説明

電気機器温度測定システム及び電気機器温度測定方法

【課題】赤外光を透過して電気機器の温度をより正確に温度測定可能な電気機器温度測定システム及び電気機器温度測定方法を提供する。
【解決手段】電気機器温度測定システム1は、電気部品51,52,53をカバーするカバー部材2と、電気部品から放射される赤外線を撮影する赤外線サーモグラフィカメラ3と、カバー部材2に対して赤外線サーモグラフィカメラ側の温度を測定する第1温度基準体5aと、カバー部材に対して電気部品側の温度を測定する第2温度基準体5bと、第1温度基準体の測定値及び第2温度基準体の測定値からカバー部材の温度を算出し、第1温度基準体の測定値及び第2温度基準体の測定値からカバー部材の透過率を推定し、カバー部材から発生する赤外線による温度付加分を以下の式(1)にて推定し、電気機器の温度を以下の式(2)から推定する演算部と、を備える。Tr=T×(1−σ)・・・(1)Th=(Ts−Tr)/σ・・・(2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器から発生する赤外光を測定する電気機器温度測定システム及び電気機器温度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気機器の端子箱として、特許文献1に記載されたような技術がある。
【0003】
特許文献1に記載された技術は、回転電機の端子箱の蓋を鋳物により一体成形し、曲面上に膨らませて、十分な機械的強度を得るようにしたものである。
【0004】
特許文献1に記載されたような電気機器は、蓋を設けることで、人が接触して感電すること又は工具類等が接触して破損することを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−149085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電気機器は、施工不良によるボルトの弛み、不適切な仕様の端子の使用、部品の経年劣化等により、通電部位が過熱して、破損したり、火災が発生する等の不具合が生じるおそれがある。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたような電気機器では、端子箱に鋳物の蓋を設けているため、端子箱内部の状態を観察することができず、通電部位の過熱、破損、及び火災等の不具合を短時間で的確に見つけることができなかった。
【0008】
本発明は、従来技術のこのような状況に鑑みてなされたものであり、赤外光を透過して電気機器の温度をより正確に温度測定可能な電気機器温度測定システム及び電気機器温度測定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
電気機器温度測定システムは、電気部品をカバーするカバー部材と、前記カバー部材を通して前記電気部品から放射される赤外線を撮影する赤外線サーモグラフィカメラと、前記カバー部材に対して前記赤外線サーモグラフィカメラ側の温度を測定する第1温度基準体と、前記カバー部材に対して前記電気部品側の温度を測定する第2温度基準体と、前記第1温度基準体の測定値及び前記第2温度基準体の測定値からカバー部材の温度を算出し、前記第1温度基準体の測定値及び前記第2温度基準体の測定値からカバー部材の透過率を推定し、前記カバー部材から発生する赤外線による温度付加分を以下の式(1)にて推定し、前記電気機器の温度を以下の式(2)から推定する演算部と、を備えることを特徴とする。
Tr=T×(1−σ) (1)
Th=(Ts−Tr)/σ (2)
ただし、
Tはカバー部材の温度、
σはカバー部材の透過率、
Tsは第1の赤外線及び第2の赤外線から得られた温度、
Trは第2の赤外線による温度付加分、
Thは電気機器の温度、
である。
【0010】
さらに、電気機器温度測定方法は、電気部品をカバーするカバー部材を通して電気部品から放射される赤外線を赤外線サーモグラフィカメラが撮影し、前記カバー部材に対して前記赤外線サーモグラフィカメラ側に配置された第1温度基準体の測定値及び前記カバー部材に対して前記電気部品側に配置された第2温度基準体の測定値からカバー部材の温度を算出し、前記第1温度基準体の測定値及び前記第2温度基準体の測定値からカバー部材の透過率を推定し、前記カバー部材から発生する赤外線による温度付加分を以下の式(1)にて推定し、前記電気機器の温度を以下の式(2)から推定することを特徴とする。
