説明

電気化学素子

【課題】高容量を有すると共に低コストの電気化学素子を提供する。
【解決手段】正極集電体および/または負極集電体が、連通気孔を有する金属多孔体であり、連通気孔中に、活物質を含有する合剤が充填されている電気化学素子用の電極を備えた電気化学素子。金属多孔体が、アルミニウム多孔体である電気化学素子。アルミニウム多孔体が、純度99.9%以上であり、かつ、15kVの加速電圧でのEDX分析により定量した表面の酸素量が3.1質量%以下のアルミニウム多孔体である電気化学素子。電極が、下式に示される多孔度(%)が10〜30%であり、かつ厚さが1〜10mmである電気化学素子。
多孔度(%)={1−(電極材料の体積/電極の見かけの体積)}×100

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高容量を有すると共に低コストのリチウム電池(「リチウム二次電池」を含む)、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、溶融塩電池などの電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、溶融塩電池などの電気化学素子は、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータ等の携帯用小型電子機器やHEV、EV用の電源などとして広く用いられており、これらの機器の高機能化や用途の拡大に伴い、更なる容量の向上と低価格化が求められている。
【0003】
これらの電気化学素子には、一般に、金属箔上に活物質を含有する合剤層が形成されている電極が用いられている。例えば、リチウム二次電池の正極の場合、図4に示すように、アルミニウム(Al)箔製の集電体32の両面に、コバルト酸リチウム(LiCoO)粉末等の正極活物質、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のバインダー、カーボン粉末等の導電助剤を含有する正極合剤層33が形成されたリチウム二次電池用電極31が用いられている(例えば特許文献1)。
【0004】
同様に、負極には、例えば、銅(Cu)箔製の集電体の両面にカーボン(負極活物質)、バインダー、導電助剤を含有する負極合剤層が形成されたリチウム二次電池用電極が用いられている。
【0005】
そして、上記の正極および負極を、セパレーターであるポリエチレン樹脂製などの微多孔膜を介して組み合わせて、リチウム二次電池が構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−143702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のリチウム二次電池の場合、一般に、合剤に占める導電助剤およびバインダーの比率を、それぞれ5〜15wt%程度、10〜20wt%程度と大きくする必要があるため、活物質の比率を充分に大きくすることができず、容量を充分に大きくすることができない。
【0008】
そして、合剤層を厚くしてより大きな容量を得ようとしても、活物質の利用効率が低下するため、電極を充分に厚くすることができない。このため、高容量の電池を得るためには、大きな面積の電極を作製し、何重にも巻回すことが必要となり、コストが上昇する。
【0009】
このような問題は、リチウム二次電池に限られずリチウム一次電池などの他のリチウム電池、さらには、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、溶融塩電池などの電気化学素子においても同様であり、高容量を有すると共に低コストの電気化学素子を提供することが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意検討の結果、以下に記載する発明により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。以下、各請求項毎に本発明を説明する。
【0011】
請求項1に記載の発明は、
正極集電体および/または負極集電体が、連通気孔を有する金属多孔体であり、
前記連通気孔中に、活物質を含有する合剤が充填されている
電気化学素子用の電極を備えていることを特徴とする電気化学素子である。
【0012】
リチウム二次電池において、連通気孔を有する金属多孔体は、多孔体の内部にも活物質を充填することができるため、集電性に優れる。このため、合剤中の導電助剤の量を低減することができる。
【0013】
また、連通気孔に充填された合剤は、金属骨格に包み込まれるため、脱落しにくい。このため、合剤中のバインダーの量を低減することができる。
【0014】
このように、導電助剤およびバインダーの量を低減することにより、相対的に、活物質の含有比率が高くなるため、リチウム二次電池の高容量化を図ることができる。そして、導電助剤およびバインダーの低減により、安価にリチウム二次電池を提供することができる。
【0015】
また、前記したように、従来のリチウム二次電池の電極の場合、高容量の電池を得るためには、大きな面積の電極を作製し、何重にも巻回すことが必要であるため、円筒型電池として用いられていたが、このような円筒型電池を組み合わせて作製された電池パックは、体積エネルギー密度を充分に大きくすることができなかった。
【0016】
しかし、上記のように連通気孔を有する金属多孔体を集電体とする正負の電極を用いて作製された電池(セル)を組み合わせた電池パックは、従来の円筒型電池を組み合わせた電池パックに比べ、体積エネルギー密度の向上や省スペース化を図ることができる。具体的には、例えば、同じ体積の電池パックであれば体積エネルギー密度を1.5倍以上にでき、車載用電池パックとして用いた場合、電気自動車の航続距離を1.5倍以上に向上させることが可能となる。また、同じ容量の電池パックであれば体積を2/3以下に低減することができる。
【0017】
即ち、従来の円筒型電池を組み合わせる場合、放熱の問題や円筒形であることによる制約などから電池を高密度に配置することができなかった。具体的な一例として、例えば、18650タイプの円筒型電池を組み合わせた車載用電池パックの場合、正味の電池体積は電池パック全体の体積の40%程度に留まっていた。
【0018】
これに対し、本発明の電池セルは、セル自体が薄いため放熱性に優れており、さらに角型にすることができるため、高密度に配置することができる。
【0019】
本発明者の実験によれば、18650タイプの円筒型電池を用いた上記の車載用電池パックと同じ容量の電池パックを作製した場合、体積を最大で51%低減できることが確認できている。
【0020】
そして、このような電極は、リチウム二次電池のみならずリチウム一次電池などの他のリチウム電池、さらには、前記した電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、溶融塩電池などの電気化学素子の電極としても適用することができ、高容量を有すると共に低コストの電気化学素子を提供することができることを確認した。
【0021】
請求項2に記載の発明は、
前記金属多孔体が、アルミニウム多孔体であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学素子である。
【0022】
アルミニウムは、正極に用いる限りは電位的にリチウムがドープせず、耐食性、電気伝導性、加工性、軽量性などに優れ、また、コスト的にも安価な材料であるため、電気化学素子池用正極の集電体として好ましい。そして、集電体として好ましいアルミニウムが多孔体とされることにより、上記した金属多孔体としての効果と相俟って、電気化学素子用電極の集電体としてより好ましく用いることができる。
【0023】
アルミニウム多孔体は、一般に、正極集電体として用いられるが、負極がリチウム金属に対して0.6V以上の電位を有する材料である場合は負極集電体として用いることもでき、例えば、チタン酸リチウム負極活物質とした負極を作製することができる。
【0024】
請求項3に記載の発明は、
前記アルミニウム多孔体が、純度99.9%以上であり、かつ、15kVの加速電圧でのEDX分析により定量した表面の酸素量が3.1質量%以下のアルミニウム多孔体であることを特徴とする請求項2に記載の電気化学素子である。
【0025】
Al多孔体は、製造工程において、Alを酸素のある環境で加熱すると酸化が進みやすく表面に酸化皮膜ができやすい。酸化皮膜ができたAl多孔体の場合、表面積の全てを有効に活用することができないため、活物質を充分多く担持させることができず、活物質とAl多孔体との接触抵抗を低くすることができない。
【0026】
このような状況に鑑み、本発明者は、Alを酸素のある環境で加熱せずに、Al多孔体を製造する方法を開発した。これにより、表面に酸素量が少ないAl多孔体、即ち、純度が高く、表面に酸化皮膜が少ないAl多孔体を得ることができるようになった。
【0027】
