電気泳動チップ
【課題】液量が多い条件では流路として作用し、液量が少ない条件ではチャネル内に各々独立に液滴を安定的に保持可能なウェルとして作用するチャネルを実現する。
【解決手段】試料を溶解した溶液が満たされるチャネル304を備え、チャネル304が気密に閉じられた状態でチャネル304に沿って電圧を印加して電気泳動を行って試料をチャネル304内で分離し、電気泳動の後、チャネル304が気体に開放された状態でチャネル304に沿ってレーザーを走査して試料の質量分析を行うために用いられる。チャネル304の底面には、溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、このパターンは、親水性領域を疎水性領域とチャネル304の側壁501とで囲むパターンにされている。
【解決手段】試料を溶解した溶液が満たされるチャネル304を備え、チャネル304が気密に閉じられた状態でチャネル304に沿って電圧を印加して電気泳動を行って試料をチャネル304内で分離し、電気泳動の後、チャネル304が気体に開放された状態でチャネル304に沿ってレーザーを走査して試料の質量分析を行うために用いられる。チャネル304の底面には、溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、このパターンは、親水性領域を疎水性領域とチャネル304の側壁501とで囲むパターンにされている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質等の試料を電気泳動によってチャネル内で分離した後、処理を行って試料を検出するために用いる電気泳動チップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非特許文献1に記載の通り、チャネルの上面側を覆う蓋が剥離可能な構造としたマイクロ流体チップを用いて、まず、蓋でチャネルを気密に閉じた状態で試料溶液に含まれるタンパク質等の溶質をキャピラリー電気泳動によってチャネル内で分離する。続いて、蓋を剥がした状態でタンパク質等の溶質のイオン化を促進するマトリックスと呼ばれるイオン化促進剤を添加し、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析装置(MALDI-MS)を用いて、マイクロ流体チップ上のチャネルに沿ってレーザーを走査して溶質をイオン化し、質量分析して検出するシステムが提案されている。
【0003】
また、非特許文献2〜4、特許文献1、2に記載の通り、マイクロ流体チップの表面に形成された上面開放構造、すなわち、チャネルを覆う蓋構造が無い溝状のチャネルを用いて、同じく試料溶液に含まれるタンパク質等の溶質をキャピラリー電気泳動によってチャネル内で分離して、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析装置を用いて、マイクロ流体チップ上のチャネルに沿ってレーザーを走査して溶質をイオン化し、質量分析して検出するシステムが提案されている。これらのシステムでは、チャネル内で分離された溶質は、分離状態を乱さないように乾燥され、分離乾燥した溶質にマトリックスと呼ばれるイオン化促進剤を溶解した溶液を添加してサンプルと混合した状態のマトリックス結晶を作製した後、質量分析が行われる。
【非特許文献1】M. Fujita et al., J. Chroma. A, vol.1055-1 (2004), pp.41-53.
【非特許文献2】K. Tseng et al., SPIE vol.3606 (1999), pp.137-148.
【非特許文献3】J. Liu et al., Analytical Chemistry vol.73 (2001), pp.2147-2151
【非特許文献4】M. Mok et al., Analyst vol.129 (2004), pp.109-111
【特許文献1】特表2005−517954号公報
【特許文献2】国際公開2005−124332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のシステムにおいて、例えば検出されたタンパク質をペプチドマスフィンガープリンティング法(PMF法)で同定する場合には、例えばチャネル(流路)内で分離したタンパク質の位置を乱さないようにしながら、トリプシンのような消化酵素を含んだ溶液をタンパク質に添加し、消化してペプチドに分解する処理が必要になる。このペプチドを質量分析することによって、元のタンパク質を同定することができる。マトリックス溶液の添加時のような一瞬で終わる操作と異なり、この消化過程では、少なくとも数分間は溶液状態を保持しなければならない。このため、タンパク質の位置を乱さないことは、上述の文献に記載された通常の流路構造では難しい。すなわち、特定の場合には、電気泳動用流路として流路内で液体が連続的につながっている状態を実現し、一方で、特定の場合には各々液滴が混じらないウェルとして作用するような特殊なチャネルが必要である。
【0005】
このようなチャネルとして、理論的には例えば図12に示すように、チップ基板101の深さ方向に段差をなす2段堀り構造の流路102を形成することによって、溶液量が多い場合には流路として作用し、溶液量が少ない場合には更に一段深くなった部分103をウェルとして、各ウェル間で溶液の液滴が混じらないような構造が考えられる。
【0006】
しかしながら、このような流路の構造を現実に作製した場合、マイクロ流体チップでは取り扱う溶液量が少量であるために、重力の影響が少なく、重力よりも親水性や疎水性の作用の方が大きい。したがって、流路における深さだけを大きく形成しても各ウェル間でそれぞれ独立して溶液を安定的に保持することが難しく、ウェルを溶液で満たすことが困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、上述の課題を解決するものであり、特定の条件では流路として作用し、特定の条件ではチャネル内に各々独立に液滴を安定的に保持可能なウェルとして作用するチャネルを実現し、分析システムにおける処理を更に高度化することができる電気泳動チップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するため、本発明に係る第1の電気泳動チップは、試料を溶解した溶液が満たされるチャネルを備え、チャネルが気密に閉じられた状態でチャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って試料をチャネル内で分離し、電気泳動の後、チャネルが気体に開放された状態でチャネルに沿ってレーザーを走査して試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップである。チャネルの底面には、溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、このパターンは、第1の親水性領域をこの第1の親水性領域よりも親水性が低い第2の親水性領域で囲むパターンにされている。
【0009】
また、本発明に係る第2の電気泳動チップは、試料を溶解した溶液が満たされるチャネルを備え、チャネルが気密に閉じられた状態でチャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って試料をチャネル内で分離し、電気泳動の後、チャネルが気体に開放された状態でチャネルに沿ってレーザーを走査して試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップである。チャネルの底面には、溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、このパターンは、第1の親水性領域を、第1の親水性領域よりも親水性が低い第2の親水性領域とチャネルの側壁とで囲むパターンにされている。
【0010】
また、本発明に係る第3の電気泳動チップは、試料を溶解した溶液が満たされるチャネルを備え、チャネルが気密に閉じられた状態でチャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って試料をチャネル内で分離し、電気泳動の後、チャネルが気体に開放された状態でチャネルに沿ってレーザーを走査して試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップである。チャネルの底面には、溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、このパターンは、親水性領域を疎水性領域で囲むパターンにされている。
【0011】
また、本発明に係る第4の電気泳動チップは、試料を溶解した溶液が満たされるチャネルを備え、チャネルが気密に閉じられた状態でチャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って試料をチャネル内で分離し、電気泳動の後、チャネルが気体に開放された状態でチャネルに沿ってレーザーを走査して試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップである。チャネルの底面には、溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、このパターンは、親水性領域を疎水性領域とチャネルの側壁とで囲むパターンにされている。
【0012】
また、本発明に係る第5の電気泳動チップは、試料を溶解した溶液が満たされる溝状のチャネルと、チャネルの底面を構成する基板と、基板に剥離可能に設けられチャネルの側壁を構成する枠部材と、を備え、チャネル内の溶液が気体に開放された状態でチャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って試料をチャネル内で分離し、電気泳動の後、基板から枠部材が外された状態でチャネルに沿ってレーザーを走査して試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップである。チャネルの底面には、溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、このパターンは、第1の親水性領域を、第1の親水性領域よりも親水性が低い第2の親水性領域で囲むパターンにされている。また、チャネルの側壁は、底面からの高さが、パターンに相関する所定の高さ以上に形成されている。
【0013】
また、本発明に係る第6の電気泳動チップは、試料を溶解した溶液が満たされる溝状のチャネルと、チャネルの底面を構成する基板と、基板に剥離可能に設けられチャネルの側壁を構成する枠部材と、を備え、チャネル内の溶液が気体に開放された状態でチャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って試料をチャネル内で分離し、電気泳動の後、基板から枠部材が外された状態でチャネルに沿ってレーザーを走査して試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップである。チャネルの底面には、溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、このパターンは、第1の親水性領域を、第1の親水性領域よりも親水性が低い第2の親水性領域とチャネルの側壁とで囲むパターンにされている。また、チャネルの側壁は、底面からの高さが、パターンに相関する所定の高さ以上に形成されている。
【0014】
