電気化学セルの温度測定装置
【課題】電気化学セルの内部温度を、電気化学セルを破壊することなく且つ電気化学セル内での化学反応が進行している期間において、精度良くリアルタイムに測定する。
【解決手段】電気化学セルの温度測定装置10は、第1熱電対11と第2熱電対12とが示差型に結線された示差熱電対を有する。第1熱電対11はイオン伝導性絶縁膜により被覆されている。第1熱電対11は、電気化学セルとしてのリチウムイオン電池21内の正極と負極との間のセパレータにイオン伝導性絶縁膜を介して接触するように配置される。第2熱電対は基準物質(例えば、リチウムイオン電池21と同構造のもの)22の温度を測定するように配置される。電気化学セルの温度測定装置10は、示差熱電対により測定される示差熱(示差温度)を記録・出力する。
【解決手段】電気化学セルの温度測定装置10は、第1熱電対11と第2熱電対12とが示差型に結線された示差熱電対を有する。第1熱電対11はイオン伝導性絶縁膜により被覆されている。第1熱電対11は、電気化学セルとしてのリチウムイオン電池21内の正極と負極との間のセパレータにイオン伝導性絶縁膜を介して接触するように配置される。第2熱電対は基準物質(例えば、リチウムイオン電池21と同構造のもの)22の温度を測定するように配置される。電気化学セルの温度測定装置10は、示差熱電対により測定される示差熱(示差温度)を記録・出力する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セル(例えば、化学電池)の温度を精度良く測定することができる電気化学セルの温度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電気化学セルの温度を測定する装置が知られている。この種の装置の一つ(以下、「従来装置」とも称呼する。)は、電気化学セルの一つである円筒型非水電解液二次電池の温度を測定するようになっている。円筒型非水電解液二次電池は、正極活物質を担持した担持体及び正極集電体からなる層状の正極と、負極活物質を担持した担持体及び負極集電体からなる層状の負極と、セパレータと、巻芯と、を含む。この円筒型非水電解液二次電池は、正極と負極とをセパレータを挟んで対向するように配置した積層電極体を巻芯の周囲に巻回してなる。従来装置は、この「巻芯の外表面」と「正極の外表面又は負極の外表面」との間に熱電対を配置し、この熱電対を用いて前記二次電池の温度を測定するようになっている。なお、正極の外表面は、正極の表面のうちセパレータと接触する表面と反対側の表面である。同様に、負極の外表面は、負極の表面のうちセパレータと接触する表面と反対側の表面である(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−55825号公報
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、従来装置において、熱電対は二次電池の正極と負極との間ではなく、二次電池の外部(正極の外表面又は負極の外表面と、巻芯の外表面と、の間)に配置されているので、二次電池内部の温度を精度良く測定できず、従って、二次電池の反応熱を精度良く測定できないという問題がある。その一方、熱電対を正極と負極との間に単に配置すると、熱電対と正極又は負極とが短絡する虞がある。
【0005】
本発明は、上述した課題に対処するためになされたものである。即ち、本発明の目的の一つは、電気化学セル(例えば、二次電池等の化学電池)の内部温度(従って、反応熱)を、電気化学セルを破壊することなく且つ電気化学セル内での化学反応が進行している期間において、精度良くリアルタイムに測定することができる電気化学セルの温度測定装置を提供することにある。
【0006】
本発明による電気化学セルの温度測定装置(以下、「本測定装置」とも称呼する。)は、作用極及び対極を含む電気化学セルの温度を測定する。本測定装置は、熱電対と、イオン伝導性絶縁膜と、を備え、熱電対の出力(発生電圧)に基づいて前記電気化学セルの温度を測定する。
【0007】
前記熱電対(便宜上、「第1熱電対」とも称呼する。)は、前記電気化学セルの前記作用極と前記対極との間に配置される。換言すると、前記第1熱電対は、前記作用極と前記対極との間で前記電気化学セルの化学反応に伴って生じるイオンが移動する部分に配置される。
【0008】
前記イオン伝導性絶縁膜は、絶縁性を有し、且つ、前記作用極と前記対極との間を移動するイオンが通過可能な材料よりなる薄膜である。前記イオン伝導性絶縁膜は、例えば、AL2O3及びSiC等のように、高い熱伝導率を有する物質からなることが好ましい。
【0009】
そして、本測定装置は、前記熱電対が前記イオン伝導性絶縁膜を介して前記作用極又は前記対極に接触するように構成される。
【0010】
これによれば、熱電対が前記作用極と前記対極との間に配置されているので、電池内部で発生する反応熱により上昇する温度を精度良く測定することができる。しかも、熱電対はイオン伝導性絶縁膜を介して前記作用極及び前記対極の一方と接触しているので、熱電対と「作用極(例えば、正極)又は対極(例えば、負極)」とが短絡することを防止することができる。加えて、イオン伝導性絶縁膜は前記作用極と前記対極との間を移動するイオンが通過可能な材料よりなるので、電気化学セルの作動(電気化学セル内のイオンの移動)を妨げない。この結果、電気化学セルの作動が温度測定のために乱されることが殆どなく通常の使用状態にて動作している場合の同電気化学セルの温度(よって、反応熱)を、電気化学セルを破壊することなくリアルタイムに精度良く測定することができる。
【0011】
本測定装置の一態様において、前記熱電対は、前記イオン伝導性絶縁膜により被覆されている。これによれば、熱電対と作用極又は対極との絶縁状態をより確実に維持することができる。
【0012】
本測定装置の一態様において、本測定装置は、基準物質と、前記基準物質の温度を測定するように配置された熱電対と、を備える。さらに、本測定装置においては、前記作用極と前記対極との間に配置された前記熱電対と、前記基準物質の温度を測定するように配置された前記熱電対と、が示差熱電対を構成するように(示差型に)接続される。前記基準物質は、温度測定範囲において変化しない物質(例えば、アルミナ:AL2O3)からなればよく、その形状及び大きさは特に限定されない。
【0013】
これによれば、測定時の環境温度に関らず、測定対象である電気化学セル内の反応熱に応じた温度を精度良く測定することができる。
【0014】
