説明

電気化学素子電極用複合粒子、電気化学素子電極材料、及び電気化学素子電極

【課題】集電体に対する密着性が高く、成形性に優れ、かつ、内部抵抗が低く、高温サイクル特性及び低温サイクル特性に優れた電気化学素子電極を与えることのできる電気化学素子電極用複合粒子を提供すること。
【解決手段】電極活物質、及びバインダを含んでなり、前記バインダが、フッ素系重合体、及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を主成分として含むアクリル重合体とを含有することを特徴とする電気化学素子電極用複合粒子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子電極用複合粒子、電気化学素子電極材料、及び電気化学素子電極に関する。
【背景技術】
【0002】
小型で軽量であり、エネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能なリチウムイオン二次電池などの電気化学素子は、その特性を活かして急速に需要を拡大している。リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が比較的に大きいことから携帯電話やノート型パーソナルコンピュータ、電気自動車などの分野で利用されている。
【0003】
これら電気化学素子には、用途の拡大や発展に伴い、低抵抗化、高容量化、機械的特性や生産性の向上など、より一層の改善が求められている。このような状況において、電気化学素子電極に関してもより生産性の高い製造方法が求められており、高速成形可能な製造方法及び該製造方法に適合する電気化学素子電極用材料について様々な改善が行われている。
【0004】
電気化学素子電極は、通常、電極活物質と、バインダと、必要に応じて用いられる添加剤とを溶剤に分散してなる電極スラリーを基材上に塗布し、得られた塗膜を乾燥して溶媒を除去することにより製造されている。この際に用いるバインダとしては、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂バインダが、一般的に用いられている(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、上述した電極スラリーを基材上に塗布する方法では、塗膜を乾燥して溶剤を除去する際に、塗膜が収縮してしまうため、得られる電極活物質層に微細なクラックが生じてしまうという問題や、均一な厚みの電極活物質層が得られないという問題があった。
【0006】
これに対して、特許文献2には、電極活物質、バインダ及び分散媒としての水を含む水系スラリーを得て、得られた水系スラリーを噴霧乾燥することにより粒子状の電極材料を得て、得られた電極材料を用いて電極活物質層を形成する方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献2に記載の技術では、得られる電極の柔軟性及び集電体と電極活物質層との間の密着性が十分でなく、そのため、内部抵抗や高温サイクル特性などの電池特性に劣るものであった。特に、バインダとして、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂バインダを用いた場合には、バインダとしての結着力は高いものの、得られる電極の柔軟性が極めて低く、さらには、成形性にも劣るという問題があり、そのため、改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許2000−173607号公報
【特許文献2】特許第4219705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、集電体に対する密着性が高く、成形性に優れ、かつ、内部抵抗が低く、高温サイクル特性及び低温サイクル特性に優れた電気化学素子電極を与えることのできる電気化学素子電極用複合粒子を提供することを目的とする。また、本発明は、このような電気化学素子電極用複合粒子を用いて得られる電気化学素子電極材料、及び電気化学素子電極を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、電極活物質、フッ素系重合体とアクリル重合体とを含むバインダを含有する複合粒子が、集電体に対する密着性が高く、成形性に優れ、かつ、電極とした場合に、内部抵抗が低く、高温サイクル特性及び低温サイクル特性に優れたものとすることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明によれば、電極活物質、及びバインダを含んでなり、前記バインダが、フッ素系重合体、及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を主成分として含むアクリル重合体とを含有する電気化学素子電極用複合粒子が提供される。
【0012】
本発明の電気化学素子電極用複合粒子において、前記アクリル重合体が、水溶性官能基を有するものであることが好ましく、前記水溶性官能基が、カルボン酸基及びスルホン酸基から選ばれる少なくとも1つであることがより好ましい。
【0013】
本発明によれば、上記いずれかの電気化学素子電極用複合粒子を含んでなることを特徴とする電気化学素子電極材料が提供される。
また、本発明によれば、上記の電気化学素子電極材料から形成される活物質層を集電体上に積層してなることを特徴とする電気化学素子電極が提供される。
本発明の電気化学素子電極は、前記活物質層を前記集電体上に、加圧成形により積層してなるものであることが好ましく、ロール加圧成形により積層してなるものであることがより好ましい。
さらに、本発明によれば、上記いずれかの電気化学素子電極用複合粒子を製造する方法であって、前記電極活物質、及び前記バインダを水に分散させてスラリーを得る工程と、前記スラリーを噴霧乾燥して造粒する工程と、を有する電気化学素子電極用複合粒子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、集電体に対する密着性が高く、成形性に優れ、かつ、内部抵抗が低く、高温サイクル特性及び低温サイクル特性に優れた電気化学素子電極を与えることのできる電気化学素子電極用複合粒子、ならびに、このような電気化学素子電極用複合粒子を用いて得られる電気化学素子電極材料、及び電気化学素子電極を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の電気化学素子電極用複合粒子は、電極活物質、及びバインダを含んでなり、前記バインダが、フッ素系重合体、及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を主成分として含むアクリル重合体とを含有することを特徴とする。
【0016】
(電極活物質)
本発明で用いる電極活物質は、電気化学素子の種類によって適宜選択される。たとえば、リチウムイオン二次電池の正極用の電極活物質としては、リチウムイオンを可逆的にドープ・脱ドープ可能な金属酸化物が挙げられる。このような金属酸化物としては、たとえば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、燐酸鉄リチウム、燐酸マンガンリチウム、燐酸バナジウムリチウム、バナジン酸鉄リチウム、ニッケル−マンガン−コバルト酸リチウム、ニッケル−コバルト酸リチウム、ニッケル−マンガン酸リチウム、鉄−マンガン酸リチウム、鉄−マンガン−コバルト酸リチウム、珪酸鉄リチウム、珪酸鉄−マンガンリチウム、酸化バナジウム、バナジン酸銅、酸化ニオブ、硫化チタン、酸化モリブデン、硫化モリブデン等を挙げることができる。さらに、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン、ポリキノンなどのポリマーが挙げられる。なお、上記にて例示した正極活物質は適宜用途に応じて単独で使用してもよく、複数種混合して使用してもよい。
【0017】
これらのうち、リチウム含有金属酸化物を用いることが好ましく、特に、リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物が好適に用いられる。特に、リチウムとニッケルを含有する複合酸化物は、従来よりリチウム系二次電池の正極活物質として用いられているコバルト酸リチウム(LiCoO)と比較して、高容量であるため、好適である。リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物としては、たとえば、下記一般式で表されるものが挙げられる。
