説明

電気化学セル用水性ペースト、電気化学セル用水分散体および電気化学セル用極板

【課題】金属集電体、正極活物質、および負極活物質に対して十分な密着性を有しかつ電気化学的に安定で電気化学セルが膨れにくく、従来の静電気容量・内部抵抗を維持しながら、特に二次電池のサイクル特性を向上させることができる電気化学セル用水性ペーストを提供する。
【解決手段】本発明の電気化学セル用水性ペーストは、オレフィン系共重合体(aa)を含む電気化学セル用水分散体(A)、活物質(B)および導電助剤(C)を含有し、前記オレフィン系共重合体(aa)は、酸価が1.5mg−KOH/g以上200mg−KOH/g未満である特定の酸変性ポリオレフィン(a)に、ポリオレフィン(a)に含まれる酸に対して、リチウム換算で15〜100モル%のリチウム化合物を添加して得られた、ポリオレフィン(a)に含まれる酸の少なくとも一部が塩である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のオレフィン系共重合体(aa)を含む電気化学セル用水分散体、活物質および導電助剤を含む電気化学セル用水性ペーストに関する。
また、本発明は、二次電池、例えば、リチウム化合物を用いて得られる非水電解液二次電池(リチウムイオン電池)を構成する電気化学セル用水分散体(A)に関する。詳しくは、特定のオレフィン系共重合体(aa)を水に分散させた電気化学セル用水分散体(A)に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、正極、負極用の各活物質をバインダーによって、各集電体に結着させ各電極を作成している。正極用バインダーでは、耐酸化性が求められており、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)をN−メチル−2ピロリドン(NMP)に溶解させた溶液、あるいはポリテトラフロロエチレン(PTFE)の含フッ素系水分散液が用いられている。また、負極用のバインダーとしては、PVDFの他に、スチレン-ブタジエンラバー(SBR)水分散液が用いられている。
【0003】
しかしながら、これらバインダーは、耐酸化性はあるが活物質や集電体との密着性に劣るため多量の添加が必要である。そのため活物質を被覆し、電池特性を低下させるといった問題があった。また、SBRは密着性が比較的高く、配合部数は少なくてすむが活物質との親和性が高いため、電極表面を被覆しやすいといった問題があった。さらに、PDVFやSBRは電解液との親和性が高いため、電池を高温で放置することや、充放電を繰り返すと樹脂が膨潤してしまうため電池が膨れやすくなるといった問題があった。
【0004】
そこで、これらの問題を解決するために電気化学的に安定で、電解液に対して膨潤が小さいオレフィン系共重合体の水分散体をバインダーとして用いる検討が行われていた(特許文献1および2など)。これらのバインダーは、耐酸化還元性に優れ、電解液に対する膨潤が小さく活物質を被覆しにくい。
【0005】
しかしながら、密着性がSBRに比べ弱いため、電池の重要特性の1つであるサイクル特性が十分でないという問題があった。
また、特許文献3には、酸変性ポリオレフィン樹脂を含む水分散体と、該水分散体を用いて得られる二次電池電極が開示されている。
【0006】
しかしながら、水性媒体として水溶性有機溶媒を使用しているためバインダーには、微量の有機溶媒が残存し、この有機溶媒に起因して、電池性能(特に不可逆容量)が大きく悪化するといった問題があった。さらに、環境対応として、脱VOC(揮発性有機化合物)を目指した水系化と言う点では未だ到達できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−251856号公報
【特許文献2】特開2009−110883号公報
【特許文献3】特開2010−189632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであって、金属集電体、正極活物質、および負極活物質に対して十分な密着性を有しかつ電気化学的に安定で電気化学セルが膨れにくく、従来の静電気容量・内部抵抗を維持しながら、特に二次電池のサイクル特性を向上させることができる電気化学セル用水分散体(A)、および電気化学セル用水性ペーストを提供することである。
【0009】
また、特定のオレフィン系共重合体(aa)を含む電気化学セル用水分散体および該電気化学セル用水分散体(A)を用いて得られる電気化学セル用極板、該極板を含む、充放電によるサイクル寿命の高い電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記問題点を解決すべく鋭意検討の結果、特定のオレフィン系共重合体(aa)を含む電気化学セル用水分散体(A)を電気化学セルに用いることにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0011】
なお、本発明において、特定のオレフィン系共重合体(aa)を、電気化学セル用バインダーと称すこともある。
また、本発明において変性(体)とは、たとえば、オレフィン系共重合体、ポリオキシエチレン、またはポリビニルアルコール等に重合反応、グラフト反応、付加反応あるいは置換反応などを用いて、主構造と異なる構造を付与する事の意味である。
【0012】
本発明の電気化学セル用水性ペーストは、オレフィン系共重合体(aa)を含む電気化学セル用水分散体(A)、活物質(B)および導電助剤(C)を含有し、
前記オレフィン系共重合体(aa)は、酸価が1.5mg−KOH/g以上200mg−KOH/g未満である酸変性ポリオレフィン(a)に、ポリオレフィン(a)に含まれる酸に対して、リチウム換算で15〜100モル%のリチウム化合物を添加して得られた、ポリオレフィン(a)に含まれる酸の少なくとも一部が塩である共重合体であり、
前記酸変性ポリオレフィン(a)は、ランダムプロピレン系共重合体(a−1)と酸変性オレフィン系(共)重合体(a−4)の混合物、該ランダムプロピレン系共重合体(a−1)を酸変性した酸変性ランダムプロピレン系共重合体(a−2)および(メタ)アクリル酸から導かれる構成単位の含有率が5重量%以上25重量%以下であるエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体(a−3)から選ばれる少なくとも1種であり、
該共重合体(a−1)〜(a−3)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められる重量平均分子量が、それぞれ5万以上(ポリスチレン換算)であり、
該(共)重合体(a−4)は、GPCにより求められる重量平均分子量が5万未満(ポリスチレン換算)であることを特徴とする。
【0013】
また、電気化学セル用水性ペーストは、
オレフィン系共重合体(aa)を含む電気化学セル用水分散体(A)、活物質(B)および導電助剤(C)を含有し、
前記オレフィン系共重合体(aa)は、酸価が1.5mg−KOH/g以上200mg−KOH/g未満である酸変性ポリオレフィン(a)に、ポリオレフィン(a)に含まれる酸に対して、リチウム換算で15〜100モル%のリチウム化合物を添加して得られた、ポリオレフィン(a)に含まれる酸の少なくとも一部が塩である共重合体であり、
前記酸変性ポリオレフィン(a)は、ランダムプロピレン系共重合体(a−1)を酸変性した酸変性ランダムプロピレン系共重合体(a−2)と酸変性オレフィン系(共)重合体(a−4)の混合物および(メタ)アクリル酸から導かれる構成単位の含有率が5重量%以上25重量%以下であるエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体(a−3)と酸変性オレフィン系(共)重合体(a−4)の混合物から選ばれる少なくとも1種であり、
該共重合体(a−2)および(a−3)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められる重量平均分子量が、それぞれ5万以上(ポリスチレン換算)であり、
