説明

電気接点用潤滑組成物

【課題】軽荷重接点においても電気接点部の接触抵抗の安定化及び耐硫化性を損なうことなく、作動寿命を改良した電気接点用潤滑組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の電気接点用潤滑組成物は、炭化水素油100重量部と、金属石鹸0.1重量部〜20重量部と、フッ素オイルを1.0重量部〜10.0重量部と、フッ素樹脂微粉末0.01重量部〜5.0重量部と、シリカ粉0.01重量部〜3.0重量部と、一般式R1SH(式中、R1は炭素数10〜20の飽和又は不飽和の1価の炭化水素基を示す)及び一般式HSR2SH(式中、R2は炭素数3〜16の飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を示す)で表わされる化合物からなる群より選ばれるオルガノチオール化合物0.01重量部〜1.0重量部と、を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気接点用潤滑組成物に関し、特に、電子機器などの機構部品(スイッチ、エンコーダーなど)の摺動電気接点やそれに近接する摺動部分に用いられる電気接点用の潤滑組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電子機器などの機構部品(スイッチ、エンコーダーなど)の摺動電気接点の保護、及びそれに近接する摺動部分に用いられる潤滑組成物は、シリコーンオイルや合成油をシリカ粉や金属石鹸で増稠した潤滑剤である。電気的に安定な接続を得るためには、シリコーンオイルを用いた潤滑剤が有効であるが、硫化水素のような腐食性ガスを遮断する特性に欠けるので、これを補うために通常硫化防止剤を用いる(特許文献1)。
【特許文献1】特公平2−29115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、硫化防止剤の添加によって電気接点の表面に皮膜を形成するため潤滑性は良くなるものの接触抵抗は不安定となり、静止状態の接続安定性は確保されても、外部からの衝撃振動や摺動時のような動的な接続安定性は劣化してしまう。また、接触抵抗を重視して硫化防止を無視したとしても金属同士の接触が強くなるため、摩耗が生じてしまい電気接点の作動寿命が短くなり、昨今の100万回を越える長寿命の要求を満足しなくなる。
【0004】
同様に、炭化水素油を始めとした合成油の場合には、シリコーンオイルに比較して潤滑油膜が強く、潤滑性やガス遮断性は良好であるが、接触抵抗は安定し難い傾向にある。過去のアナログ回路では静止接続の安定性だけも機能してきたが、近年のデジタル信号処理が電子回路の主流となっている中では使用に耐えない。特に近年の軽薄短小化の電気・電子機器の動向にあって、接触荷重も軽量化し、軽い操作が必要とされるようになって来ると一層この要求は高くなっている。
【0005】
これらの要求を溝足するために潤滑剤に研磨剤などを加えると、摺動部の摩耗が著しくなり電気接点の要求作動寿命を満足しない。一方で、シリコーン系潤滑剤は接触安定性に優れた特性は持つものの、シロキサンガスの懸念から使用に当たって制約が設けられる。このため、シリコーンオイルを用いない潤滑剤であって接触の安定性が確保できるものが必要となっている。しかしながら、接触抵抗を安定化することのできる電気接点用潤滑剤が存在しないため、接点の接触力を上げる方法を採らざるを得ないのが実状である。すなわち、20g以下程度の軽荷重接点において、電気的な接続の安定性を静止状態、摺動状態、及び外的な振動が印加される状態においても確保でき、かつ作動寿命が長い電気接点用潤滑組成物が求められている。