LiNi1−x−yCo
(ただし、0≦x<1、0≦y<1、x+y<1、Mは、B、Mn、及びAlから選択される少なくとも1種の元素)
【0018】
また、リチウムイオン二次電池の負極用の電極活物質としては、たとえば、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素、活性炭、熱分解炭素などの低結晶性炭素(非晶質炭素)、グラファイト(天然黒鉛、人造黒鉛)、カーボンナノウォール、カーボンナノチューブ、あるいはこれら物理的性質の異なる炭素の複合化炭素材料、錫やケイ素等の合金系材料、ケイ素酸化物、錫酸化物、バナジウム酸化物、チタン酸リチウム等の酸化物、ポリアセン等が挙げられる。なお、上記に例示した電極活物質は適宜用途に応じて単独で使用してもよく、複数種混合して使用してもよい。
【0019】
リチウムイオン二次電池用の正極活物質及び負極活物質の形状は、粒状に整粒されたものが好ましく、粒子の形状が球形であると、電極成形時により高密度な電極が形成できる。また、リチウムイオン二次電池用の正極活物質及び負極活物質の体積平均粒子径は、正極、負極ともに通常0.1〜100μm、好ましくは0.5〜50μm、より好ましくは0.8〜20μmである。さらに、リチウムイオン二次電池用の正極活物質及び負極活物質のタップ密度は、特に制限されないが、正極では2g/cm以上、負極では0.6g/cm以上のものが好適に用いられる。
【0020】
あるいは、リチウムイオンキャパシタ用の正極活物質としては、アニオン及び/又はカチオンを可逆的にドープ・脱ドープ可能な活性炭、ポリアセン系有機半導体(PAS)、カーボンナノチューブ、カーボンウィスカー、グラファイト等が挙げられる。これらのなかでも、活性炭、カーボンナノチューブが好ましい。
【0021】
また、リチウムイオンキャパシタ用の負極活物質としては、リチウムイオン二次電池用の負極活物質として例示した材料をいずれも使用することができる。
【0022】
リチウムイオンキャパシタ用の正極活物質及び負極活物質の体積平均粒子径は、通常0.1〜100μm、好ましくは0.5〜50μm、更に好ましくは0.8〜20μmである。また、リチウムイオンキャパシタ用の正極活物質として活性炭を用いる場合、活性炭の比表面積は、30m/g以上、好ましくは500〜3,000m/g、より好ましくは1,500〜2,600m/gである。比表面積が約2,000m/gまでは比表面積が大きくなるほど活性炭の単位重量あたりの静電容量は増加する傾向にあるが、それ以降は静電容量は然程増加せず、かえって電極合材層の密度が低下し、静電容量密度が低下する傾向にある。また、活性炭が有する細孔のサイズは電解質イオンのサイズに適合していることがリチウムイオンキャパシタとしての特徴である急速充放電特性の面で好ましい。従って、電極活物質を適宜選択することで、所望の容量密度、入出力特性を有する電極合材層を得ることができる。
【0023】
また、電気二重層キャパシタ用の正極活物質、負極活物質としては、正極活物質及び負極活物質としては、上述したリチウムイオンキャパシタ用の正極活物質として例示された材料をいずれも使用することができる。
【0024】
これらのなかでも、本発明の作用効果が最も大きいという観点より、電極活物質としては、リチウムイオン二次電池の正極用の電極活物質が好ましく用いられる。すなわち、本発明の電気化学素子電極用複合粒子は、リチウムイオン二次電池の正極用として好適に用いることができる。
【0025】
(バインダ)
本発明で用いるバインダは、フッ素系重合体(a)と、アクリル重合体(b)とを含有するものである。本発明においては、バインダとして、フッ素系重合体(a)と、アクリル重合体(b)とを組み合わせて用いることにより、本発明の電気化学素子電極用複合粒子を、集電体に対する密着性及び成形性に優れ、しかも、電気化学素子電極とした場合における柔軟性及び低温特性を良好なものとすることができる。
【0026】
本発明で用いるフッ素系重合体(a)としては、フッ素原子を含有する重合体であれば特に限定されないが、フッ化ビニリデン単位及び六フッ化プロピレン単位のうち少なくとも一方を含む重合体が好ましく、フッ化ビニリデン単位及び六フッ化プロピレン単位の両方を含む重合体であってもよい。
【0027】
本発明で用いるフッ素系重合体(a)中における、フッ化ビニリデン単位の含有割合は、好ましくは50〜100重量%であり、より好ましくは55〜100重量%、さらに好ましくは60〜100重量%である。フッ化ビニリデン単位の含有割合を上記範囲とすることにより、アクリル重合体(b)に対する相溶性を良好なものとしながら、バインダとしての結着力をより高めることがきる。
【0028】
本発明で用いるフッ素系重合体(a)中における、六フッ化プロピレン単位の含有割合は、好ましくは0〜50重量%であり、より好ましくは0〜45重量%、さらに好ましくは0〜40重量%である。六フッ化プロピレン単位の含有割合を上記範囲とすることにより、アクリル重合体(b)に対する相溶性を良好なものとしながら、バインダとしての結着力をより高めることがきる。
【0029】
また、本発明で用いるフッ素系重合体(a)としては、フッ化ビニリデン単位及び六フッ化プロピレン単位以外の他の単量体の単位を有するものであってもよく、このような他の単量体としては、たとえば、(メタ)アクリル酸メチル〔アクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸メチルの意。以下、同様。〕、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸i−アミル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸n−デシル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル系化合物;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン類、エチレンの他、後述する官能基含有不飽和単量体等が挙げられる。
【0030】
他の単量体を含有させる場合における、他の単量体の単位の含有割合は、好ましくは25重量%以下であり、より好ましくは20重量%以下である。
【0031】
また、本発明で用いるフッ素系重合体(a)の形態は、特に限定されないが、電子伝導を阻害することなく、電極活物質同士を良好に結着することができるという観点より、粒子形状を有するものが好ましく、特に、本発明の電気化学素子電極用複合粒子内においても、粒子状態を保持した状態、すなわち、電極活物質上に粒子状態を保持した状態で存在できるものであることが好ましい。なお、本発明において、“粒子状態を保持した状態”とは、完全に粒子形状を保持した状態である必要はなく、その粒子形状をある程度保持した状態であればよく、たとえば、電極活物質同士を結着した結果、これら電極活物質同士によりある程度押しつぶされたような形状となっていてもよい。
【0032】
また、本発明で用いるフッ素系重合体(a)は、粒子形状を有するものである場合には、通常、水中に粒子状で分散した分散液の状態で使用される。水中に粒子状で分散している場合における、フッ素系重合体(a)の平均粒径(分散粒子径)は、好ましくは100〜500nm、より好ましくは100〜300nm、さらに好ましくは100〜250nmである。フッ素系重合体(a)の平均粒径がこの範囲であると、得られる電気化学素子電極の強度及び柔軟性が良好となる。
【0033】
本発明で用いるフッ素系重合体(a)の製造方法は特に限定されないが、上述した各単量体を、水を分散媒とする乳化重合法により重合することにより製造することができる。
【0034】
乳化重合に用いる乳化剤としては、特に限定されず、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、及びカチオン性界面活性剤のいずれも用いることができる。乳化剤の添加量は任意に設定でき、重合に用いる単量体の総量100重量部に対して通常0.01〜10重量部程度である。
【0035】
