説明

電気機械変換素子の製造方法、該製造方法により製造した電気機械変換素子、液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置

【課題】高集積化に適用可能にポーリング処理を行うことができる。
【解決手段】個別電極14は、配線54及びダイシングライン51の領域に設けられているコンタクト52−2を介して導電性材料の個別液室基板12に電気的に接続されている。このため、この個別液室基板12と共通電極19との間にポーリング電圧を印加することで、各個別電極14と共通電極19との間にポーリング電圧を印加したことになる。そして、コンタクト52−2はダイシングライン51に設けられており、ダイシングライン51に沿ってダイシングを行って配線54とコンタクト52−2を電気的な接続を切断することで、個別液室基板12と各個別電極14とは互いに電気的に絶縁となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械変換素子の製造方法、該製造方法により製造した電気機械変換素子、液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気機械変換膜を電極で挟むように構成された電気機械変換素子は、例えばインクの液滴を吐出する液滴吐出ヘッドを備え、媒体を搬送しながらインク滴を用紙に付着させて画像形成を行うインクジェット記録装置で用いられている。ここでの媒体は「用紙」ともいうが材質を限定するものではなく、被記録媒体、記録媒体、転写材、記録紙なども同義で使用する。また、画像形成装置は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の媒体に液体を吐出して画像形成を行う装置を意味する。そして、画像形成とは、文字や図形等の意味を持つ画像を媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を媒体に付与する(単に液滴を吐出する)ことをも意味する。また、インクとは、所謂インクに限るものではなく、吐出されるときに液体となるものであれば特に限定されるものではなく、例えばDNA試料、レジスト、パターン材料なども含まれる液体の総称として用いる。
【0003】
そして、上記液滴吐出ヘッドは、主として、ノズル基板、個別液室基板及び共通液室基板を含んで構成されている。ノズル基板には複数のノズルが形成されている。個別液室基板には各ノズルに対応する複数の加圧室や該加圧室の内圧を昇圧する圧力発生手段が設けられている。共通液室基板には加圧室に液を供給する供給口及び共通液室が設けられている。上記圧力発生手段として、圧電素子などの電気機械変換素子を用いて吐出室の壁面を形成している振動板を変形変位させることでインク滴を吐出させるピエゾ型の圧力発生手段が知られている。このピエゾ型の圧力発生手段に使用される電気機械変換素子は、下部電極(共通電極)と、電気機械変換層と、上部電極(個別電極)とが積層したものからなる。各加圧室に液滴吐出の圧力を発生させるのに個別の電気機械変換素子が配置されることになる。電気機械変換層は電気機械変換膜を形成する工程を複数回行って形成される。電気機械変換膜は例えばジルコン酸チタン酸鉛(PZT)が用いられ、このPZTは複数の金属酸化物を主成分としているので一般に金属複合酸化物と称され、合成多結晶材料をなしている。この合成多結晶材料の電気機械変換膜における電気機械変換効果は、ワイス・ドメインと称される材料中の個別の双極子領域の配向に依存する。このワイス・ドメインは圧電性材料の形成時にはランダムに配向されているが、当該圧電性材料を電界において高温でポーリング処理を行うことで整合させることができる。このポーリング処理は分極方向に沿って配向されていたドメインの成長を促進し、逆平行となっているドメインの配向を逆にする。また、ポーリング処理を行うことで、空間電荷を新たに配向させ、圧電性を有するPb[ZrTi1−x]Oのベース材料等の強誘電性材料中の残りの分極を整合させる。これにより、ポーリング処理はドメイン配向におけるランダム化を減らし、圧電効果をもたらす。ポーリング処理された圧電性材料は、実際に単結晶材料よりも圧電効果が良好であることがわかっている。このように、インクジェットヘッドの製造工程でのポーリング処理は不可欠である。
【0004】