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、軽荷重接点においても電気接点部の接触抵抗の安定化及び耐硫化性を損なうことなく、作動寿命を改良した電気接点用潤滑組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電気接点用潤滑組成物は、炭化水素油100重量部と、金属石鹸0.1重量部〜20重量部と、フッ素オイルを1.0重量部〜10.0重量部と、フッ素樹脂微粉末0.01重量部〜5.0重量部と、シリカ微粉末0.01重量部〜3.0重量部と、一般式R1SH(式中、R1は炭素数10〜20の飽和又は不飽和の1価の炭化水素基を示す)及び一般式HSR2SH(式中、R2は炭素数3〜16の飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を示す)で表わされる化合物からなる群より選ばれるオルガノチオール化合物0.01重量部〜1.0重量部と、を含有することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、電子機器などの機構部品(スイッチ、エンコーダーなど)の摺動電気接点、及びそれに近接する摺動部分に用いた場合に、電気接点部の接触抵抗の安定化及び耐硫化性を損なうことなく長期の作動耐久性を格段に向上させることができる。
【0009】
本発明の電気接点用潤滑組成物においては、前記炭化水素油は、脂肪族炭化水素油であって98.9℃における粘度が1cSt〜20cStであることが好ましい。
【0010】
本発明の電気接点用潤滑組成物においては、前記炭化水素油がポリαオレフィンオイルであることが好ましい。
【0011】
本発明の電気接点用潤滑組成物においては、前記炭化水素油がエチレンとα−オレフィンとのオリゴマーを含むことが好ましい。
【0012】
本発明の電気接点用潤滑組成物においては、前記金属石鹸がリチウム石鹸であることが好ましい。この場合において、前記リチウム石鹸がリチウムハイドロオキシステアレートであることが好ましい。
【0013】
本発明の電気接点用潤滑組成物においては、前記フッ素オイルがパーフルオロポリエーテルであることが好ましい。
【0014】
本発明の電気接点用潤滑組成物においては、前記シリカ微粉末の含有量が前記オルガノチオール化合物の含有量よりも多いことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電気接点用潤滑組成物は、炭化水素油100重量部と、金属石鹸0.1重量部〜20重量部と、フッ素オイルを1.0重量部〜10.0重量部と、フッ素樹脂微粉末0.01重量部〜5.0重量部と、シリカ微粉末0.01重量部〜3.0重量部と、一般式R1SH(式中、R1は炭素数10〜20の飽和又は不飽和の1価の炭化水素基を示す)及び一般式HSR2SH(式中、R2は炭素数3〜16の飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を示す)で表わされる化合物からなる群より選ばれるオルガノチオール化合物0.01重量部〜1.0重量部と、を含有するので、電子機器などの機構部品の摺動電気接点、及びそれに近接する摺動部分に用いた場合に、電気接点部の接触抵抗の安定化及び耐硫化性を損なうことなく長期の作動耐久性を格段に向上せしめる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の電気接点用潤滑組成物は、炭化水素油100重量部と、金属石鹸0.1重量部〜20重量部と、フッ素オイルを1.0重量部〜10.0重量部と、フッ素樹脂微粉末0.01重量部〜5.0重量部と、シリカ粉0.01重量部〜3.0重量部と、一般式R1SH(式中、R1は炭素数10〜20の飽和又は不飽和の1価の炭化水素基を示す)及び一般式HSR2SH(式中、R2は炭素数3〜16の飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を示す)で表わされる化合物からなる群より選ばれるオルガノチオール化合物0.01重量部〜1.0重量部と、を含有することを特徴とする。
【0017】