Tr=T×(1−σ) (1)

Th=(Ts−Tr)/σ (2)
ただし、
Tはカバー部材の温度、
σはカバー部材の透過率、
Tsは第1の赤外線及び第2の赤外線から得られた温度、
Trは第2の赤外線による温度付加分、
Thは電気機器の温度、
である。
【発明の効果】
【0011】
以上の本発明においては、赤外光を透過して電気機器の温度をより正確に温度測定可能な電気機器温度測定システム及び電気機器温度測定方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態の電気機器カバー部材を用いた温度測定システムを示す図である。
【図2】実施形態の電気機器カバー部材を用いた温度測定システムの概念図である。
【図3】実施形態のカバー部材の波長と透過率を示す図である。
【図4】赤外線サーモグラフィカメラのカメラ本体内部にフィルタを装着した状態を示す図である。
【図5】赤外線サーモグラフィカメラのカメラ本体外部にフィルタを装着した状態を示す図である。
【図6】赤外線サーモグラフィカメラの外部にフィルタを装着した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態の電気機器温度測定システムについて説明する。
【0014】
図1は、実施形態の電気機器温度測定システムを示す図である。
【0015】
図1に示すように、電気機器40は、カバー部材2と、端子箱50と、第1ケーブル群51と、第2ケーブル群52と、端子箱50内で第1ケーブル群51と第2ケーブル群52を接続する圧縮端子53と、圧縮端子53を接続するボルト54と、ボルト54に締め付けられる図示しないナットと、を有する。
【0016】
第1ケーブル群51は、第1ケーブル導管51aと、第1ケーブル導管51a内に収められた複数のケーブル511,512,513等からなる。第2ケーブル群52は、第2ケーブル導管52aと、第2ケーブル導管52a内に収められた複数のケーブル521,522,523等からなる。なお、本実施形態では、ケーブルは3本であるが、これに限らず、何本でもよい。
【0017】
各ケーブル511,512,513,521,522,523の端部は、被覆が剥がされて、各導体511a,512a,513a,521a,522a,523aが剥き出ている。各導体511a,512a,513a,521a,522a,523aは、各圧縮端子53に接続される。このような構成により、端子箱50内で第1ケーブル群51と第2ケーブル群52は、接続されている。
【0018】
また、端子箱50は、電気部品を構成する第1ケーブル群51、第2ケーブル群52、及び圧縮端子53等をカバーするカバー部材2を有する。カバー部材2は、ねじ2a等によって端子箱50に取り付けられる。カバー部材2によって、端子箱50内の第1ケーブル群51と第2ケーブル群52を接続する電気部品に、人が接触して感電すること又は工具類等が接触して破損することを防止する。
【0019】
第1ケーブル群51と第2ケーブル群52を接続する電気部品は、施工不良によるボルト54の弛み、不適切な仕様の圧縮端子53の使用、第1ケーブル群51、第2ケーブル群52、及び圧縮端子53の経年劣化等により、通電部位が過熱して、破損したり、火災が発生する等の不具合が生じるおそれがある。
【0020】
そこで、電気機器40が過熱してしまい温度が上がった場合に放射される赤外線を利用して、温度測定システム1により、異常を診断する。
【0021】
温度測定システム1は、カバー部材2を通して電気機器40から放射される赤外線を赤外線サーモグラフィカメラ3によって撮影し、撮影画像の解析を行うことにより、撮影部位の温度を計測して、異常の有無を診断する。
【0022】
図2は、実施形態のカバー部材を用いた電気機器温度測定システムの概念図である。
【0023】
温度測定システム1は、カバー部材2を通して熱源Hから放射される赤外線を赤外線サーモグラフィカメラ3によって撮影し、撮影画像の解析を行うことにより、撮影部位の温度を計測して、異常の有無を診断する。
【0024】
