説明

電気化学素子用電極および電気化学素子

【課題】電解液への含浸性、電極強度に優れ、電極密度を高めることができる電気化学素子用電極、および内部抵抗を低減し、エネルギー密度および出力密度を高めることを可能とする電気化学素子を提供する。
【解決手段】集電体上に、電極活物質、導電剤、結着剤および溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質を含んでなる電極組成物層が形成されてなる電気化学素子用電極。前記高分子物質の重量平均分子量が、5,000〜500,000であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子用電極および電気化学素子に関する。より詳しくは、電解液への含浸性に優れ、電極密度を高め、内部抵抗を低減し、エネルギー密度、出力密度および耐久性を高めることのできる電気化学素子用電極および電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能な特性を活かして、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタおよびリチウムイオンキャパシタなどの電気化学素子は、その需要を急速に拡大している。リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が比較的大きいことから、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータなどの分野で利用され、電気二重層キャパシタは急激な充放電が可能なので、パーソナルコンピュータ等のメモリーバックアップ小型電源として利用されている。さらに電気二重層キャパシタは電気自動車用の大型電源としての応用が期待されている。また、リチウムイオン二次電池と電気二重層キャパシタの長所を生かしたリチウムイオンキャパシタは、エネルギー密度、出力密度ともに高いことから注目を集めている。これら電気化学素子には、用途の拡大や発展に伴い、低抵抗化、高容量化、高耐久化、機械的特性の向上など、よりいっそうの改善が求められている。
【0003】
例えば、電気二重層キャパシタは、正極と負極に分極性電極を備え、有機系電解液を用いることで作動電圧を高め、電極密度を高めることでエネルギー密度を高めることができる。その一方で、電極密度を高めることにより、電極を構成している電極組成物層での電解液の移動が困難となり、電極強度が小さくなり、かつ内部抵抗が大きくなる、すなわち出力密度が小さくなるという問題点があった。そこで、これらの問題を解決するためにいろいろな検討が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1では、集電体と、カーボンブラックとバインダーとからなるアンカーコート層と、活性炭粉末、カーボンブラック及びバインダーからなる分極性電極層とを有し、前記集電体とアンカーコート層との間に、リン系化合物からなる接着層を設けた電気二重層キャパシタ用電極が提案されている。そして、特許文献1によれば、集電体と分極性電極層との間の抵抗の増加を防止することができ、キャパシタの低抵抗化を図ることができるとしている。
【0005】
また、特許文献2では、活性炭粉末、カーボンブラック及びバインダーを含む複合粒子からなる分極性電極層を集電体上に形成した電気二重層キャパシタ用電極が提案されている。そして、特許文献2によれば、複合粒子により電子移動抵抗とイオン拡散抵抗を低減することができ、キャパシタの低抵抗化を図ることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−227732号公報
【特許文献2】特開2007−053278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1や2に記載の電極は、内部抵抗をある程度低減することは可能であるが、電解液への含浸性や電極強度が不十分であることがわかった。
従って、本発明は、電解液への含浸性、電極強度に優れ、電極密度を高めることができる電気化学素子用電極、および内部抵抗を低減し、エネルギー密度および出力密度を高めることを可能とする電気化学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題の目的を達成するために鋭意検討した結果、電気化学素子用電極を構成する電極組成物層に、電極活物質、導電剤及び結着剤に加えて、溶解度パラメータが特定範囲にある高分子物質を含有させることにより、電解液への含浸性、電極強度および電極密度が高くなり、その結果、該電気化学素子用電極を用いた電気化学素子の容量が向上し、内部抵抗が低減し、エネルギー密度、出力密度および耐久性が向上することを見出した。
本発明は、これらの知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0009】
上記課題を解決する本発明は、以下の事項を要旨として含む
(1)集電体上に、電極活物質、導電剤、結着剤および溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質を含んでなる電極組成物層が形成されてなる電気化学素子用電極。
(2)前記高分子物質の重量平均分子量が、5,000〜500,000である上記(1)記載の電気化学素子用電極。
(3)前記高分子物質が、粒子状である上記(1)又は(2)に記載の電気化学素子用電極。
(4)前記高分子物質の数平均粒子径が、0.001〜1μmである上記(3)記載の電気化学素子用電極。
(5)前記高分子物質が、ニトリル基を有するものである上記(1)〜(4)のいずれかに記載の電気化学素子用電極。
(6)前記高分子物質の含有量が、前記電極活物質100重量部に対し0.1〜20重量部である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の電気化学素子用電極。
(7)前記電極組成物層が、電極活物質、導電剤、結着剤および溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質を含む複合粒子からなる上記(1)〜(6)のいずれかに記載の電気化学素子用電極。
(8)前記集電体が、導電性接着剤層を有する上記(1)〜(7)のいずれかに記載の電気化学素子用電極。
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の電気化学素子用電極を有する電気化学素子。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電気化学素子用電極を用いることにより、電解液への含浸性、電極強度および電極密度が高くなり、かつ内部抵抗が低く、エネルギー密度、出力密度および耐久性に優れる電気化学素子を容易に製造できる。本発明の電気化学素子は、パソコンや携帯端末等のメモリのバックアップ電源、パソコン等の瞬時停電対策用電源、電気自動車又はハイブリッド自動車への応用、太陽電池と併用したソーラー発電エネルギー貯蔵システム、電池と組み合わせたロードレベリング電源等の様々な用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の電気化学素子用電極は、集電体上に、電極活物質、導電剤、結着剤および溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質を含んでなる電極組成物層が形成されてなる。
【0012】
(電極活物質)
本発明に用いる電極活物質は、電気化学素子用電極内で電子の受け渡しをする物質である。電極活物質には主としてリチウムイオン二次電池用活物質、電気二重層キャパシタ用活物質やリチウムイオンキャパシタ用活物質がある。
【0013】
リチウムイオン二次電池用活物質には、正極用、負極用がある。リチウムイオン二次電池用電極の正極に用いる電極活物質としては、具体的には、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiFePO、LiFeVOなどのリチウム含有複合金属酸化物;TiS、TiS、非晶質MoSなどの遷移金属硫化物;Cu、非晶質VO・P、MoO、V、V13などの遷移金属酸化物が例示される。さらに、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性高分子が挙げられる。好ましくは、リチウム含有複合金属酸化物である。
【0014】
リチウムイオン二次電池用電極の負極に用いる電極活物質としては、具体的には、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、及びピッチ系炭素繊維などの炭素質材料;ポリアセン等の導電性高分子などが挙げられる。好ましくは、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)などの結晶性炭素質材料である。
【0015】
リチウムイオン二次電池用電極に用いる電極活物質の形状は、粒状に整粒されたものが好ましい。粒子の形状が球形であると、電極成形時により高密度な電極が形成できる。
【0016】
リチウムイオン二次電池用電極に用いる電極活物質の体積平均粒子径は、正極、負極ともに通常0.1〜100μm、好ましくは1〜50μm、より好ましくは5〜20μmである。
【0017】
リチウムイオン二次電池用電極に用いる電極活物質のタップ密度は、特に制限されないが、正極では2g/cm以上、負極では0.6g/cm以上のものが好適に用いられる。
【0018】
電気二重層キャパシタ用電極に用いる電極活物質としては、通常、炭素の同素体が用いられる。炭素の同素体の具体例としては、活性炭、ポリアセン、カーボンウィスカ及びグラファイト等が挙げられ、これらの粉末または繊維を使用することができる。好ましい電極活物質は活性炭であり、具体的にはフェノール樹脂、レーヨン、アクリロニトリル樹脂、ピッチ、およびヤシ殻等を原料とする活性炭を挙げることができる。
【0019】
電気二重層キャパシタ用電極に用いる電極活物質の体積平均粒子径は、通常0.1〜100μm、好ましくは1〜50μm、更に好ましくは5〜20μmである。
【0020】
電気二重層キャパシタ用電極に用いる電極活物質の比表面積は、30m/g以上、好ましくは500〜5,000m/g、より好ましくは1,000〜3,000m/gであることが好ましい。電極活物質の比表面積が大きいほど得られる電極組成物層の密度は小さくなる傾向があるので、電極活物質を適宜選択することで、所望の密度を有する電極組成物層を得ることができる。
【0021】
