説明

電気機器の絶縁劣化診断方法

【課題】電気機器における非破壊試験による熱劣化診断は困難である。
【解決手段】電気機器絶縁層の熱劣化度を診断するものであって、TG−DTA装置から得られる絶縁材料の重量変化時における熱重量減少曲線の第一次重量減少量と第二次重量減少量の比率からマスターカーブを作成し、このマスターカーブに前記電気機器より採取された試料のTG−DTAによる分析結果と照らし合わせて熱劣化度を判断するものにおいて、
前記電気機器絶縁層から採取した絶縁材料に対して、予めワニス除去処理を施したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器の絶縁劣化診断方法に係り、特に絶縁劣化診断時における絶縁材料の前処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転機等の電気機器においては、一旦絶縁劣化による故障が発生すると、当該機器の復旧にかかる時間と費用以外に社会的に莫大な損失が発生するため、従来からこの故障を未然に防ぐための絶縁劣化診断の開発が行われている。
特に電気機器のうちでも、水力発電所などに使用されている大型の水車発電機の固定子コイルの電気絶縁には、鉄心に樹脂含浸されたガラスクロステープが使用されている。このような絶縁材料を使用しても、長期運転に伴って運転負荷状態、運転時間、始動停止回数、及び設置環境などの内外的な要因による運転環境により、様々な絶縁劣化形態を示した現象が連続的に発生する。
【0003】
代表的な劣化現象としては、鉄心部の発熱による絶縁材料の熱酸化劣化により内部絶縁層が分解して空隙が発生し、振動などによって絶縁層の剥離が起こり、この剥離面での部分放電の発生により絶縁材料が加速的に劣化する。水車発電機のような回転機が故障した場合、復旧するためには巻線などの交換が必要となるため、多大な時間と補修費や人件費がかかると共に、場合によっては
社会的も莫大な損失が発生することになる。
【0004】
ところで、従来の電気特性試験における電気機器の寿命予測は約10年単位での予測のため、寿命予測精度が悪く信頼性に欠ける問題を有している。実際に電気特性試験では問題がないにもかかわらず、補強部材の機械強度の低下から絶縁層に無理な応力が加わって絶縁層が破壊する事故が発生する。
【0005】
この電気特性試験等では電気機器の絶縁層に加わる応力により機械強度特性の低下や過熱等による絶縁材料の変質(劣化)等は電気特性試験では解らない。このようなことから、絶縁材料の破壊による回転機の故障が生じた場合、巻線に使用されている絶縁材料の劣化度(余寿命)を適切に評価・把握できれば早い段階で劣化度を把握して機器故障を未然に防止できるが、しかし、次のような問題点を有している。
(1)現状における劣化診断は巻線のスロットル部の吸湿、空隙(剥離、ボイド)等を劣化現象との相関関係による電気的非破壊試験により把握する方法で、直接に絶縁材料の熱劣化度を把握することができない。
(2)巻線を機械的に固定、支持する絶縁材料(スロットル部の楔、コイルエンド部の支持物、間隔片等)の劣化度の把握ができない。
(3)また、IEC.pub.216による耐熱性評価方法は存在するが、この方法では破壊試験、重量減少の試験項目となるため実機の巻線には直接適用できない。このため、回転機の巻線交換等の大幅な修復をせずに、そのまま再使用が可能な試験方法の開発が望まれている。
【0006】
上記(1)〜(3)の問題点を解決するものとして、特許文献1が提案されている。この特許文献1は、TG−DTA(熱重量示差熱分析)装置による熱分析手法を応用したもので、試料採取量が数mg程度と非常に微量での評価が可能としたもので、次のような劣化診断技術を採用している。
【0007】
一般的に、劣化の進行の進行に伴って硬化する現象を示し、新品の分子間結合が安定した構造に起因する領域と分子間結合が凝集した構造に起因する領域がある。また、高分子は加熱により分子構造中の弱い結合部分から切断されて不安定末端基などが反応して性質が硬くなる現象を示す。このため、高分子などに熱を一定の速度で加えた場合、図6に示す熱重量減少曲線には二段階の分解過程が生じ、これら分解の程度が既に進行した劣化の程度に依存し異なってくる。
【0008】
高分子などは初期構造に起因した構造の領域と劣化に起因した硬い構造の領域があり、熱重量減少曲線では二段階の分解過程現象が生じる。その一次減量と二次減量の比率から劣化度合いを短時間に判定することが出来る。劣化判定にはIEC(pub.216)規格による劣化判定基準があり、加熱速劣化試験規格による重量減少率の結果と熱分析手法での減量比率に相関がある。
図7に示す重量減少率と減量比率を対比させたマスターカーブに実試料を熱分析測定して算出した減量比を照らし合わせて劣化度合いの判定を行うものである。
【特許文献1】特開2005−338045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、実試料としての水車発電機固定子コイルのように、ワニス処理の施されている絶縁材料の場合、他の絶縁材料と比較して劣化判定精度が落ちていることが判明した。水車発電機の固定子コイルは、固定子コイルの鉄心に巻かれている絶縁材料としては、樹脂含浸されたガラスクロステープが使用され、且つその表面層にはワニスが塗布されている。このため、樹脂含浸ガラスクロステープを剥がして採取した試料を熱分析すると、熱分析測定の際にワニス成分が重量減少曲線の一次減量と二次減量に第三成分として出現し、これが減量比算出時に妨害して誤差となっていることが判明した。また、ワニス成分が繊維状のガラスクロステープの隙間に入り込み、これの除去が非常に困難となっている。
