説明

電気泳動表示パネルおよび電気泳動表示装置

【課題】絶縁層を備えていても、表示特性に優れた電気泳動表示パネルを提供すること。
【解決手段】電気泳動表示パネル(1)は、スペースを介して対向配置され少なくとも一方が光透過性を有する一対の基板と、一対の基板のうち一方の基板の基板面に形成された1つまたは複数の画素電極(18)と、一対の基板のうち他方の基板の基板面に画素電極(18)に対向して形成された1つまたは複数の共通電極(12)と、一対の基板間に封入された色および極性が異なる2種類の帯電粒子を分散させてなる液状体(15)と、画素電極(18)と液状体(15)との間に配置された絶縁層(4)とを備え、絶縁層(4)の体積固有抵抗は、液状体(15)の体積固有抵抗の100倍以上であり、絶縁層(4)の比誘電率は、液状体(15)の比誘電率の3倍以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子に電界を作用させて可逆的に視認状態を変化させる電気泳動表示パネルおよび電気泳動表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報機器の発達に伴い、表示装置の低消費電力化、薄型化、フレキシブル化などの要求が増している。このような要求に応えた表示装置の1つとして、電気泳動表示装置がある。電気泳動表示装置に備えられる電気泳動表示パネルは、少なくとも一方が透明でスペーサを介して対向配置された2枚の基板と、一方の基板に配置された画素電極と、他方の基板に配置された共通電極と、正電荷または負電荷にそれぞれ帯電するとともに異なる色に着色された荷電粒子が分散媒中に分散され、基板電極間に充填された表示液と、を備える。この電気泳動表示パネルの基板電極間に電界を作用させると、所望の表示を得ることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような電気泳動表示パネルは、一般に、電気泳動表示シートと画素電極とを別々に製作し、接着剤層を介して、電気泳動表示シートと画素電極とを貼り合わせて作製する。電気泳動表示シートと画素電極との間に配置される接着剤層は、電気的には絶縁層として機能する。電気泳動インクを駆動する場合、絶縁層(接着剤層)内で実質的な電圧降下が生じ、電気泳動インクに十分な電圧が印加されないことがあり得る。これに対して、絶縁層(接着剤層)の体積固有抵抗を、電気泳動インクの体積固有抵抗と同程度にまで低下させる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第3612758号明細書
【特許文献2】特開2011−81407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2記載の技術では、電気泳動表示パネルの十分な表示特性が得られない問題がある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、絶縁層を備えていても、表示特性に優れた電気泳動表示パネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電気泳動表示パネルは、スペースを介して対向配置され少なくとも一方が光透過性を有する一対の基板と、前記一対の基板のうち一方の基板の基板面に形成された1つまたは複数の画素電極と、前記一対の基板のうち他方の基板の基板面に前記複数の画素電極に対向して形成された1つまたは複数の共通電極と、前記一対の基板間に封入された色および極性が異なる複数種類の帯電粒子を分散させてなる液状体と、前記画素電極と前記液状体との間に配置された絶縁層と、を備えた電気泳動表示パネルであって、前記絶縁層の体積固有抵抗は、前記液状体の体積固有抵抗の100倍以上であり、前記絶縁層の比誘電率は、前記液状体の比誘電率の3倍以上であることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、抵抗値が高い絶縁層を備えていても、絶縁層の比誘電率を液状体の比誘電率の3倍以上とすれば、電圧印加初期時に十分な電圧が液状体に印加されるため、優れた表示特性を得ることができる。
【0009】
上記電気泳動表示パネルにおいて、前記絶縁層の体積固有抵抗は、1×1012Ωcm以上であり、前記絶縁層の比誘電率は、9以上であることが好ましい。
【0010】