該(共)重合体(a−4)は、GPCにより求められる重量平均分子量が5万未満(ポリスチレン換算)であることを特徴とする。
【0014】
前記活物質(B)100重量部に対して、前記水分散体(A)の固形分は、0.5〜30重量部であり、前記導電助剤(C)は、0.1〜30重量部であることが好ましい。
前記ランダムプロピレン系共重合体(a−1)は、ランダムプロピレン−ブテン共重合体、ランダムエチレン−プロピレン−ブテン共重合体およびランダムエチレン−プロピレン共重合体から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0015】
前記水分散体は、さらにゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められる重量平均分子量が5万未満(ポリスチレン換算)の酸変性オレフィン系(共)重合体(a−4)を含むことが好ましい。
【0016】
前記酸変性オレフィン系(共)重合体(a−4)は、前記ランダムプロピレン系共重合体(a−1)および前記酸変性ランダムプロピレン系共重合体(a−2)の合計100重量部に対して、5〜50重量部含まれることが好ましい。
【0017】
前記酸変性は、マレイン酸変性であることが好ましい。
前記水分散体(A)は、界面活性剤(x)および粘度調整剤(y)から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0018】
前記オレフィン系共重合体(aa)の固形分100重量部に対して、前記界面活性剤(x)の固形分は、0〜100重量部であり、前記粘度調整剤(y)の固形分は、10〜100重量部であることが好ましい。
【0019】
前記粘度調整剤(y)は、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイドの変性体、ポリビニルアルコールおよびポリビニルアルコールの変性体から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0020】
本発明の電気化学セル用水分散体(A)は、オレフィン系共重合体(aa)を含む電気化学セル用水分散体(A)であり、
前記オレフィン系共重合体(aa)は、酸価が1.5mg−KOH/g以上200mg−KOH/g未満である酸変性ポリオレフィン(a)に、ポリオレフィン(a)に含まれる酸に対して、リチウム換算で15〜100モル%のリチウム化合物を添加して得られた、ポリオレフィン(a)に含まれる酸の少なくとも一部が塩である共重合体であり、
前記酸変性ポリオレフィン(a)は、ランダムプロピレン系共重合体(a−1)と酸変性オレフィン系(共)重合体(a−4)の混合物、該ランダムプロピレン系共重合体(a−1)を酸変性した酸変性ランダムプロピレン系共重合体(a−2)および(メタ)アクリル酸から導かれる構成単位の含有率が5重量%以上25重量%以下であるエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体(a−3)から選ばれる少なくとも1種であり、
該共重合体(a−1)〜(a−3)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められる重量平均分子量が、それぞれ5万以上(ポリスチレン換算)であり、
該(共)重合体(a−4)は、GPCにより求められる重量平均分子量が5万未満(ポリスチレン換算)であることを特徴とする。
【0021】
また、電気化学セル用水分散体(A)は、
オレフィン系共重合体(aa)を含む電気化学セル用水分散体(A)であり、
前記オレフィン系共重合体(aa)は、酸価が1.5mg−KOH/g以上200mg−KOH/g未満である酸変性ポリオレフィン(a)に、ポリオレフィン(a)に含まれる酸に対して、リチウム換算で15〜100モル%のリチウム化合物を添加して得られた、ポリオレフィン(a)に含まれる酸の少なくとも一部が塩である共重合体であり、
前記酸変性ポリオレフィン(a)は、ランダムプロピレン系共重合体(a−1)を酸変性した酸変性ランダムプロピレン系共重合体(a−2)と酸変性オレフィン系(共)重合体(a−4)の混合物および(メタ)アクリル酸から導かれる構成単位の含有率が5重量%以上25重量%以下であるエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体(a−3)と酸変性オレフィン系(共)重合体(a−4)の混合物から選ばれる少なくとも1種であり、
該共重合体(a−2)および(a−3)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められる重量平均分子量が、それぞれ5万以上(ポリスチレン換算)であり、
該(共)重合体(a−4)は、GPCにより求められる重量平均分子量が5万未満(ポリスチレン換算)であることを特徴とする。
【0022】
前記水分散体(A)は、界面活性剤(x)および粘度調整剤(y)から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
本発明の電気化学セル用極板は、本発明の電気化学セル用水分散体(A)を用いて得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の電気化学セル用水分散体(A)および電気化学セル用水性ペーストは、金属集電体、正極活物質、および負極活物質に対して十分な密着性を有し、かつ電池に適用した場合、電気化学的に安定で電気化学セルが膨れにくく、特に二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0024】
本発明の電気化学セル用水性ペーストを用いることで、電極を効率よく生産することが可能である。
また、該電気化学セル用水性ペーストを用いて得られる極板を含む電池は、充放電によるサイクル寿命が高い。
【0025】
したがって、小型化、軽量化し、さらに高容量化である高効率の電池を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<電気化学セル用水性ペースト>
本発明の電気化学セル用ペーストは、特定の電気化学セル用水分散体(A)、活物質(B)および導電助剤(C)を含む。
【0027】
〔電気化学セル用水分散体(A)〕
本発明の電気化学セル用水分散体(A)は、水に分散したエマルションである。
また、水分散体(A)は、本発明に係るオレフィン系共重合体(aa)のほかに、必要に応じて、界面活性剤(x)、粘度調整剤(y)などを含む。
【0028】
水分散体(A)の固形分(すなわち、共重合体(aa)と界面活性剤(x)の固形分と粘度調整剤(y)の固形分の合計量)は、活物質100重量部に対して、好ましくは0.5〜30重量部、より好ましくは1〜20重量部である。この範囲であれば、良好な極板密着性が得られるため好ましい。また、0.5重量部未満であると、極板の集電体から合材層が剥落のおそれがあり、30重量部を超えると、リチウムイオン輸送性の低下を引き起こすおそれがある。
【0029】
本発明に係る水分散体(A)には、体積平均粒子径が、特に限定されないが、10〜1,000nm、好ましくは10〜800nm、より好ましくは10〜500nm(Microtrac HRA:Honneywell社使用)のオレフィン系共重合体(aa)で構成される樹脂粒子を含む。粒子径が前記範囲であれば、水分散安定性に優れるため好ましい。また、10nm未満であれば、極板密着性が低下するおそれがあり、1,000nmを超えると分散安定性を損なうおそれがある。また、水分散体を使用して電極を作成する場合、本発明に係る水性ペーストを集電体に塗布、乾燥して作成するが、この範囲であれは、水分の蒸発とともにオレフィン系共重合体(aa)が集電体と反対方向に移動する、いわゆるマイグレーションを起こし、集電体との密着性が低下するのを防ぐことができる。この範囲を越えると、マイグレーションが過多となったり、接着面積が低下するため、結果として密着性が低下するなどのおそれがある。粒子径のコントロール方法は特に制限されないが、例えば、製造時の溶融温度、樹脂中和量、乳化助剤量などによって適宜調整することができる。
