電気化学センサ、電気化学測定装置および検出システム
【課題】複数の計測点を任意に配置した状態において各計測点毎に電気化学反応を正確に検出し得る電気化学センサを提供する。
【解決手段】参照電極22、作用電極23および対向電極24で構成された電極セル21が支持基板10の一面に複数形成され、各電極セル21は、参照電極22が同じ材質で互いに等しい表面積に形成され、作用電極23が同じ材質で互いに等しい表面積に形成され、かつ対向電極24が同じ材質で互いに等しい表面積に形成されると共に、参照電極22と作用電極23との間の離間距離が互いに等しく、参照電極22と対向電極24との間の離間距離が互いに等しく、かつ作用電極23と対向電極24との間の離間距離が互いに等しくなるように構成されている。
【解決手段】参照電極22、作用電極23および対向電極24で構成された電極セル21が支持基板10の一面に複数形成され、各電極セル21は、参照電極22が同じ材質で互いに等しい表面積に形成され、作用電極23が同じ材質で互いに等しい表面積に形成され、かつ対向電極24が同じ材質で互いに等しい表面積に形成されると共に、参照電極22と作用電極23との間の離間距離が互いに等しく、参照電極22と対向電極24との間の離間距離が互いに等しく、かつ作用電極23と対向電極24との間の離間距離が互いに等しくなるように構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、参照電極、作用電極および対向電極を備えて構成された電気化学センサ、電気化学センサを使用して電気化学測定処理を実行する電気化学測定装置、および電気化学測定装置による測定結果に基づいて液体に含まれている成分を検出する検出システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特表2008−510156号公報には、作用電極を複数備えると共に、参照電極および対向電極をそれぞれ1つずつ備えて構成された電極ユニットを有する電気化学測定用のセンサ装置が開示されている。このセンサ装置による測定処理(電気化学測定処理)では、マイクロコントローラが、デジタル・アナログ変換器を介してポテンシオスタットを制御すると共にアナログ・デジタル変換器を介してポテンシオスタットから測定結果を取得する。この場合、このセンサ装置では、セルマルチプレクサが、マイクロプロセッサの制御に従って複数の作用電極のうちの1つを選択してポテンシオスタットに接続することにより、1つの作用電極、1つの参照電極および1つの対向電極を使用した三電極法による電気化学測定処理が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−510156号公報(第4−5頁、第1−3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来のセンサ装置には、以下の問題点が存在する。すなわち、従来のセンサ装置では、複数の作用電極、1つの参照電極、および1つの対向電極を備えて電極ユニットが構成されている。一方、電気化学測定処理の分野においては、例えば測定対象の溶液における一部分だけに存在する成分を定量するために、溶液を滴下する平面上に2次元的に配置した複数の計測点毎に電気化学反応を検出し得る電気化学センサの開発が進められている。この場合、三電極法による電気化学測定処理用の電気化学センサに複数の計測点を設けるには、少なくとも作用電極を各測定点にそれぞれ配設する必要がある。このため、このような用途において使用する電気化学センサには、測定点の数に応じた複数の作用電極を形成する必要がある。
【0005】
一方、従来のセンサ装置では、上記公開公報の図1に示すように、複数の作用電極(WE1〜WE6)が横並びに配置されると共に、参照電極(RE)および対向電極(CE)が横方向に長尺に形成されて各作用電極の配列方向に沿って配置されている。このような構成においては、各作用電極と参照電極との間の離間距離が互いに等しく、かつ、各作用電極と対向電極との間の離間距離が互いに等しくなる。しかしながら、参照電極および対向電極をそれぞれ1つずつ備えている従来のセンサ装置の構成において、各作用電極を2次元的に配置したとき(例えば、マトリクス状に配置したとき)には、各作用電極に対して参照電極および対向電極をどのような位置に配置したとしても、参照電極および対向電極と各作用電極との間の離間距離が短い組み合わせと、長い組み合わせとが存在することとなる。
【0006】
このため、各作用電極の配置を変更したときには、参照電極および作用電極の間に電位差を生じさせた状態において作用電極から対向電極に流れる電流を測定する際に、離間距離が短い組み合わせの参照電極および作用電極の間の溶液抵抗と、離間距離が長い組み合わせの参照電極および作用電極の間の溶液抵抗とが相違すると共に、離間距離が短い組み合わせの作用電極および対向電極の間の溶液抵抗と、離間距離が長い組み合わせの作用電極および対向電極の間の溶液抵抗とが相違する状態となる。この結果、離間距離が短い組み合わせの各電極において生じるIRドロップ(作用電極および参照電極の間の溶液抵抗の存在に起因して、作用電極および対向電極の間を流れる電流が生じさせる電圧降下)の程度と、離間距離が長い組み合わせの各電極において生じるIRドロップの程度とが相違することとなる。したがって、従来のセンサ装置の構成では、計測点を設けるべき位置に応じて各作用電極の配置を変更したときに、使用する作用電極毎に測定結果がばらついてしまうという問題点が存在する。
【0007】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、複数の計測点を任意に配置した状態において各計測点毎に電気化学反応を正確に検出し得る電気化学センサ、測定対象の液体における各部において生じている電気化学反応を各計測点毎に正確に検出し得る電気化学測定装置、および検出対象の液体に含まれている成分を各計測点毎に正確に検出し得る検出システムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく請求項1記載の電気化学センサは、参照電極、作用電極および対向電極で構成された電極セルが支持基板の一面に複数形成され、前記各電極セルは、前記参照電極が同じ材質で互いに等しい表面積に形成され、前記作用電極が同じ材質で互いに等しい表面積に形成され、かつ前記対向電極が同じ材質で互いに等しい表面積に形成されると共に、当該参照電極と当該作用電極との間の離間距離が互いに等しく、当該参照電極と当該対向電極との間の離間距離が互いに等しく、かつ当該作用電極と当該対向電極との間の離間距離が互いに等しくなるように構成されている。
【0009】
また、請求項2記載の電気化学センサは、請求項1記載の電気化学センサにおいて、前記各電極セルは、前記参照電極が互いに等しい形状で、前記作用電極が互いに等しい形状で、かつ前記対向電極が互いに等しい形状に構成されている。
【0010】
さらに、請求項3記載の電気化学センサは、請求項1または2記載の電気化学センサにおいて、前記支持基板の一面に前記各電極セルが等間隔でマトリクス状に配置されている。
【0011】
また、請求項4記載の電気化学センサは、請求項1から3のいずれかに記載の電気化学センサにおいて、前記各電極セルは、前記参照電極および前記作用電極を囲むようにして前記対向電極が環状に形成されている。
【0012】
また、請求項5記載の電気化学測定装置は、請求項1から4のいずれかに記載の電気化学センサと、当該電気化学センサを使用して電気化学測定処理を実行する測定処理部とを備えて構成されている。
【0013】
さらに、請求項6記載の電気化学測定装置は、請求項5記載の電気化学測定装置において、前記電気化学センサの前記各電極セル、および前記測定処理部が前記支持基板の一面に並んで形成されている。
【0014】
また、請求項7記載の検出システムは、請求項5または6記載の電気化学測定装置と、当該電気化学測定装置における前記測定処理部による測定結果に基づいて、検出対象の液体に含まれている成分を検出する検出処理装置とを備えて構成されている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の電気化学センサによれば、各電極セルの参照電極が同じ材質で互いに等しい表面積に形成され、各電極セルの作用電極が同じ材質で互いに等しい表面積に形成され、かつ各電極セルの対向電極が同じ材質で互いに等しい表面積に形成されると共に、各電極セルの参照電極と作用電極との間の離間距離が互いに等しく、各電極セルの参照電極と対向電極との間の離間距離が互いに等しく、かつ各電極セルの作用電極と対向電極との間の離間距離が互いに等しくなるように構成したことにより、参照電極および作用電極の間の溶液抵抗を各電極セルにおいて均一化することができると共に、作用電極および対向電極の間の溶液抵抗を各電極セルにおいて均一化することができるため、各電極セルにおいて生じるIRドロップの程度を均一化することができる結果、各電極セル(各計測点)を横並び以外の任意の配置とした状態において、測定対象の試料における各部において生じている電気化学反応を各電極セル(各計測点)毎に正確に検出することができる。
【0016】
