説明

電気導体への錫メッキ方法

【課題】メッキ電圧を高くしても錫メッキ内の鉛濃度を低く抑えることが可能な電気導体品への錫メッキ方法を提供する。
【解決手段】電気導体品3に電気メッキにより錫メッキを施す方法であって、2つの陰極を用意し、一方の陰極に錫メッキを施す電気導体品3を接続し、他方の陰極にダミー用の金属導体9を接続し、他方の陰極への印加電圧(V2)を、一方の陰極への印加電圧(V1)より高くすることを特徴とする。また、ダミー用の金属導体9に流す電流は、錫メッキを施す電気導体品3に流す電流よりも小さくするようにしてもよい。なお、メッキ液2として硫酸を添加したものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気導体品に鉛フリーで錫メッキを施す錫メッキ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器内の配線等に用いられるケーブルの電気導体には、一般に可撓性と導電性に優れた銅導体が用いられるが、耐腐食性、半田付け性を高めるために、通常は導体表面に錫メッキを施している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−99012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、環境保護対策として鉛に対する規制が強まり、鉛フリーの錫メッキが求められている。電子・電気機器における危険物質に関する制限(RoHS:Restricting the use Of Hazardous Substances )に関する基準では、鉛の含有濃度が1000ppm以下にすることが要求されている。電子・電気機器等に使用される電線やリード部品等の電気導体品に、鉛フリーで錫メッキを施す場合に、高純度の錫ボール(錫メッキ原料でSn99.90%以上、Pb0.040%以下)のものを使用する。しかし、この場合でも、メッキ電圧を高くすると、錫メッキ内の鉛濃度が錫ボールの鉛濃度より高くなることがある。
【0005】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、メッキ電圧を高くしても錫メッキ内の鉛濃度を低く抑えることが可能な電気導体品への錫メッキ方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による錫メッキ方法は、電気導体品に電気メッキにより錫メッキを施す方法であって、2つの陰極を用意し、一方の陰極に錫メッキを施す電気導体品を接続し、他方の陰極にダミー用の金属導体を接続し、他方の陰極への印加電圧を、一方の陰極への印加電圧より高くすることを特徴とする。また、ダミー用の金属導体に流す電流は、錫メッキを施す電気導体品に流す電流よりも小さくするようにしてもよい。なお、メッキ液として硫酸を添加したものが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
上記の本発明によれば、メッキ液中に溶解された鉛は、ダミー用の金属導体で多く析出され、電気導体品に析出する量が軽減され、電気導体品上に施された錫メッキの鉛濃度を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明による錫メッキの概略を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明による鉛フリーによる錫メッキ方法は、電線の電気導体、配線部品や半導体リード等の各種の電気導体品の導体表面、半田接続部の表面処理に適用することができる。また、本発明による錫メッキ方法は、電気メッキを用いたメッキで、陽極にメッキ原材料の錫金属(錫ボール)を接続し、陰極にメッキ対象品である電気導体品を接続し、電解液からなるメッキ液浴中に浸して、その電解作用で電気導体品の表面に錫メッキを施す形態の方法である。
【0010】
メッキ原材料の錫ボールには、鉛フリーの錫メッキでは、高純度の錫(錫99.9%以上、鉛0.04%以下)が用いられる。しかしこのような、高純度の錫ボールを用いるとしても、錫メッキ内にはこの原材料中に含まれる鉛濃度以上の鉛濃度となることがある。
【0011】
すなわち、メッキ電圧が高くなると、相対的に鉛の析出量が多くなる。特に、低電圧で優先的に錫の析出を多く行なっていた後に高電圧でメッキを行うような場合、メッキ液中の鉛濃度が高くなる。この後、同じメッキ液でメッキ電圧を上げた条件でメッキすると、錫メッキ内の鉛濃度が錫ボールの鉛濃度以上に大きくなることがある。
【0012】
本発明は、これに対し陰極を2つ設け、一方の陰極に錫メッキを施す電気導体品を接続し、他方の陰極にダミー用の金属導体(以下、ダミー導体という)を接続する。そして、ダミー導体側のメッキ電位を、電気導体品側のメッキ電位より高くして、ダミー導体により多くの割合で鉛を析出させるようにする。この結果として、電気導体品側で析出する鉛の析出を少なくし、鉛濃度を低く抑えるようにする。
【0013】
図1は、上述の実施形態の概略を説明する図である。1はメッキ槽で、該メッキ層には電解作用を行なうメッキ液2が入れられている。このメッキ液2は、錫メッキに適するものとして、例えば、有機酸浴、ホウフッ化浴、アルカリ浴、硫酸浴などが知られているが、後述するように本発明における鉛フリーの錫メッキでは硫酸浴が好ましい。
【0014】