また、重合に用いる重合開始剤としては、たとえば過酸化ラウロイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどの有機過酸化物、α,α’−アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物、又は過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどが挙げられる。
【0036】
本発明で用いるバインダ中における、フッ素系重合体(a)の含有割合は、バインダ全体100重量%に対して、好ましくは10〜90重量%、より好ましくは20〜80重量%、さらに好ましくは30〜70重量%である。また、電極活物質100重量部に対するフッ素系重合体(a)の含有割合は、好ましくは0.1〜5重量部、より好ましくは0.2〜4重量部、さらに好ましくは0.5〜3重量部である。フッ素系重合体(a)の含有割合を上記範囲とすることにより、アクリル重合体(b)に対する相溶性を良好なものとしながら、バインダとしての結着力をより高めることがきる。
【0037】
また、本発明で用いるアクリル重合体(b)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を主成分として含有する重合体である。
【0038】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を形成する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソボニル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、及び(メタ)アクリル酸トリデシル等が挙げられる。
【0039】
これら(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、アクリル重合体(b)を電解液に対する膨潤性の低いものとすることができ、これにより、電極とした際におけるサイクル特性を向上させることができるという点より、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルが好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルがより好ましく、アクリル酸2−エチルヘキシルが特に好ましい。
【0040】
アクリル重合体(b)中における(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位の含有割合は、好ましくは40〜99重量%であり、より好ましくは50〜90重量%、さらに好ましくは70〜85重量%である。(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位の含有割合を上記範囲とすることにより、アクリル重合体(b)の電解液に対する保液性を向上させることができ、これにより、電気化学素子電極とした際における高温サイクル特性及び低温サイクル特性をより優れたものとすることができる。
【0041】
また、本発明で用いるアクリル重合体(b)は、集電体に対する密着性及びバインダとしての結着力を向上させることができるという点より、水溶性官能基を有していることが好ましい。本発明において、アクリル重合体(b)に、水溶性官能基を導入する方法としては特に限定されないが、上述した(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能であり、かつ水溶性官能基を有する単量体を用い、これにより、本発明のアクリル重合体(b)に、水溶性官能基を有する単量体単位を含有させる方法が好ましく挙げられる。なお、本発明で用いる水溶性官能基を有する単量体としては、特に限定されないが、集電体に対する密着性及びバインダとしての結着力の向上効果が高いという点より、カルボン酸基を有する単量体、スルホン酸基を有する単量体及びリン酸基を有する単量体から選択される少なくとも1種が好ましく、カルボン酸基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体から選択される少なくとも1種が好ましく、カルボン酸基を有する単量体がより好ましい。
【0042】
カルボン酸基を有する単量体の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのモノカルボン酸;2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などのモノカルボン酸の誘導体;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのジカルボン酸;無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などのジカルボン酸の酸無水物;メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキル等のジカルボン酸の誘導体;などが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸及びイタコン酸が好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。
【0043】
スルホン酸基を有する単量体の具体例としては、スルホン酸基含有単量体としては、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホエチルメタクリレート、スルホプロピルメタクリレート、スルホブチルメタクリレートなどのスルホン酸基以外の官能基を有さないスルホン酸基含有化合物;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)などのアミド基とスルホン酸基とを含有する化合物;3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(HAPS)などのヒドロキシル基とスルホン酸基とを含有する化合物;などが挙げられる。また、これらのリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などを用いることもできる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)が好ましい。
【0044】
リン酸基を有する単量体の具体例としては、リン酸−2−アクリロイルオキシエチル、リン酸−2−メタクリロイルオキシエチル、リン酸メチル−2−アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル−2−メタクリロイルオキシエチル、リン酸エチル−アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル−メタクリロイルオキシエチルなどが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、リン酸−2−メタクリロイルオキシエチルが好ましい。
【0045】
本発明で用いるフッ素系重合体(a)中における、水溶性官能基を有する単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは0.5〜10重量%であり、より好ましくは1〜8重量%、さらに好ましくは1〜6重量%である。水溶性官能基を有する単量体単位の含有割合を上記範囲とすることにより、集電体に対する密着性及びバインダとしての結着力の向上効果を適切に発揮させることができる。
【0046】
また、アクリル重合体(b)は、上述した(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、これと共重合可能な単量体との共重合体であってもよく、このような共重合可能な単量体としては、ニトリル基含有単量体、芳香族ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0047】
ニトリル基含有単量体としては、たとえば、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらのなかでも、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。ニトリル基含有単量体は、一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0048】
