタ(電気二重層キャパシタ)は、酸化還元反応を用いずに物理吸着現象だけを用いるデバイスであり、特に、蓄電用途において期待されている。なぜなら、入出力特性に優れているからである。また、電子の授受が理想的に行われないため、優れたサイクル特性が得られるからである。これらの利点に着目して、自動車のアイドリングストップ用途または回生エネルギー用途の蓄電デバイスとして、近年、電気化学キャパシタに関する研究開発が活発に行われている。
【0003】
この電気化学キャパシタは、一対の電極(正極および負極)と共に電解液を備えており、両電極は、電極反応に用いられる活物質を含んでいる。物理吸着現象を利用して蓄電する電気化学キャパシタの容量は、イオンが活物質に吸着する量、すなわち活物質の表面積に依存するため、その活物質としては、一般的に、活性炭などの大表面積の炭素材料が用いられている。ところが、電気化学キャパシタでは、活性炭などを用いて活物質の表面積を増大させても、リチウムイオン二次電池などと比較して十分なエネルギー密度が得られないという潜在的な問題がある。
【0004】
そこで、電気化学キャパシタのエネルギー密度が作動電圧の二乗に比例することに着目して、その作動電圧を増大させることが考えられる。これに伴い、電解液として、水系の電解液の代わりに、作動電圧がより増大する非水系の電解液を用いることで、電気化学キャパシタの電圧利用範囲が広がるため、エネルギー密度が向上する。
【0005】
ところが、非水系の電解液を用いた電気化学キャパシタでは、電極または電解液に含まれる水分に起因して、電極と電解液との界面において酸化還元反応が生じやすいため、電解液が分解しやすいという現実的な問題がある。これにより、結局のところ、作動電圧が低下するだけでなく耐久性も低下するため、電気化学キャパシタの性能が低下しやすい状況にある(例えば、非特許文献1参照。)。
【0006】
そこで、水分に起因する電気化学キャパシタの性能低下を改善するために、さまざまな検討がなされている。
【0007】
具体的には、ハロゲン置換化合物を用いて電極を処理することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。これにより、電極が疎水性になるため、水分(吸着水)等の影響が低減される。ところが、活物質内の水分等まで除去することは困難である。また、ハロゲン置換化合物の分子は電極に物理吸着しているだけであるため、乾燥時または充放電時などに分子が脱離しやすい。さらに、電解液に含まれている水分が活物質に吸着することを防止することは困難である。
【0008】
これに伴い、電解液に含まれる水分を除去するために、電気分解を利用することが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。ところが、電解液に含まれる水分量を減少させても、その後に大気中の水分が電解液に含まれることまで防止することは困難である。しかも、電解液に含まれる水分量を減少させることだけに執着すると、設備投資または製造プロセスに要するコストの増大を招いてしまう。
【0009】
この他、結合剤に起因するイオン移動の妨害を防止すると共に活物質の表面積を増大させるために、その結合剤としてイオン交換体を用いることが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。陰極用の陽イオン交換体としては、パーフルオロスルホン酸−ポリテトラフルオロエチレン共重合体などが用いられていると共に、電解液としては、テトラメチルアンモニウムなどの陽イオンを含む塩のエチレンカーボネート溶液などが用いられている。なお、上記したパーフルオロスルホン酸−ポリテトラフルオロエチレン共重合体は、高分子電解質として燃料電池の分野においても用いられている(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】デグラデーション レスポンス オブ アクティベイテッド−カーボン−ベースド EDCLs フォー ハイアー ボルテージ オペレーション アンド ゼアー ファクターズ,ジャーナル オブ ジ エレクトロケミカル ソサエティ,156巻(7号),A563頁−A571頁,2009年(Degradation Responses of Activated-Carbon-Based EDLCs for Higher Voltage Operation and Their Factors, Journal of The Electrochemical Society, 156(7),A563-A571, 2009 )
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−044082号公報
【特許文献2】特開2010−018840号公報
【特許文献3】特開2010−206171号公報
【特許文献4】特開2009−009828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
電気化学キャパシタの性能向上が望まれているにもかかわらず、重要な特性の1つであるサイクル特性が水分の影響を受けて低下する問題に関しては、未だ十分な対策がなされているとは言えない。
【0013】
本技術はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、サイクル特性を向上させることが可能な電気化学キャパシタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本技術の電気化学キャパシタは、正極および負極と共に電解液を備えるものである。正極および負極のうちの少なくとも一方は高分子電解質を含有し、その高分子電解質はフッ素化炭素鎖および酸性官能基を含む。また、電解液はイオン液体を含有する。
【0015】
ここで、「イオン液体」は、イオン性液体、常温(型)溶融塩または室温(型)溶融塩などのさまざまな名称で呼ばれている。本技術の「イオン液体」とは、陽イオンおよび陰イオンのみから構成される塩であるにもかかわらず、常温(25℃)において液体である一連の化合物を意味する。この「イオン液体」の厳密な定義は、イオン液体研究会により規定されている定義に準拠する。
【0016】
