説明

電気接点用グリース及び摺動通電構造、電力用開閉機器、真空遮断器、真空絶縁スイッチギヤ、並びに真空絶縁スイッチギヤの組立方法

【課題】
本発明の課題は、摺動が伴っても接触抵抗が漸増せず、かつ、長寿命な電気接点用グリースを適用した摺動通電構造を提供することにある。
【解決手段】
本発明の摺動通電構造は、上記課題を解決するために、摺動式に接触または離れると共に、銀メッキを施されるばね接点と、該ばね接点に適用されると共に、基油は平均分子量2600から12500のパーフロロポリエーテル油であり、増ちょう剤は一次粒径1μm以下のPTFEである電気接点用グリースとを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気接点用グリース及び摺動通電構造、電力用開閉機器、真空遮断器、真空絶縁スイッチギヤ、並びに真空絶縁スイッチギヤの組立方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気接点用グリース及びそれを適用した摺動通電構造に関連する従来技術として、特許文献1がある。この特許文献1には、長期にわたって安定した潤滑効果を達成する電気接点用グリースとそれを施したコンタクトを提供するために、潤滑剤は、主成分としてポリアルファオレフィン又は流動パラフィンを、増粘剤としてポリブテンを用いた混合物に、メルカプトベンゾチアゾール系化合物及びジベンゾチアジルジスルフィドの1種又は2種以上を含有することが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、電気接点に、フッ素系オイルを除く基油の95〜70重量%と、増ちょう剤と添加剤との5〜30重量%とから構成された電気接点用グリースを塗布し、電気接点の遮断時に発生するアークによる接点領域の損傷を抑制することが記載され、増ちょう剤としては、有機化ベントナイトが好ましく、ベースオイルとしては、エステル油やグリコール油、ポリ−α−オレフィンが好ましく、また、ベースオイルが低粘度であることは、アークによるエネルギーが小さく好ましいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3920253号公報
【特許文献2】特開2007−80764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の電気接点用グリースは、アゾ系の添加物を含んでいるため、接触抵抗安定化を目的として銀めっきを施した接点に適用した場合に、銀めっきと反応することにより導電性が低い不動態膜を形成するため、摺動に伴って接触抵抗が漸増する場合があった。
【0006】
また、低粘度の基油を用いると耐用年数が短くなるため、製品耐用年数が数10年以上の電力用開閉機器へ適用する際には、数年毎の定期的な給脂が必要になることが考えられる。
【0007】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、摺動が伴っても接触抵抗が漸増せず、かつ、長寿命な電気接点用グリース及び摺動通電構造、電力用開閉機器、真空遮断器、真空絶縁スイッチギヤ、並びに真空絶縁スイッチギヤの組立方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電気接点用グリースは、上記目的を達成するために、第1の発明として、(1)グリースの基油は、平均分子量2600から12500のパーフロロポリエーテル油であること、(2)グリースの増ちょう剤は、一次粒径1μm以下のPTFE(ポリテトラフルエチレン)であること、(3)アゾ化合物のような、摺動下で銀と反応する化合物を含まないことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る摺動通電構造は、上記課題を解決するために、摺動式に接触または離れると共に、銀メッキを施されるばね接点と、該ばね接点に適用されると共に、基油は平均分子量2600から12500のパーフロロポリエーテル油であり、増ちょう剤は一次粒径1μm以下のPTFEである電気接点用グリースとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、摺動が伴っても接触抵抗が漸増せず、かつ、長寿命な電気接点用グリース、または摺動通電構造を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の電気接点用グリースを適用した摺動通電構造の一例である真空遮断器を示す側断面図である。
