説明

電気泳動表示装置、電子機器

【課題】画素間のリーク電流を抑えることで低消費電力の駆動を実現し、製品の信頼度を向上させた、電気泳動表示装置を提供する。
【解決手段】複数の画素電極21が形成された素子基板28と、複数の画素電極21と対向する共通電極22が形成された対向基板29と、素子基板28と対向基板29との間に挟持され、帯電した電気泳動粒子を有する複数の電気泳動素子40と、電気泳動素子40と素子基板28との間に設けられた接着剤層31と、を備え、素子基板28上において互いに隣り合う画素電極21の間には、電気的に孤立した中間電位電極51が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気泳動表示装置および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表示装置の一つとして、分散媒中に分散する荷電粒子(電気泳動粒子)を電極間に発生させる電界により泳動させ、分布状態を制御することにより表示を行う電気泳動表示装置ある。一般に、このような電気泳動表示装置は、電気泳動粒子の反射率が高いためにフロントライト等の光源が必要とせず薄型化が可能、という構造上の特長や、視野角が広くコントラストが高い、という品質上の特長を備えている。更に、バックライトを必要としないことから低消費電力を実現できるという特長も有しており、これらの特長を活かした次世代の表示デバイスとして注目を集め、開発が進んでいる。
【0003】
例えば特許文献1では、一旦メモリ回路(ラッチ回路)に画像信号を記憶させ、メモリ回路に記憶された画像信号を画素電極に入力することで、対向電極との間に電位差を発生させて電気泳動素子を駆動している。このような駆動をさせることで、ラッチ回路で記憶させた画像信号に基づいて表示画像を保持することができ、一度表示した画像を維持するための電力を消費しないことから、更なる低消費電力を実現している。
【特許文献1】特開2003−84314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電気泳動表示装置では、電極間に電気泳動粒子を固定するために接着剤を用いている。このような接着剤により形成された接着剤層は、接着剤の硬化を促進するための添加剤やその分解物などの不純物を含んでいることがあり、これらの不純物に起因して時に微弱な導電性を備えることがある。
【0005】
また、電気泳動表示装置に画像を表示させるためには、電気泳動粒子を挟持する電極間に、電気泳動粒子の移動(泳動)に必要な電位差(例えば15V程度)を設ける必要がある。そして、例えば隣り合う画素同士で白と黒のように異なった色を表示する場合、隣り合う画素の画素電極には互いに異なる電位が印加されるようになる。このような場合に、画素電極間が上述のような微弱な導電性を備える接着剤層を介して接続されていると、画素電極間に生じる電位差に起因して、隣り合う画素電極間でリーク電流が生じてしまう。
【0006】
このようにして発生するリーク電流は、1箇所あたりの電流量は小さいものであるが、複数の箇所でリーク電流が発生すると全体として大きな電力を消費してしまう。例えば、上記のような隣り合う画素同士で異なる色を表示している箇所が多い場合、つまり、複雑な表示を行う場合に消費電力が増大することとなり、電気泳動表示装置の特長の1つである低消費電力での駆動を実現できないこととなる。
【0007】
また、リーク電流が発生すると、電極の周縁部および周辺部で発生する電界が変化するため、電気泳動粒子を設計通りに泳動させにくく、例えば黒と白の中間である灰色表示のような不良な表示が発生しやすい。そのため表示品質が低下する。
【0008】
さらに、リーク電流の発生によって画素電極が化学反応を起こすおそれがある。そのため、特に長時間使用した際に画素電極が劣化して、良好な表示ができなくなり、ひいては電気泳動表示装置としての信頼性が低下するおそれがある。
【0009】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、画素間のリーク電流を抑えることで低消費電力の駆動を実現し、製品の信頼度を向上させた、電気泳動表示装置を提供することにある。また、このような電気泳動表示装置を備えた電子機器を提供することを合わせて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明の電気泳動表示装置は、画素電極と前記画素電極に隣り合う画素電極が形成された第1基板と、前記画素電極と前記隣り合う画素電極に対向する共通電極が形成された第2基板と、前記第1基板と前記第2基板との間に挟持され、帯電した電気泳動粒子を有する複数の電気泳動素子と、前記電気泳動素子と前記第1基板との間に設けられた接着剤層と、を備え、前記第1基板上において前記画素電極と前記隣り合う画素電極の間には、電気的に孤立したフローティング電極が設けられていることを特徴とする。
