電気化学的アフィニティーバイオセンサーシステム及び方法
【課題】電気化学的酸化還元標識(これは、電子移動剤又は電気化学的メディエーター標識とも称される)を使用することにより、免疫学的方法を用いて多岐にわたるアナライトを検出するための新規オスミウムベースの電気化学種を提供する。
【解決手段】イムノアッセイで使用可能な新規オスミウムベースの電気化学種。該オスミウム種は、関連のアナライトを検出するための特異的結合リガンドに結合させることができる。さらに、種々の連結基を用いて特異的結合リガンドに結合する1、2又は4個のオスミウム中心を含有し得る。該オスミウムベースの電気化学種と一緒に使用可能な電極構造を支持する試験センサー及び診断キット。そのような試験センサーは、低濃度で存在し得るアナライトを分析するのに求められる電気的信号の増幅を可能とするように設計された電極のインターデジテイテッドアレイを支持するように製造することができる。
【解決手段】イムノアッセイで使用可能な新規オスミウムベースの電気化学種。該オスミウム種は、関連のアナライトを検出するための特異的結合リガンドに結合させることができる。さらに、種々の連結基を用いて特異的結合リガンドに結合する1、2又は4個のオスミウム中心を含有し得る。該オスミウムベースの電気化学種と一緒に使用可能な電極構造を支持する試験センサー及び診断キット。そのような試験センサーは、低濃度で存在し得るアナライトを分析するのに求められる電気的信号の増幅を可能とするように設計された電極のインターデジテイテッドアレイを支持するように製造することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体中のアナライトを検出するためのシステム、試薬及び方法に関する。より詳細には、本発明は、非限定的に、流体サンプル中のアナライトを検出及び分析するための電気化学イムノアッセイシステム及び試薬、並びに、それらの方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学バイオセンサーは、血液、尿及び唾液などの生物学的なサンプルに含まれている特定の生物学的に重要なアナライトの存在を検出し及び濃度を測定するために、インビトロでの診断において使用されてきた。糖尿病患者の血中グルコースのモニタリングは、電気化学バイオセンサーの最も一般的で且つ良好な結果が得られている商業的用途の一つである。別の診断バイオセンサーの用途も開発されており、そのような用途には、乳酸イオン、コレステロール、クレアチニン、血液ガス及び電解質などがある。AC電気化学的測定法及びDC電気化学的測定の両方が用いられ、それらには、電流測定、電位差測定、電量分析及びインピーダンスなどがある。現在のバイオセンサー技術の大部分は、アナライトに対する生体認識要素として、選択された遊離酵素に頼っている。さらに、この技術は、典型的には、mMの範囲の比較的高い濃度のアナライトを正確に測定することができる。従って、電気化学的検出は、増幅技術を使用せずに、マクロ電極を用いて達成可能である。
【0003】
関心のある別のアナライトは、グルコースと比較して、はるかに低い濃度で見いだされる。そのようなアナライトとしては以下のものを挙げることができる:乱用薬、例えば、アンフェタミン、コカイン、フェンシクリジン(PCP)及びテトラヒドロカンナビノール(THC)など;治療薬、例えば、テオフィリン、ジゴキシン、ジギトキシン及びメトトレキサートなど;環境汚染物質、例えば、PCB及びアトラジンなど;生物戦用因子(biowarfare agent)、例えば、炭疽菌、ボツリヌス中毒及びサリンなど;タンパク質;並びに、ホルモン。
【0004】
これらのアナライトを検出するために、標識を使用する様々なアフィニティーベースアッセイ法が探求されてきた。アフィニティーに基づく技術には、以下のものを使用する技術などがある:酵素標識、放射性同位体標識、化学発光標識、蛍光標識、及び、電気化学的酸化還元標識。しかしながら、これらの技術の多くは、多大な労働力を必要とし、研究室内で熟練技術者によって最も適切に行われる多くのステップを必要とする。ステップの数と複雑さにより、これらの技術を「現場」で日常的に使用することができない。これらの試験の多くは、競合的な酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)の変形を利用している。その例には、Strategic Diagnostics製及びEnviroLogix, Inc.製のアトラジンアッセイなどがあるが、これらは、いずれも、手動による多くのステップ(例えば、それぞれ、15分間及び1時間のインキュベーション時間)を有する。ELISAをベースとする類似したアッセイ及び別のイムノアッセイフォーマットが、多くの産業にわたる多様なアッセイに適用可能であることが認められるであろう。しかしながら、現場で迅速に行うことができる定量的アッセイはほとんど無い。迅速な試験又はポイントオブケア装置に使用される最も一般的に利用可能なイムノアッセイフォーマットの1つは、ラテラルフローアッセイ(lateral flow assay)として知られており、これは、免疫クロマトグラフィーを利用している。これらの製品の殆どは「スクリーニングアッセイ」であり、ラインの存在又は非存在によって示される定性的な結果(ポジティブ/ネガティブ)を提供する。結果は、多くの場合、視覚的に読み取られ、また、多くの場合、小さなライン又は部分的なラインが存在している場合に解釈が困難である。これらのアッセイの殆どは、結果がポジティブであった場合、GC/MS又はHPLCなどの別の方法によるフォローアップが必要である。多様な産業に対して、アフィニティーに基づく迅速な検出を可能とする技術を提供することが強く求められている。迅速な検出により、すぐに使用可能な結果をすぐに得ることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気化学的酸化還元標識(これは、電子移動剤又は電気化学的メディエーター標識とも称される)を使用することによりアフィニティーをベースとする電気化学的アッセイにおいて実際的で信頼できる結果が得られることが示されている。しかしながら、酸化還元標識を定量するのに電気化学的検出技術を使用すること、従って、酸化還元標識の濃度をアナライトの濃度と相関させることには、問題がともなってきた。電気化学的測定は、測定の精度及び感度に悪影響を及ぼす多くの影響(例えば、電極構造自体の変化に対するメディエーターコンジュゲートの適切な選択に関連した影響、及び/又は、サンプルのバラツキに由来するマトリックス効果に関連した影響など)を受けやすい。
【0006】
多くの種類のイムノアッセイは、慣習的なマクロ電極上での電気化学的検出を用いて現在達成可能な検出限界よりもはるかに低い検出限界を要する。従って、これらのアッセイにシグナル増幅技術を用いて、電気化学的検出限界を大きく改善しなければならない。
【0007】
上記問題に鑑みて、関連する分野、例えば、種々のアナライト(例えば、治療薬、乱用薬、疾患状態、食品検査用アナライト、環境上重要なアナライト及び生物戦用因子(biowarfare agents)など)の検出分析の増強に関連する改善されたシステム、方法、組成物及び試薬などにおける進歩が引き続き求められている。本発明は、そのような進歩であり、さまざまな利益と利点を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一形態において、本発明は、イムノアッセイで使用可能な新規オスミウムベースの電気化学種を提供する。該オスミウム種は、関心のあるアナライトを検出するための特異的結合リガンドに結合させることができる。そのようなオスミウム種は、種々の連結基を用いて特異的結合リガンドに結合する1、2又は4個のオスミウム中心を含有し得る。連結基は、アナライトの特異的型に対して選択することが可能であるか、又は、アナライトが示す種々の特性に適応させるために選択することが可能である。例えば、連結基を選択することにより、さまざまな程度の親水性(又は、それとは逆に、疎水性)を付与することができる。
【0009】
本発明の新規オスミウムベースの電気化学種を用いて、関心のある種々のアナライト(例えば、生物戦用因子、治療薬、環境汚染物質、タンパク質及びホルモン)について検出及び分析することが可能である。
【0010】
本発明のオスミウムベースの電気化学種は、種々の試験センサー(test sensor)及び診断キットと一緒に使用することができる。一形態では、関心のあるアナライトを検出するために、本発明のオスミウムベースの電気化学種を均一系イムノアッセイで用いる。本発明によるアッセイ法は、種々の試験センサー及び計測器と一緒に使用することができる。特に好ましい実施形態では、特に低濃度の所望アナライトを含んでいるサンプルを分析するために、本発明のアッセイ法を用いることができる。別の実施形態では、極めて短い試験時間(好ましくは、約10秒間)の間に信頼できるアッセイ結果を提供するために、本発明のアッセイ法を用いることができる。
【0011】
一形態において、本発明は、インターデジテイテッド電極アレイ(interdigitated arrays of electrodes)を含んでいる新規試験センサーを提供する。該電極アレイは、第一作用電極及び第二作用電極、並びに、対向電極及び参照電極を含み得る。作用電極と参照電極(又は、対向電極)のさまざまな組合せの間の種々の電位を制御するために、バイポテンシオスタットを使用することができる。
【0012】
別の形態では、本発明の診断キットは、「現場で(in the field)」容易に使用可能なポータブル試験装置を含み得る。ポータブル試験装置は、試験センサー及び構成変更可能な(configurable)ポータブル計測器を含むことができ、さらに、場合により、サンプル収集チャンバーも含むことができる。
【0013】
さらなる目的、特徴、態様、形態、利点及び利益については、本明細書及びそれに含まれている図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の診断キットの一実施形態を図式的に表したものである。
【図2】関心のある複数のアナライトを検出及び分析するのに有用な電極平面アレイを有する、本発明の試験センサーの一実施形態の斜視図である。
【図3】関心のある複数のアナライトを検出及び分析するのに有用な電極平面アレイを有し、複数のサンプルポートを有する、本発明の試験センサーの別の実施形態の斜視図である。
【図4】複数のアナライトを検出及び分析するのに有用な試験センサーのさらに別の実施形態の分解図である。
【図5】図4の試験センサーの斜視図である。
【図6】サンプル中に浸漬することが可能な、マルチアナライト試験用に構成した試験センサーである。
【図7】ランセットで傷を付けた指から血液を供給することが可能なシングルアッセイ試験用に構成した試験センサー及び計測器の斜視図である。
【図8】ピペットで供給することが可能なシングルアッセイ試験用に構成した試験センサー及び計測器の斜視図を示している。
【図9】サンプル収集チャンバーに取り付けられたアッセイを含むマルチアナライト試験用に構成された試験センサー及び計測器の斜視図を示している。
【図10】1対の電極の部分断面図であり、インターデジテイテッド電極フィンガー上で酸化されるか又は還元される可逆的メディエーター(M)の拡散により制限される定常電流の条件を例示している。
【図11】可逆的メディエーターの酸化還元循環を測定するのに適するように構成された本発明の平面インターデジテイテッドアレイ(IDA)電極の拡大平面図である。
【図12】可逆的メディエーター測定用に構成された本発明の垂直インターデジテイテッドアレイ電極の部分断面図である。
【図13】図12の垂直インターデジテイテッドアレイ電極の拡大平面図である。
【図14】物理的な電極領域に対して標準化された平面IDAについての電流次元対電極次元の三次元プロットである。
【図15】本発明により調製し且つ評価したIDA及びVIDAのさまざまな実施形態が記載されている表を提供している。
【図16】本発明のIDA中の電極間の間隙の幅を狭くすることにより電流増幅を増大させる能力について例示するグラフである。
【図17】本発明の連続結合アッセイ(sequential binding assay)の一実施形態を例示する略図である。
【図18】本発明のOs(ビピリジル)ヒスタミン電気化学的標識を調製するための一合成スキームを例示している。
【図19】本発明のオスミウム-アンフェタミンコンジュゲートを調製するための合成スキームを例示している。
【図20】本発明のオスミウム-テオフィリンコンジュゲートを調製するための合成スキームを例示している。
【図21】本発明のオスミウム-PCPコンジュゲートを調製するための合成スキームを例示している。
【図22】本発明のオスミウム-THC-2コンジュゲートを調製するための合成スキームを例示している。
【図23】本発明のオスミウム-THC-1コンジュゲートを調製するための合成スキームを例示している。
【図24】本発明のオスミウム-メトトレキサートコンジュゲートを調製するための合成スキームを例示している。
【図25】本発明で使用するための芳香族トリフルオロアセトアミドで保護されたリンカーを調製するための合成スキームを例示している。
【図26】本発明のジオスミウム芳香族トリフルオロアセトアミド及びモノオスミウム芳香族トリフルオロアセトアミドで保護されたリンカー又は電気化学的標識を調製するための合成スキームを例示している。
【図27】本発明の芳香族リンカー含有ジオスミウム電気化学的標識を調製するための合成スキームを例示している。
【図28】本発明のジオスミウムTHC-1コンジュゲートを調製するための合成スキームを例示している。
【図29】本発明の脂肪族リンカー含有ジオスミウム電気化学的標識を調製するための合成スキームを例示している。
【図30】本発明のオスミウム-PEG(リンカー)電気化学的標識を調製するための合成スキームを例示している。
【図31】本発明のオスミウム-PEG(リンカー)電気化学的標識を調製するための合成スキームを例示している。
【図32】本発明のオスミウムPEG THC-2コンジュゲートを調製するための合成スキームを例示している。
【図33】本発明のオスミウムPEGメトトレキサートコンジュゲートを調製するための合成スキームを例示している。
【図34】本発明のテトラカルボン酸リンカー基を調製するための合成スキームを例示している。
【図35】本発明のテトラオスミウムトリフルオロアセトアミド電気化学的標識の保護された前駆体を調製するための合成スキームを例示している。
【図36】本発明のテトラオスミウム電気化学的標識のテトラカルボン酸リンカーを脱保護するための合成スキームを例示している。
【図37】本発明のオスミウム(ジメチルビイミダゾール)2ヒスタミンリンカー又は電気化学的標識を調製するための合成スキームを例示している。
【図38】オスミウム-テオフィリンコンジュゲート電気化学的標識のCVスペクトルである。
【図39】オスミウム-テオフィリンコンジュゲート電気化学的標識の定常状態反応を例示するプロットである。
【図40】オスミウム-テオフィリンコンジュゲート電気化学的標識の用量反応のプロットである。
【図41】オスミウム-テオフィリンコンジュゲート電気化学的標識の抗体阻害のプロットである。
【図42】血清マトリックスにおけるテオフィリンアッセイ反応のプロットである。
【図43】オスミウム-アンフェタミンコンジュゲート電気化学的標識のCVスペクトルである。
【図44】オスミウム-アンフェタミンコンジュゲート電気化学的標識のリサイクリングCVである。
【図45】オスミウム-アンフェタミン電気化学的標識のコンジュゲート反応のプロットである。
【図46】オスミウム-アンフェタミン電気化学的標識の存在下で得られたPBSTにおけるアンフェタミンについてのアッセイ曲線である。
【図47】750のインターデジテイテッド電極対を含んでいる2μM間隙/幅のインターデジテイテッドアレイ電極上のビス(2,2'-ビピリジル)イミダゾールクロロオスミウム(III)ジクロリドについてのリサイクリングCVである。
【図48】2μmIDA電極上のオスミウムビオチンコンジュゲート用量反応である。
【図49】2μmIDA電極上のビオチンアッセイについて、サンプル導入の0.5秒後、2秒後及び10秒後に記録された定常状態反応のプロットである。
【図50】図49のビオチンアッセイの代表的な濃度の定常状態反応の電流対時間のプロットである。
【図51】モノオスミウム芳香族トリフルオロアセトアミドで保護されたリンカーのCVスペクトルである。
【図52】ジオスミウム芳香族リンカー電気化学的標識のCVスペクトルである。
【図53】ジオスミウムリンカーとモノオスミウムリンカーとビス(2,2'-ビピリジル)イミダゾールクロロオスミウム(III)ジクロリドの用量反応曲線を比較しているグラフである。
【図54】ジオスミウム-THC-1コンジュゲートのCVスペクトルである。
【図55】オスミウム-PEG-THC-2コンジュゲートの反応のグラフである。
【図56】ヒドロキシプロピルベータシクロデキストリンの存在下又は非存在下におけるオスミウム-PEG-THC-2電気化学的標識のコンジュゲート反応の酵素増幅プロットである。
【図57】オスミウム-PEG-メトトレキサートコンジュゲートのCVスペクトルである。
【図58】オスミウム-PEG-メトトレキサートコンジュゲートの用量反応のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は種々のアナライトを分析するためのさまざまな方法及びシステムを提供する。該方法では、関心のあるアナライトに対して選択された特異的結合相手と一緒に、新規な電気化学的メディエーターを使用することができる。該システムは、所望のアナライトを検出又は分析するための異なった電極配置及び化学を有するさまざまな試験センサーを含むことが可能である。さらに、該試験センサーと一緒にさまざまな試験計測器及び構成変更可能なプラットフォームを用いて、正確で信頼性のある使いやすいアッセイ方法を提供することができる。
【0016】
本明細書で使用される場合、示されている用語は、以下の定義により規定される。
【0017】
用語「電極構造」は、サンプル、酸化還元可逆的コンジュゲート(redox reversible conjugate)及び/又はオスミウムコンジュゲートと接触し得る全ての有効電極領域と、接触パッドへと通じる電極トレースと、計測器又は別の機器との電気的接触を可能とする接触パッドを組み合わせたものを示す。
【0018】
用語「有効電極領域」は、IDA電極と関連して使用される場合、サンプルと接触する電極領域を包含し、参照電極、並びに、酸化還元-可逆的化学種に依存する所定のカソード電位とアノード電位を作用電極に印加したときにサンプル中の拡散性酸化還元可逆的コンジュゲートの拡散リサイクリング(diffusional recycling)を可能とする寸法を有する少なくとも第一電極及び第二電極を含む。
【0019】
酵素増幅の場合は、「有効電極領域」は、サンプルと接触する電極領域を包含し、参照電極と少なくとも第一作用電極を含む。
【0020】
用語「IDA電極」は、しばしば一対の櫛型電極として描かれるインターデジテイテッドアレイ(Interdigitated Array)電極を示すが、該用語は、電極間の酸化還元リサイクリングを可能とするために極めて接近した2つ以上の電極をもたらす別の形状も包含し得る。この定義には、異なった平面内で空間的に隔てられ得る電極も包含され、そのような電極は、垂直インターデジテイテッドアレイ電極(Vertical Interdigitated Array electrodes, VIDA)と称される。
【0021】
用語「作用電極」は、本明細書で使用される場合、測定イベント(即ち、酸化及び/又は還元)が起こり、結果として生じた電流をアナライトの濃度の指標として測定可能な電極を示す。
【0022】
用語「アノード電位」は、アノードに印可されたより高い正電位を示し、「カソード電位」は、カソードに印可されたあまり高くない正電位又は負電位を示す(Ag/AgClなどの参照電極との対比)。
【0023】
「試験センサー」は、構造物と試薬の組合せを示し、全てのサブコンポーネント、例えば、プラスチック、スペーサー及び接着剤、並びに、特異的構造要素、例えば、毛管、測定域及び電極構造を含んでいる。試験センサーは、シングルアッセイ用として必須の構成要素、構造物及び試薬を含むことが可能であるか、又は、それは、マルチアッセイ用として必要とされる構成要素、構造物及び試薬を含むことが可能である。本発明の試験センサーは、測定域に加えて、サンプル収集チャンバー及び/又は混合チャンバーも含み得る。
【0024】
用語「測定域」は、有効電極領域に接触していてアッセイ中に応答することが可能な酸化還元可逆的コンジュゲート内の試験センサーの領域である。
【0025】
構成変更可能な試験センサーの設計におけるこの領域は、アッセイに特異的な試薬とIDA電極の寸法を除いて、全てのアッセイで実質的に同一であるべきである。マルチアッセイの設計は、米国特許第6,294,062号に記載されているように種々の酸化還元電位を有する複合酸化還元メディエーターを用いる場合を除いて、複数の測定域を有するであろう。
【0026】
「妨害物質」は、全ての化学種を包含し、アナライトからの所望のシグナルを増大又は低減させる関心のあるアナライトを包含する。妨害物質は、血中又は尿中で酸化され得る尿酸及びアスコルビン酸などのように、サンプルマトリックス中にその一部として固有に存在するものであり得る。タンパク質又は疎水性分子(例えば、THC)は、電極表面上に不動態化層を形成して期待される反応を低減することにより、電極への電子の移動を妨害し得る。
【0027】
「バイポテンシオスタット」は、参照電極及び対向電極に同調して、同一の電気化学セル内の2つの作用電極("WE1"及び"WE2")の電位を別々に独立して制御することを可能にする測定エンジンである。
【0028】
「電気化学的標識」は、本明細書で使用される場合、液体サンプル中で可逆的な酸化及び還元が可能な化学種を示す。電気化学的標識としては、遷移金属、例えば、鉄(フェロセン及びフェロセン誘導体)、ルテニウム及びオスミウムなどの錯体などを挙げることができる。好ましい実施形態では、本発明用の電気化学的標識は、オスミウム有機金属種として選択する。
【0029】
「サンプル収集チャンバー」は、アナライトを含んでいる検体と最初に接触する領域である。その例には、毛管充填域(capillary fill zone)、キュベット、カップ、又は、アナライトを含んでいるサンプルを受け取るための別のサンプル受け入れ容器などを挙げることができる。サンプル収集チャンバーは、本明細書で用いられる場合、続いて所望のアッセイを実施するのに充分な容積のサンプルを収集する領域である。サンプル収集チャンバーは、サンプルの全て又は一部をすぐにサンプル受け入れ域又は測定域まで通過させてアッセイを実施してもよいか、又は、しばらく後に装置を作動させてサンプルを適切な帯域まで通過させるまで、サンプルを保持していてもよい。選択された実施形態では、サンプル収集、サンプル受け入れ、反応チャンバー又は帯域、及び測定域は、同一の帯域又は領域である。
【0030】
「反応チャンバー又は反応域」は、サンプルが試薬と相互作用し得る領域である。これは、単一の試薬の単なる水和若しくは溶解であり得るか、又は、複数の試薬との反応の逐次的なスキームであり得る。サンプル受け入れ域は、混合を促進することが可能であり、また、サンプルを測定域まで通過させることが可能である。少なくとも1つの実施形態では、サンプル受け入れ域は、測定域と同一である。
【0031】
用語「抗体」は、(a)慣習的に使用される動物のいずれか、例えば、ヒツジ、ウサギ、ヤギ又はマウスなどから得た種々のクラス又はサブクラスの免疫グロブリンのいずれか、例えば、IgG、IgMなど;(b)モノクローナル抗体;(c)抗体、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体の完全な分子又は「フラグメント」を示し、ここで、フラグメントは、抗体の結合領域を含んでいるフラグメント、即ち、Fc部位を欠いているフラグメント(例えば、Fab、Fab'、F(ab')2)であるか、又は、完全な抗体の重鎖成分を連結しているジスルフィド結合を還元的に切断することにより得られた、いわゆる「半分子」フラグメントである。そのような抗体の調製については、当技術分野ではよく知られている。
【0032】
概して、本発明は、非常に多くの種類のアナライトの検出及び分析を対象とする。関心のあるアナライトは、さまざまな源(ヒト、動物、植物、食品、廃水及び地下水)の中に見いだすことができる。そのようなアナライトは、興味深い。それは、そのようなアナライトが、そのインビボでの濃度及び活性が健康な生活及び患者の治療にとって興味深い治療薬及び乱用薬であり得るからである。関心のある別のアナライトには、環境上関心のあるアナライトなどがあり、殺虫剤、除草剤又は別の汚染物質について水及び備蓄食糧などをモニタリングすることが含まれる。
【0033】
本発明の診断法は、電気化学イムノアッセイを用いて、アナライトを検出及び分析する。好ましいイムノアッセイでは、電気化学的に検出可能な標識を使用する。好ましい実施形態では、該標識は、電極において又は電極上で標識が多重酸化還元サイクルを受けたときに発生した電流を測定することにより検出される。典型的には、検出可能な標識の酸化/還元により発生する電流は極めて小さく、所望のアナライトの正確で再現可能な分析を可能とするためには、該電流を増幅しなければならない。該電流は、定常状態条件下での拡散リサイクリング及び/又は酵素リサイクリングにより増幅することができる。
【0034】
アナライトの検出及び分析は、さまざまな構成要素を含んでいる試験キットを用いて実施することができる。最小限の構成要素には、計測器、試験センサー及びサンプルが含まれている。好ましくは、特異的試験センサーアッセイで作動するように構成された携帯用計測器を用いることにより、アッセイ方法を簡素化することができる。一実施形態では、計測器は、種々の試験センサーに合わせて構成変更することが容易なように設計された携帯用バイポテンシオスタットである。別の実施形態では、計測器は、市販されているPDA又は別のポータブルコンピュータ機器と、そのような機器にプラグで接続するか又は取り付けるバイポテンシオスタットモジュールからなる。このような構成のため、種々の試験センサーアッセイと共にソフトウェアを変更することで、同一のモジュールを使用する構成にして異なった多くの製品及び市場に対するアッセイを開発することができる。分析は、アッセイ当たり約4μL〜約50μLの少量のサンプル容積で実施する。試験センサー用のサンプル収集容積は、その用途に対して何が実際的であるかに応じて変動する。ランセットで傷を付けた指から収集した血液は、多くの場合、15μL未満の容積であるが、尿サンプル収集装置は、慣習的に、比較的大きな容積を扱う必要がある。従って、試験センサーの構成は変えられるが、基本的な電極構造及び測定域は、電気化学コンジュゲート及びアフィニティー結合相手(抗体)などのアッセイに特異的な試薬を除き、一般に、全ての試験センサーで同じままである。
【0035】
電極構造の有効電極領域には、少なくとも、第一作用電極、第二作用電極、参照電極及び対向電極が含まれている。第一作用電極と第二作用電極は、所定のアノード電位とカソード電位を作用電極に同時に印加したときに、サンプル中の酸化還元可逆的コンジュゲートとの拡散リサイクリングが可能となるような寸法とする。拡散リサイクリングが可能となるような寸法に作られた電極は、典型的には、マイクロディスク、マイクロホール又はマイクロバンドなどのアレイの形態にある。一実施形態では、電極は、ミクロン又はサブミクロンの間隔を有するマイクロバンド電極のインターデジテイテッド配列の形態にある。2つの別々に分極した電極の間の間隔が充分に狭い場合、拡散層が重なり合う。1つの電極で酸化された酸化還元種が隣接する電極に拡散し、その電極で還元される。その結果、該酸化還元種が繰り返し酸化及び還元されることに起因して、増幅された電流シグナルが生じる。
【0036】
該試験センサーは、サンプル収集チャンバー及び液体サンプルを受け取るためのサンプル受け入れチャンバーを含み得る。サンプル収集チャンバーは、例えば、毛管充填域(capillary fill zone)、キュベット、カップ、又は、アナライトを含んでいるサンプルを受け取るための別のサンプル受け入れ容器等を含み得る。一実施形態では、サンプル収集チャンバーとサンプル受け入れチャンバーは、同一のチャンバーであり得る。さらに別の実施形態では、サンプル収集チャンバーとサンプル受け入れチャンバーと測定域は同一のチャンバーであり得る。別個のサンプル収集チャンバー又は帯域を有する実施形態は、特定の試験センサーアッセイ用の好ましいサンプル収集方法を効率よく且つ都合よく集めるために設計することができる。幾つかの好ましいサンプル収集方法には、指穿刺から血液を引き抜くための毛管チャンバー、又は、別の手段(例えば、バルクサンプルへの浸漬又はシリンジ若しくはピペットを介する手段)によるサンプルのポート導入が含まれている。別の実施形態では、試験センサーは、地下水、廃水又は尿を収集するのに有用なカップなどの比較的大きなサンプル収集チャンバーを含むであろう。種々の産業において、追加サンプルを維持すること及び/又は不正開封防止シールでサンプルを密封することが重要である場合、大きなサンプル収集チャンバーを有する試験センサーが望ましい場合がある。これは、法的な証拠となる問題を有しているサンプル又は生物学的に危険な汚染物質を含んでいる疑いがあるサンプルにとって、特に有利である。あるいは、該試験センサーは、サンプル収集及びサンプル受け入れ域としての役目も果たす測定域のみを含んでいることも可能である。いずれの場合においても、該試験センサーの電気化学イムノアッセイ部位では、所定量の酸化還元可逆的コンジュゲート及び特異的結合相手に接触してそれらを溶解させるのに充分な少量のサンプルが必要なだけである。
【0037】
電極構造は、チャンバーの1以上の壁面上に支持することは可能であり、その際、該電極構造の少なくとも一部(有効電極領域)は、液体サンプルと接触している。電極構造が接触領域を有することにより、計測器又は測定モジュールは、それぞれのカソード電位及びアノード電位を作用電極に印可して、本発明を実施することができる。アノード電位及びカソード電位は、バイポテンシオスタットを用いて、参照電極(通常、Ag/AgClインク)に対して印可される。該電極構造は、場合により、電流を制御するための対向電極を含んでいてもよい。バイポテンシオスタットを用いて、第一カソード電位を第一作用電極に印可し、第一アノード電位を第二作用電極に印可する(ここで、第一のカソード電位及びアノード電位は、第一の酸化還元可逆的コンジュゲートの拡散リサイクリングに起因してサンプルを通る電流フローが確立されるのに必要なそれぞれの電位に相当する)。場合により、一方の作用電極の電位を第一の拡散性化学種に依存するアノード電位に設定することも可能であり、電流フローは、もう一方の作用電極の電位が所定の拡散性化学種に依存するカソード電位に相当する電位により掃引される時に測定される(又は、その逆)。
【0038】
それぞれの可逆的酸化還元化学種に対する適切なカソード電位及びアノード電位は、サイクリックボルタンメトリー(CV)などの実験的測定により容易に決定することができる。この技術を用いて、酸化還元電位、及び、電気化学的メディエーターと標識の可逆性を決定した。さらに、リサイクリングCVを用いて、IDA電極が既知濃度の酸化還元可逆的コンジュゲートをリサイクルする能力も測定し、効果的な増幅を決定した。第一作用電極電位を酸化電位又は還元電位のいずれかに固定し、次いで、酸化と還元の間で第二作用電極をスキャンすることにより、リサイクリングCVを実施する。CV及びリサイクリングCVの両方とも、CH Instruments(Austin, Texas)製のCHI 832A電気化学検出器を用いて実施した。
【0039】
好ましい電気化学的メディエーターは、以下の1つ以上を包含する幾つかの特性を有するように選択された酸化還元可逆的コンジュゲートである:低い酸化還元電位、速いメディエーション速度、電極表面における速い電子伝達速度、アナライトコンジュゲーションの容易さ、安定性、溶解性、毒性、及び、特異的結合相手(抗体)と対を成したときの酸化還元リサイクリングの防止。米国特許第6,352,824号で論じられているビピリジルオスミウム錯体コンジュゲート及び米国特許第6,262,264号で論じられているイミダゾール-オスミウム錯体コンジュゲートは、いずれも、適切な特性を有するメディエーターの例である。上記特許に記載されているメディエーターは、概して、所望される特性を満足しており、アッセイを開発するためのメディエーターの選択における原点と見なすことができる。メディエーターのコンジュゲートを調製して、アンフェタミン、テオフィリン、コカイン、PCP、モルヒネ、THC及びメトトレキサートなどの関心のあるさまざまなアナライトについてのアッセイとして評価した。
【0040】
以前のクラスの電気化学コンジュゲート又は標識は、所望されるアッセイの殆どにおいて良好に機能したが、特定の電気化学コンジュゲートは良好に機能しない。その例として、以下のオスミウムヒスタミン結合薬物コンジュゲート、オスミウムTHC-2(化合物17)、オスミウムTHC-1(化合物19)及びオスミウムメトトレキサート(化合物21)は、全て、望ましい電気化学特性の多くを満たすが、いずれも、溶解度と抗体認識に関して欠点を有する。オスミウムメトトレキサートコンジュゲートは、水性PBSTマトリックスには溶解せず、DMFを添加することが必要であった。オスミウムメトトレキサートコンジュゲートを溶解させるために、30:70のDMF:PBSTを使用した。アッセイにおけるこれらの特定の困難性を克服するために、さらなるコンジュゲート構造を提案し、合成した。より長い長さを有し、よりフレキシブルで、より高い親水性を示すリンカー(本明細書では、PEG-リンカーと称する)を、Nova Biochemから、O-(N-Boc-2-アミノエチル)-O-(N-ジグリコリル)-2-アミノエチルヘキサエチレングリコール(化合物33)として購入した。オスミウム-PEG-アミン誘導体の合成は、化合物36として示してあり、図30及び図31の合成スキームを用いて誘導した。次いで、この化合物を用いて、それぞれ図32及び図33の合成スキームに示されているように、THC(化合物37)とメトトレキサート(化合物38)についての電気化学的標識を調製した。THCとメトトレキサートは疎水性を示し、また、開発されている別のアッセイに比較して必要とされる検出限界が低いこと及び利用可能な抗体が少ないことから、それらのアッセイにはある程度困難性がともなうと予想された。
【0041】
検出感度を適度に改善するために、親水性PEGリンカーに加えて、有用な第二のコンジュゲートタイプを調製した。複合酸化還元中心を有するオスミウム錯体が提案された。1つのアナライト結合部位当たり2つ及び4つのオスミウム酸化還元中心に対して、合成スキームを作成した。これらの新規なコンジュゲートでは、コンジュゲート分子量が増大しているので、拡散係数「D」は小さくなることが期待された。しかしながら、利用可能な酸化還元部位が2倍又は4倍に増えたことにより、リサイクリングが増加する可能性があった。
【0042】
THC-1及びメトトレキサートに対するオスミウム-PEG-リンカーにより、通常のオスミウム疎水性抗原と比較して、溶解性が改善された。両方とも、以前には使用していた有機溶媒を使用することなく、PBSTマトリックス中に溶解させることができた。このリンカーは長くフレキシブルであり、親水性であることから、該リンカーにより抗体に対するアクセシビリティーも改善され得るということも示唆される。このオスミウム-PEG-コンジュゲート及びジオスミウムコンジュゲートは、CV及びコンジュゲート用量反応曲線などの電気化学的キャラクタリゼーションにおいて、かなり良好に機能した。これらの新規メディエーターコンジュゲートは、多くのアッセイで良好に機能し、疎水性抗原(例えば、テトラヒドロカンナビノール(tetrahydrocannibinol)抗原及びメトトレキサート抗原など)のメディエーターコンジュゲートなどの当技術分野で使用されているメディエーターにともなうある種のアッセイの困難性を克服するための特定の改善を提供する。
【0043】
水性溶液中では、第一作用電極及び第二作用電極の電位の利用可能な範囲を、Ag/AgCl参照電極に対して約600mVから-600mVとなるように選択して、水の酸化又は還元を回避することができる。尿酸及びアスコルビン酸などのような存在し得る酸化可能な妨害物による妨害を回避するためには、低い酸化還元電位を有する電気化学的標識が好ましい。米国特許第6,294,062号では、異なる酸化還元電位を有する複数のメディエーターを一緒に混合したものは、可逆的酸化還元化学種を酸化還元電位が少なくとも50mV異なるように選択した場合、IDA電極上で互いに独立に測定可能であるということが論じられている。さらに、異なる可逆的酸化還元化学種を異なった測定チャンバーの中に別々に分離して入れた場合、複数のアナライトを類似した又は異なった電位のメディエーターを用いて測定することが可能である。IDA電極上における未結合メディエーターの酸化還元リサイクリングにともなう定常電流の測定は、アナライトの濃度に比例する。該電流は、WE1若しくはWE2において、又は、その両方において測定可能である。
【0044】
本発明を用いて、単一サンプル中の2種以上のアナライトを同時に測定することができる。好ましい一実施形態では、キットは、一連の電極セット又は電極構造を含んでおり、ここで、電極の各セットは、別々のサンプルチャンバー内に配置されている。該液体サンプルを、その別個のサンプルチャンバーに供給する。例えば、試験センサーには、第一の電極セットについて上記で記載したように構成された第二の電極セットを支持する第二のサンプルチャンバーを少なくとも含ませることが可能である。さらに、別々のサンプルチャンバーは、異なった酸化還元可逆的コンジュゲートを含むことが可能である。
【0045】
該方法は、サンプル中の所望のアナライトの濃度に相関している未結合電気化学的標識の濃度を測定することによりサンプル中のアナライトを検出することを含んでいる。
【0046】
表1は、血中グルコースのモニタリングと比較した、アナライトの可能な検出範囲を示している。従って、該診断法は、高い感度を有しているべきである。アフィニティーに基づくアッセイ技術は、これらのアナライトを検出するための感度を提供することができる。
【表1】
【0047】
最近、アナライトと「特異的結合相手」の間の複合体から得られた情報に頼る電気化学的アフィニティーバイオセンサー技術において、重大な進歩があった。そのような技術は、典型的には、標的アナライトの標識化リガンド類似体を使用するが、その際、リガンド類似体は、該アナライトと競合して特異的結合相手に結合するように選択する。標識化リガンド類似体が該特異的結合相手に結合する程度を測定することが可能であり、それを、サンプル中の該アナライトの存在及び/又は濃度に相関させることが可能である。アナライトとその特異的結合相手の例を下記表2に挙げる。
【表2】
【0048】
本発明の一形態では、電気化学的標識の結合基は、抗原決定基、エピトープ又はリガンド類似体を、典型的には1以上のリンカー基を介して含んでいて、上記で記載した「酸化還元可逆的コンジュゲート」を形成している。用語「リガンド類似体」は、本発明で使用される場合、その意味の中に、測定されるアナライトと同じ特異的結合相手と複合体を形成することができる化学種を包含しており、アナライト自体を含むことも可能である。本発明の方法を実施するのに使用される拡散に基づく電気化学的検出技術を考慮して、低分子量化学種が最も望ましい。従って、該酸化還元可逆的コンジュゲートは、約50,000ダルトン未満の分子量を有するのが好ましく、約10,000ダルトン未満の分子量を有するのがさらに好ましい。最も好ましくは、該酸化還元可逆的コンジュゲートの分子量は、約500ダルトン〜約5,000ダルトンである。
【0049】
本発明で使用するためのリガンド類似体の例としては、限定するものではないが、以下のものを挙げることができる:ペプチドホルモン(例えば、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、インスリン及びプロラクチンなど)若しくは非ペプチドホルモン(例えば、ステロイドホルモン、例えば、コルチゾール、エストラジオール、プロゲステロン及びテストステロンなど)若しくは甲状腺ホルモン(例えば、チロキシン(T4)及びトリヨードチロニンなど)、タンパク質(例えば、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、癌胎児性抗原(CEA)及びα-フェトプロテイン(AFP)など)、薬物(治療用途用薬物、乱用薬物及び/又は規制薬物、例えば、アンフェタミン、糖類、毒物又はビタミン類など)、及び、生物戦用因子。本発明によるリガンド類似体として含めることができるリガンド類似体の特定の例としては、限定するものではないが、以下のものを挙げることできる:コカイン、アンフェタミン、モルヒネ、バルビツール薬、テオフィリン、フェンシクリジン(phenylcyclidine)(PCP)、テトラヒドロカンナビノール(THC)、メトトレキサート、ベンゾジアゼピン、フェニトイン、カルバマゼピン、フェノバルビタール、ゲンタマイシン、アミカシン、バンコマイシン、トブラマイシン、プロカインアミド、リドカイン、キニジン、バルプロ酸、ジゴキシン、ジギトキシン、三環系抗鬱薬(TCA)、例えば:ブプレノルフィン、アミトリプチリン(amitrptyline)、デシプラミン、イミプラミン、ノルトリプチリン、ドキセピン、免疫抑制薬。本発明での使用に含めることが可能な戦争又は生物戦用因子としては、限定するものではないが、以下のものを挙げることができる:ラシン(racin)、炭疽菌(B. anthracis.)、天然痘、ボトックス及びボツリヌス毒素。
【0050】
図1は、サンプル流体中の1種以上のアナライトを検出及び/又は分析するためのシステム又は診断キット(10)の概略図である。キット(10)には、試験センサー(12)、測定モジュール(14)及び携帯用即ちポータブル制御装置(16)が含まれている。
【0051】
図示されている実施形態では、試験センサー(12)は電極構造(22)を含んでいる。該電極構造内の電極は、互いに平行であることが可能であり、また、該電極は、検出チャンバーの同一の壁面に支持されていることが可能であるか、又は、互いに対向していて、1つの電極が1つの壁面に支持されていて、もう1つの電極が検出チャンバーの隣接する壁面若しくは対向する壁面に支持されていることが可能である。好ましい実施形態では、該電極セットは、例えばインターデジテイテッドアレイ(IDA)のような、マルチアレイ電極を含んでいる。IDA内の各電極は、複数の「フィンガー」を含んでいて、これは、もう一方の電極の「フィンガー」とインターデジテイトする。IDA内の個々の電極は、互いに平行であり得るか、又は、互いに対向であり得る。別の実施形態では、該マルチアレイ電極は垂直インテーデジテイテッドアレイ電極として製作することが可能であり、これについては、下記でさらに充分に記述する。
【0052】