このインクジェットヘッドの製造工程でのポーリング処理方法として、特許文献1に記載のものがある。この特許文献1のポーリング処理方法では、ウエハにスライス路(縦方向の分離用部分)とダイス路(横方向の分離用部分)を設けることでチップを形成する複数の有効エリアが規定される。そして、各チップには電気機械変換素子がそれぞれ形成される。各チップの有効エリア内には、第1の電極パッド及び接地パッドが設けられている。第1の電極パッドは電気機械変換素子の上部電極(個別電極)に電気的に接続されている。接地パッドは電気機械変換素子の下部電極(共通電極)に電気的に接続されている。そして、第1の電極パッドは、ポーリング電源の一方の端子と電気的に接続されている接続針を刺すことで、この接続針を介してポーリング電源の一方の端子に電気的に接続される。接地パッドは、上記スライス路及び上記ダイス路に形成された共通アース用のトレース配線を介してポーリング電源の他方の端子に電気的に接続される。トレース配線とは例えばプリント回路など基板上に蒸着により形成された配線である。そして、各電気機械変換素子にポーリング処理を施す際は、各電気機械変換素子内のドメインがポーリング電圧に従って整合するように、各第1の電極パッドに接続針をそれぞれ刺し、各接続針とトレース配線との間にポーリング電圧を印加する。これにより、各電気機械変換素子のポーリング処理が施される。その後、ウエハ上のスライス路とダイス路に沿ってダイシングを行って各チップに分離される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のポーリング処理方法では、各チップの有効エリアに第1の電極パッド及び接地パッドがそれぞれ設けられているので、各チップの有効エリアの面積がそれぞれ広くなっている。このため、ウエハ上でチップを製造できるチップの数が減り、生産性が悪くなるという問題点があった。
【0006】
本発明は以上の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、生産性を悪くすることなくポーリング処理を行うことができる電気機械変換素子の製造方法、該製造方法により製造した電気機械変換素子、液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、各ノズルに対応する複数の加圧室及び該各加圧室の内圧を振動板を介して昇圧する複数の電気機械変換素子を個別液室基板に形成する電気機械変換素子形成工程と、前記各電気機械変換素子の各個別電極に電気的にそれぞれ接続する各電極パッドにポーリング電源の一方の端子と電気的に接続している接続針を刺し、前記各電気機械変換素子の各共通電極に電気的にそれぞれ接続する各接地パッドと前記ポーリング電源の他方の端子との間に配線を電気的に接続し、前記接続針を刺した前記電極パッドと、前記配線を介して前記接地パッドとの間にポーリング電圧を印加することで前記各電気機械変換素子のポーリング処理を施すポーリング処理工程と、前記各電気機械変換素子を囲む分離用部分に沿って前記各電気機械変換素子を分離するセパレート工程とを有する電気機械変換素子の製造方法において、前記個別液室基板は導電性材料で形成され、前記分離用部分で前記個別液室基板の厚み方向に延びる複数の接続端子を介して前記各個別電極と前記個別液室基板との間を電気的に接続し、前記ポーリング処理工程では、前記接続針を前記接地パッドに刺し、前記個別液室基板に前記ポーリング電源の一方の端子を電気的に接続し、前記個別液室基板と前記接続針との間にポーリング電圧を印加することを特徴とするものである。
【0008】
本発明においては、複数の加圧室を形成するために共通に使用される基板である個別液室基板を導電性材料で形成し、各個別電極は分離用部分で個別液室基板の厚み方向に延びる複数の接続端子を介して上記個別液室基板にそれぞれ電気的に接続する。そして、上記個別液室基板にポーリング電源の一方の端子を電気的に接続することでポーリング電源の一方の端子は各個別電極に電気的にそれぞれ接続されることになる。従来、各個別電極とポーリング電源の一方の端子とをそれぞれ電気的に接続するために接続針を刺していた各接続パッドが不要となる。これにより、接続パッドを設ける面積が無くなり、電気機械変換素子を製造できる面積が従来例に比して増え、それに伴い製造される電気機械変換素子の数も増える。よって、生産性を悪くすることなくポーリング処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、生産性を悪くすることなくポーリング処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態に係る液滴吐出ヘッドの基板を真上から見ての平面透視図である。
【図2】図1の液滴吐出ヘッドのY−Y'断面図である。
【図3】図1の液滴吐出ヘッドのX−X'断面図である。
【図4】本実施形態の液滴吐出ヘッドの製造工程を示す部分断面図である。
【図5】本実施形態における上部電極と加圧液室基板との接続とポーリング電圧印加の様子を示す図である。
【図6】ウエハレベルでの工程が終了してチップに個片化する工程段階のウエハ全体図である。
【図7】本実施形態の変形例としてのインクカートリッジ一体型の記録ヘッドを示す斜視図である。
【図8】製造方法で製造した電気機械変換素子を用いた液滴吐出装置の一構成例を示す概略構成図である。
【図9】液滴吐出装置の概略透視斜視図である。
【図10】液滴吐出動作をマイクロポンプに応用した実施例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態における液滴吐出ヘッドをインクジェット方式の画像形成装置の記録ヘッドとして利用した一例について説明する。
