説明

電気化学セル

【課題】 酸化還元種の還元型或いは酸化型の濃度を決定するための方法を得る。
【解決手段】 電気化学セルは、第1の動作電極32、第1の対電極34、第2の動作電極36、及び第2の対電極38を含む。これらの電極は、第1の対電極34から反応生成物が第1の動作電極32に到達し、第1の対電極34及び第2の対電極38から反応生成物が第2の動作電極36に到達しないように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の動作電極、第1の対電極、第2の動作電極、及び第2の対電極を含む電気化学セルに関する。この電気化学セルでは、第1の対電極から反応物が第1の動作電極に到達し、第1の対電極及び第2の対電極から反応物が第2の動作電極に到達しないように各電極が離間している。また、本発明は、一対の動作電極と対電極を有する電気化学セルを用いて得られる精度よりも大幅に高い精度で酸化還元種の還元型或いは酸化型の濃度を決定するためのこのような電気化学セルの使用法を提供する。
【背景技術】
【0002】
電流測定電気化学では、電極を流れる電流を、動作電極で電気化学的に反応する電気活性種の濃度の尺度として用いることができる。電量測定では、電極を流れる電流を一定時間積算して、動作電極で反応する電気活性物質の量の尺度となる通過した電荷の合計量を求める。電極を流れる電流(或いは任意の時点に通過した電荷)は、動作電極に移動する電気活性種の割合によって異なる。濃度が相当高い電気活性種が電極に近接し、電極/溶液の界面でその電気化学種が電気化学的に反応するのに十分な電位がその電極に印加されると、初めは高い電流が流れるが時間の経過とともに消滅する。分離した実質的に平面的な電極の場合、電極に加えられる電位は、電極に到達した際に効果的かつ瞬時に電気活性種が反応するのに十分であり、電気化学種の移動は拡散によって制御される。このとき、電流は当分野でコットレルの式として知られる曲線に従う。この式に従えば、電流は、時間の平方根に反比例する。従って、電極で反応する電気化学種が電極近傍で枯渇するため、時間が経過するにつれて電気活性種が更に遠くから電極に到達しなければならなくなり、電流が時間と共に減少する。
【0003】
電極での電気活性種の電気化学的な反応に加えて、電気活性種が化学反応により動作電極近傍で生成されれば、電極に流れる電流の形態が複雑になる。電極での反応は、動作電極近傍の電気活性種の濃度を低くする傾向にあり、一方、化学反応はこの領域における電気活性種の濃度を高くする傾向にある。これらの2つのプロセスは時間に依存するため、これらの反応を組み合わせて電極を流れる電流(即ち、通過する電流)から化学反応速度を測定することは困難である。
【0004】
このため刊行物においては、特殊な装置を用いる特殊な適用例を除けば、通常は化学反応の速度が電気化学的に測定されない。このような装置の例は、当分野では回転リング/ディスク電極として知られている。この装置は、比較的反応速度が速いものだけに適用でき、特性のある流体力学により既知の制御された速度で電極を回転させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,284,125号
【特許文献2】米国特許第5,120,420号
【特許文献3】米国特許第5,942,102号
【特許文献4】国際公開第2000/020626号
【特許文献5】米国特許第5,437,999号
【本発明の要約】
【0006】
一対の動作電極及び対電極を有する電気化学セルよりも大幅に正確に酸化還元種の還元型或いは酸化型の濃度を決定するための電気化学セル及びこのような電気化学セルを用いる方法が望ましい。このような電気化学セル及び方法の好適な実施形態を示す。
【0007】
第1の実施形態では、酸化還元種の還元型或いは酸化型の濃度を決定する方法が、第1の動作電極、第1の対電極、第2の動作電極、及び第2の対電極を用意するステップと、第1の対電極から反応生成物が第1の動作電極に到達するように、第1の動作電極と第1の対電極との間の間隔を選択するステップと、第2の対電極から有意な量の反応生成物が第1の動作電極に到達しないように、第1の動作電極と第2の対電極との間の間隔を選択するステップと、第2の対電極から有意な量の反応生成物が第2の動作電極に到達しないように、第2の動作電極と第2の対電極との間の間隔を選択するステップと、第1の動作電極と第1の対電極との間に電位差を与えるステップと、第2の動作電極と第2の対電極との間に電位差を与えるステップと、酸化還元種の還元型の電気酸化の速度或いは酸化還元種の酸化型の電気還元の速度が拡散制御されるように、第1の動作電極の電位を選択するステップと、酸化還元種の還元型の電気酸化の速度或いは前酸化還元種の酸化型の電気還元の速度が拡散制御されるように、第2の動作電極の電位を選択するステップと、第1の動作電極と第1の対電極との間を流れる電流から第2の動作電極と第2の対電極との間を流れる電流を差し引いて、修正電流を得るステップと、修正電流から、酸化還元種の還元型の濃度或いは酸化還元種の酸化型の濃度を示す値を得るステップとを含む。
【0008】
第1の実施形態の一態様では、第1の動作電極の表面積と第2の動作電極の表面積とが実質的に同一である。
【0009】
第1の実施形態の別の態様では、第1の動作電極の表面積と第2の動作電極の表面積とが異なり、電流を差し引くステップが、第1の動作電極と第1の対電極との間を流れる電流を決定するステップと、第2の動作電極と第2の対電極との間を流れる電流を決定するステップと、第1の動作電極と第1の対電極との間を流れる電流並びに第2の動作電極と第2の対電極との間を流れる電流を同一の電極表面積に標準化して、標準化した第1の動作電極と第1の対電極との間を流れる電流と、標準化した第2の動作電極と第2の対電極との間を流れる電流を得るステップと、標準化した第1の動作電極と第1の対電極との間を流れる電流から、標準化した第2の動作電極と第2の対電極との間を流れる電流を差し引いて、修正電流を得るステップとを含む。
【0010】
第1の実施形態の更に別の態様では、第1の動作電極と第1の対電極とが互いに約500μm未満、或いは約200μm未満離間している。第2の動作電極と第2の対電極または第1の動作電極と第1の対電極は、約500μmを超えて或いは約1mmを超えて離間している。
【0011】
第1の実施形態の更に別の態様では、酸化還元種を媒介物質とすることができる。酸化還元種が媒介物質である場合、媒介物質の還元型或いは酸化型の濃度が分析物の濃度を示し、媒介物質の還元型或いは酸化型の拡散係数の値が、分析物の濃度の決定の先駆けとして決定される。
【0012】
第1の実施形態の更に別の態様では、電気化学的セルが更に別の基準電極を含む。
【0013】
第1の実施形態の更に別の態様では、分析物がグルコースである。
【0014】
第2の実施形態では、電気化学セルが、第1の動作電極、第1の対電極、第2の動作電極、及び第2の対電極を含み、第1の動作電極が第1の対電極から約500μm未満離間しており、第1の動作電極が第2の対電極から約500μmを超えて離間しており、第2の動作電極が第2の対電極から約500μmを超えて離間している。
【0015】
第2の実施形態の一態様では、第1の動作電極と第1の対電極及び/または第2の動作電極と第2の対電極が、互いに向き合っている或いは並んで配置されている。
【0016】
第2の実施形態の別の態様では、第1の動作電極と第2の動作電極とが実質的に同じ面積である。
【0017】
第2の実施形態の更に別の態様では、電気化学セルが更に、別の基準電極を含む。
【0018】
第2の実施形態の更に別の態様では、電気化学セルが中空の電気化学セルである。電気化学セルが1.5μl未満の有効セル容量を有し得る。
【0019】
第3の実施形態では、電気化学セルにおいて酸化還元種の濃度を決定するための装置が、第1の動作電極、第1の対電極、第2の動作電極、及び第2の対電極を含み、第1の動作電極が第1の対電極から約500μm未満離間し、第1の動作電極が第2の対電極から約500μmを超えて離間し、第2の動作電極が第2の対電極から約500μmを超えて離間している電気化学セルと、第1の動作電極と第1の対電極との間に電位差を与えることができる手段と、第2の動作電極と第2の対電極との間に電位差を与えることができる手段とを含む。
【0020】
第3の実施形態の一態様では、前記装置がグルコース測定器である。
【0021】
第4の実施形態では、電気化学セルが第1の動作電極、第1の対電極、及び第2の動作電極を含み、第1の動作電極が第1の対電極から約500μm未満離間しており、第2の動作電極が第1の対電極から約500μmを超えて離間している。