好ましい実施形態では、試験センサー(12)を用いて、サンプル溶液中の1種以上のアナライトの逐次分析が可能である。好ましくは、試験センサー(12)上に供給される試薬は乾燥形態で提供され、その際、試験サンプル中の流体が分析を実施するための媒体となる。 試験センサー(12)は、可撓性ストリップ又は剛性ストリップのいずれかとして提供することができるが、これについては、下記でさらに充分に論じる。剛性試験センサーは、例えば、シリコンウェハ上の集積回路技術を用いて製作可能である。
【0053】
試験センサー(12)は、第一端部(26)と、その反対側の第二端部(28)を含んでいる。サンプルポート(30)が試験センサー(12)上に、第一端部(26)に隣接して配置されている。代替的な実施形態では、サンプルポート(30)は、試験センサー(12)の側面に位置させることも可能である。
【0054】
第二端部(28)は、複数の接触パッドを含んでいる。さらに、第二端部(28)は、第二端部(28)を測定モジュール(14)に連結又は挿入するのに試験センサー(12)が必ず唯一の向きをとるようにするために、突起、隆起又はノッチ(34)などのような物理的な「鍵」を含むことが可能である。別の実施形態では、第二端部(28)は、測定モジュール(14)への該試験センサーの正確な向き及び/又は挿入を確実なものとするために、1以上の電気的接続を含むことが可能である。さらに、1以上の電気的接続及び接触を用いて、品質管理分析用の製造ロット及び/若しくは試験センサーの型の識別、どのアナライトを分析するために試験センサーが構成されているか、並びに/又は、アナライトの予想される濃度範囲により、特定の試験センサーを識別することが可能である。
【0055】
測定モジュール(14)は、第二端部(28)を受けるための連結部又はレセプタクル(36)を含んでいる。レセプタクル(36)は、物理的な鍵が存在している場合には、対応する「錠」を含んでおり、また、電気若しくは磁気コネクタ又は接点と結合するための対応する数の電気的接触を含んでいて、試験センサー(12)に接触する。
【0056】
一実施形態では、測定モジュール(14)は少なくとも1つのバイポテンシオスタットを含んでいる。該バイポテンシオスタットは、試験センサー(12)上の2つの異なった電極セットの電圧を同時に印加及び制御するように構成することが可能である。別の実施形態では、測定モジュール(14)は、2つ以上のバイポテンシオスタットを含んでおり、各バイポテンシオスタットが2つの異なった電極セットの電圧を印可及び制御するように構成することが可能である。従って、該測定モジュールは、サンプルと接触している電極構造上の電位を制御するために、1つ以上のプログラム可能なバイポテンシオスタットを含んでいることが可能である。さらに別の実施形態では、該バイポテンシオスタットは、下記で記述するデスクトップ又は携帯用計測器(16)の中に含ませることも可能である。
【0057】
さらに、測定モジュール(14)は、被検サンプル中の選択された1種以上のアナライトの1以上の分析及び同定を実施するための命令を提供するハードウェア、ソフトウェア又はファームウェアを含んでいることが可能である。
【0058】
測定モジュール(14)は、さらにまた、測定モジュール(14)をポータブル制御装置(16)に機能し得るように連結するためのコネクター(38)も含んでいる。図示されている実施形態では、測定モジュール(14)はコネクター(38)を含んでおり、これは、ポータブル制御装置(16)上のレセプタクル(40)の内部に受容されるように構成されている。
【0059】
ポータブル制御装置(16)は、多種多様な携帯用電子デバイスの中に提供することが可能である。好ましい一実施形態では、ポータブル制御装置(16)は、種々の携帯情報端末(PDA)の内の1種として提供される。携帯情報端末(PDA)は市販されている。別の実施形態では、ポータブル制御装置(16)は、ポータブル(好ましくは、専用の)コンピューター又はCPUとして提供することが可能である。ポータブル制御装置(16)は、視覚的出力面(46)を含んでおり、また、(含むことは必須ではないが)1つ以上の入力装置(44)(ボタン、スイッチなど)を含んでいることが可能である。さらに、市販されている種々のPDAでは一般的であるように、データ入力/出力面(46)には、スタイラス(48)で入力することもできる。
【0060】
測定モジュール(14)が機能し得るようにポータブル制御装置(16)に連結されている場合、使用に際しては、測定モジュール(14)に常駐しているソフトウェアプログラムを自動的にポータブル制御装置(16)にアップロードさせることが可能である。アップロードされたプログラムはポータブル制御装置(16)上で起動して、特定の情報を入力するように使用者に働きかけること及び/又は指定された試験を実行するように使用者に指示を与えることを始める。さらに、該ソフトウェアは、定常電流に関する値の測定、それらの値の保存、アナライト濃度の計算、データ管理、品質管理、校正、試験センサーの識別(製造ロット、アナライトの濃度範囲、及び/又は、アナライトの種類)、及び、集中化実験室情報システムへの接続についての1つ以上の命令を含んでいることが可能であるか、又は、それらを実施する能力を有していることが可能である。
【0061】
一実施形態では、制御装置(16)は、日付と時間が表示されている薬物モニタリングシステムの画面から開始する。次の画面は、使用者に対してオペレーターの身分証明を入力するように指示する。従って、必要に応じて、適切な訓練を受けた特定の使用者のみがアクセスしてアッセイを実施できるように制御装置(16)をセットアップすることが可能である。オペレーターの身分証明は、数字又は英数字コードとして入力することができる。次の指令、即ち、次の画面は、メインメニュー画面であることが可能であり、このメインメニュー画面により、例えば、特定の薬物試験、対照試験又は結果の検討などを選択することができる。「薬物試験」を選択すると、使用者に対して患者の身分証明又は名前を入力するように指示が与えられる。次いで、次の画面で、使用者は、適切な試験又は条件を選択することができる。さらに、制御装置(16)(又は、測定モジュール(14))は、患者と一緒に使用されるか若しくは使用されることになっている特定の試験センサー又は選択された試験若しくは試験条件で使用されるか若しくは使用されることになっている特定の試験センサーを確認及び識別するための認識ソフトウェア又は認識ハードウェアを含んでいることが可能である。特定の試験を選択した後、使用者は、1つ又は複数の試験センサーを測定モジュール(14)に挿入するように指示される。選択された試験及び/又は挿入された試験センサーが適合しないか又は認識されない場合は、制御装置(16)は、試験をブロックすることができる。試験センサーが適合したか又は認識された場合、制御装置は、サンプルを試験センサーに供給する状態になっている。サンプルが適用されると試験が開始される。制御装置は、試験が完了したときに使用者に信号で知らせることが可能であり、また、アッセイ期間の最後に結果をレポートすることができる。好ましい実施形態では、制御装置は、アッセイに対して所望される要件に応じて、定量的な値又は定性的な値をレポートする能力を有する。結果は該機器に保存され、レポートは、該機器のIRポート41を介して、IRシグナルを受信する機能を備えたプリンターに直接プリントアウトすることが可能である。データは、IRポート、ハードウェア連結を介して、及び/又は、クレードル内に配置された制御装置の手動式「ホットシンク」を用いてダウンロードすることも可能である。
【0062】
図2は、本発明で使用するための試験センサー(50)の一実施形態の斜視図である。試験センサー(50)は、単一のサンプル流体中の複数の異なったアナライトを分析するように例示されている。試験センサー(50)は、単一の投与ポート又はサンプルポート(51)と、複数の試薬チャンバー(53)へと通じる複数のチャンネル(52)を含んでいる。種々の試薬、バッファー及び標識化リガンド類似体などは、それぞれの異なった試薬チャンバー(53a)、(53b)、(53c)などの中に配置される。それぞれが異なった試薬又は試薬のセットを含んでいる2つ以上の異なった試薬チャンバーを異なったアッセイ法(例えば、逐次結合法又は置換結合法など)に使用可能であることは理解されるであろう。チャンネル(54)は、試薬チャンバー(53)から測定域(55)に通じている。かさねて、それぞれのチャンネルがそれぞれ別個の試薬チャンバーから異なった検出チャンバーへと通じている。
【0063】
図示されている実施形態では、可溶性試薬、バッファー及び/又は標識化リガンド類似体は乾燥されているが、基材又はマトリックス上に固定はされていない。典型的には毛管作用により、流体サンプルの一部をサンプルポート(51)の中に引き入れる。サンプル流体は、チャンネル(52)を通ってそれぞれの試薬チャンバーまで進んでいき、そこで、サンプル中のアナライトは、結合相手、直接結合分析における標識化結合相手に結合するか、又は、逆に、該アナライトは、アナライト、その誘導体若しくは標識化リガンド類似体から結合した相手を排除することができる。反応生成物を含んでいるサンプル流体は、試薬チャンバーから検出チャンバーまで進んでいき、そこで、結果として生じた標識化リガンド類似体コンジュゲートを電気化学的に検出することができる。
【0064】
別の実施形態では、1種以上の試薬、バッファー及び標識化リガンドを、試薬チャンバー内で固定することができるか、又は、試験センサー上の流体回路の別の部位で固定することができる(例えば、検出チャンバー内で固定することができる)。
【0065】
図3は、試験センサー(50)と同様に構成された試験センサー(60)の代替的な実施形態の斜視図である。従って、類似した構造に対しては、同じ参照番号を使用している。試験センサー(60)は、別々の投与ポート(61a)、(61b)、(61c)・・・を含んでいることでセンサー(50)とは異なっており、これらの投与ポートは、別個の試薬チャンバー(63a)、(63b)、(63c)のそれぞれに対するものである。この実施形態では、異なったサンプルを異なったポート(61a)、(61b)、(61c)・・・に適用することが可能であり、また、異なったサンプルのそれぞれは、同じ試薬と同じ条件を用いて分析することが可能である。あるいは、同一のバルクサンプルを異なったポート(61a)、(61b)、(61c)・・・に導入することが可能であり、異なった試薬チャンバー(63a)、(63b)及び(63c)には、該バルクサンプルについての異なった分析を実施するための異なった試薬を含ませることができる。
【0066】
図4は、本発明で使用するための試験センサー(70)のさらに別の実施形態の分解図であり;図5は、試験センサー(70)の斜視図である。試験センサー(70)は、試験センサー(50)及び(60)と同様に、複数の試薬チャンバー及び電極構造を含んでいる。試験センサー(70)は、互いの上に積層された複数の支持体ストリップ(72)、(74)、(76)、(78)及び(80)を含んでいる。図示されている実施形態では、各支持体は、サンプルポート、反応チャンバー、測定域及び電極構造を含んでいる。一形態では、支持体ストリップ(72)、(74)、(76)、(78)及び(80)の各々は、それぞれ、サンプルポート(82)、(84)、(86)、(88)及び(90)を含んでいて、それにより、サンプルを単一のサンプルポート(例えば、ポート(82))に導入することが可能となる。導入されたサンプルは、流れていって、試験センサー(70)の各アッセイに投薬される。サンプルポートは別にして、それぞれの支持体ストリップ(72)、(74)、(76)、(78)及び(80)は、サンプルと試薬を通さない層により、隣接する試験センサーから分離されている。さらに、センサーのそれぞれの反応チャンバーには、同一の試薬を含ませることができるか、又は、異なった試薬を含ませることができる。
【0067】
使用に際しては、サンプルを単一のポート(例えば、ポート(82))に導入し、導入されたサンプルは、残りのサンプルポートまで流れていく。そのサンプルは、次いで、反応チャンバーまで流れた後、測定域まで流れていき、そこで、結果として生じた化学種に応答させる。試験センサー(70)を、垂直方向に間隔を置いて配置された電極パッドを有する積層型試験センサーを収容するように構成された計測器に挿入することにより、試験結果の視覚的表示を提供することができる。
【0068】
図6は、試験センサー(102)及び計測器(104)を含んでいる診断キット(100)の一実施形態を示している。試験センサー(102)を計測器に挿入した後、「浸漬線(dip line)」(103)までサンプル中に浸漬する。試験センサー(102)は、上記で記述した試験センサーのいずれであることも可能である。
【0069】
図7は、単一のサンプル(例えば、ランセットで傷を付けた指からの血液)を投与することが可能なマルチ-アナライト試験用に構成された診断キット(110)の別の実施形態を示している。単一のサンプルを、多くの種類の異なったアナライトの存在及び/又は量について分析することができる。
【0070】
図8は、ピペットで投与することが可能なシングルアッセイ用に構成された、試験センサー(122)と計測器(124)を有する診断キット(120)を示している。
【0071】
図9は、マルチ-アナライト試験用に構成された、試験センサー(132)と計測器(134)を含んでいる診断キット(130)を示している。試験センサー(132)は、サンプル収集チャンバー(136)の壁面に固定して置かれている。コネクタ(133)で、試験センサー(132)の接点まで電気的に接続する。図示されている実施形態では、試験センサー(132)はカップの蓋(138)に付いている。この実施形態は、サンプルの収集を可能にするので、特に有利である。次いで、収集チャンバーを密閉し、必要に応じて、貯蔵又は保存する。さらに、コネクタ(133)の連結部がサンプル適用ポートと収集チャンバーの間の密閉を開放している。サンプルは、収集直後に試験することが可能であるか、又は、しばらく経ってから試験することが可能である。別の実施形態では、試験センサーは、収集チャンバー(136)の別の壁面内又は壁面上に置くことができる。別の実施形態では、試験センサー(132)は、取り外し可能なように収集チャンバー(136)に取り付ける。
【0072】
図10は、定常電流の条件を図示している本発明の微小電極アレイ(160)の部分断面図である。この部分微小電極アレイ(160)は、2つのカソード又は還元電極(161)及び(163)、並びにアノード又は酸化電極(162)を含んでいる。メディエーターMは、二者択一的にカソード電極(161)又は(163)で還元され、アノード電極(162)で酸化される。参照線(166)で示されているカソード電極(161)とアノード電極(162)の間の間隙は、定常電流を維持するように選択することが可能であり、従って、以下でさらに充分に論じられているように、シグナル増幅が可能となる。上記で述べたように、該電極構造は、参照電極と、所定の電位を作用電極に印可したときにサンプル中の酸化還元可逆的コンジュゲートの拡散リサイクリングが可能となる寸法を有する少なくとも第一作用電極及び第二作用電極を含んでいる。フィンガーの幅Wと間隙Wgの寸法を小さくすると酸化還元リサイクリングが増大するが、効果的な電流増幅にとっては、電極対の長さと数を大きくすることも好ましい。参照線(166)で示されている間隙は、関心のあるアナライトとサンプル中のその濃度又は予測される濃度を考慮して、望ましいように選択することができる。典型的には、隣接する電極間の間隙は、約25μm未満となるように、好ましくは、約10μm未満となるように、さらに好ましくは、約2μm未満となるように選択される。極めて低い感度が必要な場合には、サブミクロンの間隙が望ましい。
【0073】
図11は、インターデジテイテッドアレイ(IDA)(170)の一実施形態の平面図である。IDA(170)は、本発明によりバイポテンシオスタットを用いて酸化還元リサイクリングを測定するのに適した平面電極構造として示されている。IDA(170)は、2つの作用電極(172)及び(174)(図示されている)を含んでおり、これらが6対の電極フィンガー(176)を規定している。さらにまた、IDA(170)には、参照電極(178)及び対向電極(180)も含まれている。図10の(166)で示されている隣接する2つのフィンガー間の間隙及びフィンガーの総数は、IDA(170)について特定のアナライトを適用するのに望ましいように選択することができる。好ましい実施形態では、IDA(170)に示されているよりも多くの電極対を有するIDAを作製するのが望ましい。例えば、適切な増幅を達成するためには、少なくとも25対の電極を有するのが最も望ましく、さらに好ましくは少なくとも50対の電極を有するか、又は、750電極対、さらには、1000対を超える電極を有する。増幅は、該幅と間隙が小さくなるにつれて増大し、また、フィンガー対の長さと数が大きくなるにつれて増大する。IDA(170)内の電極構造のそれぞれは、電極(172)と電極(174)が所定のアノード(酸化)電位とカソード(還元)電位で平衡状態にあるときにサンプル中の拡散性酸化還元可逆的メディエーターの拡散リサイクリングが可能となるような寸法を有する。
【0074】
微小電極アレイはさまざまな技術を用いて製造することが可能であり、そのような技術には、限定するものではないが、WO03/044511記述されている、フォトリソグラフィー法、電子ビームリソグラフィー法、イオンビームミリング法、ナノインプリントリソグラフィー法及びレーザアブレーション法などがある。前記特許は、参照により組み入れる。インターデジテイテッド電極アレイ(IDA)は、さまざまな絶縁基板(非限定的には、ガラス、シリコン、Upilex、Kapton、Kaladex、Melinex、又は別の高分子物質など)の上にデポジットさせることができる。
【0075】
バイオセンサーシステム用の計測器の構造と設計における改良については、米国特許第4,999,632号;米国特許第5,243,516号;米国特許第5,366,609号;米国特許第5,120,420号;米国特許第5,141,868号;米国特許第5,192,415号;米国特許第5,264,103号;米国特許第5,352,351号;米国特許第5,405,511号;米国特許第5,437,999号;米国特許第5,438,271号;及び、米国特許第5,575,895号に記載されている。これら特許の開示内容は、参照により本明細書に組み入れる。
【0076】
電極対の寸法(又は、表面積)及び数は、とりわけ、アナライト(類)、それらの濃度、及びサンプル媒体に応じて選択することができる。さらに、本発明は、所与の一組の条件に対して電極フィンガー対の寸法及び/又は数を選択するための実験用構成物も提供する。該構成物については、以下で充分に記載する。
【0077】
さらに別の実施形態では、アレイ(170)の構成要素は、マクロ電極アレイを提供するような寸法とすることができる。マクロアレイ用の電極の寸法と電極間の間隙は、大きく変えることが可能であるが、試験センサーの寸法と利用可能なサンプルの容積によってのみ制限され得る。
【0078】
垂直IDA電極
図12は、本発明による垂直インターデジテイテッドアレイ(VIDA)(190)の側面図である。図13は、アレイ(190)の一実施形態の平面図である。アレイ(190)は、基板又は絶縁基板(192)を含んでおり、その上に第一の導電性材料を導電層(194)としてデポジットさせて、第一電極(195)とする。導電層(194)と基板(192)の上に誘電性絶縁層(196)デポジットさせる。第二の導電性材料(193)を誘電層(196)の上にデポジットさせる。次いで、第二の誘電層(図示せず)をデポジットさせ、第二の導電性材料(193)上にパターニングして、複数の非導電性フィンガー(図示せず)を規定する。露出した第二の導電性材料を除去した後、露出した誘電層を除去する。これにより、非導電性フィンガー(196)の上にデポジットさせ、複数の電極フィンガー(198)を規定するようにパターニングされた電極フィンガー(193)の第二のセットが残る。
【0079】
VIDAの電極の間隙は、導電層の間に挟まれた誘電絶縁層(196)の厚さによって規定される。従って、サブミクロンの分解能を有さない標準的な技術を用いて、ミクロン〜サブミクロンの間隙を作ることができる。これを達成することができるのは、VIDAフィンガーの間隙又は形状が、パターニング技術の限界には依存せずに、むしろ、適用可能な誘電絶縁体の薄さ(又は、厚さ)の関数であるからである。
【0080】
一実施形態では、該間隙は、約1μm未満となるように選択する。別の実施形態では、望ましい間隙の幅は、1μm〜3μMであるように選択する。
【0081】
該垂直電極アレイを覆うように側壁(202)及び(204)並びに上面又は頂部(206)を作製して、検出チャンバー(208)を規定することができる。検出チャンバー(208)の総容積は、所望されるように選択することが可能であるが、試験センサーの所望寸法とストリップ上に形成される検出チャンバーの数によってのみ制限される。
【0082】
VIDA(190)は、上記IDAにより提供される有利点に加えて、さらに、単位表面積当たりの電極対の密度が高いなどの有利点を提供する。従って、それぞれの電極が平面IDAと同じ表面積を有する同じ数の電極対を含む、より小さなチャンバーを作ることが可能である。さらに、試験センサーは、IDAのみを含んでいる試験センサーと比較して、より多くのVIDAを含むことが可能である(ここで、2つの試験センサーの表面積は同じであり、チャンバーは、それぞれ、同じ数の同じ寸法の電極対を含んでいる)。このことにより、試験センサーに重要な改良を加えることが可能であり、そのような試験センサーは、多くの異なったアナライトを同時に検出/分析するように構成される。
【0083】
VIDA電極を示している図12において、誘電層(196)は、2つの作用電極の間の領域に穴が存在してない。典型的なVIDAの設計は、剛性基板又は可撓性基板上に金属-誘電体-金属の構成を含んでいる。誘電層のインテグリティは、装置の電気化学的機能にとって重要である。内部誘電層が絶縁破壊されると、電気がショートし、装置が機能しなくなる。スパッタリング及びスピンコート誘電体などの種々のプロセスにより絶縁体をデポジットさせることができる。ドライエッチング技術を用いて、所望の領域の絶縁層を第一導電層に至るまで除去することができる。VIDA電極の製造方法は上記方法に限定されない。上記方法は、例としてのみ挙げてある。
【0084】
セル定数
溶液の抵抗率は、系内に溶解している全てのイオンの濃度と移動度を合わせたもので決定される溶液に固有の特性である。サンプルのOhm×cmで表されるこの抵抗率(ρ)は、該サンプル(ここで、サンプルは、小数の例を挙げれば、電気化学的標識、バッファー、塩類及び抗体を含んでいる)を混合するサンプルマトリックス及び試薬の影響を受ける。
【0085】
セル内の2つの電極間に電界を印可した場合、電極の界面の二重層が、印加電界に対向して最終的にはそれを相殺するのに充分なほど充電するまでイオンが移動する。二重層の充電は、該溶液抵抗と直列のコンデンサのように作用する。測定された溶液抵抗は、接触抵抗と電極材料に固有の抵抗に起因する一定の付加的な直列抵抗を有する。電気化学セル内で測定された高周波抵抗は、該溶液の固有抵抗率ρに比例し、その比例定数は、「セル定数」と称される。高周波は、電気化学セルのリアクタンス特性(容量特性)を安全に無視し得る周波数範囲として定義し得る。
【0086】
セル定数は、溶液の抵抗率の変化に対するセルの感度において重要な因子であり、電極の構成により大きく変化する。本発明にとって興味深い形状は、インターデジテイテッドアレイ(IDA)である。ここで、同一平面上にある多数のアノードとカソードの対は、繰り返し交互にインターレースされているか(interlaced)又はインテーデジテイトされていて(interdigitated)、より大きなインターデジテイテッドアレイ電極を形成している。インターデジテイテッドアレイに関し、高周波抵抗は、下記方程式1により溶液の抵抗率に関連づけられる。
【数1】
【0087】
従って、IDAについてのセル定数は、方程式2によって定義され、ここで、mは、IDAのマイクロバンド電極対の数であり、bは、該バンドの長さ(cm)であり、Gは、電極形状フィンガーの幅(W)と間隙(Wg)の無次元関数である。Gは、方程式3で定義される式のように近似することができる。セル定数は、電極の構成の有用なパラメータであり、これは、計算することも測定することも可能である。IDA電気化学セルのセル定数は、その構造、特に電極の形状に依存するが、場合によっては、該セルの上部境界(毛管高さ)も、役割を果たし得る。IDAについてのセル定数は、該方程式とAokiらの研究により評価されるが、その評価は、単に、IDA電極対の数とそれらの寸法の関数である。従って、セル定数は、電極の種々の形状を比較するのに利用可能な単一の値である。同じセル定数を有する電極は、本発明の電極の適用において、類似した特性を示す。
【数2】
【0088】
Gは、IDAに関しては、Aokiによる近似方程式3により評価し得る。
【数3】
【0089】
ここで、Wgは、隣接する作用対向電極バンド間の間隙の幅であり、Wは、各(電極フィンガー)マイクロバンドの幅である。このモデル近似により、アレイ端部(つまり、該アレイ及び電解質を含んでいる電気化学セル)の効果はそれほど大きくはなく、セルの境界において電界の力線を歪ませることはないことが推定される(即ち、IDAは、第一のフィンガーと最後のフィンガーについて隣接フィンガーが存在しないことにより電流が有意に変えられるのを防止するために、充分な数のフィンガーを有していなければならない)。さらにまた、このモデルにより、マイクロバンドアノード電極フィンガーとマイクロバンドカソード電極フィンガーが、同じ幅を有していると考えられる。Wg/(W+Wg)が0.1から0.9まで変動するのにともない、Gは、約2.5から約0.5まで変動する。WとWgが等しい場合、Wg/(W+Wg)は0.5であり、Gは約1である。
【0090】
Koichi Aokiらの文献中の多くの論文は、インターデジテイテッドアレイ電極における反応の理解、モデル化及び予測が優れているように思われた。以下の刊行物は、この分野において公表された多くの論議及び数学的計算のサンプルである:"Theory of chronoamperometric curves at microbandelectrodes", J. Electroanal. Chem., 225(1987)19-32;"Derivation of an approximate equation for chronoamperometric curves at microband electrodes and its experimental verification", J. Electroanal. Chem 230(1987)61-67;"Quantitative analysis of reversible diffusion-controlled currents of redox soluble species at interdigitated array electrodes under steady-state conditions", J. Electroanal. Chem., 256(1988)269-282;"Time-dependence of diffusion-controlled currents of a soluble redox couple at interdigitated microarray" J. Electroanal. Chem., (1989)11-20;及び、"Approximate models of interdigitated array electrodes for evaluating steady-state currents", J. Electroanal. Chem 284(1990)35-42。
【0091】
方程式4も上記文献により導き出されたものであり、定常状態条件下にあるIDA電極上での酸化還元可溶性メディエーターの可逆的拡散により制御される電流を評価するために使用される。この方程式を用いて、図15のIDA電極とVIDA電極の勾配を予測した。この方程式において、mはIDAのマイクロバンド電極対の数であり、bは該バンドの長さ(cm)であり、nは該酸化還元反応に関与している電子の数であり、Fはファラデー定数[9.65E+04C/当量]であり、cは酸化還元分子のバルク濃度であり、Dは酸化還元分子の拡散係数[オスミウム遊離メディエーターでは、5E-06cm2/sec.]であり、Wはcmで表されるマイクロバンド電極(アノード又はカソード)の幅であり(ここで、Wa=Wc)、Wgはそれぞれアノード電極とカソード電極の間の間隙である。
【数4】
【0092】
定常電流を予測するためのこの方程式とGとセル定数の間にはある関係が存在していることが認められるであろう。定常電流についての式は、|I|=mbnFcDGと書き換えることが可能である。該式を書き換えたことにより、セル定数との以下の関係(下記方程式5)が得られる。これは、定常状態DC電流がIDA電極のセル定数に反比例することを意味している。所与の濃度及び拡散係数に対して、セル定数が小さくなると、それに応じて定常状態DC電流が大きくなる。セル定数が小さくなると、さらに、定常状態DC条件への移行も速くなる。
【数5】
【0093】
予測される電流をインターデジテイテッドのIDA電極の面積(面積=2(W+Wg)mb100)で割ることにより、定常電流についての方程式4を単位面積に対して標準化することができる。方程式6は、図15における標準化された予測勾配を計算するのに使用される方程式を示している。電流は、109を掛けることにより、nAに変換されており、面積は、100を掛けることにより、cm2からmm2に変換されている。
【数6】
【0094】
図15は、調製されたIDAとVIDAのさまざまな実施形態について記載している表3を提供する。各電極に関し、電極の形状について評価する。上記で論じた方程式4及び方程式6を用いて、予測勾配及び標準化された予測勾配に関して特定の電極をモデル化した。さらに、実験値は、CHI Instruments(Austin, Texas)製のCHI 802Aバイポテンシオスタット又はCHI 832Aバイポテンシオスタットのいずれかを用いて得られたアンペロメトリックバイポテンシオスタット用量反応曲線及びリサイクリングCVから得たものを示してある。表4は、これらの電極の4種類についてのセル定数を示しているが、方程式2を使用することにより、図15に示されている各電極のセル定数は、VIDA電極も含めて、計算可能である。 該方程式を用いて予測値と実験値を比較するのに加えて、特定のイムノアッセイについて所望の反応を得る電極を実現するために、方程式2、方程式4及び方程式6を、適切な寸法を有する電極を設計するためのツールとしても使用した。該方程式を設計用のツールとして使用するために、約0.5〜1nAが大量生産バイポテンシオスタット装置についての最低検出感度であろうと推定された。これらの基準を満たす試作品モジュールを設計し、Handsprings Visor PDAと接続するように作製した。図15の表3に挙げてある、フィンガー幅及びフィンガー間隙が2μmで、それぞれが6mmの長さの750のマイクロバンド対を有する平面IDAを設計し、作製することにより、理想的な場合には検出感度を約5nMまで改善させた(1000nM/215nA=4.65nM/nA)。この2μm IDAの設計では、図16に示されているように、10μm、15μm及び21μmの間隙を有する電極と比較して、増幅が有意に改善された。分解能が1nAであり且つ測定された勾配が152nA/μMであると仮定すると、感度は約7nMとなるであろう。
【0095】
図49は、上記IDA電極(750フィンガー, 2μm)を用いて調製したオスミウムビオチンアッセイから得たグラフである。該アッセイは、オスミウムビオチンの濃度に基づいて、約1000nMまでのアナライト測定用に設定した。このアッセイで試験した最低レベルは250nMであったが、これは、容易に識別することができた。感度を1nA分解能に外挿することにより、感度が約20nMのアッセイとなる。
【0096】
図14の三次元プロットは、W及びWgがさまざまである一連の平面IDAについての、標準化電流対電極寸法を示している。図14は、たとえμmの間隔のIDAを用いても、WとWgを小さくすることにより、標準化された電流を有意に改善することが可能であることを示している。
【0097】
図16は、オスミウム遊離メディエーター(ビス(2,2'-ビピリジル)イミダゾールクロロオスミウム(III)ジクロリド)を用いて種々のIDA電極で測定した電流(nA)をプロットしているグラフである。該IDAは本明細書に記載してあるように調製した。該IDAは、それぞれが約21μmの幅(W)と10μm、15μm及び21μmの間隙(Wg)を有する50のフィンガー対を有する電極構造を含んでいた。別の電極構造は、750のフィンガー対(それぞれ、W=Wg=2μm)を有していた。全ての電極のフィンガー長(b)は6mmであった。このプロットは、種々の形状のIDA電極で試験したIDA増幅の大きさを示している。本発明のIDA電極の1つの特徴は、かなり大きな電極面積(36mm2)と多数のフィンガー(750対)を作製可能であること及び電気化学イムノアッセイに使用可能であることである。上記グラフ及び方程式から、W及びWgを小さくすることとフィンガーの数を多くすることは全て、IDAで測定可能な電流を増大させることに寄与し得るということが認められた。さらにまた、図16は、酸化還元リサイクリングが存在しない場合、IDAに関して特に小さな電流が得られたことも示している。
【0098】
「セル定数」は、特定の電極の形状に関して計算することも測定することも両方とも可能な、有用な値である。同じセル定数を有する2つの電極の特徴は、本発明の電極の適用において同様に機能するはずであり、また、さまざまな電極の形状を比較するのに使用可能である。本発明に関して興味深い電極は、表4に示されているように、本発明の均一系電気化学イムノアッセイを実施するのに使用されるセル定数とほぼ等しいか又はそれよりも小さなセル定数を有する電極である。好ましくは、本発明の電極についてのIDAセル定数は、高濃度のアナライト(例えば、テオフィリン)に対して約0.03cm-1未満であり、さらに好ましいのは、セル定数が約0.02cm-1未満の電極構造であり、最も好ましくは、約0.002cm-1未満である。セル定数が約0.0025cm-1未満であるIDA電極では、均一系電気化学イムノアッセイに関して本明細書で論じたオスミウム電気化学的メディエーターコンジュゲートを用いて良好な酸化還元リサイクリング及び増幅が得られる。下記表4には、さまざまな電気化学的測定に関して研究及び報告されている典型的なIDA電極の一部についてのセル定数と一緒に本発明の電極についてのセル定数が記載されている。該表から、本発明にとって好ましい電極が、必ずしも、文献に一般に記載されている電極よりも小さな電極間隙と電極幅を有する必要はないが、文献に一般に記載されている電極のセル定数よりも小さなセル定数を有することは明らかである。殆どの研究者は、より密接したIDA電極の幅と間隙に向かっているが、彼らは、多くの場合、フィンガーの長さも有意に小さくしてきた。従って、電極セルは全体的な寸法がずっと小さなものとなっている。従って、本発明に関して望ましい小さなセル定数は、通常、これまで認識されていない。
【0099】
小さな形状のIDA電極を製造するのに、e-ビームリソグラフィーなどの技術がより一般に使用されるようになってきている。現在のところ、この技術は、高容積で低コストの使い捨てセンサーにはなじみにくい。本発明の好ましい電極は、必要とされるイムノアッセイ感度に基づいて必要とされるシグナル増幅を達成するように設計する。標準的なフォトリソグラフィー技術及びレーザアブレーションなどの高速オープンリール式加工になじみやすい電極は、使い捨てイムノアッセイセンサーにとって最も好ましい。必ずしも電極の形状を最も小さくする必要はないが、セル定数をできる限り小さくする設計は、好ましい電極の設計である。電極の形状が小さいことは、セル定数も同様に小さくなる場合には好ましいが、これは、IDAフィンガーの長さ及び/又は数を調節することにより達成することができる。
【表3】
【0100】
酵素増幅
IDA増幅に代わるものとして、均一系電気化学イムノアッセイを酵素増幅を用いて開発することも可能である。一部の抗原に対しては、調製したメディエーターの酸化還元リサイクリングがコンジュゲートと一緒に適切にはリサイクルしなかったので、酵素増幅が好ましい方法であった。1つの例は、下記オスミウムモルヒネコンジュゲートを用いたものであった。
【化1】
【0101】
コカイン、モルヒネ、THC及びビオチンなどの、酵素アッセイの幾つかの例を開発した。酵素増幅についての前提は、電気化学的メディエーター標識が酵素により還元され、また、電極表面上で酸化されることである。酵素は極めて効果的であることから、この方法は、IDA増幅技術と充分に匹敵し、多くのアッセイに適用可能である。しかしながら、酵素増幅には幾つかの欠点が存在しており、そのような欠点には、妨害物質などのノイズ源を増幅する能力などがある。機器に酵素を添加した場合、酵素の安定性を保証するためには付加的な試薬も必要となる。さらに、抗体に対して酵素のpHを調和させることも必要である。有利な点としては、グルコースセンサーにおいて用いられる電極構造と同様の比較的単純な電極構造などを挙げることができる。
【0102】
アッセイスキーム
本発明のさまざまなアッセイスキームについて、以下に記載する。これらのスキームの全てにおいて、試験センサーの1以上の領域で試薬を乾燥させることが必要である。アッセイが実用的なものであるためには、サンプルを添加したときに試薬が速やかに溶解することが求められる。このような理由により、電気化学的標識、結合相手及び別の補助試薬がサンプルマトリックス中で溶解することが極めて望ましい。このような理由により、疎水性抗原のコンジュゲートでは、多くの場合、オスミウム-PEG-THC-2(化合物37)及びPEG-メトトレキサート(化合物38)などのように、親水性リンカーを使用して試薬の溶解性を改善することが必要である。さらに、サンプル中又はコンジュゲート上の抗原自体の疎水性も、非特異的結合と疎水的相互作用の懸念を有しており、この非特異的結合と疎水的相互作用は、結合に利用可能な抗原が減少させることによりコンジュゲート反応及びアッセイ結果の低減をもたらす可能性がある。疎水性抗原のコンジュゲートは一方の末端が親水性であり且つもう一方の末端が疎水性であることから、それらは、さらにまた、凝集し得るか又はミセルを形成し得る。電気化学を阻害する電極の付着物又は汚染も懸念される。ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを該試薬に添加して使用することにより上記懸念を有するアッセイが著しく改善されることが分かっている。おそらく、疎水性部分がシクロデキストリンのキャビティ内に入り込むのであろう。さらに、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを使用しても結合イベントは阻害されないように見えることも示されている。
【0103】
本発明に基づいて、幾つかのアッセイスキームを使用することができる。該スキームには、均一系イムノアッセイ法と不均一系イムノアッセイ法が含まれている。好ましい方法は、結合したメディエーターコンジュゲートから分離することなく未結合メディエーターコンジュゲートを直接測定することを可能にする均一系競合的イムノアッセイである。従って、そのようなイムノアッセイは、1種類の反応混合物中で実施することが可能である。不均一系イムノアッセイについては詳細には論じないが、不均一系イムノアッセイでは、結合したメディエーターコンジュゲートを遊離標識化物から分離するための分離ステップを用いることが必要である。
【0104】
均一系イムノアッセイは、本発明の「ポイントオブケア」装置又は「インフィールド」装置に、より容易に適合させることができる。2つのタイプの競合結合アッセイを用いた。第一の競合結合アッセイは、メディエーター標識化抗原を予め抗体(又は、別の結合相手)に結合させておく置換アッセイである。次いで、非平衡条件下で抗原を添加して、メディエーター標識化抗原を置換させる。次いで、このアッセイにより未結合メディエーター標識の量を測定して、それをアナライトの濃度に相関させることが可能である。第二の競合結合アッセイは、最初に抗原を過剰量の抗体(又は、別の結合相手)に接触させた後、メディエーター標識化抗原を添加し、この抗原が残存している抗体(又は、別の結合相手)に結合するアッセイである。置換アッセイの場合と同様に、このアッセイにより未結合メディエーター標識の量を測定して、それをアナライトの濃度に相関させることが可能である。
【0105】
電気化学的メディエーター標識化抗原の特異的活性は、サンプル中のアナライトの濃度に従って変わる。生じた電流は、存在しているアナライトの量の関数となる。
【0106】
図17は、逐次的結合を用いる競合的電気化学均一系イムノアッセイ試験センサーの一実施形態を例示している。この図は、異なった試薬と電極構造が配置されている毛管試験センサーを示している。この実施形態では、試薬(抗体及びコンジュゲート)は、測定域の上流に位置する場所の可溶性マトリックス中で乾燥させる。測定域には、さらに、有効電極領域が含まれている。抗原を含有している可能性のあるサンプルを毛管を満たすのに充分な容積でサンプル適用ポートに適用する。サンプルが毛管を満たし、試薬を溶解させると、さまざまな結合イベントが起こる。サンプルと試薬が測定域に達したとき、未結合メディエーターコンジュゲートを測定することができる。この基本的なシステムについていくつかの変形態様を想定することができるが、それらは、本発明の一部として包含される。別の実施形態では、試薬を一緒に混合し、測定域内の有効電極表面又は測定域の別の表面のいずれかで乾燥させる。この構成では、追加のチャンバー又は領域は必要ではない。
【0107】
図示されている均一系電気化学イムノアッセイは、抗原と抗体の間の特異的アフィニティーに基づいている。関心のある抗原(例えば、薬物、ペプチド又はビオチン)を電気活性酸化還元メディエーターで標識して、酸化還元可逆的メディエーター標識化抗原(メディエーターコンジュゲート)を得る。アッセイされるサンプルは、関心のある抗原に対して予想される過剰量の抗体と混合する。抗原がサンプル中に存在している場合、抗原と抗体の間で結合が生じる。結果として得られた、結合した抗原-抗体と過剰量の未結合抗体の混合物を、次いで、酸化還元可逆的メディエーター標識化抗原と合する。未結合の抗体は、酸化還元可逆的コンジュゲートの抗原に結合して、結合複合体を形成する。得られた混合物は、酸化還元可逆的未結合コンジュゲートと結合コンジュゲートを含んでいる。結合コンジュゲートの酸化還元リサイクリングは、大きな分子量の結合相手の結合により阻害される。この実施形態では、関心のある抗原に対する特異的抗体の所定量をサンプルと合し、その後、所定量の酸化還元可逆的コンジュゲートに添加する。未結合酸化還元可逆的標識が電極で酸化還元リサイクリングを受けるように選択された電位を印可することにより、電流が生じる。この電流を測定して、アナライトの濃度と関連させることが可能である。
【0108】