本実施形態のカバー部材2としては、アクリル材を使用する。アクリル材は、厚さ1mm程度の板状であり、可視光を透過して設備内を観察することが可能であると共に、赤外光を透過して設備内の温度を測定可能である。
【0025】
また、温度測定システム1は、温度基準体5を備える。温度基準体5は、カバー部材2に対して赤外線サーモグラフィカメラ3側に配置された第1温度基準体5aと、カバー部材2に対して熱源H側に配置された第2温度基準体5bと、を有する。第1温度基準体5a及び第2温度基準体5bは、黒体テープ等のあらかじめ放射率がわかっているものを使用することが好ましい。なお、カバー部材2の透過率があらかじめわかっている場合には、第1温度基準体5a又は第2温度基準体5bのうちどちらか1つを配置すればよい。
【0026】
実施形態では、第1温度基準体5aをカバー部材2の赤外線サーモグラフィカメラ3側に取り付け、第2温度基準体5bをカバー部材2の熱源H側に取り付ける。
【0027】
さらに、温度測定システム1の赤外線サーモグラフィカメラ3の測定波長λを、13.5μm ≦ λ ≦ 18μmに設定する。
【0028】
赤外線サーモグラフィカメラ3は、マイクロボロメータ素子を使用したカメラにフィルタを用いて、測定波長を13.5μm ≦ λ ≦ 18μmに変更するとよい。
【0029】
図3は、実施形態のカバー部材2の波長と透過率を示す図である。
【0030】
図3に示すように、実施形態のカバー部材2は、波長λが13.5μm ≦ λ ≦ 18μmの範囲では、高い透過率を持つことがわかる。波長λが13.5μm ≦ λ ≦ 18μmの上限を上回ったり、下限を下回った場合、透過率が低くなる。
【0031】
したがって、実施形態のカバー部材2を使用した温度測定システム1は、可視光を透過して設備内を観察することが可能であると共に、赤外光を透過して設備内の温度を測定可能である。
【0032】
次に、赤外線サーモグラフィカメラ3について説明する。
【0033】
図4は赤外線サーモグラフィカメラのカメラ本体内部にフィルタを装着した状態を示す図、図5は赤外線サーモグラフィカメラのカメラ本体外部にフィルタを装着した状態を示す図、図6は赤外線サーモグラフィカメラの外部にフィルタを装着した状態を示す図である。
【0034】
一般に赤外線サーモグラフィカメラの測定波長は、8μm〜13μmである。しかしながら、図3に示すように、アクリルは、8μm〜13μmの波長の赤外線を透過しない。したがって、一般の赤外線サーモグラフィカメラは、フィルタ等を使用して測定波長を変更させる。
【0035】
赤外線サーモグラフィカメラ3にフィルタを装着するには、図4に示すように赤外線サーモグラフィカメラ3のカメラ本体31内部にフィルタ4を装着する例、図5に示すように赤外線サーモグラフィカメラ3のカメラ本体31外部にフィルタ4を装着する例、又は図6に示すように赤外線サーモグラフィカメラ3の外部にフィルタ4を装着する例等がある。
【0036】
図4に示すように、赤外線サーモグラフィカメラ3の内部にフィルタ4を装着する例では、赤外線が検出部31aに入射する前のカメラ本体31内にフィルタ4を配置するとよい。
【0037】
また、図5に示すように、赤外線サーモグラフィカメラ3の内部にフィルタ4を装着する例では、赤外線がレンズ32を射出し、カメラ本体31に入射する前にフィルタ4を配置するとよい。
【0038】
さらに、図6に示すように、赤外線サーモグラフィカメラ3の外部にフィルタ4を装着する例では、赤外線がレンズ32に入射する前にフィルタ4を配置するとよい。
【0039】
なお、複数のフィルタ4を組み合わせて検出部31aに入射する前に測定波長を変更してもよい。
【0040】
次に、温度測定システム1の温度計測方法について説明する。
【0041】
温度測定システム1による温度計測の際には、図2に示すように、熱源Hから発生した赤外線IR0から発生してカバー部材2を透過した第1の赤外線IR1と、カバー部材2自体から発生する第2の赤外線IR2と、を考慮しなければならない。
【0042】
温度計測の際は、図2に示すように、赤外線サーモグラフィカメラ3が、カバー部材2を通して、熱源Hを撮影する。撮影時には、第1温度基準体5a及び第2温度基準体5bも撮影する。なお、第1温度基準体5a及び第2温度基準体5bは、熱源Hと同一画面内に撮影するとよい。
【0043】
撮影後は、演算部にて以下の処理を行う。