図1は本実施形態に係る液滴吐出ヘッドの基板を真上から見ての平面透視図である。図2は図1の液滴吐出ヘッドのY−Y'断面図である。図3は図1の液滴吐出ヘッドのX−X'断面図である。図1〜図3に示す液滴吐出ヘッドはノズル基板に設けたノズル孔から液滴を吐出するサイドシュータータイプのものであり、圧電型アクチュエータにより駆動される方式のものである。図1〜図3に示すように、液滴吐出ヘッド10は、共通液室基板11、個別液室基板12、ノズル板13の、主なる3つの基板から構成されている。個別液室基板12の一方の面には共通液室基板11が接合されており、個別液室基板12の他方の面にはノズル板13が接合されている。また、液滴吐出ヘッド10には個別電極14に駆動信号を供給するドライバIC15が設けられている。個別液室基板12は、圧力室16の一部の壁面を形成する振動板17と、振動板17を介して圧力室16と対向する側に圧電体18とから形成されている。そして、圧電アクチュエータ20は、共通電極19、圧電体18及び個別電極14を含んで構成されている。また、圧力室16は流体抵抗部21を通じて共通液室基板11の貫通穴22に連通している。共通液室基板11には、貫通穴22に連通する共通液室23が形成されている。更に、各圧力室16は細長い直方体の形状をしており、主走査方向に沿って2列配置され、副走査方向に沿って例えば300[dpi]の解像度で複数個配列されている。個別電極14は圧電アクチュエータ20から図1のように引き出されてドライバIC15とバンプ接合部24でバンプ接合されている。ドライバIC15には入力配線26が接続されている。
【0012】
このように形成された液滴吐出ヘッド10においては、各圧力室16内に液体、例えば記録液(インク)が満たされた状態で、ドライバIC15を通じて個別電極14に液滴吐出信号の電圧パルスを印加することにより、圧電体18が振動板17と平行な方向に収縮を起こし、その結果振動板17は圧力室16側に撓む。これにより、圧力室16内の圧力が急激に上昇して、圧力室16に連通するノズル孔25から記録液が吐出される。パルス電圧を印加した後は、縮んだ圧電体18が元に戻ることから撓んだ振動板17は元の位置に戻る。このため、圧力室16内が共通液室23内に比べて負圧となり、共通液室23から流体抵抗部21を介してインクが圧力室16に供給される。これを繰り返すことにより、液滴を連続的に吐出でき、液滴吐出ヘッドに対向して配置した被記録媒体(用紙)に画像を形成する。
【0013】
次に、本実施形態の液滴吐出ヘッドの製造工程を詳細に説明する。
図4は本実施形態の液滴吐出ヘッドの製造工程を示す部分断面図である。同図は図1のX−X'線断面における製造工程断面図である。本実施例においてはシリコン基板に振動板材料及び圧電素子材料を成膜していくことでアクチュエータを作成していく。
【0014】
はじめに、図4の(a)に示すように、厚み400[μm]の<P型100>のシリコン基板31の両表面にシリコン酸化膜32−1、32−2を0.5[μm]それぞれ形成する。シリコン酸化膜32−2にP型シリコンを2.0[μm]を張り合わせたSilicon on Insulator(SOI)基板33を用いる。このSOI基板33の表面にパイロ酸化法によりシリコン酸化膜34を0.6[μm]成膜する。その後、図4の(b)に示すように、圧電素子の共通電極層(または下部電極)35となるPtの層をスパッタ法により0.1[μm]成膜し、共通電極層(または下部電極)35としてリソエッチ法によりパターニングを行う。更に、スパッタ法により圧電材層(または圧電体)36、個別電極層(または上部電極)37をそれぞれ1.0[μm]、0.1[μm]ずつ成膜する。そして、図4の(c)に示すように、リソエッチ法により両方の膜を同じマスクでパターニングし圧力室に対応する部分に圧電素子部38を形成する。次に、図4の(d)に示すように、ドライバIC39には圧電素子部38の共通電極層(または下部電極)35及び個別電極層(または上部電極)37から引き出された入力端子(図示せず)にバンプ接合される。
【0015】
ここで、圧電体は、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(Lead Zirconate Titanate;PZT)を使用することができる。また、圧電体を成膜する手法としては、スパッタ法、ゾルゲル法、AD法などを用いることが好ましい。個別電極層(または上部電極)37と共通電極層(または下部電極)35の材料としては、圧電体との親和性が高く、耐熱性を有する材料を使用することが好ましい。具体的には、Pt、Ir、Au、Ru、Ta、PtO、TaO、IrO、SRO、Ti、TiO等を使用することが好ましい。
【0016】
