説明

電気化学的センサーへの使用のためのレドックスポリマー

【課題】 電気化学的センサー等の場合、レドックスメディエーターは、電極付近から溶出しないことが不可欠である。
【解決手段】 電気化学的センサーへの使用のためのレドックスポリマーは、疎水性ポリマー主鎖(例、疎水性ポリ(メチルメタクリレート)ポリマー主鎖)および前記疎水性ポリマー主鎖に結合した少なくとも1個の親水性ポリマーアーム(親水性オリゴ(N-ビニルピロリジノン)ポリマーアーム)を含む。前記レドックスポリマーは、前記の少なくとも1個の親水性ポリマーアームに結合した複数個のレドックスメディエーター(例、フェロセン系レドックスメディエーター)も含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にポリマー、特に電気化学的センサーでの使用のためのポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
液体サンプル中の分析物の定量用として電極と連結したレドックスメディエーターおよびレドックス酵素を用いる電気化学的センサーの使用に、近年、関心が高まってきた。
前記の電気化学的センサーは、体液サンプル(例、血液または間質液サンプル)中の分析物(グルコースなど)の連続または半連続モニタリングに特に適していると考えられる。例えば、レドックスメディエーター、レドックス酵素および作用電極を使った電気化学系グルコースセンサーは、比較的低い電位(例、SCEに対して0.4V未満)を使ってグルコース濃度を定量(即ち、測定)するので、作用電極での干渉反応を制限することができる。
【0003】
電気化学的センサーのさらに詳細な説明については、例えば、それぞれ参照することにより本明細書に完全に組み込んだ米国特許5,089,112号および6,284,478号を参照されたい。
【特許文献1】米国特許第5,089,112号
【特許文献2】米国特許第6,284,478号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気化学的センサーでは、レドックスメディエーターが前記電気化学的センサーのレドックス酵素と電極の間の電子移動を促進する。連続または半連続電気化学系グルコースセンサーなど、長期安定性を必要とする電気化学的センサーの場合、レドックスメディエーターは、電極付近から溶出しないことが不可欠である。そのため、電気化学的センサー中で容易に溶出可能なレドックスメディエーター(容易に溶出可能なフェリシアン化物、ベンゾキノンおよび低分子量キノン誘導体、フェロセン、低分子量フェロセン誘導体、ルテニウム錯体およびオスミウム錯体など)を使用するのは望ましくない。
【0005】
さらに、前記レドックスメディエーターが、ヒトまたは他の対象に有害な物質であると、ヒトまたは他の対象の体内へのレドックスメディエーターの溶出は望ましくないので、避ける必要がある。
【0006】
レドックスメディエーターの溶出を防止するために、レドックスメディエーターを化学的にレドックス酵素に結合する化学組成物が電気化学的センサーでの使用に提案されている。しかし、前記化学組成物のレドックス酵素は、酵素活性の有害な低下をきたす可能性がある。
【0007】
別法として、溶出を防ぐために、レドックスメディエーターは、ポリシロザンなどの水不溶性合成ポリマー鎖にも結合されている。しかし、前記化学組成物は、その疎水性のために、低柔軟性と、それによる媒介活性の減少をきたす。レドックスメディエーターは、親水性エチレンオキサイドスペーサー化合物を使ってシロキサンポリマー主鎖にも結合されている。それにもかかわらず、各親水性エチレンオキサイドスペーサー化合物は、1個のレドックスメディエーターしかシロキサンポリマー主鎖に結合させないので、前記化学組成物の媒介能は、制限され、不利である。さらに、親水性ポリマー主鎖に直接共有結合されたレドックスメディエーターは、電気化学的センサーの電極への効率的で確実な結合に適さない。
【0008】
