説明

電気化学的熱力学的測定システム

【課題】電極並びに電気化学的エネルギー蓄積/変換システムの、熱力学的性質及び材料特性を正確に特徴付けるシステム及び方法を提供する。
【解決手段】システム100及び方法は、電極反応の進展状態、電圧、及び温度に関連する、複数の相互に関連する電気化学的パラメータ及び熱力学的パラメータを特徴付ける、一連の測定値を同時に収集することが可能である。本方法及びシステムによって提供される向上した感度と、熱力学的に安定した電極状態を反映する測定条件を組み合わせることにより、電極/電気化学セル反応のギブス自由エネルギー、エンタルピー、及びエントロピーなどの状態関数を含む、熱力学的パラメータを非常に正確に測定することが可能になり、それによって、電気化学セルのエネルギー、電力密度、電流率、及びサイクル寿命など、電極材料及び電気化学的システムの重要な性能属性を予測することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[関連出願の相互参照]
[001]本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる2005年8月3日出願の米国仮特許出願第60/705,535号の利益を主張する。
【0002】
[発明の背景]
[002]過去数十年にわたって、電気化学的蓄積/変換装置は著しい進歩を遂げ、可搬型電子機器、航空機及び宇宙船技術、並びに生物医学用装置を含む様々な分野において、それらのシステムの可能性は拡大してきた。現在の最新の電気化学的蓄積/変換装置は、様々なユーザ用途と適合するように特に選択された、設計及び性能属性を有する傾向がある。例えば、現在の電気化学的蓄積システムは、信頼性が高く実行時間が長い、軽量且つ安定した電池から、非常に高い放電率を提供することが可能な高容量電池に至る範囲に及ぶ。近年の進歩にも関わらず、高電力の可搬型電子製品の広範囲に及ぶ発展とそれらに対する需要は、広範なこれらの用途に適したより一層高い性能の電池を開発するという著しい圧力を研究者たちにもたらしている。更に、家庭用の電化製品及び器具類の分野における小型化の需要が、高性能電池のサイズ、重量、及び形態の要素を低減するための新規な設計及び材料戦略へと研究を刺激し続けている。
【0003】
[003]電気化学的蓄積/変換技術におけるより近年の進歩は、電池構成要素の新たな材料を発見し集積化することに直接原因がある。例えば、リチウムイオン電池技術は、少なくとも部分的に、これらのシステムのための新規なカソード及びアノード材料の集積化に起因して、急速に発展し続けている。挿入炭素アノード材料の先駆的な発見及び最適化から、ナノ構造化遷移金属酸化物挿入カソード材料及びナノリン酸カソード材料のより最近の発見まで、新たな材料の発展は、一次及び二次リチウムイオン電池の設計及び性能の可能性を激変させてきた。例えば、高度な電極材料は、これらのシステムによってもたらされるエネルギー容量、エネルギー密度、放電電流率、及びサイクル寿命を大幅に向上させ、それにより、リチウムイオン電池は、次世代の高電力可搬型電子システム、ハイブリッド電気自動車(HEV)、及び電気自動車(EV)に好ましい技術として位置付けられている。電極材料における進歩は、更に、電気化学キャパシタ及びスーパーキャパシタ、並びに燃料セルなど、積極的な影響を受けた他のシステムに対する大きな展望を有しており、これらの技術を幅広い装置の用途に使用するにあたって極めて重要であろう。したがって、新規な電極材料の特定及び性能評価は、現在、新たな改善された電気化学的エネルギー蓄積/変換システムの開発における研究優先事項である。
【0004】
[004]電気化学的エネルギー蓄積/変換装置は、アノードとカソードの2つの電極を使用し、これらの電極は、純粋なイオン伝導体である電解質によって分離された導電体である。放電中に生成される電流は、正又は負に帯電したイオンが電解質と交換される、電極表面で起こる化学反応及び物理的プロセス(例えば、電荷移動)によるものである。これらのプロセスは次に、電子を生成又は吸収し、それによってシステムの電気的中性が維持される。電荷交換は、電極表面及びバルク構造の性質の重要な変化を引き起こす。特に、電荷移動プロセスは各電極の電位及び反応速度に影響し、それらによって、電気化学的電力生成装置のエネルギー及び電力密度出力が設定される。例えば、充電式電池の場合、電極表面及びバルク構造における1つ又は複数のメカニズム及び変化の程度が、特定の熱力学的及び速度論的動作条件(例えば、温度、充電及び放電電圧限界、電流率など)でのサイクル寿命を決定する。
【0005】
[005]電極の反応と物理的変化の熱力学を理解することは、任意の電気化学的蓄積/変換システムの性能及び安定性を予測する際に不可欠である。例えば、重要な熱力学的状態関数は、少なくとも部分的に、自律的な電気化学的電力源のエネルギー、電力、及びサイクル寿命を確立する。実際に、エネルギー密度は、可逆的に交換される電荷の総量と交換が生じる電位を反映する。他方では、サイクル寿命は、充電又は放電のプロセスにおける電極変化に起因する、状態又は位相の安定性に関する。これらのプロセスはすべて、少なくともある程度まで、電極反応の熱力学によって制御される。
【0006】
[006]電気分析方法(例えば、サイクリックボルタンメトリー、ポテンシオメトリーなど)及び分光技術(例えば、X線回折、NMR、LEEDなど)を含む多数の技術が開発され、電極反応の熱化学的速度論の評価に適用されてきた。しかし、ほぼすべての電気化学的エネルギー蓄積/変換システムにおける熱力学の重要性を鑑みて、現在、当該分野では、これらのシステムの性能属性及び能力を予測し最適化するのに必要な確度で、エントロピー、エンタルピー、及びギブス自由エネルギーにおける変化などの重要な熱力学的パラメータを測定するシステム及び方法が必要とされている。そのようなシステムは、次世代の電気化学的エネルギー蓄積/変換システムのための新たな材料を特定するにあたって、重大な役割を果たすと思われ、また、確立されたカソード及びアノード材料の熱化学的速度論の理解を高めるのに大幅に寄与するであろう。新たな熱力学的分析システムは、更に、電池及び燃料セルなど、市販の電極システムにおける材料の性質及び性能を特徴付ける、多目的試験機器としての大きな可能性を有している。
【0007】
[発明の概要]
[007]本発明は、電極並びに電気化学的エネルギー蓄積/変換システムの、熱力学的性質及び材料特性を正確に特徴付けるシステム及び方法を提供する。本発明のシステム及び方法は、電極反応の進展状態、電圧、及び温度に関連する、複数の相互に関連する電気化学的パラメータ及び熱力学的パラメータを特徴付ける、一連の測定値を同時に収集することが可能である。本発明の方法及びシステムによって提供される向上した感度と、熱力学的に安定した電極状態を反映する測定条件を組み合わせることにより、電極/電気化学セル反応のギブス自由エネルギー、エンタルピー、及びエントロピーなどの状態関数を含む、熱力学的パラメータを非常に正確に測定することが可能になり、それによって、電気化学セルのエネルギー、電力密度、電流率、及びサイクル寿命など、電極材料及び電気化学的システムの重要な性能属性を予測することが可能になる。
【0008】
[008]本発明のシステム及び方法によって、更に、電気化学的システムにおける電極の設計及び性能にとって重要な、組成、位相、及び材料特性を敏感に特徴付けることが可能になる。本発明の方法により、電極の電気化学的性質並びに電気化学的蓄積/変換システムの性能に劇的な影響を与える、電極材料の相転移、結晶子サイズ、表面欠陥、バルク欠陥、及び結晶構造欠陥を特定し特徴付けることが可能になる。例えば、熱力学的状態関数は、X線回折法又は単純な開回路セル電位測定法などの従来の手段では検出することが不可能ではないにしても困難かもしれない、主要な又は小さな相転移を特定することが可能な確度で、本発明のシステム及び方法によって測定することができる。小さな転移は、より大幅な転移の始まり又は前触れであることがあり、長期のサイクルでは、電池のエネルギー、電力、及びサイクル寿命といった性能に影響を及ぼすことになる。そのような転移を検出し、それらの原因を理解することは、電極材料設計を最適化するのに重要である。
【0009】
[009]本発明のシステム及び方法は、更に、一次電池、二次電池、及び挿入電極(intercalating electrode)材料を含むがそれに限定されない電極材料などの、電気化学セルの設計、試験、及び特徴付けに有用な、一連の熱力学的パラメータを特徴付けることに適用可能である。ただし、本発明のシステム及び方法の可能性は、電池を越えて広がり、熱力学的データの獲得が電極反応及び装置性能のエネルギー学における重要な洞察も提供する、燃料セル、EDLC、ガス電極、触媒作用、腐食、電着、及び電気合成を含む他の電気化学装置/システムにおける電極反応を包含する。
【0010】
[010]1つの態様では、本発明は、電極対(例えば、負極と正極)を有する電気化学セルを熱力学的に評価する測定システムを提供する。本発明の測定システムは、(i)時間に応じて変わる電気化学セルの開回路電圧を測定する手段と、(ii)選択された電気化学セル組成を確立する、電気化学セルに電気的に接続された組成コントローラと、(iii)選択された組成それぞれに対して複数の選択された電気化学セル温度を確立する、電気化学セルと熱的に接触している温度コントローラと、(iv)開回路電圧を測定する手段から時間に応じて変わる開回路電圧測定値を受け取るように提供された開回路電圧アナライザとを備える。組成コントローラは、複数の選択された組成を確立することが可能であり、したがって、温度コントローラ及び組成コントローラによって提供された機能性の組合せは、電気化学セルの温度と組成の複数の選択された組合せを確立する能力を提供する。開回路電圧アナライザは、電気化学セルの選択された温度と組成の組合せに対応する、時間に応じて変わる開回路電圧測定値を受け取り、組成コントローラ及び温度コントローラによって確立された電気化学セルの温度と組成の選択された組合せに対して、電気化学セルの熱化学的に安定した状態における開回路電圧を特定する。
【0011】
[011]本明細書において、「熱力学的に安定した状態」という用語は、測定された開回路電圧が平衡セル電圧に近似する実験条件を指し、それにより、測定値を使用して確度をもって熱力学的パラメータ及び材料特性を決定することができるので、それらのパラメータを使用して、電極及び/又は電気化学セルの電気化学的属性、材料属性、及び性能属性を評価してもよい。熱力学的に安定した状態における開回路電圧の測定により、電極/電気化学セル反応のギブス自由エネルギー、エンタルピー、及びエントロピーなどの状態関数を決定することが可能になる。熱力学的に安定した状態は、絶対平衡条件からのある程度の偏差を含むものとする。いくつかの実施形態では、熱力学的に安定した状態における開回路電圧は、1mV未満だけ真の平衡電圧から逸脱し、好ましくは、いくつかの実施形態の場合、状態は0.1mV未満だけ真の平衡電圧から逸脱する。本発明のいくつかの実験条件下では、開回路電圧は、アノード及びカソードにおけるLiのギブス自由エネルギーの差のほぼ正確な指標であり、あらゆる観測偏差は、分析中に使用される測定技術における限界によるものである。熱力学的に安定した状態を反映する開回路電圧測定値を正確に特定する能力は、分析される電極の重要な熱力学的性質、電気化学的性質、及び材料特性を特徴付けるのに使用されてもよい、開回路電圧、温度、及び組成の測定値を提供するのに有用である。
【0012】
[012]いくつかの実施形態では、「電気化学セル」という表現は、次の3つの主な活性材料から構成される装置を指す。
1)アノード:一般的に、酸化が起こる電極である。酸化は電子の損失であり、R→O+neとして図式化することができ、式中、Rは、化学種又はアノード材料に使用される化学物質の還元体、Oはその酸化体である。それは、中性又は正荷電(カチオン)或いは負荷電(アニオン)を含み、nは、アノード反応において交換されたRモル当たりの電子モルの数である。アノードは放電中のセルの負極である。
2)カソード:一般的に、還元(電子獲得)が起こる電極である。反応は上述の反応の逆、すなわち、O+ne→Rであり、式中、Oは、化学種又はカソード材料に使用される化学物質の酸化体、Rはその還元体である。それは、中性又は正荷電(カチオン)或いは負荷電(アニオン)を含み、nは、アノード反応において交換されたOモル当たりの電子モルの数である。カソードは放電中のセルの正極である。
3)電解質:イオン伝導性材料であり、その役割は、電極反応が達成されるために必要なアニオン及びカチオンを提供することである。それは、通常、溶媒、及び塩、酸、又は塩基などの溶質材料である。場合によっては、電解質は、セルの充電及び放電の結果である組成を変更する(例えば、放電中に硫酸が消費される鉛蓄電池、Pb+PbO+2HSO→2PbSO+2HOを参照のこと)。
本明細書で使用されるとき、「電気化学セル組成」又は「電気化学セルの組成」という表現は、同義的に使用され、電気化学セルを含む活性材料(すなわち、アノード及びカソードなどの電極、並びに電解質)の組成及び/又は物理的状態を指す。したがって、いくつかの実施形態では、電気化学セル組成は、カソード及びアノード材料の表面組成及び/又はバルク組成、電解質の組成、或いはそれらの任意の組合せを指す。本発明のいくつかの実施形態では、「電気化学セルの組成」という表現は、電気化学セル又はその任意の構成要素(例えば、電極又は電解質などの活性材料)の充電状態を指す。
【0013】
[013]本発明に有用な電気化学セルの例としては、電池(一次及び二次)並びに燃料セルが挙げられるが、それらに限定されない。上述のアノード反応及びカソード反応は、電池及び燃料セルにおける電極プロセスの特性であり、いわゆるファラデープロセス(又はレドックスプロセス)における電解質と電極の間の電子移動を伴うが、電荷移動又はレドックスプロセスなしで、電極表面における電荷の蓄積を可能にする他の非ファラデープロセスがある。
【0014】
[014]本発明に有用な電気化学セルの例としては、電気化学二重層キャパシタ(EDLC)、及び電気化学二重層スーパーキャパシタが挙げられるが、それらに限定されない。電気化学二重層キャパシタEDLC(又はスーパーキャパシタ)では、吸着された電荷種のバランスを保ち、二重層構造内に中性種(A,h)及び(C,e)を形成するように、電極と電解質の界面において電子(e)又は正孔(h)が蓄積することにより、アニオンA又はカチオンCは電極表面上に蓄積される。充電及び放電中、アニオン及び/又はカチオンは表面に吸着され、又は表面から脱着され、それによって、電流が外部回路(充電器又は負荷)を流れて、表面電荷のバランスを保つ。
【0015】
[015]ハイブリッドスーパーキャパシタは、電池とEDLCの中間的部類の電力源である。それらは、一方は電池内などのファラデー電極であり他方はEDLCなどの非ファラデー(容量性)電極である、2つの電極を組み合わせるのでハイブリッドである。
【0016】
[016]電池、燃料セル、及びEDLCは、アノードとカソードの電圧が異なるという点で極性化されたシステムである。放電中、カソードは高電圧Vを有するので正極であり、一方、アノードは低電圧Vを持つ負極である。電圧の差U=V−Vは、異なるパラメータに依存し、最も重要なのは次のものである。
i.各電極の充電の状態(SOC):SOCは、通常、アノード(Qth(an)又はカソード(Qth(ca)に理論上蓄積された電荷全体の%で与えられる。
ii.放電電流(i)の密度:ゼロ電流下では、Ui=0は開回路電圧であり、それは時間とともに、SOC及び温度によって固定される均衡値Uになる傾向がある。
iii.温度
iv.システム構成要素、すなわちアノード、カソード、及び電解質の正常度(stateof health、SOH):SOHは、最も一般的には、充電/放電サイクル、過充電及び過放電、並びに熱的エージングなどである、システムの「履歴」によって変化する。電池、燃料セル、及びEDLCは「直列」モードで機能するので、活性構成要素、すなわちアノード、カソード、及び電解質の1つのいかなる性能低下もセルのSOHに影響する。
【0017】
[017]SOCが変わると、電極表面又はバルク組成、また場合によっては電解質組成も変わる。電極表面及び/又はバルク組成及び/又は電解質組成のこれらの変化は、少なくとも部分的に、本明細書に記載されるような電気化学セルの組成(すなわち、電気化学セル組成)を確立する。電極組成の変化は、電解質が消費される(例えば、鉛蓄電池、NiCd電池、及び亜鉛銀電池(下記の反応を参照のこと))、また通常のEDLC若しくはハイブリッドEDLCにおける電池システムに特に関連する。
A.鉛蓄電池の反応
【化1】