具体的には、Al層が形成された連通気孔を有する発泡樹脂を、溶融塩に浸漬した状態で、Al層に負電位を印加しながらAlの融点以下の温度に加熱して前記発泡樹脂を分解することにより、純度99.9%以上で、かつ、15kVの加速電圧でのEDX分析により定量した表面の酸素量が3.1質量%以下であるAl多孔体を得ることができる。
【0028】
請求項4に記載の発明は、
前記正極集電体がアルミニウム多孔体であり、前記負極集電体が、ニッケル多孔体または銅多孔体であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電気化学素子である。
【0029】
ニッケルや銅は、導電性や耐食性に優れており、正極集電体としてアルミニウム多孔体、負極集電体としてニッケルや銅の多孔体を用いることにより、高容量の電気化学素子を提供することができる。
【0030】
請求項5に記載の発明は、
前記活物質の内、正極活物質が、以下の(1)〜(4)に示すリチウム複合酸化物のいずれかであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の電気化学素子である。
(1)LiM1M2M3
但し、M1、M2、M3は、それぞれ、互いに異なる元素であって、Al、
Ni、Mn、Co、Cr、Fe、V、Mg、Ti、Zr、Nb、Mo、W、
Cu、Zn、Ga、In、Sn、La、Ce、Yより選択され、x+y+z
=b/2である。
(2)LiM1(1−q−r)M2M3(2−y)
但し、M1、M2、M3は、それぞれ、2族〜15族から選択された元素の
うちの少なくとも1種であり、Xは、酸素(O)以外の16族元素および1
7族元素のうちの少なくとも1種であり、0≦p≦2.0、0≦q≦1.0
、0≦r≦1.0、−0.10≦y≦0.40、0≦z≦0.40である。
(3)LiPO
但し、Mは、3d遷移金属のうち少なくとも一種を含有しており、0<x≦
2.0、0.5≦y≦1.5である。
(4)LiFe1−yPO
但し、Mは、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Sn、B、Ga、Cr、V、
Ti、Mg、Ca、Srからなる群から選択された少なくとも1種の元素で
あり、0.5<x<1.5、0≦y<0.5である。
【0031】
これらの正極活物質をアルミニウム多孔体に充填した電気化学素子用正極を用いることにより、高容量の電気化学素子を提供することができる。
【0032】
請求項6に記載の発明は、
前記活物質の内、負極活物質が、
カーボン、スズ、シリコン、チタン酸リチウム(LiTi12)から選択されるいずれか1種を主体とする活物質、
または、
カーボン、スズ、シリコン、チタン酸リチウム(LiTi12)から選択される2種以上からなる複合体を主体とする活物質
であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の電気化学素子である。
【0033】
これらの負極活物質をニッケルや銅の多孔体に充填した電気化学素子用負極を用いることにより、高容量の電気化学素子を提供することができる。
【0034】
このように、上記の発明によれば、高容量を有すると共に、低コストの電気化学素子を提供することができるが、本発明者がさらに実験を行ったところ、本発明に係る電気化学素子において、活物質をより高密度に充填して多孔度を低下させた分厚い電極を用いた場合、電解液の浸透量が低減されるため、短絡が発生しても大電流が流れず、ジュール熱による発熱が抑制されることが分かった。
【0035】
具体的には、電極が分厚い上に電解液の量が少ないため、イオンの供給が遅くなり、高率放電時にはイオンの供給が間に合わず、放電が抑制される。この結果、負極における電解液の分解などが開始する温度にまで、電池温度が上昇することが抑制されて、電池を安全に管理することができる。
【0036】
即ち、上記の発明において、電極の厚さと多孔度を制御することにより、電池の温度や電圧を管理して、電池に異常な大電流が流れることを防止するために、従来のリチウム二次電池のようにヒューズなどを備えた安全装置を設ける必要がなく、安価で安全な電気化学素子を提供できることが分かった。特に、組電池などは、1セル毎に安全装置を設ける必要があったため、本発明を適用することによるコストの低下は、より顕著に発揮される。
【0037】
この知見を基に、本発明者は、上記の効果を発揮させるに好ましい電極の多孔度と厚さについて検討を行い、その結果、電極の多孔度としては10〜30%が好ましく、また、電極の厚さとしては1〜10mmが好ましく、3〜10mmであるとより好ましいことが分かった。
【0038】
なお、上記の多孔度(%)は下式により求められる。なお、下式における「電極材料の体積」とは、Al多孔体および合剤の各重量と比重から求めた体積(真の体積)を指す。
多孔度(%)={1−(電極材料の体積/電極の見かけの体積)}×100
【0039】
請求項7および請求項8に記載の発明は、以上の知見に基づく発明である。請求項7に記載の発明は、
前記電極が、下式に示される多孔度(%)が10〜30%であり、かつ厚さが1〜10mmであることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の電気化学素子である。
多孔度(%)={1−(電極材料の体積/電極の見かけの体積)}×100
【0040】
そして、請求項8に記載の発明は、
前記電極の厚さが3〜10mmであることを特徴とする請求項7に記載の電気化学素子である。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、高容量を有すると共に低コストの電気化学素子を提供することができる。また、低コストで安全性に優れる電気化学素子を提供することができる。さらに、体積エネルギー密度の向上あるいは省スペース化を図ることができる電池パックの製造に好適な電気化学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明におけるAl多孔体の製造方法の一例を説明する図である。
【図2】本発明の一実施の形態のリチウム二次電池用電極の製造の手順を説明する図である。
【図3】本発明の一実施の形態において、リチウム二次電池用電極の前駆体を切断している様子を模式的に説明する図である。
【図4】従来のリチウム二次電池用電極の形態を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る電気化学素子用電極が用いられた全固体リチウム二次電池の縦断面図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る電気化学素子用電極が用いられた電気二重層キャパシタの断面模式図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係る電気化学素子用電極が用いられたリチウムイオンキャパシタの断面模式図である。
【図8】本発明の一実施の形態に係る電気化学素子用電極が用いられた溶融塩電池の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明を実施の形態に基づき図面を参照しつつ説明する。なお、以下においては、まず、電気化学素子用電極について説明し、その後、この電気化学素子用電極を用いた電気化学素子として、リチウム電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、溶融塩電池について説明する。
【0044】
[A]電気化学素子用電極
最初に、電気化学素子用電極について、まず、Al多孔体の製造方法について説明し、その後、リチウム二次電池を例に挙げて、このAl多孔体を用いた電気化学素子について説明する。
【0045】
1.アルミニウム多孔体の製造
始めに、本発明の電気化学素子の電極に用いられるアルミニウム多孔体の製造方法について説明する。図1は、アルミニウム多孔体の製造方法の一例を説明する模式図であり、樹脂成形体を芯材としてアルミニウム構造体(多孔体)を形成する様子を模式的に示したものである。
【0046】
まず、基体樹脂成形体の準備を行う。図1(a)は、基体樹脂成形体の例として、連通気孔を有する発泡樹脂成形体の断面の一部を示す拡大模式図であり、発泡樹脂成形体1を骨格として気孔が形成されている様子を示している。次に、樹脂成形体表面の導電化を行う。この工程により、樹脂成形体1の表面には薄く導電体による導電層が形成される。続いて溶融塩中でのアルミニウムめっきを行い、導電層が形成された樹脂成形体の表面にアルミニウムめっき層2を形成する(図1(b))。これにより、基体樹脂成形体を基材として表面にアルミニウムめっき層2が形成されたアルミニウム構造体が得られる。その後、発泡樹脂成形体1を分解等して消失させることにより金属層のみが残ったアルミニウム構造体(多孔体)3を得ることができる(図1(c))。以下各工程について順を追って説明する。
【0047】
(1)多孔質樹脂成形体の準備
