説明

電気化学測定装置用電極、電気化学測定装置およびバイオセンサ用電極

【課題】 白金およびパラジウムと同様に溶液に含まれる特定成分に対して電流出力を生じさせることができ、安価でかつ耐久性に優れた安価な電極を提供する。
【解決手段】溶液中の特定成分の濃度を測定する電気化学測定装置3に用いられる作用電極9(電気化学測定装置用電極1)は、パラジウムとニオブを含む合金が用いられており、作用電極9は溶液中に含まれる過酸化水素を検出可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学測定装置用電極、電気化学測定装置用電極を用いた電気化学測定装置、およびバイオセンサ用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
多種多様な溶液に含まれる各種成分の分析は、電極表面で生じる電気化学反応を測定する方法や、同反応と特定のタンパク質が持つ触媒反応とを組み合わせた測定方法が広く用いられている。
【0003】
前述の例としては、洗浄液等に使用されている溶液中の過酸化水素濃度は、カーボン電極、あるいは白金等の貴金属電極を用い、印加時に得られる過酸化水素の酸化電流値を測定することによって算出することができる。
【0004】
この理由は印加時に過酸化水素の濃度に応じた酸化電流が発生するためである。
【0005】
後述の例としては、溶液中の化学物質を酵素の触媒機能により、過酸化水素に変換し、この過酸化水素を酸化還元反応により計測するバイオセンサが汎用化している。
【0006】
具体的には、グルコースバイオセンサの場合、グルコースをグルコースオキシダーゼによって酸化すると、グルコノラクトンと過酸化水素が生成される。
【0007】
生成される過酸化水素はグルコース濃度に比例することから、この過酸化水素の生成量を測定することによって試料中のグルコース量を定量することが可能になる。
【0008】
この過酸化水素の生成量は、前述したように電極表面で生じる電気化学反応を測定することによって算出されている。
【0009】
ここで、この種の電極においては、過酸化水素に対する酸化能力の高い材料として貴金属が使用される場合が多い。
【0010】
例えば特許文献1の図1に示されている電極材料は、白金が好ましく用いられると記載されている(特許文献1)。
【0011】
また、非特許文献1のFigure2に示されている作用極の材料は白金であり、両電極共に、過酸化水素に対する印加後の電流値を測定することによってグルコース量を測定するものであった(非特許文献1)。
【0012】
さらに、非特許文献2で公開されている電極材料は酸化イリジウムである(非特許文献2)。
【0013】
また、その他のこの種の電極としては、イリジウム−ニッケル合金が用いられている(特許文献2)。
【0014】
一方、特許文献3には、溶液中の過酸化水素濃度を測定する電極として、パラジウムが用いられる旨が開示されている(特許文献3)。
【0015】
さらに、特許文献4においては、パラジウムやニオブ,およびこれらの酸化物が電極材料として記載されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2001−116716号公報
【特許文献2】特開2010−060375号公報
【特許文献3】特開平05−072160号公報
【特許文献4】米国特許7476827号明細書
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】G.Piechotta,J.Albers and R.Hintsche”,Novel micromachined silicon sensor for continuous glucose monitoring”,Biosensors and Bioelectronics,Volume21,Issue5, Elsevier B.V,(Netherlands),15 novemember 2005,p.802-808
【非特許文献2】Faming Tian and Guoyi Zhu,”Sol-gel derived iridium composite glucouse biosensor”,Sensors and Actuators B:Chemical,Elsevier B.V, (Netherlands),Volume86,September 2002,p.266-270
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特許文献1、非特許文献1のような白金を用いた電極は、過酸化水素の検出用電極およびそれを用いた電気化学測定装置やバイオセンサ用の電極としては有用である。
【0019】
しかしながら、白金を電極材料に用いて製作された電流検出型の過酸化水素センサの場合においては、白金は希少金属であるために、非常に高価になってしまうという問題があった。
【0020】
一方で、非特許文献2や特許文献3のように、イリジウムやパラジウムを電極材料に用いた場合、白金よりも安価であるものの、さらにコストを下げる工夫が要求されている。
【0021】
また、特許文献2のイリジウム−ニッケル合金は、イリジウム単体よりも安価ではあるものの、電流検出型の過酸化水素センサもしくはバイオセンサは過酸化水素の酸化力が白金よりも劣るという問題がある。
【0022】
さらに、特許文献4では、パラジウムやニオブ、これらの酸化物や合金を電極材料に用いることができる旨は記載さているが、特性については全く記載されていない。このため、これらの材料が電流検出型の過酸化水素センサもしくはバイオセンサに適用できるかどうかは全く不明である。
【0023】
本発明は上記理由に鑑みてなされたものであり、その目的は、白金およびパラジウム電極の代替となる電気化学測定装置用電極を提供することである。
【0024】
