説明

電気抵抗変化の測定方法、装置及び腐食速度測定方法、装置

【課題】鋼の大気中の腐食や鋼管の腐食の腐食速度を測定可能とする。
【解決手段】電気抵抗体の電気抵抗変化を測定するに際して、例えばM系列でコード化された電流を入力し、出力との相関をとって得られる相関波形のピークから電気抵抗を求め、時間差をおいて測定した電気抵抗の差から電気抵抗変化を求める。ここで、電気抵抗が温度以外の要因で変化しない基準抵抗体を用いて、電気抵抗の測定値を温度補償したり、前記ピークの形状から、位相差を判別することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気抵抗体の電気抵抗変化を測定するための電気抵抗変化の測定方法、装置、及び、これらを利用した腐食速度測定方法、装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の大気中の腐食や配管の腐食速度を電気抵抗により測定する方法が開発されている(特許文献1)。この電気抵抗法による腐食速度は、図1に例示する如く、電気抵抗素子、即ちプローブ12を、プラント配管10中の流れのような腐食性の雰囲気内の重要な場所に差込み、且つ、このプローブ12の電気抵抗を測定器14で測定して、プローブ12から実際の金属損を測定することによって決定される。例えばプラントと同じ材料で作られているプローブ12から測定された金属損は、プラントの容器、配管等により失われた金属を表わす。電気抵抗素子、即ちプローブ12が腐食するに連れて、その断面積は減少し、該プローブの電気抵抗が増大する。従って、この電気抵抗の変化を捉えることによって、腐食速度を検出することができる。
【0003】
【特許文献1】特開昭57−33341号公報
【特許文献2】特開2001−4575号公報
【特許文献3】特開平10−239267号公報
【特許文献4】特開2003−232764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、図2に示す如く、土壌8が腐食環境となり、通電電極20や外部電源装置22によって調査対象物(図ではプラント配管10)に電気防食が施されている電気防食影響下では、直流信号が電気防食電流(直流)の影響を受けるため、微小電気抵抗を正確に測定するのは容易でなかった。一方、交流信号による電気抵抗測定を行なえば、アンプによる増幅が容易であるが、周波数の影響が不明であり、腐食速度に対応するような、ある期間測定した場合の、機器の測定精度の限界に近い微小な抵抗変化を直接測定することは困難であった。図3に微少電気抵抗変化を与えた電気抵抗を、市販のACミリオームメータで測定したときの結果を示す。これより、ばらつきが大きく、微少な電気抵抗変化が測定できないことが分かる。
【0005】
なお、電気抵抗変化の測定技術ではないが、特許文献2には、埋設塗覆装鋼管に接続されたターミナルと、そのターミナルに対応する接地極間の電位信号を検出し、その検出した信号と、埋設塗覆装鋼管に印加した擬似ランダム信号と同一の参照信号との相関処理を行ない、その相関処理結果がピーク値の、埋設塗覆装鋼管上における擬似ランダム信号の印加個所からの任意の位置毎の変化に基づいて、ターミナル間の埋設塗覆装鋼管の損傷の有無を判定する技術が記載されている。
【0006】
又、特許文献3には、M系列信号を埋設鋼管と設置電極の間に印加し、埋設鋼管の長手方向に沿って、地表面を走行させた探査機の車輪電極間の電位差とM系列参照信号の相互相関処理を行ない、そのピーク値を電位差の代表値として採用し、この代表値から電位分布を求め、求めた電位分布の変化から当該埋設管の塗膜損傷位置を検出する技術が記載されている。
【0007】
又、特許文献4には、被覆鋼管の基準位置に埋設した印加電極と管体との間に一定電圧のM系列信号を印加し、損傷が発生した計測区間の基準位置側の検出地点の両側に隣接する検出地点の管体管電位から演算した管内電流と、損傷を発生した計測区間の基準位置側の検出地点の管体管電位と、計測区間の距離及び管体の導電率から、損傷を発生した計測区間の基準位置側の検出地点から損傷が発生した位置までの距離を演算する技術が記載されている。
【0008】
しかしながら、電気抵抗変化を測定するものではなかった。
【0009】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、腐食で抵抗が変化するような微小抵抗変化を高精度で測定可能とすることを第1の課題とする。
【0010】
本発明は、又、鋼の大気中の腐食や鋼管の腐食速度を測定可能とすることを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、電気抵抗体の電気抵抗変化を測定するに際して、コード化された電流を入力し、出力との相関をとって得られる相関波形のピークから電気抵抗を求め、時間差をおいて測定した電気抵抗の差から電気抵抗変化を求めることにより、前記第1の課題を解決したものである。