この場合において、前記作用極と前記対極との間に配置された前記熱電対、及び、前記基準物質の温度を測定するように配置された前記熱電対は、共に前記イオン伝導性絶縁膜により被覆されていることが望ましい。
【0015】
これによれば、「前記作用極と前記対極との間に配置された前記熱電対」と「前記作用極又は前記対極」とが短絡することを防止することができる。更に、前記基準物質が導電性を有していたとしても、「前記基準物質の温度を測定するように配置された前記熱電対」と「前記基準物質」とが短絡することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る電気化学セルの温度測定装置の概略構成図である。
【図2】図1に示した示差熱電対の測定原理を示した図である。
【図3】図1に示したリチウムイオン電池の分解斜視図である。
【図4】図1に示したリチウムイオン電池の縦断面図である。
【図5】図1に示した基準物質の縦断面図である。
【図6】図1に示した電気化学セルの温度測定装置の実施例を用いて測定電池と基準電池との示差温度(示差熱)を測定した結果を示したグラフである。
【図7】図1に示した電気化学セルの温度測定装置の実施例用いて、測定電池及び基準電池の内部温度を測定した結果を示したグラフである。
【図8】本発明の実施形態の変形例を説明するためのリチウムイオン電池の縦断面図である。
【図9】本発明の実施形態の変形例を説明するためのリチウムイオン電池の縦断面図である。
【図10】本発明の実施形態の変形例を説明するためのリチウムイオン電池の縦断面図である。
【図11】本発明の実施形態の変形例を説明するためのリチウムイオン電池の縦断面図である。
【図12】本発明の実施形態の変形例を説明するためのリチウムイオン電池の縦断面図である。
【図13】本発明の実施形態の変形例を説明するためのリチウムイオン電池の縦断面図である。
【図14】本発明の実施形態の変形例を説明するためのリチウムイオン電池の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る電気化学セルの温度測定装置について図面を参照しながら説明する。電気化学セル内の反応に伴って電気化学セルの温度は変化する。従って、本発明の実施形態に係る電気化学セルの温度測定装置は「電気化学セルの反応熱測定装置」と称呼することもできる。
【0018】
図1に示したように、本発明の実施形態に係る電気化学セルの温度測定装置10(以下、単に「温度測定装置10」とも称呼する。)は、電気化学セルとしての「リチウムイオン電池21」の温度を測定する。
【0019】
温度測定装置10は、第1熱電対11、第2熱電対12、示差熱測定機(データロガー)13、を備えている。
【0020】
第1熱電対11は、特に限定されないが、ここではJIS規格により定められたT型熱電対である。即ち、+脚の材料は銅であり、−脚の材料はコンスタンタンである。第1熱電対11の測温接点(温接点接合点)11aは、後に詳述するように、リチウムイオン電池21の正極(例えば、作用極)と負極(例えば、対極)との間に配置されている。第1熱電対11の一方の脚(+脚)11b及び他方の脚(−脚)11cはそれぞれ示差熱測定機13に接続されている。第1熱電対11は温度測定対象用の熱電対である。
【0021】
第2熱電対12は、第1熱電対11と同じ熱電対である。第2熱電対12は基準温度測定用の熱電対である。第2熱電対12の測温接点(温接点接合点)12aは、後に詳述するように、基準物質(温度の基準となる部材)22の温度を測定するように基準物質22に配設されている。第2熱電対12の一方の脚(+脚)12bは示差熱測定機13に接続されている。
【0022】
第2熱電対12の他方の脚(−脚)12cは、第1熱電対11の他方の脚(−脚)11cと接続されている。即ち、第1熱電対11及び第2熱電対12は、周知の示差熱電対を構成するように示差型に結線されている。
【0023】
図2に示したように、第1熱電対11はリチウムイオン電池21の温度T1に応じた電圧V1を発生し、第2熱電対12は基準物質22の温度T2に応じた電圧V2を発生する。そして、第1熱電対11と第2熱電対12とからなる示差熱電対は、これらの温度差ΔT(=T1−T2)に応じた電圧ΔV(=V1−V2)を発生する。示差熱測定機13は、この電圧ΔVを温度に換算し、その温度(示差温度、即ち、示差熱)を記憶、記録及び表示するようになっている。
【0024】
測定対象である周知のリチウムイオン電池21は、分解斜視図である図3及び縦断面図である図4に示したように、正極21aと、負極21bと、セパレータ21cと、を備えている。
【0025】
正極21aは、正極活物質(Li複合酸化物)と結着材とを含む正極層211と、正極層211の集電を行う正極集電体212と、を備えている。正極21aの平面視における形状は特に限定されないが、ここでは長方形である。
【0026】
負極21bは、負極活物質(黒鉛)と結着材とを含む負極層213と、負極層213の集電を行う負極集電体214と、を含んでいる。負極21bの平面視における形状は特に限定されないが、ここでは正極21aと同一の長方形である。
【0027】
セパレータ21cは、正極21aと負極21bとの間で電気的な短絡が発生しないように、正極層211と負極層213との間に配置されている。即ち、リチウムイオン電池21において、正極21aと負極21bとはセパレータ21cを挟んで対向するように(より正確には、正極層211と負極層213とがセパレータ21cを挟んで対向するように)、正極21a、セパレータ21c及び負極21bが順に積層されている。セパレータ21cは、多孔質有機膜からなっている。ここでは、セパレータ21cは、リチウムイオン伝導性樹脂(ポリオレフィン系多孔質体)からなっていてもよい。
【0028】
正極21a、負極21b及びセパレータ21cには、液状の非水溶液系電解質が充填されている。この電解質は、例えば、LiPF6、LiBF4又はLiClO4等のリチウム塩からなる溶質と、エチレンカーボネート等の溶媒と、を含む。
【0029】
更に、正極集電体212の端部には正極端子215が例えば超音波溶接等により接続されている。また、負極集電体214の端部には負極端子216が例えば抵抗溶接等により接続されている。
【0030】
再び、図1を参照すると、リチウムイオン電池21の正極端子215及び負極端子216は電流・電圧検出装置23に接続されている。電流・電圧検出装置23は、リチウムイオン電池21の正極21aと負極21bとの間を流れる電流及び正極21aと負極21bとの電位差(電池出力電圧)を測定することができるようになっている。加えて、電流・電圧検出装置23は、制御装置24からの指示に応じて、正極端子215と負極端子216との間(従って、正極21aと負極21bとの間)に所望の電圧を印加することができ、更に、正極端子215と負極端子216との間に所望の電流を流すことができるようになっている。