「フッ素化炭素鎖」とは、高分子電解質の主要部(主鎖)である炭化水素鎖のうち、少なくとも1つの水素基(−H)がフッ素基(−F)により置換された炭素鎖である。また、「酸性官能基」とは、プロトン(H+ )を放出可能な官能基であり、フッ素化炭素鎖に対して直接的に結合されていてもよいし、任意の連結基を介して間接的に結合されていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本技術の電気化学キャパシタによれば、フッ素化炭素鎖および酸性官能基を含む高分子電解質が正極および負極のうちの少なくとも一方に含有されていると共に、イオン液体が電解液に含有されている。よって、サイクル特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本技術の一実施形態における電気化学キャパシタの構成を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本技術の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。

1.電気化学キャパシタの構成
2.電気化学キャパシタの使用方法
3.電気化学キャパシタの製造方法
【0020】
<1.電気化学キャパシタの構成>
まず、本技術の一実施形態における電気化学キャパシタの構成について説明する。図1は、電気化学キャパシタの断面構成を表している。
【0021】
ここで説明する電気化学キャパシタは、各種用途に用いられることが可能であり、その用途は、特に限定されない。一例を挙げると、電気化学キャパシタの用途としては、下記の用途が挙げられる。携帯電話機またはパーソナルコンピュータなどの電子機器に代表される小容量の電源用途であり、電気化学キャパシタはメモリバックアップ用の電源などとして用いられる。また、電気自動車またはハイブリッド電気自動車などの車両(バッテリまたはモータなど)に代表される大容量の電源用途である。さらに、家庭用電源(蓄電装置またはバッテリサーバ)などの蓄電用途である。
【0022】
[全体構成]
この電気化学キャパシタは、例えば、図1に示したように、正極11および負極12と共に、液状の電解質(電解液)を備えている。より具体的には、電気化学キャパシタは、例えば、電解液が含浸されたセパレータ13を介して正極11と負極12とが積層されたものである。
【0023】
正極11および負極12のうちの少なくとも一方は、高分子電解質を含んでいる。すなわち、高分子電解質は、正極11だけに含まれていてもよいし、負極12だけに含まれていてもよいし、正極11および負極12の双方に含まれていてもよい。また、電解液は、イオン液体を含んでいる。高分子電解質およびイオン液体の詳細に関しては、後述する。
【0024】
[正極]
正極11は、例えば、正極集電体11Aの片面または両面に正極活物質層11Bを有している。なお、正極活物質層11Bは、正極集電体11Aの一面のうち、全面に設けられていてもよいし、一部に設けられていてもよい。
【0025】
正極集電体11Aは、例えば、Alなどの導電性材料を含んでおり、より具体的には、Al箔またはAlエッチング箔などの金属箔である。ただし、後述する酸性官能基を含む高分子電解質が正極11(正極活物質層11B)に含まれている場合には、耐食性などを確保するために、正極集電体11Aは、例えば、カーボンコートされたTi箔またはAl箔などであることが好ましい。なお、正極集電体11Aの厚さは、特に限定されないが、例えば、10μm〜50μmである。
【0026】
正極活物質層11Bは、例えば、活物質と共に高分子電解質を含んでおり、必要に応じて結着剤または導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0027】
活物質は、例えば、炭素材料などのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。この炭素材料の種類は、特に限定されないが、例えば、大表面積の活性炭などである。活性炭は、例えば、フェノール、レーヨン、アクリル、ピッチまたはヤシガラなどに由来する炭素物質に、アルカリまたは水蒸気を用いた賦活処理が施されたものである。この他、炭素材料は、例えば、二酸化ケイ素(シリカ)または界面活性剤などをテンプレートとして用いて合成された規則性炭素材料、フェノール樹脂由来のエアロゲル、カーボンナノチューブ、活性炭繊維、グラフェンまたはグラファイトなどでもよい。なお、活物質の比表面積および粒子径(例えばメジアン径)などの条件は、任意である。
【0028】
高分子電解質は、特定の化学的構造を有する高分子化合物のいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その高分子化合物は、フッ素化炭素鎖と1または2以上の酸性官能基とを含んでいる。正極11が高分子電解質を含んでいるのは、その高分子電解質がイオン液体と組み合わせて用いられることで、正極11または電解液に水分が含まれていても、その水分に起因する正極11と電解液との反応が抑制されるからである。これにより、電解液の分解反応が抑制されるため、充放電を繰り返しても放電容量が低下しにくくなる。
【0029】
フッ素化炭素鎖とは、上記したように、高分子電解質の主要部(主鎖)である炭化水素鎖(繰り返し単位)のうち、少なくとも1つの水素基がフッ素基により置換された炭素鎖である。この炭化水素鎖の化学的構造は、特に限定されず、例えば、ポリエチレン型(−[C2 4 m −)でもよいし、ポリブチレン型(−[C4 8 n −)でもよいし、それらの混合(共重合)型(−[(C2 4 m −(C4 8 n x −)でもよい。なお、Rは水素基またはフッ素基であると共に、m、nおよびxは1以上の整数である。上記した炭化水素鎖の化学的構造はあくまで一例であるため、他の化学的構造でもよい。
【0030】
このフッ素化炭素鎖は、非分岐状(直鎖状)でもよいし、1または2以上の側鎖を有する分岐状でもよい。フッ素化炭素鎖の炭素数は、特に限定されず、任意である。
【0031】
中でも、フッ素化炭素鎖は、炭化水素鎖のうちの全ての水素基がフッ素基により置換された炭素鎖(パーフルオロ炭素鎖)であることが好ましい。水分に起因する正極11と電解液との反応がより抑制されるからである。
【0032】
酸性官能基は、上記したように、プロトンを放出可能な官能基(水素解離性官能基)であり、フッ素化炭素鎖に対して直接的または間接的に結合されている。「直接的に結合」とは、フッ素化炭素鎖のうちの水素基またはフッ素基が酸性官能基により置換されているため、その酸性官能基がフッ素化炭素鎖のうちの炭素原子に結合されていることを意味する。一方、「間接的に結合」とは、酸性官能基が任意の連結基を介してフッ素化炭素鎖のうちの炭素原子に結合されていることを意味する。この場合には、連結基の一端が酸性官能基に結合されると共に、他端がフッ素化炭素鎖の炭素原子に結合されることになる。
【0033】
