説明

電気散逸性(ELECTRICALLY−DISSIPATIVE)プロピレンポリマー組成物

改良されたフローマークの所望のバランス、導電性ならびに耐衝撃性および剛性の良好なバランスを備えた電気散逸性プロピレンポリマー組成物が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気散逸性プロピレンポリマー組成物に関する。さらに詳細には、本発明は、射出成形品における表面欠陥、たとえばフローマークの減少を示す電気散逸性プロピレンポリマー組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
静電塗装法によってコーティング品を作製することが既知である。そのような方法では、塗料またはコーティングは、帯電またはイオン化され、そして接地された導電性品上へ噴霧され、塗料またはコーティングと接地品との間の静電気引力は、特に物品が複雑な形状を有するときに、より少ない塗料材料の無駄、より厚くさらに均一な塗料被覆を伴う、より効率的な塗装工程をもたらす。金属から製造された物品を塗装する場合、本質的に導電性である金属は容易に接地され、効率的に塗装される。近年、物品の製造において、特に重量の軽減および耐腐食性の向上を必要とする用途、たとえば自動車用途においては、ポリマー材料、たとえばプロピレンポリマーの使用が重要視されてきた。しかしながらそのような工程で通例使用されるポリマーは、物品を静電塗装するときに満足な塗料厚および被覆を効率的に得るためには導電性が不十分である。さらにそのような物品は、表面欠陥、たとえばフローマークおよび銀条(flow marks and silver streaks)を示すことも既知である。銀条は一般に過熱現象と関連しているが、これに対してフローマーク欠陥は樹脂の粘度、または流動性と関連していると思われる。
【0003】
フローマークは、一連の交互の高および低光沢帯または縞として射出成形品の表面に現れ、場合によりトラ縞(tiger striping)という用語を与える。各帯の一般的な向きは、射出中のメルトフローの方向にほぼ垂直である。これらのマークは、成形品の機械的特性に感知できるほどの影響を及ぼさず、また接触によっても識別できない。しかしながらその存在は美的には許容されず、成形部品内の不均質外観のために許容できないほど高い品質管理不合格率をもたらすことが多い。該効果は、高い縦横比を持つ大型の成形品、たとえば自動車部品、たとえばインパネおよびバンパー計器盤にて顕著である。
【0004】
静電コーティング用途で使用に対してその導電性を改良するために、導電性フィラーをポリマー、たとえば耐衝撃性改質プロピレンポリマーへ組み込む方法が既知である。たとえば米国特許第5,484,838号は、結晶性ポリマー、アモルファスポリマー、および導電性カーボンブラックを含み、カーボンブラックの少なくとも一部が結晶性ポリマー中に分散している、静電塗装品の作製に有用として教示されたポリマーブレンドを開示している。別の例は、導電性カーボンブラックを含み、カーボンブラックが主に副相内に分散している、静電塗装品の作製に有用として教示された2相ポリマーブレンドを開示している米国特許第5,844,037号である。しかしながらそれから作製された物品の導電性、特定の導電性を持つ組成物を提供するために必要なカーボンブラックの量、そのような組成物の調製のための処理要件はもちろんのこと、それから作製した静電コーティング品の物理的特性および/または表面外観特性も、ある用途には望ましいとは言えない。
【0005】
プロピレンポリマー樹脂の粘度を低下させることによって、成形品の表面外観特性を改良する技術が試みられている。この技法は、フローマークの出現を減少させるが、しかしながら粘度の低下は、他の物理的特性に有害な影響を及ぼすことがある。フローマークは、成形工程後に物品をアニーリングすることによって減少させることもできる。しかしながらこのアニーリングステップは、物品をアニーリングするために必要なエネルギーの増加、アニーリング時間の延長、および射出成形装置をアニーリング手段としても作用させるために必要な装置の改良を考慮すると、商業的に実現不可能であるか、望ましくない。技術は、生じた成形品または溶接品の外観を改善するために低粘度ゴム成分をポリプロピレンに添加することも述べている、米国特許第5,468,808号を参照。
【0006】
導電性を付与するために、またはプロピレンポリマー組成物のフローマークを減少させるために、多数の方法が試みられたが、しかしながら本発明者の知る限りでは、これらの方法は、電気散逸性であり、かつフローマークが減少したプロピレンポリマー組成物を生成することができなかった。それゆえ電気散逸性プロピレンポリマー組成物より作製した物品のフローマークを減少させる必要が存在する。
【0007】
本発明は、そのような所望の電気散逸性プロピレンポリマー組成物である。本組成物は、改良されたフローマークの所望のバランス、導電性ならびに剛性および靱性の良好なバランスを所有する。本発明の電気散逸性プロピレンポリマー組成物は、1,000,000に等しい、またはそれを超えるMzであるゴム、好ましくはEPゴムを有するプロピレンブロックコポリマー;ポリオレフィンエラストマー、好ましくは実質的に直鎖のエチレンポリマーまたは直鎖エチレンポリマー;1012オームまたはそれ未満の表面抵抗率を提供するのに十分な量の、エチレン性導電性炭素、好ましくは導電性カーボンブラック、カーボンファイバーまたはグラファイト;場合によりオレフィン性ポリマー、好ましくはHDPE;および場合によりフィラー、好ましくはタルクを含む。
【0008】
本発明の別の実施形態は、上述の電気散逸性プロピレンポリマー組成物を製造品に押出または成形する工程である。
【0009】
本発明のなお別の実施形態は、製造品、好ましくは自動車部品、たとえばバンパー、計器盤、ホイールカバー、ドア、インパネ、トリム、外装材、ロッカーパネル、またはグリルの形の上述の電気散逸性プロピレンポリマー組成物である。
【0010】
本発明の電気散逸性プロピレンポリマー組成物の成分(a)は、プロピレンブロックコポリマーである。本発明に適したプロピレンブロックコポリマーは文献で周知であり、既知の技法によって調製できる。他の形(たとえばシンジオタクチックまたはアタクチック)も使用できるが、一般にアイソタクチック形のプロピレンブロックコポリマーが使用される。本発明のプロピレンブロックコポリマーは好ましくは高結晶性である。
【0011】
本発明で使用されるプロピレンブロックコポリマーは、99〜30重量パーセントの、ポリプロピレンのホモポリマーであるブロック(a)(i)、プロピレンおよびアルファオレフィン、好ましくはC2またはC4−C20アルファオレフィンのランダムコポリマー;あるいはその組合せを含む。ブロック(a)(i)は、100〜90重量パーセントのプロピレン部分および0〜10重量パーセントのアルファオレフィン部分を含む。