【0031】
基準物質22は、リチウムイオン電池21の温度測定を行う環境温度の範囲において変化しない物質(例えば、アルミナ:AL2O3)からなっている。基準物質22の形状及び大きさは、リチウムイオン電池21と同一となるように形成されている。但し、基準物質22の形状及び大きさは、リチウムイオン電池21と相違していてもよい。更に、基準物質はリチウムイオン電池21と同じ構造を有するものであってもよい。
【0032】
リチウムイオン電池21及び基準物質22は、温度制御槽25内に配設されている。温度制御槽25は、その外部の温度に関らず、その内部の温度を所定の温度に維持することができる。
【0033】
ここで、第1熱電対11及び第2熱電対12の配設方法について説明を加える。
【0034】
第1熱電対11(第1熱電対11の測温接点11aを含む先端部近傍部分)は、図3及び図4に示したように、正極21a及び負極21bの間に配置されている。より詳細には、第1熱電対11は正極層211とセパレータ21cとの間に配置されている。更に、第1熱電対11の測温接点11aを含む部分であって且つ少なくとも第1熱電対11のリチウムイオン電池21内に配設されている部分(以下、「セル内部配設部分」とも称呼する。)は、イオン伝導性絶縁膜30により被覆されている。
【0035】
このイオン伝導性絶縁膜30は、絶縁性を有し、且つ、正極(作用極)21aと負極(対極)21bとの間を移動するリチウムイオンが通過可能な材料(例えば、ポリオレフィン、又は、絶縁性多孔質材料)よりなる薄膜である。イオン伝導性絶縁膜30は、高い熱伝導率を有する物質からなることが好ましく、ここではアルミナ(AL2O3)よりなる。イオン伝導性絶縁膜30はSiCからなっていてもよい。
【0036】
イオン伝導性絶縁膜30の上面はセパレータ21cの下面に接している。イオン伝導性絶縁膜30の下面は正極21aの上面(より詳細には、正極層211の上面)に接している。換言すると、第1熱電対11のセル内部配設部分は、イオン伝導性絶縁膜30を介して作用極としての正極21a(正極層211)に接触し、且つ、イオン伝導性絶縁膜30を介してセパレータ21c(セパレータ21cの下面)に接触している。この結果、第1熱電対は正極21a(及び負極21b、更に、セパレータ21c)と絶縁されている。
【0037】
第1熱電対11のうちのリチウムイオン電池21の外に存在している部分(即ち、脚11b及び脚11c)は、図4に示したように、絶縁材31によって被覆されている。
【0038】
第2熱電対12(第2熱電対12の測温接点12aを含む先端部近傍部分)は、図5に示したように、基準物質22の下面に接するように配置されている。即ち、第2熱電対12は、基準物質22の温度を測定するように配置されている。より詳細には、「第2熱電対12の測温接点12aを含む部分であって且つ基準物質22に固定・配設されている部分(以下、「基準物質固定部分」とも称呼する。)はイオン伝導性絶縁膜30により被覆されている。なお、基準物質22が絶縁物であれば、第2熱電対12はイオン伝導性絶縁膜30により被覆される必要はなく、基準物質22に直接接触するように固定・配設されてもよい。
【0039】
第2熱電対12のうちの基準物質固定部分以外の部分(即ち、脚12b及び脚12c)は、図5に示したように、絶縁材31によって被覆されている。
【0040】
以上のように構成された温度測定装置10は、制御装置24及び電流・電圧検出装置23によって、リチウムイオン電池21の正極21a及び負極21b間に印加する電圧を走査しながら、或いは、正極21a及び負極21b間に流れる電流を走査しながら、示差温度(即ち、リチウムイオン電池21内に発生した反応熱=示差熱=エンタルピー変化)を測定することができる。
【0041】
温度測定装置10によれば、第1熱電対11が、作用極(例えば、正極21a)と対極(例えば、負極21b)との間に配置されているので、電気化学セルであるリチウムイオン電池21内部で発生する反応熱により上昇する温度を精度良く測定することができる。しかも、第1熱電対11はイオン伝導性絶縁膜30を介して作用極及び対極の一方(正極21)と接触しているので、第1熱電対11と正極21aとが短絡することを防止することができる。加えて、イオン伝導性絶縁膜30は正極21aと負極21bとの間を移動するイオンの動きを妨げない。この結果、リチウムイオン電池21の作動が温度測定のために乱されることが殆どなく、リチウムイオン電池21が通常の使用状態にて動作している場合のリチウムイオン電池21の内部温度(よって、反応熱)を、リチウムイオン電池21を破壊することなくリアルタイムに精度良く測定することができる。
【0042】
(実施例)
1.第1熱電対11及び第2熱電対12として共に同じT型熱電対を採用し、これらを示差型に結線して上述の示差熱電対を作製した。イオン伝導性絶縁膜30の材質はポリオレフィンとした。
2.第1熱電対11を、Li複合酸化膜を正極集電体212上に塗布して作製した正極21aとポリオレフィン系のセパレータ21cとの間に設置し、正極側の示差熱を測定できるように構成した。
3.セパレータ21cの正極21aと反対側に、負極合材を負極集電体214に塗布した負極21bを配置した。
4.これらをラミネートフィルムにて被覆して測定電池を作製した。
【0043】
5.同様に、第2熱電対12を、Li複合酸化膜を正極集電体212上に塗布して作製した正極21aとポリオレフィン系のセパレータ21cとの間に設置した。
6.セパレータ21cの正極21aと反対側に、負極合材を負極集電体214に塗布した負極21bを配置した。
7.これらをラミネートフィルムにて被覆して「第2熱電対12が配置された基準物質」としての基準電池を作製した。
【0044】
8.Ar雰囲気下のグローブボックス内にて電解液を測定電池及び基準電池内に注液した。電解液は、EC(炭酸エチレン)、DMC(炭酸ジメチル)及びEMC(炭酸エチルメチル)の混合非水系溶媒にLiPF6を溶解させて作製した。
【0045】
9.測定電池を活性化させるために、25℃雰囲気下において、1C−CC(定電流)充電・終止電圧4.1Vにて初期充電を行い、その後、1C−CC(定電流)放電・終止電圧3.0Vにて放電を行った。