また、本発明に係る第7の電気泳動チップは、試料を溶解した溶液が満たされる溝状のチャネルと、チャネルの底面を構成する基板と、基板に剥離可能に設けられチャネルの側壁を構成する枠部材と、を備え、チャネル内の溶液が気体に開放された状態でチャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って試料をチャネル内で分離し、電気泳動の後、基板から枠部材が外された状態でチャネルに沿ってレーザーを走査して試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップである。チャネルの底面には、溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、このパターンは、親水性領域を疎水性領域で囲むパターンにされている。また、チャネルの側壁は、底面からの高さが、パターンに相関する所定の高さ以上に形成されている。
【0015】
また、本発明に係る第8の電気泳動チップは、試料を溶解した溶液が満たされる溝状のチャネルと、チャネルの底面を構成する基板と、基板に剥離可能に設けられチャネルの側壁を構成する枠部材と、を備え、チャネル内の溶液が気体に開放された状態でチャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って試料をチャネル内で分離し、電気泳動の後、基板から枠部材が外された状態でチャネルに沿ってレーザーを走査して試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップである。チャネルの底面には、溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、このパターンは、親水性領域を疎水性領域とチャネルの側壁とで囲むパターンにされている。また、チャネルの側壁は、底面からの高さが、パターンに相関する所定の高さ以上に形成されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特定の条件では流路として作用し、特定の条件ではチャネル内に各々独立して液滴を安定的に保持可能なウェルとして作用するチャネルを実現できる。したがって、本発明によれば、例えば、電気泳動で分離して検出されたタンパク質をPMF法で同定するといった、これまで実現不可能であった高度な処理を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0018】
(第1の実施形態)
図1は、チャネルが蓋で気密に閉じられた実施形態の電気泳動チップを示す模式図であって、(a)が平面図、(b)が、(a)におけるA−A’断面図、(c)が、(a)におけるB−B’断面図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の電気泳動チップは、チップ基板301の面上が蓋302で覆われて構成されている。チップ基板301の材料としては、例えばガラスなどの親水性材料が用いられても、一般的なプラスチックのような撥水性材料が用いられても良いが、本実施形態では親水性材料を用いている。親水性材料からなるチップ基板301の面上には、撥水膜303からなるパターンが形成されている。撥水膜303はフッ素樹脂膜等をパターニングして得られ、疎水性領域を構成している。
【0020】
特に本実施形態では、チャネル304の底面に相当するチップ基板301の上面部分に撥水膜303が無い部分が形成されている。撥水膜303が無い部分の表面は、チップ基板301の材料が露出されるので親水性を示す。さらに、電気泳動チップの場合には、電気浸透流を抑制するために、ポリエチレングリコールやポリアクリルアミドの親水性コーティングが、上述したチップ基板301の材料が露出された表面に設けられてもよい。蓋302は、チップ基板301に対して剥離可能にするために、例えばシリコンゴム等の吸着性を有する材料で形成されることが望ましい。これにより、チャネル304から液漏れすることなく、電気泳動等を行うことができる。
【0021】
図1(c)に示すように、チャネル304は、チップ基板301の面に対向する、蓋302の下面に溝状に加工することによって形成されている。本実施形態の電気泳動チップが等電点電気泳動を行うチップであるとすれば、チャネル304は、リザーバ305とリザーバ306との間を一直線状に結ぶように形成されている。このチャネル304内に、アンフォライトを含み、分離するサンプルとしてのタンパク質やペプチドが混合されたサンプル溶液を充填する。また、リザーバ305、306には、酸性またはアルカリ性の電極液を充填し、酸側を正極、アルカリ側を負極としてチャネル304に沿って電圧を印加する。この電圧の印加によって、チャネル304内に水素イオン濃度勾配が形成される。そして、チャネル304内に広がっているタンパク質やペプチドは、そのタンパク質やペプチド特有の等電点と一致する水素イオン濃度の、チャネルの位置に、チャネル長や印加電圧値にも因るが、数分程度でフォーカスする。
【0022】
このような等電点電気泳動を行う場合、図1に示した電気泳動チップであれば、チャネル304内をサンプル液で満たすことができる。一方、液量を少なくすることで、疎水性のシリコンゴムからなる蓋302におけるチャネルの側壁と、パターニングされた撥水膜303とで囲まれた親水性領域に、各々独立した液滴を形成することもできる。
【0023】
以下、本実施形態の電気泳動チップの使用方法について、図2を参照して説明する。図2は、図1(a)におけるA−A’断面において、チャネル内への溶液の充填度合いを変化させた場合を、(i)、(ii)、(iii)にそれぞれ分けて示している。
【0024】
チャネルへの溶液の充填度合いが十分に少ない(i)の場合、親水性領域において液滴がそれぞれ形成される。これらの液滴の間には疎水性領域が存在し、液滴が、この疎水性領域で囲まれた親水性領域に引っ張られるため、これらの領域で液滴間を分断する力が働く。このため、溶液量が十分に少ない場合には、疎水性領域で各々分断され、隣り合う液滴が混じることなく独立した液滴として存在することができる。すなわち、親水性領域に各々混じることなく独立して液滴が形成される。したがって、疎水性のシリコンゴムからなる蓋302におけるチャネルの側壁と、パターニングされた撥水膜303とで囲まれた親水性領域は、溶液を液滴として保持するウェルとして作用する。
【0025】
加えて、実施形態の電気泳動チップでは、重力よりも強い親水性や疎水性の作用を利用しているため、安定して液滴を保持することができる。また、溶液をウェルに充填するという操作も、チップ基板のほぼ平面の上に自然に形成される液滴を利用するため、容易に行うことができる。
【0026】
チャネルへの溶液の充填量を更に増やした(ii)の場合には、液滴は撥水膜上まで広がり、更に大きな液滴を形成する。この場合には、親水性領域が液滴の中心付近に存在するため、液滴の位置がここで固定され、単に撥水膜上にある場合と比較して、液滴が安定して静止している。もしも、疎水性のシリコンゴムからなる蓋302におけるチャネルの側壁と、パターニングされた撥水膜303とで親水性領域を囲む構成になっていない場合には、独立して液滴が形成されなかったり、液滴の位置が安定しなかったりする。
(iii)の状態から溶液を更に充填していった(iii)の場合には、隣接する液滴が互いに接触して一体に連結し、液滴が蓋の下面にも接触するようになり、チャネル304内を溶液が満たしていく。この状態で、完全にチャネル304内を溶液が満たした状態で電気泳動が可能になる。
【0027】
以上説明したように本実施形態によれば、チャネルの底面に、親疎水性の違いを用いて形成されたパターンであって、そのパターンが、親水性領域を疎水性領域とチャネルの側壁とで囲むように形成にされた構成が採られている。この構成によって、液量が多い条件では流路として作用し、液量が少ない条件ではチャネル内に各々独立に液滴を保持可能なウェルとして作用するチャネルを実現できる。したがって、本実施形態の電気泳動チップによれば、上述の例えば分離して検出されたタンパク質をペプチドマスフィンガープリンティング法(PMF法)で同定するといった、これまで実現不可能であった高度な処理を実現することができる。
【0028】
なお、本実施形態では、チャネルの底面のパターンとして、図3に示すように親水性領域を疎水性領域とチャネル304の側壁501とで囲むパターンが用いられたが、図4に示すように親水性領域を疎水性領域のみで囲むパターンが用いられても良い。このパターンの場合には、チャネルの側壁501の親疎水性に拘わらずにウェルを形成することが可能になる。
【0029】
また、チャネルの底面に形成されるパターンとしては、チャネルの長手方向に沿って複数のウェルが配列されてなるウェル列が1列にされた構成に限定されるものではなく、例えば図5に示すような2列のウェル列からなるパターンであっても良い。このような2列のウェル列を有する構成の場合には、例えば、一方のウェル列(図中の上側のウェル列)でタンパク質の親イオンを検出し、このタンパク質の消化物を、他方のウェル列(図中の下側のウェル列)で検出することによって、1回の分離でタンパク質の検出から同定までを行うことができる。
【0030】
さらに、本実施形態では、疎水性領域を構成する撥水膜303が用いられたが、チップ基板301の表面が構成する親水性が比較的高い領域(第1の親水性領域)よりも親水性が低い領域(第2の親水性領域)を構成する塗布膜等の他の薄膜が用いられても良い。この構成の場合、液滴の接触角θが低くなったりするが、同様の効果を得ることができる。また、その場合にも同様に、図4や図5に示したパターンを採用することができる。
【0031】
さらに、チャネルの底面に、液滴よりも十分に小さい複数の突起からなるアレイ構造を形成し、このアレイ構造の密度を変えることによって、底面の表面積の増倍率を変化させて親水性を任意に制御することもできる。液滴よりも十分に小さい複数の突起からなるアレイ構造としては、およそ50ミクロン以下のマイクロピラーの配列や、サンドブラスト等の加工によって形成することが可能な砂目状に荒らされた表面を用いることができる。このアレイ構造によれば、材質特有の親疎水性を利用することに伴う、固有の物質定数に制限されることなく、パターンの設定の自由度を向上することができる。
【0032】
特に半導体微細加工技術を用いて形成されるマイクロピラーであれば、ピラー形状やピラー配列を自由に設定できるため、チャネル内に上述の各領域を自由に配置できる。また、ピラー形状やピラー配列を工夫すれば、溶液が移動し易い方向や移動し難い方向を自由にチャネルの底面に形成することが可能であるため、溶液の乾燥と共にある特定の位置に液滴が収束していくような濃縮効果を併せ持たせることができる。
【0033】
一個一個のピラーは望ましくは考慮すべき液滴サイズよりも十分に小さく、できれば液滴サイズの10分の1以下に小さく形成されるのが好ましい。例えば10ミクロン単位程度で十分に液滴ができないような流路を形成するためには、ミクロンオーダーの柱状構造を形成する必要がある。平坦部分の接触角θが60度未満のチップ基板の表面積を、このマイクロピラーを形成することで2倍以上に増倍した場合、ウェンゼンルの式から予測される通り、ピラーが形成された領域は超親水性を示し、液滴を形成せずにどこまでも広がる状態になる。したがって、この領域の表面は、本来、親水性であることが望ましく、親水性の表面である場合には表面積の増倍効果によって極めて強い親水性や超親水性を示すことになる。また、ピラー配列に密度が異なるように粗密を設定することで、例えば、疎な部分で溶液が分離して液滴を形成し、密な部分に濃縮していくような作用を付加することができる。
【0034】
ピラー配列の例として、チャネルの底面に形成されたピラー配列を電気泳動チップの上面から写した走査電子顕微鏡写真を、図6から図8に示す。図6に示す構成例の場合、チャネル304内に示されている白い点の一個一個が各々ピラー801の最上面を示しており、ピラー配列に密度の差異、つまり粗密が形成されている。ピラー配列が疎な部分では液滴が分離して切れる。一方、図7に示す構成例の場合、ピラー配列に密な部分が形成されている。溶液が乾燥する際には、この密な部分に液滴が集まってきて乾燥するため、溶質もこの部分に濃縮される。