まず、基体樹脂成形体として、三次元網目構造を有し連通気孔を有する多孔質樹脂成形体を準備する。多孔質樹脂成形体の素材は任意の樹脂を選択できる。ポリウレタン、メラミン、ポリプロピレン、ポリエチレン等の発泡樹脂成形体が素材として例示できる。発泡樹脂成形体と表記したが、連続した気孔(連通気孔)を有するものであれば任意の形状の樹脂成形体を選択できる。例えば繊維状の樹脂を絡めて不織布のような形状を有するものも発泡樹脂成形体に代えて使用可能である。
【0048】
発泡樹脂成形体としては、気孔率40〜98%で、セル径50〜1000μmの連通気孔を持つものが好ましいが、気孔率80%〜98%、セル径は50μm〜500μmであればより好ましい。発泡ウレタン及び発泡メラミンは気孔率が高く、また気孔の連通性があるとともに熱分解性にも優れているため、多孔質樹脂成形体として好ましく使用できる。発泡ウレタンは気孔の均一性や入手の容易さ等の点で好ましく、発泡ウレタンはセル径の小さなものが得られる点で好ましい。
【0049】
多孔質樹脂成形体には発泡体製造過程での製泡剤や未反応モノマーなどの残留物があることが多く、洗浄処理を行うことが後の工程のために好ましい。例えばウレタン発泡体は樹脂成形体が骨格として三次元的に網目を構成することで、全体として連続した気孔を構成している。発泡ウレタンの骨格はその延在方向に垂直な断面において略三角形状をなしている。ここで気孔率は、次式で定義される。
気孔率[%]=(1−(多孔質材の重量[g]/(多孔質材の体積[cm]×
素材密度)))×100
【0050】
また、セル径は、樹脂成形体表面を顕微鏡写真等で拡大し、1インチ(25.4mm)あたりの気孔数をセル数として計数して、平均セル径=25.4mm/セル数として平均的な値を求める。
【0051】
(2)樹脂成形体表面の導電化
電解めっきを行うために、発泡樹脂の表面をあらかじめ導電化処理する。処理方法としては、発泡樹脂の表面に導電性を有する層を設けることができる処理である限り特に制限はなく、ニッケル等の導電性金属の無電解めっき、アルミニウム等の蒸着及びスパッタ、又はカーボン等の導電性粒子を含有した導電性塗料の塗布等任意の方法を選択できる。
【0052】
導電化処理の例として、アルミニウムのスパッタリング処理によって導電化処理する方法、及び導電性粒子としてカーボンを用いて発泡樹脂の表面を導電化処理する方法について以下述べる。
【0053】
(イ)アルミニウムのスパッタリング
アルミニウムを用いたスパッタリング処理としては、アルミニウムをターゲットとする限り限定的でなく、常法に従って行えばよい。例えば、基板ホルダーに発泡状樹脂を取り付けた後、不活性ガスを導入しながら、ホルダーとターゲット(アルミニウム)との間に直流電圧を印加することにより、イオン化した不活性ガスをアルミニウムに衝突させて、はじき飛ばされたアルミニウム粒子を発泡状樹脂表面に堆積することによってアルミニウムのスパッタ膜を形成する。なお、スパッタリング処理は発泡状樹脂が溶解しない温度下で行うことが好ましく、具体的には、100〜200℃程度、好ましくは120〜180℃程度で行えばよい。
【0054】
(ロ)カーボン塗布
導電性塗料としてのカーボン塗料を準備する。導電性塗料としての懸濁液は、好ましくは、カーボン粒子、粘結剤、分散剤および分散媒を含む。導電性粒子の塗布を均一に行うには、懸濁液が均一な懸濁状態を維持している必要がある。このため、懸濁液は、20℃〜40℃に維持されていることが好ましい。
【0055】
その理由は、懸濁液の温度が20℃未満になった場合、均一な懸濁状態が崩れ、合成樹脂成形体の網状構造をなす骨格の表面に粘結剤のみが集中して層を形成するからである。この場合、塗布されたカーボン粒子の層は剥離し易く、強固に密着した金属めっきを形成し難い。一方、懸濁液の温度が40℃を越えた場合は、分散剤の蒸発量が大きく、塗布処理時間の経過とともに懸濁液が濃縮されてカーボンの塗布量が変動しやすい。また、カーボン粒子の粒径は、0.01〜5μmで、好ましくは0.01〜0.5μmである。粒径が大きいと多孔質樹脂成形体の空孔を詰まらせたり、平滑なめっきを阻害したりする要因となり、小さすぎると十分な導電性を確保することが難しくなる。
【0056】
樹脂成形体へのカーボン粒子の塗布は、上記懸濁液に対象となる樹脂成形体を浸漬し、絞りと乾燥を行うことで可能である。実用上の製造工程の一例としては、三次元網状構造を有する長尺シート状の帯状樹脂が、サプライボビンから連続的に繰り出され、槽内の懸濁液内に浸漬される。懸濁液に浸漬された帯状樹脂は、絞りロールで絞られ、過剰な懸濁液が絞り出される。続いて、当該帯状樹脂は熱風ノズルによる熱風の噴射等により懸濁液の分散媒等が除去され、充分に乾燥された上で巻取りボビンに巻き取られる。熱風の温度は40℃から80℃の範囲であるとよい。このような装置を用いると、自動的かつ連続的に導電化処理を実施することができ、目詰まりのない網目構造を有し、且つ、均一な導電層を具備した骨格が形成されるので、次工程の金属めっきを円滑に行うことができる。
【0057】
(3)アルミニウム層の形成:溶融塩めっき
次に溶融塩中で電解めっきを行い、樹脂成形体表面にアルミニウムめっき層を形成する。溶融塩浴中でアルミニウムのめっきを行うことにより特に三次元網目構造を有する樹脂多孔体のように複雑な骨格構造の表面に均一に厚いアルミニウム層を形成することができる。表面が導電化された樹脂成形体を陰極、純度99.0%のアルミニウムを陽極として溶融塩中で直流電流を印加する。溶融塩としては、有機系ハロゲン化物とアルミニウムハロゲン化物の共晶塩である有機溶融塩、アルカリ金属のハロゲン化物とアルミニウムハロゲン化物の共晶塩である無機溶融塩を使用することができる。
【0058】
比較的低温で溶融する有機溶融塩浴を使用すると、基材である樹脂成形体を分解することなくめっきができ好ましい。有機系ハロゲン化物としてはイミダゾリウム塩、ピリジニウム塩等が使用でき、具体的には1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(EMIC)、ブチルピリジニウムクロライド(BPC)が好ましい。溶融塩中に水分や酸素が混入すると溶融塩が劣化するため、めっきは窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、かつ密閉した環境下で行うことが好ましい。
【0059】
溶融塩浴としては窒素を含有した溶融塩浴が好ましく、中でもイミダゾリウム塩浴が好ましく用いられる。溶融塩として高温で溶融する塩を使用した場合は、めっき層の成長よりも樹脂が溶融塩中に溶解や分解する方が早くなり、樹脂成形体表面にめっき層を形成することができない。イミダゾリウム塩浴は、比較的低温であっても樹脂に影響を与えず使用可能である。
【0060】
イミダゾリウム塩として、1,3位にアルキル基を持つイミダゾリウムカチオンを含む塩が好ましく用いられ、特に塩化アルミニウム+1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(AlCl+EMIC)系溶融塩が、安定性が高く分解し難いことから最も好ましく用いられる。発泡ウレタン樹脂や発泡メラミン樹脂などへのめっきが可能であり、溶融塩浴の温度は10℃から60℃、好ましくは25℃から45℃である。低温になる程めっき可能な電流密度範囲が狭くなり、多孔体表面全体へのめっきが難しくなる。60℃以上の高温では基材樹脂の形状が損なわれる不具合が生じやすい。
【0061】
金属表面への溶融塩アルミニウムめっきにおいて、めっき表面の平滑性向上の目的でAlCl−EMICにキシレン、ベンゼン、トルエン、1,10−フェナントロリンなどの添加剤を加えることが報告されている。本発明者らは特に三次元網目構造を備えた樹脂多孔体上にアルミニウムめっきを施す場合に、1,10−フェナントロリンの添加によりアルミニウム構造体の形成に特有の効果が得られることを見出した。すなわち、多孔体を形成するアルミニウム骨格が折れにくいという第1の特徴と、多孔体の表面部と内部とのめっき厚さの差が小さい均一なめっきが可能であるという第2の特徴が得られるのである。
【0062】
以上の、折れにくい、めっき厚が内外で均一という2つの特徴により、完成したアルミニウム多孔体をプレスする場合などに、骨格全体が折れにくく均等にプレスされた多孔体を得ることができる。アルミニウム多孔体を電池等の電極材料として用いる場合に、電極に電極活物質を充填してプレスにより密度を上げることが行われ、活物質の充填工程やプレス時に骨格が折れやすいため、このような用途では極めて有効である。
【0063】
上記のことから、溶融塩浴に有機溶媒を添加することが好ましく、特に1,10−フェナントロリンが好ましく用いられる。めっき浴への添加量は、0.25〜7g/Lが好ましい。0.25g/L以下では平滑性に乏しいめっきで脆く、また表層と内部の厚み差を小さくする効果が得られ難い。また7g/L以上ではめっき効率が低下し所定のめっき厚を得ることが困難になる。
【0064】
