説明

電気泳動チップ及び分析方法

【課題】簡便かつ短時間に、高い精度で再現性良く測定対象物質を検出・定量することができる電気泳動チップ及びそれを用いてなる分析方法を提供する。
【解決手段】電解液と接触するとその内壁表面が正又は負に帯電する流路を内部に備えており、前記流路内で測定対象物質を電気泳動させるためのチップであって、前記流路内に、微粒子に担持され、かつ、ゲルによって移動を妨げられた状態で、前記測定対象物質に対して特異的結合能を有する特異的結合物質が設けられているようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、簡便かつ短時間に、高い精度で再現性良く測定対象物質を検出・定量することができる電気泳動チップ及びそれを用いてなる分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、抗原抗体反応を用いて測定対象物質を検出する種々の分析法が開発されている。このうち、ELISA法(酵素免疫測定法)のうちサンドイッチ法では、まず、測定対象物質(抗原)に対する抗体(捕捉抗体)を固相に吸着させる。次いで、スキムミルク等で固相のブロッキングを行う。更に、固相に試料溶液及び予め酵素により標識された抗体(標識抗体)を加える。これにより、固相−捕捉抗体−抗原−標識抗体という複合体が固相表面に形成される。続いて、結合しなかった抗原及び標識抗体を洗い流す。最後に、酵素の基質(例えば、発色又は発光試薬)を加え、酵素反応の生成物を検出する、という一連の工程が行われる。このようなELISA法は、比較的高感度であるものの、洗浄工程が必要で、操作が煩雑であり、また、分析に時間を要する。
【0003】
また、イムノクロマト法は、予め金属コロイド等で標識された抗体(標識抗体)が保持されたサンプルパッドに試料溶液を滴下して、試料溶液中の測定対象物質(抗原)に標識抗体との抗原抗体複合体を形成させた後、当該抗原抗体複合体に毛細管現象によりセルロース膜等のメンブレン上を移動させ、メンブレン上に予め設けられた捕捉抗体により捕捉させて、当該捕捉された抗原抗体複合体を目視で確認して、分析結果を判定するものである。このようなイムノクロマト法は、実施が簡単であるため、妊娠検査等に広くに用いられているものの、測定対象物質を定量することは難しく、また、目視により分析結果を判定するため作業者による誤差が生じやすい。
【0004】
更に、電気泳動と抗原抗体反応を組み合わせた分析法として、ウェスタンブロット法が知られている。これは、被検試料をSDS−ポリアクリルアミド電気泳動や二次元電極泳動によって分画した後、ニトルセルロース膜やPVDF膜に転写し、次いで、免疫染色を行うことにより、測定対象物質を検出する方法であるが、電気泳動と膜転写の2段階の操作を行わなくてはならず、操作が煩雑であり、分析に時間を要する。
【0005】
一方、電気泳動の一手法として、キャピラリー内部を電気泳動路として用いるキャピラリー電気泳動が知られており、この泳動法は泳動に要する時間が短いうえ、分離能が高いという利点を有する(特許文献1)。しかし、特許文献1に記載の方法やデバイスでは、光による固定化や洗浄、ブロッキング工程等が必要であり、分析には時間を要する。また、シリカ製の中空キャピラリーは壊れやすく、取り扱いに注意を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008−506970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、簡便かつ短時間に、高い精度で再現性良く測定対象物質を検出・定量することができる電気泳動チップ及びそれを用いてなる分析方法を提供すべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明に係る電気泳動チップは、電解液と接触するとその内壁表面が正又は負に帯電する流路を内部に備えており、前記流路内で測定対象物質を電気泳動させるためのチップであって、前記流路内に、微粒子に担持され、かつ、ゲルによって移動を妨げられた状態で、前記測定対象物質に対して特異的結合能を有する特異的結合物質が設けられていることを特徴とする。
【0009】