そのため、当該分野で依然として必要なのは、レドックスメディエーター活性を維持しながら、電気化学的センサーの付近からの該レドックスメディエーターの溶出を防止できる化学組成物である。さらに、本化学組成物は、電気化学的センサーの電極への効率的で確実な結合を提供することが必要である。また、前記化学組成物を用いた電気化学的センサーも必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施態様に従った電気化学的センサーでの使用のためのレドックスポリマーは、適切なレドックスメディエーター活性を維持しながら、電気化学的センサーの電極付近からのレドックスメディエーターの溶出を防止する。さらに、該レドックスポリマーは、効率的、確実に電気化学的センサーの電極に結合できる。
【0010】
本発明の実施態様に従った電気化学的センサーは、適切なレドックスメディエーター活性を維持しながら、レドックスポリマーに含まれる前記レドックスメディエーターが電気付近から溶出するのを防ぐレドックスポリマーで被覆した電極を含む。
【0011】
本発明の実施態様に従った電気化学的センサーでの使用のためのレドックスポリマーは、疎水性ポリマー主鎖(例、疎水性ポリ(メチルメタクリレート)ポリマー主鎖)および前記疎水性ポリマーアームに結合した少なくとも1個の親水性ポリマーアーム(親水性オリゴ(N-ビニルピロリジノン)ポリマーアーム)を含む。本レドックスポリマーは、複数のレドックスメディエーター(例、複数のフェロセン系レドックスメディエーター)も含む。
【0012】
本発明に記載のレドックスポリマーの疎水性ポリマー主鎖は、電気化学的センサーの電極表面に効率的、確実に結合させるためのレドックスポリマーを備える。該レドックスポリマーは、複数のレドックスメディエーターを含むので、これらのレドックスメディエーターを電極付近に固定できる。前記固定は、該電極を用いる電気化学的センサーに長期安定性を付与できる。さらに、該レドックスメディエーターは、親水性ポリマーアームと疎水性主鎖を持つポリマーに結合するので、酵素(親水性本体)から電極(疎水性本体)への電子移動が促進される。さらに、酵素−メディエーター相互作用は、該レドックスポリマーの親水性ポリマーアームに結合したレドックスメディエーターの高い進入可能性によって助長される。
【0013】
また、本発明の実施態様に従った電気化学的センサーは、電極(炭素電極など)と前記電極表面を覆うレドックスポリマーを含む化学組成物を含む。前記電気化学的センサーのレドックスポリマーは、疎水性ポリマー主鎖、前記疎水性ポリマー主鎖に結合した少なくとも1個の親水性ポリマーアームおよび該親水性ポリマーアームのそれぞれに結合した複数のレドックスメディエーターを含む。
【発明の効果】
【0014】
レドックスメディエーターの溶出を防止でき、効率的、確実に電気化学的センサーの電極に結合できる等の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本明細書全体が一貫しているために、また、本発明を明瞭に理解するために、本明細書で使用する用語について、以下の定義をここに示す。
【0016】
用語「レドックスメディエーター」は、電極表面および酵素との還元(電子受容)または酸化(電子供与)を実施できる化学成分を指す。
用語「親水性」は、水などの水性溶液に対する高い親和性を持つ化学種または組を指す。そのため、親水性化合物は、水性溶液に結合、溶解または吸収される傾向がある。
用語「疎水性」は、水を含めた水性溶液に対する低い親和性を持つ化学種または組を指す。そのため、疎水性化合物は、水性溶液中で反発し、吸収されない傾向がある。
用語「レドックスポリマー」は、修飾(例、誘導体化)され、複数のレドックスメディエーターを含むポリマーを指す。
【0017】
図1は、本発明の典型的実施態様に従ったレドックスポリマー100の模式図である。レドックスポリマー100は、レドックスポリマー100の疎水性ポリマー主鎖120にペンダント状に結合した(即ち、ただ一点で結合した)複数の親水性ポリマーアーム110を含む。各親水性ポリマーアーム110は、図1に文字Mで図示した複数のレドックスメディエーター130を含む。前記レドックスメディエーターは、例えば、親水性ポリマーアーム110に共有的に、あるいは、その他で結合することができる。
【0018】