【0012】
本明細書で使用するように、別途定義しない限り、分子量は重量平均分子量(Mw)である。本発明において、プロピレンポリマー部のブロック(a)(i)は、好ましくは100,000またはそれを超えるMw、さらに好ましくは125,000またはそれを超えるMw、そして最も好ましくは150,000またはそれを超えるMwを有する。プロピレンポリマー部は、好ましくは500,000またはそれ未満の、さらに好ましくは300,000またはそれ未満の、最も好ましくは250,000またはそれ未満のMwを有する。
【0013】
本発明で使用するプロピレンブロックコポリマーは、70〜1重量パーセントの、プロピレンおよびアルファオレフィン、好ましくはC2またはC4−C20アルファオレフィンのコポリマーである、ブロック(a)(ii)、ゴム部;あるいはその組合せを含む。ブロック(a)(ii)は、70〜30重量パーセントのプロピレン部分および30〜70重量パーセントのアルファオレフィン部分を含む。
【0014】
2またはC4−C20アルファオレフィンの例は、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−ヘキサドデセン、4−メチル−1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、ジエチル−1−ブテン、トリメチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、エチル−1−ペンテン、プロピル−1−ペンテン、ジメチル−1−ペンテン、メチルエチル−1−ペンテン、ジエチル−1−ヘキセン、トリメチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ヘキセン、3,5,5−トリメチル−1−ヘキセン、メチルエチル−1−ヘプテン、トリメチル−1−ヘプテン、ジメチルオクテン、エチル−1−オクテン、メチル−1−ノネン、ビニルシクロペンテン、ビニルシクロヘキセンおよびビニルノルボルネンを含み、アルキル分岐位置が規定されない場合、それは一般にアルケンの位置3以上にある。エチレンは好ましいアルファオレフィンである。
【0015】
好ましくは、ゴム部は、100,000またはそれを超えるMw、さらに好ましくは150,000またはそれを超えるMw、そして最も好ましくは200,000またはそれを超えるMwを有する。ゴム部は、好ましくは、500,000またはそれ未満の、さらに好ましくは400,000またはそれ未満、そして最も好ましくは300,000またはそれ未満のMwを有する。
【0016】
ゴム部が高いMzを有することも望ましい。高いMzは本明細書では、1,000,000またはそれを超えるMz、さらに好ましくは1,500,000またはそれを超えるMz、そして最も好ましくは2,000,000またはそれを超えるMzとして定義される。ゴム部の高いMzは、たとえば供給において少ない水素ガスを使用すること、または水素を全く使用しないことによって得られる。触媒の水素ガスに対する感受性を低下させる化合物、たとえばエステルをブロック(a)(i)の重合完了時に、そしてブロック(a)(ii)の重合前に反応混合物に添加することも可能である。
【0017】
ブロック(a)(i)およびブロック(a)(ii)は、別個の相である。ブロック(a)(ii)をブロック(a)(i)中に分散させることができ、ブロック(a)(i)をブロック(a)(ii)中に分散させることができ、またはブロック(a)(i)および(a)(ii)は共連続でありうる。好ましくは、ゴム部、ブロック(a)(ii)は、プロピレンポリマー部、ブロック(a)(i)中に別個のゴム粒子として分散される。好ましくは、ゴム粒子の40パーセントが、またはそれ未満0.9ミクロン(μm)のゴム粒径を有し、さらに好ましくはゴム粒子の40パーセントが0.6μmまたはそれ未満のゴム粒径を有し、なおさらに好ましくはゴム粒子の90パーセントが0.9μmまたはそれ未満のゴム粒径を有し、そして最も好ましくはゴム粒子の90パーセントが0.6μmまたはそれ未満のゴム粒径を有する。好ましくは、平均ゴム粒径は、10μmまたはそれ未満の、さらに好ましくは5μmまたはそれ未満の、そして最も好ましくは2.5μmまたはそれ未満である。
【0018】
本発明のプロピレンブロックコポリマーは、各種の工程により、たとえば1段階または多段階で、スラリー重合、気相重合、バルク重合、溶液重合またはその組合せなどの重合方法によって、メタロセン触媒または通常はチタンを含む固体遷移金属成分を含む触媒である、いわゆるチーグラーナッタ触媒を使用して調製できる。特に触媒は、遷移金属/固体成分として、チタン、マグネシウムおよびハロゲンを必須成分として含有するチタントリクロライドの固体組成物;有機金属成分として、有機アルミニウム化合物;および所望ならば、電子供与体より成る。好ましい電子供与体は、窒素原子、リン原子、硫黄原子、ケイ素原子またはホウ素原子を含有する有機化合物であり、これらの原子を含有するケイ素化合物、エステル化合物またはエーテル化合物が好ましい。
【0019】
プロピレンブロックコポリマーは通常、重合リアクター内でプロピレンを適切な分子量制御剤と触媒反応させることによって作製される。反応が完了した後に結晶形成を促進するために、成核剤を添加する。重合触媒は、高い活性を有し、高タクチックポリマー(tactic polymer)を生成可能なはずである。リアクターシステムは、反応の温度および圧力が適切に制御できるように、反応マスから重合熱を除去できなければならない。
【0020】
ASTM D 1238(別途記載しない限り、条件は230℃および印加負荷は2.16キログラム(kg)である)による、本発明の電気散逸性プロピレンポリマー組成物のメルトフローレート(MFR)またはメルトインデックス(MI)は、0.1グラム/10分(g/10分)またはそれを超え、好ましくは0.5g/10分を超え、さらに好ましくは1g/10分を超え、そしてなおさらに好ましくは2g/10分を超える。本明細書で有用なプロピレンコポリマーのメルトフローレートは一般に100g/10分未満であり、好ましくは50g/10分未満であり、さらに好ましくは25g/10分未満であり、さらに好ましくは15g/10分未満である。
【0021】
プロピレンブロックコポリマーは、電気散逸性ポリマー組成物の重量に基づいて、30重量部またはそれを超え、好ましくは35重量部またはそれを超え、さらに好ましくは40重量部またはそれを超え、そして最も好ましくは45重量部またはそれを超える量で存在する。プロピレンブロックコポリマーは、電気散逸性ポリマー組成物の重量に基づいて、90重量部またはそれ未満の、好ましくは80重量部またはそれ未満の、さらに好ましくは70重量部またはそれ未満の、そして最も好ましくは65重量部またはそれ未満の量で存在する。