10.測定電池21と基準電池22とを同一温度制御槽(恒温槽)25内に設置し、測定電池21への充電のための印加電圧(正極端子215と負極端子216との間の電位差)を3.0Vから5.5Vまで0.06mV/sの走査速度にて変化させ、このときの電圧増加に伴う応答電流(正極端子215と負極端子216との間に流れる電流、即ち、測定電池21内を流れる電流)と示差熱(示差温度)ΔTとを測定した。同時に、測定電池21及び基準電池22の内部温度T1及びT2をそれぞれ参考とするために測定した。
測定した結果を図6及び図7に示す。
【0046】
この測定結果によれば、応答電流が増減しても示差熱ΔTは殆ど変化していないことが理解される。即ち、上述のリチウムイオン電池(測定電池)においては、その内部温度は、応答電流によるジュール熱(Q=I2・R・t、ここで、I:応答電流(通電電流)、R:測定電池21の内部抵抗、t:通電時間)に依存性を有さないことが確認できた。
【0047】
更に、図6に示されたように、通常の充電電圧範囲(約3〜約4.5V)では示差熱ΔTは殆ど上昇せず、測定電池の内部温度は殆ど上昇していないことが確認できた。加えて、過充電範囲(約4.5V以上)では示差熱ΔTが急激に上昇していることを明らかに確認することができた。即ち、過充電範囲では測定電池21内部において急激な発熱が発生(発熱量が急増)していることが、温度測定装置10を用いることにより容易に確認することができた。なお、この急激な発熱は、電解液の酸化分解によるものと推察される。
【0048】
以上、説明したように、本発明の実施形態に係る温度測定装置10は、電気化学セル(リチウムイオン電池21)の実際の使用状態に近しい状態における同電気化学セルの内部温度を、精度良く、電気化学セルを解体することなく、且つリアルタイムにて測定することができる。
【0049】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態においては、第1熱電対11と第2熱電対12とが示差型に結線されて示差熱電対を構成していたが、上述したように配置・構成された第1熱電対11のみを用いて電気化学セルの内部温度を測定してもよい。この場合においても、第1熱電対11は、正極(作用極)21aと負極(対極)21bとの間に配置されているので、電気化学セルの内部温度を精度良く測定することができる。更に、第1熱電対11は、イオン伝導性絶縁膜30により被覆されているので、正極21a(又は負極21b)と短絡することがない。更に、イオン伝導性絶縁膜30は、正極(作用極)21aと負極(対極)21bとの間を移動するイオンの移動を妨げないので、電気化学セルの実際の使用状態における内部温度を精度良く測定することができる。
【0050】
また、第1熱電対11は、正極(作用極)21aと負極(対極)21bとの間に配置されていればよく、セパレータ21cにイオン伝導性絶縁膜30を介して接触している必要はない。例えば、第1熱電対11は、図8に示したように正極層211内に配置されてもよく、図9に示したように正極集電体212とイオン伝導性絶縁膜30を介して接触するように配置されてもよい。加えて、第1熱電対11がセパレータ21cに接触するように配置される場合、図10に示したように、第1熱電対11とセパレータ21cとはイオン伝導性絶縁膜30を介することなく直接接触してもよい。即ち、第1熱電対11は、正極21a(又は負極21b)との短絡を回避できればよいので、正極21a(又は負極21b)にイオン伝導性絶縁膜30を介して接触するように配置構成されればよい。
【0051】
加えて、第1熱電対11は、図11に示したように負極層213とセパレータ21cとの間に配置されてもよく、図12に示したように負極層213内に配置されてもよく、図13に示したように負極集電体214とイオン伝導性絶縁膜30を介して接触するように配置されてもよい。
【0052】
また、本発明は、リチウムイオン電池のみでなく、電気化学セルであれば適用することができる。即ち、本発明は、一次電池、二次電池及び燃料電池等の化学電池、並びに平行板コンデンサ等にも適用することができる。また、それらは作用極と対極を有していればよく、セパレータは必ずしも必要ではない。更に、本発明が適用できる電気化学セルの形状には限定がない。例えば、図14に示したように、円筒状の電気化学セルにも本発明を適用することができる。なお、図14において、41は正極、42は負極、11は熱電対(第1熱電対)、30は熱電対11を被覆するイオン伝導性絶縁膜30である。
【0053】
更に、本発明において使用される熱電対は、T型熱電対に限らず、JIS規格が定める他の型(例えば、K、J、E、N、R、S及びB型等)であってもよく、JIS規格以外の熱電対であってもよい。
【符号の説明】
【0054】
10…電気化学セルの温度測定装置、11…熱電対(第1熱電対)、11a…測温接点、11b…脚、11c…脚、12…熱電対(第2熱電対)、12a…測温接点、12b…脚、12c…脚、13…示差熱測定機(データロガー)、21…リチウムイオン電池(測定電池)、21a…正極、21b…負極、21c…セパレータ、22…基準物質(基準電池)、23…電流・電圧検出装置、24…制御装置、25…温度制御槽、30…イオン伝導性絶縁膜(イオン伝導性絶縁層)、31…絶縁材、211…正極層、212…正極集電体、213…負極層、214…負極集電体、215…正極端子、216…負極端子。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セル(例えば、化学電池)の温度を精度良く測定することができる電気化学セルの温度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電気化学セルの温度を測定する装置が知られている。この種の装置の一つ(以下、「従来装置」とも称呼する。)は、電気化学セルの一つである円筒型非水電解液二次電池の温度を測定するようになっている。円筒型非水電解液二次電池は、正極活物質を担持した担持体及び正極集電体からなる層状の正極と、負極活物質を担持した担持体及び負極集電体からなる層状の負極と、セパレータと、巻芯と、を含む。この円筒型非水電解液二次電池は、正極と負極とをセパレータを挟んで対向するように配置した積層電極体を巻芯の周囲に巻回してなる。従来装置は、この「巻芯の外表面」と「正極の外表面又は負極の外表面」との間に熱電対を配置し、この熱電対を用いて前記二次電池の温度を測定するようになっている。なお、正極の外表面は、正極の表面のうちセパレータと接触する表面と反対側の表面である。同様に、負極の外表面は、負極の表面のうちセパレータと接触する表面と反対側の表面である(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−55825号公報