【化2】


【化3】


B.ニッケルカドミウムシステムの反応
【化4】


C.銀亜鉛、銀カドミウム、及び銀鉄システムの反応
【化5】

【0018】
[018]本発明の測定システムは、アノード、カソード、及び電解質の様々なSOCにおける、半電池及び全電池の熱力学的機能を測定することが可能である。
【0019】
[019]本発明において有用な開回路電圧を測定する手段は、電気化学セルの電極(例えば、カソード及びアノード)に電気的に接続された、電圧計、電圧抵抗ミリアンペア計、電位差計、及び/又は検流計を含むが、それらに限定されない。いくつかの実施形態では、機器内のセルの放電を回避するため、開回路電圧を測定するのに非常に大きな内部インピーダンスを有する電圧計が使用される。例えば、いくつかの応用例では、1GΩ程度の内部インピーダンスを有する電圧計を使用することが好ましく、またいくつかの応用例では、10GΩ程度の内部インピーダンスが好ましい。開回路電圧を測定する有用な手段は、NationalInstrument Card Lab−PC−1200である。一実施形態では、開回路電圧を測定する手段は、約1mV以内の確度で、好ましくはいくつかの応用例では約0.5mV以内の確度で、より好ましくはいくつかの応用例では約10μV〜約100μVの確度で、電気化学セルの開回路電圧を測定することが可能である。任意に、開回路電圧を測定する手段は、数秒(例えば、1秒)から数分(例えば、5分)の範囲の時間分離能で、時間に応じて変わる開回路電圧を測定する。いくつかの実施形態では、開回路電圧測定値は約10秒ごとに作られる。精度及び時間分離能が良好な開回路電圧を測定する手段を使用することで、電気化学セルの正確な熱力学的分析を可能にする測定値が提供され、更に、熱力学的に安定した状態を表す開回路電圧を的確に特定するシステム能力が向上する。
【0020】
[020]本明細書で使用されるとき、「電気化学セルの組成」という表現は、一般に、電気化学セルの構成要素のバルク組成及び/又は表面組成を指す。いくつかの実施形態では、電気化学セルの組成は、電気化学セルの電極(例えば、カソード及び/又はアノード電極)の組成などの、電気化学セルの電極の組成を指す。1つ又は複数の電極が挿入電極である実施形態では、電気化学セルの組成は、電極に物理的に関連したインターカラントの量、電極に物理的に関連したインターカラントの絶対量、又は電極に物理的に関連したインターカラントの濃度に対する挿入電極材料の化学量論比を指してもよい。いくつかの実施形態では、「電気化学セルの組成」という表現は、電解質の組成(例えば、電解質の構成要素(イオン性又は非イオン性)の1つ又は複数の濃度)を指す。本発明のいくつかの有用な実施形態では、「電気化学セルの組成」という表現は、電極(カソード、アノード、作用電極、対向電極など)若しくは電極の組合せの充電状態など、電気化学セル又はその任意の構成要素の充電状態を指す。
【0021】
[021]選択された電気化学セル組成を確立することが可能な任意の組成コントローラを、本発明に使用することができる。一実施形態では、組成コントローラは、電気化学セルを選択されたセル組成に対応する状態に充電することが可能な電気化学セル充電器、及び/又は電気化学セルを選択されたセル組成に対応する状態に放電することが可能な電気化学セル放電器である。いくつかの応用例に有用な組成コントローラは、定電流条件下で電気化学セルを充電及び/又は放電することが可能である。一実施形態では、組成コントローラは、選択された電気化学セル組成それぞれに対応する、電気化学セルの選択された充電状態(SOC)を確立することが可能である。本明細書において、電気化学セルのSOCは、電極のSOC(カソード又はアノードのSOCなど)又は電極の組合せのSOCを指してもよい。本発明のいくつかの実施形態では、組成コントローラは、電量分析を使用して電気化学セルの組成を決定することが可能である。一実施形態では、組成コントローラは、電量分析を使用して、例えば電気化学セル内を通る電気の量を測定することによって、電気化学セルの1つ又は複数の充電状態を決定することが可能な電量計である。任意に、充電状態は、5%以内の確度で、好ましくはいくつかの応用例では1%以内の確度で、より好ましくはいくつかの応用例では0.1%以内の確度で選択される。或いは、本発明の組成コントローラは、選択された電気化学セル組成それぞれに対応する選択された開回路電圧を、また任意に1mV以内の確度を有する選択された開回路電圧を、確立することが可能である。
【0022】
[022]電量分析は、電気化学セルのSOCを確立し、及び/又は決定することによって、電気化学セル組成を測定し及び/又は選択するための本発明に有用な技術である。したがって、いくつかの実施形態では組成コントローラは電量計を備える。例えば、i(t)を時間「t」におけるセル内の電流の強さとする。時間τにおける電荷の総量Q(τ)は、i(t)の時間積分によって与えられる。
【0023】
[023]
【数1】


アノード(an)、カソード(cat)、及び電解質(elec)のSOCは、次のように%単位で与えられる。
【数2】


全電池のSOCは、限定的な構成要素、すなわちアノード、カソード、又は電解質のSOCによって固定される。
SOC(fullcell)=inf(SOC(an),SOC(cat),SOC(elec)) (3)
(「inf」関数は一群のパラメータの最低値を設計する。)
i(t)を得ることを可能にする電気化学的技術としては、それらに限定されるものではないが、次のものが挙げられる。
i.定電流的方法:ここでは、印加電流又は電流密度は一定で、i(t)=Iである。したがって、通る電気の量は時間に比例し、Q(t)=Itである。通常、電極又はセル電圧は時間に対してプロットされ、これは定電流電解法と呼ばれる技術である。
ii.定電圧:熱力学的OCVと異なる定電圧を印加すると、電流i(t)がセル内を流れる。後者は時間に対して記録され、これは定電位電解法と呼ばれる技術である。この方法の変形は「電圧ステップ」方法であり、通常、一連の電圧ステップU(nはステップ数)が、一定の増分δU(U=U±nδU)で印加される。各ステップにおいて、電流が記録され積分される。
iii.線形掃引ボルタンメトリー及びサイクリックボルタンメトリーなどの動的電位(potentio−dynamic)方法:この方法では、電圧は、一定のペース(U(t)=U±kt、kは定数、Ulow<U(t)<Uup)で、2つの限界値Uup及びUlowの間で駆動される。電流応答i(t)が記録され、一般にU(t)に対してプロットされる。
iv.定荷重下での放電:セルは抵抗に接続され、電流は時間に対して記録される。
【0024】
[024]電気化学セルの組成、設計、及び/又は実験条件の適切な選択によって、本発明の測定システムは、選択された電極(カソード若しくはアノード)又は電解質など、電気化学セルの単一構成要素の、材料特性、SOH、及び/又は熱力学、並びに電気化学セルの単一構成要素において、若しくは単一構成要素中で生じる化学反応を精査することができる。そのような電気化学セルと測定システム構成の選択は、本発明の測定システムを使用して、電気化学セル単一の活性構成要素及びその化学反応に関する有用な情報(熱力学、組成、物理的性質など)を生成するのに有益である。例えば、電気化学セルの充電状態とは無関係な化学電位を有する第1の電極(例えば、対向電極)を有する電気化学セルを選択することによって、本発明のシステムは、第2の電極(例えば、作用電極)の様々な組成及び/又は充電状態に対して、熱力学的に安定した状態における開回路電圧の測定値を生成することが可能である。一実施形態では、例えば、純粋な電極材料(例えば、リチウム電極、カドミウム電極、又は亜鉛純金属電極)を備える第1の電極(例えば、対向電極)を使用することは、第2の電極(例えば、作用電極)の充電状態、組成、及び/又は化学反応を主に反映する開回路電圧測定値を提供するのに有用である。しかし、より一般的には、第1及び第2の電極に加えて基準電極(すなわち、第3の電極)を使用する本発明のシステムは、選択された電極(例えば、カソード又はアノード)の組成及び/又は充電状態(SOC)に応じて決まる、熱力学的に安定した状態における開回路電圧の測定値を提供するのに使用されてもよい。これらの実施形態では、基準電極(すなわち、第3の電極)を組み込むことで、電気化学セルの選択された電極の様々な組成、温度、及び化学反応に対して、熱力学的に安定した状態における開回路電圧の正確な測定が可能になる。そのようなシステム構成を使用することは、単一の電気化学セル構成要素の化学、物理的性質、熱力学、及び構造を主に反映する、熱力学的情報及び他の有用な情報を提供するために非常に有益である。例えば、基準電極を使用すること、或いは電気化学セルの充電状態とは無関係な化学電位を有する電極を選択することにより、単一電極の反応に対応する熱力学的状態関数(ΔH、ΔS、及びΔG)を決定することが可能になる。そのような情報は、電気化学セル構成要素の構造的、熱力学的、及び化学的特性決定に有用であり、電気化学セルの構成要素を評価する試験及び品質管理方法の基礎としての役割を果たしてもよい。
【0025】
[025]選択された1つ又は複数の温度で電気化学セルを確立し維持することが可能な任意の温度コントローラが、本発明において使用可能である。一実施形態では、温度コントローラは、約0.1°K以上の確度で、好ましくはいくつかの応用例では約0.05°K以上の確度で、選択された電気化学セル温度を確立する。いくつかの応用例で有用な温度コントローラは、安定した選択された電気化学セル温度を、例えば、約1°K以内で安定した、好ましくはいくつかの応用例では約0.5°K以内で安定した、より好ましくはいくつかの応用例では約0.1°K以内で安定した選択された温度を提供し維持する。一実施形態では、温度コントローラは、約10°Kに等しい、好ましくはいくつかの応用例では約20°Kに等しい、より好ましくはいくつかの応用例では約40°Kに等しい温度範囲にわたって、選択された電気化学セル温度を確立する。例えば、本発明のシステムは、約213°K〜333°Kの範囲から選択された温度(電気化学セルの化学、状態、及び組成に応じて)にわたって、約2°K〜約5°Kの範囲で選択された温度列段階(temperaturesequence step)で、一連の約2〜約10の選択された温度を確立することによって、選択された組成それぞれに対して選択された電気化学セル温度を確立することが可能な温度コントローラを使用することを含む。本発明のシステムは、更に、選択された別個の電気化学セル温度を提供する、又は温度の連続的な増加若しくは減少(例えば、温度傾斜)を提供することが可能な温度コントローラを含む。
【0026】
[026]本発明に使用可能な温度コントローラは、熱電冷却器、熱電加熱器、抵抗加熱器、温度浴、熱ポンプ、及び/又は放射冷却器などの加熱器又は冷却器を含む。ペルチェプレート熱電(Peltierplate thermoelectric)冷却器又は加熱器を備える温度コントローラを使用することは、急速に温度を変化させ、速い時間スケールで熱的に安定した電気化学セル温度条件を確立することが可能であるという理由で、いくつかの実施形態には有益である。ペルチェプレート熱電冷却器又は加熱器を使用することは、更に、良好な確度で予め選択された電気化学セル温度を提供することが可能であり、またコンピュータ制御のためのインターフェース接続が容易であるという理由で有益である。本発明のシステムの温度コントローラは、電気化学セルと熱的に接触している熱電対などの、電気化学セルの温度を測定する手段を更に備えてもよく、また任意に、熱電対から温度測定値を受け取り、選択された電気化学セル温度を確立し維持するために加熱器又は冷却器をフィードバック制御するプロセッサを更に備えてもよい。一実施形態では、本発明のシステムの温度コントローラは、熱的に安定した電気化学セル状態にアクセスするために加熱器又は冷却器をフィードバック制御する、比例/積分/微分アルゴリズムなどの制御アルゴリズムを使用するプロセッサを含む。
【0027】
[027]本発明の開回路電圧アナライザは、熱力学的に安定した状態に対応する開回路電圧を決定することが可能である。いくつかの実施形態では、開回路電圧アナライザは、更に、開回路電圧データを獲得することが可能であり、また任意に、エントロピー及びエンタルピーの変化などの熱力学的状態関数を計算し、電気化学セル及び電極材料を特徴付けるのに有用な、熱力学的状態関数と開回路電圧又は電気化学セル組成とのプロットを生成することを含む、測定システムによって生成されたデータを分析することが可能である。有用な開回路アナライザは、熱力学的に安定した状態に対応する開回路電圧を特定するため、時間に応じて変わる開回路測定値を利用するアルゴリズムを実行することができるプロセッサである。一実施形態では、開回路電圧アナライザは、開回路電圧を測定する手段から受け取った時間に応じて換わる開回路電圧測定値を使用して、電気化学セルの温度と組成の選択された組合せに対して、単位時間当たりの開回路電圧の観測変化率(ΔOCV/Δt)observedを計算することが可能である。例えば、開回路電圧アナライザは、開回路電圧を測定する手段から開回路電圧を受け取り、単位時間当たりの開回路電圧の観測変化率を計算するように構成される。単位時間当たりの開回路電圧の観測変化率それぞれについて、開回路電圧アナライザは、電気化学セルの温度と組成の選択された組合せに対する、単位時間当たりの開回路電圧の観測変化率の絶対値を、単位時間当たりの開回路電圧の閾値変化率(ΔOCV/Δt)thresholdと比較する。アナライザは、単位時間当たりの開回路電圧の観測変化率の絶対値が単位時間当たりの開回路電圧の閾値変化率以下のとき、開回路電圧が、電気化学セルの温度と組成の選択された組合せに対する、熱化学的に安定した状態における電気化学セルの開回路電圧と等しいことを決定する。
【数3】