そして、図4の(e)に示すように、個別電極層(または上部電極)37上に層間膜(例えばCVDシリコン酸化膜、シリコン窒化膜:膜厚が0.8[μm])を成膜し、コンタクト、このコンタクトを介して配線(例えばアルミニウム:膜厚が0.7[μm])で個別電極層とダイシングライン上のシリコン基板との導通を取っている。それぞれ所望の成膜/リソエッチで形成されている。図示していないが最上層に保護膜(プラズマCVDシリコン窒化膜:膜厚が0.7[μm])を形成する。さらに、シリコン基板の反対面を所望の厚さに研磨する。ここで液室の高さを略決定する。そして、予め、シリコン基板にリソエッチ法で貫通部及び凹部を形成してある共通液室基板を製作しておき、基板の圧電素子面に接着する。ここで、共通液室基板は<110>シリコン基板をTMAH、KOHなどのアルカリエッチング液を用いたウェットエッチングにより加工したものでも良く、樹脂モールドやメタルインジェクションモールドなどの成型部品で代用しても構わない。少なくともインク供給口内壁には接液膜として、例えば水分透過性の低い酸化シリコン(SiO)や、酸化アルミニウム(Al)、酸窒化シリコン(SiON)、窒化シリコン(SiN)、ポリパラキシリレン等を形成するのがよい。
【0017】
更に、図4の(f)を示すように、レジストマスクでシリコン基板31をICPドライエッチングによりエッチングし、圧力室、流体抵抗部及び共通液室となる凹部41を形成する。その後、図4の(g)を示すように、スルファミン酸浴で高速電鋳法により製作したノズル孔42が形成されたノズル基板43を個別液室基板の圧力室側に接着する。ノズル基板43の材料としては、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板または不錆鋼などからなる。シリコンウエハレベルで製造してきた場合はダイシングを施しチップ個片化する。最後に、図4の(h)を示すように、吐出液、及び冷却溶媒の供給口および排出口を有するフレーム43を接合することで本実施形態の液滴吐出ヘッドが完成する。
【0018】
次に、本実施形態における上部電極と加圧液室基板との接続構成について説明する。図5は本実施形態における上部電極と加圧液室基板との接続とポーリング電圧印加の様子を示す図である。図5の(a)は平面図、図5の(b)は図5の(a)のZ−Z’線断面図、図5の(c)は図5の(b)の破線で囲まれた部分の拡大図である。図5において、図1〜図3の同じ参照符号は同じ構成要素を示す。図5に示すように、各アクチュエータの個別電極14は、ダイシングライン51側方向に延びてコンタクト52−1及び層間膜(例えばCVDシリコン酸化膜、シリコン窒化膜)53上に設けられた配線(例えばアルミニウム)54を通してコンタクト52−2に電気的に接続されている。コンタクト形成は、アクチュエータ基板のシリコン上に形成された積層膜をリソ/エッチして得られる。
【0019】
そして、個別電極14が導電性のシリコン材料で形成されたアクチュエータ基板へ電気的に接続されている。ポーリング電源55の一方の端子は、ウエハを乗せるチャックテーブル等側であるアクチュエータ基板の個別液室基板12の裏側に設けられた接続端子56に接続されている。ポーリング電源55の他方の端子は各チップへの電源供給を切り替えるリレー57に接続されている。個別液室基板12はチャックテーブル側に製造過程で成膜された絶縁膜を予め除去しておく。そして、共通電極19はチップ内の全ビットに共通に形成しておき、その一部にプローブ針(接続針)59を刺してリレー57からの接続端子58−1〜58−n(nは正の整数)とする。この接続端子58−1〜58−nはチップ毎に形成されるのでウエハ面内にチップの数分存在する。
【0020】
以上のポーリングという分極処理は、200℃程の高温中、この接続端子56と接続端子58−1〜58−nのいずれかとの間に電圧を印加することで、絶縁破壊に近い電界を与えることで行なわれる。ポーリングする工程段階としては、ドライバIC15を実装する前段階の場合、あるいは共通液室基板を貼り合せる前段階の場合に行うのがよい。より品質の高いポーリング処理を実施するために、ポーリング処理を実施する前に各チップで圧電体の容量を測定する等で各チップ毎に良否判定をし、リレー57を用いて良品チップだけを選択的に共通ポーリングを行ってもよい。また、ポーリング処理の途中で圧電体の絶縁破壊故障が発生した場合も絶縁破壊故障を検知するシステムを組んだり、電流制限手段(ヒューズあるいは高抵抗体)を組み入れたり、とすることで、品質の高いポーリングを実施することができる。
【0021】
次に、各個別電極の電気的セパレートの実施例について説明する。図6は、ウエハレベルでの工程が終了してチップに個片化する工程段階のウエハ全体図を示している。ウエハレベルでの工程が終了してチップに個片化する段階でウエハ61上のダイシングライン62に沿って図示していないダイシングブレードでダイシングする。この時、ダイシングブレードの幅がコンタクト63を完全に含む幅(範囲)に設定することで各個別電極64を分離できると同時に電気的に絶縁することが可能である。
【0022】
ここで、ダイシングにより電気的にセパレートされた断面において使用上の環境等で配線の腐食、圧電体の特性劣化、あるいは上部電極と下部電極との表面漏れ電流が多くなるという問題がある。そこで、絶縁膜、例えばシリコン酸化膜系低温CVD膜、シリコン窒化膜系CVD膜、アクリル系樹脂で被膜することで、表面漏れ電流を抑える効果があり、製品の信頼性が向上でき、製品寿命を延ばすことができる。