リチウムイオンキャパシタ用電極に用いる電極活物質には、正極用と負極用がある。リチウムイオンキャパシタ用電極の正極に用いる電極活物質としては、リチウムイオンと、例えばテトラフルオロボレートのようなアニオンとを可逆的に担持できるものであればよい。具体的には、通常、炭素の同素体が用いられ、電気二重層キャパシタで用いられる電極活物質が広く使用できる。炭素の同素体を組み合わせて使用する場合は、平均粒径又は粒径分布の異なる二種類以上の炭素の同素体を組み合わせて使用してもよい。また、芳香族系縮合ポリマーの熱処理物であって、水素原子/炭素原子の原子比が0.50〜0.05であるポリアセン系骨格構造を有するポリアセン系有機半導体(PAS)も好適に使用できる。好ましくは、電気二重層キャパシタ用電極に用いる電極活物質である。
【0022】
リチウムイオンキャパシタ用電極の負極に用いる電極活物質は、リチウムイオンを可逆的に担持できる物質である。具体的には、リチウムイオン二次電池の負極で用いられる電極活物質が広く使用できる。好ましくは、黒鉛、難黒鉛化炭素等の結晶性炭素材料、上記正極活物質としても記載したポリアセン系物質(PAS)等を挙げることができる。これらの炭素材料及びPASは、フェノール樹脂等を炭化させ、必要に応じて賦活され、次いで粉砕したものが用いられる。
【0023】
リチウムイオンキャパシタ用電極に用いる電極活物質の形状は、粒状に整粒されたものが好ましい。粒子の形状が球形であると、電極成形時により高密度な電極が形成できる。
【0024】
リチウムイオンキャパシタ用電極に用いる電極活物質の体積平均粒子径は、正極、負極ともに通常0.1〜100μm、好ましくは1〜50μm、より好ましくは5〜20μmである。これらの電極活物質は、それぞれ単独でまたは二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
(導電剤)
本発明に用いる導電剤は、導電性を有し、電気二重層を形成し得る細孔を有さない粒子状の炭素の同素体からなるものが挙げられる。具体的には、ファーネスブラック、アセチレンブラック、及びケッチェンブラック(アクゾノーベル ケミカルズ ベスローテン フェンノートシャップ社の登録商標)などの導電性カーボンブラックが挙げられる。これらの中でも、アセチレンブラックおよびファーネスブラックが好ましい。
【0026】
本発明に用いる導電剤の体積平均粒子径は、電極活物質の体積平均粒子径よりも小さいものが好ましく、その範囲は通常0.001〜10μm、好ましくは0.05〜5μm、より好ましくは0.01〜1μmである。導電剤の体積平均粒子径がこの範囲にあると、より少ない使用量で高い導電性が得られる。これらの導電剤は、単独でまたは二種類以上を組み合わせて用いることができる。電極組成物層における導電剤の量は、電極活物質100重量部に対して通常0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜15重量部、より好ましくは1〜10重量部の範囲である。導電剤の量がこの範囲にあると、得られる電気化学素子用電極を使用した電気化学素子の容量を高く且つ内部抵抗を低くすることができる。
【0027】
(結着剤)
本発明に用いる結着剤は、後述する高分子物質とは異なる物質であり、具体的には溶解度パラメータが12(cal/cm1/2未満のものである。結着剤としては、電極活物質、導電剤および溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質を相互に結着させることができる化合物であれば特に制限はないが、溶媒に分散する性質のある分散型結着剤が好ましい。分散型結着剤として、特に制限されないが、フッ素系重合体、ジエン系重合体又はアクリレート系重合体が好ましく、ジエン系重合体又はアクリレート系重合体が、耐電圧を高くでき、かつ電気化学素子のエネルギー密度を高くすることができる点でより好ましい。
【0028】
ジエン系重合体は、共役ジエンの単独重合体もしくは共役ジエンを含む単量体混合物を重合して得られる共重合体、またはこれらの水素添加物である。前記単量体混合物における共役ジエンの割合は通常30重量%以上、好ましくは40重量%以上、より好ましくは50重量%以上である。共役ジエンとしては、ブタジエン、イソプレンが挙げられる。ジエン系重合体の具体例としては、ポリブタジエンやポリイソプレンなどの共役ジエン単独重合体;カルボキシ変性されていてもよいスチレン・ブタジエン共重合体(SBR)などの芳香族ビニル・共役ジエン共重合体;スチレン・ブタジエン・メタクリル酸共重合体や、スチレン・ブタジエン・イタコン酸共重合体などの芳香族ビニル・共役ジエン・カルボン酸基含有単量体の共重合体;アクリロニトリル・ブタジエン共重合体(NBR)などのシアン化ビニル・共役ジエン共重合体;水素化SBR、水素化NBR等が挙げられる。
【0029】
アクリレート系重合体は、一般式(1):CH=CR−COOR(式中、Rは水素原子またはメチル基を、Rはアルキル基またはシクロアルキル基を表す。)で表される化合物由来の単量体単位を含む重合体である。一般式(1)で表される化合物の具体例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸n−アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリルなどのアクリレート;メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸n−アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリルなどのメタアクリレート等が挙げられる。これらの中でも、アクリレートが好ましく、アクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸2−エチルヘキシルが、得られる電極の強度を向上できる点で、特に好ましい。アクリレート系重合体中の一般式(1)で表される化合物由来の単量体単位の割合は、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上である。前記一般式(1)で表される化合物由来の単量体単位の割合が前記範囲であるアクリレート系重合体を用いると、耐熱性が高く、かつ得られる電気化学素子用電極の内部抵抗をより小さくできる。
【0030】
本発明に用いる結着剤は、極性基を有しているものが好ましい。結着剤が極性基を有するものであることにより、集電体および電極組成物層との結着性をさらに高めることができる。極性基とは、水中で解離しうる官能基や分極を有する官能基のことをいい、具体的には、酸基、ニトリル基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシル基、又はエポキシ基が挙げられる。これらの中でも酸基、ニトリル基、又はエポキシ基が好ましく、耐電圧を高くできる点で、酸基、又はニトリル基が特に好ましい。本発明に用いる結着剤は、前記極性基を1種類有すればよいが、2種類以上有することが好ましい。結着剤が、極性基を2種類以上有することにより、集電体および電極組成物層との結着性をさらに高めることができる。極性基を2種類有する場合の具体的な組み合わせとしては、酸基とニトリル基、酸基とアミド基、酸基とアミノ基が挙げられる。極性基を3種類以上有する場合の組み合わせは、例示した極性基の中から3種類を組み合わせればよい。結着剤中の極性基は、例えば、結着剤を構成する重合体を重合する際、極性基を有する単量体を用いたり、極性基を有する重合開始剤を用いたりすることにより、重合体中に導入することができる。
【0031】
結着剤中の極性基の含有割合は、極性基を有する単量体の含有割合で、好ましくは0.1〜40重量%、より好ましくは0.5〜30重量%、特に好ましくは1〜20重量%である。結着剤中の極性基の含有割合を前記範囲とすることにより、集電体との結着性に優れ、電極の電極強度を高くすることができる。
【0032】
ニトリル基を極性基として含む単量体としては、アクリロニトリルやメタクリロニトリルなどが挙げられ、耐電圧を高くできる点で、アクリロニトリルが好ましい。
【0033】
酸基を極性基として含む単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸などの一塩基酸含有単量体や、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの二塩基酸含有単量体などのカルボン酸基を有する単量体;スチレンスルホン酸、メタリルスルホン酸などのスルホン酸基を有する単量体などが挙げられ、中でもカルボン酸基を有する単量体が好ましく、耐電圧を高くできる点で、二塩基酸含有単量体が特に好ましい。
【0034】
本発明の電気化学素子用電極に用いる結着剤の形状は、特に制限はないが、集電体との結着性が良く、また、作成した電極の容量の低下や充放電の繰り返しによる劣化を抑えることができるため、粒子状であることが好ましい。粒子状の結着剤としては、例えば、ラテックスのごとき結着剤の粒子が水に分散した状態のものや、このような分散液を乾燥して得られる粉末状のものが挙げられる。
【0035】
本発明に用いる結着剤のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは−40〜0℃である。結着剤のガラス転移温度(Tg)がこの範囲にあると、少量の使用量で結着性に優れ、集電体と電極組成物層との結着性に優れ、電極強度が強く、柔軟性に富み、電極形成時のプレス工程により電極密度を容易に高めることができる。
【0036】
本発明に用いる結着剤が粒子状である場合の数平均粒子径は、格別な限定はないが、通常は0.0001〜100μm、好ましくは0.001〜10μm、より好ましくは0.01〜1μmである。結着剤の数平均粒子径がこの範囲であるときは、少量の使用でも優れた結着力を電極組成物層に与えることができる。ここで、数平均粒子径は、透過型電子顕微鏡写真で無作為に選んだ結着剤粒子100個の径を測定し、その算術平均値として算出される個数平均粒子径である。粒子の形状は球形、異形、どちらでもかまわない。これらの結着剤は単独でまたは二種類以上を組み合わせて用いることができる。電極組成物層における結着剤の含有量は、電極活物質100重量部に対して、通常0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは1〜10重量部の範囲である。電極組成物層における結着剤の含有量が前記範囲にあると、得られる電極組成物層と集電体との密着性が充分に確保でき、電気化学素子の容量を高く且つ内部抵抗を低くすることができる。
【0037】
(高分子物質)