【図2】図1に示した本発明の電気接点用グリースを適用した真空遮断器の摺動通電構造における接触抵抗と摺動回数の関係を、表1に示した組合せ1から組合せ5について、接触抵抗と摺動回数特性の関係を実測した結果を示す特性図である。
【図3】図1に示した本発明の電気接点用グリースを適用した真空遮断器の摺動通電構造における接触抵抗と摺動回数の関係を、表1に示した組合せ3、4について、ばね接点の接触力の影響を実測した結果を示す特性図である。
【図4】本発明の電気接点用グリースを適用した摺動通電構造の他の例である真空絶縁スイッチギヤを示す側断面図である。
【図5】図4に示した本発明の電気接点用グリースを適用した真空絶縁スイッチギヤにおける接触抵抗と開離投入回数の関係を、電気接点用グリースとばね接点の2つの組合せで実測した実験結果を示す特性図である。
【図6】図4に示した本発明の電気接点用グリースを適用した真空絶縁スイッチギヤの組立方法を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の電気接点用グリースを適用した摺動通電構造の実施例1として、真空遮断器の例を示す。
【0014】
該図に示す如く、真空遮断器は、接離自在な少なくとも一対の接点を有する真空バルブ1、この真空バルブ1に接続された固定側端子70及び可動側端子71、それらの周囲を覆う絶縁筒72、真空バルブ1の可動側電極6Bに接続された絶縁操作ロッド73、真空バルブ1の可動側電極6Bと固定側電極6Aに接触力を付与するためのワイプ機構74、操作力を発生する操作器76、操作器76に接続された操作ロッド78、操作ロッド78とワイプ機構74を接続するメインレバー75、これらを収納する筐体77から概略構成されている。
【0015】
真空バルブ1は、固定側端板3A、セラミックス絶縁筒2、可動側端板3Bから構成される真空容器内に、前述した固定側電極6Aと可動側電極6Bを収納し、可動側電極6Bと可動側端板3Bは、ベローズ9で接続することによって気密を保ちながら可動側電極6Bを軸方向に駆動可能にし、投入及び遮断状態を切り替えている。
【0016】
更に、真空容器内には、電流遮断時に発生する金属蒸気によってセラミックス絶縁筒2の内面が汚損されないように、アークシールド5が設けられている。真空バルブ1の可動側には、ばね接点16とそれを保持するばね接点台79が設けられ、可動側電極6Bと可動側端子71の間の摺動通電を可能にしている。
【0017】
そして、ばね接点16と可動側電極6Bの電接面には、本発明の電気接点用グリースが塗布されている。また、ばね接点16と可動側電極6Bの表面には、接触抵抗を安定化するために銀めっきが施されている。
【0018】
このように構成された真空遮断器に適用された本発明の電気接点用グリースの条件について、表1、図2及び図3を用いて説明する。
【0019】
表1には、実施例1に適用される真空遮断器向けに検討した電気接点用グリースとばね接点の種々の組合せを示す。
【0020】
図2は、表1に示した組合せ1から組合せ5の摺動通電構造について、接触抵抗と摺動回数特性の関係を実測した結果を示すものであり、組合せ1と組合せ2では、摺動回数の増加に伴って接触抵抗が増加したが、組合せ3と組合せ4では接触抵抗の増加は少なかった。組合せ1の電気接点用グリースは、基油として合成炭化水素油を用いていた。組合せ2、3、4の電気接点用グリースは、基油としてパーフロロポリエーテルを用いていたが、このうち組合せ2の電気接点用グリースは、特性調整用の添加剤が含まれていた。組合せ3の電気接点用グリースは、組合せ2の電気接点用グリースから特性調整用の添加剤を除去したものであり、組合せ4の電気接点用グリースは、始めから特性調整用添加剤を含有していなかった。
【0021】
実験の結果、接触抵抗の増加が少なかった組合せ3と組合せ4で用いた電気接点用グリースは、(1)基油が平均分子量2600から12500のパーフロロポリエーテル油であること、(2)グリースの増ちょう剤は一次粒径1μm以下のPTFEであること、(3)グリースのちょう度はNLGIちょう度でNo.0からNo.2であること、(4)アゾ化合物のような、摺動下で銀と反応する化合物を含まないこと、(5)粒子径が3μm以上の固体物質を含まない特徴を有していた。
【0022】
以上のことから、所望の特性を発揮するのは、以下の機構によると考えられる。
【0023】
まず、グリースが摺動面間に流入して潤滑効果を発揮するためには、グリースが流動性を保ち、摺動に追随して摺動部へ移動することが必要である。そのためには、油分の蒸発による硬化と重力や振動などに伴う流出を防止しなければならない。
【0024】
