説明

電気接点の製造方法

【課題】NiあるいはNi合金の下地めっき膜に形成されたピンホール内に貴金属めっき膜を析出させて適切に封孔することができる電気接点の製造方法を提供する。
【解決手段】(a)工程では、母材金属1上に電解めっき法にてNiあるいはNi合金の下地めっき膜2をめっき形成する。(b)工程では、前記下地めっき膜2の表面に、貴金属めっき膜3の初期めっき膜3aを電流密度を高くした状態で電解めっき法にてめっき形成する。これにより初期めっき膜3を微結晶化できる。続いて、(c)では、貴金属めっき膜3の残りのめっき膜3bを電流密度を低くした状態で電解めっき法にてめっき形成する。これにより下地めっき膜2に形成されたピンホール2aを貴金属めっき膜3にて適切に封孔することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチ、コネクタ等の表面に貴金属めっき膜がめっきされた電気接点の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から電気接点の表面には化学的に安定したAuを用いていた。例えば電気接点は、銅から成る母材金属の表面にNiめっきを介してAuめっきを施した積層構造で形成されていた。そしてNiめっきを必要とするのは、Auと母材金属間での拡散現象を抑制するためであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−19335号公報
【特許文献2】特開2007−217798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記Niめっきのめっき厚を厚く形成すれば母材拡散防止の効果を高めることができるが、製造費の無駄を招き、また後加工性を悪くしクラックが生じやすくなる等の問題が生じた。
【0005】
その一方で、前記Niめっきのめっき厚を薄く形成すれば、製造費を安くでき、また後加工性の向上を図ることができるが、Niめっきに生じるピンホールのために腐食しやすいといった問題が生じた。
【0006】
上記した特許文献には、上記した従来課題の認識はなく、当然にそれを解決する手段は示されていない。
【0007】
そこで本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、NiあるいはNi合金の下地めっき膜に形成されたピンホール内に貴金属めっき膜を析出させて適切に封孔することができる電気接点の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明における電気接点の製造方法は、以下の工程を有することを特徴とするものである。
(a) 母材金属上に電解めっき法にてNiあるいはNi合金の下地めっき膜をめっき形成する工程、
(b) 前記下地めっき膜の表面に、貴金属めっき膜を電解めっき法にてめっき形成し、このとき、電流密度を高くして初期めっきをした後、電流密度を低くして残りをめっきする工程。
【0009】
上記のように貴金属めっき膜をめっき形成するとき、最初、電流密度を高く設定することで、微結晶化できる。このため、NiあるいはNi合金からなる下地めっき膜を薄く形成したことで生じたピンホール内に、微結晶の貴金属めっき膜を析出させることができ効果的に封孔することが出来る。ピンホールはめっきの活性点であり、優先的にピンホール内に析出するので、最初のわずかな時間だけ、例えば、通常よりも電流密度を高めて貴金属めっき膜をめっき形成すればよい。また、貴金属をめっき形成するときは通常、めっき槽中に光沢剤が含まれているが、前記光沢剤は電流密度が高いとめっき膜中に多く含まれる。しかしながら、光沢剤が貴金属めっき膜表面に多く析出すると、接触性能や、貴金属めっき膜表面に更にめっきを施した際の密着性を低下させる。このため、貴金属めっき膜をめっき形成するとき、最初から最後まで高い電流密度とせず、初期めっきを高い電流密度でめっきした後は、電流密度を低くして残りをめっきすることで、貴金属めっき膜の表面に析出する光沢剤量を少なくでき、接触性能や密着性を向上させることが可能になる。
【0010】
本発明では、前記(b)工程では、白金族あるいは白金族合金により前記貴金属めっき膜をめっき形成することが好ましい。これにより、母材拡散をより効果的に抑制することが出来る。
【0011】