【0011】
本発明者らは、上記問題を解決するために鋭意検討した結果、電気的に孤立したフローティング電極を画素電極間の領域に配置することで、リーク電流が減少し消費電力の増加を抑制できることを見いだした。ここで「電気的に孤立した」とは、フローティング電極が、周囲の配線や電極などの導電部材と接続していない状態で形成されていることを指す。この導電部材には、微弱な導電性を備える接着剤層は含まない。
【0012】
この構成によれば、電圧印加時に画素電極から広がる電界は、画素電極間に配置されたフローティング電極に一度帰着し、フローティング電極から再度広がることとなる。すると、フローティング電極がない場合よりも、共通電極側への電界の広がりが優位となり、画素電極間の電界が少なくなる。画素電極間に電子の流れを生じさせる電界が減少するため、画素電極間のリーク電流の発生が抑えられることとなり、低消費電力を実現した電気泳動表示装置とすることができる。
【0013】
ここで、前記フローティング電極は、前記画素電極の1辺に沿うように設けられ、さらに、前記1辺の延長線に添うように延在されていることが望ましい。
この構成によれば、例えば、フローティング電極が、画素電極の1辺に沿うように設けられている場合に比較し、隣り合う画素間に対し、より確実にリーク電流の発生が抑えられることとなる。特に、画素電極の対角線の延長線上に設けられた隣り合う画素電極とのリーク電流の発生をより抑えることが可能となる。
【0014】
ここで、前記フローティング電極は、前記1辺の延長線上にある前記隣り合う画素電極の1辺に沿うように設けられたフローティング電極まで延在して設けられていることが望ましい。
この構成によれば、より確実にリーク電流の発生が抑えられることとなるとともに、例えば、小型の電気泳動表示装置を形成する場合や、画素電極を大きく形成する場合などの、中間電位電極の幅を狭くする必要がある場合、中間電位電極を十分な面積で形成することができる。
【0015】
ここで、前記フローティング電極は、前記画素電極の周囲を囲むように設けられていることが望ましい。
この構成によれば、さらに確実にリーク電流の発生が抑えられることとなるとともに、フローティング電極電位は、これを挟む2画素間の中間電位に安定化することが可能となり、フローティング電極の下層に配置された各種駆動用素子、各種配線等からの容量結合による影響を分散することが可能となる。
【0016】
本発明においては、前記画素電極と前記フローティング電極とは形成材料が同じであることが望ましい。
この構成によれば、同じ形成材料の薄膜を微細加工することで画素電極とフローティング電極とを作り分けることができる。そのため、装置の高精細化を進めた場合にも良好にフローティング電極を形成し、低消費電力を実現した電気泳動表示装置とすることができる。
【0017】
本発明においては、前記画素電極と、前記画素電極に隣り合う前記フローティング電極との間に、前記接着剤層よりも電気抵抗の大きい材料で形成された絶縁層が設けられていることが望ましい。
この構成によれば、画素電極の間に形成した絶縁層が電界に沿って流れようとするリーク電流を遮断するため、更に画素電極間のリーク電流の発生を抑えた電気泳動表示装置とすることができる。
【0018】
本発明においては、前記絶縁層は前記フローティング電極を覆って設けられており、前記画素電極の上面よりも前記電気泳動素子側に突出していることが望ましい。
この構成によれば、リーク電流の経路が長くなるためリーク電流を流れにくくすることができる。
【0019】
本発明の電子機器は、前述した本発明の電気泳動表示装置を備えていることを特徴とする。
この構成によれば、画素間のリーク電流の発生を抑えて低消費電力を実現すると共に、製品の信頼度を向上させた電子機器とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[第1実施形態]