また、上記電気泳動表示パネルにおいて、前記絶縁層は、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリフッ化ビニリデンフィルム、塩化ビニリデンもしくはフッ化ビニリデンを構成単位として含むフィルムまたは塩化ビニリデンもしくはフッ化ビニリデンをポリマーブレンドとして含むフィルムから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
さらに、上記電気泳動表示パネルにおいて、前記絶縁層は、可塑剤を含む材料で構成されていることが好ましい。
【0012】
さらに、上記電気泳動表示パネルにおいて、前記絶縁層は、保護層および粘着剤層の積層体であり、前記画素電極側に前記粘着剤層が配置されていることが好ましい。
【0013】
さらに、上記電気泳動表示パネルにおいて、前記一対の基板の間には、前記スペースを規定する構造体が設けられていることが好ましい。
【0014】
本発明の電気泳動表示装置は、上記電気泳動表示パネルのいずれかを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、絶縁層を備えていても優れた表示特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施の形態に係る電気泳動表示パネルの構成を示す断面模式図である。
【図2】上記電気泳動表示パネルの構成を示す断面模式図である。
【図3】上記電気泳動表示パネルの等価回路図である。
【図4】実施例1に係る印加初期時のインク電圧の結果を示すグラフである。
【図5】実施例1に係る電圧印加後の白反射率、黒反射率およびコントラストの測定結果を示すグラフである。
【図6】実施例1に係る白反射率の測定結果を示すグラフである。
【図7】実施例1に係る黒反射率の測定結果を示すグラフである。
【図8】実施例1に係るコントラストの測定結果を示すグラフである。
【図9】第2の実施の形態に係る電気泳動表示装置の全体構成図である。
【図10】上記電気泳動表示装置の電気的な構成を示す等価回路図である。
【図11】上記電気泳動表示装置における電気泳動表示パネルの等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る電気泳動表示パネルの構成を示す断面模式図であり、図2は、電気泳動表示シートと画素電極側基板とを貼り合わせる前の状態を示している。
【0018】
電気泳動表示パネル1は、電気泳動表示シート2と、電気泳動表示シート2の絶縁層側の面に対して貼り合わせられる画素電極側基板3とを備える。
【0019】
電気泳動表示シート2は、共通電極側基板11と、共通電極側基板11の一方の面に形成された共通電極12と、共通電極側基板11の共通電極形成面に対して、スペーサ13を介して対向配置された保護膜14と、スペーサ13によって共通電極側基板11の共通電極形成面と保護膜14との間に形成された空間に封入された電気泳動表示用液15とを備える。以下では、電気泳動表示パネル1の共通電極側基板11側を表示面(観測面)として説明する。共通電極側基板11は、例えば、ガラスやプラスチックなどで構成される光透過性の基板であり、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカーボネイト(PC)などを用いることができる。共通電極12は、例えば、光透過性の高い透明な材料で構成され、インジウムスズ酸化物(ITO)などの導電性酸化物などを用いることができる。なお、電気泳動表示パネル1として可撓性が求められる場合には、共通電極側基板11としてフィルム状またはシート状の樹脂基板を用いてもよい。
【0020】
電気泳動表示用液15は、正に帯電した黒色粒子15aおよび負に帯電した白色粒子15bと、これら電気泳動粒子(黒色粒子15aおよび白色粒子15b)を分散させる媒質15cとで構成される。電気泳動表示用液15の組成例としては、黒色粒子15aにカーボンブラック内包アクリルコポリマー微粒子、白色粒子15bに有機チタネート処理二酸化チタン粒子、媒質15cにノルマルパラフィンをベースにした粒子分散剤と電荷制御剤が挙げられる。
【0021】
