説明

電気化学素子用電極体の製造方法およびこれを用いた電気化学素子用電極体の製造装置

【課題】電気化学素子などに用いられる集電体上に電極材料を塗布し、乾燥させる際に電極の表面上に微細なクラックを発生させないとともに、生産性を向上させる。
【解決手段】金属箔からなる集電体2上に電極材料を塗布する塗布工程と、次に、前記電子材料が塗布された集電体2を乾燥室にて乾燥させる乾燥工程とを有した電気化学素子の製造方法において、乾燥工程は、電極材料のほぼ全表面における電極材料中の拡散速度が自由水面からの水の蒸発速度より小さくなる時点における電極材料の含水率である限界含水率に達するまでの間を乾燥させる第1乾燥工程と、それ以降を乾燥させる第2乾燥工程を有し、第1乾燥工程は第2乾燥工程よりも伝熱速度が高いことを特徴とする電気化学素子用電極体の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生産性と信頼性に優れた電気化学素子を製造するために使用される電気化学素子用電極体の製造方法、およびこれを用いた電気化学素子用電極体の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電気化学素子は金属箔などの集電体上の表面に電極材料を塗布した後に乾燥させて電極体を作製し、この電極体を一対で、その間にセパレータなどを介して対向させることにより電気化学素子を構成しているものである。
【0003】
この電極材料の乾燥状態によって、集電体と電極材料の密着力や電極材料同士の結着力などが決まるため、電気化学素子としての特性を大きく左右する要因となっている。
【0004】
従来は、乾燥工程においては液状の電極材料を集電体上に塗布した後、速やかに乾燥させることを重視して乾燥を行っていたため、電極材料に必要以上に熱量を与え、電極の表面上に微細なクラックなどが発生してしまい、電極としての機能を損ねるものであった。
【0005】
また、従来の乾燥工程により乾燥させた電極では、電極を巻回する際に、電極が湾曲するので、電極材料が集電体からの剥離や、微細なクラックが発生するなどといったことがあった。これらもまた電極としての機能を損ねるものであった。
【0006】
そこで、従来の乾燥工程においては、ある程度までの間、乾燥の強度を表す一つの指標である伝熱速度を徐々に高めていき、その後にさらに温度を上げたり、熱風量を増やしたりして、さらに伝熱速度を高めるといった乾燥方法や、ある程度までの間、伝熱速度を徐々に下げていき、その後にさらに温度を下げたり、熱風量を減らしたりして、さらに伝熱速度を下げるといった乾燥方法が用いられていた。
【0007】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1および特許文献2が知られている。
【特許文献1】特開2003−205264号公報
【特許文献2】特開2004−28495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の製造方法においては、電極材料に与える伝熱速度を低い伝熱速度から高い伝熱速度へと徐々に高めていく、または、高い伝熱速度から低い伝熱速度へと徐々に下げていくことによって電極材料を乾燥させていた。これらの方法により電極材料の乾燥を行うと、表面上に微細なクラックが発生してしまい、前述のごとく電極としての機能を損ね、信頼性の低い電気化学素子となってしまう、あるいは、生産性が低下してしまうというものであった。
【0009】
そこで、本発明は集電体上に塗布された電極材料を乾燥させる際に、電極の表面上に微細なクラックを発生させないとともに、生産性を向上させることが可能な電気化学素子用電極体の製造方法およびこれを用いた電気化学素子用電極体の製造装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために、本発明は、集電体上に、電極材料を塗布した後に乾燥室にて乾燥させる際に、電極材料のほぼ全表面における電極材料中の拡散速度が自由水面からの水の蒸発速度より小さくなる時点における含水率となる限界含水率に、この電極材料の含水率が達するまでの間、乾燥させる乾燥工程である第1乾燥工程で電極材料に与える伝熱速度は、この電極材料が限界含水率に達した以降の乾燥工程である第2乾燥工程で電極材料に与える伝熱速度よりも高い、製造方法とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電気化学素子用電極体の製造方法は、限界含水率を境界として乾燥条件を変化させることにより、生産性を低下させず、信頼性に優れた電気化学素子を製造することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1における塗布装置および連続走行する集電体に電極材料を塗布した後の乾燥方法について図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は本発明の実施の形態1による塗布装置の概要図である。
【0014】
まず、図1に示す塗布装置1について説明する。塗布装置1は集電体2を連続走行させるために、巻出しロール5、ロール8、バックアップロール7、ロール9、ロール10、巻取りロール6を有している。
【0015】
また、図1においては集電体2を連続走行させる上で、最低限必要な数のロールのみを記載したが、特に、ロールの本数および種類を限定するものではない。
【0016】
また、塗布装置1は集電体2上に電極材料(以下、図示せず)を塗布するための塗布機3とバックアップロール7を有しているが、バックアップロール7については用いる塗布機3により必要ない場合もある。
【0017】
塗布機3としては、ドクターブレードコータ、ダイコータ、グラビアコータ、マイクログラビアコータ、ロールコータなどを用いることができるが、特に装置を限定するものではなく、集電体2上に電極材料を塗布できる装置であれば、その他のいずれの装置を用いても構わない。
【0018】
また、塗布装置1は集電体2上に塗布した電極材料を乾燥させるための乾燥装置4を備えている。
【0019】
乾燥装置4は独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を2つ以上有していることが望ましく、独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を3つ以上有していれば、さらに望ましい。
【0020】
乾燥室11内には乾燥機として、伝導伝熱による機構を用いた乾燥機、対流伝熱による機構を用いた乾燥機、放熱伝熱による機構を用いた乾燥機のうち、少なくとも1つ以上の乾燥機を有している。
【0021】
伝導伝熱による機構を用いた乾燥機としては、円筒乾燥機、ドラム乾燥機などの乾燥機を用いることができるが、特に乾燥機の種類を限定するものではなく、伝導伝熱による機構を用いた乾燥機であれば、その他のいずれの乾燥機を用いても構わない。
【0022】
対流伝熱による機構を用いた乾燥機としては、熱風乾燥機などを用いることができるが、特に乾燥機の種類を限定するものではなく、対流伝熱による機構を用いた乾燥機であれば、その他のいずれの乾燥機を用いても構わない。
【0023】
熱風乾燥機は、集電体2の進行方向と同じ向きに向かって熱風を流す並流操作、集電体2の進行方向と反対の向きに向かって熱風を流す向流操作、集電体2上に電極材料を塗布した面側または/および電極材料を塗布していない面側から集電体2に直角に熱風を流す操作などの操作を行うことができるが、特に熱風を流す方向について限定するものではなく、集電体2上に塗布された電極材料を乾燥させるために、1方向以上のあらゆる方向から熱風を流す操作を行っても構わない。
【0024】
放射伝熱による機構を用いた乾燥機としては、近赤外線乾燥機、中赤外線乾燥機、遠赤外線乾燥機、赤外線乾燥機などを用いることができるが、特に乾燥機の種類を限定するものではなく、放射伝熱による機構を用いた乾燥機であれば、その他のいずれの乾燥機を用いても構わない。
【0025】
また、乾燥室11内は相対湿度が30%以下である乾燥空気、窒素ガス、アルゴンガスなどの気体で満たされていることが望ましいが、特に乾燥室11内の気体の種類を限定するものではなく、相対湿度が30%以下であれば、その他のいずれの気体であっても望ましい条件として用いることができる。
【0026】
このとき、相対湿度が30%以下の気体を用いれば、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料を乾燥する際の駆動力となる、気体の飽和湿度(kg/kg・乾燥空気)と乾燥室11内の気体の湿度(kg/kg・乾燥空気)の差が大きくなるために、乾燥速度を速くすることができる。
【0027】
また、乾燥室11内は必ずしも気体で満たされている必要はなく、乾燥室11内の気体を真空引きポンプなどを用いて、真空引きを行っても良い。真空引きを行うことにより、乾燥室11内から電極材料から蒸発した成分を除去することができるので、乾燥速度を速くすることができる。
【0028】
また、乾燥室11内に配置される乾燥機の幅は集電体2の幅よりも広いことが望ましい。このように乾燥室11内に配置される乾燥機の幅を集電体2の幅よりも広くすることにより、単位面積当りの伝熱速度の小さい乾燥条件であっても多くの熱量を、集電体2上に塗布機3により塗布された電極材料に与えることができ、短時間で電極材料を乾燥することができる。
【0029】
乾燥室11の長さは特に規定するものではないが、後述する長さで前記乾燥室11を規定すれば、さらに望ましく、柔らかく、割れや剥離などがなく、表面が平滑な電極を得ることができる。
【0030】