より詳しくは、白金ならびにパラジウムと同等、もしくはそれ以上に過酸化水素に対して高い電流出力を生じさせることができる電極材料を用いて製作される電気化学測定装置用電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
前述した目的を達成するために、本発明の第1の態様は、パラジウムとニオブとを、過酸化水素に対して電流出力を生じさせることが可能な組成となるように含有した合金で構成されていることを特徴とする電気化学測定装置用電極である。
【0026】
本発明の第2の態様は、第1の発明に記載の電気化学測定装置用電極を有することを特徴とする電気化学測定装置である。
【0027】
第3の発明は、第1の発明に記載の電気化学測定装置用電極の表面に、固定化触媒層を設けてなることを特徴とするバイオセンサ用電極である。
【0028】
第4の発明は、第3の発明に記載のバイオセンサ用電極を有することを特徴とするバイオセンサである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、白金およびパラジウム電極の代替となる電気化学測定装置用電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】電気化学測定装置3を示す模式図である。
【図2】図2(a)は、バイオセンサ3aを示す模式図であって、図2(b)は、図2(a)の作用電極9a(バイオセンサ用電極4)の縦断面図を示す図である。
【図3】バイオセンサ3bを示す模式図である。
【図4】図3のバイオセンサ用電極4aのA方向から見た断面図である。
【図5】実施例1の実験結果を示す図である。
【図6】実施例1の実験結果を示す図である。
【図7】実施例2の実験結果を示す図である。
【図8】実施例4の実験結果を示す図である。
【図9】実施例5の実験結果を示す図である。
【図10】実施例6の実験結果を示す図である。
【図11】実施例7の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面に基づいて本発明に好適な実施形態を詳細に説明する。
【0032】
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施形態に係る電気化学測定装置用電極1を有する電気化学測定装置3の構成を説明する。
【0033】
ここでは、電気化学測定装置3として、溶液15中に含まれる特定成分としての過酸化水素の濃度を測定する電気化学測定装置が例示されている。
【0034】
図1に示された電気化学測定装置3は、溶液15中の過酸化水素を酸化する作用電極9(電気化学測定装置用電極1)、電位の基準となる電極である参照電極5、および必要に応じて設けられる対極7を有している。
【0035】
さらに、電気化学測定装置3は、測定の際の電位の印加等の制御および酸化電流を計測して過酸化水素濃度の測定を行う測定装置13、各電極と測定装置13を接続する配線11を有している。
【0036】
電気化学測定装置3は、作用電極9、対極7、参照電極5を過酸化水素を含む溶液15中に浸漬し、測定装置13を介して例えば定電位を印加し、作用電極9の表面で過酸化水素が酸化される際に得られる酸化電流の値を測定することにより、溶液15中の過酸化水素濃度を測定する装置である。
【0037】
即ち、電気化学測定装置3は、電流検出方式により、溶液中の過酸化水素の濃度を測定する。
【0038】
ここで、前述の通り、作用電極9は、白金ならびにパラジウムと同様に過酸化水素に対して効率よく電流出力を生じさせることができ、安価な材料であることが望ましい。
【0039】
上記問題に対して、発明者らは鋭意検討の結果、電極に、パラジウムとニオブを含み、かつ、パラジウムとニオブとを、過酸化水素に対して電流出力を生じさせることが可能な組成となるように含有した合金を用いることにより、白金やパラジウムのみを用いた電極よりも安価な電極とすることが可能であることを見出した。
【0040】
以下、合金中の各物質についてより詳細に説明する。
パラジウムは、過酸化水素に対する高い酸化力を有し、かつ従来の作用電極の材料として用いられる白金と比べて、安価で加工性に優れた材料であり、溶液15中の過酸化水素を酸化するために必須である。
【0041】
ニオブは白金やパラジウムと比べて安価な元素であり、また、パラジウムと特定の割合で合金化することにより、当該合金が過酸化水素に対する酸化力を有するため、必須である。
【0042】
ここで、合金中のパラジウムとニオブの含有率は、原子比率が90:10〜60:40の範囲であることが望ましく、79:21〜69:31の範囲であることがより望ましい。
【0043】
上記組成範囲外では、十分な過酸化水素に対する選択性が得られなくなるという問題を生じる。
【0044】
この原因はパラジウムとニオブの比率によって、合金の結晶構造や結晶方位が異なるためと考えられる。
【0045】
即ち、合金の結晶構造や結晶方位が異なると、過酸化水素を酸化する分子レベルの部位が異なるため、過酸化水素の酸化力が変動するものと考えられる。
【0046】
さらに、電極を構成する合金には、パラジウムとニオブの原子比率が3:1であり、結晶構造がD22型である化合物を含有させるのが特に望ましい。これは、このような化合物を合金に含有させることにより、特定電位の印加時において、過酸化水素などの電極活物質を酸化もしくは還元する作用、すなわち触媒機能が向上する作用が生じるためである。このような作用が生じる原因としては、これらの電極活物質を酸化もしくは還元する合金の反応部位が、この結晶構造において、最も高密度(全体面積に占める反応部位の面積)になるからである。この結果、これらの電極活物質から効率的かつ大きな酸化還元電流が得られるようになり、S/N比の高い電極を構築することが可能になる。
なお、合金をパラジウムとニオブのみで構成してもよい。
【0047】
上記合金は、例えばアーク放電法、蒸着法、スパッタリング法によって製造されるが、材料を無駄なく利用できる点において、アーク放電法によって製造されるのが好ましい。