【0012】
ここで、前記電流を、M系列でコード化することができる。
【0013】
又、電気抵抗が温度以外の要因で変化しない基準抵抗体を用いて、電気抵抗の測定値を温度補償することができる。
【0014】
又、前記ピークの形状から、位相差を判別することができる。
【0015】
本発明は、又、電気抵抗体の電気抵抗変化を測定するための装置において、コード化された電流を入力する手段と、出力との相関をとる手段と、相関波形のピークから電気抵抗を求める手段と、時間差をおいて測定した電気抵抗の差から、電気抵抗変化を求める手段と、を備えたことを特徴とする電気抵抗変化の測定装置を提供するものである。
【0016】
ここで、M系列でコード化した電流を発生する手段を備えることができる。
【0017】
又、電気抵抗が温度以外の要因で変化しない基準抵抗体と、該基準抵抗体を用いて、電気抵抗の測定値を温度補償する手段と、を備えることができる。
【0018】
又、前記ピークの形状から、位相差を判別する手段を備えることができる。
【0019】
本発明は、又、前記の方法を用いて、金属体の腐食速度を求めることにより、前記第2の課題を解決したものである。
【0020】
本発明は、又、前記の装置を用いて、金属体の腐食速度を求めることを特徴とする腐食速度測定装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、直接測定では機器の精度の限界に近い値であるので、上手く測定できなかった、腐食速度に対応するような微小な抵抗変化(ある測定期間計測した場合の抵抗変化)を、測定することが可能となる。従って、鋼の大気中の腐食や配管の腐食に適用して、腐食速度を求めることが可能となる。
【0022】
例えばM系列でコード化した信号は、符号長を長くすることでSN比を向上できるが、応答速度が遅くなる。しかし、腐食による電気抵抗の変化は非常に緩やかであるため、問題は無く、符号長を長くして、SN比を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0024】
本実施形態は、図4に示す如く、腐食環境に暴露する測定用素子30と、該測定用素子30と同じ材質・寸法に被覆34を施した参照用素子32を腐食環境に設置し、これらにM系列信号電源40からM系列でコード化された電流を与える。
【0025】
ここで、測定用素子30の電気抵抗Rxは、初期値と温度変化と腐食による変化の和であり、参照用素子32の電気抵抗Rrは、初期値と温度変化の和であるので、図5に示す如く、測定用素子30の電気抵抗Rxに対応する電圧Vxから、参照用素子32の電気抵抗Rrに対応する電圧Vrを減算器48で引くことによって、腐食による電圧変化ΔV=Vx−Vrを抽出することができる。そこで、アンプ44、46で増幅され、減算器48で減算されて求められた電圧変化ΔV(t)と、M系列参照信号発生器50の出力との相関を相関処理器52で相関処理する。
【0026】
一方、電流計42で検出した通電電流I(t)もM系列信号であるため、相関処理器53で相関処理する。
【0027】
そして、抵抗値演算器54で、相関波形のピークからある時点の抵抗値ΔR(t)=ΔV(t)÷I(t)を求めて、記憶部56に記憶する。又、ある時間をおいて同様の測定を行ない、記憶部56に記憶しておいた抵抗値ΔR(t1)と、今回測定した抵抗値ΔR(t2)の差から、腐食速度演算器58で微小抵抗変化を腐食速度CR(t)として求め、記憶・表示部60に記憶・表示する。
【0028】
前述したように、測定用素子30と参照用素子32は同じ材質・寸法で構成されているため、両者の電気抵抗Rx、Rrの初期値は同値であることが望ましい。しかしながら素子加工時の誤差等により、RxとRrを同値にすることは困難である。ここで、交流の電圧変化ΔVを、一般的な交流電圧計のように、振幅の大きさのみで測定するとき、腐食環境に曝す前のRxがRrに比べて小さい場合、Rxは腐食進行と共に大きくなっていくため、電圧変化ΔVは図6のように小さくなっていく。腐食が進行し、RxとRrが同じになったときにΔVはゼロになり、その後、腐食の進行に伴いΔVは大きくなっていく。このように交流電位差ΔVの位相を考慮しない測定では、腐食による測定用素子30の電気抵抗の増加が把握できない。
【0029】