本発明では、溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質を用いる。前記高分子物質は、本発明で用いる結着剤とは異なる物質である。溶解度パラメータが前記範囲の高分子物質は、電解質溶媒との親和性に優れ、電解質溶媒に対して容易に膨潤かつ溶出することができる。
溶解度パラメータは、E.H.Immergut編“Polymer Handbook”VII Solubility Parament Values,pp519−559(John Wiley&Sons社、第3版1989年発行)に記載される方法によって求めることができるが、この刊行物に記載のないものについてはSmallが提案した「分子引力定数法」に従って求めることができる。この方法は、化合物分子を構成する官能基(原子団)の特性値、すなわち、分子引力定数(G)の統計、分子量(M)、比重(d)とから次式に従ってSP値(δ)を求める方法である。
δ=ΣG/V=dΣG/M(V;比容、M;分子量、d;比重)
【0038】
本発明において、前記高分子物質の溶解度パラメータが12(cal/cm1/2未満であると、電解液のイオン拡散を阻害し、内部抵抗が大きくなり、電極強度が著しく低下する。一方、溶解度パラメータが17(cal/cm1/2を越えると、内部抵抗が大きくなり、電極組成物層の柔軟性が低下し、電極強度が著しく低下する。
【0039】
溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質としては、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン系重合体等の高分子化合物が挙げられる。これらの中でも、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド等のニトリル基またはアミド基を有する重合体は、電解液との親和性に特に優れ、電解液への含浸性に優れる電気化学素子用電極が得られる点で、好ましい。
【0040】
本発明に用いる溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質の重量平均分子量は、5,000〜500,000であることが好ましく、10,000〜100,000であることがより好ましく、10,000〜100,000であることがさらに好ましく、15,000〜50,000であることが特に好ましい。溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質の重量平均分子量が、前記範囲にあると、電解液との親和性に優れ、容易に電解液に溶解し、電極組成物層での電解液の移動を容易にし、電気化学素子の内部抵抗をより低減できる。ここで重量平均分子量は、溶媒としてテトラヒドロフランを用いるゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算値である。
【0041】
本発明に用いる溶解度パラメータが、12〜17(cal/cm1/2である高分子物質の形態は、格別な制限はないが、溶媒に分散する性質のある分散型、すなわち粒子状であることが好ましく、電極組成物層の乾燥の容易さと環境への負荷に優れる点で、水に分散する形態が特に好ましい。
【0042】
本発明に用いる溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質が粒子状である場合の数平均粒子径は、0.001〜1μmであることが好ましく、0.01〜0.5μmであることがより好ましく、0.05〜0.1μmであることが特に好ましい。前記高分子物質の数平均粒子径が前記範囲にあると、電解液との親和性に優れ、容易に電解液に溶解し、電極組成物層での電解液の移動を容易にし、電気化学素子の内部抵抗を低減できる点で優れている。数平均粒子径は、透過型電子顕微鏡写真で無作為に選んだ高分子物質の粒子100個の径を測定し、その算術平均値として算出される数平均粒子径である。
【0043】
本発明において、電極組成物層における溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質の含有量は、電極活物質100重量部に対し0.1〜20重量部、好ましくは0.5〜10重量部、特に好ましくは1〜5重量部である。電極組成物層における溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質の含有量が前記範囲にあることにより、電解液との親和性に優れ、容易に電解液に溶解し、電極組成物層での電解液の移動を容易にし、電気化学素子の内部抵抗をより低減できる。
【0044】
(その他の成分)
本発明に用いる電極組成物層は、必須成分として電極活物質、導電剤、結着剤及び溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質を含むものであるが、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、導電剤や分散剤が挙げられる。
【0045】
(導電剤)
本発明に用いる導電剤は、導電性を有し、電気二重層を形成し得る細孔を有さない粒子状の炭素の同素体からなるものが挙げられる。具体的には、ファーネスブラック、アセチレンブラック、及びケッチェンブラック(アクゾノーベル ケミカルズ ベスローテン フェンノートシャップ社の登録商標)などの導電性カーボンブラックが挙げられる。これらの中でも、アセチレンブラックおよびファーネスブラックが好ましい。
【0046】
本発明に用いる導電剤の体積平均粒子径は、電極活物質の体積平均粒子径よりも小さいものが好ましく、その範囲は通常0.001〜10μm、好ましくは0.05〜5μm、より好ましくは0.01〜1μmである。導電剤の体積平均粒子径がこの範囲にあると、より少ない使用量で高い導電性が得られる。これらの導電剤は、単独でまたは二種類以上を組み合わせて用いることができる。電極組成物層における導電剤の量は、電極活物質100重量部に対して通常0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜15重量部、より好ましくは1〜10重量部の範囲である。導電剤の量がこの範囲にあると、得られる電気化学素子用電極を使用した電気化学素子の容量を高く且つ内部抵抗を低くすることができる。
【0047】
(分散剤)
分散剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ならびにこれらのアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウムなどのポリ(メタ)アクリル酸塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド;ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、キチン、キトサン誘導体などが挙げられる。これらの分散剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。中でも、セルロース系ポリマーが好ましく、カルボキシメチルセルロースまたはそのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩が特に好ましい。
【0048】
電極組成物層における分散剤の量は、本発明の効果を損なわない範囲で用いることができ、格別な限定はないが、電極活物質100重量部に対して、通常は0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部、より好ましくは0.8〜2重量部の範囲である。
【0049】
(電極組成物層)
本発明では、電極活物質、導電剤、結着剤および溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質を含んでなる電極組成物層が集電体上に設けられるが、その形成方法は制限されない。具体的には、1)電極活物質、導電剤、結着剤及び溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質を混練してなる電極組成物を、シート成形し、得られたシート状電極組成物を、集電体上に積層する方法(混練シート成形法)、2)電極活物質、導電剤、結着剤及び溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質を含んでなるペースト状の電極組成物を調製し、これを集電体上に塗布し、乾燥する方法(湿式成形法)、3)電極活物質、導電剤、結着剤及び溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質を含んでなる複合粒子を調製し、これを集電体上に供給してシート成形し、必要に応じてロールプレスして得る方法(乾式成形法)などが挙げられる。これらの中でも、2)湿式成形法、3)乾式成形法が好ましく、3)乾式成形法が得られる電気化学素子の容量を高く、且つ内部抵抗を低減できる点でより好ましい。
【0050】
本発明において、前記湿式成形法において用いるペースト状の電極組成物は、電極活物質、導電剤、結着剤および溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質、並びに前記他の成分を溶媒中で混合、混練等することにより得ることができる。前記分散媒としては、特に制限されないが、環境性と乾燥設備の点で、水が好ましい。
【0051】
本発明において、前記湿式成形法において用いるペースト状電極組成物を構成する電極活物質、導電剤、結着剤および溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質、並びに前記他の成分の混合に用いる装置としては、具体的にはボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、およびホバートミキサーなどを用いることができる。
【0052】
本発明において、前記湿式成形法における電極組成物層の形成方法は、特に制限されない。例えば、上記ペースト状の電極組成物をドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗りなどによって、集電体上に形成する方法が挙げられる。
【0053】