上記例示は、抗原と抗体の間の特異的アフィニティーに基づいている。抗原/抗体の組合せの代わりに、関心のある任意のアナライトとその特異的結合相手を使用することが可能であることは理解されるであろう。
【0109】
代替的な実施形態では、所定量の抗体を酸化還元可逆的コンジュゲートと合して個々の複合体を形成させた後、それらの成分を液体サンプルと合することも可能である。後者の場合、酸化還元可逆的コンジュゲートは、そのそれぞれの抗体から離れて、その対応する抗原によって置き換えられる、それにより、液体サンプル中の抗原の濃度に比例した濃度の酸化還元可逆的コンジュゲートが生じる。
【0110】
試薬、即ち、抗原に対する所定量の抗体と所定量の対応する酸化還元可逆的コンジュゲートは、例えば、所定容積の液体サンプルを受け取る容器内にデポジットさせることができる。液体サンプルを容器に添加し、その後、又は、同時に、液体サンプルを電極構造に接触させる。
【0111】
アッセイに関し、2つの均一系イムノアッセイフォーマットを実施することができる:置き換え、及び、逐次結合。いずれのアッセイにおいても、一連のアッセイの最後に、遊離(未結合)コンジュゲートの量を電気化学的に検出する。インターデジテイテッドアレイ(IDA)電極又は酵素を用いて、メディエーター標識の酸化還元サイクリングを介して電流シグナルを増幅する。測定された酸化還元サイクリングによる電流は、遊離(未結合)コンジュゲートの量に比例し、アナライトの濃度とともに増大する。IDA増幅の場合、サンプルを適用し、バイポテンシオスタットを介して適切な酸化還元電位を第一作用電極及び第二作用電極に印可してから数秒以内に定常状態反応が得られる。
【0112】
バイポテンシオスタットを用いたリサイクリングからは、2つの測定値が得られるが、それらは、大きさは等しいが、符号は反対である。これは、期待される値からの偏差の原因となる非リサイクリング性妨害物質(non recycling interferent)に起因する妨害作用が存在しているかどうかを決定する上で明確な利点を提供する。典型的には、妨害物質が充分に低い濃度で存在している場合、及び、それらが酸化還元リサイクリングを受けない場合、短い時間が経過した後では、最終的な定常電流には潜在的な妨害物は存在しない。所望のアナライトの濃度の10倍〜100倍の濃度の非リサイクリン性妨害物質も、該妨害物質はリサイクリングしないので、酸化還元リサイクリング測定を用いる場合は無視することができる。充分に高い濃度の妨害物質(即ち、尿中のアスコルビン酸で起こり得るような妨害物質)は、酸化反応では大きな増大を示す場合があり、また、還元反応では期待される値よりも小さな減少を示す場合がある。酸化反応と還元反応の両方を用いることにより、関心のあるアナライトを数学的な計算で校正し得ることが期待される。
【0113】
生物学的サンプル中のアスコルビン酸(ビタミンC)の濃度は、劇的に変動し得る。尿の無作為サンプル中では、該濃度は、60μMから400μMの範囲で変動し得る。血漿中では、該範囲は34〜91μMであり、全血中では、40〜114μMである。アスコルビン酸は強力な還元剤である。従って、アスコルビン酸は、容易に酸化されて、臨床試験の電気化学的妨害の源であり得る。
【0114】
一研究において、1μM、5μM及び10μMのオスミウム遊離メディエーターを用いて、21μmのIDA電極上でアスコルビン酸の効果について調べた。アスコルビン酸は、100μM、200μM及び400μMの値で変えた。測定は、CHI 832Aバイポテンシオスタット(WE1=250mV, WE2=0mV)を用いて行った。100μMのサンプルは対照からの偏差を殆ど示さなかったが、200μM及び400μMのサンプルは、アスコルビン酸の還元特性を強く示す。対照と比較して、、200μM及び400μMのサンプルでは、酸化電流が大きく増大し、還元電流は低減した。酸化に関しては、OSFM応答の勾配における増大及びY切片の増大が観察された。還元では、逆の傾向(勾配の低減及びY切片の低減)が観察された。より速いリサイクリングIDA電極(W及びWgがより小さな電極)を用いると非酸化還元リサイクリング妨害物からの妨害が少なくなると期待される。
【0115】
サンプルの処置
該方法は、生物学的流体(例えば、唾液、尿又は血液など)を含んでいる液体サンプルで実施可能であるか、又は、液体サンプルは環境中のソースに由来するものであり得る。該液体サンプルは、「そのままで」何も加えずに分析することが可能であるか、又は、予備的処理(例えば、バッファー溶液での希釈、濃縮、若しくは、別の方法による標的アナライトの検出を最適化するために処置など)を施すことが可能である。従って、例えば、血液サンプルは、細胞成分を可溶化するために、溶解させるか、及び/又は、別の方法で変性させることができる。別の例において、尿のサンプルは、所定量のアスコルビン酸オキシダーゼと混合することができる。疎水性アナライトを含んでいるサンプルにヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを添加して、サンプル収集容器の表面、試薬又は測定域への該アナライトの非特異的結合をできる限り少なくすることもできる。該方法は、さまざまなサンプル取扱技術を用いて実施することができる。
【0116】
本発明は、検出及び/又は分析しようとする各アナライトに対して少なくとも1種の電気化学的標識を含んでいる。本発明で使用するためのオスミウム電気化学的標識の例証的な例は、化合物1の錯体である。
【化2】
【0117】
式中、R及びR1は、同一であるか又は異なっていて、それぞれ、2,2'-ビピリジル、4,4'-二置換-2,2'-ビピリジル、5,5'-二置換-2,2'-ビピリジル、1,10-フェナントロリニル、4,7-二置換-1,10-フェナントロリニル又は5,6-二置換-1,10-フェナントロリニルから選択することができ、ここで、各置換基は、メチル基、エチル基又はフェニル基であり、また、R基及びR1基は、それらの窒素原子を介してオスミウムに配位しており;qは、1又は0であり;R7は、B-(L)k-Q(CH2)iであり;R2は、qが1の場合は、水素、メチル又はエチルであり、また、R2は、qが0の場合は、B-(L)k-Q(CH2)iであり;基B-(L)k-Q(CH2)iに関して、Qは、O、S又はNR4であり、ここで、R4は、水素、メチル又はエチルであり;--L--は、2価のリンカーであり;kは、整数1又は0であり;iは、整数1、2、3、4、5又は6であり;Bは、特異的アナライト結合相手に結合可能なリガンドを含んでいる基であり;Zは、クロロ又はブロモであり;mは、+1又は+2であり;Xは、対イオン(例えば、1価アニオン又は2価アニオン、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、フッ化物イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、過塩素酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン又は亜硫酸イオンなど)であり;及び、nは、中性塩をもたらすように選択される。
【0118】
本発明で使用するためのオスミウム電気化学的標識の例証的な第二の例は、化合物2で表される。
【化3】
【0119】
式中、R及びR1は、同一であるか又は異なっていて、それぞれ、2,2'-ビピリジル、4,4'-二置換-2,2'-ビピリジル、5,5'-二置換-2,2'-ビピリジル、1,10-フェナントロリニル、4,7-二置換-1,10-フェナントロリニル、5,6-二置換-1,10-フェナントロリニル又はN,N'-ジメチル2,2'-ビイミダゾールから選択することができ、ここで、各置換基は、メチル基、エチル基又はフェニル基であり、また、R基及びR1基は、それらの窒素原子を介してオスミウムに配位しており;R2は、水素、メチル又はエチルであり;--L--は、リンカーであり;Eは、3価のリンカーであり;Bは、特異的アナライト結合相手に結合可能なリガンドを含んでいる基であり;Zは、クロロ又はブロモであり;Xは、対イオンであり;yは、中性塩をもたらすように選択され;及び、mは、2〜4である。
【0120】
本発明で使用するためのオスミウム電気化学的標識の例証的な第三の例は、化合物3で表される。
【化4】
【0121】
式中、R及びR1は、同一であるか又は異なっていて、それぞれ、2,2'-ビピリジル、4,4'-二置換-2,2'-ビピリジル、5,5'-二置換-2,2'-ビピリジル、1,10-フェナントロリニル、4,7-二置換-1,10-フェナントロリニル、5,6-二置換-1,10-フェナントロリニル又はN,N'-ジメチル2,2'-ビイミダゾールから選択することができ、ここで、各置換基は、メチル基、エチル基又はフェニル基であり、また、R基及びR1基は、それらの窒素原子を介してOsに配位しており;R2は、1〜10個の炭素原子を有する、飽和又は不飽和の、置換されているか又は置換されていない、直鎖又は分枝鎖のヒドロカルビル基であり;-R3は、H、CH3又はC2H5であり;Lは、(CH2)iQであり、ここで、iは1〜10の整数であり、QはO、S又はNR3であり;Bは、特異的アナライト結合相手に結合可能なリガンドを含んでいる基であり;Xは、対イオンであり;yは、中性塩をもたらすように選択され;及び、mは、4〜8である。
【0122】
本発明で使用するためのオスミウム電気化学的標識の例証的な第四の例は、化合物4で表される。
【化5】
【0123】
式中、R及びR1は、同一であるか又は異なっていて、それぞれ、2,2'-ビピリジル、4,4'-二置換-2,2'-ビピリジル、5,5'-二置換-2,2'-ビピリジル、1,10-フェナントロリニル、4,7-二置換-1,10-フェナントロリニル、5,6-二置換-1,10-フェナントロリニル又はN,N'-ジメチル2,2'-ビイミダゾールから選択することができ、ここで、各置換基は、メチル基、エチル基又はフェニル基であり、また、R基及びR1基は、それらの窒素原子を介してOsに配位しており;R3は、H、CH3又はC2H5であり;Lは、(CH2)iQであり、ここで、iは1〜10の整数であり、QはO又はNR3であり;Bは、特異的アナライト結合相手に結合可能なリガンドを含んでいる基であり;Zは、塩素又は臭素であり;Xは、対イオンであり;yは、中性塩をもたらすように選択され;及び、mは、1又は2である。
【0124】
化合物4の前駆物質(式中、B置換基がA(-(CH2)j-NR3、-(CH2)j-SH又は活性化エステル(ここで、jは1〜5の整数である))で置き換えられている)も、本発明の範囲内に包含される。
【0125】
化合物1、化合物2及び化合物3について上記で説明したように、該オスミウムメディエーターコンジュゲートは、少なくとも2つの成分を含み、場合により少なくとも3つの成分を含んでいてもよいということを想定することができる。該オスミウムメディエーターコンジュゲートは、1以上の有機金属オスミウム基、1以上の連結基、及び、リガンド類似体を含んでいることが可能である。該有機金属オスミウム種は、それ自体、遊離塩として電気化学的に検出可能であるか、又は、中性イミダゾール基を有する状態で電気化学的に検出可能である。オスミウム中心上のジ-キレート配位子(即ち、ビピリジルリガンド及びフェナントロリニルリガンド)は、酸化還元電位及び溶解性などの所望の特性を有するコンジュゲートを得るのに望ましいように変えることが可能である。例えば、ある種の流体サンプル又は特異的アナライトに関して、増大した疎水性を示すオスミウムコンジュゲートを用いるのが望ましい場合があり得る。ジ-キレート配位子を2,2'-ビピリジルリガンドから1,10-フェナントロリニルリガンドに変えることにより、オスミウム錯体の疎水性が増大する。同様に、該ジ-キレート配位子にアルキル置換基を加えることによっても、オスミウム錯体の疎水性が増大する。
【0126】
本発明で使用するための連結基Lは、分析しようとする特定のアナライト、その濃度及びサンプル媒体などの種々の要因に応じて選択することが可能である。好ましい実施形態では、該連結基は、関心のある特定のアナライト、サンプル媒体中のそれ(又は、それら)の濃度及びサンプル媒体自体に基づいて選択することができる。さらにまた、本発明の連結基は2価連結基であることも可能である。一形態では、本発明の連結基は、親水性であるように選択することができる。連結基を適切に選択することにより特定のアナライトの検出及び分析に大きな影響を与えることができるということが確認されている。例えば、高い親水性を有するアナライトは、反応チャンバー内のサンプル媒体中の酸化還元可逆的コンジュゲートの移動度に影響を与え得る。これが、次に、定常状態条件下での拡散リサイクリング及び/又は酵素リサイクリングを介して電流増幅に影響し得る。
【0127】
オスミウムメディエーターをリガンド類似体に連結するのに使用可能な多くのタイプのコンジュゲーション化学反応が存在する。オスミウムメディエーター-ペプチドコンジュゲートを調製するのに用いられる以下のコンジュゲーション化学反応は、タンパク質コンジュゲートを調製するためにも一般に用いられてきた:(1)反応性エステルと第一級アミンによるアミド結合の形成;及び、(2)マレイミドとスルフヒドリル基によるチオエーテル結合の形成;及び、オスミウムメディエーターのアミノ基を薬物誘導体のイソシアネート官能基又はイソチオシアネート官能基と反応させることによる尿素結合又はチオ尿素結合の形成。アミド結合はチオエーテル結合よりも好ましいが、それは、アミド結合が一般により安定であるからである。好ましいコンジュゲーション化学反応に基づき、第一級アミン基又はカルボン酸基のいずれかを用いて、オスミウムメディエーター上のリガンドを官能基化することができる。これらの官能基の最もよい位置は、オスミウムメディエーターのイミダゾールリガンドのC-4位又はC-5位であると考えられる。しかしながら、非-オスミウム-錯体化イミダゾール環の窒素原子を介して官能基化することも可能である。
【0128】
一部のオスミウムメディエーターにおいては、適切な反応性基が存在している場合、又は、適切な反応性基をリガンド類似体上に提供することが可能な場合は、ヒスタミンリガンド上のアミン基を該リガンド類似体に直接結合させることが可能である。例えば、オスミウムメディエーターのヒスタミンリガンド上のアミン基は、メトトレキサート上の活性化カルボキシル基と容易に反応する。
【0129】
本発明の好ましい一実施形態では、2価連結基の内の1つ以上を充分な親水性を示すように選択して、水性媒体中における酸化還元リサイクリングコンジュゲートの移動度を増大させる。2価連結基の例としては、以下のものを挙げることができる:モノマー、ダイマー、オリゴマー又は短鎖ポリマーとしてのポリエチレングリコール PEG。
【0130】
代替的な実施形態では、該リンカー自体を、1以上の架橋基に連結することができる。例えば、化合物1、化合物2又は化合物3のいずれかについて上記で説明した化学種において、最初に、ヒスチジル(histadyl)基(ヒスタミンから誘導されたもの)をオスミウム金属中心に結合させる。ヒスタミン自体が、第一の連結基又は連結部分である。オスミウム錯体と一緒に多種多様な連結基を使用することができることは理解されるだろう。得られた錯体は、本発明の範囲内に含まれると考えられる。
【実施例】
【0131】
以下の実施例は、本発明及びその利点についてのさらなる理解及び評価を助成にするために提供されている。しかしながら、下記実施例が例示であって、決して限定的なものではないということは理解されるであろう。
【0132】
実施例
用語「オスミウム遊離メディエーター」又は「遊離メディエーター」又は「OSFM」は、いずれも、ビス(2,2'-ビピリジル)イミダゾールクロロオスミウム(III)ジクロリドの使用を示している。このビス(2,2'-ビピリジル)イミダゾールクロロオスミウム(III)ジクロリドは、米国特許第5,589,326号に記載されている。このメディエーターは、多くの場合、種々のIDA電極上での酸化還元増幅を評価及び比較するためにモデル電気化学的メディエーターとして使用される。該メディエーターの構造を以下に示す。
【化6】
【0133】
表記「PBS」は、Sigma社の製品#P4417から調製した、10mM リン酸カリウム緩衝液と2.7mM 塩化カリウムと137mM 塩化ナトリウムからなるリン酸緩衝生理食塩水マトリックスを示すか、又は、類似の生理食塩水緩衝液マトリックスを示す。
【0134】
表記「PBST」は、10mM リン酸カリウム緩衝液と2.7mM 塩化カリウムと137mM 塩化ナトリウムと約0.1%〜0.5%のTween 20からなるリン酸緩衝生理食塩水マトリックスを示す。
【0135】
「外部Ag/AgCl」について言及されている場合、それは、市販されているAg/AgCl電極(例えば、Abtech Scientific Inc.(Richmond, Virginia)製のRE 803 ミニ-参照電極など)のことを示す。
【0136】
「内部Ag/AgCl」は、電極セルの1つの電極のサンプル接触領域に塗布されたAg/AgClインクを示す。ほとんどの場合、これは、Ercon(Wareham, Massachusetts)から市販されているインク(製品 E2414)であった。本発明者らの電極上に構築した内部参照電極の電位シフトは、外部Ag/AgCl参照電極と比較して、約100mVであった。
【0137】
オスミウム電気化学的標識の調製
ビス(2,2'-ビピリジル)イミダゾリルクロロオスミウム(III)ジクロリド(オスミウム遊離メディエーター)は、多くの酸化還元酵素に対する優れた電子メディエーターであることが分かっている(米国特許第5,589,326号)。それは、速いメディエーション速度(mediation kinetics)(グルコースオキシダーゼと一緒に用いたフェリシアン化物よりも約500倍速い)と、比較的低い酸化還元電位(Ag/AgClに対して、+150mV)を示す。それは、さらにまた、電極表面において極めて速い電子伝達速度も有する。重要なことには、オスミウムコンジュゲートの有機リガンドは、オスミウム中心の酸化還元特性に対して悪影響を及ぼさずに別の分子に共有結合することができるように、官能基化することが可能である。オスミウムコンジュゲートは、これらの類のない特性を有していることにより、アフィニティーセンサーについての理想的な電気化学的標識である。該オスミウムメディエーターは、米国特許第6,294,062号、米国特許第6,352,824号及び米国特許第6,262,264号に記述されている方法に準じて調製することが可能である。これらの特許は、参照によりその全体を本明細書に組み入れる。
【0138】
これらの新規リガンドを有するオスミウムメディエーターは、オスミウム遊離メディエーターを合成するのに用いた方法と同じ方法又は類似した方法を用いて合成した。それらの合成は、下記に略述してあるように、2つの主要なプロセスステップからなる。それらのプロセスステップの詳細については、以下で説明する。
【0139】
第一プロセスステップでは、以下のスキームを用いて、市販されているオスミウム塩からオスミウム中間体のシス-ビス(2,2'-ビピリジル)ジクロロオスミウム(II)を合成する。この中間生成物は、氷浴中で再結晶させることにより単離する。
【化7】
【0140】
【0141】
第二プロセスステップでは、上記オスミウム中間体とヒスタミンを反応させて所望のオスミウムメディエーターを生成させる。この所望の生成物を、次いで、テトラフルオロホウ酸アンモニウムを添加することにより溶液から沈澱させる。
【化8】
【0142】
これらのオスミウムメディエーターは、テトラフルオロホウ酸ニトロソニウムを用いて、酸化された形態(即ち、Os(III))に容易に変換することも可能である。しかしながら、この酸化された形態への変換は必要ではない。それは、コンジュゲート反応中にアルカリ条件下でオスミウムが還元された形態に戻り、また、該アフィニティーアッセイはバイオセンサー上での検出に際して酸化された形態のOs(III)を必要とはしないからである。
【0143】
一般に、オスミウムメディエーター(化合物5)内のヒスタミンの遊離アミノ基を用いて薬物誘導体の活性化エステルに結合させ、それにより、薬物-オスミウムコンジュゲートを得る。同様のオスミウムコンジュゲートを、米国特許第6,262,264号に記述されているようにして、HbA1c及びHbA0ペプチドに対して調製した。
【0144】
図18は、主要な中間体であるビス(2,2'-ビピリジル)-ヒスタミン-クロロ-オスミウムメディエーター(化合物5)を合成するための改善された手順について例示している。元の手順には、還流条件下にエタノール中でヒスタミンをシス-ビス(2,2'-ビピリジル)ジクロロオスミウム(II)と反応させることが含まれている。しかしながら、得られた所望生成物の収率が劣っていることから、出発物質として保護されたヒスタミン誘導体を用いる代替的な合成ルートへと至った。有機化学における保護基の使用は、当技術分野ではよく知られている("Protecting Groups in Organic Synthesis" by T.W. Green, John Wiley & Sons, 1981)。
【0145】
従って、ヒスタミンの第一級アミノ基は、適切な保護基で保護することが可能であり、最も好ましくは、t-ブトキシカルボニル保護基(t-BOC)又はトリフルオロアセトアミド基を用いて保護することが可能である。ヒスタミン二塩酸塩をTHF中で二炭酸ジt-ブチルと反応させて、ジt-Boc保護ヒスタミン誘導体を得た。メタノール中でトリエチルアミンと反応させることにより、イミダゾール窒素からt-Boc基を選択的に除去した。一保護ヒスタミンをOsII(bPy)2Cl2と結合させて、保護ヒスタミン錯体(化合物4)を得た。トリフルオロ酢酸と反応させることにより保護ヒスタミンのt-Boc基を脱保護して、オスミウム(bPy)2(ヒスタミン)Cl(化合物5)を得た。
【0146】
数種類のオスミウムヒスタミン薬物コンジュゲートを調製した。代表的な例は、図19で示されている、オスミウム(bPy)2(ヒスタミン)Cl(化合物5)とアンフェタミンNHSエステル(化合物8)の反応である。得られたオスミウム-アンフェタミン錯体のトリフルオロアセトアミド基を50mM 炭酸カリウムと反応させることにより脱保護して、アンフェタミンオスミウムコンジュゲート(化合物10)を得た。
【0147】
オスミウムテオフィリンコンジュゲート(化合物13)は、図20に示されているように調製した。テオフィリンアミン(化合物11)は、WO87/07955において公表されている手順に従って調製した。テオフィリンアミン(化合物11)を、トリエチルアミンの存在下で、テレフタル酸ジN-ヒドロキシスクシンイミドエステルと反応させて、テオフィリンN-ヒドロキシスクシンイミドエステル(化合物12)を得た。この活性化エステルを、トリエチルアミンの存在下で、オスミウム(bipy)2(ヒスタミン)Cl(化合物5)と結合させて、オスミウムテオフィリンコンジュゲート(化合物13)を得た。
【0148】
PCP NHSエステル(化合物14)を用いて、PCP-オスミウム錯体(化合物15)を合成した。これは、図21に示されている。PCP NHSエステル(化合物14)は、米国特許第5,939,332号において公表されている手順に従って調製した。
【0149】
オスミウムTHC-2コンジュゲート(化合物17)の合成は、図22に記載してある。THC-2誘導体(化合物16)の合成は、EP 0736529A1に記載されている。
【0150】
オスミウムTHC-1コンジュゲート(化合物19)の合成は、図23に記載してある。THC-1誘導体(化合物18)の合成は、J. Org. Chem. 1986, 51, 5463-5465に記載されている。
【0151】
オスミウムメトトレキサートコンジュゲートの合成スキームは図24に示してある。
【0152】
一実施形態では、本発明は、マルチ-オスミウムメディエーターを使用する。マルチ-オスミウムメディエーターを使用することによりアッセイにおける検出感度が改善されることが見いだされた。複数のオスミウム酸化還元中心を有するオスミウム薬物コンジュゲートの合成について設計した。付加的な保護された異なる官能性を有するオスミウムメディエーターアミンに結合させるために、多官能化脂肪族リンカー及び多官能化芳香族リンカーを設計した。これらの一保護マルチ-オスミウム標識を脱保護した。それらを用いて、薬物又は関心のある別のアナライトに結合させることができる。例として、ジオスミウムTHC-1コンジュゲートを、図25〜図28に示されているように調製した。従って、塩基(最も好ましくは、炭酸カリウム)の存在下で、3,5-ジヒドロキシベンジルアルコールを適切に保護されたハロアルキル化剤(最も好ましくは、ブロモ酢酸t-ブチル)と反応させて、二置換生成物である化合物22を得た。一連の置換反応により、化合物22のベンジルアルコール官能基をメシラート基に変換した後、アジド基に変換した。水素化し、次いで、トリフルオロアセトアミド基として保護することにより、化合物24のアジド基をアミノ官能基に変換し、それにより化合物26を得た。トリフルオロ酢酸で処理することによりt-ブチルエステル官能基を除去して、対応する二酸化合物27を得た。これを二酸塩化物に変換し、オスミウムヒスタミンアミン(化合物5)と反応させて、所望のジオスミウム芳香族が結合したモノ-トリフルオロアセトアミド(化合物29)を得た。一置換生成物(化合物30)も同様に単離し、電気化学的アッセイに対する検出感度の測定において比較のために評価した。化合物29のトリフルオロアセトアミド基は、塩基性条件下(最も好ましくは、水性炭酸カリウム)で除去可能であり、それによりジオスミウムメディエーター31が得られる。これは、適切な活性化基を有する抗原(即ち、薬物誘導体;図28を参照されたい)に結合させることができる。
【0153】
同様に、脂肪族リンカーを有するジオスミウム錯体も調製した。脂肪族リンカーは、図30に示されているように、適切に活性化された抗原(例えば、薬物誘導体)に結合することができる。
【0154】
本発明の別の実施形態において、図30〜図32に示されているように、親水性リンカーを有するオスミウム錯体を調製した。親水性リンカーを有するオスミウムヒスタミンメディエーターは、THCなどの疎水性アナライトで見られるアッセイ開発の困難性を克服するということが示唆されている。適切な官能性を有する市販の親水性リンカー(化合物33)を利用することができる。このPEGリンカーは、保護されているアミノ官能基と遊離カルボン酸を有する。このPEGリンカーの酸基は、活性化エステル(好ましくは、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル)に変換することが可能であり、また、塩基(好ましくは、トリエチルアミン)の存在下でオスミウムヒスタミンアミノ誘導体(化合物5)に結合させて、化合物35を得ることができる。化合物35のt-Boc官能基は、酸性条件下、好ましくは、トリフルオロ酢酸を用いて、除去した。オスミウムPEGリンカー(化合物36)の遊離アミノ基は、活性化エステルが結合した薬物、例えば、THC-2-NHS(化合物16)と反応させて、オスミウム-PEG-THCコンジュゲート(化合物37)を得ることができる。
【0155】
図33に示されているスキームに従って、オスミウム-PEGリンカー(化合物36)をメトトレキサートに結合させた。
【0156】
図34〜図36は、テトラオスミウム標識を調製するための合成スキームを例示している。中間体のブロモ誘導体(化合物23)を塩基の存在下で3,5-ジヒドロキシベンジルアルコールと反応させて、対応する二置換生成物(化合物50)を得ることができる。上記類似手順に従い、化合物50のベンジルアルコール基を対応するアミン(化合物52)に変換することが可能である。このアミン基は、適切な保護基(最も好ましくは、トリフルオロアセトアミド基及びt-ブチルエステル基)を用いて保護することが可能であり、これらの保護基は、その後、酸性条件下で除去することができる。得られた化合物53のテトラカルボン酸官能基は、対応する酸塩化物に変換することが可能であり、また、化合物5のオスミウムヒスタミンアミンに結合させてトリフルオロアセトアミドで保護されたアミンを有するテトラオスミウム芳香族標識を得ることができる。このアミノ基は塩基性条件下で解放することが可能であり、得られた化合物56を適切に活性化された抗原(例えば、薬物誘導体)と反応させて、抗原-テトラオスミウムコンジュゲートを得ることができる。
【0157】
本発明の別の実施形態では、オスミウムジビイミダゾールヒスタミン化合物の合成について記述される。この化合物は、アスコルビン酸などのサンプル中に同様に存在し得る望ましくない酸化可能な化学種による起こり得る妨害を避けるために、低い酸化還元電位を有するように開発された。ジビイミダゾールの合成については、図37に記載されている。 従って、グリオキサールをアンモニアと反応させることにより、ビイミダゾール(化合物45)が得られる。化合物45のジメチル誘導体を、塩基(好ましくは、水素化ナトリウム)の存在下でp-トルエンスルホン酸と反応させて、化合物46を得ることができる。これを、DMF中180℃でオスミウムトリクロリドと反応させて、オスミウムジビイミダゾールジクロリド(化合物47)を得ることができる。塩基(好ましくは、トリエチルアミン)の存在下で化合物47とヒスタミンt-Boc(化合物4)を結合させることにより、化合物48が得られる。化合物48のt-Boc基を、酸性条件下、好ましくはトリフルオロ酢酸を用いて、除去して、化合物49を得ることができる。オスミウムジビイミダゾールヒスタミン(化合物49)の遊離アミノ基を薬物誘導体の活性化エステルに結合させて、薬物-オスミウムジビイミダゾールヒスタミンコンジュゲートを得ることができる。
【0158】
オスミウムジビイミダゾールヒスタミン(化合物49)は、低い酸化還元電位(Ag/AgClに対して、E1/2〜540mV)を示す。米国特許第6,294,062号に記載されているように、低い電位を有するメディエーターもマルチアナライト測定に必要である。この場合、複数の電気化学的標識又はメディエーターが必要であり、その際、電気化学的標識又はメディエーターは、それぞれが、各電気化学的標識を独立に取り扱うことができるように隔てられた異なった酸化還元電位を有するものである。
【0159】
実施例1:オスミウム-テオフィリンコンジュゲートの電気化学的アッセイ
Os-テオフィリンコンジュゲートを図20に例示してあるように調製した。この酸化還元可逆的コンジュゲートについて、テオフィリンに対してアッセイ反応を起こすように設計された一連の電気化学的測定を用いて評価した。フォトリソグラフィー技術を用いて、IDA微小電極を本明細書に記載したように製造した。該IDAは、50のフィンガー対(ここで、該フィンガー対は、それぞれが、約21μmの幅(W)、10μm、15μm及び21μmの間隙(Wg)、6mmの長さ(b)を有する)を有する金電極構造を含んでいた。さらにまた、各IDAは、対向電極及び参照電極として使用するための付加的な2つの金電極領域も含んでいた。電気化学的測定は、CH Instruments バイポテンシオスタット モデル802A又はモデル832Aを用いて行った。バイポテンシオスタットを用いた電流測定による測定はIDA増幅に対して行った。また、酵素増幅に対しては、単一電位電流測定法(single potential amperometric technique)を用いた。各測定では、外部参照電極を用いる場合は、約20μLのサンプルをピペットで電極上に量りとる必要があり、Ag/AgClインクの内部参照電極及び有効電極構造を覆うキャピラリールーフを用いる場合は、5〜10μLのサンプルをピペットで電極上に量りとる必要があった。
【0160】
図38は、50フィンガー対を有するIDA電極(10μm間隙(Wg), 21μm(W))上のオスミウム-テオフィリンコンジュゲートのCVを示している。該CVは、酸化と還元の対照的なピーク、及び、Ag/AgClに対して約125mVのE1/2を示している。これにより、電流測定による測定に対して適切なアノード電位及びカソード電位を選択することが可能であり、また、バイポテンシオスタットを用いて適切なアノード電位及びカソード電位を制御することができる。
【0161】
図39は、50フィンガー対を有するIDA電極(21μm間隙(Wg), 21μm(W))上の種々の濃度で測定したオスミウム-テオフィリンコンジュゲートに対する酸化的定常状態反応を例示している。バイポテンシオスタットは、WE1とWE2に印可された適切なアノード電位及びカソード電位で使用した。このグラフは、この大きな寸法のIDAでさえ数秒内に定常状態に達することを示している。
【0162】
図40は、50フィンガー対を有するIDA電極(21μm間隙(Wg), 21μm(W))上の種々の濃度のオスミウム-テオフィリンコンジュゲートの用量反応曲線を例示している。電極電位はバイポテンシオスタットを用いて制御した。再度、酸化と還元が絶対等級でほぼ等しいということを観察することができる。このことは、該電極における電流測定を妨害する別の化学種がサンプル中に存在していないことを示している。
【0163】
本明細書の用量反応曲線がマルチメータバイアスを示すことが観察されるであろう。用語「マルチメータバイアス(multimeter bias)」は、電極及び機器類が単に高インピーダンスマルチメータ(この場合は、10MOhmの入力インピーダンスを有するFluke 87 マルチメータ)にも接続されているということの結果として生じる、収集されたデータにおけるバイアスを意味する。電流測定による測定(例えば、バイポテンシオスタットにより制御された電流測定による測定)に関し、バイアスは、一定のI=V/R[ここで、Vは、各電極に印可された電圧(ボルト)であり、R=10MOhmである]である。印可電圧がAg/AgClに対して0mVである場合、バイアスは0nAとなるが、印加電圧が200mVである場合、バイアスは20nAとなるであろう。
【0164】
図41は、溶解している抗体の濃度の増大にともなうコンジュゲート反応の阻害を例示するプロットである。実施例では、溶解している抗体の濃度は増大したが、オスミウム-テオフィリンコンジュゲート濃度は、約25μMに維持した。該阻害曲線から、この実施例の場合、コンジュゲート対抗体の最適の比率は2:1であると決定された。それは、抗体の濃度がさらに増大した場合、該阻害曲線の勾配が減少しているからである。抗体は2価であるので、該比率は、化学量論的な比である1:1に相当する。該反応もマルチメータバイアスを示すということも留意すべきである。
【0165】
図42は、血清キャリブレータにおいてテオフィリンアッセイを実施したものであり、オスミウム-テオフィリンコンジュゲートに関して得られたIDA増幅電流をプロットしている。試験は、テオフィリンの濃度は変化させながら、オスミウム-テオフィリンコンジュゲート濃度約25μM及び抗体濃度約12.5μMで行った。該アッセイは、治療域未満から毒性域にまで及ぶ広いアッセイ範囲を有している。
【0166】
実施例2:オスミウム-アンフェタミンコンジュゲートの電気化学的アッセイ
Os-アンフェタミンコンジュゲート(10)を図19に例示してあるように調製した。この酸化還元可逆的コンジュゲートについて、一連の電気化学的アッセイを用いて評価した。フォトリソグラフィー技術を用いて、インターデジテイテッドアレイ(IDA)微小電極を本明細書に記載したように製造した。各IDAは、50対の「フィンガー」(ここで、各フィンガーは、幅が21μmであり、フィンガー間の間隙が15μmである)を含んでいた。電気化学的測定は、CH Instruments バイポテンシオスタット モデル802A又はモデル832Aを用いて行った。バイポテンシオスタットを用いた電流測定による測定はIDA増幅に対して行った。また、酵素増幅に対しては、単一電位電流測定法を用いた。各測定では、外部参照電極を用いる場合は、約20μLのサンプルをピペットで電極上に量りとる必要があり、Ag/AgClインクの内部参照電極及び有効電極構造を覆うキャピラリールーフを用いる場合は、5〜10μLのサンプルをピペットで電極上に量りとる必要があった。
【0167】
図43は、PBST溶液中で調製した100μM Os-アンフェタミンコンジュゲートのサイクリックボルタモグラムを示している。該図は、単一のフィンガーセットを有するCV、及び、両方のフィンガーセットが一緒になってショートしていて作用電極として使用されている場合のCVを示している。該CVは、酸化と還元の対称的なピーク、及び、Ag/AgClに対して約125mVのE1/2を示している。これにより、適切なアノード電位及びカソード電位を選択することが可能である。
【0168】
図44は、電位を制御するのにバイポテンシオスタットを使用した、15μmのIDA電極上の100μM オスミウム-アンフェタミンコンジュゲートのリサイクリングCVである。WE1は、-100mVから400mVまでスキャンしたが、WE2は-100mVで一定に保った。該CVは、酸化還元のリサイクリングを受けているメディエーターを示している。該CVは、約600nA.又は6nA/μMの定常状態反応を示している。該リサイクリングCVは、酸化電流と還元電流が等しい大きさ又は反対の大きさを有することを示している。電流は、リサイクリングにより増幅されている。リサイクリングCVを測定するために、WE2を還元電位-100mVに固定し、WE1は、還元電位-100mVと酸化電位400mVの間でスキャンした。リサイクリングは、一方のフィンガーセットが酸化へと向かい、他方のフィンガーセットが還元へと向かうときに起こる。一般に、掃引速度があまり速くない間は、電流の大きさは掃引速度に比例しない。これは、反応が掃引速度と共に増大する通常のCVとは異なっている。
【0169】
図45は、15μmの間隙と21μmの幅を有するIDA上のオスミウム-アンフェタミンコンジュゲート用量反応である。オスミウム-アンフェタミンコンジュゲートは、PBST中で、0μM〜100μMの濃度で調製した。CH Instruments バイポテンシオスタットを用いて測定を行った。作用電極#1と作用電極#2の両方で観察された電流は、(マルチメータバイアスを引いた場合)絶対等級及び勾配がほぼ同じであった。内部Ag/AgCl参照電極を有する15μmIDAとWE1=300mV及びWE2=0mVを用いて、プロットした。
【0170】
オスミウム-アンフェタミンコンジュゲートの阻害についても、15μmの間隙と21μmの幅を有するIDA上で、バイポテンシオスタットを用いて評価した。内部参照電極に対して、WE1=250mV及びWE2=-150mVで、電極は平衡状態にあった。Os-アンフェタミンコンジュゲートを、Rocheから入手した種々の濃度のモノクローナルアンフェタミン抗体[<AMPH>M-2.17.22>]と混合し、コンジュゲート対抗体の比率の最適比率は、化学量論的な比率2:1であると決定された。これは、該抗体が2価であるので、化学量論的比率に相当する。従って、この比率を用いて、IDA増幅を利用するアンフェタミンアッセイを実施した。
【0171】
図46は、アンフェタミンアッセイのプロットを示している。種々の濃度のd,l-アンフェタミン薬物を、一定濃度の抗体と混合した後、一定濃度のコンジュゲートと混合した。最終溶液マトリックスは、20μMのオスミウムアンフェタミンコンジュゲート、10μMの抗体、及び、0〜25μMの濃度のアンフェタミンを含んでいた。各溶液を混合し、直ちに、IDA電極上に移し、バイポテンシオスタットを用いて電流反応を測定した。測定した酸化電流反応及び還元電流反応を薬物濃度に対してプロットして、アッセイ用量反応曲線を得る。該コンジュゲート由来の電流反応は、より多くの薬物を添加して抗体に結合させるのにともなって増大し、その結果、コンジュゲート阻害が低減した。該アッセイ用量反応曲線は、SAMHSAにより指定されているカットオフ濃度の1000ng/mL又は6.7μMを有するアンフェタミン薬物乱用アッセイに必要な範囲を包含している。アンフェタミン反応は、15μmの間隙と21μmの幅を有するIDA上で、バイポテンシオスタットを用いて評価した。内部参照電極に対して、WE1=250mV及びWE2=-150mVで、電極は平衡状態にあった。
【0172】
実施例3:2μmのIDAを有するオスミウム-ビオチンモデル系
インターデジテイテッドアレイ電極は、Roche Diagnostics用にあつらえて、Premitec, Inc.(Raleigh, NC.)に製造させた。各IDAは、750対の電極(ここで、各電極は、長さが6mmであり、間隙及び幅は2μmである)を含んでいた。これらの電極のインターデジテイテッド領域は、総計36mm2であった。この大きな寸法は、低い検出限界を達成するという実際的なことを考慮して選択した。機器類(特に、携帯用バイポテンシオスタット)は、検出可能な最小電流に関して限界を有している。当時は、携帯用機器類のノイズを考慮することにより、1nAがアッセイに関して測定される最小電流であると想定されていた。この情報を、予想される電流反応と一緒に用いて、イムノアッセイ感度においてかなり大きな改善をもたらすことが可能となるように電極の寸法を決定した。さらに、これらの電極は、方程式1により予想される改善された増幅を実証するために、計算による感度を実際に観察された感度と比較するようにも製造した。
【0173】
オスミウム-ビオチンコンジュゲート(下記化合物57)は、米国特許第6,262,264号に記載されている方法と同様の方法により調製した。
【化9】
【0174】
マイクロ遠心管の中に、以下の濃度のビオチン20μLを入れた:0μM, 1.25μM, 2.5μM, 3.75μM, 5μM, 7.5μM, 10μM。これらの溶液のそれぞれに、20μLの1.25μM ストレプトアビジンと40μLのPBSTを添加した。各溶液に20μLの5μM ストレプトアビジンを添加し、少しの間(〜2秒間)混合し、2μMのIDA電極上に形成された毛管状のスペースの間ににピペットで移した。バイポテンシオスタットによる測定を直ちに開始し、Ag/AgClに対して、WE1を250mVに、また、WE2を0mVに制御した。
【0175】
図47は、WとWgが2μmの750のフィンガー対を有する平面IDA電極上で、25μMのオスミウム遊離メディエーター(ビス(2,2'-ビピリジル)イミダゾールクロロオスミウム(III)ジクロリド)を用いて得たリサイクリングサイクリックボルタモグラム(CV)定常状態反応を示している。リサイクリングCVは、-100mVから400mVまでスキャンされるジェネレータであるWE1と-100mVに維持されているコレクタであるWE2を用いて実施した。この反応は、約3800nA又は152nA/μMの定常状態反応で優れた増幅と優れた効率を示す。
【0176】
図48は、WとWgが2μmの750のフィンガー対を有する平面IDA電極上でのオスミウムビオチンコンジュゲート0〜5μMの用量反応曲線を示している。この測定では、CHI Instruments バイポテンシオスタットを用いて、WE1=250mV及びWE2=0mVを制御した。酸化の測定と還元の測定の勾配は、ほぼ同一及び反対であり、このことは、酸化還元リサイクリング効率が良好であることを示している。オスミウムビオチンによる勾配約126nA/μMは、極めて良好な反応であり、これは、オスミウム遊離メディエーターについて図47のCVから計算して得た152nA/μMに比較してほんの僅かに小さいのみである。
【0177】