保護膜14と共通電極側基板11との間には、基板間の間隙を規定値に保つためのスペーサ13が設けられており、基板の端面には間隙を封止するための図示しない封止材が設けられている。また、保護膜14には、電気泳動表示シート2と画素電極側基板3とを貼り合わせるための粘着剤層16が塗布されている。保護膜14は、例えば、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリフッ化ビニリデンフィルム、塩化ビニリデンもしくはフッ化ビニリデンを構成単位として含むフィルムまたは塩化ビニリデンもしくはフッ化ビニリデンをポリマーブレンドとして含むフィルムから選ばれる少なくとも1種を用いることができる。なお、電気泳動表示パネル1として可撓性が求められる場合には、保護膜14および粘着剤層16は可塑剤を含む材料(例えば、フタル酸エステルまたはアジピン酸エステル)で構成されていてもよい。
【0022】
画素電極側基板3は、素子基板17と、素子基板17上に形成された画素電極18とを備える。素子基板17は、例えば、ガラスやプラスチックからなる基板である。素子基板17は、特に光透過性の高いものである必要はないが、共通電極側基板11と共に光透過性の高い材料を用いることもできる。なお、特に電気泳動表示パネル1として可撓性が求められる場合には、素子基板17としてフィルム状またはシート状の樹脂基板を用いてもよい。画素電極18は、セグメント駆動あるいはドットマトリクス駆動などに対応した形状および配置に形成されている。これらの駆動回路は、VFDドライバまたはPDPドライバなどの高耐圧ドライバで構成できる。ただし、FETやTFTなどのスイッチング素子を用いて構成することも可能である。
【0023】
画素電極18と共通電極12との間に、相対的に共通電極12の電位が高くなるように電圧が印加された場合、正に帯電した黒色粒子15aはクーロン力によって画素電極18側に引き寄せられるとともに、負に帯電した白色粒子15bはクーロン力によって共通電極12側に引き寄せられる。この結果、表示面側(すなわち、共通電極12側)には白色粒子15bが集まるので、表示部の表示面には白色粒子15bの色(すなわち、白色)が表示される。一方、画素電極18と共通電極12との間に、相対的に画素電極18の電位が高くなるように電圧が印加された場合、負に帯電した白色粒子15bはクーロン力によって画素電極18側に引き寄せられるとともに、正に帯電した黒色粒子15aはクーロン力によって共通電極12側に引き寄せられる。この結果、表示面側には黒色粒子15aが集まるので、表示部の表示面には黒色粒子15aの色(すなわち、黒色)が表示される。なお、白色粒子15b、黒色粒子15aに用いる顔料を、例えば、赤色、緑色、青色などの顔料に変えることによって、赤色、緑色、青色などを表示することができる。
【0024】
電気泳動表示パネル1は、例えば、図2に示すように電気泳動表示シート2と画素電極側基板3をそれぞれ作製した後に、電気泳動表示シート2側の保護膜14に塗布された粘着剤層16を介して、電気泳動表示シート2と画素電極側基板3とを貼り合わせることにより作製される。
【0025】
保護膜14および粘着剤層16は、電気的にどちらも絶縁物であるので、これらを1層の絶縁層4として扱うことができる。図3は、絶縁層4を有する電気泳動表示パネル1の等価回路図である。図3中、R,Cは、絶縁層4側の抵抗および静電容量を示し、R,Cは、電気泳動表示用液15側の抵抗および静電容量を示す。また、ρ,ε,dを、絶縁層4側の体積固有抵抗、比誘電率および厚さとし、ρ,ε,dを、電気泳動表示用液15側の体積固有抵抗、比誘電率および厚さとする。電気泳動表示パネル1の印加電圧V、パネル面積Sとすると、電気泳動表示用液15に印加されるインク電圧Vは次の式(1)で表わされる。Vの導出式の詳細は、川端昭著、「電子材料・部品と計測」、コロナ社、1982年2月15日に詳述されている。
【数1】

【0026】
ここで、本発明者は、絶縁層4を規定するパラメータである体積固有抵抗ρおよび比誘電率εについて、電気泳動表示用液15との関係で最適値を見出した。すなわち、絶縁層4の体積固有抵抗ρが、電気泳動表示用液15の体積固有抵抗ρの100倍以上である場合、絶縁層4の比誘電率εは、電気泳動表示用液15の比誘電率εの3倍以上であることが好ましい。
【0027】
電気泳動表示パネル1において、画素電極18と共通電極12との間に電圧Vが印加された場合、式(1)より電気泳動表示用液15に印加されるインク電圧Vの値は、絶縁層4側の抵抗Rと電気泳動表示用液15側の抵抗Rとの分圧比で決定される。したがって、電気泳動表示パネル1における消費電力の増加を抑制する観点からは、絶縁層4側の抵抗Rは0に近いほど望ましい。しかしながら、絶縁層4の材料によっては、絶縁層4の体積固有抵抗ρが、電気泳動表示用液15の体積固有抵抗ρの100倍以上となる場合がある。本発明によれば、このような体積固有抵抗ρを有する材料であっても、絶縁層4として使用することができるため、絶縁層4として使用できる材料の選択範囲が広がる。例えば、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)単体フィルムを絶縁層4として使用することが可能となり、応用範囲を広げることができる。