ここで、前記電解液と接触するとその内壁表面が正又は負に帯電する流路としては、例えば、流路内壁が石英ガラスからなり、電解液と接触すると内壁表面においてシラノール基が負の電荷を持ち、流路内壁表面と電解液との界面において電気二重層が形成されるものが挙げられるが、その他、電解液と接すると正又は負の電荷を持つ種々の官能基が内壁表面に導入されたものを用いることができる。このような官能基としては、例えば、カルボキシル基、アミノ基等が挙げられる。また、前記流路は、電解液と接触することにより、その内壁の全表面が正又は負に帯電するものであってもよいが、流路内に測定対象物質を電気泳動するのに充分な電気浸透流を発生させることができる限りにおいて、電解液と接触することにより流路の内壁表面が部分的に正又は負に帯電するものであってもよい。
【0010】
前記測定対象物質としては特に限定されず、例えば、血液、血清、血漿、生体試料、食品等に含まれるタンパク質、ペプチド、遺伝子等が挙げられ、具体的には、例えば、インスリン、カゼイン、β―ラクトグロブリン、オボアルブミン、カルシトニン、C−ペプチド、レプチン、β−2−ミクログロブリン、レチノール結合タンパク、α−1−ミクログロブリン、α−フェトプロテイン、癌胎児性抗原、トロポニン−I、グルカゴン様ペプチド、インスリン様ペプチド、腫瘍増殖因子、繊維芽細胞増殖因子、血小板成長因子、上皮増殖因子;コルチゾール、トリヨードサイロニン、サイロキシン等のハプテンホルモン;ジゴキシン、テオフィリン等の薬物;細菌、ウイルス等の感染性物質;肝炎抗体、IgE、ソバの主要タンパク質複合体、落花生のArah2等の可溶性タンパク質等が挙げられる。
【0011】
前記微粒子としては特に限定されず、例えば、ポリスチレン、セファロース、ラテックス等からなる樹脂ビーズ;金コロイド等の貴金属コロイド;酸化チタン粒子等の無機酸化物粒子等が挙げられる。
【0012】
前記ゲルとしては、前記微粒子の粒径よりもポアサイズが小さく、前記微粒子に担持された特異的結合物質の移動を妨げることが可能なものであれば特に限定されず、例えば、アガロースゲル、アクリルアミドゲル、寒天、セファロース等が挙げられる。当該ゲルは、前記微粒子に担持された特異的結合物質が混合された状態でゲル化されたものであってもよく、又は、前記微粒子に担持された特異的結合物質を取り囲むようにその周囲に形成されているものであってもよい。
【0013】
前記特異的結合物質としては、測定対象物質に対して特異的結合能を有するものであれば特に限定されないが、例えば、抗体とそれに対する抗原、リガンドとそれに対するレセプター、糖とそれに対するレクチン等が挙げられる。
【0014】
このような本発明に係る電気泳動チップによれば、流路内に充填された泳動用緩衝液に電圧を印加することにより、流路内に電気浸透流を発生させることができ、これにより、測定対象物質の荷電状態の如何によらず、測定対象物質を流路内の特異的結合物質が設けられた位置まで泳動させることができる。そして、特異的結合物質に測定対象物質を捕捉させて、測定対象物質と特異的結合物質とを結合させ、形成された測定対象物質と特異的結合物質との複合体を検出することにより、被検試料に含まれる測定対象物質を検出・定量することが可能となる。
【0015】
また、本発明においては、特異的結合物質がビーズ等の微粒子に担持されており、測定対象物質と特異的結合物質との結合等の反応が三次元で行なわれるため、イムノクロマト法等の平面上に抗体を固定化して二次元で反応が行なわれる従来法に比べて、反応効率を向上させることができる。
【0016】
更に、本発明においては、流路内にゲルが設けられているので、ゲルを使用しない電気泳動よりも、流路内における被検試料の逆流が生じにくい。このため、逆流が生じた場合に起こる、被検試料の滞りや、BF分離効率の悪化等を良好に防ぐことができる。
【0017】
当該測定対象物質と特異的結合物質との複合体の検出を容易にするためには、更に、前記流路内に、前記測定対象物質に対して特異的結合能を有し、標識された特異的結合物質が設けられていることが好ましい。このようなものであれば、いわゆるサンドイッチ法又はそれに類する機構を有する分析系を構築することができ、当該測定対象物質と特異的結合物質(以下、捕捉用特異的結合物質という。)との複合体に更に、標識された特異的結合物質(以下、標識用特異的結合物質という。)が結合して、これら3種の物質からなる複合体が形成される一方、未反応の標識用特異的結合物質は電気浸透流により分離されるので、BF分離が容易となる。この結果、これらの複合体を前記標識に基づき容易にかつ高い精度で検出することが可能となる。
