説明

電気接点用グリース組成物

【課題】微小電流の接点でも低温域での使用においてチャタリング(電圧降下)を発生させることなく、銅表面、銅合金表面、貴金属表面(銀メッキ表面、金メッキ表面等)の摩耗を有効に低減し得る電気接点用グリース組成物を提供すること。
【解決手段】増ちょう剤、基油、及び添加剤を含む電気接点用グリース組成物において、添加剤としてヘクトライトの第4級アンモニウム塩を含む電気接点用グリース組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気接点用グリース組成物に関する。さらに詳細には、電気製品、OA機器、車載電装部品等の通電する電流が微小電流でも低接触抵抗を維持し、低温領域でも電圧降下を生じることなく、表面摩耗を抑制する電気接点用グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電気製品、OA機器、車載電装部品や各種設備用機器などの各種摺動電気接点には摩耗防止の目的でグリースが塗布され使用されている。最近、この分野の電気接点は、電気信号を断続させる微小電流で使用されている。接点材料としては、以前は銅、銅合金接点が多く使用されていたが、最近では良好な導電性を確保するため、金属の中で最も導電性が優れ、また酸化されない銀メッキや耐腐食性が優れる金メッキなど貴金属のメッキを施した接点材料が主流となってきた。一般的には、これら貴金属メッキの下地金属には、銅または銅合金が使用されている。
【0003】
従来は、大電流用のグリースがそのまま微小電流接点にも使用されていた。微小電流用接点グリースには接点材料を摩耗から保護する性能が求められる。しかし、従来のグリースは摩耗抑制効果が弱いため、高い摩擦を受けている接点材料表面、特に貴金属表面接点の貴金属メッキを摩耗させてしまう。また、摩耗により下地金属が表れた場合、銅および銅合金は貴金属と異なり酸化皮膜を形成し易く不導通膜となって電気接点としての機能が失われてしまう。また、接点材料の表面が銀メッキの場合は、空気中に極僅かに存在する硫化性ガスによっても容易に侵され、接触安定性を損なう厚く強固な硫化皮膜を生成するため、銀表面を大気中に存在する硫化性ガスから保護しなければならない。さらに、低温使用時には塗布した接点グリースが増粘により硬くなり過ぎ、そのグリースの絶縁性と相俟って皮膜抵抗となり、通電性を損ない電圧降下(チャタリング)が発生する。
【0004】
このような課題に対し、チタネート系カップリング剤及びアルミニウム系カップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含む電気接点用グリース組成物が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、水酸基を含む脂肪酸および水酸基を含む脂肪酸エステルを含有したグリースが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
一方、電気スイッチ用グリースとして、アルキレンオキサイド−多価アルコール付加重合オリゴマーと鎖状炭化水素オリゴマーを含む基油、リチウム石けん及び第4級アンモニウム塩含有粘度鉱物を含むプラスチック潤滑用グリース組成物が提案されている(特許文献3)。
また、脂肪族炭化水素基油、リチウムヒドロキシステアレート、ポリ3弗化塩化エチレン及びコハク酸を含有する電気接点用潤滑組成物も提案されている(特許文献4)。
【0005】
しかし、近年の厳しい使用条件下では、接点表面の摩耗抑制効果や低温域でのチャタリング性が不十分なケースが発生している。特に、微小電流の接点材料として銀メッキ材を使用した場合、硫化性ガスからの保護、摩耗抑制効果の改善および低温域でのチャタリング性(電圧降下)に充分に効果的なグリースはない。
【0006】
【特許文献1】特開平11−61172
【特許文献2】特開2004−67711
【特許文献3】特公平6−43594
【特許文献4】特開昭59−142293
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、微小電流の接点でも低温域での使用においてチャタリング(電圧降下)を発生させることなく、銅表面、銅合金表面、貴金属表面(銀メッキ表面、金メッキ表面等)の摩耗を有効に低減し得る電気接点用グリース組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、特定の添加剤を含むグリース組成物により、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の電気接点用グリース組成物及びその摺動電気接点における使用を提供するものである。
1.増ちょう剤、基油、及び添加剤を含む電気接点用グリース組成物において、添加剤としてヘクトライトの第4級アンモニウム塩を含む電気接点用グリース組成物。
2.第4級アンモニウム塩が、下記の式で表される上記1記載の電気接点用グリース組成物。
1234+
式中R1、R2、R3、及びR4は、同一でも異なっていても良く、炭素原子数1〜22のアルキル基、炭素原子数7のアルアルキル基である。
3.式中R1、R2、R3、及びR4は、同一でも異なっていても良く、炭素原子数1〜22のアルキル基である上記2記載の電気接点用グリース組成物。