【0028】
また、電気泳動表示パネル1の駆動においては、電圧印加初期時の電圧挙動が重要となる。一般的には、電気泳動表示用液15と画素電極18とを仕切る絶縁層4の比誘電率εは、大きいほど望ましいと考えられている。印加初期時のインク電圧Vに着目し、鋭意検討した結果、絶縁層4の比誘電率εを、電気泳動表示用液15の比誘電率εの3倍以上とすると、十分なインク電圧Vが得られ、黒反射率および白反射率の性能が改善されることを見出した。なお、黒反射率とは、電気泳動表示パネル1の表示部の表示面側に黒色粒子15aを集め、黒色表示した際の反射率のことをいう。黒反射率が低いほど、黒色表示としては優れている。また、白反射率とは、電気泳動表示パネル1の表示部の表示面側に白色粒子15bを集め、白色表示した際の反射率のことをいう。白反射率が高いほど、白色表示としては優れている。電気泳動表示パネル1の黒反射率および白反射率の性能が改善されることにより、電気泳動表示パネル1のコントラストが改善される。
【0029】
図3に示す等価回路図では、絶縁層4側の抵抗Rが高い場合であっても、電圧V印加直後は、静電容量C,C側に全電流が流れる。その後、徐々に静電容量C,C側から抵抗R,R側へ電流が流れ出す。そして、静電容量C,Cの電位がEに等しくなると、静電容量C,C側に電流が流れなくなり、抵抗R,R側に全電流が流れる。したがって、印加初期の数秒間(例えば、10m秒間)のみを考えると、絶縁層4の抵抗Rの上限が抵抗無限大であったとしても、電気泳動表示用液15側に電流が流れることがわかる。
【0030】
また、絶縁層4の厚さを、電気泳動表示用液15が封入される領域の厚さの半分とした場合、絶縁層4の比誘電率εと電気泳動表示用液15の比誘電率εとが同一であれば、絶縁層4と電気泳動表示用液15との静電容量の比はC:C=1:2となるため、電気泳動表示用液15にかかる初期電圧は、電圧Vの2/3となる。一方、絶縁層4の比誘電率εを電気泳動表示用液15の比誘電率εの3倍とすると、絶縁層4と電気泳動表示用液15との静電容量の比はC:C=1:6となるため、電気泳動表示用液15にかかる初期電圧は、電圧Vの6/7(約85%)となる。
【0031】
これより、絶縁層4の体積固有抵抗ρが、電気泳動表示用液15の体積固有抵抗ρの100倍以上である場合でも、絶縁層4の比誘電率εが、電気泳動表示用液15の比誘電率εの3倍以上であれば、電圧印加初期時に十分なインク電圧Vが得られることがわかる。
【0032】
(実施例1)
続いて、本実施の形態を適用した電気泳動表示パネル1の実施例について説明する。図4は、印加初期時のインク電圧Vの結果を示すグラフである。図5は、電圧印加後の白反射率、黒反射率およびコントラストの測定結果を示すグラフである。図6は、異なる膜厚における白反射率の測定結果を示すグラフである。図7は、異なる膜厚における黒反射率の測定結果を示すグラフである。図8は、異なる膜厚におけるコントラストの測定結果を示すグラフである。また、白反射率、黒反射率およびコントラストの測定は、スガ試験機製の分光測色計により行った。
【0033】
本実施例では、電気泳動表示用液の体積固有抵抗ρは5×1010[Ωcm]とし、比誘電率εは3とした。電気泳動表示用液の体積固有抵抗ρの値には、50V印加25秒後の値を使用し、比誘電率εの値は、充電時の電圧曲線より算定した。
【0034】
絶縁層の体積固有抵抗ρおよび比誘電率εの測定には、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板上にインジウムスズ酸化物(ITO)の電極を形成し、その上に膜厚20μmの絶縁層を形成した測定用サンプルを使用した。このサンプルには、電気泳動表示用液の代わりに溶剤(ドデカン)が封入されている。また、このサンプルの測定電圧は、10Vである。絶縁層の体積固有抵抗ρおよび比誘電率εは、このサンプルのインピーダンスを測定し、電気化学インピーダンス法により算定した。なお、インピーダンスの測定は、エヌエフ回路ブロック社製の周波数分析器FRA5087にインピーダンス測定ユニットを取り付けることにより行った。
【0035】