また、図1のように独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を3室有している場合については、巻出しロール5から供給された集電体2が最初に入る乾燥室11を第1の乾燥室11a、次の乾燥室11を第2の乾燥室11b、最後に集電体2が通る乾燥室11を第3の乾燥室11cとした場合に、乾燥装置4の長さに対して、第1の乾燥室11aの長さが1/10以上、第2の乾燥室11bの長さが4/5以下、第3の乾燥室11cの長さが1/10以上になるようにすればよい。
【0031】
独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を4室以上有している乾燥装置4においても、連続する複数の乾燥室11をゾーンとみなすことにより、3つの乾燥ゾーンを有するようにし、乾燥装置4の長さに対して、第1の乾燥ゾーンの長さが1/10以上、第2の乾燥ゾーンの長さが4/5以下、第3の乾燥ゾーンの長さが1/10以上になるようにすればよい。
【0032】
ここで、独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を4室以上有している乾燥装置4における乾燥ゾーンの区切り方について説明する。
【0033】
まず、第1の乾燥ゾーンは第1の乾燥室11aから連続する乾燥室であって、1つ前の乾燥室11以上の伝熱速度で集電体2上に塗布された電極材料を乾燥させる能力を有した乾燥室11の集合体である。
【0034】
また、第2の乾燥ゾーンは、第1ゾーンの最終の乾燥室11から連続する乾燥室11であって、第1ゾーンの最終の乾燥室11以下の伝熱速度で集電体2上に塗布された電極材料を乾燥させる能力を有した乾燥室11を先頭として連続しており、1つ前の乾燥室11以下の伝熱速度で集電体2上に塗布された電極材料を乾燥させる能力を有した乾燥室11の集合体である。
【0035】
さらに、第3の乾燥ゾーンは、第2ゾーンの最終の乾燥室11から連続する乾燥室11であって、第2の乾燥ゾーンの最終の乾燥室11以上の伝熱速度で集電体2上に塗布された電極材料を乾燥させる能力を有した乾燥室11以降すべての乾燥室11の集合体である。
【0036】
なお、第1ゾーンの乾燥室11については、間欠的に1つ前の乾燥室11の伝熱速度以下で集電体2上に塗布された電極材料を乾燥させる能力を有した乾燥室11を含んでいても、集電体2上に電極材料を塗布機3により塗布し、前記の第1の乾燥ゾーン、第2の乾燥ゾーン、および第3の乾燥ゾーンを有する乾燥装置4を用いて乾燥することにより、柔らかく、割れや剥離などがなく、表面が平滑な電極を得ることができる。
【0037】
第2ゾーンの乾燥室11については、間欠的に1つ前の乾燥室11の伝熱速度以上で集電体2上に塗布された電極材料を乾燥させる能力を有した乾燥室11を含んでいても、集電体2上に電極材料を塗布機3により塗布し、前記の第1の乾燥ゾーン、第2の乾燥ゾーン、および第3の乾燥ゾーンを有する乾燥装置4を用いて乾燥することにより、柔らかく、割れや剥離などがなく、表面が平滑な電極を得ることができる。
【0038】
また、第1の乾燥室11a内または第1ゾーンの乾燥室11内には、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料の含水率=(電極材料内の溶媒重量/電極材料内の固形分の乾燥状態での重量)が、恒率乾燥期間と減率乾燥期間の境界における含水率である限界含水率まで乾燥させることができる乾燥機を備えていることが望ましい。
【0039】
第1の乾燥室11a内または第1ゾーンの乾燥室11内に、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料の含水率が、限界含水率まで乾燥させることができる乾燥機を備えていれば、集電体2上に電極材料を塗布機3により塗布し、乾燥装置4で乾燥することにより、柔らかく、割れや剥離などがなく、表面が平滑な電極を得ることができる。
【0040】
ここで、本発明における含水率という表現について説明する。含水率とは溶媒が水の場合についてのみ限定するのではなく、溶媒が水、有機溶媒、および、その他のあらゆる液体の場合においても、含水率と表現することにする。
【0041】
また、第1の乾燥室11a内または第1ゾーンの乾燥室11内に、放射伝熱による機構を用いた乾燥機を用いることが望ましい。放射伝熱による機構を用いた乾燥機を第1の乾燥室11a内または第1ゾーンの乾燥室11内に用いれば、伝導伝熱による機構を用いた乾燥機や対流伝熱による機構を用いた乾燥機よりも比較的簡単に、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料に多く熱量を与えることができるので、初期の乾燥を短時間で行うことができる。
【0042】
また、第3の乾燥室11c内または第3ゾーンの乾燥室11内に、放射伝熱による機構を用いた乾燥機を用いることが望ましい。放射伝熱による機構を用いた乾燥機を第3の乾燥室11c内または第3ゾーンの乾燥室11内に用いれば、伝導伝熱による機構を用いた乾燥機や対流伝熱による機構を用いた乾燥機よりも比較的簡単に、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料に多く熱量を与えることができるので、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料を乾燥装置4により乾燥することで得られる電極内の残留水分率=(電極中に含まれる溶媒の重量)/(電極の重量)を、所望の残留水分率まで乾燥する仕上げの乾燥を短時間で行うことができる。
【0043】
ここで、本発明における残留水分率という表現について説明する。残留水分率とは溶媒が水の場合についてのみ限定するのではなく、溶媒が水、有機溶媒、およびその他のあらゆる液体の場合においても、残留水分率と表現することにする。
【0044】
また、塗布装置1はパウダークラッチやダンサーなどの装置を用いることにより、集電体2に張力を与える機構を有していることが望ましいが、特に張力を与えるための装置を限定しているわけではなく、集電体2に張力を与えるための装置であれば、その他のいずれの装置であっても用いることができる。
【0045】
さらに、塗布装置1は任意の範囲で集電体2に与える張力の大きさを変化させるためにニップロールなどを有していることが望ましいが、特に、任意の範囲で集電体2に与える張力の大きさを変化させるための機構を限定するわけではなく、任意の範囲で集電体2に与える張力の大きさを変化させるための機構であれば、その他のいずれの機構であっても用いることができる。
【0046】
塗布装置1は集電体2の供給速度を可変できる機構を有していることが望ましい。また、集電体2の供給速度を集電体2が第1の乾燥室11aに入ってから第2の乾燥室11bまたは第2の乾燥ゾーンから出てくるまでの時間を5秒以上120秒以下に制御できる機構を有していれば、より望ましい。
【0047】
さらに、集電体2の供給速度を集電体2が第1の乾燥室11aに入ってから最終の乾燥室11xから出てくるまでの時間を10秒以上180秒以内に制御できる機構を有していれば、さらに望ましい。
【0048】
集電体2の供給速度を集電体2が第1の乾燥室11aに入ってから第2の乾燥室11bまたは第2の乾燥ゾーンから出てくるまでの時間を5秒以上120秒以下に制御できる機構、および/または、集電体2の供給速度を集電体2が第1の乾燥室11aに入ってから最終の乾燥室11xから出てくるまでの時間を10秒以上180秒以内に制御できる機構を有していれば、集電体2上に電極材料を塗布機3により塗布し、乾燥装置4で乾燥することにより、柔らかく、割れや剥離などがなく、表面が平滑な電極を短時間で得ることができる。
【0049】
次に、前記の塗布装置1を用いて、集電体2上に電極材料を塗布機3により塗布し、乾燥装置4により集電体2上に塗布された電極材料を乾燥し、電極を得る方法について説明する。実施の形態1においては、具体例として電気化学キャパシタ用の電極の作製方法について説明するが、特に、電極の用途を限定するものではなく、実施の形態1と同様の方法において電極を得ることができる電極であれば、その他のいずれの用途においても、本発明を利用することができる。
【0050】
電極材料としては、水や有機溶媒などの溶媒に、高分子材料や高分子樹脂などの溶質を溶かした溶液を用いることができるが、特に溶媒および溶質の種類を限定するものではなく、あらゆる溶媒および溶質を用いることができる。
【0051】
また、溶媒は複数の溶媒を混合した溶媒を用いても構わない。さらに、溶質は複数の溶質を混合した溶質を用いても構わない。
【0052】
また、電極材料としては、エマルションを用いることができる。エマルションには、乳化剤を含む油相に水相を徐々に加えていくことで作製するO/W型エマルションや乳化剤を含む水相に油相を徐々に加えていくことで作製するW/O型エマルション、これらの操作を複数回行うことにより作製する多層エマルションであるO/W/O型エマルションやW/O/W型エマルションなどがあるが、特にエマルションの種類を限定するわけではなく、エマルションであれば、その他のいずれのエマルションであっても用いることができる。
【0053】
さらに、電極材料としては、粒子の分散液を用いることができる。粒子を分散する液としては、水や有機溶媒などを用いることができるが、特に液の種類を限定するものではなく、液体であれば、その他のいずれの液を用いても構わない。
【0054】
また、粒子を分散する液は複数の液を混合した液を用いても構わない。さらに、液に分散する粒子としては、活性炭、黒鉛、カーボンブラックなどの炭素材料、セラミック材料、高分子材料、金属などを用いることができるが、特に粒子の種類を限定するわけではなく、粒子であればあらゆる粒子を用いることができる。
【0055】
ここで、電極材料としては、溶液、エマルション、粒子の分散液などを用いることができるが、特に液の種類を限定するわけではなく、その他のあらゆる液を用いることができる。
【0056】
