説明

電気機器絶縁用樹脂組成物及びそれを用いた電気機器

【課題】 電気絶縁処理工程で発生するVOCを大幅に低減することができ、また、硬化温度よりも引火点が高く、安全性に優れ、更に、熱伝導率が高く、電気機器のより高い熱放散が期待出来る電気機器絶縁用樹脂組成物とこれを用いた電気機器を提供する。
【解決手段】 熱硬化性樹脂と無機充填剤を必須として含有する電気機器絶縁用樹脂組成物を電機機器に塗布し、加熱により硬化させて電気絶縁処理を行った際、130℃で1時間加熱して硬化させたときの硬化工程における電気機器絶縁用樹脂組成物の質量減少率が5%以下で、熱伝導率が0.5W/m・K以上である電気機器絶縁用樹脂組成物。この電気機器絶縁用樹脂組成物を用い、電気絶縁処理方法で電気絶縁処理してなる電気機器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器絶縁用樹脂組成物及びそれを用いた電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ、トランス等の電気機器は、鉄コアの固着又は防錆、コイルの絶縁若しくは固着等を目的として、電気絶縁用樹脂組成物で処理されている。電気絶縁用樹脂組成物としては、電気絶縁処理時の作業性向上の観点から、作業性が良好であり、VOC(揮発性有機化合物)の発生量が少ないものが求められている。
また、固着性、硬化性、耐加水分解性、耐薬品性、耐油性、電気絶縁性、経済性などのバランスに優れた不飽和ポリエステル樹脂組成物が広く用いられている。
【0003】
近年の電気機器は、小型・軽量化、高出力化が進んだため、蓄熱温度がより高くなり、特に、電子レンジ、インバータエアコンなどの電気機器に用いられる変圧器やリアクトルコイルは、運転時に過大な負荷により発生した熱が放散されずに蓄熱され電気機器の温度が上昇する傾向があるため、使用される各材料は、より耐熱性及び熱放散性が高いものが求められるようになってきた。
【0004】
近年では、環境対応として、電気絶縁処理工程で発生するVOC(揮発性有機化合物)を削減する動きがあり、また、安全面での向上策として、硬化温度よりも引火点の高い電気絶縁用樹脂組成物が求められてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−235813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、環境対応として、電気絶縁処理工程で発生するVOCを従来の溶剤型タイプ、スチレンを使用した不飽和ポリエステル樹脂よりも、大幅に低減することを可能とし、また、安全性の向上策として、硬化温度よりも引火点が高く、電気機器の熱放散を向上させるために熱伝導率が高い電気絶縁用樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、環境対応として、電気絶縁処理工程で発生するVOCを従来の溶剤型タイプ、スチレンを使用した不飽和ポリエステル樹脂よりも、大幅に低減することを可能とし、また、安全性の向上策として、硬化温度よりも引火点が高く、電気機器の熱放散を向上させるために熱伝導率が高い電気絶縁用樹脂組成物を提供できることを見出した。
【0008】
本発明は、以下に関する。
1. 熱硬化性樹脂と無機充填剤を必須として含有する電気機器絶縁用樹脂組成物を電機機器に塗布し、加熱により硬化させて電気絶縁処理を行った際、130℃で1時間加熱して硬化させたときの硬化工程における電気機器絶縁用樹脂組成物の質量減少率が5%以下で、熱伝導率が0.5W/m・K以上である電気機器絶縁用樹脂組成物。
2.熱硬化性樹脂が、変性不飽和エポキシエステル樹脂、引火点が100℃以上の反応性不飽和モノマーと硬化剤、又はエポキシ樹脂とその硬化剤を含有する項1に記載の電気機器絶縁用樹脂組成物。
3. 電気機器絶縁用樹脂組成物の硬化工程の硬化温度よりも、引火点が10℃以上高い項1又は項2に記載の電気機器絶縁用樹脂組成物。
4. 電気機器絶縁用樹脂組成物と、MW35またはMW81の電線を組み合わせた時のツイストペアの寿命評価において、20000hの耐熱温度が155℃以上である項1〜3のいずれかに記載の電気機器絶縁用樹脂組成物。
5. 項1〜4のいずれかに記載の電気機器絶縁用樹脂組成物を用いた電気絶縁処理方法で電気絶縁処理してなる電気機器。
【発明の効果】
【0009】
本発明になる電気機器絶縁用樹脂組成物は、環境対応の面から、ワニス処理時に発生するVOCを従来の溶剤型タイプ、スチレンを使用した不飽和ポリエステル樹脂よりも大幅に低減することが出来、環境負荷の低減、臭気改善が可能となる。
更に、本発明になる電気機器絶縁用樹脂組成物の高い熱伝導率特性を生かし、熱放散が良好な電気機器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、電気機器絶縁用樹脂組成物は、特に制限は無く、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、不飽和エポキシエステル樹脂、変性不飽和エポキシエステル樹脂、ポリウレタン、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アルキド樹脂等の熱硬化樹脂が挙げられ、単独で用いても、複数を組合せて用いても良い。