表1は、電気泳動表示用液の体積固有抵抗ρおよび比誘電率εならびにサンプル1〜4における絶縁層の体積固有抵抗ρおよび比誘電率εの計算結果を示す。
【表1】

【0036】
表1に示すように、サンプル1の体積固有抵抗ρは、電気泳動表示用液15の体積固有抵抗ρの10倍程度である。サンプル2の体積固有抵抗ρは、電気泳動表示用液15の体積固有抵抗ρの20倍である。一方、サンプル3(比較例)の体積固有抵抗ρは、電気泳動表示用液15の体積固有抵抗ρの1/10倍程度であるため、100倍以上の範囲外にある。サンプル4(比較例)の体積固有抵抗ρは、電気泳動表示用液15の体積固有抵抗ρの2.6倍程度であるため、100倍以上の範囲外にある。
【0037】
また、サンプル1,2の比誘電率εは、電気泳動表示用液の比誘電率εの3倍である。一方、サンプル3,4(比較例)の比誘電率εは、電気泳動表示用液の比誘電率εのそれぞれ、2.2倍、1.6倍程度であるため、3倍以上の範囲外にある。
【0038】
実際に、電気泳動表示用液にかかる電圧は測定できないため、表1に示した値を利用して上記式(1)を計算し、印加初期時のインク電圧Vを計算した。図4は、横軸が時間[秒]、縦軸がインク電圧[V]を示している。印加初期時の10[m秒]において、サンプル1,2は、印加直後(0秒)の時点で高いインク電圧Vを得ている。その後、インク電圧Vは緩やかに降下するが、10[m秒]の時点でも駆動電圧(40V)の85%以上の電圧を保っている。このような挙動を示すサンプル1,2によれば、良好な黒色表示および白色表示を得ることが可能となる。一方、サンプル3,4(比較例)は、サンプル1,2と比較して、印加直後の時点のインク電圧Vが低い。
【0039】
図5に示すように、サンプル1,2は、良好な白反射率、黒反射率およびコントラストが得られている。一方、サンプル3,4(比較例)は、サンプル1,2と比較して、白反射率、黒反射率およびコントラストのいずれも、満足な結果が得られていない。
【0040】
図6〜図8に示すように、各サンプルにおける絶縁層の膜厚は白反射率、黒反射率およびコントラストの結果の傾向に影響を与えない。各サンプルにおける絶縁層の膜厚は、薄い方がより良好な白反射率、黒反射率およびコントラストを得られる。
【0041】
以上の結果より、絶縁層4の体積固有抵抗ρが、電気泳動表示用液15の体積固有抵抗ρの100倍以上である場合でも、絶縁層4の比誘電率εが、電気泳動表示用液15の比誘電率εの3倍以上であれば、印加初期時に十分なインク電圧Vが得られることにより、十分な白反射率、黒反射率およびコントラストが得られることがわかる。
【0042】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本発明の第2の実施の形態に係る電気泳動表示装置は、上述した第1の実施の形態に係る電気泳動表示パネル1と比べて、マトリクス状に画素配置された表示部(画素)を駆動制御する点が相違しているが、絶縁層の体積固有抵抗および比誘電率については、第1の実施の形態と同様の条件を満たすものとする。したがって、特に相違点についてのみ説明し、同一の構成については同一の符号を用いて、繰り返しの説明を省略する。
【0043】
図9は、本発明の一実施の形態に係る電気泳動表示装置の全体構成図である。この電気泳動表示装置5は、マトリクス状に画素配置された表示部51と、表示部51に画像信号を供給するデータ線駆動回路52と、表示部51に走査信号を供給する走査線駆動回路53と、表示部51の各画素に共通電位を与える共通電位供給回路54と、装置全体の動作を制御するコントローラ55と、を備えて構成される。このうち、データ線駆動回路52、走査線駆動回路53、共通電位供給回路54およびコントローラ55は、駆動回路を構成する。
【0044】
電気泳動表示装置5には、表示画像に対する画像操作の要求がユーザインタフェース部56を介して入力される。画像操作には、表示部51上での画像のスクロール、画像の拡大縮小、高速または任意速度で表示ページを切り替えるページめくりが含まれる。ユーザインタフェース部56は、ユーザによる画像操作内容を画像操作信号に変換してコントローラ55へ供給する。
【0045】
表示部51には、データ線駆動回路52から列方向(Y方向)に並列に伸びるn本のデータ線X1からXnが延在するとともに、これらのデータ線と交差して走査線駆動回路53から行方向(X方向)に並列に伸びるm本の走査線Y1からYmが延在している。表示部51において、データ線(X1,X2,…Xn)と、走査線(Y1,Y2,…Ym)とが交差する各交差部に画素50がそれぞれ形成されている。このように、表示部51には、m行n列のマトリクス状に複数の画素50が配置されている。