また、電極材料として溶液、エマルション、粒子の分散液をそれぞれ単体で用いても構わないが、1種類以上の溶液と1種類以上のエマルションの混合液、1種類以上の溶液と1種類以上の粒子の分散液の混合液、および1種類以上のエマルションと1種類以上の粒子の分散液の混合液を用いても構わない。
【0057】
さらに、1種類以上の溶液と1種類以上のエマルションと1種類以上の粒子の分散液の混合液を用いることもできる。
【0058】
また、集電体2上に塗布機3により塗布する前の電極材料の含水率は用いる電極材料により異なるものであって、特に集電体2上に塗布機3により塗布する前の電極材料の含水率を限定するものではない。
【0059】
実施の形態1においては、電極材料として水に高分子樹脂であるカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩を溶かした溶液に、炭素材料である活性炭およびアセチレンブラックを分散し、さらに、ポリテトラフルオロエチレンのエマルションを混合した分極性電極材料を用いた。
【0060】
本発明での実施の形態1における、集電体2上に塗布機3により塗布する前の分極性電極の含水率は2.5である。
【0061】
集電体2としては、アルミニウム箔をエッチング処理により粗面化した厚み20μmのアルミニウムのエッチング箔を用いたが、特に、集電体の種類を限定するわけではなく、導電性のある箔であれば、あらゆる箔を集電体として用いることができる。
【0062】
塗布機3としては、集電体2上に電極材料を所望の厚みで塗布することができる塗布機3であれば、特に塗布機3の種類を限定するわけではなく、あらゆる塗布機3を用いることができる。
【0063】
ここで、集電体2上に電極材料を塗布する厚みについては、用途に応じて、電極の厚みを決めることができる。本実施の形態1においては、乾燥後の電極材料層の厚みが75μmになるように塗布を行った。
【0064】
また、塗布機3としては、集電体2上に片面ずつ、電極材料を塗布する塗布機3を用いても良いし、集電体2上に両面同時に、電極材料を塗布する塗布機3を用いても構わない。
【0065】
実施の形態1においては、集電体2である20μmのアルミニウムのエッチング箔上に電極材料である電気化学キャパシタ用の分極性電極材料を、電極である電気化学キャパシタ用の分極性電極のうち、分極性電極材料層の乾燥後の厚みが75μmになるようにダイコータを塗布機3として用い、片面に塗布を行った。
【0066】
集電体2上に塗布機3により塗布された電極材料を、乾燥装置4により乾燥を行うことにより電極が得られる。集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料を乾燥するための乾燥装置4は、独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を2室以上有していることが望ましい。
【0067】
このとき、独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を2室以上有している乾燥装置4を用いれば、集電体2上に塗布された電極材料の含水率が限界含水率になるまでの初期乾燥を短時間で行うことができる。または、集電体2上に塗布された電極材料の含水率が限界含水率以下になった仕上げ乾燥を短時間で行うことができる。
【0068】
また、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料を乾燥するための乾燥装置4は、独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を3室以上有していることがさらに望ましい。
【0069】
このとき、独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を3室以上有している乾燥装置4を用いれば、集電体2上に塗布された電極材料の含水率が限界含水率になるまでの初期乾燥を短時間で行うことができるとともに、電極材料の含水率が限界含水率付近である期間での電極材料の表面からの溶媒の蒸発速度を、電極中の溶媒の拡散速度以下にできる乾燥条件で、電極材料を乾燥することにより、柔らかく、割れや剥離などがなく、表面が平滑な電極を得ることができるとともに、さらに、所望の残留水分率まで乾燥する仕上げの乾燥を短時間で行うことができる。
【0070】
ここで、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料を乾燥するための乾燥装置4内に備えている乾燥機の乾燥条件について説明する。
【0071】
まず、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料を乾燥するための乾燥装置4が、独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を2室有している場合の乾燥方法について説明する。
【0072】
独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を2室有している乾燥装置4において、第1の乾燥室11aにおいては、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料の含水率が限界含水率の150%以下までの期間の乾燥を行うことが望ましい。
【0073】
また、その際に用いる乾燥機の種類としては、伝導伝熱による機構を用いた乾燥機、対流伝熱による機構を用いた乾燥機、放射伝熱による機構を用いた乾燥機のうち、少なくとも1つ以上の乾燥機を用いることができる。本発明の実施の形態1においては、第1の乾燥室11aにおいて、電極材料の含水率が限界含水率の110%に達するまでの期間の乾燥を行った。
【0074】
第1の乾燥室11aにおいては、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料の含水率が限界含水率の150%以下の範囲までの期間の乾燥を行うが、集電体2上の電極材料に対して、電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度をできる限り大きくすることが望ましい。
【0075】
集電体2上の電極材料に対して、電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度をできる限り大きくすることは、用いる電極材料の種類により適正な温度および風量は異なるが、電極材料に加える温度、および風量が、電極の特性に影響を及ぼさない範囲で高い温度、大きい風量であることにより、電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度を大きくすることを示している。
【0076】
電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度をできる限り大きくすることにより、集電体2上に塗布された電極材料の含水率が限界含水率の150%以下の範囲になるまでの初期乾燥を短時間で行うことができる。
【0077】
独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を2室有している乾燥装置4において、第2の乾燥室11bにおいては、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料の含水率が限界含水率の150%以下の範囲から所望の残留水分率になるまでの期間の乾燥を行うことが望ましい。
【0078】
その際に用いる乾燥機の種類としては、伝導伝熱による機構を用いた乾燥機、対流伝熱による機構を用いた乾燥機、放射伝熱による機構を用いた乾燥機のうち、少なくとも1つ以上の乾燥機を用いることができる。
【0079】
また、第2の乾燥室11bにおいて、電極材料の含水率が限界含水率である期間を乾燥させることが、さらに望ましい。実施の形態1においては、第2の乾燥室11bにおいて、電極材料の含水率が限界含水率の110%から、電極材料の残留水分率が2%になるまでの期間の乾燥を行った。
【0080】
また、第2の乾燥室11bにおいては、伝導伝熱および対流伝熱の機構を有している乾燥機により乾燥を行う場合には、温度を100℃以下にすることが望ましいが、80℃以下にすれば、柔らかく、割れや剥離などがなく、表面が平滑な電極を得ることができるので、さらに望ましい。
【0081】
第2の乾燥室11bにおいて、放射伝熱の機構を有している乾燥機のみにより乾燥を行う場合には、特に温度を限定するものではない。
【0082】
また、第2の乾燥室においては、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料の含水率が限界含水率の150%以下から所望の残留水分率になるまでの期間において、集電体2上の電極材料に対して、電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度を、集電体2上に塗布した電極材料の表面での電極材料中の溶媒の蒸発速度が、電極材料中の溶媒の拡散速度以下になるように設定することが望ましい。
【0083】
集電体2上の電極材料に対して、電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度を、電極材料の表面での電極材料中の溶媒の蒸発速度が、電極材料中の溶媒の拡散速度以下になるように設定された乾燥条件により、集電体2上に塗布された電極材料を乾燥することにより、柔らかく、割れや剥離などがなく、表面が平滑な電極を得ることができる。
【0084】
