説明

電気機器絶縁用樹脂組成物と電気機器

【課題】 電気絶縁処理工程で発生するVOCを大幅に低減することができ、また、硬化温度よりも引火点の高く安全性に優れ、更に、滴下処理後に電気絶縁用樹脂組成物がコイル等の絶縁処理対象から垂れ落ちが少なく、含浸性が良好で、且つ、コア等の絶縁処理不要な部分への付着が少ない電気機器絶縁用樹脂組成物と、これを用いて電気絶縁処理してなる電気機器を提供する。
【解決手段】 電気機器絶縁用樹脂組成物を電機機器に塗布し、加熱により硬化させて電気絶縁処理を行った際、硬化工程における電気機器絶縁用樹脂組成物の重量減少率が5%以下となる電気機器絶縁用樹脂組成物、及び、この電気機器絶縁用樹脂組成物を用いた電気絶縁処理方法で電気絶縁処理してなる電気機器であって、電気絶縁処理方法がドリップ処理方法である、電気機器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器絶縁用樹脂組成物及び電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ、トランス等の電気機器は、鉄コアの固着又は防錆、コイルの絶縁若しくは固着等を目的として、電気絶縁用樹脂組成物で処理されている。電気絶縁用樹脂組成物としては、固着性、硬化性、電気絶縁性などのバランスに優れた不飽和ポリエステル樹脂組成物が広く用いられている。近年の電気機器は、小型・軽量化、高出力化が進んだため、実機スロット内の電線が占有する割合(占積率)が高くなる傾向があり、スロット内の空隙が減少し、電気絶縁用樹脂組成物がスロットの中へ含浸し難くなってきている。
【0003】
特に、ドリップ処理では、予熱後の未だ熱い実機コイルへ電気絶縁用樹脂組成物を滴下しても、電気機器へ滴下した後に電気絶縁用樹脂組成物の温度が上昇して粘度が低下するため、電気絶縁用樹脂組成物が直ぐに垂れてしまい、満足する含浸性が得られず、さらに垂れた電気絶縁用樹脂組成物がコアへ付着してしまうことにより、コアに付着した電気絶縁用樹脂組成物を剥がし取る作業が生じ、生産性が低下してしまう事があった。また、電気絶縁用樹脂組成物を用いて電気絶縁処理を行う場合、硬化温度よりも電気絶縁用樹脂組成物の引火点が低いため、硬化炉内のガス濃度を爆発限界以下にしなければならず、このため、外気を多く取り込むため、循環風量が多くなると共に、硬化炉の熱損失が多く発生していた。
【0004】
更に、含浸性の向上を目指し、電気絶縁用樹脂組成物の滴下量を増やして滴下するが、電気絶縁用樹脂組成物がまた直ぐに垂れてしまい、満足する含浸性が得られず、更に、垂れた電気絶縁用樹脂組成物が更にコアへ付着してしまうという悪循環が生じ、生産性が低下していた。また近年では、環境対応として、電気絶縁処理工程で発生するVOC(揮発性有機化合物)を削減する動きがあり、また、安全面での向上策として、硬化温度よりも引火点の高い電気絶縁用樹脂組成物が求められてきている。加えて、電気絶縁処理時に、エネルギー効率の良い処理方法と電気絶縁用樹脂組成物を組み合わせた電気絶縁処理システムが求められてきている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−235813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、環境対応として、電気絶縁処理工程で発生するVOCを従来の溶剤型タイプ、スチレンを使用した不飽和ポリエステル樹脂よりも、大幅に低減することを可能とし、また、安全性の向上策として、硬化温度よりも引火点の高い電気絶縁用樹脂組成物を提供することにある。
【0007】
本発明の目的は、更に、電気絶縁用樹脂組成物が滴下処理後に電気機器の予熱によって高温にさらされ温度上昇に伴って粘度が下がり垂れ易くなってしまうため、高温にさらされる温度での電気絶縁用樹脂組成物の粘度範囲を規定する事によって、滴下処理後に電気絶縁用樹脂組成物がコイル等の絶縁処理対象から垂れ落ちを少なく、含浸性が良好で、且つ、コア等の絶縁処理不要な部分への付着が少なく、結果として、電気絶縁用樹脂組成物の滴下量を低減できる電気機器絶縁用樹脂組成物及びこの電気機器絶縁用樹脂組成物(電気絶縁用樹脂組成物)を用いて電気絶縁処理してなる電気機器を提供することにある。
【0008】