【0035】
また、図6に示す構成と図7に示す構成の各効果を併せ持つものが、図8に示す構成例である。この構成では、溶液が乾燥してきて液滴が形成される場合、ピラー配列が疎な部分で液滴が分離されて切れる。一方、分離された液滴は密な部分に集まって乾燥していき、密な部分に溶質が析出する。すなわち、ピラー配列が疎な部分は親水性が低い領域(第2の親水性領域)に相当し、ピラー配列の密な部分は親水性が高い領域(第1の親水性領域)に相当している。
【0036】
本実施形態によれば、チャネルの底面に、親水性が比較的高い領域を親水性が比較的低い領域で囲むパターンを形成することによって、液量が多い条件では流路として作用し、液量が少ない条件ではチャネル内に各々独立に液滴を安定的に保持可能なウェルとして作用するチャネルを実現することができる。
【0037】
(第2の実施形態)
図9は、チャネル内の溶液の上面が気体に接する開放構造を採用した溝状のチャネルを備える電気泳動チップを示す模式図である。図9において、(a)が平面図、(b)がA−A’断面図、(c)がB−B’断面図である。
【0038】
本実施形態の電気泳動チップも第1の実施形態と同様に、チップ基板301上に蓋302が被せられて構成されている。チップ基板301の材料としては、例えばガラスなどの親水性材料であっても、一般的なプラスチックのような撥水性材料であっても良いが、本実施形態では親水性材料を用いている。親水性材料からなるチップ基板301上には、撥水膜303からなるパターンが形成されている。疎水性領域を構成する撥水膜303はフッ素樹脂膜等をパターニングして得られる。
【0039】
特に本実施形態では、チャネル304の底面に相当するチップ基板301の上面部分に、撥水膜303が無い部分が形成されている。撥水膜303が無い部分の表面は、チップ基板301の材料が露出しているので親水性を示す。さらに、電気泳動チップの場合には、電気浸透流を抑制するために、ポリエチレングリコールやポリアクリルアミドの親水性コーティングが、上述のチップ基板301の材料が露出された表面に設けられてもよい。あるいは、チップ基板として、フッ素樹脂やアクリル樹脂製の基板を用いて、この基板上にポリアクリルアミドコーティングを施し、パターニングする構成が採られてもよい。
【0040】
蓋302は、チップ基板301から剥離可能にするために、例えばシリコンゴムなどのチップ基板301に対して吸着性を有する材料で形成されることが望ましい。これにより、チャネル304から液漏れすることなく、電気泳動等を行うことができる。チャネル304は、例えば蓋302を溝状に厚み方向に貫通することによって形成されている。すなわち、蓋302は、チャネル304の側壁を構成する枠部材として機能している。そして、チャネル304は、本実施形態の電気泳動チップが等電点電気泳動を行うチップであるとすれば、リザーバ305とリザーバ306との間を一直線状に結ぶように形成される。但し、各リザーバ305、306内の溶液とチャネル304内の溶液とが混合するのを防ぐ場合には、チャネル304とリザーバ305,306との間に、必要に応じて図示するようなボトルネック311、312、あるいは塩橋が設けられてもよい。
【0041】
本実施形態の電気泳動チップでは、少量の液体を取り扱うので、近似的に重力の影響を無視できる。この場合、図11に示すように、液滴202の頂点Pからチャネルの底面201までの液滴202の高さhは、液滴202の縁の表面(厳密には表面の接線203)とチャネルの底面201とがなす、液滴202の表面と空気との境界における液滴202の接触角をθ、チャネルの底面201に平行な液滴202の幅を2Lとした場合、図11に示すように、h=L・tan(θ/2)によって算出される。そして、各々隣り合う液滴が混じり合わないように液滴が最大に形成された状態において、液滴の頂点を通りチャネルの底面に垂直な、液滴の断面を考えたとき、液滴の表面が、チャネルの底面と液滴の頂点とをほぼ円弧状に結んでいるものと近似することができる。
【0042】
したがって、実施形態におけるチャネル304内に少量の溶液を入れた場合には、図9(b)に示すように、チャネル304内には液滴401が形成される。この液滴401がA−A’断面に平行な方向において隣り合う液滴と接触する直前の限界のサイズ、つまり隣り合う液滴が混じり合わないように形成された液滴が最大となる状態では、図11に示した液滴202と比較して、液滴401の頂点からチャネルの底面までの液滴の高さhA、チャネルの底面に平行な方向の液滴401の幅2LA、液滴401の縁の表面とチャネルの底面とがなす液滴401の接触角θAとした場合に、hA=LA・tan(θA/2)の式が成り立つ。ここでは、チャネルの底面が、チップ基板301上に形成された撥水膜303の表面を指している。
【0043】
しかしながら、この液滴の高さhAが、チャネルの側壁の高さHよりも大きい場合には、隣り合う液滴と接触して連結する前に液滴がチャネルの上面から溢れ出てしまう。したがって、チャネルの上面から溶液が溢れることなく、少なくともA−A’断面に平行な方向おいて隣り合う液滴同士が接触して連結し、電気泳動可能な溶液で満たされたチャネルを形成するためには、H>hAの条件を満たす必要がある。すなわち、チャネルの側壁は、H>LA・tan(θA/2)を満たしている必要がある。なお、チャネルの側壁における所定の高さHは、チャネルの底面に形成されるパターンの構成に相関しており、パターンの構成に応じて設定される。
【0044】
同様に、チャネルのB−B’断面に平行な方向においても均一に溶液が満たすためには、図10に示した拡大図において、液滴の高さhB、液滴の幅2LB、液滴の接触角θBとした場合に、hB=LB・tan(θB/2)の式が成り立つので、H>hBの条件を満たす必要がある。すなわち、チャネルの側壁は、H>LB・tan(θB/2)を満たす必要がある。
【0045】
ここで、通常、異方性が無い塗布膜で撥水膜303が形成されている場合には、液滴の接触角がθA=θBとなるが、上述の異方的な配列を作製可能なマイクロピラーを使用した場合には必ずしも各接触角θが一致しない。また、通常得られる撥水膜においては、大抵の場合、その接触角θが110度を超えることは無い。tan(110/2)≒1.43<1.5であるため、大抵の場合、チャネルの側壁は、H>1.5・Lを満たしていれば十分である。
【0046】
以上説明したように本実施形態によれば、チャネルの底面にパターンが形成されると共に、このパターンに応じて決まる、所定の高さH以上の側壁を有するチャネルが構成されている。すなわち、本実施形態の電気泳動チップでは、チャネルの上面が蓋で密閉された第1の実施形態と異なり、チャネルが気体に開放されているので、チャネルが所定の高さH以上の側壁を有しているという条件が必要とされている。
【0047】
この構成によって、特定の条件では流路として作用し、特定の条件ではチャネル内に各々独立に液滴を保持可能なウェルとして作用するチャネルを実現することができる。したがって、本実施形態の電気泳動チップによれば、例えば分離して検出されたタンパク質をPMF法で同定するような、これまで実現不可能であった高度な処理を実現することが可能になる。
【0048】
以下、この電気泳動チップの使用方法の一例について説明する。
【0049】
チャネル304内に、アンフォライトを含み、分離するサンプルとしてのタンパク質やペプチドを混合したサンプル溶液を充填する。また、リザーバ305、306には、酸性またはアルカリ性の電極液を充填し、酸側を正極、アルカリ側を負極として電圧を印加する。ボトルネック311、312は、この電極液とサンプル液とが不用意に混合しすぎないようにする役目を果たす。電圧を印加することで、チャネル304内に水素イオン濃度勾配が形成され、チャネル304内に広がっているタンパク質やペプチドはそのタンパク質やペプチド特有の等電点と一致する水素イオン濃度のチャネル位置に、チャネル長や印加電圧値にも因るが、数分程度でフォーカスする。このようにタンパク質やペプチドを各々その等電点に従って、チャネル304内の特定箇所にフォーカスさせて分離させた後、その分離状態を固定化するために、例えば電気泳動チップごとに急速冷却し、チャネル内のサンプル液を分離状態に保ったままで凍結固定する。
【0050】
その後、電気泳動チップの周囲を真空排気することによって、分離したサンプル液を凍結乾燥することができる。この状態でゴム製の蓋302を取り外しても良いし、あるいは蓋302を付けたままでも良いが、2列のウェル列における一方のウェル列のウェルのみにマトリックス溶液を滴下する。なお、この場合の滴下量は十分に少なくし、ウェルに形成される液滴が隣接する液滴と互いに接触しないようにする。これにより、ウェルのサイズの分解能では、分離状態が保持されたままで分離したタンパク質にマトリックスを添加できる。なお、マトリックス溶液量が不足する場合には、ウェルを一度乾燥させた後、再度、マトリックス溶液を添加する等、複数回にわたって溶液の添加を行えばよい。また、凍結乾燥したタンパク質とマトリックス溶液とが良好に混合しないようであれば、マトリックス溶液の溶媒を乾燥し難いものを使用して、乾燥するまでの混合時間を長く確保したり、チップ周囲の溶媒蒸気圧を高めて溶媒の乾燥速度を遅くして混合時間を長く確保したりすればよい。
【0051】
マトリックス溶液の乾燥後、蓋302を外した状態でチップ基板301をマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析装置(MALDI-MS)に設置する。そして、図9(a)に示すように、チャネルに沿って複数のウェルが配列されてなる2列のウェル列における一方のウェル列(図中の上側のウェル列)のウェルごとにレーザーを走査してタンパク質やペプチドを検出する。これにより、まず、消化前のタンパク質やペプチドの分子量の情報を得ることができる。また、内部標準等をサンプル液に混合しておけば、その等電点に基づいてサンプルの等電点の情報も得ることができる。
【0052】
チャネル304は、リザーバ305とリザーバ306との間を一直線状に結んでいるため、一方のウェル列のウェルにフォーカスしたタンパク質やペプチドは、同様に、他方のウェル列(図中の下側のウェル列)のウェルにもフォーカスしている。この性質を利用して、2つのウェル列の一方のウェル列で検出したタンパク質やペプチドの消化物を、他方のウェル列に形成、質量分析して、検出したタンパク質やペプチドの同定を行うことができる。
【0053】
すなわち、他方のウェル列のウェルにトリプシン溶液を添加し、ウェル内のタンパク質やペプチドを消化する。この消化には少なくとも5分程度の時間がかかるため、少量の溶液の乾燥を抑えるために、電気泳動チップ周辺を、溶媒の主たる揮発性成分の蒸気で高湿度にし、溶媒湿度を高く維持する。このとき、トリプシンをリンクさせたビーズを用いることで、自己消化が無くなり、効率が高まり、トリプシン消化物によるコンタミネーションも抑制することができる。
【0054】
なお、ここでは消化酵素としてトリプシンを挙げたが、他の消化酵素であっても良い。また、本実施形態では、2列のウェル列を有する構成を挙げたが、2列に限定されるものでなく、列数を3列、4列等に増加して、さまざまな種類の消化酵素で処理すればそれだけ質量分析した場合の情報量が多くなり、同定率が高められる。
【0055】
次に、消化物に上述の方法でマトリックスを添加して、質量分析する。PMF法と同様に、この消化物の質量データからデータベース検索によって消化前のタンパク質やペプチドを同定することができる。この際、先に分かっている消化前のタンパク質やペプチドの分子量の情報や等電点の情報を付加すれば、同定率を向上することができる。
【0056】