疎水性ポリマー主鎖120は、電気化学的センサーの電極または他の構成材に容易に、確実に結合できるので(下述のとおり)、レドックスポリマー100は、電気化学的センサーの電極付近でレドックスメディエーター130を固定することができる。例えば、疎水性ポリマー主鎖120は、疎水性主鎖120と炭素電極表面の間の疎水的相互作用によって、該炭素電極表面に接着できる。
【0019】
さらに、複数のレドックスメディエーターを各親水性ポリマーアームに結合させるので、そのレドックスポリマーの媒介能は不都合に制限されない。さらに、該レドックスメディエーターは、親水性ポリマーアームに結合されているが、レドックス酵素と良好に相互作用する適切な能力を保持するので、該酵素と電子交換し、また、電気化学的センサーの電極とも電子交換する。
【0020】
疎水性ポリマー主鎖120は、メチルメタクリレート(MMA)系疎水性ポリマー主鎖(例、ポリ(メチルメタクリレート)ポリマー主鎖))を含めて、当業者に周知のいずれかの適切な疎水性ポリマー主鎖であることができる。この状況で、MMAの疎水性は、疎水性ポリマー主鎖に比較的高い疎水度を付与する。本発明に記載のレドックスポリマーの疎水性ポリマー主鎖での使用に適した別の疎水性モノマーは、疎水性アクリレートモノマーおよび疎水性ビニルモノマーを含むが、それらに制約されない。前記疎水性モノマーの例は、スチレンモノマーおよびブチルメタクリレートモノマーである。
【0021】
親水性ポリマーアーム110および結合レドックスメディエーター130は、例えば、N-ビニルピロリジノン(NVP)とビニルフェロセン(VFc)の組み合わせから形成される結合レドックスメディエーターを有する親水性ポリマーアームを含めて、当業者に周知のいずれかの適切な親水性ポリマーアームとレドックスメディエーターの組み合わせであることもできる。
【0022】
さらに、本発明に記載のレドックスポリマーのレドックスメディエーターは、例えば、フェロセン、オスミウムレドックスメディエーター錯体、キノンレドックスメディエーター、フェリシアン化物レドックスメディエーター、メチレンブルーレドックスメディエーター、2,6-ジクロロインドフェノールレドックスメディエーター、チオニンレドックスメディエーター、ガロシアニンレドックスメディエーター、インドフェノールレドックスメディエーターおよびそれらの組み合わせを含めて、どんな適切なレドックスメディエーターであることもできる。
【0023】
図2は、電気化学的センサーの電極表面(E)に固定した、本発明の実施態様に従った4種類のレドックスポリマー100の簡略模式図である。図2の説明では、該レドックスポリマー100の1種類は、活性部位(A)を含むレドックス酵素(RE)と相互作用することが明らかである。図2は、レドックスメディエーターMが電極表面Eとレドックス酵素REと電子を交換することができる方法を図解することを意図した簡略図である。
【0024】
レドックス酵素REが、本質的に該酵素中に活性部位Aを持つタンパク構造であることを、当業者は認識するだろう。さらに、活性部位Aは、分析物(例、グルコース)を選択的に認識し、分析物と電子を交換する(即ち、供与または受容する)ことができるレドックス酵素REの一部である。
【0025】
図2の描写では、疎水性ポリマー主鎖120が、電極表面Eに吸着、または、その他では、接着されている。電極表面Eを液体サンプルに浸漬する場合に、この接着によって、レドックスポリマー100が電極表面Eに固定され、その結果、レドックスポリマー100(レドックスメディエーターM)が該電極表面から剥離および/または溶出しない。前記の接着は、電気化学的センサー、特に、レドックスメディエーターMがヒトに対して有毒である可能性があるので、生体内外で連続的にグルコースを測定する電気化学的センサーにおいて、非常に望ましい属性である。
【0026】
レドックスメディエーターMが電極表面から溶出することになると、該レドックスメディエーターMが人体に入るリスクがある。さらに、電気化学的センサーは、操作にレドックスメディエーターMを必要とするので、該レドックスメディエーターが電極表面付近から溶出できないこと重要である。
【0027】
