説明

電気抵抗層付き金属箔及びその製造方法

【課題】金属箔と金属箔上に配置される抵抗層との間の剥離を抑制し、且つ抵抗層の抵抗値のばらつきを低減可能な電気抵抗層付き金属箔及びその製造方法を提供する。
【解決手段】光学的方法で測定した十点平均粗さRzが1μm以下であり、イオンビーム強度0.70〜2.10sec・W/cm2のイオンビーム照射により処理された表面を有する金属箔と、金属箔の前記表面上に配置された電気抵抗層とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気抵抗層付き金属箔及びその製造方法に関し、例えば、回路基板の表面又は内部に搭載可能な抵抗素子として利用可能な電気抵抗層付き金属箔及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント回路基板の配線材料として、一般に銅箔が使用されている。銅箔は、その製造法により電解銅箔と圧延銅箔に分類されており、エポキシ又はポリイミド等の樹脂基板に接合されてプリント回路用基板として使用されてきている。
【0003】
一方、近年の各種電子機器の高密度化、高機能化、小型化への要求に伴い、配線材料である銅箔上に更に電気抵抗材料からなる薄膜(電気抵抗層)を形成する技術が提案されている(例えば特許文献1、2参照)。電子回路基板には電気抵抗素子が不可欠であるが、抵抗層を備えた銅箔を使用すれば、銅箔上に形成された電気抵抗層をエッチングすることで、回路基板上又は内部に所望の電気抵抗を有する抵抗素子が作製できる。これにより、従来のようにチップ抵抗素子を半田接合法等により基板上に表面実装する場合に比べて、基板の表面積を有効に利用することが可能となり、高集積化が図れる。また、回路基板内部に抵抗素子を形成することで、回路基板の表面に抵抗素子を実装する場合に比べて、回路設計上の制約もより少なくなるため、回路長の短縮が可能となり、電気的特性及び信頼性の改善も図れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3311338号公報
【特許文献2】特許第3452557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
抵抗層を銅箔等の金属箔の表面上に形成して抵抗素子を形成する場合、少なくとも抵抗層と金属箔との間において剥離を生じさせない程度に接着強度を向上させる必要がある。一般に、金属箔表面の表面粗さを粗くすればするほど、金属箔と抵抗層との密着が向上するため、従来は、金属箔表面に粗化処理等の表面処理を行って表面粗さを増大させることが行われてきた。
【0006】
しかしながら、金属箔の表面粗さを大きくしすぎると、金属箔上に形成される抵抗層の抵抗値のばらつきが大きくなる場合がある。特に、抵抗層を薄膜化する場合には、粗い金属箔の表面上に、例えばスパッタリング等により均一な薄膜状の抵抗層を形成することが困難になる。その結果、抵抗層の抵抗値のばらつきが大きくなり、所望の抵抗素子の電気的特性を安定的に得ることが難しくなる。
【0007】
上記課題を鑑み、本発明は、金属箔と金属箔上に配置される抵抗層との間の剥離を抑制し、且つ抵抗層の抵抗値のばらつきを低減可能な電気抵抗層付き金属箔及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明者は、抵抗層を配置する金属箔として、従来とは別の新規な金属箔を採用することを考えた。即ち、これまでは、金属箔と抵抗層との密着性のバランスを考慮して、金属箔の表面を、粗化処理により特定の表面粗さの範囲(例えばRz6〜8μm)を有する表面に調節した金属箔を採用してきたが、本発明では、金属箔の表面に平滑化処理を施して従来よりもむしろ表面粗さが小さくなるようにした金属箔を採用することによって、金属箔と抵抗層との剥離の抑制と、抵抗層の抵抗値ばらつきの低減を同時に実現可能な電気抵抗層付き金属箔及びその製造方法を見出した。