【0022】
第5の実施形態では、酸化還元種の還元型或いは酸化型の濃度を決定するための方法が、第1の動作電極、対電極、及び第2の動作電極を用意するステップと、対電極から反応生成物が第1の動作電極に到達するように、第1の動作電極と対電極との間の間隔を選択するステップと、酸化還元種を設けて、第2の動作電極の上の溶液中に初めに存在する酸化還元種の少なくとも有用な部分が、第2の動作電極で還元或いは酸化されるようにするステップと、第1の動作電極と対電極との間に電位差を与えるステップと、酸化還元種の還元型或いは酸化型の電気還元の速度が拡散制御されるように、第1の動作電極の電位を選択するステップと、第1の動作電極と対電極との間に流れる電流を決定するステップと、電流から、酸化還元種の還元型或いは酸化型の濃度を示す値を得るステップとを含む。
【0023】
第5の実施形態の一態様では、第1の動作電極の表面積と第2の動作電極の表面積とが実質的に同一である。
【0024】
第5の実施形態の別の態様では、第1の動作電極の表面積と第2の動作電極の表面積とが実質的に異なる。
【0025】
第6の実施形態では、酸化還元種の還元型或いは酸化型の濃度を決定するための方法が、第1の動作電極、第2の動作電極、及び対電極を用意するステップと、対電極から反応生成物が第1の動作電極に到達するように、第1の動作電極と対電極との間の間隔を選択するステップと、対電極から有意な量の反応生成物が第2の動作電極に到達しないように、第2の動作電極と対電極との間の間隔を選択するステップと、第2の動作電極と対電極との間に電位差を与えて、第2の動作電極が実質的に充電され、表面基の反応が実質的に完了するようにするステップと、第2の動作電極で酸化還元種の有意な量が反応する前に、第2の動作電極と対電極との間の回路を停止するステップと、第1の動作電極と対電極との間に電位差を与えるステップと、酸化還元種の還元型或いは酸化型の電気還元の速度が拡散制御されるように、第1の動作電極の電位を選択するステップと、第1の動作電極と対電極との間に流れる電流を決定するステップと、電流から、酸化還元種の還元型の濃度或いは酸化還元種の酸化型の濃度を示す値を得るステップとを含む。
【0026】
第7の実施形態では、酸化還元種の還元型或いは酸化型の濃度を決定するための方法が、第1の動作電極、第2の動作電極、及び対電極を用意するステップと、対電極から反応生成物が第1の動作電極に到達するように、第1の動作電極と対電極との間の間隔を選択するステップと、対電極から有意な量の反応生成物が第2の動作電極に到達しないように、第2の動作電極と対電極との間の間隔を選択するステップと、第2の動作電極と対電極との間及び第1の動作電極と対電極との間に電位差を与えて、第2の動作電極及び第1の動作電極が実質的に充電され、表面基の反応が実質的に完了するようにするステップと、第2の動作電極で酸化還元種の有意な量が反応する前に、第2の動作電極と対電極との間の回路を停止するステップと、第1の動作電極と対電極との間に電位差を与えるステップと、酸化還元種の還元型の電気酸化の速度或いは酸化還元種の酸化型の電気還元の速度が拡散制御されるように、第1の動作電極の電位を選択するステップと、第1の動作電極と対電極との間に流れる電流を決定するステップと、電流から、酸化還元種の還元型の濃度或いは酸化還元種の酸化型の濃度を示す値を得るステップとを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下の説明及び例は、本発明の好適な実施形態を詳細に例示する。当業者であれば、本発明の様々な変更及び改良が本発明の範囲に含まれることを理解できよう。従って、好適な実施形態の説明は、本発明の範囲を限定することを目的とするものではない。
【0028】
極めて低い分析物の濃度を測定できるように、分析物の検出及び定量のために電流測定センサとして電気化学セルを用いるのが望ましい。濃度の低い分析物の検出における従来技術は、対象の電流を隠してしまう無関係の電流の存在により制限される。このような不所望の電流には、電極の容量性充電電流並びに環境から拾うノイズから生じる電流がある。好適な実施形態は、これらの電流が全信号に与える影響を最小にして分析物の検出を改善する方法についてである。
【0029】
当分野では周知の通り、2つ或いは3つの電極を備えた電気化学セルの各電極は、動作電極が対電極反応及び反応生成物から分離されるように、或いは対電極反応の生成物が動作電極に拡散してそこで生成物が反応するように配置される。前者のタイプの電気化学セルは当分野で周知である。後者のタイプの電気化学セルは、米国特許第6,179,979号及び同第5,942,102号に開示されている。
【0030】
これらの2つの電極構造では、分離型の場合、セルが使用されている時に対電極で電気化学反応生成物が動作電極に到達しないように対電極が動作電極から十分に離れているという点で異なる。実際には、通常は動作電極と対電極とが少なくとも1mm離間している。
【0031】
非分離型構造では、セルが使用されている時に対電極での電気化学反応生成物が動作電極に拡散するように動作電極と対電極とが互いに近接して配置されている。次にこれらの反応生成物が動作電極で反応し、分離型電極の場合よりも高い電流が生成され得る。非分離型構造では、動作電極の反応が、対電極反応に繋がっていると説明できる。
【0032】
電極構造
好適な実施形態では、分離された動作電極と対電極に接続された動作電極とを電気化学セル内において組み合わせ、低濃度の化学種の検出を改善している。図1及び図2は、好適な実施形態の電気化学セルの異なった電極構造を例示する。
【0033】
図1は、好適な実施形態の電気化学セル10の模式的な断面図を示す。導電層12、導電層14、導電層16、及び導電層18の露出している部分が、セル10の電極32、電極34、電極36、及び電極38として働く。導電層12、導電層14、導電層16、及び導電層18は、電気抵抗性材料から成る層20、層22、層24、及び層26と接触している。一或いは複数のスペーサ層(図示せず)により、電極32と電極34とが500μm未満離間している。電極32、電極34、電極36、或いは電極38の何れか2つを動作電極とすることができる。ただし、電極32と電極34が1つの動作電極と対電極の対を成し、電極36と電極38がもう1つの動作電極と対電極の対を成すことが条件である。層24及び層26の厚みは、最も近い電極32の縁と電極36の縁との間の距離、並びに最も近い電極34の縁と電極38の縁との間の距離がそれぞれ、通常は500μmよりも厚く、好ましくは1mmよりも厚くなるように形成される。別の実施形態では、電気抵抗層20とこれを支持する導電層16及び電気抵抗層22とこれを支持する導電層18は、例えばアルミニウムホイルや導電性ポリマー等の好適な導電材料から成る一層(不図示)に置き換えることができる。製造を容易にするために、或る実施形態では、電気抵抗層20、電気抵抗層22、電気抵抗層24、及び電気抵抗層26の内の一或いは複数の電気抵抗層の一方の表面を導電層12、導電層14、導電層16、及び導電層18で完全に覆うのが望ましいであろう。或いは、別の実施形態では、電極材料が高価な金属を含む場合、材料費を削減するために電気抵抗層20、電気抵抗層22、電気抵抗層24、及び電気抵抗層26の表面を部分的に導電層12、導電層14、導電層16、及び導電層18で覆うのが望ましいであろう。例えば、図1に例示されているようなセル10では、導電層12が、試料貯留部28に近接した絶縁層20の一部のみを覆うようにしても良い。絶縁層20の層26に近接した部分は覆わない。導電層12、導電層14、導電層16、導電層18及びそれらに近接する電気抵抗層20、電気抵抗層22、電気抵抗層24、電気抵抗層26の他の構成も当業者には明らかであろう。
【0034】
好適な実施形態の電気化学セル50の別の電極構造が図2に示されている。この構造では、電極52、電極54、電極56、及び電極58が同じ平面上に存在する。図2に示されているように、スペーサ層60が電極52及び電極54の上に位置する。電気化学セル50に後述する電流減算法を採用する場合、スペーサ層60を省略するのが好ましい場合もある。スペーサ層60が存在しないことにより、電極54への平面的な拡散が電極58への平面的な拡散に近づくため、より正確な電流減算が可能となる。
【0035】