ここで、本発明での実施の形態1において用いた乾燥装置4について説明する。実施の形態1においては、集電体2であるアルミニウムをエッチング処理により粗面化したアルミニウムのエッチング箔上に、塗布機3であるダイコータにより塗布した電極材料である電気化学キャパシタ用の電極材料を乾燥するための乾燥装置4が、独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を2室有している塗布装置1を用いた。
【0085】
また、実施の形態1における第1の乾燥室11aには、集電体2の進行方向とは逆の方向に向かって熱風を送風する熱風乾燥機と集電体2上に塗布機3により電極材料が塗布された面とは反対の面から、集電体2に対して熱風を直角に当てる熱風乾燥機を備えている。
【0086】
さらに、実施の形態1における第2の乾燥室11bには、集電体2上に塗布機3により電極材料が塗布された面、および反対の面の両側から熱風を直角に当て、集電体2を熱風により支持する熱風乾燥機を備えている。
【0087】
ここで、伝熱速度は、集電体2上に塗布された電極材料の単位面積当りの伝熱速度を求めることが望ましいが、実際に、電極材料の単位面積当りの伝熱速度を測定することは困難であるため、実施の形態1においては、乾燥機が供給する単位面積当りの伝熱速度を計算により求めることにした。
【0088】
実施の形態1に用いた具体的な乾燥機の乾燥条件について説明する。第1の乾燥室11a内の熱風乾燥機は、集電体2の進行方向とは逆の方向に向かって、熱風を送風する熱風乾燥機と、集電体2上に塗布機3により電極材料が塗布された面とは反対の面から、熱風を集電体2に対して直角に当てる熱風乾燥機は、ともに、集電体2上に塗布された電極材料の塗布幅の2倍の装置幅を有しており、それらの熱風乾燥機により、温度80℃、風速1m/sの熱風により電極材料に熱量を与えた。計算により求めた熱風乾燥機が単位面積当りに供給した伝熱速度は2500J/(m2・s)である。
【0089】
また、第2の乾燥室11b内の熱風乾燥機は、集電体2上に塗布された電極材料の塗布幅の2倍の装置幅を有しており、その熱風乾燥機により、温度50℃、風速1m/sの熱風により電極材料に熱量を与えた。計算により求めた熱風乾燥機が単位面積当りに供給した伝熱速度は1200J/(m2・s)である。
【0090】
ここで、限界含水率について説明する。
【0091】
一定の伝熱速度で電極材料の乾燥を行う場合には、一般に、予熱期間、恒率乾燥期間、減率乾燥期間の3つの乾燥期間が存在することが知られている。そして、電極材料の含水率が限界含水率に達したときに、恒率乾燥期間から減率乾燥期間に移行することが知られている。
【0092】
また、電極材料の含水率が限界含水率に達したときに、恒率乾燥期間から減率乾燥期間に移行することに起因する、限界含水率の前後で見られる様々な現象について説明する。
【0093】
まず、電極材料の含水率が限界含水率よりも高い場合には、電極材料内では、電極材料中の溶媒の拡散速度よりも、電極材料表面での溶媒の蒸発速度が遅く、電極材料の表面蒸発律速の状態で乾燥が進んでおり、電極材料の表面は濡れている状態である。また、電極材料の含水率が限界含水率よりも高い場合には、電極材料の表面温度は、空気の湿球温度にほぼ等しい一定温度に保たれている。
【0094】
次に、電極材料の含水率が限界含水率よりも低い場合には、電極材料内では、電極材料中の溶媒の拡散速度が、電極材料表面での溶媒の蒸発速度よりも遅く、電極材料中の溶媒の内部拡散律速の状態で乾燥が進んでいるので、電極材料内部からの溶媒移動速度が材料表面での蒸発速度に追いつけなくなることから、電極材料の表面は見た目上、乾燥している状態である。また、電極材料の含水率が限界含水率よりも低い場合には、電極材料の表面温度は、次第に上昇するようになる。
【0095】
そこで、乾燥工程において、電極材料のほぼ全表面における電極材料中の溶媒の拡散速度が自由水面からの溶媒の蒸発速度より小さくなる時点における電極材料の含水率を限界含水率とした。
【0096】
ここで、集電体2上に塗布された電極材料の限界含水率の見極め方について説明する。電極材料の限界含水率を見極める方法としては、電極材料の乾燥速度を連続的に測定し、乾燥速度が減少し始める際の含水率を限界含水率とすることができる。
【0097】
また、電極材料の表面温度を連続的に測定し、電極材料の表面温度が上昇し始める際の含水率を限界含水率とすることができ、電極材料表面の光沢度を連続的に測定し、電極材料表面の光沢度が変化し始める際の含水率を限界含水率とすることができる。
【0098】
さらに、簡便な方法としては、電極材料の表面を触ることにより、電極材料の表面が乾いているか乾いていないかを判断し、乾き始めている際の含水率を限界含水率とすることができる。
【0099】
しかし、特に、限界含水率の見極め方について限定するものではなく、電極材料の乾燥期間が恒率乾燥期間から減率乾燥期間へと移行していることを確認することができる、限界含水率の見極め方であれば、その他のいずれの方法による限界含水率の見極め方であっても採用することができる。
【0100】
ここで、本実施の形態1において用いた電気化学キャパシタ用の電極材料の限界含水率は1.5であり、第1の乾燥室11aにおいて電極材料の含水率を限界含水率の110%である1.65まで乾燥し、第2の乾燥室11bにおいて電極材料の残留水分率が2%になるように乾燥を行った。
【0101】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2における塗布装置および連続走行する集電体に電極材料を塗布した後の乾燥方法について、実施の形態1と異なる点についてのみを図面を参照しながら説明する。
【0102】
実施の形態2においては、集電体2であるアルミニウムをエッチング処理により粗面化したアルミニウムのエッチング箔上に、塗布機3であるダイコータにより塗布した電極材料である電気化学キャパシタ用の電極材料を乾燥するための乾燥装置4が、独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を3室有している塗布装置1を用いた。
【0103】
まず、独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を3室有している乾燥装置4において、第1の乾燥室11aにおいては、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料の含水率が限界含水率の80%以上150%以下の範囲までの期間の乾燥を行うことが望ましい。
【0104】
また、その際に用いる乾燥機の種類としては、伝導伝熱による機構を用いた乾燥機、対流伝熱による機構を用いた乾燥機、放射伝熱による機構を用いた乾燥機のうち、少なくとも1つ以上の乾燥機を用いることができる。実施の形態2においては、第1の乾燥室11aにおいて、電極材料の含水率が限界含水率の110%に達するまでの期間の乾燥を行った。
【0105】
また、第1の乾燥室11aにおいては、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料の含水率が限界含水率の80%以上150%以下の範囲までの乾燥期間において、集電体2上の電極材料に対して、電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度をできる限り大きくすることが望ましい。
【0106】
ここで、集電体2上の電極材料に対して、電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度をできる限り大きくすることは、目的とする電極の種類により適正な温度および風量は異なるが、電極材料に加える温度、および風量が、電極の特性に影響を及ぼさない範囲で高い温度、大きい風量であることにより、電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度を大きくすることを示している。
【0107】
このように電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度をできる限り大きくすることにより、集電体2上に塗布された電極材料の含水率が限界含水率の80%以上150%以下の範囲までの乾燥である初期乾燥を短時間で行うことができるものとする。
【0108】
また、独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を3室有している乾燥装置4において、第2の乾燥室11bにおいては、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料の含水率が限界含水率の80%以上150%以下の範囲から限界含水率の95%以下の含水率になるまでの期間の乾燥を行うことが望ましい。
【0109】
その際に用いる乾燥機の種類としては、伝導伝熱による機構を用いた乾燥機、対流伝熱による機構を用いた乾燥機、放射伝熱による機構を用いた乾燥機のうち、少なくとも1つ以上の乾燥機を用いることができる。
【0110】
また、第2の乾燥室11b内において、電極材料の含水率が限界含水率である期間を乾燥させることが、さらに望ましい。実施の形態2においては、第2の乾燥室11bにおいて、電極材料の含水率が限界含水率の110%から90%に達するまでの期間の乾燥を行った。
【0111】
第2の乾燥室11bにおいては、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料の含水率が限界含水率の80%以上150%以下の範囲から限界含水率の95%以下の含水率になるまでの乾燥期間において、集電体2上の電極材料に対して、電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度を、集電体2上に塗布した電極材料の表面での電極材料中の溶媒の蒸発速度が、電極材料中の溶媒の拡散速度以下になるように設定することが望ましい。
【0112】