一方、樹脂が溶解等しない範囲で溶融塩として無機塩浴を用いることもできる。無機塩浴とは、代表的にはAlCl−XCl(X:アルカリ金属)の2成分系あるいは多成分系の塩である。このような無機塩浴はイミダゾリウム塩浴のような有機塩浴に比べて一般に溶融温度は高いが、水分や酸素など環境条件の制約が少なく、全体に低コストでの実用化が可能である。樹脂が発泡メラミン樹脂である場合は、発泡ウレタン樹脂に比べて高温での使用が可能であり、60℃〜150℃での無機塩浴が用いられる。
【0065】
以上の工程により骨格の芯として樹脂成形体を有するアルミニウム構造体が得られる。なお、上記では、溶融塩めっきによりアルミニウム層を形成しているが、蒸着、スパッタ、プラズマCVD等の気相法、アルミニウムペーストの塗布等任意の方法で行うことができる。
【0066】
各種フィルターや触媒担体などの用途によっては、このまま樹脂と金属の複合体として使用しても良いが、使用環境の制約などから、樹脂が無い金属多孔体として用いる場合には樹脂を除去する。本発明においては、アルミニウムの酸化が起こらないように、以下に説明する溶融塩中での分解により樹脂を除去する。
【0067】
(4)樹脂の除去:溶融塩による処理
溶融塩中での分解は以下の方法で行う。表面にアルミニウムめっき層を形成した樹脂成形体を溶融塩に浸漬し、アルミニウム層に負電位(アルミニウムの標準電極電位より卑な電位)を印加しながら加熱して発泡樹脂成形体を除去する。溶融塩に浸漬した状態で負電位を印加すると、アルミニウムを酸化させることなく発泡樹脂成形体を分解することができる。
【0068】
加熱温度は発泡樹脂成形体の種類に合わせて適宜選択できる。樹脂成形体がウレタンである場合には分解は約380℃で起こるため溶融塩浴の温度は380℃以上にする必要があるが、アルミニウムを溶融させないためにはアルミニウムの融点(660℃)以下の温度で処理する必要がある。好ましい温度範囲は500℃以上600℃以下である。
【0069】
また印加する負電位の量は、アルミニウムの還元電位よりマイナス側で、かつ溶融塩中のカチオンの還元電位よりプラス側とする。このような方法によって、連通気孔を有し、表面の酸化層が薄く、3.1質量%以下という少ない酸素量のアルミニウム多孔体を得ることができる。
【0070】
樹脂の分解に使用する溶融塩としては、アルミニウム層の電極電位が卑となるように、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化物の塩を使用することができる。具体的には、塩化リチウム(LiCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化アルミニウム(AlCl)からなる群より選択される1種以上を含むと好ましく、上記の2種以上を混合して融点を下げた共晶溶融塩がより好ましい。このような方法によって、連通気孔を有し、表面の酸化層が薄く、3.1質量%以下という少ない酸素量のアルミニウム多孔体を得ることができる。
【0071】
アルミニウム多孔体としては、気孔率が40〜98%であり、セル径が50〜1000μmのアルミニウム多孔体が好ましく用いられる。より好ましくは気孔率が80〜98%であり、セル径が350〜900μmである。
【0072】
2.スラリーの作製
次に、リチウム二次電池の正極の場合を例にとり、スラリーの作製方法について説明する。LiCoO等の活物質粉末、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のバインダー、さらに、アセチレンブラック等の導電助剤を所定の比率で混合し、得られた混合物(合剤)に溶媒として所定量のNMP(N−メチル−2−ピロリドン)を添加後、混練することによりスラリーが作製される。なお、これらの材料の配合比率は、電極の容量、導電性、スラリーの粘度、およびスラリーを充填して乾燥した後の電極の多孔度等を考慮して適宜決定される。
【0073】
3.リチウム二次電池用電極の作製
次に、電気化学素子用電極の作製について、リチウム二次電池用電極の作製を例に挙げて説明する。図2は、本実施の形態のリチウム二次電池用電極の製造の手順を説明する図である。
【0074】
(1)集電体(支持体)の作製
まず、前記の製造方法に基づいて製造されたAl多孔体3を巻き出し、調厚用のロールを通してAl多孔体3の厚さを所定の厚さに調厚する。次に、リード4を巻き出し、調厚されたAl多孔体3にリード4を溶接して集電体を作製する。
【0075】
(2)リチウム二次電池用電極の作製
次に、前記の作製方法に基づいて作製されたスラリーを、ロールを用いて集電体の連通気孔中に充填し、その後、乾燥炉を通すことにより、スラリー中に含まれるNMPを蒸発、除去する。
【0076】
次に、必要に応じて、ロールを通して圧縮することにより、NMPの蒸発により生じた空隙を小さくすると共に、合剤の充填密度を調整して、所定の多孔度を有する前駆体11を作製する。
【0077】
次に、この前駆体11を切断(スリット)して、長尺のリチウム二次電池用電極21を作製し、巻き取る。
【0078】
図3は、本実施の形態において、リチウム二次電池用電極の前駆体を切断している様子を模式的に説明する図であり、(a)、(b)は切断前の平面図および断面図であり、(c)、(d)は切断後の平面図および断面図である。図3において、12、22は、電極本体部分(合剤充填部)である。図3に示すように、前駆体は、幅中央およびリード4の中央で切断されて、リチウム二次電池用電極21が作製される。
【0079】
得られたリチウム二次電池用電極は、所定の長さに裁断されて、リチウム二次電池の正極として使用される。
【0080】
4.リチウム二次電池の作製
上記で作製された正極と、別途準備された負極、具体的には、カーボン、スズ、シリコン、チタン酸リチウムあるいは、これらの複合体を主体とする活物質を用いた合剤をニッケル多孔体に充填して作製された負極、チタン酸リチウムを活物質に用いた合剤をニッケル多孔体あるいはアルミニウム多孔体に充填して作製された負極、リチウム金属箔などとを組み合わせて、リチウム二次電池を作製する。
【0081】
このとき、セパレーターとして、従来より用いられていた、例えば、セルガード(登録商標)などのポリエチレン(PE)製の微多孔膜や、ガラス繊維からなるガラスフィルターなどに替えて、ポリエチレンやポリプロピレン系の繊維や、セルロース系の繊維からなる安価な不織布を用いてもよい。安価な不織布を用いることにより、さらなるコストの低減を図ることができるため好ましい。
【0082】
以上、リチウム二次電池について説明したが、リチウム一次電池などの他のリチウム電池、さらには、その他の電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、溶融塩電池についても同様に製造することができる。
【0083】
[B]電気化学素子
次に、上記のように作製された電気化学素子用電極が用いられた電気化学素子につき、リチウム電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、ナトリウム電池に分けて具体的に説明する。
【0084】
1.リチウム電池
初めに、Al多孔体を用いて上記のように作製されたリチウム電池用正極の特徴について説明し、その後、リチウム二次電池の構成について説明する。
【0085】
(1)Al多孔体を用いて作製されたリチウム電池用正極の特徴
従来のリチウム二次電池用正極としては、Al箔(集電体)の表面に活物質を塗布した電極が用いられている。リチウム二次電池は、ニッケル水素電池やキャパシタに比べれば高容量であるが、自動車用途などでは更なる高容量化が求められており、単位面積当たりの電池容量を向上させるために、活物質の塗布厚みを厚くしている。また、活物質を有効に利用するためには、集電体であるアルミニウム箔と活物質とが電気的に接触している必要があるため、活物質は導電助剤と混合して用いられている。
【0086】
これに対し、本発明においては、Al多孔体を集電体として、導電助剤やバインダーと混合された活物質が充填された電極が用いられている。このAl多孔体は、気孔率が高く単位面積当たりの表面積が大きい。この結果、集電体と活物質の接触面積が大きくなるため、活物質を有効に利用でき、電池の容量を向上できるとともに、導電助剤の混合量を少なくすることができる。
【0087】
このように、Al多孔体を集電体に用いたリチウム二次電池は、小さい電極面積でも容量を向上できるため、従来のAl箔を用いたリチウム二次電池よりも電池のエネルギー密度を高くすることができる。
【0088】
また、上記では主に二次電池についての効果を説明したが、一次電池についてもAl多孔体に活物質を充填したときに接触面積が大きくなる効果は二次電池の場合と同じであり、容量の向上が可能である。
【0089】
(2)リチウム二次電池の構成