典型的な実施形態では、時間に応じて変わる開回路電圧の閾値変化率は1mVh−1(ミリボルト/時)以下であり、好ましくは、いくつかの応用例では時間に応じて変わる開回路電圧の閾値変化率は0.3mV h−1以下であり、より好ましくは、いくつかの応用例では時間に応じて変わる開回路電圧の閾値変化率は0.1mVh−1以下である。
【0028】
[028]一実施形態では、例えば、アナライザは、様々な時間に対応する開回路電圧測定値を受け取り、この情報を使用して、単位時間当たりの開回路電圧の観測変化率を繰り返し(周期的に又は非周期的に)計算する。アナライザによって計算された観測変化率(ΔOCV/Δt)observedが閾値変化率(ΔOCV/Δt)threshold以下のとき、アナライザは、開回路電圧を測定する手段から最も最近受け取った開回路電圧測定値が熱化学的に安定した状態における開回路電圧と等しいと決定してもよく、開回路電圧を測定する手段から受け取る次の開回路電圧測定値が熱化学的に安定した状態における開回路電圧と等しいと決定してもよく、或いは、|(ΔOCV/Δt)observed|≦(ΔOCV/Δt)thresholdのとき、実験条件に対応する開回路電圧の時間平均値を計算してもよい。
【0029】
[029]本発明のシステムの重要な可能性は、電気化学セル状態を確立し、正確な熱力学的分析を可能にするのに必要な向上した確度で、電圧、時間、及び温度の測定値を収集する手段を提供することである。約1mV以内までの確度で開回路電圧を測定する手段と、例えば約0.1°K以内までで電気化学セル温度を確立することが可能な温度コントローラとの組合せの選択は、多数の利点を提供する。例えば、システム構成要素の性能属性のこの組合せは、多数の電極材料及び/又は電気化学的エネルギー変換/蓄積システムの、一連の重要な熱力学的パラメータ及び材料特性を決定するのに十分に正確な測定値を提供する。更に、これらの性能属性は、比較的狭い温度範囲(例えば、約10°K以下)に対応する測定値を使用して、電極/電気化学セル反応のギブス自由エネルギー、エンタルピー、及びエントロピーなどの熱力学的状態関数を決定することを可能にする。いくつかの応用例では、電気化学セルの狭い温度範囲に測定値を制限することは、熱力学的分析を困難にする、電極材料における熱的に活性化された相変化を回避し、電気化学セルの自己放電が顕著である電気化学セル温度を回避するために有益である。
【0030】
[030]本発明は、電気化学セルの組成を選択し、続いて確立された組成それぞれに対して一連の温度にアクセスすることによって、電気化学セルの温度と組成の選択された組合せが確立される方法及びシステムを含み、また、電気化学セルの温度を選択し、確立された温度それぞれに対して一連の組成にアクセスすることによって、電気化学セルの温度と組成の選択された組合せが確立される方法を含む。しかし、本発明は更に、電気化学セルの温度と組成の特定の選択された組合せが確立され、実験によって特徴付けられる実施形態を含む。本発明は、別個のセル温度を段階的に選択することによって電気化学セル温度が変えられる実施形態と、選択された比率(例えば、温度傾斜)で温度が連続的に変えられる実施形態とを含む。
【0031】
[031]本発明のシステムは、様々な異なる種類の電気化学セルを測定し特徴付けることが可能である。一実施形態では、作用電極の反応熱力学を調査するため、三電極セル(作用、対向、及び基準)が使用される。別の実施形態では、作用電極の反応熱力学を調査するため、対向電極が基準電極に同化することができる二電極セルが使用される。別の実施形態では、一次電池又は二次電池を構成する正と負の2つの作用電極を有する二電極セルが使用される。
【0032】
[032]本発明はまた、三電極システム(作用電極、対向電極、及び基準電極)が電気化学セルに組み込まれたシステムを含む。三電極システム(作用、対向、基準)は、平衡状態で作用電極電位を正確にOCV測定するのに有用である。三電極システムは、セルのOCV全体に対する作用電極及び対向電極の電圧寄与を決定するのにも有用である。正電極及び負電極から成る電池では、各電極の電位対基準電極を独立に測定することが有用であり、それは三電極セルを使用して達成することができる。三電極システム(作用、対向、及び基準)は、電流が電気化学セルを流れる実験条件にも有用である。作用電極電位は基準電極に対して測定され、それは本質的に規定の温度において定電位をとる。通常、基準電極の温度依存性は、作用電極の温度依存性と比較して無視できる程度である。例えば、リチウム電池研究では、一般的に、三電極セルは基準電極及び対向電極のための金属リチウムから構成される。水性電池に有用な基準電極は、Hg/HgCl/KCl、Hg/HgO/Ba(OH)、Ag/AgCl/HCl、Pt/キノンヒドロキノン/HClを含む。
【0033】
[033]いくつかの実施形態では、測定システムは、更に、作用電極(第1の電極)電位を測定するため基準電極を含む。これらの実施形態では、対向電極(第2の電極)は、作用電極の組成を選択的に変えるために使用される。このシステムにより、様々な作用電極組成に対して開回路電圧を測定することが可能になる。次に、これらの実施形態で測定された開回路電圧を使用して、作用電極の材料特性、熱力学、及び物理的性質を特徴付け、及び/又は作用電極において、若しくはその中で生じる化学反応を精査することができる。これは、三電極電気化学セルを備えた本発明の方法及びシステムに役に立つ本質的な利益である。金属リチウムアノードに基づくセル(半電池と呼ばれることがある)など、対向電極が基準電極の役割も果たすことができる場合がある。これらの場合では、平衡状態で作用電極電位を、したがってその反応熱力学的関数を決定するのに二電極セルが十分である。
【0034】
[034]別の態様では、本発明は、(i)複数の選択された電気化学セル組成を確立するため、電気化学セルの組成を制御するステップと、(ii)選択された電気化学セル組成それぞれに対して複数の選択された電気化学セル温度を確立し、それによって電気化学セルの温度と組成の複数の選択された組合せを確立するため、電気化学セルの温度を制御するステップと、(iii)選択された電気化学セル組成及び選択された電気化学セル温度に対して、時間に応じて変わる電気化学セルの開回路電圧を測定するステップと、(iv)電気化学セルの温度と組成の選択された組合せに対して、電気化学セルの熱化学的に安定した状態における開回路電圧を特定するステップとを含む、電極対(例えば、カソード及びアノード)を有する電気化学セルを熱力学的に評価する方法を提供する。電気化学セルが二次電池を備える一実施形態では、方法は、熱力学的に評価する前に、二次電池を複数回(例えば、2〜20回)サイクル動作させるステップを更に含む。一実施形態では、前記電気化学セルの組成を制御するステップは、前記選択された電気化学セル組成それぞれに対応する、電気化学セルの選択された充電状態及び/又は1つ若しくは複数の電極の選択された充電状態を確立することによって実施される。
【0035】
[035]本発明のいくつかの方法では、電気化学セルの開回路電圧は、1mV以内の確度で、好ましくはいくつかの応用例では0.5mV以内の確度で、より好ましくはいくつかの応用例では0.1mV以内の確度で測定され、電気化学セルの開回路電圧は、1秒以上の時間分解能で時間の関数として測定される。いくつかの実施形態では、電気化学セルの組成を制御するステップは、任意に、1mV以内の確度で、好ましくはいくつかの応用例では0.1mV以内の確度で、選択された電気化学セル組成それぞれに対応する開回路電圧を確立することによって実施される。いくつかの実施形態では、電気化学セルの温度を制御するステップは、約0.5°K以内で、好ましくはいくつかの応用例では約0.25°K以内で、より好ましくはいくつかの応用例では約0.05°K以内で選択された電気化学セル温度を確立する。
【0036】
[036]一実施形態では、電気化学セルの温度を制御するステップは、(i)電気化学セルの温度を測定するステップと、(ii)任意に、比例/積分/微分アルゴリズムなどのフィードバック制御アルゴリズムを使用して、選択された電気化学セル温度を確立するため、電気化学セルと熱的に接触している加熱器又は冷却器をフィードバック制御するステップとを含む。
【0037】
[037]一実施形態では、電気化学セルの熱化学的に安定した状態における開回路電圧を特定するステップは、(i)時間に応じて変わる開回路電圧測定値を使用して、選択された電気化学セル組成と選択された電気化学セル温度の組合せに対する、単位時間当たりの開回路電圧の観測変化率を計算するステップと、(ii)選択された電気化学セル組成と選択された電気化学セル温度の組合せに対する、単位時間当たりの開回路電圧の観測変化率の絶対値を、単位時間当たりの開回路電圧の閾値変化率と比較するステップと、(iii)単位時間当たりの開回路電圧の観測変化率の絶対値が単位時間当たりの開回路電圧の閾値変化率以下のとき、開回路電圧が、選択された電気化学セル組成及び選択された電気化学セル温度に対する、熱化学的に安定した状態における電気化学セルの開回路電圧に等しいことを特定するステップとを含む。いくつかの実施形態では、これらのステップは、熱力学的に安定した状態に対応する開回路電圧を決定するアルゴリズムを実行することが可能なプロセッサによって実施される。いくつかの実施形態では、単位時間当たりの開回路電圧の前記閾値変化率は約1mVh−1以下である。
【0038】
[038]本発明の方法は、開回路電圧、電気化学セル組成、時間、及び/又は温度の測定値が、電極、電解質、及び/又は電気化学セルの熱力学及び材料特性を特徴付け、及び/又は、エネルギー、エネルギー密度、電力密度、電流率、放電電圧、容量、及びサイクル寿命など、これらのシステムの電気化学的性能パラメータを予測するのに使用される、多数の分析ステップを更に含んでもよい。
【0039】
[039]本発明の1つの方法は、例えば、熱化学的に安定した状態における電気化学セルの開回路電圧と、選択された電気化学セル組成それぞれに対する温度とのプロットを生成する分析ステップを更に含む。この実施形態では、プロットそれぞれの傾斜及び切片の決定は、セル組成それぞれにおける電極での反応に対する、エントロピー(ΔS)及びエンタルピー(ΔH)それぞれの測定された変化に対応する。本発明のこの態様の分析ステップは、決定されたエントロピー及びエンタルピーのデータを使用して、セル組成それぞれにおける電極での反応に対する、ギブス自由エネルギーの変化(ΔG)を計算することを更に含んでもよい。
【0040】
[040]本発明の別の方法は、例えば、(i)測定されたエントロピーの変化(ΔS)と電気化学セル組成とのプロットを生成するステップと、及び/又は(ii)測定されたエンタルピーの変化(ΔH)と電気化学セル組成とのプロットを生成するステップと、(iii)測定されたエントロピーの変化(ΔS)と開回路電圧とのプロットを生成するステップと、(iv)エントロピーの変化(ΔS)とエンタルピーの変化(ΔH)とのプロットを生成するステップとの分析ステップを更に含む。ΔS若しくはΔHと電気化学セル組成若しくは開回路電圧とのそのようなプロットの特徴は、電極材料の位相(及び相変化)、モルフォロジー、及び/又は構造欠陥を特徴付けるのに有用である。更に、そのようなパラメータのエントロピー及びエンタルピー曲線は、電極(例えば、カソード及びアノード)材料、電解質、及び/又は電気化学セルを特徴付ける及び/又は特定するための「指紋」として使用することができる。電池の材料が循環すると、これらのトレースは、電極材料に生じる物理的及び/又は化学変化によって変わる。したがって、本発明の方法は、過重なサイクル動作の際に、又は高温若しくは過電位(カソード及びアノードそれぞれの過充電及び過放電)に晒された際に、電極材料の「正常度」を評価するのに、或いは、電極及び電気化学システムの欠陥の有無に関する品質管理情報を提供するのに有用である。
【0041】
[041]電極材料の組成が周知でないときであっても、ΔSとOCV又は電気化学セル組成とをプロットして、電極の材料特性を確認することは依然として非常に有用である。ΔS及びΔHは、電極材料の化学的組成に応じて変わり、ΔS及びΔHと開回路電圧又は組成とのパラメトリックプロットは、様々な材料の組成及び構造の違いに非常に敏感である。したがって、これらのパラメトリックプロットは、組成が前もってよく分かっていないときであっても、電極材料の同一性、組成、構造、欠陥構造などを確認するため、様々な材料に対する「指紋」としての役割を果たすことができる。
【0042】
[042]本発明の熱力学的測定方法システムにより、広範囲の機能性が可能になる。一実施形態では、本発明の方法は、電気化学セルの容量、比エネルギー、電力、サイクル寿命、セル電圧、安定性、自己放電、又は放電電流を含む、電極及び/又は電気化学セルの1つ又は複数の性能パラメータを予測する方法を含む。一実施形態では、本発明の方法は、1つ若しくは複数の電極又は電気化学セルの組成、モルフォロジー、位相、又は物理的状態を評価する方法を含む。一実施形態では、本発明の方法は、電極材料又は電気化学セルの表面欠陥構造、バルク欠陥構造、及び結晶欠陥構造を特定する方法を含む。一実施形態では、本発明の方法は、電極材料の相転移を特定する方法を含む。
【0043】
[043]1つの態様では、電池のSOHは、アノード、カソード、及び電解質という3つの主要なセル構成要素の1つ(又は組合せ)のSOHに関連する。各電極反応の熱力学的関数(ΔG、ΔS、及びΔH)は、対応する電極のSOHの指紋として使用される。これらの機能は、電気化学セル又はその任意の構成要素を定量的に特徴付けるため、「電極組成」又は「電極電位」に対してプロットすることができる。
【0044】
[044]本発明のシステム及び方法は、リチウムイオン電池、亜鉛炭素(ルクランシェ及び食塩水)電池、亜鉛酸化マンガンアルカリ電池、リチウムイオンポリマー電池、リチウム電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル金属水素化物電池、鉛蓄電池、ニッケル水素電池などの一次電池及び二次電池、並びに、燃料セル、光起電力セル、電気化学キャパシタ(及びスーパーキャパシタ)、及び電気化学二重層キャパシタ(及びスーパーキャパシタ)を含むがそれらに限定されない他のタイプの電気化学セルを含む、一連の電気化学セルを熱力学的に評価するのに有用である。本発明によって評価され、特徴付けられ、分析されてもよい代表的な電池システムは、表1(一次電池)及び表2(二次電池)に要約される。対向電極の純粋な材料(例えば、リチウム金属)の化学電位は充電状態とは無関係なので、純粋なリチウム金属などの純粋な対向電極を有する電池システムの分析は、本発明のいくつかの応用例において便利である。
【表1】