本発明において、前記湿式成形法で集電体上に塗布したペースト状電極組成物層の乾燥方法としては、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。中でも、熱風による乾燥法、遠赤外線の照射による乾燥法が好ましい。乾燥温度と乾燥時間は、集電体に塗布したペースト状の電極組成物中の溶媒を完全に除去できる温度と時間が好ましく、乾燥温度は通常50〜300℃、好ましくは80〜250℃であり、乾燥時間は通常2時間以下、好ましくは5秒〜30分である。
【0054】
本発明において、前記乾式成形法で用いる電極活物質、導電剤、結着剤及び溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質、並びに前記他の成分を含んでなる複合粒子は、これら複数の材料が一体化した粒子をさす。電極組成物が複合粒子であることにより、得られる電気化学素子用電極の電極強度をより高くしたり、内部抵抗をより低減したりすることができる。
【0055】
本発明に好適に用いる複合粒子は、電極活物質、導電剤、結着剤、および溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質の必須成分や前記他の成分などの任意成分を用いて造粒することにより製造される。
【0056】
複合粒子の造粒方法は特に制限されず、噴霧乾燥造粒法、転動層造粒法、圧縮型造粒法、攪拌型造粒法、押出し造粒法、破砕型造粒法、流動層造粒法、流動層多機能型造粒法、パルス燃焼式乾燥法、および溶融造粒法などの公知の造粒法により製造することができる。中でも、表面付近に結着剤および導電剤が偏在した複合粒子を容易に得られるので、噴霧乾燥造粒法が好ましい。噴霧乾燥造粒法で得られる複合粒子を用いると、本発明の電極を高い生産性で得ることができる。また、該電極の内部抵抗をより低減することができる。
【0057】
前記噴霧乾燥造粒法では、まず上記した電極活物質、導電剤、結着剤及び溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質の必須成分と、前記他の成分などの任意成分とを、溶媒に分散または溶解して、これらの成分が分散または溶解されてなるスラリーを得る。
【0058】
スラリーを得るために用いる溶媒は、特に限定されないが、上記の分散剤を用いる場合には、分散剤を溶解可能な溶媒が好適に用いられる。具体的には、通常水が用いられるが、有機溶媒を用いることもできるし、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよい。有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等のアルキルアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のアルキルケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム等のエーテル類;ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン等のアミド類;ジメチルスルホキサイド、スルホラン等のイオウ系溶剤;等が挙げられる。この中でも有機溶媒としては、アルコール類が好ましい。水と、水よりも沸点の低い有機溶媒とを併用すると、噴霧乾燥時に、乾燥速度を速くすることができる。また、水と併用する有機溶媒の量または種類によって、結着剤の分散性または分散剤の溶解性が変わる。これにより、スラリーの粘度や流動性を調整することができ、生産効率を向上させることができる。
【0059】
スラリーを調製するときに使用する溶媒の量は、スラリーの固形分濃度が、通常1〜50質量%、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜30質量%の範囲となる量である。固形分濃度がこの範囲にあるときに、結着剤が均一に分散するため好適である。
【0060】
電極活物質、導電剤、結着剤及び溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質の必須成分と、前記他の成分などの任意成分とを溶媒に分散または溶解する方法または手順は特に限定されず、例えば、溶媒に電極活物質、導電剤、結着剤、溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質および分散剤等を添加し混合する方法;溶媒に分散剤を溶解した後、溶媒に分散させた結着剤(例えば、重合体粒子の水分散体)及び溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質を添加して混合し、最後に電極活物質および導電剤を添加して混合する方法;溶媒に分散させた結着剤及び溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質に電極活物質および導電剤を添加して混合し、この混合物に溶媒に溶解させた分散剤を添加して混合する方法等が挙げられる。混合の手段としては、例えば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等の混合機器が挙げられる。混合は、通常、室温〜80℃の範囲で、10分〜数時間行う。
【0061】
スラリーの粘度は、室温において、通常10〜3,000mPa・s、好ましくは30〜1,500mPa・s、より好ましくは50〜1,000mPa・sの範囲である。スラリーの粘度がこの範囲にあると、複合粒子の生産性を上げることができる。また、スラリーの粘度が高いほど、噴霧液滴が大きくなり、得られる複合粒子の重量平均粒子径が大きくなる。
【0062】
次に、上記で得たスラリーを噴霧乾燥して造粒し、複合粒子を得る。噴霧乾燥は、熱風中にスラリーを噴霧して乾燥することにより行う。スラリーの噴霧に用いる装置としてアトマイザーが挙げられる。アトマイザーは、回転円盤方式と加圧方式との二種類の装置がある。回転円盤方式は、高速回転する円盤のほぼ中央にスラリーを導入し、円盤の遠心力によってスラリーが円盤の外に放たれ、その際にスラリーを霧状にする方式である。円盤の回転速度は円盤の大きさに依存するが、通常は5,000〜40,000rpm、好ましくは15,000〜40,000rpmである。円盤の回転速度が低いほど、噴霧液滴が大きくなり、得られる複合粒子の重量平均粒子径が大きくなる。回転円盤方式のアトマイザーとしては、ピン型とベーン型が挙げられるが、好ましくはピン型アトマイザーである。ピン型アトマイザーは、噴霧盤を用いた遠心式の噴霧装置の一種であり、該噴霧盤が上下取付円板の間にその周縁に沿ったほぼ同心円上に着脱自在に複数の噴霧用コロを取り付けたもので構成されている。スラリーは噴霧盤中央から導入され、遠心力によって噴霧用コロに付着し、コロ表面を外側へと移動し、最後にコロ表面から離れ噴霧される。一方、加圧方式は、スラリーを加圧してノズルから霧状にして乾燥する方式である。
【0063】
噴霧されるスラリーの温度は、通常は室温であるが、加温して室温以上にしたものであってもよい。また、噴霧乾燥時の熱風温度は、通常80〜250℃、好ましくは100〜200℃である。噴霧乾燥において、熱風の吹き込み方法は特に制限されず、例えば、熱風と噴霧方向が横方向に並流する方式、乾燥塔頂部で噴霧され熱風と共に下降する方式、噴霧した滴と熱風が向流接触する方式、噴霧した滴が最初熱風と並流し次いで重力落下して向流接触する方式等が挙げられる。
【0064】
本発明に好適に用いる複合粒子の形状は、実質的に球形であることが好ましい。すなわち、複合粒子の短軸径をL、長軸径をL、L=(L+L)/2とし、(1−(L−L)/L)×100の値を球形度(%)としたとき、球形度が80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。ここで、短軸径Lおよび長軸径Lは、透過型電子顕微鏡写真像より測定される値である。
【0065】
本発明に好適に用いる複合粒子の体積平均粒子径は、通常10〜100μm、好ましくは20〜80μm、より好ましくは30〜60μmの範囲である。体積平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0066】
本発明において、複合粒子を供給する工程で用いられるフィーダーは、特に限定されないが、複合粒子を定量的に供給できる定量フィーダーであることが好ましい。ここで、定量的に供給できるとは、かかるフィーダーを用いて複合粒子を連続的に供給し、一定間隔で供給量を複数回測定し、その測定値の平均値mと標準偏差σmから求められるCV値(=σm/m×100)が4以下であることをいう。本発明に好適に用いられる定量フィーダーは、CV値が好ましくは2以下である。定量フィーダーの具体例としては、テーブルフィーダー、ロータリーフィーダーなどの重力供給機、スクリューフィーダー、ベルトフィーダーなどの機械力供給機などが挙げられる。これらのうちロータリーフィーダーが好適である。
【0067】
次いで、集電体と供給された複合粒子とを一対のロールで加圧して、集電体上に電極組成物層を形成する。この工程では、必要に応じ加温された前記複合粒子が、一対のロールでシート状の電極組成物層に成形される。供給される複合粒子の温度は、好ましくは40〜160℃、より好ましくは70〜140℃である。この温度範囲にある複合粒子を用いると、プレス用ロールの表面で複合粒子の滑りがなく、複合粒子が連続的かつ均一にプレス用ロールに供給されるので、膜厚が均一で、電極密度のばらつきが小さい、電極組成物層を得ることができる。
【0068】
成形時の温度は、通常0〜200℃であり、結着剤の融点またはガラス転移温度より高いことが好ましく、融点またはガラス転移温度より20℃以上高いことがより好ましい。ロールを用いる場合の成形速度は、通常0.1m/分より大きく、好ましくは35〜70m/分である。またプレス用ロール間のプレス線圧は、通常0.2〜30kN/cm、好ましくは0.5〜10kN/cmである。
【0069】
上記製法では、前記一対のロールの配置は特に限定されないが、略水平または略垂直に配置されることが好ましい。略水平に配置する場合は、集電体を一対のロール間に連続的に供給し、該ロールの少なくとも一方に複合粒子を供給することで、集電体とロールとの間隙に複合粒子が供給され、加圧により電極組成物層を形成できる。略垂直に配置する場合は、集電体を水平方向に搬送させ、集電体上に複合粒子を供給し、供給された複合粒子を必要に応じブレード等で均した後、前記集電体を一対のロール間に供給し、加圧により電極組成物層を形成できる。
【0070】
成形した電極組成物層の厚みのばらつきを無くし、密度を上げて高容量化をはかるために、必要に応じて更に後加圧を行っても良い。後加圧の方法は、ロールによるプレス工程が一般的である。ロールプレス工程では、2本の円柱状のロールをせまい間隔で平行に上下にならべ、それぞれを反対方向に回転させて、その間に電極をかみこませ加圧する。ロールは加熱又は冷却等、温度調節してもよい。
