説明

電気暖房装置

【課題】電気推進装置を備えた自動車の暖房装置であって、効率的なエネルギ管理を促進する暖房装置、を提供する。
【解決手段】電気推進装置を備えた自動車のための、PTCベースの暖房装置に関し、伝熱媒体として液体媒体を使用し、液体媒体を加熱するため加熱回路内に配置されている電気PTC加熱素子20を備えさらに、加熱回路に選択的に組み入れることのできる、別個の熱源50を有する補助回路を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の電気暖房装置に関する。詳細には、本発明は、電気自動車およびハイブリッド自動車に適しており、伝熱媒体として流体媒体を有する電気暖房装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気駆動装置またはハイブリッド駆動装置を備えた車両では、暖房に関する問題として、暖房あるいは空調のための十分な廃熱が自動車の駆動装置によって発生しない。したがって、車両の加熱システムは、暖房目的に要求される熱を自動車の車室に適切に提供するのみならず、自動車の個々のコンポーネントにおいて実行されるプロセス(例えば充電式バッテリを予熱する)に要求される熱を適切に提供する、または少なくとも補助しなければならない。明らかな方法は、要求される熱を電気的手段によって提供することである。最新の技術として、いわゆる抵抗加熱素子またはPTC(正温度係数)加熱素子をこの目的に使用できることが知られている。PTC加熱素子は自己制御型であり、なぜなら、加熱が進むにつれて抵抗が大きくなり、流れる電流量が小さくなるためである。したがって、PTC加熱素子の自己制御特性により、過熱が防止される。
【0003】
したがって、PTC加熱素子は、特に、車室の空調や暖房システムのための十分な廃熱が駆動装置によって生成されない車両の車室を暖房するために使用される暖房装置において、しばしば使用される。ハイブリッド自動車の場合、(例えば信号での停止時や渋滞時に)内燃エンジンが動作していないとき、PTC加熱装置を補助ヒータとして使用することもできる。
【0004】
電気推進装置を備えた車両において電気加熱素子を採用するとき、さらなる問題として、車載バッテリ(蓄電池)は、牽引力を提供する車両駆動装置と、暖房装置の両方のためのエネルギ源としての役割を果たす。したがって、車両駆動装置と暖房装置は、2回のバッテリ充電プロセスの間で利用可能な限られた量のエネルギを分け合う。言い換えれば、2回のバッテリ充電の間の車両の航続距離は、電気的暖房に使用される電気エネルギによって減少する。
【0005】
したがって、電気自動車およびハイブリッド自動車においては、駆動装置と、暖房装置と、電力を消費する他のコンポーネント(照明装置など)とが考慮される、念入りに設計されたエネルギ管理コンセプトが中心的な役割を果たす。エネルギ管理の1つの重要な側面は、バッテリの電気エネルギをベースとしない、車両におけるさらなるエネルギ源を使用することである。このタイプのエネルギ源は、特に、車両の特定のコンポーネントからの廃熱の形で車両において利用することができる。廃熱の形で追加のエネルギを提供するコンポーネントとしては、ハイブリッド自動車の追加の内燃エンジン(「レンジエクステンダ」)、ブレーキ、車載バッテリ自体または内蔵のバッテリ充電装置(車載充電装置)が挙げられる。したがって、航続距離を延ばす目的で、車両において発生する廃熱を、エネルギ管理システムの範囲内で暖房にできる限り利用することが望ましい。PTC加熱装置を使用する場合、車室内の空気は、PTC抵抗加熱素子によって直接的に暖められる(温風ヒータ)、または熱い液体がラジエータ内を流れる回路を介して間接的に暖められる。この液体としては、水を使用することが好ましい(温水暖房)。エネルギ管理システムにおいては、温水暖房の利点として、冷却・加熱回路によって車両内のある領域(冷却回路)において水によって取り出した廃熱を、別の場所において加熱に使用することができる。
【0006】