これらを満たす基油の平均分子量は2600から12500であり、これ以下では、基油の蒸発によるグリースの硬化が起こりやすくなり、また、これ以上では、粘度が高すぎて摺動部への移動が難しくなる。また、グリースのNLGIちょう度がNo.0より軟らかい場合は、重力や振動により摺動部からの流出が起こり、また、No.2より硬い場合は、電極部の摺動に追随して摺動面を潤滑することが難しくなる。
【0025】
次に、増ちょう剤としては、石けん系、複合石けん系、有機系、無機系があるが、石けん系は、耐熱性が劣り高温環境下の使用に向かない。複合石けん系は、耐熱性が改善されるが、経時硬化や熱硬化する傾向があり長期安定性に欠ける。有機系は、耐熱性や安定性に優れるが、特にPTFEは、熱、水、酸化に対して最も安定である。その粒径については1μm以下であれば、一般的な真空開閉器用の銀めっきを施した電極同士の摺動通電部に適用しても、電気的接触に支障をおよぼすことなく潤滑効果が発揮される。これよりも粒径が大きいと、電極面間において、摺動に伴ってPTFEの付着、凝集などが誘引され、潤滑膜の膜厚の増大や電気的接触に支障が生じるものと考えられる。
【0026】
次に、アゾ化合物は、摺動環境下で銀と反応して導電性が低い不動態膜を形成する場合がある。よって、銀めっきを施した電極に適用する場合、摺動に伴って不動態膜が生成され、接触抵抗の漸増をもたらす。このような添加剤にはアゾ系、硫黄系、リン系などが考えられる。
【0027】
尚、本実施例を構成するフッ素系グリースの基油であるパーフロロポリエーテル油や増ちょう剤として用いるPTFEは、銀との反応の可能性はきわめて低いと考えられる。
【0028】
最後に、グリース中に粒子径が3μm以上の固体物質を含むと、電極同士の接触面に入り込んで必要以上に厚い潤滑膜を生成して、電気的接触を阻害するため接触抵抗が著しく上昇すると考えられる。粒子径が3μm以上の添加剤としては、カーボン粒子、マグネシウム化合物、チタン化合物が上げられる。尚、固体物質粒子径が3μm未満では接触抵抗の上昇は見られなかった。
【0029】
また、組合せ5でも接触抵抗の増加は少なかったが、数10年の時間経過後の減量を模擬するために、別途実施した高温加速減量試験の結果、基油にタービン油を用いているために減量が多く、無給脂で数10年間潤滑機能を維持することは困難と判断された。
【0030】
一方、上記組合せ3と4で用いた電気接点用グリースは、基油にパーフロロポリエーテルを用いているため減量が少なく、数10年以上の寿命を持つと判断された。
【0031】
【表1】

【0032】
図3は、表1に示した組合せ3、4について、ばね接点の接触力の影響を実測した結果を示す。図中、組合せ3、4は、図2の特性を比較のためにそのまま示したものであり、ばね接点の接触力は290g/Coilである。一方、図中、組合せ3A、4Aは、ばね接点の接触力が406g/Coilの場合であり、接触抵抗の増加を著しく抑制することが可能であった。
【0033】
ばね接点の接触力が300g/Coil未満では、摺動時に電極によって構成される2面間に流入する電気接点用グリースの量が増加するため、電極間の潤滑膜厚は、摺動に伴って漸増して接触抵抗が上昇する傾向が現れるが、ばね接点の接触力を300g/Coil以上にすると、摺動時に電極によって構成される2面間に流入する電気接点用グリースの量が少なくなるために、薄い潤滑膜が形成される。薄い潤滑膜ほど電気接点用グリースは、スクイーズアウトされにくいことから、膜厚の変化が小さくなるため、接触抵抗の変化を抑制すると考えられる。
【実施例2】
【0034】
図4は、本発明の電気接点用グリースを適用した摺動通電構造の第2の実施の形態として、真空絶縁スイッチギヤの例を示す。
【0035】
該図に示す如く、真空絶縁スイッチギヤは、母線用ブッシング中心導体41、真空バルブ1、ケーブル用ブッシング中心導体43などを固体絶縁物30で一括注型し、大気中で直線運動する接地断路部可動電極12と組み合わせることによって、投入状態、接地状態及び断路状態を切り替える接地断路部10を構成している。尚、本実施例では説明のために当該投入・接地・断路の3位置を切替可能に構成しているが、摺動通電構造を有する開閉器であれば2位置若しくはそれ以上の場合、更には投入・遮断など本実施例では備えない位置を有していてもよいことは言うまでもない。
【0036】