【表2】

【0045】
[045]本発明の方法及びシステムは、また、ガス電極、電気化学センサ、触媒作用材料、腐食システム、電着システム、及び電気合成システムが挙げられるがそれらに限定されない、電極対を有するほぼあらゆる電気化学システムを熱力学的に評価することが可能である。
【0046】
[046]本発明の方法及びシステムは、また、炭素電極、ナノ構造金属酸化物電極、及びナノリン酸電極などの挿入電極材料が挙げられるがそれらに限定されない、ほぼあらゆるタイプの電極又はあらゆる電極材料を熱力学的に評価し、又は分析することが可能である。
【0047】
[発明の詳細な説明]
[078]図面を参照すると、同様の番号は同様の要素を示し、2つ以上の図面に見られる同じ番号は同じ要素を指す。それに加えて、次の定義を以下に適用する。
【0048】
[079]「電気化学セル」という用語は、化学エネルギーを電気エネルギーに、又は電気エネルギーを化学エネルギーに変換する装置及び/又は装置構成要素を指す。電気化学セルは、一般的に、2つ以上の電極(例えば、カソード及びアノード)を有し、電極表面で生じる電極反応によって電荷移動プロセスがもたらされる。電気化学セルとしては、一次電池、二次電池、ガルバーニセル、燃料セル、及び光起電力セルが挙げられるが、それらに限定されない。
【0049】
[080]「開回路電圧」という用語は、回路が開いているとき(すなわち、無負荷状態)の電気化学セルの端子(すなわち、電極)間の電位の差を指す。ある条件下では、開回路電圧は電気化学セルの組成を評価するのに使用することができる。本発明の方法及びシステムは、電気化学セルの熱化学的に安定した状態における開回路電圧の測定値を利用して、電極、電気化学セル、及び電気化学システムの熱力学的パラメータ、材料特性、及び電気化学特性を決定する。
【0050】
[081]「容量」という用語は、電池などの電気化学セルが保持することが可能な電荷の総量を指す電気化学セルの特性である。容量は、一般的にアンペア時の単位で表される。
【0051】
[082]「充電状態」という表現は、定格容量の割合として表される、電池などの利用可能な容量を指す、電気化学セル又はその構成要素(例えば、電極、すなわちカソード及び/又はアノード)の特性である。
【0052】
[083]本発明は、電池、燃料セル、及び光起電力セルなどの電気化学セルを含む、電気化学システム及びその構成要素を熱力学的に評価する方法及びシステムを提供する。本発明のシステム及び方法は、温度及び組成などの選択された電気化学セル状態を評価し、電気化学セルの電極及び電解質の組成、位相、及び電気化学的性質に関連する、熱力学的状態関数及び材料特性を正確に決定できるようにするのに十分に高い確度で、開回路電圧、時間、及び温度などの多数のセルパラメータの測定を実施することが可能である。本発明の熱力学的測定システムは、非常に用途が広く、電極対を有する電気化学システムの広範囲の性能属性を予測するための情報を提供する。
【0053】
[084]本発明のシステム及び方法の構成要素、性能、及び機能性を実証するため、本発明の電気化学的熱力学的測定システム(ETMS)を使用して、様々な材料へのリチウム挿入のエントロピー及びエンタルピーが考察される。最初に、ETMSによって提供される実験による測定値と、電極の重要な電気化学的性質を規定する重要な熱力学的パラメータとの関係を確立する背景が説明される。第2に、ETMSの構成要素の説明が提供される。第3に、データ例が示され、挿入電極材料を特徴付け、電気化学性能を予測するのに有用な熱力学的パラメータを決定するのに使用される、本発明の分析方法が実証される。
【0054】
[085]材料LiMへの、xに応じて変わるリチウム挿入のエントロピー及びエンタルピーの進展を決定するため、本発明を使用して、開回路電圧の温度依存性が考察される。この電圧は、次の熱力学の恒等性による反応のギブス自由エネルギーに関係がある。
【数4】


式中、Uは電極の平衡電位であり、Fはファラデー番号である。Li/Liの電気化学対の場合、1つの電子が交換されるのでn=1である。
【0055】
[086]リチウム挿入反応の部分モルエンタルピーΔH及びエントロピーΔSは、通過する電荷の量に対して導出される。後述において、ΔH及びΔSは温度とは無関係と考えられる。測定は5℃から室温の間で行われるので、この温度範囲内で相転移がない限りこの仮定は信頼できる。これは例えば、組成Li0.5CoOのリチウムコバルト酸化物の場合であり、わずかな温度変化が室温近くで単斜晶から六方晶への相転移を引き起こす。
【0056】
[087]測定された値は部分モル変数である。システムEの内部エネルギーを仕事W及び放散熱Qに関連付ける熱力学の第1法則から、エンタルピーの差を得ることができる。
【数5】


式中、μは金属リチウムアノードによるカソードの化学電位であり、nは交換されるリチウム原子数である。項μdnは交換される充電の電気的仕事量である。この研究では、圧力Pは一定なので、第3項VdPは無視される。次に、(6)を使用してギブス自由エネルギーを次のように記述することができる。
【数6】

【0057】
[088]モル値を得るため、x=n/Nを使用するが、式中、Nはアボガドロ数である。化学電位は、μ=−eUによって開回路電圧Uに関連付けられるが、式中、eは電子の電荷である。
【数7】

【0058】
[089]F=Neなので、マクスウェルの関係を混合二次導関数に使用して、開回路電圧に応じて変わるリチウム挿入の部分モルエントロピーを得る。
【数8】


H=G+TSとの定義により、
【数9】

【0059】
[090](∂G/∂n)は化学電位μ=−eUであるとの定義により、開回路電圧Uに応じて変わるリチウム挿入の部分モルエンタルピーを得る。
【数10】

【0060】
[091]μ=μ−μは、カソードとアノードの間の化学電位の差であることに留意しなければならない。結果として、発明者らの結果はすべてリチウムアノードによるものであり、それに対する化学電位は変化の様々な段階において一定であると考えられる。
【0061】
[092]図1は、電気化学セルを熱力学的に評価するための電気化学的熱力学的測定システムの概略図を提供する。図1に示されるように、電気化学的熱力学的測定システム100は、(i)時間に応じて変わる電気化学セル115の開回路電圧を測定する手段110と、(ii)電気化学セルに電気的に接続された組成コントローラ120と、(iii)選択された組成それぞれに対して複数の選択された電気化学セル温度を確立する、電気化学セルと熱的に接触している温度コントローラ130と、(iv)開回路電圧を測定する手段から、時間に応じて変わる開回路電圧測定値を受け取り、熱化学的に安定した状態における開回路電圧を特定する開回路電圧アナライザ140とを備える。
図1に示される実施形態では、電気化学セル115はコインセルであり、開回路電圧を測定する手段110は、電気化学セル115の電極に電気的に接続されたデジタル電圧抵抗ミリアンペア計であり、組成コントローラ120は、電気化学セル115を所望の組成まで充電又は放電することが可能なようにして、電気化学セル115に電気的に接続されたアービン(Arbin)BT4+電池試験機である。温度コントローラ130は、ペルチェプレート熱電冷却器、電源、ペルチェプレート及び電気化学セル115と熱的に接触している熱電対、並びにフィードバック温度制御プロセッサの組合せである。これらの構成要素は、温度コントローラ130が一連の選択された電気化学セル温度を確立し維持することが可能であるようにして組み立てられた。開回路電圧アナライザ140は、熱力学的に安定した状態に対する開回路電圧を決定するためのアルゴリズムを実行することが可能なプロセッサである。
【0062】
[093]本明細書では2つの温度制御設定が例証される。いくつかの実験では、温度サイクルはBoekelペルチェ冷却器を使用して手動で制御した。2つの電池(再現性を確保するため)を、最初に、所望の挿入組成物xに対応する所定の電圧まで放電した。次に、セルをビニール袋に入れて分離し、ペルチェプレートと接触した状態にした。いくつかの温度段階、通常は5段階を作った。それらは、開回路電圧が平衡に達するまで、温度プラトーが後に続く温度傾斜を含むものであった。このサイクルは各温度に対して約30分を要した。温度は±0.5℃で制御し、クロメル−アルメル熱電対を用いて測定した。電圧は、0.1mV以内の精度のNationalInstruments Lab−PC−1200カードを用いて監視した。
【0063】
[094]他の実験では、使用される装置は図1に示されるものであり、全プロセスをコンピュータ制御した。温度段階を作るためにペルチェプレートに電流を供給するAgilent3633電源を制御するため、VisualBasic for Applicationsで記述したプログラムを開発した。その目的のため、行過ぎ量のない速い温度差を得るために比例/積分/微分(PID)アルゴリズムを選択した。プログラムは、また、それらの温度に沿って4つ以下のセルの開回路電圧のデータ取得を制御した。10μVまでの確度のAgilent349706.5−digit電圧抵抗ミリアンペア計をその目的に使用した。0.1℃までの確度の2つのRTD素子をプレート及びセルに取り付けて、それらの温度を監視した。プレートの温度は、電源のフィードバックループを制御するために使用し、一方、熱力学パラメータを計算するためにセル温度を得た。4チャネルのアービンBT4+は、試験セルを選択された組成まで放電又は充電し、次に、温度サイクルが自動的に開始される前に、通常は4時間、試験セルを均衡させた。
【0064】
[095]アービンの補助チャネルに電圧段階を送る電圧抵抗ミリアンペア計のアラーム出力により、Visual Basicプログラムからオンデマンドで放電を開始することが可能になった。2時間半続く各温度サイクルの間に、約600のデータポイントが得られた。断続的な30分のC/10放電とΔx=0.05に対応する段階とを使用して、組成範囲全体にわたって20のポイントを収集するのに約6日間かかる。温度範囲は、より高温で生じる自己放電効果を最小限に抑えるように選択した。
【0065】
[096]図2Aは、x=0.2に対応する充電状態におけるセルの温度サイクルの1つを示す。開回路電圧は測定の始めと終わりとで異なることが分かる。これは、実験中の副反応及び非均衡状態による自己放電及び/又は電位降下によって説明することができる。この誤差を修正するため、破線としてプロットされた電圧ドリフトを実験データから差し引いた。
【0066】
[097]図2Bは、x〜0.2での黒鉛におけるOCV対Tの線形回帰を提供する。温度に応じて変わる電圧の線形の傾斜は、式(9)によってΔSを与える。式(8)は、ΔHを、線形回帰から得られる開回路電圧U対温度のy軸切片を用いて計算できることを示す(図2B)。この場合、R=0.9996でのU(T)曲線の良好な線形挙動に留意されたい。
【0067】
[098]黒鉛又はリチウムコバルト酸化物などの規則的な材料の場合、特定の組成における構造が通常は良好に規定されるので、適合は常に非常に良好であり、エントロピー値は大きかった(約10J/mol/k程度)。他方では、不規則な化合物の場合、線形回帰の質は完全ではないことがある。
【0068】
[099]エントロピー進化のアイディアを得ると考えることができる最も単純なケースは、理想的な固溶体の混合のエントロピーである。このモデルを用いて、配位エントロピーのみを検討する。エントロピーのボルツマン定義から始める。
【数11】