しかしながら、車両のコンポーネントからの廃熱は、一般的には一時的に利用できるのみである。ハイブリッド自動車における追加の内燃エンジンは、その運転時にのみ廃熱を供給する。ブレーキ装置は、特に長い下り坂では大量の廃熱を供給する。車載バッテリに関しては、最初に予熱によって必要な動作温度にしなければならず、走行動作中には冷却される。したがって、加熱回路と冷却回路を組み合わせる方法は、廃熱が不足している場合には特に不利であり、大量の冷えた冷却液が循環していることは、効率的な加熱を阻止し、電気エネルギの消費量および航続距離にマイナスに影響する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、特に、電気推進装置を備えた自動車の暖房装置であって、効率的なエネルギ管理を促進する暖房装置、を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、請求項1の特徴を備えた暖房装置によって解決される。
【0009】
本発明によると、特に、電気推進装置を備えた自動車の電気暖房装置を提供する。この暖房装置においては、伝熱媒体として液体媒体を使用する。本暖房装置は、伝熱媒体として液体媒体を有する加熱回路を備えている。さらに、本暖房装置は、液体媒体を加熱するため加熱回路内に配置されている電気PTC加熱素子、を備えている。さらに、本暖房装置は、加熱回路に選択的に組み入れることのできる、別個の熱源を有する補助回路、を備えている。
【0010】
本発明の具体的な方法は、効率的なエネルギ管理のため、利用可能である追加の熱源を使用できるように、電気PTC加熱素子を有する暖房装置を構成することである。この方法は、電気加熱素子とは別に熱を利用可能にする補助回路を、選択的に組み入れることができることにおいて、達成される。暖房の要求量および動作条件に応じて、補助回路の組入れおよび切り離しを制御することによって、エネルギ管理に補助回路を含めることができる。
【0011】
本暖房装置は、PTC加熱素子を制御する制御装置、をさらに備えていることができる。これによって、全暖房出力のうち補助回路によって供給できない割合分をPTC加熱素子が供給するように、PTC加熱素子を制御することが可能になる。したがって、暖房が、できる限り電気以外のエネルギ源、特に廃熱から供給されることが達成される。電気的暖房は、他の熱源からの熱が十分ではないときに使用される。
【0012】
補助回路の選択的な組入れは、暖房装置に要求される熱が最初に補助回路の組入れによって提供されるように制御することができる。補助回路は、暖房装置に要求される熱を自身が提供できるときに組み入れられるように、制御される。好ましい実施形態によると、補助回路の選択的な組入れは、弁を利用して行われる。
【0013】
さらには、暖房装置は、加熱回路の中を液体媒体を循環させるポンプ、をさらに備えていることができる。加熱回路内の流体媒体の循環を使用して、電気加熱素子およびさらなる熱源(利用可能時)によって提供される熱を伝える。この循環は、必要に応じてポンプのオン/オフのみを切り替えることによって、またはポンプ出力も制御することによって行うことができる。一般的には、加熱出力が高いほど、回路内の流速も大きくなければならない。要求される加熱出力が高い場合、回転速度が大きいほど多量の熱を伝えることができる。
【0014】
補助回路の別個の熱源は、自動車のコンポーネントからの廃熱とすることができる。このようにすることで、通常であれば無駄に放散させなければならない既存の熱が効率的に利用される。したがって、車両の1つのコンポーネントまたは領域の冷却を、車両の別のコンポーネントまたは別の領域の加熱に関連付けることができる。この方法を採用することで、車両の電気エネルギが節約され、したがって車両の航続距離が延びる。熱は、ハイブリッド自動車の内燃エンジンによって利用可能にすることができる。このタイプの内燃エンジンは、特に、いわゆる「レンジエクステンダ」(特に長距離走行の場合に航続距離を延ばす目的で組み入れられる)とすることができる。このタイプの「レンジエクステンダ」は、特に、シリーズハイブリッド設計において使用することができ、シリーズハイブリッド設計では、内燃エンジン(レンジエクステンダ)によって電気エネルギを発生させ、ジェネレータは、この電気エネルギを直接使用して車両を駆動させるのみならず、間接的に使用してバッテリを充電することができる。選択的な切替えを通じて組み合わせることが可能である。あるいは、車両を推進させるための直接的な駆動力として、レンジエクステンダをクラッチによって組み入れることもできる(パラレルハイブリッド設計)。
【0015】