【0023】
図7に示す本実施形態の変形例としてのインクカートリッジ一体型の記録ヘッド70は、ノズル孔71等を有するヘッド部72と、このヘッド部71に対してインクを供給するインクタンク73とを一体化したものである。このようにインクジェットヘッドにインクを供給するインクカートリッジを一体化することにより、インク吐出特性のバラツキが少なく、信頼性の高い液滴吐出ヘッドが低コストで得られる。
【0024】
図8は上記製造方法で製造した電気機械変換素子を用いることができる液滴吐出装置の一構成例を示す概略構成図である。また、図9は、同液滴吐出装置の概略透視斜視図である。両図に示す本発明の液滴吐出装置は、上述した本発明の電気機械変換素子の製造方法によって製造された電気機械変換素子を具備する液滴吐出ヘッドを搭載している。両図に示す本発明の液滴吐出装置の一例であるインクジェット記録装置100は、主に、記録装置本体の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ101と、キャリッジ101に搭載した本発明を実施して製造した液滴吐出ヘッドの一例であるインクジェットヘッドからなる記録ヘッド102と、記録ヘッド102へインクを供給するインクカートリッジ103とを含んで構成される印字機構部104を有している。また、装置本体の下方部には前方側から多数枚の用紙105を積載可能な給紙カセット106を抜き差し自在に装着することができ、また用紙105を手差しで給紙するための手差しトレイ107を開倒することができ、給紙カセット106或いは手差しトレイ107から給送される用紙105を取り込み、印字機構部104によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ108に排紙する。
【0025】
印字機構部104は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド109と従ガイドロッド110とでキャリッジ101を主走査方向に摺動自在に保持し、このキャリッジ101にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する本発明に係る液滴吐出ヘッドの一例であるインクジェットヘッドからなる記録ヘッド102を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。また、キャリッジ101には記録ヘッド102に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ103を交換可能に装着している。インクカートリッジ103は上方に大気と連通する大気口、下方には記録ヘッド102へインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力により記録ヘッド102へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。
【0026】
また、記録ヘッド102としてここでは各色のヘッドを用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。ここで、キャリッジ101は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド109に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド110に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ101を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ111で回転駆動される駆動プーリ112と従動プーリ113との間にタイミングベルト114を張装し、このタイミングベルト104をキャリッジ101に固定しており、主走査モータ111の正逆回転によりキャリッジ101が往復駆動される。
【0027】
一方、給紙カセット106にセットした用紙105を記録ヘッド102の下方側に搬送するために、給紙カセット106から用紙105を分離給装する給紙ローラ115及びフリクションパッド116と、用紙105を案内するガイド部材117と、給紙された用紙105を反転させて搬送する搬送ローラ118と、この搬送ローラ118の周面に押し付けられる搬送コロ119及び搬送ローラ118からの用紙105の送り出し角度を規定する先端コロ120とを設けている。搬送ローラ118は副走査モータ121によってギヤ列を介して回転駆動される。そして、キャリッジ101の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ118から送り出された用紙105を記録ヘッド102の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材122を設けている。この印写受け部材122の用紙搬送方向下流側には、用紙105を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ123、拍車124を設け、さらに用紙105を排紙トレイ108に送り出す排紙ローラ125及び拍車126と、排紙経路を形成するガイド部材127,128とを配設している。