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、従来装置において、熱電対は二次電池の正極と負極との間ではなく、二次電池の外部(正極の外表面又は負極の外表面と、巻芯の外表面と、の間)に配置されているので、二次電池内部の温度を精度良く測定できず、従って、二次電池の反応熱を精度良く測定できないという問題がある。その一方、熱電対を正極と負極との間に単に配置すると、熱電対と正極又は負極とが短絡する虞がある。
【0005】
本発明は、上述した課題に対処するためになされたものである。即ち、本発明の目的の一つは、電気化学セル(例えば、二次電池等の化学電池)の内部温度(従って、反応熱)を、電気化学セルを破壊することなく且つ電気化学セル内での化学反応が進行している期間において、精度良くリアルタイムに測定することができる電気化学セルの温度測定装置を提供することにある。
【0006】
本発明による電気化学セルの温度測定装置(以下、「本測定装置」とも称呼する。)は、作用極及び対極を含む電気化学セルの温度を測定する。本測定装置は、熱電対と、イオン伝導性絶縁膜と、を備え、熱電対の出力(発生電圧)に基づいて前記電気化学セルの温度を測定する。
【0007】
前記熱電対(便宜上、「第1熱電対」とも称呼する。)は、前記電気化学セルの前記作用極と前記対極との間に配置される。換言すると、前記第1熱電対は、前記作用極と前記対極との間で前記電気化学セルの化学反応に伴って生じるイオンが移動する部分に配置される。
【0008】
前記イオン伝導性絶縁膜は、絶縁性を有し、且つ、前記作用極と前記対極との間を移動するイオンが通過可能な材料よりなる薄膜である。前記イオン伝導性絶縁膜は、例えば、AL2O3及びSiC等のように、高い熱伝導率を有する物質からなることが好ましい。
【0009】
そして、本測定装置は、前記熱電対が前記イオン伝導性絶縁膜を介して前記作用極又は前記対極に接触するように構成される。
【0010】
これによれば、熱電対が前記作用極と前記対極との間に配置されているので、電池内部で発生する反応熱により上昇する温度を精度良く測定することができる。しかも、熱電対はイオン伝導性絶縁膜を介して前記作用極及び前記対極の一方と接触しているので、熱電対と「作用極(例えば、正極)又は対極(例えば、負極)」とが短絡することを防止することができる。加えて、イオン伝導性絶縁膜は前記作用極と前記対極との間を移動するイオンが通過可能な材料よりなるので、電気化学セルの作動(電気化学セル内のイオンの移動)を妨げない。この結果、電気化学セルの作動が温度測定のために乱されることが殆どなく通常の使用状態にて動作している場合の同電気化学セルの温度(よって、反応熱)を、電気化学セルを破壊することなくリアルタイムに精度良く測定することができる。
【0011】
本測定装置の一態様において、前記熱電対は、前記イオン伝導性絶縁膜により被覆されている。これによれば、熱電対と作用極又は対極との絶縁状態をより確実に維持することができる。
【0012】
本測定装置の一態様において、本測定装置は、基準物質と、前記基準物質の温度を測定するように配置された熱電対と、を備える。さらに、本測定装置においては、前記作用極と前記対極との間に配置された前記熱電対と、前記基準物質の温度を測定するように配置された前記熱電対と、が示差熱電対を構成するように(示差型に)接続される。前記基準物質は、温度測定範囲において変化しない物質(例えば、アルミナ:AL2O3)からなればよく、その形状及び大きさは特に限定されない。
【0013】
これによれば、測定時の環境温度に関らず、測定対象である電気化学セル内の反応熱に応じた温度を精度良く測定することができる。
【0014】
この場合において、前記作用極と前記対極との間に配置された前記熱電対、及び、前記基準物質の温度を測定するように配置された前記熱電対は、共に前記イオン伝導性絶縁膜により被覆されていることが望ましい。
【0015】
これによれば、「前記作用極と前記対極との間に配置された前記熱電対」と「前記作用極又は前記対極」とが短絡することを防止することができる。更に、前記基準物質が導電性を有していたとしても、「前記基準物質の温度を測定するように配置された前記熱電対」と「前記基準物質」とが短絡することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る電気化学セルの温度測定装置の概略構成図である。
【図2】図1に示した示差熱電対の測定原理を示した図である。
【図3】図1に示したリチウムイオン電池の分解斜視図である。
【図4】図1に示したリチウムイオン電池の縦断面図である。
【図5】図1に示した基準物質の縦断面図である。
【図6】図1に示した電気化学セルの温度測定装置の実施例を用いて測定電池と基準電池との示差温度(示差熱)を測定した結果を示したグラフである。
【図7】図1に示した電気化学セルの温度測定装置の実施例用いて、測定電池及び基準電池の内部温度を測定した結果を示したグラフである。
【図8】本発明の実施形態の変形例を説明するためのリチウムイオン電池の縦断面図である。
【図9】本発明の実施形態の変形例を説明するためのリチウムイオン電池の縦断面図である。
【図10】本発明の実施形態の変形例を説明するためのリチウムイオン電池の縦断面図である。
【図11】本発明の実施形態の変形例を説明するためのリチウムイオン電池の縦断面図である。
【図12】本発明の実施形態の変形例を説明するためのリチウムイオン電池の縦断面図である。
【図13】本発明の実施形態の変形例を説明するためのリチウムイオン電池の縦断面図である。
【図14】本発明の実施形態の変形例を説明するためのリチウムイオン電池の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る電気化学セルの温度測定装置について図面を参照しながら説明する。電気化学セル内の反応に伴って電気化学セルの温度は変化する。従って、本発明の実施形態に係る電気化学セルの温度測定装置は「電気化学セルの反応熱測定装置」と称呼することもできる。
【0018】
図1に示したように、本発明の実施形態に係る電気化学セルの温度測定装置10(以下、単に「温度測定装置10」とも称呼する。)は、電気化学セルとしての「リチウムイオン電池21」の温度を測定する。
【0019】
温度測定装置10は、第1熱電対11、第2熱電対12、示差熱測定機(データロガー)13、を備えている。