【0022】
本発明の組成物中の成分(b)は、ポリオレフィンエラストマーである。適切なポリオレフィンエラストマーは、25℃未満の、好ましくは0℃未満の、最も好ましくは−25℃未満のガラス転移温度(Tg)を有する、重合形の1つまたはそれ以上のC2−C20アルファオレフィンを含む。Tgは、ポリマー材料が、たとえば機械強度を含む、その物理特性で突然の変化を示す温度または温度範囲である。Tgは、示差走査熱量測定によって決定できる。本ポリオレフィンエラストマーが選択されるポリマーの種類の例は、アルファオレフィン、たとえばエチレンおよびプロピレン(EPR)、エチレンおよび1−ブテン(EBR)、エチレンおよび1−ヘキセンまたはエチレンおよび1−オクテンコポリマーのコポリマー、ならびにエチレン、プロピレンおよびジエンコモノマーの、たとえばヘキサジエンまたはエチリデンノルボルネン(EDPM)のターポリマーを含む。ポリオレフィンエラストマーは、プロピレンブロックコポリマーのゴム相と適合性または混和性である。ポリオレフィンエラストマーとゴム相の生じた組合せは、電気散逸性プロピレンポリマー組成物のエラストマー相を含む。
【0023】
好ましくは、ポリオレフィンエラストマーは1つまたはそれ以上の実質的に直鎖のエチレンポリマーあるいは1つまたはそれ以上の直鎖エチレンポリマー(S/LEP)、あるいはそれぞれの1つまたはそれ以上の混合物である。実質的に直鎖のエチレンポリマーおよび直鎖エチレンポリマーはどちらも既知である。実質的に直鎖のエチレンポリマーおよびその調製方法は、米国特許第5,272,236号および米国特許第5,278,272号に十分に記載されている。直鎖エチレンポリマーおよびその調製方法は、米国特許第3,645,992号;米国特許第4,937,299号;米国特許第4,701,432号;米国特許第4,937,301号;米国特許第4,935,397号;米国特許第5,055,438号;欧州特許第129,368号;欧州特許第260,999号;およびWO 90/07526に十分に記載されている。
【0024】
本明細書で使用するように「直鎖エチレンポリマー」は、エチレンのホモポリマーまたはエチレンおよび1つまたはそれ以上のアルファオレフィンコモノマーのコポリマーであって、直鎖主鎖(すなわち架橋なし)を有し、長鎖分岐がなく、狭い分子量分布を有し、アルファオレフィンコポリマーの場合には、狭い組成分布を有するものを意味する。さらに本明細書で使用するように、「実質的に直鎖のエチレンポリマー」は、エチレンのホモポリマーまたはエチレンおよび1つまたはそれ以上のアルファオレフィンコモノマーのコポリマーであって、直鎖主鎖、規定および限定された長鎖分岐の量、狭い分子量分布を有し、アルファオレフィンコポリマーの場合には狭い組成分布を有するものを意味する。
【0025】
直鎖コポリマー中の短鎖分岐は、意図的に添加されたC3−C20アルファオレフィンコモノマーの重合時に生じるアルキル側基(pendant alkyl group)より発生する。狭い組成分布は場合により、均一短鎖分岐とも呼ばれる。狭い組成分布および均一短鎖分岐は、エチレンおよびアルファオレフィンコモノマーの所与のコポリマー内にランダムに分布し、実質的にすべてのコポリマー分子が同じエチレン対コモノマー比を有するという事実を指す。組成分布の狭さは、組成分布分岐インデックス(Composition Distribution Branch Index, CDBI)の値によって示され、場合により短鎖分岐分布インデックス(Short Chain Branch Distribution Index)と呼ばれる。CDBIは、メジアンモルコモノマー含有率(the median molar comonomer content)の50パーセント以内のコモノマー含有率を有するポリマー分子の重量パーセントとして定義される。CDBIはたとえばWild, Journal of Polymer Science, Polymer Physics Edition, Volume 20, page 441 (1982)、または米国特許第4,798,081号に述べられているように、温度上昇溶出分画を利用することによってただちに計算される。本発明の実質的に直鎖のエチレンコポリマーおよび直鎖エチレンコポリマーのCDBIは30パーセント超、好ましくは50パーセント超、およびさらに好ましくは90パーセント超である。
【0026】
実質的に直鎖のエチレンポリマー中の長鎖分岐は、短鎖分岐以外のポリマー分岐である。通例、長鎖分岐は、成長ポリマー鎖でのベータヒドリド除去を介したオリゴマー性アルファオレフィンのインサイチュー生成によって形成される。生じた種は、重合時に大きなアルキル側基を生じる比較的高い分子量のビニル末端炭化水素である。長鎖分岐はさらに、炭素nマイナス2(「n−2」)個を超える鎖長を有する、ポリマー主鎖に対する炭化水素分岐として定義され、nはリアクターに意図的に添加された最大アルファオレフィンコモノマーの炭素数である。エチレンのホモポリマーまたはエチレンおよび1つまたはそれ以上のC3−C20アルファオレフィンコモノマーのコポリマー中の好ましい長鎖分岐は、少なくとも炭素20個からさらに好ましくは分岐が側基(pendant)となっているポリマー主鎖中の炭素の数までを有する。長鎖分岐は、13C核磁気共鳴分光学のみを使用して、またはゲル透過クロマトグラフィー−レーザ光散乱(GPC-LALS)または同様の分析技法を使用して区別できる。実質的に直鎖のエチレンポリマーは、少なくとも0.01長鎖分岐/炭素1000個、好ましくは0.05長鎖分岐/炭素1000個を含有する。一般に実質的に直鎖のエチレンポリマーは、3またはそれ未満の長鎖分岐/炭素1000個、好ましくは1またはそれ未満の長鎖分岐/炭素1000個を含有する。
【0027】
好ましい実質的に直鎖のエチレンポリマーは、処理条件下で高分子量アルファオレフィンコポリマーをただちに重合できるメタロセンベース触媒を使用することによって調製される。本明細書で使用するように、コポリマーは、たとえばエチレンを少なくとも1つの他のC3−C20コモノマーと重合することによって調製できるような2つまたはそれ以上の意図的に添加したコモノマーを意味する。好ましい直鎖エチレンポリマーは、リアクターに意図的に添加した以外のモノマーの重合を行わせない条件下で、たとえばメタロセンまたはバナジウムベース触媒を使用して同様の方法で調製できる。実質的に直鎖のエチレンポリマーまたは直鎖エチレンポリマーの他の基本的な特徴は、低い残基含有率(すなわち、ポリマーを調製するのに使用した、その中の低濃度の触媒、未反応コモノマーおよび重合中に生成された低分子量オリゴマー)、および従来のオレフィンポリマーと比べて分子量分布が狭くても良好な加工性を提供する制御された分子構造を含む。