【0009】
更に、本発明者は、上述の抵抗層上に熱可塑性樹脂層を配置したところ、抵抗層と金属箔との間の剥離を抑制しつつ、更に電気抵抗層のピール強度を向上可能であることを見出した。
【0010】
かかる知見を基礎として完成した本発明は一側面において、光学的方法で測定した十点平均粗さRzが1μm以下であり、イオンビーム強度0.70〜2.10sec・W/cm2のイオンビーム照射により処理された表面を有する金属箔と、金属箔の表面上に配置された電気抵抗層とを備える電気抵抗層付き金属箔である。
【0011】
本発明の電気抵抗層付き金属箔は一実施形態において、電気抵抗層のシート抵抗値のばらつきが±5%未満である。
【0012】
本発明の電気抵抗層付き金属箔は別の一実施形態において、電気抵抗層上に配置された熱可塑性樹脂層を更に備える。
【0013】
本発明の電気抵抗層付き金属箔は更に別の一実施形態において、ピール強度が0.7kN以上である。
【0014】
本発明の電気抵抗層付き金属箔は更に別の一実施形態において、電気抵抗層が、アルミニウム、ニッケル、クロム、銅、鉄、インジウム、亜鉛、タンタル、スズ、バナジウム、タングステン、ジルコニウム、モリブデン及びこれらの合金からなる群の中から選択された金属から形成される。
【0015】
本発明の電気抵抗層付き金属箔は更に別の一実施形態において、電気抵抗層が、NiCr合金、NiCrAlSi合金及びNiCrSiO合金のいずれかを含む。
【0016】
本発明の電気抵抗層付き金属箔は更に別の一実施形態において、金属箔が電解銅箔又は圧延銅箔を含む。
【0017】
本発明は別の一側面において、光学的方法で測定した十点平均粗さRzが1μm以下の金属箔の表面上にイオンビーム強度0.70〜2.10sec・W/cm2でイオンビーム照射することと、イオンビーム照射した金属箔の表面上に電気抵抗層を形成することを含む電気抵抗層付き金属箔の製造方法である。
【0018】
本発明の電気抵抗層付き金属箔の製造方法は別の一実施態様において、電気抵抗層上に熱可塑性樹脂層を配置することを更に含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、金属箔と金属箔上に配置される抵抗層との間の剥離を抑制し、且つ抵抗層の抵抗値のばらつきを低減可能な電気抵抗層付き金属箔及びその製造方法が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る電気抵抗層付き金属箔は、金属箔と、金属箔上に配置された電気抵抗層(以下「抵抗層」ともいう)とを備える。金属箔としては、例えば電解銅箔又は圧延銅箔を用いることができる。本実施形態の「銅箔」とは、銅箔の他に銅合金箔も含まれるものとする。なお、金属箔として電解銅箔を用いる場合は一般的な電解装置を用いて製造することが出来るが、本実施形態では、その電解プロセスにおいて適切な添加剤を選択することや、ドラム回転速度の安定化など、銅箔の表面粗さが均一で厚みの一様な電解銅箔を形成しておくと好ましい。金属箔の厚みにも特に制限はないが、例えば箔厚が5〜70μm、特に箔厚が5〜35μmの金属箔が使用できる。
【0021】
金属箔は、少なくとも一方の表面が、光学的方法で測定した十点平均粗さRzが1μm以下に調整された表面であることが好ましい。ここで、「光学的方法で測定した十点平均粗さRzが1μm以下」の表面とは、0.2μm×0.2μm以下の分解能を持ち、光干渉式による光学的表面形状測定装置で測定した場合に得られる十点平均粗さRzの値を有する表面を意味する。
【0022】
即ち、光干渉的表面形状測定装置により得られた粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜取り部分の平均線から縦倍率の方向に測定した最も高い山頂から5番目までの山頂の標高の絶対値の平均値と、最も低い谷底から5番目までの谷底の標高の絶対値の平均値との和を求め、この値をマイクロメートル(μm)で表した値で規定した場合の値を十点平均粗さRzとして定義するものである。