この酸性官能基の種類は、プロトンを放出可能な基であれば、特に限定されない。具体的には、酸性官能基は、例えば、スルホ基(−SO3 H)、カルボニル基(−CO−)カルボキシル基(−COOH)、ラクトン基(−COO−を有する環状の炭化水素基)、フェノール性水酸基、フェノール性ケトン基、リン酸基(−H2 PO4 )または水酸基(−OH)などのいずれか1種類または2種類以上である。中でも、スルホ基が好ましい。水分に起因する正極11と電解液との反応がより抑制されるからである。
【0034】
なお、連結基の化学的構造は、フッ素化炭素鎖と酸性官能基との間に介在することが可能な2価以上の基であれば、特に限定されない。中でも、連結基は、例えば、フッ素化アルキレンであることが好ましい。または、連結基は、例えば、フッ素化アルキレン基と共に他の1種類または2種類以上の元素(C、HおよびF以外の元素)を含む基であることが好ましい。フッ素化アルキレン基とは、アルキレン基のうちの少なくとも1つの水素基がフッ素基により置換された基であり、そのフッ素化アルキレン基の炭素数は、任意である。また、C、HおよびF以外の元素は、例えば、O、NまたはSなどである。具体的には、連結基は、例えば、フッ素化アルキレン基とエーテル基(−O−)とが結合された2価の基であり、そのフッ素化アルキレン基の一端が酸性官能基に結合されると共にエーテル基の一端がフッ素化炭素鎖に結合される。
【0035】
この高分子電解質の具体例は、パーフルオロスルホン酸−テトラフルオロエチレン共重合体またはポリ(テトラフルオロエチレン−コ−スルホン化ビニリデンフルオライド)などである。より具体的には、高分子電解質は、例えば、米国デュポン社(イー・アイ・デュポン・ド・ヌムール・アンド・カンパニー)製のナフィオン(登録商標)、旭化成株式会社の食塩電解プロセス用イオン交換膜材料であるアシプレックス(Aciplex :登録商標)、旭硝子株式会社製のイオン交換膜材料であるフレミオン(登録商標)、または米国ゴア・アンド・アソシエイツ社製のイオン交換膜材料であるゴアセレクト(Gore Select )などである。参考までに、ナフィオンの化学的構造は、下記の式(1)で表される。なお、式(1)に示したナフィオンの両末端は、フッ素基でもよいし、フッ素化アルキル基(炭素数は任意)などでもよい。
【0036】
【化1】

(mおよびnはいずれも1以上の整数である。)
【0037】
正極活物質層11Bにおける高分子電解質の含有量は、特に限定されないが、中でも、活物質の含有量に対して多くなりすぎないように設定されていることが好ましい。活物質により放電容量が確保されると共に、高分子電解質により水分に起因する正極11と電解液との反応が抑制されるからである。
【0038】
具体的には、活物質の含有量M1(重量)に対する高分子電解質の含有量M2(重量)の割合(M2/M1)は、0.005〜1であることが好ましい。放電容量を確保しつつ、水分に起因する正極11と電解液との反応が抑制されるからである。詳細には、割合が0.005よりも小さいと、高分子電解質が少なすぎるため、水分に起因する正極11と電解液との反応が十分に抑制されない可能性がある。一方、割合が1よりも大きいと、高分子電解質が多すぎるため、内部抵抗の増大に起因して放電容量が低下する可能性がある。
【0039】
結着剤は、例えば、高分子化合物などのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。この高分子化合物は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース、フルオロオレフィン共重合体架橋ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリイミド、フェノール樹脂、天然ラテックス、スチレンブタジエンゴムまたはニトリルブタジエンゴムなどである。
【0040】
なお、結着剤は、正極活物質層11Bにおける高分子電解質の含有量が十分に多い場合には、不要である。高分子電解質は結着剤としても機能し得るため、その高分子電解質とは別個に結着剤を用いる必要がないからである。
【0041】
これに伴い、正極活物質層11Bにおける結着剤の含有量は、特に限定されないが、中でも、結着剤と高分子電解質との総含有量が活物質の含有量に対して所定の重量比となるように設定されていることが好ましい。活物質により放電容量が確保されると共に、高分子電解質により水分に起因する正極11と電解液との反応が抑制されるからである。
【0042】
具体的には、活物質の含有量M1(重量)に対する結着剤および高分子電解質の総含有量M3(重量)の割合(M3/M1)は、0.01〜1であることが好ましい。割合が0.01よりも小さいと、活物質などの結着性が低下しすぎるため、放電容量が低下する可能性がある。一方、割合が1よりも大きいと、内部抵抗が増大しすぎるため、放電容量が低下する可能性がある。
【0043】
導電剤は、導電性材料のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。この導電性材料の種類は、特に限定されないが、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブまたは気相成長法炭素繊維(VGCF:Vapor Grown Carbon Fiber)などの炭素材料である。
【0044】
なお、高分子電解質が正極活物質層11Bに含まれている場合には、正極集電体11Aに対する正極活物質層11Bの密着性を向上させるために、正極集電体11Aと正極活物質層11Bとの間に下地層(図1では図示せず)を挿入してもよい。この下地層は、例えば、導電性カーボンなどの炭素材料を含んでいる。
【0045】
[負極]
負極12は、例えば、負極集電体12Aの片面または両面に負極活物質層12Bを有している。負極集電体12Aおよび負極活物質層12Bの構成は、例えば、それぞれ正極集電体11Aおよび正極活物質層11Bの構成と同様である。すなわち、負極活物質層12Bは、例えば、活物質と共に高分子電解質を含んでおり、必要に応じて結着剤または導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。また、負極集電体12Aと負極活物質層12Bとの間に、下地層が挿入されていてもよい。
【0046】
なお、上記したように、高分子電解質は、正極11または負極12のいずれか一方だけに含まれていてもよいし、正極11および負極12の双方に含まれていてもよい。ただし、高分子電解質が正極11または負極12のいずれか一方だけに含まれる場合には、負極12に含まれることが好ましい。水分に起因する正極11と非水電解液との反応がより抑制されるからである。