【0044】
まず、第1温度基準体5aの測定値及び第2温度基準体5bの測定値からカバー部材2の温度Tを算出する。
【0045】
続いて、第1温度基準体5aの測定値及び第2温度基準体5bの測定値からカバー部材2の透過率σを推定する。
【0046】
次に、第2の赤外線IR2による温度付加分Trを以下の式(1)にて推定する。
Tr=T×(1−σ) (1)
ただし、
Tはカバー部材2の温度、
σはカバー部材2の透過率、
である。
【0047】
続いて、熱源の温度Thを以下の式(2)から推定する。
Th=(Ts−Tr)/σ (2)
ただし、
Tsは第1の赤外線IR1及び第2の赤外線IR2から得られた温度
Trは第2の赤外線IR2による温度付加分
σはカバー部材2の透過率、
である。
【0048】
このように、温度測定システム1の温度計測方法で、カバー部材2自体から発生する第2の赤外線IR2を考慮することで、より正確な温度に近い値を推定することが可能となる。
【0049】
なお、実施形態では、電気機器40として端子箱50について説明したが、制御盤等の各種電気機器40に適用することが可能である。また、実施形態では、カバー部材2としてアクリル板を使用したが、これに限らず、赤外線を透過する部材であれば何でもよい。
【0050】
以上、本発明の種々の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態のみに限られるものではなく、それぞれの実施形態の構成を適宜組み合わせて構成した実施形態も本発明の範疇となるものである。
【符号の説明】
【0051】
1…温度測定システム
2…カバー部材
3…赤外線サーモグラフィカメラ
31…カメラ本体
31a…検出部
32…レンズ
4…フィルタ
5…温度基準体
5a…第1の温度基準体
5b…第2の温度基準体
40…電気機器
50…端子箱
51…第1ケーブル群(電気部品)
52…第2ケーブル群(電気部品)
53…圧縮端子(電気部品)
54…ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気部品をカバーするカバー部材と、
前記カバー部材を通して前記電気部品から放射される赤外線を撮影する赤外線サーモグラフィカメラと、
前記カバー部材に対して前記赤外線サーモグラフィカメラ側の温度を測定する第1温度基準体と、
前記カバー部材に対して前記電気部品側の温度を測定する第2温度基準体と、
前記第1温度基準体の測定値及び前記第2温度基準体の測定値からカバー部材の温度を算出し、
前記第1温度基準体の測定値及び前記第2温度基準体の測定値からカバー部材の透過率を推定し、
前記カバー部材から発生する赤外線による温度付加分を以下の式(1)にて推定し、
前記電気機器の温度を以下の式(2)から推定する演算部と、
を備えることを特徴とする電気機器温度測定システム。
Tr=T×(1−σ) (1)
Th=(Ts−Tr)/σ (2)
ただし、
Tはカバー部材の温度、
σはカバー部材の透過率、
Tsは第1の赤外線及び第2の赤外線から得られた温度、
Trは第2の赤外線による温度付加分、
Thは電気機器の温度、
である。
【請求項2】
電気部品をカバーするカバー部材を通して電気部品から放射される赤外線を赤外線サーモグラフィカメラが撮影し、
前記カバー部材に対して前記赤外線サーモグラフィカメラ側に配置された第1温度基準体の測定値及び前記カバー部材に対して前記電気部品側に配置された第2温度基準体の測定値からカバー部材の温度を算出し、
前記第1温度基準体の測定値及び前記第2温度基準体の測定値からカバー部材の透過率を推定し、
前記カバー部材から発生する赤外線による温度付加分を以下の式(1)にて推定し、
前記電気機器の温度を以下の式(2)から推定することを特徴とする電気機器温度測定方法。
Tr=T×(1−σ) (1)
Th=(Ts−Tr)/σ (2)
ただし、
Tはカバー部材の温度、
σはカバー部材の透過率、
Tsは第1の赤外線及び第2の赤外線から得られた温度、
Trは第2の赤外線による温度付加分、
Thは電気機器の温度、
である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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