【0018】
ここで、前記標識としては、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、テキサスレッド、ルシファーイエロー、カスケードブルー、フィコエリスリン、エオシン、ビオチン等の蛍光物質;125I等の放射性同位元素;ペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、チロシナーゼ、酸性ホスファターゼ、アルカリ性ホスファターゼ等の酵素等が挙げられる。
【0019】
本発明に係る電気泳動チップは、捕捉用特異的結合物質に代えて、測定対象物質を前記微粒子に担持して用いることにより、競合法又はそれに類する機構を有する分析系を備えたものとすることもできる。このような本発明に係る電気泳動チップは、電解液と接触するとその内壁表面が正又は負に帯電する流路を内部に備えており、前記流路内で測定対象物質を電気泳動させるためのチップであって、前記流路内に、微粒子に担持され、かつ、ゲルによって移動を妨げられた状態の前記測定対象物質と、前記測定対象物質に対して特異的結合能を有し、標識された特異的結合物質とが、互いに離れて設けられていることを特徴とする。
【0020】
前記特異的結合物質としては、なかでも、前記測定対象物質を抗原とする抗体であることが好ましく、このように前記特異的結合物質として抗体を用いることにより、特異性に優れ信頼性の高い抗原抗体反応を利用して電気泳動チップを構成することができる。
【0021】
本発明に係る電気泳動チップは、更に、前記流路内に供給するための泳動用緩衝液を貯留する液溜め部と、前記流路内に充填された泳動用緩衝液に電圧を印加する一対の電圧印加部と、を備えていてもよい。
【0022】
本発明に係る電気泳動チップを用いて、被検試料中の測定対象物質を検出する分析方法もまた、本発明の1つである。すなわち本発明に係る分析方法は、本発明に係る電気泳動チップを用いて、被検試料中の測定対象物質を検出する分析方法であって、前記流路内に前記被検試料を導入する工程と、前記流路内に充填された泳動用緩衝液に電圧を印加して電気浸透流を発生させて、前記測定対象物質を電気泳動させ、前記測定対象物質と前記特異的結合物質との複合体を形成する工程と、前記複合体を検出する工程と、を備えていることを特徴とする。
【0023】
本発明に係る分析方法において、前記測定対象物質の検出を容易にするためには、前記測定対象物質とともに、標識用特異的結合物質を電気泳動させ、前記測定対象物質と前記捕捉用特異的結合物質と前記標識用特異的結合物質との複合体を形成することが好ましい。
【0024】
本発明に係る分析方法は、捕捉用特異的結合物質に代えて、測定対象物質を前記微粒子に担持して用い、競合法又はそれに類する機構を有する分析系が構築された本発明に係る電気泳動チップを用いてもよい。このような本発明に係る分析方法は、本発明に係る電気泳動チップを用いて、被検試料中の測定対象物質を検出する分析方法であって、前記流路内に前記被検試料を導入する工程と、前記流路内に充填された泳動用緩衝液に電圧を印加して電気浸透流を発生させて、前記測定対象物質を電気泳動させ、前記測定対象物質と前記標識された特異的結合物質との複合体を形成する工程と、前記複合体を検出する工程と、を備えていることを特徴とする。
【0025】
本発明に係る分析方法において、前記標識が蛍光物質であれば、前記測定対象物質と前記捕捉用特異的結合物質と前記標識用特異的結合物質との複合体に励起光を照射して、生じた蛍光に基づき前記測定対象物質を検出することができる。
【発明の効果】
【0026】
このように本発明によれば、簡便かつ短時間に、高い精度で再現性良く測定対象物質を検出することができる電気泳動チップ及びそれを用いてなる分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る電気泳動チップの全体斜視図。
【図2】同実施形態に係る電気泳動チップの分解斜視図。
【図3】同実施形態に係る電気泳動チップに電極を設けた態様を示す全体斜視図。
【図4】同実施形態に係る電気泳動チップのサンプル導入部近辺を拡大した概念図。