加えて、本発明の目的は、電気絶縁処理時に、エネルギー効率の良い処理方法と電気機器絶縁用樹脂組成物を組み合わせた電気絶縁処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討の結果、高温でさらされる温度での電気機器絶縁用樹脂組成物の粘度範囲を規定する事によって、滴下処理後に電気機器絶縁用樹脂組成物がコイルから垂れ落ちを少なく、含浸性が良好で、且つ、コアへの付着が少なく、結果として、電気機器絶縁用樹脂組成物の滴下量を低減できることを見出した。
更に、環境対応の面から、ワニス処理時に発生するVOCを従来の溶剤型タイプ、スチレンを使用した不飽和ポリエステル樹脂よりも大幅に低減することが可能となり、含浸処理後の硬化工程の硬化温度よりも、引火点が10℃以上高い電気機器絶縁用樹脂組成物を提供することにある。加えて、電気絶縁処理時に、エネルギー効率の良い処理方法と電気機器絶縁用樹脂組成物を組み合わせた電気絶縁処理システムを提供することにある。
【0010】
本発明は、以下に関する。
1. 電気機器絶縁用樹脂組成物を電機機器に塗布し、加熱により硬化させて電気絶縁処理を行った際、硬化工程における電気機器絶縁用樹脂組成物の重量減少率が5%以下となる電気機器絶縁用樹脂組成物。
2. 130℃で1時間加熱して硬化させたときの重量減少率が5%以下となる項1記載の電気機器絶縁用樹脂組成物。
【0011】
3. 80℃における粘度が5〜500mPa・sである項1又は2記載の電気機器絶縁用樹脂組成物。
4. 硬化工程の硬化温度よりも、引火点が10℃以上高い項1〜3いずれかに記載の電気機器絶縁用樹脂組成物。
【0012】
5. 電気機器絶縁用樹脂組成物と、MW35またはMW81の電線を組み合わせた時のツイストペアの寿命評価において、20000hの耐熱温度が155℃以上である項1〜4いずれかに記載の電気機器絶縁用樹脂組成物。
6. 項1〜5いずれかに記載の電気機器絶縁用樹脂組成物を用いた電気絶縁処理方法で電気絶縁処理してなる電気機器であって、電気絶縁処理方法がドリップ処理方法である、電気機器。
【発明の効果】
【0013】
本発明になる電気機器絶縁用樹脂組成物は、環境対応の面から、ワニス処理時に発生するVOCを従来の溶剤型タイプ、スチレンを使用した不飽和ポリエステル樹脂よりも大幅に低減することが出来、環境負荷の低減、臭気改善が可能となる。更に、高温でさらされる温度での電気機器絶縁用樹脂組成物の粘度範囲を規定する事によって、滴下処理後に電気機器絶縁用樹脂組成物がコイルから垂れ落ちを少なく、含浸性が良好で、且つ、コアへの付着が少なく、結果として、電気機器絶縁用樹脂組成物の滴下量を低減でき、コアに付着した電気機器絶縁用樹脂組成物の削り取り作業が削減できる。また、この電気機器絶縁用樹脂組成物は高温における固着性にも優れ、これを用いて電気絶縁処理された電気機器は工業的に極めて優れる。
また、本発明になる電気機器絶縁用樹脂組成物は、含浸処理後の硬化工程の硬化温度よりも引火点を10℃以上高くすることが出来、安全性を向上することが出来る。加えて、電気絶縁処理時に、エネルギー効率の良い処理方法と電気機器絶縁用樹脂組成物を組み合わせた電気絶縁処理システムを提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明において、電気機器絶縁用樹脂組成物は、特に制限は無く、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、不飽和エポキシエステル樹脂、変性不飽和エポキシエステル樹脂、ポリウレタン、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アルキド樹脂等の熱硬化樹脂が挙げられ、単独で用いても、複数を組合せて用いても良い。また、これらの電気機器絶縁用樹脂組成物に、二酸化珪素、窒化アルミニウム、タルク等のフィラーを用いても良く、フィラーは特に制限は無く、単独で用いても、複数を組合せて用いても良い。
【0015】
本発明において好ましい電気機器絶縁用樹脂組成物としては、例えば、変性不飽和エポキシエステル樹脂を含有する変性不飽和エポキシエステル樹脂組成物、及び、エポキシ樹脂とその硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物が挙げられる。
【0016】
変性不飽和エポキシエステル樹脂組成物としては、例えば、(A)1分子中に1個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物とα,β−不飽和一塩基酸とを反応させて不飽和エポキシエステル樹脂とし、次いで更に不飽和二塩基酸又はその酸無水物を反応させて得られる変性不飽和エポキシエステル樹脂と、(B)反応性不飽和モノマーとを含有するものが挙げられる。