【0020】
第1熱電対11は、特に限定されないが、ここではJIS規格により定められたT型熱電対である。即ち、+脚の材料は銅であり、−脚の材料はコンスタンタンである。第1熱電対11の測温接点(温接点接合点)11aは、後に詳述するように、リチウムイオン電池21の正極(例えば、作用極)と負極(例えば、対極)との間に配置されている。第1熱電対11の一方の脚(+脚)11b及び他方の脚(−脚)11cはそれぞれ示差熱測定機13に接続されている。第1熱電対11は温度測定対象用の熱電対である。
【0021】
第2熱電対12は、第1熱電対11と同じ熱電対である。第2熱電対12は基準温度測定用の熱電対である。第2熱電対12の測温接点(温接点接合点)12aは、後に詳述するように、基準物質(温度の基準となる部材)22の温度を測定するように基準物質22に配設されている。第2熱電対12の一方の脚(+脚)12bは示差熱測定機13に接続されている。
【0022】
第2熱電対12の他方の脚(−脚)12cは、第1熱電対11の他方の脚(−脚)11cと接続されている。即ち、第1熱電対11及び第2熱電対12は、周知の示差熱電対を構成するように示差型に結線されている。
【0023】
図2に示したように、第1熱電対11はリチウムイオン電池21の温度T1に応じた電圧V1を発生し、第2熱電対12は基準物質22の温度T2に応じた電圧V2を発生する。そして、第1熱電対11と第2熱電対12とからなる示差熱電対は、これらの温度差ΔT(=T1−T2)に応じた電圧ΔV(=V1−V2)を発生する。示差熱測定機13は、この電圧ΔVを温度に換算し、その温度(示差温度、即ち、示差熱)を記憶、記録及び表示するようになっている。
【0024】
測定対象である周知のリチウムイオン電池21は、分解斜視図である図3及び縦断面図である図4に示したように、正極21aと、負極21bと、セパレータ21cと、を備えている。
【0025】
正極21aは、正極活物質(Li複合酸化物)と結着材とを含む正極層211と、正極層211の集電を行う正極集電体212と、を備えている。正極21aの平面視における形状は特に限定されないが、ここでは長方形である。
【0026】
負極21bは、負極活物質(黒鉛)と結着材とを含む負極層213と、負極層213の集電を行う負極集電体214と、を含んでいる。負極21bの平面視における形状は特に限定されないが、ここでは正極21aと同一の長方形である。
【0027】
セパレータ21cは、正極21aと負極21bとの間で電気的な短絡が発生しないように、正極層211と負極層213との間に配置されている。即ち、リチウムイオン電池21において、正極21aと負極21bとはセパレータ21cを挟んで対向するように(より正確には、正極層211と負極層213とがセパレータ21cを挟んで対向するように)、正極21a、セパレータ21c及び負極21bが順に積層されている。セパレータ21cは、多孔質有機膜からなっている。ここでは、セパレータ21cは、リチウムイオン伝導性樹脂(ポリオレフィン系多孔質体)からなっていてもよい。
【0028】
正極21a、負極21b及びセパレータ21cには、液状の非水溶液系電解質が充填されている。この電解質は、例えば、LiPF6、LiBF4又はLiClO4等のリチウム塩からなる溶質と、エチレンカーボネート等の溶媒と、を含む。
【0029】
更に、正極集電体212の端部には正極端子215が例えば超音波溶接等により接続されている。また、負極集電体214の端部には負極端子216が例えば抵抗溶接等により接続されている。
【0030】
再び、図1を参照すると、リチウムイオン電池21の正極端子215及び負極端子216は電流・電圧検出装置23に接続されている。電流・電圧検出装置23は、リチウムイオン電池21の正極21aと負極21bとの間を流れる電流及び正極21aと負極21bとの電位差(電池出力電圧)を測定することができるようになっている。加えて、電流・電圧検出装置23は、制御装置24からの指示に応じて、正極端子215と負極端子216との間(従って、正極21aと負極21bとの間)に所望の電圧を印加することができ、更に、正極端子215と負極端子216との間に所望の電流を流すことができるようになっている。
【0031】
基準物質22は、リチウムイオン電池21の温度測定を行う環境温度の範囲において変化しない物質(例えば、アルミナ:AL2O3)からなっている。基準物質22の形状及び大きさは、リチウムイオン電池21と同一となるように形成されている。但し、基準物質22の形状及び大きさは、リチウムイオン電池21と相違していてもよい。更に、基準物質はリチウムイオン電池21と同じ構造を有するものであってもよい。
【0032】
リチウムイオン電池21及び基準物質22は、温度制御槽25内に配設されている。温度制御槽25は、その外部の温度に関らず、その内部の温度を所定の温度に維持することができる。
【0033】
ここで、第1熱電対11及び第2熱電対12の配設方法について説明を加える。
【0034】
第1熱電対11(第1熱電対11の測温接点11aを含む先端部近傍部分)は、図3及び図4に示したように、正極21a及び負極21bの間に配置されている。より詳細には、第1熱電対11は正極層211とセパレータ21cとの間に配置されている。更に、第1熱電対11の測温接点11aを含む部分であって且つ少なくとも第1熱電対11のリチウムイオン電池21内に配設されている部分(以下、「セル内部配設部分」とも称呼する。)は、イオン伝導性絶縁膜30により被覆されている。
【0035】
このイオン伝導性絶縁膜30は、絶縁性を有し、且つ、正極(作用極)21aと負極(対極)21bとの間を移動するリチウムイオンが通過可能な材料(例えば、ポリオレフィン、又は、絶縁性多孔質材料)よりなる薄膜である。イオン伝導性絶縁膜30は、高い熱伝導率を有する物質からなることが好ましく、ここではアルミナ(AL2O3)よりなる。イオン伝導性絶縁膜30はSiCからなっていてもよい。
【0036】
イオン伝導性絶縁膜30の上面はセパレータ21cの下面に接している。イオン伝導性絶縁膜30の下面は正極21aの上面(より詳細には、正極層211の上面)に接している。換言すると、第1熱電対11のセル内部配設部分は、イオン伝導性絶縁膜30を介して作用極としての正極21a(正極層211)に接触し、且つ、イオン伝導性絶縁膜30を介してセパレータ21c(セパレータ21cの下面)に接触している。この結果、第1熱電対は正極21a(及び負極21b、更に、セパレータ21c)と絶縁されている。
【0037】