【0023】
この測定方法を採用することにより、金属箔表面の表面粗さと抵抗層の抵抗値の相関関係をより具体的に把握することができる。言い換えれば、この測定方法によれば、平均粗さRzを所定の範囲内で大きくするにつれて一次関数的に抵抗層の抵抗値も上昇する傾向を評価できるため、製造者が、目標とする電気抵抗値に合わせて抵抗層の平均粗さRzを制御することにより、所望の電気抵抗値を有する抵抗層をより安定的に製造できる。
【0024】
光干渉的表面形状測定機器としては、非接触3次元表面形状粗さ測定システム、品番NT1100(WYKOオプティカルプロファイラ(分解能0.2μm×0.2μm以下:Veeco社製)を用いることができる。システムの測定方式は、垂直走査型干渉方式(Vertical Scan Interferometry/VSI方式)であり、視野範囲は120μm×90μm、測定スキャン濃度が7.2μm/secである。干渉方式は、ミラウ干渉方式(対物レンズ50倍、内部レンズ1倍)である。
【0025】
本実施形態に係る金属箔おいては、金属箔の粗さRzが1μm以下であれば、十分な密着強度を得ることができるが、粗さRzが0.55μm以下、更には0.5μm以下、更には0.4μm以下としても、その効果を十分に発揮できる。粗さRzの下限値に特に制限はないが、例えば粗さRzは本測定方法の垂直分解能であるRz0.1nm以上とすることができる。
【0026】
金属箔の表面には清浄化の為、表面処理が施される。具体的な表面処理手段としては、イオンビーム照射が行われるのが好ましい。金属箔表面をイオンビーム照射して金属箔の表面の洗浄処理を図ることにより、金属箔とその上面に配置される抵抗層との密着強度が向上する。
【0027】
イオンビーム照射は、照射量が少なすぎると密着強度が十分に得られない場合があり、逆に多すぎる場合は、電力消費量の増大により生産性が低下する。以下の条件に制限されるものではないが、例えば、イオンビーム強度が、0.70〜2.10sec・W/cm2、より好ましくは0.78〜1.50sec・W/cm2とするのが好ましい。本実施形態で説明する「イオンビーム強度(Wmin/m2)」とは次の式で算出される。

イオンビーム電圧(V)×電流(A)/処理面積(m2)×処理時間(sec)

金属箔に対して照射する際のイオンビーム電力は、例えば製品幅が35cm、ラインスピードが0.65m/min(= 1.08cm/sec)の場合、
0.78(sec・W/cm2)×35(cm)×1.08(cm/sec)
= 29.5 (W)
となり、イオンビーム電力が約30W以上であれば充分な照射量となる。
【0028】
金属箔上の電気抵抗層の厚み、大きさ、形状又は電気的特性は、回路設計に応じて任意に決定される。即ち、電気抵抗層の材料の種類や膜厚等の選択は、作製する抵抗素子の機能を考慮して決定されるものであり、特に制限はない。一例としては、シート抵抗値が10〜250Ω/sq或いはそれ以上の電気抵抗層が好適に形成できる。第1の実施の形態で得られる電気抵抗層によれば、シート抵抗値のばらつきの小さい電気抵抗層が得られる。具体的には、シート抵抗値のばらつきが、金属箔の長さ方向及び幅方向においてそれぞれ±5%未満、更に好ましくは±3%以内の電気抵抗層が得られる。
【0029】
電気抵抗層の材料としては、例えば、アルミニウム、ニッケル、クロム、銅、鉄、インジウム、亜鉛、タンタル、スズ、バナジウム、タングステン、ジルコニウム、モリブデン及びこれらの合金からなる群の中から選択された金属を挙げることができる。電気抵抗が比較的高い金属であれば、それぞれの金属を単独層として又は他の元素との合金層として好適に使用することができる。
【0030】