【0030】
(オレフィン系共重合体(aa))
水分散体(A)に、本発明に係るオレフィン系共重合体(aa)を用いることで、良好な密着性と電池サイクル性能を得ることができる。
【0031】
オレフィン系共重合体(aa)は、水分散体(A)中に、固形分換算で、5〜80重量%、好ましくは、10〜70重量%含まれる。この範囲であれば、良好な極板密着性が得られる。
【0032】
また共重合体(aa)は、示差走査熱量計(DSC)によって測定した融点〔Tm〕が、通常120℃以下であるかまたは認められなく、好ましくは110℃以下であるかまたは認められない。融点が前記範囲内であれば、極板柔軟性に優れるため好ましい。また、120℃を超えると、極板柔軟性が不足し加工性を損なうおそれがある。さらに、オレフィン系共重合体(aa)の結晶性は有っても無くても構わないが、二次電池のサイクル特性・各種基材との密着性の点から、X線回折法による結晶化度は30%以下であることが好ましい。
【0033】
オレフィン系共重合体(aa)は、酸価が1.5mg−KOH/g以上200mg−KOH/g未満、好ましくは2.0〜195mg−KOH/g、より好ましくは2.5〜190mg−KOH/gである酸変性ポリオレフィン(a)に、ポリオレフィン(a)に含まれる酸に対して、リチウム換算で15〜100モル%、好ましくは20〜100モル%、より好ましくは25〜100モル%のリチウム化合物を添加して得られた、ポリオレフィン(a)に含まれる酸の少なくとも一部が塩である共重合体である。酸価が、1.5mg−KOH/g未満であると、良好な水分散体が得られにくくなり、200mg−KOH/g以上であると、水分散性を示さずに水溶性となり、極板密着性の点で好ましくない。なお、塩は、たとえば、一般的な金属分析により、Li金属の定量(ICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)、ICP−MS)が可能であり、さらには塩の形成を赤外分光法(FT−IRなど)で確認できる。この場合には、未中和カルボン酸のカルボニルの吸収波数よりも低波数側にカルボニルの吸収が有るか否かで確認できる。
【0034】
酸変性ポリオレフィン(a)は、後述する共重合体(a−1)と(共)重合体(a−4)の混合物、酸変性ランダムプロピレン系共重合体(a−2)およびエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体(a−3)から選ばれる少なくとも1種が含まれる。共重合体(a−1)と(共)重合体(a−4)の混合物は、共重合体(a−1)100重量部に対して、(共)重合体(a−4)を1〜40重量部、好ましくは2〜35重量部、より好ましくは、極板密着性の点で、4〜30重量部である。
【0035】
また、酸変性ポリオレフィン(a)は、酸変性ランダムプロピレン系共重合体(a−2)と(共)重合体(a−4)の混合物またはエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体(a−3)と(共)重合体(a−4)の混合物である。共重合体(a−2)と(共)重合体(a−4)の混合物は、共重合体(a−2)100重量部に対して、(共)重合体(a−4)を1〜40重量部、好ましくは2〜35重量部、より好ましくは、極板密着性の点で、4〜30重量部である。共重合体(a−3)と(共)重合体(a−4)の混合物は、共重合体(a−3)100重量部に対して、(共)重合体(a−4)を0〜30重量部、好ましくは0〜28重量部、より好ましくは、極板密着性の点で、0〜25重量部である。
【0036】
また、酸変性ポリオレフィン(a)は、好ましくは(共)重合体(a−4)を、より好ましくは(共)重合体(a−4)および/または共重合体(a−5)を含む。
(ランダムプロピレン系共重合体(a−1))
ランダムプロピレン系共重合体(a−1)は、プロピレンから導かれる構成単位を主体として、他にエチレン、1−ブテン、4−メチルペンテン−1、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、9-メチルデセン-1、11-メチルドデセン-1および12-エチルテトラデセン-1などのα―オレフィンを共重合したものである。これら共重合体は1種のみを使用しても良いし、複数の種類を組み合わせて使用しても良い。
【0037】
これらのなかで、ランダムプロピレン-ブテン共重合体、ランダムエチレン−プロピレン−ブテン共重合体およびランダムエチレン-プロピレン共重合体が、極板柔軟性の点で好ましい。
【0038】
共重合体(a−1)のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められる重量平均分子量は、ポリスチレン換算で、5万以上、上限は特に限定されないが、好ましくは5万〜50万、より好ましくは、水分散体化した時の分散粒子径制御の点から、5万〜30万である。5万未満である場合、共重合体(a−1)が活物質を結着させる場合に、結着材としての強度が不足し、電極上の合材層の滑落を生じる事となる。
【0039】
共重合成分の含有量は、電気化学セル用極板の耐衝撃性、柔軟性、密着強度の点、特に電極のサイクル特性の観点から、共重合体(a−1)100重量%あたり、プロピレンから導かれる構成単位の含有率は、通常50重量%以上100重量%未満であり、ランダムプロピレン系共重合体であれば特に限定されないが、好ましくは51〜99重量%、より好ましくは52〜98重量%未満である。
【0040】
(酸変性ランダムプロピレン系共重合体(a−2))
酸変性ランダムプロピレン系共重合体(a−2)は、前記ランダムプロピレン系共重合体(a−1)を酸で変性した共重合体である。金属集電体との接着のために、酸で変性した共重合体を用いることが好ましい。
【0041】
共重合体(a−2)の重量平均分子量は、共重合体(a−1)と同じである。
酸の種類としては、ランダムプロピレン系共重合体(a−1)を変性できる化合物であれば特に限定されないが、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、安息香酸などのカルボン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸などスルホン酸等が挙げられる。また、これらの酸の無水物、ナトリウムやカリウムなどの塩、これらの酸の誘導体も適宜用いることができる。これらの中で、密着性の観点からカルボン酸が好ましい。また、不飽和結合を持つようなマレイン酸、安息香酸とそれらの誘導体などが挙げられ、特に、酸官能基数の点から、マレイン酸で変性された、マレイン化変性ランダムポリプロピレンが好ましい。より好ましくは、極板柔軟性の点から、マレイン化変性ランダムプロピレン-ブテン共重合体、マレイン化変性ランダムエチレン−プロピレン−ブテン共重合体およびマレイン化変性ランダムエチレン-プロピレン共重合体である。
【0042】
酸変性の程度(変性度)は高くなると、エマルションの増粘や、電解液に対する樹脂膨潤性の増大などを引き起こす。そのため、変性度は、通常、酸換算で、0.1〜5.0重量%の範囲である。また、たとえば、マレイン酸で変性する場合、変性度は、無水マレイン酸換算で0.5〜4.0重量%(マレイン化変性度0.5〜4.0)が好ましく、より好ましくは0.5〜2.0重量%(マレイン化変性度0.5〜2.0)である。
【0043】
マレイン酸による変性方法は特に制限されないが、例えば、ランダムプロピレン系共重合体(a−1)を、炭化水素溶媒に高温で溶解または分散し、無水マレイン酸と有機過酸化物を添加して無水マレイン酸を付加させる方法や、2軸押出機にてランダムプロピレン系共重合体(a−1)を連続的に溶融混錬しながら、有機過酸化物と無水マレイン酸を連続的に添加し押出機内で反応させる方法等がある。
【0044】
(エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体(a−3))
エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体(a−3)は、(メタ)アクリル酸から導かれる構成単位の含有率が5重量%以上25重量%以下、好ましくは6〜20重量%、より好ましくは極板密着性の点から10〜20重量%である。構成単位の含有率が、5重量%未満であると、水分散体としたときの安定性が低下すると共に結着剤としての密着性が低下する。また、25重量%を超えると、水分散体ではなく水溶性高分子となり低添加領域での結着性が低下する。
【0045】
共重合体(a−3)の重量平均分子量は、共重合体(a−1)と同じである。
また、該(メタ)アクリル酸は、アルカリで中和されている事が望ましい。アルカリ種には特に制限はなく、アンモニアや有機アミン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属類が挙げられる。特にアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムが水分散体化するのに適している。
【0046】
該(メタ)アクリル酸のもつカルボン酸の中和率は、特に限定されないが、25mol%以上、85mol%以下が望ましい。25mol%未満であると水分散体の安定性が低下するおそれがあり、85mol%を越えると未中和のカルボン酸が不足して結着剤としての密着性が低下するおそれがある。好ましくは、30mol%以上、80mol%以下、さらに好ましくは35mol%以上、75mol%以下である。
【0047】
酸変性ポリオレフィン(a)中における共重合体(a−3)は、酸変性ポリオレフィン(a)に対して、100重量%であってもよい。また、共重合体(a−1)と共重合体(a−2)とを混合する場合、共重合体(a−1)と共重合体(a−2)の合計100重量部に対して、好ましくは0〜200重量部、より好ましくは0.5〜150重量部である。
【0048】
(酸変性オレフィン(共)重合体(a−4))
酸変性オレフィン系(共)重合体(a−4)は、酸で変性した(共)重合体である。オレフィン系(共)重合体は、ポリエチレン、ポリプロピレン等の炭素数2〜6の単独重合体や、炭素数2〜6のオレフィンを共重合したものが挙げられる。中でも、プロピレン単独重合体、または、プロピレンと、炭素数2〜6(プロピレンを除く)のα−オレフィンとのランダム共重合体もしくはブロック共重合体であり、通常、プロピレンから導かれる単位および炭素数2〜6(プロピレンを除く)のα−オレフィンから導かれる単位の合計100モル%中、プロピレンから導かれる単位を50モル%以上、好ましくは60モル%以上の量で含む共重合体である。
【0049】
酸の種類および変性方法は、前記共重合体(a−2)と同様である。酸としては、酸官能基数の点からマレイン酸が好ましい。
(共)重合体(a−4)のGPCにより求められる重量平均分子量は、ポリスチレン換算で、5万未満、好ましくは5,000〜5万未満、より好ましくは5,000〜4万である。本発明において、低分子量の共重合体(a−4)は、オレフィン系共重合体(aa)を分散するときの分散助剤としての役割と、水分散体(A)を電極活物質と混練したときの混和安定性と、極板(合材層)密着性、さらに、増粘剤(粘度調整剤)、特にカルボキシメチルセルロースとの相溶性を向上させる役割がある。
【0050】
特に、重量平均分子量5万未満の低分子量のマレイン化変性オレフィン系(共)重合体であることが、ランダムプロピレン系共重合体(a−1)あるいは酸変性ランダムプロピレン系共重合体(a−2)との水分散体化工程での相溶性の点で、好ましくは、マレイン化変性ポリプロピレンである。
【0051】
変性度は、水分散性の安定度及び極板密着性の点から、通常0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜8重量%である。この範囲を越えると、エマルション分散時の乳化性が低下する、ペーストの混和安定性が低下する、増粘するなどのおそれがある。
【0052】
本発明において、酸変性ポリオレフィン(a)中に共重合体(a−1)、共重合体(a−2)および(共)重合体(a−4)が含まれる場合、(共)重合体(a−4)は、前記ランダムプロピレン系共重合体(a−1)と前記酸変性ランダムプロピレン系共重合体(a−2)の合計100重量部に対して、オレフィン系共重合体(aa)の密着性・電解液に対する膨潤性の点、更に、エマルション分散時の乳化性・ペーストの混和安定性の点で、5〜50重量部であることが好ましく、より好ましくは10〜40重量部、さらに好ましくは10〜30重量部である。
【0053】
(その他の共重合体(a−5))
本発明にかかる酸変性ポリオレフィン(a)では、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の共重合体(a−5)を含んでいてもよい。
【0054】
その他の共重合体(a−5)は、前記共重合体(a−1)〜(a−4)とは異なる、スチレン、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1,3−ブタジエン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等の共重合可能な単量体を単独または2種類以上組み合わせた共重合体、
スチレン−エチレン−ブチレン共重合体、およびこれらの水素添加物が挙げられる。
【0055】
また、ノルボルネン系重合体、単環の環状ポリオレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体およびこれらの水素添加物などの脂環式構造を含有する重合体も用いることができる。
【0056】
また、共重合体(a−5)には、これらの共重合体の酸変性物も含まれ、特にマレイン化変性物が好ましい。
これらの中で、スチレン−エチレン−ブチレン共重合体が、極板柔軟性の点で好ましい。
【0057】
共重合体(a−5)の含有量は、酸変性ポリオレフィン(a)100重量部に対して、接着性や電極の可とう性を向上させる観点から、0〜50重量部、好ましくは0〜30重量部である。また、共重合体(a−1)と(a−2)の合計100重量部に対して、接着性や電極の可とう性を向上させる観点から、0〜50重量部、好ましくは0〜30重量部である。
【0058】
マレイン酸で変性した共重合体を用いる場合、マレイン化変性度は、特に限定されないが、0.1〜10重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜8重量%である。この範囲を越えると、エマルション分散時の乳化性の低下、ペーストの混和安定性の低下、増粘などを引き起こすおそれがある。
【0059】
共重合体(a−5)の重量平均分子量は、特に規定されないが、好ましくは5,000〜30万である。
(リチウム化合物)
本発明では、所定量のリチウム化合物を、酸変性ポリオレフィン(a)に添加することで、酸変性ポリオレフィン(a)に含まれる酸の少なくとも一部をリチウム塩にしたオレフィン系共重合体(aa)を用いる。オレフィン系共重合体(aa)は、リチウムイオンを対カチオンに持つことで、オレフィン系重合体(aa)のリチウムイオン輸送性が向上し、さらには他種対カチオンとリチウムイオンの交換による電池の容量低下を防止できる。
【0060】
リチウム化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム等の無機塩、酢酸リチウム、プロピオン酸リチウムなどの有機塩が挙げられる。これ等の中では、無機塩が好ましく、共役酸がペースト内に残留しないとの理由から、水酸化リチウム、炭酸リチウムまたは炭酸水素リチウムがより好ましい。
【0061】
(その他の中和剤)
オレフィン系重合体(aa)を水分散体化する際に、酸変性ポリオレフィン(a)に含まれる酸性基のうち、リチウム塩となっている酸性基以外の酸性基の全量または少なくとも一部を、アルカリ等で中和して使用することが好ましい。アルカリの種類としては、上記リチウム化合物の他に、有機アミン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどがあげられる。