また、より高い熱伝導率を得るために、これらの電気機器絶縁用樹脂組成物に、二酸化珪素、窒化アルミニウム、タルク等の無機充填剤(フィラー)を用いた方が望ましく、フィラーは特に制限は無く、単独で用いても、複数を組合せて用いても良い。
【0011】
本発明において好ましい電気機器絶縁用樹脂組成物としては、例えば、変性不飽和エポキシエステル樹脂を含有する変性不飽和エポキシエステル樹脂組成物、及び、エポキシ樹脂とその硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物が挙げられる。
【0012】
変性不飽和エポキシエステル樹脂組成物としては、例えば、(A)1分子中に1個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物とα,β−不飽和一塩基酸とを反応させて不飽和エポキシエステル樹脂とし、次いで更に不飽和二塩基酸又はその酸無水物を反応させて得られる変性不飽和エポキシエステル樹脂と、(B)反応性不飽和モノマーとを含有するもの
が挙げられる。
【0013】
(A)成分の変性不飽和エポキシエステル樹脂の合成に用いられるエポキシ化合物は、一分子内にエポキシ基を1個以上有するものである。エポキシ化合物には特に制限はなく、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。通常、一分子内にエポキシ基を2個以上有する芳香族系エポキシ樹脂が好ましく用いられる。エポキシ化合物の具体例としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ソルビトールのポリグリシジルエーテル、ネオデカン酸のグリシジルエーテル、グリコール類とエピクロロヒドリンから誘導されるエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0014】
(A)成分の変性不飽和エポキシエステル樹脂の合成に用いられるα,β−不飽和一塩基酸には特に制限はなく、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、桂皮酸、クロトン酸等が挙げられる。α,β−不飽和一塩基酸は、α,β−不飽和一塩基酸のカルボキシル基と上記エポキシ化合物のエポキシ基との当量比、カルボキシル基/エポキシ基が好ましくは0.6〜1.6となるように、より好ましくは0.9〜1.5となるように用いられる。不飽和エポキシエステル樹脂は、酸価が5〜20mgKOH/gであることが好ましく、5〜10mgKOH/gであることがより好ましい。酸価が5mgKOH/g未満では、接着力が不十分となる傾向があり、20mgKOH/gを超えると、硬化物中に残存する酸によってサビの発生が促進されることとなる傾向がある。
【0015】
(A)成分の変性不飽和エポキシエステル樹脂は、エポキシ化合物とα,β−不飽和一塩基酸とを反応させて不飽和エポキシエステル樹脂とした後、更に不飽和二塩基酸又はその酸無水物を反応させることにより得られる。不飽和二塩基酸又はその酸無水物は、不飽和エポキシエステル樹脂のヒドロキシル基と反応させるために用いられ、その不飽和二塩基酸又はその酸無水物としては、例えば、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸及びそれらの酸無水物などが挙げられる。不飽和二塩基酸又はその酸無水物は、前記不飽和エポキシエステル樹脂の合成原料であるエポキシ化合物のエポキシ基1モルに対して0.10〜0.30モルに相当する割合で使用することが好ましく、0.15〜0.25モルに相当する割合で使用することがより好ましい。0.10モル未満であると、接着力が不十分となることがあり、0.30モルを超えると、硬化物中に残存する酸によってサビの発生が促進されることとなる傾向がある。
【0016】
エポキシ化合物とα,β−不飽和一塩基酸との反応、及び、不飽和エポキシエステル樹脂と不飽和二塩基酸又はその酸無水物との反応には、通常、付加反応触媒として、塩化亜鉛、塩化リチウム等のハロゲン化物、ジメチルサルファイト、メチルフェニルサルファイト等のサルファイト類、ジメチルスルホキサイド、メチルスルホキサイド、メチルエチルスルホキサイド等のスルホキサイド類、N,N−ジメチルアニリン、ピリジン、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、ヘキサメチレンジアミン等の3級アミン及びその塩基酸、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリメチルドデシルベンジルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩、パラトルエンスルホン酸などのスルホン酸類、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン等のメルカプタン類などが用いられる。付加反応触媒の配合量は、エポキシ化合物、α,β−不飽和二塩基酸又はその酸無水物の総量100質量部に対して0.05〜2質量部が好ましく、0.1〜1.0質量部が更に好ましい。