図2に示すように、ペンダント状レドックスメディエーターM(即ち、ただ一点で該親水性ポリマーアームに結合させたメディエーター)がレドックス酵素REを貫通し、十分に活性部位Aに接近し、レドックスメディエーターMとレドックス酵素REの間の電子移動が可能になるように、親水性ポリマーアーム110を適合させて、レドックス酵素REに結合させることができる。各親水性ポリマーアーム110にペンダント状に結合したレドックスメディエーターが複数存在するので、レドックスポリマー100は、比較的高い媒介伝導度を有する。前記の比較的高い媒介伝導度によって、あるレドックスメディエーター物質から別のレドックスメディエーター物質へ電子が移動することができる。
【0028】
さらに、親水性アーム110は、非常に柔軟性が高いので、レドックス酵素REと電極表面Eの間で拡散し、それによって、活性部位Aから電極表面Eへ電子を移動させることができる。この点で、用語「柔軟性」は、ある容積内を移動する親水性アームの相対自由度を指す。この柔軟性は、親水性アーム長、それらの架橋密度、および該親水性アームを形成するポリマー材料の固有の熱および結晶性または非晶質特性の一要因である。
【0029】
レドックスポリマーは、当業者に周知のいずれかの適切な技術によって形成できる。例えば、図3は、本発明の典型的実施態様に従ってレドックスポリマー300を合成する反応順序の簡略図である。
【0030】
図3の反応順序は、化合物1を形成するNVPとVFcの共重合(図3の工程1参照)、化合物2を形成する化合物1の誘導体化(図3の工程2参照)、およびその後の、レドックスポリマー300を形成する化合物2のMMAへのグラフティング(図3の工程3参照)を含む。レドックスポリマー300を、共有結合レドックス成分(即ち、フェロセン成分)を保持する両親媒性グラフトコポリマーとして特徴付けることができることを、当業者は認識するだろう。以下の実施例で述べるように、前記レドックスポリマーは、電気化学的グルコースセンサーにおいて有用である。
【0031】
図3では、レドックスポリマー300の親水性ポリマーアームそれぞれにおけるNVP対VFcのモル比は、m:nで表す。さらに、レドックスポリマー300の疎水性ポリマー主鎖中のMMAモノマー対レドックスポリマー300の親水性ポリマーアームのモル比を、p:qで表す。さらに、レドックスポリマー300のレドックスメディエーターがフェロセン(Fc)であることを、当業者は認識するだろう。
【0032】
図3における工程1の共重合は、共重合停止と化合物1の末端のヒドロキシル基の官能基付与を助長するため、イソプロポキシエタノール(IPEtOH)の存在下で実施できる。図3の反応順序で、化合物1は、フェロセン成分を有するオリゴ(N-ビニルピロリドン)を指すことができ、例えば、約5,000〜15,000 g/moleの範囲の分子量を有する。さらに、化合物1のNVP:VFc (即ち、m:n)のモル比は、例えば、約100:1〜約100:5の範囲であることができる。
【0033】
さらに、図3の工程1で用いるIPEtOH:NVPのモル比は、例えば、約0.5〜約3:1の範囲であることができる。当業者は、いったん本発明を知らされると、化合物1が、レドックスポリマー300中に複数のレドックスメディエーターを有する親水性ポリマーアームを形成することを認識するだろう。
【0034】
また、当業者は、普通の重合技術が、レドックスメディエーターが統計的に分布する親水性ポリマーアームを生成することも認識するだろう。しかし、該重合技術は、高い割合の前記親水性ポリマーアームが複数のレドックスメディエーターを含むように容易に実施でき、該親水性ポリマーアームは、平均的に複数のレドックスメディエーターを含むことができる。
【0035】
図3の反応順序では、IPEtOH対NVP比が化合物1の分子量を予め決定する。比較的高比率のIPEtOHが比較的低分子量の化合物1を生じる。逆に、比較的低比率のIPEtOHは、比較的高分子量の化合物1を生じる。そのため、レドックスポリマー300の親水性ポリマーアームが該親水性アームに結合したメディエーターとレドックス酵素の間の迅速な電子交換を可能にするのに十分な長さで、十分に柔軟であるように、化合物1の分子量を予め決定することができる。
【0036】
しかし、レドックスポリマー300の親水性アームが長すぎると、レドックスポリマー100が電極表面から剥離し易いことが確認されている。上記の分子量範囲およびm:nモル比に従って、化合物1に対するVFcの平均数は、例えば、1以上〜約7の範囲であることができる。