【0010】
そこで、本発明が目的とするところは、被試験材料に混入するワニス成分を除去する電気機器の絶縁劣化診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、電気機器絶縁層の熱劣化度を診断するものであって、TG−DTA装置から得られる絶縁材料の重量変化時における熱重量減少曲線の第一次重量減少量と第二次重量減少量の比率からマスターカーブを作成し、このマスターカーブに前記電気機器より採取された試料のTG−DTAによる分析結果と照らし合わせて熱劣化度を判断するものにおいて、
前記電気機器絶縁層から採取した絶縁材料に対して、予めワニス除去処理を施すことを特徴としたものである。
【0012】
また、本発明の電気機器絶縁層は、水車発電機の固定子コイルであることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0013】
以上のとおり、本発明によれば、電気機器絶縁層から採取した絶縁材料に対して、予めワニス除去処理を施したことにより妨害成分が除去でき、熱分析手法による測定が、一次減量と二次減量の比率算出による減量比が精確にでき、絶縁材料の劣化度合いの判定精度が向上できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
絶縁劣化試験にあたり、実機の回転機(この実施例では水車発電機の固定子巻線)の巻線から剥がして採取した樹脂含浸ガラスクロステープの表面層の仕上げワニスをカッターにて削り取って除去した。その後、ガラスクロステープの繊維の隙間に付着しているワニスをカッターの刃先にて除去し、樹脂含浸ガラスクロステープに付着している削りカスを振動により除去する。これにより、全体的に黒っぽい状態のワニス除去前の試料表面層は、除去後は白っぽい状態となる。
【0015】
ワニス除去前後の各樹脂含浸ガラスクロステープを切断して乳鉢中で粉砕し、ワニス除去前後の試料についてTG−DTA装置を用いて測定した。図1と図2は熱分析結果図で、図2がワニス除去処理を実施しなかったときの重量減少曲線、図1がワニス除去処理を実施したときの重量減少曲線で、両者は第一次減量及び第二次減量においてその重量減少量を大きく異にしている。
【0016】
図3及び図4は、図1、図2で示すTG−DTA装置による第一次及び第二次重量減少量の積分カーブを微分値に変換した微分ピークである。両図の比較から明らかなように、図4で示すワニス除去前の微分ピークは、約350℃と約450℃付近に妨害成分であるピーク状の第三成分があるのが観測される。
【0017】
図5は微分ピークに対して更に明確とするために、ガウス関数を用いて微分多重ピーク分離処理を施して4分割処理した微分ピークの結果図である。
診断用マスターカーブを作成するためには、更に、分離処理された二次重量減少ピーク面積を一次重量減少ピーク面積で割って重量減少率を算出する。
【0018】
ここで得られた重量減量比をTG−TDA分析の指標値とし、従来手法(IEC pub.216)による重量減量率結果との相関を取ってマスターカーブを作成し、このマスターカーブを用いて劣化診断・余寿命推定を行うものであるが、ワニスによる妨害成分が除去されていることにより、一次減量と二次減量の比率算出による減量比が精確になり、絶縁材料の劣化度合いが精度よく判定可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】水車発電機固定子コイルのワニス除去処理後の重量減少曲線図。
【図2】水車発電機固定子コイルのワニス除去処理前の重量減少曲線図。
【図3】ワニス除去処理後の微分ピーク結果図。
【図4】ワニス除去処理前の微分ピーク結果図。
【図5】ワニス除去処理後の微分ピーク分割処理結果図。
【図6】高分子材料の初期品と劣化後の重量減少曲線図。
【図7】重量減少率と減量比率を対比させたマスターカーブ図。
【符号の説明】
【0020】
TG−DTA… Thermo Gravimeter−Differetial Thermal Analyzer
IEC Pub.216… International Electrotechnical Commission Publlication.216

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器絶縁層の熱劣化度を診断するものであって、TG−DTA装置から得られる絶縁材料の重量変化時における熱重量減少曲線の第一次重量減少量と第二次重量減少量の比率からマスターカーブを作成し、このマスターカーブに前記電気機器より採取された試料のTG−DTAによる分析結果と照らし合わせて熱劣化度を判断するものにおいて、
前記電気機器絶縁層から採取した絶縁材料に対して、予めワニス除去処理を施すことを特徴とした電気機器の絶縁劣化診断方法。
【請求項2】
前記電気機器の絶縁層は、水車発電機の固定子コイルであることを特徴とした請求項1記載の電気機器の絶縁劣化診断方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−64698(P2008−64698A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245182(P2006−245182)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】