補助回路に熱供給するためのさらに考えられる熱源は、特に、長い下り坂におけるブレーキからの廃熱と、車載バッテリからの廃熱である。電気自動車およびハイブリッド自動車に使用される、数百ボルトの自動車の高電圧範囲(例:300V、380V、500V)にある車載バッテリでは、動作中にバッテリを絶え間なく冷却することが重要である。その一方で、車両を走行させるときには、冷たいバッテリを最初に特定の動作温度まで予熱する必要がある。本発明の範囲内では、例えば、補助回路の弁制御を使用して最初にバッテリを予熱し、バッテリが動作温度に達した時点で、バッテリの廃熱を使用して車室を暖房することが可能である。
【0016】
車両のこの構造においては、本発明による暖房装置は、選択的に組み入れることができるさらなる補助回路を備えていることができる。
【0017】
本暖房装置は、加熱回路内に配置されている温度プローブ(温度センサ)をさらに備えていることができ、温度プローブによって測定された温度が、指定された温度目標値に調整されるように、暖房装置が制御される。さらには、制御装置は、比較器を備えていることができ、この比較器は、温度プローブによって測定された温度を温度目標値と比較する。本発明によるエネルギ管理システムの枠組みの中では、温度を上げる場合、補助回路が十分な温水を供給できるか、最初に状態を確認することができる。供給が十分でないときにのみ、PTCの出力を高める。温度を下げる場合には、最初にPTC加熱出力を下げることができ、より迅速に冷却する必要がある場合、補助回路から冷水を供給する。
【0018】
さらには、暖房のための熱を補助回路が提供できないとき、補助回路をオフに切り替えることができる。これは、暖房するのに電気的暖房を使用しなければならないときに特に重要である。車両が冷えた状態のとき(例えば、走行開始前)、加熱しなければならない循環する冷水が最初に少ないほど、暖房は効率的に行われる。
【0019】
本発明による暖房装置においては、あらかじめ求められる暖房出力に基づいてPTC加熱素子を制御することができる。この場合、あらかじめ求められる暖房出力とは、要求される全加熱出力と、補助回路によって提供できる暖房出力との差に等しい。
【0020】
実施形態によると、1個または複数のPTC加熱素子と、制御装置と、1個または複数の補助回路の組入れおよび切り離しを行うための弁と、液体媒体を循環させるポンプとを、共通のハウジングの中に配置することができる。このタイプの構造形態では、特にコンパクトな暖房装置が実現し、特に、制御要素が暖房装置に統合されるため、利用可能なプロセッサ容量が最適に用いられ、個別の制御ユニットが不要である。これによって、より高い統合性が促進され、全体的な制御の複雑さが軽減する。
【0021】
液体媒体(伝熱媒体)として、水を使用することが好ましい。
【0022】
本発明のさらなる有利な実施形態は、従属請求項の主題である。
【0023】
以下では、本発明について、添付の図面に基づいて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】本発明による、補助回路を有する暖房装置の加熱回路を示しており、補助回路が加熱回路から切り離されている状態を示している。
【図1B】本発明による、補助回路を有する暖房装置の加熱回路を示しており、補助回路が開いている(加熱回路に含まれている)状態を示している。
【図2】さらなる補助回路を有する、本発明による加熱回路を示している。
【図3】本発明による暖房装置の制御コンセプトを概略的に示している。
【図4】本発明による暖房装置の制御の実施形態の流れ図を示している。
【図5】本発明による暖房装置の制御の例のさらなる流れ図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、自動車の暖房装置であって、温水ヒータとして形成することができ、1個または複数のPTC加熱素子を備えている、暖房装置、に関する。複数のヒータ素子が存在する場合、これらを結合して1つまたは複数の加熱ステージを形成することができ、1つの加熱ステージのヒータ素子はまとめて制御される。制御は、例えば、パルス幅変調(PWM)を利用して行うことができる。さらには、複数の2値加熱ステージ(binary heating stage)を組み合わせることが可能であり、PWMを使用して準連続的に、または小さいステップ間隔で調整することができる。したがって、小さなステップ間隔での調整能力を達成することができ、自動車の高電圧範囲において生じる望ましくない影響(例えば、EMC(電磁環境適合性)干渉)は最小である。