なお、本実施形態では、PMF法と類似の同定方法について説明したが、チャネル内で分離したタンパク質やペプチドを、ウェルで取り扱うように各々混合することなく独立に扱えるので、例えばエドマン分解やC末端解析のような方法を採ることもできる。また、同定だけではなく、抗体との反応を調べたり等のさまざまな応用が広がる。本発明によれば、従来は実現できなかった、このような全く異なる機能を電気泳動チップに確実に組み込むことができる。
【0057】
以上説明したように本実施形態は、チャネルの底面に、親疎水性の違いを用いて形成されたパターンであって、そのパターンが、親水性領域を疎水性領域とチャネルの側壁とで囲むように形成される構成が採られている。この構成によって、液量が多い条件では流路として作用し、液量が少ない条件ではチャネル内に各々独立に液滴を保持可能なウェルとして作用するチャネルを実現することができる。
【0058】
したがって、本実施形態の電気泳動チップによれば、上述したように例えば、分離されて検出されたタンパク質をPMF法で同定するといった、これまで実現不可能であった高度な処理を実現することができる。なお、チャネルの底面のパターンとして、本実施形態では、親水性領域を疎水性領域とチャネルの側壁とで囲む、図5に示すパターンに類似するパターンが用いられたが、第1の実施形態でも述べたとおり、このようなパターンに限定されるものではない。さらに、本実施形態では、疎水性領域として撥水膜303を用いたが、チップ基板301の表面が構成する親水性領域よりも親水性が低い領域を構成する塗布膜等の他の薄膜が用いられても良い。この構成の場合、液滴の接触角θが低くなったりするが、同様の効果を得ることができる。
【0059】
また、本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、チャネルの底面に、液滴よりも十分に小さい複数の突起からなるアレイ構造をなすマイクロピラーを形成し、これら突起の密度を変えることによって、底面の表面積の増倍率を変化させて親水性を任意に制御することもできる。また、複数の突起からなるアレイ構造は、図6から図8に示したパターンが採られてもよいことは勿論であり、上述と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】チャネルが蓋で気密に閉じられた実施形態の電気泳動チップを示す模式図であって、(a)が平面図、(b)がA−A’断面図、(c)がB−B’断面図である。
【図2】図1のA−A’断面図において、各々溶液の充填度合いを変化させた場合を説明するための図である。
【図3】チャネルの底面に親疎水性の差異を用いて形成されたパターンを示す平面図である。
【図4】チャネルの底面に親疎水性の差異を用いて形成されたパターンの構成例である。
【図5】チャネルの底面に親疎水性の差異を用いて形成されたパターンの構成例である。
【図6】チャネル内のピラー配列の一例を示す図である。
【図7】上記ピラー配列の他の例を示す図である。
【図8】上記ピラー配列の更に他の例を示す図である。
【図9】チャネル内の溶液が気体に開放される溝状のチャネルを有する、実施形態の電気泳動チップを模式的に示した図であって、(a)が平面図、(b)がA−A’断面図、(c)がB−B’断面図である。
【図10】図9におけるB−B’断面図の拡大図である。
【図11】液滴の高さh、液滴の接触角θ及び液滴の幅2Lの関係を説明するために液滴を示す断面図である。
【図12】2段堀り構造のチャネルを有する電気泳動チップの構成を模式的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0061】
301 チップ基板
302 蓋
303 撥水膜
304 チャネル
305 リザーバ
306 リザーバ
401 液滴
501 側壁
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質等の試料を電気泳動によってチャネル内で分離した後、処理を行って試料を検出するために用いる電気泳動チップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非特許文献1に記載の通り、チャネルの上面側を覆う蓋が剥離可能な構造としたマイクロ流体チップを用いて、まず、蓋でチャネルを気密に閉じた状態で試料溶液に含まれるタンパク質等の溶質をキャピラリー電気泳動によってチャネル内で分離する。続いて、蓋を剥がした状態でタンパク質等の溶質のイオン化を促進するマトリックスと呼ばれるイオン化促進剤を添加し、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析装置(MALDI-MS)を用いて、マイクロ流体チップ上のチャネルに沿ってレーザーを走査して溶質をイオン化し、質量分析して検出するシステムが提案されている。
【0003】
また、非特許文献2〜4、特許文献1、2に記載の通り、マイクロ流体チップの表面に形成された上面開放構造、すなわち、チャネルを覆う蓋構造が無い溝状のチャネルを用いて、同じく試料溶液に含まれるタンパク質等の溶質をキャピラリー電気泳動によってチャネル内で分離して、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析装置を用いて、マイクロ流体チップ上のチャネルに沿ってレーザーを走査して溶質をイオン化し、質量分析して検出するシステムが提案されている。これらのシステムでは、チャネル内で分離された溶質は、分離状態を乱さないように乾燥され、分離乾燥した溶質にマトリックスと呼ばれるイオン化促進剤を溶解した溶液を添加してサンプルと混合した状態のマトリックス結晶を作製した後、質量分析が行われる。
【非特許文献1】M. Fujita et al., J. Chroma. A, vol.1055-1 (2004), pp.41-53.
【非特許文献2】K. Tseng et al., SPIE vol.3606 (1999), pp.137-148.
【非特許文献3】J. Liu et al., Analytical Chemistry vol.73 (2001), pp.2147-2151
【非特許文献4】M. Mok et al., Analyst vol.129 (2004), pp.109-111
【特許文献1】特表2005−517954号公報
【特許文献2】国際公開2005−124332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のシステムにおいて、例えば検出されたタンパク質をペプチドマスフィンガープリンティング法(PMF法)で同定する場合には、例えばチャネル(流路)内で分離したタンパク質の位置を乱さないようにしながら、トリプシンのような消化酵素を含んだ溶液をタンパク質に添加し、消化してペプチドに分解する処理が必要になる。このペプチドを質量分析することによって、元のタンパク質を同定することができる。マトリックス溶液の添加時のような一瞬で終わる操作と異なり、この消化過程では、少なくとも数分間は溶液状態を保持しなければならない。このため、タンパク質の位置を乱さないことは、上述の文献に記載された通常の流路構造では難しい。すなわち、特定の場合には、電気泳動用流路として流路内で液体が連続的につながっている状態を実現し、一方で、特定の場合には各々液滴が混じらないウェルとして作用するような特殊なチャネルが必要である。
【0005】
このようなチャネルとして、理論的には例えば図12に示すように、チップ基板101の深さ方向に段差をなす2段堀り構造の流路102を形成することによって、溶液量が多い場合には流路として作用し、溶液量が少ない場合には更に一段深くなった部分103をウェルとして、各ウェル間で溶液の液滴が混じらないような構造が考えられる。
【0006】
しかしながら、このような流路の構造を現実に作製した場合、マイクロ流体チップでは取り扱う溶液量が少量であるために、重力の影響が少なく、重力よりも親水性や疎水性の作用の方が大きい。したがって、流路における深さだけを大きく形成しても各ウェル間でそれぞれ独立して溶液を安定的に保持することが難しく、ウェルを溶液で満たすことが困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、上述の課題を解決するものであり、特定の条件では流路として作用し、特定の条件ではチャネル内に各々独立に液滴を安定的に保持可能なウェルとして作用するチャネルを実現し、分析システムにおける処理を更に高度化することができる電気泳動チップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するため、本発明に係る第1の電気泳動チップは、試料を溶解した溶液が満たされるチャネルを備え、チャネルが気密に閉じられた状態でチャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って試料をチャネル内で分離し、電気泳動の後、チャネルが気体に開放された状態でチャネルに沿ってレーザーを走査して試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップである。チャネルの底面には、溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、このパターンは、第1の親水性領域をこの第1の親水性領域よりも親水性が低い第2の親水性領域で囲むパターンにされている。
【0009】
また、本発明に係る第2の電気泳動チップは、試料を溶解した溶液が満たされるチャネルを備え、チャネルが気密に閉じられた状態でチャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って試料をチャネル内で分離し、電気泳動の後、チャネルが気体に開放された状態でチャネルに沿ってレーザーを走査して試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップである。チャネルの底面には、溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、このパターンは、第1の親水性領域を、第1の親水性領域よりも親水性が低い第2の親水性領域とチャネルの側壁とで囲むパターンにされている。
【0010】
また、本発明に係る第3の電気泳動チップは、試料を溶解した溶液が満たされるチャネルを備え、チャネルが気密に閉じられた状態でチャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って試料をチャネル内で分離し、電気泳動の後、チャネルが気体に開放された状態でチャネルに沿ってレーザーを走査して試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップである。チャネルの底面には、溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、このパターンは、親水性領域を疎水性領域で囲むパターンにされている。
【0011】
また、本発明に係る第4の電気泳動チップは、試料を溶解した溶液が満たされるチャネルを備え、チャネルが気密に閉じられた状態でチャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って試料をチャネル内で分離し、電気泳動の後、チャネルが気体に開放された状態でチャネルに沿ってレーザーを走査して試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップである。チャネルの底面には、溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、このパターンは、親水性領域を疎水性領域とチャネルの側壁とで囲むパターンにされている。
【0012】
