説明

電気化学式センサ

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
この発明は、電気化学式センサに関し、詳しくは、電解反応を利用して特定のガス成分等を検出したり定量したりする、電解型の電気化学式センサに関するものである。
〔従来の技術〕
電解型ガスセンサの一般的な基本構造は、電解室内に作用極,対極および参照極の3個の電極が設けられてなるものであり、その一般的な作用機構は、作用極に一定の電圧をかけると、検出対象とするガス成分が作用極で酸化または還元反応を起こし、このとき生成されたイオンは電解質内を移動して、対極で還元または酸化反応を起こすと言うものである。この酸化還元反応に伴い作用極と対極の間を流れる電流を測定することによって、対象ガスの検出および定量を行うことができるようになっている。
なお、反応を起こさせるために必要な作用極の電位は、検出ガスの成分によって異なるので、検出ガスに応じて作用極の電位を一定に保つ必要があり、そのため、参照極を基準にして、作用極に加える電圧を制御している。但し、参照極を設けず、作用極と対極のみからなるセンサもある。
ところで、従来の電解型ガスセンサは、電解質として、例えばH2SO4等の液体電解質を使用しているため、電解質の経時変化、液漏れ、材料腐食等の問題があり、厳重な密封構造にしなければならないために、小型化が困難であり、また、感度や出力が経時的に低下するので、長期的な安定性に乏しく、寿命が短いこと、さらに、取り扱いや管理が難しいこと等の欠点があった。
そこで、液体電解質のかわりに、スルホン化パーフルオロカーボン等の高分子固体電解質を用いたガスセンサが開発され、例えば、米国特許第4227984号明細書、同第4265714号明細書あるいは、特開昭53−115293号公報等に開示されている。このガスセンサは、固定電解質膜の片面に感知電極(作用極)と参照電極(参照極)が設けられ、反対面に逆電極(対極)が設けられており、液体電解質型のものに比べてコンパクト化され、経時的安定性等の性能の点でも優れており、取り扱いも容易になっている。
しかし、このガスセンサは、Pt,Au等とポリテトラフルオロエチレンとの微粒子混合体が担持されたガス透過性膜からなる電極を、軟質の固体電解質膜に接着するようにしているため、製造が面倒であるとともに、超小型化,センサアレイ化が困難であるという問題があった。
近年、半導体等の電子回路素子が、プレーナ技術等のマイクロ加工技術を利用して超小型化されてきており、このような素子と組み合わせて使用するガスセンサとしても、一層の超小型化、高性能化が要求されている。
そこで、本件出願人は、上記した従来技術の問題点を解消し、半導体素子等と同様のマイクロ加工技術で製造できる、プレーナ型のガスセンサを開発した。第3図は、このようなプレーナ型のガスセンサの構造例を示しており、絶縁基板1の上面に、電極として作用極2,対極3および参照極4が設けられ、各極はそれぞれ、電気化学作用を行う反応部20、30、40と外部回路へ接続される端子部21,31,41からなり、各極の反応部20,30,40およびその間を覆って、固体電解質層6が設けられている。
固体電解質層6は、全体が一様な厚さになるように各反応部20等を薄く覆っており、固体電解質層6の上面は平坦になっている。したがって、検出ガス等は固体電解質層6を通過して作用極の反応部20上に拡散し、電気化学反応を起こすことになる。
上記ガスセンサは、絶縁基板1の同一面に全ての電極2,3,4が設けられているので、電極や固体電解質層の形成を、プレーナ技術等のマイクロ加工技術を利用して、極めて能率良く加工でき、センサの小型化、高性能化を図れる等、多くの優れた特徴を有している。
なお、上記ガスセンサの場合、電極材料として通常用いられる白金、金、イリジウム等の金属と絶縁基板との接合性がそれほど良くなく、電極が絶縁基板と剥離して、感度や出力が低下するという問題がある。特に、微細な電極パターンを形成するために、表面の平滑なガラス基板等を用いた場合には、上記のような電極剥離が生じ易い。そのため、第4図に示すように、白金等の金属からなる電極2(または3,4)と絶縁基板1の間に、電極2…および絶縁基板の何れにも接合性の良い、クロム、チタン等の金属からなる薄い中間接合層5を設けることによって、電極と絶縁基板との接合力をより高めている。