接地断路部可動電極12の両端部近傍には、ばね接点16が設けられ、接地断路部可動電極12が接地断路部ブッシング側固定電極11側に移動することによって、接地断路部ブッシング側固定電極11−接地断路部可動側電極12−接地断路部中間固定電極13−フレキシブル導体15の導通を確保して投入状態を、接地断路部可動電極12が接地断路部接地側固定電極14側に移動することによって、接地断路部接地側固定電極14−接地断路部可動側電極12−接地断路部中間固定電極13−フレキシブル導体15の導通を確保して接地状態をそれぞれ実現する。
【0037】
これらの電接面には、接触抵抗を安定化するために銀めっきが施され、本発明の電気接点用グリースが塗布されている。
【0038】
図5は、図4に示した本発明の電気接点用グリースを適用した真空絶縁スイッチギヤの摺動通電構造における接触抵抗と開離投入回数の関係を、表1に示した組合せ3、3Aについて実測した結果を示すものである。
【0039】
該図に示す組合せ3は、本発明の電気接点用グリースと300g/Coil未満の接圧のばね接点を組み合わせた供試電極構造、組合せ3Aは、本発明の電気接点用グリースと300g/Coil以上の接圧のばね接点を組み合わせた供試電極構造であり、図5は、それぞれの組合せについての特性を示すものである。
【0040】
該図より明らかな如く、組合せ3では接触抵抗が漸増するが、組合せ3Aでは接触抵抗がほぼ一定値で推移することが分る。
【0041】
よって、図4に示した真空絶縁スイッチギヤのような、電極同士が完全に抜離されるような構造においても、図1に示した真空遮断器のような、常に電極同士のはめ合い状態が維持される構造と同様に、安定な接触抵抗特性を得ることができる。
【0042】
図6は、図4に示した真空絶縁スイッチギヤの組立方法を示す。該図に示す如く、真空絶縁スイッチギヤは、まず母線用ブッシング中心導体41、真空バルブ1、ケーブル用ブッシング中心導体43などを固体絶縁物30で一括注型する。これらは必要に応じて金属容器31Aに収納したり、或いは外表面に導電塗料を塗布することによって電位を安定させる。
【0043】
次に、接地断路部中間固定電極13を固体絶縁物30に設けられた留め金具18Aにボルト19で固定すると共に、フレキシブル導体15の一端を接地断路部中間固定電極13と共に止め金具18Bにボルト19で固定する。フレキシブル導体15の他端は、真空バルブ1の可動側ホルダ7Bに、真空バルブ用操作ロッド20と一体で形成されているボルト19によって締結固定される。
【0044】
次に、ばね接点16A、16Bに、上述した電気接点用グリースを塗布してから接地断路部可動電極12にはめ込み、それに接地断路部用操作ロッド21を接続してから、固体絶縁物30の奥部に押し入れて、母線用ブッシング中心導体41とばね接点16Aが通電(接触)可能なように組み立てる。
【0045】
本実施例では、上述した電気接点用グリースでちょう度をNo.2程度に調整したものを適用しており、グリースが適度な粘度を保つことで、母線用ブッシング中心導体41の電接面へ適切にグリースを送り届けることができると共に、数10年の長期間に亘り無給脂で潤滑ならびに通電性能を維持することが可能になる。
【0046】
次に、金属容器蓋31Bに設けた開口部から接地断路部用操作ロッド21、真空バルブ用操作ロッド20を貫通させるような配置で、金属容器蓋31Bを金属容器30に図示しないボルト等で締結する。
【0047】
次に、上述した電気接点用グリースを、接地断路部用接地側固定電極14と真空バルブ用操作ロッド20が駆動軸からずれないようにするガイド17にも塗布し、金属容器蓋31Bに接地断路部接地側固定電極14、ガイド17を真空バルブ用操作ロッド20に対して摺動可能な様にナット18Cとボルト19等で締結して組立が完了する。接地断路部接地側固定電極14は言うまでもなく、ばね接点16Bに対して接触可能に固定される。
【0048】
本実施例では、電力系統側の高電圧が印加される摺動通電部であるばね接点16A、16B及び、機械的な摺動を行う機械摺動部となる真空バルブ用操作ロッド20とガイド17の摺動部に同じグリースを使用している。しかし、摺動通電部と機械摺動部では、要求されるグリースの特性が異なるので、通常は異なるグリースを塗り分けて用いられる。異なるグリースを塗り分けなければならない場合、複数のグリースを用意しなければならず、部材の点数が増えてしまう。また、グリースを塗り分ける必要があることから、作業工程を分ける必要があり、製作の負担が大きくなる。
【0049】
摺動接触する両者の間に電流が流れる摺動通電部に塗布するグリースに要求される性能としては、接触抵抗が初期状態から低く、かつ時間の経過に伴って高くならないことが要求される。接触抵抗が大きくなった場合、通電損失が大きくなるので発熱量が大きくなり、冷却性を向上させる必要があると共に、通電損失が大きくなることでのエネルギーロスも大きくなってしまうからである。接触抵抗を低くすると言う意味では、アゾ系・硫黄系・リン系化合物の様に銀めっきと反応することで不動態膜を形成してしまう化合物を含まないことは効果的である。