【0047】
[セパレータ]
セパレータ13の形成材料は、特に限定されないが、例えば、高分子化合物などのいずれか1種類または2種類以上を含むフィルムであり、その高分子化合物は、例えば、ポリエチレンなどである。なお、セパレータ13は、単層でもよいし、多層でもよい。
【0048】
[電解液]
電解液は、イオン液体のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。このイオン液体は、上記したように、陽イオンおよび陰イオンのみから構成される塩であるにもかかわらず、常温(25℃)において液体である一連の化合物である。
【0049】
本技術の「イオン液体」とは、それ自体が常温において液体状態であるため、分散用(または溶解用)の溶媒を用いなくても液体状態になることができる材料である。これに伴い、常温において固体であるため、分散用の溶媒を用いなければ液体状態になることができない材料は、本技術の「イオン液体」でない。
【0050】
以下では、分散用の溶媒を用いなくても常温において液体状態である「イオン液体」に対して、その分散用の溶媒を用いなければ常温において液体状態になることができない材料を「非イオン液体」と呼ぶ。この非イオン液体は、例えば、ある材料が常温において固体であるため、その材料が分散用の溶媒に分散されることで初めて液体状態になることができた溶液である。
【0051】
電解液がイオン液体を含んでいるのは、正極11等に含まれる高分子電解質について説明したように、高分子電解質とイオン液体とが組み合わせて用いられることで、水分に起因する正極11等と非水電解液との反応が抑制されるからである。これに対して、高分子電解質と非イオン液体とが組み合わせて用いられても、水分に起因する正極11等と非水電解液との反応は抑制されない。なぜなら、上記した電解液の反応抑制に関する利点は、高分子電解質と非イオン液体との組み合わせからは得られず、高分子電解質とイオン液体との組み合わせにより初めて得られる特異的な利点だからである。
【0052】
また、非イオン液体、すなわち常温において固体の塩を用いる場合には、電解液を調製するために、その固体の塩を分散用の溶媒(例えば炭酸プロピレンなどの非水溶媒)と混合する必要がある。しかしながら、炭酸プロピレンなどの溶媒の分解電位は上記した塩の分解電位よりも低いため、その溶媒が塩よりも先に分解することに起因して電解液が劣化してしまう。これに対して、イオン液体、すなわち常温において液体の塩を用いる場合には、電解液を調製するために分散用の溶媒を用いる必要がないため、上記した溶媒の分解に起因する電解液の劣化が防止される。
【0053】
イオン液体の構成イオン、すなわち陽イオンであるカチオンおよび陰イオンであるアニオンの多くは、有機物である。このため、イオン液体としては、多種多様な有機化合物の誘導体を用いることができる。このイオン液体の個々の一般的な性質および機能は、カチオンとアニオンとの組み合わせにより決定されるが、ここで用いられるイオン液体の種類(カチオンおよびアニオンのそれぞれの種類および組み合わせ)は、常温において液体であれば、特に限定されない。
【0054】
具体的には、カチオンは、以下で説明する一連のイオンのいずれか1種類または2種類以上であり、例えば、脂肪族アミン系および芳香族アミン系に大別される。
【0055】
脂肪族アミン系のカチオンは、例えば、下記の式(2−1)〜式(2−6)で表される陽イオンのうちのいずれか1種類または2種類以上である。式(2−1)中のR1〜R4の種類は、同じ種類の基でもよいし、異なる種類の基でもよいし、R1〜R4のうちの一部が同じ種類の基でもよい。このことは、式(2−2)〜式(2−6)中のR5〜R12についても同様である。
【0056】
式(2−1)に示したカチオンは、窒素原子(N)にR1〜R4(アルキル基またはアルコキシアルキル基)が結合された構造を有する4級アンモニウムイオンである。
【0057】
アルキル基の炭素数は、上記した条件を満たす限り、特に限定されない。このアルキル基は、例えば、メチル基(−CH3 )、エチル基(−C2 5 )、プロピル基(−C3 7 )またはブチル基(−C4 9 )などであり、これ以外の基でもよい。アルコキシアルキル基は、アルコキシ基とアルキレン基とが結合された1価の基であり、アルコキシ基およびアルキレン基のそれぞれの炭素数は、特に限定されない。このアルコキシアルキル基は、例えば、メトキシメチル基(−CH2 −OCH3 )またはメトキシエチル基(−C2 4 −OCH3 )などである。なお、R1〜R4がアルコキシアルキル基を含む場合には、R1〜R4のうちの1つがアルコキシアルキル基であり、残りの3つがアルキル基であることが好ましい。イオン抵抗が低下するからである。
【0058】
この4級アンモニウムイオンの具体例は、トリメチルブチルアンモニウムイオン、ジエチルメチル−2−メトキシエチルアンモニウムイオンまたはN,N−ジメチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムイオンなどである。
【0059】
式(2−2)に示したカチオンは、窒素原子にR5およびR6(アルキル基またはアルコキシアルキル基)が結合された構造を有するピロリジニウムイオンである。R5およびR6に関する詳細は、R1〜R4と同様である。このピロリジニウムイオンの具体例は、1−メチル−1−プロピル−ピロリジニウムイオンまたはN−メトキシメチル−N−メチル−ピロリジニウムイオンなどである。
【0060】
式(2−3)に示したカチオンは、窒素原子に2つのブチレン基が結合された構造を有するスピロ−(1,1’)−ビピロリジウムイオンである。
【0061】
式(2−4)に示したカチオンは、窒素原子にR7およびR8(アルキル基またはアルコキシアルキル基)が結合された構造を有するピペリジニウムイオンである。R7およびR8に関する詳細は、R1〜R4と同様である。このピペリジニウムイオンの具体例は、1−メチル−1−プロピル−ピペリジニウムイオンなどである。
【0062】
式(2−5)に示したカチオンは、窒素原子にR9およびR10(アルキル基またはアルコキシアルキル基)が結合された構造を有するオキサゾリニウムイオンである。R9およびR10に関する詳細は、R1〜R4と同様である。このオキサゾリニウムイオンの具体例は、4−メチル−4−ブチル−オキサゾリニウムイオンなどである。
【0063】
式(2−6)に示したカチオンは、窒素原子にR11およびR12(アルキル基またはアルコキシアルキル基)が結合された構造を有するモルホリニウムイオンである。R11およびR12に関する詳細は、R1〜R4と同様である。このモルホリニウムイオンの具体例は、4−メトキシエチル−4−メチル−モルホリニウムイオンなどである。