リチウム二次電池には、電解質として固体電解質を用いる場合と、非水電解液を用いる場合とがある。図5は、本発明の一実施の形態に係る電気化学素子(リチウム二次電池)用電極が用いられた全固体リチウム二次電池(電解質として固体電解質を使用)の縦断面図である。この全固体リチウム二次電池60は、正極61、負極62、および、両電極間に配置される固体電解質層(SE層)63を備えている。そして、正極61は、正極層(正極体)64と正極集電体65とからなり、負極62は、負極層66と負極集電体67とからなる。
【0090】
なお、電解質としては、前記したように、非水電解液が用いられる場合もあり、この場合、両極間には、セパレーター(多孔質ポリマーフィルムや不織布、紙等)が配置され、非水電解液は両極およびセパレーター中に含浸される。
【0091】
以下、リチウム二次電池を構成する正極、負極、電解質の順に説明する。
【0092】
(イ)正極
Al多孔体をリチウム二次電池の正極集電体として使用する場合は、正極活物質として、リチウムを脱挿入できる材料を使用することができ、このような材料をAl多孔体に充填することにより、リチウム二次電池に適した電極を得ることができる。
【0093】
(a)正極活物質
このような正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、ニッケルコバルト酸リチウム(LiCo0.3Ni0.7)、マンガン酸リチウム(LiMn)、チタン酸リチウム(LiTi12)、リチウムマンガン酸化合物(LiMMn2−y;M=Cr、Co、Ni)、リチウム酸等が使用できる。これらの活物質は導電助剤及びバインダーと組み合わせて使用する。
【0094】
また、従来のリチウムリン酸鉄及びその化合物(LiFePO、LiFe0.5Mn0.5PO)であるオリビン化合物などの遷移金属酸化物を用いることもできる。そして、これらの材料の中に含まれる遷移金属元素を、別の遷移金属元素に一部置換してもよい。
【0095】
さらに、他の正極活物質の材料としては、例えば、TiS、V、FeS、FeS、LiMS(MはMo、Ti、Cu、Ni、Feなどの遷移金属元素、又はSb、Sn、Pb)などの硫化物系カルコゲン化物、TiO、Cr、V、MnOなどの金属酸化物を骨格としたリチウム金属を用いることもできる。なお、上記したチタン酸リチウム(LiTi12)は、負極活物質として使用することも可能である。
【0096】
(b)固体電解質
上記正極活物質の他に、必要に応じて、さらに、固体電解質を加えてAl多孔体に充填してもよい。Al多孔体に正極活物質と固体電解質とを充填することにより、リチウム二次電池用正極としてより適した電極を得ることができる。ただし、Al多孔体に充填する材料の内、活物質の割合は、放電容量を確保する観点から、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であるとより好ましい。
【0097】
上記固体電解質には、リチウムイオン伝導度の高い硫化物系固体電解質を使用することが好ましく、このような硫化物系固体電解質としては、リチウム、リン、及び硫黄を含む硫化物系固体電解質が挙げられる。そして、これらの硫化物系固体電解質は、さらに、O、Al、B、Si、Geなどの元素を含有していてもよい。
【0098】
このような硫化物系固体電解質は、公知の方法により得ることができる。例えば、出発原料として硫化リチウム(LiS)及び五硫化二リン(P)を用意し、LiSとPとをモル比で50:50〜80:20程度の割合で混合し、これを溶融して急冷する方法(溶融急冷法)や、これをメカニカルミリングする方法(メカニカルミリング法)により得ることができる。
【0099】
上記方法により得られる硫化物系固体電解質は、非晶質である。この非晶質の状態のまま利用することもできるが、これを加熱処理して結晶性の硫化物系固体電解質としてもよい。結晶化することで、リチウムイオン伝導度の向上が期待できる。
【0100】
(c)導電助剤およびバインダー
上記活物質の合剤(活物質と固体電解質)をAl多孔体に充填するに際しては、必要に応じて導電助剤やバインダーを加え、これに有機溶剤や水を混合して正極合剤スラリーを作製する。
【0101】
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック(AB)やケッチェンブラック(KB)といったカーボンブラックや、カーボンナノチューブ(CNT)などの炭素繊維を用いることができる。
【0102】
また、バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガムなどを用いることができる。
【0103】
(d)溶媒
正極合剤スラリーを作製する際に用いられる溶媒としては、上記したように、有機溶剤や水を用いることができる。
【0104】
有機溶剤としては、Al多孔体に充填する材料(即ち、活物質、導電助剤、バインダー、および必要に応じて固体電解質)に対して悪影響を及ぼさないものであれば、適宜選択することができる。
【0105】
このような有機溶剤としては、例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、エチレングリコール、N−メチル−2−ピロリドンなどを用いることができる。
【0106】
また、溶媒に水を用いる場合には、充填性を高めるために界面活性剤を使用してもよい。
【0107】
(e)スラリーの充填
作製された正極合剤スラリーの充填方法としては、浸漬充填法や塗工法などの公知の方法を用いることができる。塗工法としては、例えば、ロール塗工法、アプリケーター塗工法、静電塗工法、粉体塗工法、スプレー塗工法、スプレーコーター塗工法、バーコーター塗工法、ロールコーター塗工法、ディップコーター塗工法、ドクターブレード塗工法、ワイヤーバー塗工法、ナイフコーター塗工法、ブレード塗工法、及びスクリーン印刷法などが挙げられる。
【0108】
(ロ)負極
負極には、銅やニッケルの箔やパンチングメタル、多孔体などが集電体として用いられ、黒鉛、チタン酸リチウム(LiTi12)、SnやSi等の合金系、あるいはリチウム金属等の負極活物質が使用される。負極活物質も、導電助剤及びバインダーと組み合わせて使用する。
【0109】
(ハ)電解質
前記したように、リチウム二次電池には、電解質として固体電解質を用いる場合と、非水電解液を用いる場合とがある。
【0110】
固体電解質としては、前記した各固体電解質が用いられる。
【0111】
非水電解液としては、支持塩を極性非プロトン性有機溶媒に溶かしたものが用いられる。このような極性非プロトン性有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン及びスルホラン等が使用される。支持塩としては、4フッ化ホウ酸リチウム、6フッ化リン酸リチウム、およびイミド塩等が使用されている。電解質となる支持塩の濃度は高い方が好ましいが、溶解に限度があるため1mol/L付近のものが一般に用いられる。
【0112】
2.電気二重層キャパシタ
図6は、本発明の一実施の形態に係る電気化学素子(電気二重層キャパシタ)用電極が用いられた電気二重層キャパシタの一例を示す断面模式図である。セパレーター142で仕切られた有機電解液143中に、Al多孔体に電極活物質(活性炭)を担持した電極材料が分極性電極141として配置されている。分極性電極141はリード線144に接続されており、これら全体がケース145中に収納されている。
【0113】
Al多孔体を集電体として使用することにより、集電体の表面積が大きくなり、活物質としての活性炭との接触面積が大きくなるため、高出力、高容量化が可能な電気二重層キャパシタを得ることができる。
【0114】
(1)電極の作製
電気二重層キャパシタ用電極を製造するには、Al多孔体の集電体に活物質として活性炭を充填する。活性炭は、導電助剤やバインダー、及び必要に応じて固体電解質を添加して使用する。
【0115】
(イ)活物質(活性炭)
電気二重層キャパシタの容量を大きくするためには主成分である活性炭の量が多い方がよく、乾燥後(溶媒除去後)の組成比で活性炭が90%以上であることが好ましい。また、導電助剤やバインダーは、必要ではあるが容量低下の要因であり、バインダーは更に内部抵抗を増大させる要因となるため、できる限り少ない方がよい。導電助剤は10質量%以下、バインダーは10質量%以下であることが好ましい。
【0116】
活性炭は、表面積が大きい方が電気二重層キャパシタの容量が大きくなるため、比表面積が1000m/g以上であることが好ましい。活性炭は植物由来のヤシ殻などや石油系の材料などを用いることができる。活性炭の表面積を向上させるため、水蒸気やアルカリを用いて賦活処理しておくことが好ましい。
【0117】
(ロ)その他の添加剤
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック(AB)やケッチェンブラック(KB)といったカーボンブラックや、カーボンナノチューブ(CNT)などの炭素繊維を用いることができる。
【0118】
また、バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガムなどを用いることができる。
【0119】