また、請求項2記載の電気化学センサによれば、参照電極が互いに等しい形状で、作用電極が互いに等しい形状で、かつ対向電極が互いに等しい形状となるように各電極セルを構成したことにより、各電極セル(各計測点)を横並び以外の任意の配置とした状態において、測定対象の試料における各部において生じている電気化学反応を各電極セル(各計測点)毎に一層正確に検出することができる。
【0017】
さらに、請求項3記載の電気化学センサによれば、各電極セルを支持基板の一面に等間隔でマトリクス状に配置したことにより、電気化学センサ上に滴下した試料の各部に分散している1つ、または複数の成分を確実に検出することができる。
【0018】
また、請求項4記載の電気化学センサによれば、参照電極および作用電極を囲むようにして対向電極を環状に形成したことにより、他の電極セルの近傍で生じた電気化学反応の影響を排除して、電流値を測定すべき電極セルの近傍で生じた電気化学反応を正確に検出することができる。
【0019】
また、請求項5記載の電気化学測定装置によれば、測定処理部が上記のいずれかの電気化学センサを使用して電気化学測定処理を実行することにより、測定対象の試料における各部において生じている電気化学反応を各電極セル(各計測点)毎に正確に検出することができる。
【0020】
さらに、請求項6記載の電気化学測定装置によれば、電気化学センサの各電極セル、および測定処理部を支持基板の一面に並べて形成したことにより、十分に小形化することができるため、携行性に優れた「電気化学測定装置」を提供することができる。
【0021】
また、請求項7記載の検出システムによれば、検出処理装置が上記の電気化学測定装置における測定処理部による測定結果に基づいて、検出対象の液体に含まれている成分を検出することにより、測定対象の試料における各部に分散している1つ、または複数の成分を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】検出システム1の構成を示すブロック図である。
【図2】電気化学測定モジュール2の等価回路図である。
【図3】電気化学測定モジュール2の平面図である。
【図4】電気化学測定モジュール2におけるセンサ部11の拡大図である。
【図5】参照電極22を基準電位とする作用電極23の電位(両電極間に印加する電圧)について説明するための説明図である。
【図6】作用電極23から対向電極24に流れる電流の電流値について説明するための説明図である。
【図7】作用電極23から対向電極24に流れる電流の差分値と、参照電極22を基準電位とする作用電極23の電位(電圧値)との関係について説明するための説明図である。
【図8】センサ部11aの平面図である。
【図9】センサ部11aの拡大図である。
【図10】センサ部11bの平面図である。
【図11】センサ部11bの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、電気化学センサ、電気化学測定装置および検出システムの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0024】
図1に示す検出システム1は、一例として、検出・定量対象の液体(以下、「試料」ともいう)に含まれている重金属(亜鉛、鉛、カドミウムおよび水銀等)などの微量成分を検出・定量するシステムであって、電気化学測定モジュール2およびパーソナルコンピュータ3を備えて構成されている。電気化学測定モジュール2は、「電気化学測定装置」の一例であって、センサ部11、切替え部12、駆動部13、測定部14および処理部15を備えて構成されている。この場合、この電気化学測定モジュール2は、矩形波ボルタンメトリ(微分パルスボルタンメトリ)法による電気化学測定処理によって試料に含まれている各種成分を検出・定量する構成が採用されている。なお、本例の電気化学測定モジュール2では、切替え部12、駆動部13、測定部14および処理部15が相まって「測定処理部」を構成する。
【0025】
センサ部11は、試料に含まれている成分を三電極法で定量するための「電気化学センサ」の一例であって、図3に示すように、本例では、このセンサ部11が、上記の切替え部12、駆動部13、測定部14および処理部15と共に支持基板10の一面に並んで形成されている(「電気化学センサ」および「測定処理部」が1チップ化された構成の例)。このセンサ部11は、図2に示すように、参照電極22、作用電極23および対向電極24で構成された電極セル21を複数備えて構成されている。また、このセンサ部11では、図3に示すように、一例として、8×8=64個の電極セル21が支持基板10の一面にマトリクス状に配置されて構成されている(64個の測定点がマトリクス状に配置された構成の例)。この場合、支持基板10は、一例として、その一面にSiO2によって絶縁膜が形成されたSi基板で構成されている。なお、支持基板10に代えて、SOI(Silicon on Insulator)や、絶縁性樹脂基板(例えば、PCやPE等で形成された基板)やガラス基板を「支持基板」として使用することもできる。
【0026】
また、図4に示すように、本例のセンサ部11では、各電極セル21の参照電極22が同じ材質(一例として、Agの薄膜およびAgClの薄膜)で、互いに等しい形状(本例では、円形)で、互いに等しい表面積となるように形成されている。さらに、本例のセンサ部11では、各電極セル21の作用電極23が同じ材質(一例として、スクリーン印刷法によって塗布されたカーボンペースト)で、互いに等しい形状(本例では、円形)で、互いに等しい表面積となるように形成されている。また、本例のセンサ部11では、各電極セル21の対向電極24が同じ材質(一例として、Ptの薄膜)で、互いに等しい形状(本例では、楕円形)で、互いに等しい表面積となるように形成されている。この場合、対向電極24は、参照電極22および作用電極23を囲むようにして環状に形成されている。
【0027】
また、本例のセンサ部11では、参照電極22と作用電極23との間の離間距離である距離L1(図4参照:第1の離間距離)が互いに等しく、参照電極22と対向電極24との間の離間距離である距離L2(図4参照:第2の離間距離)が互いに等しく、かつ作用電極23と対向電極24との間の離間距離である距離L3(図4参照:第3の離間距離)が互いに等しくなるように各電極セル21が構成されている。なお、「参照電極」、「作用電極」および「対向電極」を構成する材料は、上記の例に限定されず、検出・定量対象の成分の種類に応じて、公知の各種材料で構成することができる。また、この電気化学測定モジュール2では、センサ部11における各電極22〜24の上を除いて、パリレン(パラキシリレン系ポリマー)の薄膜で構成された絶縁保護膜が形成されている。
【0028】
切替え部12は、図2に示すように、64個の各電極セル21毎にスイッチ12a,12bがそれぞれ配設されて構成されている。この場合、本例の電気化学測定モジュール2では、常態においては、各スイッチ12aが開状態に制御され、かつ各スイッチ12bが閉状態に制御されると共に、測定処理時には、測定対象の電極セル21における作用電極23に接続されているスイッチ12aだけが閉状態に制御され、かつ、そのスイッチ12aと同じ作用電極23に接続されているスイッチ12bだけが開状態に制御される。これにより、任意の1つの電極セル21における作用電極23が測定部14に対して選択的に接続される。駆動部13は、処理部15の制御に従い、矩形波を生成して参照電極22および作用電極23の間に印加することにより、参照電極22を基準電位とする作用電極23の電位を図5に示すように変化させる。測定部14は、図2に示すように、センサ部11が接続されて構成されたポテンショスタット14aと、I/V変換回路14bとを備え、駆動部13によって参照電極22と作用電極23との間に電位差が生じさせられている状態において、作用電極23から対向電極24に流れる電流の電流値を測定する。
【0029】
この場合、本例の電気化学測定モジュール2におけるポテンショスタット14aでは、参照電極22がオペアンプ回路の−入力端子に接続され、対向電極24がオペアンプ回路の出力端子に接続され、作用電極23が切替え部12を介してI/V変換回路14bに接続されている。また、ポテンショスタット14aのオペアンプ回路における+入力端子は、駆動部13に接続されている。また、I/V変換回路14bは、−入力端子が作用電極23に接続され、+入力端子がグランド電位に接続され、出力端子が処理部15に接続されたオペアンプ回路を備え、後述するようにして、駆動部13が参照電極22を基準電位とする作用電極23の電位を変化させた(電位差を生じさせた)ときに、一例として、作用電極23から対向電極24に流れる電流をI/V変換して処理部15に出力する。
【0030】
処理部15は、パーソナルコンピュータ3の制御に従い、電気化学測定モジュール2を総括的に制御する。具体的には、処理部15は、切替え部12の各スイッチ12a,12bを制御することで64個の各電極セル21のうちの任意の1つにおける作用電極23を測定部14(I/V変換回路14b)に接続する。また、処理部15は、駆動部13を制御して、参照電極22を基準電位とする作用電極23の電位を変化させる(参照電極22および作用電極23の間に矩形波を出力させる)。さらに、処理部15は、I/V変換回路14bから出力される電圧をA/D変換するA/D変換部(図示せず)と、作用電極23および対向電極24の間を流れる電流の電流値をA/D変換部から出力されたデータに基づいて演算する演算回路(図示せず)とを備えて、演算結果(電流値を特定可能なデータ)をパーソナルコンピュータ3に出力する。