【0064】
一方、芳香族アミン系のカチオンは、例えば、下記の式(2−7)または式(2−8)で表される陽イオンのうちのいずれか1種類または2種類以上である。式(2−7)中のR13およびR14の種類は、同じ種類の基でもよいし、異なる種類の基でもよい。また、R15がアルキル基である場合、R13〜R15の種類は、同じ種類の基でもよいし、異なる種類の基でもよいし、R13〜R15のうちの一部が同じ種類の基でもよい。
【0065】
式(2−7)に示したカチオンは、2つの窒素原子にそれぞれR13およびR14(アルキル基またはアルコキシアルキル基)が結合されると共に2つの窒素原子の間の炭素原子(C)にR15(水素基またはアルキル基)が結合された構造を有するイミダゾリウムイオンである。R13およびR14に関する詳細は、R1〜R4と同様である。R15は、水素基またはアルキル基であり、アルキル基であるR15に関する詳細は、R1〜R4と同様である。このイミダゾリウムイオンの具体例は、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオンまたは1,2−ジメチル−3−プロピル−イミダゾリウムイオンなどである。
【0066】
式(2−8)に示したカチオンは、窒素原子にR16(アルキル基)が結合された構造を有するピリジニウムイオンである。R16に関する詳細は、アルキル基であるR1〜R4と同様である。このピリジニウムイオンの具体例は、1−エチル−ピリジニウムイオンなどである。
【0067】
この他、カチオンは、下記の式(2−9)および式(2−10)で表される陽イオンのうちの少なくとも一方でもよい。式(2−9)中のR17〜R19の種類は、同じ種類の基でもよいし、異なる種類の基でもよいし、R17〜R19のうちの一部が同じ種類の基でもよい。このことは、式(2−10)中のR20〜R23についても同様である。もちろん、式(2−1)〜(2−10)に示したカチオンは、2種類以上の任意の組み合わせとなるように混合されてもよい。
【0068】
式(2−9)に示したカチオンは、硫黄原子(S)にR17〜R19(アルキル基またはアルコキシアルキル基)が結合された構造を有する3級スルホニウムイオンである。R17〜R19に関する詳細は、R1〜R4と同様である。この3級スルホニウムイオンの具体例は、トリメチルスルホニウムイオンなどである。
【0069】
式(2−10)に示したカチオンは、リン原子(P)にR20〜R23(アルキル基またはアルコキシアルキル基)が結合された構造を有する4級ホスホニウムイオンである。R20〜R23に関する詳細は、R1〜R4と同様である。この4級ホスホニウムイオンの具体例は、トリメチルヘキシルホスホニウムイオンなどである。
【0070】
【化2】

(R1〜R14はアルキル基またはアルコキシアルキル基であり、R15は水素基またはアルキル基であり、R16はアルキル基であり、R17〜R23はアルキル基またはアルコキシアルキル基である。)
【0071】
アニオンは、以下で説明する一連のイオンのいずれか1種類または2種類以上であり、例えば、クロロアルミネート系および非クロロアルミネート系に大別される。
【0072】
クロロアルミネート系のアニオンは、例えば、AlCl4-またはAl2 Cl7-などの陰イオンのいずれか1種類または2種類以上である。
【0073】
非クロロアルミネート系のアニオンは、例えば、NO2-、NO3-、BF4-、PF6-、AsF6-、SbF6-、NbF6-、TaF6-、WF7-、CH3 CO2-、CF3 CO2-、C3 7 CO2-、CG3 SO3-、CF3 SO3-、C4 9 SO3-、(CF3 CO)(CF3 SO2 )N- 、(FSO2 2 - 、(FSO2 )(CF3 SO2 )N- 、(CF3 SO2 2 - 、(CF3 SO2 )(C2 5 SO2 )N- 、(C2 5 SO2 2 - 、(CF3 SO2 3 - 、(CN)2 - 、(CN)3 - 、(CN)4 - 、CF3 BF3-、C2 5 BF3-、C3 7 BF3-、C4 9 BF3-またはN(CN)2-などのいずれか1種類または2種類以上である。この他、(HF)n - (nは1、2または2.3などの任意の値である。)で表されるフルオロハイドロジェネートイオンでもよい。
【0074】
イオン液体の種類は、上記したカチオンとアニオンとを任意に組み合わせたものである。ただし、その組み合わせは、上記したように、常温において液体となるように決定される。
【0075】
中でも、アミン系のカチオンは、式(2−1)に示した4級アンモニウムイオンよりも、式(2−2)〜式(2−8)に示した非4級アンモニウムイオン(ピロリジニウムイオン等)であることが好ましい。イオン液体の抵抗成分に由来する高負荷放電時の電圧降下が抑制されるからである。
【0076】
ここで、分子軌道計算により算出されるイオン液体の局所イオン化ポテンシャル(eV)は、特に限定されないが、中でも、11.97eV以上であることが好ましい。局所イオン化ポテンシャルが上記範囲外である場合と比較して、高分子電解質を含む正極11等とイオン液体を含む電解液との相互作用が抑制されるからである。これにより、水分に起因する正極11等と電解液との反応がより抑制される。
【0077】
この局所イオン化ポテンシャルは、分子モデリングソフトウェア(Spartan 10)を用いて計算される電解液のエネルギーである。局所イオン化ポテンシャルを計算する場合には、例えば、下記の文献に記載されている方法によりイオン液体の構造(アニオンとカチオンとの位置関係)ごとに得られたエネルギーのうち、そのエネルギーが最も低くなる構造を選択する。また、例えば、計算手法としてMoller-Plesset perturbation theory(MP2 )、基底系として6-31+G* をそれぞれ用いる。
マグニチュード アンド ディレクショナリー オブ インタラクション イン イオン ペアーズ リキッド:ジェイ.フィズ.ケム.B,2005年,109号,16474頁−16481頁(Magnitude and Directionality of Interaction in Ion Pairs of Ionic Liquids: Relationship with Ionic Conductivity , J,Phys.Chem.B , 2005, 109,16474-16481 )
【0078】