本発明の電気接点用潤滑組成物において、基油としては、炭化水素油を用いる。炭化水素油としては、脂肪族炭化水素油でも良く、芳香族炭化水素油でも良い。脂肪族炭化水素油としては、流動パラフィン、ポリα−オレフィンオイル、エチレンとα−オレフィンとのオリゴマー、オレフィンコポリマーなどを挙げることができる。この脂肪族炭化水素油は、潤滑性能、揮発性、粘性抵抗などを考慮して、98.9℃における粘度が1cSt〜20cStのものが好適である。例えば、脂肪族炭化水素油としては、下記一般式(1)で表わされるポリα−オレフィンオリゴマーにおいて、有機基R4として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基などの炭素数が1〜6のアルキル基を含むものが挙げられる。
【化1】

【0018】
芳香族炭化水素油としては、ポリフェニルエーテルなどが挙げられる。なお、これらの基油は、それぞれ単独で用いても良く、混合して用いても良い。
【0019】
本発明の電気接点用潤滑組成物において、基油に適度の稠度を付与する増稠剤としては、金属石鹸を用いる。金属石鹸としては、アルミニウムステアレート、リチウムステアレート、リチウムヒドロキシステアレート、アルミニウムオレエート、リチウムオレエート、リチウムコンプレックス石鹸などが挙げられる。金属石鹸の中でも、リチウムヒドロキシステアレートは広い温度域で安定した潤滑性、性状安定性を示すので好ましい。これらの増稠剤は、塗布に適した稠どや潤滑性、接触抵抗を考慮して、基油成分100重量部に対して0.1重量部〜20重量部の範囲で含まれる。
【0020】
本発明の電気接点用潤滑組成物に含まれるフッ素オイルとしては、パーフルオロアルカン、ポリ3フッ化エチレン、パーフルオロポリエーテルなどが挙げられる。パーフルオロポリエーテルは、比較的炭化水素油と混合し易く、化学的性質も安定であることから接触抵抗の安定性、性状の安定性にも優れている。フッ素オイルは、フッ素オイルの種類や基油である炭化水素油の粘度を考慮して、基油成分100重量部に対して1.0重量部〜10.0重量部の範囲で含まれる。
【0021】
本発明の電気接点用潤滑組成物に含まれるフッ素樹脂微粉末は、潤滑性能、特に60℃を越える温度域での潤滑性に効果があり、潤滑性能の安定化に必要である。フッ素樹脂微粉末としては、電気接点に異物として障害にならないことを考慮して、平均粒径0.05μm〜20μmのものが好ましい。フッ素樹脂微粉末は、接触抵抗の安定化、経済性を考慮して、基油成分100重量部に対して0.01重量部〜5.0重量部の範囲で含まれる。なお、フッ素樹脂微粉末の代わりに、グラファイトなどの他の固体潤滑剤を用いても良い。
【0022】
本発明の電気接点用潤滑組成物に含まれるシリカ微粉末としては、煙霧質シリカ、沈殿シリカ、シリカエアロゲルなどが挙げられる。シリカ微粉末は、接触抵抗、性状安定化、摺動摩耗などを考慮して、基油成分100重量部に対して0.01重量部〜3.0重量部の範囲で含まれる。これらのシリカ微粉末としては、オルガノシラン、ポリオルガノシロキサン、オルガノシラザンなどで表面処理したものを用いても良い。
【0023】
本発明の電気接点用潤滑組成物に含まれるオルガノチオール化合物は、一般式R1SHで表わされるオルガノチオール化合物(オルガノメルカプタン)であり、R1が炭素数10〜20、好ましくは14〜18の範囲の飽和又は不飽和の1価の炭化水素基である。この炭素数は蒸気圧や接触抵抗を考慮して選択する。これらの条件を満たすオルガノメルカプタンとしては、デシルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、テトラデシルメルカプタン、ヘキサデシルメルカプタン、オクタデシルメルカプタン、β−ナフタレンチオールなどが挙げられる。
【0024】
また、本発明の電気接点用潤滑組成物に含まれるオルガノチオール化合物は、耐硫化性を発揮する成分であり、一般式HSR2SHで表わされるオルガノジチオールであり、R2が炭素数3〜16の範囲の飽和又は不飽和の2価の炭化水素基である。この炭素数は蒸気圧や接触抵抗を考慮して選択する。これらの条件を満たすオルガノジチオールとしては、1,3−トリメチレンジチオール、1,4−テトラメチレンジチオール、1,5−ペンタメチレンジチオール、1,6−ヘキサメチレンジチオール、1,8−オクタメチレンジチオール、1,10−デカメチレンジチオールなどが挙げられる。