集電体2上の電極材料に対して、電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度を、電極材料の表面での電極材料中の溶媒の蒸発速度が、電極材料中の溶媒の拡散速度以下になるように設定すれば、集電体2上に塗布された電極材料を、独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を3室有する乾燥装置4により乾燥することで、柔らかく、割れや剥離などがなく、表面が平滑な電極を得ることができる。
【0113】
また、第2の乾燥室11bにおいては、伝導伝熱および対流伝熱の機構を有している乾燥機により乾燥を行う場合には、温度を100℃以下にすることが望ましいが、80℃以下にすれば、柔らかく、割れや剥離などがなく、表面が平滑な電極を得ることができるので、さらに、望ましい。
【0114】
第2の乾燥室11bにおいて、放射伝熱の機構を有している乾燥機のみにより乾燥を行う場合には、特に温度を限定するものではない。
【0115】
独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を3室有している乾燥装置4において、第3の乾燥室11cにおいては、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料の含水率が限界含水率の95%以下の含水率から所望の残留水分率になるまでの期間の乾燥を行うことが望ましい。
【0116】
また、その際に用いる乾燥機の種類としては、伝導伝熱による機構を用いた乾燥機、対流伝熱による機構を用いた乾燥機、放射伝熱による機構を用いた乾燥機のうち、少なくとも1つ以上の乾燥機を用いることができる。実施の形態2においては、第3の乾燥室11cにおいて、電極材料の含水率が限界含水率の90%から、電極材料の残留水分率が2%になるまでの期間の乾燥を行った。
【0117】
また、第3の乾燥室11cにおいては、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料の含水率の95%以下の含水率から所望の残留水分率になるまでの期間において、集電体2上の電極材料に対して、電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度をできる限り大きくすることが望ましい。
【0118】
ここで、集電体2上の電極材料に対して、電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度をできる限り大きくすることは、電極の用途により適正な温度および風量は異なるが、電極材料に加える温度、および風量が、電極の特性に影響を及ぼさない範囲で高い温度、大きい風量であることにより、電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度を大きくすることを示している。
【0119】
このように電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度をできる限り大きくすることにより、集電体2上に塗布された電極材料の含水率が限界含水率の95%以下の含水率から所望の残留水分率になるまでの仕上げ乾燥を短時間で行うことができる。
【0120】
また、実施の形態2においては、独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11の長さが3つとも等しい長さである乾燥装置4を有している塗布装置1を用いた。
【0121】
実施の形態2における第1の乾燥室11aには、集電体2の進行方向とは逆の方向に向かって熱風を送風する熱風乾燥機と集電体2上に塗布機3により電極材料が塗布された面とは反対の面から、集電体2に対して熱風を直角に当てる熱風乾燥機を備えている。
【0122】
実施の形態2における第2の乾燥室11bには、集電体2上に塗布機3により電極材料が塗布された面、および反対の面の両側から熱風を直角に当て、集電体2を熱風により支持する熱風乾燥機を備えている。
【0123】
実施の形態2における第3の乾燥室11cには、集電体2上に塗布機3により電極材料が塗布された面、および反対の面の両側から熱風を直角に当て、集電体2を熱風により支持する熱風乾燥機を備えている。
【0124】
ここで、伝熱速度は、集電体2上に塗布された電極材料の単位面積当りの伝熱速度を求めることが望ましいが、実際に、電極材料の単位面積当りの伝熱速度を測定することは困難であるため、実施の形態2においては、乾燥機が供給する伝熱速度を計算により求めることにした。
【0125】
ここで、実施の形態2に用いた具体的な乾燥機の乾燥条件について説明する。第1の乾燥室11aには、集電体2の進行方向とは逆の方向に向かって熱風を送風する熱風乾燥機と、集電体2上に塗布機3により電極材料が塗布された面とは反対の面から熱風を集電体2に対して直角に当てる熱風乾燥機が備えられており、ともに、集電体2上に塗布された電極材料の塗布幅の2倍の装置幅を有しており、それらの熱風乾燥機で、温度80℃、風速1m/sの熱風により電極材料に熱量を与えた。計算により求めた熱風乾燥機が単位面積当りに供給した伝熱速度は2500J/(m2・s)である。
【0126】
また、第2の乾燥室11b内の熱風乾燥機は、集電体2上に塗布された電極材料の塗布幅の2倍の装置幅を有しており、その熱風乾燥機により、温度50℃、風速1m/sの熱風により電極材料に熱量を与えた。計算により求めた熱風乾燥機が単位面積当りに供給した伝熱速度は1200J/(m2・s)である。
【0127】
さらに、第3の乾燥室11c内の熱風乾燥機は、集電体2上に塗布された電極材料の塗布幅の2倍の装置幅を有しており、その熱風乾燥機により、温度80℃、風速2m/sの熱風により電極材料に熱量を与えた。計算により求めた熱風乾燥機が単位面積当りに供給した伝熱速度は4500J/(m2・s)である。
【0128】
ここで、本実施の形態2において用いた電気化学キャパシタ用の電極材料の限界含水率は1.5であり、第1の乾燥室11aにおいて電極材料の含水率を限界含水率の110%である1.65まで乾燥し、第2の乾燥室11bにおいて電極材料の含水率を限界含水率の90%である1.35まで乾燥し、第3の乾燥室11cにおいて電極材料の残留水分率が2%になるように乾燥を行った。
【0129】
(実施の形態3)
以下、本発明の実施の形態3における塗布装置および連続走行する集電体に電極材料を塗布した後の乾燥方法について、実施の形態1および実施の形態2と異なる点についてのみを図面を参照しながら説明する。
【0130】
実施の形態3においては、集電体2であるアルミニウムをエッチング処理により粗面化したアルミニウムのエッチング箔上に、塗布機3であるダイコータにより塗布した電極材料である電気化学キャパシタ用電極材料を乾燥するための乾燥装置4が、独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を3室有している塗布装置1を用いた。
【0131】
また、実施の形態3においては、独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11の長さが、第1の乾燥室11aの長さが乾燥装置4の1/2、第2の乾燥室11bの長さが乾燥装置4の1/4、第3の乾燥室11cの長さが乾燥装置4の1/4の長さである乾燥装置4を有している塗布装置1を用いた。
【0132】
実施の形態3における第1の乾燥室11aには、集電体2の進行方向とは逆の方向に向かって熱風を送風する熱風乾燥機と集電体2上に塗布機3により電極材料が塗布された面とは反対の面から集電体2に対して熱風を直角に当てる熱風乾燥機と、集電体2の上方に赤外線乾燥機を備えている。
【0133】
実施の形態3における第2の乾燥室11bには、集電体2上に塗布機3により電極材料が塗布された面、および反対の面の両側から熱風を直角に当て、集電体2を熱風により支持する熱風乾燥機を備えている。
【0134】
実施の形態3における第3の乾燥室11cには、集電体2上に塗布機3により電極材料が塗布された面、および反対の面の両側から熱風を直角に当て、集電体2を熱風により支持する熱風乾燥機と、集電体2の上方に赤外線乾燥機を備えている。
【0135】
ここで、伝熱速度は、集電体2上に塗布された電極材料の単位面積当りの伝熱速度を求めることが望ましいが、実際に、電極材料の単位面積当りの伝熱速度を測定することは困難であるため、実施の形態3においては、乾燥機が供給する伝熱速度を計算により求めることにした。
【0136】
ここで、実施の形態3に用いた具体的な乾燥機の乾燥条件について説明する。第1の乾燥室11aには、集電体2の進行方向とは逆の方向に向かって熱風を送風する熱風乾燥機と、集電体2上に塗布機3により電極材料が塗布された面とは反対の面から集電体2に対して熱風を直角に当てる熱風乾燥機、および集電体2の上方に赤外線乾燥機が備えられており、いずれも、集電体2上に塗布された電極材料の塗布幅の2倍の装置幅を有しており、それらの熱風乾燥機で、温度80℃、風速1m/sの熱風を集電体2に当てることと、赤外線乾燥機を350℃に加熱することで電極材料に熱量を与えた。計算により求めた熱風乾燥機と赤外線乾燥機を合わせて、単位面積当りに供給した伝熱速度は10000J/(m2・s)である。
【0137】
また、第2の乾燥室11b内の熱風乾燥機は、集電体2上に塗布された電極材料の塗布幅の2倍の装置幅を有しており、その熱風乾燥機により、温度50℃、風速1m/sの熱風により電極材料に熱量を与えた。計算により求めた熱風乾燥機が単位面積当りに供給した伝熱速度は1200J/(m2・s)である。
【0138】
さらに、第3の乾燥室11c内の熱風乾燥機および集電体2の上方に備えられている赤外線乾燥機は、集電体2上に塗布された電極材料の塗布幅の2倍の装置幅を有しており、その熱風乾燥機で、温度80℃、風速2m/sの熱風を集電体2に当てることと、赤外線乾燥機を350℃に加熱することで電極材料に熱量を与えた。計算により求めた熱風乾燥機および赤外線乾燥機を合わせて、単位面積当りに供給した伝熱速度は13000J/(m2・s)である。