【0028】
本発明の実施で使用される実質的に直鎖のエチレンポリマーまたは直鎖エチレンポリマーは、実質的に直鎖のエチレンホモポリマーまたは直鎖エチレンホモポリマー、好ましくは50〜95重量パーセントのエチレンおよび5〜50、好ましくは10〜25重量パーセントの少なくとも1つのアルファオレフィンコモノマーを含む、実質的に直鎖のエチレンポリマーまたは直鎖エチレンポリマーを含む。実質的に直鎖のエチレンポリマーまたは直鎖エチレンポリマー中のコモノマー含有率は一般に、リアクターに添加された量に基づいて計算され、同様にASTM D−2238,Method Bに従って赤外分光法を使用して測定できる。通例、実質的に直鎖のエチレンポリマーまたは直鎖エチレンポリマーは、エチレンおよび1つまたはそれ以上C3−C20アルファオレフィンのコポリマー、好ましくエチレンおよび1つまたはそれ以上C3−C10アルファオレフィンコモノマーのコポリマー、さらに好ましくはエチレンおよびプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンタン、および1−オクテンから成る群より選択される1つまたはそれ以上コモノマーのコポリマーである。最も好ましくは、コポリマーはエチレンおよび1−オクテンのコポリマーである。
【0029】
これらの実質的に直鎖のエチレンポリマーまたは直鎖エチレンポリマーの密度は、0.850グラム/立方センチメートル(g/cm3)またはそれを超え、好ましくは0.860g/cm3またはそれを超える。一般に、これらの実質的に直鎖のエチレンポリマーまたは直鎖エチレンポリマーの密度は、0.935g/cm3またはそれ未満、好ましくは0.900g/cm3またはそれ未満である。I10/I2として測定される、実質的に直鎖のエチレンポリマーのメルトフロー比は、5.63またはそれを超え、好ましくは6.5〜15であり、さらに好ましくは7〜10である。I2は、ASTM Designation D 1238に従って、190℃および2.16キログラム(「kg」)質量の条件を使用して測定される。I10は、ASTM Designation D 1238に従って、190℃および10.0kg質量の条件を使用して測定される。
【0030】
実質的に直鎖のエチレンポリマーの分子量分布(Mw/Mn)は、数平均分子量(Mn)で割った重量平均分子量(Mw)である。MwおよびMnは、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって測定される。実質的に直鎖のエチレンポリマーでは、I10/I2比は、長鎖分岐度を示し、すなわちI10/I2比が大きくなればなるほど、長鎖分岐より多くのポリマー中に存在する。好ましい実質的に直鎖のエチレンポリマーMw/Mnは、式:Mw/Mn≦(I10/I2)−4.63によって、I10/I2に関連付けられる。一般に実質的に直鎖のエチレンポリマーのMw/Mnは少なくとも1.5、好ましくは少なくとも2.0、そして3.5またはそれ未満、さらに好ましくは3.0またはそれ未満である。最も好ましい実施形態において、実質的に直鎖のエチレンポリマーは、単一の示差走査熱量測定(DSC)溶融ピークによっても特徴付けられる。
【0031】
これらの実質的に直鎖のエチレンポリマーまたは直鎖エチレンポリマーの好ましいI2メルトインデックスは、0.01g/10分〜100g/10分、さらに好ましくは0.1g/10分〜10g/10分である。
【0032】
ポリオレフィンエラストマーは本発明のブレンドにおいて、加工性および耐衝撃性の所望のバランスを提供するのに十分な量で利用される。一般に、実質的に直鎖のエチレンポリマーまたは直鎖エチレンポリマーは、電気散逸性プロピレン組成物の重量に基づいて、5重量部またはそれを超え、好ましくは10重量部またはそれを超え、さらに好ましくは15重量部またはそれを超えるそして最も好ましくは20重量部またはそれを超える量で利用される。一般にポリオレフィンエラストマーは、電気散逸性プロピレン組成物の重量に基づいて、70重量部またはそれ未満の、好ましくは60重量部またはそれ未満の、さらに好ましくは50重量部またはそれ未満の、なおさらに好ましくは35重量部またはそれ未満の、そして最も好ましくは40重量部またはそれ未満の量で使用される。
【0033】
本発明の成分(c)は、導電性炭素である。「導電性炭素」という用語は本明細書で使用するように、導電性グレードのカーボンブラック、炭素繊維、グラファイト、またはその組合せを指す。適切な炭素繊維は、たとえばWO91/03057で述べられているように、少なくとも5の縦横比および3.5〜70ナノメートル(nm)の範囲の直径を有する繊維の集塊(agglomerates)を含む。適切なグラファイト粒子は、1〜30μmの範囲のサイズおよび5〜100平方メートル/グラム(m2/g)の範囲の表面積を有する。適切なカーボンブラックの例は、125nm未満の、さらに好ましくは60nm未満の平均一次粒径を有する炭素粒子を含む。カーボンブラックは好ましくは、一次粒子の凝集体(aggregate)または集塊(agglomerate)として利用され、凝集体または集塊は通例、一次粒径の5〜10倍のサイズを有する。炭素粒子のより大きな集塊、ビーズ、またはペレットも、組成物の調製または処理中に、10μm未満の、さらに好ましくは5μm未満の、そして最も好ましくは1.25μm未満の硬化組成物の平均径に到達するためにそれらが十分に分散する限り、組成物の調製における開始材料として使用できる。カーボンブラックは好ましくは、少なくとも125m2/gの、さらに好ましくは少なくとも200m2/gの窒素表面積を有する。カーボンブラックの窒素表面積は、ASTM Method No.D 3037−93を用いて決定できる。炭素のジブチルフタレート吸収は、好ましくは少なくとも75立方センチメートル/100グラム(cc/100g)、さらに好ましくは少なくとも100cc/100gであり、ASTM Method No.D 2414−93に従って測定できる。導電性炭素は、好ましくは組成物の重量に基づいて、0.1重量部またはそれを超える、さらに好ましくは0.5重量部またはそれを超える、なおさらに好ましくは1重量部またはそれを超える、さらに好ましくは5重量部またはそれを超える、そして最も好ましくは7重量部またはそれを超える量で利用される。導電性炭素は、好ましくは30パーセントまたはそれ未満の、さらに好ましくは25重量部またはそれ未満の、なおさらに好ましくは20重量部またはそれ未満の、そして最も好ましくは18重量部またはそれ未満の量で利用される。所望ならば、異なる特性を備えた導電性炭素の混合物も使用できる。1つの実施形態において、500m2/g未満の窒素表面積および250cc/100g未満のジブチルフタレート吸収を有するカーボンブラックは、より高い窒素表面積およびジブチルフタレート吸収数を有するカーボンブラックと組合せて使用できる。