アクリル重合体(b)中におけるニトリル基含有単量体単位の含有割合は、好ましくは30重量%以下であり、より好ましくは3〜25重量%、さらに好ましくは5〜20重量%である。ニトリル基含有単量体単位の含有割合を上記範囲とすることにより、バインダとしての結着力をより高めることができ、これにより、電気化学素子電極とした際における高温サイクル特性及び低温サイクル特性をより優れたものとすることができる。
【0049】
芳香族ビニル系単量体としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−クロルスチレン、p−クロルスチレンなどを挙げることができる。これらのなかでも、スチレンが好ましい。芳香族ビニル系単量体は、一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0050】
アクリル重合体(b)中における芳香族ビニル系単量体単位の含有割合は、好ましくは20重量%以下であり、より好ましくは0〜15重量%、さらに好ましくは0〜10重量%である。芳香族ビニル系単量体単位の含有割合を上記範囲とすることにより、本発明の複合粒子に必要に応じて含有させる導電剤の分散性を優れたものとすることができる。
【0051】
また、(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシジプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等のエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸等のカルボン酸含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸パーフロロオクチルエチル等のフッ素基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸リン酸エチル等のリン酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル;等が挙げられる。
【0052】
アクリル重合体(b)中における(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、好ましくは7重量%以下であり、より好ましくは1〜5重量%、さらに好ましくは1.5〜4重量%である。(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合を上記範囲とすることにより、活物質の分散性に優れ、沈降の無い良好なスラリー特性とすることができる。
【0053】
さらに、アクリル重合体(b)としては、上述した各単量体と共重合可能な他の単量体を共重合したものであってもよく、このような他の単量体としては、たとえば、2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類、アミド系単量体、オレフィン類、ジエン系単量体、ビニルケトン類、複素環含有ビニル化合物などが挙げられる。
【0054】
本発明で用いるアクリル重合体(b)の形態は、特に限定されないが、上述したフッ素系重合体(a)と同様に、粒子形状を有するものが好ましく、特に、本発明の電気化学素子電極用複合粒子内においても、粒子状態を保持した状態で存在できるものであることが好ましい。
【0055】
また、本発明で用いるアクリル重合体(b)は、粒子形状を有するものである場合には、上述したフッ素系重合体(a)と同様に、通常、水中に粒子状で分散した分散液の状態で使用される。水中に粒子状で分散している場合における、アクリル重合体(b)の平均粒径(分散粒子径)は、好ましくは50〜500nm、より好ましくは70〜400nm、さらに好ましくは90〜250nmである。アクリル重合体(b)の平均粒径がこの範囲であると、得られる電気化学素子電極の強度及び柔軟性が良好となる。
【0056】
本発明で用いるアクリル重合体(b)の製造方法は特に限定されないが、上述した各単量体を、水を分散媒とする乳化重合法により重合する方法が好ましい。乳化重合に用いる乳化剤及び重合開始剤としては、上述したフッ素系重合体(a)と同様のものを用いることができる。
【0057】
本発明で用いるバインダ中における、アクリル重合体(b)の含有割合は、バインダ全体100重量%に対して、好ましくは10〜90重量%、より好ましくは20〜80重量%、さらに好ましくは30〜70重量%である。また、電極活物質100重量部に対するアクリル重合体(b)の含有割合は、好ましくは0.1〜5重量部、より好ましくは0.2〜4重量部、さらに好ましくは0.5〜3重量部である。アクリル重合体(b)の含有割合を上記範囲とすることにより、バインダとしての結着力を十分なものとすることができ、これにより、電気化学素子電極とした際における高温サイクル特性及び低温サイクル特性をより優れたものとすることができる。
【0058】
また、本発明の電気化学素子電極用複合粒子中における、バインダの含有割合は、電極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは1〜8重量部、さらに好ましくは1〜6重量部である。バインダの含有割合を上記範囲とすることにより、電子伝導を阻害することなく、電極活物質同士を良好に結着することが可能となる。
【0059】
(導電材)
本発明の電気化学素子電極用複合粒子は、上記各成分に加えて、必要に応じて導電材を含有していてもよい。
【0060】
導電材としては、導電性を有する粒子状の材料であればよく、特に限定されないが、たとえば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、及びケッチェンブラック(アクゾノーベル ケミカルズ ベスローテン フェンノートシャップ社の登録商標)などの導電性カーボンブラックが挙げられる。これらの中でも、アセチレンブラックおよびケッチェンブラックが好ましい。導電材は、単独でまたは二種類以上を組み合わせて用いることができる。導電材の平均粒子径は、特に限定されないが、電極活物質の平均粒子径よりも小さいものが好ましく、通常、0.001〜10μm、より好ましくは0.05〜5μm、さらに好ましくは0.01〜1μmの範囲である。導電材の平均粒子径が上記範囲にあると、より少ない使用量で十分な導電性を発現させることができる。
【0061】
本発明の電気化学素子電極用複合粒子中における、導電材の含有割合は、電極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1〜50重量部、より好ましくは0.5〜15重量部、さらに好ましくは1〜10重量部である。導電材の含有割合を上記範囲とすることにより、得られる電気化学素子の容量を高く保ちながら、内部抵抗を十分に低減することが可能となる。
【0062】
(電気化学素子電極用複合粒子)
本発明の電気化学素子電極用複合粒子は、電極活物質、バインダ、および必要に応じて添加される導電材を含んでなるが、前記のそれぞれが個別に独立した粒子として存在するのではなく、これら各成分の、少なくとも2成分、好ましくは全成分で一粒子を形成するものである。
【0063】
具体的には、各成分の個々の粒子の複数個が結合して二次粒子を形成しており、複数個(好ましくは数個〜数十個)の電極活物質が、バインダによって結着されて塊状の粒子を形成しているものが好ましい。
【0064】
また、電気化学素子電極用複合粒子としての形状及び構造は特に限定されないが、流動性の観点から、形状は球状に近いものが好ましく、構造は、バインダが、複合粒子の表面に偏在することなく、複合粒子内に均一に分散する構造が好ましい。
【0065】
次いで、本発明の電気化学素子電極用複合粒子の製造方法としては、特に限定されないが、以下に説明する噴霧乾燥造粒法によれば、本発明の電気化学素子電極用複合粒子を比較的容易に得ることができるため、好ましい。以下、噴霧乾燥造粒法について説明する。
【0066】
まず、電極活物質、バインダ、および必要に応じて添加される添加剤を含有する複合粒子用スラリーを調製する。複合粒子用スラリーは、電極活物質、バインダ、ならびに、必要に応じて添加される添加剤を、溶媒に分散又は溶解させることにより調製することができる。なお、この場合において、バインダ(フッ素系重合体(a)、アクリル重合体(b))が分散媒としての水に分散されたものである場合には、水に分散させた状態で添加することができる。また、分散剤が水に溶解した状態である場合には、水に溶解させた状態で添加することができる。