【0139】
ここで、本実施の形態3において用いた電気化学キャパシタ用の電極材料の限界含水率は1.5であり、第1の乾燥室11aにおいて電極材料の含水率を限界含水率の110%である1.65まで乾燥し、第2の乾燥室11bにおいて電極材料の含水率を限界含水率の90%である1.35まで乾燥し、第3の乾燥室11cにおいて電極材料の残留水分率が2%になるように乾燥を行った。
【0140】
(実施の形態4)
以下、本発明の実施の形態4における塗布装置および連続走行する集電体に電極材料を塗布した後の乾燥方法について、実施の形態1、実施の形態2、および実施の形態3と異なる点についてのみを図面を参照しながら説明する。
【0141】
実施の形態4においては、集電体2であるアルミニウムをエッチング処理により粗面化したアルミニウムのエッチング箔上に、塗布機3であるダイコータにより塗布した電極材料である電気化学キャパシタ用電極材料を乾燥するための乾燥装置4が、独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を6室有している塗布装置1を用いた。
【0142】
また、実施の形態4においては、独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11の長さが6つとも等しい長さである乾燥装置4を有している塗布装置1を用いた。
【0143】
ここで、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料を乾燥するための乾燥装置4が、独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を4室以上有している場合について説明する。
【0144】
まず、独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を4室以上有している乾燥装置4における乾燥ゾーンの区切り方について説明する。まず、第1の乾燥ゾーンは、第1の乾燥室11aから連続な乾燥室11であって、集電体2上に塗布した電極材料に対して、電極材料の単位面積当りの伝熱速度が、1つ前の乾燥室11において電極材料に与える単位面積当りの伝熱速度以上である乾燥室11の集合体である。
【0145】
また、第2の乾燥ゾーンは、第1の乾燥ゾーンの最終の乾燥室11から連続する乾燥室11であって、集電体2上に塗布した電極材料に対して、電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度が、第1の乾燥ゾーンの最終の乾燥室11において電極材料に与える単位面積当りの伝熱速度以下である乾燥室11を先頭として連続しており、乾燥室11における電極材料に与える単位面積当りの伝熱速度が、1つ前の乾燥室11において電極材料に与える単位面積当りの伝熱速度以下である乾燥室11の集合体である。
【0146】
さらに、第3の乾燥ゾーンは、第2の乾燥ゾーンの最終の乾燥室11から連続する乾燥室11であって、集電体2上に塗布された電極材料に与える単位面積当りの伝熱速度が、第2の乾燥ゾーンの最終の乾燥室11で、電極材料に与える単位面積当りの伝熱速度以上である乾燥室11以降すべての乾燥室11の集合体である。
【0147】
なお、第1の乾燥ゾーンの乾燥室11については、集電体2上に塗布された電極材料に与える単位面積当りの伝熱速度が、間欠的に1つ前の乾燥室11において、電極材料に与える単位面積当りの伝熱速度以下である乾燥室11を含んでいても、その乾燥室11以降に、電極材料に与える単位面積当りの伝熱速度が、1つ前の乾燥室11において電極材料に与える単位面積当りの伝熱速度以上である乾燥室11を備えており、その乾燥室11、または、その後の乾燥室11において、電極材料に与える単位面積当りの伝熱速度が、1つ前の乾燥室11において電極材料に与える単位面積当りの伝熱速度以上である乾燥室11が連続している場合には、その連続した乾燥室11の最終の乾燥室11における乾燥終了後の電極材料の含水率が限界含水率の80%以上150%以下の範囲であれば、第1の乾燥室11aから電極材料の含水率が限界含水率の80%以上150%以下の範囲まで乾燥する乾燥室11までを第1の乾燥ゾーンとして定義することができる。
【0148】
また、第2の乾燥ゾーンの乾燥室11については、集電体2上に塗布された電極材料に与える単位面積当りの伝熱速度が、間欠的に1つ前の乾燥室11において、電極材料に与える単位面積当りの伝熱速度以上である乾燥室11を含んでいても、その乾燥室11以降に、電極材料に与える単位面積当りの伝熱速度が、1つ前の乾燥室11において電極材料に与える単位面積当りの伝熱速度以下である乾燥室11を備えており、その乾燥室11、または、その後の乾燥室11において、電極材料に与える単位面積当りの伝熱速度が、1つ前の乾燥室11において電極材料に与える単位面積当りの伝熱速度以下である乾燥室11が連続している場合には、その連続した乾燥室11の最終の乾燥室11における乾燥終了後の電極材料の含水率が限界含水率の95%以下であれば、第1の乾燥ゾーンの最終の乾燥室11と連続する1つ後の乾燥室11から、電極材料の含水率が限界含水率の95%以下まで乾燥する乾燥室11までを第2の乾燥ゾーンとして定義することができる。
【0149】
それでは、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料を乾燥するための乾燥装置4が、独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を4室以上有している場合の乾燥方法について説明する。
【0150】
まず、独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を4室以上有しており、3つの乾燥ゾーンに区分けすることができる乾燥装置4において、第1の乾燥ゾーンにおいては、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料の含水率が限界含水率の80%以上150%以下の範囲までの期間の乾燥を行うことが望ましい。
【0151】
また、その際に用いる乾燥機の種類としては、伝導伝熱による機構を用いた乾燥機、対流伝熱による機構を用いた乾燥機、放射伝熱による機構を用いた乾燥機のうち、少なくとも1つ以上の乾燥機を用いることができる。実施の形態4においては、第1の乾燥ゾーンにおいて、電極材料の含水率が限界含水率の110%に達するまでの期間の乾燥を行った。
【0152】
また、第1の乾燥ゾーンにおいては、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料の含水率が限界含水率の80%以上150%以下の範囲までの乾燥期間において、集電体2上の電極材料に対して、電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度をできる限り大きくすることが望ましい。
【0153】
ここで、集電体2上の電極材料に対して、電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度をできる限り大きくすることは、電極の用途により適正な温度および風量は異なるが、電極材料に加える温度、および風量が、電極の特性に影響を及ぼさない範囲で高い温度、大きい風量であることにより、電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度を大きくすることを示している。
【0154】
このように電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度をできる限り大きくすることにより、集電体2上に塗布された電極材料の含水率が限界含水率の80%以上150%以下の範囲までの初期乾燥を短時間で行うことができるものとする。
【0155】
また、独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を4室以上有しており、3つの乾燥ゾーンに区分けすることができる乾燥装置4において、第2の乾燥ゾーンにおいては、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料の含水率が限界含水率の80%以上150%以下の範囲から限界含水率の95%以下の含水率になるまでの期間の乾燥を行うことが望ましい。
【0156】
その際に用いる乾燥機の種類としては、伝導伝熱による機構を用いた乾燥機、対流伝熱による機構を用いた乾燥機、放射伝熱による機構を用いた乾燥機のうち、少なくとも1つ以上の乾燥機を用いることができる。また、第2の乾燥ゾーン内において、電極材料の含水率が限界含水率である期間を乾燥させることが、さらに望ましい。実施の形態4においては、第2の乾燥ゾーンにおいて、電極材料の含水率が限界含水率の110%から90%に達するまでの期間の乾燥を行った。
【0157】
また、第2の乾燥ゾーンにおいては、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料の含水率が限界含水率の80%以上150%以下の範囲から限界含水率の95%以下の含水率になるまでの乾燥期間において、集電体2上の電極材料に対して、電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度は、集電体2上に塗布した電極材料の表面での電極材料中の溶媒の蒸発速度が、電極材料中の溶媒の拡散速度以下になるように設定することが望ましい。
【0158】