電気化学セル50に後述する電流増幅法を採用する場合、電極52及び電極54の上方にスペーサ層を設けて、空間62の容積を小さくしてスペーサ層60が存在しない場合よりも対応する増幅因子を大きくするのが好ましい。一或いは複数の層(図示せず)により電極52、電極54、電極56、及び電極58が層64から離間して維持され、これにより電気化学セル50に試料貯留部66が画定されている。最も近い電極52の縁と電極54の縁との間の距離は、500μm未満であり、好ましくは約450,400,350,300μmまたは250μmであり、更に好ましくは約200,150μmまたは100μm未満であり、最も好ましくは約90,80,70,60,50,40,30,25,20,15,10,5μmまたは1μm未満である。最も近い電極52の縁と電極58の縁との間の距離、並びに最も近い電極54の縁と電極58の縁との間の距離は通常、約500μmよりも広く、好ましくは約550,600,650,700,750,800,850,900μmまたは950μmよりも広く、最も好ましくは約1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,25mmまたは50mmよりも広い。しかしながら、第1の電極における有意な量の反応生成物が第2の電極に到達しない限りは、約500μm未満の間隔を含むあらゆる間隔にすることができる。この文脈における有意な量の反応生成物とは、第2の電極において電流を上げるのに十分な量である。この電流の上昇は、セルの使用方法に実際に利用でき、所望の結果を得るのに十分な大きさである。或る実施形態では、あらゆるスペーサ層64を省略して、電気抵抗性材料68から成る単一層上に電極52、電極54、電極56、及び電極58を含む電気化学セルが好ましい場合もある。この実施形態は、層68及び電極52、電極54、電極56、及び電極58が試料中に浸漬される、即ち十分な試料の層が電極52、電極54、電極56、及び電極58を覆うのに試料の量が十分である場合に適している。
【0036】
当業者には明らかなように、様々な実施形態では、電極52、電極54、電極56、及び電極58の間に好適な間隔を維持する様々な電極構造が好ましい場合もある。例えば、図2に例示されている電気化学セル50は、電極56及び電極58の何れか一方或いは両方を層68ではなく層64上に配置しても良い。別法では、電極52及び電極54の何れか一方或いは両方を層68ではなく層64或いは層60に配置しても良い。電極52及び電極54の一方のみを層68に配置する場合は、層64と層68或いは層60と層68を近接して配置して、最も近い電極52の表面の縁と電極54の表面の縁との間隔が500μm未満であり、好ましくは約450,400,350,300μmまたは250μm未満であり、更に好ましくは200,150μmまたは100μm未満であり、最も好ましくは約90,80,70,60,50,40,30,25,20,15,10,5,1μm未満に維持されるようにする。別の実施形態では、追加の層(図示せず)が層68上に配置され、電極52及び電極54の何れか一方或いは両方をその追加層に配置することができる。
【0037】
電気化学セルの製造
或る実施形態の電気化学セルは使い捨て用であって、1回用にデザインされている。好適な実施形態では、本電気化学セルは、米国特許第5,942,102号に開示されている方法と同様の方法で製造することができる。図1に例示されているような電気化学セル10を用意するための好適な実施形態の或る方法では、電気抵抗性材料から成る層20、層22、層24、または層26は、導電層12、導電層14、導電層16、または導電層18としてパラジウムのスパッタリングコーティングを備えたポリエステルシートであり、露出した部分が製造後に電極32、電極34、電極36、または電極38となる。
【0038】
当業者には明らかなように、導電性材料から成る層12、層14、層16、または層18並びに電気抵抗性材料から成る層20、層22、層24、または層26は、例えば製造を容易にするため、材料費を削減するため、またはセル10や製造プロセスの他の好適な結果を得るために必要に応じて個別に選択することができる。同様に導電性材料から成る層12、層14、層16、または層18を、例えば電気抵抗層20、電気抵抗層22、電気抵抗層24、または電気抵抗層26を部分的に覆うように任意の好適なパターンに電気抵抗層20、電気抵抗層22、電気抵抗層24、または電気抵抗層26上に設けることができる。
【0039】
導電性材料を対応する電気抵抗層20、電気抵抗層22、電気抵抗層24、または電気抵抗層26上にコーティング或いは他の方法で設けたら、被覆された層40及び層42を互いに接着して電極を備えた層48を形成する。図1の電気化学セルでは、被覆された層40が、導電層16が被覆された層42の電気抵抗層26に近接するように被覆された層42接着される。被覆された層44及び層46も同様に接着して電極を備えた層49を形成する。
【0040】
好適な実施形態では、セル内の様々な層が好適な接着剤で接着される。好適な接着剤として、例えば感熱接着剤、感圧接着剤、熱硬化接着剤、化学硬化接着剤、ホットメルト接着剤、及びホットフロー接着剤等が挙げられる。感圧接着剤は、製造の簡便さが求められるような実施形態で用いるのに適している。しかしながら、他の実施形態では、感圧接着剤の粘着性は、製造工具のガム質の程度や製品の粘着性によって左右される場合がある。このような実施形態には、通常は熱硬化接着剤或いは化学硬化接着剤が好ましい。特に好ましいのは、適当な時間に作用させることができる感熱性接着剤及び熱硬化性接着剤である。
【0041】
或る実施形態では、ホットメルト接着剤を用いるのが好ましい場合もある。ホットメルト接着剤は、室温では固体である溶媒を含まない熱可塑性材料であり、溶融した状態で接着面に塗り、溶融点よりも低い温度まで冷却されると接着面に接着する。ある範囲の溶融点において、様々なケミストリのホットメルト接着剤が存在する。ホットメルト接着剤は、網、非織物、織物、パウダー、溶液、或いは他のあらゆる好適な形態をとることができる。ポリエステルホットメルト接着剤は、或る実施形態に適している。このような接着剤(例えば、マサチューセッツ州ミドルトンのBostik社が販売している)は、融点が65℃から220℃である線形飽和ポリエステルホットメルトであって、その性質は完全に非晶形から高度な結晶形のものまで様々である。同様にBostik社が販売するダイマー酸及びナイロン型ポリアミド接着剤の両方を含むポリアミド(ナイロン)ホットメルト接着剤もまた適している。好適なホットメルト接着剤のケミストリは、EVA、ポリエチレン、及びポリプロピレンを含む。
【0042】
代替の他の実施形態では、ラミネーション技術を用いて層を互いに接着するのが好ましい場合もある。好適なラミネーション技術は、2000年10月20日に出願の同時係属の名称が「非対称メンブレンのラミネート(Laminates of Asymmetric Membranes)」である米国特許出願第09/694,120号に開示されている。ラミネートする各層は互いに近接して配置し、熱を加えて層間を接着する。接着を容易にするために圧力をかけても良い。ラミネーション法は、熱及び/または圧力が加えられた状態で、接着可能な任意の2つの材料を接着するのが好ましい場合もある。ラミネーションは、2つの好適なポリマー材料間に接着を形成するのが好ましい。
【0043】
次に、電極を含む層48及び層49が、電極32及び電極34が電極36及び電極38に面するような配置で固定する。これは通常、電極含有層48と電極含有層49との間に一或いは複数の成形スペーサ層(図示せず)を接着して達成できる。このようなスペーサ層は、電極含有層48と電極含有層49との間に試料貯留部28及び試料貯留部29が形成されるような形状を有する。スペーサ層は、シートの一部、例えばそのシートの中央部の円形部分或いはシートの1つの縁に沿った部分等が除去され、この除去された部分が試料貯留部28及び試料貯留部29を形成する電気抵抗性材料のシートの形態とすることができる。スペーサ層はまた、互いに近接するが離間した2つ以上の成形部分を含み、この空間により試料貯留部28及び試料貯留部29内に試料が流入できるにようにすると共に試料貯留部28及び試料貯留部29自体も形成される。硬い或いは軟らかい材料から成るシートではなく、電気抵抗性接着剤の層がスペーサとして好ましい場合もある。このような実施形態では、接着剤が電極含有層48または電極含有層49の一方の電極側に設けられ、次に他方の電極含有層が接着層の上に配置されて、例えば圧力、硬化、熱、或いは他の好適な手段で接着される。
【0044】