【0048】
なお、参照電極5としては公知の電極を用いることができ、例えばガラス複合電極が用いられる。
また、対極7としても公知の電極を用いることができ、例えば白金電極が用いられる。
【0049】
ここで、電気化学測定装置3を用いた、溶液15中の過酸化水素の濃度の測定方法について詳細に説明する。
【0050】
まず、作用電極9、対極7、参照電極5を、過酸化水素を含まない溶液15中に浸漬する。
【0051】
各電極が溶液15中に浸漬されると、測定装置13を用いて定電位を印加し、電流値が定常状態になってから過酸化水素を添加する。
【0052】
電位の印加により、作用電極9の表面では過酸化水素が酸化され、酸化電流が生じる。
【0053】
測定装置13は定常状態の電流値から酸化電流の差を元に、溶液15中の過酸化水素濃度を算出する。
【0054】
溶液15に過酸化水素が添加された溶液としては、例えば食品製造に用いられる洗浄液が該当する。
なお、測定方法は上記した定電位測定に限定されるものではない。
【0055】
即ち、定電位測定の他にも、サイクリックボルタンメトリ測定、パルスボルタンメトリ測定、方形波ボルタンメトリ測定などを用いることができる。
【0056】
ただし、上記方法の中では、定電位測定が好ましい。これは定電位状態での酸化電流を測定する場合、過酸化水素に対する応答時間が速く、短時間で電流値を測定できるからである。
【0057】
このように、第1の実施形態によれば、電気化学測定装置3は、作用電極9、対極7、参照電極5、測定装置13を有し、作用電極9は、パラジウムとニオブを含み、かつ、パラジウムとニオブとを、過酸化水素に対して電流出力を生じさせることが可能な組成となるように含有した合金が用いられている。
【0058】
そのため、作用電極9は、白金やパラジウムのみを用いた電極よりも安価であり、白金、パラジウム電極の代替電極として用いることができる。
【0059】
次に、第2の実施形態について、図2を参照して説明する。
第2の実施形態は、第1の実施形態において、作用電極9aを、表面が触媒機能を有する固定化触媒層6で覆われたバイオセンサ用電極4とし、装置全体をバイオセンサ3aとしたものである。
【0060】
なお、第2の実施形態において、第1の実施形態と同様の効果を奏する要素については同一の番号を付し、説明を省略する。
【0061】
図2(a)に示すように、バイオセンサ3aの構成は電気化学測定装置3と同様であるが、表面が固定化触媒層6で覆われた作用電極9a(バイオセンサ用電極4)を有している。
【0062】
さらに、バイオセンサ3aは、測定の際の電位の印加等の制御および酸化電流を計測して、測定対象物質の濃度を測定する測定装置13aを有している。
【0063】
図2(b)に示すように、バイオセンサ用電極4は、電気化学測定装置用電極1と、電気化学測定装置用電極1の表面に設けられた固定化触媒層6を有している。
【0064】
電気化学測定装置用電極1の構造、組成は、第1の実施形態に係る電気化学測定装置用電極1と同様であり、パラジウムとニオブを含み、かつ、パラジウムとニオブとを、過酸化水素に対して電流出力を生じさせることが可能な組成となるように含有した合金が用いられている。
【0065】
固定化触媒層6は、例えば固定化酵素層、固定化抗体層、(固定化)DNA層、(固定化)RNA層である。
【0066】
固定化酵素層は、測定対象物質を過酸化水素に変換する酵素を含む層である。
【0067】
固定化触媒層6が固定化酵素層の場合、バイオセンサ3aは、固定化触媒層6の酵素が測定対象物質を過酸化水素に変換し、得られた過酸化水素が電気化学測定装置用電極1の表面で酸化される際に生じる酸化電流を測定することにより、溶液15a中の測定対象物質の濃度を測定することができる。
【0068】
即ち、バイオセンサ3aは、電流検出方式により、溶液中の過酸化水素の濃度を測定することにより、溶液中の測定対象物質の濃度を測定することができる。
【0069】
酵素としては、測定対象物質の触媒反応の生成物として過酸化水素を生成する、または酸素を消費する酵素である必要があり、測定対象物質に応じて乳酸酸化酵素、グルコース酸化酵素、尿酸酸化酵素、アルコール酸化酵素等の酸化酵素が用いられる。
【0070】
また、2種類以上の酵素を同時に用いてもよい。例えば、クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、およびサルコシンオキシダーゼがこれに該当する。
【0071】
これらの酵素を用いることによってクレアチニンの検出が可能になる。
さらに、酵素と補酵素を同時に用いる方法も適用できることは言うまでもない。
【0072】
まず、固定化触媒層6として酵素を用いる場合、固定化触媒層2を固定する方法としては、酵素をアルブミン等のタンパク質とグルタルアルデヒド等の架橋剤を用いて固定化する方法が好ましく使われる。
【0073】
また、酵素を固定化する前に、パラジウム−ニオブ合金の表面をシランカップリング剤などで表面を処理しておき、酵素の固定化強度を高めてもよい。
【0074】
シランカップリング剤の種類としては、アミノシラン、ビニルシラン、エポキシシランが挙げられるが、このうち、密着性の観点から、アミノシランの一種であるγ−アミノプロピルトリエトキシシランが好ましい。処理方法は電極の形状を考慮するとデップコート法やスプレーコート法などが好ましい。
【0075】
一方、固定化触媒層6として抗体を用いる場合、抗体としては、ダイオキシン抗体、内分泌攪乱物質、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)、残留農薬の抗体が好ましく用いられるが、これ以外の抗体も使用可能である。
【0076】
抗体の固定化方法は特に限定されないが、合金表面にカルボキシル基やアミノ基を導入後、カルボジイミドとN−ヒドロキシスクシンイミドで両基を活性化させた後抗体を固定化する方法が好ましく使われる。
【0077】
