説明

電気機器のPCB浄化方法

【課題】PCBを含有する絶縁油中の微量PCBを常温・常圧にて分解・無害化しながら、該絶縁油だけでなく電気機器内に存在する内部部材までも同時に無害化・浄化することができる、簡易且つ安全な電気機器のPCB浄化方法を得る。
【解決手段】内部にPCBを含有した絶縁油3が収容されたトランス2におけるPCBの浄化方法において、絶縁油3をトランス2から順次抜き出す工程と、その抜き出した絶縁油3を、アルカリ金属を添着したセラミックス処理剤に接触させてPCBを分解することにより無害化する工程と、その無害化した絶縁油を前記トランス2に戻す工程とを有し、これらの工程を常温・常圧にて順次繰り返して絶縁油3をトランス2内とセラミックス処理剤との間で循環することにより、絶縁油3及びトランス2内の内部部材8を無害化して浄化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスなどの電気機器の絶縁油としてPCBを含有する絶縁油を使用したトランス等、特別管理産業廃棄物として扱われる電気機器における絶縁油及び内部部材中のPCBを常温・常圧にて無害化して浄化する、電気機器のPCB浄化方法に関するものである。
なお、本発明における無害化とは、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下、廃棄物処理法という)に基づく基準値以下までPCB濃度が減少した状態をいう。また、常温とは「JIS Z 8703」に規定されている20℃±15℃(5〜35℃)の範囲をさし、また常圧とは、装置の停止状態では大気圧であるが、ポンプを作動させ絶縁油を電気機器内とセラミックス処理剤との間で循環するために必要な圧力の範囲をさし、通常ほぼ1気圧である。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビフェニル(PCB)は安定した化学的性状や絶縁特性からトランスやコンデンサーなどの電気機器の絶縁油を始めとした製品に幅広く用いられてきたが、その毒性から昭和47年より新たな製造が停止され処理されることとなった。
その後、PCBの処理体制の整備が遅れしばらくの間は保管されていたが、平成13年のポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(以下、PCB特別措置法という)の施行により国ベースでのPCB処理が始まった。
【0003】
しかしながら、昭和47年以降に製造され、PCBを使用していないとする電気機器に、数十ppm程度のPCBに汚染された絶縁油を含むものが存在することが判明し、近年、この微量のPCBが含有されている絶縁油が使用されている電気機器の処理が問題となっている。
この微量PCB含有絶縁油が使用されている電気機器は、公称120万台と膨大な数にのぼり、かつ大型で移動の困難な機器も多数存在するため簡易に効率よく安価で安全に微量PCB含有絶縁油とともに電気機器の内部部材を無害化処理する方法の開発が急務となっている。
【0004】
ところで、PCBを無害化処理する方法としては、特許文献1に示すように、PCBの塩素基と反応する反応基を持つ固体状の脱塩素物質(主にアルカリ金属類)を固定層フィルタ状に設け、脱塩素物質に被処理液を接触させPCBを無害化する方法が示されている。しかし、当該方法はアルカリ金属の融点未満まで加熱することを特徴としており、被処理液(絶縁油)の加熱に伴う発火等の危険が伴い安全性において問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−110735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の技術的課題は、PCBを含有する絶縁油中の微量PCBを常温・常圧にて分解・無害化しながら、該絶縁油だけでなく電気機器内に存在する内部部材までも同時に無害化・浄化することができる、簡易且つ安全な電気機器のPCB浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明者らは、微量PCB含有絶縁油を使用した電気機器の代表として使用済みのトランスを用いてアルカリ金属を添着したセラミックス処理剤をカラム内に充填した装置により絶縁油中のPCBを分解処理しながらトランス部材を浄化する試験を数多く実施した結果、以下の知見を得た。