なお、電解液は、イオン液体と共に、必要に応じて希釈用の溶媒のいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。この溶媒は、上記した分散用の溶媒とは異なり、常温において固体である材料を液体状態にするために用いられるものではなく、常温において既に液体状態である材料(イオン液体)の粘度などを調整する目的で用いられるものである。
【0079】
この溶媒の種類は、特に限定されないが、例えば、炭酸エステル系、ラクトン系、エーテル系、スルホラン系またはそれらの誘導体などの非水溶媒である。炭酸エステル系の溶媒は、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチルまたは炭酸ジエチルなどである。ラクトン系の溶媒は、例えば、γ−ブチロラクトンまたはδ−バレロラクトンなどである。エーテル系の溶媒は、例えば、ジエチルエーテルなどである。スルホラン系の溶媒は、例えば、スルホランまたは3−メチルスルホランなどである。この他、溶媒は、例えば、トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシメタン、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチル−テトラヒドロフランまたはアセトニトリルなどでもよい。
【0080】
電解液が溶媒を含む場合、その電解液における溶媒の含有量は、特に限定されないが、中でも、40体積%未満であることが好ましく、20体積%であることがより好ましい。水分に起因する正極11と電解液との反応が抑制されやすいからである。詳細には、含有量が40体積%以上になると、イオン液体を構成するカチオンのほぼ全てが溶媒和されるため、水分に起因する電解液の分解反応が抑制されにくくなる可能性がある。しかも、溶媒が多すぎると、分散用の溶媒を用いた場合と同様に、その溶媒の分解に起因して電解液が劣化する可能性がある。なお、含有量は、1体積%以上であることが好ましい。粘度調整することで、イオン抵抗の低減を図れるからである。
【0081】
[電気化学キャパシタの動作]
この電気化学キャパシタでは、例えば、充電時において、正極11から離脱したイオンが電解液を介して負極12に吸着すると共に、放電時において、負極12から離脱したイオンが電解液を介して正極11に吸着する。
【0082】
<2.電気化学キャパシタの使用方法>
電気化学キャパシタを充放電させるための条件、すなわち充電時および放電時における電流値および電圧範囲などは、任意に設定可能である。中でも、高分子電解質が負極12に含有されている電気化学キャパシタを充放電させる場合には、任意のサイクル数の充放電後において、電圧範囲の下限値(最低電圧値)を低電圧側にシフトさせることが好ましい。一例を挙げると、1.5V〜2.5Vの電圧範囲で充放電を繰り返したのち、100000サイクル到達後において電圧範囲を0V〜2.5Vに変更する。100000サイクル到達時までに放電容量が低下しても、電圧範囲の変更時以降のサイクルにおいて放電容量が回復するからである。この放電容量の回復は、高分子電解質が負極12に含有されている場合において特異的に得られる利点であり、高分子電解質が正極11に含有されている場合には得られない。こののち、任意のサイクル数の経過時点において電圧範囲を初期の範囲(=1.5V〜2.5V)に戻してもよいし、戻さなくてもよい。
【0083】
<3.電気化学キャパシタの製造方法>
この電気化学キャパシタは、例えば、以下の手順により製造される。
【0084】
最初に、正極11を作製する。この場合には、活物質と、必要に応じて高分子電解質、結着剤および導電剤などとを混合したのち、有機溶剤などに溶解させてスラリーを調製する。続いて、コーティング装置などを用いて正極集電体11Aの一面にスラリーを塗布してから乾燥させて正極活物質層11Bを形成する。続いて、平板プレス機などを用いて正極活物質層11Bを圧縮成型する。こののち、正極活物質層11Bが形成された正極集電体11Aをペレット状に打ち抜く。
【0085】
次に、正極11と同様の手順により、負極集電体12Aに負極活物質層12Bを形成してペレット状の負極12を作製する。
【0086】
最後に、イオン液体と、必要に応じて粘度調整用の溶媒とを混合して電解液を調製したのち、その電解液をセパレータ13に含浸させる。この場合には、必要に応じて、電解液中に正極11および負極12を浸漬させて、その正極11および負極12に電解液を含浸させてもよい。こののち、セパレータ13を介して正極活物質層11Bと負極活物質層12Bとが対向するように正極11および負極12を積層させる。これにより、図1に示した電気化学キャパシタが完成する。
【0087】
[電気化学キャパシタの作用および効果]
この電気化学キャパシタによれば、正極11および負極12のうちの少なくとも一方が高分子電解質を含んでいると共に、電解液がイオン液体を含んでいる。この場合には、上記したように、正極11等または電解液に水分が含まれていても、その水分に起因する正極11等と電解液との反応が抑制される。また、電解液を調製するために分散用の溶媒を用いる必要がないため、その溶媒の分解に起因する電解液の劣化が防止される。これにより、電解液の分解反応が抑制されるため、充放電を繰り返しても放電容量が低下しにくくなる。よって、サイクル特性を向上させることができる。特に、高分子電解質が負極12に含まれていれば、より高い効果を得ることができる。
【0088】
また、酸性官能基がスルホ基、カルボニル基、カルボキシル基、ラクトン基、フェノール性水酸基、フェノール性ケトン基、リン酸基および水酸基のうちの少なくとも1種であり、または高分子電解質が式(1)に示した構造を含んでいれば、より高い効果を得ることができる。
【0089】
また、イオン液体のカチオンが式(2−1)〜式(2−10)に示した陽イオンであると共にアニオンがBF4-などの陰イオンであり、または分子軌道計算により算出されるイオン液体の局所イオン化ポテンシャルが11.97eV以上であれば、より高い効果を得ることができる。
【実施例】
【0090】
次に、本技術の実施例について詳細に説明する。
【0091】
(実験例1〜15)
以下の手順により、図1に示した電気化学キャパシタを作製した。
【0092】