好適な実勢形態では、スペーサ層は円形の孔が開けられた電気抵抗性材料のシートであって、電極含有層48及び電極含有層49に接着される。この円形の孔は、電極38に近接した電極32の縁(或いは電極38に近接した電極34の縁)に沿って中央に位置するのが好ましい。従って、一端が電極含有層48によって閉じられ、他端が電極含有層49によって閉じられた円筒状の側壁を有する。この組立体には、セル10内に試料が進入、吸入、即ち毛管作用により吸引されるように溝が設けられる。電極層32、電極層34、電極層36、及び電極層38は、好適な電気的な連結即ち構造によって接続されており、電位が印加されて電流が測定される。
【0045】
別の好適な実施形態では、スペーサは、電極含有層48及び電極含有層49の一方或いは両方に或るパターンの接着剤を設けて形成する。この方法は、製造原価及び材料費の削減が求められる場合に適しているであろう。
【0046】
スペーサ層として、或いは電極層やセルの他の層の支持体として好ましいであろう好適な電気抵抗性材料には、例えば、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリエチレン、テレフタレート、ガラス、セラミック、及びそれらの組み合わせ等がある。スペーサ層として用いるのに適した電気抵抗性接着剤の例として、限定するものではないがポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリウレタン、及びスルホン化ポリエステル(sulfonated polyesters)が挙げられる。
【0047】
スペーサが、試料貯留部28及び試料貯留部29を形成するべく一部が除去された電気抵抗性材料のシートである実施形態では、電極含有層48或いは電極含有層49の一方が、開口の上に延在して端部壁が形成されるようにこのシートの一側に取り付けられる。電極含有層48或いは電極含有層49は、例えば接着剤によってスペーサシートに接着しても良い。電極含有層48及び電極含有層49の段の有る表面に一致するスペーサが形成されるように、複数のスペーサシートを互いに接着する。変形可能な接着剤、つまり電極含有層48の外形に一致する接着剤がスペーサとして好ましい場合がある。好適な実施形態では、試料貯留部28及び試料貯留部29を組み合わせた全体の形状は円形であるが、或る実施形態では、例えば正方形、長方形、多角形、卵形、楕円形、不規則な形、或いはその他の形状が好ましい場合がある。
【0048】
次に、第2の電極含有層48或いは電極含有層49が、開口の上に延在して第2の端部壁が形成されるようにスペーサ層の反対側に取り付けられる。電極32と電極34の間隔は通常、約500μm未満、好ましくは約450,400,350,300μmまたは250μ未満、更に好ましくは約200,150μmまたは100μ未満、最も好ましくは約90,80,70,60,50,40,30,25,20,15,10,5μmまたは1μm未満である。次に第2の開口即ち入口が、液体がセル10内に流入できるように形成される。このような入口は、電極含有層48、電極含有層49、及び開口を通って延在するように装置の縁に沿って溝を設けて形成することができる。電極含有層48及び電極含有層49は、電極が測定回路内に組み込まれるように配線される。
【0049】
当業者には明らかなように、図1に例示されているような電気化学セルを製造するための上記した技術を変更して、図2に例示されているような電気化学セルを製造することができる。
【0050】
酸化還元試薬、可溶剤、緩衝剤、不活性塩、及び他の物質等のセルに用いられる化学薬品が、セルの電極または壁部に或いはセル内に含まれる一或いは複数の独立した支持体に支持されるか、或るいは化学薬品自身で支持し得る。化学薬品がセルの電極或いは壁部に支持される場合は、インクジェット印刷、スクリーン印刷、リソグラフィ、超音波スプレー、スロットコーティング、及びグラビア印刷等の当分野で周知の技術を用いて化学薬品を設けることができる。好適な独立した支持体として、限定するものではないがメッシュ、非織物シート、線維充填剤、微細孔膜、及び焼結パウダー等が挙げられる。セルに用いられる化学薬品は、支持体に支持されるようにするか或いは支持体内に含めることができる。
【0051】
好適な実施形態では、セル内の好適な材料並びにセルを形成する材料は、大量生産に適した形態であり、セル自体は1回用にデザインされ、使用後は廃棄される。使い捨てセルは、1回の検査用として経済的に許容できるように製造原価が十分に低いものである。使い捨てセルは1回の検査のみに用いられる。すなわち、使用した後に、また使用できるようにするためには、洗浄ステップ及び/または試薬の再導入のステップによりセルを処理しなければならないであろう。
【0052】
文脈中の「経済的に許容できる」とは、使用者にとって検査結果の知覚価値が、セルを購入及び使用するためのコストと同一或いはそれ以上であって、セルの購入価格は、使用者に供給するためのコストに適正な利潤を加えて設定される。多くの適用例の場合、材料費が比較的安く製造工程が単純なセルが好ましい。例えば、セルの電極材料をカーボンなどの低価な材料にしたり、また高価な材料を使用する際はその使用量を十分に少なくするのが好ましい。スクリーン印刷カーボンインキ或いはシルバーインキは、比較的低価な材料で電極を形成するのに好適なプロセスである。しかしながら、プラチナ、パラジウム、金、或いはイリジウム等の電極材料を用いるのが望ましい場合は、極端に薄いフィルムを生成可能なスパッタリングや蒸着(evaporative vapor coating)等の良質な材料用の方法が好ましい。使い捨てセルの基板材料もまた、低価であるのが好ましい。そのような低価な材料の例として、塩化ビニル、ポリイミド、及びポリエステルなどのポリマーや、コーティングペーパー、及び厚紙がある。
【0053】
セルの組立法は、大量生産に適しているのが好ましい。このような方法には、カード上に複数のセルを製造し、主な組立ステップの後にそのカードを個々のストリップに分離するカード方法、並びにセルを連続的なウェブ上に形成してから、個々のストリップに分離するウェブ製造方法が含まれる。カード法は、製造のために多数の構造の近接した空間の位置合わせが必要な場合及び/または硬いセル基板材料が好ましい場合に最適である。ウェブ法は、構造のダウンウェブ位置合わせ(down web registration)がそれほど重要ではない場合、並びに可撓性のウェブが好ましい場合に最適である。
【0054】
便利な1回用の使い捨てセルは、利用者が再び使用する気にならないため不正確な検査結果を招くことがなく理想的である。セルの1回の使用については、セルに添付の使用者用説明書に記載することができる。1回の使用が好ましい或る実施形態では、セルを2回以上使用するのが困難にするか、或いは使用できないように製造するのが更に好ましい。これは、例えば1回の検査で洗浄される或いは消費され、2回目の検査では機能しない試薬を含めることで達成できる。別法では、異常に高い初期信号等のセル内の試薬が既に反応したことを示すかについて検査の信号を調べ、検査を無効にする。別法では、セルにおける1回目の検査が完了したら、セルの電気接続を切断する手段を設けるようにする。
【0055】
電極
電気化学セルが試料中の分析物の存在及び/またはその量を検出する、或いは試料中に存在する分析物の存在及び/またはその量を示す物質を検出する好適な実施形態では、セル内の少なくとも1つの電極は動作電極である。(電位差センサのように)動作電極の電位が分析物のレベルを示す場合、基準電極として働く第2の電極が存在し、基準電位を供給するように機能する。
【0056】
動作電極の電流がグルコース等の分析物のレベルを示す電流測定センサの場合、少なくとも1つの別の電極が存在し、電気回路を完成する対電極として機能する。この第2の電極はまた、基準電極として機能する。別法では、別の電極が基準電極として機能する。
【0057】
動作電極、対電極、及び基準電極に適した材料は、装置に用いるあらゆる試薬及び物質に適合性の材料である。適合性材料は、セルに用いられている他の物質と実質的に化学反応しない。このような好適な材料として、限定するものではないが、カーボン、カーボン接着剤及び有機接着剤、プラチナ、パラジウム、カーボン、酸化インジウム、酸化錫、酸化インジウム/酸化錫混合物、金、銀、イリジウム、及びそれらの組み合わせが挙げられる。これらの材料を用いて、例えばスパッタリング、蒸着、スクリーン印刷、熱蒸着、グラビア印刷、スロットコーティング、或いはリソグラフィにより電極を形成することができる。好適な実施形態では、材料のスパッタリング或いはスクリーン印刷により電極が形成される。
【0058】