4.基油が合成炭化水素油を含む上記1〜3のいずれか1項記載の電気接点用グリース組成物。
5.合成炭化水素油がポリ‐α‐オレフィンである上記3項記載の電気接点用グリース組成物。
6.増ちょう剤がリチウム石けんである上記1〜5のいずれか1項記載の電気接点用グリース組成物。
7.増ちょう剤が12‐ヒドロキシステアリン酸リチウムである上記6記載の電気接点用グリース組成物。
8.合成炭化水素油の40℃における動粘度が9〜40mm2/sである上記4〜7のいずれか1項記載の電気接点用グリース組成物。
9.銅、銅合金又は貴金属表面を有する摺動電気接点用の上記1〜8のいずれか1項記載の電気接点用グリース組成物。
10.銀メッキ表面又は金メッキ表面を有する摺動電気接点用の上記1〜8のいずれか1項記載の電気接点用グリース組成物。
11.銅、銅合金又は貴金属表面を有する摺動電気接点における上記1〜10のいずれか1項記載の電気接点用グリース組成物の使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電気接点用グリース組成物は、微小電流の接点でも低温域での使用においてチャタリング(電圧降下)を発生させることなく、銅表面、銅合金表面、貴金属表面(銀メッキ表面、金メッキ表面等)の摩耗を有効に低減し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明について詳細に説明する。
本発明のグリース組成物に使用されるヘクトライトの第4級アンモニウム塩としては、第4級アンモニウム塩が、下記の式で表されるものが好ましい。
1234+
式中R1、R2、R3、及びR4は、同一でも異なっていても良く、炭素原子数1〜22、好ましくは1〜18のアルキル基、炭素原子数7のアルアルキル基である。
具体例としては、トリアルキルアルアルキルアンモニウムヘクトライト(例えば、ジメチルオクタデシルベンジルアンモニウム((CH3)2(C18H37)BnN)ヘクトライト)、ジメチルペンチルオクタデシルアンモニウム((CH3)2(C5H11)(C18H37)N)ヘクトライト)、テトラアルキルアンモニウムヘクトライト(例えば、ジメチルジオクタデシルアンモニウム((CH3)2(C18H37)2N)ヘクトライト)、ジメチルジドコサニルアンモニウム((CH3)2(C22H45)2N)ヘクトライト)、等が挙げられる。
本発明のグリース組成物中、ヘクトライトの第4級アンモニウム塩の含有量は、低温時のチャタリング防止の観点から、グリース組成物全体に対して、好ましくは0.3〜20質量%、さらに好ましくは0.5〜15質量%、最も好ましくは1.0〜10質量%である。
【0012】
本発明のグリース組成物に使用する増ちょう剤としては、既知の脂肪酸金属塩、好ましくは炭素原子数16〜20の脂肪酸金属塩が挙げられる。脂肪酸金属塩の具体例としては、炭素数12のラウリン酸、炭素数14のミリスチン酸、炭素数16のパルミチン酸、炭素数18のステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸とNa,Liなどの1価の金属塩、Ba,Caなどの2価の金属塩あるいはアルミニウム(Al)などの3価の金属塩が挙げられる。また二塩基酸を含む2種以上の脂肪酸とAl,Ca,Liなどの金属塩、すなわちコンプレックス石けんも挙げられる。リチウム石けん、特に12−ヒドロキシステアリン酸リチウムは、その耐水性、耐熱性および機械安定性が優れており、最も好ましい。
本発明のグリース組成物中、増ちょう剤の含有量は、通常3〜30質量%であり、好ましくは5〜25質量%、さらに好ましくは、5〜15質量%である。これは、本発明のグリース組成物の硬さ(ちょう度)200〜400を得るためのものであり、増ちょう剤の含有量が3質量%以下では得られたグリースは流動状で軟らかすぎ、30質量%を超えると硬すぎる傾向がある。
【0013】
本発明に基油として使用する合成炭化水素油としては、例えば、PAO(ポリα‐オレフィン)、ポリブデン、ポリエチレン、α‐オレフィンとエチレンの共重合体などのオレフィン重合物が挙げられる。基油として合成炭化水素油を使用することにより、本発明のグリース組成物は耐樹脂性に優れており、接点周辺で使用されている樹脂材に応力割れを発生させることがない。本発明のグリース組成物の基油には、合成炭化水素油以外の基油(例えば、鉱物油、動植物油、エステル油、エーテル油、ポリグリコール油、シリコーン油)を含むこともできるが、その量は、少ない方が良く、5.0質量%以下、好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下であり、合成炭化水素油のみであることが最も好ましい。
本発明に使用する基油は、40℃の動粘度が9〜40mm2/sであり、好ましくは17〜30mm2/sである。動粘度が低すぎると、基油が蒸発しやすくなり、耐熱性が低下する。また、動粘度が高すぎると、潤滑油膜が厚くなり電気が通り難くなる。即ち、低温領域で基油の粘度増加が大きく、接触安定性に悪影響を与え、チャタリング(電圧降下)が発生し易くなる。
本発明のグリース組成物が適用される電気接点の材料は、特に限定されないが、銅、銅合金、金、銀等の貴金属、あるいは銅や銅合金の表面に金メッキや銀メッキ等の貴金属メッキを施したものが好ましい。
【0014】