【0026】
本発明による暖房装置は、車室の暖房と、車両のさらなるコンポーネント(必要時)の加熱を容易にし、(PTC加熱素子による)電気エネルギとは別に、さらなる(好ましくは電気以外の)熱源も使用することができる。電気以外の熱源は、冷却しなければならない車両コンポーネントからの廃熱を利用することができ、これらの廃熱は通常ならば失われて使用されない。これを達成するため、本発明によると、本暖房装置は、主回路(加熱回路)に加えて、選択的に組み入れられる1個または複数の補助回路を備えている。選択的な組入れおよび切り離しは適切な制御装置を利用して行われ、したがって本暖房装置は、車両の効率的なエネルギ管理を支援する。この場合、電気暖房出力は、それ以外の熱源から十分な熱が利用できないときにのみ使用される。このことは、電気エネルギの効率的な利用につながり、したがって、車両の航続距離が最大限に延びる。
【0027】
制御のための全体的なコストを低減する目的で、電気暖房装置を制御するのに本質的に必要であるプロセッサ容量に、補助回路の制御を提供する追加のタスクを割り当てることができる。
【0028】
図1は、加熱回路(主回路)2と補助回路3とを備えた本発明による暖房装置の構造の例を、概略的に示している。図1Aは、主回路から遮断された状態にある補助回路を示しており、図1Bは、開いている補助回路を示しており、したがって流体の伝熱媒体(以下では例として水として指定されている)が補助回路3の中を流れている。
【0029】
暖房装置1は、主回路2と、3/2方弁40a,40bによって接続されている補助回路3と、を備えている。
【0030】
回路中の矢印は、回路を流れる水を表している。自動車における安全性の理由から、水の最高温度は60℃であることが好ましい。
【0031】
主回路には、さらに、PTC加熱素子20と、ラジエータ(熱交換機)30と、ポンプ60とが存在している。この図に示した好ましい実施形態においては、弁40a,40bは、PTC加熱素子20に対して流れの方向とは反対側に位置する、加熱回路2の部分に配置されている。しかしながら、別の配置構造も可能である。補助回路に配置されている追加の熱源50は、好ましい実施形態においては、ハイブリッド自動車の追加の内燃エンジン(レンジエクステンダ)である。
【0032】
PTC加熱素子20の電力供給は、車載バッテリ10によって提供され、この車載バッテリ10は、車両を牽引(推進)する役割も果たす。熱交換機(ラジエータ)30においては、水から周囲の空気に熱が放散される。ラジエータ30は、(例えば車室内の)空気が直接暖められるように配置することができる。あるいは、空気を暖めて、それを例えばファンによって車室内に入れることができる。さらには、複数のラジエータを使用して、車内の空気の直接的な加熱と間接的な加熱の組合せを実現することが可能である。ポンプ6(好ましくは電気的に駆動される)は、回路内の水の流れを維持する。回路内の水は、弁40a,40bの制御に基づいて、弁40aと弁40bの間の主回路の短い区間を通って循環する(図1A)、または補助回路3を含めて循環する(図1B)。後者の場合、図1Bに示したように、水は、弁40a(補助回路3の方向に開いている)から、最初に補助回路の中をレンジエクステンダ50まで流れる。好ましくはさらなる熱交換機(この図には示していない)を用いて、レンジエクステンダからの廃熱を水が受け取る。次いで、水は、補助回路3の中を流れ、(適切に作動した)弁40bを経て主回路に戻る。
【0033】
補助回路には、レンジエクステンダ50の代わりに別の熱源を、電気PTC加熱素子とは別に配置することもできる。例えばブレーキからの廃熱を、適切な熱交換装置を利用して、補助回路を流れる水によって取り出すことができる。
【0034】
電気自動車またはハイブリッド自動車のエネルギ管理システム全体に暖房装置1を含めるためには、少なくともPTC加熱素子20および弁40a,40bを適切に制御することが要求される。制御のコンセプトと、対応する制御装置(図1には示していない)について、図3および図5を参照しながらさらに詳しく説明する。ポンプ60も制御装置によって制御することができ、ポンプ6のオン/オフ切替えのみ、またはさらにポンプ出力(回転速度に依存する)を制御することができる。機械的構造の観点からは、PTCヒータが、弁、ポンプ、および制御装置とともに単一のハウジングの中に統合されているならば有利である。これにより空間が節約され、特に費用効果が高い。