データは、0.5秒間隔で、40秒間にわたり収集した。アッセイ反応は、幾つかの時点で評価したが、0.5秒の時点を含む全ての時点で同様の結果が得られた。図49は、0.5秒、2秒及び10秒の時点におけるビオチンアッセイ反応を示している。アッセイ試薬は、0〜1μMのアッセイ範囲に対して選択され、これは達成された。時間に対して定常電流を示す典型的なプロットは、図50に示してある。このデータは、定常状態反応が、印加電位の開始からほとんど即座に達成されることを示している。定常状態は、それぞれの電極で生成された酸化化学種と還元化学種が等しい場合に達成される。
【0178】
これらの結果は、Premitec Inc.(Raleigh, North Carolina)においてウエハーID#0702HIDA1...14から調製した2μM IDA電極を用いて収集した。最終アッセイ濃度は、1μMのオスミウムビオチンコンジュゲート、0.25μMのストレプトアビジン及び0〜2μMのビオチンであった。このアッセイは、CH Instruments(Austin, Texas)製のCHI-802A バイポテンシオスタットを用いて実施した。
【0179】
図51及び図54は、それぞれ、モノオスミウム-芳香族トリフルオロアセトアミド保護リンカー(化合物30)とジオスミウム-芳香族リンカー(化合物31)の両方を用いて実施した通常のCVを示している。該CVは、合成されたメディエーターが、Ag/AgClに対して約20〜40mVの適度に低いE1/2電位を有する酸化還元可逆的化合物であったことを示している。両方とも、Wが21μmでWgが15μmの50のフィンガー対を有する平面IDA電極上で、200μMの濃度で実施した。
【0180】
図53は、モノオスミウム-芳香族トリフルオロアセトアミド保護リンカー(化合物30及び化合物31)とオスミウム遊離メディエーター(ビス(2,2'-ビピリジル)イミダゾールクロロオスミウム(III)ジクロリド)についての用量反応の比較を示している。これらは、全て、Wが21μmでWgが15μmの50のフィンガー対を有する平面IDA電極上で実施した。オスミウム遊離メディエーターとモノオスミウム-芳香族トリフルオロアセトアミド保護リンカーは同様の反応を示したが、ジオスミウム-芳香族リンカーの反応は、僅かに改善されていた。該ジオスミウム化合物の反応は、酸化還元部位の数が2倍であることで最初に期待されるであろう2倍ではなかった。低い反応についての幾つかの理由は、ジオスミウム錯体のサイズ(MW)が大きいために電極間の拡散が遅いということ、及び/又は、平均してジオスミウム錯体の1つの部位のみが実際に酸化及び還元される(常に、1つのオスミウム中心のみが酸化又は還元される)ということであり得る。いずれの場合も、CVと僅かに改善された用量反応曲線に基づいて、この新規コンジュゲートは、単一のオスミウム中心を有するメディエーターに取って代わる実用的な代替物であることが分かった。
【0181】
図54は、Wが21μmでWgが15μmの50のフィンガー対を有する平面IDA電極上で200μMの濃度で実施したジオスミウム-THC1コンジュゲート(化合物32)のCVを示している。このコンジュゲートのストックは、有機溶媒を使用せずに、PBST中で0.75mgの該化合物から調製した。該CVは、該メディエーターが可逆的ではあるが、還元のピークが酸化のピーク電流に比較して僅かに小さく見えることを示している。該反応は、ジオスミウム-芳香族リンカー(化合物31)に比較して、約50%小さい。この低減した反応は、THC分子の疎水性を示している用に思われる。
【0182】
図55は、Wが21μmでWgが15μmの50のフィンガー対を有する平面IDA電極上におけるオスミウム-PEG-THC-2(化合物37)の用量反応曲線である。測定は、CHI Instruments バイポテンシオスタットで制御した(WE1=250mV, WE2=0mV)。コンジュゲートのストック溶液を、有機溶媒を使用せずにPBSTに溶解させた。PBST中で、6.25μMから500μMまでの間で連続希釈を行った。10μLを電極セル上に形成された毛管に適用した。ジオスミウム-THC1コンジュゲート(化合物32)の場合と同様に、還元反応(勾配)は、酸化勾配に比較して僅かに小さかった。両方の勾配は、オスミウム遊離メディエーターを用いて見られる勾配よりも約10倍小さい。示されているアッセイデータは、電位を印可した5秒後の結果である。これらの結果は、4反復の平均である。
【0183】
図56は、酵素増幅を用いたオスミウム-PEG-THC-2(化合物37)の用量反応曲線である。酵素で増幅したコンジュゲート反応の勾配は、IDA増幅よりも改善されている。THCの疎水性に対して可能性のある懸念を克服するために、5%のヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを添加することで、反応における有意な増大が認められるということも留意される。
【0184】
図57は、Wが21μmでWgが15μmの50のフィンガー対を有する平面IDA電極上で150μMの濃度で実施したオスミウム-PEG-メトトレキサート(化合物38)のCVを示している。このコンジュゲートのストックは、有機溶媒を使用せずに、PBST中で0.49mgの該化合物から150μMの濃度で調製した。該CVは、対称的な可逆的酸化還元ピークを示している。別のメディエーターのCVと比較する場合、このCVに対してコンジュゲートの使用濃度が低いこと及びフィンガーの幅(21μM)が広いことは考慮に入れなければならない。
【0185】
図58は、Wが21μmでWgが21μmの50のフィンガー対を有する平面IDA電極上のオスミウム-PEG-メトトレキサート(化合物38)の用量反応曲線である。測定は、CHI Instruments バイポテンシオスタットで制御した(WE1=0.25mV, WE2=0mV)。150μMのストック溶液からPBST中で希釈を行って、25μM、10μM、5μM、2.5μM及び1.25μMの濃度のものを調製した。20μLの該溶液を、外部Ag/AgCl参照電極を用いて電極セル上に形成された毛管内の電極に適用した。毛管と該毛管領域のすぐ外側に位置する外部毛管の中のサンプル間のギャップを埋めるのには、この20μLの容積が必要であった。このメディエーターについてのコンジュゲート反応の勾配は、オスミウム-PEG-THC2反応の勾配よりも大きかった。これらの結果は、4反復の平均である。
【0186】
さらなる例は、"The Latest Development in Biosensor Immunoassay Technology for Drug Assays"という表題の論文の中に記載されている。この論文は、参照によりその全体を本明細書に組み入れる。
【0187】
電気化学的メディエーター標識の合成:
全ての溶媒は、J.T.Bakerから入手した。分析的逆相HPLCによる分析は、ダイオードアレイ検出器と4つ一組のポンプで構成されているAgilent HP1100 LC/MSシステムで実施した。LC/MS分析は、AJO-4287(C-180DS)カートリッジを有するPhenomenex KJO-4282ガードキットを備えたVydac 218TP54カラム(300A, 5μ;C18, 4.6mm×250mm)を用いて実施した。クロマトグラフィーの流れは、カラムの後で、MS検出器の中に移した。用いたMSDは、エレクトロスプレーポジティブモード("ES(+)mode")で作動させた。
【0188】
HPLCフラクションは凍結乾燥させた。アセトニトリルを減圧下に蒸発させた後、水性残渣を、例えばドライアイス/アセトン浴を用いて、凍結させ、その後、凍結乾燥機を用いて凍結乾燥させた。残渣を分取RP-HPLCで精製して、10.2mg(6.6×10-3mmol, 20%)のTHC-オスミウムPEG誘導体(37)を得た(LC/MS M+H 1501.6)。
【0189】
分取逆相HPLCでは、(1)Varian Dynamax(Rainin)ガードモジュールR00083221G(C-18, 8μ)を有するR00083221C(Microsorb 60-8, C-18, 250mm×21.4mm)又は(2)Varian Dynamax(Rainin)ガードモジュールR00083241G(C-18, 8μ)を有するR00083241C(Microsorb 60-8, C-18, 250mm×41.4mm)のいずれかを有するVarian Dynamaxラジアルコンプレッションカラムを用いた。HPLCは、0.1%トリフルオロ酢酸を含有する水-アセトニトリルの勾配系を用いて実施した。
【0190】
アンフェタミンNHSエステル(化合物)は、"Dual Analyte Immunoassay"、EP 0574782A2に記載されているように調製した。THC-1NHSエステル(化合物18)は、"Reagents for the Determination of Drugs"、EP 0386644に記載されているように調製した短連鎖誘導体である。THC-2NHSエステル(化合物16)は、"Novel Cannabinol Derivatives and Improved Immunoassay"、EP 0276732A2に記載されているように調製した長鎖誘導体である。テオフィリンアミン(化合物11)は、PCT WO 87/07955において公表されている方法に従って調製した。テオフィリンNHSエステル(化合物12)は、トリエチルアミンの存在下で、テオフィリンアミン(化合物11)をテレフタル酸ジN-ヒドロキシスクシンイミドエステルと反応させることにより調製した。O-(N-Boc-2-アミノエチル)-O-(N-ジグリコリル)-2-アミノエチル)ヘキサエチレングリコール(化合物33)は、VWRを介して、Nova Biochemから購入した。
【0191】
ビス(2,2'-ビピリジル)ジクロロオスミウムの調製:
4.18g(8.6mmol)のヘキサクロロオスミウム酸カリウムと3.05g(19.5mmol)の2,2'-ジピリジルの混合物に、100mLのジメチルホルムアミドを添加した。この反応混合物を1時間加熱還流し、室温まで冷却した。得られた反応混合物を濾過し、残渣を5mLのDMFで洗浄した。濾液を室温で撹拌し、その反応混合物に4.76g(0.027mol)のジチオン酸ナトリウムを430mLの水に溶解させた溶液を滴下して加えた。得られた反応混合物を氷浴内に置いて所望の生成物を沈澱させた。得られた固体を収集し、15mLの水で2回洗浄した後、15mLのエーテルで2回洗浄した。得られた褐色の固体を減圧下(0.5mmHg)に50℃で乾燥させ、4.3g(7.4mmol, 87%)の所望の生成物を暗褐色の固体として得た。
【0192】
4-(2-t-ブトキシカルボニルアミノ-エチル)-イミダゾール-1-カルボン酸t-ブチルエステルの調製:
3.68g(20mmol)のヒスタミン二塩酸塩と160mLのアセトニトリルと14mL(0.10mol)のトリエチルアミンと13.1g(0.060mol)の二炭酸ジt-ブチルの混合物を室温で3日間撹拌した。この反応混合物を濃縮し、残渣を150mLのヘキサンで洗浄した。残渣を100mLのエーテルで3回洗浄した。エーテル部分を全て合し、濃縮して、白色の粉状物を得た(LC/MS M+NA 334.1)。
【0193】
[2-(1H-イミダゾール-4-イル)-エチル]-カルバミン酸t-ブチルエステルの調製:
4-(2-t-ブトキシカルボニルアミノ-エチル)-イミダゾール-1-カルボン酸t-ブチルエステルに、100mLのメタノール及び800mL(5.73mol)のトリエチルアミンを添加した。得られた反応混合物を室温で4日間撹拌し、濃縮して油状物とした。この残渣に、40mLのエーテル及び80mLのヘキサンを添加した。この混合物を室温で静置することにより、生成物が白色の固体として沈澱した。この沈澱物を収集した。収量は、1.7g(8.0mmol, 40%)であった(LC/MS M+H 212.1)。
【0194】
オスミウムジビピリジルt-Bocヒスタミン(化合物4)の調製:
300mg(0.52mmol)のビス(2,2'-ビピリジル)ジクロロオスミウムと268mg(1.26mmol)のヒスタミンt-Bocの混合物に、54mLのエタノールを添加した後、1.6mL(11.4mmol)のトリエチルアミンを添加した。この混合物を80℃で5日間撹拌し、濃縮した。残渣を、水と0.1%トリフルオロ酢酸含有アセトニトリルの勾配を用いる分取HPLCにより精製して、250mg(0.32mmol, 61%)のオスミウムジビピリジルt-Bocヒスタミン(化合物4)を褐色の粉状物として得た(LC/MS M+H 749.1)。
【0195】
ビス(2,2'-ビピリジル)-ヒスタミン-クロロ-オスミウム[オスミウム(bPy)2(ヒスタミン)Cl](化合物5の調製:
50mg(0.063mmol)のオスミウムジビピリジルt-Bocヒスタミン(化合物4)に、2mLの塩化メチレン及び2mLのトリフルオロ酢酸を添加した。この反応混合物を室温で20分間撹拌し、減圧下に濃縮した。残渣に5mLの塩化メチレンを添加し、濃縮した。この5mLの塩化メチレンの添加とそれに続く濃縮の手順をさらに4回繰り返し、全部合わせた残渣を乾燥させて、40mg(0.058mmol, 93%)の(化合物5)を褐色の粉状物として得た(LC/MS M+H 649)。
【0196】
アンフェタミン-オスミウムヒスタミンTFA保護コンジュゲート(化合物9)の調製:
82mg(0.104mmol)のオスミウムジビピリジルt-Bocヒスタミン(化合物4)に、1.5mLのトリフルオロ酢酸及び0.5mLの1,2-ジクロロエタンを添加した。得られた反応混合物を室温で30分間撹拌した後、濃縮した。得られた残渣に5mLの塩化メチレンを添加し、次いで、濃縮した。上記の5mLの1,2-塩化メチレンの添加と濃縮のプロセスをさらに3回繰り返し、全部合わせたものを減圧下で2時間乾燥させた。得られた残渣に、1mLの無水DMF及び0.2mL(1.43mmol)のトリエチルアミンを添加した。この反応混合物を撹拌しながら、それに、50mg(0.09mmol)のアンフェタミンNHSエステルを1mLの1,2-ジクロロエタンと0.5mLのDMFに溶解させた溶液を滴下して加えた。得られた反応混合物を室温で18時間撹拌した後、減圧下に濃縮した。残渣を分取逆相HPLCで精製して、68mg(0.060mmol, 67%)のアンフェタミン-オスミウムトリフルオロアセトアミド保護化合物(化合物9)を暗褐色の固体として得た(LC/MS M+H 1083.63)。
【0197】
オスミウムアンフェタミンコンジュゲート(化合物10)の調製:
60mg(0.053mmol)のアンフェタミン-オスミウムヒスタミンTFA保護コンジュゲート(化合物9)に、25mLの50mM 炭酸カリウム及び10mLのメタノールを添加した。この反応混合物を室温で3日間撹拌した後、濃縮した。残渣を分取逆相HPLCで精製して、13.6mg(0.013mmol, 25%)のオスミウムコンジュゲート(化合物10)を得た(LC/MS M+H 987.2)。出発物質のアンフェタミン-オスミウムヒスタミンTFA保護コンジュゲート(化合物9)(18.3mg)も回収した。
【0198】
オスミウムTHC-2ヒスタミンコンジュゲート(化合物17)の調製:
54mg(0.068mmol)のオスミウムジビピリジル-t-Bocヒスタミン(化合物4)に、1.5mLのトリフルオロ酢酸及び0.5mLの塩化メチレンを添加した。この反応混合物を30分間撹拌し、濃縮した。塩化メチレン(5mL)を添加し、得られた溶液を濃縮した。上記塩化メチレンの添加と濃縮の手順をさらに3回繰り返した。得られた残渣に1mLの無水DMFを添加した後、200μL(1.43mmol)のトリエチルアミンを添加した。この反応混合物を室温で撹拌し、30mg(0.060mmol)のTHC-2 NHS誘導体(化合物16)を0.5mLの無水DMFと1mLの塩化メチレンに溶解させた溶液。得られた反応混合物を室温で18時間撹拌し、濃縮した。残渣を分取逆相HPLCで精製して、33.3mg(0.031mmol)のオスミウムTHC-2ヒスタミンコンジュゲート(化合物17)を褐色の粉状物として得た(LC/MS M+H 1034.2)。
【0199】
オスミウムメトトレキサートコンジュゲート(化合物21):
57mg(0.125mmol)のメトトレキサート(Sigma)に、1mLの無水DMFを添加した後、22mg(0.15mmol)の4-ニトロフェノール及び27mg(0.13mmol)のN,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミドを添加した。得られた反応混合物を室温で4時間撹拌した。得られたメトトレキサート活性化エステル(化合物20)は、単離することなくそのまま次のステップで使用した。
【0200】
100mg(0.14mmol)のオスミウムジビピリジルt-Bocヒスタミン(化合物4)に1mLのトリフルオロ酢酸を添加した。得られた反応混合物を室温で30分間撹拌し、減圧下に濃縮した。残渣に5mLの塩化メチレンを添加し、濃縮した。5mLの塩化メチレンの添加及び濃縮のプロセスをさらに4回繰り返した。残渣に1mLのDMFを添加した後、200μL(1.43mmol)のトリエチルアミンを添加した。得られた反応混合物を、アルゴン雰囲気下、室温で撹拌した。上記で調製したメトトレキサートの活性化エステル(化合物20)を滴下して加えた。この反応物を、アルゴン雰囲気下、室温で18時間撹拌し、減圧下に濃縮した。残渣を分取逆相HPLCで精製して、52.5mg(0.046mmol, 32%)のオスミウムメトトレキサートコンジュゲート(化合物21)を褐色の粉状物として得た(LC/MS M+H 1086.2)。
【0201】
テオフィリンオスミウムヒスタミンコンジュゲート(化合物13)の調製:
これは、テオフィリンNHSエステル(化合物12)から出発して、例えばオスミウムTHC-2ヒスタミンコンジュゲート(化合物17)の調製で記述した方法と同様の方法で、調製した。
【0202】
PCP-オスミウムヒスタミンコンジュゲート(化合物15)の調製:
これは、PCP NHSエステル(化合物14)から出発して、例えばオスミウムTHC-2ヒスタミンコンジュゲート(化合物17)の調製で記述した方法と同様の方法で、調製した。
【0203】
THC-1オスミウムヒスタミンコンジュゲート(化合物19)の調製:
これは、THC-1 NHSエステル(化合物18)から出発して、例えばオスミウムTHC-2ヒスタミンコンジュゲート(化合物17)の調製で記述した方法と同様の方法で、調製した。このメディエーターのPBST中の溶解度が劣っており、DMFを使用する必要があった。
【0204】
(3-t-ブトキシカルボニルメトキシ-5-ヒドロキシメチル-フェノキシ)-酢酸t-ブチルエステル(化合物22)の調製:
5g(35mmol)の3,5-ジヒドロキシベンジルアルコールに、250mLの乾燥DMF、11.85mL(80mmol)のブロモ酢酸t-ブチル、14.8g(107mmol)の無水炭酸カリウム及び34.5g(105mmol)の炭酸セシウムを添加した後、3gの4Åモレキュラーシーブを添加した。得られた反応混合物を、アルゴン雰囲気下、80℃で撹拌した。この反応混合物を室温まで冷却し、濾過し、残渣を200mLの酢酸エチルで洗浄した。全ての濾液を合して濃縮乾固させた。残渣を150mLのジエチルエーテルに再度溶解させ、200mLの水で3回洗浄し、濃縮した。残渣を、ヘキサン中の70%ジエチルエーテルを用いるシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、7.5g(20mmol, 57%)の(化合物22)を無色のゴム状物として得た(LC/MS M+Na 391.1)。
【0205】
(3-ブロモメチル-5-t-ブトキシカルボニルメトキシ-フェノキシ)-酢酸t-ブチルエステル(化合物23)の調製:
1g(2.7mmol)の(化合物22)に48mLの塩化メチレンを添加し、-40℃に冷却した後、640μL(4.58mmol)のトリエチルアミン及び400μL(5.16mmol)のメタンスルホニルクロリドを添加した。得られた反応混合物を-40℃で3時間撹拌した。この反応混合物に、32mLの新たに蒸留したTHF及び800mg(9.21mmol)の臭化リチウムを添加した。この反応混合物を4℃で18時間撹拌し、次いで、濃縮乾固させた。これを、50mLの塩化メチレンと20mLの水の中に溶解させた。有機層を分離し、水層を30mLの塩化メチレンで4回抽出した。有機層を合して脱水し(Na2SO4)、濃縮して、1.16g(2.68mmol, 99%)の(化合物23)を得た。
【0206】
(3-アジドメチル)-5-t-ブトキシカルボニルメトキシ-フェノキシ)-酢酸t-ブチルエステル(化合物24)の調製:
1.16g(2.68mmol)のブロモ誘導体(化合物23)に、アルゴン雰囲気下、50℃で、30mLの無水DMF及び1.79g(27.5mmol)のアジ化ナトリウムを72時間かけて添加した。この反応混合物を室温まで冷却し、濾過し、残渣を濃縮乾固させた。残渣に、50mLの酢酸エチル及び25mLの水を添加した。有機層を分離し、水層を25mLの酢酸エチルで抽出した。有機層を合して脱水し(Na2SO4)、濃縮して、1.04g(2.64mmol, 99%)のアジド化合物(化合物24)を白色のゴム状固体として得た(LC/MS M+Na 416.1)。
【0207】
(3-アミノメチル-5-t-ブトキシカルボニルメトキシ-フェノキシ)-酢酸t-ブチルエステル(化合物25)の調製:
2.9g(7.3mmol)の(化合物24)に、140mLのエタノール、4.5g(71.3mmol)のギ酸アンモニウム及び1.39gの10%Pd-Cを添加した。得られた反応混合物を室温で18時間撹拌し、CELITE(登録商標)で濾過した。残渣を50mLのエタノールで洗浄した。濾液を濃縮し、150mLのクロロホルムに再度溶解させた。これを、75mLの脱イオン水で3回洗浄し、脱水し(Na2SO4)、濃縮して、2.4g(6.53mmol, 89%)のアミノ誘導体(化合物25)をオフホワイトの半固体として得た(LC/MS;M+ Na 390.1, 2M+1 735.3)。
【0208】
{3-t-ブトキシカルボニルメトキシ-5-[2,2,2-トリフルオロ-アセチルアミノ)-メチル]-フェノキシ}-酢酸t-ブチルエステル(化合物26)の調製:
862mg(2.34mmol)の(化合物12)に、20mLの新たに蒸留したTHF、1mL(7.17mmol)のトリエチルアミン及び426μL(3.57mmol)のトリフルオロ酢酸エチルを添加した。得られた反応混合物を室温で18時間撹拌した。これを濃縮乾固させ、50mLのクロロホルムに溶解させた。有機層を50mLの水で3回洗浄し、脱水し(Na2SO4)、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、604mg(1.3mmol, 56%)のトリフルオロアセチル保護生成物(化合物26)を白色のゴム状固体として得た(LC/MS M+NA 486)。
【0209】
{3-カルボキシメトキシ-5-[(2,2,2-トリフルオロ-アセチルアミノ)-メチル]-フェノキシ}-酢酸[芳香族トリフルオロアセトアミド保護リンカー](化合物27)の調製:
500mg(1.07mmol)の(化合物26)に、20mLの塩化メチレン及び20mLのトリフルオロ酢酸を添加した。この反応混合物を室温で72時間撹拌し、濃縮した。残渣に30mLの塩化メチレンを添加し、濃縮した。上記の30mLの塩化メチレンの添加と濃縮のプロセスをさらに3回繰り返して、376mg(1.07mmol, 99%)の二酸誘導体(化合物27)を白色の固体として得た(LC/MS M+NA 374)。
【0210】
{3-クロロカルボニルメトキシ-5-[(2,2,2-トリフルオロ-アセチルアミノ)-メチル]-フェノキシ}-アセチルクロリド(化合物28)の調製:
51.2mg(0.145mmol)の(化合物27)に、3mLの塩化メチレン及び205μL(2.33mmol)の塩化オキサリル及び10mLの無水DMFを添加した。この反応混合物を室温で18時間撹拌し、濃縮した。残渣に5mLの塩化メチレンを添加し、濃縮した。上記の5mLの塩化メチレンの添加と濃縮のプロセスをさらに3回繰り返して、二酸塩化物(化合物28)を得た。これは、それ以上精製することなく次のステップで使用した。
【0211】
ジオスミウムジビピリジルヒスタミントリフルオロアセトアミド保護芳香族リンカー(化合物29)の調製:
320mg(0.407mmol)のオスミウムジビピリジルt-Bocヒスタミン(化合物4)を、8mLの塩化メチレンと8mLのトリフルオロ酢酸の中に溶解させた。得られた混合物を室温で20分間撹拌した後、溶媒を除去した。塩化メチレンを添加し、次いで、減圧下に除去した。この塩化メチレンの添加と除去をさらに3回繰り返した。次いで、得られた固体を3mLの塩化メチレンに溶解させ、室温で撹拌した。この反応混合物に、全ての(化合物28)(上記で調製したもの)を3mLの塩化メチレンに溶解させた溶液を添加した後、2mL(14.3mmol)のトリエチルアミンを添加した。この反応混合物を、アルゴン雰囲気下、室温で3日間撹拌した。この混合物を、次いで、濃縮し、分取逆相HPLCで精製して、55.9mg(0.033mmol, 23%)のジオスミウム芳香族トリフルオロアセトアミド保護錯体(化合物29)(LC/MS M+H 1614.3)及び71.8mg(0.070mmol, 48%)のモノオスミウム芳香族トリフルオロアセトアミド保護錯体(化合物30)(LC/MS M+H 983.2)を得ると共に、69.2mgのオスミウム(bPy)2(ヒスタミン)Cl(化合物5)を回収した。
【0212】
ジオスミウムジビピリジルヒスタミン芳香族リンカー[ジオスミウム芳香族リンカー](化合物31)の調製:
53.6mg(0.031mmol)のジオスミウム芳香族トリフルオロアセトアミド保護錯体(化合物29)に、25mLの50mM 炭酸カリウム及び10mLのメタノールを添加した。この反応混合物を室温で3日間撹拌し、濃縮した。残渣を分取逆相HPLCで精製して、24mg(0.015mmol, 47%)のジオスミウムジビピリジルヒスタミン芳香族リンカー(化合物31)を褐色の粉状物として得た(LC/MS M+H 1519.2)。
【0213】
ジオスミウムジビピリジルヒスタミンTHC-1コンジュゲート[ジオスミウムTHC-1コンジュゲート](化合物32)の調製:
11mg(6.9×10-3mmol)のジオスミウムジビピリジルヒスタミン芳香族リンカー(化合物31)に、1.96mLのDMF、196μL(1.40mmol)のトリエチルアミン及び7.86mg(0.0178mmol)のTHC-1-NHSエステル誘導体(化合物18)を添加した。この混合物を、アルゴン雰囲気下、室温で18時間撹拌し、濃縮した。LC/MSにより、所望の生成物が形成されたことが示された(LC/MS M+H 1846.4)。8mg(5.03×10-3mmol)のジオスミウムジビピリジルヒスタミン芳香族リンカー(化合物31)と1.43mLのDMFと143μL(1.01mmol)のトリエチルアミンと5.72mg(0.012mmol)のTHC-1-NHS(化合物18)を添加することにより、上記反応を繰り返した。得られた反応混合物を室温で18時間撹拌し、濃縮した。両方の反応生成物を混合し、分取逆相HPLCで精製して、8.7mg(4.5×10-3mmol, 11%)のジオスミウムTHC-1コンジュゲート(化合物32)を褐色の粉状物として得た(LC/MS, M+H 1846.4)。
【0214】
オスミウム-PEGリンカー t-Boc保護(化合物35)の調製:
120mg(0.20mmol)のO-(N-Boc-2-アミノエチル)-O-(N-ジグリコリル)-2-アミノエチルヘキサエチレングリコール(化合物33)(Nova Biochem)に、2mLの塩化メチレン、128mg(0.67mmol)の1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩、72mg(0.62mmol)のN-ヒドロキシスクシンイミドを添加した。この反応混合物を室温で18時間撹拌した。得られた活性化PEG NHSエステル(化合物34)は、単離することなくそのまま次のステップで使用した。
【0215】
120mg(0.15mmol)のオスミウムジビピリジルt-Bocヒスタミン(化合物4)に2.5mLのトリフルオロ酢酸を添加し、得られた混合物を室温で1時間撹拌した。この反応混合物を濃縮し、15mLの塩化メチレンを添加し、濃縮乾固させた。残渣に、1.5mLのDMFを添加した後、500μL(mmol)のトリエチルアミンを添加した。この反応混合物を室温で撹拌し、それに、活性化PEG NHSエステル(化合物34)の上記溶液を滴下して加えた。得られた反応混合物を室温で18時間撹拌し、濃縮した。残渣を分取逆相HPLCで精製して、93mg(0.074mmol, 36%)のオスミウムPEGリンカー t-Boc保護(化合物35)を褐色の粉状物として得た(LC/MS M+H 1216.4)。
【0216】
オスミウムPEGリンカー(化合物36)の調製:
90mg(0.071mmol)のオスミウムPEGリンカー t-Boc保護(化合物35)に2mLのトリフルオロ酢酸を添加した。得られた反応混合物を室温で40分間撹拌し、濃縮して、81mg(0.070mmol, 99%)のオスミウムPEGリンカー(化合物36)を暗褐色の濃密なゴム状物として得た(LC/MS M+H 1116.2)。
【0217】
オスミウムPEG THC-2コンジュゲート(化合物37)の調製:
39mg(0.033mmol)のオスミウムPEGリンカー(化合物36)に、1mLのDMF及び200μL(1.43mmol)のトリエチルアミンを添加した。この反応混合物を、アルゴン雰囲気下、室温で撹拌し、それに、16mg(0.032mmol)のTHC-2 NHSエステル(化合物16)を1mLの塩化メチレンに溶解させた溶液を滴下して加えた。得られた反応物を室温で18時間撹拌し、減圧下に濃縮した。残渣を分取逆相HPLCで精製して、10.2mg(6.6×10-3mmol, 20%)のオスミウムPEG THC-2コンジュゲート(化合物37)w得た(LC/MS M+H 1501.6)。
【0218】
オスミウムPEGメトトレキサートコンジュゲート(化合物38)の調製:
19mg(0.041mmol)のメトトレキサート(Sigma)に、0.4mLの無水DMFを添加した後、8mg(0.06mmol)の4-ニトロフェノール及び9mg(0.043mmol)のN,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミドを添加した。得られた反応混合物を室温で4時間撹拌した。得られた活性化エステル(化合物20)は、単離することなくそのまま次のステップで使用した。
【0219】
22.9mg(0.019mmol)のオスミウムPEGリンカー(化合物36)に、500μLのDMFを添加した後、100μL(0.71mmol)のトリエチルアミンを添加した。この反応混合物を室温で撹拌し、上記で調製したメトトレキサート活性化エステル(化合物20)の溶液を滴下して加えた。得られた反応混合物を室温で18時間時間撹拌し、濃縮した。残渣を分取逆相HPLCで精製して、7.8mg(4.9×10-3mmol, 25%)のオスミウムPEGメトトレキサートコンジュゲート(化合物38)を得た(LC/MS M+H 1554.5)。
【0220】
4-アミノ-ヘパン二酸(hepanedioic acid)ジエチルエステル塩酸塩(化合物39)の調製:
2g(8.6mmol)の4-オキソピメリン酸ジエチルに20mLのメタノールを添加した後、6.7g(86mmol)の酢酸アンモニウム、713mg(8.6mmol)の酢酸ナトリウム及び5mLの氷酢酸を添加した。この反応混合物を室温で18時間撹拌し、濃縮した。残渣に、150mLの酢酸エチル及び100mLの重炭酸ナトリウム飽和水溶液を添加した。有機層を分離し、水層を追加の100mLの酢酸エチルで抽出した。有機層を合して100mLの飽和重炭酸ナトリウムで2回洗浄し、脱水し(Na2SO4)、濃縮して、油状物を得た。この油状物に、ジエチルエーテル中の2M HCl(5mL)を添加した。白色の固体が沈澱した。これを濾過して、1.2g(4.48mmol, 52%)のアミノ生成物を塩酸塩(化合物39)として得た。
【0221】
4-t-ブトキシカルボニルアミノ-ヘプタン二酸ジエチルエステル(化合物40)の調製:
500mg(1.86mmol)のアミノ生成物(化合物39)に15mLの塩化メチレンを添加した後、1.2mL(8.5mmol)のトリエチルアミンを添加した。この反応混合物に、646mg(2.95mmol)の二炭酸ジt-ブチルを添加し、次いで、25mg(1.12mmol)の4-ジメチルアミノピリジンを添加した。得られた反応混合物を室温で18時間濾過し、減圧下に濃縮した。残渣に150mLのクロロホルムを添加し、100mLの水で2回洗浄した。有機層を脱水し(Na2SO4)し、濃縮して、油状物を得た。これを、8:2のヘキサン:酢酸エチルを用いるシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、396mg(1.19mmol, 64%)の4-t-ブトキシカルボニルアミノ-ヘプタン二酸ジエチルエステル生成物(化合物40)を得た。
【0222】
4-t-ブトキシカルボニルアミノ-ヘプタン二酸(化合物41)の調製:
380mg(1.14mmol)の4-t-ブトキシカルボニルアミノ-ヘプタン二酸ジエチルエステル(化合物40)を、3mLのメタノールを含んでいるTHFに溶解させた。この反応混合物に、481mg(11.5mmol)の水酸化リチウム水和物を6mLの水に溶解させた溶液を添加し、得られた反応混合物を室温で18時間撹拌した。これを減圧下に濃縮した。5mLの水を添加し、得られた溶液のpHを、濃H3PO4を用いてpH-5に調節した。この反応混合物を75mLの酢酸エチルで3回抽出した。有機層を合して脱水し(Na2SO4)、濃縮して、310mg(1.12mmol)の(化合物41)を白色の粉状物として得た[LR-MS-ER(-)(M-H 274.2)]。
【0223】
4-t-ブトキシカルボニルアミノ-ヘプタン二酸ビス(2,5-ジオキソ-ピロリジン-1-イル)エステル(化合物42)の調製:
44mg(0.15mmol)の4-t-ブトキシカルボニルアミノ-ヘプタン二酸(化合物41)に、5mLの塩化メチレン、76mg(0.39mmol)の1,3-ジメチルアミノプロピル-3-エチルカルボジイミド塩酸塩及び46mg(0.39mmol)のN-ヒドロキシスクシンイミドを添加した。この反応混合物を室温で18時間撹拌した。15mLの塩化メチレンを添加した。有機層を、15mLの水で2回洗浄し、15mLの飽和重炭酸ナトリウムで2回洗浄し、及び、15mLの水で1回洗浄した。有機層を脱水し(Na2SO4)、減圧下に濃縮して、39mg(0.08mmol, 52%)の4-t-ブトキシカルボニルアミノ-ヘプタン二酸ビス(2,5-ジオキソ-ピロリジン-1-イル)エステル生成物(化合物42)を白色の固体として得た。
【0224】
ジオスミウムt-Boc保護脂肪族リンカー(化合物43)の調製:
20mg(0.040mmol)の4-t-ブトキシカルボニルアミノ-ヘプタン二酸ビス(2,5-ジオキソ-ピロリジン-1-イル)エステル(化合物42)に44mg(0.064mmol)のオスミウム(bPy)2(ヒスタミン)Cl(化合物5)を添加した後、2mLの塩化メチレン及び0.5mLのDMFを添加した。この反応混合物に200μL(1.43mmol)のトリエチルアミンを添加し、得られた反応混合物を、反応を完結させるために、必要に応じて、室温で24〜48時間撹拌する。その反応混合物を減圧下に濃縮し、分取逆相HPLCで精製して、ジオスミウムt-Boc保護脂肪族リンカー(化合物43)を得た。
【0225】
ジオスミウム脂肪族リンカー(化合物44)の調製:
10mgのジオスミウムt-Boc保護脂肪族リンカー(化合物43)に1mLのトリフルオロ酢酸を添加し、室温で1〜2時間撹拌した。これを減圧下に濃縮して、ジオスミウム脂肪族リンカー(化合物44)を得た。
【0226】
ビイミダゾール(化合物45)の調製:
25mLのグリオキサール(水中40重量%)に25mLの水を添加した。この反応混合物を氷浴で冷却した。その混合物に、アンモニアガスを、7時間にわたり徐々に通気した。反応混合物を濾過して、710mgのビジイミダゾール(bidiimdazole)(化合物45)を灰色の粉状物として得た。これは、それ以上精製することなく次のステップで使用した(LC/MS M+H 135.0)。
【0227】
ジメチルビイミダゾール(化合物46)の調製:
60mg(0.44mmol)のビイミダゾールに1mLの無水DMFを添加した。この反応混合物を氷浴で冷却し、27mg(0.67mmol)のNaH(油中60%)を添加した。得られた反応混合物を0℃で1時間撹拌した。140μL(0.92mmol)のp-トルエンスルホン酸メチルを添加し、得られた反応混合物を0℃でさらに1時間撹拌し、次いで、室温で2日間撹拌した。反応混合物を濃縮し、メタノール中の50%酢酸エチルを用いるシリカゲルクロマトグラフィーで精製して、60mg(0.36mmol, 83%)のジメチルビイミダゾール(化合物46)を得た(LC/MS M+H 163.1)。
【0228】
オスミウムジビイミダゾールジクロリド(化合物47)の調製:
150mg(0.50mmol)のOsCl3に112mg(0.69mmol)のジメチルビイミダゾール(化合物46)を添加した後、280mg(6.6mmol)の塩化リチウム及び10mLの無水DMFを添加した。得られた反応混合物を、アルゴン雰囲気下で3.5時間還流し、濃縮した。残渣を分取RP-HPLCで精製して、95mg(0.15mmol, 30%)のオスミウムジビイミダゾールジクロリド(化合物47)を暗褐色の粉状物として得た(LC/MS M+H 586.0)。
【0229】
オスミウムジビイミダゾールヒスト-t-Boc(化合物48)の調製:
50mg(0.080mmol)のオスミウムジビイミダゾールジクロリド(化合物47)に71mg(0.33mmol)の[2-(1H-イミダゾール-4-イル)-エチル]-カルバミン酸t-ブチルエステル(化合物3)を添加した後、300μL(2.14mmol)のトリエチルアミン及び10mLのエタノールを添加した。この混合物を18時間加熱還流し、濃縮した。残渣を分取逆相HPLCで精製して、13mg(0.016mmol, 20%)のオスミウムジビイミダゾールヒスト-t-Boc(化合物48)を暗褐色の粉状物として得た(LC/MS M+H 761.2)。
【0230】
オスミウム(ジメチルビイミダゾール)2ヒスタミンリンカー(化合物49)の調製:
4mg(5.02×10-3mmol)のオスミウムジビイミダゾールヒスト-t-Boc(化合物48)に、750μLの塩化メチレン及び750μLのトリフルオロ酢酸を添加した。得られた反応混合物を室温で20分間撹拌し、減圧下に濃縮した。残渣に5mLの塩化メチレンを添加し、濃縮した。塩化メチレンの添加と濃縮のプロセスをさらに3回繰り返し、残渣を乾燥させて、3mg(4.3×10-3mmol, 88%)のオスミウム(ジメチルビイミダゾール)2ヒスタミンリンカー(化合物49)を得た(LC/MS M+H 661.1)。
【0231】
該オスミウム(ジメチルビイミダゾール)2ヒスタミンリンカーは、比較的低い酸化還元電位を示すメディエーターの例として調製した。より低い酸化還元電位は、高い電位で容易に酸化する化合物を妨害するのを避けるための電気化学的アッセイにとって興味深い。より低いメディエーターは、米国特許第6,294,062号において検討されているように、バイポテンシオスタットを用いた各メディエーターの独立した測定を可能とするために、各メディエーターの酸化還元電位が最低50〜100mV隔てられていることが必要な混合メディエーター法にとっても必要とされる。CVは、1mgの該メディエーターを1mLのPBSTに約1.4mMの濃度となるように溶解させることにより、該メディエーターの未精製物質を用いて行った。該CVにより、このメディエーターについてのE1/2電位が、調製した別のメディエーターよりも有意に低いことが示された。そのE1/2電位は、Ag/AgClに対して、約-520mVであった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体中のアナライトを検出するためのシステム、試薬及び方法に関する。より詳細には、本発明は、非限定的に、流体サンプル中のアナライトを検出及び分析するための電気化学イムノアッセイシステム及び試薬、並びに、それらの方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学バイオセンサーは、血液、尿及び唾液などの生物学的なサンプルに含まれている特定の生物学的に重要なアナライトの存在を検出し及び濃度を測定するために、インビトロでの診断において使用されてきた。糖尿病患者の血中グルコースのモニタリングは、電気化学バイオセンサーの最も一般的で且つ良好な結果が得られている商業的用途の一つである。別の診断バイオセンサーの用途も開発されており、そのような用途には、乳酸イオン、コレステロール、クレアチニン、血液ガス及び電解質などがある。AC電気化学的測定法及びDC電気化学的測定の両方が用いられ、それらには、電流測定、電位差測定、電量分析及びインピーダンスなどがある。現在のバイオセンサー技術の大部分は、アナライトに対する生体認識要素として、選択された遊離酵素に頼っている。さらに、この技術は、典型的には、mMの範囲の比較的高い濃度のアナライトを正確に測定することができる。従って、電気化学的検出は、増幅技術を使用せずに、マクロ電極を用いて達成可能である。
【0003】
関心のある別のアナライトは、グルコースと比較して、はるかに低い濃度で見いだされる。そのようなアナライトとしては以下のものを挙げることができる:乱用薬、例えば、アンフェタミン、コカイン、フェンシクリジン(PCP)及びテトラヒドロカンナビノール(THC)など;治療薬、例えば、テオフィリン、ジゴキシン、ジギトキシン及びメトトレキサートなど;環境汚染物質、例えば、PCB及びアトラジンなど;生物戦用因子(biowarfare agent)、例えば、炭疽菌、ボツリヌス中毒及びサリンなど;タンパク質;並びに、ホルモン。
【0004】