【0062】
(界面活性剤(x))
本発明では、必要に応じて、乳化剤として界面活性剤(x)を添加してもよい。界面活性剤は、水分散体(A)に含まれることが好ましい。
【0063】
界面活性剤とは、物質表面あるいは界面の親、疎水状態を改質させるものである。本発明において、界面活性剤は、分散剤、濡れ剤、消泡剤的役割を果たす。これが含まれると、活物質、導電助剤の水分散体化の点で好ましい。
【0064】
界面活性剤は、アニオン系、ノニオン系、シリコン系であることが望ましいが、特に制限はない。界面活性剤の添加量は、水分散体(A)中のオレフィン系共重合体(aa)の固形分100重量部に対して、固形分換算で、0〜100重量部、好ましくは3〜80重量部である。この範囲を越えると、樹脂粒子の電解液相溶性が高くなり、強度が著しく低下したり、樹脂が膨潤しやすくなる。
【0065】
前記アニオン系界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等のC10〜C20までの飽和あるいは不飽和のアルキル鎖を持つスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウムおよびオレイン酸カリウムなどC10〜C20までの飽和あるいは不飽和のアルキル鎖を持つカルボン酸塩、ナトリウムジオクチルスルホサクシネート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ジアルキルスルポコハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、t−オクチルフェノキシエトキシポリエトキシエチル硫酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0066】
前記ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類やポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマー、t−オクチルフェノキシエチルポリエトキシエタノール、ノニルフェノキシエチルポリエトキシエタノール、アセチレニックグリコール誘導体のポリオキシエチレンエーテル等が挙げられる。
【0067】
前記シリコン系界面活性剤としては、ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリメチルアルキルシロキサン、シリコン変性ポリオキシエチレンエーテル等が挙げられる。
【0068】
界面活性剤は、1種のみを使用しても良いし、これらの複数の種類を組み合わせて使用しても良い。
これら界面活性剤の中でも、活物質や導電助剤を水に分散させる点で、オレイン酸カリウム、ステアリン酸カリウムが好ましい。また、水の表面張力を低下させる点で、アセチレニックグリコール誘導体のポリオキシエチレンエーテル、シリコン変性ポリオキシエチレンエーテルが好ましい。界面活性剤としては、オレイン酸カリウム、アセチレニックグリコール誘導体のポリオキシエチレンエーテルおよびシリコン変性ポリオキシエチレンエーテルから選ばれる少なくとも1種以上を用いると、得られる水分散体は良好な活物質、導電助剤の分散状態を得ることができるためより好ましい。
【0069】
また、前記酸変性ポリオレフィン(a)として、共重合体(a−1)と(a−4)との混合物を含む場合、共重合体(a−2)と(a−4)との混合物を含む場合、または共重合体(a−3)を単独で用いる場合、活物質と導電助剤の分散性向上の点から、水分散体(A)に界面活性剤を含むことが好ましい。
このような界面活性剤としては、特に限定されないが、好ましくはオレイン酸カリウム、ステアリン酸カリウム、アセチレニックグリコール誘導体のポリオキシエチレンエーテル、シリコン変性ポリオキシエチレンエーテル、より好ましくはオレイン酸カリウム、アセチレニックグリコール誘導体のポリオキシエチレンエーテル、シリコン変性ポリオキシエチレンエーテルである。この場合、界面活性剤は特に限定されないが、オレフィン系共重合体(aa)の固形分100重量部に対して、固形分換算で0〜100重量部、好ましくは、サイクル特性の点から3〜80重量部である。この範囲であると、極板密着性に基づく良好な容量保持率を得られるため好ましい。
【0070】
(粘度調整剤(y))
本発明では、必要に応じて、粘度調整剤(y)を添加してもよい。粘度調整剤は、水分散体(A)に含まれることが好ましい。
【0071】
本発明の電気化学セル用水性ペースト(正極、負極活材を集電体に塗布するためのインキ)は、粘度調整剤を含むことが好ましい。本発明によるオレフィン系共重合体(aa)は水分散型であるため、粘度調整剤を用いると、最適な粘度を電極ペーストに与えることができ、電極ペーストを電極に容易に塗布できる。
【0072】
粘度調整剤を配合すると、ペーストを静置した時に、活物質や導電助剤などが経時で沈み分離することを防ぐ事が出来る。さらに、本発明にかかるオレフィン系共重合体(aa)の体積平均粒子径が200nmより大きいときに、経時で分離して浮いてくる事も改善することが出来るため好ましい。
【0073】
粘度調整剤の添加量は、塗工性・作業性の観点から、オレフィン系共重合体(aa)の固形分100重量部に対して、固形分換算で、10〜100重量部、好ましくは10〜95重量部である。
【0074】
粘度調整剤は、特に限定されないが、GPCにより求められる重量平均分子量は、好ましくは50,000〜4,000,000(ポリスチレン換算)、より好ましくは60,000〜3、500,000、さらに好ましくは65,000〜3,000,000である。重量平均分子量が、50,000未満であると、活物質の沈降を生じるおそれがあり、4,000,000を超えると、ペーストに著しいチクソトロピー特性を生じるおそれがある。また、上記範囲内であると、良好な極板塗工性を得られるため、好ましい。
【0075】
粘度調整剤としては、特に限定されないが、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリオキシエチレンまたはその変性体、ポリビニルアルコールまたはその変性体、多糖類などが挙げられる。
【0076】
これら粘度調整剤の中でも沈降安定性の点から、CMC、ポリオキシエチレンまたはその変性体、ポリビニルアルコールまたはその変性体がより好ましい。
粘度調整剤は、1種のみを使用しても良いし、これらの複数の種類を組み合わせて使用しても良い。
【0077】
(その他)
本発明に係る水分散体(A)には、発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、耐熱安定剤、スリップ防止剤、発泡剤、結晶化助剤、核剤、顔料、染料、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、衝撃改良剤、充填剤、架橋剤、共架橋剤、架橋助剤、粘着剤、軟化剤、難燃剤、加工助剤等の各種添加剤が配合されていてもよい。
【0078】
〔活物質(B)〕
活物質(B)としては、特に限定されないが、負極用としては天然黒鉛、人造黒鉛、正極用としてはLiCoO2、LiMn24、LiFePO4などが挙げられる。また、導電助剤の炭素材料を適宜用いてもよい。
【0079】
例えば、リチウムイオン二次電池用負極活物質としては、リチウムイオンをドープ・脱ドープできるものであれば特に制限はなく、金属リチウム、リチウム合金、酸化スズ、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化チタン、シリコン、遷移金属窒素化物、天然黒鉛等の炭素材料とこれらの複合物のいずれを用いることができる。
【0080】