具体的に説明すると、まず、パラジウム−ニオブ合金の表面をアミノ基を持ったシランカップリング剤で処理を施し、アミノ基を導入する。密着性の観点からは、アミノシランの一種であるγ−アミノプロピルトリエトキシシランを用いるのが好ましい。その後、カルボジイミドとN−ヒドロキシスクシンイミドでこのアミノ基を活性化した後、抗体を固定化する。
【0078】
その他の抗体の固定化方法としてはパラジウム−ニオブ合金の表面をチオール基とカルボン酸から主としてなるカルボキシチオールなどで処理を施し、カルボキシル基を導入する。その後、同様にカルボジイミドとN−ヒドロキシスクシンイミドでこのアミノ基を活性化した後、抗体を固定化する方法が挙げられる。
【0079】
測定方法は第1の実施形態で挙げた方法と同様の測定方法を用いることができる。
【0080】
また、ボルタンメトリ法としてはノーマルパルスボルタンメトリ法、微分パルスボルタンメトリ法等を用いても良いし、あるいはサイクリックボルタンメトリ法を用いてもよい。
【0081】
ただし、高い測定精度を得られるという点で方形波ボルタンメトリ法が好ましい。
これは、抗体内に含まれる電極活性物質を高感度に測定できるからである。
【0082】
また、その他の測定方法としては、予め、電極活性物質を測定前の溶液中に加えておき、抗原抗体反応によって生じる電極表面への電極活性物質の低下量を、酸化還元電流として測定する方法もある。
【0083】
なお、前述のように、固定化触媒層2は、酵素を含む場合、測定対象物質を過酸化水素に変換する機能を持つ構成を、抗体を含む場合、特定の印加電位において電子の授受が発生し、出力として電流値を生じる構成を、また、抗原抗体反応によって電極活性物質の電極表面への透過量が低下する構成を、それぞれ有するものであれば、特に限定されない。
【0084】
一方、固定化触媒層2として(固定化)DNA層、(固定化)RNA層を用いる場合、DNA/RNAは特に限定されず、DNAもしくはRNAアプタマーが好ましい。
【0085】
これは、DNAもしくはRNAアプタマーに人工的に電極活性物質を修飾できるからである。
【0086】
電極活性物質としてはインターカレータであるフェロセン化ナフタレンジイミド(ferrocenylnaphthalene diimide)、キナクリン(qunacrine)、アクリジンオレンジ(acridine orange)、プロフラビン(proflavine)、メチレンブルー(methylene blue)、エチジウムブロマイド(ethidium bromaide)、ドーノマイシン(duanomycin)、ドーノルビシン(daunorubicin)、ポリインターカレータであるエチノマイシン(echinomycin)、溝結合試薬であるヘキスト(Hoechest 33258, Hoechest 33342)、Dapi(4’,6−Diamidino−2−phenylindole, dihydrochloride),ディスタマイシン(distmycin)に結合する金属錯体誘導体、Co(phen)33+, Ru(bpy)32+などが挙げられ、また、共有結合的に電気化学活性物質を結合させたものを利用することも可能である。
【0087】
これらの電極活性物質を人工的に修飾したDNAもしくはRNAアプタマーは電気化学測定装置用電極1の表面に固定化される。
【0088】
固定化に際しては直接これらのアプタマーを電極表面に接触させもよいが、電極活性物質が修飾されていない方のアプタマーの末端にチオール基を新たに修飾して、このチオール基を介してこれらのアプタマーを電極表面に固定化してもよい。
【0089】
このようにして作製したバイオセンサ用電極4を作用極として用いることによって、これらの電極活性物質の酸化電流を高感度で測定することが可能になる。
【0090】
その結果、DNAもしくはRNAアプタマーのバイオセンサとして、これらのアプタマーのアナライトを高感度で検出することが可能になる。
【0091】
ここで、バイオセンサ3aを用いた溶液15a中の測定対象物質の濃度の測定方法について詳細に説明する。
【0092】
まず、作用電極9a、対極7、参照電極5を、測定対象物質を含まない溶液15a中に浸漬する。
【0093】
ここで、固定化触媒層6が固定化酵素層の場合は、各電極が溶液15a中に浸漬されると、測定装置13aを介して定電位を印加し、定常状態になってから測定対象物質を添加する。
【0094】
各電極が測定対象物質が添加された溶液15a中に浸漬されると、溶液15a中の測定対象物質は作用電極9aの固定化酵素層と接触し、触媒反応により、過酸化水素に変換される。
【0095】
得られた過酸化水素は、電位の印加により、作用電極9aの電気化学測定装置用電極1の表面で酸化され、酸化電流が生じる。
【0096】
測定装置13aは酸化電流から定常状態の電流値の差から過酸化水素濃度を算出する。
【0097】
さらに、測定装置13aは測定した過酸化水素濃度をもとに、溶液15a中の測定対象物質の濃度を測定する。
【0098】
固定化触媒層2が固定化抗体層の場合は、各電極が溶液15a中に浸漬されると、抗体と測定対象物質が反応するため、測定装置13aを介して、例えば方形波ボルタンメトリ法にて、反応により得られる電流値を測定し、電流値をもとに、溶液15a中の測定対象物質の濃度を測定する。
【0099】
このように、第2の実施形態によれば、バイオセンサ3aは、作用電極9a、対極7、参照電極5、測定装置13aを有し、作用電極9aの電気化学測定装置用電極1は、パラジウムとニオブを含む合金が用いられており、上記合金は過酸化水素に対して電流出力を生じさせることが可能な組成となっている。
そのため、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
【0100】
次に、第3の実施形態について図3および図4を参照して説明する。
第3の実施形態におけるバイオセンサ3bは、第2の実施形態において、電気化学測定装置用電極1を絶縁基板23上に設け、電気化学測定装置用電極1と固定化触媒層6の間に結合層24をさらに設けて作用電極25a(バイオセンサ用電極4a)を構成したものである。