これらのアナライトを検出するために、標識を使用する様々なアフィニティーベースアッセイ法が探求されてきた。アフィニティーに基づく技術には、以下のものを使用する技術などがある:酵素標識、放射性同位体標識、化学発光標識、蛍光標識、及び、電気化学的酸化還元標識。しかしながら、これらの技術の多くは、多大な労働力を必要とし、研究室内で熟練技術者によって最も適切に行われる多くのステップを必要とする。ステップの数と複雑さにより、これらの技術を「現場」で日常的に使用することができない。これらの試験の多くは、競合的な酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)の変形を利用している。その例には、Strategic Diagnostics製及びEnviroLogix, Inc.製のアトラジンアッセイなどがあるが、これらは、いずれも、手動による多くのステップ(例えば、それぞれ、15分間及び1時間のインキュベーション時間)を有する。ELISAをベースとする類似したアッセイ及び別のイムノアッセイフォーマットが、多くの産業にわたる多様なアッセイに適用可能であることが認められるであろう。しかしながら、現場で迅速に行うことができる定量的アッセイはほとんど無い。迅速な試験又はポイントオブケア装置に使用される最も一般的に利用可能なイムノアッセイフォーマットの1つは、ラテラルフローアッセイ(lateral flow assay)として知られており、これは、免疫クロマトグラフィーを利用している。これらの製品の殆どは「スクリーニングアッセイ」であり、ラインの存在又は非存在によって示される定性的な結果(ポジティブ/ネガティブ)を提供する。結果は、多くの場合、視覚的に読み取られ、また、多くの場合、小さなライン又は部分的なラインが存在している場合に解釈が困難である。これらのアッセイの殆どは、結果がポジティブであった場合、GC/MS又はHPLCなどの別の方法によるフォローアップが必要である。多様な産業に対して、アフィニティーに基づく迅速な検出を可能とする技術を提供することが強く求められている。迅速な検出により、すぐに使用可能な結果をすぐに得ることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気化学的酸化還元標識(これは、電子移動剤又は電気化学的メディエーター標識とも称される)を使用することによりアフィニティーをベースとする電気化学的アッセイにおいて実際的で信頼できる結果が得られることが示されている。しかしながら、酸化還元標識を定量するのに電気化学的検出技術を使用すること、従って、酸化還元標識の濃度をアナライトの濃度と相関させることには、問題がともなってきた。電気化学的測定は、測定の精度及び感度に悪影響を及ぼす多くの影響(例えば、電極構造自体の変化に対するメディエーターコンジュゲートの適切な選択に関連した影響、及び/又は、サンプルのバラツキに由来するマトリックス効果に関連した影響など)を受けやすい。
【0006】
多くの種類のイムノアッセイは、慣習的なマクロ電極上での電気化学的検出を用いて現在達成可能な検出限界よりもはるかに低い検出限界を要する。従って、これらのアッセイにシグナル増幅技術を用いて、電気化学的検出限界を大きく改善しなければならない。
【0007】
上記問題に鑑みて、関連する分野、例えば、種々のアナライト(例えば、治療薬、乱用薬、疾患状態、食品検査用アナライト、環境上重要なアナライト及び生物戦用因子(biowarfare agents)など)の検出分析の増強に関連する改善されたシステム、方法、組成物及び試薬などにおける進歩が引き続き求められている。本発明は、そのような進歩であり、さまざまな利益と利点を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一形態において、本発明は、イムノアッセイで使用可能な新規オスミウムベースの電気化学種を提供する。該オスミウム種は、関心のあるアナライトを検出するための特異的結合リガンドに結合させることができる。そのようなオスミウム種は、種々の連結基を用いて特異的結合リガンドに結合する1、2又は4個のオスミウム中心を含有し得る。連結基は、アナライトの特異的型に対して選択することが可能であるか、又は、アナライトが示す種々の特性に適応させるために選択することが可能である。例えば、連結基を選択することにより、さまざまな程度の親水性(又は、それとは逆に、疎水性)を付与することができる。
【0009】
本発明の新規オスミウムベースの電気化学種を用いて、関心のある種々のアナライト(例えば、生物戦用因子、治療薬、環境汚染物質、タンパク質及びホルモン)について検出及び分析することが可能である。
【0010】
本発明のオスミウムベースの電気化学種は、種々の試験センサー(test sensor)及び診断キットと一緒に使用することができる。一形態では、関心のあるアナライトを検出するために、本発明のオスミウムベースの電気化学種を均一系イムノアッセイで用いる。本発明によるアッセイ法は、種々の試験センサー及び計測器と一緒に使用することができる。特に好ましい実施形態では、特に低濃度の所望アナライトを含んでいるサンプルを分析するために、本発明のアッセイ法を用いることができる。別の実施形態では、極めて短い試験時間(好ましくは、約10秒間)の間に信頼できるアッセイ結果を提供するために、本発明のアッセイ法を用いることができる。
【0011】
一形態において、本発明は、インターデジテイテッド電極アレイ(interdigitated arrays of electrodes)を含んでいる新規試験センサーを提供する。該電極アレイは、第一作用電極及び第二作用電極、並びに、対向電極及び参照電極を含み得る。作用電極と参照電極(又は、対向電極)のさまざまな組合せの間の種々の電位を制御するために、バイポテンシオスタットを使用することができる。
【0012】
別の形態では、本発明の診断キットは、「現場で(in the field)」容易に使用可能なポータブル試験装置を含み得る。ポータブル試験装置は、試験センサー及び構成変更可能な(configurable)ポータブル計測器を含むことができ、さらに、場合により、サンプル収集チャンバーも含むことができる。
【0013】
さらなる目的、特徴、態様、形態、利点及び利益については、本明細書及びそれに含まれている図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の診断キットの一実施形態を図式的に表したものである。
【図2】関心のある複数のアナライトを検出及び分析するのに有用な電極平面アレイを有する、本発明の試験センサーの一実施形態の斜視図である。
【図3】関心のある複数のアナライトを検出及び分析するのに有用な電極平面アレイを有し、複数のサンプルポートを有する、本発明の試験センサーの別の実施形態の斜視図である。
【図4】複数のアナライトを検出及び分析するのに有用な試験センサーのさらに別の実施形態の分解図である。
【図5】図4の試験センサーの斜視図である。
【図6】サンプル中に浸漬することが可能な、マルチアナライト試験用に構成した試験センサーである。
【図7】ランセットで傷を付けた指から血液を供給することが可能なシングルアッセイ試験用に構成した試験センサー及び計測器の斜視図である。
【図8】ピペットで供給することが可能なシングルアッセイ試験用に構成した試験センサー及び計測器の斜視図を示している。
【図9】サンプル収集チャンバーに取り付けられたアッセイを含むマルチアナライト試験用に構成された試験センサー及び計測器の斜視図を示している。
【図10】1対の電極の部分断面図であり、インターデジテイテッド電極フィンガー上で酸化されるか又は還元される可逆的メディエーター(M)の拡散により制限される定常電流の条件を例示している。
【図11】可逆的メディエーターの酸化還元循環を測定するのに適するように構成された本発明の平面インターデジテイテッドアレイ(IDA)電極の拡大平面図である。
【図12】可逆的メディエーター測定用に構成された本発明の垂直インターデジテイテッドアレイ電極の部分断面図である。
【図13】図12の垂直インターデジテイテッドアレイ電極の拡大平面図である。
【図14】物理的な電極領域に対して標準化された平面IDAについての電流次元対電極次元の三次元プロットである。
【図15】本発明により調製し且つ評価したIDA及びVIDAのさまざまな実施形態が記載されている表を提供している。
【図16】本発明のIDA中の電極間の間隙の幅を狭くすることにより電流増幅を増大させる能力について例示するグラフである。
【図17】本発明の連続結合アッセイ(sequential binding assay)の一実施形態を例示する略図である。
【図18】本発明のOs(ビピリジル)ヒスタミン電気化学的標識を調製するための一合成スキームを例示している。
【図19】本発明のオスミウム-アンフェタミンコンジュゲートを調製するための合成スキームを例示している。
【図20】本発明のオスミウム-テオフィリンコンジュゲートを調製するための合成スキームを例示している。
【図21】本発明のオスミウム-PCPコンジュゲートを調製するための合成スキームを例示している。
【図22】本発明のオスミウム-THC-2コンジュゲートを調製するための合成スキームを例示している。
【図23】本発明のオスミウム-THC-1コンジュゲートを調製するための合成スキームを例示している。
【図24】本発明のオスミウム-メトトレキサートコンジュゲートを調製するための合成スキームを例示している。
【図25】本発明で使用するための芳香族トリフルオロアセトアミドで保護されたリンカーを調製するための合成スキームを例示している。
【図26】本発明のジオスミウム芳香族トリフルオロアセトアミド及びモノオスミウム芳香族トリフルオロアセトアミドで保護されたリンカー又は電気化学的標識を調製するための合成スキームを例示している。
【図27】本発明の芳香族リンカー含有ジオスミウム電気化学的標識を調製するための合成スキームを例示している。
【図28】本発明のジオスミウムTHC-1コンジュゲートを調製するための合成スキームを例示している。
【図29】本発明の脂肪族リンカー含有ジオスミウム電気化学的標識を調製するための合成スキームを例示している。
【図30】本発明のオスミウム-PEG(リンカー)電気化学的標識を調製するための合成スキームを例示している。
【図31】本発明のオスミウム-PEG(リンカー)電気化学的標識を調製するための合成スキームを例示している。
【図32】本発明のオスミウムPEG THC-2コンジュゲートを調製するための合成スキームを例示している。
【図33】本発明のオスミウムPEGメトトレキサートコンジュゲートを調製するための合成スキームを例示している。
【図34】本発明のテトラカルボン酸リンカー基を調製するための合成スキームを例示している。
【図35】本発明のテトラオスミウムトリフルオロアセトアミド電気化学的標識の保護された前駆体を調製するための合成スキームを例示している。
【図36】本発明のテトラオスミウム電気化学的標識のテトラカルボン酸リンカーを脱保護するための合成スキームを例示している。
【図37】本発明のオスミウム(ジメチルビイミダゾール)2ヒスタミンリンカー又は電気化学的標識を調製するための合成スキームを例示している。
【図38】オスミウム-テオフィリンコンジュゲート電気化学的標識のCVスペクトルである。
【図39】オスミウム-テオフィリンコンジュゲート電気化学的標識の定常状態反応を例示するプロットである。
【図40】オスミウム-テオフィリンコンジュゲート電気化学的標識の用量反応のプロットである。
【図41】オスミウム-テオフィリンコンジュゲート電気化学的標識の抗体阻害のプロットである。
【図42】血清マトリックスにおけるテオフィリンアッセイ反応のプロットである。
【図43】オスミウム-アンフェタミンコンジュゲート電気化学的標識のCVスペクトルである。
【図44】オスミウム-アンフェタミンコンジュゲート電気化学的標識のリサイクリングCVである。
【図45】オスミウム-アンフェタミン電気化学的標識のコンジュゲート反応のプロットである。
【図46】オスミウム-アンフェタミン電気化学的標識の存在下で得られたPBSTにおけるアンフェタミンについてのアッセイ曲線である。
【図47】750のインターデジテイテッド電極対を含んでいる2μM間隙/幅のインターデジテイテッドアレイ電極上のビス(2,2'-ビピリジル)イミダゾールクロロオスミウム(III)ジクロリドについてのリサイクリングCVである。
【図48】2μmIDA電極上のオスミウムビオチンコンジュゲート用量反応である。
【図49】2μmIDA電極上のビオチンアッセイについて、サンプル導入の0.5秒後、2秒後及び10秒後に記録された定常状態反応のプロットである。
【図50】図49のビオチンアッセイの代表的な濃度の定常状態反応の電流対時間のプロットである。
【図51】モノオスミウム芳香族トリフルオロアセトアミドで保護されたリンカーのCVスペクトルである。
【図52】ジオスミウム芳香族リンカー電気化学的標識のCVスペクトルである。
【図53】ジオスミウムリンカーとモノオスミウムリンカーとビス(2,2'-ビピリジル)イミダゾールクロロオスミウム(III)ジクロリドの用量反応曲線を比較しているグラフである。
【図54】ジオスミウム-THC-1コンジュゲートのCVスペクトルである。
【図55】オスミウム-PEG-THC-2コンジュゲートの反応のグラフである。
【図56】ヒドロキシプロピルベータシクロデキストリンの存在下又は非存在下におけるオスミウム-PEG-THC-2電気化学的標識のコンジュゲート反応の酵素増幅プロットである。
【図57】オスミウム-PEG-メトトレキサートコンジュゲートのCVスペクトルである。
【図58】オスミウム-PEG-メトトレキサートコンジュゲートの用量反応のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は種々のアナライトを分析するためのさまざまな方法及びシステムを提供する。該方法では、関心のあるアナライトに対して選択された特異的結合相手と一緒に、新規な電気化学的メディエーターを使用することができる。該システムは、所望のアナライトを検出又は分析するための異なった電極配置及び化学を有するさまざまな試験センサーを含むことが可能である。さらに、該試験センサーと一緒にさまざまな試験計測器及び構成変更可能なプラットフォームを用いて、正確で信頼性のある使いやすいアッセイ方法を提供することができる。
【0016】
本明細書で使用される場合、示されている用語は、以下の定義により規定される。
【0017】
用語「電極構造」は、サンプル、酸化還元可逆的コンジュゲート(redox reversible conjugate)及び/又はオスミウムコンジュゲートと接触し得る全ての有効電極領域と、接触パッドへと通じる電極トレースと、計測器又は別の機器との電気的接触を可能とする接触パッドを組み合わせたものを示す。
【0018】
用語「有効電極領域」は、IDA電極と関連して使用される場合、サンプルと接触する電極領域を包含し、参照電極、並びに、酸化還元-可逆的化学種に依存する所定のカソード電位とアノード電位を作用電極に印加したときにサンプル中の拡散性酸化還元可逆的コンジュゲートの拡散リサイクリング(diffusional recycling)を可能とする寸法を有する少なくとも第一電極及び第二電極を含む。
【0019】
酵素増幅の場合は、「有効電極領域」は、サンプルと接触する電極領域を包含し、参照電極と少なくとも第一作用電極を含む。
【0020】
用語「IDA電極」は、しばしば一対の櫛型電極として描かれるインターデジテイテッドアレイ(Interdigitated Array)電極を示すが、該用語は、電極間の酸化還元リサイクリングを可能とするために極めて接近した2つ以上の電極をもたらす別の形状も包含し得る。この定義には、異なった平面内で空間的に隔てられ得る電極も包含され、そのような電極は、垂直インターデジテイテッドアレイ電極(Vertical Interdigitated Array electrodes, VIDA)と称される。
【0021】
用語「作用電極」は、本明細書で使用される場合、測定イベント(即ち、酸化及び/又は還元)が起こり、結果として生じた電流をアナライトの濃度の指標として測定可能な電極を示す。
【0022】
用語「アノード電位」は、アノードに印可されたより高い正電位を示し、「カソード電位」は、カソードに印可されたあまり高くない正電位又は負電位を示す(Ag/AgClなどの参照電極との対比)。
【0023】
「試験センサー」は、構造物と試薬の組合せを示し、全てのサブコンポーネント、例えば、プラスチック、スペーサー及び接着剤、並びに、特異的構造要素、例えば、毛管、測定域及び電極構造を含んでいる。試験センサーは、シングルアッセイ用として必須の構成要素、構造物及び試薬を含むことが可能であるか、又は、それは、マルチアッセイ用として必要とされる構成要素、構造物及び試薬を含むことが可能である。本発明の試験センサーは、測定域に加えて、サンプル収集チャンバー及び/又は混合チャンバーも含み得る。
【0024】
用語「測定域」は、有効電極領域に接触していてアッセイ中に応答することが可能な酸化還元可逆的コンジュゲート内の試験センサーの領域である。
【0025】
構成変更可能な試験センサーの設計におけるこの領域は、アッセイに特異的な試薬とIDA電極の寸法を除いて、全てのアッセイで実質的に同一であるべきである。マルチアッセイの設計は、米国特許第6,294,062号に記載されているように種々の酸化還元電位を有する複合酸化還元メディエーターを用いる場合を除いて、複数の測定域を有するであろう。
【0026】
「妨害物質」は、全ての化学種を包含し、アナライトからの所望のシグナルを増大又は低減させる関心のあるアナライトを包含する。妨害物質は、血中又は尿中で酸化され得る尿酸及びアスコルビン酸などのように、サンプルマトリックス中にその一部として固有に存在するものであり得る。タンパク質又は疎水性分子(例えば、THC)は、電極表面上に不動態化層を形成して期待される反応を低減することにより、電極への電子の移動を妨害し得る。
【0027】
「バイポテンシオスタット」は、参照電極及び対向電極に同調して、同一の電気化学セル内の2つの作用電極("WE1"及び"WE2")の電位を別々に独立して制御することを可能にする測定エンジンである。
【0028】
「電気化学的標識」は、本明細書で使用される場合、液体サンプル中で可逆的な酸化及び還元が可能な化学種を示す。電気化学的標識としては、遷移金属、例えば、鉄(フェロセン及びフェロセン誘導体)、ルテニウム及びオスミウムなどの錯体などを挙げることができる。好ましい実施形態では、本発明用の電気化学的標識は、オスミウム有機金属種として選択する。
【0029】
「サンプル収集チャンバー」は、アナライトを含んでいる検体と最初に接触する領域である。その例には、毛管充填域(capillary fill zone)、キュベット、カップ、又は、アナライトを含んでいるサンプルを受け取るための別のサンプル受け入れ容器などを挙げることができる。サンプル収集チャンバーは、本明細書で用いられる場合、続いて所望のアッセイを実施するのに充分な容積のサンプルを収集する領域である。サンプル収集チャンバーは、サンプルの全て又は一部をすぐにサンプル受け入れ域又は測定域まで通過させてアッセイを実施してもよいか、又は、しばらく後に装置を作動させてサンプルを適切な帯域まで通過させるまで、サンプルを保持していてもよい。選択された実施形態では、サンプル収集、サンプル受け入れ、反応チャンバー又は帯域、及び測定域は、同一の帯域又は領域である。
【0030】
「反応チャンバー又は反応域」は、サンプルが試薬と相互作用し得る領域である。これは、単一の試薬の単なる水和若しくは溶解であり得るか、又は、複数の試薬との反応の逐次的なスキームであり得る。サンプル受け入れ域は、混合を促進することが可能であり、また、サンプルを測定域まで通過させることが可能である。少なくとも1つの実施形態では、サンプル受け入れ域は、測定域と同一である。
【0031】
用語「抗体」は、(a)慣習的に使用される動物のいずれか、例えば、ヒツジ、ウサギ、ヤギ又はマウスなどから得た種々のクラス又はサブクラスの免疫グロブリンのいずれか、例えば、IgG、IgMなど;(b)モノクローナル抗体;(c)抗体、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体の完全な分子又は「フラグメント」を示し、ここで、フラグメントは、抗体の結合領域を含んでいるフラグメント、即ち、Fc部位を欠いているフラグメント(例えば、Fab、Fab'、F(ab')2)であるか、又は、完全な抗体の重鎖成分を連結しているジスルフィド結合を還元的に切断することにより得られた、いわゆる「半分子」フラグメントである。そのような抗体の調製については、当技術分野ではよく知られている。
【0032】
概して、本発明は、非常に多くの種類のアナライトの検出及び分析を対象とする。関心のあるアナライトは、さまざまな源(ヒト、動物、植物、食品、廃水及び地下水)の中に見いだすことができる。そのようなアナライトは、興味深い。それは、そのようなアナライトが、そのインビボでの濃度及び活性が健康な生活及び患者の治療にとって興味深い治療薬及び乱用薬であり得るからである。関心のある別のアナライトには、環境上関心のあるアナライトなどがあり、殺虫剤、除草剤又は別の汚染物質について水及び備蓄食糧などをモニタリングすることが含まれる。
【0033】
本発明の診断法は、電気化学イムノアッセイを用いて、アナライトを検出及び分析する。好ましいイムノアッセイでは、電気化学的に検出可能な標識を使用する。好ましい実施形態では、該標識は、電極において又は電極上で標識が多重酸化還元サイクルを受けたときに発生した電流を測定することにより検出される。典型的には、検出可能な標識の酸化/還元により発生する電流は極めて小さく、所望のアナライトの正確で再現可能な分析を可能とするためには、該電流を増幅しなければならない。該電流は、定常状態条件下での拡散リサイクリング及び/又は酵素リサイクリングにより増幅することができる。
【0034】
アナライトの検出及び分析は、さまざまな構成要素を含んでいる試験キットを用いて実施することができる。最小限の構成要素には、計測器、試験センサー及びサンプルが含まれている。好ましくは、特異的試験センサーアッセイで作動するように構成された携帯用計測器を用いることにより、アッセイ方法を簡素化することができる。一実施形態では、計測器は、種々の試験センサーに合わせて構成変更することが容易なように設計された携帯用バイポテンシオスタットである。別の実施形態では、計測器は、市販されているPDA又は別のポータブルコンピュータ機器と、そのような機器にプラグで接続するか又は取り付けるバイポテンシオスタットモジュールからなる。このような構成のため、種々の試験センサーアッセイと共にソフトウェアを変更することで、同一のモジュールを使用する構成にして異なった多くの製品及び市場に対するアッセイを開発することができる。分析は、アッセイ当たり約4μL〜約50μLの少量のサンプル容積で実施する。試験センサー用のサンプル収集容積は、その用途に対して何が実際的であるかに応じて変動する。ランセットで傷を付けた指から収集した血液は、多くの場合、15μL未満の容積であるが、尿サンプル収集装置は、慣習的に、比較的大きな容積を扱う必要がある。従って、試験センサーの構成は変えられるが、基本的な電極構造及び測定域は、電気化学コンジュゲート及びアフィニティー結合相手(抗体)などのアッセイに特異的な試薬を除き、一般に、全ての試験センサーで同じままである。
【0035】
電極構造の有効電極領域には、少なくとも、第一作用電極、第二作用電極、参照電極及び対向電極が含まれている。第一作用電極と第二作用電極は、所定のアノード電位とカソード電位を作用電極に同時に印加したときに、サンプル中の酸化還元可逆的コンジュゲートとの拡散リサイクリングが可能となるような寸法とする。拡散リサイクリングが可能となるような寸法に作られた電極は、典型的には、マイクロディスク、マイクロホール又はマイクロバンドなどのアレイの形態にある。一実施形態では、電極は、ミクロン又はサブミクロンの間隔を有するマイクロバンド電極のインターデジテイテッド配列の形態にある。2つの別々に分極した電極の間の間隔が充分に狭い場合、拡散層が重なり合う。1つの電極で酸化された酸化還元種が隣接する電極に拡散し、その電極で還元される。その結果、該酸化還元種が繰り返し酸化及び還元されることに起因して、増幅された電流シグナルが生じる。
【0036】
該試験センサーは、サンプル収集チャンバー及び液体サンプルを受け取るためのサンプル受け入れチャンバーを含み得る。サンプル収集チャンバーは、例えば、毛管充填域(capillary fill zone)、キュベット、カップ、又は、アナライトを含んでいるサンプルを受け取るための別のサンプル受け入れ容器等を含み得る。一実施形態では、サンプル収集チャンバーとサンプル受け入れチャンバーは、同一のチャンバーであり得る。さらに別の実施形態では、サンプル収集チャンバーとサンプル受け入れチャンバーと測定域は同一のチャンバーであり得る。別個のサンプル収集チャンバー又は帯域を有する実施形態は、特定の試験センサーアッセイ用の好ましいサンプル収集方法を効率よく且つ都合よく集めるために設計することができる。幾つかの好ましいサンプル収集方法には、指穿刺から血液を引き抜くための毛管チャンバー、又は、別の手段(例えば、バルクサンプルへの浸漬又はシリンジ若しくはピペットを介する手段)によるサンプルのポート導入が含まれている。別の実施形態では、試験センサーは、地下水、廃水又は尿を収集するのに有用なカップなどの比較的大きなサンプル収集チャンバーを含むであろう。種々の産業において、追加サンプルを維持すること及び/又は不正開封防止シールでサンプルを密封することが重要である場合、大きなサンプル収集チャンバーを有する試験センサーが望ましい場合がある。これは、法的な証拠となる問題を有しているサンプル又は生物学的に危険な汚染物質を含んでいる疑いがあるサンプルにとって、特に有利である。あるいは、該試験センサーは、サンプル収集及びサンプル受け入れ域としての役目も果たす測定域のみを含んでいることも可能である。いずれの場合においても、該試験センサーの電気化学イムノアッセイ部位では、所定量の酸化還元可逆的コンジュゲート及び特異的結合相手に接触してそれらを溶解させるのに充分な少量のサンプルが必要なだけである。
【0037】
電極構造は、チャンバーの1以上の壁面上に支持することは可能であり、その際、該電極構造の少なくとも一部(有効電極領域)は、液体サンプルと接触している。電極構造が接触領域を有することにより、計測器又は測定モジュールは、それぞれのカソード電位及びアノード電位を作用電極に印可して、本発明を実施することができる。アノード電位及びカソード電位は、バイポテンシオスタットを用いて、参照電極(通常、Ag/AgClインク)に対して印可される。該電極構造は、場合により、電流を制御するための対向電極を含んでいてもよい。バイポテンシオスタットを用いて、第一カソード電位を第一作用電極に印可し、第一アノード電位を第二作用電極に印可する(ここで、第一のカソード電位及びアノード電位は、第一の酸化還元可逆的コンジュゲートの拡散リサイクリングに起因してサンプルを通る電流フローが確立されるのに必要なそれぞれの電位に相当する)。場合により、一方の作用電極の電位を第一の拡散性化学種に依存するアノード電位に設定することも可能であり、電流フローは、もう一方の作用電極の電位が所定の拡散性化学種に依存するカソード電位に相当する電位により掃引される時に測定される(又は、その逆)。
【0038】
それぞれの可逆的酸化還元化学種に対する適切なカソード電位及びアノード電位は、サイクリックボルタンメトリー(CV)などの実験的測定により容易に決定することができる。この技術を用いて、酸化還元電位、及び、電気化学的メディエーターと標識の可逆性を決定した。さらに、リサイクリングCVを用いて、IDA電極が既知濃度の酸化還元可逆的コンジュゲートをリサイクルする能力も測定し、効果的な増幅を決定した。第一作用電極電位を酸化電位又は還元電位のいずれかに固定し、次いで、酸化と還元の間で第二作用電極をスキャンすることにより、リサイクリングCVを実施する。CV及びリサイクリングCVの両方とも、CH Instruments(Austin, Texas)製のCHI 832A電気化学検出器を用いて実施した。
【0039】
好ましい電気化学的メディエーターは、以下の1つ以上を包含する幾つかの特性を有するように選択された酸化還元可逆的コンジュゲートである:低い酸化還元電位、速いメディエーション速度、電極表面における速い電子伝達速度、アナライトコンジュゲーションの容易さ、安定性、溶解性、毒性、及び、特異的結合相手(抗体)と対を成したときの酸化還元リサイクリングの防止。米国特許第6,352,824号で論じられているビピリジルオスミウム錯体コンジュゲート及び米国特許第6,262,264号で論じられているイミダゾール-オスミウム錯体コンジュゲートは、いずれも、適切な特性を有するメディエーターの例である。上記特許に記載されているメディエーターは、概して、所望される特性を満足しており、アッセイを開発するためのメディエーターの選択における原点と見なすことができる。メディエーターのコンジュゲートを調製して、アンフェタミン、テオフィリン、コカイン、PCP、モルヒネ、THC及びメトトレキサートなどの関心のあるさまざまなアナライトについてのアッセイとして評価した。
【0040】
以前のクラスの電気化学コンジュゲート又は標識は、所望されるアッセイの殆どにおいて良好に機能したが、特定の電気化学コンジュゲートは良好に機能しない。その例として、以下のオスミウムヒスタミン結合薬物コンジュゲート、オスミウムTHC-2(化合物17)、オスミウムTHC-1(化合物19)及びオスミウムメトトレキサート(化合物21)は、全て、望ましい電気化学特性の多くを満たすが、いずれも、溶解度と抗体認識に関して欠点を有する。オスミウムメトトレキサートコンジュゲートは、水性PBSTマトリックスには溶解せず、DMFを添加することが必要であった。オスミウムメトトレキサートコンジュゲートを溶解させるために、30:70のDMF:PBSTを使用した。アッセイにおけるこれらの特定の困難性を克服するために、さらなるコンジュゲート構造を提案し、合成した。より長い長さを有し、よりフレキシブルで、より高い親水性を示すリンカー(本明細書では、PEG-リンカーと称する)を、Nova Biochemから、O-(N-Boc-2-アミノエチル)-O-(N-ジグリコリル)-2-アミノエチルヘキサエチレングリコール(化合物33)として購入した。オスミウム-PEG-アミン誘導体の合成は、化合物36として示してあり、図30及び図31の合成スキームを用いて誘導した。次いで、この化合物を用いて、それぞれ図32及び図33の合成スキームに示されているように、THC(化合物37)とメトトレキサート(化合物38)についての電気化学的標識を調製した。THCとメトトレキサートは疎水性を示し、また、開発されている別のアッセイに比較して必要とされる検出限界が低いこと及び利用可能な抗体が少ないことから、それらのアッセイにはある程度困難性がともなうと予想された。
【0041】
検出感度を適度に改善するために、親水性PEGリンカーに加えて、有用な第二のコンジュゲートタイプを調製した。複合酸化還元中心を有するオスミウム錯体が提案された。1つのアナライト結合部位当たり2つ及び4つのオスミウム酸化還元中心に対して、合成スキームを作成した。これらの新規なコンジュゲートでは、コンジュゲート分子量が増大しているので、拡散係数「D」は小さくなることが期待された。しかしながら、利用可能な酸化還元部位が2倍又は4倍に増えたことにより、リサイクリングが増加する可能性があった。
【0042】
THC-1及びメトトレキサートに対するオスミウム-PEG-リンカーにより、通常のオスミウム疎水性抗原と比較して、溶解性が改善された。両方とも、以前には使用していた有機溶媒を使用することなく、PBSTマトリックス中に溶解させることができた。このリンカーは長くフレキシブルであり、親水性であることから、該リンカーにより抗体に対するアクセシビリティーも改善され得るということも示唆される。このオスミウム-PEG-コンジュゲート及びジオスミウムコンジュゲートは、CV及びコンジュゲート用量反応曲線などの電気化学的キャラクタリゼーションにおいて、かなり良好に機能した。これらの新規メディエーターコンジュゲートは、多くのアッセイで良好に機能し、疎水性抗原(例えば、テトラヒドロカンナビノール(tetrahydrocannibinol)抗原及びメトトレキサート抗原など)のメディエーターコンジュゲートなどの当技術分野で使用されているメディエーターにともなうある種のアッセイの困難性を克服するための特定の改善を提供する。
【0043】
水性溶液中では、第一作用電極及び第二作用電極の電位の利用可能な範囲を、Ag/AgCl参照電極に対して約600mVから-600mVとなるように選択して、水の酸化又は還元を回避することができる。尿酸及びアスコルビン酸などのような存在し得る酸化可能な妨害物による妨害を回避するためには、低い酸化還元電位を有する電気化学的標識が好ましい。米国特許第6,294,062号では、異なる酸化還元電位を有する複数のメディエーターを一緒に混合したものは、可逆的酸化還元化学種を酸化還元電位が少なくとも50mV異なるように選択した場合、IDA電極上で互いに独立に測定可能であるということが論じられている。さらに、異なる可逆的酸化還元化学種を異なった測定チャンバーの中に別々に分離して入れた場合、複数のアナライトを類似した又は異なった電位のメディエーターを用いて測定することが可能である。IDA電極上における未結合メディエーターの酸化還元リサイクリングにともなう定常電流の測定は、アナライトの濃度に比例する。該電流は、WE1若しくはWE2において、又は、その両方において測定可能である。
【0044】
本発明を用いて、単一サンプル中の2種以上のアナライトを同時に測定することができる。好ましい一実施形態では、キットは、一連の電極セット又は電極構造を含んでおり、ここで、電極の各セットは、別々のサンプルチャンバー内に配置されている。該液体サンプルを、その別個のサンプルチャンバーに供給する。例えば、試験センサーには、第一の電極セットについて上記で記載したように構成された第二の電極セットを支持する第二のサンプルチャンバーを少なくとも含ませることが可能である。さらに、別々のサンプルチャンバーは、異なった酸化還元可逆的コンジュゲートを含むことが可能である。
【0045】
該方法は、サンプル中の所望のアナライトの濃度に相関している未結合電気化学的標識の濃度を測定することによりサンプル中のアナライトを検出することを含んでいる。
【0046】
表1は、血中グルコースのモニタリングと比較した、アナライトの可能な検出範囲を示している。従って、該診断法は、高い感度を有しているべきである。アフィニティーに基づくアッセイ技術は、これらのアナライトを検出するための感度を提供することができる。
【表1】
【0047】
最近、アナライトと「特異的結合相手」の間の複合体から得られた情報に頼る電気化学的アフィニティーバイオセンサー技術において、重大な進歩があった。そのような技術は、典型的には、標的アナライトの標識化リガンド類似体を使用するが、その際、リガンド類似体は、該アナライトと競合して特異的結合相手に結合するように選択する。標識化リガンド類似体が該特異的結合相手に結合する程度を測定することが可能であり、それを、サンプル中の該アナライトの存在及び/又は濃度に相関させることが可能である。アナライトとその特異的結合相手の例を下記表2に挙げる。
【表2】
【0048】
本発明の一形態では、電気化学的標識の結合基は、抗原決定基、エピトープ又はリガンド類似体を、典型的には1以上のリンカー基を介して含んでいて、上記で記載した「酸化還元可逆的コンジュゲート」を形成している。用語「リガンド類似体」は、本発明で使用される場合、その意味の中に、測定されるアナライトと同じ特異的結合相手と複合体を形成することができる化学種を包含しており、アナライト自体を含むことも可能である。本発明の方法を実施するのに使用される拡散に基づく電気化学的検出技術を考慮して、低分子量化学種が最も望ましい。従って、該酸化還元可逆的コンジュゲートは、約50,000ダルトン未満の分子量を有するのが好ましく、約10,000ダルトン未満の分子量を有するのがさらに好ましい。最も好ましくは、該酸化還元可逆的コンジュゲートの分子量は、約500ダルトン〜約5,000ダルトンである。
【0049】
本発明で使用するためのリガンド類似体の例としては、限定するものではないが、以下のものを挙げることができる:ペプチドホルモン(例えば、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、インスリン及びプロラクチンなど)若しくは非ペプチドホルモン(例えば、ステロイドホルモン、例えば、コルチゾール、エストラジオール、プロゲステロン及びテストステロンなど)若しくは甲状腺ホルモン(例えば、チロキシン(T4)及びトリヨードチロニンなど)、タンパク質(例えば、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、癌胎児性抗原(CEA)及びα-フェトプロテイン(AFP)など)、薬物(治療用途用薬物、乱用薬物及び/又は規制薬物、例えば、アンフェタミン、糖類、毒物又はビタミン類など)、及び、生物戦用因子。本発明によるリガンド類似体として含めることができるリガンド類似体の特定の例としては、限定するものではないが、以下のものを挙げることできる:コカイン、アンフェタミン、モルヒネ、バルビツール薬、テオフィリン、フェンシクリジン(phenylcyclidine)(PCP)、テトラヒドロカンナビノール(THC)、メトトレキサート、ベンゾジアゼピン、フェニトイン、カルバマゼピン、フェノバルビタール、ゲンタマイシン、アミカシン、バンコマイシン、トブラマイシン、プロカインアミド、リドカイン、キニジン、バルプロ酸、ジゴキシン、ジギトキシン、三環系抗鬱薬(TCA)、例えば:ブプレノルフィン、アミトリプチリン(amitrptyline)、デシプラミン、イミプラミン、ノルトリプチリン、ドキセピン、免疫抑制薬。本発明での使用に含めることが可能な戦争又は生物戦用因子としては、限定するものではないが、以下のものを挙げることができる:ラシン(racin)、炭疽菌(B. anthracis.)、天然痘、ボトックス及びボツリヌス毒素。
【0050】
図1は、サンプル流体中の1種以上のアナライトを検出及び/又は分析するためのシステム又は診断キット(10)の概略図である。キット(10)には、試験センサー(12)、測定モジュール(14)及び携帯用即ちポータブル制御装置(16)が含まれている。
【0051】
図示されている実施形態では、試験センサー(12)は電極構造(22)を含んでいる。該電極構造内の電極は、互いに平行であることが可能であり、また、該電極は、検出チャンバーの同一の壁面に支持されていることが可能であるか、又は、互いに対向していて、1つの電極が1つの壁面に支持されていて、もう1つの電極が検出チャンバーの隣接する壁面若しくは対向する壁面に支持されていることが可能である。好ましい実施形態では、該電極セットは、例えばインターデジテイテッドアレイ(IDA)のような、マルチアレイ電極を含んでいる。IDA内の各電極は、複数の「フィンガー」を含んでいて、これは、もう一方の電極の「フィンガー」とインターデジテイトする。IDA内の個々の電極は、互いに平行であり得るか、又は、互いに対向であり得る。別の実施形態では、該マルチアレイ電極は垂直インテーデジテイテッドアレイ電極として製作することが可能であり、これについては、下記でさらに充分に記述する。
【0052】
好ましい実施形態では、試験センサー(12)を用いて、サンプル溶液中の1種以上のアナライトの逐次分析が可能である。好ましくは、試験センサー(12)上に供給される試薬は乾燥形態で提供され、その際、試験サンプル中の流体が分析を実施するための媒体となる。 試験センサー(12)は、可撓性ストリップ又は剛性ストリップのいずれかとして提供することができるが、これについては、下記でさらに充分に論じる。剛性試験センサーは、例えば、シリコンウェハ上の集積回路技術を用いて製作可能である。
【0053】
試験センサー(12)は、第一端部(26)と、その反対側の第二端部(28)を含んでいる。サンプルポート(30)が試験センサー(12)上に、第一端部(26)に隣接して配置されている。代替的な実施形態では、サンプルポート(30)は、試験センサー(12)の側面に位置させることも可能である。
【0054】
第二端部(28)は、複数の接触パッドを含んでいる。さらに、第二端部(28)は、第二端部(28)を測定モジュール(14)に連結又は挿入するのに試験センサー(12)が必ず唯一の向きをとるようにするために、突起、隆起又はノッチ(34)などのような物理的な「鍵」を含むことが可能である。別の実施形態では、第二端部(28)は、測定モジュール(14)への該試験センサーの正確な向き及び/又は挿入を確実なものとするために、1以上の電気的接続を含むことが可能である。さらに、1以上の電気的接続及び接触を用いて、品質管理分析用の製造ロット及び/若しくは試験センサーの型の識別、どのアナライトを分析するために試験センサーが構成されているか、並びに/又は、アナライトの予想される濃度範囲により、特定の試験センサーを識別することが可能である。
【0055】
測定モジュール(14)は、第二端部(28)を受けるための連結部又はレセプタクル(36)を含んでいる。レセプタクル(36)は、物理的な鍵が存在している場合には、対応する「錠」を含んでおり、また、電気若しくは磁気コネクタ又は接点と結合するための対応する数の電気的接触を含んでいて、試験センサー(12)に接触する。
【0056】
一実施形態では、測定モジュール(14)は少なくとも1つのバイポテンシオスタットを含んでいる。該バイポテンシオスタットは、試験センサー(12)上の2つの異なった電極セットの電圧を同時に印加及び制御するように構成することが可能である。別の実施形態では、測定モジュール(14)は、2つ以上のバイポテンシオスタットを含んでおり、各バイポテンシオスタットが2つの異なった電極セットの電圧を印可及び制御するように構成することが可能である。従って、該測定モジュールは、サンプルと接触している電極構造上の電位を制御するために、1つ以上のプログラム可能なバイポテンシオスタットを含んでいることが可能である。さらに別の実施形態では、該バイポテンシオスタットは、下記で記述するデスクトップ又は携帯用計測器(16)の中に含ませることも可能である。
【0057】
さらに、測定モジュール(14)は、被検サンプル中の選択された1種以上のアナライトの1以上の分析及び同定を実施するための命令を提供するハードウェア、ソフトウェア又はファームウェアを含んでいることが可能である。
【0058】
測定モジュール(14)は、さらにまた、測定モジュール(14)をポータブル制御装置(16)に機能し得るように連結するためのコネクター(38)も含んでいる。図示されている実施形態では、測定モジュール(14)はコネクター(38)を含んでおり、これは、ポータブル制御装置(16)上のレセプタクル(40)の内部に受容されるように構成されている。
【0059】
ポータブル制御装置(16)は、多種多様な携帯用電子デバイスの中に提供することが可能である。好ましい一実施形態では、ポータブル制御装置(16)は、種々の携帯情報端末(PDA)の内の1種として提供される。携帯情報端末(PDA)は市販されている。別の実施形態では、ポータブル制御装置(16)は、ポータブル(好ましくは、専用の)コンピューター又はCPUとして提供することが可能である。ポータブル制御装置(16)は、視覚的出力面(46)を含んでおり、また、(含むことは必須ではないが)1つ以上の入力装置(44)(ボタン、スイッチなど)を含んでいることが可能である。さらに、市販されている種々のPDAでは一般的であるように、データ入力/出力面(46)には、スタイラス(48)で入力することもできる。
【0060】
測定モジュール(14)が機能し得るようにポータブル制御装置(16)に連結されている場合、使用に際しては、測定モジュール(14)に常駐しているソフトウェアプログラムを自動的にポータブル制御装置(16)にアップロードさせることが可能である。アップロードされたプログラムはポータブル制御装置(16)上で起動して、特定の情報を入力するように使用者に働きかけること及び/又は指定された試験を実行するように使用者に指示を与えることを始める。さらに、該ソフトウェアは、定常電流に関する値の測定、それらの値の保存、アナライト濃度の計算、データ管理、品質管理、校正、試験センサーの識別(製造ロット、アナライトの濃度範囲、及び/又は、アナライトの種類)、及び、集中化実験室情報システムへの接続についての1つ以上の命令を含んでいることが可能であるか、又は、それらを実施する能力を有していることが可能である。