【図5】同実施形態に係る電気泳動チップを用いた分析方法における各反応工程(a)〜(c)を示す図。
【図6】同実施形態に係る電気泳動チップを用いた分析方法における各反応工程(d)〜(e)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0029】
本実施形態に係る電気泳動チップ1は、インスリンXを測定対象物質とするものであり、図1に示すように、内部に形成された流路11と、流路11の上流側(陽極側)から順に設けられた上流側液溜め部12と、第1サンプル導入部13と、第2サンプル導入部14と、下流側液溜め部15とを備えており、上流側液溜め部12と、第1サンプル導入部13と、第2サンプル導入部14と、下流側液溜め部15とは、いずれも電気泳動チップ1の上面に開口し、かつ、流路11に連通している。このような電気泳動チップ1は、図2に示すように、2枚の石英ガラス基板2、4と、当該石英ガラス基板2、4に挟まれたシリコーンシート3との積層体から構成されており、石英ガラス基板2には、それぞれ上流側液溜め部12、第1サンプル導入部13、第2サンプル導入部14、下流側液溜め部15に対応する、4つの貫通孔21、22、23、24が形成されており、また、シリコーンシート3には、流路11の形状に従って切除された切欠部31が形成されている。
【0030】
以下に各部を説明する。
流路11は、上下面が石英ガラスから構成され、両側面がシリコーンから構成されており、その横断面が幅1mm×高さ100μmである幅方向に対して高さ方向が充分に小さい矩形状のものである。上流側液溜め部12と下流側液溜め部15とに挟まれた流路11内には、第1サンプル導入部13と第2サンプル導入部14とを除いて、アガロースゲル(1%アガロース、Tris/Tris−borate 89mM、EDTA 2mM、ポアサイズ約500nm)が充填されている。石英ガラスから構成された上下面は泳動用緩衝液と接するとシラノール基が負の電荷を持ち、流路11の上下面と泳動用緩衝液との界面に電気二重層が形成される。その状態で流路11内に充填された泳動用緩衝液に高電圧が印加されると流路11内に陽極から陰極に向けての液体移動である電気浸透流が発生する。この電気浸透流により、測定対象物質が流路11内を泳動する。なお、流路11の下流側(陰極側)端部は、図示しない栓により封止されている。
【0031】
上流側液溜め部12及び下流側液溜め部15は、それぞれ泳動用緩衝液を貯留するためのものである。泳動用緩衝液としては、例えば、TBE緩衝液(Tris/Tris−borate 89mM、EDTA 2mM)が用いられる。上流側液溜め部12及び下流側液溜め部15には、図3に示すように、電極板5a、5bを設置して電圧印加部としても機能できるように、いずれにも電極板5a、5bを挿入するための溝12a、12b、15a、15bが形成されている。
【0032】
第1サンプル導入部13と第2サンプル導入部14には、図4に示すように、それぞれ、第1サンプル導入部13には、蛍光物質で標識された抗インスリン抗体(以下、蛍光標識抗インスリン抗体ともいう。)Aが収容されており、第2サンプル導入部14には、抗インスリン抗体が担持されたセファロース製ビーズ(以下、抗インスリン抗体固定化ビーズともいう。)Bが収容されている。これら両サンプル導入部13、14はその中心間が10mm離れて設けられている。抗インスリン抗体が担持されたセファロース製ビーズの直径はφ90μmであり、流路11内に形成されたアガロースゲルのポアサイズよりも充分に大きいので、抗インスリン抗体固定化ビーズBはアガロースゲルにより移動が妨げられて、第2サンプル導入部14から流出することができないが、一方、蛍光標識抗インスリン抗体Aのサイズは約15nm程度であるので、アガロースゲルの網目構造内部に入り込んで、流路11内を移動することができる。
【0033】
なお、本実施形態における抗インスリン抗体としては、いずれもポリクローナル抗体が用いられているが、異なるエピトープを認識する2種のモノクローナル抗体が用いられてもよい。
【0034】
当該電気泳動チップ1を用いて本実施形態における測定対象物質であるインスリンXの分析を行うには、図5及び図6に示すように、まず、抗インスリン抗体固定化ビーズBが収容されている第2サンプル導入部14に被検試料を注入する(a)。すると、被検試料中にインスリンXが含まれている場合は、当該インスリンXは抗インスリン抗体固定化ビーズBと結合して複合体を形成する(b)。