上記の活物質およびその他の添加剤からなる合剤に、有機溶剤や水を溶媒として混合することにより活性炭ペーストのスラリーが作製される。
【0120】
有機溶剤としては、Al多孔体に充填する材料(活物質、導電助剤、バインダー、及び必要に応じて固体電解質)に対して悪影響を及ぼさないものであれば、適宜選択することができる。
【0121】
このような有機溶剤としては、例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、エチレングリコール、N−メチル−2−ピロリドンなどを用いることができる。
【0122】
また、溶媒に水を用いる場合には、充填性を高めるために界面活性剤を使用してもよい。
【0123】
(ハ)スラリーの充填
作製された活性炭ペースト(スラリー)を上記Al多孔体の集電体に充填して乾燥させ、必要に応じてローラープレス等により圧縮することにより密度を向上させ、電気二重層キャパシタ用電極が得られる。
【0124】
活性炭ペーストの充填方法としては、浸漬充填法や塗工法などの公知の方法を用いることができる。塗工法としては、例えば、ロール塗工法、アプリケーター塗工法、静電塗工法、粉体塗工法、スプレー塗工法、スプレーコーター塗工法、バーコーター塗工法、ロールコーター塗工法、ディップコーター塗工法、ドクターブレード塗工法、ワイヤーバー塗工法、ナイフコーター塗工法、ブレード塗工法、及びスクリーン印刷法などが挙げられる。
【0125】
(2)電気二重層キャパシタの作製
上記のようにして得られた電極を適当な大きさに打ち抜いて2枚用意し、セパレーターを挟んで対向させる。セパレーターはセルロースやポリオレフィン樹脂などで構成された多孔膜や不織布を用いることが好ましい。そして、必要なスペーサを用いてセルケースに収納し、電解液を含浸させる。最後に絶縁ガスケットを介してケースに蓋をして封口することにより電気二重層キャパシタを作製することができる。
【0126】
非水系の材料を使用する場合は、電気二重層キャパシタ内の水分を限りなく少なくするため、電極などの材料を十分に乾燥させることが好ましい。そして、電気二重層キャパシタの作製は水分の少ない環境下で行い、封止は減圧環境下で行ってもよい。
【0127】
なお、上記した電気二重層キャパシタは一実施の形態であり、本発明の集電体、電極を用いている限り、電気二重層キャパシタとしては限定されず、上記以外の方法により作製されていてもよい。
【0128】
電解液としては、水系・非水系ともに使用できるが、非水系の方が電圧を高く設定することができるため好ましい。
【0129】
水系の電解質としては、例えば、水酸化カリウムなどが使用できる。
【0130】
非水系の電解質としては、イオン液体があり、カチオンやアニオンとの組み合わせで多数ある。カチオンとしては、低級脂肪族4級アンモニウム、低級脂肪族4級ホスホニウム及びイミダゾリニウム等が使用され、アニオンとしては、金属塩化物イオン、金属フッ化物イオン、及びビス(フルオロスルフォニル)イミド等のイミド化合物等が知られている。
【0131】
また、極性非プロトン性有機溶媒があり、具体的には、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン及びスルホラン等が使用される。非水電解液中の支持塩としては4フッ化ホウ酸リチウム及び6フッ化リン酸リチウム等が使用される。
【0132】
3.リチウムイオンキャパシタ
図7は、本発明の一実施の形態に係る電気化学素子(リチウムイオンキャパシタ)用電極が用いられたリチウムイオンキャパシタの一例を示す断面模式図である。セパレーター142で仕切られた有機電解液143中に、Al多孔体に正極活物質を担持した電極材料が正極146として配置され、集電体に負極活物質を担持した電極材料が負極147として配置されている。正極146および負極147はリード線144に接続されており、これら全体がケース145中に収納されている。
【0133】
Al多孔体を正極集電体として使用することにより、集電体の表面積が大きくなり、活物質としての活性炭を薄く塗布しても、高出力、高容量化が可能なリチウムイオンキャパシタを得ることができる。
【0134】
(1)正極の作製
リチウムイオンキャパシタ用電極(正極)を製造するには、Al多孔体の集電体に活物質として活性炭を充填する。活性炭は、導電助剤やバインダー、及び必要に応じて固体電解質を添加して使用する。
【0135】
(イ)活物質(活性炭)
リチウムイオンキャパシタの容量を大きくするためには主成分である活性炭の量が多い方がよく、乾燥後(溶媒除去後)の組成比で活性炭が90%以上であることが好ましい。また、導電助剤やバインダーは、必要ではあるが容量低下の要因であり、バインダーは更に内部抵抗を増大させる要因となるため、できる限り少ない方がよい。導電助剤は10質量%以下、バインダーは10質量%以下であることが好ましい。
【0136】
活性炭は、表面積が大きい方がリチウムイオンキャパシタの容量が大きくなるため、比表面積が1000m/g以上であることが好ましい。活性炭は植物由来のヤシ殻などや石油系の材料などを用いることができる。活性炭の表面積を向上させるため、水蒸気やアルカリを用いて賦活処理しておくことが好ましい。
【0137】
(ロ)その他の添加剤
【0138】
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック(AB)やケッチェンブラック(KB)といったカーボンブラックや、カーボンナノチューブ(CNT)などの炭素繊維やこれらの複合材料を用いることができる。
【0139】
また、バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガムなどを用いることができる。
【0140】
上記の活物質およびその他の添加剤からなる合剤に、有機溶剤や水を溶媒として混合することにより活性炭ペーストのスラリーが作製される。
【0141】
有機溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンが使用される場合が多い。また、溶媒に水を用いる場合には、充填性を高めるために界面活性剤を使用してもよい。
【0142】
有機溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンの他に、Al多孔体に充填する材料(活物質、導電助剤、バインダー、及び必要に応じて固体電解質)に対して悪影響を及ぼさない有機溶剤であれば、適宜選択することができる。
【0143】
このような有機溶剤としては、例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、エチレングリコールなどが挙げられる。
【0144】
(ハ)スラリーの充填
作製された活性炭ペースト(スラリー)を上記Al多孔体の集電体に充填して乾燥させ、必要に応じてローラープレス等により圧縮することにより密度を向上させ、リチウムイオンキャパシタ用電極が得られる。
【0145】
活性炭ペーストの充填方法としては、浸漬充填法や塗工法などの公知の方法を用いることができる。塗工法としては、例えば、ロール塗工法、アプリケーター塗工法、静電塗工法、粉体塗工法、スプレー塗工法、スプレーコーター塗工法、バーコーター塗工法、ロールコーター塗工法、ディップコーター塗工法、ドクターブレード塗工法、ワイヤーバー塗工法、ナイフコーター塗工法、ブレード塗工法、及びスクリーン印刷法などが挙げられる。
【0146】
(2)負極の作製
負極は特に限定されず、従来のリチウム二次電池用負極を使用可能であるが、銅箔を集電体に用いた従来の電極では容量が小さいため、前述の発泡状ニッケルのような銅やニッケル製の多孔体に活物質を充填した電極が好ましい。
【0147】
また、リチウムイオンキャパシタとして動作させるために、あらかじめ負極にリチウムイオンをドープしておくことが好ましい。
【0148】
ドープ方法としては公知の方法を用いることができる。例えば、負極表面にリチウム金属箔を貼り付けて電解液中に浸してドープする方法や、リチウムイオンキャパシタ内にリチウム金属を取り付けた電極を配置し、セルを組み立ててから負極とリチウム金属電極の間で電流を流して電気的にドープする方法、あるいは負極とリチウム金属で電気化学セルを組み立て、電気的にリチウムをドープした負極を取り出して使用する方法などが挙げられる。
【0149】
いずれの方法でも、負極の電位を十分に下げるためにリチウムドープ量は多いほうがよいが、負極の残容量が正極容量より小さくなるとリチウムイオンキャパシタの容量が小さくなるため、正極容量分はドープせずに残しておくことが好ましい。
【0150】
(3)電解液
電解液は、リチウム二次電池に使用する非水電解液と同じものが用いられる。非水電解液としては、支持塩を極性非プロトン性有機溶媒の溶かしたものが用いられる。このような極性非プロトン性有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン及びスルホラン等が使用される。支持塩としては4フッ化ホウ酸リチウム、6フッ化リン酸リチウム、およびイミド塩等が使用されている。