【0035】
本発明のコンセプトの範囲内では、選択的に組み入れることのできるさらなる補助回路によって、自動車の特定の領域に、具体的には(加熱回路に選択的に含められる)熱を供給することがさらに可能である。このタイプの選択的な補助回路を接続するための弁は、電気PTC加熱装置から見て流れの方向に配置されていることが好ましい。
【0036】
図2には、弁40a,40bの制御によって選択的に組み入れることのできる補助回路3に加えて、3/2方弁40c,40dを用いて選択的に組み入れることができる第2の補助回路3aを示してある。図2に示した例においては、補助回路3aは、車載バッテリ10の近傍で動作する。このタイプの補助回路は、以下の2つの機能を実行することができる。
【0037】
第1の機能として、補助回路3aを使用して、バッテリをその動作温度に達するまで予熱することができる。この目的のため、補助回路3aは、弁40c,40dの適切な制御によって暖房回路に含められ、PTC加熱素子20によって加熱された水が回路3aを流れる。バッテリを予熱する段階では、レンジエクステンダの補助回路3がオフに切り替わるように、弁40a,40bが制御されることが好ましい。補助回路3は、車両が走行する前には熱を提供することができないため、加熱回路内の水を迅速かつ効率的に加熱するためには、補助回路3をオフに切り替えることによって、循環する水の量を減らすことが有利である。
【0038】
さらには、これに代えて、車室を暖房するためのラジエータ30を、適切な弁(図2には示していない)によって選択的に組み入れることのできる回路部分に設けることも可能である。このタイプの実施形態においては、バッテリを特に迅速に暖める目的で、最初にラジエータ30を暖房回路からはずし、後から、好ましくはバッテリがその動作温度に達した時点で、再び組み入れることができる。同時に、補助回路3aをオフに切り替えることができる。
【0039】
第2の機能として、回路3aを、図2の左側に示した補助回路3と同様に、追加の熱源として使用することができる。この場合、バッテリ10の走行動作中に発生するバッテリ廃熱を、別個の熱源として使用することができる。この目的のため、バッテリがその動作温度に達した時点で、熱需要に応じて、補助回路3aを残りの回路から切り離さない、あるいは、走行動作中の後の時点で再び組み入れる。
【0040】
図3は、本発明の実施形態による暖房装置の制御コンセプトの概要を示している。本発明の重要な利点として、弁およびポンプを制御する制御装置を、高電圧(HV)PTCヒータ20内に必ず存在する制御電子回路に統合することができる。言い換えれば、PTCヒータ内にすでに存在する制御電子回路のプロセッサ容量に、例えばポンプ60および弁(図3には3/2方弁40a,40bとして表してある)の制御などの追加のタスクを割り当てる。この目的のため、高電圧PTCヒータは、高電圧接続部(高電圧プラグ22によって表してある)に加えて、自動車の低電圧範囲における接続部(LV:低電圧)(低電圧プラグ24によって表してある)も有する。低電圧接続部は、高電圧PTC 20の外側にあるコンポーネント(ポンプおよび弁)に制御データを送信するために使用される。一方で、制御装置への制御データも低電圧接続部を介して送信される。図示した回路では、データ発生元の例として、車両の空調運転パネル70を示してある。このようにすることで、例えば、望ましい必要温度、さらには必要出力を、使用者が入力することが可能である。データ通信は、車載バス(図3にはLINバスによって表してある)を介して行われることが好ましい。しかしながら、本発明は、特定のインタフェース形式に制限されない。他のバスシステム(例えばCANバスシステム)を使用することもできる。暖房装置の制御に関連するさらなるデータを、高電圧PTC 20に統合されている制御装置に、低電圧範囲にある制御接続部を介して(好ましくは車両のバスシステムを通じて)伝えることができる。例えば、加熱回路内、または車両内の別の位置における温度測定装置(温度センサー)によって求められるデータを提供することができる。これに代えて、またはこれに加えて、選択的に組み入れることができる特定の補助回路における(例えば廃熱からの)加熱エネルギの可用性に関するデータを、車載バスおよび低電圧プラグ24を通じて制御装置に伝えることができる。