【0061】
一実施形態では、制御装置(16)は、日付と時間が表示されている薬物モニタリングシステムの画面から開始する。次の画面は、使用者に対してオペレーターの身分証明を入力するように指示する。従って、必要に応じて、適切な訓練を受けた特定の使用者のみがアクセスしてアッセイを実施できるように制御装置(16)をセットアップすることが可能である。オペレーターの身分証明は、数字又は英数字コードとして入力することができる。次の指令、即ち、次の画面は、メインメニュー画面であることが可能であり、このメインメニュー画面により、例えば、特定の薬物試験、対照試験又は結果の検討などを選択することができる。「薬物試験」を選択すると、使用者に対して患者の身分証明又は名前を入力するように指示が与えられる。次いで、次の画面で、使用者は、適切な試験又は条件を選択することができる。さらに、制御装置(16)(又は、測定モジュール(14))は、患者と一緒に使用されるか若しくは使用されることになっている特定の試験センサー又は選択された試験若しくは試験条件で使用されるか若しくは使用されることになっている特定の試験センサーを確認及び識別するための認識ソフトウェア又は認識ハードウェアを含んでいることが可能である。特定の試験を選択した後、使用者は、1つ又は複数の試験センサーを測定モジュール(14)に挿入するように指示される。選択された試験及び/又は挿入された試験センサーが適合しないか又は認識されない場合は、制御装置(16)は、試験をブロックすることができる。試験センサーが適合したか又は認識された場合、制御装置は、サンプルを試験センサーに供給する状態になっている。サンプルが適用されると試験が開始される。制御装置は、試験が完了したときに使用者に信号で知らせることが可能であり、また、アッセイ期間の最後に結果をレポートすることができる。好ましい実施形態では、制御装置は、アッセイに対して所望される要件に応じて、定量的な値又は定性的な値をレポートする能力を有する。結果は該機器に保存され、レポートは、該機器のIRポート41を介して、IRシグナルを受信する機能を備えたプリンターに直接プリントアウトすることが可能である。データは、IRポート、ハードウェア連結を介して、及び/又は、クレードル内に配置された制御装置の手動式「ホットシンク」を用いてダウンロードすることも可能である。
【0062】
図2は、本発明で使用するための試験センサー(50)の一実施形態の斜視図である。試験センサー(50)は、単一のサンプル流体中の複数の異なったアナライトを分析するように例示されている。試験センサー(50)は、単一の投与ポート又はサンプルポート(51)と、複数の試薬チャンバー(53)へと通じる複数のチャンネル(52)を含んでいる。種々の試薬、バッファー及び標識化リガンド類似体などは、それぞれの異なった試薬チャンバー(53a)、(53b)、(53c)などの中に配置される。それぞれが異なった試薬又は試薬のセットを含んでいる2つ以上の異なった試薬チャンバーを異なったアッセイ法(例えば、逐次結合法又は置換結合法など)に使用可能であることは理解されるであろう。チャンネル(54)は、試薬チャンバー(53)から測定域(55)に通じている。かさねて、それぞれのチャンネルがそれぞれ別個の試薬チャンバーから異なった検出チャンバーへと通じている。
【0063】
図示されている実施形態では、可溶性試薬、バッファー及び/又は標識化リガンド類似体は乾燥されているが、基材又はマトリックス上に固定はされていない。典型的には毛管作用により、流体サンプルの一部をサンプルポート(51)の中に引き入れる。サンプル流体は、チャンネル(52)を通ってそれぞれの試薬チャンバーまで進んでいき、そこで、サンプル中のアナライトは、結合相手、直接結合分析における標識化結合相手に結合するか、又は、逆に、該アナライトは、アナライト、その誘導体若しくは標識化リガンド類似体から結合した相手を排除することができる。反応生成物を含んでいるサンプル流体は、試薬チャンバーから検出チャンバーまで進んでいき、そこで、結果として生じた標識化リガンド類似体コンジュゲートを電気化学的に検出することができる。
【0064】
別の実施形態では、1種以上の試薬、バッファー及び標識化リガンドを、試薬チャンバー内で固定することができるか、又は、試験センサー上の流体回路の別の部位で固定することができる(例えば、検出チャンバー内で固定することができる)。
【0065】
図3は、試験センサー(50)と同様に構成された試験センサー(60)の代替的な実施形態の斜視図である。従って、類似した構造に対しては、同じ参照番号を使用している。試験センサー(60)は、別々の投与ポート(61a)、(61b)、(61c)・・・を含んでいることでセンサー(50)とは異なっており、これらの投与ポートは、別個の試薬チャンバー(63a)、(63b)、(63c)のそれぞれに対するものである。この実施形態では、異なったサンプルを異なったポート(61a)、(61b)、(61c)・・・に適用することが可能であり、また、異なったサンプルのそれぞれは、同じ試薬と同じ条件を用いて分析することが可能である。あるいは、同一のバルクサンプルを異なったポート(61a)、(61b)、(61c)・・・に導入することが可能であり、異なった試薬チャンバー(63a)、(63b)及び(63c)には、該バルクサンプルについての異なった分析を実施するための異なった試薬を含ませることができる。
【0066】
図4は、本発明で使用するための試験センサー(70)のさらに別の実施形態の分解図であり;図5は、試験センサー(70)の斜視図である。試験センサー(70)は、試験センサー(50)及び(60)と同様に、複数の試薬チャンバー及び電極構造を含んでいる。試験センサー(70)は、互いの上に積層された複数の支持体ストリップ(72)、(74)、(76)、(78)及び(80)を含んでいる。図示されている実施形態では、各支持体は、サンプルポート、反応チャンバー、測定域及び電極構造を含んでいる。一形態では、支持体ストリップ(72)、(74)、(76)、(78)及び(80)の各々は、それぞれ、サンプルポート(82)、(84)、(86)、(88)及び(90)を含んでいて、それにより、サンプルを単一のサンプルポート(例えば、ポート(82))に導入することが可能となる。導入されたサンプルは、流れていって、試験センサー(70)の各アッセイに投薬される。サンプルポートは別にして、それぞれの支持体ストリップ(72)、(74)、(76)、(78)及び(80)は、サンプルと試薬を通さない層により、隣接する試験センサーから分離されている。さらに、センサーのそれぞれの反応チャンバーには、同一の試薬を含ませることができるか、又は、異なった試薬を含ませることができる。
【0067】
使用に際しては、サンプルを単一のポート(例えば、ポート(82))に導入し、導入されたサンプルは、残りのサンプルポートまで流れていく。そのサンプルは、次いで、反応チャンバーまで流れた後、測定域まで流れていき、そこで、結果として生じた化学種に応答させる。試験センサー(70)を、垂直方向に間隔を置いて配置された電極パッドを有する積層型試験センサーを収容するように構成された計測器に挿入することにより、試験結果の視覚的表示を提供することができる。
【0068】
図6は、試験センサー(102)及び計測器(104)を含んでいる診断キット(100)の一実施形態を示している。試験センサー(102)を計測器に挿入した後、「浸漬線(dip line)」(103)までサンプル中に浸漬する。試験センサー(102)は、上記で記述した試験センサーのいずれであることも可能である。
【0069】
図7は、単一のサンプル(例えば、ランセットで傷を付けた指からの血液)を投与することが可能なマルチ-アナライト試験用に構成された診断キット(110)の別の実施形態を示している。単一のサンプルを、多くの種類の異なったアナライトの存在及び/又は量について分析することができる。
【0070】
図8は、ピペットで投与することが可能なシングルアッセイ用に構成された、試験センサー(122)と計測器(124)を有する診断キット(120)を示している。
【0071】
図9は、マルチ-アナライト試験用に構成された、試験センサー(132)と計測器(134)を含んでいる診断キット(130)を示している。試験センサー(132)は、サンプル収集チャンバー(136)の壁面に固定して置かれている。コネクタ(133)で、試験センサー(132)の接点まで電気的に接続する。図示されている実施形態では、試験センサー(132)はカップの蓋(138)に付いている。この実施形態は、サンプルの収集を可能にするので、特に有利である。次いで、収集チャンバーを密閉し、必要に応じて、貯蔵又は保存する。さらに、コネクタ(133)の連結部がサンプル適用ポートと収集チャンバーの間の密閉を開放している。サンプルは、収集直後に試験することが可能であるか、又は、しばらく経ってから試験することが可能である。別の実施形態では、試験センサーは、収集チャンバー(136)の別の壁面内又は壁面上に置くことができる。別の実施形態では、試験センサー(132)は、取り外し可能なように収集チャンバー(136)に取り付ける。
【0072】
図10は、定常電流の条件を図示している本発明の微小電極アレイ(160)の部分断面図である。この部分微小電極アレイ(160)は、2つのカソード又は還元電極(161)及び(163)、並びにアノード又は酸化電極(162)を含んでいる。メディエーターMは、二者択一的にカソード電極(161)又は(163)で還元され、アノード電極(162)で酸化される。参照線(166)で示されているカソード電極(161)とアノード電極(162)の間の間隙は、定常電流を維持するように選択することが可能であり、従って、以下でさらに充分に論じられているように、シグナル増幅が可能となる。上記で述べたように、該電極構造は、参照電極と、所定の電位を作用電極に印可したときにサンプル中の酸化還元可逆的コンジュゲートの拡散リサイクリングが可能となる寸法を有する少なくとも第一作用電極及び第二作用電極を含んでいる。フィンガーの幅Wと間隙Wgの寸法を小さくすると酸化還元リサイクリングが増大するが、効果的な電流増幅にとっては、電極対の長さと数を大きくすることも好ましい。参照線(166)で示されている間隙は、関心のあるアナライトとサンプル中のその濃度又は予測される濃度を考慮して、望ましいように選択することができる。典型的には、隣接する電極間の間隙は、約25μm未満となるように、好ましくは、約10μm未満となるように、さらに好ましくは、約2μm未満となるように選択される。極めて低い感度が必要な場合には、サブミクロンの間隙が望ましい。
【0073】
図11は、インターデジテイテッドアレイ(IDA)(170)の一実施形態の平面図である。IDA(170)は、本発明によりバイポテンシオスタットを用いて酸化還元リサイクリングを測定するのに適した平面電極構造として示されている。IDA(170)は、2つの作用電極(172)及び(174)(図示されている)を含んでおり、これらが6対の電極フィンガー(176)を規定している。さらにまた、IDA(170)には、参照電極(178)及び対向電極(180)も含まれている。図10の(166)で示されている隣接する2つのフィンガー間の間隙及びフィンガーの総数は、IDA(170)について特定のアナライトを適用するのに望ましいように選択することができる。好ましい実施形態では、IDA(170)に示されているよりも多くの電極対を有するIDAを作製するのが望ましい。例えば、適切な増幅を達成するためには、少なくとも25対の電極を有するのが最も望ましく、さらに好ましくは少なくとも50対の電極を有するか、又は、750電極対、さらには、1000対を超える電極を有する。増幅は、該幅と間隙が小さくなるにつれて増大し、また、フィンガー対の長さと数が大きくなるにつれて増大する。IDA(170)内の電極構造のそれぞれは、電極(172)と電極(174)が所定のアノード(酸化)電位とカソード(還元)電位で平衡状態にあるときにサンプル中の拡散性酸化還元可逆的メディエーターの拡散リサイクリングが可能となるような寸法を有する。
【0074】
微小電極アレイはさまざまな技術を用いて製造することが可能であり、そのような技術には、限定するものではないが、WO03/044511記述されている、フォトリソグラフィー法、電子ビームリソグラフィー法、イオンビームミリング法、ナノインプリントリソグラフィー法及びレーザアブレーション法などがある。前記特許は、参照により組み入れる。インターデジテイテッド電極アレイ(IDA)は、さまざまな絶縁基板(非限定的には、ガラス、シリコン、Upilex、Kapton、Kaladex、Melinex、又は別の高分子物質など)の上にデポジットさせることができる。
【0075】
バイオセンサーシステム用の計測器の構造と設計における改良については、米国特許第4,999,632号;米国特許第5,243,516号;米国特許第5,366,609号;米国特許第5,120,420号;米国特許第5,141,868号;米国特許第5,192,415号;米国特許第5,264,103号;米国特許第5,352,351号;米国特許第5,405,511号;米国特許第5,437,999号;米国特許第5,438,271号;及び、米国特許第5,575,895号に記載されている。これら特許の開示内容は、参照により本明細書に組み入れる。
【0076】
電極対の寸法(又は、表面積)及び数は、とりわけ、アナライト(類)、それらの濃度、及びサンプル媒体に応じて選択することができる。さらに、本発明は、所与の一組の条件に対して電極フィンガー対の寸法及び/又は数を選択するための実験用構成物も提供する。該構成物については、以下で充分に記載する。
【0077】
さらに別の実施形態では、アレイ(170)の構成要素は、マクロ電極アレイを提供するような寸法とすることができる。マクロアレイ用の電極の寸法と電極間の間隙は、大きく変えることが可能であるが、試験センサーの寸法と利用可能なサンプルの容積によってのみ制限され得る。
【0078】
垂直IDA電極
図12は、本発明による垂直インターデジテイテッドアレイ(VIDA)(190)の側面図である。図13は、アレイ(190)の一実施形態の平面図である。アレイ(190)は、基板又は絶縁基板(192)を含んでおり、その上に第一の導電性材料を導電層(194)としてデポジットさせて、第一電極(195)とする。導電層(194)と基板(192)の上に誘電性絶縁層(196)デポジットさせる。第二の導電性材料(193)を誘電層(196)の上にデポジットさせる。次いで、第二の誘電層(図示せず)をデポジットさせ、第二の導電性材料(193)上にパターニングして、複数の非導電性フィンガー(図示せず)を規定する。露出した第二の導電性材料を除去した後、露出した誘電層を除去する。これにより、非導電性フィンガー(196)の上にデポジットさせ、複数の電極フィンガー(198)を規定するようにパターニングされた電極フィンガー(193)の第二のセットが残る。
【0079】
VIDAの電極の間隙は、導電層の間に挟まれた誘電絶縁層(196)の厚さによって規定される。従って、サブミクロンの分解能を有さない標準的な技術を用いて、ミクロン〜サブミクロンの間隙を作ることができる。これを達成することができるのは、VIDAフィンガーの間隙又は形状が、パターニング技術の限界には依存せずに、むしろ、適用可能な誘電絶縁体の薄さ(又は、厚さ)の関数であるからである。
【0080】
一実施形態では、該間隙は、約1μm未満となるように選択する。別の実施形態では、望ましい間隙の幅は、1μm〜3μMであるように選択する。
【0081】
該垂直電極アレイを覆うように側壁(202)及び(204)並びに上面又は頂部(206)を作製して、検出チャンバー(208)を規定することができる。検出チャンバー(208)の総容積は、所望されるように選択することが可能であるが、試験センサーの所望寸法とストリップ上に形成される検出チャンバーの数によってのみ制限される。
【0082】
VIDA(190)は、上記IDAにより提供される有利点に加えて、さらに、単位表面積当たりの電極対の密度が高いなどの有利点を提供する。従って、それぞれの電極が平面IDAと同じ表面積を有する同じ数の電極対を含む、より小さなチャンバーを作ることが可能である。さらに、試験センサーは、IDAのみを含んでいる試験センサーと比較して、より多くのVIDAを含むことが可能である(ここで、2つの試験センサーの表面積は同じであり、チャンバーは、それぞれ、同じ数の同じ寸法の電極対を含んでいる)。このことにより、試験センサーに重要な改良を加えることが可能であり、そのような試験センサーは、多くの異なったアナライトを同時に検出/分析するように構成される。
【0083】
VIDA電極を示している図12において、誘電層(196)は、2つの作用電極の間の領域に穴が存在してない。典型的なVIDAの設計は、剛性基板又は可撓性基板上に金属-誘電体-金属の構成を含んでいる。誘電層のインテグリティは、装置の電気化学的機能にとって重要である。内部誘電層が絶縁破壊されると、電気がショートし、装置が機能しなくなる。スパッタリング及びスピンコート誘電体などの種々のプロセスにより絶縁体をデポジットさせることができる。ドライエッチング技術を用いて、所望の領域の絶縁層を第一導電層に至るまで除去することができる。VIDA電極の製造方法は上記方法に限定されない。上記方法は、例としてのみ挙げてある。
【0084】
セル定数
溶液の抵抗率は、系内に溶解している全てのイオンの濃度と移動度を合わせたもので決定される溶液に固有の特性である。サンプルのOhm×cmで表されるこの抵抗率(ρ)は、該サンプル(ここで、サンプルは、小数の例を挙げれば、電気化学的標識、バッファー、塩類及び抗体を含んでいる)を混合するサンプルマトリックス及び試薬の影響を受ける。
【0085】
セル内の2つの電極間に電界を印可した場合、電極の界面の二重層が、印加電界に対向して最終的にはそれを相殺するのに充分なほど充電するまでイオンが移動する。二重層の充電は、該溶液抵抗と直列のコンデンサのように作用する。測定された溶液抵抗は、接触抵抗と電極材料に固有の抵抗に起因する一定の付加的な直列抵抗を有する。電気化学セル内で測定された高周波抵抗は、該溶液の固有抵抗率ρに比例し、その比例定数は、「セル定数」と称される。高周波は、電気化学セルのリアクタンス特性(容量特性)を安全に無視し得る周波数範囲として定義し得る。
【0086】
セル定数は、溶液の抵抗率の変化に対するセルの感度において重要な因子であり、電極の構成により大きく変化する。本発明にとって興味深い形状は、インターデジテイテッドアレイ(IDA)である。ここで、同一平面上にある多数のアノードとカソードの対は、繰り返し交互にインターレースされているか(interlaced)又はインテーデジテイトされていて(interdigitated)、より大きなインターデジテイテッドアレイ電極を形成している。インターデジテイテッドアレイに関し、高周波抵抗は、下記方程式1により溶液の抵抗率に関連づけられる。
【数1】
【0087】
従って、IDAについてのセル定数は、方程式2によって定義され、ここで、mは、IDAのマイクロバンド電極対の数であり、bは、該バンドの長さ(cm)であり、Gは、電極形状フィンガーの幅(W)と間隙(Wg)の無次元関数である。Gは、方程式3で定義される式のように近似することができる。セル定数は、電極の構成の有用なパラメータであり、これは、計算することも測定することも可能である。IDA電気化学セルのセル定数は、その構造、特に電極の形状に依存するが、場合によっては、該セルの上部境界(毛管高さ)も、役割を果たし得る。IDAについてのセル定数は、該方程式とAokiらの研究により評価されるが、その評価は、単に、IDA電極対の数とそれらの寸法の関数である。従って、セル定数は、電極の種々の形状を比較するのに利用可能な単一の値である。同じセル定数を有する電極は、本発明の電極の適用において、類似した特性を示す。
【数2】
【0088】
Gは、IDAに関しては、Aokiによる近似方程式3により評価し得る。
【数3】
【0089】
ここで、Wgは、隣接する作用対向電極バンド間の間隙の幅であり、Wは、各(電極フィンガー)マイクロバンドの幅である。このモデル近似により、アレイ端部(つまり、該アレイ及び電解質を含んでいる電気化学セル)の効果はそれほど大きくはなく、セルの境界において電界の力線を歪ませることはないことが推定される(即ち、IDAは、第一のフィンガーと最後のフィンガーについて隣接フィンガーが存在しないことにより電流が有意に変えられるのを防止するために、充分な数のフィンガーを有していなければならない)。さらにまた、このモデルにより、マイクロバンドアノード電極フィンガーとマイクロバンドカソード電極フィンガーが、同じ幅を有していると考えられる。Wg/(W+Wg)が0.1から0.9まで変動するのにともない、Gは、約2.5から約0.5まで変動する。WとWgが等しい場合、Wg/(W+Wg)は0.5であり、Gは約1である。
【0090】
Koichi Aokiらの文献中の多くの論文は、インターデジテイテッドアレイ電極における反応の理解、モデル化及び予測が優れているように思われた。以下の刊行物は、この分野において公表された多くの論議及び数学的計算のサンプルである:"Theory of chronoamperometric curves at microbandelectrodes", J. Electroanal. Chem., 225(1987)19-32;"Derivation of an approximate equation for chronoamperometric curves at microband electrodes and its experimental verification", J. Electroanal. Chem 230(1987)61-67;"Quantitative analysis of reversible diffusion-controlled currents of redox soluble species at interdigitated array electrodes under steady-state conditions", J. Electroanal. Chem., 256(1988)269-282;"Time-dependence of diffusion-controlled currents of a soluble redox couple at interdigitated microarray" J. Electroanal. Chem., (1989)11-20;及び、"Approximate models of interdigitated array electrodes for evaluating steady-state currents", J. Electroanal. Chem 284(1990)35-42。
【0091】
方程式4も上記文献により導き出されたものであり、定常状態条件下にあるIDA電極上での酸化還元可溶性メディエーターの可逆的拡散により制御される電流を評価するために使用される。この方程式を用いて、図15のIDA電極とVIDA電極の勾配を予測した。この方程式において、mはIDAのマイクロバンド電極対の数であり、bは該バンドの長さ(cm)であり、nは該酸化還元反応に関与している電子の数であり、Fはファラデー定数[9.65E+04C/当量]であり、cは酸化還元分子のバルク濃度であり、Dは酸化還元分子の拡散係数[オスミウム遊離メディエーターでは、5E-06cm2/sec.]であり、Wはcmで表されるマイクロバンド電極(アノード又はカソード)の幅であり(ここで、Wa=Wc)、Wgはそれぞれアノード電極とカソード電極の間の間隙である。
【数4】
【0092】
定常電流を予測するためのこの方程式とGとセル定数の間にはある関係が存在していることが認められるであろう。定常電流についての式は、|I|=mbnFcDGと書き換えることが可能である。該式を書き換えたことにより、セル定数との以下の関係(下記方程式5)が得られる。これは、定常状態DC電流がIDA電極のセル定数に反比例することを意味している。所与の濃度及び拡散係数に対して、セル定数が小さくなると、それに応じて定常状態DC電流が大きくなる。セル定数が小さくなると、さらに、定常状態DC条件への移行も速くなる。
【数5】
【0093】
予測される電流をインターデジテイテッドのIDA電極の面積(面積=2(W+Wg)mb100)で割ることにより、定常電流についての方程式4を単位面積に対して標準化することができる。方程式6は、図15における標準化された予測勾配を計算するのに使用される方程式を示している。電流は、109を掛けることにより、nAに変換されており、面積は、100を掛けることにより、cm2からmm2に変換されている。
【数6】
【0094】
図15は、調製されたIDAとVIDAのさまざまな実施形態について記載している表3を提供する。各電極に関し、電極の形状について評価する。上記で論じた方程式4及び方程式6を用いて、予測勾配及び標準化された予測勾配に関して特定の電極をモデル化した。さらに、実験値は、CHI Instruments(Austin, Texas)製のCHI 802Aバイポテンシオスタット又はCHI 832Aバイポテンシオスタットのいずれかを用いて得られたアンペロメトリックバイポテンシオスタット用量反応曲線及びリサイクリングCVから得たものを示してある。表4は、これらの電極の4種類についてのセル定数を示しているが、方程式2を使用することにより、図15に示されている各電極のセル定数は、VIDA電極も含めて、計算可能である。 該方程式を用いて予測値と実験値を比較するのに加えて、特定のイムノアッセイについて所望の反応を得る電極を実現するために、方程式2、方程式4及び方程式6を、適切な寸法を有する電極を設計するためのツールとしても使用した。該方程式を設計用のツールとして使用するために、約0.5〜1nAが大量生産バイポテンシオスタット装置についての最低検出感度であろうと推定された。これらの基準を満たす試作品モジュールを設計し、Handsprings Visor PDAと接続するように作製した。図15の表3に挙げてある、フィンガー幅及びフィンガー間隙が2μmで、それぞれが6mmの長さの750のマイクロバンド対を有する平面IDAを設計し、作製することにより、理想的な場合には検出感度を約5nMまで改善させた(1000nM/215nA=4.65nM/nA)。この2μm IDAの設計では、図16に示されているように、10μm、15μm及び21μmの間隙を有する電極と比較して、増幅が有意に改善された。分解能が1nAであり且つ測定された勾配が152nA/μMであると仮定すると、感度は約7nMとなるであろう。
【0095】
図49は、上記IDA電極(750フィンガー, 2μm)を用いて調製したオスミウムビオチンアッセイから得たグラフである。該アッセイは、オスミウムビオチンの濃度に基づいて、約1000nMまでのアナライト測定用に設定した。このアッセイで試験した最低レベルは250nMであったが、これは、容易に識別することができた。感度を1nA分解能に外挿することにより、感度が約20nMのアッセイとなる。
【0096】
図14の三次元プロットは、W及びWgがさまざまである一連の平面IDAについての、標準化電流対電極寸法を示している。図14は、たとえμmの間隔のIDAを用いても、WとWgを小さくすることにより、標準化された電流を有意に改善することが可能であることを示している。
【0097】
図16は、オスミウム遊離メディエーター(ビス(2,2'-ビピリジル)イミダゾールクロロオスミウム(III)ジクロリド)を用いて種々のIDA電極で測定した電流(nA)をプロットしているグラフである。該IDAは本明細書に記載してあるように調製した。該IDAは、それぞれが約21μmの幅(W)と10μm、15μm及び21μmの間隙(Wg)を有する50のフィンガー対を有する電極構造を含んでいた。別の電極構造は、750のフィンガー対(それぞれ、W=Wg=2μm)を有していた。全ての電極のフィンガー長(b)は6mmであった。このプロットは、種々の形状のIDA電極で試験したIDA増幅の大きさを示している。本発明のIDA電極の1つの特徴は、かなり大きな電極面積(36mm2)と多数のフィンガー(750対)を作製可能であること及び電気化学イムノアッセイに使用可能であることである。上記グラフ及び方程式から、W及びWgを小さくすることとフィンガーの数を多くすることは全て、IDAで測定可能な電流を増大させることに寄与し得るということが認められた。さらにまた、図16は、酸化還元リサイクリングが存在しない場合、IDAに関して特に小さな電流が得られたことも示している。
【0098】
「セル定数」は、特定の電極の形状に関して計算することも測定することも両方とも可能な、有用な値である。同じセル定数を有する2つの電極の特徴は、本発明の電極の適用において同様に機能するはずであり、また、さまざまな電極の形状を比較するのに使用可能である。本発明に関して興味深い電極は、表4に示されているように、本発明の均一系電気化学イムノアッセイを実施するのに使用されるセル定数とほぼ等しいか又はそれよりも小さなセル定数を有する電極である。好ましくは、本発明の電極についてのIDAセル定数は、高濃度のアナライト(例えば、テオフィリン)に対して約0.03cm-1未満であり、さらに好ましいのは、セル定数が約0.02cm-1未満の電極構造であり、最も好ましくは、約0.002cm-1未満である。セル定数が約0.0025cm-1未満であるIDA電極では、均一系電気化学イムノアッセイに関して本明細書で論じたオスミウム電気化学的メディエーターコンジュゲートを用いて良好な酸化還元リサイクリング及び増幅が得られる。下記表4には、さまざまな電気化学的測定に関して研究及び報告されている典型的なIDA電極の一部についてのセル定数と一緒に本発明の電極についてのセル定数が記載されている。該表から、本発明にとって好ましい電極が、必ずしも、文献に一般に記載されている電極よりも小さな電極間隙と電極幅を有する必要はないが、文献に一般に記載されている電極のセル定数よりも小さなセル定数を有することは明らかである。殆どの研究者は、より密接したIDA電極の幅と間隙に向かっているが、彼らは、多くの場合、フィンガーの長さも有意に小さくしてきた。従って、電極セルは全体的な寸法がずっと小さなものとなっている。従って、本発明に関して望ましい小さなセル定数は、通常、これまで認識されていない。
【0099】
小さな形状のIDA電極を製造するのに、e-ビームリソグラフィーなどの技術がより一般に使用されるようになってきている。現在のところ、この技術は、高容積で低コストの使い捨てセンサーにはなじみにくい。本発明の好ましい電極は、必要とされるイムノアッセイ感度に基づいて必要とされるシグナル増幅を達成するように設計する。標準的なフォトリソグラフィー技術及びレーザアブレーションなどの高速オープンリール式加工になじみやすい電極は、使い捨てイムノアッセイセンサーにとって最も好ましい。必ずしも電極の形状を最も小さくする必要はないが、セル定数をできる限り小さくする設計は、好ましい電極の設計である。電極の形状が小さいことは、セル定数も同様に小さくなる場合には好ましいが、これは、IDAフィンガーの長さ及び/又は数を調節することにより達成することができる。
【表3】
【0100】
酵素増幅
IDA増幅に代わるものとして、均一系電気化学イムノアッセイを酵素増幅を用いて開発することも可能である。一部の抗原に対しては、調製したメディエーターの酸化還元リサイクリングがコンジュゲートと一緒に適切にはリサイクルしなかったので、酵素増幅が好ましい方法であった。1つの例は、下記オスミウムモルヒネコンジュゲートを用いたものであった。
【化1】
【0101】
コカイン、モルヒネ、THC及びビオチンなどの、酵素アッセイの幾つかの例を開発した。酵素増幅についての前提は、電気化学的メディエーター標識が酵素により還元され、また、電極表面上で酸化されることである。酵素は極めて効果的であることから、この方法は、IDA増幅技術と充分に匹敵し、多くのアッセイに適用可能である。しかしながら、酵素増幅には幾つかの欠点が存在しており、そのような欠点には、妨害物質などのノイズ源を増幅する能力などがある。機器に酵素を添加した場合、酵素の安定性を保証するためには付加的な試薬も必要となる。さらに、抗体に対して酵素のpHを調和させることも必要である。有利な点としては、グルコースセンサーにおいて用いられる電極構造と同様の比較的単純な電極構造などを挙げることができる。
【0102】
アッセイスキーム
本発明のさまざまなアッセイスキームについて、以下に記載する。これらのスキームの全てにおいて、試験センサーの1以上の領域で試薬を乾燥させることが必要である。アッセイが実用的なものであるためには、サンプルを添加したときに試薬が速やかに溶解することが求められる。このような理由により、電気化学的標識、結合相手及び別の補助試薬がサンプルマトリックス中で溶解することが極めて望ましい。このような理由により、疎水性抗原のコンジュゲートでは、多くの場合、オスミウム-PEG-THC-2(化合物37)及びPEG-メトトレキサート(化合物38)などのように、親水性リンカーを使用して試薬の溶解性を改善することが必要である。さらに、サンプル中又はコンジュゲート上の抗原自体の疎水性も、非特異的結合と疎水的相互作用の懸念を有しており、この非特異的結合と疎水的相互作用は、結合に利用可能な抗原が減少させることによりコンジュゲート反応及びアッセイ結果の低減をもたらす可能性がある。疎水性抗原のコンジュゲートは一方の末端が親水性であり且つもう一方の末端が疎水性であることから、それらは、さらにまた、凝集し得るか又はミセルを形成し得る。電気化学を阻害する電極の付着物又は汚染も懸念される。ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを該試薬に添加して使用することにより上記懸念を有するアッセイが著しく改善されることが分かっている。おそらく、疎水性部分がシクロデキストリンのキャビティ内に入り込むのであろう。さらに、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを使用しても結合イベントは阻害されないように見えることも示されている。
【0103】
本発明に基づいて、幾つかのアッセイスキームを使用することができる。該スキームには、均一系イムノアッセイ法と不均一系イムノアッセイ法が含まれている。好ましい方法は、結合したメディエーターコンジュゲートから分離することなく未結合メディエーターコンジュゲートを直接測定することを可能にする均一系競合的イムノアッセイである。従って、そのようなイムノアッセイは、1種類の反応混合物中で実施することが可能である。不均一系イムノアッセイについては詳細には論じないが、不均一系イムノアッセイでは、結合したメディエーターコンジュゲートを遊離標識化物から分離するための分離ステップを用いることが必要である。
【0104】
均一系イムノアッセイは、本発明の「ポイントオブケア」装置又は「インフィールド」装置に、より容易に適合させることができる。2つのタイプの競合結合アッセイを用いた。第一の競合結合アッセイは、メディエーター標識化抗原を予め抗体(又は、別の結合相手)に結合させておく置換アッセイである。次いで、非平衡条件下で抗原を添加して、メディエーター標識化抗原を置換させる。次いで、このアッセイにより未結合メディエーター標識の量を測定して、それをアナライトの濃度に相関させることが可能である。第二の競合結合アッセイは、最初に抗原を過剰量の抗体(又は、別の結合相手)に接触させた後、メディエーター標識化抗原を添加し、この抗原が残存している抗体(又は、別の結合相手)に結合するアッセイである。置換アッセイの場合と同様に、このアッセイにより未結合メディエーター標識の量を測定して、それをアナライトの濃度に相関させることが可能である。
【0105】
電気化学的メディエーター標識化抗原の特異的活性は、サンプル中のアナライトの濃度に従って変わる。生じた電流は、存在しているアナライトの量の関数となる。
【0106】
図17は、逐次的結合を用いる競合的電気化学均一系イムノアッセイ試験センサーの一実施形態を例示している。この図は、異なった試薬と電極構造が配置されている毛管試験センサーを示している。この実施形態では、試薬(抗体及びコンジュゲート)は、測定域の上流に位置する場所の可溶性マトリックス中で乾燥させる。測定域には、さらに、有効電極領域が含まれている。抗原を含有している可能性のあるサンプルを毛管を満たすのに充分な容積でサンプル適用ポートに適用する。サンプルが毛管を満たし、試薬を溶解させると、さまざまな結合イベントが起こる。サンプルと試薬が測定域に達したとき、未結合メディエーターコンジュゲートを測定することができる。この基本的なシステムについていくつかの変形態様を想定することができるが、それらは、本発明の一部として包含される。別の実施形態では、試薬を一緒に混合し、測定域内の有効電極表面又は測定域の別の表面のいずれかで乾燥させる。この構成では、追加のチャンバー又は領域は必要ではない。
【0107】
図示されている均一系電気化学イムノアッセイは、抗原と抗体の間の特異的アフィニティーに基づいている。関心のある抗原(例えば、薬物、ペプチド又はビオチン)を電気活性酸化還元メディエーターで標識して、酸化還元可逆的メディエーター標識化抗原(メディエーターコンジュゲート)を得る。アッセイされるサンプルは、関心のある抗原に対して予想される過剰量の抗体と混合する。抗原がサンプル中に存在している場合、抗原と抗体の間で結合が生じる。結果として得られた、結合した抗原-抗体と過剰量の未結合抗体の混合物を、次いで、酸化還元可逆的メディエーター標識化抗原と合する。未結合の抗体は、酸化還元可逆的コンジュゲートの抗原に結合して、結合複合体を形成する。得られた混合物は、酸化還元可逆的未結合コンジュゲートと結合コンジュゲートを含んでいる。結合コンジュゲートの酸化還元リサイクリングは、大きな分子量の結合相手の結合により阻害される。この実施形態では、関心のある抗原に対する特異的抗体の所定量をサンプルと合し、その後、所定量の酸化還元可逆的コンジュゲートに添加する。未結合酸化還元可逆的標識が電極で酸化還元リサイクリングを受けるように選択された電位を印可することにより、電流が生じる。この電流を測定して、アナライトの濃度と関連させることが可能である。
【0108】
上記例示は、抗原と抗体の間の特異的アフィニティーに基づいている。抗原/抗体の組合せの代わりに、関心のある任意のアナライトとその特異的結合相手を使用することが可能であることは理解されるであろう。
【0109】
代替的な実施形態では、所定量の抗体を酸化還元可逆的コンジュゲートと合して個々の複合体を形成させた後、それらの成分を液体サンプルと合することも可能である。後者の場合、酸化還元可逆的コンジュゲートは、そのそれぞれの抗体から離れて、その対応する抗原によって置き換えられる、それにより、液体サンプル中の抗原の濃度に比例した濃度の酸化還元可逆的コンジュゲートが生じる。
【0110】
試薬、即ち、抗原に対する所定量の抗体と所定量の対応する酸化還元可逆的コンジュゲートは、例えば、所定容積の液体サンプルを受け取る容器内にデポジットさせることができる。液体サンプルを容器に添加し、その後、又は、同時に、液体サンプルを電極構造に接触させる。
【0111】
アッセイに関し、2つの均一系イムノアッセイフォーマットを実施することができる:置き換え、及び、逐次結合。いずれのアッセイにおいても、一連のアッセイの最後に、遊離(未結合)コンジュゲートの量を電気化学的に検出する。インターデジテイテッドアレイ(IDA)電極又は酵素を用いて、メディエーター標識の酸化還元サイクリングを介して電流シグナルを増幅する。測定された酸化還元サイクリングによる電流は、遊離(未結合)コンジュゲートの量に比例し、アナライトの濃度とともに増大する。IDA増幅の場合、サンプルを適用し、バイポテンシオスタットを介して適切な酸化還元電位を第一作用電極及び第二作用電極に印可してから数秒以内に定常状態反応が得られる。
【0112】
バイポテンシオスタットを用いたリサイクリングからは、2つの測定値が得られるが、それらは、大きさは等しいが、符号は反対である。これは、期待される値からの偏差の原因となる非リサイクリング性妨害物質(non recycling interferent)に起因する妨害作用が存在しているかどうかを決定する上で明確な利点を提供する。典型的には、妨害物質が充分に低い濃度で存在している場合、及び、それらが酸化還元リサイクリングを受けない場合、短い時間が経過した後では、最終的な定常電流には潜在的な妨害物は存在しない。所望のアナライトの濃度の10倍〜100倍の濃度の非リサイクリン性妨害物質も、該妨害物質はリサイクリングしないので、酸化還元リサイクリング測定を用いる場合は無視することができる。充分に高い濃度の妨害物質(即ち、尿中のアスコルビン酸で起こり得るような妨害物質)は、酸化反応では大きな増大を示す場合があり、また、還元反応では期待される値よりも小さな減少を示す場合がある。酸化反応と還元反応の両方を用いることにより、関心のあるアナライトを数学的な計算で校正し得ることが期待される。
【0113】
生物学的サンプル中のアスコルビン酸(ビタミンC)の濃度は、劇的に変動し得る。尿の無作為サンプル中では、該濃度は、60μMから400μMの範囲で変動し得る。血漿中では、該範囲は34〜91μMであり、全血中では、40〜114μMである。アスコルビン酸は強力な還元剤である。従って、アスコルビン酸は、容易に酸化されて、臨床試験の電気化学的妨害の源であり得る。
【0114】
一研究において、1μM、5μM及び10μMのオスミウム遊離メディエーターを用いて、21μmのIDA電極上でアスコルビン酸の効果について調べた。アスコルビン酸は、100μM、200μM及び400μMの値で変えた。測定は、CHI 832Aバイポテンシオスタット(WE1=250mV, WE2=0mV)を用いて行った。100μMのサンプルは対照からの偏差を殆ど示さなかったが、200μM及び400μMのサンプルは、アスコルビン酸の還元特性を強く示す。対照と比較して、、200μM及び400μMのサンプルでは、酸化電流が大きく増大し、還元電流は低減した。酸化に関しては、OSFM応答の勾配における増大及びY切片の増大が観察された。還元では、逆の傾向(勾配の低減及びY切片の低減)が観察された。より速いリサイクリングIDA電極(W及びWgがより小さな電極)を用いると非酸化還元リサイクリング妨害物からの妨害が少なくなると期待される。
【0115】
サンプルの処置
該方法は、生物学的流体(例えば、唾液、尿又は血液など)を含んでいる液体サンプルで実施可能であるか、又は、液体サンプルは環境中のソースに由来するものであり得る。該液体サンプルは、「そのままで」何も加えずに分析することが可能であるか、又は、予備的処理(例えば、バッファー溶液での希釈、濃縮、若しくは、別の方法による標的アナライトの検出を最適化するために処置など)を施すことが可能である。従って、例えば、血液サンプルは、細胞成分を可溶化するために、溶解させるか、及び/又は、別の方法で変性させることができる。別の例において、尿のサンプルは、所定量のアスコルビン酸オキシダーゼと混合することができる。疎水性アナライトを含んでいるサンプルにヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを添加して、サンプル収集容器の表面、試薬又は測定域への該アナライトの非特異的結合をできる限り少なくすることもできる。該方法は、さまざまなサンプル取扱技術を用いて実施することができる。