・アルカリ金属を添着したセラミックス処理剤をカラム内に充填した装置を用いて微量PCBが混入した絶縁油を常温・常圧にて循環したところ絶縁油中のPCB濃度が減少していったこと。
・前記装置への微量PCB含有絶縁油の通油速度は、空間速度(SV)で1〜2程度が効率良くPCBを分解できること。
・通油する絶縁油の温度は高い方がPCBの分解効率は良いが、加熱することの安全に対するリスクより一般環境(常温)での処理の方が、発火のリスク、装置コスト、装置の取り扱いの簡易性、電源の簡略性などの面からメリットがあること。
・アルカリ金属を添着したセラミックス処理剤によって電気機器内に存在する内部部材の近傍で無害化されていく絶縁油と電気機器の内部部材のPCB濃度差によるPCBの拡散現象により電気機器類部材中のPCB濃度が減少していくこと。
・アルカリ金属を添着したセラミックス処理剤をカラム内に充填した装置を通過して無害化された絶縁油を一旦タンク等に保管し、無害化した保管絶縁油を再度微量PCB混入電気機器類内に戻し入れ、無害化された絶縁油を電気機器に循環させることにより内部部材中のPCB濃度が減少していくこと。
【0008】
前記の知見に基づき、本発明者らは、安全に、効率よく絶縁油を無害化すると同時に、無害化した絶縁油を電気機器内に循環させることによって該電気機器の内部部材中のPCB濃度を減少させ、該内部部材も無害化する方法に想到した。その要旨とするところは以下の通りである。
即ち、本発明の電気機器のPCB浄化方法は、内部にPCBを含有した絶縁油が収容された電気機器におけるPCBの浄化方法において、絶縁油を電気機器から順次抜き出す工程と、その抜き出した絶縁油を、アルカリ金属を添着したセラミックス処理剤に接触させてPCBを分解することにより無害化する工程と、その無害化した絶縁油を前記電気機器に戻す工程とを有し、これらの工程を常温・常圧にて順次繰り返して絶縁油を電気機器内とセラミックス処理剤との間で循環することにより、絶縁油及び電気機器内の内部部材を無害化して浄化することを特徴とする。
【0009】
一方、本発明の他の電気機器のPCB浄化方法は、内部にPCBを含有した絶縁油が収容された電気機器におけるPCBの浄化方法において、絶縁油を電気機器から一旦すべて抜き出して一時的にタンクに貯蔵する工程と、そのタンクに貯蔵した絶縁油を、該タンクとアルカリ金属を添着したセラミックス処理剤との間で常温・常圧にて循環させて、該セラミックス処理剤に絶縁油を接触させることにより該絶縁油中のPCBを順次分解し、タンク内の絶縁油すべてを予め一旦無害化する工程と、その一旦無害化した絶縁油を電気機器内に戻す工程と、電気機器内に戻した絶縁油の液流により電気機器内の内部部材を洗浄、無害化して浄化する工程とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明においては、前記絶縁油を、アルカリ金属を添着したセラミックス処理剤に通してPCBを分解することにより無害化する工程において、前記セラミックス処理剤をカラム内に充填し、常温、常圧にて該カラムにPCBを含有する絶縁油を通すことにより絶縁油中のPCBを分解し、無害化することができる。
さらに、本発明においては、前記無害化した絶縁油を前記電気機器に戻す工程において、無害化された絶縁油と電気機器内の内部部材中のPCB濃度との間で濃度勾配を生じさせて、該内部部材中のPCBを該無害化された絶縁油中に拡散させることにより、内部部材を浄化することができる。
【0011】
また、本発明においては、前記各工程を行う浄化装置を移動自在とし、前記電気機器の設置場所において該電気機器のPCBの浄化を行うこととすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電気機器からPCBを含有する絶縁油を抜き出してセラミックス処理剤によって無害化した後、その無害化された絶縁油を再度電気機器に戻すという工程を繰り返しながら絶縁油を循環させることにより、PCBが含有された絶縁油、及び電気機器のPCBを含有する内部部材が次第に無害化・浄化されていくため、PCBを含有する絶縁油中の微量PCBを分解・無害化しながら、該絶縁油だけでなく電気機器内に存在する内部部材までも同時に且つ簡易に無害化・浄化することができる。しかも、この作業は常温・常圧にて行うため、安全に電気機器のPCB浄化を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るPCB浄化方法の第1の実施の形態に使用する浄化装置の模式図である。