〔発明が解決しようとする課題〕
ところが、上記した電気化学式センサの場合、電極2…が固定電解質層6で覆われているため、中間接合層5も固体電解質層6と接触することになる。
そうすると、従来の中間接合層5は、比較的抵抗の小さなクロム等の金属材料からなるので、センサの動作中の中間接合層5にも電流が流れ、電池効果によって、第4図4図に示すように、中間接合層5が固体電解質層6中に溶出してしまう。この溶出材料は作用極2等における検出成分の反応を阻害して、センサの感度低下や誤動作を起こすとともに、中間接合層5が溶けてしまうと、電極の剥離を起こしてしまう場合もある。
そこで、この発明の課題は、中間接合層の溶出を防止して、センサの感度低下を防ぐとともに、電極の剥離を防止することにある。
なお、上記説明はすべて、ガスセンサについて行ったが、上記ガスセンサの構造は、作用極で反応を起こさせる検出対象を液体中にイオンにすればイオンセンサに適用できる等、種々の用途における電気化学式検知に同様に適用できるものであるので、この発明は、ガスセンサを含めたセンサ一般を対象とする。
〔課題を解決するための手段〕
上記課題を解決するため、この発明は、絶縁基板と電極の間に高抵抗の中間接合層を設けるとともに、中間接合層と電極の界面に、中間接合層の材料と電極の金属材料とからなる金属化合物層が形成されるようにしている。
〔作用〕
このように、中間接合層と電極の界面に金属化合物層が形成されることによって、中間接合層と電極とが化学的に結合されることになり、両者の接合力は非常に大きくなり、結果として、電極を絶縁基板に対して強固に接合できることになる。
また、中間接合層が高抵抗であることによって、センサを作動させても、中間接合層には電流が流れず、電池効果を生じることがないため、中間接合層の溶出を確実に防止できる。
〔実施例〕
つぎに、この発明を、実施例を示す図面を参照しながら、以下に詳しく説明する。
第1図は、この発明にかかるガスセンサの断面構造を示しており、矩形の絶縁基板1の上に、電極として作用極2,対極3および参照極4が設けられ、各極2…の電気化学作用を行う反応部が固体電解質層6で覆われている。なお、各極2…の配置や形成パターンは、前記した従来例等、通常のガスセンサと同様の構造で実施されるので、詳細な説明は省略する。
各電極2…と絶縁基板1の間には、中間接合層5が設けられている。中間接合層5は各電極2…の位置のみに設けられていてもよいが、通常は図示したように、絶縁基板1の全面に設けられる。中間接合層5と電極2…の界面部分には、中間接合層5の材料と電極2…の金属材料からなる金属化合物層50が形成されている。
第2図には、上記のようなガスセンサの製造法の一例を、工程順に示している。
まず、絶縁基板1は、アルミノ珪酸塩ガラスが好適に使用されるが、ホウ珪酸ガラス、石英ガラス等のガラス基板、アルミナ等のセラミックス基板等も使用でき、さらにシリコンや適宜金属等の導電性材料の上に、酸化シリコン等の絶縁性膜が形成されたもの等、通常のガスセンサあるいは電子回路素子用の絶縁基板材料が使用できる。
この絶縁性基板1の上に、多結晶シリコン等からなる高抵抗の中間接合層5が形成される〔工程(a)〕。具体的には、例えばシリコンをターゲットにした高周波スパッタ法によって、膜厚500Å程度の多結晶シリコンの薄膜が形成される。このときの基板温度は300℃程度が好ましい。このようにして得られた多結晶シリコンからなる中間接合層5の比抵抗は約109〜1010Ωcm程度となる。
但し、中間接合層5は、上記多結晶シリコンのほか、通常の電子回路素子等に用いられる、各種の高抵抗、すなわち絶縁性の材料でも実施でき、具体的には、中間接合層5の比抵抗が109Ωcmのものが好ましい。中間接合層5の形成法は、使用する材料に応じて適当な方法が用いられ、その厚みも適宜に変更することができる。
次に、中間接合層5の上の全面にわたって、白金からなる電極層2′が、上記同様の高周波スパッタ法によって、5000Åの厚みで形成される〔工程(b)〕。このときの基板温度は200℃程度が好ましい。但し、電極層2′の材料が異なれば、基板温度も変わる。