【0041】
以下では、本発明による暖房装置の制御の実施形態について、図4および図5の流れ図に基づいて、例として説明する。
【0042】
図4は、測定された温度を、指定された温度目標値に調整する処理の例を示している。この場合、測定される温度は、加熱回路の特定の位置における温度プローブによって取得される温度とすることができる。温度プローブは、流れの方向においてPTC加熱装置の後ろに配置されていることが好ましい。しかしながら、別の配置構造も可能である。
【0043】
あるいは、暖房装置によって暖められる車両の領域において測定される温度を使用することができる。この領域は、例えば、車室とすることができる。しかしながら、自動車の別の領域(例えば、車載バッテリ(蓄電池)の領域)における温度とすることもできる。
【0044】
本方法の最初のステップ(S10)において、温度目標値TSETを定義する。このステップは、オペレータ(運転者または同乗者)が例えば空調運転パネル70を使用して行うことができる。本方法の第2のステップ(S20)において、高電圧PTC加熱装置20に統合されている制御電子回路は、温度プローブによって測定された現在の温度TACTUALが温度目標値よりも低いかを確認する。測定された温度値が、指定された温度目標値よりも低い場合(S20:Y)、本方法はステップS30に進む。
【0045】
ステップS30において、制御電子回路は、遮断されている補助回路が追加の熱を提供できるかを評価する。このタイプの情報は、車載バスを介して制御装置に伝えることができる。例えば、制御装置は、レンジエクステンダ(ハイブリッド自動車における追加の内燃エンジン)の利用可能な廃熱に関する情報を、レンジエクステンダの温度を通じて得ることができる。同様に、熱を供給する他の熱源(例えば、ブレーキ、車載バッテリ)の適切な情報を、それらの温度に基づいて取得することができる。
【0046】
遮断されている補助回路が熱を提供できる場合(S30:Y)、次のステップ(S40)において、該当する補助回路を、弁の適切な制御によって組み入れる。次いで、本方法はステップS60に進む。ステップS60において、制御電子回路は、温度を温度目標値TSETまで上げるための十分な熱をその補助回路が提供できるかを評価する。評価が肯定である場合(S60:Y)、図4に従って本方法は終了する。矢印によって示したように(S60:Y −> S20)、処理サイクルは最初から開始される。そうでない場合(S60:N)、次のステップ(S50)において、PTC加熱装置の加熱出力を高める。
【0047】
あるいは、ステップS30における評価において、遮断されているいずれの補助回路も、現在のところ追加の熱を提供できないことが判明した場合(S30:N)、本方法はステップS50に直接進む。ステップS50において、制御装置によってPTC加熱出力を高める。
【0048】
評価ステップS20において、測定された現在の温度が温度目標値よりも低くないことが判明した場合(S20:N)、本方法は、最初に評価ステップS70に進む。ステップS70において、現在の温度が温度目標値よりも高いかを評価する。そうでない場合(S70:N)、すなわち、現在の温度が(指定される許容誤差範囲内で)温度目標値に等しい場合、本方法は、図4の流れ図に従って終了し、サイクルは再びステップS20から開始される。
【0049】
等しくない場合(S70:Y)、すなわち、測定された温度が温度目標値より高いとき、本方法はステップS75に進む。ステップS75において、制御装置は、PTC加熱装置が現在熱を供給していないかどうかを評価する。PTC加熱装置が現在熱を供給していない場合(S75:Y)、本方法はステップS90に進む。ステップS90において、制御装置は、加熱回路に冷水を供給できる、現在遮断されている補助回路が存在するかを評価する。存在しない場合(S90:N)、本方法は図4の流れ図に従って終了する。存在する場合(S90:Y)、最初に、冷水を供給できるすべての補助回路を組み入れる(ステップS100)。したがって、迅速な冷却が達成される(実際の温度値を温度目標値に一致させる)。