【0031】
パーソナルコンピュータ3は、「検出処理装置」の一例であって、「電気化学測定装置」の一例である電気化学測定モジュール2における上記の「測定処理部」による測定結果(この例では、処理部15から出力される演算結果)に基づいて試料に含まれている成分を検出する。また、このパーソナルコンピュータ3には、図1に示すように、動作条件を設定操作するためのキーボードやマウスなどの操作部3a、および測定結果(検出結果)等を表示するための表示部3bが接続されている。
【0032】
この検出システム1を用いて試料中の成分を検出・定量する際には、まず、電気化学測定モジュール2をパーソナルコンピュータ3に接続すると共に、電気化学測定モジュール2におけるセンサ部11の上に試料を滴下する。次いで、パーソナルコンピュータ3の操作部3aを操作して、検出・定量処理を開始させる。この際には、電気化学測定モジュール2の処理部15が、パーソナルコンピュータ3の制御に従い、矩形波ボルタンメトリ法による電気化学測定処理を開始する。
【0033】
具体的には、処理部15は、まず、切替え部12を制御して、64個の電極セル21のうちの1つにおける作用電極23をI/V変換回路14bに接続させる。次いで、処理部15は、駆動部13を制御することにより、図5に示すように、64個の各電極セル21における作用電極23と参照電極22との間に矩形波ボルタンメトリ法による電気化学測定処理用の電圧をそれぞれ印加させる。この際には、図6に示すように、I/V変換回路14bに接続されている作用電極23と、その作用電極23を含む電極セル21の対向電極24との間を、センサ部11に滴下されている試料に含まれる成分に応じた大きさの電流が流れて、この電流がI/V変換回路14bによってI/V変換されて処理部15に出力される。
【0034】
また、処理部15では、A/D変換部が、I/V変換回路14bから出力された電圧をA/D変換して演算回路に出力すると共に、演算回路がA/D変換部から出力された値に基づいて作用電極23と対向電極24との間を流れた電流の電流値を演算する。また、演算回路は、作用電極23と参照電極22との間にパルス状の電圧を印加する直前に作用電極23と対向電極24との間を流れた電流と、印加した電圧の電位を基底電位に戻す直前に作用電極23と対向電極24との間を流れた電流との差分値を求めてパーソナルコンピュータ3に出力する。なお、矩形波ボルタンメトリ法による電気化学測定処理については公知のため、その測定原理に関するより詳細な説明を省略する。
【0035】
また、パーソナルコンピュータ3では、電気化学測定モジュール2(処理部15における演算回路)から出力された差分値を図示しないメモリに記憶させると共に、その差分値を上記の基底電位に対応付けてプロットすることにより、一例として、図7に示すような微分パルスボルタモグラフを表示部3bに表示させる。これにより、64個の電極セル21のうちの1つについての1回目の電気化学測定処理が完了する。なお、図6は、64個の電極セル21のうちの1つにおいて測定される電流の値を表し、図7は、64個の電極セル21のうちの1つについての微分パルスボルタモグラフを表している。
【0036】
この場合、この電気化学測定モジュール2(検出システム1)では、一例として、64個の各電極セル21における作用電極23と参照電極22との間にパルス状の電圧を印加しつつ、切替え部12における各スイッチ12a,12bの接続態様を切り替えて、各電極セル21における作用電極23をI/V変換回路14bに対して順次接続することにより、1パルスの範囲内で、各電極セル21毎の「作用電極23と対向電極24との間を流れた電流の電流値」をそれぞれ測定する構成が採用されている。
【0037】
具体的には、前述したように、この電気化学測定モジュール2では、常態において各電極セル21の作用電極23にそれぞれ接続されたスイッチ12bが閉状態に制御され、これにより、各作用電極23がグランド電位にそれぞれ接続されている。したがって、駆動部13からのパルス状の電圧が、すべての電極セル21における作用電極23および参照電極22の間に同様に印加される。この状態において、図5,6に示す時間Taの範囲内に、各スイッチ12aを閉状態に順次制御すると共に各スイッチ12bを開状態に順次制御することで、各電極セル21の作用電極23をI/V変換回路14bに対して高速に順次切り替えて接続する。これにより、64個のすべての電極セル21について、パルス状の電圧を印加する直前に作用電極23と対向電極24との間を流れた電流が順次測定される。
【0038】
また、図5,6に示す時間Tbの範囲内においても上記の時間Taの範囲内と同様にして、64個のすべての電極セル21の作用電極23をI/V変換回路14bに対して高速に順次切り替えて接続することにより、64個のすべての電極セル21について、印加した電圧の電位を基底電位に戻す直前に作用電極23と対向電極24との間を流れた電流が測定される。これにより、「電気化学測定処理」が完了する。なお、上記の時間Ta,Tbは、I/V変換回路14bに対する接続を切り替えずに1つの電極セル21についての作用電極23と対向電極24との間流れる電流を継続的に測定したときに、その測定値(電流値)がほぼ一定の値に近似され得る値となる十分に短い時間である。
【0039】
次いで、パーソナルコンピュータ3の制御部は、上記の時間Taにおいて測定された電流と時間Tbにおいて測定された電流との差分値を演算する。これにより、図7に示すように、各電極セル21(各計測点)毎に「各基底電位毎の電流の差分値」が求められる。続いて、制御部は、求めた差分値に基づき、センサ部11上に滴下した試料に、どのような成分が含まれているか、また、その成分がどの程度含まれているかを各電極セル21毎にそれぞれ特定する。具体的には、パーソナルコンピュータ3の制御部は、どのような「基底電位」において大きな「差分値」が得られたかを特定することにより、試料中にどのような成分がどの程度含まれているかを特定する。
【0040】
続いて、パーソナルコンピュータ3の制御部は、特定した結果を表示部3bに表示させる。具体的には、一例として、各電極セル21の配置に応じて区画した8×8=64個の表示領域毎に、検出した成分の定量結果を色分けして(例えば、検出された成分の濃度が高い部位ほど低い色温度の色(赤色)で、検出された成分の濃度が低い部位ほど高い色温度の色(青色)として)2次元的に表示させる(図示せず)。これにより、各電極セル21の位置毎に検出・定量された成分の濃度分布を直感的に認識させることができる。以上により、試料に含まれている成分の検出および定量が完了する。
【0041】
このように、この電気化学測定モジュール2におけるセンサ部11によれば、各電極セル21の参照電極22が同じ材質で互いに等しい表面積に形成され、各電極セル21の作用電極23が同じ材質で互いに等しい表面積に形成され、かつ各電極セル21の対向電極24が同じ材質で互いに等しい表面積に形成されると共に、各電極セル21の参照電極22と作用電極23との間の距離L1が互いに等しく、各電極セル21の参照電極22と対向電極24との間の距離L2が互いに等しく、かつ各電極セル21の作用電極23と対向電極24との間の距離L3が互いに等しくなるように構成したことにより、参照電極22および作用電極23の間の溶液抵抗を各電極セル21において均一化することができると共に、作用電極23および対向電極24の間の溶液抵抗を各電極セル21において均一化することができるため、各電極セル21において生じるIRドロップの程度を均一化することができる結果、各電極セル21(各計測点)を横並び以外の任意の配置とした(本例では、マトリクス状に配置した)状態において、測定対象の試料における各部において生じている電気化学反応を各電極セル21(各計測点)毎に正確に検出することができる。
【0042】
また、この電気化学測定モジュール2におけるセンサ部11によれば、参照電極22が互いに等しい形状で、作用電極23が互いに等しい形状で、かつ対向電極24が互いに等しい形状となるように各電極セル21を構成したことにより、各電極セル21(各計測点)を横並び以外の任意の配置とした状態において、測定対象の試料における各部において生じている電気化学反応を各電極セル21(各計測点)毎に一層正確に検出することができる。
【0043】
さらに、この電気化学測定モジュール2におけるセンサ部11によれば、各電極セル21を支持基板10の一面に等間隔でマトリクス状に配置したことにより、センサ部11上に滴下した試料の各部に分散している1つ、または複数の成分を確実に検出することができる。
【0044】
また、この電気化学測定モジュール2におけるセンサ部11によれば、参照電極22および作用電極23を囲むようにして対向電極24を環状に形成したことにより、他の電極セル21の近傍で生じた電気化学反応の影響を排除して、電流値を測定すべき電極セル21の近傍で生じた電気化学反応を正確に検出することができる。
【0045】
また、この電気化学測定モジュール2によれば、「測定処理部(本例では、切替え部12、駆動部13、測定部14および処理部15)」がセンサ部11を使用して「電気化学測定処理」を実行することにより、測定対象の試料における各部において生じている電気化学反応を各電極セル21(各計測点)毎に正確に検出することができる。