以下、図1〜図5を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る電気泳動表示装置について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の膜厚や寸法の比率などは適宜異ならせてある。
【0021】
図1は、本実施形態の電気泳動表示装置1の説明図であり、図1(a)は断面図、図1(b)は平面図を示す。図1(a)は、図1(b)の線分A−Aに対応する断面図を示している。
【0022】
図1(a)に示すように、本実施形態の電気泳動表示装置1は、複数の画素電極21を備えた素子基板(第1基板)28、共通電極22を備えた対向基板(第2基板)29、及びこれら基板に挟持された電気泳動素子層23を備えている。電気泳動素子層23は、多数のマイクロカプセル40によって構成されており、バインダ(接着剤)からなるバインダ層30により共通電極22上に固定されている。更に素子基板28および対向基板29の間には接着剤層31が形成されており、電気泳動素子層23を挟持して両基板28、29を固定している。また、素子基板28上の画素電極21の間には、複数の中間電位電極(フローティング電極)51が形成されている。
【0023】
本実施形態の電気泳動表示装置1では、1つの画素電極21と電気泳動素子層23と共通電極22とが平面的に重なる領域が1画素を構成しており、複数の画素で表示する表示画像は、対向基板29側に表示される。なお、電気泳動表示装置1には、更に駆動回路その他の付帯機器が付設されるが、図1(a)ではそれらを省略している。
【0024】
素子基板28は、合成樹脂やガラスなどからなる矩形状の基板を備え、基板の上に、不図示の駆動用TFTやラッチ回路などの各種駆動用素子、または各種配線を形成し、さらにその上に、アクリル樹脂等からなる平坦化層(図示せず)を形成したものである。そして、このように平坦化された平坦化層上には、駆動用TFTやラッチ回路等に接続した画素電極21が形成されている。
【0025】
画素電極21は、画素毎に独立して設けられたものであり、Al(アルミニウム)や銅(Cu)、さらにはAlCu等によってマトリクス状に形成されたものである。なお、本実施形態では、導電性に優れ、かつ、耐食性にも優れたAlCuにより、画素電極21が形成されている。
【0026】
画素電極21の間の領域には、中間電位電極51が形成されている。中間電位電極51は、同層に形成されている画素電極21と接続されておらず、また、その他の層の配線や電極にも接続されていない、つまり、電気的に孤立した状態で形成されている。本実施形態の中間電位電極51は、画素電極21と同じ形成材料を用いて形成されており、例えば素子基板28の表面全面にAlCu膜を成膜した後に、通常知られる方法にてパターニングすることにより画素電極21と同時に形成することができる。中間電位電極51の形成材料は、画素電極21と異なるものであっても良い。中間電位電極51の機能については後に詳述する。
【0027】
対向基板29は、上述の通り画像を表示する側の基板であり、透明樹脂やガラスなどの透光性材料によって形成された矩形状のものである。この対向基板29の素子基板28に対向する面には、全ての画素電極21と対向する共通電極22が設けられている。共通電極22は、透光性の導電材料からなるもので、例えばITO(インジウムスズ酸化物)、IZO(アイゼットオー(登録商標)、インジウム亜鉛酸化物)、MgAg(マグネシウム銀)等によって形成されたものである。
【0028】
共通電極22の素子基板28に対向する面には、電気泳動素子層23が形成されている。電気泳動素子層23は、複数のマイクロカプセル(電気泳動素子)40と、マイクロカプセル40の隙間を埋めるように設けられたバインダ層30と有しており、バインダ層30により共通電極22上に固定されている。電気泳動素子層23を構成するマイクロカプセル40は、1つの画素電極21に対して複数が平面的に重なるように配列されている。
【0029】
マイクロカプセル40は、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル等のアクリル樹脂、ユリア樹脂、アラビアゴム等の透光性を持つ高分子樹脂によって形成されたもので、後述する分散液を封入するものである。マイクロカプセル40は、例えば50μm程度の粒径に形成されたものである。
【0030】