アルミニウム、シリコン、銅、鉄、インジウム、亜鉛、錫等の比較的電気抵抗の低い材料であっても、これらを他の元素と合金化することにより電気抵抗が高くなる材料であれば電気抵抗層の材料として使用しても構わない。電気抵抗層の材料としては、例えば、NiCr合金、NiCrAlSi合金及びNiCrSiO合金のいずれかを含む材料が好適に用いられる。
【0031】
電気抵抗層の形成に際しては、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンビームめっき法などの物理的表面処理法、熱分解法、気相反応法などの化学的表面処理法、又は電気めっき法、無電解めっき法などの湿式表面処理法を用いて形成することができる。一般には、電気めっき法が低コストで製造できる利点がある。スパッタリング法は、均一な厚みで等方性を備えた膜が形成できるため、品質の高い抵抗素子を得ることができるという利点がある。
【0032】
第1の実施の形態に係る電気抵抗層付き金属箔を製造する場合は、まず、金属箔の表面を、光学的方法で測定した十点平均粗さRzが1μm以下となるように添加剤・箔厚制御を実施することにより調整した銅又は銅合金製の金属箔を用意する。次いで、イオンビーム照射により金属箔の表面を清浄化し、表面処理後の金属箔の表面上に、例えばスパッタリング等により電気抵抗層を形成すればよい。電気抵抗層の膜厚が均一化されるように、スパッタリング装置の特性に合わせてマスキングを付して所定の厚みに制御することが好ましい。
【0033】
第1の実施の形態に係る電気抵抗層付き金属箔を回路基板内に組み込む際は、例えば、回路基板上に電気抵抗層付き金属箔の電気抵抗層側を接触させ、熱圧着等により回路基板と電気抵抗層付き金属箔とを接合する。次いで、金属箔上にフォトレジスト膜としてドライフィルムを熱圧着し、フォトリソグラフィ技術を用いてパターニングする。次いで、塩化鉄系エッチング液等で、パターニングされたフォトレジスト膜をエッチングマスクとして金属箔及び電気抵抗層の一部を除去し、フォトレジスト膜を除去する。回路基板上に残る金属箔上に更にフォトレジスト膜を形成し、フォトリソグラフィ技術を用いて抵抗素子の長さ、表面積に準じた形状にパターニングする。パターニングされたフォトレジスト膜をエッチングマスクとして金属箔を除去し、フォトレジスト膜を除去することによって、回路基板上に抵抗素子を形成する。その後公知の多層配線技術により抵抗素子上に絶縁層及び配線層を形成すれば、回路基板内に抵抗素子が埋設できる。
【0034】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係る電気抵抗層付き金属箔は、電気抵抗層上に配置された熱可塑性樹脂層を更に備える点が、第1の実施の形態に係る電気抵抗層付き金属箔と異なる。他は実質的に同様であるので重複した記載を省略する。
【0035】
熱可塑性樹脂層としては、例えば回路基板に適用されるエポキシ系、ポリイミド系、ガラスエポキシ系のボンディングシート、ボンディングフィルム、又はポリイミド及びエポキシ樹脂を含むプライマー(塗料)等が好適に使用される。熱可塑性樹脂層の形成方法に特に制限はない。例えば、電気抵抗層上に固体状のシート又はフィルムを重ね、熱圧着により接合させてもよいし、液状のプライマーを電気抵抗層の表面上に塗布し、乾燥後、熱圧着により接合させることもできる。熱可塑性樹脂層の層厚にも特に制限はないが、少なくとも1μm以上の樹脂層を形成すれば接合強度を向上させることができ、樹脂層の層厚はより好ましくは、5〜50μmである。
【0036】
第2の実施の形態に係る電気抵抗層付き金属箔を製造する場合は、例えば、光学的方法で測定した十点平均粗さRzが1μm以下となる銅又は銅合金製の金属箔を用意する。そして、金属箔の表面を必要に応じてイオンビーム照射により表面処理する。次いで、表面処理後の金属箔の表面上に例えばスパッタリング等により電気抵抗層を形成する。その後、液状のプライマー又はボンディングシート等を配置して、熱可塑性樹脂層を形成すればよい。
【0037】
