説明

電気油圧サーボ式材料試験機

【目的】 PID動作からPD動作に切り換えた時点で、制御信号が変化することなく、厳密な意味でその時点から積分動作を停止した制御を行える電気油圧サーボ式材料試験機を提供する。
【構成】 デジタルサーボ方式を採用し、積分動作を除外する旨の選択がなされた時点で、その直前のPID演算結果から、その直後のPD演算結果を減じた値を記憶する記憶手段と、上記した時点以降のPD演算結果に記憶手段の内容を加算して制御信号値とする補正手段を設ける。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は電気油圧サーボ式の材料試験機に関し、更に詳しくは、検出信号をデジタル演算によってPID(比例、積分および微分)処理を施した後、アナログ信号に変換してサーボ弁に供給する、いわゆるデジタルサーボ方式を採用した電気油圧サーボ式材料試験機に関する。
【0002】
【従来の技術】電気油圧サーボ式の材料試験機においては、一般に、負荷機構の油圧アクチュエータに対して電気油圧サーボ弁を介して圧油を供給する。そして、このサーボ弁の駆動を制御する制御信号は、目標値信号に対して試験片に作用する負荷に関する物理量、例えば荷重や変位等の検出信号をフィードバックして得られる偏差にPID(比例、積分および微分演算)処理を施すことによって作成される。
【0003】一方、近年、デジタルサーボ方式を採用した電気油圧サーボ式の材料試験機が実用化されつつあるが、このデジタルサーボ方式においては、荷重や変位等の検出信号を所定の周期でデジタル化してコンピュータに採り込み、この検出データと別途設定されている目標値との偏差に対してデジタル演算によって比例、積分および微分演算を施すとともに、この演算結果をアナログ化してサーボ弁に制御信号として供給する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、例えば疲労試験等においては、実際に繰り返し負荷を加える際、繰り返し負荷を加える場合等には特に積分演算を行わない方が好ましい場合があり、このような場合、PID演算処理から積分演算を除外することが行われる。このとき、繰り返し負荷を加える直前までは偏差を0に保つために通常のPID演算によって操作信号を作成しておき、負荷を加える時点で積分演算の実行を止めるような使用方法が採用されることもある。
【0005】ここで、積分演算の実行状態から不実行状態に切り換えた場合は、例えば通常のアナログ方式の電気油圧サーボ式材料試験機においてはその時点まで作用してきた積分成分が放電してしまい、厳密な意味では、現時点からの積分動作の停止を行うことができなかった。つまり、積分演算を停止した時点で、操作信号に含まれている積分成分が無くなり、操作信号はその分だけ切り換え時点における値から変化してしまうことになって、厳密には、切り換え時点から積分動作を停止したことにはならず、言わばその時点までの積分動作の履歴によって切り換え時点以降の制御信号が影響を受けることになる。このことは単にデジタルサーボ方式を採用した場合も同じである。
【0006】本発明はこような点に鑑みてなされたもので、積分演算の実行状態から不実行状態に切り換えて制御動作から積分動作を除外したとき、その切り換え時点で制御信号の大きさが変化することなく、その時点から積分動作を停止した制御を行うことのできる材料試験機の提供を目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するための構成を、図1に示す基本概念図を参照しつつ説明すると、本発明の電気油圧サーボ式材料試験機は、制御信号に基づいて制御されるサーボ弁aと、このサーボ弁aを介して供給される圧油により動作して試験片に負荷を加える負荷機構bと、試験片に作用する負荷に関する物理量の検出値のデジタル化手段cと、そのデジタル化された検出データと目標値との偏差に対してデジタル演算による比例、積分および微分の各演算を行う演算手段dと、その演算結果をアナログ化して制御信号としてサーボ弁aに供給するアナログ化手段eを備えた材料試験機において、演算手段dによる各演算のうち積分演算の有無を指定する選択手段fと、この選択手段fにより積分演算有りの状態から無しの状態に切り換えられた時点で、その直前の比例、積分および微分演算結果から、その直後の検出データと目標値との偏差に対する比例および微分演算結果を減じた値を記憶する記憶手段gと、上記切り換え時点以降の演算手段dによる演算結果に記憶手段gの内容を加算してアナログ化手段eに導く補正手段hを備えたことによって特徴付けられる。
【0008】
【作用】本発明では、デジタルサーボ方式を採用し、比例、積分および微分動作を含めた制御状態において、積分動作を停止する旨の切り換えが行われると、その時点における積分成分を記憶しておき、その切り換え以降、比例と微分動作による制御状態における制御信号にその記憶内容を加算することにより、実質的に切り換え時点からの積分動作の停止を可能としている。
【0009】すなわち、比例、積分および微分演算が行われている状態で、選択手段fにより積分演算を除外する旨の選択がなされると、その時点の直前に演算された偏差の比例、積分および微分演算結果から、直後の偏差の比例、微分結果が減算されて記憶手段gに格納される。この減算結果は、実質的にその時点における積分成分の値を表すことになり、補正手段hにおいてその記憶内容を以降の偏差の比例および微分演算結果に加算することにより、積分演算を除外する旨の選択がなされた時点から積分動作を停止した制御が行われることになる。
【0010】