【0017】
(A)成分の変性不飽和エポキシエステル樹脂の合成に用いられるエポキシ化合物は、一分子内にエポキシ基を1個以上有するものである。エポキシ化合物には特に制限はなく、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。通常、一分子内にエポキシ基を2個以上有する芳香族系エポキシ樹脂が好ましく用いられる。エポキシ化合物の具体例としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ソルビトールのポリグリシジルエーテル、ネオデカン酸のグリシジルエーテル、グリコール類とエピクロロヒドリンから誘導されるエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0018】
(A)成分の変性不飽和エポキシエステル樹脂の合成に用いられるα,β−不飽和一塩基酸には特に制限はなく、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、桂皮酸、クロトン酸等が挙げられる。α,β−不飽和一塩基酸は、α,β−不飽和一塩基酸のカルボキシル基と上記エポキシ化合物のエポキシ基との当量比、カルボキシル基/エポキシ基が好ましくは0.6〜1.6となるように、より好ましくは0.9〜1.5となるように用いられる。不飽和エポキシエステル樹脂は、酸価が5〜20であることが好ましく、5〜10であることがより好ましい。酸価が5未満では、接着力が不十分となる傾向があり、20を超えると、硬化物中に残存する酸によってサビの発生が促進されることとなる傾向がある。
【0019】
(A)成分の変性不飽和エポキシエステル樹脂は、エポキシ化合物とα,β−不飽和一塩基酸とを反応させて不飽和エポキシエステル樹脂とした後、更に不飽和二塩基酸又はその酸無水物を反応させることにより得られる。不飽和二塩基酸又はその酸無水物は、不飽和エポキシエステル樹脂のヒドロキシル基と反応させるために用いられ、その不飽和二塩基酸又はその酸無水物としては、例えば、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸及びそれらの酸無水物などが挙げられる。不飽和二塩基酸又はその酸無水物は、前記不飽和エポキシエステル樹脂の合成原料であるエポキシ化合物のエポキシ基1モルに対して0.10〜0.30モルに相当する割合で使用することが好ましく、0.15〜0.25モルに相当する割合で使用することがより好ましい。0.10モル未満であると、接着力が不十分となることがあり、0.30モルを超えると、硬化物中に残存する酸によってサビの発生が促進されることとなる傾向がある。
【0020】
エポキシ化合物とα,β−不飽和一塩基酸との反応、及び、不飽和エポキシエステル樹脂と不飽和二塩基酸又はその酸無水物との反応には、通常、付加反応触媒として、塩化亜鉛、塩化リチウム等のハロゲン化物、ジメチルサルファイト、メチルフェニルサルファイト等のサルファイト類、ジメチルスルホキサイド、メチルスルホキサイド、メチルエチルスルホキサイド等のスルホキサイド類、N,N−ジメチルアニリン、ピリジン、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、ヘキサメチレンジアミン等の3級アミン及びその塩基酸、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリメチルドデシルベンジルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩、パラトルエンスルホン酸などのスルホン酸類、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン等のメルカプタン類などが用いられる。付加反応触媒の配合量は、エポキシ化合物、α,β−不飽和二塩基酸又はその酸無水物の総量100重量部に対して0.05〜2重量部が好ましく、0.1〜1.0重量部が更に好ましい。
【0021】