【0037】
比較的高い親水度をレドックスポリマー300の親水性ポリマーアームに付与するのがNVPの親水特性である点に、注目することが必要である。アクリレートまたはビニル重合可能な官能基を有する別の親水性モノマーも、本発明の典型的実施態様に従ってレドックスポリマーで使用でき、例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート、N-イソプロピルアクリルアミド、グリセロールメタクリレートおよびアクリルアミドがある。様々なレドックスメディエーターおよび/または様々な親水性モノマーを用いるためには、適宜、図3の合成順序を変更する必要があることを、当業者は認識することとなる。
【0038】
図3の工程2において、メタクイルクロライドで化合物1を誘導体化し、メタクリレートを末端官能基とするマクロモノマー(化合物2)を形成する。化合物2は、レドックスポリマー300の疎水性ポリマー主鎖とグラフトコポリマーを形成できるアクリレート基を有する。
【0039】
図3の工程3において、化合物2をMMAと共重合し、レドックスポリマー300を形成する。工程3に従って、化合物2が本質的にレドックスポリマー300の親水性アームに変換されている点に注目することが必要である。レドックスポリマー300は、両親媒性グラフトコポリマーで、電極に強力に接着する特徴と、レドックス酵素と電子を交換する能力を有する。さらに、レドックスポリマー300は、アルコールなどの各種の一般的有機溶媒に可溶であり、容易な溶解および製造容易性を可能にする。
【0040】
レドックスポリマー300は、例えば、約20kg/mole〜80kg/moleの範囲の分子量を有する。さらに、p:qモル比は、約50:1〜約150:1の範囲であることができる。該レドックスポリマーが親水-疎水バランスを保ち、疎水性ポリマー主鎖またはその一部を電極表面に確実に結合させる(例、確実に吸収させる)ことができるように、p:q比を予め決定する。同時に、該レドックスポリマーの親水性ポリマーアームを、前記電極を浸漬させる液体サンプルに自由に延長させることができる。
【0041】
レドックスポリマー300の疎水性ポリマー主鎖に比較的高い疎水度を付与するのがMMAの疎水特性である点に注目することが必要である。本発明の典型的実施態様に従ったレドックスポリマーでの使用に適した別の疎水性モノマーは、例えば、スチレンおよびブチルメタクリレートなどの疎水性アクリレートまたはビニルモノマーを含む。
【実施例1】
【0042】
図3の化合物1の合成
15mlのIPEtOH中、10.2gのNVP、0.88gのVFcおよび0.05gの2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)の反応溶液を使ってフリーラジカル共重合により図3の化合物1を合成した。合成は、丸底フラスコ中で実施した。
【0043】
合成開始前に、該反応溶液に窒素をバブリングで1時間通して脱酸素化した。その後、窒素雰囲気下で連続電磁攪拌しながら、該反応フラスコを油浴中で70℃まで24時間加熱した。該反応溶液中の化合物1をジクロロメタンに溶解し、ジエチルエーテルで該反応溶液から沈殿させた。次に、沈殿した化合物1を濾過し、50℃のオーブン中で乾燥した。
【実施例2】
【0044】
図3の化合物2の合成
20mlの乾燥ジクロロメタン中1.2gの乾燥トリエチルアミンの存在下で、2.0gの化合物1(上記の実施例1の記述どおりに調製)を0.8gのメタクリロイルクロライドと反応させて化合物2を合成した。反応は、窒素雰囲気下で連続電磁攪拌しながら、室温、丸底フラスコ中で一晩実施した。
【0045】
その後、0.1N HCl、0.5N炭酸カリウムおよび蒸留水を含有する溶液で該反応溶液を洗浄した。次に、生じた溶液の有機相を収集し、減圧下、室温でロータリーエバポレーターを使って濃縮することによって、化合物2の精製サンプルが得られた。その後、化合物2の該精製サンプルを50℃のオーブン中で乾燥した。
【実施例3】
【0046】
本発明の実施態様に従ったレドックスポリマーの合成(即ち、図3のレドックスポリマー300)