【0067】
複合粒子用スラリーを得るために用いる溶媒としては、通常、水が用いられるが、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよい。この場合に用いることができる有機溶媒としては、たとえば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等のアルキルアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のアルキルケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム等のエーテル類;ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン等のアミド類;ジメチルスルホキサイド、スルホラン等のイオウ系溶剤;等が挙げられる。これらのなかでも、アルコール類が好ましい。水と、水よりも沸点の低い有機溶媒とを併用することにより、噴霧乾燥時に、乾燥速度を速くすることができる。
【0068】
複合粒子用スラリーを調製する際に使用する溶媒の量は、複合粒子用スラリー中の固形分濃度が、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは5〜50重量%、さらに好ましくは10〜30重量%の範囲となる量である。固形分濃度を上記範囲とすることにより、バインダを均一に分散させることができるため、好適である。
【0069】
また、複合粒子用スラリーの粘度は、室温において、好ましくは10〜3,000mPa・s、より好ましくは30〜1,500mPa・s、さらに好ましくは50〜1,000mPa・sの範囲である。複合粒子用スラリーの粘度がこの範囲にあると、噴霧乾燥造粒工程の生産性を上げることができる。
【0070】
また、本発明においては、複合粒子用スラリーを調製する際に、必要に応じて、分散剤や界面活性剤を添加してもよい。
【0071】
分散剤としては、溶媒に溶解可能な樹脂であればよく特に限定されないが、たとえば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及び、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ならびにこれらのアンモニウム塩又はアルカリ金属塩;ポリアクリル酸又はポリメタクリル酸のアンモニウム塩又はアルカリ金属塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド;ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、キチン、キトサン誘導体等が挙げられる。これらの分散剤は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。中でも、分散剤としては、セルロース系ポリマーが好ましく、カルボキシメチルセルロース又はそのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩が特に好ましい。
【0072】
また、界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、ノニオニックアニオン等の両性の界面活性剤が挙げられるが、アニオン性又はノニオン性界面活性剤で熱分解しやすいものが好ましい。界面活性剤の配合量は、電極活物質100重量部に対して、好ましくは50重量部以下であり、より好ましくは0.1〜10重量部、さらに好ましくは0.5〜5重量部である。
【0073】
電極活物質、バインダ、および必要に応じて添加される添加剤を溶媒に分散又は溶解する方法又は順番は、特に限定されない。また、混合装置としては、たとえば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等を用いることができる。混合は、通常、室温〜80℃の範囲で、10分〜数時間行う。
【0074】
次いで、得られた複合粒子用スラリーを噴霧乾燥して造粒する。噴霧乾燥は、熱風中にスラリーを噴霧して乾燥する方法である。スラリーの噴霧に用いる装置としてアトマイザーが挙げられる。アトマイザーとしては、回転円盤方式と加圧方式との二種類の装置が挙げられ、回転円盤方式は、高速回転する円盤のほぼ中央にスラリーを導入し、円盤の遠心力によってスラリーが円盤の外に放たれ、その際にスラリーを霧状にする方式である。回転円盤方式において、円盤の回転速度は円盤の大きさに依存するが、通常は5,000〜30,000rpm、好ましくは15,000〜30,000rpmである。円盤の回転速度が低いほど、噴霧液滴が大きくなり、得られる電気化学素子電極用複合粒子の平均粒子径が大きくなる。回転円盤方式のアトマイザーとしては、ピン型とベーン型が挙げられるが、好ましくはピン型アトマイザーである。ピン型アトマイザーは、噴霧盤を用いた遠心式の噴霧装置の一種であり、該噴霧盤が上下取付円板の間にその周縁に沿ったほぼ同心円上に着脱自在に複数の噴霧用コロを取り付けたもので構成されている。複合粒子用スラリーは噴霧盤中央から導入され、遠心力によって噴霧用コロに付着し、コロ表面を外側へと移動し、最後にコロ表面から離れ噴霧される。一方、加圧方式は、複合粒子用スラリーを加圧してノズルから霧状にして乾燥する方式である。
【0075】
噴霧される複合粒子用スラリーの温度は、通常は室温であるが、加温して室温より高い温度としてもよい。また、噴霧乾燥時の熱風温度は、通常80〜250℃、好ましくは100〜200℃である。噴霧乾燥法において、熱風の吹き込み方法は特に制限されず、たとえば、熱風と噴霧方向が横方向に並流する方式、乾燥塔頂部で噴霧され熱風と共に下降する方式、噴霧した滴と熱風が向流接触する方式、噴霧した滴が最初熱風と並流し次いで重力落下して向流接触する方式等が挙げられる。
【0076】
なお、噴霧方法としては、電極活物質、バインダ、及び必要に応じて添加される添加剤を含む複合粒子用スラリーを、一括して噴霧する方法以外にも、バインダ、及び必要に応じて添加される添加剤を含有するスラリーを、流動している電極活物質に噴霧する方法も用いることができる。粒子径制御の容易性、生産性、粒子径分布が小さくできる、などの観点から、複合粒子の成分等に応じて最適な方法を適宜選択すればよい。
【0077】
このようにして得られる本発明の電気化学素子電極用複合粒子の平均粒子径は、好ましくは0.1〜1,000μmであり、より好ましくは1〜80μm、さらに好ましくは10〜70μmである。平均粒子径を上記範囲とすることにより、電気化学素子電極用複合粒子の流動性をより高めることができる。なお、電気化学素子電極用複合粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(たとえば、SALD−3100;島津製作所製)にて測定し、算出される体積平均粒子径である。
【0078】
(電気化学素子電極材料)
本発明の電気化学素子電極材料は、上述した本発明の電気化学素子電極用複合粒子を含んでなる。本発明の電気化学素子電極用複合粒子は、単独で又は必要に応じて他の結着剤やその他の添加剤を含有させることで、電気化学素子電極材料として用いられる。電気化学素子電極材料中に含有される電気化学素子電極用複合粒子の含有量は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。
【0079】
必要に応じて用いられる他の結着剤としては、たとえば、上述した本発明の電気化学素子電極用複合粒子に含有されるバインダを用いることができる。本発明の電気化学素子電極用複合粒子は、すでに結着剤としてのバインダを含有しているため、電気化学素子電極材料を調製する際に、他の結着剤を別途添加する必要はないが、電気化学素子電極用複合粒子同士の結着力をより高めるために他の結着剤を添加してもよい。また、他の結着剤を添加する場合における該他の結着剤の添加量は、電気化学素子電極用複合粒子中のバインダとの合計で、電極活物質100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.1〜5重量部である。また、その他の添加剤としては、水やアルコールなどの成形助剤等が挙げられ、これらは、本発明の効果を損なわない量を適宜選択して加えることができる。