【0069】
[0100]N個の同一のサイトを含む格子上でのnリチウムの挿入の完全に不規則なプロセスを仮定すると、式(12)は次式のように変換される。
【数12】

【0070】
[0101]N及びnがアボガドロ数程度の大きな数なので、スターリングの近似を使用して、(InNl−NlnN−N)及びSを次式のようにすることができる。
【数13】

【0071】
[0102]次に、x=n/Nを設定することにより、次式のようになる。
【数14】

【0072】
[0103]最後に組成xに関して微分すると、リチウム挿入反応の部分モルエントロピーを得ることができる。
【数15】


式中、Rは、Nを1モルとした場合の完全気体定数である。式18は、組成xとx(x<x<x)の間に起こる配列プロセスのため、次式のように一般化することができる。
【数16】

【0073】
[0104]実際には、振動、電子、又は磁気など、エントロピーの他のソースが存在する可能性があり、挿入反応が様々なエネルギー範囲を有するサイトで起こり、エントロピーの増加と減少の遷移につながるとき、解釈はより複雑になる。また、一次転移が生じるとき、ギブスの相律によってエントロピープラトーが予想される。
【0074】
実施例1:炭素の黒鉛化によるリチウム化熱力学の進化
概要
[0105]計装は、様々な温度で熱処理されたコークスにおけるリチウム挿入の熱力学を研究するために提供される。方法は、温度に応じて変わる電気化学セルの開回路電圧を測定し、リチウム化反応のエントロピー及びエンタルピーを得る。X線回折法及びラマン分光法を使用して、熱処理後の炭素材料の構造を決定した。リチウム挿入のエントロピー及びエンタルピーに対する黒鉛化度の影響を、それによって決定した。モデルは、黒鉛化度をエントロピープロファイルに相関させることが提案されている。様々な充電状態におけるエントロピーと開回路電圧のグラフは、黒鉛化の定量的情報を与え、部分的に黒鉛化された炭素を構造的に特徴付けるために有用になっていることが示される。
【0075】
序論
[0106]炭素系材料、特に黒鉛は、市販の充電式リチウム電池のほとんどのアノードの活性材料である。これらの材料の結晶度と欠陥構造は、リチウム挿入反応に影響して、電池のサイクル動作可能性(cyclability)、安定性、比容量(ratecapability)を変更する。本発明の研究では、リチウム挿入の熱力学に対する黒鉛化の影響を系統的に研究するため、様々な熱処理温度に晒された一連のコークスを準備した。
【0076】
[0107]過去の研究では、発明者らは、リチウム化反応のエントロピー及びエンタルピーの曲線は黒鉛と不規則な炭素とで大幅に変わることを示した。これは恐らく、これらの2つの炭素系材料の構造が非常に異なることから予想される。黒鉛の長距離規則度は、LiCまでのリチウムに適応し、リチウム化反応は、リチウム原子が異なる配列を形成するのとともに段階的に生じる。結果として、エントロピー曲線は、一般的には一次相転移の、プラトーを有するいくつかの明確な領域を示す。他方では、炭素系材料へのリチウム挿入のメカニズムは十分に理解されていない。
【0077】
[0108]発明者らの過去の研究は、エントロピー及びエンタルピーの測定値が、様々な処理を施した黒鉛材料の間で異なることを示し、いくつかのエントロピー源は、エントロピー対リチウム化状態の曲線において特定することができた。本発明の実施例は、黒鉛化度が低い、及び中程度の炭素系材料に焦点をおく。様々な充電状態におけるエントロピー対開回路電圧のグラフを使用して、炭素系材料の黒鉛化度を推定することができることが示される。これらの熱力学的結果は、少なくとも、X線回折法及びラマン分光分析法によるものと同程度、部分的に黒鉛化された炭素における構造変化に敏感である。
【0078】
実験
[0109]一連のコークス試料は、Superior Graphite Co.(米国イリノイ州シカゴ)によって提供された。熱処理されていない先駆物質とともに、材料を、アルゴン雰囲気で、900℃、1100℃、2200℃、及び2600℃で熱処理を施した後に得た。平均粒径は30ミクロンであった。1700℃で熱処理された石油コークス(CarboneLorraine、フランス、オベルビリエより供給された)も調査した。複合電極を、アセトンに溶解された85%の活性材料及び15%のPVDFから成るスラリーを鋳造することによって作成した。電子バインダは、熱力学的測定に影響を及ぼす恐れがあるので使用しなかった。
【0079】
[0110]CR2016設計のコインセルを、アルゴンで充填されたグローブボックス内で組み立てた。電解質は、EC:DMC(体積1:1)溶剤混合物にLiPFを1モル溶解させたもので構成した。セルは、安定した容量を達成するため、最初に、Liに対して5mV〜1.5Vの間で速度C/10で5回サイクル動作させた。自動熱力学測定システム(TMS)を使用して、同じ炭素材料の一対のセルにおける開回路電圧対温度を測定した。精密電圧計(Agilent34970、分解能10μV)が開回路電圧を測定し、一方で、電源によって制御されたペルチェプレートでセルを冷却した。各温度差が2℃の6つの温度段階が作られた。各段階に対して20分間の平衡が与えられたが、それは電位が安定するのに十分な時間であることが確認された。温度は、一方がペルチェプレートに取り付けられ、他方が試験セルに取り付けられた、0.1℃までの確度の2つのRTD素子を用いて測定した。セルの適度な厚さと適切な熱伝導度により、両方のRTD素子の温度は各段階の数分後に等しくなった。6段階の電位測定それぞれの後、定流充電又は放電によって組成を変え、4時間又は8時間の休止時間を次の温度サイクルの前に使用した。次に、開回路電圧の温度依存性を、様々な充電状態におけるリチウム挿入のエントロピー及びエンタルピーに換算した。
【0080】
[0111]計装の高分解能を考慮すると、10℃の温度範囲は、例えば、温度に誘発される相転移又は電気化学的速度論の大きな変化の可能性を最小限に抑えながら、正確なデータを得るのに十分である。室温を下回ることによって、実験中の自己放電が最小限に抑えられ、また、残っている電圧ドリフトは、実験開始時と終了して2時間後との電圧差を測定することによって、自動的に差し引かれる。リチウム組成xは、セルを通る電流及び活動量を使用して容量を計算し、次にそれを黒鉛(372mAh/g)の理論上の容量と比較することによって決定される。
【0081】
[0112]X線回折(XRD)パターンを、銅KαX線を使用して、Philips X’Pert回折計によって得た。内部基準を提供し、且つ正確なピーク位置測定値を与えるため、10%のシリコン粉末を各試料に添加した。ラマンスペクトルを、アルゴンイオンレーザーの514.5nmの放射を使用して、Renishawミクロラマン分光計で得た。スペクトル分解能は1cm−1であった。
【0082】
結果
[0113]様々な材料からのX線回折パターンが図3に示される。熱処理温度が上昇すると、約2θ=26°で黒鉛002回折の尖鋭化がある。2200°以上の温度では、2θ=54°で004ピークが見られる。004ピークの存在はより高い結晶度を示す。
【0083】
[0114]3つの最低温度で熱処理された材料は、予想したようにそれらのXRDパターン自体と区別することができないが、これは、1000℃未満の温度では黒鉛化処理がそれほど有効ではないためである。菱面体晶相の101回折ピークは45°付近に見られ、コークスの結晶領域が六方結晶と菱面体晶の黒鉛の混合物から成っていたことを示す。注目すべき点は、低温で熱処理された材料の002ピークの形状であり、2θ=26.4°における鋭いピークが25.7°におけるより幅広いピークの隣に存在する。鋭いピークは、低温で熱処理した試料であっても、十分に黒鉛化された領域が存在することを示す。
【0084】
[0115]黒鉛化度Gを、次式を使用して、002ピークのd間隔から決定した。
【数17】


式中、3.461Åは、完全に乱層の不規則な材料のd間隔であり、3.352Åは、高度配向熱分解黒鉛のd間隔である。パラメータGは、乱層の不規則度に比例して減少し、黒鉛化度の指標である。
【0085】
[0116]試料のいくつかのラマンスペクトルが図4に示される。ラマンスペクトルは、1355cm−1におけるDバンドピーク(A1g通気モード)と1590cm−1におけるGバンドピーク(E2g2延伸モード)との強度比から、「a」方向における不規則性の情報を提供することができる。Dバンドは、グラフェン面が小さいときにのみ生じる振動によって引き起こされるものであり、炭素系材料の不規則性を示す。「a」方向における結晶子サイズLは、Tuinstraらが提案している式を用いて評価することができる。
【数18】