第2の実施の形態に係る電気抵抗層付き金属箔を回路基板内に組み込む際は、熱圧着等により回路基板と熱可塑性樹脂層を具備する電気抵抗層付き金属箔とを接合する。次いで、金属箔上にフォトレジスト膜としてドライフィルムを熱圧着し、フォトリソグラフィ技術を用いてパターニングする。次いで、塩化鉄系エッチング液等でパターニングされたフォトレジスト膜をエッチングマスクとして金属箔、電気抵抗層及び熱可塑性樹脂層の一部を除去し、フォトレジスト膜を除去する。その後、回路基板上に残る金属箔上にフォトレジスト膜を形成し、抵抗素子の長さを決定後、フォトリソグラフィ技術を用いてパターニングする。パターニングされたフォトレジスト膜をエッチングマスクとして金属箔、抵抗層及び熱可塑性樹脂層を除去し、フォトレジスト膜を除去することによって、回路基板上に抵抗素子を形成する。その後、公知の多層配線技術により抵抗素子上に絶縁層及び配線層を形成すれば、回路基板内に抵抗素子を埋設できる。第2の実施の形態に係る電気抵抗層付き金属箔によれば、金属箔−電気抵抗層間で剥離が生じにくく且つピール強度が0.7kN/m以上、好ましくは0.9kN/m以上を示す程度に十分な接着強度を有する電気抵抗層付き金属箔が提供できる。
【実施例】
【0038】
以下に本発明の実施例を示すが、以下の実施例に本発明が限定されることを意図するものではない。
【0039】
(スパッタ装置)
以下の実施例に示す各サンプルは、電気抵抗層スパッタの前処理としてイオンビーム源を備えた、CHA社製Vaccume WEB Chamber(14inch幅)を使用して作製した。イオンビーム源にはカーフマン型イオンビーム源6.0cm×40cm Linear Ion Source(ION TECH INC製)を使用した。イオンビーム源の電源は同社MPS−5001で、イオンビームの最大出力はおよそ3W/cm2である。
【0040】
(金属箔の表面粗さの違いによる電気抵抗層の抵抗値ばらつきの評価)
厚さ12μm及び18μmの6種類の電解銅箔を用意した。同一厚みの箔の中での粗さの違いは、粗化処理工程における粗化処理電流値を変えて、こぶ付け処理の量を変えることで調整した。それぞれの粗面(マット面)に対して、上述の光干渉的表面形状測定機器を用いて、十点平均粗さRzを求めた。電気抵抗層のシート抵抗値については、銅箔をエポキシ樹脂基材と積層後、アルカリエッチング液により銅箔層を全面エッチングして抵抗層を基材表面に露出させ、JIS−K7194に基づく四探針法により測定した。結果を表1に示す。
【0041】
80質量%ニッケル(Ni)と20質量%クロム(Cr)よりなる合金(Ni/Cr合金)の電気抵抗層を、上記スパッタリング装置を用いて、Rz=0.51〜7.2μmの表面粗さを持った電解銅箔上にそれぞれのシート抵抗値の平均値が25Ω/sq前後となる厚みに堆積させて形成した。得られた電気抵抗層の抵抗値及び抵抗値のばらつきをJIS−K7194に基づく四探針法により求めた。結果を表1に示す。実施例1の電気抵抗層は、比較例1〜5に比べて抵抗値のばらつきが小さく、±5%未満となった。
【表1】

【0042】
(接着強度評価)
−電気抵抗層(NiCr合金)と金属箔との界面の強度評価−
実施例2〜4及び比較例6〜8として、厚さ18μmの電解銅箔を用意した。実施例2〜4および比較例6〜8の粗さRzは0.51μmである。上述のスパッタ装置を用いて、ラインスピード、イオンビーム電圧(以下IB電圧)、イオンビーム電流(以下IB電流)を表2に示す条件に調整し、電解銅箔の粗面を表面処理した。なお、実施例2〜4、比較例6〜8のイオンビーム強度はそれぞれ1.03sec・W/cm2(実施例2)、1.37sec・W/cm2(実施例3)、1.71sec・W/cm2(実施例4)、0.43sec・W/cm2(比較例6)、0.69sec・W/cm2(比較例7)、0.51sec・W/cm2(比較例8)である。