基準電極に用いるのに好ましい材料は、限定するものではないが、塩化銀、臭化銀、或いはヨウ化銀に接触した銀、及び塩化水銀或いは硫酸水銀と接触した水銀などの金属/金属塩系が挙げられる。金属を好適な方法で堆積し、次に適当な金属塩に接触させる。好適な方法には、例えば好適な塩溶液における電解或いは化学酸化がある。このような金属/金属塩系は、単一金属成分系よりも電位差測定法において優れた電位制御を提供する。好適な実施形態では、金属/金属塩電極系は、電流測定センサにおける別の基準電極として好ましい。
【0059】
可溶化剤
或る実施形態では、電気化学セルに一或いは複数の可溶化剤を含むのが好ましい。好適な可溶化剤として、イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、蛋白分解酵素、及びリパーゼが挙げられる。好適なイオン界面活性剤として、例えばドデシル硫酸ナトリウム、及び臭化セチルトリメチルアンモニウムが挙げられる。蛋白分解酵素として、限定するものではないが、トリプシン、キモトリプシン、ペプシン、パパイン、及び幅広い特異性を有する非常に活性なプロナーゼEが挙げられる。使用に適した非イオン界面活性剤として、例えば、ペンシルベニア州フィラデルフィアのRohm & Haasが販売するTriton Xシリーズを含むエトキシ化オクチルフェノール(ethoxylated octylphenols)が挙げられる。好適な実施形態では、サポニン、即ち水中で泡立つ植物配糖体が可溶化剤として好ましい。
【0060】
酸化還元試薬
酸化還元試薬もまた、好適な実施形態の電気化学セルに含めることができる。血中のグルコース濃度の測定に用いるのに好適な酸化還元試薬には、グルコースを選択的に酸化できる還元型酵素を酸化できるものが含まれる。好適な酵素として、限定するものではないが、グルコースオキシダーゼデヒドロゲナーゼ、PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼ、及びNAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼが挙げられる。グルコースの分析に用いるのに適した酸化試薬として、限定するものではないが、フェリシアニド塩、ニクロム酸塩、酸化バナジウム塩、過マンガン酸塩、及び電気活性有機金属錯体塩が挙げられる。ジクロロフェノールインドフェノール及びキノン等の有機酸化還元試薬も好適である。好適な実施形態では、グルコース分析のための酸化還元試薬はフェリシアニドである。
【0061】
緩衝剤
必要に応じて、電気化学セル内に酸化還元試薬と共に乾燥した緩衝剤を含めることができる。緩衝剤を含める場合は、得られるpH値が、酸化還元試薬の酸化ポテンシャルを、例えばグルコース(但し、検出する必要のない他の化学種を含まない)を酸化するのに好適なレベルに調節するのに適した量の緩衝剤が含められる。緩衝剤は、検査中に所望のレベルに試料のpHが実質的に維持されるように十分な量含められる。好適な緩衝剤として、リン酸塩、炭酸塩、ベンゼンヘキサカルボン酸のアルカリ金属塩、及びクエン酸のアルカリ金属塩が挙げられる。緩衝剤の選択は、主に必要とするpHによって決めることができる。緩衝剤は、酸化還元試薬と反応しないものが選択される。
【0062】
不活性塩
様々な実施形態に用いるのに好ましい不活性塩には、分析する試料中で解離してイオンを形成するが、試料中或いはセル内のセル電極を含む酸化還元試薬や他の何れの物質とも反応しない塩が含まれる。好適な不活性塩として、限定するものではないが、塩化アルカリ金属、硝酸塩、硫酸塩、及びリン酸塩が挙げられる。
【0063】
セル内に含まれる他の物質
酸化還元試薬及び緩衝剤に加えて、他の物質も電気化学セル内に含めることもできる。このような物質として、例えば粘度上昇剤や低分子量ポリマーがある。親水性物質、例えばポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、デキストラン、及び界面活性剤(例えば、ペンシルベニア州フィラデルフィアのRohm & Haas社が販売するTriton(商標)及びデラウエア州ウイルミントンのICI Americas社が販売するTween(商標))もまた、セル内に含めることができる。このような物質は、セルの充填率を高めて測定を安定させると共に少量の試料の蒸発を防止する。
【0064】
電気回路
導電層は、電極間に電位を印加して得られる電流を測定できる例えば測定器等の電気回路に接続されるのが好ましい。導電層を電気回路に接続する好適な手段として、限定するものではないが、タングプラグ(tongue plug)、並びにストリップの上部に延びた或いはストリップの下から延びた一連の接続ピン等が挙げられる。接続領域は図1に例示されている。好適な測定器は、一或いは複数の電源、制御された電位或いは電流を印加するための回路、マイクロプロセッサ制御装置、コンピュータ、或いはデータ記憶装置、表示装置、可聴アラーム装置、または当分野で周知の他の装置或いは構成部品を含み得る。測定器はまた、コンピュータやデータ記憶装置に接続することもできる。例えば、典型的な測定器は、バッテリ駆動のハンドヘルド型であって、搭載マイクロプロセッサによって制御され、例えばストリップ電極接続ピン間に所定の電位或いは電流を印加するための回路及びA/D変換器などの回路を備えている。この実施形態では、ストリップからのアナログ信号がデジタル信号に変換され、マイクロプロセッサで分析され、かつ/または保存される。測定器はまた、液晶ディスプレイ等の表示装置、及び検査結果を利用者に表示するための好適な関連回路を含む。別の実施形態では、測定器は、電位印加及び信号獲得回路などの特殊な回路を含み得る。このような特殊な回路は、ハンドヘルド型コンピュータや他のタイプのコンピュータ等の汎用演算装置と接続できる別のモジュールに組み込むことができる。このような実施形態では、汎用演算装置が、制御、分析、データの保存、及び/または表示機能を果たし得る。このような実施形態では、汎用演算装置が多くの機能の点から好ましいが、それ自体は電気化学測定システムの一部と考えられないため、測定器の価格が安くなる。これらの測定器の何れの実施形態においても、測定器或いは汎用演算装置は、ローカルコンピュータネットワークやインターネット等の外部装置と通信して検査結果の送信や、利用者へのシステムのアップグレードの提供ができる
【0065】
電気化学測定値の取得
図1及び図2に示されているような電気化学セルを用いて、改善された分析物検出を行うことができる。しかしながら、好適な実施形態の方法は、例示目的として図1の電気化学セル10を用いて説明する。この電気化学セル10では、電極34及び電極38が動作電極のセットであり、電極36及び電極32が対電極である。文脈中における分析物は、試料中の目的の実際の化学種或いは目的の化学種との化学反応による生成物である。電極32と電極34の間隔は、検査中に電極32における電気化学反応の生成物が電極34に拡散してそこで反応するように十分に近接している。この間隔は、通常は約500μm未満であり、好ましくは約450,400,350,300μmまたは250μmであり、更に好ましくは約200,150μmまたは100μm未満であり、最も好ましくは約90,80,70,60,50,40,30,25,20,15,10,5μmまたは1μm未満である。しかしながら、電極36と電極38は、検査中に電極36における反応生成物が電極38に到達しないように十分離れている。この間隔は、通常は約500μmよりも広く、好ましくは約550,600,650,700,750,800,850,900μmまたは950μmよりも広く、最も好ましくは約1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,25mmまたは50mmよりも広い。何れの場合も、電極36と電極38との間の間隔は、通常は電極32と電極34との間隔よりも十分に広い。
【0066】
分析物を含む溶液がスペース29及びスペース28を満たすと、第1の外部回路によって電極32と電極34との間に電位が印加され、第2の外部回路によって電極36と電極38との間に電位が印加される。これらの電位は、分析物が電極34及び電極38で電気化学的に反応するような極性であり、かつ電気化学反応の速度が電極34或いは電極38への分析物の移動速度によって制限されるよう十分な大きさである。電位の印加が続くと、電極32における電気化学反応の生成物が電極34に拡散して反応するが、電極36における反応生成物が有意な量、電極38に到達するには時間が足りない。電極32と電極34との間に流れる電流から電極36と電極38との間に流れる電流を差し引くと、電極32における電気化学反応生成物の電極34における反応のみによる時間信号に対する電流を得ることができる。この電流を正確に得るために、電極34と電極38とを同じ面積にする、或いは電流の減算をする前にそれぞれの動作電極領域によって別の電流を標準化する。