【0116】
本発明は、検出及び/又は分析しようとする各アナライトに対して少なくとも1種の電気化学的標識を含んでいる。本発明で使用するためのオスミウム電気化学的標識の例証的な例は、化合物1の錯体である。
【化2】
【0117】
式中、R及びR1は、同一であるか又は異なっていて、それぞれ、2,2'-ビピリジル、4,4'-二置換-2,2'-ビピリジル、5,5'-二置換-2,2'-ビピリジル、1,10-フェナントロリニル、4,7-二置換-1,10-フェナントロリニル又は5,6-二置換-1,10-フェナントロリニルから選択することができ、ここで、各置換基は、メチル基、エチル基又はフェニル基であり、また、R基及びR1基は、それらの窒素原子を介してオスミウムに配位しており;qは、1又は0であり;R7は、B-(L)k-Q(CH2)iであり;R2は、qが1の場合は、水素、メチル又はエチルであり、また、R2は、qが0の場合は、B-(L)k-Q(CH2)iであり;基B-(L)k-Q(CH2)iに関して、Qは、O、S又はNR4であり、ここで、R4は、水素、メチル又はエチルであり;--L--は、2価のリンカーであり;kは、整数1又は0であり;iは、整数1、2、3、4、5又は6であり;Bは、特異的アナライト結合相手に結合可能なリガンドを含んでいる基であり;Zは、クロロ又はブロモであり;mは、+1又は+2であり;Xは、対イオン(例えば、1価アニオン又は2価アニオン、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、フッ化物イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、過塩素酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン又は亜硫酸イオンなど)であり;及び、nは、中性塩をもたらすように選択される。
【0118】
本発明で使用するためのオスミウム電気化学的標識の例証的な第二の例は、化合物2で表される。
【化3】
【0119】
式中、R及びR1は、同一であるか又は異なっていて、それぞれ、2,2'-ビピリジル、4,4'-二置換-2,2'-ビピリジル、5,5'-二置換-2,2'-ビピリジル、1,10-フェナントロリニル、4,7-二置換-1,10-フェナントロリニル、5,6-二置換-1,10-フェナントロリニル又はN,N'-ジメチル2,2'-ビイミダゾールから選択することができ、ここで、各置換基は、メチル基、エチル基又はフェニル基であり、また、R基及びR1基は、それらの窒素原子を介してオスミウムに配位しており;R2は、水素、メチル又はエチルであり;--L--は、リンカーであり;Eは、3価のリンカーであり;Bは、特異的アナライト結合相手に結合可能なリガンドを含んでいる基であり;Zは、クロロ又はブロモであり;Xは、対イオンであり;yは、中性塩をもたらすように選択され;及び、mは、2〜4である。
【0120】
本発明で使用するためのオスミウム電気化学的標識の例証的な第三の例は、化合物3で表される。
【化4】
【0121】
式中、R及びR1は、同一であるか又は異なっていて、それぞれ、2,2'-ビピリジル、4,4'-二置換-2,2'-ビピリジル、5,5'-二置換-2,2'-ビピリジル、1,10-フェナントロリニル、4,7-二置換-1,10-フェナントロリニル、5,6-二置換-1,10-フェナントロリニル又はN,N'-ジメチル2,2'-ビイミダゾールから選択することができ、ここで、各置換基は、メチル基、エチル基又はフェニル基であり、また、R基及びR1基は、それらの窒素原子を介してOsに配位しており;R2は、1〜10個の炭素原子を有する、飽和又は不飽和の、置換されているか又は置換されていない、直鎖又は分枝鎖のヒドロカルビル基であり;-R3は、H、CH3又はC2H5であり;Lは、(CH2)iQであり、ここで、iは1〜10の整数であり、QはO、S又はNR3であり;Bは、特異的アナライト結合相手に結合可能なリガンドを含んでいる基であり;Xは、対イオンであり;yは、中性塩をもたらすように選択され;及び、mは、4〜8である。
【0122】
本発明で使用するためのオスミウム電気化学的標識の例証的な第四の例は、化合物4で表される。
【化5】
【0123】
式中、R及びR1は、同一であるか又は異なっていて、それぞれ、2,2'-ビピリジル、4,4'-二置換-2,2'-ビピリジル、5,5'-二置換-2,2'-ビピリジル、1,10-フェナントロリニル、4,7-二置換-1,10-フェナントロリニル、5,6-二置換-1,10-フェナントロリニル又はN,N'-ジメチル2,2'-ビイミダゾールから選択することができ、ここで、各置換基は、メチル基、エチル基又はフェニル基であり、また、R基及びR1基は、それらの窒素原子を介してOsに配位しており;R3は、H、CH3又はC2H5であり;Lは、(CH2)iQであり、ここで、iは1〜10の整数であり、QはO又はNR3であり;Bは、特異的アナライト結合相手に結合可能なリガンドを含んでいる基であり;Zは、塩素又は臭素であり;Xは、対イオンであり;yは、中性塩をもたらすように選択され;及び、mは、1又は2である。
【0124】
化合物4の前駆物質(式中、B置換基がA(-(CH2)j-NR3、-(CH2)j-SH又は活性化エステル(ここで、jは1〜5の整数である))で置き換えられている)も、本発明の範囲内に包含される。
【0125】
化合物1、化合物2及び化合物3について上記で説明したように、該オスミウムメディエーターコンジュゲートは、少なくとも2つの成分を含み、場合により少なくとも3つの成分を含んでいてもよいということを想定することができる。該オスミウムメディエーターコンジュゲートは、1以上の有機金属オスミウム基、1以上の連結基、及び、リガンド類似体を含んでいることが可能である。該有機金属オスミウム種は、それ自体、遊離塩として電気化学的に検出可能であるか、又は、中性イミダゾール基を有する状態で電気化学的に検出可能である。オスミウム中心上のジ-キレート配位子(即ち、ビピリジルリガンド及びフェナントロリニルリガンド)は、酸化還元電位及び溶解性などの所望の特性を有するコンジュゲートを得るのに望ましいように変えることが可能である。例えば、ある種の流体サンプル又は特異的アナライトに関して、増大した疎水性を示すオスミウムコンジュゲートを用いるのが望ましい場合があり得る。ジ-キレート配位子を2,2'-ビピリジルリガンドから1,10-フェナントロリニルリガンドに変えることにより、オスミウム錯体の疎水性が増大する。同様に、該ジ-キレート配位子にアルキル置換基を加えることによっても、オスミウム錯体の疎水性が増大する。
【0126】
本発明で使用するための連結基Lは、分析しようとする特定のアナライト、その濃度及びサンプル媒体などの種々の要因に応じて選択することが可能である。好ましい実施形態では、該連結基は、関心のある特定のアナライト、サンプル媒体中のそれ(又は、それら)の濃度及びサンプル媒体自体に基づいて選択することができる。さらにまた、本発明の連結基は2価連結基であることも可能である。一形態では、本発明の連結基は、親水性であるように選択することができる。連結基を適切に選択することにより特定のアナライトの検出及び分析に大きな影響を与えることができるということが確認されている。例えば、高い親水性を有するアナライトは、反応チャンバー内のサンプル媒体中の酸化還元可逆的コンジュゲートの移動度に影響を与え得る。これが、次に、定常状態条件下での拡散リサイクリング及び/又は酵素リサイクリングを介して電流増幅に影響し得る。
【0127】
オスミウムメディエーターをリガンド類似体に連結するのに使用可能な多くのタイプのコンジュゲーション化学反応が存在する。オスミウムメディエーター-ペプチドコンジュゲートを調製するのに用いられる以下のコンジュゲーション化学反応は、タンパク質コンジュゲートを調製するためにも一般に用いられてきた:(1)反応性エステルと第一級アミンによるアミド結合の形成;及び、(2)マレイミドとスルフヒドリル基によるチオエーテル結合の形成;及び、オスミウムメディエーターのアミノ基を薬物誘導体のイソシアネート官能基又はイソチオシアネート官能基と反応させることによる尿素結合又はチオ尿素結合の形成。アミド結合はチオエーテル結合よりも好ましいが、それは、アミド結合が一般により安定であるからである。好ましいコンジュゲーション化学反応に基づき、第一級アミン基又はカルボン酸基のいずれかを用いて、オスミウムメディエーター上のリガンドを官能基化することができる。これらの官能基の最もよい位置は、オスミウムメディエーターのイミダゾールリガンドのC-4位又はC-5位であると考えられる。しかしながら、非-オスミウム-錯体化イミダゾール環の窒素原子を介して官能基化することも可能である。
【0128】
一部のオスミウムメディエーターにおいては、適切な反応性基が存在している場合、又は、適切な反応性基をリガンド類似体上に提供することが可能な場合は、ヒスタミンリガンド上のアミン基を該リガンド類似体に直接結合させることが可能である。例えば、オスミウムメディエーターのヒスタミンリガンド上のアミン基は、メトトレキサート上の活性化カルボキシル基と容易に反応する。
【0129】
本発明の好ましい一実施形態では、2価連結基の内の1つ以上を充分な親水性を示すように選択して、水性媒体中における酸化還元リサイクリングコンジュゲートの移動度を増大させる。2価連結基の例としては、以下のものを挙げることができる:モノマー、ダイマー、オリゴマー又は短鎖ポリマーとしてのポリエチレングリコール PEG。
【0130】
代替的な実施形態では、該リンカー自体を、1以上の架橋基に連結することができる。例えば、化合物1、化合物2又は化合物3のいずれかについて上記で説明した化学種において、最初に、ヒスチジル(histadyl)基(ヒスタミンから誘導されたもの)をオスミウム金属中心に結合させる。ヒスタミン自体が、第一の連結基又は連結部分である。オスミウム錯体と一緒に多種多様な連結基を使用することができることは理解されるだろう。得られた錯体は、本発明の範囲内に含まれると考えられる。
【実施例】
【0131】
以下の実施例は、本発明及びその利点についてのさらなる理解及び評価を助成にするために提供されている。しかしながら、下記実施例が例示であって、決して限定的なものではないということは理解されるであろう。
【0132】
実施例
用語「オスミウム遊離メディエーター」又は「遊離メディエーター」又は「OSFM」は、いずれも、ビス(2,2'-ビピリジル)イミダゾールクロロオスミウム(III)ジクロリドの使用を示している。このビス(2,2'-ビピリジル)イミダゾールクロロオスミウム(III)ジクロリドは、米国特許第5,589,326号に記載されている。このメディエーターは、多くの場合、種々のIDA電極上での酸化還元増幅を評価及び比較するためにモデル電気化学的メディエーターとして使用される。該メディエーターの構造を以下に示す。
【化6】
【0133】
表記「PBS」は、Sigma社の製品#P4417から調製した、10mM リン酸カリウム緩衝液と2.7mM 塩化カリウムと137mM 塩化ナトリウムからなるリン酸緩衝生理食塩水マトリックスを示すか、又は、類似の生理食塩水緩衝液マトリックスを示す。
【0134】
表記「PBST」は、10mM リン酸カリウム緩衝液と2.7mM 塩化カリウムと137mM 塩化ナトリウムと約0.1%〜0.5%のTween 20からなるリン酸緩衝生理食塩水マトリックスを示す。
【0135】
「外部Ag/AgCl」について言及されている場合、それは、市販されているAg/AgCl電極(例えば、Abtech Scientific Inc.(Richmond, Virginia)製のRE 803 ミニ-参照電極など)のことを示す。
【0136】
「内部Ag/AgCl」は、電極セルの1つの電極のサンプル接触領域に塗布されたAg/AgClインクを示す。ほとんどの場合、これは、Ercon(Wareham, Massachusetts)から市販されているインク(製品 E2414)であった。本発明者らの電極上に構築した内部参照電極の電位シフトは、外部Ag/AgCl参照電極と比較して、約100mVであった。
【0137】
オスミウム電気化学的標識の調製
ビス(2,2'-ビピリジル)イミダゾリルクロロオスミウム(III)ジクロリド(オスミウム遊離メディエーター)は、多くの酸化還元酵素に対する優れた電子メディエーターであることが分かっている(米国特許第5,589,326号)。それは、速いメディエーション速度(mediation kinetics)(グルコースオキシダーゼと一緒に用いたフェリシアン化物よりも約500倍速い)と、比較的低い酸化還元電位(Ag/AgClに対して、+150mV)を示す。それは、さらにまた、電極表面において極めて速い電子伝達速度も有する。重要なことには、オスミウムコンジュゲートの有機リガンドは、オスミウム中心の酸化還元特性に対して悪影響を及ぼさずに別の分子に共有結合することができるように、官能基化することが可能である。オスミウムコンジュゲートは、これらの類のない特性を有していることにより、アフィニティーセンサーについての理想的な電気化学的標識である。該オスミウムメディエーターは、米国特許第6,294,062号、米国特許第6,352,824号及び米国特許第6,262,264号に記述されている方法に準じて調製することが可能である。これらの特許は、参照によりその全体を本明細書に組み入れる。
【0138】
これらの新規リガンドを有するオスミウムメディエーターは、オスミウム遊離メディエーターを合成するのに用いた方法と同じ方法又は類似した方法を用いて合成した。それらの合成は、下記に略述してあるように、2つの主要なプロセスステップからなる。それらのプロセスステップの詳細については、以下で説明する。
【0139】
第一プロセスステップでは、以下のスキームを用いて、市販されているオスミウム塩からオスミウム中間体のシス-ビス(2,2'-ビピリジル)ジクロロオスミウム(II)を合成する。この中間生成物は、氷浴中で再結晶させることにより単離する。
【化7】
【0140】
【0141】
第二プロセスステップでは、上記オスミウム中間体とヒスタミンを反応させて所望のオスミウムメディエーターを生成させる。この所望の生成物を、次いで、テトラフルオロホウ酸アンモニウムを添加することにより溶液から沈澱させる。
【化8】
【0142】
これらのオスミウムメディエーターは、テトラフルオロホウ酸ニトロソニウムを用いて、酸化された形態(即ち、Os(III))に容易に変換することも可能である。しかしながら、この酸化された形態への変換は必要ではない。それは、コンジュゲート反応中にアルカリ条件下でオスミウムが還元された形態に戻り、また、該アフィニティーアッセイはバイオセンサー上での検出に際して酸化された形態のOs(III)を必要とはしないからである。
【0143】
一般に、オスミウムメディエーター(化合物5)内のヒスタミンの遊離アミノ基を用いて薬物誘導体の活性化エステルに結合させ、それにより、薬物-オスミウムコンジュゲートを得る。同様のオスミウムコンジュゲートを、米国特許第6,262,264号に記述されているようにして、HbA1c及びHbA0ペプチドに対して調製した。
【0144】
図18は、主要な中間体であるビス(2,2'-ビピリジル)-ヒスタミン-クロロ-オスミウムメディエーター(化合物5)を合成するための改善された手順について例示している。元の手順には、還流条件下にエタノール中でヒスタミンをシス-ビス(2,2'-ビピリジル)ジクロロオスミウム(II)と反応させることが含まれている。しかしながら、得られた所望生成物の収率が劣っていることから、出発物質として保護されたヒスタミン誘導体を用いる代替的な合成ルートへと至った。有機化学における保護基の使用は、当技術分野ではよく知られている("Protecting Groups in Organic Synthesis" by T.W. Green, John Wiley & Sons, 1981)。
【0145】
従って、ヒスタミンの第一級アミノ基は、適切な保護基で保護することが可能であり、最も好ましくは、t-ブトキシカルボニル保護基(t-BOC)又はトリフルオロアセトアミド基を用いて保護することが可能である。ヒスタミン二塩酸塩をTHF中で二炭酸ジt-ブチルと反応させて、ジt-Boc保護ヒスタミン誘導体を得た。メタノール中でトリエチルアミンと反応させることにより、イミダゾール窒素からt-Boc基を選択的に除去した。一保護ヒスタミンをOsII(bPy)2Cl2と結合させて、保護ヒスタミン錯体(化合物4)を得た。トリフルオロ酢酸と反応させることにより保護ヒスタミンのt-Boc基を脱保護して、オスミウム(bPy)2(ヒスタミン)Cl(化合物5)を得た。
【0146】
数種類のオスミウムヒスタミン薬物コンジュゲートを調製した。代表的な例は、図19で示されている、オスミウム(bPy)2(ヒスタミン)Cl(化合物5)とアンフェタミンNHSエステル(化合物8)の反応である。得られたオスミウム-アンフェタミン錯体のトリフルオロアセトアミド基を50mM 炭酸カリウムと反応させることにより脱保護して、アンフェタミンオスミウムコンジュゲート(化合物10)を得た。
【0147】
オスミウムテオフィリンコンジュゲート(化合物13)は、図20に示されているように調製した。テオフィリンアミン(化合物11)は、WO87/07955において公表されている手順に従って調製した。テオフィリンアミン(化合物11)を、トリエチルアミンの存在下で、テレフタル酸ジN-ヒドロキシスクシンイミドエステルと反応させて、テオフィリンN-ヒドロキシスクシンイミドエステル(化合物12)を得た。この活性化エステルを、トリエチルアミンの存在下で、オスミウム(bipy)2(ヒスタミン)Cl(化合物5)と結合させて、オスミウムテオフィリンコンジュゲート(化合物13)を得た。
【0148】
PCP NHSエステル(化合物14)を用いて、PCP-オスミウム錯体(化合物15)を合成した。これは、図21に示されている。PCP NHSエステル(化合物14)は、米国特許第5,939,332号において公表されている手順に従って調製した。
【0149】
オスミウムTHC-2コンジュゲート(化合物17)の合成は、図22に記載してある。THC-2誘導体(化合物16)の合成は、EP 0736529A1に記載されている。
【0150】
オスミウムTHC-1コンジュゲート(化合物19)の合成は、図23に記載してある。THC-1誘導体(化合物18)の合成は、J. Org. Chem. 1986, 51, 5463-5465に記載されている。
【0151】
オスミウムメトトレキサートコンジュゲートの合成スキームは図24に示してある。
【0152】
一実施形態では、本発明は、マルチ-オスミウムメディエーターを使用する。マルチ-オスミウムメディエーターを使用することによりアッセイにおける検出感度が改善されることが見いだされた。複数のオスミウム酸化還元中心を有するオスミウム薬物コンジュゲートの合成について設計した。付加的な保護された異なる官能性を有するオスミウムメディエーターアミンに結合させるために、多官能化脂肪族リンカー及び多官能化芳香族リンカーを設計した。これらの一保護マルチ-オスミウム標識を脱保護した。それらを用いて、薬物又は関心のある別のアナライトに結合させることができる。例として、ジオスミウムTHC-1コンジュゲートを、図25〜図28に示されているように調製した。従って、塩基(最も好ましくは、炭酸カリウム)の存在下で、3,5-ジヒドロキシベンジルアルコールを適切に保護されたハロアルキル化剤(最も好ましくは、ブロモ酢酸t-ブチル)と反応させて、二置換生成物である化合物22を得た。一連の置換反応により、化合物22のベンジルアルコール官能基をメシラート基に変換した後、アジド基に変換した。水素化し、次いで、トリフルオロアセトアミド基として保護することにより、化合物24のアジド基をアミノ官能基に変換し、それにより化合物26を得た。トリフルオロ酢酸で処理することによりt-ブチルエステル官能基を除去して、対応する二酸化合物27を得た。これを二酸塩化物に変換し、オスミウムヒスタミンアミン(化合物5)と反応させて、所望のジオスミウム芳香族が結合したモノ-トリフルオロアセトアミド(化合物29)を得た。一置換生成物(化合物30)も同様に単離し、電気化学的アッセイに対する検出感度の測定において比較のために評価した。化合物29のトリフルオロアセトアミド基は、塩基性条件下(最も好ましくは、水性炭酸カリウム)で除去可能であり、それによりジオスミウムメディエーター31が得られる。これは、適切な活性化基を有する抗原(即ち、薬物誘導体;図28を参照されたい)に結合させることができる。
【0153】
同様に、脂肪族リンカーを有するジオスミウム錯体も調製した。脂肪族リンカーは、図30に示されているように、適切に活性化された抗原(例えば、薬物誘導体)に結合することができる。
【0154】
本発明の別の実施形態において、図30〜図32に示されているように、親水性リンカーを有するオスミウム錯体を調製した。親水性リンカーを有するオスミウムヒスタミンメディエーターは、THCなどの疎水性アナライトで見られるアッセイ開発の困難性を克服するということが示唆されている。適切な官能性を有する市販の親水性リンカー(化合物33)を利用することができる。このPEGリンカーは、保護されているアミノ官能基と遊離カルボン酸を有する。このPEGリンカーの酸基は、活性化エステル(好ましくは、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル)に変換することが可能であり、また、塩基(好ましくは、トリエチルアミン)の存在下でオスミウムヒスタミンアミノ誘導体(化合物5)に結合させて、化合物35を得ることができる。化合物35のt-Boc官能基は、酸性条件下、好ましくは、トリフルオロ酢酸を用いて、除去した。オスミウムPEGリンカー(化合物36)の遊離アミノ基は、活性化エステルが結合した薬物、例えば、THC-2-NHS(化合物16)と反応させて、オスミウム-PEG-THCコンジュゲート(化合物37)を得ることができる。
【0155】
図33に示されているスキームに従って、オスミウム-PEGリンカー(化合物36)をメトトレキサートに結合させた。
【0156】
図34〜図36は、テトラオスミウム標識を調製するための合成スキームを例示している。中間体のブロモ誘導体(化合物23)を塩基の存在下で3,5-ジヒドロキシベンジルアルコールと反応させて、対応する二置換生成物(化合物50)を得ることができる。上記類似手順に従い、化合物50のベンジルアルコール基を対応するアミン(化合物52)に変換することが可能である。このアミン基は、適切な保護基(最も好ましくは、トリフルオロアセトアミド基及びt-ブチルエステル基)を用いて保護することが可能であり、これらの保護基は、その後、酸性条件下で除去することができる。得られた化合物53のテトラカルボン酸官能基は、対応する酸塩化物に変換することが可能であり、また、化合物5のオスミウムヒスタミンアミンに結合させてトリフルオロアセトアミドで保護されたアミンを有するテトラオスミウム芳香族標識を得ることができる。このアミノ基は塩基性条件下で解放することが可能であり、得られた化合物56を適切に活性化された抗原(例えば、薬物誘導体)と反応させて、抗原-テトラオスミウムコンジュゲートを得ることができる。
【0157】
本発明の別の実施形態では、オスミウムジビイミダゾールヒスタミン化合物の合成について記述される。この化合物は、アスコルビン酸などのサンプル中に同様に存在し得る望ましくない酸化可能な化学種による起こり得る妨害を避けるために、低い酸化還元電位を有するように開発された。ジビイミダゾールの合成については、図37に記載されている。 従って、グリオキサールをアンモニアと反応させることにより、ビイミダゾール(化合物45)が得られる。化合物45のジメチル誘導体を、塩基(好ましくは、水素化ナトリウム)の存在下でp-トルエンスルホン酸と反応させて、化合物46を得ることができる。これを、DMF中180℃でオスミウムトリクロリドと反応させて、オスミウムジビイミダゾールジクロリド(化合物47)を得ることができる。塩基(好ましくは、トリエチルアミン)の存在下で化合物47とヒスタミンt-Boc(化合物4)を結合させることにより、化合物48が得られる。化合物48のt-Boc基を、酸性条件下、好ましくはトリフルオロ酢酸を用いて、除去して、化合物49を得ることができる。オスミウムジビイミダゾールヒスタミン(化合物49)の遊離アミノ基を薬物誘導体の活性化エステルに結合させて、薬物-オスミウムジビイミダゾールヒスタミンコンジュゲートを得ることができる。
【0158】
オスミウムジビイミダゾールヒスタミン(化合物49)は、低い酸化還元電位(Ag/AgClに対して、E1/2〜540mV)を示す。米国特許第6,294,062号に記載されているように、低い電位を有するメディエーターもマルチアナライト測定に必要である。この場合、複数の電気化学的標識又はメディエーターが必要であり、その際、電気化学的標識又はメディエーターは、それぞれが、各電気化学的標識を独立に取り扱うことができるように隔てられた異なった酸化還元電位を有するものである。
【0159】
実施例1:オスミウム-テオフィリンコンジュゲートの電気化学的アッセイ
Os-テオフィリンコンジュゲートを図20に例示してあるように調製した。この酸化還元可逆的コンジュゲートについて、テオフィリンに対してアッセイ反応を起こすように設計された一連の電気化学的測定を用いて評価した。フォトリソグラフィー技術を用いて、IDA微小電極を本明細書に記載したように製造した。該IDAは、50のフィンガー対(ここで、該フィンガー対は、それぞれが、約21μmの幅(W)、10μm、15μm及び21μmの間隙(Wg)、6mmの長さ(b)を有する)を有する金電極構造を含んでいた。さらにまた、各IDAは、対向電極及び参照電極として使用するための付加的な2つの金電極領域も含んでいた。電気化学的測定は、CH Instruments バイポテンシオスタット モデル802A又はモデル832Aを用いて行った。バイポテンシオスタットを用いた電流測定による測定はIDA増幅に対して行った。また、酵素増幅に対しては、単一電位電流測定法(single potential amperometric technique)を用いた。各測定では、外部参照電極を用いる場合は、約20μLのサンプルをピペットで電極上に量りとる必要があり、Ag/AgClインクの内部参照電極及び有効電極構造を覆うキャピラリールーフを用いる場合は、5〜10μLのサンプルをピペットで電極上に量りとる必要があった。
【0160】
図38は、50フィンガー対を有するIDA電極(10μm間隙(Wg), 21μm(W))上のオスミウム-テオフィリンコンジュゲートのCVを示している。該CVは、酸化と還元の対照的なピーク、及び、Ag/AgClに対して約125mVのE1/2を示している。これにより、電流測定による測定に対して適切なアノード電位及びカソード電位を選択することが可能であり、また、バイポテンシオスタットを用いて適切なアノード電位及びカソード電位を制御することができる。
【0161】
図39は、50フィンガー対を有するIDA電極(21μm間隙(Wg), 21μm(W))上の種々の濃度で測定したオスミウム-テオフィリンコンジュゲートに対する酸化的定常状態反応を例示している。バイポテンシオスタットは、WE1とWE2に印可された適切なアノード電位及びカソード電位で使用した。このグラフは、この大きな寸法のIDAでさえ数秒内に定常状態に達することを示している。
【0162】
図40は、50フィンガー対を有するIDA電極(21μm間隙(Wg), 21μm(W))上の種々の濃度のオスミウム-テオフィリンコンジュゲートの用量反応曲線を例示している。電極電位はバイポテンシオスタットを用いて制御した。再度、酸化と還元が絶対等級でほぼ等しいということを観察することができる。このことは、該電極における電流測定を妨害する別の化学種がサンプル中に存在していないことを示している。
【0163】
本明細書の用量反応曲線がマルチメータバイアスを示すことが観察されるであろう。用語「マルチメータバイアス(multimeter bias)」は、電極及び機器類が単に高インピーダンスマルチメータ(この場合は、10MOhmの入力インピーダンスを有するFluke 87 マルチメータ)にも接続されているということの結果として生じる、収集されたデータにおけるバイアスを意味する。電流測定による測定(例えば、バイポテンシオスタットにより制御された電流測定による測定)に関し、バイアスは、一定のI=V/R[ここで、Vは、各電極に印可された電圧(ボルト)であり、R=10MOhmである]である。印可電圧がAg/AgClに対して0mVである場合、バイアスは0nAとなるが、印加電圧が200mVである場合、バイアスは20nAとなるであろう。
【0164】
図41は、溶解している抗体の濃度の増大にともなうコンジュゲート反応の阻害を例示するプロットである。実施例では、溶解している抗体の濃度は増大したが、オスミウム-テオフィリンコンジュゲート濃度は、約25μMに維持した。該阻害曲線から、この実施例の場合、コンジュゲート対抗体の最適の比率は2:1であると決定された。それは、抗体の濃度がさらに増大した場合、該阻害曲線の勾配が減少しているからである。抗体は2価であるので、該比率は、化学量論的な比である1:1に相当する。該反応もマルチメータバイアスを示すということも留意すべきである。
【0165】
図42は、血清キャリブレータにおいてテオフィリンアッセイを実施したものであり、オスミウム-テオフィリンコンジュゲートに関して得られたIDA増幅電流をプロットしている。試験は、テオフィリンの濃度は変化させながら、オスミウム-テオフィリンコンジュゲート濃度約25μM及び抗体濃度約12.5μMで行った。該アッセイは、治療域未満から毒性域にまで及ぶ広いアッセイ範囲を有している。
【0166】
実施例2:オスミウム-アンフェタミンコンジュゲートの電気化学的アッセイ
Os-アンフェタミンコンジュゲート(10)を図19に例示してあるように調製した。この酸化還元可逆的コンジュゲートについて、一連の電気化学的アッセイを用いて評価した。フォトリソグラフィー技術を用いて、インターデジテイテッドアレイ(IDA)微小電極を本明細書に記載したように製造した。各IDAは、50対の「フィンガー」(ここで、各フィンガーは、幅が21μmであり、フィンガー間の間隙が15μmである)を含んでいた。電気化学的測定は、CH Instruments バイポテンシオスタット モデル802A又はモデル832Aを用いて行った。バイポテンシオスタットを用いた電流測定による測定はIDA増幅に対して行った。また、酵素増幅に対しては、単一電位電流測定法を用いた。各測定では、外部参照電極を用いる場合は、約20μLのサンプルをピペットで電極上に量りとる必要があり、Ag/AgClインクの内部参照電極及び有効電極構造を覆うキャピラリールーフを用いる場合は、5〜10μLのサンプルをピペットで電極上に量りとる必要があった。
【0167】
図43は、PBST溶液中で調製した100μM Os-アンフェタミンコンジュゲートのサイクリックボルタモグラムを示している。該図は、単一のフィンガーセットを有するCV、及び、両方のフィンガーセットが一緒になってショートしていて作用電極として使用されている場合のCVを示している。該CVは、酸化と還元の対称的なピーク、及び、Ag/AgClに対して約125mVのE1/2を示している。これにより、適切なアノード電位及びカソード電位を選択することが可能である。
【0168】
図44は、電位を制御するのにバイポテンシオスタットを使用した、15μmのIDA電極上の100μM オスミウム-アンフェタミンコンジュゲートのリサイクリングCVである。WE1は、-100mVから400mVまでスキャンしたが、WE2は-100mVで一定に保った。該CVは、酸化還元のリサイクリングを受けているメディエーターを示している。該CVは、約600nA.又は6nA/μMの定常状態反応を示している。該リサイクリングCVは、酸化電流と還元電流が等しい大きさ又は反対の大きさを有することを示している。電流は、リサイクリングにより増幅されている。リサイクリングCVを測定するために、WE2を還元電位-100mVに固定し、WE1は、還元電位-100mVと酸化電位400mVの間でスキャンした。リサイクリングは、一方のフィンガーセットが酸化へと向かい、他方のフィンガーセットが還元へと向かうときに起こる。一般に、掃引速度があまり速くない間は、電流の大きさは掃引速度に比例しない。これは、反応が掃引速度と共に増大する通常のCVとは異なっている。
【0169】
図45は、15μmの間隙と21μmの幅を有するIDA上のオスミウム-アンフェタミンコンジュゲート用量反応である。オスミウム-アンフェタミンコンジュゲートは、PBST中で、0μM〜100μMの濃度で調製した。CH Instruments バイポテンシオスタットを用いて測定を行った。作用電極#1と作用電極#2の両方で観察された電流は、(マルチメータバイアスを引いた場合)絶対等級及び勾配がほぼ同じであった。内部Ag/AgCl参照電極を有する15μmIDAとWE1=300mV及びWE2=0mVを用いて、プロットした。
【0170】
オスミウム-アンフェタミンコンジュゲートの阻害についても、15μmの間隙と21μmの幅を有するIDA上で、バイポテンシオスタットを用いて評価した。内部参照電極に対して、WE1=250mV及びWE2=-150mVで、電極は平衡状態にあった。Os-アンフェタミンコンジュゲートを、Rocheから入手した種々の濃度のモノクローナルアンフェタミン抗体[<AMPH>M-2.17.22>]と混合し、コンジュゲート対抗体の比率の最適比率は、化学量論的な比率2:1であると決定された。これは、該抗体が2価であるので、化学量論的比率に相当する。従って、この比率を用いて、IDA増幅を利用するアンフェタミンアッセイを実施した。
【0171】
図46は、アンフェタミンアッセイのプロットを示している。種々の濃度のd,l-アンフェタミン薬物を、一定濃度の抗体と混合した後、一定濃度のコンジュゲートと混合した。最終溶液マトリックスは、20μMのオスミウムアンフェタミンコンジュゲート、10μMの抗体、及び、0〜25μMの濃度のアンフェタミンを含んでいた。各溶液を混合し、直ちに、IDA電極上に移し、バイポテンシオスタットを用いて電流反応を測定した。測定した酸化電流反応及び還元電流反応を薬物濃度に対してプロットして、アッセイ用量反応曲線を得る。該コンジュゲート由来の電流反応は、より多くの薬物を添加して抗体に結合させるのにともなって増大し、その結果、コンジュゲート阻害が低減した。該アッセイ用量反応曲線は、SAMHSAにより指定されているカットオフ濃度の1000ng/mL又は6.7μMを有するアンフェタミン薬物乱用アッセイに必要な範囲を包含している。アンフェタミン反応は、15μmの間隙と21μmの幅を有するIDA上で、バイポテンシオスタットを用いて評価した。内部参照電極に対して、WE1=250mV及びWE2=-150mVで、電極は平衡状態にあった。
【0172】
実施例3:2μmのIDAを有するオスミウム-ビオチンモデル系
インターデジテイテッドアレイ電極は、Roche Diagnostics用にあつらえて、Premitec, Inc.(Raleigh, NC.)に製造させた。各IDAは、750対の電極(ここで、各電極は、長さが6mmであり、間隙及び幅は2μmである)を含んでいた。これらの電極のインターデジテイテッド領域は、総計36mm2であった。この大きな寸法は、低い検出限界を達成するという実際的なことを考慮して選択した。機器類(特に、携帯用バイポテンシオスタット)は、検出可能な最小電流に関して限界を有している。当時は、携帯用機器類のノイズを考慮することにより、1nAがアッセイに関して測定される最小電流であると想定されていた。この情報を、予想される電流反応と一緒に用いて、イムノアッセイ感度においてかなり大きな改善をもたらすことが可能となるように電極の寸法を決定した。さらに、これらの電極は、方程式1により予想される改善された増幅を実証するために、計算による感度を実際に観察された感度と比較するようにも製造した。
【0173】
オスミウム-ビオチンコンジュゲート(下記化合物57)は、米国特許第6,262,264号に記載されている方法と同様の方法により調製した。
【化9】
【0174】
マイクロ遠心管の中に、以下の濃度のビオチン20μLを入れた:0μM, 1.25μM, 2.5μM, 3.75μM, 5μM, 7.5μM, 10μM。これらの溶液のそれぞれに、20μLの1.25μM ストレプトアビジンと40μLのPBSTを添加した。各溶液に20μLの5μM ストレプトアビジンを添加し、少しの間(〜2秒間)混合し、2μMのIDA電極上に形成された毛管状のスペースの間ににピペットで移した。バイポテンシオスタットによる測定を直ちに開始し、Ag/AgClに対して、WE1を250mVに、また、WE2を0mVに制御した。
【0175】
図47は、WとWgが2μmの750のフィンガー対を有する平面IDA電極上で、25μMのオスミウム遊離メディエーター(ビス(2,2'-ビピリジル)イミダゾールクロロオスミウム(III)ジクロリド)を用いて得たリサイクリングサイクリックボルタモグラム(CV)定常状態反応を示している。リサイクリングCVは、-100mVから400mVまでスキャンされるジェネレータであるWE1と-100mVに維持されているコレクタであるWE2を用いて実施した。この反応は、約3800nA又は152nA/μMの定常状態反応で優れた増幅と優れた効率を示す。
【0176】
図48は、WとWgが2μmの750のフィンガー対を有する平面IDA電極上でのオスミウムビオチンコンジュゲート0〜5μMの用量反応曲線を示している。この測定では、CHI Instruments バイポテンシオスタットを用いて、WE1=250mV及びWE2=0mVを制御した。酸化の測定と還元の測定の勾配は、ほぼ同一及び反対であり、このことは、酸化還元リサイクリング効率が良好であることを示している。オスミウムビオチンによる勾配約126nA/μMは、極めて良好な反応であり、これは、オスミウム遊離メディエーターについて図47のCVから計算して得た152nA/μMに比較してほんの僅かに小さいのみである。
【0177】
データは、0.5秒間隔で、40秒間にわたり収集した。アッセイ反応は、幾つかの時点で評価したが、0.5秒の時点を含む全ての時点で同様の結果が得られた。図49は、0.5秒、2秒及び10秒の時点におけるビオチンアッセイ反応を示している。アッセイ試薬は、0〜1μMのアッセイ範囲に対して選択され、これは達成された。時間に対して定常電流を示す典型的なプロットは、図50に示してある。このデータは、定常状態反応が、印加電位の開始からほとんど即座に達成されることを示している。定常状態は、それぞれの電極で生成された酸化化学種と還元化学種が等しい場合に達成される。
【0178】
これらの結果は、Premitec Inc.(Raleigh, North Carolina)においてウエハーID#0702HIDA1...14から調製した2μM IDA電極を用いて収集した。最終アッセイ濃度は、1μMのオスミウムビオチンコンジュゲート、0.25μMのストレプトアビジン及び0〜2μMのビオチンであった。このアッセイは、CH Instruments(Austin, Texas)製のCHI-802A バイポテンシオスタットを用いて実施した。
【0179】
図51及び図54は、それぞれ、モノオスミウム-芳香族トリフルオロアセトアミド保護リンカー(化合物30)とジオスミウム-芳香族リンカー(化合物31)の両方を用いて実施した通常のCVを示している。該CVは、合成されたメディエーターが、Ag/AgClに対して約20〜40mVの適度に低いE1/2電位を有する酸化還元可逆的化合物であったことを示している。両方とも、Wが21μmでWgが15μmの50のフィンガー対を有する平面IDA電極上で、200μMの濃度で実施した。
【0180】
図53は、モノオスミウム-芳香族トリフルオロアセトアミド保護リンカー(化合物30及び化合物31)とオスミウム遊離メディエーター(ビス(2,2'-ビピリジル)イミダゾールクロロオスミウム(III)ジクロリド)についての用量反応の比較を示している。これらは、全て、Wが21μmでWgが15μmの50のフィンガー対を有する平面IDA電極上で実施した。オスミウム遊離メディエーターとモノオスミウム-芳香族トリフルオロアセトアミド保護リンカーは同様の反応を示したが、ジオスミウム-芳香族リンカーの反応は、僅かに改善されていた。該ジオスミウム化合物の反応は、酸化還元部位の数が2倍であることで最初に期待されるであろう2倍ではなかった。低い反応についての幾つかの理由は、ジオスミウム錯体のサイズ(MW)が大きいために電極間の拡散が遅いということ、及び/又は、平均してジオスミウム錯体の1つの部位のみが実際に酸化及び還元される(常に、1つのオスミウム中心のみが酸化又は還元される)ということであり得る。いずれの場合も、CVと僅かに改善された用量反応曲線に基づいて、この新規コンジュゲートは、単一のオスミウム中心を有するメディエーターに取って代わる実用的な代替物であることが分かった。
【0181】
図54は、Wが21μmでWgが15μmの50のフィンガー対を有する平面IDA電極上で200μMの濃度で実施したジオスミウム-THC1コンジュゲート(化合物32)のCVを示している。このコンジュゲートのストックは、有機溶媒を使用せずに、PBST中で0.75mgの該化合物から調製した。該CVは、該メディエーターが可逆的ではあるが、還元のピークが酸化のピーク電流に比較して僅かに小さく見えることを示している。該反応は、ジオスミウム-芳香族リンカー(化合物31)に比較して、約50%小さい。この低減した反応は、THC分子の疎水性を示している用に思われる。
【0182】
図55は、Wが21μmでWgが15μmの50のフィンガー対を有する平面IDA電極上におけるオスミウム-PEG-THC-2(化合物37)の用量反応曲線である。測定は、CHI Instruments バイポテンシオスタットで制御した(WE1=250mV, WE2=0mV)。コンジュゲートのストック溶液を、有機溶媒を使用せずにPBSTに溶解させた。PBST中で、6.25μMから500μMまでの間で連続希釈を行った。10μLを電極セル上に形成された毛管に適用した。ジオスミウム-THC1コンジュゲート(化合物32)の場合と同様に、還元反応(勾配)は、酸化勾配に比較して僅かに小さかった。両方の勾配は、オスミウム遊離メディエーターを用いて見られる勾配よりも約10倍小さい。示されているアッセイデータは、電位を印可した5秒後の結果である。これらの結果は、4反復の平均である。
【0183】
図56は、酵素増幅を用いたオスミウム-PEG-THC-2(化合物37)の用量反応曲線である。酵素で増幅したコンジュゲート反応の勾配は、IDA増幅よりも改善されている。THCの疎水性に対して可能性のある懸念を克服するために、5%のヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを添加することで、反応における有意な増大が認められるということも留意される。