次いで、80質量%ニッケル(Ni)と20質量%クロム(Cr)よりなる合金(NiCr合金)を電力3.2kWで表面処理後の電解銅箔上に堆積させ、電気抵抗層を形成した。
電気抵抗層の接着強度評価のため、電気抵抗層上にエポキシ樹脂をガラスクロスに含浸させたエポキシ基材(プリプレグ:パナソニック電工製R−1661)を熱圧着により接合させ、IPC規格(IPC−TM−650)に基づくピール試験により電気抵抗層のピール強度を測定した。結果を表2に示す。
【表2】

【0043】
表2に示すように、適切なイオンビーム処理を実施した実施例2〜4では、金属箔−電気抵抗層間の剥離は生じなかった。一方、比較例6〜8では、金属箔−電気抵抗層間の剥離が生じ、ピール強度は測定不能であった。
【0044】
−熱可塑性樹脂層付き電気抵抗層(NiCr合金)付き金属箔の強度評価−
実施例5〜7として厚さ18μmの電解銅箔を用意した。実施例5〜7の粗さRzは0.51μmである。上述のスパッタ装置を用いて、ラインスピード、IB電圧、IB電流を表2において銅箔−抵抗層界面での剥離が発生しなかった実施例2〜4と同様の条件に調整し、電解銅箔の粗面を表面処理した。実施例5〜7のイオンビーム強度はそれぞれ1.03sec・W/cm2(実施例5)、1.37sec・W/cm2(実施例6)、1.71sec・W/cm2(実施例7)である。
次に、80質量%ニッケル(Ni)と20質量%クロム(Cr)よりなる合金(NiCr合金)を電力3.2kWで表面処理後の電解銅箔上に堆積させて電気抵抗層を形成した。電気抵抗層の表面には、液状プライマーを平均塗布厚み5μmとなるように塗布し、塗布後に乾燥させて、電気抵抗層上に熱可塑性樹脂層を形成した。更に、熱可塑性樹脂層上にエポキシ基材を熱圧着により更に接合させた積層体を作製し、ピール強度、半田後のピール強度、耐HCl劣化特性を測定した。表3中の「ピール強度」の評価は、表2に示した方法と実質的に同様な方法で行った場合のピール強度(室温(常態)ピール値)であり、「半田後のピール強度」とは、260℃の溶融半田浴中に試験片を20秒間、浸漬した(すなわち加熱処理を受けた状態)後のピール強度、すなわち熱影響を受けた後のピール強度を示すものである。「耐HCL劣化」の評価は、18wt%塩酸(室温)に試験片を1hr浸漬した前後での電気抵抗層のピール強度の劣化率を百分率で表したものであり、は回路基板形成工程における耐薬品性を示す指標値である。結果を表3に示す。
【表3】

【0045】
実施例5〜7に示すように、電気抵抗層の表面上に更に熱可塑性樹脂層を配置することにより、実施例2〜4に比べてピール強度が向上した。また、実施例5〜7では、半田後ピール強度、耐HCl劣化特性ともに良好な結果を示している。
【0046】
−電気抵抗層(NiCrAlSi合金)と金属箔との界面の強度評価−
実施例8〜11及び比較例9として厚さ18μmの電解銅箔を用意した。実施例8〜11および比較例9の粗さRzは0.51μmである。上述のスパッタ装置を用いて、ラインスピード、IB電圧、IB電流を表4に示す条件に調整し、電解銅箔の粗面を表面処理した。実施例8〜11、比較例9のイオンビーム強度はそれぞれ0.84sec・W/cm2(実施例8)、1.25sec・W/cm2(実施例9)、1.67sec・W/cm2(実施例10)、2.09sec・W/cm2(実施例11)、0.52sec・W/cm2(比較例9)である。
次いで、55質量%ニッケル(Ni)と40質量%クロム(Cr)と1質量%アルミニウム(Al)と4質量%シリコン(Si)よりなる合金(NiCrAlSi合金)の電気抵抗層を、電力3.2kWで電解銅箔上に堆積させ、表面処理後の電解銅箔上に電気抵抗層を形成した。更に、電気抵抗層上には上述のエポキシ基材を熱圧着により接合させ表2と同様な方法でピール強度を測定した。結果を表4に示す。
【表4】

【0047】
表4に示すように、イオンビームの照射条件を適正な範囲に調整した実施例8〜11では、金属箔−電気抵抗層間の剥離は生じず、抵抗層−基板間で剥離した。一方、比較例9では、金属箔−電気抵抗層間の剥離が生じ、電気抵抗層のピール強度は測定不能であった。