【0025】
オルガノチオール化合物は、耐硫化性、接触抵抗などを考慮して、基油成分100重量部に対して0.01重量部〜1.0重量部の範囲で含まれる。また、接触抵抗をより安定化するためには、シリカ微粉末の含有量がオルガノチオール化合物の含有量よりも多いことが好ましい。
【0026】
本発明の電気接点用潤滑組成物は、基油成分及び増稠剤成分を加熱混合し、そこにフッ素オイル、フッ素樹脂微粉末、シリカ微粉末及びオルガノチオール化合物を加えて調合する。また、本発明の電気接点用潤滑組成物においては、本発明の効果を損なわない量的、質的範囲内で、他の添加物、例えば酸化防止剤などを混合しても良い。
【0027】
本発明の電気接点用潤滑組成物において、フッ素オイルは、基油である炭化水素油と増稠剤である金属石鹸とで構成されるベースオイルと混合し難い成分である。そして、このフッ素オイルは、ベースオイルに対して上記混合量、すなわち少量加えている。ベースオイルについては、その潤滑性を向上させるためには、油膜の強度を高める必要があるが、油膜の強度を高めると、荷重に対する油切れが悪くなる。例えば、20g以下の荷重の電気接点においては、油膜の強度を高くして潤滑性を高くすると、油膜の切れが悪くなり、接触の確実性が低下する恐れがある。したがって、本発明においては、ベースオイルに混ざり難いオイルを積極的に比較的少量加えて、油切れを良くしている。これにより接触抵抗の安定化を図ることが可能となる。なお、ベースオイルに対して混ざり難いオイルであれば、フッ素オイル以外のオイルを用いても良い。
【0028】
本発明の電気接点用潤滑組成物において、シリカ微粉末は、研磨材としての役割を果たし、ベースオイルやフッ素オイルを物理的に油切れする。したがって、上記フッ素オイルとシリカ微粉末とにより、油切れを良好に起こさせて、20g以下程度の低荷重でも接触抵抗の安定化を図ることができる。また、このシリカ微粉末は、研磨効果を有するので、ごく微量加えることにより、電気接点の作動寿命を長くすることができる。なお、シリカ微粉末の代わりに、フラーレン粒子などを用いても良い。さらに、シリカ微粉末は、ベースオイルとフッ素オイルのような混ざり難いオイルに対してチクソ性を持たせる働きがある。
【0029】
このように、本発明の電気接点用潤滑組成物は、電子機器などの機構部品の摺動電気接点、及びそれに近接する摺動部分に用いた場合に、フッ素オイル及びシリカ微粉末により電気接点部の接触抵抗の安定化を図ることができ、オルガノチオール化合物により耐硫化性を発揮することができる。また、各成分の含有量を調整することにより、接触抵抗の安定化や耐硫化性を損なわずに長期の作動耐久性を格段に向上させることができる。
【0030】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
10cStのポリα―オレフィンオイル100重量部をステンレスカップに入れ、さらにリチウムハイドロオキシステアレートを5重量部加えた。次いで、これをマントルヒーターで230℃までゆっくりと撹拌しながら加温した。200℃を越えると白濁していた液体が透明になり完全に溶解した。次いで、これを冷却し、60℃程度になったところでフッ素オイル(パーフルオロアルカン(ダイキン社製、デムナム))を1重量部、フッ素樹脂粉末1重量部、βナフタレンチオール(芳香族系)0.1重量部、及びシリカ微粉末(比表面積200m2/gの煙霧質シリカ)0.05重量部をその順に加えてよく撹拌して混合した。室温まで冷却したところで、三本ロールミルを用いて剪断を加えながら5回通して電気接点用潤滑組成物を得た(実施例1)。なお、各成分の組成については、下記表1に示す。
【0031】
得られた電気接点用潤滑組成物(実施例1)について、作動寿命試験、高温放置試験及び硫化特性試験を行った。その結果を下記表2に示す。作動寿命試験については、図1に示すエンコーダのスイッチ基板1と摺動子2との間に電気接点用潤滑組成物を塗布し、エンコーダのスイッチを毎分約100回転動作する専用試験装置で動作させ、動作回数10万回、100万回の時点での接触抵抗値及びノイズの発生で判定した。判定においては、30mΩ以下かつノイズ無しを◎とし、50mΩ以下かつノイズ無しを○とし、100mΩ以下かつノイズ小を△とし、100mΩ以上かつノイズ大を×とした。