【0046】
さらに、この電気化学測定モジュール2によれば、センサ部11の各電極セル21、および上記の「測定処理部」を支持基板10の一面に並べて形成したことにより、十分に小形化することができるため、携行性に優れた「電気化学測定装置」を提供することができる。
【0047】
また、この検出システム1によれば、パーソナルコンピュータ3が電気化学測定モジュール2における上記の「測定処理部」による測定結果に基づいて、検出対象の液体に含まれている成分を検出することにより、測定対象の試料における各部に分散している1つ、または複数の成分を正確に検出することができる。
【0048】
なお、「電気化学センサ」、「電気化学測定装置」および「検出システム」の構成は、上記のセンサ部11、電気化学測定モジュール2および検出システム1の構成に限定されない。例えば、「電気化学センサ」としてのセンサ部11と、「測定処理部」としての切替え部12、駆動部13、測定部14および処理部15とを支持基板10の一面に並べて形成した構成の電気化学測定モジュール2を例に挙げて説明したが、「電気化学センサ」と「測定処理部」とを別個独立して形成した後に電気的に接続する構成を採用することもできる。
【0049】
具体的には、例えば、上記の電気化学測定モジュール2におけるセンサ部11と、その他の構成要素12〜15とを別個の支持基板上に形成して、図示しない接続用コネクタを介して相互に電気的に接続する構成を採用することができる。このような構成を採用することにより、「電気化学測定処理」の実行によって「電気化学センサ」に汚れが生じたときなどに、その「電気化学センサ」を新たな「電気化学センサ」に交換することで、「測定処理部」を継続して使用することができる結果、複数回に亘る「電気化学測定処理」の実行に要するコストを十分に低減することができる。
【0050】
また、各電極セル21毎に別個独立した対向電極24を備えたセンサ部11を例に挙げて説明したが、図8,9に示すセンサ部11aのように、平面視網目状の対向電極24aを支持基板10の一面に形成することにより、8×8=64個の電極セル21aにおける「対向電極」を連続的に形成することもできる。なお、このセンサ部11a、および後に説明するセンサ部11b(図10,11参照)において、上記のセンサ部11と同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0051】
このセンサ部11aは、「電気化学センサ」の他の一例であって、図9に示すように、参照電極22、作用電極23および対向電極24aで構成された電極セル21aを複数備えて構成されている。また、このセンサ部11aでは、図8に示すように、一例として、8×8=64個の電極セル21aが支持基板10の一面にマトリクス状に配置されて構成されている。この場合、このセンサ部11aでは、図9に示すように、対向電極24aにおける破線で囲んだ範囲内が、同図における上側の電極セル21aを構成する「対向電極」として機能すると共に、対向電極24aにおける一点鎖線で囲んだ範囲内が、同図における下側の電極セル21aを構成する「対向電極」として機能する。つまり、本例のセンサ部11aでは、対向電極24aにおける矢印Aで示す部位が、上側の電極セル21a用の「対向電極」および下側の電極セル21a用の「対向電極」として共用される構成が採用されている。
【0052】
また、図9に示すように、このセンサ部11aでは、対向電極24aにおいて各電極セル21の「対向電極」として機能する部位(破線で囲んだ部位や一点鎖線で囲んだ部位)が同じ材質(一例として、Ptの薄膜)で、互いに等しい形状(本例では、四角枠形)で、互いに等しい表面積となるように形成されている。さらに、このセンサ部11aでは、参照電極22と作用電極23との間の離間距離である距離L1(図9参照:第1の離間距離)が互いに等しく、参照電極22と対向電極24aとの間の離間距離である距離L2(図9参照:第2の離間距離)が互いに等しく、かつ作用電極23と対向電極24aとの間の離間距離である距離L3(図9参照:第3の離間距離)が互いに等しくなるように各電極セル21aが構成されている。このような構成のセンサ部11aにおいても、前述したセンサ部11と同様の効果を奏することができる。
【0053】
また、参照電極22および作用電極23を囲むようにして対向電極24,24aを環状に形成した電極セル21,21aを有するセンサ部11,11aを例に挙げて説明したが、図10,11に示すセンサ部11bのように、参照電極22および作用電極23と共に、環状ではない対向電極24bを支持基板10の一面に形成する構成を採用することもできる。このセンサ部11bは、「電気化学センサ」のさらに他の一例であって、図11に示すように、参照電極22、作用電極23および対向電極24bで構成された8×8=64個のマトリクス状に配置された電極セル21bを備えて構成されている。
【0054】
また、このセンサ部11bでは、各電極セル21bの対向電極24bが同じ材質(一例として、Ptの薄膜)で、互いに等しい形状(この例では、長方形)で、互いに等しい表面積となるように形成されている。さらに、このセンサ部11bでは、参照電極22と作用電極23との間の離間距離である距離L1(図11参照:第1の離間距離)が互いに等しく、参照電極22と対向電極24bとの間の離間距離である距離L2(図11参照:第2の離間距離)が互いに等しく、かつ作用電極23と対向電極24bとの間の離間距離である距離L3(図11参照:第3の離間距離)が互いに等しくなるように各電極セル21bが構成されている。このような構成のセンサ部11bにおいても、前述したセンサ部11,11aと同様の効果を奏することができる。
【0055】
また、矩形波ボルタンメトリ法による電気化学測定処理において64個の各電極セル21毎の電流値を測定する方法は、各電極セル21毎の「作用電極23と対向電極24との間を流れた電流の電流値」を1パルスの範囲内(上記の例では、時間Ta,Tbの範囲内)それぞれ測定する方法に限定されない。例えば、1つの電極セル21の作用電極23と参照電極22との間に図5に示すようにパルス状の電圧を印加しつつ、その1つの電極セル21について図6に示すような電流値を測定した後に、次の電極セル21の作用電極23と参照電極22との間にパルス状の電圧を再び印加しつつ、その電極セル21についても同様に電流値を測定する処理を、他の電極セル21についても順次実行する方法を採用することができる。また、このような測定方法を採用する場合においては、各電極セル21とI/V変換回路14bとの間に切替え部12を配設した上記の構成に代えて、ポテンショスタット14aと各電極セル21との間に切替え部12を配設する構成を採用することもできる。
【0056】
また、矩形波ボルタンメトリ法による「電気化学測定処理」を実行する構成を例に挙げて説明したが、「電気化学測定装置」が実行する「電気化学測定処理」はこれに限定されず、その他の各種方法による「電気化学測定処理」を実行する構成を採用することができる。さらに、試料に含まれている成分の検出および定量の双方を実行する例について説明したが、成分を定量せずに、単に、どのような成分が含まれているかだけを検出する構成および方法に本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0057】
1 検出システム
2,2a,2b 電気化学測定モジュール
3 パーソナルコンピュータ
10 支持基板
11,11a,11b センサ部
12 切替え部
12a,12b スイッチ
13 駆動部
14 測定部
14a ポテンショスタット
14b I/V変換回路
15 処理部
21,21,21b 電極セル
22 参照電極
23 作用電極
24,24a,24b 対向電極
L1〜L3 距離
【技術分野】
【0001】
本発明は、参照電極、作用電極および対向電極を備えて構成された電気化学センサ、電気化学センサを使用して電気化学測定処理を実行する電気化学測定装置、および電気化学測定装置による測定結果に基づいて液体に含まれている成分を検出する検出システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特表2008−510156号公報には、作用電極を複数備えると共に、参照電極および対向電極をそれぞれ1つずつ備えて構成された電極ユニットを有する電気化学測定用のセンサ装置が開示されている。このセンサ装置による測定処理(電気化学測定処理)では、マイクロコントローラが、デジタル・アナログ変換器を介してポテンシオスタットを制御すると共にアナログ・デジタル変換器を介してポテンシオスタットから測定結果を取得する。この場合、このセンサ装置では、セルマルチプレクサが、マイクロプロセッサの制御に従って複数の作用電極のうちの1つを選択してポテンシオスタットに接続することにより、1つの作用電極、1つの参照電極および1つの対向電極を使用した三電極法による電気化学測定処理が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−510156号公報(第4−5頁、第1−3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来のセンサ装置には、以下の問題点が存在する。すなわち、従来のセンサ装置では、複数の作用電極、1つの参照電極、および1つの対向電極を備えて電極ユニットが構成されている。一方、電気化学測定処理の分野においては、例えば測定対象の溶液における一部分だけに存在する成分を定量するために、溶液を滴下する平面上に2次元的に配置した複数の計測点毎に電気化学反応を検出し得る電気化学センサの開発が進められている。この場合、三電極法による電気化学測定処理用の電気化学センサに複数の計測点を設けるには、少なくとも作用電極を各測定点にそれぞれ配設する必要がある。このため、このような用途において使用する電気化学センサには、測定点の数に応じた複数の作用電極を形成する必要がある。