式中、Rは、Dピーク及びGピークの積分強度の比として定義されている。
【0086】
[0117]熱処理温度が上昇すると、Dバンドピークの強度が減少し、Gバンドピークが下方へシフトしながらより鋭くなる。計算されたL対温度は図5に示され、XRDによって得られたL値と比較される。Lに対して見出された値は、X線回折からLに対して決定されたものに類似しており、1500℃を上回る熱処理で結晶子のサイズが増加することが確認される。この温度以下では、L及びLは両方とも約4nmの値を有する。結晶領域のサイズは、熱処理温度とともに急速に増加し、2600℃で約65nmに達する。しかし、結晶子サイズが40nmを超えた後は、X線の線形分析は単に定性的である。
【0087】
[0118]図6は、熱処理を施していない先駆物質材料のエントロピープロファイルと同じ材料の開回路電圧(OCV)曲線とを示す。これらのデータは、各温度サイクルの前に8時間の休止を用いて、セルを充電する(電圧を増加させる)間に記録した。充電は速度C/20で行った。OCV曲線は、濃度とともに徐々に減少する、低温で熱処理した試料に典型的な形状を有し、電位は黒鉛に比べて高く、1V対Li/Liを超え、またリチウム挿入の終了時にのみ0.2V未満に減少する。エントロピー曲線はいくつかの明白な特徴を有する。組成に対してx=0.1未満で急激に降下した後、増加し、x=0.2〜0.4の間でプラトーを作る。次に、1J/mol/Kまで減少し、最終的に、挿入の最後の最後で増加する。
【0088】
[0119]低温で熱処理された3つの材料のリチウム化のエントロピー曲線が図7に示される。先駆物質材料と、900℃及び1100℃で熱処理された材料とのプロファイルは、x=0.4を超える領域を除いて同様に見える。約200mAh/gのこれらの化合物の容量は、黒鉛に比べて低いが、熱処理によって多少増加するように見える。
【0089】
[0120]より高温で熱処理した場合、規則的な黒鉛のいくつかの一般的な特徴がエントロピー曲線及びOCV曲線に現れる。図8は、1700℃で熱処理したコークスのエントロピー曲線及びOCV曲線を示し、電位は最初に降下し、2つの傾斜したプラトーを作って、ステージングの兆候を示している。プラトーは、x=0.05付近の最初のピークの後であって、且つリチウム濃度に対してx=0.25まで曲線が増加した後の、約0.3〜0.5のxに対するエントロピーにおいても明白である。
【0090】
[0121]2200℃の熱処理温度により、材料の結晶規則は高度に発達する。大きなグラフェン面が生じ、段階的な反応においてリチウムに適応することができる。これは図9に見られ、x=0.5における鋭いエントロピーの段差は第1段階の化合物の形成を示す。容量は、この熱処理によって大幅に改善されて、275mAh/gに達する。
【0091】
[0122]最後に、2600℃の最高温度で熱処理されたコークス試料は、本発明の材料の中で最大の容量316mAh/gを有した。この試料のOCV曲線及びエントロピー曲線(図10)は天然黒鉛のものに類似している。最低のxにおけるエントロピーの上昇は、研究中の材料のリチウム挿入ではなく、0.5V対Li+/Liよりも上の高電位における他の何らかの電気化学結合、恐らくは、挿入前に生じることがある、不規則な炭素系領域の表面上でのリチウムの吸着に由来するものである。エントロピー曲線は、xがx=0.1を下回るとともに急速に減少した後、負になり、x=0.3付近で徐々に水平になる。x=0.5付近での急激な増加は、2200℃で熱処理された試料からのデータに見られる。最後に、エントロピー曲線は、全容量に到達するまで、−8J/mol/K付近で半プラトーを作り、次により急速に降下し始める。
【0092】
[0123]6つの試料に対するリチウム化のエンタルピーが図11に示される。先駆物質材料と、900℃及び1100℃の低温で熱処理された材料との場合、自由エネルギーTSにおけるエントロピー項はエンタルピーの平均値に比べて小さいので、エンタルピー曲線はOCVプロファイルの鏡映となる。これは、より高温で熱処理した場合には該当しない。急速な増加の後、ΔHはx=0.15付近で最初のピークを作り、次に2つのプラトーを示す。これらのプラトーは、エントロピープロファイルの場合と同程度、ステージングに関係している可能性がある。
【0093】
考察
a)エントロピープロファイルの分析
[0124]エンタルピー曲線及びエントロピー曲線は、黒鉛化度Gによって大きく影響を受ける。第1の実験に際しては、低温で熱処理された試料群と高温で熱処理された試料群の曲線の形状に明白な遷移はないように思われる。このことの明らかな問題はデータ表示の問題である。組成xに基づいた曲線の比較では、挿入されたサイトが、xではなく、サイトが活性になる電位に依存するという事実の説明にならない。0.2V対Li/Liを上回ると、十分に規則的なグラフェン層の間の挿入サイトは電気化学的に活性ではない。この電圧領域は、不規則なコークスのほとんどの容量に相当する。
【0094】
[0125]部分的に黒鉛化された炭素材料のためのリチウム蓄積のモードを説明する、多くの理論が提案されてきた。いくつかは、低温で熱処理されたリチウムやグラフェンといった材料は水素を高い含量で有することが分かっているので、小さなグラフェン面の縁部においてリチウムが水素と共有結合することができることを提案した。NMRでの証明を用いて、Moriらは、2つのタイプのリチウム挿入サイトが存在し、あるものはグラフェン面の間にあり、他のものは結晶子の表面又はその間にあるという仮説を立てた。「トランプの家」モデルと呼ばれる別のモデルは、単層グラフェンフラグメントが不規則に積み重ねられ、リチウムはグラフェンシートの両面で吸着されることを提案している。Mabuchiらは、キャビティ及び細孔を形成する金属リチウム原子のクラスタを伴うモデルを提案した。発明者らの例では、クラスタ化したリチウム原子はほとんど金属で、x=0.5を上回る余分な容量の一因となるはずなので、この最後の可能性は見込みがないと思われる。リチウム原子は0V対Li/Liに近い電位で挿入されるが、これは観察されない。
【0095】
[0126]1100℃未満の低温で熱処理された炭素は、様々な形状及びサイズの乱層の不規則なグラフェン面から成る。リチウムを挿入する場合、これらの材料は様々なエネルギーの広範囲にわたるサイトを有し、それによって傾斜したOCV曲線が得られる。挿入サイトの変化は、電位緩和曲線上で見ることができる。熱処理を施していないコークスを断続的に脱リチウム化した後の平衡時間は、0.2V未満の電位の場合の方が0.2〜1Vの電位の場合よりも短く、速度論的プロセスの差を示している。
【0096】
[0127]図6にこの解釈を当てはめると、上述のx=0.33付近におけるエントロピーの急激な降下は、規則的な黒鉛の結晶子にリチウムを挿入することによるものと思われる。黒鉛との類似により、より大きなxにおけるエントロピー曲線の増加は、より高いステージングの領域からのより低いステージの核酸塩のエンブリオの後に生じてもよい可能性がある。小さなxにおけるエントロピー曲線の急速な減少は、混合エントロピーの濃度依存性によって説明することができる。固溶体の第1の利用可能なサイトを満たすことにより、リチウム化のエントロピーは急速に変化する。x=0.15からx=0.33までは、リチウム原子が少数の等しく好ましいサイトのみを選択することができるので、利用可能なサイトの広いエネルギー分布によってエントロピーがほぼゼロになる。その結果、挿入の部分エントロピーはゼロであるべきであり、約5.5J/mol/Kのほぼ一定の値は、金属アノード内及び炭素質カソード内のリチウム間の電子エントロピー又は振動エントロピーの差によって説明することができる。(この仮説が、不規則な炭素のリチウム化のフォノンエントロピー又は電子エントロピーに関する情報を必要とする場合。)
【0097】
[0128]より高温の熱処理において、x=0.33を上回る領域はより多くの特徴を示す。これは、黒鉛化プロセスと一致しており、黒鉛質のサイトを0.2V未満で利用可能にするべきである。しかし、図7のΔS(x)曲線の連続的なピークを特定のステージング遷移に起因するものと考えることは困難である。1700℃で熱処理された材料のエントロピー曲線は、低温及び高温で熱処理された材料の挙動の間の重要な関連を構成するので興味深い。1700℃で熱処理された材料の電気化学的容量は、低温で熱処理された炭素と比べても低い。水素含量は、750℃〜1500℃の温度範囲で、750℃未満における約10%の水素原子から始まって、1500℃超過で熱処理された場合の0.5%未満まで急速に減少する。したがって、リチウム結合に利用可能なサイトはより少数であるが、黒鉛の長距離規則度にはまだ到達せず、結果として容量が低い。1700℃で熱処理された材料のOCV曲線(図8)は、低いxにおける電位の傾斜した減少と、それに続く、第2段階としてのグラフェン面の間の挿入及び次の第1段階の化合物が形成されることによる2つのプラトーという、二種類の挙動を示す。このメカニズムはエントロピー曲線において確認される。低温で熱処理された材料の場合、低いリチウム濃度では、エントロピー曲線はピークを作り、次に減少し、第1のプラトーがOCVに現れたとき負になる。0.3付近のxでは、エントロピーは段階的に増加し、第1段階の形成に対応するプラトーに達する。
【0098】
[0129]2200℃及び2600℃で熱処理された材料は、この2重の挙動を示さないが、天然黒鉛に非常に類似した特徴を有する。これらの材料の場合、リチウム化の唯一のモードがリチウム挿入である。ただし、それらの結晶度は天然黒鉛ほど良好ではなく、したがって容量が多少低い。
【0099】
b)二相混合モデル
[0130]発明者らは、黒鉛質領域及び非黒鉛質領域の混合物として、中間の黒鉛化度を備えた炭素系材料をモデル化する。このモデルは、エントロピー曲線を、黒鉛質のコークス(2600℃で熱処理)からと、不規則なコークス(熱処理なし)からとの基準曲線と適合させることを提案する。ただし、上記セクションで指摘されるように、適合は、組成xに基づく曲線の線形の組合せではなく、リチウム挿入サイトが活性になったときに決まるOCVに基づくべきである。任意の所定の電位Uでは、基準構成要素のエントロピー曲線は、次のように組み合わされるはずである。
【数19】


式中、ΔSは材料のエントロピーであり、αは、2600℃で熱処理された材料が完全に黒鉛化されると仮定して、黒鉛質領域の部分である。
【0100】
[0131]この仮説を試験するため、熱処理していない先駆物質材料と2600℃で熱処理した材料の様々な混合物を使用して電極を準備した。最初に、重量基準で等量のこれら2つの材料を混合して電極を作成した。測定されたプロファイルは図12に示される。エントロピー曲線及びOCV曲線は両方とも、1700℃で熱処理した材料のもの(図8)と非常に類似しているように見え、リチウム化反応の観点から、この材料は黒鉛質で不規則な領域から成ることを示唆する。
【0101】
[0132]先駆物質材料25重量%と2600℃で熱処理した材料75重量%の混合物を含む、別の試料を準備した。図13に見られるように、容量はわずかに増加するが、OCVの第2段階から第1段階へのプラトーは、50/50の試料よりも広い範囲を有する。電極中の黒鉛質材料の量が多かったため、曲線が、2600℃で熱処理した試料の曲線に接近して見えることは驚くべきことではない。図12及び13のエントロピー曲線は、式E3から得られる理論上のエントロピー曲線と比較することができ、αは0.5及び0.75にそれぞれ等しい。図14は、先駆物質材料50%と2600℃で熱処理した材料50%とで作られた複合電極のリチウム挿入のエントロピーを、基準曲線を使用した式E3に基づいた計算と比較する。式E3の結果は実験と良好に一致するが、エントロピーは低濃度において多少過大評価されている。α=0.75での計算が図15に示され、2600℃で熱処理した材料75%で作られた電極と比較される。やはり低濃度において、計算の方がエントロピーが高いことを除いて、実験と計算は非常に良好に一致している。これらの結果は、式E3の混合モデルを立証しているものと思われ、様々な温度で熱処理されたコークスにおける黒鉛質相の部分を決定するのに使用できることを提案している。
【0102】
[0133]次に、エントロピー曲線を各材料のOCV曲線に対してプロットした。これらの、先駆物質材料と2600℃で熱処理された材料とのエントロピー対OCVのプロットは、式E3の後に組み合わせ、αは、中間の温度で熱処理された試料から得られる曲線に適合するように調節した。1700℃及び2200℃で熱処理されたコークスに対する、これらのエントロピー対OCVプロットの最小二乗適合は図16に示される。1700℃で熱処理された材料の回帰係数は良好である。αに対して002ピーク位置のXRD測定から得られた30%の黒鉛化に近い、21%の値が得られた。黒鉛化度は、2200℃で熱処理された材料ではより高く、その場合α=53%であり、XRD分析からの値77%よりは多少低い。これらの値は有望であり、良好な傾向を示しているが、基準として使用された先駆物質材料であってもいくつかの黒鉛質領域を含み、それによってαの誤差がもたらされることを念頭に置いておかなければならない。同様に、2600℃で熱処理された材料を黒鉛の基準曲線として使用したが、完全には黒鉛化されていない。より高い温度で熱処理されたコークスを使用することで、結果の確度が改善されるであろう。他方では、これらの材料は通常、電気化学的サイクル動作可能性が低いので、不規則な炭素の良好な基準試料を見つけることは困難であろう。
【0103】
結論
[0134]開回路電圧と温度の測定値を使用して、コークスへのリチウム挿入の熱力学に対する黒鉛化の影響を調査した。部分的に黒鉛化された材料は、リチウム挿入の2つの別個のモードを示し、低い温度で熱処理されたコークスは、広いエネルギー分布で様々なサイトにリチウム挿入する。黒鉛化が改善するとともに、リチウム原子は黒鉛に類似したサイトに挿入される。黒鉛化が進むにつれて、第1のタイプのサイトの数は減少し、その結果、中間の温度で熱処理された炭素系材料の混合された挙動につながる。実験結果は、黒鉛化が中程度のこれらの炭素系材料は、主に2つのタイプのリチウムサイトの量の点で異なり、また、これらのサイトの化学電位は黒鉛化によってほとんど変わらないことを示す。
黒鉛化度を測定する新たな方法が、このモデルに基づいて提供される。
【表3】