(A)成分の変性不飽和エポキシエステル樹脂は、数平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値、以下も同じ)が1300〜1600であることが好ましく、1400〜1500であることがより好ましい。1300未満であると、電気機器絶縁用樹脂組成物の硬化性及び硬化物特性が劣ることがあり、1600を超えると、粘度が高すぎ、作業性が悪化する傾向がある。また、(A)成分の変性不飽和エポキシエステル樹脂は、酸価が10〜30であることが好ましく、15〜25であることがより好ましい。10未満では、接着力が不十分となる傾向があり、30を超えると、硬化物中に残存する酸によってサビの発生が促進されることとなる傾向がある。
【0022】
(B)成分の反応性不飽和モノマーとしては、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ベンジルアクリレート、ノナンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、ペンタメチルピペリジニルメタクリレート、テトラメチルピペリジニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ネオペンジルグリコールジメタクリレート等を用いることが好ましい。反応性不飽和モノマーは、引火点が100℃以上のものが好ましく、140℃以上であるものがより好ましい。引火点が100℃未満であると、電気機器絶縁用樹脂組成物の引火点が硬化温度以下となることがある。
【0023】
(A)成分の変性不飽和エポキシエステル樹脂と(B)成分の反応性不飽和モノマーとの割合は、(B)成分の反応性不飽和モノマー100重量部に対して(A)成分の変性不飽和エポキシエステル樹脂を40〜90重量部とすることが好ましく、50〜70重量部とすることがより好ましい。40重量部未満であると、電気機器絶縁用樹脂組成物の粘度が高くなり、作業性が低下する傾向があり、90重量部を超えると、反応性が極端に低下する傾向がある。
【0024】
上記の変性不飽和エポキシエステル樹脂組成物には、必要に応じて硬化剤を配合してもよい。硬化剤としては特に制限はないが、有機過酸化物が好ましく用いられる。有機過酸化物としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、ターシャリブチルパーオキシベンゾエート、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、ジターシャリブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等が挙げられる。硬化剤の添加量としては、(A)成分及び(B)成分の総量100重量部に対して0.5〜3.0重量部が好ましく、1.0〜2.0重量部がより好ましい。
【0025】
また、必要に応じてラジカル重合禁止剤を添加することもできる。ラジカル重合禁止剤としては、例えばハイドロキノン、ターシャリブチルカテコール、パラベンゾキノン等のキノン類が用いられる。ラジカル重合禁止剤は、あらかじめ(A)成分の合成時に添加してもよい。ラジカル重合禁止剤の添加量は、(A)成分及び(B)成分の総量100重量部に対して0.001〜1重量部が好ましく、0.004〜0.05重量部がより好ましい。
【0026】
エポキシ樹脂組成物としては、たとえば(I)エポキシ樹脂と(II)硬化剤とを含有するものが用いられる。
【0027】
(I)成分のエポキシ樹脂は、一分子内にエポキシ基を1個有する一官能でも、一分子内にエポキシ基を2個以上有する多官能でもよく、芳香族系でも脂肪族系でもよく、制限が無い。通常、一分子内にエポキシ基を2個以上有する芳香族系エポキシ樹脂が好ましく用いられる。エポキシ樹脂の具体例としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ソルビトールのポリグリシジルエーテル、ネオデカン酸のグリシジルエーテル、グリコール類とエピクロロヒドリンから誘導されるエポキシ樹脂が挙げられ、1種単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0028】
(II)成分の硬化剤としては、酸無水物とフェノール樹脂との組み合わせが好ましく用いられる。硬化剤として用いられる酸無水物としては、例えば3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、3−メチル−ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられ、1種単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0029】