このように、多結晶シリコンからなる中間接合層5の上に、高周波スパッタ法で白金の電極層2′を形成すると、スパッタ中の高エネルギー粒子等によるシリコン表面の加熱によって、白金と下地のシリコンとの間に低温固相反応が起き、電極相2′と中間接合層5の界面に、白金とシリコンの金属化合物層50が数10Åの厚みで形成される。
このような金属化合物層50が形成されると、中間接合層5と電極層2′とが金属化合物層50を介して化合物に結合することになるので、接合力が非常に大きくなる。金属化合物層50の厚みは、10〜1000Åで実施できるが、上記接合力の強化を果たせれば、なるべく薄いほうが良い。
電極層2′の材料としては、白金のほかにも、センサの用途や構造に応じて、金、銀、イリジウム等の通常の電極用金属材料が使用でき、その厚みも適宜設定される。電極層2′の形成方法としても、高周波スパッタ法のほか、電子ビーム蒸着法等の通常の各種薄膜形成手段が採用できる。
金属化合物層50は、上記した白金の高周波スパッタ法による電極層2′の形成と同時に形成する方法のほか、中間接合層5の上に電極層2′となる白金を堆積させた後、300℃程度の温度で熱処理する方法や、中間接合層5の上に白金とシリコンの金属化合物をスパッタリング等の手段で堆積して、金属化合物50を形成する方法等も採用できる。また、白金とシリコンの場合だけでいなく、その他の材料や製造法でも、金属化合物層50を形成することができる。
つぎに、電極層2′の上に、フォトレジストを塗布した後、通常のフォトリソグラフィ工程にしたがって、フォトレジストを露光、エッチンヂして、電極パターンに対応したフォトレジスト層90を形成する〔工程(c)〕。
パターン化されたフォトレジスト層90をマスクとして、アルゴンのイオンビームを用いて各電極2,3,4をエッチング形成する〔工程(d)〕。このときの加工条件は、例えば加速電圧800V、イオンガン電流600mA、ビーム入射角0°、エッチング時間約20分で実施する。この工程で、電極層2′と同時に、下方の金属化合物層50もエッチングされる。但し、中間接合層5については、そのまま残っていてもよい。
電極2…を形成するためのエッチング法は、上記イオンビームエッチング法のほか、通常の電極形成に用いられている、スパッタエッチング、プラズマエッチング等のドライエッチングや湿式エッチング法まるいはこれらの方法を組み合わせて実施することもできる。
次に、フォトレジスト層90を除去する〔工程(e)〕。その後、各電極2…の上にスルホン化フルオロカーボン等の固体電解質層6をソルーションキャスティング法等により堆積させて固化させる〔工程(f)〕。固体電解質層6の厚みは1〜10μm程度で実施される。
以上のような工程を経て、製造されたガスセンサは、第1図に示すように、絶縁基板1の上の全面に、中間接合層5が設けられ、その上に金属化合物層50を介して、各電極2…が設けられてあり、これらの電極2等を固体電解質層6が覆っている。なお、各電極2…には、白金黒を着けたり、酸化処理等の活性化処理を施しておいてもよい。
固体電解質層6は、例えばスルホン化パーフルオロカーボン(商品名Nafion:デュポン社製)等のガス透過性高分子固体電解質が使用されるが、その他、通常のガスセンサ等に用いられている各種の固体電解質が使用でき、例えば、Sb2O5・4H2O・Zr(HPO4)2・4H2O等も使用できる。
図示した実施例では、固体電解質層6が、各電極2…の全体を覆うように設けられているが、各電極2…の電気化学作用に関与する、反応部の間のみを固体電解質層6で覆うようにしてもよい。
電極2…の形成法は、上記したフォトリソグラフィーによる方法のほか、マスク蒸着法のように、電極2…を電極パターンにしたがって直接堆積させて形成する方法等、通常の各種プレーナ技術を利用して形成する方法もある。
前記した製造工程では、電極2と金属化合物層50のみを同時にエッチングし、中間接合層5をエッチングする工程を省いている。従来のように、抵抗の小さな金属からなる中間接合層の場合には、電極2,3,4同士の短絡を防ぐために、中間接合層もエッチングして、電極2…毎に分離しておかなければならないが、この発明では、中間接合層5の抵抗が高いので、中間接合層5が絶縁基板1全体に残っていても構わない。