最初に、正極11を作製した。この場合には、活物質と、結着剤と、導電剤と、必要に応じて高分子電解質とを混合した。活物質は、活性炭(表面積=2300m2 /g)である。結着剤は、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF−HFP:アルケマ社製カイナー2851)である。導電剤は、ケッチェンブラック(ライオン株式会社製ECP600)である。高分子電解質は、パーフルオロ炭素鎖およびスルホ基を含む高分子化合物(イー・アイ・デュポン・ド・ヌムール・アンド・カンパニー製ナフィオン)である。高分子電解質を用いない場合の重量比は、活物質:結着剤:導電剤=67.5:25:7.5、高分子電解質を用いる場合の重量比は、活物質:結着剤:導電剤:高分子電解質=55:20:5:20とした。続いて、活物質の重量の10倍に相当する重量の有機溶剤(炭酸プロピレン:PC)に混合物を分散させて活物質スラリーとした。続いて、活物質スラリーが高分子電解質を含む場合には、導電性カーボンと上記した結着剤とを混合して補助スラリーを準備した。こののち、コーティング装置を用いて正極集電体11A(厚さ=30μmのAl箔)の一面に補助スラリーを塗布してから乾燥させて下地層を形成した。続いて、コーティング装置を用いて正極集電体11Aの一面に活物質スラリーを塗布したのち、減圧環境中において乾燥(乾燥温度=100℃,乾燥時間=12時間)して正極活物質層11Bを形成した。続いて、平板プレス機を用いて正極活物質層11Bを圧縮成型(プレス圧=10kN/cm2 )した。最後に、正極活物質層11Bが形成された正極集電体11Aをペレット状(外径=8mm)に打ち抜いた。
【0093】
次に、正極11と同様の手順により、負極集電体12Aの一面に負極活物質層12Bを形成してペレット状の負極12を作製した。
【0094】
次に、表1に示した電解液を調製したのち、減圧環境中において電解液中に正極11および負極12を浸漬(浸漬時間=30分間)させて、その正極11および負極12に電解液を含浸させた。また、同条件において、セパレータ13(厚さ=25μm,外径=15mmの円形状のポリエチレンフィルム)に電解液を含浸させた。イオン液体を用いる場合には、常温において液体状態であるイオン液体を希釈せずにそのまま電解液として用いた。このイオン液体は、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMIBF4 )、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(EMIPF6 )、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMITFSI)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンアセトナート(EMITfAc)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホナート(EMICF3 SO3 )、またはトリメチルブチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TMBNTFSI)である。一方、イオン液体を用いない場合には、常温において固体であるテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(TEABF4 )を有機溶媒(PC)に溶解させたもの(濃度=1mol/dm3 =1mol/l)を電解液として用いた。
【0095】
最後に、セパレータ13を介して正極活物質層11Bと負極活物質層12Bとが対向するように正極11および負極12を積層させた。これにより、電気化学キャパシタ(有限会社タクミ技研製の密閉型二極式セル)が完成した。
【0096】
実験例1〜15の電気化学キャパシタの諸特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
【0097】
サイクル特性を調べる場合には、定電流充放電試験を行って容量維持率を算出した。この場合には、25℃の恒温槽内において電気化学測定装置(英国ソーラートロン社製1470E)を用いて放電容量を測定しながら充放電を繰り返して、容量維持率(%)=(20000サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100を算出した。試験条件は、電流=5mA、電圧=1.5V〜2.5Vとした。
【0098】
抵抗特性を調べる場合には、1Cの電流で電圧2.5Vまで定電流充電し、引き続き電流が0.1Cに絞られるまで定電圧充電したのち、1C、5Cおよび10Cの電流で放電した際における1秒後の電圧変化をプロットした。このプロットから、近似直線の傾きを抵抗値とした。この場合には、測定した抵抗値に関して、実験例5の抵抗値を1として規格化した。なお、1C、0.1C、5Cおよび10Cとは、それぞれ理論容量を1時間、10時間、0.2時間および0.1時間で放電しきる電流値である。
【0099】
なお、実験例1〜15で用いた各電解液の局所イオン化ポテンシャル(IP:eV)は、表1に示した通りである。この局所IPの算出方法および条件は、上記した通りである。また、表1に示した「イオン液体」とは、電解液として用いた材料がイオン液体であるか否かを表しており、「○」はイオン液体、「×」は非イオン液体である。
【0100】
【表1】

【0101】
高分子電解質(ナフィオン)とイオン液体(EMIBF4 等)とを組み合わせて用いた場合(実験例1〜8)には、それらを組み合わせて用いなかった場合(実験例9〜15)と比較して、イオン液体の種類および局所IPに依存せずに、高い容量維持率が得られた。
【0102】
特に、高分子電解質と共にイオン液体を用いた場合には、以下の傾向が見られた。第1に、正極11または負極12のいずれか一方だけが高分子電解質を含む場合には、負極12が高分子電解質を含んでいると(実験例1)、正極12が高分子電解質を含んでいる場合(実験例2)と比較して、容量維持率がより増加した。第2に、電解液を調製するためにカチオンとして4級アンモニウムイオンを含む塩を用いた場合には、イオン液体を用いると(実験例8)、非イオン液体を用いた場合(実験例15)と比較して、容量維持率が大幅に増加した。第3に、イオン液体の局所IPが11.97eV以上であると(実験例1〜5)、11.97eV未満である場合(実験例6〜8)と比較して、容量維持率がより増加した。第4に、イオン液体を構成するカチオンとしてイミダゾリウムイオンを用いると(実験例5)、4級アンモニウムイオンを用いた場合(実験例8)と比較して、抵抗が大幅に減少した。
【0103】
(実験例16〜20)
電解液に希釈(粘度調整)用の溶媒(PC)を加えたことを除き、実験例1と同様の手順により電気化学キャパシタを作製してサイクル特性を調べたところ、表2に示した結果が得られた。この場合には、電解液における溶媒の含有量(体積%)を表2に示したように変化させた。
【0104】
【表2】

【0105】