【0046】
データ線駆動回路52は、コントローラ55から供給されるタイミング信号に基づいて、各データ線(X1,X2,…Xn)に画像信号を供給する。画像信号は、高電位VH(例えば、40V)から低電位VL(例えば、0V)の間で任意の電位をとる。特に、共通電位供給回路54から与えられる共通電位を固定して、画像信号の電圧値を階段状に変化させて所望の階調を実現する駆動方法では、画像信号(書込みパルス)の電圧値は、書込みパルスの印加回数に応じて階段状に上がるように制御される。例えば、画像信号の複数の電圧値は、25V,30V,40Vの3段階に制御される。
【0047】
走査線駆動回路53は、コントローラ55から供給されるタイミング信号に基づいて、各走査線(Y1,Y2,…Ym)に固定パルス幅の走査信号を順次供給する。これにより、駆動対象となる画素50に対して、走査信号が供給される。走査信号によって階調制御対象となる画素を選択するので、走査信号のことを選択信号と呼ぶこともできる。
【0048】
表示部51を構成する各画素50には、共通電位供給回路54から共通電位線を介して共通電位Vcomが印加される。共通電位Vcomは一定の電位であってもよいし、例えば書き込む階調に応じて変化してもよい。特に、データ線駆動回路52から与えられる画像信号の電圧値を固定して、共通電位Vcomの電圧値を階段状に変化させて所望の階調を実現する駆動方法では、共通電位(書込みパルス)の電圧値は、書込みパルスの印加回数に応じて階段状に上がるように制御される。例えば、共通電位の電圧値は、25V,30V,40Vの3段階に制御される。
【0049】
コントローラ55は、クロック信号、スタートパルス等のタイミング信号を、データ線駆動回路52、走査線駆動回路53および共通電位供給回路54に供給して各回路を制御する。コントローラ55は、対象画素の階調データをデータ線駆動回路52または共通電位供給回路54に供給する。データ線駆動回路52または共通電位供給回路54は、階調データに応じて書込みパルスの印加回数および電圧値を決定し、走査線駆動回路53の画素行選択動作に同期して対象画素に画像信号または共通電位を供給する。
【0050】
図10は、画素50の電気的な構成を示す等価回路図である。表示部51にマトリクス状に配置された各画素50は同一構成であるので、画素50を構成する各部には共通の符号を付して説明する。
【0051】
画素50は、画素電極18と、絶縁層4と、共通電極12と、電気泳動表示用液15と、画素スイッチング用トランジスタ57と、保持容量58と、を備えている。画素スイッチング用トランジスタ57は、例えば、N型トランジスタで構成される。画素スイッチング用トランジスタ57のゲートは、対応する行の走査線(Y1,Y2,…Ym)に電気的に接続されている。画素スイッチング用トランジスタ57のソースは、対応する列のデータ線(X1,X2,…Xn)に電気的に接続されている。また、画素スイッチング用トランジスタ57のドレインは、画素電極18および保持容量58に電気的に接続されている。画素スイッチング用トランジスタ57は、データ線駆動回路52からデータ線(X1,X2,…Xn)を介して供給される画像信号を、走査線駆動回路53から対応する行の走査線(Y1,Y2,…Ym)を介してパルス的に供給される走査信号に応じたタイミングで、画素電極18および保持容量58に出力する。
【0052】
画素電極18には、データ線駆動回路52からデータ線(X1,X2,…Xn)および画素スイッチング用トランジスタ57を介して、画像信号が供給される。画素電極18は、電気泳動表示用液15を介して共通電極12と互いに対向して配置されている。共通電極12は、共通電位Vcomが供給される共通電位線に電気的に接続されている。
【0053】
保持容量58は、誘電体膜を介して対向配置された一対の電極からなり、一方の電極が画素電極18および画素スイッチング用トランジスタ57に電気的に接続され、他方の電極が共通電位線に電気的に接続されている。保持容量58によって、画像信号を一定期間維持することができる。
【0054】
図11は、第2の実施の形態に係る電気泳動表示装置の1つの画素50の等価回路図である。画素50における画素スイッチング用トランジスタ57は、模式的にスイッチSWで表わしている。スイッチSWがパルス的(例えば、70μ秒)にオンとなると保持容量Csが充電され、1スキャンの残りの時間(例えば、16.67m秒)は保持容量Csで電位を維持する。保持容量Csに蓄えられた電荷は、絶縁層4の抵抗Rおよび電気泳動表示用液15の抵抗Rで放電され、電圧は徐々に低下する。そして、次のスキャン時に再度スイッチSWがパルス的にオンし、保持容量Csは再度充電される。