【0071】
本発明に用いる電極組成物層の密度は、特に制限されないが、通常は0.30〜10g/cm、好ましくは0.35〜5.0g/cm、より好ましくは0.40〜3.0g/cmである。また、電極組成物層の厚みは、特に制限されないが、通常は5〜1000μm、好ましくは20〜500μm、より好ましくは30〜300μmである。
【0072】
(集電体)
本発明に用いる集電体の材料は、例えば、金属、炭素、導電性高分子などを用いることができ、好適には金属が用いられる。集電体用金属としては、通常、アルミニウム、白金、ニッケル、タンタル、チタン、ステンレス鋼、銅、その他の合金等が使用される。これらの中で導電性、耐電圧性の面から銅、アルミニウムまたはアルミニウム合金を使用するのが好ましい。
【0073】
本発明に用いる集電体の形状は、金属箔、金属エッヂド箔などの集電体;エキスパンドメタル、パンチングメタル、網状などの貫通する孔を有する集電体(以下、「孔開き集電体」と記載することがある。)が挙げられる。
【0074】
集電体として孔開き集電体を用いる場合は、孔開き集電体の貫通する孔の割合(開口率)は、10〜80面積%、好ましくは20〜60面積%、より好ましくは30〜50面積%である。孔開き集電体の貫通する孔の割合がこの範囲にあると、電解液の拡散抵抗が低減し、電気化学素子の内部抵抗が低減する。
【0075】
本発明に用いる集電体の厚さは、通常5〜100μmで、好ましくは10〜70μm、特に好ましくは20〜50μmである。
【0076】
本発明において用いる集電体は、導電性接着剤層を有することが好ましい。前記集電体が導電性接着剤層を有することにより、集電体と電極組成物層との電子移動抵抗が低減でき、電気化学素子の内部抵抗をより低減することができる。
本発明に好適に用いる導電性接着剤は、必須成分として導電性フィラーおよび導電性接着剤用結着剤を含み、必要に応じて分散剤や界面活性剤を含んでなるものである。
【0077】
(導電性フィラー)
本発明に用いる導電性フィラーは、導電性を有する粒子であれば特に制限されないが、電気化学的に安定な炭素粒子が好ましい。炭素粒子とは、炭素のみ、又は実質的に炭素のみからなる粒子である。炭素粒子の具体例としては、非局在化したπ電子の存在によって高い導電性を有する黒鉛(具体的には天然黒鉛、人造黒鉛など);黒鉛質の炭素微結晶が数層集まって乱層構造を形成した球状集合体であるカーボンブラック(具体的にはアセチレンブラック、ケッチェンブラック、その他のファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラックなど);炭素繊維やカーボンウィスカーなどが挙げられ、これらの中でも、導電性接着剤層の炭素粒子が高密度に充填し、電子移動抵抗を低減でき、さらに電気化学素子の内部抵抗を低減できる点で、黒鉛又はカーボンブラックが、特に好ましい。
【0078】
(導電性接着剤用結着剤)
本発明に用いる導電性接着剤用結着剤としては、導電性フィラーを相互に結着させることができる化合物であれば特に制限はない。好適な導電性接着剤用結着剤は、溶媒に分散する性質のある分散型結着剤である。分散型結着剤として、例えば、フッ素系重合体、ジエン系重合体、アクリレート系重合体、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン系重合体等の高分子化合物が挙げられ、フッ素系重合体、ジエン系重合体又はアクリレート系重合体が好ましく、ジエン系重合体又はアクリレート系重合体が、耐電圧を高くでき、かつ電気化学素子のエネルギー密度を高くすることができる点でより好ましい。
【0079】
ジエン系重合体は、共役ジエンの単独重合体もしくは共役ジエンを含む単量体混合物を重合して得られる共重合体、またはそれらの水素添加物である。前記単量体混合物における共役ジエンの割合は通常30重量%以上、好ましくは40重量%以上、より好ましくは50重量%以上である。ジエン系重合体の具体例としては、ポリブタジエンやポリイソプレンなどの共役ジエン単独重合体;カルボキシ変性されていてもよいスチレン・ブタジエン共重合体(SBR)などの芳香族ビニル・共役ジエン共重合体;スチレン・ブタジエン・メタクリル酸共重合体や、スチレン・ブタジエン・イタコン酸共重合体などの芳香族ビニル・共役ジエン・カルボン酸基含有単量体の共重合体;アクリロニトリル・ブタジエン共重合体(NBR)などのシアン化ビニル・共役ジエン共重合体;水素化SBR、水素化NBR等が挙げられる。
【0080】
アクリレート系重合体は、一般式(1):CH=CR−COOR(式中、Rは水素原子またはメチル基を、Rはアルキル基またはシクロアルキル基を表す。)で表される化合物由来の単量体単位を含む重合体である。一般式(1)で表される化合物の具体例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸n−アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリルなどのアクリレート;メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸n−アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリルなどのメタアクリレート等が挙げられる。これらの中でも、アクリレートが好ましく、アクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸2−エチルヘキシルが、得られる電極の強度を向上できる点で、特に好ましい。アクリレート系重合体中の一般式(1)で表される化合物由来の単量体単位の割合は、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上である。前記一般式(1)で表される化合物由来の単量体単位の割合が前記範囲であるアクリレート系重合体を用いると、耐熱性が高く、かつ得られる電気化学素子用電極の内部抵抗を小さくできる。
【0081】
本発明に用いる導電性接着剤用結着剤のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは−40〜0℃である。導電性接着剤用結着剤のガラス転移温度(Tg)がこの範囲にあると、少量の使用量で結着性に優れ、集電体と電極組成物層との結着性に優れ、電極強度が強く、柔軟性に富み、電極形成時のプレス工程により電極密度を容易に高めることができる。
【0082】
本発明に用いる導電性接着剤用結着剤が、粒子状である場合における、その数平均粒子径は、格別な限定はないが、通常は0.0001〜100μm、好ましくは0.001〜10μm、より好ましくは0.01〜1μmである。結着剤が粒子状である場合における、その数平均粒子径がこの範囲であるときは、少量の使用でも優れた結着力を、導電性接着剤層に与えることができる。ここで、数平均粒子径は、透過型電子顕微鏡写真で無作為に選んだ結着剤粒子100個の径を測定し、その算術平均値として算出される個数平均粒子径である。粒子の形状は球形、異形、どちらでもかまわない。これらの結着剤は単独でまたは二種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0083】
本発明において、導電性接着剤層における結着剤の含有量は、導電性フィラー100重量部に対して、通常は0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは1〜10重量部の範囲である。導電性接着剤層における導電性接着剤用結着剤の量がこの範囲にあると、得られる電極組成物層と集電体との密着性が充分に確保でき、電気化学素子の容量を高く且つ内部抵抗を低くすることができる。
【0084】
(その他の成分)
本発明に用いる導電性接着剤層は、必須成分として導電性フィラーおよび導電性接着剤用結着剤を含むものであるが、さらに分散剤及び/又は界面活性剤を含むことが好ましい。
【0085】
本発明に用いる分散剤は、導電性フィラーおよび結着剤を含んでなる導電性接着剤組成物を分散するもので、格別制限されないが、カルボキシメチルセルロース酸、カルボキシメチルセルロースアンモニウム、カルボキシメチルセルロースアルカリ金属、カルボキシメチルセルロースアルカリ土類金属などが挙げられる。中でも、カルボキシメチルセルロースアンモニウム、カルボキシメチルセルロースアルカリ金属が好ましく、カルボキシメチルセルロースアンモニウムが特に好ましい。特に、カルボキシメチルセルロースアンモニウムを用いると、導電性フィラーおよび結着剤を均一に分散させることができ、導電性接着剤層の導電性フィラーの充填度を高め、電子移動抵抗を低減することができる。導電性接着剤層における分散剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で用いることができ、格別な限定はないが、導電性フィラー100重量部に対して、好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは0.5〜15重量部、特に好ましくは0.8〜10重量部の範囲である。
【0086】
本発明に好適に用いる界面活性剤は、導電性フィラーおよび結着剤を均一に分散し、集電体の表面張力を低下させるもので、具体的には、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物などのアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレナルキルエーテル、グリセリン脂肪酸エステルなどの非イオン性界面活性剤;アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩などのカチオン性界面活性剤;アルキルアミンオキサイド、アルキルベタインなどの両性界面活性剤が挙げられる。これらの中でも、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤が好ましく、電気化学素子の耐久性に優れる点でアニオン性界面活性剤が特に好ましい。導電性接着剤層における界面活性剤の含有量は、導電性フィラー100重量部に対して、好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは1.0〜15重量部、特に好ましくは2.0〜10重量部の範囲である。
【0087】
本発明に用いる導電性接着剤層は、導電性フィラーおよび導電性接着剤用結着剤、並びに必要に応じ分散剤や界面活性剤などを、溶媒(分散媒)中で混合、混練等することにより得られる導電性接着剤組成物を、集電体上に塗布し、乾燥して形成することができる。前記溶媒としては、特に制限されないが、環境性と乾燥設備の点で、水が好ましい。