【0080】
(電気化学素子電極)
本発明の電気化学素子電極は、上述した本発明の電気化学素子電極材料からなる活物質層を集電体上に積層してなる。集電体用材料としては、たとえば、金属、炭素、導電性高分子などを用いることができ、好適には金属が用いられる。金属としては、通常、銅、アルミニウム、白金、ニッケル、タンタル、チタン、ステンレス鋼、その他の合金等が使用される。これらの中で導電性、耐電圧性の面から、銅、アルミニウム又はアルミニウム合金を使用するのが好ましい。また、高い耐電圧性が要求される場合には特開2001−176757号公報等で開示される高純度のアルミニウムを好適に用いることができる。集電体は、フィルム又はシート状であり、その厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常1〜200μm、好ましくは5〜100μm、より好ましくは10〜50μmである。
【0081】
活物質層を集電体上に積層する際には、活物質層としての電気化学素子電極材料をシート状に成形し、次いで集電体上に積層してもよいが、集電体上で電気化学素子電極材料を直接加圧成形する方法が好ましい。加圧成形としては、たとえば、一対のロールを備えたロール式加圧成形装置を用い、集電体をロールで送りながら、スクリューフィーダー等の供給装置で電気化学素子電極材料をロール式加圧成形装置に供給することで、集電体上で、活物質層を成形するロール加圧成形法や、電気化学素子電極材料を集電体上に散布し、電気化学素子電極材料をブレード等でならして厚みを調整し、次いで加圧装置で成形する方法、電気化学素子電極材料を金型に充填し、金型を加圧して成形する方法などが挙げられる。これらのなかでも、ロール加圧成形法が好ましい。特に、本発明の電気化学素子電極用複合粒子は、高い流動性を有しているため、その高い流動性により、ロール加圧成形による成形が可能であり、これにより、生産性の向上が可能となる。
【0082】
ロール加圧成形時の温度は、好ましくは0〜200℃であり、バインダのガラス転移温度よりも20℃以上高い温度とすることがより好ましい。ロール加圧成形時の温度を上記範囲とすることにより、活物質層と集電体との密着性を十分なものとすることができる。また、ロール加圧成形時のロール間のプレス線圧は、好ましくは0.2〜30kN/cm、より好ましくは1.5〜15kN/cmである。線圧を上記範囲とすることにより、活物質の厚みの均一性を向上させることができる。また、ロール加圧成形時の成形速度は、好ましくは0.1〜20m/分、より好ましくは4〜10m/分である。
【0083】
また、成形した電気化学素子電極の厚みのばらつきを無くし、活物質層の密度を上げて高容量化を図るために、必要に応じてさらに後加圧を行ってもよい。後加圧の方法は、ロールによるプレス工程が一般的である。ロールプレス工程では、2本の円柱状のロールをせまい間隔で平行に上下にならべ、それぞれを反対方向に回転させて、その間に電極をかみこませることにより加圧する。この際においては、必要に応じて、ロールは加熱又は冷却等、温度調節してもよい。
【0084】
このようにして得られる本発明の電気化学素子電極は、活物質層に、上述した本発明の電気化学素子電極用複合粒子を用いて得られるものであるため、活物質層と集電体との間の密着性が高く、しかも、内部抵抗が低く、高温サイクル特性及び低温サイクル特性に優れたものである。そのため、本発明の電気化学素子電極は、リチウムイオン二次電池などの各種電気化学素子用の電極として好適に用いることができる。
【実施例】
【0085】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。各例中の部及び%は、特に断りのない限り、重量基準である。
なお、各特性の定義及び評価方法は、以下のとおりである。
【0086】
<ピール強度>
実施例及び比較例で得られた正極を、正極活物質層面を上にして固定し、正極活物質層の表面にセロハンテープを貼り付けた後、試験片の一端からセロハンテープを50mm/分の速度で180°方向に引き剥がしたときの応力を測定した。そして、この測定を10回行い、その平均値を求め、これをピール強度とし、下記基準にて評価した。なお、ピール強度が高いほど、正極活物質層内における密着強度、及び正極活物質層と集電体との間の密着強度が高いと判断できる。
A:ピール強度が12N/m以上
B:ピール強度が8N/m以上、12N/m未満
C:ピール強度が5N/m以上、8N/m未満
D:ピール強度が5N/m未満
【0087】
<成形性>
実施例及び比較例で得られた正極を、幅方向(TD方向)10cm、長さ方向(MD方向)1mにカットし、カットした正極について、TD方向に均等に3点、及びMD方向に均等に5点の合計15点(=3点×5点)の膜厚測定を行い、膜厚の平均値A及び平均値から最も離れた値Bを求めた。そして、平均値A及び最も離れた値Bから、下記式(1)にしたがって、厚みムラを算出し、下記基準にて成形性を評価した。厚みムラが小さいほど、成形性に優れていると判断できる。
厚みムラ(%)=(|A−B|)×100/A …(1)
A:厚みムラが5%未満
B:厚みムラが5%以上、10%未満
C:厚みムラが10%以上、15%未満
D:厚みムラが15%以上
【0088】
<内部抵抗>
実施例及び比較例で得られたコイン型のリチウム二次電池について、電池作製後、24時間静置した後に、室温にて、充電レート0.1Cとした定電流法により、4.2Vまで充電を行ない、その後、−30℃環境下で、0.1Cの定電流で放電を行い、放電開始10秒後の電圧降下量(ΔV)を測定することで、内部抵抗の評価を行った。放電開始10秒後の電圧降下量の値が小さいほど、内部抵抗が小さく、高速充放電が可能であると判断できる。
A:電圧降下量が0.2V未満
B:電圧降下量が0.2V以上、0.3V未満
C:電圧降下量が0.3V以上、0.5V未満
D:電圧降下量が0.5V以上、0.7V未満
E:電圧降下量が0.7V以上
【0089】
<高温サイクル特性>
各実施例及び比較例で得られたコイン型のリチウム二次電池について、温度60℃の条件にて、充電レート0.2Cとした定電流法により、4.3Vまで充電を行なった後、放電レート0.1Cにて、3.0Vまで放電する充放電試験を50回繰り返した。そして、5回目の充放電試験における放電容量Cap5thと、50回目の充放電試験における放電容量Cap50thとの比((Cap50th/Cap5th)×100%)である50サイクル時容量維持率を求めた。そして、得られた50サイクル時容量維持率に基づき、以下の基準にて、高温サイクル特性を評価した。なお、50サイクル時容量維持率が高いほど、高温でのサイクル試験を行った際の50サイクル目における劣化が少なく、高温サイクル特性に優れると判断できるため、好ましい。
A:50サイクル時容量維持率が80%以上
B:50サイクル時容量維持率が70%以上、80%未満
C:50サイクル時容量維持率が50%以上、70%未満
D:50サイクル時容量維持率が30%以上、50%未満
E:50サイクル時容量維持率が30%未満
【0090】
<低温サイクル特性>
各実施例及び比較例で得られたコイン型のリチウム二次電池について、温度−20℃の条件にて、充電レート0.2Cとした定電流法により、4.3Vまで充電を行なった後、放電レート0.1Cにて、3.0Vまで放電する充放電試験を50回繰り返した。そして、5回目の充放電試験における放電容量Cap5thと、50回目の充放電試験における放電容量Cap50thとの比((Cap50th/Cap5th)×100%)である50サイクル時容量維持率を求めた。そして、得られた50サイクル時容量維持率に基づき、以下の基準にて、低温サイクル特性を評価した。なお、50サイクル時容量維持率が高いほど、低温でのサイクル試験を行った際の50サイクル目における劣化が少なく、低温サイクル特性に優れると判断できるため、好ましい。
A:50サイクル時容量維持率が80%以上
B:50サイクル時容量維持率が70%以上、80%未満
C:50サイクル時容量維持率が50%以上、70%未満
D:50サイクル時容量維持率が30%以上、50%未満
E:50サイクル時容量維持率が30%未満
【0091】
(製造例1:粒子状フッ素系重合体(a1)の製造)