第1熱電対11のうちのリチウムイオン電池21の外に存在している部分(即ち、脚11b及び脚11c)は、図4に示したように、絶縁材31によって被覆されている。
【0038】
第2熱電対12(第2熱電対12の測温接点12aを含む先端部近傍部分)は、図5に示したように、基準物質22の下面に接するように配置されている。即ち、第2熱電対12は、基準物質22の温度を測定するように配置されている。より詳細には、「第2熱電対12の測温接点12aを含む部分であって且つ基準物質22に固定・配設されている部分(以下、「基準物質固定部分」とも称呼する。)はイオン伝導性絶縁膜30により被覆されている。なお、基準物質22が絶縁物であれば、第2熱電対12はイオン伝導性絶縁膜30により被覆される必要はなく、基準物質22に直接接触するように固定・配設されてもよい。
【0039】
第2熱電対12のうちの基準物質固定部分以外の部分(即ち、脚12b及び脚12c)は、図5に示したように、絶縁材31によって被覆されている。
【0040】
以上のように構成された温度測定装置10は、制御装置24及び電流・電圧検出装置23によって、リチウムイオン電池21の正極21a及び負極21b間に印加する電圧を走査しながら、或いは、正極21a及び負極21b間に流れる電流を走査しながら、示差温度(即ち、リチウムイオン電池21内に発生した反応熱=示差熱=エンタルピー変化)を測定することができる。
【0041】
温度測定装置10によれば、第1熱電対11が、作用極(例えば、正極21a)と対極(例えば、負極21b)との間に配置されているので、電気化学セルであるリチウムイオン電池21内部で発生する反応熱により上昇する温度を精度良く測定することができる。しかも、第1熱電対11はイオン伝導性絶縁膜30を介して作用極及び対極の一方(正極21)と接触しているので、第1熱電対11と正極21aとが短絡することを防止することができる。加えて、イオン伝導性絶縁膜30は正極21aと負極21bとの間を移動するイオンの動きを妨げない。この結果、リチウムイオン電池21の作動が温度測定のために乱されることが殆どなく、リチウムイオン電池21が通常の使用状態にて動作している場合のリチウムイオン電池21の内部温度(よって、反応熱)を、リチウムイオン電池21を破壊することなくリアルタイムに精度良く測定することができる。
【0042】
(実施例)
1.第1熱電対11及び第2熱電対12として共に同じT型熱電対を採用し、これらを示差型に結線して上述の示差熱電対を作製した。イオン伝導性絶縁膜30の材質はポリオレフィンとした。
2.第1熱電対11を、Li複合酸化膜を正極集電体212上に塗布して作製した正極21aとポリオレフィン系のセパレータ21cとの間に設置し、正極側の示差熱を測定できるように構成した。
3.セパレータ21cの正極21aと反対側に、負極合材を負極集電体214に塗布した負極21bを配置した。
4.これらをラミネートフィルムにて被覆して測定電池を作製した。
【0043】
5.同様に、第2熱電対12を、Li複合酸化膜を正極集電体212上に塗布して作製した正極21aとポリオレフィン系のセパレータ21cとの間に設置した。
6.セパレータ21cの正極21aと反対側に、負極合材を負極集電体214に塗布した負極21bを配置した。
7.これらをラミネートフィルムにて被覆して「第2熱電対12が配置された基準物質」としての基準電池を作製した。
【0044】
8.Ar雰囲気下のグローブボックス内にて電解液を測定電池及び基準電池内に注液した。電解液は、EC(炭酸エチレン)、DMC(炭酸ジメチル)及びEMC(炭酸エチルメチル)の混合非水系溶媒にLiPF6を溶解させて作製した。
【0045】
9.測定電池を活性化させるために、25℃雰囲気下において、1C−CC(定電流)充電・終止電圧4.1Vにて初期充電を行い、その後、1C−CC(定電流)放電・終止電圧3.0Vにて放電を行った。
10.測定電池21と基準電池22とを同一温度制御槽(恒温槽)25内に設置し、測定電池21への充電のための印加電圧(正極端子215と負極端子216との間の電位差)を3.0Vから5.5Vまで0.06mV/sの走査速度にて変化させ、このときの電圧増加に伴う応答電流(正極端子215と負極端子216との間に流れる電流、即ち、測定電池21内を流れる電流)と示差熱(示差温度)ΔTとを測定した。同時に、測定電池21及び基準電池22の内部温度T1及びT2をそれぞれ参考とするために測定した。
測定した結果を図6及び図7に示す。
【0046】
この測定結果によれば、応答電流が増減しても示差熱ΔTは殆ど変化していないことが理解される。即ち、上述のリチウムイオン電池(測定電池)においては、その内部温度は、応答電流によるジュール熱(Q=I2・R・t、ここで、I:応答電流(通電電流)、R:測定電池21の内部抵抗、t:通電時間)に依存性を有さないことが確認できた。
【0047】
更に、図6に示されたように、通常の充電電圧範囲(約3〜約4.5V)では示差熱ΔTは殆ど上昇せず、測定電池の内部温度は殆ど上昇していないことが確認できた。加えて、過充電範囲(約4.5V以上)では示差熱ΔTが急激に上昇していることを明らかに確認することができた。即ち、過充電範囲では測定電池21内部において急激な発熱が発生(発熱量が急増)していることが、温度測定装置10を用いることにより容易に確認することができた。なお、この急激な発熱は、電解液の酸化分解によるものと推察される。
【0048】
以上、説明したように、本発明の実施形態に係る温度測定装置10は、電気化学セル(リチウムイオン電池21)の実際の使用状態に近しい状態における同電気化学セルの内部温度を、精度良く、電気化学セルを解体することなく、且つリアルタイムにて測定することができる。
【0049】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態においては、第1熱電対11と第2熱電対12とが示差型に結線されて示差熱電対を構成していたが、上述したように配置・構成された第1熱電対11のみを用いて電気化学セルの内部温度を測定してもよい。この場合においても、第1熱電対11は、正極(作用極)21aと負極(対極)21bとの間に配置されているので、電気化学セルの内部温度を精度良く測定することができる。更に、第1熱電対11は、イオン伝導性絶縁膜30により被覆されているので、正極21a(又は負極21b)と短絡することがない。更に、イオン伝導性絶縁膜30は、正極(作用極)21aと負極(対極)21bとの間を移動するイオンの移動を妨げないので、電気化学セルの実際の使用状態における内部温度を精度良く測定することができる。