【0005】
一方、従来のセンサ装置では、上記公開公報の図1に示すように、複数の作用電極(WE1〜WE6)が横並びに配置されると共に、参照電極(RE)および対向電極(CE)が横方向に長尺に形成されて各作用電極の配列方向に沿って配置されている。このような構成においては、各作用電極と参照電極との間の離間距離が互いに等しく、かつ、各作用電極と対向電極との間の離間距離が互いに等しくなる。しかしながら、参照電極および対向電極をそれぞれ1つずつ備えている従来のセンサ装置の構成において、各作用電極を2次元的に配置したとき(例えば、マトリクス状に配置したとき)には、各作用電極に対して参照電極および対向電極をどのような位置に配置したとしても、参照電極および対向電極と各作用電極との間の離間距離が短い組み合わせと、長い組み合わせとが存在することとなる。
【0006】
このため、各作用電極の配置を変更したときには、参照電極および作用電極の間に電位差を生じさせた状態において作用電極から対向電極に流れる電流を測定する際に、離間距離が短い組み合わせの参照電極および作用電極の間の溶液抵抗と、離間距離が長い組み合わせの参照電極および作用電極の間の溶液抵抗とが相違すると共に、離間距離が短い組み合わせの作用電極および対向電極の間の溶液抵抗と、離間距離が長い組み合わせの作用電極および対向電極の間の溶液抵抗とが相違する状態となる。この結果、離間距離が短い組み合わせの各電極において生じるIRドロップ(作用電極および参照電極の間の溶液抵抗の存在に起因して、作用電極および対向電極の間を流れる電流が生じさせる電圧降下)の程度と、離間距離が長い組み合わせの各電極において生じるIRドロップの程度とが相違することとなる。したがって、従来のセンサ装置の構成では、計測点を設けるべき位置に応じて各作用電極の配置を変更したときに、使用する作用電極毎に測定結果がばらついてしまうという問題点が存在する。
【0007】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、複数の計測点を任意に配置した状態において各計測点毎に電気化学反応を正確に検出し得る電気化学センサ、測定対象の液体における各部において生じている電気化学反応を各計測点毎に正確に検出し得る電気化学測定装置、および検出対象の液体に含まれている成分を各計測点毎に正確に検出し得る検出システムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく請求項1記載の電気化学センサは、参照電極、作用電極および対向電極で構成された電極セルが支持基板の一面に複数形成され、前記各電極セルは、前記参照電極が同じ材質で互いに等しい表面積に形成され、前記作用電極が同じ材質で互いに等しい表面積に形成され、かつ前記対向電極が同じ材質で互いに等しい表面積に形成されると共に、当該参照電極と当該作用電極との間の離間距離が互いに等しく、当該参照電極と当該対向電極との間の離間距離が互いに等しく、かつ当該作用電極と当該対向電極との間の離間距離が互いに等しくなるように構成されている。
【0009】
また、請求項2記載の電気化学センサは、請求項1記載の電気化学センサにおいて、前記各電極セルは、前記参照電極が互いに等しい形状で、前記作用電極が互いに等しい形状で、かつ前記対向電極が互いに等しい形状に構成されている。
【0010】
さらに、請求項3記載の電気化学センサは、請求項1または2記載の電気化学センサにおいて、前記支持基板の一面に前記各電極セルが等間隔でマトリクス状に配置されている。
【0011】
また、請求項4記載の電気化学センサは、請求項1から3のいずれかに記載の電気化学センサにおいて、前記各電極セルは、前記参照電極および前記作用電極を囲むようにして前記対向電極が環状に形成されている。
【0012】
また、請求項5記載の電気化学測定装置は、請求項1から4のいずれかに記載の電気化学センサと、当該電気化学センサを使用して電気化学測定処理を実行する測定処理部とを備えて構成されている。
【0013】
さらに、請求項6記載の電気化学測定装置は、請求項5記載の電気化学測定装置において、前記電気化学センサの前記各電極セル、および前記測定処理部が前記支持基板の一面に並んで形成されている。
【0014】
また、請求項7記載の検出システムは、請求項5または6記載の電気化学測定装置と、当該電気化学測定装置における前記測定処理部による測定結果に基づいて、検出対象の液体に含まれている成分を検出する検出処理装置とを備えて構成されている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の電気化学センサによれば、各電極セルの参照電極が同じ材質で互いに等しい表面積に形成され、各電極セルの作用電極が同じ材質で互いに等しい表面積に形成され、かつ各電極セルの対向電極が同じ材質で互いに等しい表面積に形成されると共に、各電極セルの参照電極と作用電極との間の離間距離が互いに等しく、各電極セルの参照電極と対向電極との間の離間距離が互いに等しく、かつ各電極セルの作用電極と対向電極との間の離間距離が互いに等しくなるように構成したことにより、参照電極および作用電極の間の溶液抵抗を各電極セルにおいて均一化することができると共に、作用電極および対向電極の間の溶液抵抗を各電極セルにおいて均一化することができるため、各電極セルにおいて生じるIRドロップの程度を均一化することができる結果、各電極セル(各計測点)を横並び以外の任意の配置とした状態において、測定対象の試料における各部において生じている電気化学反応を各電極セル(各計測点)毎に正確に検出することができる。
【0016】
また、請求項2記載の電気化学センサによれば、参照電極が互いに等しい形状で、作用電極が互いに等しい形状で、かつ対向電極が互いに等しい形状となるように各電極セルを構成したことにより、各電極セル(各計測点)を横並び以外の任意の配置とした状態において、測定対象の試料における各部において生じている電気化学反応を各電極セル(各計測点)毎に一層正確に検出することができる。
【0017】
さらに、請求項3記載の電気化学センサによれば、各電極セルを支持基板の一面に等間隔でマトリクス状に配置したことにより、電気化学センサ上に滴下した試料の各部に分散している1つ、または複数の成分を確実に検出することができる。
【0018】
また、請求項4記載の電気化学センサによれば、参照電極および作用電極を囲むようにして対向電極を環状に形成したことにより、他の電極セルの近傍で生じた電気化学反応の影響を排除して、電流値を測定すべき電極セルの近傍で生じた電気化学反応を正確に検出することができる。
【0019】
また、請求項5記載の電気化学測定装置によれば、測定処理部が上記のいずれかの電気化学センサを使用して電気化学測定処理を実行することにより、測定対象の試料における各部において生じている電気化学反応を各電極セル(各計測点)毎に正確に検出することができる。
【0020】
さらに、請求項6記載の電気化学測定装置によれば、電気化学センサの各電極セル、および測定処理部を支持基板の一面に並べて形成したことにより、十分に小形化することができるため、携行性に優れた「電気化学測定装置」を提供することができる。
【0021】
また、請求項7記載の検出システムによれば、検出処理装置が上記の電気化学測定装置における測定処理部による測定結果に基づいて、検出対象の液体に含まれている成分を検出することにより、測定対象の試料における各部に分散している1つ、または複数の成分を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】検出システム1の構成を示すブロック図である。
【図2】電気化学測定モジュール2の等価回路図である。
【図3】電気化学測定モジュール2の平面図である。
【図4】電気化学測定モジュール2におけるセンサ部11の拡大図である。
【図5】参照電極22を基準電位とする作用電極23の電位(両電極間に印加する電圧)について説明するための説明図である。
【図6】作用電極23から対向電極24に流れる電流の電流値について説明するための説明図である。
【図7】作用電極23から対向電極24に流れる電流の差分値と、参照電極22を基準電位とする作用電極23の電位(電圧値)との関係について説明するための説明図である。
【図8】センサ部11aの平面図である。
【図9】センサ部11aの拡大図である。
【図10】センサ部11bの平面図である。