電気泳動素子層23と、素子基板28の画素電極21との間には、接着剤層31が設けられており、電気泳動素子層23を挟持して両基板28、29を固定している。接着剤層31は、用いる接着剤に含まれる夾雑物に起因して微弱な導電性を備えている。
【0031】
図1(b)は、電気泳動表示装置1の概略平面図であり、素子基板28上に配置された画素電極21及び中間電位電極51の配置を示すものである。
【0032】
画素電極21は、平面視略矩形の形状を呈しており、複数の画素電極21は、各々の長軸方向を同方向としながら行列状に複数配列している。隣り合う画素電極21の対向する短辺同士の間には、画素電極21の短辺と略同じ長さを備えた中間電位電極51aが配置されており、隣り合う画素電極21の対向する長辺同士の間には、画素電極21の長辺と略同じ長さを備えた中間電位電極51bが配置されている。中間電位電極51は、画素電極21の間の領域にそれぞれ配置されている。本実施形態の電気泳動表示装置1は、以上のような構成となっている。
【0033】
次いで、図2,3を用いて、電気泳動素子層23が備えるマイクロカプセル40の構造を示した後に、電気泳動表示装置1の動作について説明する。
【0034】
図2は、マイクロカプセル40の内部構造を示す概略断面図である。図に示すように、マイクロカプセル40の内部には、分散媒41と、電気泳動粒子である多数の白色粒子(電気泳動粒子)42、及び多数の黒色粒子(電気泳動粒子)43とが封入されている。
【0035】
分散媒41は、白色粒子42と黒色粒子43とをマイクロカプセル40内に分散させる液体である。分散媒41としては、水やアルコール系溶媒、各種エステル類、ケトン類、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、カルボン酸塩又はその他の種々の油類等の単独、又はこれらの混合物に界面活性剤等を配合したものを用いることができる。
【0036】
白色粒子42は、二酸化チタン、亜鉛華、三酸化アンチモン等の白色顔料からなる粒子(高分子あるいはコロイド)であり、例えば負に帯電したものである。黒色粒子43は、アニリンブラック、カーボンブラック等の黒色顔料からなる粒子(高分子あるいはコロイド)であり、例えば正に帯電したものである。
【0037】
このような顔料には、必要に応じ、電解質、界面活性剤、金属石鹸、樹脂、ゴム、油、ワニス、コンパウンド等の粒子からなる荷電制御剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、シラン系カップリング剤等の分散剤、潤滑剤、安定化剤等を添加することができる。また、これら電気泳動粒子(白色粒子42、黒色粒子43)の比重は、これらを分散させる分散媒41の比重とほぼ等しくなるように設定されている。
【0038】
更に、白色粒子42及び黒色粒子43は、表面にイオン層(電気二重層)44が形成されており電気的に保護されている。そのため、粒子同士は、凝集することなく互いに静電反発しながら分散媒41中に分散しており、分散媒41と白色粒子42と黒色粒子43とからなる分散液は、全体として安定なコロイド溶液となっている。
【0039】
図3は、マイクロカプセル40内の電気泳動粒子の動作を説明するための図である。図では、各粒子のイオン層44を省略して図示している。マイクロカプセル40内の白色粒子42及び黒色粒子43は、上述のように負あるいは正に帯電していることから、分散媒41中において、画素電極21と共通電極22との間の電位差によって発生する電場中を移動(泳動)するようになっている。
【0040】
図3(a)に示すように、画素電極21と共通電極22との間で相対的に画素電極21の電位が低くなるように(ローレベル)電圧が印加されると、共通電極22から画素電極21への方向に電界が発生する。この際、正に帯電した黒色粒子43は電界方向(共通電極22から画素電極21への方向)にクーロン力を受け、マイクロカプセル40内を画素電極21側に泳動する。一方、負に帯電した白色粒子42は電界方向とは逆方向(画素電極21から共通電極22への方向)にクーロン力を受け、マイクロカプセル40内を共通電極22側に泳動する。この結果、マイクロカプセル40内の表示面側(対向基板29側)には白色粒子42が集まることになり、表示面にはこの白色粒子42の色(白色)が表示されるようになる。
【0041】