また、本発明に係る第5の電気泳動チップは、試料を溶解した溶液が満たされる溝状のチャネルと、チャネルの底面を構成する基板と、基板に剥離可能に設けられチャネルの側壁を構成する枠部材と、を備え、チャネル内の溶液が気体に開放された状態でチャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って試料をチャネル内で分離し、電気泳動の後、基板から枠部材が外された状態でチャネルに沿ってレーザーを走査して試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップである。チャネルの底面には、溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、このパターンは、第1の親水性領域を、第1の親水性領域よりも親水性が低い第2の親水性領域で囲むパターンにされている。また、チャネルの側壁は、底面からの高さが、パターンに相関する所定の高さ以上に形成されている。
【0013】
また、本発明に係る第6の電気泳動チップは、試料を溶解した溶液が満たされる溝状のチャネルと、チャネルの底面を構成する基板と、基板に剥離可能に設けられチャネルの側壁を構成する枠部材と、を備え、チャネル内の溶液が気体に開放された状態でチャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って試料をチャネル内で分離し、電気泳動の後、基板から枠部材が外された状態でチャネルに沿ってレーザーを走査して試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップである。チャネルの底面には、溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、このパターンは、第1の親水性領域を、第1の親水性領域よりも親水性が低い第2の親水性領域とチャネルの側壁とで囲むパターンにされている。また、チャネルの側壁は、底面からの高さが、パターンに相関する所定の高さ以上に形成されている。
【0014】
また、本発明に係る第7の電気泳動チップは、試料を溶解した溶液が満たされる溝状のチャネルと、チャネルの底面を構成する基板と、基板に剥離可能に設けられチャネルの側壁を構成する枠部材と、を備え、チャネル内の溶液が気体に開放された状態でチャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って試料をチャネル内で分離し、電気泳動の後、基板から枠部材が外された状態でチャネルに沿ってレーザーを走査して試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップである。チャネルの底面には、溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、このパターンは、親水性領域を疎水性領域で囲むパターンにされている。また、チャネルの側壁は、底面からの高さが、パターンに相関する所定の高さ以上に形成されている。
【0015】
また、本発明に係る第8の電気泳動チップは、試料を溶解した溶液が満たされる溝状のチャネルと、チャネルの底面を構成する基板と、基板に剥離可能に設けられチャネルの側壁を構成する枠部材と、を備え、チャネル内の溶液が気体に開放された状態でチャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って試料をチャネル内で分離し、電気泳動の後、基板から枠部材が外された状態でチャネルに沿ってレーザーを走査して試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップである。チャネルの底面には、溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、このパターンは、親水性領域を疎水性領域とチャネルの側壁とで囲むパターンにされている。また、チャネルの側壁は、底面からの高さが、パターンに相関する所定の高さ以上に形成されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特定の条件では流路として作用し、特定の条件ではチャネル内に各々独立して液滴を安定的に保持可能なウェルとして作用するチャネルを実現できる。したがって、本発明によれば、例えば、電気泳動で分離して検出されたタンパク質をPMF法で同定するといった、これまで実現不可能であった高度な処理を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0018】
(第1の実施形態)
図1は、チャネルが蓋で気密に閉じられた実施形態の電気泳動チップを示す模式図であって、(a)が平面図、(b)が、(a)におけるA−A’断面図、(c)が、(a)におけるB−B’断面図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の電気泳動チップは、チップ基板301の面上が蓋302で覆われて構成されている。チップ基板301の材料としては、例えばガラスなどの親水性材料が用いられても、一般的なプラスチックのような撥水性材料が用いられても良いが、本実施形態では親水性材料を用いている。親水性材料からなるチップ基板301の面上には、撥水膜303からなるパターンが形成されている。撥水膜303はフッ素樹脂膜等をパターニングして得られ、疎水性領域を構成している。
【0020】
特に本実施形態では、チャネル304の底面に相当するチップ基板301の上面部分に撥水膜303が無い部分が形成されている。撥水膜303が無い部分の表面は、チップ基板301の材料が露出されるので親水性を示す。さらに、電気泳動チップの場合には、電気浸透流を抑制するために、ポリエチレングリコールやポリアクリルアミドの親水性コーティングが、上述したチップ基板301の材料が露出された表面に設けられてもよい。蓋302は、チップ基板301に対して剥離可能にするために、例えばシリコンゴム等の吸着性を有する材料で形成されることが望ましい。これにより、チャネル304から液漏れすることなく、電気泳動等を行うことができる。
【0021】
図1(c)に示すように、チャネル304は、チップ基板301の面に対向する、蓋302の下面に溝状に加工することによって形成されている。本実施形態の電気泳動チップが等電点電気泳動を行うチップであるとすれば、チャネル304は、リザーバ305とリザーバ306との間を一直線状に結ぶように形成されている。このチャネル304内に、アンフォライトを含み、分離するサンプルとしてのタンパク質やペプチドが混合されたサンプル溶液を充填する。また、リザーバ305、306には、酸性またはアルカリ性の電極液を充填し、酸側を正極、アルカリ側を負極としてチャネル304に沿って電圧を印加する。この電圧の印加によって、チャネル304内に水素イオン濃度勾配が形成される。そして、チャネル304内に広がっているタンパク質やペプチドは、そのタンパク質やペプチド特有の等電点と一致する水素イオン濃度の、チャネルの位置に、チャネル長や印加電圧値にも因るが、数分程度でフォーカスする。
【0022】
このような等電点電気泳動を行う場合、図1に示した電気泳動チップであれば、チャネル304内をサンプル液で満たすことができる。一方、液量を少なくすることで、疎水性のシリコンゴムからなる蓋302におけるチャネルの側壁と、パターニングされた撥水膜303とで囲まれた親水性領域に、各々独立した液滴を形成することもできる。
【0023】
以下、本実施形態の電気泳動チップの使用方法について、図2を参照して説明する。図2は、図1(a)におけるA−A’断面において、チャネル内への溶液の充填度合いを変化させた場合を、(i)、(ii)、(iii)にそれぞれ分けて示している。
【0024】
チャネルへの溶液の充填度合いが十分に少ない(i)の場合、親水性領域において液滴がそれぞれ形成される。これらの液滴の間には疎水性領域が存在し、液滴が、この疎水性領域で囲まれた親水性領域に引っ張られるため、これらの領域で液滴間を分断する力が働く。このため、溶液量が十分に少ない場合には、疎水性領域で各々分断され、隣り合う液滴が混じることなく独立した液滴として存在することができる。すなわち、親水性領域に各々混じることなく独立して液滴が形成される。したがって、疎水性のシリコンゴムからなる蓋302におけるチャネルの側壁と、パターニングされた撥水膜303とで囲まれた親水性領域は、溶液を液滴として保持するウェルとして作用する。
【0025】
加えて、実施形態の電気泳動チップでは、重力よりも強い親水性や疎水性の作用を利用しているため、安定して液滴を保持することができる。また、溶液をウェルに充填するという操作も、チップ基板のほぼ平面の上に自然に形成される液滴を利用するため、容易に行うことができる。
【0026】
チャネルへの溶液の充填量を更に増やした(ii)の場合には、液滴は撥水膜上まで広がり、更に大きな液滴を形成する。この場合には、親水性領域が液滴の中心付近に存在するため、液滴の位置がここで固定され、単に撥水膜上にある場合と比較して、液滴が安定して静止している。もしも、疎水性のシリコンゴムからなる蓋302におけるチャネルの側壁と、パターニングされた撥水膜303とで親水性領域を囲む構成になっていない場合には、独立して液滴が形成されなかったり、液滴の位置が安定しなかったりする。
(iii)の状態から溶液を更に充填していった(iii)の場合には、隣接する液滴が互いに接触して一体に連結し、液滴が蓋の下面にも接触するようになり、チャネル304内を溶液が満たしていく。この状態で、完全にチャネル304内を溶液が満たした状態で電気泳動が可能になる。
【0027】
以上説明したように本実施形態によれば、チャネルの底面に、親疎水性の違いを用いて形成されたパターンであって、そのパターンが、親水性領域を疎水性領域とチャネルの側壁とで囲むように形成にされた構成が採られている。この構成によって、液量が多い条件では流路として作用し、液量が少ない条件ではチャネル内に各々独立に液滴を保持可能なウェルとして作用するチャネルを実現できる。したがって、本実施形態の電気泳動チップによれば、上述の例えば分離して検出されたタンパク質をペプチドマスフィンガープリンティング法(PMF法)で同定するといった、これまで実現不可能であった高度な処理を実現することができる。
【0028】
なお、本実施形態では、チャネルの底面のパターンとして、図3に示すように親水性領域を疎水性領域とチャネル304の側壁501とで囲むパターンが用いられたが、図4に示すように親水性領域を疎水性領域のみで囲むパターンが用いられても良い。このパターンの場合には、チャネルの側壁501の親疎水性に拘わらずにウェルを形成することが可能になる。
【0029】
また、チャネルの底面に形成されるパターンとしては、チャネルの長手方向に沿って複数のウェルが配列されてなるウェル列が1列にされた構成に限定されるものではなく、例えば図5に示すような2列のウェル列からなるパターンであっても良い。このような2列のウェル列を有する構成の場合には、例えば、一方のウェル列(図中の上側のウェル列)でタンパク質の親イオンを検出し、このタンパク質の消化物を、他方のウェル列(図中の下側のウェル列)で検出することによって、1回の分離でタンパク質の検出から同定までを行うことができる。
【0030】
さらに、本実施形態では、疎水性領域を構成する撥水膜303が用いられたが、チップ基板301の表面が構成する親水性が比較的高い領域(第1の親水性領域)よりも親水性が低い領域(第2の親水性領域)を構成する塗布膜等の他の薄膜が用いられても良い。この構成の場合、液滴の接触角θが低くなったりするが、同様の効果を得ることができる。また、その場合にも同様に、図4や図5に示したパターンを採用することができる。
【0031】