【0017】
(A)成分の変性不飽和エポキシエステル樹脂は、数平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値、以下も同じ)が1300〜1600であることが好ましく、1400〜1500であることがより好ましい。1300未満であると、電気機器絶縁用樹脂組成物の硬化性及び硬化物特性が劣ることがあり、1600を超えると、粘度が高すぎ、作業性が悪化する傾向がある。また、(A)成分の変性不飽和エポキシエステル樹脂は、酸価が10〜30mgKOH/gであることが好ましく、15〜25mgKOH/gであることがより好ましい。10mgKOH/g未満では、接着力が不十分となる傾向があり、30mgKOH/gを超えると、硬化物中に残存する酸によってサビの発生が促進されることとなる傾向がある。
【0018】
(B)成分の反応性不飽和モノマーとしては、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ベンジルアクリレート、ノナンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、ペンタメチルピペリジニルメタクリレート、テトラメチルピペリジニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート等を用いることが好ましい。反応性不飽和モノマーは、引火点が100℃以上のものが好ましく、140℃以上であるものがより好ましい。引火点が100℃未満であると、電気機器絶縁用樹脂組成物の引火点が硬化温度以下となることがある。
【0019】
(A)成分の変性不飽和エポキシエステル樹脂と(B)成分の反応性不飽和モノマーとの割合は、(B)成分の反応性不飽和モノマー100質量部に対して(A)成分の変性不飽和エポキシエステル樹脂を40〜90質量部とすることが好ましく、50〜70質量部とすることがより好ましい。40質量部未満であると、電気機器絶縁用樹脂組成物の粘度が高くなり、作業性が低下する傾向があり、90質量部を超えると、反応性が極端に低下する傾向がある。
【0020】
上記の変性不飽和エポキシエステル樹脂組成物には、必要に応じて硬化剤を配合してもよい。硬化剤としては特に制限はないが、有機過酸化物が好ましく用いられる。有機過酸化物としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、ターシャリブチルパーオキシベンゾエート、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、ジターシャリブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等が挙げられる。硬化剤の添加量としては、(A)成分及び(B)成分の総量100質量部に対して0.5〜3.0質量部が好ましく、1.0〜2.0質量部がより好ましい。
【0021】
また、必要に応じてラジカル重合禁止剤を添加することもできる。ラジカル重合禁止剤としては、例えばハイドロキノン、ターシャリブチルカテコール、パラベンゾキノン等のキノン類が用いられる。ラジカル重合禁止剤は、あらかじめ(A)成分の合成時に添加してもよい。ラジカル重合禁止剤の添加量は、(A)成分及び(B)成分の総量100質量部に対して0.001〜1質量部が好ましく、0.004〜0.05質量部がより好ましい。
【0022】
エポキシ樹脂組成物としては、たとえば(I)エポキシ樹脂と(II)硬化剤とを含有するものが用いられる。
【0023】
(I)成分のエポキシ樹脂は、一分子内にエポキシ基を1個有する一官能でも、一分子内にエポキシ基を2個以上有する多官能でもよく、芳香族系でも脂肪族系でもよく、制限が無い。通常、一分子内にエポキシ基を2個以上有する芳香族系エポキシ樹脂が好ましく用いられる。エポキシ樹脂の具体例としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ソルビトールのポリグリシジルエーテル、ネオデカン酸のグリシジルエーテル、グリコール類とエピクロロヒドリンから誘導されるエポキシ樹脂が挙げられ、1種単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0024】
(II)成分の硬化剤としては、酸無水物とフェノール樹脂との組み合わせが好ましく用いられる。硬化剤として用いられる酸無水物としては、例えば3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、3−メチル−ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられ、1種単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0025】
硬化剤として用いられるフェノール樹脂としては、ノボラック樹脂、レゾール樹脂でも良く、住友ベークライト株式会社製PR−16382、日立化成工業株式会社製ヒタノール1133・1140・1501、群栄化学工業株式会社製PS−2607、明和化成株式会社製H−1、H−3等が挙げられ、単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0026】