【0055】
このような構成の電気泳動表示装置5において、絶縁層4の体積固有抵抗ρが、電気泳動表示用液15の体積固有抵抗ρの100倍以上である場合でも、絶縁層4の比誘電率εが、電気泳動表示用液15の比誘電率εの3倍以上であれば、印加初期時に十分なインク電圧Vが得られることにより、十分な白反射率、黒反射率およびコントラストを得ることができる。
【0056】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、さまざまに変更して実施可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更が可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 電気泳動表示パネル
2 電気泳動表示シート
3 画素電極側基板
11 共通電極側基板
12 共通電極
13 スペーサ
14 保護膜
15 電気泳動表示用液
15a 黒色粒子
15b 白色粒子
15c 媒質
16 粘着剤層
17 素子基板
18 画素電極
4 絶縁層
5 電気泳動表示装置
50 画素
51 表示部
52 データ線駆動回路
53 走査線駆動回路
54 共通電位供給回路
55 コントローラ
56 ユーザインタフェース部
57 画素スイッチング用トランジスタ
58 保持容量


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スペースを介して対向配置され少なくとも一方が光透過性を有する一対の基板と、前記一対の基板のうち一方の基板の基板面に形成された1つまたは複数の画素電極と、前記一対の基板のうち他方の基板の基板面に前記複数の画素電極に対向して形成された1つまたは複数の共通電極と、前記一対の基板間に封入された色および極性が異なる複数種類の帯電粒子を分散させてなる液状体と、前記画素電極と前記液状体との間に配置された絶縁層と、を備えた電気泳動表示パネルであって、
前記絶縁層の体積固有抵抗は、前記液状体の体積固有抵抗の100倍以上であり、前記絶縁層の比誘電率は、前記液状体の比誘電率の3倍以上であることを特徴とする電気泳動表示パネル。
【請求項2】
前記絶縁層の体積固有抵抗は、1×1012Ωcm以上であり、前記絶縁層の比誘電率は、9以上であることを特徴とする請求項1記載の電気泳動表示パネル。
【請求項3】
前記絶縁層は、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリフッ化ビニリデンフィルム、塩化ビニリデンもしくはフッ化ビニリデンを構成単位として含むフィルムまたは塩化ビニリデンもしくはフッ化ビニリデンをポリマーブレンドとして含むフィルムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の電気泳動表示パネル。
【請求項4】
前記絶縁層は、可塑剤を含む材料で構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電気泳動表示パネル。
【請求項5】
前記絶縁層は、保護層および粘着剤層の積層体であり、前記画素電極側に前記粘着剤層が配置されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の電気泳動表示パネル。
【請求項6】
前記一対の基板の間には、前記スペースを規定する構造体が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか記載の電気泳動表示パネル。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の電気泳動表示パネルを備えることを特徴とする電気泳動表示装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2013−101249(P2013−101249A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245394(P2011−245394)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】