【0050】
一方で、電流が流れることを想定せず、むしろ絶縁特性を高めたい機械摺動部に塗布するグリースに要求される性能としては、接触抵抗よりもむしろ絶縁耐性である。この点で、導電性物質を含まないこと、及び誘電率が比較的低いことが重要となる。
【0051】
本実施例で用いるグリースにおいては、接触抵抗を使用前から使用中に亘って低く保つことができ摺動通電部に適用する上で好適であると共に、導電性物質を含まず、誘電率が低いため、機械摺動部に適用する際にも好適となる。よって、グリースを塗り分ける必要がなく、摺動通電部のばね接点16A及び機械摺動部16Bに同じグリースを用いることが可能になっている。即ち、摺動通電部と機械摺動部ではグリースを塗り分ける必要がなく、単一のグリースで済むことから、部材の点数は増えることがない。また、作業工程を分ける必要もなく、製作の負担を減らすことが可能となる。
【0052】
尚、上記の様な手順を一例として説明したが、接地断路部中間固定電極13とフレキシブル導体15をあらかじめ一体に形成することも可能である。また、金属容器蓋31Bと接地断路部接地側固定電極14、ガイド17をあらかじめ一体に締結した後で接地断路部用操作ロッド21、真空バルブ用操作ロッド20を貫通させながら金属容器30に図示しないボルト等で締結することも可能である。また、ばね接点16A、16Bに上述した電気接点用グリースを塗布してから接地断路部可動電極12にはめ込み、それに接地断路部用操作ロッド21を締結した構造体を、最後に接地断路部接地側固定電極14側から挿入することも可能である。
【0053】
なお、本実施例で使用する電気接点用グリースは、アゾ系・硫黄系・リン系化合物の様に銀めっきと反応する化合物を含まないため、接地断路部用操作ロッド21、真空バルブ用操作ロッド20の表面に付着しても電界分布に影響せず、絶縁性能を良好に維持できる効果がある。
【0054】
また、ガイド17のように、電気接点部近傍の機械摺動部に適用しても数10年の長期間に亘り無給脂で潤滑性能を維持することができる。故に、使用するグリースの種類を分ける必要が無くなり、部位によってはグリースを使い分けなければならない場合と比較して、製造工程を短縮できる。この点も本グリースを用いた場合の優れた点である。
【符号の説明】
【0055】
1…真空バルブ、2A…固定側セラミックス絶縁筒、2B…可動側セラミックス絶縁筒、3A…固定側端板、3B…可動側端板、4A…固定側電界緩和シールド、4B…可動側電界緩和シールド、5…アークシールド、6A…固定側電極、6B…可動側電極、7A…固定側ホルダ、7B…可動側ホルダ、8…ベローズシールド、9…ベローズ、10…接地断路部、11…接地断路部ブッシング側固定電極、12…接地断路部可動電極、13…接地断路部中間固定電極、14…接地断路部接地側固定電極、15…フレキシブル導体、16A、16B…ばね接点、17…ガイド、18A、18B…留め金具、18C…ナット、19…ボルト、20…真空バルブ用操作ロッド、21…接地断路部用操作ロッド、30…固体絶縁物、31A…金属容器、31B…金属容器蓋、40…母線用ブッシング、41…母線用ブッシング中心導体、42…ケーブル用ブッシング、43…ケーブル用ブッシング中心導体、50…共通母線、70…固定側端子、71…可動側端子、72…絶縁筒、73…絶縁操作ロッド、74…ワイプ機構、75…メインレバー、76…操作器、77…筐体、78…操作ロッド、79…ばね接点台。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動式に接触または離れると共に、銀メッキを施されるばね接点と、該ばね接点に適用されると共に、基油は平均分子量2600から12500のパーフロロポリエーテル油であり、増ちょう剤は一次粒径1μm以下のPTFEである電気接点用グリースとを有することを特徴とする摺動通電構造。
【請求項2】
基油は平均分子量2600から12500のパーフロロポリエーテル油であり、増ちょう剤は一次粒径1μm以下のPTFEであり、アゾ化合物のような摺動下で銀と反応する化合物を含まないことを特徴とする電気接点用グリース。
【請求項3】
請求項2に記載の電気接点用グリースにおいて、
ちょう度はNLGIちょう度でNo.0からNo.2であることを特徴とする電気接点用グリース。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の電気接点用グリースにおいて、