【0050】
評価ステップS75において、現在PTC加熱装置によって熱が供給されていることが判明した場合(S75:N、次のステップS80において、最初にPTC加熱出力を下げる。次いで、本方法は判定ステップS20に戻り、達成されたPTC加熱出力の低減が、測定温度を温度目標値に等しくするうえで十分であるかを、さらに確認する。
【0051】
したがって、本方法は、図4に示したループの後、評価ステップS20から連続的に繰り返される。あるいは、指定される一定の間隔で、ステップS20およびS70(必要時)に従って評価を行うこともできる。その場合、ループが1回終了してから次にループS20を開始するまで、対応する待機時間が形成される。指定される目標温度TSETが再定義されるたびに、図4による本方法がステップS10から再び開始される。
【0052】
図4に例として示した手順は、本発明の範囲内で変更することが可能である。例えば、最初にステップS70を実行して、TACTUAL>TSETであるかを評価することができ、そうでない場合、本方法はステップ20から続行される。
【0053】
さらなる代替方法は、温度(TSET)の代わりに、達成するべき暖房出力を指定することである。その場合、PTC加熱装置20と補助回路3,3aとを含んでいる暖房装置の制御において、要求される暖房出力のうち補助回路によって電気以外の熱源から供給できる割合を、最初に評価する。本エネルギ管理の範囲内では、PTC加熱の使用は、それ以外の熱源から供給できない残りの部分に限られる。さらには、出力を指定する代わりに温度を指定することも可能であり、制御電子回路がそれを出力の指定値に変換する。
【0054】
以下では、本発明による暖房装置の制御の別の実施形態による方法について、図5の流れ図を参照しながら説明する。
【0055】
長時間停止していた後に自動車を走行させるとき、図5による方法は、ステップS200から開始される。ステップS200において、PTC加熱装置20をオンに切り替え、弁40c,40d(図2を参照)の適切な制御によってバッテリ補助回路3aを組み入れて、車載バッテリ10を予熱する。停止している車両では、補助熱源からの熱エネルギ(例えば廃熱)が期待されないため、さらなる補助回路(例えば、レンジエクステンダ50の補助回路)を接続するための弁の位置は、遮断位置にあることが好ましい。こうして、水の循環速度が高まり、したがってバッテリのより迅速な予熱が達成される。
【0056】
次いで、評価ステップS210において、車載バッテリ10の動作温度に達したかを評価する。バッテリ10の動作温度に達していない(S210:N)かぎりは、暖房装置の状態は変化しないままである(ループS210:N −> S210)。
【0057】
バッテリの動作温度に達したとき(S210:Y)、本方法はステップS220に進む。ステップS220において、弁40c,40dの弁位置を適切に変更することによって、バッテリ補助回路3aを最初にオフに切り替える。次いで、ステップS230において、制御装置は、循環回路内に追加の熱が必要であるかと、バッテリの補助回路3aが廃熱を提供できるかとを評価する。このタイプの評価は、例えば、図4に例として示したエネルギ管理の範囲内で行うことができる。あるいは、別の基準に従って、例えば、暖房出力の特定の指定値に基づいて、この評価を実施することもできる。
【0058】
暖房のためのバッテリの廃熱が利用できない、またはバッテリの廃熱が要求されないかぎりは(S230:N)、暖房装置の状態は変化しないままである。そうでない場合(S230:Y)、ステップS240において、制御装置が弁40c,40dの適切な制御によってバッテリ補助回路3aを再び組み入れる。
【0059】
本発明は、添付の請求項に定義されており、上に詳しく説明した実施形態に限定されない。特に、特定の実施形態の個々の特徴は、互いに矛盾しなければ組み合わせることができる。
【0060】
要約すると、本発明は、好ましくは電気推進装置を備えた自動車のための、PTCベースの暖房装置に関し、1個または複数の補助回路が、選択的に組み入れられるように加熱回路に接続されている。このようにすることで、電気自動車において重要であるエネルギ管理における温度制御を目的として、数多くの可能な熱源を使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特に、電気推進装置を備えた自動車の暖房装置であって、伝熱媒体として液体媒体が使用され、