【図2】本発明に係るPCB浄化方法の第2の実施の形態に使用する浄化装置の模式図である。
【図3】本発明のPCB浄化方法の実施例に係る効果実験に使用する浄化装置の模式図である。
【図4】本発明のPCB浄化方法の実施例に係る絶縁油のPCB濃度の経時的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明に係る電気機器のPCB浄化方法の第1の実施の形態に使用される浄化装置を示すもので、この実施の形態においては、PCBを含有する絶縁油が使用され、且つ該絶縁油によってPCBが含浸された内部部材を有するトランスを浄化する場合を示している。
【0015】
具体的に、この浄化装置1は、トランス2に使用されている絶縁油3中のPCBを分解し、該絶縁油3を無害化するアルカリ金属が添着されたセラミックス処理剤(図示せず)と、該セラミックス処理剤が内部に充填された縦円筒状のカラム4と、前記トランス2内から絶縁油3を抜き出してその絶縁油3を該カラム4内に流入させる一次側の配管5aと、カラム4からセラミックス処理剤によって無害化された絶縁油を前記トランス2内に戻す二次側の配管5bを備えている。さらに、前記一次側の配管5a中には、絶縁油を一次側及び二次側の配管5a,5bを通して、トランス2とカラム4との間を循環させる循環ポンプ6が設けられ、また、前記二次側の配管5b中には、PCBが分解された絶縁油を濾過して塩化ナトリウムや酸化ナトリウム、ビフェニル類を取り除くフィルタ7を介在させている。
【0016】
前記セラミックス処理剤は、セラミックス製の担体の表面にアルカリ金属を薄膜状にコーティングしたもので、前記カラム内に交換自在に充填されている。また、前記担体は、多孔質の素材により形成されていて、これによりアルカリ金属の表面積を増大させて、アルカリ金属とPCBとの接触効率を高め、分解処理能力を向上させている。
【0017】
ここで、前記セラミックス処理剤に使用するアルカリ金属としては、ナトリウムやカリウムがあるが、経済性の点からナトリウムを使用するのが望ましい。
なお、コーティング法としては、ディッピングコーティングやスプレー法などを例示することができるが、金属微粒子として担体上にコーティングするのが望ましい。さらに、セラミックス処理剤は、担体の質量に対し1〜50質量%、好ましくは5〜20質量%のアルカリ金属が付着されていることが好ましい。
【0018】
また、前記浄化装置1は、各構成部材ごと、即ちセラミックス処理剤が充填されたカラム4と、一次側及び二次側の配管5a,5b、循環ポンプ6、フィルタ7ごとにそれぞれ分離できる構成となっている。そして、それぞれの構成部材を個別に浄化対象となる前記トランス2の設置場所まで運び、その現場で組み立てることより、装置全体を容易に移動させ、且つ浄化に係る作業を行うことができるようになっている。
【0019】
前記構成を有する浄化装置1を使用して前記トランス2を浄化するに際しては、まず、一次側の配管5aを循環ポンプ6を介してトランス2とカラム4との間に連結する一方、二次側の配管5bをフィルタ7を介してカラム4とトランスと2の間に連結する準備工程を行う。
準備工程が完了した後、第1の工程として、循環ポンプを6駆動させて、トランス2内の絶縁油3を一定量ずつカラム内に流入させる。
次に、第2の工程として、カラム4内の絶縁油をセラミックス処理剤に接触させ、該絶縁油3内のPCBを分解させて無害化する。
その後、第3の工程として、無害化した絶縁油をフィルタ7で濾過した後、その無害化した絶縁油をトランス2内に戻す。
そして、前記第1の工程〜第3の工程を繰り返しながら、絶縁油をトランス2とカラム4との間で循環させる。
【0020】
このとき、第1の工程においてトランス2内の絶縁油3は一定量ずつ順次とカラム4に送り出されるが、それと同時に、前記第3の工程において、第2の工程を経て無害化された絶縁油がトランス2内に順次供給される。
そのため、トランス2内には、残っている未だPCBを含有した絶縁油3に、無害化された絶縁油が順次混入されることになり、前記第1〜第3の行程を繰り返していくと、トランス2内の絶縁油のPCBの濃度は次第に低下し、最終的には、トランス2内の絶縁油全体が無害化されることになる。
【0021】