また、図3(b)に示すように、画素電極21と共通電極22との間で相対的に画素電極21の電位が高くなるように(ハイレベル)電圧が印加されると、画素電極21から共通電極22への方向に電界が発生する。すると同様に、負に帯電した白色粒子42が画素電極21側に泳動し、正に帯電した黒色粒子43は共通電極22側に泳動する。この結果、マイクロカプセル40の表示面側には黒色粒子43が集まることになり、表示面にはこの黒色粒子43の色(黒色)が表示されるようになる。
【0042】
なお、白色粒子42、黒色粒子43に用いる顔料を、例えばキナクリドンレッド等の赤色顔料、フタロシアニンブルー等の青色顔料、フタロシアニングリーン等の緑色顔料等の顔料に代えることにより、赤色、緑色、青色等を表示する電気泳動表示装置1とすることも可能である。
【0043】
従来の電気泳動表示装置では、上記のような動作を行う場合に、隣り合う画素電極間にリーク電流が発生することがあり、消費電力を増大させていた。即ち、隣り合う2つの画素電極21の一方にハイレベルの電位、他方にローレベルの電位を印加し、白色と黒色とが隣り合う表示をしようとすると、隣り合う画素電極間の電位差に起因して画素電極間に電流を生じてしまっていた。このようなリーク電流は、白色および黒色が複雑な配置をした精緻な表示を行おうとするほど増加し、消費電力の増大につながっていた。
【0044】
そこで、本発明の電気泳動表示装置では、図1に示すように、画素電極21間の領域に中間電位電極51を設けることで上記課題を解決している。発明者は種々の検討を行った結果、中間電位電極51を画素電極21間の領域に配置することで、リーク電流が減少し消費電力の増加を抑制できることを見いだした。画素電極間に中間電位電極51を配置することで、画素電極間に発生する電界の広がり方に変化が生じ、リーク電流の発生を抑制すると考えられる。
【0045】
上記考えを検証するために、中間電位電極51の有無で画素電極間に生じる電界の違いを、シミュレーションにより比較した。図4は、中間電位電極の機能についてのシミュレーション結果であり、図4(a)は中間電位電極が無い場合、図4(b)は中間電位電極を備える場合のそれぞれについて、隣り合う画素電極間に生じる電界の大きさおよび広がり方を示す。
【0046】
ここでは、画素電極21xと画素電極21yとの離間距離Dと、接着剤層31の厚みHとが、共に等しく20μmとしたモデルを用い、画素電極21xに不図示の共通電極と比べてハイレベルの電位、画素電極21yにローレベルの電位を印加した場合について計算を行った。また、図4(b)に示す中間電位電極51としては、画素電極21xと画素電極21yとの中点を中心として幅4μmで形成されているものとしたモデルを用いた。
【0047】
図4では、画素電極21xから発生する電界(電気力線)のうち、共通電極へ帰着する電界が広がる領域と、画素電極22yまたは中間電位電極に帰着する電界が広がる領域とを、それぞれ縦方向および横方向を指す白抜き矢印を配置して示している。また、白抜き矢印の大きさは、矢印が配置された領域の電界の強さを示している。
【0048】
図4(a)に示すように、中間電位電極が無い場合には、画素電極21xの端部からの電界(電気力線)は、一部は共通電極へ向かい、残りは画素電極21yへと向かう。画素電極21yへ繋がる電界が、画素電極21xから画素電極21yへ流れるリーク電流の原因となっている。
【0049】
一方、図4(b)に示すように、画素電極21xと画素電極21yとの中点に中間電位電極51を配置した場合には、画素電極21xからの電界のうち横方向へ広がる電界が、一度中間電位電極51に帰着する。そして、中間電位電極51の電位と共通電極または画素電極21yとの電位差に基づき、中間電位電極51から再度電界が広がる。その際、中間電位電極51から広がる電界のうち一部は再度共通電極へ向かうため、残る電界のみが画素電極21yに繋がることとなる。したがって、中間電位電極51を設けることで、画素電極21xから広がる電界は共通電極へ向かいやすく、画素電極21yへ向かいにくくなっており、結果として画素電極21yへ繋がる電界の強度が低下する。
【0050】
また、本実施形態の電気泳動表示装置1では、中間電位電極51と接着剤層31との間は、完全にオームの法則に従うオーミック接続ではなく、オームの法則に従わない非線形な接続状態となっていることが予想される現象が観察された。そのため、中間電位電極51と接着剤層31との間では実効的な抵抗が増大し、電流が流れにくい状況が生じる。
【0051】