硬化剤として用いられるフェノール樹脂としては、ノボラック樹脂、レゾール樹脂でも良く、住友ベークライト株式会社製PR−16382、日立化成工業株式会社製ヒタノール1133・1140・1501、群栄化学工業株式会社製PS−2607、明和化成株式会社製H−1、H−3等が挙げられ、単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0030】
フェノール樹脂は軟化点が60〜200℃であることが好ましく、80〜150℃であることがより好ましい。この場合、酸無水物100重量部当たり、フェノール樹脂10〜50重量部用いることが好ましく、20〜40重量部用いることがより好ましい。フェノール樹脂が10重量部未満であると、高い粘度が得られず、コア汚染が発生することがあり、50重量部を超えると、粘度が高くなりすぎてしまい、十分な含浸性が得られなくなることがある。
【0031】
、硬化剤として酸無水物とフェノール樹脂との混合物を用いる場合、エポキシ樹脂100重量部当たり、硬化剤総量を60〜120重量部とすることが好ましく、80〜100重量部とすることがより好ましい。60重量部未満、又は120重量部を超えると、硬化性が低下することがある。
【0032】
また、硬化剤として酸無水物とフェノール樹脂との混合物を用いる場合、更に、硬化剤としてアミン化合物又はルイス酸を併用してもよい。アミン化合物やルイス酸を用いる場合、エポキシ樹脂100重量部当たり、0.2〜5.0重量部とすることが好ましく、0.5〜2.0重量部とすることがより好ましい。0.2重量部未満であると、十分な硬化性が得られなくなることがあり、5.0重量部を超えると、安定性が低くなることがある。
【0033】
硬化剤に用いられるアミン化合物としては、トリスジメチルアミノメチルフェノール、トリエチルアミン等の3級アミン、又は、イミダゾール基を有する化合物(2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール等)、トリアジン類、イソシアヌル酸付加物が挙げられ、単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0034】
硬化剤に用いられるルイス酸としては、例えば、三フッ化ホウ素モノエチルアミン、三フッ化ホウ素、塩化亜鉛、塩化第二鉄、塩化アルミニウム等が挙げられ、単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0035】
本発明の電気機器絶縁用樹脂組成物には、更に、必要に応じて、二酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム等の無機充填剤を混合しても良い。無機充填剤は、単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。無機充填剤を用いる場合、その配合量は、電気機器絶縁用樹脂組成物中、0.01〜50重量%とすることが好ましく、1〜30重量%とすることがより好ましい。
【0036】
本発明の電気機器絶縁用樹脂組成物は、電機機器に塗布し、加熱により硬化させて電気絶縁処理を行った際、硬化工程における電気機器絶縁用樹脂組成物の重量減少率が5%以下となるものであり、好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.0%以下である。本発明の電気機器絶縁用樹脂組成物は、硬化温度が100〜160℃であることが好ましく、120〜130℃であることがより好ましい。本発明においては、このような硬化温度を有する電気機器絶縁用樹脂組成物の硬化工程における重量減少率は、例えば、130℃で1時間加熱して硬化させたときの重量減少率とすることができる。
【0037】
本発明の電気機器絶縁用樹脂組成物は、コア汚染が少なく、良好な含浸性を得る点から、80℃における粘度が5〜500mPa・sであることが好ましい。80℃における粘度は10〜200mPa・sであることがより好ましく、20〜150mPa・sであることがさらに好ましい。80℃における粘度が5mPa・s未満であると電気機器へ滴下したワニスが垂れ易くなってコアへ付着し易くなる傾向があり、500mPa・sを超えると浸透性が悪くなって含浸性が低下する傾向がある。
【0038】