その一方で、トランス2内に配設されている内部部材8に含まれていたPCBは、トランス2内の絶縁油3中のPCBの濃度が低下することにより、内部部材8中のPCB濃度と絶縁油中のPCB濃度とに差(濃度勾配)が生じることになる。これにより、PCBの拡散現象が生じ、PCBが高濃度側の内部部材8から低濃度側の絶縁油3に次第に溶出していく。
そして、前記第1〜第3の行程を繰り返して絶縁油中のPCBの濃度が低下していくのに伴って、内部部材8中のPCBも絶縁油3に順次溶出することにより、最終的には、内部部材8中のPCBはすべて抜けるため、内部部材8の無害化、浄化が完了することになる。
【0022】
以上のように、電気機器からPCBを含有する絶縁油を抜き出してセラミックス処理剤によって無害化した後、その無害化された絶縁油を再度電気機器に戻すという工程を繰り返しながら絶縁油を循環させることにより、PCBが含有された絶縁油、及び電気機器のPCBを含有する内部部材が次第に無害化・浄化されていくため、PCBを含有する絶縁油中のPCBを分解・無害化させながら、該絶縁油だけでなく電気機器内に存在する内部部材までも同時に且つ簡易に無害化・浄化することができる。
しかも、この作業は常温・常圧にて行うため、安全に電気機器のPCB浄化を行うことが可能である。
【0023】
図2は、本発明に係る電気機器のPCB浄化方法の第2の実施の形態に使用される浄化装置を示すもので、この実施の形態においては、前記第1の実施の形態と同様の電気機器としてのトランスを浄化する場合を示している。
【0024】
具体的に、この第2の実施の形態に係る浄化装置1は、上述の第1の実施の形態に係る浄化装置における一次側の配管5a中の前記循環ポンプ6の前に、絶縁油3を一時的に保管するタンク9を設けると共に、該一次側の配管5a中における該タンク9の前に前記循環ポンプ6とは別に第2の循環ポンプ10を配設している。
さらに、二次側の配管5b中には、該二次側の配管5bと一次側の配管5a中の前記循環ポンプとカラム4との間とを連通させる第1のバイパス管11、及び該第1のバイパス管11よりも下流側に設けられて二次側の配管5bからタンク9に絶縁油を流入させる第2のバイパス管12、並びに該第2のバイパス管12よりも下流側に設けられて、一次側の配管5a中の第2の循環ポンプ10とタンク9との間に連結された第3のバイパス管13がそれぞれ配設されている。
【0025】
なお、その他の構成については、上述した第1の実施の形態に係る浄化装置と同じ構成で、同じ作用効果を奏するため、同様の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0026】
前記構成を有する浄化装置1を使用してトランス2の浄化を行うに際しては、まず、第2の循環ポンプ10を駆動させ、トランス2内の絶縁油3を、一次側の配管5aを通して該トランス2から一旦すべて抜き出し、一時的にタンク9に貯蔵する。
次に、循環ポンプ6を駆動させて、そのタンク9に貯蔵した絶縁油を、一次側の配管5a、カラム4、フィルタ7、第2の配管5b、第2のバイパス管12を通して、該タンク9とカラム4との間で常温・常圧にて循環させる。そして、カラム4内のセラミックス処理剤に絶縁油を接触させることにより該絶縁油中のPCBを順次分解し、タンク9内の絶縁油すべてを予め一旦無害化した上で、タンク9内に戻す。
【0027】
その後、循環ポンプ6を駆動させ、タンク9内にある一旦無害化した絶縁油を、一次側の配管5a、第1のバイパス管11及び二次側の配管5bを通してトランス2内に戻す。
そして、第2の循環ポンプ10を駆動させ、トランス2内に戻した絶縁油を、トランス2内から、一次側の配管5a、第3のバイパス管13、二次側の配管5bを通して、再度トランス2内に戻すという経路で循環させることにより絶縁油に液流を生じさせ、その絶縁油の液流によりトランス2内の内部部材8に付着したPCBを洗い流す。同時に、内部部材8に含まれていたPCBも、内部部材8中のPCB濃度と絶縁油中のPCB濃度との濃度勾配によるPCBの拡散現象により、PCBを高濃度側の内部部材8から低濃度側の絶縁油に溶出させ、内部部材8中のPCB濃度を徐々に低下させていく。
【0028】
また、絶縁油の循環によって内部部材8のPCBが絶縁油に溶出、洗浄されると、絶縁油中のPCB濃度は上昇することになるが、この場合、トランス2内の絶縁油を、一次側の配管5aを通して該トランス2からタンク9に抜き出し、その絶縁油をセラミックス処理剤に接触させる。そして、該絶縁油をまた無害化した上で、その無害化した絶縁油をトランス2に戻し、内部部材8を洗浄するという上述した工程を再度繰り返すことにより、最終的には内部部材8中のPCBがすべて抜けて、内部部材8の無害化、浄化が完了することになる。