但し、各電極2…間の絶縁性をさらに高める必要がある場合には、中間接合層5も電極2…毎にエッチング処理して分離すれば良い。このように、中間接合層5を電極2…毎に分離して、各極2…間の絶縁性を高めておくと、ガスセンサの構造や用途によって、検出電流が非常に微小である場合にもセンサの信頼性、安定性、S/N比等の性能を確保することができる。
さらに、上記した各実施例において、固体電解質層6の上に、ガス選択透過性フィルタを設けておけば、目的の検出ガスを選択的に固体電解質層6あるいは作用極2側に送り込め、検出精度を一層高めることができる。さらに、固体電解質層6の上に水溜層を設けることによって、感度を向上させることができる。
その他、この発明の要旨を変更しない限り、通常のガスセンサに採用されている各種の構造あるいは形状を組み合わせて実施できる。
さらに、上記した各実施例は、何れもガスセンサに関して説明したが、同様の構成で液体中のイオン成分に反応するイオンセンサ、バイオセンサ等の各種電気化学式センサに適用することもできる。なお、液体中で使用する場合には、固体電解質はガス透過性でなくてもよい等、用途に応じて適宜構造に変更して実施する。
〔発明の効果〕
以上に説明した、この発明は金属化合物層によって、電極金属と中間接合層とを強固に接合できることになる。中間接合層と絶縁層とは、もともと十分な接合力を有しているので、結果として、電極金属が絶縁層に対して強固に接合されることになる。したがって、センサの信頼性を高め、安定した性能を長期にわたって発揮でき、寿命を大幅に延長することができる。
特に、高密度の微細な電極パターンを形成するために、平滑な絶縁基板を用いた場合でも、高い接合力を有し、従来のような電極剥離が起こらず、センサとして優れた性能を維持できる。
しかも、中間接合層が高抵抗であることによって、固体電解質層に接触していても、センサの動作中に電池効果で溶出する心配がまったく無い。したがって、溶出材料が検出反応を阻害してセンサの性能低下を招く問題は生じず、センサの信頼性、安定性を高めることができると同時に、中間接合層が溶出して電極剥離を起こす問題も起こらない。
【図面の簡単な説明】
第1図はこの発明にかかるガスセンサの模式的断面図、第2図は製造工程を順次示す工程断面図、第3図は従来例の斜視図、第4図は電極部分の要部断面図である。
1……絶縁基板、2,3,4……電極、5……中間接合層、50……金属化合物層、6……固体電解質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】絶縁基板の同一面上に複数の電極が設けられ、少なくとも各極の反応部の間を覆って固体電解質層が設けられた電気化学式センサにおいて、絶縁基板と電極の間に高抵抗の中間接合層が設けられているとともに、中間接合層と電極の界面に、中間接合層の材料と電極の金属材料とからなる金属化合物層が形成されていることを特徴とする電気化学式センサ。

【第1図】
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【第3図】
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【第2図】
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【第4図】
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【特許番号】第2501856号
【登録日】平成8年(1996)3月13日
【発行日】平成8年(1996)5月29日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭63−42848
【出願日】昭和63年(1988)2月24日
【公開番号】特開平1−216257
【公開日】平成1年(1989)8月30日
【出願人】(999999999)松下電工株式会社
【参考文献】
【文献】特開平1−32161(JP,A)
【文献】特開平1−88245(JP,A)
【文献】特開平1−88354(JP,A)