リチウムイオン二次電池用正極活物質としては、Li2S、Sなどの硫黄系化合物、LiCoO2、LiMnO2、LiMn24、LiNiO2、LiNiXCo(1-X)2、LiNixMnyCo(1-x-y)、LiNixCoyAl(1-x-y)、Li2MnO3、などのリチウムと遷移金属とからなる複合酸化物、LiFePO4、LiMnPO4等の燐酸化合物、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリアセン、ジメルカプトチアジアゾール/ポリアニリン複合体などの導電性高分子材料等が挙げられる。これらの中でも、特にリチウムと遷移金属とからなる複合酸化物とLiFePO4、LiMnPO4等の燐酸化合物が好ましい。負極がリチウム金属またはリチウム合金である場合は、正極として炭素材料を用いることもできる。また、正極として、リチウムと遷移金属の複合酸化物と炭素材料との混合物を用いることもできる。
【0081】
〔導電助剤(C)〕
導電助剤(C)としては、特に限定されないが、カーボンブラック、アモルファスウィスカーカーボン、グラファイト、アセチレンブラック、人造黒鉛などの炭素材料、ポリチオフェン、ポリピロールなどの導電性ポリマーとその誘導体、コバルト等の金属微粒子などが挙げられる。これらは、1種単独でも、2種以上組み合わせて用いても良い。活物質の炭素材料を適宜用いてもよい。
【0082】
導電助剤は、活物質100重量部に対して、好ましくは0.1〜30重量部、より好ましくは0.2〜20重量部である。この範囲であれば、充電容量を損なわずに良好なリチウムイオン輸送性と電気伝導性が得られる。また、0.1重量部未満であると、合材層の電気抵抗を増加させるおそれがあり、30重量部を超えると、Liイオン輸送性を低下させるおそれがある。
【0083】
〔電気化学セル用水分散体(A)の作製について〕
(オレフィン系共重合体(aa)の作成)
オレフィン系共重合体(aa)は、酸変性ポリオレフィン(a)にリチウム化合物を所定量添加する方法であれば、特に限定されない。このような方法としては、たとえば、以下があげられる。
【0084】
(1)オレフィン系共重合体(aa)に、リチウム化合物、必要に応じて水を添加して、100℃以上、好ましくは100〜180℃で、2〜10時間程度混合し、室温まで冷却することで得る方法。
【0085】
(2)公知の方法(たとえば、特公平7−008933号に記載の方法)にて、酸変性ポリオレフィン(a)の乳化物を作製後、この乳化物に、リチウム化合物、必要に応じて水を添加して、0〜100℃未満、好ましくは0〜80℃で、1〜10時間程度混合し、室温まで冷却することで得る方法。
【0086】
(3)公知の方法にて、酸変性ポリオレフィン(a)の乳化物を作製後、この乳化物を、活物質および導電助剤と共に、0〜100℃未満、好ましくは0〜80℃で、0.5〜10時間程度混合し、室温まで冷却することで得る方法。
【0087】
(電気化学セル用水分散体(A)の作製)
オレフィン系共重合体(aa)の水への分散方法は、公知のもので特に制限されないが、乳化助剤や乳化剤量を最小限にするためには溶融混練した樹脂にアルカリ水を少量添加する方法が好ましい(特公平7−008933号)。
【0088】
また、乳化分散には、アルカリにて中和されていることが好ましい。アルカリの種類としては、特に限定されないが、アンモニアや有機アミン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属類、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム等の炭酸塩が挙げられる。これらの中でも、水酸化リチウム、炭酸リチウムまたは炭酸水素リチウムを用いることが、リチウムイオンを対カチオンに持つ事で、オレフィン系重合体(aa)のリチウムイオン輸送性が向上し、さらには他種対カチオンとリチウムイオンの交換による電池の容量低下を防止できるため、望ましい。この際にリチウムイオン以外の対カチオンが1種以上共存していても良いし、水酸化リチウムよりも弱塩基性のアルカリで中和されているオレフィン系重合体(aa)や、部分的に未中和酸を保有する、異種対カチオンを持つオレフィン系重合体(aa)であれば、水分散体(A)に後から水酸化リチウムなどを添加しても同様の効果が得られるため、好ましい。
【0089】
〔電気化学セル〕
本発明の一つの態様において、本発明にかかる電気化学セル用電極は、本発明のオレフィン系共重合体(aa)を含む電気化学セル用水分散体(A)と、正極では正極活物質、負極では負極活物質と、導電助剤、好ましくはカーボンブラック、アモルファスウィスカーカーボン、グラファイトなどの炭素材料を用いて得られる。
【0090】
また、本発明の一つの態様において、本発明の電気化学セルのうち、二次電池は前述の正極及び負極を、セパレータを中心として重ねたものを、円筒型、コイン型、角型、フィルム型その他任意の形状に形成し非水電解液を封入することにより作製されるものである。
【0091】
セパレータとして、二次電池においては、多孔性膜や高分子電解質が用いられる。多孔性膜としては、ポリオレフィン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル等が例示される。特に、多孔性ポリオレフィンフィルムが好ましく、具体的には多孔性ポリエチレンフィルム、多孔性ポリプロピレンフィルム、または多孔性のポリエチレンフィルムとポリプロピレンとの多層フィルムを例示することができる。多孔性ポリオレフィンフィルム上には、熱安定性に優れる他の樹脂がコーティングされていても良い。
【0092】
二次電池において、リチウムイオンなどの非水系電解液としては、例えばLiPF6,LiBF4,LiClO4,LiAsF6,CF3SO3Li,(CF3SO2)N/Li等の電解質を、単独でまたは2種以上組み合わせて有機溶媒に溶解したものを使用することができる。
【0093】
非水系二次電池において、非水系電解液における有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン,テトラヒドロフラン等が挙げられ、いずれかが単独でまたは2種以上を混合して使用できる。
【実施例】
【0094】
以下に実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<エマルション組成物の調製>
[実施例1]
オートクレーブに、エチレン−アクリル酸共重合体(重量平均分子量8万(ポリスチレン換算)、アクリル酸から導かれる構成単位の含有率:20%、酸価:156mg−KOH/g)(a−3)250部、水酸化リチウム一水和物18.9部(リチウム換算で65モル%)、脱イオン水750部を仕込み、180℃で2時間攪拌後、冷却することで、体積平均粒子径50nm、固形分25.6%で、リチウム塩を含む乳白色のオレフィン系共重合体(aa)(融点:85℃)を含む水分散体1Aを得た。
【0095】
[実施例2]
オートクレーブに、エチレン−メタアクリル酸共重合体(重量平均分子量8万(ポリスチレン換算)、メタアクリル酸から導かれる構成単位の含有率:20%、酸価:130mg−KOH/g)(a−3)250部、水酸化リチウム一水和物15.9部(リチウム換算で65モル%)、脱イオン水750部を仕込み、180℃で2時間攪拌後、冷却することで、体積平均粒子径50nm、固形分26%で、リチウム塩を含む乳白色のオレフィン系共重合体(aa)(融点:85℃)を含む水分散体2Aを得た。
【0096】
[実施例3]
酸変性ポリオレフィン(a)として、重量平均分子量10万(ポリスチレン換算)、マレイン化変性度1.0、酸価:11.4mg−KOH/gで、エチレン、ブテンを合計で4重量%共重合したマレイン化変性ランダムポリプロピレン(a−2)100重量部と、重量平均分子量2万、マレイン化変性度4、酸価:45.8mg−KOH/gのマレイン化変性ポリプロピレン(a−4)30重量部を混合した。酸変性ポリオレフィン(a)の酸価は、18mg−KOH/gであった。更に、オレイン酸カリウム10部を混合し、二軸押出機にて200℃で溶融混錬後、水酸化リチウム水溶液(リチウム換算で100モル%)を添加しながら混錬した。
【0097】
吐出物を水に分散させ、体積平均粒子径200nm、不揮発分45%のリチウム塩を含むオレフィン系共重合体(aa)を含む水分散体3A(融点:130℃)を得た。
[実施例4]