【0104】
実施例2:電極材料の電気熱力学的特徴付け
[0135]本発明の方法及びシステムは、挿入電極材料を含む様々な電極材料の物理的性質及び化学的性質を特定し特徴付けるのに有用である。例えば、本発明の方法及びシステムを使用して生成された熱力学的パラメータの分析は、電気化学セルの電極材料における位相、モルフォロジー、及び欠陥の有無を精査する非常に敏感で定量的な手段を提供する。本発明のこの態様は、市販の電池に実装する前後に候補の電極材料を診断する魅力的な方法を提供する。本発明のこの機能性を実証するため、本発明の測定システム及び分析方法を使用して、リチウムイオン電池の多数のアノード材料及びカソード材料を評価し、特徴付けた。
【0105】
[0136]図17は、2600℃でのコークスHTT(HTT=熱処理条件への曝露)の充電及び放電中における、コークスアノードの組成に応じて変わる(すなわち、インターカラントに対する化学量論比)、本発明の電気化学的熱力学的測定システムを使用して決定されたリチウム化のエントロピー(ΔS)(すなわち、リチウム挿入のエントロピー)の変化のプロットを示す。図17は、充電状態及び放電状態におけるエントロピー対組成曲線を提供する。図17に示されるプロファイルは、天然黒鉛に非常に近い。荷重経路と無荷重経路が異なることを恐らくは示すヒステリシスが、充電状態と放電状態の間に現れる。
【0106】
[0137]図18は、天然黒鉛アノードの組成に応じて変わる、本発明の電気化学的熱力学的測定システムを使用して決定された、エントロピーの変化(ΔS)のプロットを提供する。図18には更に、アノード組成に応じて変わる開回路電圧のプロットが示される。図18は、挿入のエントロピーと挿入中のOCVを示す。図19は、天然黒鉛アノードの組成に応じて変わる、本発明の電気化学的熱力学的測定システムを使用して決定された、エントロピーの変化(ΔS)のプロットを提供し、x=0.5付近でのエントロピーヒステリシスを示す。x=0.45では、約7Jmol−1−1の差が観察される。
【0107】
[0138]図20は、アノード組成に応じて変わる、実験で決定されたΔS値を提供し、Liの位相特性図情報を提供する。図20には更に、アノード組成に応じて変わる、計算されたΔS値が示される。
【0108】
[0139]図21は、LiCoOカソード材料の層状構造を示す。図22は、LiCoOカソードの組成に応じて変わる、リチウム挿入における実験によって決定された開回路電圧(OCV)とエントロピーの変化(ΔS)のプロットを提供する。2つのプロットの比較は、エントロピープロファイルがOCVプロファイルよりも多くの特徴を示し、カソード材料を定量的に特徴付けるために本発明のシステム及び分析方法を利用することを強調している。図23は、LiCoOにおいて実験によって決定された位相特性図を示す。
【0109】
[0140]図24は、LiMnカソード材料の立方スピネル構造を示す。図25A及び25Bは、LiMnカソードの組成に応じて変わる、リチウム挿入における実験によって決定された開回路電圧(OCV)とエントロピーの変化(ΔS)のプロットを提供する。
【0110】
[0141]図26A及び26Bは、LiFePOカソードの組成に応じて変わる、リチウム挿入における実験によって決定された開回路電圧(OCV)とエントロピーの変化(ΔS)のプロットを提供する。
【0111】
[0142]図27は、拡散中間相モデルを示す概略図を示す。
【0112】
[0143]図28は、LiMnカソードの組成に応じて変わる、リチウム挿入における実験によるエントロピーの変化(ΔS)のプロットを提供する。
【0113】
[0144]図29は、LiMnカソードの組成に応じて変わる、拡散係数(D×10−10cm−1)のプロットを提供する。
【0114】
[0145]図30は、不規則な炭素(左側のプロット)及び規則的な黒鉛炭素(右側のプロット)の開回路電圧に応じて変わるエントロピーの変化(ΔS)のプロットを提供する。試料を使用して、高温に曝露されていないコークス試料(左側)と高温に曝露されたコークス試料(右側)とに対応する図30のプロットを生成した。一般的には、コークス試料は黒鉛質材料と不規則な炭素材料の混合物を含む。図30の左側のプロットと右側のプロットを比較して分かるように、開回路電圧に応じて変わるエントロピーの変化(ΔS)のプロットは、電極材料の物理的性質を特徴付ける、例えば黒鉛化度を特徴付けるのに有用である。例えば、開回路電圧(又は組成)に応じて変わるエントロピーの変化(ΔS)のプロットは、コークス試料の黒鉛化の程度を定量的に決定するため、図30に示される式に適合されてもよい。
【数20】