さらに、チャネルの底面に、液滴よりも十分に小さい複数の突起からなるアレイ構造を形成し、このアレイ構造の密度を変えることによって、底面の表面積の増倍率を変化させて親水性を任意に制御することもできる。液滴よりも十分に小さい複数の突起からなるアレイ構造としては、およそ50ミクロン以下のマイクロピラーの配列や、サンドブラスト等の加工によって形成することが可能な砂目状に荒らされた表面を用いることができる。このアレイ構造によれば、材質特有の親疎水性を利用することに伴う、固有の物質定数に制限されることなく、パターンの設定の自由度を向上することができる。
【0032】
特に半導体微細加工技術を用いて形成されるマイクロピラーであれば、ピラー形状やピラー配列を自由に設定できるため、チャネル内に上述の各領域を自由に配置できる。また、ピラー形状やピラー配列を工夫すれば、溶液が移動し易い方向や移動し難い方向を自由にチャネルの底面に形成することが可能であるため、溶液の乾燥と共にある特定の位置に液滴が収束していくような濃縮効果を併せ持たせることができる。
【0033】
一個一個のピラーは望ましくは考慮すべき液滴サイズよりも十分に小さく、できれば液滴サイズの10分の1以下に小さく形成されるのが好ましい。例えば10ミクロン単位程度で十分に液滴ができないような流路を形成するためには、ミクロンオーダーの柱状構造を形成する必要がある。平坦部分の接触角θが60度未満のチップ基板の表面積を、このマイクロピラーを形成することで2倍以上に増倍した場合、ウェンゼンルの式から予測される通り、ピラーが形成された領域は超親水性を示し、液滴を形成せずにどこまでも広がる状態になる。したがって、この領域の表面は、本来、親水性であることが望ましく、親水性の表面である場合には表面積の増倍効果によって極めて強い親水性や超親水性を示すことになる。また、ピラー配列に密度が異なるように粗密を設定することで、例えば、疎な部分で溶液が分離して液滴を形成し、密な部分に濃縮していくような作用を付加することができる。
【0034】
ピラー配列の例として、チャネルの底面に形成されたピラー配列を電気泳動チップの上面から写した走査電子顕微鏡写真を、図6から図8に示す。図6に示す構成例の場合、チャネル304内に示されている白い点の一個一個が各々ピラー801の最上面を示しており、ピラー配列に密度の差異、つまり粗密が形成されている。ピラー配列が疎な部分では液滴が分離して切れる。一方、図7に示す構成例の場合、ピラー配列に密な部分が形成されている。溶液が乾燥する際には、この密な部分に液滴が集まってきて乾燥するため、溶質もこの部分に濃縮される。
【0035】
また、図6に示す構成と図7に示す構成の各効果を併せ持つものが、図8に示す構成例である。この構成では、溶液が乾燥してきて液滴が形成される場合、ピラー配列が疎な部分で液滴が分離されて切れる。一方、分離された液滴は密な部分に集まって乾燥していき、密な部分に溶質が析出する。すなわち、ピラー配列が疎な部分は親水性が低い領域(第2の親水性領域)に相当し、ピラー配列の密な部分は親水性が高い領域(第1の親水性領域)に相当している。
【0036】
本実施形態によれば、チャネルの底面に、親水性が比較的高い領域を親水性が比較的低い領域で囲むパターンを形成することによって、液量が多い条件では流路として作用し、液量が少ない条件ではチャネル内に各々独立に液滴を安定的に保持可能なウェルとして作用するチャネルを実現することができる。
【0037】
(第2の実施形態)
図9は、チャネル内の溶液の上面が気体に接する開放構造を採用した溝状のチャネルを備える電気泳動チップを示す模式図である。図9において、(a)が平面図、(b)がA−A’断面図、(c)がB−B’断面図である。
【0038】
本実施形態の電気泳動チップも第1の実施形態と同様に、チップ基板301上に蓋302が被せられて構成されている。チップ基板301の材料としては、例えばガラスなどの親水性材料であっても、一般的なプラスチックのような撥水性材料であっても良いが、本実施形態では親水性材料を用いている。親水性材料からなるチップ基板301上には、撥水膜303からなるパターンが形成されている。疎水性領域を構成する撥水膜303はフッ素樹脂膜等をパターニングして得られる。
【0039】
特に本実施形態では、チャネル304の底面に相当するチップ基板301の上面部分に、撥水膜303が無い部分が形成されている。撥水膜303が無い部分の表面は、チップ基板301の材料が露出しているので親水性を示す。さらに、電気泳動チップの場合には、電気浸透流を抑制するために、ポリエチレングリコールやポリアクリルアミドの親水性コーティングが、上述のチップ基板301の材料が露出された表面に設けられてもよい。あるいは、チップ基板として、フッ素樹脂やアクリル樹脂製の基板を用いて、この基板上にポリアクリルアミドコーティングを施し、パターニングする構成が採られてもよい。
【0040】
蓋302は、チップ基板301から剥離可能にするために、例えばシリコンゴムなどのチップ基板301に対して吸着性を有する材料で形成されることが望ましい。これにより、チャネル304から液漏れすることなく、電気泳動等を行うことができる。チャネル304は、例えば蓋302を溝状に厚み方向に貫通することによって形成されている。すなわち、蓋302は、チャネル304の側壁を構成する枠部材として機能している。そして、チャネル304は、本実施形態の電気泳動チップが等電点電気泳動を行うチップであるとすれば、リザーバ305とリザーバ306との間を一直線状に結ぶように形成される。但し、各リザーバ305、306内の溶液とチャネル304内の溶液とが混合するのを防ぐ場合には、チャネル304とリザーバ305,306との間に、必要に応じて図示するようなボトルネック311、312、あるいは塩橋が設けられてもよい。
【0041】
本実施形態の電気泳動チップでは、少量の液体を取り扱うので、近似的に重力の影響を無視できる。この場合、図11に示すように、液滴202の頂点Pからチャネルの底面201までの液滴202の高さhは、液滴202の縁の表面(厳密には表面の接線203)とチャネルの底面201とがなす、液滴202の表面と空気との境界における液滴202の接触角をθ、チャネルの底面201に平行な液滴202の幅を2Lとした場合、図11に示すように、h=L・tan(θ/2)によって算出される。そして、各々隣り合う液滴が混じり合わないように液滴が最大に形成された状態において、液滴の頂点を通りチャネルの底面に垂直な、液滴の断面を考えたとき、液滴の表面が、チャネルの底面と液滴の頂点とをほぼ円弧状に結んでいるものと近似することができる。
【0042】
したがって、実施形態におけるチャネル304内に少量の溶液を入れた場合には、図9(b)に示すように、チャネル304内には液滴401が形成される。この液滴401がA−A’断面に平行な方向において隣り合う液滴と接触する直前の限界のサイズ、つまり隣り合う液滴が混じり合わないように形成された液滴が最大となる状態では、図11に示した液滴202と比較して、液滴401の頂点からチャネルの底面までの液滴の高さhA、チャネルの底面に平行な方向の液滴401の幅2LA、液滴401の縁の表面とチャネルの底面とがなす液滴401の接触角θAとした場合に、hA=LA・tan(θA/2)の式が成り立つ。ここでは、チャネルの底面が、チップ基板301上に形成された撥水膜303の表面を指している。
【0043】
しかしながら、この液滴の高さhAが、チャネルの側壁の高さHよりも大きい場合には、隣り合う液滴と接触して連結する前に液滴がチャネルの上面から溢れ出てしまう。したがって、チャネルの上面から溶液が溢れることなく、少なくともA−A’断面に平行な方向おいて隣り合う液滴同士が接触して連結し、電気泳動可能な溶液で満たされたチャネルを形成するためには、H>hAの条件を満たす必要がある。すなわち、チャネルの側壁は、H>LA・tan(θA/2)を満たしている必要がある。なお、チャネルの側壁における所定の高さHは、チャネルの底面に形成されるパターンの構成に相関しており、パターンの構成に応じて設定される。
【0044】
同様に、チャネルのB−B’断面に平行な方向においても均一に溶液が満たすためには、図10に示した拡大図において、液滴の高さhB、液滴の幅2LB、液滴の接触角θBとした場合に、hB=LB・tan(θB/2)の式が成り立つので、H>hBの条件を満たす必要がある。すなわち、チャネルの側壁は、H>LB・tan(θB/2)を満たす必要がある。
【0045】
ここで、通常、異方性が無い塗布膜で撥水膜303が形成されている場合には、液滴の接触角がθA=θBとなるが、上述の異方的な配列を作製可能なマイクロピラーを使用した場合には必ずしも各接触角θが一致しない。また、通常得られる撥水膜においては、大抵の場合、その接触角θが110度を超えることは無い。tan(110/2)≒1.43<1.5であるため、大抵の場合、チャネルの側壁は、H>1.5・Lを満たしていれば十分である。
【0046】
以上説明したように本実施形態によれば、チャネルの底面にパターンが形成されると共に、このパターンに応じて決まる、所定の高さH以上の側壁を有するチャネルが構成されている。すなわち、本実施形態の電気泳動チップでは、チャネルの上面が蓋で密閉された第1の実施形態と異なり、チャネルが気体に開放されているので、チャネルが所定の高さH以上の側壁を有しているという条件が必要とされている。
【0047】
この構成によって、特定の条件では流路として作用し、特定の条件ではチャネル内に各々独立に液滴を保持可能なウェルとして作用するチャネルを実現することができる。したがって、本実施形態の電気泳動チップによれば、例えば分離して検出されたタンパク質をPMF法で同定するような、これまで実現不可能であった高度な処理を実現することが可能になる。
【0048】
以下、この電気泳動チップの使用方法の一例について説明する。
【0049】
チャネル304内に、アンフォライトを含み、分離するサンプルとしてのタンパク質やペプチドを混合したサンプル溶液を充填する。また、リザーバ305、306には、酸性またはアルカリ性の電極液を充填し、酸側を正極、アルカリ側を負極として電圧を印加する。ボトルネック311、312は、この電極液とサンプル液とが不用意に混合しすぎないようにする役目を果たす。電圧を印加することで、チャネル304内に水素イオン濃度勾配が形成され、チャネル304内に広がっているタンパク質やペプチドはそのタンパク質やペプチド特有の等電点と一致する水素イオン濃度のチャネル位置に、チャネル長や印加電圧値にも因るが、数分程度でフォーカスする。このようにタンパク質やペプチドを各々その等電点に従って、チャネル304内の特定箇所にフォーカスさせて分離させた後、その分離状態を固定化するために、例えば電気泳動チップごとに急速冷却し、チャネル内のサンプル液を分離状態に保ったままで凍結固定する。
【0050】
その後、電気泳動チップの周囲を真空排気することによって、分離したサンプル液を凍結乾燥することができる。この状態でゴム製の蓋302を取り外しても良いし、あるいは蓋302を付けたままでも良いが、2列のウェル列における一方のウェル列のウェルのみにマトリックス溶液を滴下する。なお、この場合の滴下量は十分に少なくし、ウェルに形成される液滴が隣接する液滴と互いに接触しないようにする。これにより、ウェルのサイズの分解能では、分離状態が保持されたままで分離したタンパク質にマトリックスを添加できる。なお、マトリックス溶液量が不足する場合には、ウェルを一度乾燥させた後、再度、マトリックス溶液を添加する等、複数回にわたって溶液の添加を行えばよい。また、凍結乾燥したタンパク質とマトリックス溶液とが良好に混合しないようであれば、マトリックス溶液の溶媒を乾燥し難いものを使用して、乾燥するまでの混合時間を長く確保したり、チップ周囲の溶媒蒸気圧を高めて溶媒の乾燥速度を遅くして混合時間を長く確保したりすればよい。
【0051】