【0029】
以上にように、上述した第2の実施の形態によれば、基本的に第1の実施の形態の場合と同様の効果を得ることができるが、この第2の実施の形態の場合は、トランスの内部部材の浄化の前に、絶縁油をタンク9とカラム4の間で循環させて、セラミックス処理剤によって予め絶縁油すべてを一旦無害化させておき、その一旦無害化させた絶縁油及びその液流によってトランス2内の内部部材8を効率良く洗浄し、無害化することができるため、トランス2内の絶縁油及び内部部材8の無害化・浄化を迅速且つ安定的に行うことができる。
特に、一旦無害化した絶縁油と内部部材8が含有するPCBの濃度とは、PCBの濃度勾配が非常に大きいことから、内部部材8内のPCBが絶縁油に拡散し易く、これにより、内部部材8の無害化・浄化を迅速に行うことができるという利点がある。
【0030】
上記第2の実施の形態においては、一旦無害化した絶縁油をトランス2内に戻した後、その絶縁油を、トランス2内、一次側の配管5a、第3のバイパス管13、二次側の配管5b、トランス2内の経路で循環させて絶縁油に液流を生じさせ、その絶縁油の液流により電気機器内の内部部材に付着したPCBを洗い流すようにしているが、第3のバイパス管13を通す経路に代えて、カラム4及びフィルタ7を含む経路を使って、絶縁油をトランス2内、一次側の配管5a、カラム4及びフィルタ7、二次側の配管5b、トランス2内の経路で循環させるようにしてもよい。これにより、トランス内の内部機器8の洗浄に伴ってPCB濃度が上昇していく絶縁油を、カラム4内のセラミックス処理剤に接触さて絶縁油中のPCB濃度を低下させつつ、トランス2とカラム4との間で循環させることができるため、トランス2内の絶縁油及び内部部材8の無害化・浄化をより迅速に行うことができる。
【0031】
なお、上記第1及び第2の実施の形態の浄化装置1は、オイルパン上に載置された状態(後述の図3参照)でコンテナ(図示せず)に組み込み、全体として移動自在な態様としてもよい。このような態様とすることにより、浄化装置1を内蔵したコンテナは、鉄道、船舶、トラック等の輸送手段により、PCBを含有した絶縁油が収容しているトランス2の設置場所まで移動させ、原位置での前記トランス2の浄化が可能となる。
また、この場合いおいては、重金属吸着シート(例えば、ゼオライト含有したもの)を前記コンテナの内側に装着し、移動中におけるPCBの汚染対策とすることが好ましい。さらに、前記コンテナは換気装置又はフィルター(例えば活性炭)を装備した構造としてもよい。
【実施例】
【0032】
本発明に係る電気機器のPCB浄化方法による効果を確認するため、実際に使用されていた電気機器としてのトランスに対して実験を行った。
実験に際しては、次表に示す定格容量10kVAのトランスを用いて浄化作業を行い、トランスにおける特定の複数個所のPCB濃度を測定した。
【0033】
【表1】

【0034】
前記効果実験は、基本的には前記第1の実施の形態に基づくものであり、具体的には図3に示すような浄化装置1によりトランスの浄化を実施した。
即ち、この浄化装置1は、内容量約2.5リットルの円筒状のカラム4に金属ナトリウム添着セラミックス処理剤14が2リットル充填されており、一次側の配管5aには、循環ポンプ6の他に、該循環ポンプ6よりも下流側に流量計測用のフローメータ15が取付けられている。なお、フローメータ15と循環ポンプ6の間には、二次側の配管5bと連通するバイパス管16が連結されている。さらに、二次側の配管5b中におけるフィルタ7よりも上流側、及びトランス2には、絶縁油の温度を測定する温度計17,18がそれぞれ取付けられている。
一方、浄化対象となるトランス2は、ケース2a内に、鉄心8aと、該鉄心8aに巻き付けられたコイル部8b(一次導線、二次導線、絶縁紙、木を含む)と、鉄心8aをケース2a内に載置させるベース部材と、導線が連結されたガイシ8cとが内部部材8として配設され、さらに絶縁油3が充填されている。
なお、前記浄化装置1によるトランス2の浄化はオイルパン19上において行う。
【0035】
トランスの浄化に際しての主な条件は表2に示すとおりである。