【0088】
本発明に用いる導電性接着剤層組成物を得るために用いる装置としては、具体的にはボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、およびホバートミキサーなどを用いることができる。
【0089】
本発明に用いる導電性接着剤層の形成方法は、特に制限されない。例えば、上記導電性接着剤層組成物を、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗りなどによって、集電体上に形成される。
【0090】
本発明に用いる導電性接着剤層組成物の固形分濃度は、塗布法にもよるが、通常10〜60重量%、好ましくは15〜50重量%、特に好ましくは20〜40%重量である。固形分濃度がこの範囲にあると、得られる導電性接着剤層が高充填化され、電気化学素子のエネルギー密度と出力密度が高まる。
【0091】
本発明に用いる導電性接着剤層組成物の粘度は、塗布法にもよるが、通常50〜10,000mPa・s、好ましくは100〜5,000mPa・s、特に好ましくは200〜2,000mPa・sである。導電性接着剤組成物の粘度がこの範囲にあると、集電体上へ均一な導電性接着剤層を形成することができる。
【0092】
導電性接着剤層の乾燥方法としては例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。中でも、熱風による乾燥法、遠赤外線の照射による乾燥法が好ましい。乾燥温度と乾燥時間は、集電体に塗布したスラリー状の導電性接着剤層組成物中の溶媒を完全に除去できる温度と時間が好ましく、乾燥温度は通常50〜300℃、好ましくは80〜250℃であり、乾燥時間は通常2時間以下、好ましくは5秒〜30分である。
【0093】
導電性接着剤層の厚さは、通常0.01〜20μm、好ましくは0.1〜15μm、特に好ましくは1〜10μmである。導電性接着剤層の厚さが前記範囲であることにより、良好な接着性が得られ、かつ電子移動抵抗を低減することができる。
【0094】
(電気化学素子)
本発明の電気化学素子は、上記電気化学素子用電極を有する。
電気化学素子としては、鉛蓄電池、アルカリ電池、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタ等の蓄電デバイスが挙げられ、エネルギー密度と出力密度に優れるリチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタが好ましい。
電気化学素子用電極以外の他の構成要素としては、セパレータおよび電解液が挙げられる。
【0095】
(セパレータ)
セパレータは、電気化学素子用電極の間を絶縁でき、陽イオンおよび陰イオンを通過させることができるものであれば特に限定されない。具体的には、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンや芳香族ポリアミド、レーヨンもしくはガラス繊維製の微孔膜または不織布;一般に電解コンデンサ紙と呼ばれるパルプを主原料とする多孔質膜;無機セラミック粉末を含む多孔質の樹脂コートなどを用いることができる。セパレータは、上記一対の電極組成物層が対向するように、電気化学素子用電極の間に配置され、素子が得られる。セパレータの厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常は1〜100μm、好ましくは10〜80μm、より好ましくは20〜60μmである。
【0096】
(電解液)
電解液は、通常電解質と溶媒で構成される。電解質は、カチオン性であってもよく、アニオン性であってもよい。カチオン性電解質としては、以下に示すような(1)イミダゾリウム、(2)第四級アンモニウム、(3)第四級ホスホニウム、(4)リチウム等を用いることができる。
(1)イミダゾリウム
1,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1,3−ジエチルイミダゾリウム、1,2,3−トリメチルイミダゾリウム、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリウム、1,3,4−トリメチル−エチルイミダゾリウム、1,3−ジメチル−2,4−ジエチルイミダゾリウム、1,2−ジメチル−3,4−ジエチルイミダゾリウム、1−メチル−2,3,4−トリエチルメチルイミダゾリウム、1,2,3,4−テトラエチルイミダゾリウム、1,3−ジメチル−2−エチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1,2,3−トリエチルイミダゾリウム等
(2)第四級アンモニウム
テトラメチルアンモニウム、エチルトリメチルアンモニウム、ジエチルジメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、トリメチルプロピルアンモニウム等のテトラアルキルアンモニウム等
(3)第四級ホスホニウム
テトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、メチルトリエチルホスホニウム、メチルトリブチルホスホニウム、ジメチルジエチルホスホニウム等
(4)リチウム
【0097】
また、アニオン性電解質としては、PF、BF、AsF、SbF、N(RfSO2−、C(RfSO3−、RfSO(Rfはそれぞれ炭素数1〜12のフルオロアルキル基)、F、ClO、AlCl、AlF等を用いることができる。これらの電解質は単独または二種類以上として使用することができる。
【0098】
電解液の溶媒は、一般に電解液の溶媒として用いられるものであれば特に限定されない。具体的には、プロピレンカーボート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどのカーボネート類;γ−ブチロラクトンなどのラクトン類;スルホラン類;アセトニトリルなどのニトリル類;が挙げられる。これらは単独または二種以上の混合溶媒として使用することができる。中でも、カーボネート類が好ましい。
【0099】
上記の素子に電解液を含浸させて、本発明の電気化学素子が得られる。具体的には、上記素子を必要に応じ捲回、積層または折るなどして容器に入れ、容器に電解液を注入して封口して製造できる。また、上記素子に予め電解液を含浸させたものを容器に収納してもよい。容器としては、コイン型、円筒型、角型などの公知のものをいずれも用いることができる。
【実施例】
【0100】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における部および%は、特に断りのない限り重量基準である。実施例および比較例における各特性は、下記の方法に従い測定する。
【0101】
(高分子物質や結着剤の溶解度パラメータの算出方法)
高分子物質や結着剤の溶解度パラメータは、E.H.Immergut編“Polymer Hndbook”VII Solubility Parament Values,pp519−559(John Wiley&Sons社、第3版1989年発行)に記載される方法によって求める。この刊行物に記載のないものについてはSmallが提案した「分子げん引力定数法」に従って求める。この方法は、化合物分子を構成する官能基(原子団)の特性値、すなわち、分子引力定数(G)の統計と分子量とから次式に従ってSP値(δ)を求める方法である。
高分子物質のSP値δ=ΣG/V=dΣG/M(V;比容、M;分子量、d;比重)
【0102】
(高分子物質の重量平均分子量)
高分子物質をフィルム状に成形、乾燥して、切り出す。そして、切り出した高分子物質のフィルムを、テトラヒドロフランを用いて溶解し、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で測定する。なお、重量平均分子量は、ポリスチレン換算値とする。
【0103】
(高分子物質の電解液への溶出量)
高分子物質をフィルム状に成形、乾燥して、重量M1に切り出す。プロピレンカーボネートを溶媒としてテトラエチルアンモニウムフルオロボレートを1.0mol/リットルの濃度で溶解させた電解液に、切り出した高分子物質のフィルムを浸し、70℃で、72時間保存した後、高分子物質のフィルムを取り出し、70℃、24時間の真空乾燥後、再び高分子物質のフィルムの重量M2を測定する。測定した高分子物質のフィルムの重量M1、M2より、溶出度(%)(=(M1−M2)/M1×100)を算出する。前記溶出度が大きいほど、電極組成物層に多数の空隙構造を作ることができ、内部抵抗に優れることを示す。
【0104】
(電解液の含浸性)
電気化学素子用電極の電解液の含浸性は、5cm×5cmに切り出した電気化学素子用電極に、プロピレンカーボネートを溶媒としてテトラエチルアンモニウムフルオロボレートを1.0mol/リットルの濃度で溶解させた電解液を20μL滴下し、電極表面から電解液の液滴が見えなくなるまでの時間を測定することにより行う。この時間が短いほど電極が電解液浸透性に優れることを示す。
【0105】
(電極の柔軟性)
電気化学素子用電極の柔軟性は、1cm×8cmに切り出した電気化学素子用電極を、直径1mmの金属棒、直径2mmの金属棒それぞれに巻きつけ、生じる割れを下記のように評価する。割れが少ないほど柔軟性に優れる、すなわち電極強度に優れることを示す。
○;直径1mmの金属棒でも、直径2mmの金属棒でも割れがない
△;直径2mmの金属棒で割れはないが、直径1mmの金属棒で割れがある
×;直径1mmでも、直径2mmでも割れがある
【0106】
(電気二重層キャパシタの静電容量および内部抵抗)
電気二重層キャパシタ用電極を用いて、積層型ラミネートセルの電気二重層キャパシタを作製し、24時間静置させた後に充放電の操作を行い、静電容量と内部抵抗を測定する。ここで、充電は2Aの定電流で開始し、電圧が2.7Vに達したらその電圧を1時間保って定電圧充電とする。また、放電は充電終了直後に定電流2Aで0Vに達するまで行う。静電容量は放電エネルギーを用いたエネルギー換算法から、内部抵抗は放電直後の電圧降下から、それぞれ算出する。なお、静電容量は、電極単位重量当たりの静電容量(F/g)として表す。
【0107】
(電気二重層キャパシタのフローティング特性)