マトリックス溶液の乾燥後、蓋302を外した状態でチップ基板301をマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析装置(MALDI-MS)に設置する。そして、図9(a)に示すように、チャネルに沿って複数のウェルが配列されてなる2列のウェル列における一方のウェル列(図中の上側のウェル列)のウェルごとにレーザーを走査してタンパク質やペプチドを検出する。これにより、まず、消化前のタンパク質やペプチドの分子量の情報を得ることができる。また、内部標準等をサンプル液に混合しておけば、その等電点に基づいてサンプルの等電点の情報も得ることができる。
【0052】
チャネル304は、リザーバ305とリザーバ306との間を一直線状に結んでいるため、一方のウェル列のウェルにフォーカスしたタンパク質やペプチドは、同様に、他方のウェル列(図中の下側のウェル列)のウェルにもフォーカスしている。この性質を利用して、2つのウェル列の一方のウェル列で検出したタンパク質やペプチドの消化物を、他方のウェル列に形成、質量分析して、検出したタンパク質やペプチドの同定を行うことができる。
【0053】
すなわち、他方のウェル列のウェルにトリプシン溶液を添加し、ウェル内のタンパク質やペプチドを消化する。この消化には少なくとも5分程度の時間がかかるため、少量の溶液の乾燥を抑えるために、電気泳動チップ周辺を、溶媒の主たる揮発性成分の蒸気で高湿度にし、溶媒湿度を高く維持する。このとき、トリプシンをリンクさせたビーズを用いることで、自己消化が無くなり、効率が高まり、トリプシン消化物によるコンタミネーションも抑制することができる。
【0054】
なお、ここでは消化酵素としてトリプシンを挙げたが、他の消化酵素であっても良い。また、本実施形態では、2列のウェル列を有する構成を挙げたが、2列に限定されるものでなく、列数を3列、4列等に増加して、さまざまな種類の消化酵素で処理すればそれだけ質量分析した場合の情報量が多くなり、同定率が高められる。
【0055】
次に、消化物に上述の方法でマトリックスを添加して、質量分析する。PMF法と同様に、この消化物の質量データからデータベース検索によって消化前のタンパク質やペプチドを同定することができる。この際、先に分かっている消化前のタンパク質やペプチドの分子量の情報や等電点の情報を付加すれば、同定率を向上することができる。
【0056】
なお、本実施形態では、PMF法と類似の同定方法について説明したが、チャネル内で分離したタンパク質やペプチドを、ウェルで取り扱うように各々混合することなく独立に扱えるので、例えばエドマン分解やC末端解析のような方法を採ることもできる。また、同定だけではなく、抗体との反応を調べたり等のさまざまな応用が広がる。本発明によれば、従来は実現できなかった、このような全く異なる機能を電気泳動チップに確実に組み込むことができる。
【0057】
以上説明したように本実施形態は、チャネルの底面に、親疎水性の違いを用いて形成されたパターンであって、そのパターンが、親水性領域を疎水性領域とチャネルの側壁とで囲むように形成される構成が採られている。この構成によって、液量が多い条件では流路として作用し、液量が少ない条件ではチャネル内に各々独立に液滴を保持可能なウェルとして作用するチャネルを実現することができる。
【0058】
したがって、本実施形態の電気泳動チップによれば、上述したように例えば、分離されて検出されたタンパク質をPMF法で同定するといった、これまで実現不可能であった高度な処理を実現することができる。なお、チャネルの底面のパターンとして、本実施形態では、親水性領域を疎水性領域とチャネルの側壁とで囲む、図5に示すパターンに類似するパターンが用いられたが、第1の実施形態でも述べたとおり、このようなパターンに限定されるものではない。さらに、本実施形態では、疎水性領域として撥水膜303を用いたが、チップ基板301の表面が構成する親水性領域よりも親水性が低い領域を構成する塗布膜等の他の薄膜が用いられても良い。この構成の場合、液滴の接触角θが低くなったりするが、同様の効果を得ることができる。
【0059】
また、本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、チャネルの底面に、液滴よりも十分に小さい複数の突起からなるアレイ構造をなすマイクロピラーを形成し、これら突起の密度を変えることによって、底面の表面積の増倍率を変化させて親水性を任意に制御することもできる。また、複数の突起からなるアレイ構造は、図6から図8に示したパターンが採られてもよいことは勿論であり、上述と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】チャネルが蓋で気密に閉じられた実施形態の電気泳動チップを示す模式図であって、(a)が平面図、(b)がA−A’断面図、(c)がB−B’断面図である。
【図2】図1のA−A’断面図において、各々溶液の充填度合いを変化させた場合を説明するための図である。
【図3】チャネルの底面に親疎水性の差異を用いて形成されたパターンを示す平面図である。
【図4】チャネルの底面に親疎水性の差異を用いて形成されたパターンの構成例である。
【図5】チャネルの底面に親疎水性の差異を用いて形成されたパターンの構成例である。
【図6】チャネル内のピラー配列の一例を示す図である。
【図7】上記ピラー配列の他の例を示す図である。
【図8】上記ピラー配列の更に他の例を示す図である。
【図9】チャネル内の溶液が気体に開放される溝状のチャネルを有する、実施形態の電気泳動チップを模式的に示した図であって、(a)が平面図、(b)がA−A’断面図、(c)がB−B’断面図である。
【図10】図9におけるB−B’断面図の拡大図である。
【図11】液滴の高さh、液滴の接触角θ及び液滴の幅2Lの関係を説明するために液滴を示す断面図である。
【図12】2段堀り構造のチャネルを有する電気泳動チップの構成を模式的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0061】
301 チップ基板
302 蓋
303 撥水膜
304 チャネル
305 リザーバ
306 リザーバ
401 液滴
501 側壁
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を溶解した溶液が満たされるチャネルを備え、前記チャネルが気密に閉じられた状態で前記チャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って前記試料を前記チャネル内で分離し、該電気泳動の後、前記チャネルが気体に開放された状態で前記チャネルに沿ってレーザーを走査して前記試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップであって、
前記チャネルの底面には、前記溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、該パターンは、第1の親水性領域を該第1の親水性領域よりも親水性が低い第2の親水性領域で囲むパターンにされていることを特徴とする電気泳動チップ。
【請求項2】
試料を溶解した溶液が満たされるチャネルを備え、前記チャネルが気密に閉じられた状態で前記チャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って前記試料を前記チャネル内で分離し、該電気泳動の後、前記チャネルが気体に開放された状態で前記チャネルに沿ってレーザーを走査して前記試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップであって、
前記チャネルの底面には、前記溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、該パターンは、第1の親水性領域を、該第1の親水性領域よりも親水性が低い第2の親水性領域と前記チャネルの側壁とで囲むパターンにされていることを特徴とする電気泳動チップ。
【請求項3】
試料を溶解した溶液が満たされるチャネルを備え、前記チャネルが気密に閉じられた状態で前記チャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って前記試料を前記チャネル内で分離し、該電気泳動の後、前記チャネルが気体に開放された状態で前記チャネルに沿ってレーザーを走査して前記試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップであって、
前記チャネルの底面には、前記溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、該パターンは、親水性領域を疎水性領域で囲むパターンにされていることを特徴とする電気泳動チップ。
【請求項4】
試料を溶解した溶液が満たされるチャネルを備え、前記チャネルが気密に閉じられた状態で前記チャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って前記試料を前記チャネル内で分離し、該電気泳動の後、前記チャネルが気体に開放された状態で前記チャネルに沿ってレーザーを走査して前記試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップであって、
前記チャネルの底面には、前記溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、該パターンは、親水性領域を疎水性領域と前記チャネルの側壁とで囲むパターンにされていることを特徴とする電気泳動チップ。
【請求項5】
試料を溶解した溶液が満たされる溝状のチャネルと、前記チャネルの底面を構成する基板と、前記基板に剥離可能に設けられ前記チャネルの側壁を構成する枠部材と、を備え、前記チャネル内の前記溶液が気体に開放された状態で前記チャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って前記試料を前記チャネル内で分離し、該電気泳動の後、前記基板から前記枠部材が外された状態で前記チャネルに沿ってレーザーを走査して前記試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップであって、
前記チャネルの前記底面には、前記溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、該パターンは、第1の親水性領域を、該第1の親水性領域よりも親水性が低い第2の親水性領域で囲むパターンにされ、
前記チャネルの前記側壁は、前記底面からの高さが、前記パターンに相関する所定の高さ以上に形成されている、ことを特徴とする電気泳動チップ。
【請求項6】
試料を溶解した溶液が満たされる溝状のチャネルと、前記チャネルの底面を構成する基板と、前記基板に剥離可能に設けられ前記チャネルの側壁を構成する枠部材と、を備え、前記チャネル内の前記溶液が気体に開放された状態で前記チャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って前記試料を前記チャネル内で分離し、該電気泳動の後、前記基板から前記枠部材が外された状態で前記チャネルに沿ってレーザーを走査して前記試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップであって、
前記チャネルの前記底面には、前記溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、該パターンは、第1の親水性領域を、該第1の親水性領域よりも親水性が低い第2の親水性領域と前記チャネルの前記側壁とで囲むパターンにされ、
前記チャネルの前記側壁は、前記底面からの高さが、前記パターンに相関する所定の高さ以上に形成されている、ことを特徴とする電気泳動チップ。
【請求項7】