本発明の効果実験に際しては、適宜トランス内の絶縁油をサンプリングして該絶縁油中のPCB濃度を測定し、このトランス内の絶縁油のPCB濃度が目標値0.3ppm(0.3mg/kg)となるまで浄化を行った。その後、トランス2より内部部材8を取り出し、2昼夜放置して、内部部材8の油切りを行った。続いて、コイル部8bおよび鉄心8aを解体し、特定の複数個所から分析用の試料を採取した。試料の採取箇所の詳細を表3に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
さらに、採取した各試料については、廃棄物処理法に基づく検定方法によりPCB濃度の測定を行った。各試料についての検定方法、及び廃棄物処理法に基づくPCB濃度の判定基準(「PCB処理技術ガイドブック(改訂版)、412〜415頁、編集:産業廃棄物処理事業振興財団、出版:株式会社ぎょうせい、平成17年8月」より引用)を表4に示す。
【0039】
【表4】

【0040】
本発明に係る浄化方法を実施した結果、図4に示すように、絶縁油のPCB濃度は処理開始から20日目で廃棄物処理法に示された卒業判定基準(0.5ppm)まで低下し、27日目で本試験の目標値である0.3ppmを達成することができた。
一方、トランスの内部部材から採取した試料のPCB濃度の測定結果を表5に示す。
【0041】
【表5】

【0042】
内部部材から採取した試料のPCB濃度ついては、すべて廃棄物処理法に規定されている卒業判定基準を満たしていることが確認された。
したがって、本発明の浄化方法を実施することにより、トランスの絶縁油及び内部部材の無害化・浄化を行うことができることが実証された。
【符号の説明】
【0043】
2 :トランス
3 :絶縁油
4 :カラム
8 :内部部材
9 :タンク
14:セラミックス処理剤



【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にPCBを含有した絶縁油が収容された電気機器におけるPCBの浄化方法において、絶縁油を電気機器から順次抜き出す工程と、その抜き出した絶縁油を、アルカリ金属を添着したセラミックス処理剤に接触させてPCBを分解することにより無害化する工程と、その無害化した絶縁油を前記電気機器に戻す工程とを有し、これらの工程を常温・常圧にて順次繰り返して絶縁油を電気機器内とセラミックス処理剤との間で循環することにより、絶縁油及び電気機器内の内部部材を無害化して浄化することを特徴とする電気機器のPCB浄化方法。
【請求項2】
内部にPCBを含有した絶縁油が収容された電気機器におけるPCBの浄化方法において、絶縁油を電気機器から一旦すべて抜き出して一時的にタンクに貯蔵する工程と、そのタンクに貯蔵した絶縁油を、該タンクとアルカリ金属を添着したセラミックス処理剤との間で常温・常圧にて循環させて、該セラミックス処理剤に絶縁油を接触させることにより該絶縁油中のPCBを順次分解し、タンク内の絶縁油すべてを予め一旦無害化する工程と、その一旦無害化した絶縁油を電気機器内に戻す工程と、電気機器内に戻した絶縁油の液流により電気機器内の内部部材を洗浄、無害化して浄化する工程とを有することを特徴とする電気機器のPCB浄化方法。
【請求項3】
前記絶縁油を、アルカリ金属を添着したセラミックス処理剤に通してPCBを分解することにより無害化する工程において、前記セラミックス処理剤をカラム内に充填し、常温、常圧にて該カラムにPCBを含有する絶縁油を通すことにより絶縁油中のPCBを分解し、無害化することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電気機器のPCB浄化方法。
【請求項4】
前記無害化した絶縁油を前記電気機器に戻す工程において、無害化された絶縁油と電気機器内の内部部材中のPCB濃度との間で濃度勾配を生じさせて、該内部部材中のPCBを該無害化された絶縁油中に拡散させることにより、内部部材を浄化することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電気機器のPCB浄化方法。
【請求項5】
前記各工程を行う浄化装置を移動自在とし、前記電気機器の設置場所において該電気機器のPCBの浄化を行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の電気機器のPCB浄化方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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