フェノール樹脂は軟化点が60〜200℃であることが好ましく、80〜150℃であることがより好ましい。この場合、酸無水物100質量部当たり、フェノール樹脂10〜50質量部用いることが好ましく、20〜40質量部用いることがより好ましい。フェノール樹脂が10質量部未満であると、高い粘度が得られず、コア汚染が発生することがあり、50質量部を超えると、粘度が高くなりすぎてしまい、十分な含浸性が得られなくなることがある。
【0027】
硬化剤として酸無水物とフェノール樹脂との混合物を用いる場合、エポキシ樹脂100質量部当たり、硬化剤総量を60〜120質量部とすることが好ましく、80〜100質量部とすることがより好ましい。60質量部未満、又は120質量部を超えると、硬化性が低下することがある。
【0028】
また、硬化剤として酸無水物とフェノール樹脂との混合物を用いる場合、更に、硬化剤としてアミン化合物又はルイス酸を併用してもよい。アミン化合物やルイス酸を用いる場合、エポキシ樹脂100質量部当たり、0.2〜5.0質量部とすることが好ましく、0.5〜2.0質量部とすることがより好ましい。0.2質量部未満であると、十分な硬化性が得られなくなることがあり、5.0質量部を超えると、安定性が低くなることがある。
【0029】
硬化剤に用いられるアミン化合物としては、トリスジメチルアミノメチルフェノール、トリエチルアミン等の3級アミン、又は、イミダゾール基を有する化合物(2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール等)、トリアジン類、イソシアヌル酸付加物が挙げられ、単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0030】
硬化剤に用いられるルイス酸としては、例えば、三フッ化ホウ素モノエチルアミン、三フッ化ホウ素、塩化亜鉛、塩化第二鉄、塩化アルミニウム等が挙げられ、単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0031】
本発明の電気機器絶縁用樹脂組成物には、より高い熱伝導率を得るために、二酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム等の無機充填剤を混合した方が望ましい。無機充填剤は、単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
無機充填剤を用いる場合、その配合量は、電気機器絶縁用樹脂組成物中、20〜80質量%とすることが好ましく、50〜60質量%とすることがより好ましい。
【0032】
本発明の電気機器絶縁用樹脂組成物は、電機機器に塗布し、加熱により硬化させて電気絶縁処理を行った際、130℃で1時間加熱して硬化させたときの硬化工程における電気機器絶縁用樹脂組成物の質量減少率が5%以下となるものであり、好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.0%以下である。本発明の電気機器絶縁用樹脂組成物は、硬化温度が100〜160℃であることが好ましく、120〜130℃であることがより好ましい。
【0033】
本発明の電気機器絶縁用樹脂組成物は、引火点が120℃以上であることが好ましく、130℃以上であることがより好ましい。また、本発明の電気機器絶縁用樹脂組成物の引火点は、硬化工程における加熱温度よりも5℃以上高いことが好ましく、10℃以上高いことがより好ましい。
【0034】
本発明の電気機器絶縁用樹脂組成物は、変性不飽和エポキシエステル樹脂組成物又はエポキシ樹脂組成物と、MW35C又はMW81Cの電線(エナメル線)を組み合わせた時のツイストペアの寿命評価において、20000hの耐熱温度が155℃以上であることが好ましく、180℃以上であることが好ましい。この耐熱温度は、MW35C又はMW81Cのエナメル線を用い、UL1446(Systems of Insulating Materials-General)に準拠して測定される。
本発明の電気機器絶縁用樹脂組成物の熱伝導率は、0.5〜1.0W/m・Kであることが望ましい。より高い熱伝導率を得ようとして、無機充填剤(フィラー)の含有率を高くしてしまうと粘度が高すぎて、電気機器への含浸性が低下して空隙(空気層)が出来てしまい、電気機器の熱放散が損なわれてしまう。
【0035】
本発明の電気機器絶縁用樹脂組成物はエアコン用ファン、扇風機、洗濯機等のコンデンサーモートル、電気ドリルなどのアマチュア、テレビ、ステレオ、コンパクトディスクプレーヤー等電源トランスなどの電気機器の絶縁処理に適用される。電気機器絶縁用樹脂組成物を、電気機器自体、又は電気機器の部品に塗布(本発明において塗布とは、電気機器表面のみに塗布すること、コイル等に含浸させること、又は電気機器内部に充填すること等を意味する。)した後、通常、100〜170℃、好ましくは120〜150℃で加熱することにより、電気機器絶縁用樹脂組成物を硬化させる。加熱時間は、通常、0.2〜3.0時間である。