【0151】
(4)リチウムイオンキャパシタの作製
上記にようにして得られた電極を適当な大きさに打ち抜きし、セパレーターを挟んで負極と対向させる。負極は、予めリチウムイオンをドープしたものを用いても構わないし、セルを組み立て後にドープする方法をとる場合は、リチウム金属を接続した電極をセル内に配置すればよい。
【0152】
セパレーターはセルロースやポリオレフィン樹脂などで構成された多孔膜や不織布を用いることが好ましい。そして、必要なスペーサを用いてセルケースに収納し、電解液を含浸させる。最後に絶縁ガスケットを介してケースに蓋をして封口することによりリチウムイオンキャパシタを作製することができる。
【0153】
リチウムイオンキャパシタ内の水分を限りなく少なくするため、電極などの材料は十分乾燥することが好ましい。また、リチウムイオンキャパシタの作製は水分の少ない環境下で行い、封止は減圧環境下で行ってもよい。
【0154】
なお、上記したリチウムイオンキャパシタは一実施の形態であり、本発明の集電体、電極を用いている限り、リチウムキャパシタとしては限定されず、上記以外の方法により作製されていてもよい。
【0155】
4.溶融塩電池
Al多孔体は、溶融塩電池用の電極材料として使用することもできる。Al多孔体を正極材料として使用する場合は、活物質として亜クロム酸ナトリウム(NaCrO)、二硫化チタン(TiS)等、電解質となる溶融塩のカチオンをインターカレーションすることができる金属化合物を使用する。活物質は、導電助剤及びバインダーを添加して使用する。
【0156】
導電助剤としてはアセチレンブラック等が使用できる。また、バインダーとしてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を使用できる。活物質としてクロム酸ナトリウムを使用し、導電助剤としてアセチレンブラックを使用する場合には、PTFEはこの両者をより強固に固着することができ好ましい。
【0157】
そして、Al多孔体は、溶融塩電池用の負極材料として用いることもできる。Al多孔体を負極材料として使用する場合は、活物質としてナトリウム単体やナトリウムと他の金属との合金、カーボン等を使用できる。ナトリウムの融点は約98℃であり、また温度が上がるにつれて金属が軟化するため、ナトリウムと他の金属(Si、Sn、In等)とを合金化することが好ましく、この内でも、ナトリウムとSnとを合金化したものは扱いやすいため特に好ましい。
【0158】
ナトリウム又はナトリウム合金は、Al多孔体の表面に電解メッキ、溶融メッキ等の方法で担持させることができる。また、Al多孔体にナトリウムと合金化させる金属(Si等)をメッキ等の方法で付着させた後、溶融塩電池中で充電することでナトリウム合金とすることもできる。
【0159】
図8は、本発明の一実施の形態に係る電気化学素子(溶融塩電池)用電極が用いられた溶融塩電池の一例を示す断面模式図である。Al多孔体のAl骨格部の表面に正極用活物質を担持した正極121と、Al多孔体のAl骨格部の表面に負極用活物質を担持した負極122と、電解質である溶融塩を含浸させたセパレーター123とをケース127内に収納したものである。
【0160】
ケース127の上面と負極122との間には、押え板124と押え板124を押圧するバネ125とからなる押圧部材126が配置されている。押圧部材126を設けることで、正極121、負極122、セパレーター123の体積変化があった場合でも均等押圧してそれぞれの部材を接触させることができる。正極121の集電体(Al多孔体)、負極122の集電体(Al多孔体)はそれぞれ、正極端子128、負極端子129に、リード線130で接続されている。
【0161】
電解質としての溶融塩としては、動作温度で溶融する各種の無機塩又は有機塩を使用することができる。溶融塩のカチオンとしては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)及びセシウム(Cs)等のアルカリ金属、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)等のアルカリ土類金属から選択した1種以上を用いることができる。
【0162】
溶融塩の融点を低下させるために、2種以上の塩を混合して使用することが好ましい。例えば、カリウムビス(フルオロスルフォニル)アミド[K−N(SOF);KFSA]とナトリウムビス(フルオロスルフォニル)アミド[Na−N(SOF);NaFSA]とを組み合わせて使用すると、電池の動作温度を90℃以下とすることができる。
【0163】
溶融塩はセパレーターに含浸させて使用する。セパレーターは正極と負極とが接触することを防ぐために設けられるものであり、ガラス不織布や、多孔質樹脂多孔体等を使用できる。上記の正極、負極、溶融塩を含浸させたセパレーターを積層してケース内に収納し、溶融塩電池として使用する。
【実施例】
【0164】
次に、実施例としてリチウム二次電池を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0165】
[1]リチウム二次電池
1.リチウム二次電池用電極の作製
(1)スラリーの準備
活物質としてLiCoO粉末、導電助剤としてアセチレンブラック、バインダーとしてPVDFを、表1の実施例1〜10に示す重量比で混合し、溶媒としてNMPを添加して混合し、スラリーとした。
【0166】
(2)アルミニウム多孔体の準備
発泡樹脂成形体として、厚み1.0mm、気孔率95%、1インチ当たりの気孔数(セル数)約50個のウレタン発泡体を準備し、100mm×30mm角に切断し、実施の形態に記載した方法を用いてアルミニウム多孔体を作製した。具体的には、以下の通りである。
【0167】
(導電層の形成)
ウレタン発泡体をカーボン懸濁液に浸漬し乾燥することで、表面全体にカーボン粒子が付着した導電層を形成した。懸濁液の成分は、黒鉛+カーボンブラック25%を含み、樹脂バインダー、浸透剤、消泡剤を含む。カーボンブラックの粒径は0.5μmとした。
【0168】
(溶融塩めっき)
表面に導電層を形成したウレタン発泡体をワークとして、給電機能を有する治具にセットした後、アルゴン雰囲気かつ低水分(露点−30℃以下)としたグローブボックス内に入れ、温度40℃の溶融塩アルミめっき浴(33mol%EMIC−67mol%AlCl)に浸漬した。ワークをセットした治具を整流器の陰極側に接続し、対極のAl板(純度99.99%)を陽極側に接続した。電流密度3.6A/dmの直流電流を90分間印加してめっきすることにより、ウレタン発泡体表面に150g/mの重量のAlめっき層が形成されたAl構造体を得た。攪拌はテフロン(登録商標)製の回転子を用いてスターラーにて行った。ここで、電流密度はウレタン発泡体の見かけの面積で計算した値である。
【0169】
得られたAl多孔体の骨格部分をサンプル抽出し、骨格の延在方向に直角な断面で切断して観察した。断面は略三角形状をなしており、これは芯材としたウレタン発泡体の構造を反映したものである。
【0170】
(ウレタンの分解除去)
前記アルミニウム構造体を温度500℃のLiCl−KCl共晶溶融塩に浸漬し、−1Vの負電位を30分間印加した。溶融塩中にポリウレタンの分解反応による気泡が発生した。その後大気中で室温まで冷却した後、水洗して溶融塩を除去し、樹脂が除去されたアルミニウム多孔体を得た。このアルミニウム多孔体は連通気孔を有し、気孔率が芯材としたウレタン発泡体と同様に高いものであった。
【0171】
得られたアルミニウム多孔体を王水に溶解し、ICP(誘導結合プラズマ)発光分析装置で測定したところ、Al純度は98.5質量%であった。またカーボン含有量をJIS−G1211の高周波誘導加熱炉燃焼−赤外線吸収法で測定したところ、1.4質量%であった。さらに表面を15kVの加速電圧でEDX分析した結果、酸素のピークはほとんど観測されず、アルミニウム多孔体の酸素量はEDXの検出限界(3.1質量%)以下であることが確認された。
【0172】
(3)リチウム二次電池用電極の作製
前記Al多孔体にリードを取り付けた後、前記の各スラリーを充填した。乾燥炉を通してNMPを除去した後、プレスして、表1に示す厚さのリチウム二次電池用電極を作製した。各リチウム二次電池用電極について、充填容量および多孔度を測定した結果を、表1に併せて示す。
【0173】
(比較例1、2)
一方、表1の比較例1、2に示す重量比の合剤をNMPを用いてスラリー化し、厚さ20μmのAl箔の表面に塗布し、乾燥炉を通してNMPを除去した後、プレスして、表1に示す厚さのリチウム二次電池用電極を作製した。各リチウム二次電池用電極について、充填容量および多孔度を測定した結果を、表1に併せて示す。
【0174】
2.リチウム二次電池の作製と性能評価
(a)リチウム二次電池の作製
前記実施例および比較例で作製したリチウム二次電池用電極を正極とし、対極(負極)にリチウム(Li)金属箔、セパレーターにガラス繊維フィルター、電解液に濃度1mol/LのLiPFEC/DEC溶液を用いて、実施例および比較例のリチウム二次電池を作製した。