【0035】
次いで、上流側液溜め部12及び下流側液溜め部15にそれぞれ設けた一対の電極板5a、5b間に電圧(本実施形態では1000V)を印加し、電気泳動を行う(c)。すると、被検試料中にインスリンXが含まれている場合は、第1サンプル導入部13に収容されている蛍光標識抗インスリン抗体Aが、第2サンプル導入部14に移動して、抗インスリン抗体固定化ビーズBと複合体を形成しているインスリンXに結合し、インスリンXと抗インスリン抗体固定化ビーズBと蛍光標識抗インスリン抗体Aの3種の物質からなる複合体を形成する(d)。なお、遊離のインスリンXと蛍光標識抗インスリン抗体Aとは、第2サンプル導入部14から流出して陰極の方向へ泳動する。
【0036】
そして、得られたインスリンXと抗インスリン抗体固定化ビーズBと蛍光標識抗インスリン抗体Aの3種の物質からなる複合体に励起光を照射すると、蛍光が生じ(e)、これを検出して、その光強度を予め作成された検量線等と比較することにより、被検試料中のインスリンXの含有量を算出することができる。
【0037】
したがって、このように構成した本実施形態に係る電気泳動チップ1によれば、ELISA法のような洗浄工程は不要であり、また、ウェスタンブロット法のような膜転写工程も不要である。また、得られた測定対象物質と捕捉抗体固定化ビーズと蛍光標識抗体の3種の物質からなる複合体に励起光を照射し、生じた蛍光の光強度に基づき測定対象物質の検出を行うことができるので、イムノクロマト法のように、目視で分析結果の判定を行う場合に比べて作業者による差が生じにくく再現性に優れており、また、イムノクロマト法とは異なり測定対象物質の定量が容易である。このため、本実施形態に係る電気泳動チップ1を用いることにより、従来の抗原抗体反応を利用した分析法に比べて、測定対象物質を簡便かつ短時間に、高い精度で再現性良く検出・定量することができる。
【0038】
更に、本実施形態においては捕捉抗体がビーズに担持されており、このため、ビーズに担持された捕捉抗体と測定対象物質との結合や、捕捉抗体固定化ビーズと複合体を形成した測定対象物質への蛍光標識抗体の結合が、三次元で立体的に行なわれる。従って、本実施形態によれば、平面上に抗体を固定化して二次元で反応が行なわれるイムノクロマト法等の従来法に比べて、反応効率を向上させることができる。
【0039】
また、本実施形態においては流路11内にゲルが設けられているので、ゲルを使用しない電気泳動よりも、流路11内における被検試料の逆流が生じにくい。このため、本実施形態によれば、逆流が生じた場合に起こる、被検試料の滞りや、BF分離効率の悪化等を良好に防ぐことができる。
【0040】
更に、本実施形態に係る電気泳動チップ1は、流路11の横断面形状が幅方向に対して高さ方向が充分に小さい矩形状のものであるが、流路11の横断面が同一面積の矩形状である場合、幅と高さの差(比)が大きいほど内壁表面と泳動用緩衝液との接触面積が増えるので、本実施形態によれば、電気浸透流の速度を充分増大させることができ、その結果、泳動時間を短縮することが可能となる。
【0041】
また、本実施形態に係る電気泳動チップ1は、流路11の幅が大きいので、第2サンプル導入部14から被検試料を直接流路11内に導入することができ、また、導入した被検試料中の測定対象物質は電気浸透流により移動されるので、従来のマイクロ流路チップとは異なり、被検試料を流路11内に導入するための送液ポンプが不要である。
【0042】
また、本実施形態に係る電気泳動チップ1を使い捨てとすることにより、測定対象物質が有害物質であっても、周囲を汚染することなく安全に分析を行うことができる。
【0043】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0044】
例えば、本発明に係る電気泳動チップは、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等の樹脂製の基板に流路が形成され、当該流路内にガラスコーティングが施されたものであってもよい。
【0045】
更に、抗インスリン抗体固定化ビーズBはゲル中に埋設されていてもよい。