60mlの1-ペンタノール中、1.0gの化合物2、2.62gのMMAおよび0.06gのAIBNを使って、フリーラジカル共重合によってレドックスポリマー300(両親媒性ポリマー)を合成した。反応は、丸底フラスコ中で実施した。
【0047】
合成開始前に、窒素をバブリングで1時間通して、1-ペンタノール溶媒を脱酸素化した。その後、窒素雰囲気下で連続電磁攪拌しながら、該反応溶液を油浴中で70℃まで24時間加熱した。ジエチルエーテルで該反応溶液からレドックスポリマー300を沈殿させた後、50℃のオーブン中で乾燥した。
【実施例4】
【0048】
図3のレドックスポリマー300の電気化学的評価
2-イソプロパノールに溶解したレドックスポリマー300(上記の実施例3のとおりに調製)を含有する溶液にガラス状炭素電極(GCE)を浸けた。リン酸緩衝食塩水(PBS)に該GCEを浸漬し、 20ミリボルト/秒のサイクリックボルタメトリー(CV)を使って−0.1〜0.5ボルトの間で、Ag/AgClに対して試験した。被験電圧範囲内に還元および酸化ピークが存在する(図4に示すとおり)のは、電極活性フェロセンがGCE上に固定されていることを指摘していた。60回のCVスキャンを実施し、結果は、酸化および還元ピークの有意な低下を示さず、レドックスポリマー300がGCEを洗い流さなかったことを表している。
【実施例5】
【0049】
化合物2の電気化学的評価
2-イソプロパノールに溶解した化合物2 (上記の実施例2のとおりに調製)を含有する溶液にガラス状炭素電極(GCE)を浸けた。リン酸緩衝食塩水(PBS)に該GCEを浸漬し、 20ミリボルト/秒のサイクリックボルタメトリー(CV)を使って−0.1〜0.5ボルトの間で試験した。実施例4とは対照的に、酸化および還元ピークの大きさは、連続CVスキャン時、急速に減少した(図5に示すとおり)。これは、化合物2がGCEを洗い流したことを表している。
【実施例6】
【0050】
化合物2の存在下でのレドックスポリマー300の電気化学的評価
2-イソプロパノールに溶解した化合物2およびレドックスポリマー300を含有する溶液にガラス状炭素電極(GCE)を浸けた。リン酸緩衝食塩水(PBS)に該GCEを浸漬し、 20ミリボルト/秒のサイクリックボルタメトリー(CV)を使って−0.1〜0.5ボルトの間で試験した。実施例4と同様に、60回のCVスキャン後、酸化および還元ピークの大きさは、有意に減少しなかった(図6に示すとおり)。
【0051】
これは、レドックスポリマー300の親水部分への高い親和性を有し、また、化合物2をGCEに強力に接着させることを表している。さらに、図6の酸化および還元ピークの分離は、図4の分離よりも小さく、化合物2とレドックスポリマー300の混合物がレドックスポリマー300単独よりも速い電子移動速度を示すことを示唆しており、レドックスポリマー300の親水性ポリマーアームが提供する均質な親水環境の有益効果を実証している。
【0052】
図7は、本発明の典型的実施態様に従った電気化学的センサーで用いる被覆電極700の簡略断面図である。被覆電極700は、電極710(炭素電極など)と電極710表面を覆う化学組成物720を含む。該化学組成物は、疎水性ポリマー主鎖を持つレドックスポリマー(上記のとおり)、前記疎水性ポリマー主鎖、前記疎水性ポリマー主鎖に結合した少なくとも1個の親水性ポリマーアーム、および前記の少なくとも1個の親水性ポリマーアームに結合した複数のレドックスメディエーターを含む。所望すれば、該レドックス組成物は、例えばグルコースオキシダーゼまたはグルコースデヒドロゲナーゼなどのレドックス酵素も含むことができる。前記のレドックス酵素は、例えば、メトキサチン系またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチド系であることができる。
【0053】
本明細書で述べる本発明の実施態様の各種代替態様を本発明の実施において利用可能であることを理解することが必要である。以下のクレームは、本発明の範囲およびこれらクレームの範囲内の構造を明示し、それらの等価物が該クレームに網羅されることを意図している。
【0054】
好ましい実施態様を下述のとおりに提供する。
