説明

電気化学プリントヘッド

【課題】 電気化学的手法を用いた、電気メッキ方法や電気エッチング方法において、自由に、パターン、文字、写真画像などを簡便にプリントすることが可能な、コンパクトなプリントヘッドを提供すること。
【解決手段】 本発明の電気化学プリントヘッドは、エッチング液12を満たし、下面に微小な穴の開いたタンク11と、タンク11の外側に配置された接触電極14に対して、負または零電位となるように、タンク内に配置した容器内電極13に選択的に電圧を印加するためのスイッチ配線18とを備え、微小穴を金属媒体にほぼ密着させながら移動させ、金属媒体にパターン形成をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製品や金属薄膜がコートされた種々の媒体上に文字や、図表、写真などの画像や種々のパターンを自由に画像形成する電気化学プリントヘッドに係わるものである。また、電子デバイスや回路基板上に形成された種々のパターン配線のリーク補正や、断線補正などにも応用できる電気化学プリントヘッドに係わるものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気化学的手法を用いた、電気エッチング方法や電気メッキ方法がある。これらの方法はエッチング液やメッキ液中にカソード電極(正電圧)、とアノード電極(零電圧)を入れる。被エッチング導電媒体をエッチングする時は、被エッチング導電媒体をカソード電極につなぐと通常に比べ素早くエッチングされる。また、被メッキ導電体をメッキする時は被メッキ導電体をアノード電極につなぐと通常に比べ素早くメッキされる。
【0003】
例えば、特開平9−104997号公報には、メッキ槽の中に複数のカソード電極、アノード電極が配置させ、かつ、電極をメッシュ状にすることにより、メッキ槽内にある両面フレキシブル基板のパターン導電部にニッケルメッキする際に、槽内の電流密度を平準化させて均一にメッキする技術が開示されている。
【特許文献1】特開平9−104997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の電気化学的手法を用いた、電気メッキ方法や電気エッチング方法は、カソード電極、アノード電極、被メッキ部がすべてメッキ槽内に納められており、装置が大きくなる傾向があった。また、既に形成されたパターン導電部にメッキするため、自由なメッキパターンを簡便に形成することが困難であった。
【0005】
そこで、本発明の目的は電気化学的手法を用いた、電気メッキ方法や電気エッチング方法において、自由に、パターン、文字、写真画像などを簡便にプリントすることが可能なコンパクトなプリントヘッドを提供することを目的としている。また、電子デバイスや回路基板上に形成された種々のパターン配線のリーク補正や断線の補正を簡便に行う電気化学プリントヘッドを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電気化学プリントヘッドは、エッチング液またはメッキ液を溜めるための容器と、容器内にはエッチング液またはメッキ液に電圧を印加するための容器内電極と、容器外には、容器外電極とを備え、容器の下部には、前記エッチング液またはメッキ液を突出するための微小穴を有することを特徴とする。
【0007】
容器にエッチング液を溜め、容器外電極に印加される電圧の電位に対して、容器内電極に印加される電圧の電位が、負または零のどちらかとなるように、容器内電極または容器外電極に印加する電圧を切り替えるスイッチを有することを特徴とする。
【0008】
容器にメッキ液を溜め、容器外電極に印加される電圧の電位に対して、容器内電極に印加される電圧の電位が、正または零のどちらかとなるように、容器内電極または容器外電極に印加する電圧を切り替えるスイッチを有することを特徴とする。
【0009】
金属媒体と容器外電極とを接触させ、さらに金属媒体に対して微小穴をほぼ密着させながら移動させ、金属媒体にパターンを形成することを特徴とする。
【0010】
金属媒体は透明導電体の上に遮光金属媒体を積層した導電媒体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記記載の構成により、本発明の電気化学ヘッドは金属製品などの工芸、美術品や透明導電膜が付着したガラス基板やプラスチック基板、プラシートなどに自由に文字や絵、画像などの種々のパターンを簡便に描画可能となった。また、電子デバイスや回路基板などに形成された金属配線パターンのリーク修正や、断線の修正など、微細な形状の修復も可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の形態を詳述する。電気化学エッチング手法を用いた電気化学プリントヘッドを以下、実施例に記載し、図面に基づいて詳述する。
【実施例1】
【0013】
本発明の電気化学プリントヘッドの構成を図1にもとづいて説明する。図1に於いて、容器となるタンク11には、塩酸水溶液であるエッチング液12が満たされており、被メッキ物である金属媒体と接する容器の下部には0.5mm径の微小穴が開いている。また、前記タンク11内には、銅金属からなる容器内電極13が配置されている。さらに、タンク11の外側には、タンク11と近接して固定された容器外電極の接触電極14が配置される。また、接触電極14はガラス基板17上に形成した透明導電体の厚さ0.2μmのITO膜16と、遮光金属媒体である厚さ0.12ミクロンの遮光クロム膜15とが積層された金属媒体上に接触して配置される。本実施例では、このITO膜16と遮光クロム膜15は、ガラス基板17の一面に形成されている。タンク11の下面における微小穴は、金属媒体である遮光クロム膜15にほぼ密着させながら、相対移動させることができる。