【0032】
高温放置試験については、汎用の恒温槽(タバイ社製PR−1G)を85℃に設定し、 250時間、500時間放置後の接触抵抗値及びノイズの発生で判定した。判定においては、30mΩ以下かつノイズ無しを◎とし、50mΩ以下かつノイズ無しを○とし、100mΩ以下かつノイズ小を△とし、100mΩ以上かつノイズ大を×とした。
【0033】
硫化試験については、山崎精機社製硫化試験機を用い1ppmの濃度で40℃、70%RHに設定し、硫化水素1ppm、40℃、相対湿度70%〜75%の環境に240時間放置した後の接触抵抗値及び接点部の変色状態から判定した。判定においては、50mΩ以下かつ変色軽微を◎とし、100mΩ以下かつ変色小を○とし、200mΩ以下かつ変色中を△とし、200mΩ以上かつ変色大を×とした。
【0034】
なお、接触抵抗の測定は、YHP社ミリオームメーター4338Bを用いた。ノイズについては、5V、500μAでオシロスコープを用いてバウンス状態を測定した。また、変色の程度は目視で判断した。
【0035】
(実施例2)
10cStのポリα―オレフィンオイル100重量部をステンレスカップに入れ、さらにリチウムハイドロオキシステアレートを5重量部加えた。次いで、これをマントルヒーターで230℃までゆっくりと撹拌しながら加温した。200℃を越えると白濁していた液体が透明になり完全に溶解した。次いで、これを冷却し、60℃程度になったところでフッ素オイル(ポリ3フッ化塩化エチレン(ダイキン社製、ダイフロイル))を3重量部、フッ素樹脂粉末3重量部、βナフタレンチオール(芳香族系)0.05重量部、及びシリカ微粉末(比表面積200m2/gの煙霧質シリカ)0.2重量部をその順に加えてよく撹拌して混合した。室温まで冷却したところで、三本ロールミルを用いて剪断を加えながら5回通して電気接点用潤滑組成物を得た(実施例2)。なお、各成分の組成については、下記表1に併記した。得られた電気接点用潤滑組成物(実施例2)について、作動寿命試験、高温放置試験及び硫化特性試験を行った。その結果を下記表2に併記した。
【0036】
(実施例3)
6cStのエチレンとα−オレフィンのオリゴマー(ルーカント)100重量部をステンレスカップに入れ、さらにリチウムハイドロオキシステアレートを5重量部加えた。次いで、これをマントルヒーターで230℃までゆっくりと撹拌しながら加温した。200℃を越えると白濁していた液体が透明になり完全に溶解した。次いで、これを冷却し、60℃程度になったところでフッ素オイル(ポリ3フッ化塩化エチレン(ダイキン社製、ダイフロイル))を3重量部、フッ素樹脂粉末1重量部、ステアリルメルカプタン(脂肪族系)0.05重量部、及びシリカ微粉末(比表面積200m2/gの煙霧質シリカ)0.1重量部をその順に加えてよく撹拌して混合した。室温まで冷却したところで、三本ロールミルを用いて剪断を加えながら5回通して電気接点用潤滑組成物を得た(実施例3)。なお、各成分の組成については、下記表1に併記した。得られた電気接点用潤滑組成物(実施例3)について、作動寿命試験、高温放置試験及び硫化特性試験を行った。その結果を下記表2に併記した。
【0037】
(実施例4)
フェニルエーテル(15.8mm2/s、40℃)100重量部をステンレスカップに入れ、さらにリチウムハイドロオキシステアレートを3重量部加えた。次いで、これをマントルヒーターで230℃までゆっくりと撹拌しながら加温した。200℃を越えると白濁していた液体が透明になり完全に溶解した。次いで、これを冷却し、60℃程度になったところでフッ素オイル(ポリ3フッ化塩化エチレン(ダイキン社製、ダイフロイル))を5重量部、フッ素樹脂粉末1重量部、ステアリルメルカプタン(脂肪族系)0.1重量部、及びシリカ微粉末(比表面積200m2/gの煙霧質シリカ)0.2重量部をその順に加えてよく撹拌して混合した。室温まで冷却したところで、三本ロールミルを用いて剪断を加えながら5回通して電気接点用潤滑組成物を得た(実施例4)。なお、各成分の組成については、下記表1に併記した。得られた電気接点用潤滑組成物(実施例4)について、作動寿命試験、高温放置試験及び硫化特性試験を行った。その結果を下記表2に併記した。