【0184】
図57は、Wが21μmでWgが15μmの50のフィンガー対を有する平面IDA電極上で150μMの濃度で実施したオスミウム-PEG-メトトレキサート(化合物38)のCVを示している。このコンジュゲートのストックは、有機溶媒を使用せずに、PBST中で0.49mgの該化合物から150μMの濃度で調製した。該CVは、対称的な可逆的酸化還元ピークを示している。別のメディエーターのCVと比較する場合、このCVに対してコンジュゲートの使用濃度が低いこと及びフィンガーの幅(21μM)が広いことは考慮に入れなければならない。
【0185】
図58は、Wが21μmでWgが21μmの50のフィンガー対を有する平面IDA電極上のオスミウム-PEG-メトトレキサート(化合物38)の用量反応曲線である。測定は、CHI Instruments バイポテンシオスタットで制御した(WE1=0.25mV, WE2=0mV)。150μMのストック溶液からPBST中で希釈を行って、25μM、10μM、5μM、2.5μM及び1.25μMの濃度のものを調製した。20μLの該溶液を、外部Ag/AgCl参照電極を用いて電極セル上に形成された毛管内の電極に適用した。毛管と該毛管領域のすぐ外側に位置する外部毛管の中のサンプル間のギャップを埋めるのには、この20μLの容積が必要であった。このメディエーターについてのコンジュゲート反応の勾配は、オスミウム-PEG-THC2反応の勾配よりも大きかった。これらの結果は、4反復の平均である。
【0186】
さらなる例は、"The Latest Development in Biosensor Immunoassay Technology for Drug Assays"という表題の論文の中に記載されている。この論文は、参照によりその全体を本明細書に組み入れる。
【0187】
電気化学的メディエーター標識の合成:
全ての溶媒は、J.T.Bakerから入手した。分析的逆相HPLCによる分析は、ダイオードアレイ検出器と4つ一組のポンプで構成されているAgilent HP1100 LC/MSシステムで実施した。LC/MS分析は、AJO-4287(C-180DS)カートリッジを有するPhenomenex KJO-4282ガードキットを備えたVydac 218TP54カラム(300A, 5μ;C18, 4.6mm×250mm)を用いて実施した。クロマトグラフィーの流れは、カラムの後で、MS検出器の中に移した。用いたMSDは、エレクトロスプレーポジティブモード("ES(+)mode")で作動させた。
【0188】
HPLCフラクションは凍結乾燥させた。アセトニトリルを減圧下に蒸発させた後、水性残渣を、例えばドライアイス/アセトン浴を用いて、凍結させ、その後、凍結乾燥機を用いて凍結乾燥させた。残渣を分取RP-HPLCで精製して、10.2mg(6.6×10-3mmol, 20%)のTHC-オスミウムPEG誘導体(37)を得た(LC/MS M+H 1501.6)。
【0189】
分取逆相HPLCでは、(1)Varian Dynamax(Rainin)ガードモジュールR00083221G(C-18, 8μ)を有するR00083221C(Microsorb 60-8, C-18, 250mm×21.4mm)又は(2)Varian Dynamax(Rainin)ガードモジュールR00083241G(C-18, 8μ)を有するR00083241C(Microsorb 60-8, C-18, 250mm×41.4mm)のいずれかを有するVarian Dynamaxラジアルコンプレッションカラムを用いた。HPLCは、0.1%トリフルオロ酢酸を含有する水-アセトニトリルの勾配系を用いて実施した。
【0190】
アンフェタミンNHSエステル(化合物)は、"Dual Analyte Immunoassay"、EP 0574782A2に記載されているように調製した。THC-1NHSエステル(化合物18)は、"Reagents for the Determination of Drugs"、EP 0386644に記載されているように調製した短連鎖誘導体である。THC-2NHSエステル(化合物16)は、"Novel Cannabinol Derivatives and Improved Immunoassay"、EP 0276732A2に記載されているように調製した長鎖誘導体である。テオフィリンアミン(化合物11)は、PCT WO 87/07955において公表されている方法に従って調製した。テオフィリンNHSエステル(化合物12)は、トリエチルアミンの存在下で、テオフィリンアミン(化合物11)をテレフタル酸ジN-ヒドロキシスクシンイミドエステルと反応させることにより調製した。O-(N-Boc-2-アミノエチル)-O-(N-ジグリコリル)-2-アミノエチル)ヘキサエチレングリコール(化合物33)は、VWRを介して、Nova Biochemから購入した。
【0191】
ビス(2,2'-ビピリジル)ジクロロオスミウムの調製:
4.18g(8.6mmol)のヘキサクロロオスミウム酸カリウムと3.05g(19.5mmol)の2,2'-ジピリジルの混合物に、100mLのジメチルホルムアミドを添加した。この反応混合物を1時間加熱還流し、室温まで冷却した。得られた反応混合物を濾過し、残渣を5mLのDMFで洗浄した。濾液を室温で撹拌し、その反応混合物に4.76g(0.027mol)のジチオン酸ナトリウムを430mLの水に溶解させた溶液を滴下して加えた。得られた反応混合物を氷浴内に置いて所望の生成物を沈澱させた。得られた固体を収集し、15mLの水で2回洗浄した後、15mLのエーテルで2回洗浄した。得られた褐色の固体を減圧下(0.5mmHg)に50℃で乾燥させ、4.3g(7.4mmol, 87%)の所望の生成物を暗褐色の固体として得た。
【0192】
4-(2-t-ブトキシカルボニルアミノ-エチル)-イミダゾール-1-カルボン酸t-ブチルエステルの調製:
3.68g(20mmol)のヒスタミン二塩酸塩と160mLのアセトニトリルと14mL(0.10mol)のトリエチルアミンと13.1g(0.060mol)の二炭酸ジt-ブチルの混合物を室温で3日間撹拌した。この反応混合物を濃縮し、残渣を150mLのヘキサンで洗浄した。残渣を100mLのエーテルで3回洗浄した。エーテル部分を全て合し、濃縮して、白色の粉状物を得た(LC/MS M+NA 334.1)。
【0193】
[2-(1H-イミダゾール-4-イル)-エチル]-カルバミン酸t-ブチルエステルの調製:
4-(2-t-ブトキシカルボニルアミノ-エチル)-イミダゾール-1-カルボン酸t-ブチルエステルに、100mLのメタノール及び800mL(5.73mol)のトリエチルアミンを添加した。得られた反応混合物を室温で4日間撹拌し、濃縮して油状物とした。この残渣に、40mLのエーテル及び80mLのヘキサンを添加した。この混合物を室温で静置することにより、生成物が白色の固体として沈澱した。この沈澱物を収集した。収量は、1.7g(8.0mmol, 40%)であった(LC/MS M+H 212.1)。
【0194】
オスミウムジビピリジルt-Bocヒスタミン(化合物4)の調製:
300mg(0.52mmol)のビス(2,2'-ビピリジル)ジクロロオスミウムと268mg(1.26mmol)のヒスタミンt-Bocの混合物に、54mLのエタノールを添加した後、1.6mL(11.4mmol)のトリエチルアミンを添加した。この混合物を80℃で5日間撹拌し、濃縮した。残渣を、水と0.1%トリフルオロ酢酸含有アセトニトリルの勾配を用いる分取HPLCにより精製して、250mg(0.32mmol, 61%)のオスミウムジビピリジルt-Bocヒスタミン(化合物4)を褐色の粉状物として得た(LC/MS M+H 749.1)。
【0195】
ビス(2,2'-ビピリジル)-ヒスタミン-クロロ-オスミウム[オスミウム(bPy)2(ヒスタミン)Cl](化合物5の調製:
50mg(0.063mmol)のオスミウムジビピリジルt-Bocヒスタミン(化合物4)に、2mLの塩化メチレン及び2mLのトリフルオロ酢酸を添加した。この反応混合物を室温で20分間撹拌し、減圧下に濃縮した。残渣に5mLの塩化メチレンを添加し、濃縮した。この5mLの塩化メチレンの添加とそれに続く濃縮の手順をさらに4回繰り返し、全部合わせた残渣を乾燥させて、40mg(0.058mmol, 93%)の(化合物5)を褐色の粉状物として得た(LC/MS M+H 649)。
【0196】
アンフェタミン-オスミウムヒスタミンTFA保護コンジュゲート(化合物9)の調製:
82mg(0.104mmol)のオスミウムジビピリジルt-Bocヒスタミン(化合物4)に、1.5mLのトリフルオロ酢酸及び0.5mLの1,2-ジクロロエタンを添加した。得られた反応混合物を室温で30分間撹拌した後、濃縮した。得られた残渣に5mLの塩化メチレンを添加し、次いで、濃縮した。上記の5mLの1,2-塩化メチレンの添加と濃縮のプロセスをさらに3回繰り返し、全部合わせたものを減圧下で2時間乾燥させた。得られた残渣に、1mLの無水DMF及び0.2mL(1.43mmol)のトリエチルアミンを添加した。この反応混合物を撹拌しながら、それに、50mg(0.09mmol)のアンフェタミンNHSエステルを1mLの1,2-ジクロロエタンと0.5mLのDMFに溶解させた溶液を滴下して加えた。得られた反応混合物を室温で18時間撹拌した後、減圧下に濃縮した。残渣を分取逆相HPLCで精製して、68mg(0.060mmol, 67%)のアンフェタミン-オスミウムトリフルオロアセトアミド保護化合物(化合物9)を暗褐色の固体として得た(LC/MS M+H 1083.63)。
【0197】
オスミウムアンフェタミンコンジュゲート(化合物10)の調製:
60mg(0.053mmol)のアンフェタミン-オスミウムヒスタミンTFA保護コンジュゲート(化合物9)に、25mLの50mM 炭酸カリウム及び10mLのメタノールを添加した。この反応混合物を室温で3日間撹拌した後、濃縮した。残渣を分取逆相HPLCで精製して、13.6mg(0.013mmol, 25%)のオスミウムコンジュゲート(化合物10)を得た(LC/MS M+H 987.2)。出発物質のアンフェタミン-オスミウムヒスタミンTFA保護コンジュゲート(化合物9)(18.3mg)も回収した。
【0198】
オスミウムTHC-2ヒスタミンコンジュゲート(化合物17)の調製:
54mg(0.068mmol)のオスミウムジビピリジル-t-Bocヒスタミン(化合物4)に、1.5mLのトリフルオロ酢酸及び0.5mLの塩化メチレンを添加した。この反応混合物を30分間撹拌し、濃縮した。塩化メチレン(5mL)を添加し、得られた溶液を濃縮した。上記塩化メチレンの添加と濃縮の手順をさらに3回繰り返した。得られた残渣に1mLの無水DMFを添加した後、200μL(1.43mmol)のトリエチルアミンを添加した。この反応混合物を室温で撹拌し、30mg(0.060mmol)のTHC-2 NHS誘導体(化合物16)を0.5mLの無水DMFと1mLの塩化メチレンに溶解させた溶液。得られた反応混合物を室温で18時間撹拌し、濃縮した。残渣を分取逆相HPLCで精製して、33.3mg(0.031mmol)のオスミウムTHC-2ヒスタミンコンジュゲート(化合物17)を褐色の粉状物として得た(LC/MS M+H 1034.2)。
【0199】
オスミウムメトトレキサートコンジュゲート(化合物21):
57mg(0.125mmol)のメトトレキサート(Sigma)に、1mLの無水DMFを添加した後、22mg(0.15mmol)の4-ニトロフェノール及び27mg(0.13mmol)のN,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミドを添加した。得られた反応混合物を室温で4時間撹拌した。得られたメトトレキサート活性化エステル(化合物20)は、単離することなくそのまま次のステップで使用した。
【0200】
100mg(0.14mmol)のオスミウムジビピリジルt-Bocヒスタミン(化合物4)に1mLのトリフルオロ酢酸を添加した。得られた反応混合物を室温で30分間撹拌し、減圧下に濃縮した。残渣に5mLの塩化メチレンを添加し、濃縮した。5mLの塩化メチレンの添加及び濃縮のプロセスをさらに4回繰り返した。残渣に1mLのDMFを添加した後、200μL(1.43mmol)のトリエチルアミンを添加した。得られた反応混合物を、アルゴン雰囲気下、室温で撹拌した。上記で調製したメトトレキサートの活性化エステル(化合物20)を滴下して加えた。この反応物を、アルゴン雰囲気下、室温で18時間撹拌し、減圧下に濃縮した。残渣を分取逆相HPLCで精製して、52.5mg(0.046mmol, 32%)のオスミウムメトトレキサートコンジュゲート(化合物21)を褐色の粉状物として得た(LC/MS M+H 1086.2)。
【0201】
テオフィリンオスミウムヒスタミンコンジュゲート(化合物13)の調製:
これは、テオフィリンNHSエステル(化合物12)から出発して、例えばオスミウムTHC-2ヒスタミンコンジュゲート(化合物17)の調製で記述した方法と同様の方法で、調製した。
【0202】
PCP-オスミウムヒスタミンコンジュゲート(化合物15)の調製:
これは、PCP NHSエステル(化合物14)から出発して、例えばオスミウムTHC-2ヒスタミンコンジュゲート(化合物17)の調製で記述した方法と同様の方法で、調製した。
【0203】
THC-1オスミウムヒスタミンコンジュゲート(化合物19)の調製:
これは、THC-1 NHSエステル(化合物18)から出発して、例えばオスミウムTHC-2ヒスタミンコンジュゲート(化合物17)の調製で記述した方法と同様の方法で、調製した。このメディエーターのPBST中の溶解度が劣っており、DMFを使用する必要があった。
【0204】
(3-t-ブトキシカルボニルメトキシ-5-ヒドロキシメチル-フェノキシ)-酢酸t-ブチルエステル(化合物22)の調製:
5g(35mmol)の3,5-ジヒドロキシベンジルアルコールに、250mLの乾燥DMF、11.85mL(80mmol)のブロモ酢酸t-ブチル、14.8g(107mmol)の無水炭酸カリウム及び34.5g(105mmol)の炭酸セシウムを添加した後、3gの4Åモレキュラーシーブを添加した。得られた反応混合物を、アルゴン雰囲気下、80℃で撹拌した。この反応混合物を室温まで冷却し、濾過し、残渣を200mLの酢酸エチルで洗浄した。全ての濾液を合して濃縮乾固させた。残渣を150mLのジエチルエーテルに再度溶解させ、200mLの水で3回洗浄し、濃縮した。残渣を、ヘキサン中の70%ジエチルエーテルを用いるシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、7.5g(20mmol, 57%)の(化合物22)を無色のゴム状物として得た(LC/MS M+Na 391.1)。
【0205】
(3-ブロモメチル-5-t-ブトキシカルボニルメトキシ-フェノキシ)-酢酸t-ブチルエステル(化合物23)の調製:
1g(2.7mmol)の(化合物22)に48mLの塩化メチレンを添加し、-40℃に冷却した後、640μL(4.58mmol)のトリエチルアミン及び400μL(5.16mmol)のメタンスルホニルクロリドを添加した。得られた反応混合物を-40℃で3時間撹拌した。この反応混合物に、32mLの新たに蒸留したTHF及び800mg(9.21mmol)の臭化リチウムを添加した。この反応混合物を4℃で18時間撹拌し、次いで、濃縮乾固させた。これを、50mLの塩化メチレンと20mLの水の中に溶解させた。有機層を分離し、水層を30mLの塩化メチレンで4回抽出した。有機層を合して脱水し(Na2SO4)、濃縮して、1.16g(2.68mmol, 99%)の(化合物23)を得た。
【0206】
(3-アジドメチル)-5-t-ブトキシカルボニルメトキシ-フェノキシ)-酢酸t-ブチルエステル(化合物24)の調製:
1.16g(2.68mmol)のブロモ誘導体(化合物23)に、アルゴン雰囲気下、50℃で、30mLの無水DMF及び1.79g(27.5mmol)のアジ化ナトリウムを72時間かけて添加した。この反応混合物を室温まで冷却し、濾過し、残渣を濃縮乾固させた。残渣に、50mLの酢酸エチル及び25mLの水を添加した。有機層を分離し、水層を25mLの酢酸エチルで抽出した。有機層を合して脱水し(Na2SO4)、濃縮して、1.04g(2.64mmol, 99%)のアジド化合物(化合物24)を白色のゴム状固体として得た(LC/MS M+Na 416.1)。
【0207】
(3-アミノメチル-5-t-ブトキシカルボニルメトキシ-フェノキシ)-酢酸t-ブチルエステル(化合物25)の調製:
2.9g(7.3mmol)の(化合物24)に、140mLのエタノール、4.5g(71.3mmol)のギ酸アンモニウム及び1.39gの10%Pd-Cを添加した。得られた反応混合物を室温で18時間撹拌し、CELITE(登録商標)で濾過した。残渣を50mLのエタノールで洗浄した。濾液を濃縮し、150mLのクロロホルムに再度溶解させた。これを、75mLの脱イオン水で3回洗浄し、脱水し(Na2SO4)、濃縮して、2.4g(6.53mmol, 89%)のアミノ誘導体(化合物25)をオフホワイトの半固体として得た(LC/MS;M+ Na 390.1, 2M+1 735.3)。
【0208】
{3-t-ブトキシカルボニルメトキシ-5-[2,2,2-トリフルオロ-アセチルアミノ)-メチル]-フェノキシ}-酢酸t-ブチルエステル(化合物26)の調製:
862mg(2.34mmol)の(化合物12)に、20mLの新たに蒸留したTHF、1mL(7.17mmol)のトリエチルアミン及び426μL(3.57mmol)のトリフルオロ酢酸エチルを添加した。得られた反応混合物を室温で18時間撹拌した。これを濃縮乾固させ、50mLのクロロホルムに溶解させた。有機層を50mLの水で3回洗浄し、脱水し(Na2SO4)、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、604mg(1.3mmol, 56%)のトリフルオロアセチル保護生成物(化合物26)を白色のゴム状固体として得た(LC/MS M+NA 486)。
【0209】
{3-カルボキシメトキシ-5-[(2,2,2-トリフルオロ-アセチルアミノ)-メチル]-フェノキシ}-酢酸[芳香族トリフルオロアセトアミド保護リンカー](化合物27)の調製:
500mg(1.07mmol)の(化合物26)に、20mLの塩化メチレン及び20mLのトリフルオロ酢酸を添加した。この反応混合物を室温で72時間撹拌し、濃縮した。残渣に30mLの塩化メチレンを添加し、濃縮した。上記の30mLの塩化メチレンの添加と濃縮のプロセスをさらに3回繰り返して、376mg(1.07mmol, 99%)の二酸誘導体(化合物27)を白色の固体として得た(LC/MS M+NA 374)。
【0210】
{3-クロロカルボニルメトキシ-5-[(2,2,2-トリフルオロ-アセチルアミノ)-メチル]-フェノキシ}-アセチルクロリド(化合物28)の調製:
51.2mg(0.145mmol)の(化合物27)に、3mLの塩化メチレン及び205μL(2.33mmol)の塩化オキサリル及び10mLの無水DMFを添加した。この反応混合物を室温で18時間撹拌し、濃縮した。残渣に5mLの塩化メチレンを添加し、濃縮した。上記の5mLの塩化メチレンの添加と濃縮のプロセスをさらに3回繰り返して、二酸塩化物(化合物28)を得た。これは、それ以上精製することなく次のステップで使用した。
【0211】
ジオスミウムジビピリジルヒスタミントリフルオロアセトアミド保護芳香族リンカー(化合物29)の調製:
320mg(0.407mmol)のオスミウムジビピリジルt-Bocヒスタミン(化合物4)を、8mLの塩化メチレンと8mLのトリフルオロ酢酸の中に溶解させた。得られた混合物を室温で20分間撹拌した後、溶媒を除去した。塩化メチレンを添加し、次いで、減圧下に除去した。この塩化メチレンの添加と除去をさらに3回繰り返した。次いで、得られた固体を3mLの塩化メチレンに溶解させ、室温で撹拌した。この反応混合物に、全ての(化合物28)(上記で調製したもの)を3mLの塩化メチレンに溶解させた溶液を添加した後、2mL(14.3mmol)のトリエチルアミンを添加した。この反応混合物を、アルゴン雰囲気下、室温で3日間撹拌した。この混合物を、次いで、濃縮し、分取逆相HPLCで精製して、55.9mg(0.033mmol, 23%)のジオスミウム芳香族トリフルオロアセトアミド保護錯体(化合物29)(LC/MS M+H 1614.3)及び71.8mg(0.070mmol, 48%)のモノオスミウム芳香族トリフルオロアセトアミド保護錯体(化合物30)(LC/MS M+H 983.2)を得ると共に、69.2mgのオスミウム(bPy)2(ヒスタミン)Cl(化合物5)を回収した。
【0212】
ジオスミウムジビピリジルヒスタミン芳香族リンカー[ジオスミウム芳香族リンカー](化合物31)の調製:
53.6mg(0.031mmol)のジオスミウム芳香族トリフルオロアセトアミド保護錯体(化合物29)に、25mLの50mM 炭酸カリウム及び10mLのメタノールを添加した。この反応混合物を室温で3日間撹拌し、濃縮した。残渣を分取逆相HPLCで精製して、24mg(0.015mmol, 47%)のジオスミウムジビピリジルヒスタミン芳香族リンカー(化合物31)を褐色の粉状物として得た(LC/MS M+H 1519.2)。
【0213】
ジオスミウムジビピリジルヒスタミンTHC-1コンジュゲート[ジオスミウムTHC-1コンジュゲート](化合物32)の調製:
11mg(6.9×10-3mmol)のジオスミウムジビピリジルヒスタミン芳香族リンカー(化合物31)に、1.96mLのDMF、196μL(1.40mmol)のトリエチルアミン及び7.86mg(0.0178mmol)のTHC-1-NHSエステル誘導体(化合物18)を添加した。この混合物を、アルゴン雰囲気下、室温で18時間撹拌し、濃縮した。LC/MSにより、所望の生成物が形成されたことが示された(LC/MS M+H 1846.4)。8mg(5.03×10-3mmol)のジオスミウムジビピリジルヒスタミン芳香族リンカー(化合物31)と1.43mLのDMFと143μL(1.01mmol)のトリエチルアミンと5.72mg(0.012mmol)のTHC-1-NHS(化合物18)を添加することにより、上記反応を繰り返した。得られた反応混合物を室温で18時間撹拌し、濃縮した。両方の反応生成物を混合し、分取逆相HPLCで精製して、8.7mg(4.5×10-3mmol, 11%)のジオスミウムTHC-1コンジュゲート(化合物32)を褐色の粉状物として得た(LC/MS, M+H 1846.4)。
【0214】
オスミウム-PEGリンカー t-Boc保護(化合物35)の調製:
120mg(0.20mmol)のO-(N-Boc-2-アミノエチル)-O-(N-ジグリコリル)-2-アミノエチルヘキサエチレングリコール(化合物33)(Nova Biochem)に、2mLの塩化メチレン、128mg(0.67mmol)の1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩、72mg(0.62mmol)のN-ヒドロキシスクシンイミドを添加した。この反応混合物を室温で18時間撹拌した。得られた活性化PEG NHSエステル(化合物34)は、単離することなくそのまま次のステップで使用した。
【0215】
120mg(0.15mmol)のオスミウムジビピリジルt-Bocヒスタミン(化合物4)に2.5mLのトリフルオロ酢酸を添加し、得られた混合物を室温で1時間撹拌した。この反応混合物を濃縮し、15mLの塩化メチレンを添加し、濃縮乾固させた。残渣に、1.5mLのDMFを添加した後、500μL(mmol)のトリエチルアミンを添加した。この反応混合物を室温で撹拌し、それに、活性化PEG NHSエステル(化合物34)の上記溶液を滴下して加えた。得られた反応混合物を室温で18時間撹拌し、濃縮した。残渣を分取逆相HPLCで精製して、93mg(0.074mmol, 36%)のオスミウムPEGリンカー t-Boc保護(化合物35)を褐色の粉状物として得た(LC/MS M+H 1216.4)。
【0216】
オスミウムPEGリンカー(化合物36)の調製:
90mg(0.071mmol)のオスミウムPEGリンカー t-Boc保護(化合物35)に2mLのトリフルオロ酢酸を添加した。得られた反応混合物を室温で40分間撹拌し、濃縮して、81mg(0.070mmol, 99%)のオスミウムPEGリンカー(化合物36)を暗褐色の濃密なゴム状物として得た(LC/MS M+H 1116.2)。
【0217】
オスミウムPEG THC-2コンジュゲート(化合物37)の調製:
39mg(0.033mmol)のオスミウムPEGリンカー(化合物36)に、1mLのDMF及び200μL(1.43mmol)のトリエチルアミンを添加した。この反応混合物を、アルゴン雰囲気下、室温で撹拌し、それに、16mg(0.032mmol)のTHC-2 NHSエステル(化合物16)を1mLの塩化メチレンに溶解させた溶液を滴下して加えた。得られた反応物を室温で18時間撹拌し、減圧下に濃縮した。残渣を分取逆相HPLCで精製して、10.2mg(6.6×10-3mmol, 20%)のオスミウムPEG THC-2コンジュゲート(化合物37)w得た(LC/MS M+H 1501.6)。
【0218】
オスミウムPEGメトトレキサートコンジュゲート(化合物38)の調製:
19mg(0.041mmol)のメトトレキサート(Sigma)に、0.4mLの無水DMFを添加した後、8mg(0.06mmol)の4-ニトロフェノール及び9mg(0.043mmol)のN,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミドを添加した。得られた反応混合物を室温で4時間撹拌した。得られた活性化エステル(化合物20)は、単離することなくそのまま次のステップで使用した。
【0219】
22.9mg(0.019mmol)のオスミウムPEGリンカー(化合物36)に、500μLのDMFを添加した後、100μL(0.71mmol)のトリエチルアミンを添加した。この反応混合物を室温で撹拌し、上記で調製したメトトレキサート活性化エステル(化合物20)の溶液を滴下して加えた。得られた反応混合物を室温で18時間時間撹拌し、濃縮した。残渣を分取逆相HPLCで精製して、7.8mg(4.9×10-3mmol, 25%)のオスミウムPEGメトトレキサートコンジュゲート(化合物38)を得た(LC/MS M+H 1554.5)。
【0220】
4-アミノ-ヘパン二酸(hepanedioic acid)ジエチルエステル塩酸塩(化合物39)の調製:
2g(8.6mmol)の4-オキソピメリン酸ジエチルに20mLのメタノールを添加した後、6.7g(86mmol)の酢酸アンモニウム、713mg(8.6mmol)の酢酸ナトリウム及び5mLの氷酢酸を添加した。この反応混合物を室温で18時間撹拌し、濃縮した。残渣に、150mLの酢酸エチル及び100mLの重炭酸ナトリウム飽和水溶液を添加した。有機層を分離し、水層を追加の100mLの酢酸エチルで抽出した。有機層を合して100mLの飽和重炭酸ナトリウムで2回洗浄し、脱水し(Na2SO4)、濃縮して、油状物を得た。この油状物に、ジエチルエーテル中の2M HCl(5mL)を添加した。白色の固体が沈澱した。これを濾過して、1.2g(4.48mmol, 52%)のアミノ生成物を塩酸塩(化合物39)として得た。
【0221】
4-t-ブトキシカルボニルアミノ-ヘプタン二酸ジエチルエステル(化合物40)の調製:
500mg(1.86mmol)のアミノ生成物(化合物39)に15mLの塩化メチレンを添加した後、1.2mL(8.5mmol)のトリエチルアミンを添加した。この反応混合物に、646mg(2.95mmol)の二炭酸ジt-ブチルを添加し、次いで、25mg(1.12mmol)の4-ジメチルアミノピリジンを添加した。得られた反応混合物を室温で18時間濾過し、減圧下に濃縮した。残渣に150mLのクロロホルムを添加し、100mLの水で2回洗浄した。有機層を脱水し(Na2SO4)し、濃縮して、油状物を得た。これを、8:2のヘキサン:酢酸エチルを用いるシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、396mg(1.19mmol, 64%)の4-t-ブトキシカルボニルアミノ-ヘプタン二酸ジエチルエステル生成物(化合物40)を得た。
【0222】
4-t-ブトキシカルボニルアミノ-ヘプタン二酸(化合物41)の調製:
380mg(1.14mmol)の4-t-ブトキシカルボニルアミノ-ヘプタン二酸ジエチルエステル(化合物40)を、3mLのメタノールを含んでいるTHFに溶解させた。この反応混合物に、481mg(11.5mmol)の水酸化リチウム水和物を6mLの水に溶解させた溶液を添加し、得られた反応混合物を室温で18時間撹拌した。これを減圧下に濃縮した。5mLの水を添加し、得られた溶液のpHを、濃H3PO4を用いてpH-5に調節した。この反応混合物を75mLの酢酸エチルで3回抽出した。有機層を合して脱水し(Na2SO4)、濃縮して、310mg(1.12mmol)の(化合物41)を白色の粉状物として得た[LR-MS-ER(-)(M-H 274.2)]。
【0223】
4-t-ブトキシカルボニルアミノ-ヘプタン二酸ビス(2,5-ジオキソ-ピロリジン-1-イル)エステル(化合物42)の調製:
44mg(0.15mmol)の4-t-ブトキシカルボニルアミノ-ヘプタン二酸(化合物41)に、5mLの塩化メチレン、76mg(0.39mmol)の1,3-ジメチルアミノプロピル-3-エチルカルボジイミド塩酸塩及び46mg(0.39mmol)のN-ヒドロキシスクシンイミドを添加した。この反応混合物を室温で18時間撹拌した。15mLの塩化メチレンを添加した。有機層を、15mLの水で2回洗浄し、15mLの飽和重炭酸ナトリウムで2回洗浄し、及び、15mLの水で1回洗浄した。有機層を脱水し(Na2SO4)、減圧下に濃縮して、39mg(0.08mmol, 52%)の4-t-ブトキシカルボニルアミノ-ヘプタン二酸ビス(2,5-ジオキソ-ピロリジン-1-イル)エステル生成物(化合物42)を白色の固体として得た。
【0224】
ジオスミウムt-Boc保護脂肪族リンカー(化合物43)の調製:
20mg(0.040mmol)の4-t-ブトキシカルボニルアミノ-ヘプタン二酸ビス(2,5-ジオキソ-ピロリジン-1-イル)エステル(化合物42)に44mg(0.064mmol)のオスミウム(bPy)2(ヒスタミン)Cl(化合物5)を添加した後、2mLの塩化メチレン及び0.5mLのDMFを添加した。この反応混合物に200μL(1.43mmol)のトリエチルアミンを添加し、得られた反応混合物を、反応を完結させるために、必要に応じて、室温で24〜48時間撹拌する。その反応混合物を減圧下に濃縮し、分取逆相HPLCで精製して、ジオスミウムt-Boc保護脂肪族リンカー(化合物43)を得た。
【0225】
ジオスミウム脂肪族リンカー(化合物44)の調製:
10mgのジオスミウムt-Boc保護脂肪族リンカー(化合物43)に1mLのトリフルオロ酢酸を添加し、室温で1〜2時間撹拌した。これを減圧下に濃縮して、ジオスミウム脂肪族リンカー(化合物44)を得た。
【0226】
ビイミダゾール(化合物45)の調製:
25mLのグリオキサール(水中40重量%)に25mLの水を添加した。この反応混合物を氷浴で冷却した。その混合物に、アンモニアガスを、7時間にわたり徐々に通気した。反応混合物を濾過して、710mgのビジイミダゾール(bidiimdazole)(化合物45)を灰色の粉状物として得た。これは、それ以上精製することなく次のステップで使用した(LC/MS M+H 135.0)。
【0227】
ジメチルビイミダゾール(化合物46)の調製:
60mg(0.44mmol)のビイミダゾールに1mLの無水DMFを添加した。この反応混合物を氷浴で冷却し、27mg(0.67mmol)のNaH(油中60%)を添加した。得られた反応混合物を0℃で1時間撹拌した。140μL(0.92mmol)のp-トルエンスルホン酸メチルを添加し、得られた反応混合物を0℃でさらに1時間撹拌し、次いで、室温で2日間撹拌した。反応混合物を濃縮し、メタノール中の50%酢酸エチルを用いるシリカゲルクロマトグラフィーで精製して、60mg(0.36mmol, 83%)のジメチルビイミダゾール(化合物46)を得た(LC/MS M+H 163.1)。
【0228】
オスミウムジビイミダゾールジクロリド(化合物47)の調製:
150mg(0.50mmol)のOsCl3に112mg(0.69mmol)のジメチルビイミダゾール(化合物46)を添加した後、280mg(6.6mmol)の塩化リチウム及び10mLの無水DMFを添加した。得られた反応混合物を、アルゴン雰囲気下で3.5時間還流し、濃縮した。残渣を分取RP-HPLCで精製して、95mg(0.15mmol, 30%)のオスミウムジビイミダゾールジクロリド(化合物47)を暗褐色の粉状物として得た(LC/MS M+H 586.0)。
【0229】
オスミウムジビイミダゾールヒスト-t-Boc(化合物48)の調製:
50mg(0.080mmol)のオスミウムジビイミダゾールジクロリド(化合物47)に71mg(0.33mmol)の[2-(1H-イミダゾール-4-イル)-エチル]-カルバミン酸t-ブチルエステル(化合物3)を添加した後、300μL(2.14mmol)のトリエチルアミン及び10mLのエタノールを添加した。この混合物を18時間加熱還流し、濃縮した。残渣を分取逆相HPLCで精製して、13mg(0.016mmol, 20%)のオスミウムジビイミダゾールヒスト-t-Boc(化合物48)を暗褐色の粉状物として得た(LC/MS M+H 761.2)。
【0230】
オスミウム(ジメチルビイミダゾール)2ヒスタミンリンカー(化合物49)の調製:
4mg(5.02×10-3mmol)のオスミウムジビイミダゾールヒスト-t-Boc(化合物48)に、750μLの塩化メチレン及び750μLのトリフルオロ酢酸を添加した。得られた反応混合物を室温で20分間撹拌し、減圧下に濃縮した。残渣に5mLの塩化メチレンを添加し、濃縮した。塩化メチレンの添加と濃縮のプロセスをさらに3回繰り返し、残渣を乾燥させて、3mg(4.3×10-3mmol, 88%)のオスミウム(ジメチルビイミダゾール)2ヒスタミンリンカー(化合物49)を得た(LC/MS M+H 661.1)。
【0231】
該オスミウム(ジメチルビイミダゾール)2ヒスタミンリンカーは、比較的低い酸化還元電位を示すメディエーターの例として調製した。より低い酸化還元電位は、高い電位で容易に酸化する化合物を妨害するのを避けるための電気化学的アッセイにとって興味深い。より低いメディエーターは、米国特許第6,294,062号において検討されているように、バイポテンシオスタットを用いた各メディエーターの独立した測定を可能とするために、各メディエーターの酸化還元電位が最低50〜100mV隔てられていることが必要な混合メディエーター法にとっても必要とされる。CVは、1mgの該メディエーターを1mLのPBSTに約1.4mMの濃度となるように溶解させることにより、該メディエーターの未精製物質を用いて行った。該CVにより、このメディエーターについてのE1/2電位が、調製した別のメディエーターよりも有意に低いことが示された。そのE1/2電位は、Ag/AgClに対して、約-520mVであった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(III):
【化1】
[式中、
R及びR1は、同一であるか又は異なっていて、それぞれ、2,2'-ビピリジル、4,4'-二置換-2,2'-ビピリジル、5,5'-二置換-2,2'-ビピリジル、1,10-フェナントロリニル、4,7-二置換-1,10-フェナントロリニル、5,6-二置換-1,10-フェナントロリニル又はN,N'-ジメチル2,2'-ビイミダゾールから選択することができ、ここで、各置換基は、メチル基、エチル基又はフェニル基であり、また、R基及びR1基は、それらの窒素原子を介してOsに配位しており;
R2は、1〜10個の炭素原子を有する、飽和又は不飽和の、置換されているか又は置換されていない、直鎖又は分枝鎖のヒドロカルビル基であり;
-R3は、H、CH3又はC2H5であり;
Lは、(CH2)iQであり、ここで、iは1〜10の整数であり、QはO、S又はNR3であり;
Bは、特異的アナライト結合相手に結合可能なリガンドを含む基であり;
Xは、対イオンであり;
yは、中性塩をもたらすように選択され;
mは、4〜8である]
で表される化合物。
【請求項2】
R及びR1が同一であって、2,2'-ビピリジル、又はメチル基、エチル基若しくはフェニル基で置換されている4,4'-二置換-2,2'-ビピリジル若しくは5,5'-二置換-2,2'-ビピリジルから選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Lが-(CH2)nNR3であり、nが1〜10の整数である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
置換基R2が、1〜10個の炭素を有する飽和脂肪族基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
Bが、アナライトに特異的に結合可能な抗体により認識され得るエピトープを含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
Bが、生物戦用因子、濫用物質、治療薬、環境汚染物質、タンパク質又はホルモンからなる群から選択されるアナライトに結合可能なエピトープを含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
Lが-(CH2)nSであり、nが1〜10の整数である、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
Xが、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、フッ化物イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、過塩素酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン及び亜硫酸イオンからなる群から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項1】
式(III):
【化1】
[式中、
R及びR1は、同一であるか又は異なっていて、それぞれ、2,2'-ビピリジル、4,4'-二置換-2,2'-ビピリジル、5,5'-二置換-2,2'-ビピリジル、1,10-フェナントロリニル、4,7-二置換-1,10-フェナントロリニル、5,6-二置換-1,10-フェナントロリニル又はN,N'-ジメチル2,2'-ビイミダゾールから選択することができ、ここで、各置換基は、メチル基、エチル基又はフェニル基であり、また、R基及びR1基は、それらの窒素原子を介してOsに配位しており;
R2は、1〜10個の炭素原子を有する、飽和又は不飽和の、置換されているか又は置換されていない、直鎖又は分枝鎖のヒドロカルビル基であり;
-R3は、H、CH3又はC2H5であり;
Lは、(CH2)iQであり、ここで、iは1〜10の整数であり、QはO、S又はNR3であり;
Bは、特異的アナライト結合相手に結合可能なリガンドを含む基であり;
Xは、対イオンであり;
yは、中性塩をもたらすように選択され;
mは、4〜8である]
で表される化合物。
【請求項2】
R及びR1が同一であって、2,2'-ビピリジル、又はメチル基、エチル基若しくはフェニル基で置換されている4,4'-二置換-2,2'-ビピリジル若しくは5,5'-二置換-2,2'-ビピリジルから選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Lが-(CH2)nNR3であり、nが1〜10の整数である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
置換基R2が、1〜10個の炭素を有する飽和脂肪族基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
Bが、アナライトに特異的に結合可能な抗体により認識され得るエピトープを含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
Bが、生物戦用因子、濫用物質、治療薬、環境汚染物質、タンパク質又はホルモンからなる群から選択されるアナライトに結合可能なエピトープを含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
Lが-(CH2)nSであり、nが1〜10の整数である、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
Xが、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、フッ化物イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、過塩素酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン及び亜硫酸イオンからなる群から選択される、請求項1に記載の化合物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図57】
【図58】
【図2】
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【図11】
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【図13】
【図14】
【図15】
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【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
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【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図57】
【図58】
【公開番号】特開2010−229135(P2010−229135A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105307(P2010−105307)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【分割の表示】特願2006−518767(P2006−518767)の分割
【原出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【分割の表示】特願2006−518767(P2006−518767)の分割
【原出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】
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