【0101】
図3および図4に示すように、作用電極25a(バイオセンサ用電極4a)は絶縁基板23、絶縁基板23の表面に設けられた電気化学測定装置用電極1を有している。
【0102】
また、図4に示すように、作用電極25a(バイオセンサ用電極4a)は、図4における電気化学測定装置用電極1の上方に固定化触媒層6が設けられている。
【0103】
さらに、作用電極25aは、電気化学測定装置用電極1と固定化触媒層6の間に設けられ、かつ電気化学測定装置用電極1を覆うように絶縁基板23および電気化学測定装置用電極1上に設けられた結合層24を有している。
結合層24上には、固定化触媒層6が設けられている。
【0104】
なお、電気化学測定装置用電極1、固定化触媒層6、結合層24で電極部10を構成している。
【0105】
絶縁基板23は電極部10を保持する部材であり、耐水性、耐熱性、耐薬品性、絶縁性および電気化学測定装置用電極1との密着性に優れた材料であることが好ましい。
【0106】
このような要件を満たす材料としては、例えばセラミックス、ガラス、石英、プラスチックスが挙げられる。
【0107】
結合層24は、固定化触媒層6と絶縁基板23および電気化学測定装置用電極1との密着性(結合性)を向上させるために設けられるものである。
【0108】
また、結合層24は、絶縁基板23の表面のぬれ性を改善し、固定化触媒層6を形成する際の膜厚の均一性を向上させる効果も有している。
【0109】
結合層24を構成する材料としては、例えばシランカップリング剤が挙げられる。
シランカップリング剤の種類としては、アミノシラン、ビニルシラン、エポキシシランが挙げられるが、このうち、密着性の観点から、アミノシランの一種であるγ−アミノプロピルトリエトキシシランがより好ましい。
【0110】
結合層24は例えばシランカップリング剤溶液をスピンコートすることにより絶縁基板23および電気化学測定装置用電極1上に形成することができる。
【0111】
この際、シランカップリング剤濃度は1v/v%(体積/体積%)程度とすることが好ましい。この濃度であれば、アルコキシル基が十分に水和し、十分な密着性が発揮されるからである。
【0112】
なお、図4では一枚の絶縁基板23上に1つの電極部10が設けられているが、一枚の絶縁基板23上に複数の電極部10を設けてもよい。
【0113】
また、図3では対極7および参照電極5も別々の絶縁基板23上に形成されているが、全ての電極を一枚の絶縁基板23上に形成してもよい。
【0114】
ここで、作用電極25aの製造方法について、簡単に説明する。
まず、絶縁基板23上に、電気化学測定装置用電極1を蒸着法、またはスパッタリング法等を用いて設ける。
【0115】
次に、絶縁基板23および電気化学測定装置用電極1上に、電気化学測定装置用電極1を覆うようにして結合層24をスピンコートにより設ける。
【0116】
次に、結合層24上に、酵素溶液、グルタルアルデヒド等の蛋白質の架橋剤、およびアルブミンを含む溶液を、滴下することにより固定化触媒層6としての固定化酵素層が形成され、作用電極25aが完成する。
【0117】
なお、バイオセンサ3bを用いた、溶液中15a中の測定対象物質の濃度の測定方法については、第2の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0118】
このように、第3の実施形態によれば、バイオセンサ3bは、作用電極25a、対極7、参照電極5、測定装置13aを有し、作用電極25aの電気化学測定装置用電極1は、パラジウムとニオブを含む合金が用いられており、上記合金は過酸化水素に対して電流出力を生じさせることが可能な組成となっている。
そのため、第2の実施形態と同様の効果を奏する。
【0119】
また、第3の実施形態によれば、作用電極25aは、電気化学測定装置用電極1を絶縁基板23上に設け、電気化学測定装置用電極1と固定化触媒層6の間に結合層24をさらに設けた構造を有している。
【0120】
そのため、第2の実施形態と比較して、固定化触媒層6と電気化学測定装置用電極1との密着性(結合性)を向上させることができ、また、固定化触媒層6を形成する際の膜厚の均一性を向上させることができる。
【実施例】
【0121】
次に、具体的な実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
【0122】
(実施例1)
図1に示す電気化学測定装置3をパラジウム−ニオブ合金の電極を用いて作製し、指示電解質溶液に対するサイクリックボルタンメトリ測定を行い、パラジウムおよびニオブのみで構成された電極を用いた場合と比較した。
【0123】
まず、作用電極9(電気化学測定装置用電極1)の製作を以下のように行った。
はじめに、パラジウムワイヤー(フルウチ化学社製)とニオブワイヤー(フルウチ化学社製)を用意し、アーク放電によってパラジウム−ニオブ合金を製作した。
【0124】
具体的には、パラジウムとニオブの原子比率が100:0、90:10、79:21、75:25、69:31、60:40、0:100の7種類のサンプルを製造した。
【0125】
次に、製造したサンプルを、プリント配線が施されたフレキシブル基板に接着剤を用いて固定化し、ワイヤボンデングによって結線した後、信越化学社製のシリコーン封止剤で防水処理を施し、作用電極9(電気化学測定装置用電極1)とした。
なお、作用電極9の電極面積は36−39mmとした。
【0126】
次に、参照電極5として既存のガラス複合電極(東亞ディーケーケー(株)社製、GST−5741C)を用意し、対極7として既存の白金電極(BAS社製、002233)を用意した。
【0127】