このように集電体2上の電極材料に対して、電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度を、電極材料の表面での電極材料中の溶媒の蒸発速度が、電極材料中の溶媒の拡散速度以下になるように設定すれば、集電体2上に塗布された電極材料を、独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を4室以上有しており、3つの乾燥ゾーンに区分けすることができる乾燥装置4により乾燥することで、柔らかく、割れや剥離などがなく、表面が平滑な電極を得ることができる。
【0159】
また第2の乾燥ゾーン内の乾燥室11においては、伝導伝熱および対流伝熱の機構を有している乾燥機により乾燥を行う場合には、温度を100℃以下にすることが望ましいが、80℃以下にすれば、柔らかく、割れや剥離などがなく、表面が平滑な電極を得ることができるので、さらに望ましい。
【0160】
第2の乾燥ゾーン内の乾燥室11において、放射伝熱の機構を有している乾燥機のみにより乾燥を行う乾燥室11においては、特に温度を限定するものではない。
【0161】
独立して乾燥条件を制御することができる乾燥室11を4室以上有しており、3つの乾燥ゾーンに区分けすることができる乾燥装置4において、第3の乾燥ゾーンにおいては、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料の含水率が限界含水率の95%以下の含水率から所望の残留水分率になるまでの期間の乾燥を行うことが望ましい。
【0162】
また、その際に用いる乾燥機の種類としては、伝導伝熱による機構を用いた乾燥機、対流伝熱による機構を用いた乾燥機、放射伝熱による機構を用いた乾燥機のうち、少なくとも1つ以上の乾燥機を用いることができる。実施の形態4においては、第3の乾燥ゾーンにおいて、電極材料の含水率が限界含水率の90%から、電極材料の残留水分率が2%になるまでの期間の乾燥を行った。
【0163】
また、第3の乾燥ゾーンにおいては、集電体2上に塗布機3により塗布した電極材料の含水率の95%以下の含水率から所望の残留水分率になるまでの期間において、集電体2上の電極材料に対して、電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度をできる限り大きくすることが望ましい。
【0164】
ここで、集電体2上の電極材料に対して、電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度をできる限り大きくすることは、電極の用途により適正な温度および風量は異なるが、電極材料に加える温度、および風量が、電極の特性に影響を及ぼさない範囲で高い温度、大きい風量であることにより、電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度を大きくすることを示している。
【0165】
このように電極材料の単位面積当りに与える伝熱速度をできる限り大きくすることにより、集電体2上に塗布された電極材料の含水率が限界含水率の95%以下の含水率から所望の残留水分率になるまでの仕上げ乾燥を短時間で行うことができるものとする。
【0166】
図2に示すように本発明での実施の形態4における乾燥装置4には6つの乾燥室がそれぞれ、第1の乾燥室11aから第6の乾燥室11fまであり、第1の乾燥室11aには、集電体2の進行方向とは逆の方向に向かって熱風を送風する熱風乾燥機と、集電体2上に塗布機3により電極材料が塗布された面とは反対の面から、集電体2に対して熱風を直角に当てる熱風乾燥機を備えている。
【0167】
また、第2の乾燥室11bには、集電体2の進行方向とは逆の方向に向かって熱風を送風する熱風乾燥機と、集電体2上に塗布機3により電極材料が塗布された面とは反対の面から、熱風を集電体2に対して直角に当てる熱風乾燥機と、集電体2の上方に赤外線乾燥機を備えている。
【0168】
また、第3の乾燥室11cには、集電体2上に塗布機3により電極材料が塗布された面、および反対の面の両側から熱風を直角に当て、集電体2を熱風により支持する熱風乾燥機を備えている。
【0169】
また、第4の乾燥室11dには、集電体2上に塗布機3により電極材料が塗布された面、および反対の面の両側から熱風を直角に当て、集電体2を熱風により支持する熱風乾燥機を備えている。
【0170】
また、第5の乾燥室11eには、集電体2上に塗布機3により電極材料が塗布された面、および反対の面の両側から熱風を直角に当て、集電体2を熱風により支持する熱風乾燥機を備えている。
【0171】
また、第6の乾燥室11fには、集電体2上に塗布機3により電極材料が塗布された面、および反対の面の両側から熱風を直角に当て、集電体2を熱風により支持する熱風乾燥機と、集電体2の上方に赤外線乾燥機を備えている。
【0172】
実施の形態4においては、6つの乾燥室11を以下の3つの乾燥ゾーンに区分けする。まず、第1の乾燥ゾーンは、第1の乾燥室11aと第2の乾燥室11bであり、第2の乾燥ゾーンは、第3の乾燥室11cから第5の乾燥室11eまでであり、第3の乾燥ゾーンは第6の乾燥室11fである。
【0173】
ここで、伝熱速度は、集電体2上に塗布された電極材料の単位面積当りの伝熱速度を求めることが望ましいが、実際に、電極材料の単位面積当りの伝熱速度を測定することは困難であるため、実施の形態4においては、乾燥機が供給する伝熱速度を計算により求めることにした。
【0174】
ここで、実施の形態4に用いた具体的な乾燥機の乾燥条件について説明する。第1の乾燥室11aには、集電体2の進行方向とは逆の方向に向かって、熱風を送風する熱風乾燥機と、集電体2上に塗布機3により電極材料が塗布された面とは反対の面から、集電体2に対して熱風を直角に当てる熱風乾燥機が備えられており、ともに、集電体2上に塗布された電極材料の塗布幅の2倍の装置幅を有しており、それらの熱風乾燥機で、温度80℃、風速1m/sの熱風により、電極材料に熱量を与えた。計算により求めた、熱風乾燥機が単位面積当りに供給した伝熱速度は2500J/(m2・s)である。
【0175】
第2の乾燥室11bには、集電体2の進行方向とは逆の方向に向かって、熱風を送風する熱風乾燥機と、集電体2上に塗布機3により電極材料が塗布された面とは反対の面から、集電体2に対して熱風を直角に当てる熱風乾燥機、および集電体2の上方に赤外線乾燥機が備えられており、いずれも、集電体2上に塗布された電極材料の塗布幅の2倍の装置幅を有しており、それらの熱風乾燥機で、温度80℃、風速2.5m/sの熱風を集電体2に当てることと、赤外線乾燥機を500℃に加熱することで、電極材料に熱量を与えた。計算により求めた、熱風乾燥機と赤外線乾燥機を合わせた単位面積当りに供給した伝熱速度は24000J/(m2・s)である。
【0176】
また、第3の乾燥室11c内の熱風乾燥機は、集電体2上に塗布された電極材料の塗布幅の2倍の装置幅を有しており、その熱風乾燥機により、温度50℃、風速1.5m/sの熱風により、電極材料に熱量を与えた。計算により求めた、熱風乾燥機が単位面積当りに供給した伝熱速度は1700J/(m2・s)である。
【0177】
また、第4の乾燥室11d内の熱風乾燥機は、集電体2上に塗布された電極材料の塗布幅の2倍の装置幅を有しており、その熱風乾燥機により、温度50℃、風速1.2m/sの熱風により電極材料に熱量を与えた。計算により求めた、熱風乾燥機が単位面積当りに供給した伝熱速度は1400J/(m2・s)である。
【0178】
また、第5の乾燥室11e内の熱風乾燥機は、集電体2上に塗布された電極材料の塗布幅の2倍の装置幅を有しており、その熱風乾燥機により、温度50℃、風速1m/sの熱風により電極材料に熱量を与えた。計算により求めた、熱風乾燥機が単位面積当りに供給した伝熱速度は1200J/(m2・s)である。
【0179】
さらに、第6の乾燥室11f内の熱風乾燥機および集電体2の上方に備えられている赤外線乾燥機は、集電体2上に塗布された電極材料の塗布幅の2倍の装置幅を有しており、その熱風乾燥機で、温度80℃、風速2m/sの熱風を集電体2に当てることと、赤外線乾燥機を500℃に加熱することで電極材料に熱量を与えた。計算により求めた、熱風乾燥機と赤外線乾燥機を合わせて、単位面積当りに供給した伝熱速度は23000J/(m2・s)である。
【0180】
ここで、本実施の形態4において用いた電気化学キャパシタ用の電極材料の限界含水率は1.5であり、第1の乾燥ゾーンにおいて電極材料の含水率を限界含水率の110%である1.65まで乾燥し、第2の乾燥ゾーンにおいて電極材料の含水率を限界含水率の90%である1.35まで乾燥し、第3の乾燥ゾーンにおいて電極材料の残留水分率が2%になるように乾燥を行った。
【0181】
それではここで、実施の形態1〜実施の形態4において、得られた電気化学キャパシタ用の電極12の評価方法および詳細な装置条件、操作条件を示す。
【0182】
得られた電気化学キャパシタ用の電極12は、図3に示す、押さえ13、電極支持台14、丸棒15,16、重り17よりなる密着性評価装置により、電気化学キャパシタ用の電極12を摺動し、電気化学キャパシタ用の電極12に発生する剥離、およびクラックの発生度合いにより評価を行い、評価後、電気化学キャパシタ用の電極12に剥離もクラックも生じない場合を5、電気化学キャパシタ用の電極層が集電体から剥離してしまう場合を1とし、その間の状態を2〜4として、評価を行った。
【0183】
まず、実施の形態1による実施例1について説明する。
【0184】
(実施例1)
第1の乾燥室11aの長さが1m、第2の乾燥室11bの長さが4mである乾燥装置4を備えた塗布装置1を用いて、塗布速度2m/minの速度で塗布および乾燥を行った。
【0185】
実施の形態2による実施例2について説明する。
【0186】
(実施例2)
乾燥室の長さが1mである、3つの乾燥室11を有する乾燥装置4を備えた塗布装置1を用いて、塗布速度2m/minの速度で塗布および乾燥を行った。