ここで本発明のM系列信号の相関処理による電圧変化ΔVの測定によれば、図7に示すように、RxがRrに比べて小さいときは、図7Aのように相関波形のピークの向きが下向きになる。腐食によりRxが除々に大きくなると、図7Bのように相関波形のピーク値が小さくなり、RxがRrより大きくなると図7Cのようにピークの向きを変える。このように相関ピークの値と形状を同時に記録することで、RxとRrの初期値の差を考慮することなく、腐食による電圧変化を連続測定できる。
【0030】
図8に、図3と同様に微少電気抵抗変化を与えた電気抵抗を、本発明の実施形態で実施した結果を示す。これより、ばらつきが小さく、市販品で測定できないレンジの微少電気抵抗変化を測定できることが分かる。
【0031】
上記のように、相関ピークから電気抵抗変化を求め、これから、例えば特許文献1に記載されたような方法で、腐食速度を求めることができる。
【0032】
なお、前記実施形態においては、コード化された電流としてM系列信号を用いていたが、コード化された信号はこれに限定されず、他の擬似ランダム信号や、他の方法でコード化された信号を用いることができる。
【0033】
又、前記実施形態においては、本発明を腐食速度の測定に適用していたが、本発明の適用対象はこれに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】電気抵抗法プローブによる腐食モニタリングの原理を示す断面図
【図2】電気防食下の微小電気抵抗測定技術を示す断面図
【図3】市販のACミリオームメータにより電気抵抗値を直読した例を示す図
【図4】本発明の実施形態の構成を示す図
【図5】前記実施形態による微小抵抗変化試験結果を示す図
【図6】初期の測定用素子電気抵抗Rxが参照用素子電気抵抗Rrより小さい場合の、腐食環境曝露後電位差ΔVの推移(交流電圧計による測定)を示す図
【図7】同じく初期の測定用素子電気抵抗Rxが参照用素子電気抵抗Rrより小さい場合の、M系列信号による腐食環境曝露後電位差ΔVの推移と相関波形の推移を示す図
【図8】同じく本発明方法で電気抵抗測定を行ったときの、電気抵抗変化量に対する測定値の変化量の例を示す図
【符号の説明】
【0035】
10…プラント配管
30…測定用素子
32…参照用素子
40…M系列信号発生器
48…減算器
50…M系列参照信号発生器
52…相関処理器
54…抵抗値演算器
56…記憶部
58…腐食速度演算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気抵抗体の電気抵抗変化を測定するに際して、
コード化された電流を入力し、
出力との相関をとって得られる相関波形のピークから電気抵抗を求め、
時間差をおいて測定した電気抵抗の差から電気抵抗変化を求めることを特徴とする電気抵抗変化の測定方法。
【請求項2】
前記電流を、M系列でコード化したことを特徴とする請求項1に記載の電気抵抗変化の測定方法。
【請求項3】
電気抵抗が温度以外の要因で変化しない基準抵抗体を用いて、電気抵抗の測定値を温度補償することを特徴とする請求項1又は2に記載の電気抵抗変化の測定方法。
【請求項4】
前記ピークの形状から、位相差を判別することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電気抵抗変化の測定方法。
【請求項5】
電気抵抗体の電気抵抗変化を測定するための装置において、
コード化された電流を入力する手段と、
出力との相関をとる手段と、
相関波形のピークから電気抵抗を求める手段と、
時間差をおいて測定した電気抵抗の差から、電気抵抗変化を求める手段と、
を備えたことを特徴とする電気抵抗変化の測定装置。
【請求項6】
M系列でコード化した電流を発生する手段を備えたことを特徴とする請求項5に記載の電気抵抗変化の測定装置。
【請求項7】
電気抵抗が温度以外の要因で変化しない基準抵抗体と、
該基準抵抗体を用いて、電気抵抗の測定値を温度補償する手段と、
を備えたことを特徴とする請求項5又は6に記載の電気抵抗変化の測定装置。
【請求項8】
前記ピークの形状から、位相差を判別する手段を備えたことを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の電気抵抗変化の測定装置。
【請求項9】
請求項1乃至4のいずれかに記載の方法を用いて、金属体の腐食速度を求めることを特徴とする腐食速度測定方法。
【請求項10】
請求項5乃至8のいずれかに記載の装置を用いて、金属体の腐食速度を求めることを特徴とする腐食速度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−243939(P2009−243939A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87948(P2008−87948)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】