【0038】
(実施例5)
10cStのポリα―オレフィンオイル80重量部とフェニルエーテル(15.8mm2/s、40℃)20重量部をステンレスカップに入れ、さらにリチウムハイドロオキシステアレートを5重量部加えた。次いで、これをマントルヒーターで230℃までゆっくりと撹拌しながら加温した。200℃を越えると白濁していた液体が透明になり完全に溶解した。次いで、これを冷却し、60℃程度になったところでフッ素オイル(パーフルオロアルカン(ダイキン社製、デムナム))を5重量部、フッ素樹脂粉末3重量部、ステアリルメルカプタン(脂肪族系)0.1重量部、及びシリカ微粉末(比表面積200m2/gの煙霧質シリカ)0.1重量部をその順に加えてよく撹拌して混合した。室温まで冷却したところで、三本ロールミルを用いて剪断を加えながら5回通して電気接点用潤滑組成物を得た(実施例5)。なお、各成分の組成については、下記表1に併記した。得られた電気接点用潤滑組成物(実施例5)について、作動寿命試験、高温放置試験及び硫化特性試験を行った。その結果を下記表2に併記した。
【0039】
(実施例6)
6cStのエチレンとα−オレフィンのオリゴマー(ルーカント)100重量部をステンレスカップに入れ、さらにリチウムハイドロオキシステアレートを5重量部加えた。次いで、これをマントルヒーターで230℃までゆっくりと撹拌しながら加温した。200℃を越えると白濁していた液体が透明になり完全に溶解した。次いで、これを冷却し、60℃程度になったところでフッ素オイル(パーフルオロアルカン(ダイキン社製、デムナム))を5重量部、フッ素樹脂粉末3重量部、ステアリルメルカプタン(脂肪族系)0.1重量部、及びシリカ微粉末(比表面積200m2/gの煙霧質シリカ)0.2重量部をその順に加えてよく撹拌して混合した。室温まで冷却したところで、三本ロールミルを用いて剪断を加えながら5回通して電気接点用潤滑組成物を得た(実施例6)。なお、各成分の組成については、下記表1に併記した。得られた電気接点用潤滑組成物(実施例6)について、作動寿命試験、高温放置試験及び硫化特性試験を行った。その結果を下記表2に併記した。
【0040】
(実施例7)
10cStのポリα―オレフィンオイル100重量部をステンレスカップに入れ、さらにリチウムハイドロオキシステアレートを5重量部加えた。次いで、これをマントルヒーターで230℃までゆっくりと撹拌しながら加温した。200℃を越えると白濁していた液体が透明になり完全に溶解した。次いで、これを冷却し、60℃程度になったところでフッ素オイル(パーフルオロポリエーテル(アウジモント社製、フォンブリン))を3重量部、フッ素樹脂粉末1重量部、βナフタレンチオール(芳香族系)0.05重量部、及びシリカ微粉末(比表面積200m2/gの煙霧質シリカ)0.1重量部をその順に加えてよく撹拌して混合した。室温まで冷却したところで、三本ロールミルを用いて剪断を加えながら5回通して電気接点用潤滑組成物を得た(実施例7)。なお、各成分の組成については、下記表1に併記した。得られた電気接点用潤滑組成物(実施例7)について、作動寿命試験、高温放置試験及び硫化特性試験を行った。その結果を下記表2に併記した。
【0041】
(実施例8)
6cStのエチレンとα−オレフィンのオリゴマー(ルーカント)100重量部をステンレスカップに入れ、さらにリチウムハイドロオキシステアレートを3重量部加えた。次いで、これをマントルヒーターで230℃までゆっくりと撹拌しながら加温した。200℃を越えると白濁していた液体が透明になり完全に溶解した。次いで、これを冷却し、60℃程度になったところでフッ素オイル(パーフルオロポリエーテル(アウジモント社製、フォンブリン))を5重量部、フッ素樹脂粉末3重量部、ステアリルメルカプタン(脂肪族系)0.1重量部、及びシリカ微粉末(比表面積200m2/gの煙霧質シリカ)0.05重量部をその順に加えてよく撹拌して混合した。室温まで冷却したところで、三本ロールミルを用いて剪断を加えながら5回通して電気接点用潤滑組成物を得た(実施例8)。なお、各成分の組成については、下記表1に併記した。得られた電気接点用潤滑組成物(実施例8)について、作動寿命試験、高温放置試験及び硫化特性試験を行った。その結果を下記表2に併記した。