電解液が溶媒を含んでいても、高い容量維持率が得られた。この場合には、溶媒の含有量が40体積%未満であると、容量維持率がより増加した。
【0106】
以上、実施形態および実施例を挙げて本技術を説明したが、本技術はそれらで説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、高分子電解質およびイオン液体の種類は、上記した材料に限られず、他の材料でもよい。
【0107】
また、実施形態および実施例では、イオン液体の局所イオン化ポテンシャルについて、実施例の結果から導き出された適正範囲を説明しているが、その説明は、局所イオン化ポテンシャルが適正範囲の範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。すなわち、上記した適正範囲は、あくまで本技術の効果を得る上で特に好ましい範囲であるため、本技術の効果が得られるのであれば、上記した範囲から局所イオン化ポテンシャルが多少外れてもよい。
【0108】
なお、本技術は以下のような構成を取ることも可能である。
(1)
正極および負極と共に電解液を備え、
前記正極および前記負極のうちの少なくとも一方は高分子電解質を含有し、その高分子電解質はフッ素化炭素鎖および酸性官能基を含み、
前記電解液はイオン液体を含有する、
電気化学キャパシタ。
(2)
前記高分子電解質は前記負極に含有されている、
上記(1)に記載の電気化学キャパシタ。
(3)
前記フッ素化炭素鎖はパーフルオロ炭素鎖であると共に、
前記酸性官能基はスルホ基、カルボニル基、カルボキシル基、ラクトン基、フェノール性水酸基、フェノール性ケトン基、リン酸基および水酸基のうちの少なくとも1種である、
上記(1)または(2)に記載の電気化学キャパシタ。
(4)
前記高分子電解質は下記の式(1)で表される構造を含む、
上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の電気化学キャパシタ。
【化3】

(mおよびnはいずれも1以上の整数である。)
(5)
前記イオン液体は、
カチオンとして、下記の式(2−1)〜式(2−10)で表される陽イオンのうちの少なくとも1種を含むと共に、
アニオンとして、AlCl4-、Al2 Cl7-、NO2-、NO3-、BF4-、PF6-、AsF6-、SbF6-、NbF6-、TaF6-、WF7-、CH3 CO2-、CF3 CO2-、C3 7 CO2-、CH3 SO3-、CF3 SO3-、C4 9 SO3-、(CF3 CO)(CF3 SO2 )N- 、(FSO2 2 - 、(FSO2 )(CF3 SO2 )N- 、(CF3 SO2 2 - 、(CF3 SO2 )(C2 5 SO2 )N- 、(C2 5 SO2 2 - 、(CF3 SO2 3 - 、(CN)2 - 、(CN)3 - 、(CN)4 - 、CF3 BF3-、C2 5 BF3-、C3 7 BF3-、C4 9 BF3-およびN(CN)2-のうちの少なくとも1種の陰イオンを含む、
上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の電気化学キャパシタ。
【化4】

(R1〜R14はアルキル基またはアルコキシアルキル基であり、R15は水素基またはアルキル基であり、R16はアルキル基であり、R17〜R23はアルキル基またはアルコキシアルキル基である。)
(6)
分子軌道計算により算出される前記イオン液体の局所イオン化ポテンシャルは11.97eV以上である、
上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の電気化学キャパシタ。
【符号の説明】
【0109】
11…正極、11A…正極集電体、11B…正極活物質層、12…負極、12A…負極集電体、12B…負極活物質層、13…セパレータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極および負極と共に電解液を備え、
前記正極および前記負極のうちの少なくとも一方は高分子電解質を含有し、その高分子電解質はフッ素化炭素鎖および酸性官能基を含み、
前記電解液はイオン液体を含有する、
電気化学キャパシタ。
【請求項2】
前記高分子電解質は前記負極に含有されている、
請求項1記載の電気化学キャパシタ。
【請求項3】
前記フッ素化炭素鎖はパーフルオロ炭素鎖であると共に、
前記酸性官能基はスルホ基、カルボニル基、カルボキシル基、ラクトン基、フェノール性水酸基、フェノール性ケトン基、リン酸基および水酸基のうちの少なくとも1種である、
請求項1記載の電気化学キャパシタ。
【請求項4】
前記高分子電解質は下記の式(1)で表される構造を含む、
請求項1記載の電気化学キャパシタ。
【化1】

(mおよびnはいずれも1以上の整数である。)
【請求項5】
前記イオン液体は、
カチオンとして、下記の式(2−1)〜式(2−10)で表される陽イオンのうちの少なくとも1種を含むと共に、
アニオンとして、AlCl4-、Al2 Cl7-、NO2-、NO3-、BF4-、PF6-、AsF6-、SbF6-、NbF6-、TaF6-、WF7-、CH3 CO2-、CF3 CO2-、C3 7 CO2-、CH3 SO3-、CF3 SO3-、C4 9 SO3-、(CF3 CO)(CF3 SO2 )N- 、(FSO2 2 - 、(FSO2 )(CF3 SO2 )N- 、(CF3 SO2 2 - 、(CF3 SO2 )(C2 5 SO2 )N- 、(C2 5 SO2 2 - 、(CF3 SO2 3 - 、(CN)2 - 、(CN)3 - 、(CN)4 - 、CF3 BF3-、C2 5 BF3-、C3 7 BF3-、C4 9 BF3-およびN(CN)2-のうちの少なくとも1種の陰イオンを含む、
請求項1記載の電気化学キャパシタ。
【化2】

(R1〜R14はアルキル基またはアルコキシアルキル基であり、R15は水素基またはアルキル基であり、R16はアルキル基であり、R17〜R23はアルキル基またはアルコキシアルキル基である。)
【請求項6】
分子軌道計算により算出される前記イオン液体の局所イオン化ポテンシャルは11.97eV以上である、
請求項1記載の電気化学キャパシタ。

【図1】
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【公開番号】特開2013−84668(P2013−84668A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221977(P2011−221977)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】