図4のシミュレーション結果によれば、中間電位電極51を設けることで、画素電極21xから画素電極21yへ繋がる電界の強度が低下することで電流が流れにくくなり、更に、中間電位電極51と接着層31との界面の実効的な抵抗が増加することでも電流が流れにくくなる。これらの複合的な要因により、画素電極間のリーク電流の発生が抑制されることとなる。
【0052】
ここで、中間電位電極51は電気的に孤立していることを特徴のひとつとしている。仮に、中間電位電極51に配線が接続され、例えばGNDに接続されている場合であっても、画素電極間にリーク電流が流れないことにより表示品質を保つことは可能である。しかし、画素電極と中間電位電極との間にリーク電流が生じるため電力を消費する。そのため、電気泳動表示装置の特長である低消費電力を実現できない。
【0053】
対して本発明の中間電位電極は電気的に孤立していることから、画素電極21は帯電するものの電流が流れることがなく、消費電力が増大することがない。中間電位電極51に生じた電荷は、隣り合う画素電極21の電位が互いに同じ状態(同じ表示状態)の際に、中和され、接着剤層31を介して拡散し消滅する。
【0054】
また、ここでは画素電極21xから画素電極21yへ流れるリーク電流を抑制する場合を説明したが、画素電極に印加する電位が変化し画素電極21yが画素電極21xよりも高電位となった場合であっても、同様に画素電極21yから画素電極21xへのリーク電流の発生を抑制することができる。
【0055】
以上のことから、本実施形態の電気泳動表示装置1は、電気的に孤立した中間電位電極51を設けることにより、リーク電流の発生を抑制して低消費電力を実現し、表示品質を保ち製品の信頼度を向上させることができる。
【0056】
以上のような構成の電気泳動表示装置1によれば、画素電極21間の領域に中間電位電極51を備えるため、共通電極22側への電界の広がりが優位となり、画素電極21間の電界が少なくなる。画素電極21間に電子の流れを生じさせる電界が減少するため、画素電極21間のリーク電流の発生が抑えられることとなり、低消費電力を実現した電気泳動表示装置1とすることができる。
【0057】
また、本実施形態では、画素電極21と中間電位電極51とはいずれも同じくAlCuを形成材料としている。そのため、一様に形成した形成材料の薄膜に微細なパターニングを施して同時に形成することが可能であり、例えば装置の高精細化を進めた場合にも良好に中間電位電極を形成し、低消費電力を実現した電気泳動表示装置とすることができる。
【0058】
(変形例)
隣り合う画素電極の間に中間電位電極を配置することで、電界(電気力線)の広がり方を変え、リーク電流の発生を抑制するという本発明の趣旨から、中間電位電極の形状や配置を変形可能なことは明らかである。以下、中間電位電極の形状や配置について、いくつかの変形例を説明する。図5は、変形例を示す平面図であり、いずれも図1(b)に対応する図である。
【0059】
図5(a)では、縦横に平面視格子状に配置された画素電極21の間の領域の交差部にまで中間電位電極52aが延在している。すなわち、画素電極21の短辺に沿うように設けられた中間電位電極52aが、画素電極21の短辺の延長線に沿うように延在されている。そのため、例えば画素電極21aに対して斜め方向(図の両矢印方向)に隣り合う画素電極21b、21cとの間の領域にも中間電位電極52aが配置することとなる。このような配置の中間電位電極52を備えることで、縦方向および横方向のみならず、斜め方向に隣り合う画素電極21間でのリーク電流を抑制することが可能となる。ここでは、画素電極21の短辺に沿うように設けられた中間電位電極52aが、画素電極間領域の交差部にまで延在することとしたが、画素電極21の長辺に沿うように設けられた中間電位電極52bが延在することとしても構わない。
【0060】
図5(b)は、中間電位電極53aが、隣り合う複数の画素電極21の各々の短辺に沿うように設けられた中間電位電極53aが、各々途切れることなく、すなわち一体となって延在している。すなわち、中間電位電極53aは、画素電極21の短辺に沿うように設けられ、さらに、画素電極21の隣の画素電極の短辺に沿うように設けられた中間電位電極まで延在して設けられている。このような構成では、縦方向に隣り合う画素電極21間のリーク電流を効率良く防ぐことができる。また例えば、小型の電気泳動表示装置を形成する場合や、画素電極21を大きく形成する場合など、中間電位電極53の幅を狭くする必要がある場合、中間電位電極53を広く形成することができ好適である。図5(a)の場合と同様に、画素電極21の長辺に沿って形成された中間電位電極53bが、各々途切れることなく、すなわち一体となって延在し、複数の画素電極21の各々の長辺に隣り合うこととしても構わない。