前記静電容量および内部抵抗を測定した積層型ラミネートセルの電気二重層キャパシタについて、70℃環境下、2.7Vで1000時間保持した(フローティング)後に、2Aの定電流で0Vに達するまで放電を行う。そして、フローティング後の静電容量および内部抵抗を前記算出法にて算出し、フローティング前の静電容量(上記で算出した静電容量)との変化から、容量維持率(=フローティング後の静電容量/フローティング前の静電容量)および抵抗変化率(=フローティング後の内部抵抗/フローティング前の内部抵抗)を算出し、評価する。容量維持率が高いほど、抵抗維持率が低いほど、耐久性に優れることを示す。
【0108】
(実施例1)
電極活物質として、ヤシガラを原料とする水蒸気賦活活性炭である体積平均粒子径が17μmの活性炭粉末(白鷺PC;日本エンバイロケミカルズ社製)100部、分散剤としてカルボキシメチルセルロースの1.5%水溶液(DN−800H;ダイセル化学工業社製)を固形分相当量で2.0部、導電材としてアセチレンブラック(デンカブラック粉状;電気化学工業社製)5部、結着剤として数平均粒子径が0.25μmのアクリレート重合体(アクリル酸2−エチルヘキシル76部、アクリロニトリル20部、イタコン酸4部を乳化重合して得られる共重合体:溶解度パラメータ:10.8(cal/cm1/2)の40%水分散体を固形分相当量で3.0部、高分子物質としてニトリル基を有し、重量平均分子量が354,000、数平均粒子径が0.17μm、溶解度パラメータが12.77(cal/cm1/2、電解液への溶出度が47%の重合体(アクリル酸2−エチルヘキシル30部、アクリロニトリル70部を乳化重合して得られる共重合体)の40%水分散体を固形分相当量で2.0部、およびイオン交換水を全固形分濃度が35%となるように混合し、電極組成物層用スラリーを調製した。
【0109】
厚さ30μmのアルミニウム集電体の片面上に、前記の電極組成物層用スラリーをドクターブレードによって、20m/分の電極成形速度で塗布し、60℃で5分間、次いで120℃で5分間乾燥した後、5cm正方に打ち抜いて、厚さ100μmの電極組成物層を有する電気二重層キャパシタ用電極(電気化学素子用電極)を得た。この電気二重層キャパシタ用電極の電解液の含浸性及び柔軟性の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0110】
この電気二重層キャパシタ用電極及びセパレータとしてセルロース(TF40;ニッポン高度紙工業社製)を用いて、室温で1時間電解液に含浸させ、次いで2枚の電気二重層キャパシタ用電極の電極組成物層がセパレータを介して内側になるように対向させ、かつそれぞれの電気二重層キャパシタ用電極が電気的に接触しないように配置して、ラミネート型セル形状の電気二重層キャパシタ(電気化学素子)を作製した。電解液としてはプロピレンカーボネートを溶媒としてテトラエチルアンモニウムフルオロボレートを1.0mol/リットルの濃度で溶解させたものを用いた。この電気二重層キャパシタの静電容量、内部抵抗、及びフローティング特性の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0111】
(実施例2)
高分子物質としてニトリル基を有し、重量平均分子量が338,000、数平均粒子径が0.17μm、溶解度パラメータが14.39(cal/cm1/2、電解液への溶出度が78%の重合体(アクリロニトリル100部を乳化重合して得られる重合体)の40%水分散体を固形分相当量で2.0部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電気二重層キャパシタ用電極および電気二重層キャパシタを作製した。この電気二重層キャパシタ用電極の電解液の含浸性及び柔軟性、並びに電気二重層キャパシタの静電容量、内部抵抗及びフローティング特性の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0112】
(実施例3)
高分子物質としてニトリル基を有し、重量平均分子量が100,000、数平均粒子径が0.15μm、溶解度パラメータが14.39(cal/cm1/2、電解液への溶出度が85%の重合体(アクリロニトリル100部を乳化重合して得られる重合体)の40%水分散体を固形分相当量で2.0部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電気二重層キャパシタ用電極および電気二重層キャパシタを作製した。この電気二重層キャパシタ用電極の電解液の含浸性及び柔軟性、並びに電気二重層キャパシタの静電容量、内部抵抗及びフローティング特性の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0113】
(実施例4)
高分子物質としてニトリル基を有し、重量平均分子量が23,000、数平均粒子径が0.13μm、溶解度パラメータが14.39(cal/cm1/2、電解液への溶出度が91%の重合体(アクリロニトリル100部を乳化重合して得られる重合体)の40%水分散体を固形分相当量で2.0部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電気二重層キャパシタ用電極および電気二重層キャパシタを作製した。この電気二重層キャパシタ用電極の電解液の含浸性及び柔軟性、並びに電気二重層キャパシタの静電容量、内部抵抗及びフローティング特性の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0114】
(実施例5)
高分子物質としてニトリル基を有し、重量平均分子量が23,000、数平均粒子径が0.05μm、溶解度パラメータが14.39(cal/cm1/2、電解液への溶出度が95%の重合体(アクリロニトリル100部を乳化重合して得られる重合体)の40%水分散体を固形分相当量で2.0部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電気二重層キャパシタ用電極および電気二重層キャパシタを作製した。この電気二重層キャパシタ用電極の電解液の含浸性及び柔軟性、並びに電気二重層キャパシタの静電容量、内部抵抗及びフローティング特性の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0115】
(実施例6)
電極活物質として、ヤシガラを原料とする水蒸気賦活活性炭である体積平均粒子径が17μmの活性炭粉末(白鷺PC;日本エンバイロケミカルズ社製)100部、分散剤としてカルボキシメチルセルロースの1.5%水溶液(DN−800H;ダイセル化学工業社製)を固形分相当量で2.0部、導電材としてアセチレンブラック(デンカブラック粉状;電気化学工業社製)5部、結着剤として数平均粒子径が0.25μmのアクリレート重合体(アクリル酸2−エチルヘキシル76部、アクリロニトリル20部、イタコン酸4部を乳化重合して得られる共重合体:溶解度パラメータ:10.8(cal/cm1/2)の40%水分散体を固形分相当量で3.0部、高分子物質としてニトリル基を有し、重量平均分子量が23,000、数平均粒子径が0.05μm、溶解度パラメータが14.39(cal/cm1/2、電解液への溶出度が95%の重合体(アクリロニトリル100部を乳化重合して得られる重合体)の40%水分散体を固形分相当量で2.0部、およびイオン交換水を全固形分濃度が30%となるように混合し、電極組成物層用スラリーを調製した。
【0116】
一方、導電性フィラーとして、球状黒鉛(JB−5;日本黒鉛工業社製)80部とカーボンブラック(BMAB;電気化学工業社製)20部、分散剤としてカルボキシメチルセルロースアンモニウムの4.0%水溶液(DN−10L;ダイセル化学工業社製)を固形分相当量で4部、結着剤として数平均粒子径が0.25μmのカルボン酸基およびニトリル基を含有するアクリレート系重合体(アクリル酸2−エチルヘキシル76重量%、アクリロニトリル20重量%、イタコン酸4重量%を乳化重合した共重合体)の40%水分散体を固形分相当量で8部及びイオン交換水を全固形分濃度が35%となるように混合し、導電性接着剤組成物を調製した。
【0117】
厚さ30μmのアルミニウム集電体を挟むように、一対のダイより前記導電性接着剤組成物を吐出し、30m/分の成形速度で、前記集電体の片面に塗布し、120℃で5分間乾燥して、厚さ4μmの導電性接着剤層を形成した。
【0118】
前記導電性接着剤を形成したアルミニウム集電体の片面上に、前記の電極組成物層用スラリーをドクターブレードによって、20m/分の電極成形速度で塗布し、60℃で5分間、次いで120℃で5分間乾燥した後、5cm正方に打ち抜いて、厚さ100μmの電極組成物層を有する電気二重層キャパシタ用電極を得た。この電気二重層キャパシタ用電極の電解液の含浸性及び柔軟性の測定結果を表1に示す。
【0119】
電気二重層キャパシタ用電極として、上記電気二重層キャパシタ用電極を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ラミネート型セル形状の電気二重層キャパシタを作製した。この電気二重層キャパシタの静電容量、内部抵抗及びフローティング特性の測定結果を表1に示す。
【0120】
(実施例7)
電極活物質として、ヤシガラを原料とする水蒸気賦活活性炭である体積平均粒子径が17μmの活性炭粉末(白鷺PC;日本エンバイロケミカルズ社製)100部、分散剤としてカルボキシメチルセルロースの1.5%水溶液(DN−800H;ダイセル化学工業社製)を固形分相当量で2.0部、導電剤としてアセチレンブラック(デンカブラック粉状;電気化学工業社製)5部、結着剤として数平均粒子径が0.25μmのアクリレート重合体(アクリル酸2−エチルヘキシル76部、アクリロニトリル20部、イタコン酸4部を乳化重合して得られる共重合体:溶解度パラメータ:10.8(cal/cm1/2)の40%水分散体を固形分相当量で3.0部、高分子物質としてニトリル基を有し、重量平均分子量が23,000、数平均粒子径が0.05μm、溶解度パラメータが14.39(cal/cm1/2、電解液への溶出度が95%の重合体(アクリロニトリル100部を乳化重合して得られる重合体)の40%水分散体を固形分相当量で2.0部、およびイオン交換水を全固形分濃度が20%となるように混合し、電極組成物層用スラリーを調製した。
【0121】
次いで、このスラリーをスプレー乾燥機(OC−16;大川原化工機社製)を使用し、回転円盤方式のアトマイザ(直径65mm)の回転数25,000rpm、熱風温度150℃、粒子回収出口の温度が90℃の条件で、噴霧乾燥造粒を行い、体積平均粒子径56μm、球形度93%の球状の電極組成物層用複合粒子(電極組成物)を得た。
【0122】