【0014】
容器内電極13には、20ボルトと零ボルトの電圧を選択して印加するように、電圧を切り替えるスイッチとしてスイッチ配線18を配置している。また、容器外電極には20ボルトの電圧が印加される。容器内電極13を零ボルト(電圧無印加状態)とすると、容器外電極には20ボルトが印加されているため、容器外電極に印加される電圧の電位に対して、容器内電極に印加される電圧の電位は負となる。また、容器内電極13に20ボルトを印加すると、容器外電極には20ボルトが印加されているため、容器外電極に印加される電圧の電位と容器内電極に印加される電圧の電位に差がなくなり、つまり零となる。
【0015】
容器内電極に印加する電圧を零とすると、微小穴からしみだすエッチング液12が、遮光クロム膜15を瞬時にクロム膜をエッチングし、クロム膜が除去される。また、容器内電極13に20ボルトの電圧が印加されると、容器外電極と容器内電極との間の電位差がなくなり、エッチングは緩慢に進む。微小穴からしみだされたエッチング液は極少量なため、すぐに乾いてしまい金属媒体上に余分に残ることは無い。
【0016】
このように、遮光クロム膜15上でタンク11を前後左右に相対移動させると同時に、容器内電極の電圧をスイッチで切り替えることによって、遮光クロム膜上のクロム膜が選択的にエッチングされて削除され、黒地に透明パターンの文字や図表をあたかも筆記具で書くように、素早く、簡便に描画することが可能できた。
【0017】
ここでは、スイッチ配線を容器内電極に設けたが、容器外電極に印加される電圧の電位
に対して、容器内電極に印加される電圧の電位が負または零となるように制御されるならば、容器外電極にスイッチ配線を設けても構わない。
【実施例2】
【0018】
本発明の電気化学プリントヘッドの構成を図2にもとづいて説明する。図2に於いて、容器であるタンク21は硫酸銅水溶液を用いたメッキ液22を満たしている。その他、容器の下面の微小穴、タンク21内の銅金属からなる容器内電極23、容器外電極の接触電極24の配置は実施例1と同じ構成である。
【0019】
接触電極24はガラス基板27上に形成した透明導電体である厚さ0.2μmのITO膜26の金属媒体上に接触して配置される。本実施例ではた。このこのITO膜26は、ガラス基板27の一面に形成されている。タンク21の下面における微小穴は、金属媒体であるITO膜26にほぼ密着させながら、相対移動させることができる。
【0020】
容器内電極23には、20ボルトと零ボルトの電圧を選択して印加するように、電圧を切り替えるスイッチとしてスイッチ配線18を配置している。また、容器外電極には零ボルト(電圧無印加状態)としている。容器内電極23に20ボルトを印加すると、容器外電極を零ボルトとしているため、容器外電極に印加される電圧の電位に対して、容器内電極に印加される電圧の電位は正となる。また、容器内電極23に零ボルトとすると、容器外電極にも零ボルトが印加されているため、容器外電極に印加される電圧の電位と容器内電極に印加される電圧の電位に差がなくなり、つまり零となる。
【0021】
容器内電極に印加する電圧を20ボルトとすると、微小穴からしみだすメッキ液22は、金属銅で形成されたメッキ膜25となり、ITO膜26上に速い速度で形成される。また、容器内電極に電圧が印加されないと、ほとんどITO膜26上ではメッキされない。また、容器内電極23を零ボルトとすると、容器外電極と容器内電極との間の電位差がなくなり、メッキは緩慢に進む。微小穴からしみだされたメッキ液は極少量なため、すぐに乾いてしまい金属媒体上に余分に残ることは無い。
【0022】
このように、タンク21をITO膜26上で前後左右に相対移動させると同時に、容器内電極の電圧をスイッチで切り替えることによって、透明なITO膜26上にメッキ膜25が選択付加され、透明の地の上に銅色の膜で遮光されたパターンの文字、図表を比較的速い速度で簡便に描画することが可能であった。
【0023】
ここでは、スイッチ配線を容器内電極に設けたが、容器外電極に印加される電圧の電位に対して、容器内電極に印加される電圧の電位が正または零となるように制御されるならば、容器外電極にスイッチ配線を設けても構わない。
【実施例3】
【0024】
本発明の他の実施例について図3を用いて説明する。図3においてガラス基板上に金属媒体であるITOパターン36が形成されている。このITOパターン36にはITOリーク部35が発生している。そこで、容器となるタンク31には、塩酸水溶液であるエッチング液32を満たし、ITOパターン36と接する容器の下部には0.5mm径の微小穴が開いている。また、タンク31内には、銅金属からなる容器内電極33が配置されて、この容器内電極33に対して−20ボルトまたは零ボルトの電圧を選択印加可能なスイッチ配線37が、容器内電極33と接続配置されている。さらに、タンク31の外側には、タンク31と近接して固定された、零ボルトの電圧が印加される容器外電極の接触電極34が配置される。