粒子径が3μm以上の固体物質を含まないことを特徴とする電気接点用グリース。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか1項に記載の電気接点用グリースと300g/Coil以上の接圧のばね接点を組み合わせたことを特徴とする電気接点用グリースを適用した摺動通電構造。
【請求項6】
請求項1又は5に記載の摺動通電構造において、
可動側電極と固定側電極が遮断状態で抜離することを特徴とする電気接点用グリースを適用した摺動通電構造。
【請求項7】
請求項5乃至6のいずれか1項に記載の電気接点用グリースを適用した摺動通電構造を備えたことを特徴とする電力用開閉機器。
【請求項8】
接離自在な少なくとも一対の可動側電極及び固定側電極を有する真空バルブと、該真空バルブに接続された固定側端子及び可動側端子と、それらの周囲を覆う絶縁筒とを備え、前記真空バルブの可動側には、ばね接点とそれを保持するばね接点台が設けられ、前記可動側電極と可動側端子の間の摺動通電を可能にし、かつ、前記ばね接点と可動側電極との電接面には、電気接点用グリースが塗布されている真空遮断器において、
前記電気接点用グリースは、請求項2乃至4のいずれか1項に記載の電気接点用グリースであり、この電気接点用グリースとばね接点を組み合わせたことを特徴とする真空遮断器。
【請求項9】
母線用ブッシング中心導体、真空バルブ、ケーブル用ブッシング中心導体などを固体絶縁物で一括注型して形成され、大気中で直線運動する接地断路部可動電極と組み合わせることで接地状態及び断路状態を切り替える接地断路部を構成し、前記接地断路部可動電極の両端部近傍にはばね接点が設けられ、前記接地断路部可動電極が接地断路部ブッシング側固定電極側に移動することによって投入状態に、前記接地断路部可動電極が接地断路部接地側固定電極側に移動することによって接地状態にそれぞれ切り替え、かつ、前記接地断路部可動電極が移動することによって接触する電接面には、電気接点用グリースが塗布されている真空絶縁スイッチギヤにおいて、
前記電気接点用グリースは、請求項2乃至4のいずれか1項に記載の電気接点用グリースであり、この電気接点用グリースとばね接点を組み合わせたことを特徴とする真空絶縁スイッチギヤ。
【請求項10】
電流の投入又は遮断機能を有すると共に、内部が真空である真空バルブと、該真空バルブ内の真空バルブ用可動電極に操作力を伝達する真空バルブ用操作ロッドと、該真空バルブ用操作ロッドと摺動接触するガイドと、固定電極と可動電極、該可動電極に接続されて前記固定電極と摺動式に通電するばね接点及び前記可動電極に接続されて該可動電極に操作力を伝達する操作ロッドとを有する開閉部と、該開閉部における前記複数の固定電極の一つに対して接続又は一体に形成される母線用ブッシング中心導体と、前記真空バルブ内から前記真空バルブ外に導出される導体に接続されるケーブル用ブッシング中心導体と、前記真空バルブ、前記開閉部、前記母線用ブッシング中心導体及び前記ケーブル用ブッシング中心導体を一括に覆う固体絶縁物と、前記ばね接点に塗布されて基油は平均分子量2600から12500のパーフロロポリエーテル油であり、増ちょう剤は一次粒径1μm以下のPTFEである電気接点用グリースとを備える真空絶縁スイッチギヤの組立方法であって、
前記母線用ブッシング中心導体、前記母線用ブッシング中心導体及び前記ケーブル用ブッシング中心導体を前記固体絶縁物で一括に覆うステップと、前記ばね接点に対して前記グリースを塗布するステップと、該ステップの後に前記開閉部の前記可動電極に前記ばね接点を接続するステップと、該ステップの後に前記固体絶縁物に前記可動電極を挿入し、前記母線用ブッシング中心導体と前記ばね接点が接触可能なように組み立てるステップと、前記ガイドに対して前記グリースを塗布するステップと、該ステップの後に前記ガイドを前記真空バルブ用操作ロッドに摺動可能な様に固定するステップとを有することを特徴とする真空絶縁スイッチギヤの組立方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−238584(P2012−238584A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−93846(P2012−93846)
【出願日】平成24年4月17日(2012.4.17)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000102670)NOKクリューバー株式会社 (36)
【Fターム(参考)】