次に、溶液15として、指示電解質溶液(100mM(100mol/m)のエヌ−トリス(ハイドロキシ−メチル)−メチル−2−アミノエタンサルフォニックアシッド(同仁化学研究所製pH緩衝液、pHを7に調整済み、150mM(150mol/m)の塩化ナトリウム(和光純薬工業社製)を含む)を用意し、溶液15に作用電極9、参照電極5、対極7を浸漬し、配線11を通じてこれらの電極を測定装置13としてのIvium社製CompactStatに接続し、電気化学測定装置3を作製した。
【0128】
測定は指示電解質溶液に対するサイクリックボルタンメトリ測定を行った。
測定条件は−0.3V〜+1.2Vの範囲を0.01V/sで1回掃引するものである。
【0129】
得られた結果を図5および図6に示す。
図5に示すように、パラジウムとニオブの原子比率が0:100のサンプルは過酸化水素に対して酸化電流がほとんど生じなかったが、それ以外のサンプルは全て酸化電流が生じた。また、パラジウムとニオブの原子比率が75:25のときに0.7V付近の印加電位において、過酸化水素の酸化電流が最も高くなり、効率よく過酸化水素を酸化できることがわかった。
【0130】
以上の結果から、パラジウムとニオブを所定の割合で含む合金を用いることにより、低コストで過酸化水素を検出可能(過酸化水素に対して電流出力を生じさせることが可能)な電極を提供できることがわかった。
【0131】
(実施例2)
パラジウムとニオブの原子比率が100:0、90:10、79:21、75:25、69:31、60:40、0:100の7種類の電極をそれぞれ実施例1と同様に製作し、同様に作用電極9として実験に供試した。
【0132】
次に、参照電極として既存のガラス複合電極(東亞ディーケーケー(株)社製、GST−5741C)、と対極として既存の白金電極(BAS社製、002233)を用意した。
【0133】
続いて、実施例1の指示電解質に終濃度として2mM(2mol/m)の過酸化水素(関東化学社製)および10mM(10mol/m)のアスコルビン酸(和光純薬工業社製)に対する定電位測定を行った。測定は前述の作用電極9を前述の指示電解質に浸漬し、0.7Vの電位を印加後、定常状態となるまで放置した(約5分間)。
【0134】
その後、終濃度として前述の濃度となるように過酸化水素ならびにアスコルビン酸をそれぞれ添加した。
【0135】
応答電流値は過酸化水素ならびにアスコルビン酸から得られる電流値から定常状態の電流値の差とした。結果を図7に示す。
【0136】
その結果、本実施例の7種類のパラジウム−ニオブ合金の電極は、パラジウム単体と同様に過酸化水素とアスコルビン酸に反応するが、この反応に電極間によって大きな差が認められた。すなわち、パラジウムとニオブの原子比率が75:25の電極は、アスコルビン酸よりも過酸化水素に選択的に応答することがわかった。一方で、75:25の原子比率以外の電極は過酸化水素よりもアスコルビン酸の応答が高くなり、また、ニオブ含量の増加と共に、過酸化水素の応答は低下することがわかった。
【0137】
以上の結果から、75:25の比率のパラジウムとニオブの合金がアンペロメトリック型のバイオセンサの電極として好適に使用できることが示された。
【0138】
(実施例3)
実施例2で用いた電極のうち、パラジウムとニオブの原子比率が100:0と75:25の2種類の電極,およびコントロールの電極として白金電極を用意し、0.1M(100mol/m)の硫酸ナトリウム溶液中で電気化学クリーニングを行った。
【0139】
クリーニング条件は−1.5V〜+1.5Vの範囲を0.5V/sで100回掃引するものである。
【0140】
続いて、純水で1v/v%に希釈したガンマ−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学社製)を電極表面にスピンコートし、110℃で乾燥させた。
【0141】
続いて、前出した指示電解質溶液で調整した牛アルブミン溶液(和光純薬工業社製)と純水で0.5v/v%に調整したグルタルアルデヒド溶液(アルドリッチ社製)、および189.4U/μlに調整したグルコース酸化酵素を混合し、すみやかに同様にスピンコートし、グルコース酵素センサ(バイオセンサ用電極)を製作した。
【0142】
続いて、終濃度として10mg/dl(0.1×10−3kg/l)グルコース(和光純薬工業社製)に対する定電位測定を行った。
【0143】
測定はグルコース酵素センサを作用極、既存のガラス複合電極(東亞ディーケーケー(株)社製、GST−5741C)を参照電極、そして既存の白金電極(BAS社製、002233)を対極とする3電極法で実施した。
【0144】
具体的には、これらの電極をを指示電解質に浸漬し、0.7Vの電位を印加後、定常状態となるまで放置した(約5分間)。
その後、終濃度として前述の濃度となるようにグルコース溶液を添加した。
グルコースの添加後に得られる電流値から定常状態の電流値の差とした。
なお、印加電位は0.7Vとした。
【0145】
上記測定を10回繰り返し、以下の式を用いて繰り返し再現性の値を計算し、比較を行った。
【0146】
繰り返し再現性の値(%)=(電流値の標準偏差/電流値の平均値)×100…(式)
その結果、繰り返し再現性は白金電極を用いたグルコース酵素センサが2.8%、100:0の電極を用いたグルコース酵素センサが2.8%、75:25の電極を用いたグルコース酵素センサが2.7%を示し、ニオブ添加によるセンサ特性の低下が発生せず、従来の電極である白金電極と同等に使用できることがわかった。
【0147】
(実施例4)
初めに実施例3で記載したグルコース酵素センサを製作した。
続いて、前述の支持電解質溶液中に保管し、一定時間ごとに10mg/dl(0.1×10−3kg/l)グルコースに対する応答電流を測定し長期使用寿命を評価した。測定条件は実施例3と同様である。評価方法は毎日前述の測定を行い、2日間事に14日間続けた。結果を図8に示す。
【0148】