本発明の電気機器絶縁用樹脂組成物は、引火点が120℃以上であることが好ましく、130℃以上であることがより好ましい。また、本発明の電気機器絶縁用樹脂組成物の引火点は、硬化工程における加熱温度よりも5℃以上高いことが好ましく、10℃以上高いことがより好ましい。
【0039】
本発明の電気機器絶縁用エポキシ樹脂組成物は、このエポキシ樹脂組成物と、MW35C又はMW81Cの電線(エナメル線)を組み合わせた時のツイストペアの寿命評価において、20000hの耐熱温度が155℃以上であることが好ましく、180℃以上であることが好ましい。この耐熱温度は、MW35C又はMW81Cのエナメル線を用い、UL1446に準拠して測定される。
【0040】
本発明の電気機器絶縁用エポキシ樹脂組成物はエアコン用ファン、扇風機、洗濯機等のコンデンサーモートル、電気ドリルなどのアマチュア、テレビ、ステレオ、コンパクトディスクプレーヤー等電源トランスなどの電気機器の絶縁処理に適用される。電気機器絶縁用エポキシ樹脂組成物を、電気機器自体、又は電気機器の部品に塗布(本発明において塗布とは、電気機器表面のみに塗布すること、コイル等に含浸させること、又は電気機器内部に充填すること等を意味する。)した後、通常、100〜170℃、好ましくは120〜150℃で加熱することにより、電気機器絶縁用樹脂組成物を硬化させる。加熱時間は、通常、0.2〜3.0時間である。
【実施例】
【0041】
以下実施例により本発明を説明する。下記例中の部は、重量部を意味する。
実施例及び比較例において用いた成分の詳細は、下記のとおりである。
・日立化成工業株式会社製FA−512MT(商品名): ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(分子量262、引火点176℃)
・日立化成工業株式会社製MHAC−P(商品名): メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,5−テトラヒドロ無水フタル酸
・三井石油化学株式会社製 R140(商品名): エピクロロヒドリンを原料とするビスフェノールA型エポキシ樹脂
・共栄社化学株式会社製エポライト100E(商品名): ジエチレングリコールとエピクロロヒドリンから誘導されるエポキシ樹脂
・日立化成工業株式会社製ヒタノール1501(商品名): アルキルフェノールノボラック樹脂(軟化点:80〜105℃)
・旭電化株式会社製EHC−30(商品名): 1,3,5−トリスジメチルアミノメチルフェノール
・昭和高分子株式会社製CKM−1634(商品名): フェノール樹脂(軟化点88〜104℃)
【0042】
製造例1
変性不飽和エポキシエステル樹脂(A−1)の合成
4,4′−イソプロピリデンジフェノールのジグリシジルエーテル(シェル化学製、EP−828,エポキシ当量188)376部、メタクリル酸172部、ベンジルジメチルアミン2部、ハイドロキノン0.05部を反応釜に仕込み、115℃10時間反応させ、樹脂酸価が8となった所で、フマル酸33部を仕込み、115℃2時間反応させて樹脂酸価20の変性不飽和エポキシエステル樹脂(A−1)を得た(数平均分子量:1500)。
【0043】
実施例1
変性不飽和エポキシエステル樹脂(A−1)40重量部、日立化成工業株式会社製FA−512MT 60重量部、ベンゾイルパーオキサイド1.0部を撹拌混合して電気機器絶縁用樹脂組成物を調製した。
【0044】
実施例2
日立化成工業株式会社製MHAC−P 70重量部、三井石油化学株式会社製 R140 80重量部、共栄社化学株式会社製 エポライト100E 20重量部、日立化成製ヒタノール1501 20重量部、旭電化株式会社製EHC−30 1重量部を混合を行い、電気機器絶縁用樹脂組成物を調製した。
【0045】
比較例1
不飽和エポキシエステル樹脂(A−1)40重量部、スチレン60重量部、ベンゾイルパーオキサイド1.0部を撹拌混合して電気機器絶縁用樹脂組成物を調製した。
【0046】
比較例2
亜麻仁油90重量部、グリセリン15重量部を反応釜に仕込み、215℃5時間反応後、イソフタル酸40重量部を仕込み、215℃8時間反応させて樹脂酸価20のアルキド樹脂を得た。このアルキド樹脂に、キシレン110重量部、ガソリン50重量部、昭和高分子株式会社製CKM−1634 55重量部を撹拌混合して電気機器絶縁用樹脂組成物を調製した。得られた電気機器絶縁用樹脂組成物について、所定雰囲気温度で粘度、ヘリカルコイル接着力、コア汚染及びステータコイルの含浸性を調べた。その結果を表1に示す。