3は錫メッキを施す電気導体品の一例として、断面が丸または平角の裸の銅導線を示し、供給ドラム4から繰出されてメッキ槽1に浸されてメッキ処理された後、巻取りドラム5で巻取られるものとする。銅導線3は、供給ドラム4から巻取りドラム5への移送を停止して、所定時間メッキ槽1に浸してメッキ処理が終了する毎に間欠移送するか、または、銅導線3の移送を停止することなく低速で移送して、メッキ処理をリアルタイムで連続的に行なようにする。なお、半導体リード等の小物部品に対しては、バレルや網付けによるメッキ方法が用いられる。
【0015】
銅導線3には、メッキ槽1の入り口側あるいは出口側(図では、出口側の例で示す)で、電気接触子6に摺動接触されて電気的に接続される。電気接触子6は、直流電源7aの負極に接続され、銅導線3を陰極(カソード)として、これに負電位が与えられる。直流電源7aの正極には、銅導線3に錫メッキを施す金属材料となる錫ボール8が接続される。
【0016】
錫ボール8は、上述したように錫(Sn)が99.9%以上、鉛(Pb)が0.04%以下の高純度(JIS1種)のものが望ましいが、本発明においては、特に、これに限定されず純度の低いもの(JIS2種または3種)であってもよい。この錫ボール8は、チタン金属などで形成された籠内に入れて、直流電源7aの正極に電気的に接続され、陽極(アノード)として、これにメッキ電位が与えられて、メッキ液2内に浸される。
【0017】
本発明は、上記の構成に加えて、ダミー導体9を別途用意し、これを直流電源7bの負極に接続する。また、直流電源7bの正極は、直流電源7aと並列に錫ボール8に接続される。これにより、ダミー導体9は、錫メッキを施す正規の電気導体品(銅導線3)を第1の陰極とすれば、第2の陰極として銅導線3と同じように錫メッキが施される。ただ、ダミー導体9には、直流電源7bにより銅導線3に印加される負電位(−V1)とは異なる負電位(−V2)が印加される。なお、V2>V1で、陽極とダミー導体9間には、陽極と銅導線3間に印加されるメッキ電圧よりは高い電圧が印加される。
【0018】
上記の構成において、例えば、錫ボール8の鉛の含有量が0.025%(250ppm)とする。そして、ダミー導体9を有しない状態で、陽極と銅導線3にメッキ電圧として3Vの直流電圧を加えたとする。これにより、陽極とされている錫ボール8からは、メインの錫と不純物として含まれる鉛とがメッキ液2中に溶解し、銅導線3の表面に析出される。このときの銅導線3の表面に析出される錫メッキには、鉛も含有され、その鉛濃度は200ppm程度であった。
【0019】
一方、陽極と銅導線3間に直流電源7aにより、3(V)の電圧を加え、陽極とダミー導体9間に直流電源7bにより、6(V)の電圧を加える。これにより、陽極とされている錫ボール8から、メッキ液2中に溶解された錫および鉛は、銅導線3およびダミー導体9の双方の表面に析出されメッキ処理される。
【0020】
銅導線3およびダミー導体9の表面に析出された錫メッキ内には、それぞれ鉛が含有された状態となるが、ダミー導体9には銅導線3より高い電圧が印加されているため、錫メッキ中に含まれる鉛の含有量は、銅導線3の錫メッキ中に含まれる含有量より多くなる。例えば、銅導線3の錫メッキ中の鉛濃度が100ppmとすると、ダミー導体9の錫メッキ中の鉛濃度は300ppmとなる。
【0021】
すなわち、印加電圧の高いダミー導体側の錫メッキ中の鉛濃度の方が高くなる。この結果、相対的に製品側の銅導線3における錫メッキ中に含まれる鉛成分が少なくなり、銅導線3の鉛濃度を低下させることができる。また、ダミー導体に流れる電流を、銅導線に流れる電流より小さくする(例えば、ダミー導体に流れる電流を銅導線に流れる電流の数十分の一、好ましくは百分の一程度)ことにより、ダミー導体に析出される錫の量を少なくして錫のロスを少なくすることができる。
【0022】
また、錫メッキのメッキ液としては、上述したように種々のものが知られているが、硫酸をメッキ液に添加した場合、メッキ液中に溶解された鉛は硫酸と化合して不溶性の硫酸鉛を形成しやすく、メッキ液中には微量の鉛しかイオン化されない。したがって、上記のダミー導体を用いる錫メッキ方法に加えて、メッキ液に硫酸を添加することにより、錫メッキ内の鉛濃度を低減させることが可能となる。ただし、陽極の錫ボールを籠に入れて使用するなら、籠の材質は硫酸に腐食されないものとする。
なお、上述の本発明において、メッキ液に硫酸を添加した時の銅導線の錫メッキ内の鉛濃度は10ppmであった。
【符号の説明】
【0023】
1…メッキ槽、2…メッキ液、3…電気導体品(銅導線)、4…供給ドラム、5…巻取りドラム、6…電気接触子、7a,7b…直流電源、8…錫ボール、9…ダミー導体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気導体品に電気メッキにより錫メッキを施す方法であって、2つの陰極を用意し、一方の陰極に錫メッキを施す電気導体品を接続し、他方の陰極にダミー用の金属導体を接続し、前記他方の陰極への印加電圧を、前記一方の陰極へに印加電圧より高くすることを特徴とする錫メッキ方法。
【請求項2】
前記ダミー用の金属導体に流す電流は、前記錫メッキを施す電気導体品に流す電流よりも小さくすることを特徴とする請求項1に記載の錫メッキ方法。
【請求項3】
前記電気メッキに硫酸を添加することを特徴とする請求項1または2に記載の錫メッキ方法。

【図1】
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