また本発明では、白金族あるいは白金族合金からなる前記貴金属めっき膜をめっき形成した後、前記貴金属めっき膜の表面に、AuめっきあるいはAgめっきを施すことが出来る。本発明では白金族あるいは白金族合金からなる貴金属めっき膜を接点表面にできるし、あるいは上記のように、さらにAuめっきあるいはAgめっきを施すときでもAuめっき及びAgめっきを従来に比べて、薄く形成することが出来る。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電気接点の製造方法によれば、NiあるいはNi合金の下地めっき膜に形成されたピンホール内に貴金属めっき膜を析出させて適切に封孔することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態の電気接点の製造工程を示す断面図、
【図2】電気接点の形成領域を備える母材基板(フープ材)の部分平面図、
【図3】めっき槽内の陽極の配置を示す概略図、
【図4】マスク板を配置しためっき槽内の配置を示す概略図、
【図5】図4におけるマスク板の平面図、
【図6】めっき槽内の陽極の配置を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本実施形態の電気接点の製造方法を示す工程図であり、各図は製造工程中における断面図、である。
【0015】
図1(a)に示す工程では、母材金属1の表面1aに、NiあるいはNi合金の下地めっき膜2を電解めっき法にてめっき形成する。母材金属1はCuや黄銅等である。また下地めっき膜2を構成するNi合金としてはNiCo等である。
【0016】
図1(a)の工程では、下地めっき膜2のめっき厚H1を0.02〜1μm程度に薄く形成する。このとき、下地めっき膜2には多数のピンホール2aが形成される。ピンホール2aの孔径は、数nm〜1μm程度である。また、下地めっき膜2の結晶粒の粒子径は数十nm〜数百nm程度である。
【0017】
次に、図1(b)に示す工程では、貴金属めっき膜3を電解めっき法にて下地めっき膜2の表面にめっき形成する。貴金属めっき膜3を、Au、Ag、Pt,Pd、Rh、Ir、Ru、Osのいずれか1種あるいは2種以上からなる合金、又は前記貴金属と貴金属以外の元素とを含む合金(無機物化合物)で形成する。このとき、例えば、最初の電流密度を通常の電流密度よりも高い状態に設定し、結晶粒が微細な初期めっき膜3aをめっき形成する。図1(b)では結晶粒が微細であり、下地めっき膜2のピンホール2a内に優先的に析出していることを模式図的に示した。前記初期めっき膜3aの結晶粒の粒子径は、0.1nm〜数十nm程度である。また、初期めっき膜3aのめっき厚は、0.0001〜0.1μm程度である。
【0018】
前記初期めっき膜3aは、最初のわずかな時間(数秒程度)だけ電流密度を高めた状態でめっき形成される。図1(b)のように下地めっき膜2に形成されたピンホール2aは貴金属めっき膜3をめっき形成するときの活性点であり、電流密度を高めたことで微細な結晶粒が優先的にピンホール2a内に析出する。
【0019】
次に、図1(c)の工程では、前記初期めっき膜3aをめっき形成した後、電流密度を例えば通常の電流密度に戻し(初期めっき膜3a形成時の電流密度より低下させ)、残りのめっき膜3bを電解めっき法にてめっき形成する。図1の実施形態では、初期めっき膜3aと残りのめっき膜3bとで貴金属めっき膜3が構成される。
【0020】
残りのめっき膜3bは、電流密度を小さくしてめっきするために結晶粒の粒子径が初期めっき膜3aより大きくなる。前記残りのめっき膜3bの結晶粒の粒子径は、数十nm〜数百nm程度である。残りのめっき膜bのめっき厚は必要なめっき厚だけ任意に形成できる。一例を挙げると、残りのめっき膜3bのめっき厚は、0.05μm程度である。
【0021】
このように貴金属めっき膜3をめっき形成するとき、最初、微結晶の初期めっき膜3aをピンホール2a内に優先的に析出させることで、貴金属めっき膜3にて適切に下地めっき膜2に形成されたピンホール2aを封孔することが出来る。
【0022】
ところで、貴金属めっき膜3を最初から最後まで通常より高い電流密度でめっき形成するのは以下の理由により好ましくない。
【0023】
貴金属めっき膜3を電解めっき法にてめっき形成するとき、通常、めっき槽内には光沢剤が含まれている。光沢剤は電流密度を高めるほどめっき膜中に含有されやすくなる。また光沢剤量が増えることで、結晶粒の粒子径を小さくできる。すなわち貴金属めっき膜3の初期めっき膜3aをめっき形成する際、電流密度を高く設定することで、初期めっき膜3aに含まれる光沢剤量は多くなり且つ結晶粒の粒子径が小さくなる。よって、貴金属めっき膜3を最初から最後まで高い電流密度でめっき形成すると、貴金属めっき膜3の表面に多量の光沢剤が析出することになる。