【0061】
図5(c)は、中間電位電極54が、複数の画素電極21を囲んで格子状に形成されている。すなわち、中間電位電極54は、画素電極21の周囲を囲むように設けられている。ここでは、中間電位電極54が形成する1つの格子につき1つの画素電極21を囲んでいる。このような構成では、隣り合うすべての方向の画素電極21間のリーク電流を効率良く防ぐことができる。さらに、中間電位電極54の電位は、これを挟む2画素間の中間電位に安定化することが可能となり、フローティング電極の下層に配置された不図示の各種駆動用素子、各種配線等からの容量結合による影響を分散することが可能となる。
【0062】
これら変形例に示す形状の中間電位電極51を備えた電気泳動表示装置であっても、同様に、リーク電流の発生を抑制して消費電力を抑え、高品質表示が可能な装置とすることができる。ここで挙げた変形例の中から、例えば、他層に形成されるデータ線や走査線などの配線との配置関係において、該配線との容量結合による影響が最も少なくなるような配置を選択すると良い。
【0063】
[第2実施形態]
図6は、本発明の第2実施形態に係る電気泳動表示装置の説明図であり、図6(a)は断面図、図6(b)は平面図を示す。図6(a)は、図6(b)の線分B−Bに対応する断面図を示している。
【0064】
本実施形態の電気泳動表示装置は、第1実施形態と一部共通している。異なるのは、中間電位電極51を覆って画素電極21の上面よりも電気泳動素子層23側に突出している絶縁層60が形成されていることである。したがって、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0065】
図6(a)に示すように、本実施形態の電気泳動表示装置3では、中間電位電極51を覆う絶縁層60が形成されている。絶縁層60は、隣り合う画素電極21の周縁部に一部が重なり、画素電極21の上面よりも電気泳動素子層23側に突出して形成されている。図では、絶縁層60の形状を断面視略矩形として図示しているがこれに限らず、断面視半円形、テーパ状など凸形状であれば良い。
【0066】
絶縁層60は、接着剤層31よりも相対的に導電性が低い材料を用いて形成されている。例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネートなどの樹脂膜、SiO、Si、SiNx、SiON、Alなどの無機膜を用いることができる。これら樹脂膜や無機膜には、導電性を誘起する夾雑物を含まないように形成するとよい。絶縁層60は、例えば、CVD法、蒸着法、スピンコート法などの方法を用いて一様な薄膜を形成した後、ウエットエッチング法などのパターニング法を用いて画素電極21の領域を開口することで形成する。
【0067】
図6(b)に示すように、絶縁層60は各々の画素電極21の周囲を囲んで格子状に形成されており、画素電極21の周縁部を枠状に縁取るように絶縁層60の一部が画素電極21上に形成されている。
【0068】
このような絶縁層60を備えた電気泳動表示装置3では、中間電位電極51の効果に加えて、絶縁層60が電界に沿って流れようとするリーク電流を遮断するため、リーク電流の発生を更に抑制することができる。
【0069】
また、絶縁層60が接着剤層31よりも導電性が低い(電気抵抗が高い)ため、リーク電流は絶縁層60を迂回し接着剤層31の中を流れることとなる。本実施形態の電気泳動表示装置3では、画素電極21の上面よりも電気泳動素子層23側に突出して形成されているため、絶縁層60を迂回するリーク経路が長くなり、結果、画素電極21間のリーク電流の発生を更に抑制することができる。そのため、より低消費電力を実現した電気泳動表示装置3とすることができる。
【0070】
なお、電気泳動表示装置3では、絶縁層60は中間電位電極51を覆って形成されていることとしたが、中間電位電極51を覆わないこととしても構わない。中間電位電極51を覆わない場合でも、画素電極21と中間電位電極51との間に絶縁層60が設けられていることで、画素電極21および中間電位電極51のそれぞれの端部を結ぶ経路を絶縁層60が遮断する。両電極のそれぞれの端部を結ぶ経路は、最も経路長が短く最もリーク電流が流れやすい経路である。このリーク経路を絶縁層60で遮断することで、リーク電流を流しにくくする絶縁層60の機能を奏することができる。