【0034】
成分(d)はオレフィン性ポリマーである。オレフィン性ポリマーは、ポリエチレン、たとえば高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、または超超低密度高密度ポリエチレン(UHDPE)、ポリオレフィンエラストマー(それが第1のポリオレフィンエラストマー成分(b)とは異なる第2のポリオレフィンエラストマーであるという条件で、上述のポリオレフィンエラストマーより選択される)、またはその組合せである。オレフィン性ポリマーは本発明において、加工性、剛性および耐衝撃性の所望のバランスを提供するのに十分な量で提供される。好ましくは、オレフィン性ポリマーは、ポリオレフィンエラストマーおよび/またはプロピレンブロックコポリマーのゴム部と適合性である。言い換えれば、ポリオレフィンエラストマーおよびオレフィン性ポリマーは、プロピレンポリマー、ブロック(a)(i)の相とは異なる相を含む。ゴム部のブロック(a)(ii)は、プロピレンポリマー相のブロック(a)(i);ポリオレフィンエラストマー相;または両方の中に分散できる。
【0035】
存在する場合、オレフィン性ポリマーは電気散逸性プロピレン組成物の重量に基づいて、1重量部またはそれを超える、好ましくは2重量部またはそれを超える、そして最も好ましくは3重量部またはそれを超える量で利用される。一般に、オレフィン性ポリマーは、電気散逸性プロピレン組成物の重量に基づいて15重量部またはそれ未満の、好ましくは12重量部またはそれ未満の、そして最も好ましくは10重量部またはそれ未満の量で使用される。
【0036】
組成物中に存在するフィラーは、タルク、ウォラストナイト、粘土、カチオン交換層状シリケート材料の単層、グラファイト、カルシウムカーボネート、長石、霞石、シリカまたはガラス、ヒュームドシリカ、アルミナ、マグネシウムオキシド、亜鉛オキシド、バリウムサルフェート、アルミニウムシリケート、カルシウムシリケート、チタンジオキシド、チタナート、ガラスマイクロスフィアまたはチョークを含む。これらのフィラーのうち、タルク、ウォラストナイト、粘土、カルシウムカーボネート、シリカ/ガラス、アルミナおよびチタンジオキシドが好ましく、タルクが最も好ましい。組成物で使用できる耐発火性フィラーは、アンチモンオキシド;アルミナトリヒドレート;マグネシウムヒドロキシド;ボラート;ハロゲン化化合物、たとえばこれに限定されるわけではないがハロゲン化炭化水素、ハロゲン化カーボネートオリゴマー、ハロゲン化ジグリシジルエーテル;有機リン化合物;フッ化オレフィン;および芳香族硫黄の金属塩、またはその混合物が使用できる。これらの耐発火性フィラーのうち、アルミナトリヒドレートおよびマグネシウムヒドロキシドが好ましい。他の雑多なフィラーは、木質繊維/粉/チップ、綿、デンプン、ガラス繊維、合成繊維(たとえばポリオレフィン繊維)、および炭素繊維を含む。一部の場合では、そのような非導電性フィラーの添加は、組成物の導電性を上昇させることが見出されている。
【0037】
そのようなフィラーは、使用する場合、組成物の総重量に基づいて、少なくとも0.1部、好ましくは少なくとも1部、さらに好ましくは少なくとも2部、そして最も好ましくは少なくとも5重量部の量で存在する。一般にフィラーは、組成物の総重量に基づいて、30部またはそれ未満の、好ましくは25部またはそれ未満の、さらに好ましくは20部またはそれ未満の、さらに好ましくは15部またはそれ未満の、そして最も好ましくは10重量部またはそれ未満の量で存在する。
【0038】
さらに特許請求された電気散逸性プロピレンポリマー組成物は場合により、プロピレンコポリマー組成物で一般に使用される1つまたはそれ以上の添加剤も含有できる。この種の好ましい添加剤は、これに限定されるわけではないが:これに限定されるわけではないが熱、光、および酸素によって引き起こされる劣化に対してポリマー組成物を安定させる安定剤;着色料;抗酸化剤;静電防止剤;流動促進剤;離形剤、たとえば金属ステアレート(たとえばカルシウムステアレート、マグネシウムステアレート);清澄剤を含む、成核剤;スリップ剤(たとえばエルカミド、オレアミド、リノレアミド、またはステラミド);またはその混合物が使用できる。
【0039】
そのような添加剤は使用される場合、組成物の総重量に基づいて、少なくとも0.01部、好ましくは少なくとも0.05部さらに好ましくは少なくとも0.1部、さらに好ましくは少なくとも0.5部、そして最も好ましくは少なくとも1重量部の量で存在する。一般に添加剤は、組成物の総重量に基づいて、10部またはそれ未満の、好ましくは5部またはそれ未満の、さらに好ましくは3部またはそれ未満の、さらに好ましくは2部またはそれ未満の、そして最も好ましくは1.5重量部またはそれ未満の量で存在する。
【0040】
本発明の電気散逸性プロピレンポリマー組成物は熱可塑性であり、少なくとも2つの相を含む。第1の相はプロピレンポリマー部、ブロック(a)(i)を含み第2の相はポリオレフィンエラストマーおよび場合によりオレフィン性ポリマーを含む。本発明では好ましくは、ポリオレフィンエラストマーを含む第2の相は連続性である。好ましくは、第1および第2の相は共連続である。プロピレンブロックコポリマーのゴム部であるブロック(a)(ii)は、第1の相のみに、第2の相のみに、または部分的に各相に分散する。好ましくは、ゴム部は第1および第2の相に部分的に分散する。
【0041】
本発明の組成物において、第1の相と第2の相との間の導電性炭素の分布は、電気散逸性プロピレン組成物が電荷を散逸させることが可能である限り重要ではなく、通例、1012オームまたはそれ未満の表面抵抗率がこの要件を満たす。しかしながら、導電性炭素が第2の相に50パーセントまたはそれを超える、さらに好ましくは60パーセントまたはそれを超える、なおさらに好ましくは80パーセントまたはそれを超える、なおさらに好ましくは90パーセントまたはそれを超える量で第2の相に分散され、そして最も好ましくは100パーセントの導電性炭素が第2の相中に分散されることが好ましい。
【0042】