撹拌機付きのオートクレーブの内部を十分に窒素置換した後、イオン交換水250部、及び乳化剤としてパーフルオロデカン酸アンモニウム2.5部を仕込み、350rpmで撹拌しながら60℃まで昇温した。次いで、フッ化ビニリデン44.2部、及び六フッ化プロピレン55.8部からなる混合ガスを、内圧が20kg/cmGに達するまで仕込んだ。その後、重合開始剤としてジイソプロピルパーオキシジカーボネートを20%含有するフロン113溶液2.5部を、窒素ガスを使用して圧入し、重合を開始させた。重合中はフッ化ビニリデン60.2部、及び六フッ化プロピレン39.8部からなる混合ガスを逐次圧入して、圧力を20kg/cmGに維持した。また、重合の進行とともに重合速度が低下するため、3時間経過後に、先と同量の重合開始剤を、窒素ガスを使用して圧入して、更に3時間反応を継続させた。反応液を冷却するとともに撹拌を停止し、未反応単量体を放出して反応を停止させ、粒子状フッ素系重合体(a1)の水分散液を得た。なお、得られた粒子状フッ素系重合体(a1)の平均粒径は160nmであった。また、粒子状フッ素系重合体(a1)の水分散液100グラムをメタノール1リットルで凝固し、60℃で12時間真空乾燥することで、乾燥重合体を得て、得られた乾燥重合体の組成をH−NMRで分析したところ、粒子状フッ素系重合体(a1)の組成は、フッ化ビニリデン60%、六フッ化プロピレン40%であった。
【0092】
(製造例2:粒子状フッ素系重合体(a2)の製造)
フッ化ビニリデン及び六フッ化プロピレンの混合ガスに代えて、フッ化ビニリデンのみを含有するガスを用いた以外は、製造例1と同様にして、粒子状フッ素系重合体(a2)の水分散液を得た。得られた粒子状フッ素系重合体(a2)の平均粒径は150nmであり、粒子状フッ素系重合体(a2)の組成は、フッ化ビニリデン100%であった。
【0093】
(製造例3:粒子状アクリル重合体(b1)の製造)
重合缶Aに、イオン交換水130部を加え、ここに、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.8部及びイオン交換水10部を加え80℃に加温した。また、これとは別の重合缶Bに、重合モノマーとして、アクリル酸ブチル60部、メタクリル酸メチル30部、スチレン6部、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)3部、及びメタクリル酸グリシジル1部を配合し、また、乳化剤としての末端疎水基ポリビニルアルコール(商品名「MP102」、クラレ社製、ノニオン性界面活性剤)10部、及びイオン交換水377部を加えて攪拌することで、エマルジョンを作製した。そして、重合缶B内に作製したエマルジョンを約240分かけて、重合缶Aに逐次添加した後、約30分攪拌し、モノマー消費量が95%になった時点で冷却して反応を終了することで、粒子状アクリル重合体(b1)の水分散液を得た。得られた粒子状アクリル重合体(b1)のガラス転移温度は15℃、平均粒径は120nmであり、その組成を、H−NMRで測定したところ、アクリル酸ブチル単位60%、メタクリル酸メチル単位30%、スチレン単位6%、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸単位(AMPS単位)3%、及びメタクリル酸グリシジル単位1%であった。
【0094】
(製造例4:粒子状アクリル重合体(b2)の製造)
重合モノマーとして、メタクリル酸メチルの配合量を30部から36部に変更するとともに、スチレンを配合しなかった以外は、製造例3と同様にして、粒子状アクリル重合体(b2)の水分散液を得た。得られた粒子状アクリル重合体(b2)のガラス転移温度は15℃、平均粒径は115nmであり、粒子状アクリル重合体(b2)の組成は、アクリル酸ブチル単位60%、メタクリル酸メチル単位36%、AMPS単位3%、及びメタクリル酸グリシジル単位1%であった。
【0095】
(製造例5:粒子状アクリル重合体(b3)の製造)
重合モノマーとして、アクリル酸2−エチルヘキシル77.75部、アクリロニトリル20.25部、及びアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)2部を配合した以外は、製造例3と同様にして、粒子状アクリル重合体(b3)の水分散液を得た。得られた粒子状アクリル重合体(b3)のガラス転移温度は−35℃、平均粒径は110nmであり、粒子状アクリル重合体(b3)の組成は、アクリル酸2−エチルヘキシル単位77.75%、アクリロニトリル単位20.25%、及びAMPS単位2%であった。
【0096】
(製造例6:粒子状アクリル重合体(b4)の製造)
重合モノマーとして、アクリル酸ブチル41部、アクリル酸エチル41.5部、アクリロニトリル15部、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)0.5部、及びメタクリル酸グリシジル2部を配合した以外は、製造例3と同様にして、粒子状アクリル重合体(b4)の水分散液を得た。得られた粒子状アクリル重合体(b4)のガラス転移温度は−5℃、平均粒径は110nmであり、粒子状アクリル重合体(b4)の組成は、アクリル酸ブチル単位41%、アクリル酸エチル単位41.5%、アクリロニトリル単位15%、AMPS単位0.5%、及びメタクリル酸グリシジル単位2%であった。
【0097】
(製造例7:粒子状アクリル重合体(b5)の製造)
重合モノマーとして、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)2部の代わりに、メタクリル酸2部を使用した以外は、製造例5と同様にして、粒子状アクリル重合体(b5)の水分散液を得た。得られた粒子状アクリル重合体(b5)のガラス転移温度は40℃、平均粒径は115nmであり、粒子状アクリル重合体(b5)の組成は、アクリル酸2−エチルヘキシル単位77.75%、アクリロニトリル単位20.25%、及びメタクリル酸単位2%であった。
【0098】
(実施例1)
正極用複合粒子スラリーの製造
正極活物質としてのLiNiO 100部、導電材としてのアセチレンブラック(HS−100、電気化学工業社製)2部、バインダとしての製造例1で得られた粒子状フッ素系重合体(a1)の水分散液を固形分換算で2.5部、同じくバインダとしての製造例3で得られた粒子状アクリル重合体(b1)の水分散液を固形分換算で2.5部、及び分散剤としてのエーテル化度が0.8のカルボキシメチルセルロース水溶液を固形分換算で2部を混合し、さらにイオン交換水を適量加え、プラネタリーミキサーにて混合分散して固形分濃度20%の正極用複合粒子スラリーを調製した。
【0099】
正極用複合粒子の製造
上記にて得られた正極用複合粒子スラリーを、スプレー乾燥機(大川原化工機社製)を使用し、回転円盤方式のアトマイザ(直径65mm)を用い、回転数25,000rpm、熱風温度150℃、粒子回収出口の温度90℃の条件にて、噴霧乾燥造粒を行い、正極用複合粒子を得た。得られた複合粒子の平均体積粒子径は40μmであった。
【0100】
正極の製造
上記にて得られた正極用複合粒子を、ロールプレス機(押し切り粗面熱ロール、ヒラノ技研工業社製)のロール(ロール温度100℃、プレス線圧4.0kN/cm)に、集電体としてのアルミニウム箔とともに供給し、成形速度20m/分で、集電体としてのアルミニウム箔上に、シート状に成形し、厚さ80μmの正極活物質層を有する正極を得た。
【0101】
負極用複合粒子スラリーの製造
負極活物質としての人造黒鉛(平均粒子径:24.5μm)100部、バインダとしてのスチレン−ブタジエンゴムの水分散液(商品名「BM−480B」、日本ゼオン社製)を固形分換算で2.7部、及び分散剤としてのエーテル化度が0.8のカルボキシメチルセルロース水溶液を固形分換算で0.7部を混合し、さらにイオン交換水を適量加え、プラネタリーミキサーにて混合分散して固形分濃度20%の負極用複合粒子スラリーを調製した。
【0102】
負極用複合粒子の製造
上記にて得られた負極用複合粒子スラリーを、スプレー乾燥機(大川原化工機社製)を使用し、回転円盤方式のアトマイザ(直径65mm)を用い、回転数25,000rpm、熱風温度150℃、粒子回収出口の温度90℃の条件にて、噴霧乾燥造粒を行い、正極用複合粒子を得た。得られた複合粒子の平均体積粒子径は40μmであった。
【0103】
負極の製造