【0024】
しかしながら光沢剤が表面に多量析出すると接点としての接触性能を低下させる。あるいは図1(c)に示すように、貴金属めっき膜3の表面に更に最表面めっき膜4を施すとき、貴金属めっき膜3と最表面めっき膜4との間の密着性が低下する問題が生じる。
【0025】
このため、最初のわずかな時間だけ高い電流密度に設定して初期めっき膜3aをめっき形成した後、電流密度を低くして残りのめっき膜3bをめっき形成する。これにより、貴金属めっき膜3の表面に析出する光沢剤量を少なくでき、接触性能及び密着性を効果的に向上させることが可能になる。
【0026】
ここで、貴金属めっき膜3をめっき形成するときの材質、電流密度及びめっき時間を例示する。以下のめっき液はいずれも日進化成株式会社のめっき液である。
【0027】
(1) めっき液に商品名T−10の純パラジウムめっき液を用い、最初の1〜10秒間、電流密度を1.0Å/dm2として初期めっき膜3aをめっき形成し、その後、電流密度を0.5A/dm2として残りのめっき膜3bをめっき形成する。
(2) めっき液に商品名PCP−1のパラジウムコバルトめっき液を用い、最初の1〜10秒間、電流密度を3.0Å/dm2として初期めっき膜3aをめっき形成し、その後、電流密度を1.0A/dm2として残りのめっき膜3bをめっき形成する。
(3) めっき液に商品名TP−2の純ロジウムめっき液を用い、最初の1〜5秒間、電流密度を10.0Å/dm2として初期めっき膜3aをめっき形成し、その後、電流密度を3.0A/dm2として残りのめっき膜3bをめっき形成する。
(4) めっき液には商品名Ru−6の純ルテニウムめっき液を用い、最初の1〜10秒間、電流密度を6.0Å/dm2として初期めっき膜3aをめっき形成し、その後、電流密度を2.0A/dm2として残りのめっき膜3bをめっき形成する。
【0028】
上記のいずれによっても、貴金属めっき膜3にて、下地めっき膜2に形成されたピンホール2aを適切に封孔することが出来るとともに、接触性能及び密着性を向上させることが可能である。
【0029】
図1(c)に示すように、ピンホール2aの内部が貴金属めっき膜3にて完全に埋められている形態が好ましいが、ピンホール2a内が貴金属めっき膜3にて完全に埋まらず多少空隙があっても、ピンホール2a上を貴金属めっき膜3にて塞いでいる(封孔している)形態も本実施形態の一つである。
【0030】
図1(c)では、貴金属めっき膜3の表面に、更に最表面めっき膜4をめっき形成しているが、かかる場合、白金族あるいは白金族合金からなる貴金属めっき膜3をめっき形成した後、AuあるいはAgにて最表面めっき膜4をめっき形成することが出来る。
【0031】
ここで白金族合金にはPd−Co,Pd−P,Pd−Ni等を例示できる。またこのような白金族合金を用いることで初期めっき膜3aの結晶粒をより微細化できる効果もある。
【0032】
本実施形態では、白金族あるいは白金族合金からなる貴金属めっき膜3の表面を接点表面にすることも出来るため、AuめっきやAgめっきを最表面に施すことが必要でなく、あるいは図1(c)のように最表面めっき膜4として施すとしても、AuやAgからなる前記最表面めっき膜4を従来に比べて薄く形成することが出来る。
【0033】
以上のように本実施形態では、NiあるいはNi合金からなる下地めっき膜2を電解めっき法にて薄くめっき形成しピンホール2aが形成されても、前記ピンホール2aを貴金属めっき膜3の微細な結晶粒にて封孔でき、薄型化とともに、耐食性、後加工性、接触性能及び半田付け性に優れた電気接点を製造することが出来る。
【0034】
本実施形態では、貴金属めっき膜3を電解めっき法にてめっき形成するとき、例えばめっきの最初から最後まで徐々に電流密度が低くなるように設定してもよいし、あるいは3回以上、段階的に、電流密度を変化させることも出来る。
【0035】
電流密度を変化させる方法は特に限定されない。例えば連続的に電流密度を変化させるには以下の方法がある。
【0036】
まず図2に示すように、電気接点を電解めっきする形成面を有する母材基板(フープ材)35を用意する。母材基板35の表面にレジスト層36を塗布し、前記レジスト層36に各電気接点の形成領域36aに抜きパターンを形成する。図2に示す斜線部分が残されるレジスト層36の領域である。図2では電気接点の形成領域36aを多数配置している。