【図11】センサ部11bの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、電気化学センサ、電気化学測定装置および検出システムの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0024】
図1に示す検出システム1は、一例として、検出・定量対象の液体(以下、「試料」ともいう)に含まれている重金属(亜鉛、鉛、カドミウムおよび水銀等)などの微量成分を検出・定量するシステムであって、電気化学測定モジュール2およびパーソナルコンピュータ3を備えて構成されている。電気化学測定モジュール2は、「電気化学測定装置」の一例であって、センサ部11、切替え部12、駆動部13、測定部14および処理部15を備えて構成されている。この場合、この電気化学測定モジュール2は、矩形波ボルタンメトリ(微分パルスボルタンメトリ)法による電気化学測定処理によって試料に含まれている各種成分を検出・定量する構成が採用されている。なお、本例の電気化学測定モジュール2では、切替え部12、駆動部13、測定部14および処理部15が相まって「測定処理部」を構成する。
【0025】
センサ部11は、試料に含まれている成分を三電極法で定量するための「電気化学センサ」の一例であって、図3に示すように、本例では、このセンサ部11が、上記の切替え部12、駆動部13、測定部14および処理部15と共に支持基板10の一面に並んで形成されている(「電気化学センサ」および「測定処理部」が1チップ化された構成の例)。このセンサ部11は、図2に示すように、参照電極22、作用電極23および対向電極24で構成された電極セル21を複数備えて構成されている。また、このセンサ部11では、図3に示すように、一例として、8×8=64個の電極セル21が支持基板10の一面にマトリクス状に配置されて構成されている(64個の測定点がマトリクス状に配置された構成の例)。この場合、支持基板10は、一例として、その一面にSiO2によって絶縁膜が形成されたSi基板で構成されている。なお、支持基板10に代えて、SOI(Silicon on Insulator)や、絶縁性樹脂基板(例えば、PCやPE等で形成された基板)やガラス基板を「支持基板」として使用することもできる。
【0026】
また、図4に示すように、本例のセンサ部11では、各電極セル21の参照電極22が同じ材質(一例として、Agの薄膜およびAgClの薄膜)で、互いに等しい形状(本例では、円形)で、互いに等しい表面積となるように形成されている。さらに、本例のセンサ部11では、各電極セル21の作用電極23が同じ材質(一例として、スクリーン印刷法によって塗布されたカーボンペースト)で、互いに等しい形状(本例では、円形)で、互いに等しい表面積となるように形成されている。また、本例のセンサ部11では、各電極セル21の対向電極24が同じ材質(一例として、Ptの薄膜)で、互いに等しい形状(本例では、楕円形)で、互いに等しい表面積となるように形成されている。この場合、対向電極24は、参照電極22および作用電極23を囲むようにして環状に形成されている。
【0027】
また、本例のセンサ部11では、参照電極22と作用電極23との間の離間距離である距離L1(図4参照:第1の離間距離)が互いに等しく、参照電極22と対向電極24との間の離間距離である距離L2(図4参照:第2の離間距離)が互いに等しく、かつ作用電極23と対向電極24との間の離間距離である距離L3(図4参照:第3の離間距離)が互いに等しくなるように各電極セル21が構成されている。なお、「参照電極」、「作用電極」および「対向電極」を構成する材料は、上記の例に限定されず、検出・定量対象の成分の種類に応じて、公知の各種材料で構成することができる。また、この電気化学測定モジュール2では、センサ部11における各電極22〜24の上を除いて、パリレン(パラキシリレン系ポリマー)の薄膜で構成された絶縁保護膜が形成されている。
【0028】
切替え部12は、図2に示すように、64個の各電極セル21毎にスイッチ12a,12bがそれぞれ配設されて構成されている。この場合、本例の電気化学測定モジュール2では、常態においては、各スイッチ12aが開状態に制御され、かつ各スイッチ12bが閉状態に制御されると共に、測定処理時には、測定対象の電極セル21における作用電極23に接続されているスイッチ12aだけが閉状態に制御され、かつ、そのスイッチ12aと同じ作用電極23に接続されているスイッチ12bだけが開状態に制御される。これにより、任意の1つの電極セル21における作用電極23が測定部14に対して選択的に接続される。駆動部13は、処理部15の制御に従い、矩形波を生成して参照電極22および作用電極23の間に印加することにより、参照電極22を基準電位とする作用電極23の電位を図5に示すように変化させる。測定部14は、図2に示すように、センサ部11が接続されて構成されたポテンショスタット14aと、I/V変換回路14bとを備え、駆動部13によって参照電極22と作用電極23との間に電位差が生じさせられている状態において、作用電極23から対向電極24に流れる電流の電流値を測定する。
【0029】
この場合、本例の電気化学測定モジュール2におけるポテンショスタット14aでは、参照電極22がオペアンプ回路の−入力端子に接続され、対向電極24がオペアンプ回路の出力端子に接続され、作用電極23が切替え部12を介してI/V変換回路14bに接続されている。また、ポテンショスタット14aのオペアンプ回路における+入力端子は、駆動部13に接続されている。また、I/V変換回路14bは、−入力端子が作用電極23に接続され、+入力端子がグランド電位に接続され、出力端子が処理部15に接続されたオペアンプ回路を備え、後述するようにして、駆動部13が参照電極22を基準電位とする作用電極23の電位を変化させた(電位差を生じさせた)ときに、一例として、作用電極23から対向電極24に流れる電流をI/V変換して処理部15に出力する。
【0030】
処理部15は、パーソナルコンピュータ3の制御に従い、電気化学測定モジュール2を総括的に制御する。具体的には、処理部15は、切替え部12の各スイッチ12a,12bを制御することで64個の各電極セル21のうちの任意の1つにおける作用電極23を測定部14(I/V変換回路14b)に接続する。また、処理部15は、駆動部13を制御して、参照電極22を基準電位とする作用電極23の電位を変化させる(参照電極22および作用電極23の間に矩形波を出力させる)。さらに、処理部15は、I/V変換回路14bから出力される電圧をA/D変換するA/D変換部(図示せず)と、作用電極23および対向電極24の間を流れる電流の電流値をA/D変換部から出力されたデータに基づいて演算する演算回路(図示せず)とを備えて、演算結果(電流値を特定可能なデータ)をパーソナルコンピュータ3に出力する。
【0031】
パーソナルコンピュータ3は、「検出処理装置」の一例であって、「電気化学測定装置」の一例である電気化学測定モジュール2における上記の「測定処理部」による測定結果(この例では、処理部15から出力される演算結果)に基づいて試料に含まれている成分を検出する。また、このパーソナルコンピュータ3には、図1に示すように、動作条件を設定操作するためのキーボードやマウスなどの操作部3a、および測定結果(検出結果)等を表示するための表示部3bが接続されている。
【0032】
この検出システム1を用いて試料中の成分を検出・定量する際には、まず、電気化学測定モジュール2をパーソナルコンピュータ3に接続すると共に、電気化学測定モジュール2におけるセンサ部11の上に試料を滴下する。次いで、パーソナルコンピュータ3の操作部3aを操作して、検出・定量処理を開始させる。この際には、電気化学測定モジュール2の処理部15が、パーソナルコンピュータ3の制御に従い、矩形波ボルタンメトリ法による電気化学測定処理を開始する。
【0033】
具体的には、処理部15は、まず、切替え部12を制御して、64個の電極セル21のうちの1つにおける作用電極23をI/V変換回路14bに接続させる。次いで、処理部15は、駆動部13を制御することにより、図5に示すように、64個の各電極セル21における作用電極23と参照電極22との間に矩形波ボルタンメトリ法による電気化学測定処理用の電圧をそれぞれ印加させる。この際には、図6に示すように、I/V変換回路14bに接続されている作用電極23と、その作用電極23を含む電極セル21の対向電極24との間を、センサ部11に滴下されている試料に含まれる成分に応じた大きさの電流が流れて、この電流がI/V変換回路14bによってI/V変換されて処理部15に出力される。
【0034】
また、処理部15では、A/D変換部が、I/V変換回路14bから出力された電圧をA/D変換して演算回路に出力すると共に、演算回路がA/D変換部から出力された値に基づいて作用電極23と対向電極24との間を流れた電流の電流値を演算する。また、演算回路は、作用電極23と参照電極22との間にパルス状の電圧を印加する直前に作用電極23と対向電極24との間を流れた電流と、印加した電圧の電位を基底電位に戻す直前に作用電極23と対向電極24との間を流れた電流との差分値を求めてパーソナルコンピュータ3に出力する。なお、矩形波ボルタンメトリ法による電気化学測定処理については公知のため、その測定原理に関するより詳細な説明を省略する。
【0035】