本発明のグリース組成物には、その他の添加剤を含有させてもよい。例えば、酸化防止剤、錆止め剤、金属不活性化剤、清浄分散剤、極圧添加剤、消泡剤、抗乳化剤、油性向上剤など、グリースに通常使用される添加剤を単独又は2種以上混合して用いることができる。なお、これら添加剤の添加量は、必要に応じて0.1〜10質量%添加するが、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではない。
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。
【0015】
実施例1〜4、比較例1〜3
下記の表1に示すように、増ちょう剤、基油、添加剤を含有するグリース組成物を調製し、その特性を下記の方法により評価した。結果を表1に示す。表中の数字は質量部である。
実施例及び比較例のグリース組成物に使用した各成分は以下のとおりである。
【0016】
増ちょう剤
1: リチウム石けん(12−ヒドロキシステアリン酸リチウム)
2: ジメチルジオクタデシルアンモニウム((CH3)2(C18H37)2N)ベントナイト
基油: PAO1:動粘度(40℃) 18mm2/s
添加剤
1:ジメチルオクタデシルベンジルアンモニウム((CH3)2(C18H37)BnN)ヘクトライト
2:ジメチルジオクタデシルアンモニウム((CH3)2(C18H37)2N)ヘクトライト
3:ジメチルジオクタデシルアンモニウム((CH3)2(C18H37)2N)ベントナイト
4:ひまし油
【0017】
摩擦摩耗試験
銀メッキプレートに厚さ0.5mmのグリースを塗布し、トライボギア試験機(新東科学製)に銀メッキリベットと銀メッキプレートをセットし、規定の荷重、摺動速度、摺動距離、温度条件で10万回往復摺動させた後の銀メッキプレートの摩耗深さを測定する。
測定条件
荷重:200gf 摺動速度:70mm/s
摺動距離(片道):20mm 試験温度:25℃
摺動回数:10万回
【0018】
低温チャタリング試験
銀メッキプレートに厚さ0.5mmのグリースを塗布し、2連型接点環境試験機(山崎精機研究所製)に銀メッキリベットおよび銀メッキプレートをセットする。規定の荷重、電圧・電流をかけ、規定の温度で2時間静置した後、10往復摺動させる(慣らし運転)。再び規定温度で30分保持した後、1摺動目のチャタリング発生時間を測定する。
測定条件
荷重:80gf 摺動速度:70mm/s 摺動距離(片道):20mm
電圧:5V 電流:10mA 試験温度:−40℃
【0019】
実施例1〜4、比較例1〜7の成分及び試験結果を表1に示す。
【表1】

【0020】
添加剤としてヘクトライトの第4級アンモニウム塩を含む実施例1〜4のグリース組成物は、銀メッキプレートにおいて摩耗深さが小さく、低温域でのチャタリング(電圧降下)の発生時間が短い。
これに対して、添加剤としてベントナイトの第4級アンモニウム塩を含む比較例1では、摩耗深さが大きい。添加剤及び増ちょう剤としてベントナイトの第4級アンモニウム塩を含む比較例2では、摩耗深さが大きい。添加剤としてひまし油を含む比較例3では、摩耗深さは小さいが、低温域でのチャタリング(電圧降下)の発生がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増ちょう剤、基油、及び添加剤を含む電気接点用グリース組成物において、添加剤としてヘクトライトの第4級アンモニウム塩を含む電気接点用グリース組成物。
【請求項2】
第4級アンモニウム塩が、下記の式で表される請求項1記載の電気接点用グリース組成物。
1234+
式中R1、R2、R3、及びR4は、同一でも異なっていても良く、炭素原子数1〜22のアルキル基、炭素原子数7のアルアルキル基である。
【請求項3】
式中R1、R2、R3、及びR4は、同一でも異なっていても良く、炭素原子数1〜22のアルキル基である請求項2記載の電気接点用グリース組成物。
【請求項4】
基油が合成炭化水素油を含む請求項1〜3のいずれか1項記載の電気接点用グリース組成物。
【請求項5】
合成炭化水素油がポリ‐α‐オレフィンである請求項3項記載の電気接点用グリース組成物。
【請求項6】
増ちょう剤がリチウム石けんである請求項1〜5のいずれか1項記載の電気接点用グリース組成物。
【請求項7】
増ちょう剤が12‐ヒドロキシステアリン酸リチウムである請求項6記載の電気接点用グリース組成物。
【請求項8】
合成炭化水素油の40℃における動粘度が9〜40mm2/sである請求項4〜7のいずれか1項記載の電気接点用グリース組成物。
【請求項9】
銅、銅合金又は貴金属表面を有する摺動電気接点用の請求項1〜8のいずれか1項記載の電気接点用グリース組成物。
【請求項10】
銀メッキ表面又は金メッキ表面を有する摺動電気接点用の請求項1〜8のいずれか1項記載の電気接点用グリース組成物。
【請求項11】
銅、銅合金又は貴金属表面を有する摺動電気接点における請求項1〜10のいずれか1項記載の電気接点用グリース組成物の使用。

【公開番号】特開2007−204547(P2007−204547A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22956(P2006−22956)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【Fターム(参考)】