上記にて得られた負極用複合粒子を、ロールプレス機(押し切り粗面熱ロール、ヒラノ技研工業社製)のロール(ロール温度100℃、プレス線圧4.0kN/cm)に、集電体としての銅箔とともに供給し、成形速度20m/分で、集電体としての銅箔上に、シート状に成形し、厚さ80μmの負極活物質層を有する負極を得た。
【0104】
リチウムイオン二次電池の製造
上記にて得られた正極を直径13mmの円盤状に、また、上記にて得られた負極を直径14mmの円盤状に、それぞれ切り抜いた。そして、13mmの円盤状の正極上に、径18mm、厚さ25μmの円盤状のポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ、14mmの円盤状の負極をこの順に積層し、これをポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.25mm)中に収納した。次いで、この容器中に電解液(溶媒:エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート=1/2(20℃での容積比)、電解質:1MのLiPF)を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約2mmのコイン型のリチウムイオン二次電池(コインセルCR2032)を製造した。
【0105】
そして、上記にて得られた正極を用いてピール強度及び成形性の評価を、リチウムイオン二次電池を用いて内部抵抗、高温サイクル特性及び低温サイクル特性の評価を、上述した方法にしたがって、それぞれ行った。
【0106】
(実施例2)
正極複合粒子を製造する際に用いる正極活物質として、LiNiOの代わりに、LiCoOを使用した以外は、実施例1と同様にして、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0107】
(実施例3)
正極複合粒子を製造する際に用いるバインダとして、製造例3で得られた粒子状アクリル重合体(b1)の水分散液の代わりに、製造例4で得られた粒子状アクリル重合体(b2)の水分散液を使用した以外は、実施例1と同様にして、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0108】
(実施例4)
正極複合粒子を製造する際に用いるバインダとして、製造例3で得られた粒子状アクリル重合体(b1)の水分散液の代わりに、製造例5で得られた粒子状アクリル重合体(b3)の水分散液を使用した以外は、実施例1と同様にして、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0109】
(実施例5)
正極複合粒子を製造する際に用いるバインダとして、製造例1で得られた粒子状フッ素系重合体(a1)の水分散液の代わりに、製造例2で得られた粒子状フッ素系重合体(a2)の水分散液を使用するとともに、製造例3で得られた粒子状アクリル重合体(b1)の水分散液の代わりに、製造例6で得られた粒子状アクリル重合体(b4)の水分散液を使用した以外は、実施例1と同様にして、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0110】
(実施例6)
正極複合粒子を製造する際に用いるバインダとして、製造例1で得られた粒子状フッ素系重合体(a1)の水分散液の代わりに、製造例2で得られた粒子状フッ素系重合体(a2)の水分散液を使用するとともに、製造例3で得られた粒子状アクリル重合体(b1)の水分散液の代わりに、製造例7で得られた粒子状アクリル重合体(b5)の水分散液を使用した以外は、実施例1と同様にして、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0111】
(実施例7)
製造例1で得られた粒子状フッ素系重合体(a1)の水分散液100部に、N−メチルピロリドン1000部を加えて、次いで減圧下で水を蒸発させることで、フッ素系重合体(a1)のN−メチルピロリドン溶液を得た。なお、フッ素系重合体(a1)は、N−メチルピロリドン溶液中において、粒子形状を有さないものとなっていた。
【0112】
また、上記とは別に、製造例3で得られた粒子状アクリル重合体(b1)の水分散液100部に、N−メチルピロリドン1000部を加えて、次いで減圧下で水を蒸発させることで、アクリル重合体(b1)のN−メチルピロリドン溶液を得た。なお、アクリル重合体(b1)も、N−メチルピロリドン溶液中において、粒子形状を有さないものとなっていた。
【0113】
そして、正極複合粒子を製造する際に、粒子状フッ素系重合体(a1)の水分散液の代わりに、上記にて得られたフッ素系重合体(a1)のN−メチルピロリドン溶液を、また、粒子状アクリル重合体(b1)の水分散液の代わりに、上記にて得られたアクリル重合体(b1)のN−メチルピロリドン溶液を、それぞれ使用した以外は、実施例1と同様にして、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0114】
(比較例1)
正極複合粒子を製造する際に用いるバインダとして、製造例3で得られた粒子状アクリル重合体(b1)の水分散液を使用せず、製造例1で得られた粒子状フッ素系重合体(a1)のみを使用した以外は、実施例1と同様にして、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0115】
(比較例2)
正極複合粒子を製造する際に用いるバインダとして、製造例1で得られた粒子状フッ素系重合体(a1)を使用せず、製造例3で得られた粒子状アクリル重合体(b1)の水分散液のみを使用した以外は、実施例1と同様にして、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0116】
【表1】

【0117】
表1に示すように、バインダとしてフッ素系重合体(a)及びアクリル重合体(b)を併用してなる正極複合粒子を用いた場合には、得られる正極はピール強度及び成形性に優れ、また、電池とした際における内部抵抗が低く、高温サイクル特性及び低温サイクル特性に優れるものであった(実施例1〜7)。
【0118】
一方、バインダとして、フッ素系重合体(a)を用いなかった場合、及び、アクリル重合体(b)を用いなかった場合のいずれにおいても、得られる正極はピール強度及び成形性に劣り、さらには、電池とした際における内部抵抗、高温サイクル特性及び低温サイクル特性に劣る結果となった(比較例1,2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質、及びバインダを含んでなり、
前記バインダが、フッ素系重合体、及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を主成分として含むアクリル重合体とを含有することを特徴とする電気化学素子電極用複合粒子。
【請求項2】
前記アクリル重合体が、水溶性官能基を有する請求項1に記載の電気化学素子電極用複合粒子。
【請求項3】
前記水溶性官能基が、カルボン酸基及びスルホン酸基から選ばれる少なくとも1つである請求項2に記載の電気化学素子電極用複合粒子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の電気化学素子電極用複合粒子を含んでなることを特徴とする電気化学素子電極材料。
【請求項5】
請求項4に記載の電気化学素子電極材料から形成される活物質層を集電体上に積層してなることを特徴とする電気化学素子電極。
【請求項6】
前記活物質層を前記集電体上に、加圧成形により積層してなることを特徴とする請求項5に記載の電気化学素子電極。
【請求項7】
前記活物質層を前記集電体上に、ロール加圧成形により積層してなることを特徴とする請求項6に記載の電気化学素子電極。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載の電気化学素子電極用複合粒子を製造する方法であって、
前記電極活物質、及び前記バインダを水に分散させてスラリーを得る工程と、前記スラリーを噴霧乾燥して造粒する工程と、を有する電気化学素子電極用複合粒子の製造方法。

【公開番号】特開2013−84351(P2013−84351A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221562(P2011−221562)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】