【0187】
実施の形態3による実施例3について説明する。
【0188】
(実施例3)
第1の乾燥室11aの長さが1m、第2の乾燥室11bの長さが0.5m、第3の乾燥室11cの長さが0.5mである乾燥装置4を備えた塗布装置1を用いて、塗布速度2m/minの速度で塗布および乾燥を行った。
【0189】
実施の形態4による実施例4について説明する。
【0190】
(実施例4)
乾燥室11の長さが0.3mである、6つの乾燥室11を有する乾燥装置4を備えた塗布装置1を用いて、塗布速度2m/minの速度で塗布および乾燥を行った。
【0191】
(従来例1)
乾燥室11の長さが0.7mである、3つの乾燥室11を有する乾燥装置4を備えた塗布装置1を用いて、塗布速度2m/minの速度で塗布および乾燥を行った。
【0192】
第1の乾燥室11a内には、集電体2の進行方向とは逆の方向に向かって、熱風を送風する熱風乾燥機と、集電体2上に塗布機3により電極材料が塗布された面とは反対の面から、集電体2に対して熱風を直角に当てる熱風乾燥機が備えられており、ともに、集電体2上に塗布された電極材料の塗布幅の2倍の装置幅を有しており、それらの熱風乾燥機で、温度80℃、風速2m/sの熱風により、電極材料に熱量を与えた。計算により求めた、熱風乾燥機が単位面積当りに供給した伝熱速度は4500J/(m2・s)である。
【0193】
また、第2の乾燥室11b内には、集電体2上に塗布機3により電極材料が塗布された面、および反対の面の両側から熱風を直角に当て、集電体2を熱風により支持する熱風乾燥機が備えられており、その熱風乾燥機は、集電体2上に塗布された電極材料の塗布幅の2倍の装置幅を有しており、温度90℃、風速2m/sの熱風により、電極材料に熱量を与えた。計算により求めた、熱風乾燥機が単位面積当りに供給した伝熱速度は5400J/(m2・s)である。
【0194】
さらに、第3の乾燥室11c内には、集電体2上に塗布機3により電極材料が塗布された面、および反対の面の両側から熱風を直角に当て、集電体2を熱風により支持する熱風乾燥機が備えられており、その熱風乾燥機は、集電体2上に塗布された電極材料の塗布幅の2倍の装置幅を有しており、温度100℃、風速2m/sの熱風により、電極材料に熱量を与えた。計算により求めた、熱風乾燥機が単位面積当りに供給した伝熱速度は6200J/(m2・s)である。
【0195】
ここで、従来例1において用いた電気化学キャパシタ用電極材料の限界含水率は1.5であり、第1の乾燥室において電極材料の含水率を限界含水率の110%である1.65まで乾燥し、第2の乾燥室において電極材料の含水率を限界含水率の60%である0.9まで乾燥し、第3の乾燥室において電極材料の残留水分率が2%になるように乾燥を行った。
【0196】
以下(表1)において、これらの実施例1〜実施例4および従来例1により作製した電気化学キャパシタ用の電極の密着性の評価結果を示す。
【0197】
【表1】

【0198】
本発明の例である実施例1〜実施例4と従来例1をこの(表1)に示す結果より比較する。
【0199】
実施例1〜実施例4により作製した電気化学キャパシタ用の電極の密着性と従来例1により作製した電気化学キャパシタ用の電極の密着性を比較すると明らかに、実施例1〜実施例4により作製した電気化学キャパシタ用の電極の方が密着性が良い。
【0200】
これは、電気化学キャパシタ用の電極材料の含水率が限界含水率である1.5のときに、電気化学キャパシタ用の電極に与える伝熱速度が小さかったために、電気化学キャパシタ用の電極表面での水の蒸発速度が電気化学キャパシタ用の電極内部の水の拡散速度よりも遅かったために、電気化学キャパシタ用の電極内が均一に乾燥されたことに起因している。
【0201】
次に、本発明の例である実施例1〜実施例4についてこの(表1)に示す結果より比較する。
【0202】
実施例1と実施例2〜実施例4を比較すると実施例1よりも実施例2〜実施例4の方が乾燥装置全体の長さが短く、乾燥時間も短い。これは、実施例2〜実施例4では乾燥室を3つ以上有していることから、電気化学キャパシタ用の電極材料の含水率が限界含水率付近の乾燥を行うために、伝熱速度を小さくした第2の乾燥室または第2の乾燥ゾーンの後に、さらに、伝熱速度を大きくした第3の乾燥室または第3の乾燥ゾーンを備えていることにより、仕上げの乾燥時間を短くできたことに起因している。
【0203】
実施例2と実施例3および実施例4を比較すると、実施例2よりも実施例3および実施例4の方が乾燥装置全体の長さが短く、乾燥時間も短い。これは、実施例3および実施例4では第1の乾燥室または第1の乾燥ゾーンと、第3の乾燥室または第3の乾燥ゾーンに放射伝熱機構による乾燥機である赤外線乾燥機を用いたことにより、初期の乾燥時間と仕上げの乾燥時間を短くできたことに起因している。
【0204】
実施例3と実施例4を比較すると、実施例3よりも実施例4の方が乾燥装置全体の長さが短く、乾燥時間も短い。これは、実施例3よりも実施例4の方が乾燥室の数が多いために、より細かく乾燥条件を設定できるためである。
【産業上の利用可能性】
【0205】
本発明の塗布装置および電極材料塗布後の乾燥方法を行えば、短時間の乾燥で、柔らかく、割れや剥離などがなく、表面が平滑な電極を得ることができるという効果を有し、この方法により得られた電極を使用することにより、後プロセスでのトラブルの発生を防ぐとともに、特性の良好な電気化学素子を得ることができ、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0206】
【図1】本発明の実施の形態における塗布装置の概略図
【図2】本発明の実施の形態における塗布装置の概略図
【図3】電気化学キャパシタ用の電極の密着性評価装置の概略図
【符号の説明】
【0207】
1 塗布装置
2 集電体
3 塗布機
4 乾燥装置
5 巻出しロール
6 巻取りロール
7 バックアップロール
8,9,10 ロール
11 乾燥室
11a 第1の乾燥室
11b 第2の乾燥室
11c 第3の乾燥室
11d 第4の乾燥室
11e 第5の乾燥室
11f 第6の乾燥室
11x 最終の乾燥室
12 電極
13 押さえ
14 電極支持台
15,16 丸棒
17 重り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔からなる集電体上に電極材料を塗布する塗布工程と、この電極材料が塗布された集電体を乾燥室にて乾燥させる乾燥工程とを有した電気化学素子の製造方法において、前記乾燥工程は、前記電極材料のほぼ全表面における前記電極材料中の拡散速度が自由水面からの水の蒸発速度より小さくなる時点における前記電極材料の含水率である限界含水率に達するまでの間を乾燥させる第1乾燥工程と、それ以降を乾燥させる第2乾燥工程を有し、前記第1乾燥工程は前記第2乾燥工程よりも伝熱速度が高いことを特徴とする電気化学素子用電極体の製造方法。
【請求項2】
金属箔からなる集電体上に電極材料を塗布する塗布工程と、この電極材料が塗布された集電体を乾燥室にて乾燥させる乾燥工程とを有した電気化学素子の製造方法において、前記乾燥工程は、前記電極材料のほぼ全表面における前記電極材料中の拡散速度が自由水面からの水の蒸発速度より小さくなる時点における前記電極材料の含水率である限界含水率に達するまでの間を乾燥させる第1乾燥工程と、それ以降を乾燥させる第2乾燥工程と、前記第2乾燥工程に続く第3乾燥工程を有し、前記第1乾燥工程と前記第3乾燥工程は、前記第2乾燥工程よりも伝熱速度が高いことを特徴とする電気化学素子用電極体の製造方法。
【請求項3】
金属箔からなる集電体上に電極材料を塗布する塗布部と、この電極材料が塗布された集電体を複数の乾燥部にて乾燥させる乾燥部とを有した電気化学素子用電極体の製造装置において、前記乾燥室は、前記電極材料のほぼ全表面における前記電極材料中の拡散速度が自由水面からの水の蒸発速度より小さくなる時点における前記電極材料の含水率である限界含水率に達するまでの間を乾燥させる第1乾燥室と、それ以降を乾燥させる第2乾燥室を有し、前記第1乾燥室において前記電極材料に与える伝熱速度は、前記第2乾燥室において前記電極材料に与える伝熱速度よりも高いことを特徴とする電気化学素子用電極体の製造装置。
【請求項4】
前記第1乾燥室の長さはすべての乾燥室の長さに対して1/10以上である請求項3に記載の電気化学素子用電極体の製造装置。
【請求項5】
金属箔からなる集電体上に電極材料を塗布する塗布部と、この電極材料が塗布された集電体を複数の乾燥室にて乾燥させる乾燥部とを有した電気化学素子用電極体の製造装置において、前記乾燥室は、前記電極材料のほぼ全表面における前記電極材料中の拡散速度が自由水面からの水の蒸発速度より小さくなる時点における前記電極材料の含水率である限界含水率に達するまでの間を乾燥させる第1乾燥室と、それ以降の乾燥を行う第2乾燥室と、前記第2乾燥室に続く第3乾燥室を有し、前記第1乾燥室と前記第3乾燥室において前記電極材料に与える伝熱速度は、前記第2乾燥室において前記電極材料に与える伝熱速度よりも高いことを特徴とする電気化学素子用電極体の製造装置。
【請求項6】
前記第1乾燥室の長さはすべての乾燥室の長さに対して1/10以上であり、前記第2乾燥室の長さはすべての乾燥室の長さに対して4/5以下であり、前記第3乾燥室の長さはすべての乾燥室の長さに対して1/10以上である請求項5に記載の電気化学素子用電極体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−227831(P2007−227831A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49655(P2006−49655)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】