伝熱媒体として液体媒体を有する加熱回路(2)と、
前記液体媒体を加熱するため前記加熱回路(2)内に配置されている電気PTC加熱素子(20)と、
前記加熱回路に選択的に組み入れることのできる、別個の熱源(10,50)を有する補助回路(3,3a)と、
を備えている、暖房装置。
【請求項2】
前記PTC加熱素子(20)を制御する制御装置(25)、
をさらに備えており、
全暖房出力のうち前記補助回路(3,3a)によって提供できない割合分を前記PTC加熱素子(20)が提供するように、前記PTC加熱素子(20)が制御される、
請求項1に記載の暖房装置。
【請求項3】
前記暖房装置の暖房の要求量が、最初に前記補助回路(3,3a)を組み入れることによって提供されるように、制御装置が前記補助回路(3,3a)の選択的な切替えを制御する
請求項1または請求項2に記載の暖房装置。
【請求項4】
前記補助回路(3,3a)の前記選択的な切替えが、弁(40a,40b,40c,40d)を使用して行われる、
請求項1から請求項3のいずれかに記載の暖房装置。
【請求項5】
前記加熱回路(2)内の前記液体媒体の循環を発生させるポンプ(60)、
をさらに備えている、請求項1から請求項4のいずれかに記載の暖房装置。
【請求項6】
前記補助回路(3,3a)の前記別個の熱源(10,50)に、車両のコンポーネントの廃熱から供給される、
請求項1から請求項5のいずれかに記載の暖房装置。
【請求項7】
前記廃熱が、ハイブリッド自動車のレンジエクステンダ内燃エンジン(50)から利用可能にされる、
請求項6に記載の暖房装置。
【請求項8】
前記加熱回路(2)内に配置されている温度プローブ、
をさらに備えており、
前記温度プローブによって測定された温度が、指定される目標温度値に調整されるように、前記暖房装置が制御される、
請求項1から請求項7のいずれかに記載の暖房装置。
【請求項9】
前記補助回路(3,3a)が暖房のための熱を提供できないときに、前記補助回路(3,3a)がオフに切り替えられる、
請求項1から請求項8のいずれかに記載の暖房装置。
【請求項10】
選択的に組み入れることのできる少なくとも1つのさらなる補助回路(3,3a)、
を備えている、請求項1から請求項9のいずれかに記載の暖房装置。
【請求項11】
前記加熱回路(2)における温度を下げるとき、組入れ可能な前記補助回路(3,3a)内の前記液体媒体が前記加熱回路(2)内の前記液体媒体よりも冷たいときに、前記補助回路(3,3a)が組み入れられる、
請求項1から請求項10のいずれかに記載の暖房装置。
【請求項12】
前記PTC加熱素子(20)が、あらかじめ求められる暖房出力に基づいて制御される、
請求項1から請求項11のいずれかに記載の暖房装置。
【請求項13】
前記あらかじめ求められる暖房出力が、要求される全暖房出力と、前記補助回路(3,3a)によって提供できる暖房出力との差に等しい、
請求項12に記載の暖房装置。
【請求項14】
自動車の特定の領域または特定のコンポーネントを特に加熱するための、選択的に組み入れることのできる前記補助回路(3,3a)、が形成されている、
請求項10から請求項13のいずれかに記載の暖房装置。
【請求項15】
前記PTC加熱素子(20)と、制御装置(25)と、前記補助回路(3,3a)の組入れおよび切り離しを行うための弁(40a,40b,40c,40d)と、前記液体媒体の循環を発生させるポンプ(60)とが、共通のハウジング内に配置されている、
請求項1から請求項14のいずれかに記載の暖房装置。


【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−20730(P2012−20730A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−152609(P2011−152609)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(501324823)エーベルスパッヒャー・カテム・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンディットゲゼルシャフト (23)
【Fターム(参考)】