【0028】
記録時には、キャリッジ101を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド102を駆動することにより、停止している用紙105にインクを吐出して1行分を記録し、用紙105を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙105の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙105を排紙する。
【0029】
また、キャリッジ101の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、記録ヘッド102の吐出不良を回復するための回復装置129を配置している。回復装置129はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ101は印字待機中にはこの回復装置129側に移動されてキャッピング手段で記録ヘッド102をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
【0030】
次に、圧電アクチュエータを用いた液滴吐出動作をマイクロポンプに応用した実施例について図10を用いて説明する。同図において、マイクロポンプ200は、流路201を形成する一部の壁に振動板202を備えている。この振動板202には共通電極203と個別電極204に挟まれた圧電素子205が積層構造をなして設けられている。これらの構成を有する圧電アクチュエータ206−1、206−2が流路201の流れに沿って流路201の内壁の一部に複数設けられている。各圧電アクチュエータ206−1、206−2を図中右側から順次駆動することによって流路201内の流体は図中の矢印方向へ流れが生じ、流体の輸送が可能となる。例えば圧電アクチュエータ206−1の圧電素子205が伸びるように撓むことで振動板202を介して流路201内に対して加圧する。同時に、圧電アクチュエータ206−1の流れ方向において隣接する圧電アクチュエータ206−2の圧電素子205が縮むように撓むことで振動板202を介して流路201内に対して負圧にする。このように、1つの圧電アクチュエータにおいて流路に対して加圧と負圧を周期的に繰り返すことで、流路201内の液体が押し出され、そして引き込まれながら、図中の矢印方向に流れることになる。本実施例では振動板を複数設けた例を示したが振動板は一つでも良い。また、分割された個別電極が高抵抗部材により接続された構成であれば、振動板が脈動動作を行い、輸送効率を上げることができる。動作原理を簡単に述べたが、実施例に示した製造方法、構成を本実施例に適用することで大流量の液体を効率よく送液できる駆動力(輸送力)の高いマイクロポンプとすることができる。液滴吐出ヘッド、マイクロポンプを例としてあげたが、これ以外の液体輸送デバイスにも応用可能である。
【0031】
以上に説明したものは一例であり、本発明は、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様A)
個別液室基板は導電性材料で形成され、分離用部分で個別液室基板の厚み方向に延びる複数の接続端子を介して個別液室基板と各個別電極との間を電気的に接続し、ポーリング処理工程では、接続針を共通電極に刺し、個別液室基板にポーリング電源の一方の端子を電気的に接続し、個別液室基板と接続針との間にポーリング電圧を印加する。これによれば、上記実施形態及び変形例について説明したように、複数の加圧室を形成するために共通に使用される基板である個別液室基板12を導電性材料で形成する。各個別電極14はダイジングライン51で振動板を貫通する複数のコンタクト52−2を介して個別液室基板12にそれぞれ電気的に接続する。そして、個別液室基板12にポーリング電源55の接続端子56を電気的に接続することでポーリング電源の一方の接続端子56は各個別電極14に電気的にそれぞれ接続されることになる。このため、従来、各個別電極とポーリング電源の一方の端子とをそれぞれ電気的に接続するために接続針を刺していた各接続パッドが不要となる。これにより、接続パッドを設ける面積が無くなり、電気機械変換素子を製造できる面積が従来例に比して増え、それに伴い製造される電気機械変換素子の数も増える。よって、生産性を悪くすることなくポーリング処理を行うことができる。
(態様B)