【0175】
(2)リチウム二次電池の性能評価
作製したリチウム二次電池を充電後、0.2Cで放電し、放電容量を求めた。得られた放電容量から、活物質重量単位(活物質1g当たり)の放電容量を求めた。また、2Cの高率放電を行い、その放電容量の大きさ(充填容量に対する比率%)から安全性を評価した。結果を表1に併せて示す。
【0176】
【表1】

【0177】
表1より、各実施例においては、比較例1に比べて充填容量が大きく、LiCoOの理論値約120mAh/gにほぼ等しい放電容量が得られており、バインダーや導電助剤を減らし、活物質を増やすことにより、高容量の電池が得られることが分かる。
【0178】
また、Al箔を用いて電極を厚くした比較例2では、0.2C放電容量が小さいのに対し、各実施例では、電極を厚くしても、LiCoOの理論値約120mAh/gの良好な放電容量を有していることが分かる。
【0179】
これは、金属の骨格が電極内に網目状に存在することにより、電極を厚くしても活物質と集電体骨格の距離が一定以上に大きくならずに集電性が保たれるためと考えられる。
【0180】
この結果、電極の面積を充填容量の大きさに反比例して小さくできるため、コストの低減を図ることができることが分かる。
【0181】
そして、0.2C放電ではいずれの実施例も120mAh/以上の良好な放電容量が得られているが、電極の厚さが1〜10mmで、多孔度が10〜30%である実施例2〜9においては、2Cの高率放電での放電容量が3%以下と小さく、殆ど放電できないことが分かる。
【0182】
この結果、例えば、外部で短絡したとしてもほとんど電流が流れず、電池の発熱も小さくて済むため、安全装置を設けなくても安全が確保できることが分かる。さらに、3〜10mm(実施例4〜9)の場合、より好ましいことが分かる。
【0183】
[2]電池パック
以下においては、Al多孔体を用いて製造された正負の電極を積層した角型の積層電池セルを組み合わせた電池パックを作製し、従来の円筒型電池を組み合わせた電池パックとの比較を行った。
【0184】
1.正極の作製
実施例A1に示した方法と同様の方法を用いて厚さ5mmのAl多孔体を作製した。次に、LiNiMnO(LiNi1/2Mn3/2)(正極活物質):アセチレンブラック(導電助剤):PVDF(バインダー)を重量比で90:5:5の比率で配合し、配合物100重量部に対しNMP(溶媒)80重量部でスラリー化した。Al多孔体にこのスラリーを充填し、乾燥後に厚さ3.4mmにプレスした。次に10×10cmの大きさに切断後、タブリードを溶接して面積容量密度100mAh/cmの正極を作製した。
【0185】
2.負極の作製
実施例A1に示した方法と同様の方法を用いて厚さ4mmのAl多孔体を作製した。次に、LTO(チタン酸リチウム:LiTi12)(負極活物質):アセチレンブラック(導電助剤):PVDF(バインダー)を重量比で90:5:5の比率で配合し、配合物100重量部に対しNMP(溶媒)80重量部でスラリー化した。Al多孔体にこのスラリーを充填し、乾燥後に厚さ2.7mmにプレスした。次に10×10cmの大きさに切断後、タブリードを溶接して面積容量密度120mAh/cmの負極を作製した。
【0186】
3.電池セルの作製
上記で作製された正負極をそれぞれ10枚用意し、不織布セパレータを挟んで交互に積層した。電解液にLiPFを1mol/Lの濃度でEC:DEC=1:1の溶媒に溶解させた溶液400ccを用い、アルミラミネートで封止して角型の積層電池セル(厚さ61mm)を作製した。作製したセルの電圧は3.2V、容量は100Ahであった。
【0187】
4.電池パックの作製
次に、作製したセルを4個直列に接続し、12V−100Ahの電池パックを作製した。この電池パックの体積は2.9Lであり、体積エネルギー密度は414Wh/Lであった。
【0188】
5.従来の電池パックとの比較
一般的に、18650タイプの円筒型電池を用いた車載用のリチウム二次電池パックのエネルギー密度は200〜250Wh/Lと公表されており、本実施例の電池パックの場合、電池パックとして最大2倍近い体積エネルギー密度が得られ、同じ電圧および容量で電池パックを作製した場合には、体積を最大51%低減できることが分かった。
【0189】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0190】
1 発泡樹脂
2 Al層
3 Al多孔体
4 リード
11 前駆体
12、22 電極本体部分
21、31 リチウム二次電池用電極
32 集電体
33 正極合剤層
60 全固体リチウム二次電池
61 正極
62 負極
63 固体電解質層(SE層)
64 正極層
65 正極集電体
66 負極層
67 負極集電体
121、146 正極
122、147 負極
123、142 セパレーター
124 押え板
125 バネ
126 押圧部材
127、145 ケース
128 正極端子
129 負極端子
130、144 リード線
141 分極性電極
143 有機電解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体および/または負極集電体が、連通気孔を有する金属多孔体であり、
前記連通気孔中に、活物質を含有する合剤が充填されている
電気化学素子用の電極を備えていることを特徴とする電気化学素子。
【請求項2】
前記金属多孔体が、アルミニウム多孔体であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学素子。
【請求項3】
前記アルミニウム多孔体が、純度99.9%以上であり、かつ、15kVの加速電圧でのEDX分析により定量した表面の酸素量が3.1質量%以下のアルミニウム多孔体であることを特徴とする請求項2に記載の電気化学素子。
【請求項4】
前記正極集電体がアルミニウム多孔体であり、前記負極集電体が、ニッケル多孔体または銅多孔体であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電気化学素子。
【請求項5】
前記活物質の内、正極活物質が、以下の(1)〜(4)に示すリチウム複合酸化物のいずれかであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の電気化学素子。
(1)LiM1M2M3
但し、M1、M2、M3は、それぞれ、互いに異なる元素であって、Al、
Ni、Mn、Co、Cr、Fe、V、Mg、Ti、Zr、Nb、Mo、W、
Cu、Zn、Ga、In、Sn、La、Ce、Yより選択され、x+y+z
=b/2である。
(2)LiM1(1−q−r)M2M3(2−y)
但し、M1、M2、M3は、それぞれ、2族〜15族から選択された元素の
うちの少なくとも1種であり、Xは、酸素(O)以外の16族元素および1
7族元素のうちの少なくとも1種であり、0≦p≦2.0、0≦q≦1.0
、0≦r≦1.0、−0.10≦y≦0.40、0≦z≦0.40である。
(3)LiPO
但し、Mは、3d遷移金属のうち少なくとも一種を含有しており、0<x≦
2.0、0.5≦y≦1.5である。
(4)LiFe1−yPO
但し、Mは、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Sn、B、Ga、Cr、V、
Ti、Mg、Ca、Srからなる群から選択された少なくとも1種の元素で
あり、0.5<x<1.5、0≦y<0.5である。
【請求項6】
前記活物質の内、負極活物質が、
カーボン、スズ、シリコン、チタン酸リチウム(LiTi12)から選択されるいずれか1種を主体とする活物質、
または、
カーボン、スズ、シリコン、チタン酸リチウム(LiTi12)から選択される2種以上からなる複合体を主体とする活物質
であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の電気化学素子。
【請求項7】
前記電極が、下式に示される多孔度(%)が10〜30%であり、かつ厚さが1〜10mmであることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の電気化学素子。
多孔度(%)={1−(電極材料の体積/電極の見かけの体積)}×100
【請求項8】
前記電極の厚さが3〜10mmであることを特徴とする請求項7に記載の電気化学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−256584(P2012−256584A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−5617(P2012−5617)
【出願日】平成24年1月13日(2012.1.13)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(591174368)富山住友電工株式会社 (50)
【Fターム(参考)】