【0067】
対電極生成物の反応のみにより動作電極で電流を得る利点は、他の無関係な電流の影響を排除できることである。このような無関係な電流には、電極表面の基による反応による電流、吸着された化学種の酸化または還元による電流、並びに電極充電電流(electrode charging current)、即ち外部回路によって接続間に加えられる電位になるように電極/溶液の2つの層に極性を与えるように流れる電流が含まれる。このような電流の流れは短い時間であるため、分析物に関連する電流を任意の精度で得ることができる時間が限定される。無関係の電流の影響を排除するためにこの方法を用いて、分析物の情報を高い精度で得るべくより短い時間の電流信号を用いることができる。より短い時間の電流信号を使用することができるようにするのが望ましい。なぜなら、このようにしない場合よりも電極32と電極34を近接して配置することができるためである。電極32と電極34とをより近づけることにより、電極32における反応生成物が、より速くより多く電極34に到達する。これにより、電流信号が増大し、所望の分析物情報を得るための電流の監視時間が短くなる。
【0068】
好適な実施形態のこの方法では、電極32及び電極34は、それらの間に電源から好適な電位が印加される1つの回路を形成している。第1の回路とは別の第2の回路が、電極36、電極38、及び電源との間に形成されており、電極32と電極34との間を流れる電流と、電極36と電極38との間を流れる電流を別々に測定することができる。別法では、電流を別々に測定するのではなく、2つの電流が電子的に減算され、得られる減算された電流が測定される。
【0069】
好適な実施形態の第2の方法では、電極の配置を利用して、分析物の反応により生じる電流信号を効果的に増幅する。この方法では、少なくとも検査の或る時、電極32を電極34及び電極38の両方に対する対電極として用いる。電極32と電極34との間のスペース内に、試薬を乾燥させて或いは他の方法で堆積させる。このような試薬には、電気化学的に可逆性であって、また対象の分析物と化学反応して反応した媒介物質を生成する媒介物質が含まれる。このような反応した媒介物質は、電極34で電気化学的に反応することができ、電極32で媒介物質から電気化学的に生成される。スペース28内に堆積される試薬には、媒介物質を含めることができるが、電極38で分析物が直接反応する場合には媒介物質を含めなくても良い。
【0070】
検査中、分析物及び/または分析物と化学的に反応した媒介物質が電極34及び電極38で電気化学的に反応するように電位が印加される。この使用方法では、電極32が、電極34及び電極38の両方の回路を完成させるための対電極として用いられる。電極38における分析物或いは反応した媒介物との反応により集まる電子は、電極32で生成される反応した媒介物質の量に一致する。この反応した媒介物質が、次に電極34に移動し、そこで反応して媒介物質に戻る。この方式では、スペース28内の溶液中の分析物或いは反応した媒介物質により生じる電流を用いて、スペース29内の溶液容量中で対応する量の反応した媒介物質を生成するため、スペース28からの分析物に関連した化学種がスペース29に濃縮し、分析物から強い電流信号が生成される。拡散距離が関係するため、スペース29内の反応した媒介物質は、検査の間スペース29内に実質的に留まっている。これを確実にするために、スペース29の長さを電極36と電極38との間の距離よりも長くするのが好ましい。この場合、媒介物質が電極36から電極38に拡散している間に、スペース29内の極一部の物質のみがスペース28内に拡散する。
【0071】
この方法の一例として、電極38の領域が電極34の領域の10倍であってスペース28の厚みがスペース29の厚みの10倍である場合、スペース29における反応した媒介物質の濃度は、電極32及び電極34のみを用いる場合よりも最大101倍となる。従って、この例では、スペース29及びスペース28を満たす溶液中の分析物或いは反応した媒介物質の濃度をXとする。電極38上の実質的に全ての分析物或いは反応した媒介物質が電極38で電気化学的に反応した後、そのモル数の分析物或いは反応した媒介物質が、対応するモル数の反応した媒介物質をスペース29で生成した。この例では電極38上の溶液の容量がスペース29の容量の100倍であるため、スペース29の反応した媒介物質の濃度はX+100Xとなる。つまり、電極38における反応により、スペース29内の元の量にその100倍を加えたものとなる。この方法では、電極38上の溶液中の分析物或いは反応した媒介物質の全てが反応しなくても良いことに注目されたい。例えば、検査時間を短くするためにある程度の信号の増幅を犠牲にするのが望ましいような場合は、反応した化学種の量が有用な信号の増幅を得るのに十分であれば、電極38上の分析物或いは反応した媒介物質の一部のみの反応でよい。
【0072】
必要に応じて、電気ノイズを更に低減するために、分析物或いは反応した媒介物質の所望の量(通常は全て)が電極38で電気化学的に反応した後、電極32と電極38との間の回路を切断して、電極32と電極34との間のみに電位差が存在する状態にすることができる。次に、電極32と電極34との間に流れる電流を監視して、スペース29内の反応した媒介物質の濃度を決定する。この濃度は、上記したように元の分析物濃度に関連する。この方法は、電極38で生成されるノイズを排除することができるため、濃度決定中の電気ノイズを低減できる。電極32と電極38との間の回路が切断される時間を、例えば、それよりも低いと回路が切断される電極32と電極38との間の閾値電流を設定することで決定することができる。電流を測定するこの方法では、第2の対電極36を必要としないため、省略することができることに留意されたい。
【0073】
電極の充電及び他の無関係の電流による電気ノイズを低減するための更なるオプションの方法では、電極36と電極38との間に電位が印加された直後の電極充電中に、電極36を電極38に対する対電極として用いる。電極38が極性が与えられて適正な電位となった後、電極38の対電極を電極32に変更することができる。対電極が変更され時間は、例えば、電極の充電及び電極表面の基の反応は実質的に終了しているが分析物或いは反応した媒介物質の殆どが電極38に到達する前として知られる固定された時間に設定することができる。電極36及び電極38が実質的に同等の領域であれば、充電電流によって、充電プロセスによる相当な量の追加の反応した媒介物質は生成されない。
【0074】
電極の充電及び他の無関係の電流による電気ノイズを低減するための別のオプションの方法では、電極34及び電極38に電位が印加された直後の電極充電中に、電極36を電極34及び電極38に対する対電極として用いる。電極34及び電極38に極性が与えられて適正な電位となり、電極表面の基及び吸着された基或いは電極34に近接した乾燥試薬層の反応した媒介物質の一部或いは全てが電気化学的に反応した後、電極34及び電極38に対する対電極を電極32に変更することができる。ここでも、電極の変更時間は一定時間に設定することができる。この方法により、無関係の反応した媒介物質や他の電気化学的に反応性化学種の影響を低減或いは排除することができる。これらの2つのオプションの方法では、第2の対電極36が存在する。
【0075】
上記した方法では、試料自体に由来する或いはセル内に堆積される試薬に由来する、分析物よりも濃度が実質的に高い、電気化学的に不活性な可溶塩が、セルを満たす溶液中に存在する。電極32が電極38の対電極として用いられた場合、この不活性塩によりスペース29とスペース28との間の溶液中に電流が流れ、電気移動によるスペース29からの反応した媒介物質のロスを最少化する。
【0076】
これまで、本発明の幾つかの方法、装置、及び材料について説明した。本発明は、方法及び装置の改良、並びに製造方法及び製造装置の変更が容易である。当業者であればこのような改良や変更は、本明細書に記載した本発明の開示及び実施例により明らかであろう。従って、本発明は記載の実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲に規定された本発明の範囲及び概念に含まれる全ての改良及び変更を含むものである。
本発明の好適な実施態様を以下に示す。
(1)酸化還元種の還元型或いは酸化型の濃度を決定するための方法であって、
(a)第1の動作電極、第1の対電極、第2の動作電極、及び第2の対電極を用意するステップと、
(b)前記第1の対電極から反応生成物が前記第1の動作電極に到達するように、前記第1の動作電極と前記第1の対電極との間の間隔を選択するステップと、