【0071】
[電子機器]
次に、本発明の電子機器について説明する。図7は、本発明の電子機器の一例を示す斜視図である。ここでは、本発明の電気泳動表示装置を電子ペーパーに適用した場合の実施形態を示している。電子ペーパー1000は、紙と同様の質感および柔軟性を有するリライタブルシートで構成される本体1001と、表示ユニット1002とを備えている。電子ペーパー1000では、表示ユニット1002が本実施形態の電気泳動表示装置で構成されている。そのため、表示ユニット1002におけるリーク電流の発生を抑制し、消費電力が少ない電子ペーパー1000とすることができる。
【0072】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電気泳動表示装置の説明図である。
【図2】電気泳動素子の内部構造を示す概略断面図である。
【図3】電気泳動素子内の電気泳動粒子の動作を説明する説明図である。
【図4】中間電位電極の機能についてのシミュレーション結果を示す図である。
【図5】第1実施形態の変形例を示す平面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る電気泳動表示装置の説明図である。
【図7】本発明の電子機器の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0074】
1,3…電気泳動表示装置、21…画素電極、22…共通電極、28…素子基板(第1基板)、29…対向基板(第2基板)31…接着剤層、40…マイクロカプセル(電気泳動素子)、42…白色粒子(電気泳動粒子)、43…黒色粒子(電気泳動粒子)、51〜54…中間電位電極(フローティング電極)、60…絶縁層、1000…電子ペーパー(電子機器)、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画素電極と前記画素電極に隣り合う画素電極が形成された第1基板と、
前記画素電極と前記隣り合う画素電極に対向する共通電極が形成された第2基板と、
前記第1基板と前記第2基板との間に挟持され、帯電した電気泳動粒子を有する複数の電気泳動素子と、
前記電気泳動素子と前記第1基板との間に設けられた接着剤層と、を備え、
前記第1基板上において前記画素電極と前記隣り合う画素電極の間には、電気的に孤立したフローティング電極が設けられていることを特徴とする電気泳動表示装置。
【請求項2】
前記フローティング電極は、前記画素電極の1辺に沿うように設けられ、さらに、前記1辺の延長線に添うように延在されていることを特徴とする請求項1に記載の電気泳動表示装置。
【請求項3】
前記フローティング電極は、前記1辺の延長線上にある前記隣り合う画素電極の1辺に沿うように設けられたフローティング電極まで延在して設けられていることを特徴とする請求項2に記載の電気泳動表示装置。
【請求項4】
前記フローティング電極は、前記画素電極の周囲を囲むように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電気泳動表示装置。
【請求項5】
前記画素電極と前記フローティング電極とは形成材料が同じであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電気泳動表示装置。
【請求項6】
前記画素電極と、前記画素電極に隣り合う前記フローティング電極との間に、前記接着剤層よりも電気抵抗の大きい材料で形成された絶縁層が設けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電気泳動表示装置。
【請求項7】
前記絶縁層は前記フローティング電極を覆って設けられており、前記画素電極の上面よりも前記電気泳動素子側に突出していることを特徴とする請求項6に記載の電気泳動表示装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の電気泳動表示装置を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−20231(P2010−20231A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182816(P2008−182816)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)