その結果、白金電極を用いたグルコース酵素センサ、100:0の電極を用いたグルコース酵素センサ,および75:25の電極を用いたグルコース酵素センサともにほとんど変動せず、極めて安定していることがわかった。なお、図中における“黒三角”は白金電極で製作されたグルコース酵素センサ、“黒四角”はパラジウムのみの電極(100:0)で製作されたグルコース酵素センサ、“黒丸”はパラジウムとニオブの比率が75:25の電極で製作されたグルコース酵素センサの電流値である。
【0149】
以上の結果から、電極材料としてパラジウムにニオブを添加しても、長期使用寿命に影響を与えないことがわかった。
【0150】
(実施例5)
パラジウムとニオブの原子比率が75:25の電極を用意し、0.1Mの硫酸ナトリウム溶液中で電気化学クリーニングを行った。クリーニング条件は−1.5V〜+1.5Vの範囲を0.5V/sで100回掃引するものである。
【0151】
続いて、純水で1v/v%に希釈したガンマ−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学社製)を電極表面にスピンコートし、110℃で乾燥させた。
【0152】
続いて、5mMのヒト絨毛性ゴナドトロピン抗体、100mMのカルボジイミド、100mMのN−ヒドロキシスクシンイミドの混合溶液にパラジウム−ニオブ合金を30分間浸漬し、ヒト絨毛性ゴナドトロピン抗体をパラジウム−ニオブ合金表面に固定化した。
【0153】
続いて1mMのモノエタノールアミン溶液に30分間浸漬し、活性なアミノ基を不活性化した。
【0154】
測定は1mMのフェロシアン化カリウム、150mMのNaCl、0.01%Tween20(GEヘルスケアジャパン社製)を含む50mMのリン酸バッファー(pH7.8)中に抗体を固定化したパラジウム−ニオブ合金を作用極として浸漬し、同時にガラス参照電極、白金の対極も浸漬した。これらの電極を電気化学測定装置(IVIUM Technologies社のIviumStat)に接続し、方形波ボルタンメトリ測定を行った。測定条件は0.3−1.0V掃引範囲、40mVのパルス電位、4Hzの周波数、10mVのステップ電位とした。これらの測定結果を図9に示す。
【0155】
まず初めに、ヒト絨毛性ゴナドトロピンを含まない状態で上記測定を1秒間隔で、連続繰り返し掃引した。その結果、電流値は5回目以降に安定し、フェロシアン化カリウムの酸化ピークである0.22Vに酸化電流のピークとして20μA/mm2の電流が観測された。次に、測定開始後、10回目に終濃度として1μMのヒト絨毛性ゴナドトロピンを添加したところ、11回目の測定から0.22Vの酸化電流値が低下し始め、20回目には20%電流値が低下した。電流値が低下した原因はヒト絨毛性ゴナドトロピン抗体にヒト絨毛性ゴナドトロピンが結合することによって、フェロシアン化カリウムの電極表面への透過率が低下したため、電極表面で酸化できるフェロシアン化カリウムの量が低下したためであると考えられる。コントロールとして1μMのアルブミンを添加しても、電流値の低下や変動は認められなかった。抗原抗体反応が生じないことからフェロシアン化カリウムの電極表面への透過量は変化しなかったためである。
【0156】
(実施例6)
パラジウムとニオブの原子比率が75:25の電極を用意し、0.1Mの硫酸ナトリウム溶液中で電気化学クリーニングを行った。クリーニング条件は−1.5V〜+1.5Vの範囲を0.5V/sで100回掃引するものである。
【0157】
続いて、エタノールで5mMに希釈した15−カルボキシ−1−ペンタデカンチオール(同仁化学研究所製)に3時間浸漬し、パラジウム−ニオブ合金の表面にカルボキシル基を導入した。
【0158】
続いて、5mMのトリプシンインヒビター抗体、100mMのカルボジイミド、100mMのN−ヒドロキシスクシンイミドの混合溶液にパラジウム−ニオブ合金を30分間浸漬し、トリプシンインヒビター抗体をパラジウム−ニオブ合金表面に固定化した。
【0159】
続いて1mMのモノエタノールアミン溶液に30分間浸漬し、活性なアミノ基を不活性化した。
【0160】
測定は1mMのフェロシアン化カリウム、150mMのNaCl、0.01%Tween20(GEヘルスケアジャパン社製)を含む50mMのリン酸バッファー(pH7.8)中に抗体を固定化したパラジウム−ニオブ合金を作用極として浸漬し、同時にガラス参照電極、白金の対極も浸漬した。これらの電極を電気化学測定装置(IVIUM Technologies社のIviumStat)に接続し、方形波ボルタンメトリ測定を行った。測定条件は0.3−1.0V掃引範囲、40mVのパルス電位、4Hzの周波数、10mVのステップ電位とした。これらの測定結果を図10に示す。
【0161】
まず初めに、トリプシンインヒビターを含まない状態で上記測定を1秒間隔で、連続繰り返して行った。その結果、電流値は5回目以降に安定し、フェロシアン化カリウムの酸化ピークである0.22Vに酸化電流のピークとして20μA/mm2の電流が観測された。そして、測定開始後、10回目に終濃度として1μMのトリプシンインヒビターを添加したところ、11回目の測定から電流値が低下し始め、20回目には22%電流値が低下した。電流値が低下した原因はトリプシンインヒビター抗体にトリプシンインヒビターが結合することによって、フェロシアン化カリウムの電極表面への透過率が低下したためであると考えられる。コントロールとして1μMのストレプトアビジンを添加しても、電流値の低下や変動は認められなかった。抗原抗体反応が生じないことからフェロシアン化カリウムの電極表面への透過量は変化しなかったためである。
【0162】
(実施例7)
パラジウムとニオブの原子比率が75:25の電極を用意し,0.1Mの硫酸ナトリウム溶液中で電気化学クリーニングを行った。クリーニング条件は−1.5V〜+1.5Vの範囲を0.5V/sで100回掃引するものであり、電極面積は5mmとした。
【0163】
次に、末端の一方をフェロセンで修飾し、もう一方の末端をチオールで修飾したオリゴDNA(15mer TG)を用意した。このオリゴDNAを0.01molのリン酸緩衝液で10pmolに調整し、2μlを電極表面に滴下後、37℃で2時間放置した。
【0164】