また、パーソナルコンピュータ3では、電気化学測定モジュール2(処理部15における演算回路)から出力された差分値を図示しないメモリに記憶させると共に、その差分値を上記の基底電位に対応付けてプロットすることにより、一例として、図7に示すような微分パルスボルタモグラフを表示部3bに表示させる。これにより、64個の電極セル21のうちの1つについての1回目の電気化学測定処理が完了する。なお、図6は、64個の電極セル21のうちの1つにおいて測定される電流の値を表し、図7は、64個の電極セル21のうちの1つについての微分パルスボルタモグラフを表している。
【0036】
この場合、この電気化学測定モジュール2(検出システム1)では、一例として、64個の各電極セル21における作用電極23と参照電極22との間にパルス状の電圧を印加しつつ、切替え部12における各スイッチ12a,12bの接続態様を切り替えて、各電極セル21における作用電極23をI/V変換回路14bに対して順次接続することにより、1パルスの範囲内で、各電極セル21毎の「作用電極23と対向電極24との間を流れた電流の電流値」をそれぞれ測定する構成が採用されている。
【0037】
具体的には、前述したように、この電気化学測定モジュール2では、常態において各電極セル21の作用電極23にそれぞれ接続されたスイッチ12bが閉状態に制御され、これにより、各作用電極23がグランド電位にそれぞれ接続されている。したがって、駆動部13からのパルス状の電圧が、すべての電極セル21における作用電極23および参照電極22の間に同様に印加される。この状態において、図5,6に示す時間Taの範囲内に、各スイッチ12aを閉状態に順次制御すると共に各スイッチ12bを開状態に順次制御することで、各電極セル21の作用電極23をI/V変換回路14bに対して高速に順次切り替えて接続する。これにより、64個のすべての電極セル21について、パルス状の電圧を印加する直前に作用電極23と対向電極24との間を流れた電流が順次測定される。
【0038】
また、図5,6に示す時間Tbの範囲内においても上記の時間Taの範囲内と同様にして、64個のすべての電極セル21の作用電極23をI/V変換回路14bに対して高速に順次切り替えて接続することにより、64個のすべての電極セル21について、印加した電圧の電位を基底電位に戻す直前に作用電極23と対向電極24との間を流れた電流が測定される。これにより、「電気化学測定処理」が完了する。なお、上記の時間Ta,Tbは、I/V変換回路14bに対する接続を切り替えずに1つの電極セル21についての作用電極23と対向電極24との間流れる電流を継続的に測定したときに、その測定値(電流値)がほぼ一定の値に近似され得る値となる十分に短い時間である。
【0039】
次いで、パーソナルコンピュータ3の制御部は、上記の時間Taにおいて測定された電流と時間Tbにおいて測定された電流との差分値を演算する。これにより、図7に示すように、各電極セル21(各計測点)毎に「各基底電位毎の電流の差分値」が求められる。続いて、制御部は、求めた差分値に基づき、センサ部11上に滴下した試料に、どのような成分が含まれているか、また、その成分がどの程度含まれているかを各電極セル21毎にそれぞれ特定する。具体的には、パーソナルコンピュータ3の制御部は、どのような「基底電位」において大きな「差分値」が得られたかを特定することにより、試料中にどのような成分がどの程度含まれているかを特定する。
【0040】
続いて、パーソナルコンピュータ3の制御部は、特定した結果を表示部3bに表示させる。具体的には、一例として、各電極セル21の配置に応じて区画した8×8=64個の表示領域毎に、検出した成分の定量結果を色分けして(例えば、検出された成分の濃度が高い部位ほど低い色温度の色(赤色)で、検出された成分の濃度が低い部位ほど高い色温度の色(青色)として)2次元的に表示させる(図示せず)。これにより、各電極セル21の位置毎に検出・定量された成分の濃度分布を直感的に認識させることができる。以上により、試料に含まれている成分の検出および定量が完了する。
【0041】
このように、この電気化学測定モジュール2におけるセンサ部11によれば、各電極セル21の参照電極22が同じ材質で互いに等しい表面積に形成され、各電極セル21の作用電極23が同じ材質で互いに等しい表面積に形成され、かつ各電極セル21の対向電極24が同じ材質で互いに等しい表面積に形成されると共に、各電極セル21の参照電極22と作用電極23との間の距離L1が互いに等しく、各電極セル21の参照電極22と対向電極24との間の距離L2が互いに等しく、かつ各電極セル21の作用電極23と対向電極24との間の距離L3が互いに等しくなるように構成したことにより、参照電極22および作用電極23の間の溶液抵抗を各電極セル21において均一化することができると共に、作用電極23および対向電極24の間の溶液抵抗を各電極セル21において均一化することができるため、各電極セル21において生じるIRドロップの程度を均一化することができる結果、各電極セル21(各計測点)を横並び以外の任意の配置とした(本例では、マトリクス状に配置した)状態において、測定対象の試料における各部において生じている電気化学反応を各電極セル21(各計測点)毎に正確に検出することができる。
【0042】
また、この電気化学測定モジュール2におけるセンサ部11によれば、参照電極22が互いに等しい形状で、作用電極23が互いに等しい形状で、かつ対向電極24が互いに等しい形状となるように各電極セル21を構成したことにより、各電極セル21(各計測点)を横並び以外の任意の配置とした状態において、測定対象の試料における各部において生じている電気化学反応を各電極セル21(各計測点)毎に一層正確に検出することができる。
【0043】
さらに、この電気化学測定モジュール2におけるセンサ部11によれば、各電極セル21を支持基板10の一面に等間隔でマトリクス状に配置したことにより、センサ部11上に滴下した試料の各部に分散している1つ、または複数の成分を確実に検出することができる。
【0044】
また、この電気化学測定モジュール2におけるセンサ部11によれば、参照電極22および作用電極23を囲むようにして対向電極24を環状に形成したことにより、他の電極セル21の近傍で生じた電気化学反応の影響を排除して、電流値を測定すべき電極セル21の近傍で生じた電気化学反応を正確に検出することができる。
【0045】
また、この電気化学測定モジュール2によれば、「測定処理部(本例では、切替え部12、駆動部13、測定部14および処理部15)」がセンサ部11を使用して「電気化学測定処理」を実行することにより、測定対象の試料における各部において生じている電気化学反応を各電極セル21(各計測点)毎に正確に検出することができる。
【0046】
さらに、この電気化学測定モジュール2によれば、センサ部11の各電極セル21、および上記の「測定処理部」を支持基板10の一面に並べて形成したことにより、十分に小形化することができるため、携行性に優れた「電気化学測定装置」を提供することができる。
【0047】
また、この検出システム1によれば、パーソナルコンピュータ3が電気化学測定モジュール2における上記の「測定処理部」による測定結果に基づいて、検出対象の液体に含まれている成分を検出することにより、測定対象の試料における各部に分散している1つ、または複数の成分を正確に検出することができる。
【0048】
なお、「電気化学センサ」、「電気化学測定装置」および「検出システム」の構成は、上記のセンサ部11、電気化学測定モジュール2および検出システム1の構成に限定されない。例えば、「電気化学センサ」としてのセンサ部11と、「測定処理部」としての切替え部12、駆動部13、測定部14および処理部15とを支持基板10の一面に並べて形成した構成の電気化学測定モジュール2を例に挙げて説明したが、「電気化学センサ」と「測定処理部」とを別個独立して形成した後に電気的に接続する構成を採用することもできる。
【0049】
具体的には、例えば、上記の電気化学測定モジュール2におけるセンサ部11と、その他の構成要素12〜15とを別個の支持基板上に形成して、図示しない接続用コネクタを介して相互に電気的に接続する構成を採用することができる。このような構成を採用することにより、「電気化学測定処理」の実行によって「電気化学センサ」に汚れが生じたときなどに、その「電気化学センサ」を新たな「電気化学センサ」に交換することで、「測定処理部」を継続して使用することができる結果、複数回に亘る「電気化学測定処理」の実行に要するコストを十分に低減することができる。
【0050】
また、各電極セル21毎に別個独立した対向電極24を備えたセンサ部11を例に挙げて説明したが、図8,9に示すセンサ部11aのように、平面視網目状の対向電極24aを支持基板10の一面に形成することにより、8×8=64個の電極セル21aにおける「対向電極」を連続的に形成することもできる。なお、このセンサ部11a、および後に説明するセンサ部11b(図10,11参照)において、上記のセンサ部11と同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0051】