(態様A)において、セパレート工程では、分離用部分をダイシングし、各個別電極と個別液室基板との電気的な接続を切断する。これによれば、上記実施形態について説明したように、ダイシングライン51において分離処理される。これにより、個別液室基板12と各個別電極14とを電気的に切断できる。よって、各個別電極に供給される液滴吐出信号に基づいて各液滴吐出ヘッドを個別に駆動させることができる。
(態様C)
(態様B)において、セパレート工程でのダイシングによって形成される切り口を絶縁膜で被覆する。これによれば、上記実施形態について説明したように、個別液室基板12と各個別電極14とを電気的に絶縁することが可能である。これにより、リーク電流を抑え、製品の信頼性が向上する。
(態様D)
(態様A)〜(態様C)のいずれかの電気機械変換素子の製造方法によって製造された電気機械変換素子である。これによれば、上記実施形態について説明したように、電気機械変換素子を大量生産できるのでコストを抑えられる。
(態様E)
(態様D)の電気機械変換素子を備えている。これによれば、上記実施形態について説明したように、液滴吐出ヘッドを大量生産できるのでコストを抑えられる。
(態様F)
(態様E)の液滴吐出ヘッドを備えている。これによれば、上記実施形態について説明したように、低コストな液滴吐出装置を提供できる。
【符号の説明】
【0032】
10 液滴吐出ヘッド
11 共通液室基板
12 個別液室基板
13 ノズル板
14 個別電極
15 ドライバIC
16 圧力室
17 振動板
18 圧電体
19 共通電極
20 圧電アクチュエータ
21 流体抵抗部
22 貫通穴
23 共通液室
24 バンプ接合部
25 ノズル孔
26 入力配線
51 ダイシングライン
52−1 コンタクト
52−2 コンタクト
53 層間膜
54 配線
55 ポーリング電源
56 接続端子
57 リレー
58−1〜58−n 接続端子
59 プローブ針
61 ウエハ
62 ダイシングライン
63 コンタクト
64 個別電極
100 インクジェット記録装置
200 マイクロポンプ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0033】
【特許文献1】特開2011−35378号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各ノズルに対応する複数の加圧室及び該各加圧室の内圧を振動板を介して昇圧する複数の電気機械変換素子を個別液室基板に形成する電気機械変換素子形成工程と、前記各電気機械変換素子の各個別電極に電気的にそれぞれ接続する各電極パッドにポーリング電源の一方の端子と電気的に接続する接続針を刺し、前記各電気機械変換素子の各共通電極に電気的にそれぞれ接続する各接地パッドと前記ポーリング電源の他方の端子との間に配線を電気的に接続し、前記接続針を介して前記各電極パッドと、前記配線を介して前記接地パッドとの間にポーリング電圧を印加することで前記各電気機械変換素子のポーリング処理を施すポーリング処理工程と、前記各電気機械変換素子を囲む分離用部分に沿って前記各電気機械変換素子を分離するセパレート工程とを有する電気機械変換素子の製造方法において、
前記個別液室基板は導電性材料で形成され、前記分離用部分で前記個別液室基板の厚み方向に延びる複数の接続端子を介して前記各個別電極と前記個別液室基板との間を電気的に接続し、
前記ポーリング処理工程では、前記接続針を前記接地パッドに刺し、前記個別液室基板に前記ポーリング電源の一方の端子を電気的に接続し、前記個別液室基板と前記接続針との間にポーリング電圧を印加することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の液滴吐出ヘッドの製造方法において、
前記セパレート工程では、前記分離用部分をダイシングし、前記各個別電極と前記個別液室基板との電気的な接続を切断することを特徴とする電気機械変換素子の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の電気機械変換素子の製造方法において、
前記セパレート工程でのダイシングによって形成される切り口を絶縁膜で被覆することを特徴とする電気機械変換素子ヘッドの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の電気機械変換素子の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする電気機械変換素子。
【請求項5】
請求項4記載の電気機械変換素子を備えていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項5記載の液滴吐出ヘッドを備えていることを特徴とする液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−63531(P2013−63531A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202325(P2011−202325)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】