(1) 電気化学的センサーへの使用のためのレドックスポリマーであって、前記レドックスポリマーが疎水性ポリマー主鎖;前記疎水性ポリマー主鎖に結合した少なくとも1個の親水性ポリマーアーム;および、前記の少なくとも1個の親水性ポリマーアームに結合した複数のレドックスメディエーターを含むレドックスポリマー。
(2) 前記疎水性ポリマー主鎖が疎水性ポリ(メチルメタクリレート)ポリマー主鎖である実施態様1のレドックスポリマー。
(3) 前記親水性ポリマーアームが親水性オリゴ(N-ビニルピロリジノン)ポリマーアームである実施態様1のレドックスポリマー。
(4) 前記レドックスメディエーターがフェロセン系レドックスメディエーターである実施態様1のレドックスポリマー。
(5) 電気化学的センサーへの使用のためのレドックスポリマーであって、前記レドックスポリマーが、メチルメタクリレート(MMA)モノマーから形成される疎水性ポリマー主鎖;前記疎水性ポリマー主鎖に結合し、N-ビニルピロリジノン(NVP)から形成される少なくとも1個の親水性ポリマーアーム;および前記の少なくとも1個の親水性アームに結合し、ビニルフェロセン(VFc)から形成される複数のフェロシンレドックスメディエーターを含むレドックスポリマー。
【0055】
(6) MMAモノマー対親水性ポリマーアームのモル比が約50:1〜150:1の範囲である実施態様5のレドックスポリマー。
(7) NVP対VFcのモル比が約100:1〜約100:5である態様実施6のレドックスポリマー。
(8) 前記レドックスポリマーが20kg/mole〜80kg/moleの範囲の分子量を有する実施態様7のレドックスポリマー。
(9) 前記疎水性主鎖に結合する親水性アームが複数個存在し、前記親水性ポリマーアームのそれぞれに結合したレドックスメディエーターが平均して複数個存在する実施態様1のレドックスポリマー。
(10) 電気化学的センサーであって、電極;および、前記電極の表面を覆う化学組成物で、前記化学組成物が疎水性ポリマー主鎖;前記疎水性ポリマー主鎖に結合した少なくとも1個の親水性ポリマーアーム;および前記の少なくとも1個の親水性ポリマーアームに結合した複数個のレドックスメディエーターを含む組成物を含むセンサー。
【0056】
(11) 前記化学組成物がさらにレドックス酵素を含む実施態様10の電気化学的センサー。
(12) 前記レドックス酵素が、グルコースオキシダーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼから成る群から選択されるレドックス酵素である実施態様11の電気化学的センサー。
(13) 前記親水性アームが、N-ビニルピロリドン、ヒドロキシエチルメタクリレート、N-イソプロピルアクリルアミド、グリセロールメタクリレート、アクリルアミドのうちの少なくとも1種類およびそれらの組み合わせから形成される実施態様10の電気化学的センサー。
(14) 前記疎水性ポリマー主鎖が、メチルメタクリレート、スチレン、ブチルメタクリレートのうちの少なくとも1種類およびそれらの組み合わせから形成される実施態様10の電気化学的センサー。
【0057】
本発明の原理を用いた具体例を示す以下の詳細な説明と、番号と要素が対応する添付図面を参照することによって本発明の特徴と長所をさらによく理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の典型的実施態様に従った電気化学的センサーでの使用のためのレドックスポリマーの簡略模式図である。
【図2】電気化学的センサーの電極に固定した本発明の典型的実施態様に従ったレドックスポリマーの簡略模式図である。
【図3】本発明の典型的実施態様に従ったレドックスポリマー合成の反応順序の簡略図である。
【図4】図3のレドックスポリマー300で被覆した電極のサイクリックボルタモグラムである。
【図5】図3の化合物1で被覆した電極のサイクリックボルタモグラムである。
【図6】図3のレドックスポリマー300と化合物2の混合物で被覆した電極のサイクリックボルタモグラムである。
【図7】本発明の典型的実施態様に従った電気化学的センサーの電極の簡略断面図である。
【符号の説明】
【0059】
100、300 レドックスポリマー
110 親水性ポリマーアーム
120 疎水性ポリマー主鎖