酸変性ポリオレフィン(a)として、変性ランダムポリプロピレン(a−2)の代わりに、重量平均分子量10万、ブテンを合計で30重量%共重合したランダムポリプロピレン(a−1)を用いた以外は、実施例3と同様に調製し、体積平均粒子径200nm、不揮発分45%のリチウム塩を含むオレフィン系共重合体(aa)を含む水分散体4A(融点:80℃)を得た。
【0098】
[実施例5]
実施例1の水酸化リチウムを25%アンモニア水溶液32部に変更した以外は同様の操作で固形分25%のオレフィン乳白色の水分散体を得た。そこに水酸化リチウム一水和物18.9部を9%の水溶液にしたもの(リチウム換算で65モル%)を良く撹拌しながら徐々に加えることで、体積平均粒子径50nm、リチウム塩を含むオレフィン系共重合体(aa)を(融点:65℃)を含む水分散体5Aを得た。
【0099】
[比較例1]
オレフィン系共重合体(aa)として、スチレンブタジエンゴムを含むエマルション(SBR、日本エイアンドエル(株)製SR143、体積平均粒子径:160nm、固形分濃度:48重量%)を水分散体1aとし、そのまま用いた。
【0100】
[比較例2]
実施例2の水酸化リチウムを、96%水酸化ナトリウム13.7部に変更した以外は、実施例2と同様の操作で固形分25%のオレフィン乳白色のオレフィン系共重合体(融点:85℃)を含む水分散体2aを得た。
【0101】
[比較例3]
重量平均分子量10万(ポリスチレン換算)、マレイン化変性度1.0、酸価:11.4mg−KOH/gで、ブテンを合計で25重量%共重合したマレイン化変性ランダムポリプロピレン(a−2)100重量部と、重量平均分子量2万、マレイン化変性度4、酸価:45.8mg−KOH/gのマレイン化変性ポリプロピレン(a−4)30重量部を混合した。更に、オレイン酸カリウム10部を混合し、二軸押出機にて200℃で溶融混錬後、水酸化カリウム水溶液を添加しながら混錬した。
【0102】
吐出物を水に分散させ、体積平均粒子径200nm、不揮発分45%のオレフィン系共重合体を含む水分散体3a(融点:85℃)を得た。
<樹脂の電解液に対する膨潤性>
実施例1〜5または比較例1〜3のエマルションをガラス板に塗布し、120℃で3時間乾燥後フィルムを得た。エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=1/1(vol/vol)溶液にフィルムを80℃で3日間浸漬し、膨潤したフィルムの重量を測定した。膨潤フィルムの重量/膨潤前の重量比を算出した。同様にして、浸漬溶液を水酸化カリウム(KOH)水溶液(20℃)とした場合の重量比を算出した。
【0103】
結果を表1に示す。
【0104】
【表1】

【0105】
<リチウム二次電池負極板の作製>
カルボキシメチルセルロース(ダイセル化学株式会社CMC1160、重量平均分子量:650,000)、ポリオキシエチレン(明成化学工業株式会社アルコックスE−75、重量平均分子量:2,000,000)およびポリビニルアルコール(株式会社クラレKL−318、重量平均分子量:70,000)から選ばれる粘度調整剤(y)を1.2重量%に調製して、固形分換算で1重量部と、
実施例1〜5および比較例1〜3で調製したエマルションを固形分換算で2重量部と、
必要に応じて、アニオン型(日油株式会社製ノンサールOK−2)の界面活性剤(x)0.5重量部を混合し、配合実施例1A〜8Aおよび配合比較例1a〜3aの水分散体(A)を得た。水分散体(A)の組成を表2に示す。
【0106】
天然黒鉛(活物質B)((株)中越黒鉛工業所製LF18A)90重量部、アセチレンブラック(導電助剤C)(デンカブラック:電気化学工業株式会社製)7重量部に、得られた配合実施例または配合比較例の水分散体(A)と蒸留水を添加し、固形分濃度50重量%の負極合材スラリー(水性ペースト)を調製した。なお、得られた負極合材スラリーを、それぞれスラリー1A〜8Aおよびスラリー1a〜3aとした。
【0107】
次に、この負極合材スラリーを厚さ18μmの帯状銅箔製の負極集電体に塗布し、乾燥し、圧縮成型して、厚さ70μmの負極を作製した。
【0108】
【表2】

【0109】
<リチウム二次電池正極板の作製>
負極板の作製に使用した粘度調整剤(y)を、固形分換算で1.5重量部と、
実施例1〜5または比較例1〜3で調製したエマルションを固形分換算で5重量部と、
さらに必要に応じて、負極板の作製に使用した界面活性剤またはLiOH水溶液を加え、配合実施例1B〜8Bおよび配合比較例1b〜3bの水分散体(A)を得た。水分散体(A)の組成を表3に示す。
【0110】
LiCoO2(B)(本荘FMCエナジーシステムズ(株)製HLC−22)85.5重量部、人造黒鉛(導電助剤C)8重量部、アセチレンブラック(導電助剤C)(デンカブラック)3重量部に、得られた配合実施例または配合比較例の水分散体(A)と蒸留水を加え、固形分濃度50重量%のLiCoO2合材スラリー(水性ペースト)を調製した。なお、得られた合材スラリーを、それぞれスラリー1B〜8Bおよびスラリー1b〜3bとした。
【0111】
このLiCoO2合材スラリーを厚さ20μmのアルミ箔に塗布し、乾燥し、圧縮成型して、厚さ70μmの正極を作製した。
【0112】
【表3】

【0113】
<リチウム二次電池の密着性評価>
前記で作製した電極を切り、瞬間接着剤にてガラスプレパラートに貼り付け電極を固定し評価用サンプルとした。評価用サンプルを塗膜剥離強度測定装置サイカスDN20型(ダイプラウインテス(株)製)で合材層と集電体との界面を水平速度2μm/秒の速度で切削し、切削に必要な水平方向の力から合材層と集電体との界面の剥離強度を測定した。剥離強度の3回の平均値をとり密着性を評価した。なお、合材層とは、水性ペーストをアルミ箔あるいは銅箔(集電体)に塗工して乾燥プレスした塗工部分を指す。
【0114】
結果を表4および5に示す。
【0115】
【表4】

【0116】
<リチウムイオン二次電池の非水電解液の調製>
非水溶媒として、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を、EC:EMC=4:6(重量比)の割合で混合したものを用い、次に電解質であるLiPF6を溶解し、電解質濃度が1.0モル/リットルとなるように非水電解液を調製した。
【0117】
<コイン型リチウムイオン二次電池の作製>
コイン型電池用負極として前記の負極を直径14mmの円盤状に打ち抜いて、重量20mg/14mmφのコイン状の負極を得た。コイン型電池用正極として前記の正極を直径13.5mmの円盤状に打ち抜いて、重量42mg/13.5mmφのコイン状の正極を得た。
【0118】
前記のコイン状の負極、正極、および厚さ25μm、直径16mmの微多孔性ポリプロピレンフィルムからできたセパレータを用いて、ステンレス製の2032サイズ電池缶の負極缶内に、負極、セパレータ、正極の順序で積層した。その後、セパレータに前記非水電解液0.04mlを注入した後、その積層体の上にアルミニウム製の板(厚さ1.2mm、直径16mm)、およびバネを重ねた。
【0119】
最後に、ポリプロピレン製のガスケットを介して電池の正極缶をかぶせて、缶蓋をかしめることにより、電池内の気密性を保持し、直径20mm、高さ3.2mmのコイン型電池を作製した。
【0120】
<電極膨潤性の評価>
前記コイン型電池を用いて、この電池を株式会社ナガノの装置を用い0.5mA定電流、4.2V定電圧の条件で、4.2V定電圧の時の電流値が0.05mAになるまで充電し、その後、1mA定電流、3.0V定電圧の条件で、3.0V定電圧の時の電流値が0.05mAになるまで放電した。このサイクルを100回繰り返し、100サイクル後の電極の合材層の厚み(L1)と、電解液注入前の電極の合材層の厚み(L2)を比較した。
【0121】
その結果を表5に示す。なお、結果は、(L1/L2)で示した。
【0122】
【表5】

【0123】
<電池サイクル特性の評価>
前記電極膨潤性と同様の評価法にて、サイクルを500回繰り返し、初期の電池容量に対する500サイクル後の容量(%)を評価した。なお、本測定は全て50℃の恒温槽中で行った。