ロールプレス機(押し切り粗面熱ロール;ヒラノ技研社製)のロール(ロール温度100℃、プレス線圧3.9kN/cm)に、上記複合粒子を、実施例6で得られた導電性接着剤層を有する厚さ30μmのアルミニウム集電体とともに供給し、成形速度20m/分でシート状の電極組成物層を導電性接着剤層上に成形し、これを5cm正方に打ち抜いて、片面厚さ100μmの電極組成物層を有する電気二重層キャパシタ用電極を得た。この電気二重層キャパシタ用電極の電解液の含浸性及び柔軟性の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0123】
電気二重層キャパシタ用電極として、上記電気二重層キャパシタ用電極を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ラミネート型セル形状の電気二重層キャパシタを作製した。この電気二重層キャパシタの静電容量、内部抵抗及びフローティング特性の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0124】
(比較例1)
高分子物質として、重量平均分子量が689,000、数平均粒子径が0.25μm、溶解度パラメータが9.93(cal/cm1/2、電解液への溶出度が5.5%の重合体(メタクリル酸メチル100部を乳化重合して得られる共重合体)の40%水分散体を固形分相当量で2.0部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電気二重層キャパシタ用電極および電気二重層キャパシタを作製した。この電気二重層キャパシタ用電極の電解液の含浸性及び柔軟性、並びに電気二重層キャパシタの静電容量、内部抵抗及びフローティング特性の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0125】
(比較例2)
高分子物質として、重量平均分子量が587,000、数平均粒子径が0.25μm、溶解度パラメータが19.19(cal/cm1/2、電解液への溶出度が98%の重合体(メタクリルアミド100部を乳化重合して得られる重合体)の40%水分散体を固形分相当量で2.0部を用いた以外は、実施例1と同様にして、電気二重層キャパシタ用電極および電気二重層キャパシタを作製した。この電気二重層キャパシタ用電極の電解液の含浸性及び柔軟性、並びに電気二重層キャパシタの静電容量、内部抵抗及びフローティング特性の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0126】
(比較例3)
高分子物質を用いないこと以外は、実施例7と同様にして、電気二重層キャパシタ用電極および電気二重層キャパシタを作製した。この電気二重層キャパシタ用電極の電解液の含浸性及び柔軟性、並びに電気二重層キャパシタの静電容量、内部抵抗及びフローティング特性の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0127】
(表1)

【0128】
(リチウムイオン二次電池の容量特性およびレート特性)
積層型ラミネートセル形状のリチウムイオン二次電池を、24時間静置させた後に充放電の操作を行い、容量およびレート特性を測定する。ここで、充電は0.1Cの定電流で開始し、電圧が4.2Vに達したらその電圧を1時間保って定電圧充電とする。また、放電は充電終了直後に0.1Cの定電流で3Vに達するまで行い、電流容量値を算出し、容量C0とする。またレート特性は、放電の電流値を10Cとした時の電流容量値を算出し、容量C1とし、その容量維持率ΔCレート(%)=C1/C0×100をレート特性として評価する。ΔCレートの値が大きいほど、レート特性に優れる、すなわち内部抵抗が低減し、出力密度が高くなることを示す。
【0129】
(リチウムイオン二次電池のサイクル特性)
積層型ラミネートセル形状のリチウムイオン二次電池を、電圧が4.2Vまで1Cの定電流で充電し、電圧3Vまで1Cの定電流で放電する充放電サイクルを行う。充放電サイクルは50サイクルまで行い、初期容量C2に対する50サイクル目の容量C3とし、その容量維持率ΔCサイクル(%)=C3/C2×100をサイクル特性として評価する。ΔCサイクルの値が大きいほど、サイクル特性、すなわち耐久性に優れることを示す。
【0130】
(実施例8)
正極の電極活物質として、コバルト酸リチウム(C10N、セルシード社製)100部、分散剤としてカルボキシメチルセルロースの1.5%水溶液(BSH−12、第一工業製薬社製)を固形分相当量で1.0部、導電剤としてアセチレンブラック(デンカブラック、電気化学工業社製)5部、結着剤として数平均粒子径が0.25μmのアクリレート重合体(アクリル酸2−エチルヘキシル76部、アクリロニトリル20部、イタコン酸4部を乳化重合して得られる共重合体:溶解度パラメータ:10.8(cal/cm1/2)の40%水分散体を固形分相当量で1.0部、高分子物質としてニトリル基を有し、重量平均分子量が23,000、数平均粒子径が0.05μm、溶解度パラメータが14.39(cal/cm1/2、電解液への溶出度が95%の重合体(アクリロニトリル100部を乳化重合して得られる重合体)の40%水分散体を固形分相当量で2.0部、およびイオン交換水を全固形分濃度50%となるように混合し、電極組成物層用スラリーを調製した。
【0131】
厚さ30μmのアルミニウム集電体上に、前記の正極の電極組成物層用スラリーをドクターブレードによって、20m/分の電極成形速度で塗布し、60℃で5分間、次いで120℃で5分間乾燥した後、5cm正方に打ち抜いて、厚さ100μmの電極組成物層を有するリチウムイオン二次電池用正極(電気化学素子用電極)を得た。このリチウムイオン二次電池用正極の電解液の含浸性及び柔軟性の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0132】
一方、負極の電極活物質として、天然黒鉛(KS−6、ティムカル社製)100部、分散剤としてカルボキシメチルセルロースの1.5%水溶液(BSH−12、第一工業製薬社製)を固形分相当量で1.0部、結着剤として数平均粒子径が0.1μmのジエン系重合体(スチレン65部、ブタジエン30部、イタコン酸5部を乳化重合して得られる共重合体)の40%水分散体を固形分相当量で1.0部、およびイオン交換水を全固形分濃度50%となるように混合し、電極組成物層用スラリーを調製した。
【0133】
厚さ20μmの銅集電体上に、前記の負極の電極組成物層用スラリーをドクターブレードによって、20m/分の電極成形速度で塗布し、まず60℃で5分間、次いで120℃で5分間乾燥した後、5cm正方に打ち抜いて、厚さ80μmの電極組成物層を有するリチウムイオン二次電池用負極を得た。
【0134】
この正極および負極のリチウムイオン二次電池用電極及びセパレータとしてポリプロピレン製多孔膜を用いて、室温で1時間電解液に含浸させ、次いで正極および負極のリチウムイオン二次電池用電極の電極組成物層がセパレータを介して内側になるように対向させ、かつそれぞれのリチウムイオン二次電池用電極が電気的に接触しないように配置して、ラミネート型セル形状のリチウムイオン二次電池(電気化学素子)を作製した。電解液としては溶媒としてエチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比で1:1としてLiPFを1.0mol/リットルの濃度で溶解させたものを用いた。このリチウムイオン二次電池について、容量特性、レート特性、及びサイクル特性の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0135】
(比較例4)
高分子物質を用いないこと以外は、実施例8と同様にして、リチウムイオン二次電池用電極およびリチウムイオン二次電池を作製した。このリチウムイオン二次電池用電極(正極)の電解液の含浸性及び柔軟性、並びにリチウムイオン二次電池の容量特性、レート特性及びサイクル特性の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0136】
(表2)

【0137】
以上の実施例および比較例の結果より明らかなように、本発明の電気化学素子用電極を用いると、電解液への含浸性に優れ、電極強度に優れ、電極密度が向上、すなわちエネルギー密度が高くなり、内部抵抗を低減し、かつ耐久性を高めることが可能となる。
一方、高分子物質として、溶解度パラメータが12(cal/cm1/2未満のものや17(cal/cm1/2を超えるものを使用した場合(比較例1、比較例2)や、溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質を使用していない場合(比較例3、4)は、電解液への含浸性や電極強度が低下し、内部抵抗が大きくなったり、耐久性に劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体上に、電極活物質、導電剤、結着剤および溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質を含んでなる電極組成物層が形成されてなる電気化学素子用電極。
【請求項2】
前記高分子物質の重量平均分子量が、5,000〜500,000である請求項1記載の電気化学素子用電極。
【請求項3】
前記高分子物質が、粒子状である請求項1又は2に記載の電気化学素子用電極。
【請求項4】
前記高分子物質の数平均粒子径が、0.001〜1μmである請求項3に記載の電気化学素子用電極。
【請求項5】
前記高分子物質が、ニトリル基を有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の電気化学素子用電極。
【請求項6】
前記高分子物質の含有量が、前記電極活物質100重量部に対し0.1〜20重量部である請求項1〜5のいずれかに記載の電気化学素子用電極。
【請求項7】
前記電極組成物層が、電極活物質、導電剤、結着剤および溶解度パラメータが12〜17(cal/cm1/2である高分子物質を含む複合粒子からなる請求項1〜6のいずれかに記載の電気化学素子用電極。
【請求項8】
前記集電体が、導電性接着剤層を有する請求項1〜7のいずれかに記載の電気化学素子用電極。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の電気化学素子用電極を有する電気化学素子。

【公開番号】特開2011−134807(P2011−134807A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291392(P2009−291392)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】