【0048】
−熱可塑性樹脂層付き電気抵抗層(NiCrAlSi合金)付き金属箔の強度評価−
実施例12〜15として、厚さ18μmの電解銅箔を用意した。実施例12〜15の粗さRzは0.51μmである。上述のスパッタ装置を用いて、ラインスピード、IB電圧、IB電流を表4において銅箔−抵抗層界面での剥離が発生しなかった実施例8〜11の条件に調整し、電解銅箔の粗面を表面処理した。実施例12〜15のイオンビーム強度はそれぞれ0.84sec・W/cm2(実施例12)、1.25sec・W/cm2(実施例13)、1.67sec・W/cm2(実施例14)、2.09sec・W/cm2((実施例15)である。
次いで、55質量%ニッケル(Ni)と40質量%クロム(Cr)と1質量%アルミニウム(Al)と4質量%シリコン(Si)とよりなる合金(NiCrAlSi合金)の電気抵抗層を電力3.2kWで電解銅箔上に堆積させ、電気抵抗層を形成した。電気抵抗層の表面には液状プライマーを平均塗布厚み5μmとなるように塗布し、塗布後に乾燥させて熱可塑性樹脂層を形成した。更に、熱可塑性樹脂層上には上述のエポキシ基材を熱圧着により接合させ、ピール強度、半田後のピール強度、耐HCl劣化特性を測定した。結果を表5に示す。

【表5】

【0049】
実施例12〜15に示すように、電気抵抗層の表面上に熱可塑性樹脂層を配置することにより、実施例8〜11に比べてピール強度が向上した。また、半田後のピール強度、耐HCl劣化特性ともに良好な結果を示している。
【0050】
−電気抵抗層(NiCrSiO合金)と金属箔との界面の強度評価−
比較例10〜12、実施例16、17として、厚さ18μmの電解銅箔を用意した。比較例10〜12の粗さおよび実施例16、17の粗さRzは0.51μmである。上述のスパッタ装置を用いて、ラインスピード、IB電圧、IB電流を表6に示す条件に調整し、電解銅箔の粗面を表面処理した。比較例10〜12、実施例16、17のイオンビーム強度はそれぞれ0.24sec・W/cm2(比較例10)、0.39sec・W/cm2(比較例11)、0.58sec・W/cm2(比較例12)、0.78sec・W/cm2(実施例16)、0.97sec・W/cm2(実施例17)である。
次いで、5質量%ニッケル(Ni)と75質量%クロム(Cr)と13質量%シリコン(Si)と7質量%酸素(O)とよりなる合金(NiCrSiO合金)の電気抵抗層を電力1.5kWで電解銅箔上に堆積させ、電気抵抗層を形成した。更に電気抵抗層上には上述のエポキシ基材を熱圧着により接合させピール強度を測定した。結果を表6に示す。
【表6】

【0051】
表6に示すように、イオンビームの照射条件を適正な範囲に調整した実施例16、17では、金属箔−電気抵抗層間の剥離は生じず、抵抗層−基板間で剥離した。一方、比較例10〜12では、金属箔−電気抵抗層間の剥離が生じ、電気抵抗層のピール強度は測定不能であった。
【0052】
−熱可塑性樹脂層付き電気抵抗層(NiCrSiO合金)付き金属箔の強度評価−
実施例18、19として厚さ18μmの電解銅箔を用意した。実施例18、19の粗さRzは0.51μmである。上述のスパッタ装置を用いて、ラインスピード、IB電圧、IB電流を表7に示す条件に調整し、電解銅箔の粗面を表面処理した。実施例18、19のイオンビーム強度はそれぞれ0.78sec・W/cm2(実施例18)、0.97sec・W/cm2(実施例19)である。
次いで、5質量%ニッケル(Ni)と75質量%クロム(Cr)と13質量%シリコン(Si)と7質量%酸素(O)とよりなる合金(NiCrSiO合金)の電気抵抗層を電力1.5kWで電解銅箔上に堆積させ、電気抵抗層を形成した。電気抵抗層の表面には液状プライマーを平均塗布厚み5μmとなるように塗布し、塗布後に乾燥させて熱可塑性樹脂層を形成した。熱可塑性樹脂層上にはエポキシ基材を熱圧着により接合させピール試験によりピール強度、半田後のピール強度、耐HCl劣化特性を測定した。結果を表7に示す。