【実施例】
【0036】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。下記例中の部は、質量部を意味する。
実施例及び比較例において用いた成分の詳細は、下記のとおりである。
【0037】
製造例1
変性不飽和エポキシエステル樹脂(A−1)の合成
4,4’−イソプロピリデンジフェノールのジグリシジルエーテル(シェル化学社製、EP−828,エポキシ当量188)376質量部、メタクリル酸172質量部、ベンジルジメチルアミン2質量部、ハイドロキノン0.05質量部を反応釜に仕込み、115℃、10時間反応させ、樹脂酸価が8mgKOH/gとなった所で、フマル酸33質量部を仕込み、115℃、2時間反応させて樹脂酸価20mgKOH/gの変性不飽和エポキシエステル樹脂(A−1)を得た(数平均分子量:1500)。
【0038】
(実施例1)
変性不飽和エポキシエステル樹脂(A−1)13質量部、FA−512MT(日立化成工業株式会社製、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(分子量262、引火点176℃)) 30質量部、平均粒径2μmの二酸化ケイ素56部、オクチルシランで表面処理を行った一次粒子の平均粒径が20nmの二酸化ケイ素 1質量部、チタニウムステアレート 0.10質量部、ベンゾイルパーオキサイド 0.4質量部を撹拌混合して電気機器絶縁用樹脂組成物を調製した。
【0039】
(比較例1)
変性不飽和エポキシエステル樹脂(A−1)40質量部、FA−512MT 60質量部、ベンゾイルパーオキサイド 1.0質量部を撹拌混合して電気機器絶縁用樹脂組成物を調製した。
【0040】
(比較例2)
不飽和エポキシエステル樹脂(A−1)35質量部、スチレン 35質量部、平均粒径2μmの二酸化ケイ素 29質量部、オクチルシランで表面処理を行った一次粒子の平均粒径が20nmの二酸化ケイ素 1質量部、チタニウムステアレート 0.10質量部、ベンゾイルパーオキサイド 1.0質量部を撹拌混合して電気機器絶縁用樹脂組成物を調製した。
【0041】
実施例1、比較例1、2で得られた電気機器絶縁用樹脂組成物を用いて、粘度、揺変度、熱伝導率、VOC、引火点、耐熱温度を測定し、その結果をまとめて表1に示した。
粘度・揺変度の試験方法は、JIS C 2105(電気絶縁用無溶剤液状レジン試験方法)に準じて測定を行った。また、引火点の測定方法はクリーブランド開放式とした。VOC、熱伝導率は以下の試験方法に準じて評価を行った。
(1)VOC
電気機器絶縁用樹脂組成物5.0gを直径60mm金属シャーレに投入し、130℃、1時間硬化を行い、硬化時に減少した質量減少率(%)とした。
(2)熱伝導率:直径50mm、深さ10mmの円盤状の金型内に電気絶縁用樹脂組成物を注型し、温度150℃で3時間硬化させて試験片を作製し、熱伝導率測定装置(ダイナテック株式会社製、シーマテック(商品名))を用いて測定した。
(3)耐熱温度の測定は、MW35C及びMW81Cのエナメル線を用い、UL1446(Systems of Insulating Materials-General)に準拠して行った。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示されるように、実施例1で得られた電気機器絶縁用樹脂組成物は、比較例1及び2で得られた電気機器絶縁用樹脂組成物と比較して、熱伝導率が高く、VOCが低く、引火点が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と無機充填剤を必須として含有する電気機器絶縁用樹脂組成物を電機機器に塗布し、加熱により硬化させて電気絶縁処理を行った際、130℃で1時間加熱して硬化させたときの硬化工程における電気機器絶縁用樹脂組成物の質量減少率が5%以下で、熱伝導率が0.5W/m・K以上であることを特徴とする電気機器絶縁用樹脂組成物。
【請求項2】
熱硬化性樹脂が、変性不飽和エポキシエステル樹脂、引火点が100℃以上の反応性不飽和モノマーと硬化剤、又はエポキシ樹脂とその硬化剤を含有する請求項1に記載の電気機器絶縁用樹脂組成物。
【請求項3】
電気機器絶縁用樹脂組成物の硬化工程の硬化温度よりも、引火点が10℃以上高い請求項1又は請求項2に記載の電気機器絶縁用樹脂組成物。
【請求項4】
電気機器絶縁用樹脂組成物と、MW35またはMW81の電線を組み合わせた時のツイストペアの寿命評価において、20000hの耐熱温度が155℃以上である請求項1〜3のいずれかに記載の電気機器絶縁用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の電気機器絶縁用樹脂組成物を用いた電気絶縁処理方法で電気絶縁処理してなる電気機器。

【公開番号】特開2011−79966(P2011−79966A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233361(P2009−233361)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】