130 レドックスメディエーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学的センサーへの使用のためのレドックスポリマーであって、前記レドックスポリマーが疎水性ポリマー主鎖;前記疎水性ポリマー主鎖に結合した少なくとも1個の親水性ポリマーアーム;および、前記の少なくとも1個の親水性ポリマーアームに結合した複数のレドックスメディエーターを含むレドックスポリマー。
【請求項2】
前記疎水性ポリマー主鎖が疎水性ポリ(メチルメタクリレート)ポリマー主鎖であることを特徴とする請求項1に記載のレドックスポリマー。
【請求項3】
前記親水性ポリマーアームが親水性オリゴ(N-ビニルピロリジノン)ポリマーアームであることを特徴とする請求項1に記載のレドックスポリマー。
【請求項4】
前記レドックスメディエーターがフェロセン系レドックスメディエーターであることを特徴とする請求項1に記載のレドックスポリマー。
【請求項5】
電気化学的センサーへの使用のためのレドックスポリマーであって、前記レドックスポリマーが、メチルメタクリレート(MMA)モノマーから形成される疎水性ポリマー主鎖;前記疎水性ポリマー主鎖に結合し、N-ビニルピロリジノン(NVP)から形成される少なくとも1個の親水性ポリマーアーム;および前記の少なくとも1個の親水性アームに結合し、ビニルフェロセン(VFc)から形成される複数のフェロシンレドックスメディエーターを含むレドックスポリマー。
【請求項6】
MMAモノマー対親水性ポリマーアームのモル比が約50:1〜150:1の範囲であることを特徴とする請求項5に記載のレドックスポリマー。
【請求項7】
NVP対VFcのモル比が約100:1〜約100:5であることを特徴とする請求項6に記載のレドックスポリマー。
【請求項8】
前記レドックスポリマーが20kg/mole〜80kg/moleの範囲の分子量を有することを特徴とする請求項7に記載のレドックスポリマー。
【請求項9】
前記疎水性主鎖に結合する親水性アームが複数個存在し、前記親水性ポリマーアームのそれぞれに結合したレドックスメディエーターが平均して複数個存在することを特徴とする請求項1に記載のレドックスポリマー。
【請求項10】
電気化学的センサーであって、電極;および、前記電極の表面を覆う化学組成物で、前記化学組成物が疎水性ポリマー主鎖;前記疎水性ポリマー主鎖に結合した少なくとも1個の親水性ポリマーアーム;および前記の少なくとも1個の親水性ポリマーアームに結合した複数個のレドックスメディエーターを含む組成物を含むセンサー。
【請求項11】
前記化学組成物がさらにレドックス酵素を含むことを特徴とする請求項10に記載の電気化学的センサー。
【請求項12】
前記レドックス酵素が、グルコースオキシダーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼから成る群から選択されるレドックス酵素であることを特徴とする請求項11に記載の電気化学的センサー。
【請求項13】
前記親水性アームが、N-ビニルピロリドン、ヒドロキシエチルメタクリレート、N-イソプロピルアクリルアミド、グリセロールメタクリレート、アクリルアミドのうちの少なくとも1種類およびそれらの組み合わせから形成されることを特徴とする請求項10に記載の電気化学的センサー。
【請求項14】
前記疎水性ポリマー主鎖が、メチルメタクリレート、スチレン、ブチルメタクリレートのうちの少なくとも1種類およびそれらの組み合わせから形成されることを特徴とする請求項10に記載の電気化学的センサー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−78468(P2006−78468A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−216928(P2005−216928)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(596159500)ライフスキャン・インコーポレイテッド (100)
【氏名又は名称原語表記】Lifescan,Inc.
【住所又は居所原語表記】1000 Gibraltar Drive,Milpitas,California 95035,United States of America
【Fターム(参考)】