(c)前記第2の対電極から有意な量の反応生成物が前記第1の動作電極に到達しないように、前記第1の動作電極と前記第2の対電極との間の間隔を選択するステップと、
(d)前記第2の対電極から有意な量の反応生成物が前記第2の動作電極に到達しないように、前記第2の動作電極と前記第2の対電極との間の間隔を選択するステップと、
(e)前記第1の動作電極と前記第1の対電極との間に電位差を与えるステップと、
(f)前記第2の動作電極と前記第2の対電極との間に電位差を与えるステップと、
(g)前記酸化還元種の還元型の電気酸化の速度或いは前記酸化還元種の酸化型の電気還元の速度が拡散制御されるように、前記第1の動作電極の電位を選択するステップと、
(h)前記酸化還元種の還元型の電気酸化の速度或いは前記酸化還元種の酸化型の電気還元の速度が拡散制御されるように、前記第2の動作電極の電位を選択するステップと、
(i)前記第1の動作電極と前記第1の対電極との間を流れる電流から前記第2の動作電極と前記第2の対電極との間を流れる電流を差し引いて、修正電流を得るステップと、
(j)前記修正電流から、前記酸化還元種の還元型の濃度或いは前記酸化還元種の酸化型の濃度を示す値を得るステップとを含むことを特徴とする方法。
(2)前記第1の動作電極の表面積と前記第2の動作電極の表面積とが実質的に同一であることを特徴とする実施態様(1)に記載の方法。
(3)前記第1の動作電極の表面積と前記第2の動作電極の表面積とが異なり、前記ステップ(i)が、
前記第1の動作電極と前記第1の対電極との間を流れる電流を決定するステップと、
前記第2の動作電極と前記第2の対電極との間を流れる電流を決定するステップと、
前記第1の動作電極と前記第1の対電極との間を流れる前記電流並びに前記第2の動作電極と前記第2の対電極との間を流れる前記電流を同一の電極表面積に標準化して、標準化した前記第1の動作電極と前記第1の対電極との間を流れる電流と、標準化した前記第2の動作電極と前記第2の対電極との間を流れる電流を得るステップと、
前記標準化した前記第1の動作電極と前記第1の対電極との間を流れる電流から、前記標準化した前記第2の動作電極と前記第2の対電極との間を流れる電流を差し引いて、修正電流を得るステップとを含むことを特徴とする実施態様(1)に記載の方法。
(4)前記第1の動作電極と前記第1の対電極とが互いに約500μm未満離間していることを特徴とする実施態様(1)に記載の方法。
(5)前記第1の動作電極と前記第1の対電極とが互いに約200μm未満離間していることを特徴とする実施態様(1)に記載の方法。
(6)前記第2の動作電極と前記第2の対電極とが互いに約500μmを超えて離間していることを特徴とする実施態様(1)に記載の方法。
(7)前記第1の動作電極と前記第2の対電極とが互いに約500μmを超えて離間していることを特徴とする実施態様(1)に記載の方法。
(8)前記第2の動作電極と前記第2の対電極とが互いに約1mmを超えて離間していることを特徴とする実施態様(1)に記載の方法。
(9)前記第1の動作電極と前記第2の対電極とが互いに約1mmを超えて離間していることを特徴とする実施態様(1)に記載の方法。
(10)前記酸化還元種が媒介物質であって、前記媒介物質の還元型或いは酸化型の濃度が分析物の濃度を示し、前記媒介物質の還元型或いは酸化型の拡散係数の値が、分析物の濃度の決定に先駆けて決定されることを特徴とする実施態様(1)に記載の方法。
(11)前記酸化還元種が媒介物質であることを特徴とする実施態様(1)に記載の方法。
(12)前記電気化学的セルが更に、別の基準電極を含むことを特徴とする実施態様(1)に記載の方法。
(13)前記分析物がグルコースであることを特徴とする実施態様(10)に記載の方法。
(14)第1の動作電極、第1の対電極、第2の動作電極、及び第2の対電極を含む電気化学セルであって、
前記第1の動作電極が前記第1の対電極から約500μm未満離間しており、
前記第1の動作電極が前記第2の対電極から約500μmを超えて離間しており、
前記第2の動作電極が前記第2の対電極から約500μmを超えて離間していることを特徴とする電気化学セル。
(15)前記第1の動作電極と前記第1の対電極が互いに向き合っていることを特徴とする実施態様(14)に記載の電気化学セル。
(16)前記第1の動作電極と前記第1の対電極が並んで配置されていることを特徴とする実施態様(14)に記載の電気化学セル。
(17)前記第2の動作電極と前記第2の対電極が互いに向き合っていることを特徴とする実施態様(14)に記載の電気化学セル。
(18)前記第2の動作電極と前記第2の対電極が並んで配置されていることを特徴とする実施態様(14)に記載の電気化学セル。
(19)前記第1の動作電極、前記第1の対電極、前記第2の動作電極、及び前記第2の対電極が並んで配置されていることを特徴とする実施態様(14)に記載の電気化学セル。
(20)前記第1の動作電極と前記第2の動作電極とが実質的に同じ面積であることを特徴とする実施態様(14)に記載の電気化学セル。
(21)前記電気化学セルが更に、別の基準電極を含むことを特徴とする実施態様(14)に記載の電気化学セル。
(22)前記電気化学セルが中空の電気化学セルであることを特徴とする実施態様(14)に記載の電気化学セル。
(23)前記電気化学セルが1.5μl未満の有効セル容量を有することを特徴とする実施態様(22)に記載の電気化学セル。
(24)電気化学セルにおいて酸化還元種の濃度を決定するための装置であって、
第1の動作電極、第1の対電極、第2の動作電極、及び第2の対電極を含み、前記第1の動作電極が前記第1の対電極から約500μm未満離間し、前記第1の動作電極が前記第2の対電極から約500μmを超えて離間し、前記第2の動作電極が前記第2の対電極から約500μmを超えて離間している電気化学セルと、
前記第1の動作電極と前記第1の対電極との間に電位差を与えることができる電気回路と、
前記第2の動作電極と前記第2の対電極との間に電位差を与えることができる電気回路とを含むことを特徴とする装置。
(25)前記装置がグルコース測定器であることを特徴とする実施態様(24)に記載の装置。
(26)第1の動作電極、第1の対電極、及び第2の動作電極を含む電気化学セルであって、
前記第1の動作電極が前記第1の対電極から約500μm未満離間しており、
前記第2の動作電極が前記第1の対電極から約500μmを超えて離間していることを特徴とする電気化学セル。
(27)酸化還元種の還元型或いは酸化型の濃度を決定するための方法であって、
(a)第1の動作電極、対電極、及び第2の動作電極を用意するステップと、
(b)前記対電極から反応生成物が前記第1の動作電極に到達するように、前記第1の動作電極と前記対電極との間の間隔を選択するステップと、
(c)酸化還元種を設けて、前記第2の動作電極の上の溶液中に初めに存在する酸化還元種の少なくとも有用な部分が、前記第2の動作電極で還元或いは酸化されるようにするステップと、
(d)前記第1の動作電極と前記対電極との間に電位差を与えるステップと、
(e)前記酸化還元種の還元型の電気酸化の速度或いは前記酸化還元種の酸化型の電気還元の速度が拡散制御されるように、前記第1の動作電極の電位を選択するステップと、
(f)前記第1の動作電極と前記対電極との間に流れる電流を決定するステップと、
(g)前記電流から、前記酸化還元種の還元型の濃度或いは前記酸化還元種の酸化型の濃度を示す値を得るステップとを含むことを特徴とする方法。
(28)前記第1の動作電極の表面積と前記第2の動作電極の表面積とが実質的に同一であることを特徴とする実施態様(27)に記載の方法。
(29)前記第1の動作電極の表面積と前記第2の動作電極の表面積とが実質的に異なることを特徴とする実施態様(27)に記載の方法。
(30)酸化還元種の還元型或いは酸化型の濃度を決定するための方法であって、
(a)第1の動作電極、第2の動作電極、及び対電極を用意するステップと、
(b)前記対電極から反応生成物が前記第1の動作電極に到達するように、前記第1の動作電極と前記対電極との間の間隔を選択するステップと、
(c)前記対電極から有意な量の反応生成物が前記第2の動作電極に到達しないように、前記第2の動作電極と前記対電極との間の間隔を選択するステップと、
(d)前記第2の動作電極と前記対電極との間に電位差を与えて、前記第2の動作電極が実質的に充電され、表面の基の反応が実質的に完了するようにするステップと、
(e)前記第2の動作電極で前記酸化還元種の有意な量が反応する前に、前記第2の動作電極と前記対電極との間の回路を停止するステップと、
(f)前記第1の動作電極と前記対電極との間に電位差を与えるステップと、