【表7】

【0053】
実施例18、19に示すように、電気抵抗層の表面上に熱可塑性樹脂層を配置することにより、実施例16、17に比べてピール強度が向上した。また、半田後のピール強度、耐HCl劣化特性ともに良好な結果を示している。
【0054】
−熱可塑性樹脂層(ボンディングシート)付き電気抵抗層付き金属箔の強度評価−
実施例20〜22として厚さ18μmの電解銅箔を用意した。実施例20〜22の粗さRzは0.51μmである。上述のスパッタ装置を用いて、ラインスピード、IB電圧、IB電流スパッタ電力を表8に示す条件に調整し、電解銅箔の粗面を表面処理した。次いで、表8に示す3種類の合金(NiCr合金、NiCrAlSi合金、NiCrSiO合金:合金組成はそれぞれ前記と同様)を用いて、それぞれの電力で電解銅箔上に堆積させ、電気抵抗層を形成した。電気抵抗層の表面には厚さ25μmのボンディングシート(信越化学社製、E53)を配置して熱可塑性樹脂層を形成し、熱可塑性樹脂層上に上述エポキシ基材を熱圧着により接合させた。その後、ピール試験により常態ピール強度、半田後ピール強度、耐HCl劣化率を測定した。結果を表8に示す。
【表8】

【0055】
実施例20〜22に示すように、熱可塑性樹脂としてボンディングシートを用いた場合でもピール強度が有意に向上した。また、半田後のピール強度、耐HCl劣化特性ともに良好な結果であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的方法で測定した十点平均粗さRzが1μm以下であり、イオンビーム強度0.70〜2.10sec・W/cm2のイオンビーム照射により処理された表面を有する金属箔と、
前記金属箔の前記表面上に配置された電気抵抗層と
を備える電気抵抗層付き金属箔。
【請求項2】
前記電気抵抗層のシート抵抗値のばらつきが±5%未満である請求項1に記載の電気抵抗層付き金属箔。
【請求項3】
前記電気抵抗層上に配置された熱可塑性樹脂層を更に備える請求項1又は2に記載の電気抵抗層付き金属箔。
【請求項4】
ピール強度が0.7kN以上である請求項3に記載の電気抵抗層付き金属箔。
【請求項5】
前記電気抵抗層が、アルミニウム、ニッケル、クロム、銅、鉄、インジウム、亜鉛、タンタル、スズ、バナジウム、タングステン、ジルコニウム、モリブデン及びこれらの合金からなる群の中から選択された金属から形成される請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気抵抗層付き金属箔。
【請求項6】
前記電気抵抗層が、NiCr合金、NiCrAlSi合金及びNiCrSiO合金のいずれかを含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気抵抗層付き金属箔。
【請求項7】
前記金属箔が電解銅箔又は圧延銅箔を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気抵抗層付き金属箔。
【請求項8】
光学的方法で測定した十点平均粗さRzが1μm以下の金属箔の表面上にイオンビーム強度0.70〜2.10sec・W/cm2でイオンビーム照射することと、
イオンビーム照射した前記金属箔の表面上に電気抵抗層を形成すること
を含む電気抵抗層付き金属箔の製造方法。
【請求項9】
前記電気抵抗層上に熱可塑性樹脂層を配置することを更に含む請求項8に記載の電気抵抗層付き金属箔の製造方法。

【公開番号】特開2012−201980(P2012−201980A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70760(P2011−70760)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】