【0124】
評価結果を表6に示す。
【0125】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系共重合体(aa)を含む電気化学セル用水分散体(A)、活物質(B)および導電助剤(C)を含有し、
前記オレフィン系共重合体(aa)は、酸価が1.5mg−KOH/g以上200mg−KOH/g未満である酸変性ポリオレフィン(a)に、ポリオレフィン(a)に含まれる酸に対して、リチウム換算で15〜100モル%のリチウム化合物を添加して得られた、ポリオレフィン(a)に含まれる酸の少なくとも一部が塩である共重合体であり、
前記酸変性ポリオレフィン(a)は、ランダムプロピレン系共重合体(a−1)と酸変性オレフィン系(共)重合体(a−4)の混合物、該ランダムプロピレン系共重合体(a−1)を酸変性した酸変性ランダムプロピレン系共重合体(a−2)および(メタ)アクリル酸から導かれる構成単位の含有率が5重量%以上25重量%以下であるエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体(a−3)から選ばれる少なくとも1種であり、
該共重合体(a−1)〜(a−3)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められる重量平均分子量が、それぞれ5万以上(ポリスチレン換算)であり、
該(共)重合体(a−4)は、GPCにより求められる重量平均分子量が5万未満(ポリスチレン換算)である
ことを特徴とする電気化学セル用水性ペースト。
【請求項2】
オレフィン系共重合体(aa)を含む電気化学セル用水分散体(A)、活物質(B)および導電助剤(C)を含有し、
前記オレフィン系共重合体(aa)は、酸価が1.5mg−KOH/g以上200mg−KOH/g未満である酸変性ポリオレフィン(a)に、ポリオレフィン(a)に含まれる酸に対して、リチウム換算で15〜100モル%のリチウム化合物を添加して得られた、ポリオレフィン(a)に含まれる酸の少なくとも一部が塩である共重合体であり、
前記酸変性ポリオレフィン(a)は、ランダムプロピレン系共重合体(a−1)を酸変性した酸変性ランダムプロピレン系共重合体(a−2)と酸変性オレフィン系(共)重合体(a−4)の混合物および(メタ)アクリル酸から導かれる構成単位の含有率が5重量%以上25重量%以下であるエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体(a−3)と酸変性オレフィン系(共)重合体(a−4)の混合物から選ばれる少なくとも1種であり、
該共重合体(a−2)および(a−3)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められる重量平均分子量が、それぞれ5万以上(ポリスチレン換算)であり、
該(共)重合体(a−4)は、GPCにより求められる重量平均分子量が5万未満(ポリスチレン換算)である
ことを特徴とする電気化学セル用水性ペースト。
【請求項3】
前記活物質(B)100重量部に対して、
前記水分散体(A)の固形分は、0.5〜30重量部であり、
前記導電助剤(C)は、0.1〜30重量部である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の電気化学セル用水性ペースト。
【請求項4】
前記ランダムプロピレン系共重合体(a−1)が、ランダムプロピレン−ブテン共重合体、ランダムエチレン−プロピレン−ブテン共重合体およびランダムエチレン−プロピレン共重合体から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気化学セル用ペースト。
【請求項5】
前記酸変性が、マレイン酸変性であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の電気化学セル用水性ペースト。
【請求項6】
前記水分散体(A)が、界面活性剤(x)および粘度調整剤(y)から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の電気化学セル用水性ペースト。
【請求項7】
前記オレフィン系共重合体(aa)の固形分100重量部に対して、
前記界面活性剤(x)の固形分は、0〜100重量部であり、
前記粘度調整剤(y)の固形分は、10〜100重量部である
ことを特徴とする請求項6に記載の電気化学セル用水性ペースト。
【請求項8】
オレフィン系共重合体(aa)を含む電気化学セル用水分散体(A)であり、
前記オレフィン系共重合体(aa)は、酸価が1.5mg−KOH/g以上200mg−KOH/g未満である酸変性ポリオレフィン(a)に、ポリオレフィン(a)に含まれる酸に対して、リチウム換算で15〜100モル%のリチウム化合物を添加して得られた、ポリオレフィン(a)に含まれる酸の少なくとも一部が塩である共重合体であり、
前記酸変性ポリオレフィン(a)は、ランダムプロピレン系共重合体(a−1)と酸変性オレフィン系(共)重合体(a−4)の混合物、該ランダムプロピレン系共重合体(a−1)を酸変性した酸変性ランダムプロピレン系共重合体(a−2)および(メタ)アクリル酸から導かれる構成単位の含有率が5重量%以上25重量%以下であるエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体(a−3)から選ばれる少なくとも1種であり、
該共重合体(a−1)〜(a−3)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められる重量平均分子量が、それぞれ5万以上(ポリスチレン換算)であり、
該(共)重合体(a−4)は、GPCにより求められる重量平均分子量が5万未満(ポリスチレン換算)である
ことを特徴とする電気化学セル用水分散体(A)。
【請求項9】
オレフィン系共重合体(aa)を含む電気化学セル用水分散体(A)であり、
前記オレフィン系共重合体(aa)は、酸価が1.5mg−KOH/g以上200mg−KOH/g未満である酸変性ポリオレフィン(a)に、ポリオレフィン(a)に含まれる酸に対して、リチウム換算で15〜100モル%のリチウム化合物を添加して得られた、ポリオレフィン(a)に含まれる酸の少なくとも一部が塩である共重合体であり、
前記酸変性ポリオレフィン(a)は、ランダムプロピレン系共重合体(a−1)を酸変性した酸変性ランダムプロピレン系共重合体(a−2)と酸変性オレフィン系(共)重合体(a−4)の混合物および(メタ)アクリル酸から導かれる構成単位の含有率が5重量%以上25重量%以下であるエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体(a−3)と酸変性オレフィン系(共)重合体(a−4)の混合物から選ばれる少なくとも1種であり、
該共重合体(a−2)および(a−3)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められる重量平均分子量が、それぞれ5万以上(ポリスチレン換算)であり、
該(共)重合体(a−4)は、GPCにより求められる重量平均分子量が5万未満(ポリスチレン換算)である
ことを特徴とする電気化学セル用水分散体(A)。
【請求項10】
界面活性剤(x)および粘度調整剤(y)から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項8または9に記載の電気化学セル用水分散体(A)。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか一項に記載の電気化学セル用水分散体(A)を用いて得られた電気化学セル用極板。

【公開番号】特開2012−221685(P2012−221685A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85396(P2011−85396)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】