その後、10ミリmolの6−メルカプトヘキサノールを乗せ45℃で1時間放置し、パラジウム−ニオブ電極の非修飾部位をマスクした。この電極を銀/塩化銀参照電極、白金製対極と一緒にリン酸緩衝液0.05M,塩化カリウム0.1Mの混合測定溶液中にて、スクウェアウェイブボルタンメトリ法にて−0.2V vs.Ag/AgClから0.5V vs.Ag/AgClの範囲で電流を測定した。
その結果、0.2Vをピークとするフェロセンの酸化に由来する電流が観測された。
【0165】
次に、このリン酸溶液中にPolyACオリゴヌクレオチドを添加し、終濃度を100pmolとした。その後、同様にスクウェアウェイブボルタンメトリ法で測定した。
この測定結果を図11に示す。
【0166】
図11における棒グラフは、0.2VにおけるPolyACオリゴヌクレオチドの添加の前後の電流値を示している。
また、グラフ中ではPolyACオリゴヌクレオチドをPONと記載している。
【0167】
図11に示すように、PolyACオリゴヌクレオチドを添加することによって電流値が低下することが明らかになった。これは、PolyACオリゴヌクレオチドが、パラジウム−ニオブ電極表面に固定化されたオリゴDNAとハイブリダイズすることにより、電極活性物質であるフェロセンの酸化反応に影響を与えたためであると考えられる。
【0168】
以上のように、本発明によれば、白金電極およびパラジウム電極の代替材料としてパラジウム−ニオブ合金の電極が適用できることがわかった。
【0169】
また、この電極を用いて酵素センサを製作した場合、白金電極と同様に測定できる酵素センサを提供できることがわかった。
【0170】
さらに、この電極を用いて抗体センサを製作した場合、抗原抗体反応に起因する反応を電流値として検出できる抗体センサを提供できることがわかった。
【0171】
さらに、このパラジウム−ニオブ合金をDNAアプタマーの電極として使用できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0172】
以上、実施形態および実施例に基づき本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されない。当業者であれば本発明の範囲内において、各種変形例および改良例に相当するのは当然のことであり、これらも本発明の範囲内に含まれるものと了承される。
【符号の説明】
【0173】
1…………電気化学測定装置用電極
3…………電気化学測定装置
3a………バイオセンサ
3b………バイオセンサ
4…………バイオセンサ用電極
5…………参照電極
6…………固定化触媒層
7…………対極
9…………作用電極
11………配線
13………測定装置
15………溶液
23………絶縁基板
24………結合層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウムとニオブとを、過酸化水素に対して電流出力を生じさせることが可能な組成となるように含有した合金で構成されていることを特徴とする電気化学測定装置用電極。
【請求項2】
前記合金は、パラジウムとニオブの原子比率が90:10〜60:40の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学測定装置用電極。
【請求項3】
前記合金は、パラジウムとニオブの原子比率が79:21〜69:31の範囲であることを特徴とする請求項1または2のいずれか一項に記載の電気化学測定装置用電極。
【請求項4】
パラジウムとニオブの原子比率が3:1であり、結晶構造がD22型である化合物を含有することを特徴とする請求項3記載の電気化学測定装置用電極。
【請求項5】
前記合金は、
パラジウム−ニオブ合金であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の電気化学測定装置用電極。
【請求項6】
前記パラジウムと前記ニオブからなる前記電極が放電アーク法、蒸着法、およびスパッタリング法のいずれかを用いて製造されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の電気化学測定装置用電極。
【請求項7】
作用極、参照電極、および対極を有し、
前記作用極は、請求項1〜6のいずれかに記載の電気化学測定装置用電極であることを特徴とする電気化学測定装置。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の電気化学測定装置用電極と、
前記電気化学測定装置用電極の表面に設けられ、触媒機能を持ったタンパク質を含む固定化触媒層と、
を有することを特徴とするバイオセンサ用電極。
【請求項9】
前記固定化触媒層は、酵素、抗体、DNA、およびRNAのいずれかを有することを特徴とする請求項8記載のバイオセンサ用電極。
【請求項10】
前記固定化触媒層は、酸化酵素を有することを特徴とする請求項8記載のバイオセンサ用電極。
【請求項11】
前記電気化学測定装置用電極を保持する絶縁基板と、
前記電気化学測定装置用電極と前記固定化触媒層の間に設けられ、かつ前記電気化学測定装置用電極を覆うように、前記絶縁基板および電気化学測定装置用電極上に設けられた結合層と、
をさらに有することを特徴とする請求項8〜10のいずれか一項に記載のバイオセンサ用電極。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれか一項に記載のバイオセンサ用電極を有することを特徴とするバイオセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−242335(P2012−242335A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115054(P2011−115054)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)