本発明の電気散逸性プロピレンポリマー組成物は、個々の成分を乾燥ブレンドする工程と、続いての(1)独立したミキサー(たとえばBanburyミキサー)での予備溶融混合によってか、(2)組成物のペレット、シートまたは異形材を作製するために使用されるシングルまたはツインスクリュー押出機で直接か、または(3)完成品(たとえば自動車部品)を形成できる押出機、たとえば射出成形機または押出ブロー成形機のいずれかでの、溶融混合を含む、従来のどの方法によっても調製できる。成分の予備溶融混合は、たとえばポリマーのペレットまたは粉末と導電性炭素を湿潤ブレンドまたは乾燥ブレンドして、次に場合により高温にてロールニーダでさらに混合することによって実施される。別の実施形態において、ポリマーの溶液を液体溶媒中で導電性炭素とブレンドする。エラストマー相に分散されるようになる導電性炭素の量は、成分の相対表面自由エネルギー、存在するポリマーの相対粘度;および混合の形態および期間を含む複数の因子によって影響を受ける。組成物を調製する工程および成分の相対量も組成物の低温衝撃強度に影響を及ぼす。組成物およびその調製方法は、好ましくは実験的に最適化されて、組成物が使用される構造用途に応じて、導電性と物理特性の最良の組合せが達成される。
【0043】
各種の射出成形工程(たとえばModern Plastics Encyclopedia/89, Mid October 1988 Issue, Vol.65, No.11, pp.264-268,"Introduction to Injection Molding" and on pp.270-271,"Injection Molding Thermoplastics"に述べられているような)およびブロー成形工程(たとえばModern Plastics Encyclopedia/89, Mid October 1988 Issue, Vol. 65, No.11, pp. 217-218, "Extrusion-Blow Molding"に述べられているような)および異形押出を含む、本明細書で開示した電気散逸性プロピレンポリマー組成物から有用な製造品または部品を作製するために使用できる多くの種類の成形操作がある。製造品の例は、自動車部品、たとえばバンパー、計器盤、ホイールカバー、ドア、インパネ、トリム、外装材、ロッカーパネル、グリルはもちろんのこと、他の家庭用品および個人用品、たとえば冷凍庫用コンテナを含む。
【0044】
組成物は好ましくは、1012オームまたはそれ未満の、さらに好ましくは105オームまたはそれ未満の、なおさらに好ましくは10オームまたはそれ未満の抵抗率を有する。「抵抗率」という用語は本明細書で使用するように、以下の実施例で述べる手順に従って測定されるような、固体形の組成物の表面抵抗率を指す。
【0045】
導電性製品は製造されると、その表面の少なくとも1つにいずれかの適切な電動コーティング工程を使用して塗装またはコーティングできる。「電動コーティング工程」という用語は本明細書で使用するように、コーティングされる基材とコーティング材料との間に電位が存在するコーティング工程を指す。電動コーティング工程の例は、液体または粉末の静電コーティング、電着(「Eコート」)工程、電動蒸着、および電気メッキ工程を含む。物品は、物品の導電性をさらに向上させる導電性プライマー組成物を含むいずれかの適切な水性ベースまたは有機ベース組成物(または水/有機混合物)を用いて、または粉末コーティングまたは蒸着法によって無溶媒組成物を用いて塗装またはコーティングできる。
【0046】
別途示さない限り、本明細書で言及する以下の用語および試験手順は、次のように定義される:
密度はASTM D−792に従って測定する。サンプルは、測定実施前24時間に渡って周囲条件にてアニーリングする。
【0047】
分子量は、システム温度140℃で操作される、混合有効率カラム3個を装備したWaters 150℃高温クロマトグラフィーユニット(Polymer Laboratories 103、104、105、および106)でのゲル透過クロマトグラフィー(GPC)を使用して決定する。溶媒は1,2,4−トリクロロベンゼンであり、これから射出用に0.3重量パーセントのサンプル溶液を調製する。流速は1.0ミリメートル/分(ml/分)であり、射出量は100マイクロリットルである。
【0048】
分子量は、直鎖混合床カラム、300x7.5mm 3個を装備したPolymer Laboratories PL−GPC−220高温クロマトグラフィーユニット(Polymer Laboratories PLgel Mixed B(10ミクロン粒径))でのゲル透過クロマトグラフィー(GPC)を使用して決定する。オーブン温度は160℃であり、オートサンプラー高温域は160℃、温域(warm zone)は145℃である。溶媒は、200ppm 2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールを含有する1,2,4−トリクロロベンゼンである。流速は1.0ミリリットル/分であり、射出量は100マイクロリットルである。200ppm 2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールを含有する、窒素パージした1,2,4−トリクロロベンゼンにサンプルを2.5時間に亘って160℃にて静かに混合しながら溶解させて、射出用に0.15重量パーセントのサンプル溶液を調製する。
【0049】
分子量決定は、10個の狭分子量分布ポリスチレン標準(Polymer Laboratoriesより、580〜7,500,000g/モルの範囲のEasiCal PS1)を、その溶出体積と併せて使用して導出する。相当するポリプロピレン分子量は、ポリプロピレン(Th. G. Scholte, N. L. J. Meijerink, H. M. Schoffeleers, and A. M. G. Brands, J.Appl. Polym. Sci., 29,3763-3782(1984)によって述べられているように)およびポリスチレン(E. P. Otocka, R. J. Roe, N. Y. Hellman, P. M. Muglia, Macromolecules, 4,507(1971) によって述べられているように)の適切なMark−Houwink係数をMark−Houwink式:
{η}=KMa
(式中、Kpp=1.90E−04、app=0.725およびKps=1.26E−04、aps=0.702)
で使用することによって決定する。
【0050】
ゴム粒径は次のように決定する:
1.サンプル調製。射出成形バーは、切片が表面およびコア(外面の約1500ミクロン下)にて射出成形方向に対して平行に切断できるように、バーの中心付近を検査する。サンプルブロック表面をカミソリで削り、染色前に低温研磨する。RuO4蒸気を用いて周囲温度にて3時間に亘って低温研磨ブロックを予備染色する。染色溶液は、ルテニウム(III)クロライドヒドレート(RuCl3xH2O)0.2グラムをスクリュー蓋付きガラス瓶中へ秤量して、5.25パーセントのナトリウムヒポクロライト水溶液10ミリメートル(ml)を瓶に添加することによって調製する。両面テープ付きのガラススライドを使用して、サンプルをガラス瓶の中に入れる。ブロックを染色溶液の約1インチ(25.4mm)上に吊るすために、スライドを瓶に入れる。