このセンサ部11aは、「電気化学センサ」の他の一例であって、図9に示すように、参照電極22、作用電極23および対向電極24aで構成された電極セル21aを複数備えて構成されている。また、このセンサ部11aでは、図8に示すように、一例として、8×8=64個の電極セル21aが支持基板10の一面にマトリクス状に配置されて構成されている。この場合、このセンサ部11aでは、図9に示すように、対向電極24aにおける破線で囲んだ範囲内が、同図における上側の電極セル21aを構成する「対向電極」として機能すると共に、対向電極24aにおける一点鎖線で囲んだ範囲内が、同図における下側の電極セル21aを構成する「対向電極」として機能する。つまり、本例のセンサ部11aでは、対向電極24aにおける矢印Aで示す部位が、上側の電極セル21a用の「対向電極」および下側の電極セル21a用の「対向電極」として共用される構成が採用されている。
【0052】
また、図9に示すように、このセンサ部11aでは、対向電極24aにおいて各電極セル21の「対向電極」として機能する部位(破線で囲んだ部位や一点鎖線で囲んだ部位)が同じ材質(一例として、Ptの薄膜)で、互いに等しい形状(本例では、四角枠形)で、互いに等しい表面積となるように形成されている。さらに、このセンサ部11aでは、参照電極22と作用電極23との間の離間距離である距離L1(図9参照:第1の離間距離)が互いに等しく、参照電極22と対向電極24aとの間の離間距離である距離L2(図9参照:第2の離間距離)が互いに等しく、かつ作用電極23と対向電極24aとの間の離間距離である距離L3(図9参照:第3の離間距離)が互いに等しくなるように各電極セル21aが構成されている。このような構成のセンサ部11aにおいても、前述したセンサ部11と同様の効果を奏することができる。
【0053】
また、参照電極22および作用電極23を囲むようにして対向電極24,24aを環状に形成した電極セル21,21aを有するセンサ部11,11aを例に挙げて説明したが、図10,11に示すセンサ部11bのように、参照電極22および作用電極23と共に、環状ではない対向電極24bを支持基板10の一面に形成する構成を採用することもできる。このセンサ部11bは、「電気化学センサ」のさらに他の一例であって、図11に示すように、参照電極22、作用電極23および対向電極24bで構成された8×8=64個のマトリクス状に配置された電極セル21bを備えて構成されている。
【0054】
また、このセンサ部11bでは、各電極セル21bの対向電極24bが同じ材質(一例として、Ptの薄膜)で、互いに等しい形状(この例では、長方形)で、互いに等しい表面積となるように形成されている。さらに、このセンサ部11bでは、参照電極22と作用電極23との間の離間距離である距離L1(図11参照:第1の離間距離)が互いに等しく、参照電極22と対向電極24bとの間の離間距離である距離L2(図11参照:第2の離間距離)が互いに等しく、かつ作用電極23と対向電極24bとの間の離間距離である距離L3(図11参照:第3の離間距離)が互いに等しくなるように各電極セル21bが構成されている。このような構成のセンサ部11bにおいても、前述したセンサ部11,11aと同様の効果を奏することができる。
【0055】
また、矩形波ボルタンメトリ法による電気化学測定処理において64個の各電極セル21毎の電流値を測定する方法は、各電極セル21毎の「作用電極23と対向電極24との間を流れた電流の電流値」を1パルスの範囲内(上記の例では、時間Ta,Tbの範囲内)それぞれ測定する方法に限定されない。例えば、1つの電極セル21の作用電極23と参照電極22との間に図5に示すようにパルス状の電圧を印加しつつ、その1つの電極セル21について図6に示すような電流値を測定した後に、次の電極セル21の作用電極23と参照電極22との間にパルス状の電圧を再び印加しつつ、その電極セル21についても同様に電流値を測定する処理を、他の電極セル21についても順次実行する方法を採用することができる。また、このような測定方法を採用する場合においては、各電極セル21とI/V変換回路14bとの間に切替え部12を配設した上記の構成に代えて、ポテンショスタット14aと各電極セル21との間に切替え部12を配設する構成を採用することもできる。
【0056】
また、矩形波ボルタンメトリ法による「電気化学測定処理」を実行する構成を例に挙げて説明したが、「電気化学測定装置」が実行する「電気化学測定処理」はこれに限定されず、その他の各種方法による「電気化学測定処理」を実行する構成を採用することができる。さらに、試料に含まれている成分の検出および定量の双方を実行する例について説明したが、成分を定量せずに、単に、どのような成分が含まれているかだけを検出する構成および方法に本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0057】
1 検出システム
2,2a,2b 電気化学測定モジュール
3 パーソナルコンピュータ
10 支持基板
11,11a,11b センサ部
12 切替え部
12a,12b スイッチ
13 駆動部
14 測定部
14a ポテンショスタット
14b I/V変換回路
15 処理部
21,21,21b 電極セル
22 参照電極
23 作用電極
24,24a,24b 対向電極
L1〜L3 距離
【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照電極、作用電極および対向電極で構成された電極セルが支持基板の一面に複数形成され、
前記各電極セルは、前記参照電極が同じ材質で互いに等しい表面積に形成され、前記作用電極が同じ材質で互いに等しい表面積に形成され、かつ前記対向電極が同じ材質で互いに等しい表面積に形成されると共に、当該参照電極と当該作用電極との間の離間距離が互いに等しく、当該参照電極と当該対向電極との間の離間距離が互いに等しく、かつ当該作用電極と当該対向電極との間の離間距離が互いに等しくなるように構成されている電気化学センサ。
【請求項2】
前記各電極セルは、前記参照電極が互いに等しい形状で、前記作用電極が互いに等しい形状で、かつ前記対向電極が互いに等しい形状に構成されている請求項1記載の電気化学センサ。
【請求項3】
前記支持基板の一面に前記各電極セルが等間隔でマトリクス状に配置されている請求項1または2記載の電気化学センサ。
【請求項4】
前記各電極セルは、前記参照電極および前記作用電極を囲むようにして前記対向電極が環状に形成されている請求項1から3のいずれかに記載の電気化学センサ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の電気化学センサと、当該電気化学センサを使用して電気化学測定処理を実行する測定処理部とを備えて構成されている電気化学測定装置。
【請求項6】
前記電気化学センサの前記各電極セル、および前記測定処理部が前記支持基板の一面に並んで形成されている請求項5記載の電気化学測定装置。
【請求項7】
請求項5または6記載の電気化学測定装置と、当該電気化学測定装置における前記測定処理部による測定結果に基づいて、検出対象の液体に含まれている成分を検出する検出処理装置とを備えて構成されている検出システム。
【請求項1】
参照電極、作用電極および対向電極で構成された電極セルが支持基板の一面に複数形成され、
前記各電極セルは、前記参照電極が同じ材質で互いに等しい表面積に形成され、前記作用電極が同じ材質で互いに等しい表面積に形成され、かつ前記対向電極が同じ材質で互いに等しい表面積に形成されると共に、当該参照電極と当該作用電極との間の離間距離が互いに等しく、当該参照電極と当該対向電極との間の離間距離が互いに等しく、かつ当該作用電極と当該対向電極との間の離間距離が互いに等しくなるように構成されている電気化学センサ。
【請求項2】
前記各電極セルは、前記参照電極が互いに等しい形状で、前記作用電極が互いに等しい形状で、かつ前記対向電極が互いに等しい形状に構成されている請求項1記載の電気化学センサ。
【請求項3】
前記支持基板の一面に前記各電極セルが等間隔でマトリクス状に配置されている請求項1または2記載の電気化学センサ。
【請求項4】
前記各電極セルは、前記参照電極および前記作用電極を囲むようにして前記対向電極が環状に形成されている請求項1から3のいずれかに記載の電気化学センサ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の電気化学センサと、当該電気化学センサを使用して電気化学測定処理を実行する測定処理部とを備えて構成されている電気化学測定装置。
【請求項6】
前記電気化学センサの前記各電極セル、および前記測定処理部が前記支持基板の一面に並んで形成されている請求項5記載の電気化学測定装置。
【請求項7】
請求項5または6記載の電気化学測定装置と、当該電気化学測定装置における前記測定処理部による測定結果に基づいて、検出対象の液体に含まれている成分を検出する検出処理装置とを備えて構成されている検出システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−57617(P2013−57617A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196949(P2011−196949)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
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