【0115】
[0146]上述の(及び図30の)式は、不規則な黒鉛炭素における、OCVに応じて変わるエントロピー曲線の組合せの線形結合に対応する。この分析では、図30の式に示されるパラメータαは、試料における黒鉛化の程度に対応する。
【0116】
[0147]図31は、高温に曝露されていないコークス25%と高温に曝露されたコークス75%で作成された電極を有する電気化学セルの、開回路電圧に応じて変わるエントロピーの変化(ΔS)のプロットを提供する。図31には更に、シミュレーションの結果が示される。HTT1700℃コークス試料とHTT1700℃コークス試料のエントロピーのプロットを、上述の(及び図30に示される)式に適合させて、それぞれ21%及び53%のαの値を得た。回折データ(すなわち、002ピーク位置)に基づいて、HTT1700℃コークス試料とHTT1700℃コークス試料における黒鉛の程度を、それぞれ30%及び77%と決定した。
【0117】
[0148]図30及び31に示されるように、十分に規則的な黒鉛様の位相と不規則な炭素相との混合物として説明することができる、1700℃で熱処理されたコークスは、開回路電圧に応じて変わるエントロピーの変化(ΔS)のプロットを生成し分析することによって正確に特徴付けることができる。この1700℃試料を用いて得られた、開回路電圧実験データに応じて変わる(ΔS)は、(i)黒鉛(2600℃で熱処理)のΔS(OCV)と(ii)純粋に不規則な炭素(熱処理していないコークス)のΔS(OCV)との組合せとしてシミュレートされた。これにより、発明者らは、リチウム蓄積用途の重要な特性である、炭素系材料の黒鉛化の程度を正確に決定することができた。
【0118】
[0149]この実施例に示されるように、本発明の測定システムは、電気化学セルの電極を伴う反応において、エントロピー(ΔS)及びエンタルピー(ΔH)の変化を決定する手段を提供する。重要なことに、ΔS及び/又はΔHの測定値は、1つ又は複数の電極材料の組成及び/又は物理的状態を定量的に特徴付ける手段を提供するため、電気化学セル組成又は開回路電圧に対してプロットされてもよい。本発明のこの態様は、例えば、放電、サイクル動作、及び/又は過電圧への曝露後に、電気化学セル材料(電極材料など)の試験及び/又は品質管理情報を提供する、重要な用途を有する。
【0119】
[参照による組込み及び変形例に関する記述]
[0150]以下の参照は、全体として、電気化学セルの組成及び機能、並びに電気化学データの熱力学的分析に関し、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。Handbook of Batteries, Edited by David Linden and Thomas B. Reddy,Third Edition, McGraw-Hill, 2002、及びBattery TechnologyHandbook, Edited by H.A. Kiehne, Marcel Dekker, Inc., 2003.
【0120】
[0151]本出願全体を通してすべての参照、例えば、発行又は付与済みの特許又は同等物を含む特許文献、特許出願公開、未公開特許出願、並びに非特許文献又は他の資料は、各参考文献が少なくとも部分的に本出願の開示と矛盾しない程度まで(例えば、部分的に矛盾した参考文献は、参考文献の部分的に矛盾した部分を除いて参照により組み込まれる)、参照により個々に組み込まれるものとして、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0121】
[0152]本明細書に対するあらゆる付属文書(1つ又は複数)は、明細書及び/又は図面の一部として参照により組み込まれる。
【0122】
[0153]「〜を備える」、「〜を備えた」、又は「〜を備えている」という用語が本明細書に使用される場合、それらの用語は、提示した特徴、整数、ステップ、又は言及された構成要素が存在することを特定するものと解釈されるべきであるが、1つ又は複数の他の特徴、整数、ステップ、構成要素、又はそれらの群が存在すること、或いは追加されることを除外するものではない。本発明の別個の実施形態も包含されるものとし、その場合、「〜を備えている」又は「〜を備える」若しくは「〜を備えた」という用語は、任意に、文法上類似の用語、例えば、「〜から成る」又は「〜から本質的に成る」という用語と置き換えられ、それによって必ずしも同一の広がりを持たない更なる実施形態を説明する。
【0123】
[0154]本発明は、様々な特定の好ましい実施形態及び技術に関して記載してきた。しかし、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、多くの変形及び変更がなされてもよいことを理解されたい。本明細書に特定して記載したもの以外の組成、方法、装置、装置要素、材料、手順、及び技術を、必要以上の実験を行うことなく、本明細書に広く開示されているものとして本発明の実施に適用することができることが、当業者には明白になるであろう。本明細書に記載の組成、方法、装置、装置要素、材料、手順、及び技術の当該分野で知られている同等物はすべて、本発明に包含されるものとする。範囲が開示される場合は常に、すべての部分範囲及び個々の値が、別個に説明されているものであるように包含されるものとする。本発明は、一例として示すのであって限定目的ではない、図面に示されているもの又は明細書に例証されているものを含む、開示される実施形態によって限定されないものとする。本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ限定されるものとする。
【0124】
[0155]参考文献
Y. Reynier, R. Yazami and B. Fultz, J. Electrochem. Soc. 151, A422(2004).
A. Mabuchi, K. Tokumitsu, H. Fujimoto, T. Kasuh, J. Electrochem.Soc. 142, 1041 (1995).
A. Oberlin and G. Terriere, Carbon, 13, 367 (1975).
J. Mering and J. Maire, J. Chim. Phys. Fr. 57, 803 (1960).
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R. Yazami and Y. Reynier, J. Power Sources, to be published (2005).
H. Kataoka, Y. Saito, O. Omae, J. Suzuki, K. Sekine, T. Kawamura andT. Takamurae, Electrochem. and Solid-State Lett., 5, A10 (2002).
P. Papanek, M. Radosavljevic and J.E. Fischer, Chem. Mater. 8, 1519(1996).
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G. Bathia, R. K. Aggarwal, N. Punjabi and O. P. Bahl, J. Mater.Science 32, 135 (1997).
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明の電気化学的熱力学的測定システムの概略図である。
【図2A】図2Aは、Liの場合の、x〜0.2での黒鉛セルにおける一般的な温度サイクルの温度及び開回路電圧測定値の図であり、破線の曲線はセルの温度を、実線の曲線はOCVを表す。
【図2B】図2Bは、x〜0.2での黒鉛におけるOCV対Tの線形回帰を示す図であり、温度に応じて変わる電圧の線形の傾斜は式(7)によってΔSを与える。式(8)は、式(8)は、ΔHを、線形回帰(図2B)から得られる開回路電圧U対温度のy軸切片を用いて計算できることを示し、この場合、R=0.9996でのU(T)曲線の良好な線形挙動に留意されたい。
【図3】内部シリコン基準(符号*)を有する様々な温度で熱処理されたコークス試料のXRDパターンを示す図である。
【図4】すべての試料のラマンスペクトルを示す図である。
【図5】XRDパターンからのラマン分光法L及びLに基づいた、熱処理温度に応じて変わる結晶コヒーレンス長さを示す図である。
【図6】熱処理していないコークスへのリチウム挿入のエントロピーと対応する充電(脱リチウム化)中のOCVを示す図である。
【図7】低い熱処理温度での試料のリチウム化(先駆物質、900℃及び1100℃)のエントロピーの比較を示す図である。
【図8】1700℃で熱処理されたコークスのリチウム化のエントロピー及びOCVを示す図(放電曲線)である。
【図9】2200℃で熱処理された材料のリチウム化のエントロピーを示す図であり、再現性を示すため、データは放電中に二対のセルから平均化された。
【図10】2600℃で熱処理された材料の放電中のリチウム化のエントロピーを示す図である。
【図11】5つのコークス試料のリチウム挿入のエンタルピーを示す図である。
【図12】先駆物質材料50%と2600℃で熱処理された材料50%の混合物における挿入のエントロピーとOCVの進化を示す図(充電曲線)である。
【図13】先駆物質材料25%と2600℃で熱処理された材料75%の混合物における挿入のエントロピーとOCVの進化を示す図(充電曲線)である。
【図14】方程式E3(α=0.50)に基づいたエントロピーの計算と比較した、先駆物質材料50%と2600℃で熱処理された材料50%で作られた2つの複合電極のエントロピーを示す図である。
【図15】方程式E3(α=0.75)に基づいたエントロピーの計算と比較した、先駆物質材料25%と2600℃で熱処理された材料75%で作られた2つの複合電極のエントロピーを示す図である。
【図16】1700℃及び2200℃で熱処理された2つの試料のエントロピー曲線対OCV曲線のパラメータプロットを示す図である。
【図17】コークスアノードの組成(すなわち、インターカラントに対する化学量論比)に応じて変わる、本発明の電気化学的動力学的測定システムを使用して決定されたリチウム化のエントロピー(すなわち、リチウム挿入のエントロピー)の変化(ΔS)のプロットを示す図であり、充電状態及び放電状態に対するエントロピー対組成曲線を提供する。
【図18】アノードの組成(すなわち、インターカラントに対する化学量論比)に応じて変わる、本発明の電気化学的動力学的測定システムを使用して決定されたエントロピーの変化(ΔS)のプロットを示す図であり、更に、組成に応じて変わる開回路電圧を示す。
【図19】天然黒鉛アノードの組成に応じて変わる、本発明の電気化学的熱力学的測定システムを使用して決定された、エントロピーの変化(ΔS)のプロットであり、x=0.5付近でのエントロピーヒステリシスを示す図である。
【図20】Liの位相特性図情報を提供する、アノード組成に応じて変わる実験で決定されたΔS値の図であり、更に、アノード組成に応じて変わる計算されたΔS値を示す。
【図21】LiCoOカソード材料の層状構造を示す図である。
【図22】LiCoOカソードの組成に応じて変わる、リチウム挿入における実験によって決定された開回路電圧(OCV)とエントロピーの変化(ΔS)のプロットを示す図であり、2つのプロットの比較は、エントロピープロファイルがOCVプロファイルよりも多くの特徴を示し、カソード材料を特徴付けるために本発明のシステム及び分析方法を利用することを強調している。
【図23】LiCoOにおいて実験によって決定された位相特性図を示す図である。
【図24】LiMnカソード材料の立方スピネル構造を示す図である。
【図25A】LiMnカソードの組成に応じて変わる、リチウム挿入における実験によって決定された開回路電圧(OCV)とエントロピーの変化(ΔS)のプロットを示す図である。
【図25B】LiMnカソードの組成に応じて変わる、リチウム挿入における実験によって決定された開回路電圧(OCV)とエントロピーの変化(ΔS)のプロットを示す図である。
【図26A】LiFePOカソードの組成に応じて変わる、リチウム挿入における実験によって決定された開回路電圧(OCV)とエントロピーの変化(ΔS)のプロットを示す図である。
【図26B】LiFePOカソードの組成に応じて変わる、リチウム挿入における実験によって決定された開回路電圧(OCV)とエントロピーの変化(ΔS)のプロットを示す図である。
【図27】拡散中間相モデルを示す概略図である。
【図28】LiMnカソードの組成に応じて変わる、リチウム挿入における実験によるエントロピーの変化(ΔS)のプロットを示す図である。
【図29】LiMnカソードの組成に応じて変わる、拡散係数(D×10−10cm−1)のプロットを示す図である。
【図30】不規則な炭素(左側のプロット)及び規則的な黒鉛炭素(右側のプロット)の開回路電圧に応じて変わるエントロピーの変化(ΔS)のプロットを示す図である。
【図31】高温に曝露されていないコークス25%と高温に曝露されたコークス75%で作成された電極を有する電気化学セルの、開回路電圧に応じて変わるエントロピーの変化(ΔS)のプロットを示す図であり、更に、シミュレーションの結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間に応じて変わる電気化学セルの開回路電圧を測定する手段と、
選択された電気化学セル組成を確立する、前記電気化学セルに電気的に接続された組成コントローラであって、複数の前記選択された組成を確立することが可能な組成コントローラと、
前記選択された組成それぞれに対して複数の選択された電気化学セル温度を確立し、それによって電気化学セルの温度と組成の複数の選択された組合せを確立する、前記電気化学セルと熱的に接触している温度コントローラと、
開回路電圧を測定する前記手段から時間に応じて変わる開回路電圧測定値を受け取り、電気化学セルの温度と組成の前記選択された組合せに対して、前記電気化学セルの熱化学的に安定した状態における開回路電圧を特定する開回路電圧アナライザとを備える、電極を有する電気化学セルを熱力学的に評価するための測定システム。
【請求項2】
開回路電圧を測定する前記手段は、1mV以内の確度で前記電気化学セルの前記開回路電圧を測定することが可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
開回路電圧を測定する前記手段が、電圧計、電圧抵抗ミリアンペア計、電位差計、又は検流計を備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記組成コントローラが、前記電気化学セルを充電することが可能な電気化学セル充電器、前記電気化学セルを放電することが可能な電気化学セル放電器、又はそれらの両方である、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記組成コントローラが、定電流条件下で前記電気化学セルを充電又は放電することが可能である、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記組成コントローラが電量計を備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記組成コントローラが、前記選択された電気化学セル組成それぞれに対応する前記電気化学セルの選択された充電状態を確立することが可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記組成コントローラが、約5%以内の確度で、前記選択された電気化学セル組成それぞれに対応する前記電気化学セルの選択された充電状態を確立することが可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記組成コントローラが、前記選択された電気化学セル組成それぞれに対応する開回路電圧を確立することが可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記組成コントローラが、前記電極の少なくとも1つの選択された組成を確立する、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記温度コントローラが、約0.1°K以上の確度で前記選択された電気化学セル温度を確立する、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記温度コントローラが加熱器又は冷却器を備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記加熱器又は冷却器が、熱電冷却器、熱電加熱器、抵抗加熱器、温度浴、熱ポンプ、又は放射冷却器から成る群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記温度コントローラがペルチェプレート熱電冷却器を備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記温度コントローラが、前記電気化学セルの温度を測定するため、前記電気化学セルと熱的に接触している熱電対を更に備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記温度コントローラが、前記熱電対から温度測定値を受け取り、前記選択された電気化学セル温度を確立するために前記加熱器又は冷却器をフィードバック制御するプロセッサを更に備える、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記開回路電圧アナライザが、開回路電圧を測定する前記手段から受け取った時間に応じて変わる前記開回路電圧測定値を使用して、電気化学セルの温度と組成の選択された組合せに対する、単位時間当たりの開回路電圧の観測変化率を計算するアルゴリズムを実行することが可能なプロセッサである、請求項1に記載のシステム。
【請求項18】
前記アルゴリズムが、電気化学セルの温度と組成の前記選択された組合せに対する、単位時間当たりの開回路電圧の前記観測変化率の絶対値を、単位時間当たりの開回路電圧の閾値変化率と比較し、また前記アルゴリズムが、単位時間当たりの開回路電圧の前記観測変化率の前記絶対値が単位時間当たりの開回路電圧の前記閾値変化率以下のとき、電気化学セルの温度と組成の前記選択された組合せに対する、熱化学的に安定した状態における前記電気化学セルの前記開回路電圧に等しい開回路電圧を特定する、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
時間に応じて変わる開回路電圧の前記閾値変化率が1.0mVh−1以下である、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
時間に応じて変わる開回路電圧の前記閾値変化率が0.1mVh−1以下である、請求項18に記載のシステム。
【請求項21】
前記電気化学セルが、一次電池、二次電池、燃料セル、光起電力セル、リチウムイオン電池、電気化学二重層キャパシタ、又は電気化学二重層スーパーキャパシタである、請求項1に記載のシステム。
【請求項22】
前記選択された電気化学セル組成が前記電気化学セルの前記電極の1つの組成に対応する、請求項1に記載のシステム。
【請求項23】
前記選択された電気化学セル組成が前記電気化学セルの前記電極の1つの充電状態に対応する、請求項1に記載のシステム。
【請求項24】
前記電極の1つが挿入電極であり、前記選択された電気化学セル組成が、前記電気化学セルの前記挿入電極に物理的に関連したインターカラントの量に対応する、請求項1に記載のシステム。
【請求項25】
前記電極の1つが挿入電極であり、前記選択された電気化学セル組成が、前記電気化学セルの前記挿入電極と組み合わされたインターカラントの様々な化学量論比に対応する、請求項1に記載のシステム。
【請求項26】
前記電気化学セルが前記電極の1つ又は両方と接触している電解質を更に備え、前記選択された電気化学セル組成が前記電気化学セルの前記電解質の組成に対応する、請求項1に記載のシステム。
【請求項27】
前記電極の少なくとも1つと電気的に接触している基準電極を更に備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項28】
前記電気化学セルが対向電極及び作用電極を備える二電極セルを備え、前記対向電極は基準電極に組み込むことが可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項29】
前記電気化学セルが第1の作用電極及び第2の作用電極を備える二電極セルを備え、前記第1の作用電極が前記電気化学セルの正極であり、前記第2の作用電極が前記電気化学セルの負極であり、前記電気化学セルが一次電池又は二次電池を備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項30】
複数の選択された電気化学セル組成を確立するため、電気化学セルの組成を制御するステップと、
前記選択された電気化学セル組成それぞれに対して複数の選択された電気化学セル温度を確立し、それによって電気化学セルの温度と組成の複数の選択された組合せを確立するため、前記電気化学セルの温度を制御するステップと、
前記選択された電気化学セル組成及び前記選択された電気化学セル温度に対して、時間に応じて変わる前記電気化学セルの開回路電圧を測定するステップと、
電気化学セルの温度と組成の前記選択された組合せに対して、前記電気化学セルの熱化学的に安定した状態における開回路電圧を特定するステップとを含む、電極を有する電気化学セルを熱力学的に評価する方法。
【請求項31】
前記電気化学セルを充電又は放電することによって前記選択された電気化学セル組成が確立される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記電気化学セルの組成を制御する前記ステップが、前記選択された電気化学セル組成それぞれに対応する前記電気化学セルの選択された充電状態を確立することによって実施される、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記電気化学セルの組成を制御する前記ステップが、前記電極の1つの選択された充電状態を確立することによって実施される、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
前記電気化学セルの組成を制御する前記ステップが、前記選択された電気化学セル組成それぞれに対応する開回路電圧又は充電状態を確立することによって実施される、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
前記電極の少なくとも1つが挿入電極であり、前記電気化学セルの組成を制御する前記ステップが、前記挿入電極のインターカレータの選択された化学量論比を確立する、請求項30に記載の方法。
【請求項36】
前記電気化学セルの熱化学的に安定した状態における開回路電圧を特定する前記ステップが、
時間に応じて変わる前記開回路電圧測定値を使用して、選択された電気化学セル組成と選択された電気化学セル温度の前記組合せに対する、単位時間当たりの開回路電圧の観測変化率を計算するステップと、
選択された電気化学セル組成と選択された電気化学セル温度の組合せに対する、単位時間当たりの開回路電圧の前記観測変化率の絶対値を、単位時間当たりの開回路電圧の閾値変化率と比較するステップと、
単位時間当たりの開回路電圧の前記観測変化率の前記絶対値が単位時間当たりの開回路電圧の前記閾値変化率以下のとき、開回路電圧が、選択された電気化学セル組成及び選択された電気化学セル温度に対する、熱化学的に安定した状態における前記電気化学セルの前記開回路電圧に等しく、時間に応じて変わる開回路電圧の前記閾値変化率が1mVh−1以下であることを特定するステップとを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項37】
熱化学的に安定した状態における前記電気化学セルの前記開回路電圧と、前記選択された電気化学セル組成それぞれに対する温度とのプロットを生成するステップを更に含む、請求項30に記載の方法。
【請求項38】
前記プロットそれぞれの傾き及び切片を決定するステップを更に含み、前記傾きが、前記電気化学セルの前記電極における反応に対するエントロピーの変化に対応し、前記切片が、前記電気化学セルの前記電極における反応に対するエンタルピーの変化に対応する、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
エントロピー又はエンタルピーの前記変化と前記選択された組成とのプロットを生成するステップを更に含む、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記電気化学セルの静電容量、比エネルギー、電力、サイクル寿命、セル電圧、安定性、又は放電電流を予測する方法と、
前記電極の組成、モルフォロジー、位相、又は物理的状態を評価する方法と、
前記電極における表面欠陥、バルク欠陥、又は結晶構造欠陥を特定する方法と、
前記電極における相転移を特定する方法とから成る群から選択される方法を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項41】
複数の選択された電気化学セル組成に対して、前記電極の1つ又は複数における反応に対する、エントロピー、エンタルピー、又は自由エネルギーの変化を決定するステップと、
前記選択された電気化学セル組成に応じて変わる、エントロピー、エンタルピー、又は自由エネルギーの前記変化を、前記電気化学セル又は前記電気化学セルの構成要素の特性と相関させるステップとを含む、電極を有する電気化学セル又は前記電気化学セルの構成要素の特性を決定する方法。
【請求項42】
前記選択された電気化学セル組成に応じて変わる、エントロピー、エンタルピー、又は自由エネルギーの前記変化をプロットするステップを更に含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記選択された電気化学セル組成が、前記電気化学セルの電極の組成、前記電気化学セルの電解質の組成、又は前記電気化学セルの1つを超える電極の組成に対応する、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
前記電気化学セル又は前記電気化学セルの構成要素の前記特性が、前記電気化学セルの正常度、前記電気化学セルの電極の正常度、前記電気化学セルの電解質の正常度、前記電気化学セルの電極の物理的状態、前記電気化学セルの電極における欠陥の有無、前記電気化学セルの電極の位相、前記電気化学セルの電極の組成、及び前記電気化学セルの電解質の組成又は位相から成る群から選択される、請求項41に記載の方法。
【請求項45】
前記電気化学セルの複数の開回路電圧に対して、前記電極の1つ又は複数における反応に対する、エントロピー、エンタルピー、又は自由エネルギーの変化を決定するステップと、
前記電気化学セルの前記開回路電圧に応じて変わる、エントロピー、エンタルピー、又は自由エネルギーの前記変化を、前記電気化学セル又は前記電気化学セルの構成要素の特性と相関させるステップとを含む、電極を有する電気化学セル又は前記電気化学セルの構成要素の特性を決定する方法。
【請求項46】
前記電気化学セルの前記開回路電圧に応じて変わる、エントロピー、エンタルピー、又は自由エネルギーの前記変化をプロットするステップを更に含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記電気化学セル又は前記電気化学セルの構成要素の前記特性が、電気化学セルの正常度、前記電気化学セルの電極の正常度、前記電気化学セルの電解質の正常度、前記電気化学セルの電極の物理的状態、前記電気化学セルの電極における欠陥の有無、前記電気化学セルの電極の位相、前記電気化学セルの電極の組成、及び前記電気化学セルの電解質の組成又は位相から成る群から選択される、請求項45に記載の方法。

【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図19】
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【図20】
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【図22】
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【図26A】
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【図26B】
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【図30】
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【図31】
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【図1】
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【図2A】
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【図17】
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【図18】
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【図21】
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【図23】
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【図24】
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【図25A】
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【図25B】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2013−69695(P2013−69695A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−255415(P2012−255415)
【出願日】平成24年11月21日(2012.11.21)
【分割の表示】特願2008−525161(P2008−525161)の分割
【原出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(301038689)カリフォルニア インスティテュート オブ テクノロジー (4)
【出願人】(502017261)セントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック(シー.エヌ.アール.エス.) (15)
【Fターム(参考)】