【0042】
(実施例9)
10cStのポリα―オレフィンオイル100重量部をステンレスカップに入れ、さらにリチウムハイドロオキシステアレートを3重量部加えた。次いで、これをマントルヒーターで230℃までゆっくりと撹拌しながら加温した。200℃を越えると白濁していた液体が透明になり完全に溶解した。次いで、これを冷却し、60℃程度になったところでフッ素オイル(パーフルオロポリエーテル(アウジモント社製、フォンブリン))を5重量部、フッ素樹脂粉末5重量部、ステアリルメルカプタン(脂肪族系)0.1重量部、及びシリカ微粉末(比表面積200m2/gの煙霧質シリカ)0.1重量部をその順に加えてよく撹拌して混合した。室温まで冷却したところで、三本ロールミルを用いて剪断を加えながら5回通して電気接点用潤滑組成物を得た(実施例9)。なお、各成分の組成については、下記表1に併記した。得られた電気接点用潤滑組成物(実施例9)について、作動寿命試験、高温放置試験及び硫化特性試験を行った。その結果を下記表2に併記した。
【0043】
(実施例10)
6cStのエチレンとα−オレフィンのオリゴマー(ルーカント)100重量部をステンレスカップに入れ、さらにリチウムハイドロオキシステアレートを3重量部加えた。次いで、これをマントルヒーターで230℃までゆっくりと撹拌しながら加温した。200℃を越えると白濁していた液体が透明になり完全に溶解した。次いで、これを冷却し、60℃程度になったところでフッ素オイル(ポリ3フッ化塩化エチレン(ダイキン社製、ダイフロイル))を5重量部、フッ素樹脂粉末1重量部、ステアリルメルカプタン(脂肪族系)0.1重量部、及びシリカ微粉末(比表面積200m2/gの煙霧質シリカ)0.1重量部をその順に加えてよく撹拌して混合した。室温まで冷却したところで、三本ロールミルを用いて剪断を加えながら5回通して電気接点用潤滑組成物を得た(実施例10)。なお、各成分の組成については、下記表1に併記した。得られた電気接点用潤滑組成物(実施例10)について、作動寿命試験、高温放置試験及び硫化特性試験を行った。その結果を下記表2に併記した。
【0044】
(比較例1)
フッ素オイルを含有しないこと以外は、実施例1と同様にして、電気接点用潤滑組成物を得た(比較例1)。なお、各成分の組成については、下記表1に併記した。得られた電気接点用潤滑組成物(比較例1)について、作動寿命試験、高温放置試験及び硫化特性試験を行った。その結果を下記表2に併記した。
【0045】
(比較例2)
フッ素樹脂粉末を含有しないこと、βナフタレンチオールの変わりにステアリルメルカプタンを用いること以外は、実施例3と同様にして、電気接点用潤滑組成物を得た(比較例2)。なお、各成分の組成については、下記表1に併記した。得られた電気接点用潤滑組成物(比較例2)について、作動寿命試験、高温放置試験及び硫化特性試験を行った。その結果を下記表2に併記した。
【0046】
(比較例3)
オルガノチオール化合物が過剰に加えられたこと以外は、実施例6と同様にして、電気接点用潤滑組成物を得た(比較例3)。なお、各成分の組成については、下記表1に併記した。得られた電気接点用潤滑組成物(比較例3)について、作動寿命試験、高温放置試験及び硫化特性試験を行った。その結果を下記表2に併記した。
【0047】
(比較例4)
シリカ微粉末を含有しないこと以外は、実施例4と同様にして、電気接点用潤滑組成物を得た(比較例4)。なお、各成分の組成については、下記表1に併記した。得られた電気接点用潤滑組成物(比較例4)について、作動寿命試験、高温放置試験及び硫化特性試験を行った。その結果を下記表2に併記した。