【0025】
このように、接触電極34に印加される電圧の電位に対して、容器内電極33に印加さ
れる電圧の電位が、負または零のどちらかになるように選択できるので、容器内電極33に20ボルトの電圧が選択印加されると瞬時にタンク31の下面における微小穴からしみだすエッチング液32が、ITOリーク部35のITO膜をエッチングする。また、ITOリーク部に電圧が印加されないと、エッチングは緩慢に進む。微小穴からしみだされたエッチング液は極少量なため、すぐに乾いてしまい金属媒体上に余分に残ることは無い。ITOリーク部35上でタンク31を前後左右に相対移動させることにより、ITOリーク部35のITO膜が削除され、ITOパターンの修復が可能となった。
【実施例4】
【0026】
本発明の他の実施例について図4を用いて説明する。図4において、基板上に金属膜で形成された電極パターン線46が配置されている。この電極パターン線46には断線部45が発生している。そこで、下面に0.5ミリ径の微小穴が開いている容器であるタンク41には硫酸銅水溶液を用いたメッキ液42を満たし、また、タンク41内には、銅金属からなる容器内電極43が配置され、20ボルトまたは零ボルトの電圧を選択印加可能なスイッチ配線47が配置されている。さらに、タンク41の外側に近接して固定された、零ボルトの電圧が印加される容器外電極の接触電極44を配置する。
【0027】
このように、接触電極44に印加される電圧の電位に対して、容器内電極43に印加される電圧の電位が、正または零のどちらかになるように選択できる。容器内電極43に正の20ボルトの電圧を印加し、容器外電極の接触電極44に零電圧を印加すると、タンク41の下面からメッキ液42がしみだし、電極パターン線46に対して容器内電極43の電圧の電位が正となるので、メッキ膜が断線部45に速い速度で形成される。また、容器内電極43に電圧が印加されないと、ほとんど断線部ではメッキされない。容器内電極43に正の20ボルトを印加させながら、タンク41を断線部45で前後に相対移動させることにより、断線部45上にメッキ膜が選択付加され、電極パターン線46の断線が修復された。
【0028】
なお、本実施例では、容器にペン型のものを用いて、文字や図表などのパターン形成を行ったが、幅広で、ライン状に微小穴を有する容器を採用すれば、ラインごとのパターン形成が可能となり、画面の大きいプリントを行う場合には、プリント時間を短縮でき有利である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の電気化学プリントヘッドを示す模式図である。
【図2】本発明の電気化学プリントヘッドを示す模式図である。
【図3】本発明の電気化学プリントヘッドを示す模式図である。
【図4】本発明の電気化学プリントヘッドを示す模式図である。
【符号の説明】
【0030】
11 タンク
12 エッチング液
13 電極
14 接触電極
15 遮光クロム膜
16 ITO膜
17 ガラス基板
21 タンク
22 メッキ液
23 電極
24 接触電極
25 メッキ膜
26 ITO膜
27 ガラス基板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エッチング液またはメッキ液を溜めるための容器と、該容器内には前記エッチング液またはメッキ液に電圧を印加するための容器内電極と、前記容器外には、容器外電極とを備え、前記容器の下部には、前記エッチング液またはメッキ液を突出するための微小穴を有することを特徴とする電気化学プリントヘッド。
【請求項2】
前記容器にエッチング液を溜め、前記容器外電極に印加される電圧の電位に対して、前記容器内電極に印加される電圧の電位が、負または零のどちらかとなるように、前記容器内電極または前記容器外電極に印加する電圧を切り替えるスイッチを有することを特徴とする請求項1に記載の電気化学プリントヘッド。
【請求項3】
前記容器にメッキ液を溜め、前記容器外電極に印加される電圧の電位に対して、前記容器内電極に印加される電圧の電位が、正または零のどちらかとなるように、前記容器内電極または前記容器外電極に印加する電圧を切り替えるスイッチを有することを特徴とする請求項1に記載の電気化学プリントヘッド。
【請求項4】
金属媒体と前記容器外電極とを接触させ、さらに前記金属媒体に対して前記微小穴をほぼ密着させながら移動させ、前記金属媒体にパターンを形成することを特徴とする請求項1に記載の電気化学プリントヘッド。
【請求項5】
前記金属媒体は透明導電体であることを特徴とする請求項4に記載の電気化学プリントヘッド。
【請求項6】
前記金属媒体は透明導電体の上に遮光金属媒体を積層した導電媒体であることを特徴とする請求項4に記載の電気化学プリントヘッド。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−2270(P2007−2270A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−180324(P2005−180324)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000001960)シチズン時計株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】