【0050】
また、第1熱電対11は、正極(作用極)21aと負極(対極)21bとの間に配置されていればよく、セパレータ21cにイオン伝導性絶縁膜30を介して接触している必要はない。例えば、第1熱電対11は、図8に示したように正極層211内に配置されてもよく、図9に示したように正極集電体212とイオン伝導性絶縁膜30を介して接触するように配置されてもよい。加えて、第1熱電対11がセパレータ21cに接触するように配置される場合、図10に示したように、第1熱電対11とセパレータ21cとはイオン伝導性絶縁膜30を介することなく直接接触してもよい。即ち、第1熱電対11は、正極21a(又は負極21b)との短絡を回避できればよいので、正極21a(又は負極21b)にイオン伝導性絶縁膜30を介して接触するように配置構成されればよい。
【0051】
加えて、第1熱電対11は、図11に示したように負極層213とセパレータ21cとの間に配置されてもよく、図12に示したように負極層213内に配置されてもよく、図13に示したように負極集電体214とイオン伝導性絶縁膜30を介して接触するように配置されてもよい。
【0052】
また、本発明は、リチウムイオン電池のみでなく、電気化学セルであれば適用することができる。即ち、本発明は、一次電池、二次電池及び燃料電池等の化学電池、並びに平行板コンデンサ等にも適用することができる。また、それらは作用極と対極を有していればよく、セパレータは必ずしも必要ではない。更に、本発明が適用できる電気化学セルの形状には限定がない。例えば、図14に示したように、円筒状の電気化学セルにも本発明を適用することができる。なお、図14において、41は正極、42は負極、11は熱電対(第1熱電対)、30は熱電対11を被覆するイオン伝導性絶縁膜30である。
【0053】
更に、本発明において使用される熱電対は、T型熱電対に限らず、JIS規格が定める他の型(例えば、K、J、E、N、R、S及びB型等)であってもよく、JIS規格以外の熱電対であってもよい。
【符号の説明】
【0054】
10…電気化学セルの温度測定装置、11…熱電対(第1熱電対)、11a…測温接点、11b…脚、11c…脚、12…熱電対(第2熱電対)、12a…測温接点、12b…脚、12c…脚、13…示差熱測定機(データロガー)、21…リチウムイオン電池(測定電池)、21a…正極、21b…負極、21c…セパレータ、22…基準物質(基準電池)、23…電流・電圧検出装置、24…制御装置、25…温度制御槽、30…イオン伝導性絶縁膜(イオン伝導性絶縁層)、31…絶縁材、211…正極層、212…正極集電体、213…負極層、214…負極集電体、215…正極端子、216…負極端子。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用極及び対極を含む電気化学セルの温度を測定する電気化学セルの温度測定装置において、
前記作用極と前記対極との間に配置された熱電対と、
絶縁性を有するとともに前記作用極と前記対極との間を移動するイオンが通過可能なイオン伝導性絶縁膜と、
を備え、
前記熱電対が前記イオン伝導性絶縁膜を介して前記作用極又は前記対極に接触していることを特徴とする電気化学セルの温度測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学セルの温度測定装置において、
前記熱電対が、前記イオン伝導性絶縁膜により被覆されていることを特徴とする電気化学セルの温度測定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電気化学セルの温度測定装置であって、
基準物質と、
前記基準物質の温度を測定するように配置された熱電対と、
を更に備え、
前記作用極と前記対極との間に配置された前記熱電対と、前記基準物質の温度を測定するように配置された前記熱電対と、が示差熱電対を構成するように接続されたことを特徴とする電気化学セルの温度測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電気化学セルの温度測定装置において、
前記作用極と前記対極との間に配置された前記熱電対が前記イオン伝導性絶縁膜により被覆され、且つ、前記基準物質の温度を測定するように配置された前記熱電対が前記イオン伝導性絶縁膜により被覆されている、ことを特徴とする電気化学セルの温度測定装置。
【請求項1】
作用極及び対極を含む電気化学セルの温度を測定する電気化学セルの温度測定装置において、
前記作用極と前記対極との間に配置された熱電対と、
絶縁性を有するとともに前記作用極と前記対極との間を移動するイオンが通過可能なイオン伝導性絶縁膜と、
を備え、
前記熱電対が前記イオン伝導性絶縁膜を介して前記作用極又は前記対極に接触していることを特徴とする電気化学セルの温度測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学セルの温度測定装置において、
前記熱電対が、前記イオン伝導性絶縁膜により被覆されていることを特徴とする電気化学セルの温度測定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電気化学セルの温度測定装置であって、
基準物質と、
前記基準物質の温度を測定するように配置された熱電対と、
を更に備え、
前記作用極と前記対極との間に配置された前記熱電対と、前記基準物質の温度を測定するように配置された前記熱電対と、が示差熱電対を構成するように接続されたことを特徴とする電気化学セルの温度測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電気化学セルの温度測定装置において、
前記作用極と前記対極との間に配置された前記熱電対が前記イオン伝導性絶縁膜により被覆され、且つ、前記基準物質の温度を測定するように配置された前記熱電対が前記イオン伝導性絶縁膜により被覆されている、ことを特徴とする電気化学セルの温度測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−105609(P2013−105609A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248153(P2011−248153)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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