【0048】
【表1】

【表2】

【0049】
表2から分かるように、本発明の電気接点用潤滑組成物(実施例1〜実施例10)は、電気接点部の接触抵抗の安定化及び耐硫化性を損なうことなく、長い作動寿命を示した。一方、フッ素オイルを含まない電気接点用潤滑組成物(比較例1)は、接触抵抗の安定性が悪く、フッ素樹脂粉末を含まない電気接点用潤滑組成物(比較例2)は、100万回での作動寿命や硫化特性が悪く、オルガノチオール化合物が過剰に加えられた電気接点用潤滑組成物(比較例3)やシリカ微粉末を含有しない電気接点用潤滑組成物(比較例4)は、接触抵抗の安定化及び耐硫化性がいずれも悪かった。
【0050】
本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。例えば、構成成分や含有量、配合手順などについては、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々変更して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の電気接点用潤滑組成物を用いるエンコーダを示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 スイッチ基板
2 摺動子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素油100重量部と、金属石鹸0.1重量部〜20重量部と、フッ素オイルを1.0重量部〜10.0重量部と、フッ素樹脂微粉末0.01重量部〜5.0重量部と、シリカ微粉末0.01重量部〜3.0重量部と、一般式R1SH(式中、R1は炭素数10〜20の飽和又は不飽和の1価の炭化水素基を示す)及び一般式HSR2SH(式中、R2は炭素数3〜16の飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を示す)で表わされる化合物からなる群より選ばれるオルガノチオール化合物0.01重量部〜1.0重量部と、を含有することを特徴とする電気接点用潤滑組成物。
【請求項2】
前記炭化水素油は、脂肪族炭化水素油であって98.9℃における粘度が1cSt〜20cStであることを特徴とする請求項1記載の電気接点用潤滑組成物。
【請求項3】
前記炭化水素油がポリα−オレフィンオイルであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の電気接点用潤滑組成物。
【請求項4】
前記炭化水素油がエチレンとα−オレフィンとのオリゴマーを含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電気接点用潤滑組成物。
【請求項5】
前記金属石鹸がリチウム石鹸であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の電気接点用潤滑組成物。
【請求項6】
前記リチウム石鹸がリチウムハイドロオキシステアレートであることを特徴とする請求項5記載の電気接点用潤滑組成物。
【請求項7】
前記フッ素オイルがパーフルオロポリエーテルであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の電気接点用潤滑組成物。
【請求項8】
前記シリカ微粉末の含有量が前記オルガノチオール化合物の含有量よりも多いことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の電気接点用潤滑組成物。


【図1】
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【公開番号】特開2007−326996(P2007−326996A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−160911(P2006−160911)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】