【0037】
そして図3に示すように、前記母材基板をめっき槽51内に配置する。母材基板35は図3の矢印方向に移動可能に支持されている。
【0038】
図3に示すようにめっき槽51内に配置される陽極53,53は固定側であり、前記陽極53,53は前記母材基板35の移動方向に対して傾斜して配置されている。
【0039】
図3の実施形態では、めっき槽51の左側の入口からめっき浴に入れられ、右側の出口から排出される。
【0040】
陽極53には整流器(図示せず)が接続されて電流が制御される。図3に示すように、陽極53を配置することにより、母材基板35を矢印方向へ移動させると、母材基板35に設けられた各形成領域36aと陽極53との間の距離が徐々に大きくなり、各形成領域36aに作用する電流密度を、前記母材基板35の移動に伴って略直線的に減少させることが出来る。
【0041】
なお、図3では、2つの陽極53,53を備え、前記陽極53,53の間に陰極である母材基板35を介在させているが、これにより母材基板35の両面に電気接点をめっき形成できる。当然、陽極53を一つとし、母材基板35の片面にのみ電気接点をめっき形成することもできる。
【0042】
また、多段階で電流密度を変化させるには例えば次の方法にて行うことが出来る。
図4に示すように、陰極である母材基板35と陽極53との間に複数の開孔55を有するマスク板54を配置する。なお、陽極53は母材基板35に対して平行に配置する。前記マスク板54は、例えば、図5の平面図に示されるように、開孔径の異なる複数の開孔55が母材基板35の移動方向に沿って並んで設けられている。
【0043】
例えば、図5に示されるように、各開孔55の開孔径が母材基板35の移動方向における入口側から出口側に向かって順次小さくなるように形成されたマスク板54を用い、前記母材基板35を図4の矢印方向に移動させると、母材基板35表面に形成された電気接点の各形成領域36aに対する電流密度を前記母材基板35の移動に伴って段階的に小さくできる。
【0044】
また図6に示す実施形態では、陽極53は母材基板35の移動方向に沿って複数に分割された分割陽極53a〜53fにされている。分割陽極53a〜53fは、それぞれ整流器56a〜56fに接続されて電流が制御され、各分割陽極53a〜53fにおいて、個別に電流密度を調整可能となっている。
【0045】
図6に示すように陰極側である母材基板35を矢印方向に移動させると、各接点電極の形成領域36aに対向する分割陽極53a〜53fが次々と変わる。このため、母材基板35の移動に伴って、各形成領域36aに作用する電流密度を多段階で変化させることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 母材金属
2 下地めっき膜
2a ピンホール
3 貴金属めっき膜
3a 初期めっき膜
3b 残りのめっき膜
4 最表面めっき膜
35 母材基板
51 めっき槽
53 陽極
53a〜53b 分割陽極
54 マスク板
55 開孔
56a〜56f 整流器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を有することを特徴とする電気接点の製造方法。
(a) 母材金属上に電解めっき法にてNiあるいはNi合金の下地めっき膜をめっき形成する工程、
(b) 前記下地めっき膜の表面に、貴金属めっき膜を電解めっき法にてめっき形成し、このとき、電流密度を高くして初期めっきをした後、電流密度を低くして残りをめっきする工程。
【請求項2】
前記(b)工程では、白金族あるいは白金族合金により前記貴金属めっき膜をめっき形成する請求項1記載の電気接点の製造方法。
【請求項3】
白金族あるいは白金族合金からなる前記貴金属めっき膜をめっき形成した後、前記貴金属めっき膜の表面に、AuめっきあるいはAgめっきを施す請求項2記載の電気接点の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−180427(P2010−180427A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22467(P2009−22467)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】