【0051】
ブロックを染色溶液の蒸気相に周囲温度にて3時間に亘って暴露させる。厚さ約100ナノメートルの切片を、Leica UCTマイクロトームでダイヤモンドナイフを使用して周囲温度にて収集する。切片を観察するために、400メッシュの未使用TEMグリッドに置く。
【0052】
2.技法。明視野透過電子顕微鏡(TEM)画像は、100キロボルト(kV)加速電圧で動作しているHitachi H−8100を使用してPolaroid SO−163フィルムに取込む。
【0053】
3.画像解析。画像解析は、Leica Qwin Pro V2.4ソフトウェアを使用して3枚の15kX TEM画像に対して実施する。画像解析に選択した倍率は、解析される粒子の数およびサイズによって変わる。3枚の画像から579のフィーチャ(579 features)を測定する。バイナリ画像生成を可能にするために、極先細黒色Sharpieマーカーを使用してTEMプリントからのゴム粒子の手動トレースを実施する。トレースしたTEM画像は、Hewlett Packard Scan Jet 4cを使用してスキャンしてデジタル画像を生成する。デジタル画像をLeica Qwin Pro V2.4プログラムにインポートして、所望のフィーチャにグレーレベル閾値が含まれるように設定することによってバイナリ画像に変換する。バイナリ画像が作製されたら、画像解析の前に他のパラメータを使用して画像を編集する。これらのフィーチャの一部は、エッジ除去フィーチャ、アクセプティングまたはエクスクルードフィーチャ(accepting or excluded features)および分離を必要とする手動切断フィーチャを含んでいた。画像中の粒子を測定したら、サイジングデータをExcelスプレッドシートにエクスポートして、ゴム粒子のビン範囲を作製するために使用する。サイジングデータを適切なビン範囲に入れて、粒子長(最大粒子距離)対パーセント頻度のヒストグラムを生成する。計算されるパラメータは、ゴム粒子の最小、最大、平均粒径および標準偏差である。報告された値は、0.6μm未満の粒径を有するパーセントゴム粒子である。
【0054】
以下の実施例は本発明を説明するが、それを決して制限するものではない。別途示さない限り、すべての量は電気散逸性プロピレンポリマー組成物の重量に基づく重量部である。
【実施例】
【0055】
実施例1および2ならびに比較実施例Aは、75回転/分(rpm)に設定した混合速度にて、200立方センチメートル(cc)混合ボウルを装備したHaake Rheocord 90トルクレオメータでブレンドした。ポリマー(プロピレンブロックコポリマー、ポリオレフィンエラストマーおよびオレフィン性ポリマー)を乾燥ブレンドして、次に混合ボウル内で185℃にて約4分間に渡って加熱および混練した。この時間は、ポリマーのペレットを最初に添加したときにミキサーのトルクを監視することによって決定して、トルクは高く、45ニュートンメートル(Nm)の範囲にあった。ポリマーが十分に溶融すると、トルクは5Nm範囲に接近した。このときに成分(たとえば導電性炭素、フィラー安定剤など)を添加した。通例、成分は1〜1.5分に亘ってスパチュラで添加した。成分の添加後に、トルクが上昇した。生じたプロピレンポリマー組成物を約10分間ブレンドした。トルクが著しく降下したときに、混合が完了した。
【0056】
電気散逸性プロピレンポリマー組成物をHaakeブレンダーから取出して、ガラス製焼き皿に入れた。ポリマーブレンドを液体窒素に約5分間浸漬した。凍結物質をThomas Wiley Model 4ポリマー細砕機に直接入れて、小型チップに粉砕した。チップを28トンArburg射出成形機に供給して、引張バー試験片へ射出成形した。次の成形条件を使用した:バレル温度:400°F(204℃)、型温度:125°F(52℃)、および射出時間:1.5秒。
【0057】
実施例1および2ならびに比較実施例Aの組成物を表1に示し、量はプロピレンポリマー組成物の総重量に基づく重量部である。表1において:
「PP−1」は、65g/10分のMFRおよび約2,185,000のゴムMzを有する7.3パーセントのEPゴムを含むプロピレンブロックコポリマーである;
「PP−2」は、Dow Chemical CompanyからC705−44NAHPポリプロピレンとして入手でき、44g/10分のMFRを有するプロピレンブロックコポリマーである。それは約637,700のゴムMzを有する16.5パーセントのEPゴムを含む;
「EDPM」は、DuPont Dow ElastomersによりNORDEL(商標)3745Pとして入手できる、45ムーニー(Mooney)粘度(125℃にてML 1+4、ASTM D1646)を持つ低ジエン含有量エチレン、プロピレン、ジエンゴムである;
「S/LEP」は、DuPont Dow ElastomersからENGAGE(商標)EG 8200ポリオレフィンエラストマーとして入手できる、5g/10分のMI(190℃および印加荷重2.16kgにて決定)および0.870グラム/立方センチメートル(g/cc)の密度を有する、実質的に直鎖のエチレン−オクテンコポリマーである;
「HDPE」は、Dow Chemical CompanyによりIP−60 HDPEとして入手できる、MI=60g/10分(190℃および印加荷重2.16kgにて決定)を有する高密度ポリエチレンである;
「カーボンブラック」は、CabotよりXC−72として入手できるカーボンブラックである;
「タルク」は、Luzannecによる商標名JETFIL(商標) 700Cの、平均粒径1.8μmの市販のタルクである;
「B225」は、3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−2,2−ビス[3−[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]オキソ−プロポキシ]メチル−1,3−プロパンジイルエステルおよびCiba Geigyより商標名IRGANOX(商標)B225として入手できるトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト抗酸化剤の1:1混合物である;
「カルシウムステアレート」はWhitcoより入手できる。
【0058】
以下の試験を実施例1および2ならびに比較実施例Aに対して実施し、これらの試験の結果を表1に示す:
「MFR」は、ASTM D 1238に従って、230℃および印加荷重2.16kgで決定されたメルトフローレートであり、値をグラム/10分(g/分)で報告する;
「曲げ弾性率」は、ASTM D 790に従って決定し、値はポンド/平方インチ(psi)およびメガパスカル(MPa)で報告する;
「切欠きアイゾッド(Notched Izod)」は、ASTM D 256Aに従って、32°F(0℃)にて決定され、値はフィートポンド/インチ(ft−lb/in)およびジュール/メートル(J/M)で報告される;
「密度」は、ASTM D 792に従って測定され、値はグラム/立方センチメートル(g/cc)で報告される);
「デルタグロス」は、Tobins Associates Model MTIモトル試験機を使用して射出成形引張りバーで決定される。サンプルをロータにテープで留めて、検出器をサンプル上で左右に移動させて、連続データを収集する。データを信号強度の各山および谷で記録する。モトルデータをグロス測定プローブと共に供給された標準を使用してグロスデータに変換する。次に、隣接するグロス値を引いて、各サンプルの最大値を選択することによってデルタグロスが得られる;
「抵抗率」は、Cabot表面抵抗率試験方法(CMT)EO42に従い、IEC 167規格に基づいて、ITW Ransberg 76634−00伝導率計を使用して表面抵抗率を測定する。電極の形態を考慮して、以下の式を用いて表面抵抗率(SR)を計算する;
SR=R*L/g
式中:
Rは、電荷流に対する物質の抵抗率(オーム);
Lは、電極の長さ(cm)である;
gは、電極間の距離(cm)である。
【表1】

【0059】
以上のように、本発明の電気散逸性プロピレン組成物は、改良されたフローマーク(デルタグロスによって測定された)、抵抗率の良好なバランスならびにフロー、剛性および靱性の良好なバランスを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気散逸性プロピレンポリマー組成物であって:
(a)プロピレンブロックコポリマーであって
(i)プロピレンポリマー部を含む第1のブロックと
(ii)約1,000,000またはそれを超えるMzを有するプロピレンコポリマーを含むゴム部を含む第2のブロックと
を含むプロピレンブロックコポリマーと;
(b)ポリオレフィンエラストマーと;
(c)導電性炭素と;
(d)場合により、オレフィン性ポリマーと;
(e)場合により、フィラーと;
を含む電気散逸性プロピレンポリマー組成物。
【請求項2】
前記プロピレンブロックコポリマーがエチレンおよびプロピレンゴムを含む、請求項1に記載の電気散逸性プロピレンポリマー組成物。
【請求項3】
前記ポリオレフィンエラストマーが実質的に直鎖のエチレンポリマー、直鎖エチレンポリマー、またはその組合せであり、該実質的に直鎖のエチレンポリマーおよび/または直鎖エチレンポリマーが:
(i)約0.93g/cm3またはそれ未満の密度と;
(ii)約3.0またはそれ未満の分子量分布Mn/Mwと;
(iii)約30パーセントまたはそれを超える組成分布分岐インデックスと;
を有することを特徴とする、請求項1に記載の電気散逸性プロピレンポリマー組成物。
【請求項4】
前記導電性炭素が1012オームまたはそれ未満の表面抵抗率を提供するのに十分な量で存在する、請求項1に記載の電気散逸性プロピレンポリマー組成物。
【請求項5】
前記導電性炭素がカーボンブラック、炭素繊維、グラファイトまたはその組合せである、請求項1に記載の電気散逸性プロピレンポリマー組成物。
【請求項6】
熱安定剤、光安定剤、酸化安定剤、着色剤、抗酸化剤、静電防止剤、流動促進剤、離型剤、成核剤、清澄剤およびスリップ剤から成る群より選択される1つまたはそれ以上添加剤をさらに含む、請求項1に記載の電気散逸性プロピレンポリマー組成物。
【請求項7】
前記離型剤がカルシウムステアレート、マグネシウムステアレート、またはその組合せである、請求項6に記載の電気散逸性プロピレンポリマー組成物。
【請求項8】
前記スリップ剤がエルカミド、オレアミド、リノレアミド、ステラミドまたはその組合せである、請求項6に記載の電気散逸性プロピレンポリマー組成物。
【請求項9】
(a)前記プロピレンブロックコポリマーが30〜90重量部の量で存在し、
(b)前記ポリオレフィンエラストマーが5〜70重量部の量で存在し、
(c)前記導電性炭素が0.1〜30重量部の量で存在し、
(d)前記オレフィン性ポリマーが0〜15重量部の量で存在し、
(e)前記フィラーが0〜30重量部の量で存在し、
重量部が前記電気散逸性プロピレンポリマー組成物の総重量に基づいている、請求項1に記載の電気散逸性プロピレンポリマー組成物。
【請求項10】
(d)前記オレフィン性ポリマーが1重量部〜15重量部の量で存在し、HDPE、LLDPE、UHDPE、ポリオレフィンエラストマー、およびその組合せから成る群より選択され、
重量部が前記電気散逸性プロピレンポリマー組成物の総重量に基づいている、請求項9に記載の電気散逸性プロピレンポリマー組成物。
【請求項11】
(e)前記フィラーが0.1重量部〜30重量部の量で存在し、タルク、ウォラストナイト、粘土、カチオン交換層状シリケート材料の単層、グラファイト、カルシウムカーボネート、長石、霞石、シリカ、ガラス、ヒュームドシリカ、アルミナ、マグネシウムオキシド、亜鉛オキシド、バリウムサルフェート、アルミニウムシリケート、カルシウムシリケート、チタンジオキシド、チタナート、ガラスマイクロスフィアおよびチョークから成る群より選択され、
重量部が前記電気散逸性プロピレンポリマー組成物の総重量に基づいている、請求項9に記載の電気散逸性プロピレンポリマー組成物。
【請求項12】
請求項1に記載の電気散逸性プロピレンポリマー組成物を製造品へ押出または成形する工程。
【請求項13】
製造品の形の、請求項1に記載の電気散逸性プロピレンポリマー組成物。
【請求項14】
バンパー、計器盤、ホイールカバー、ドア、インパネ、トリム、外装材、ロッカーパネル、およびグリルから成る群より選択される自動車部品の形の、請求項1に記載の電気散逸性プロピレンポリマー組成物。

【公表番号】特表2007−522323(P2007−522323A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−553120(P2006−553120)
【出願日】平成17年1月4日(2005.1.4)
【国際出願番号】PCT/US2005/000110
【国際公開番号】WO2005/083721
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.POLAROID
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】