尚、粘度の試験方法は、JIS C 2105に準じて測定を行った。また、引火点の測定方法はクリーブランド開放式とした。VOC、コア汚染及びステータコイルの含浸性は以下の試験方法に準じて評価を行った。
(1)VOC
電気機器絶縁用樹脂組成物5.0gをΦ60mm金属シャーレに投入し、130℃×1h硬化を行い、硬化時に減少した重量減少率(%)とした。
(2)コア汚染の試験方法は、図1及び図2に示すステータコイル1(Φ200mm、質量10kg)(図1中、(a)はステータコイル1の概略平面図、(b)はその概略側面図であり、図2は、図1のステータコイル1のコア2のY−Y概略断面図である。)を用い、回転速度15回転/分とし、ステータコイルのコア2の表面温度が80℃の時にコイル3エンドの(1)リード線4有り側の外側、(2)リード線4有り側の内側、(3)リード線4無し側の外側、(4)リード線4無し側の内側の合計四ヶ所(図1)にノズル5を配置し、所定のワニスを20分間に合計300ml滴下し、滴下終了後、回転を続行しながら150℃の乾燥機へ投入し、1h後に乾燥機から取り出して、コア部に付着したワニスの付着の有無を目視で調査した。
(3)含浸性の試験方法は、コア汚染の試験方法でワニス処理したステータコイル1のコア2をコア積み厚の半分の部位で輪切り状に切断し、コア内のスロット6内の空隙に対して含浸したワニスの割合を目視で評価した。
スロット6内の空隙に対して含浸したワニスの割合が70%以上を良好とし、50%未満を含浸不足とした。
(4)耐熱温度の測定は、MW35C及びMW81Cのエナメル線を用い、UL1446に準拠して行った。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示されるように、実施例1及び2で得られた電気機器絶縁用樹脂組成物は、比較例1及び2で得られた電気機器絶縁用樹脂組成物と比較して、VOCが低く、引火点が高い。また、80℃での粘度が適正範囲内であるため、コア汚染が発生し難く、含浸性が良好である。これに対して、比較例1及び2で得られた電気機器絶縁用樹脂組成物は、実施例1及び2で得られた電気機器絶縁用樹脂組成物と比較して、VOCが高く、引火点が低い。また、比較例1に至っては、80℃での粘度が適正範囲よりも低く、コア汚染が発生してしまい、含浸不足となっている。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】コア汚染の試験方法を示す模式図であり、図1(a)はこの試験方法に用いたステータコイルの概略平面図、図1(b)はその概略側面図である。
【図2】図1に示したステータコイルのY−Y概略断面図。
【符号の説明】
【0050】
1 ステータコイル
2 コア
3 コイル
4 リード線
5 ノズル
6 スロット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器絶縁用樹脂組成物を電機機器に塗布し、加熱により硬化させて電気絶縁処理を行った際、硬化工程における電気機器絶縁用樹脂組成物の重量減少率が5%以下となる電気機器絶縁用樹脂組成物。
【請求項2】
130℃で1時間加熱して硬化させたときの重量減少率が5%以下となる請求項1記載の電気機器絶縁用樹脂組成物。
【請求項3】
80℃における粘度が5〜500mPa・sである請求項1又は2記載の電気機器絶縁用樹脂組成物。
【請求項4】
硬化工程の硬化温度よりも、引火点が10℃以上高い請求項1〜3いずれかに記載の電気機器絶縁用樹脂組成物。
【請求項5】
電気機器絶縁用樹脂組成物と、MW35またはMW81の電線を組み合わせた時のツイストペアの寿命評価において、20000hの耐熱温度が155℃以上である請求項1〜4いずれかに記載の電気機器絶縁用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の電気機器絶縁用樹脂組成物を用いた電気絶縁処理方法で電気絶縁処理してなる電気機器であって、電気絶縁処理方法がドリップ処理方法である、電気機器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−117335(P2009−117335A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107033(P2008−107033)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】