(g)前記酸化還元種の還元型の電気酸化の速度或いは前記酸化還元種の酸化型の電気還元の速度が拡散制御されるように、前記第1の動作電極の電位を選択するステップと、
(h)前記第1の動作電極と前記対電極との間に流れる電流を決定するステップと、
(i)前記電流から、前記酸化還元種の還元型の濃度或いは前記酸化還元種の酸化型の濃度を示す値を得るステップとを含むことを特徴とする方法。
(31)酸化還元種の還元型或いは酸化型の濃度を決定するための方法であって、
(a)第1の動作電極、第2の動作電極、及び対電極を用意するステップと、
(b)前記対電極から反応生成物が前記第1の動作電極に到達するように、前記第1の動作電極と前記対電極との間の間隔を選択するステップと、
(c)前記対電極から有意な量の反応生成物が前記第2の動作電極に到達しないように、前記第2の動作電極と前記対電極との間の間隔を選択するステップと、
(d)前記第2の動作電極と前記対電極との間及び前記第1の動作電極と前記対電極との間に電位差を与えて、前記第2の動作電極及び前記第1の動作電極が実質的に充電され、表面の基の反応が実質的に完了するようにするステップと、
(e)前記第2の動作電極で前記酸化還元種の有意な量が反応する前に、前記第2の動作電極と前記対電極との間の回路を停止するステップと、
(f)前記第1の動作電極と前記対電極との間に電位差を与えるステップと、
(g)前記酸化還元種の還元型の電気酸化の速度或いは前記酸化還元種の酸化型の電気還元の速度が拡散制御されるように、前記第1の動作電極の電位を選択するステップと、
(h)前記第1の動作電極と前記対電極との間に流れる電流を決定するステップと、
(i)前記電流から、前記酸化還元種の還元型の濃度或いは前記酸化還元種の酸化型の濃度を示す値を得るステップとを含むことを特徴とする方法。
(32)電気化学セルにおいて酸化還元種の濃度を決定するための装置であって、
第1の動作電極、第1の対電極、第2の動作電極、及び第2の対電極を含み、前記第1の動作電極が前記第1の対電極から約500μm未満離間し、前記第1の動作電極が前記第2の対電極から約500μmを超えて離間し、前記第2の動作電極が前記第2の対電極から約500μmを超えて離間している電気化学セルと、
前記第1の動作電極と前記第1の対電極との間に電位差を与えるための手段と、
前記第2の動作電極と前記第2の対電極との間に電位差を与えるための手段とを含むことを特徴とする装置。
(33)前記装置がグルコース測定器であることを特徴とする実施態様(32)に記載の装置。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】電極面が平行で向き合った構造である好適な実施形態の電気化学セル10の模式的な断面図である。
【図2】電極が並んだ構造である好適な実施形態の電気化学セル50の模式的な断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化還元種の還元型或いは酸化型の濃度を決定するための方法であって、
(a)第1の動作電極、第1の対電極、第2の動作電極、及び第2の対電極を用意するステップと、
(b)前記第1の対電極から反応生成物が前記第1の動作電極に到達するように、前記第1の動作電極と前記第1の対電極との間の間隔を選択するステップと、
(c)前記第2の対電極から有意な量の反応生成物が前記第1の動作電極に到達しないように、前記第1の動作電極と前記第2の対電極との間の間隔を選択するステップと、
(d)前記第2の対電極から有意な量の反応生成物が前記第2の動作電極に到達しないように、前記第2の動作電極と前記第2の対電極との間の間隔を選択するステップと、
(e)前記第1の動作電極と前記第1の対電極との間に電位差を与えるステップと、
(f)前記第2の動作電極と前記第2の対電極との間に電位差を与えるステップと、
(g)前記酸化還元種の還元型の電気酸化の速度或いは前記酸化還元種の酸化型の電気還元の速度が拡散制御されるように、前記第1の動作電極の電位を選択するステップと、
(h)前記酸化還元種の還元型の電気酸化の速度或いは前記酸化還元種の酸化型の電気還元の速度が拡散制御されるように、前記第2の動作電極の電位を選択するステップと、
(i)前記第1の動作電極と前記第1の対電極との間を流れる電流から前記第2の動作電極と前記第2の対電極との間を流れる電流を差し引いて、修正電流を得るステップと、
(j)前記修正電流から、前記酸化還元種の還元型の濃度或いは前記酸化還元種の酸化型の濃度を示す値を得るステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1の動作電極の表面積と前記第2の動作電極の表面積とが実質的に同一であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の動作電極の表面積と前記第2の動作電極の表面積とが異なり、前記ステップ(i)が、
前記第1の動作電極と前記第1の対電極との間を流れる電流を決定するステップと、
前記第2の動作電極と前記第2の対電極との間を流れる電流を決定するステップと、
前記第1の動作電極と前記第1の対電極との間を流れる前記電流並びに前記第2の動作電極と前記第2の対電極との間を流れる前記電流を同一の電極表面積に標準化して、標準化した前記第1の動作電極と前記第1の対電極との間を流れる電流と、標準化した前記第2の動作電極と前記第2の対電極との間を流れる電流を得るステップと、
前記標準化した前記第1の動作電極と前記第1の対電極との間を流れる電流から、前記標準化した前記第2の動作電極と前記第2の対電極との間を流れる電流を差し引いて、修正電流を得るステップとを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の動作電極と前記第1の対電極とが互いに500μm未満離間していることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の動作電極と前記第1の対電極とが互いに200μm未満離間していることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の動作電極と前記第2の対電極とが互いに500μmを超えて離間していることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の動作電極と前記第2の対電極とが互いに500μmを超えて離間していることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の動作電極と前記第2の対電極とが互いに1mmを超えて離間していることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の動作電極と前記第2の対電極とが互いに1mmを超えて離間していることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記酸化還元種が媒介物質であって、前記媒介物質の還元型或いは酸化型の濃度が分析物の濃度を示し、前記媒介物質の還元型或いは酸化型の拡散係数の値が、分析物の濃度の決定に先駆けて決定されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記酸化還元種が媒介物質であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記電気化学的セルが更に、別の基準電極を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記分析物がグルコースであることを特徴とする請求項10に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−60578(P2010−60578A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287333(P2009−287333)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【分割の表示】特願2003−535271(P2003−535271)の分割
【原出願日】平成14年10月1日(2002.10.1)
【出願人】(596159500)ライフスキャン・インコーポレイテッド (100)
【氏名又は名称原語表記】Lifescan,Inc.
【住所又は居所原語表記】1000 Gibraltar Drive,Milpitas,California 95035,United States of America