【0046】
また、蛍光標識抗インスリン抗体Aを第2サンプル導入部14内に収容し、被検試料は第1サンプル導入部13から導入するようにしてもよい。
【0047】
更に、抗インスリン抗体固定化ビーズBに代えて、測定対象物質が担持されたビーズが用いられてもよい。このような測定対象物質が担持されたビーズを用いることにより、競合法を利用して電気泳動チップを構成することができる。
【0048】
その他、本発明は前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてもよく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0049】
1・・・電気泳動チップ
11・・・流路
B・・・抗インスリン抗体固定化ビーズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液と接触するとその内壁表面が正又は負に帯電する流路を内部に備えており、前記流路内で測定対象物質を電気泳動させるためのチップであって、
前記流路内に、微粒子に担持され、かつ、ゲルによって移動を妨げられた状態で、前記測定対象物質に対して特異的結合能を有する特異的結合物質が設けられていることを特徴とする電気泳動チップ。
【請求項2】
前記流路内に、前記測定対象物質に対して特異的結合能を有し、標識された特異的結合物質が設けられている請求項1記載の電気泳動チップ。
【請求項3】
電解液と接触するとその内壁表面が正又は負に帯電する流路を内部に備えており、前記流路内で測定対象物質を電気泳動させるためのチップであって、
前記流路内に、微粒子に担持され、かつ、ゲルによって移動を妨げられた状態の前記測定対象物質と、前記測定対象物質に対して特異的結合能を有し、標識された特異的結合物質とが、互いに離れて設けられていることを特徴とする電気泳動チップ。
【請求項4】
前記特異的結合物質が、前記測定対象物質を抗原とする抗体である請求項1、2又は3記載の電気泳動チップ。
【請求項5】
前記流路内に充填するための泳動用緩衝液を貯留する液溜め部と、
前記流路内に充填された泳動用緩衝液に電圧を印加する一対の電圧印加部と、
を備えている請求項1、2、3又は4記載の電気泳動チップ。
【請求項6】
請求項1、2、4又は5記載の電気泳動チップを用いて、被検試料中の測定対象物質を検出する分析方法であって、
前記流路内に前記被検試料を導入する工程と、
前記流路内に充填された泳動用緩衝液に電圧を印加して電気浸透流を発生させて、前記測定対象物質を電気泳動させ、前記測定対象物質と前記特異的結合物質との複合体を形成する工程と、
前記複合体を検出する工程と、を備えていることを特徴とする分析方法。
【請求項7】
前記測定対象物質とともに、前記測定対象物質に対して特異的結合能を有し、標識された特異的結合物質を電気泳動させて、前記測定対象物質と前記特異的結合物質と前記標識された特異的結合物質との複合体を形成する請求項6記載の分析方法。
【請求項8】
請求項3、4又は5記載の電気泳動チップを用いて、被検試料中の測定対象物質を検出する分析方法であって、
前記流路内に前記被検試料を導入する工程と、
前記流路内に充填された泳動用緩衝液に電圧を印加して電気浸透流を発生させて、前記測定対象物質を電気泳動させ、前記測定対象物質と前記標識された特異的結合物質との複合体を形成する工程と、
前記複合体を検出する工程と、を備えていることを特徴とする分析方法。
【請求項9】
前記標識が、蛍光物質であり、
前記特異的結合物質と前記測定対象物質と前記標識された特異的結合物質との複合体に励起光を照射して、生じた蛍光に基づき前記測定対象物質を検出する請求項6、7又は8記載の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−194015(P2012−194015A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57383(P2011−57383)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(505125945)学校法人光産業創成大学院大学 (49)
【出願人】(000006116)森永製菓株式会社 (130)
【Fターム(参考)】