試料を溶解した溶液が満たされる溝状のチャネルと、前記チャネルの底面を構成する基板と、前記基板に剥離可能に設けられ前記チャネルの側壁を構成する枠部材と、を備え、前記チャネル内の前記溶液が気体に開放された状態で前記チャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って前記試料を前記チャネル内で分離し、該電気泳動の後、前記基板から前記枠部材が外された状態で前記チャネルに沿ってレーザーを走査して前記試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップであって、
前記チャネルの前記底面には、前記溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、該パターンは、親水性領域を疎水性領域で囲むパターンにされ、
前記チャネルの前記側壁は、前記底面からの高さが、前記パターンに相関する所定の高さ以上に形成されている、ことを特徴とする電気泳動チップ。
【請求項8】
試料を溶解した溶液が満たされる溝状のチャネルと、前記チャネルの底面を構成する基板と、前記基板に剥離可能に設けられ前記チャネルの側壁を構成する枠部材と、を備え、前記チャネル内の前記溶液が気体に開放された状態で前記チャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って前記試料を前記チャネル内で分離し、該電気泳動の後、前記基板から前記枠部材が外された状態で前記チャネルに沿ってレーザーを走査して前記試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップであって、
前記チャネルの前記底面には、前記溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、該パターンは、親水性領域を疎水性領域と前記チャネルの前記側壁とで囲むパターンにされ、
前記チャネルの前記側壁は、前記底面からの高さが、前記パターンに相関する所定の高さ以上に形成されている、ことを特徴とする電気泳動チップ。
【請求項9】
前記チャネルの前記側壁における前記所定の高さをHとしたとき、
前記パターンに保持された液滴が隣り合う前記液滴と互いに接触しないように前記液滴が最大に形成された状態において、前記チャネルの前記底面に平行な方向の前記液滴の幅を2L、前記液滴の縁の表面と前記チャネルの前記底面とがなす前記液滴の接触角をθとすれば、
H>L・tan(θ/2)
を満たしている、請求項5ないし8のいずれか1項に記載の電気泳動チップ。
【請求項10】
前記パターンにおける前記親水性の差異は、前記チャネルの前記底面に形成された複数の突起がなす密度の差異によって構成されている、請求項1、2、5、6、9のいずれか1項に記載の電気泳動チップ。
【請求項1】
試料を溶解した溶液が満たされるチャネルを備え、前記チャネルが気密に閉じられた状態で前記チャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って前記試料を前記チャネル内で分離し、該電気泳動の後、前記チャネルが気体に開放された状態で前記チャネルに沿ってレーザーを走査して前記試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップであって、
前記チャネルの底面には、前記溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、該パターンは、第1の親水性領域を該第1の親水性領域よりも親水性が低い第2の親水性領域で囲むパターンにされていることを特徴とする電気泳動チップ。
【請求項2】
試料を溶解した溶液が満たされるチャネルを備え、前記チャネルが気密に閉じられた状態で前記チャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って前記試料を前記チャネル内で分離し、該電気泳動の後、前記チャネルが気体に開放された状態で前記チャネルに沿ってレーザーを走査して前記試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップであって、
前記チャネルの底面には、前記溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、該パターンは、第1の親水性領域を、該第1の親水性領域よりも親水性が低い第2の親水性領域と前記チャネルの側壁とで囲むパターンにされていることを特徴とする電気泳動チップ。
【請求項3】
試料を溶解した溶液が満たされるチャネルを備え、前記チャネルが気密に閉じられた状態で前記チャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って前記試料を前記チャネル内で分離し、該電気泳動の後、前記チャネルが気体に開放された状態で前記チャネルに沿ってレーザーを走査して前記試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップであって、
前記チャネルの底面には、前記溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、該パターンは、親水性領域を疎水性領域で囲むパターンにされていることを特徴とする電気泳動チップ。
【請求項4】
試料を溶解した溶液が満たされるチャネルを備え、前記チャネルが気密に閉じられた状態で前記チャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って前記試料を前記チャネル内で分離し、該電気泳動の後、前記チャネルが気体に開放された状態で前記チャネルに沿ってレーザーを走査して前記試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップであって、
前記チャネルの底面には、前記溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、該パターンは、親水性領域を疎水性領域と前記チャネルの側壁とで囲むパターンにされていることを特徴とする電気泳動チップ。
【請求項5】
試料を溶解した溶液が満たされる溝状のチャネルと、前記チャネルの底面を構成する基板と、前記基板に剥離可能に設けられ前記チャネルの側壁を構成する枠部材と、を備え、前記チャネル内の前記溶液が気体に開放された状態で前記チャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って前記試料を前記チャネル内で分離し、該電気泳動の後、前記基板から前記枠部材が外された状態で前記チャネルに沿ってレーザーを走査して前記試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップであって、
前記チャネルの前記底面には、前記溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、該パターンは、第1の親水性領域を、該第1の親水性領域よりも親水性が低い第2の親水性領域で囲むパターンにされ、
前記チャネルの前記側壁は、前記底面からの高さが、前記パターンに相関する所定の高さ以上に形成されている、ことを特徴とする電気泳動チップ。
【請求項6】
試料を溶解した溶液が満たされる溝状のチャネルと、前記チャネルの底面を構成する基板と、前記基板に剥離可能に設けられ前記チャネルの側壁を構成する枠部材と、を備え、前記チャネル内の前記溶液が気体に開放された状態で前記チャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って前記試料を前記チャネル内で分離し、該電気泳動の後、前記基板から前記枠部材が外された状態で前記チャネルに沿ってレーザーを走査して前記試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップであって、
前記チャネルの前記底面には、前記溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、該パターンは、第1の親水性領域を、該第1の親水性領域よりも親水性が低い第2の親水性領域と前記チャネルの前記側壁とで囲むパターンにされ、
前記チャネルの前記側壁は、前記底面からの高さが、前記パターンに相関する所定の高さ以上に形成されている、ことを特徴とする電気泳動チップ。
【請求項7】
試料を溶解した溶液が満たされる溝状のチャネルと、前記チャネルの底面を構成する基板と、前記基板に剥離可能に設けられ前記チャネルの側壁を構成する枠部材と、を備え、前記チャネル内の前記溶液が気体に開放された状態で前記チャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って前記試料を前記チャネル内で分離し、該電気泳動の後、前記基板から前記枠部材が外された状態で前記チャネルに沿ってレーザーを走査して前記試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップであって、
前記チャネルの前記底面には、前記溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、該パターンは、親水性領域を疎水性領域で囲むパターンにされ、
前記チャネルの前記側壁は、前記底面からの高さが、前記パターンに相関する所定の高さ以上に形成されている、ことを特徴とする電気泳動チップ。
【請求項8】
試料を溶解した溶液が満たされる溝状のチャネルと、前記チャネルの底面を構成する基板と、前記基板に剥離可能に設けられ前記チャネルの側壁を構成する枠部材と、を備え、前記チャネル内の前記溶液が気体に開放された状態で前記チャネルに沿って電圧を印加して電気泳動を行って前記試料を前記チャネル内で分離し、該電気泳動の後、前記基板から前記枠部材が外された状態で前記チャネルに沿ってレーザーを走査して前記試料の質量分析を行うために用いる電気泳動チップであって、
前記チャネルの前記底面には、前記溶液を液滴として保持するためのパターンが形成され、該パターンは、親水性領域を疎水性領域と前記チャネルの前記側壁とで囲むパターンにされ、
前記チャネルの前記側壁は、前記底面からの高さが、前記パターンに相関する所定の高さ以上に形成されている、ことを特徴とする電気泳動チップ。
【請求項9】
前記チャネルの前記側壁における前記所定の高さをHとしたとき、
前記パターンに保持された液滴が隣り合う前記液滴と互いに接触しないように前記液滴が最大に形成された状態において、前記チャネルの前記底面に平行な方向の前記液滴の幅を2L、前記液滴の縁の表面と前記チャネルの前記底面とがなす前記液滴の接触角をθとすれば、
H>L・tan(θ/2)
を満たしている、請求項5ないし8のいずれか1項に記載の電気泳動チップ。
【請求項10】
前記パターンにおける前記親水性の差異は、前記チャネルの前記底面に形成された複数の突起がなす密度の差異によって構成されている、請求項1、2、5、6、9のいずれか1項に記載の電気泳動チップ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
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【図4】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−162549(P2009−162549A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340363(P2007−340363)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】
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