【実施例】図2は本発明実施例の構成を示すブロック図である。電気油圧サーボ式の材料試験機本体1は、油圧アクチュエータを含む負荷機構11と、制御信号によって制御されるサーボ弁12、および試験片に作用する荷重の大きさを測定するロードセル、あるいは負荷機構の変位を測定する変位センサ等の、所望の制御量の検出を行うトランスジューサ13等を含み、サーボ弁12への制御信号は制御装置2から供給される。また、トランスジューサ13の出力はアンプ3を介して制御装置2に採り込まれる。
【0011】制御装置2はCPU21、ROM22、RAM23および入出力インターフェース24等からなるコンピュータを主体として構成されており、アンプ3を経たトランスジューサ13の出力をデジタル化するためのA−D変換器25、サーボ弁12に供給すべき制御信号をアナログ化するためのD−A変換器26、およびホストコンピュータ4との接続のための入出力制御部27等を備えている。
【0012】この例において目標値の設定や、積分動作のON・OFFつまりPID動作を選択するかあるいはPD動作を選択するか等はホストコンピュータ4からの指令によって行われる。
【0013】図3はROM22に書き込まれたプログラムの内容を示すフローチャートで、以下、この図を参照しつつ本発明実施例の動作を述べる。PID動作およびPD動作のいずれが選択されている状態においても、アンプ3およびA−D変換器25を介して所定の周期ごとにトランスジューサ13による制御量の検出値が採り込まれ(ST1)、その検出データと別途設定されている目標値との偏差εが算出される(ST2)。そして、PID動作が選択されている状態では、その偏差εに対して比例、積分および微分の各演算が施され(ST3,ST4)、その演算結果αが次回のデータ採り込み〜演算時までの間RAM23に格納される(ST5)とともに、その値αがD−A変換器26を介して制御信号としてサーボ弁12に供給される(ST6)。
【0014】一方、PD動作が選択されている状態では、同じく偏差εに対して比例および微分の各演算が施される(ST7)。そして、このPD動作が選択された直後のルーチンにおいては、前回のルーチンでRAM23内に記憶されているPID演算結果αから、今回のルーチンで得られたPD演算結果βが減じられ、その値γが補正値としてRAM23の所定のエリアに格納される(ST8,ST9)。そして以降はST7における演算結果βにこの補正値γが加算され(ST10)、その加算後の値β+γが次回のデータ採り込み〜演算時までRAM23内に記憶されるとともに、その値β+γがD−A変換器26を介して制御信号としてサーボ弁12に供給される。
【0015】以上の動作によると、γはPID動作からPD動作に切り換えた直前におけるPID演算結果と、同じく直後におけるPD演算結果の差であるから、実質的にこの切り換え時点におけるおける積分成分に相当する値となるから、この値γを以降のPD演算で作成された制御信号の値βに加算することにより、切り換え後の制御信号には切り換え時点における積分成分が以降のPD動作における初期値として含まれることになり、従ってこの制御信号は切り換え時点における積分成分の影響を受けず、換言すれば、切り換え時点における積分成分が0になることなくそのまま受け継がれて、この時点から積分動作が停止されることになる。
【0016】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、PID動作を行っている状態で、積分動作のみを停止する切り換えを行った場合、その切り換えの直前におけるPID演算結果から、その直後におけるPD演算結果が減算され、その値が以降のPD動作におけるPD演算結果に加算されて制御信号が補正されるから、切り換え時点での積分成分が従来のようにその時点以降の制御信号から欠落してしまうことがなく、厳密な意味でこの切り換え時点からの積分動作の停止が実現する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の構成を示す基本概念図
【図2】本発明実施例の構成を示すブロック図
【図3】そのROM22に書き込まれたプログラムの内容を示すフローチャート
【符号の説明】
1 電気油圧サーボ式材料試験機本体
11 負荷機構
12 サーボ弁
13 トランスジューサ
2 制御装置
21 CPU
22 ROM
23 RAM
24 入出力インターフェース
25 A−D変換器
26 D−A変換器
27 入出力制御部
3 アンプ
4 ホストコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 制御信号に基づいて制御されるサーボ弁と、このサーボ弁を介して供給される圧油により動作して試験片に負荷を加える負荷機構と、試験片に作用する負荷に関する物理量の検出値のデジタル化手段と、そのデジタル化された検出データと目標値との偏差に対してデジタル演算による比例、積分および微分の各演算を行う演算手段と、その演算結果をアナログ化して上記制御信号としてサーボ弁に供給するアナログ化手段を備えた材料試験機において、上記演算手段による各演算のうち積分演算の有無を指定する選択手段と、この選択手段により積分演算有りの状態から無しの状態に切り換えられた時点で、その直前の比例、積分および微分演算結果から、その直後の上記検出データと目標値との偏差に対する比例および微分演算結果を減じた値を記憶する記憶手段と、上記切り換え時点以降の上記演算手段による演算結果に上記記憶手段の内容を加算して上記アナログ化手段に導く補正手段を備えたことを特徴とする電気油圧サーボ式材料試験機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平5−240757
【公開日】平成5年(1993)9月17日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−43601
【出願日】平成4年(1992)2月28日
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)