説明

電気泳動表示装置の駆動方法、電気泳動表示装置、及び電子機器

【課題】 フリッカの発生を抑制して高コントラストの表示を行いつつ、微細な線、模様、形状を明瞭に表示できる電気泳動表示装置の駆動方法等を提供する。
【解決手段】 共通電極に第1の電位と第2の電位とを繰り返す駆動パルス信号に基づく電圧を印加し、複数の画素電極のそれぞれに第1の電位、第2の電位、駆動パルス信号に基づく電圧のいずれかを印加し、画素電極と共通電極との間に生じた電界によって電気泳動粒子を移動させて表示部に表示される画像を書き換える画像書き換え工程は、第1の電位のパルス幅が第1の幅である駆動パルス信号を用いる第1パルス印加工程S60と、第1の電位のパルス幅が第1の幅よりも長い第2の幅である駆動パルス信号を用いる第2パルス印加工程S61と、第1の電位のパルス幅が第2の幅よりも短い第3の幅である駆動パルス信号を用いる第3パルス印加工程S62とを順に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気泳動表示装置の駆動方法、電気泳動表示装置、及び電子機器等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電源を切っても画像を保持できるメモリー性を有する表示パネルが開発され、電子時計等にも使用されている。メモリー性を有する表示パネルとしては、EPD(Electrophoretic Display)すなわち電気泳動表示装置や、メモリー性液晶表示装置等が知られている。
【0003】
電気泳動表示装置においては、色の変化が急激な駆動の初期に、長いパルス幅の信号を用いた駆動を行うとフリッカが発生することが知られている。特許文献1の発明に係る電気泳動表示装置の駆動方法は、第1パルス信号を共通電極に加える第1パルス印加工程と、第1パルス信号に比べてパルス幅が長い第2パルス信号を共通電極に加える第2パルス印加工程とを備える。そして、色の変化が急激な駆動の初期には第1パルス印加工程を行い、ある程度所望の色表示に近づいた後に第2パルス印加工程を行うことで、フリッカの発生を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−134245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、電気泳動表示装置には例えば1〜2画素幅といった微細な線により画像を明瞭に表示できるような表示性能が求められるようになってきている。特許文献1の発明に係る電気泳動表示装置の駆動方法では、最後のパルスで表示させた色が、異なる色を表示している隣接画素の表示領域まで広がるような現象があることが実験により確認された。表示画素数が大きい場合や微細な線での表現が求められない場合においては、特許文献1の発明に係る電気泳動表示装置の駆動方法でも問題はない。しかしながら、腕時計や携帯機器の表示部等のように表示画素数が限られており、かつ微細な表現力が求められる用途においては更なる改良を必要とする。
【0006】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものである。本発明のいくつかの態様によれば、フリッカの発生を抑制して高コントラストの表示を行いつつ、微細な線、模様、形状を明瞭に表示できる電気泳動表示装置の駆動方法等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、一対の基板間に電気泳動粒子を含む電気泳動素子を狭持してなり、少なくとも第1色と第2色を表示可能な画素を複数配置する表示部を含み、一方の前記基板と前記電気泳動素子との間に前記画素に対応する画素電極が形成され、他方の前記基板と前記電気泳動素子との間に、複数の前記画素電極と対向する共通電極が形成された電気泳動表示装置の駆動方法であって、前記共通電極に第1の電位と第2の電位とを繰り返す駆動パルス信号に基づく電圧を印加し、複数の前記画素電極のそれぞれに前記第1の電位、前記第2の電位、および前記駆動パルス信号に基づく電圧のいずれかを印加し、前記画素電極と共通電極との間に生じた電界によって前記電気泳動粒子を移動させることで前記表示部に表示される画像を書き換える画像書き換え工程を含み、前記画像書き換え工程は、前記第1の電位のパルス幅が第1の幅である前記駆動パルス信号を用いる第1パルス印加工程と、前記第1パルス印加工程の後に実行され、前記第1の電位のパルス幅が前記第1の幅よりも長い第2の幅である前記駆動パルス信号を用いる第2パルス印加工程と、前記第2パルス印加工程の後に実行され、前記第1の電位のパルス幅が前記第2の幅よりも短い第3の幅である前記駆動パルス信号を用いる第3パルス印加工程と、を含む。
【0008】
本発明によれば、画像を書き換える画像書き換え工程として、第1パルス印加工程、第2パルス印加工程、第3パルス印加工程の順に行うことで、フリッカの発生を抑制して高コントラストの表示を行いつつ、微細な線、模様、形状を明瞭に表示できる。
【0009】
本発明では、共通電極に供給する駆動パルス信号を第1〜第3パルス印加工程で変化させている。具体的には、第1の電位のパルス幅が第1の幅である駆動パルス信号(以下、第1パルス信号とする)、第1の電位のパルス幅が第1の幅よりも長い第2の幅である駆動パルス信号(以下、第2パルス信号とする)、第1の電位のパルス幅が第2の幅よりも短い第3の幅である駆動パルス信号(以下、第3パルス信号とする)を用いる。
【0010】
まず、第2パルス信号に基づく電圧を印加するとフリッカが目立つ区間では、第1パルス印加工程が実行される。第1パルス印加工程では、第1の電位のパルス幅が第2パルス信号より短い第1パルス信号に基づく電圧が共通電極に印加されるので、色の急激な変化を抑えるのでフリッカが発生しない。そして、第2パルス信号に基づく電圧を印加してもフリッカが目立たない区間に移ってから第2パルス印加工程が実行され、第2パルス信号に基づく電圧が共通電極に印加される。第2パルス信号のパルス幅は、電気泳動粒子を十分移動させて所望の反射率を得られる程長い。そのため、コントラストを向上させることができる。その一方で、長いパルス幅により斜め方向の電界に沿って電気泳動粒子を隣接画素の表示領域まで移動させてしまい、表示画像をにじませる可能性がある。そこで、第3パルス印加工程を実行し、隣接画素の表示領域まで広がった電気泳動粒子を隣接画素との中央境界線付近まで戻す。
【0011】
第1パルス印加工程および第2パルス印加工程によって、フリッカの発生を抑制して高コントラストの表示を行うことができる。そして、第3パルス印加工程によって微細な線、模様、形状を明瞭に表示することができる。
【0012】
ここで、中央境界線とは、行方向および列方向のそれぞれについて画素電極の間隔の中央を結んでできる線である。別の言い方をすると、画素のそれぞれに等しい面積を割り当てたときの行方向および列方向の境界を示す線である(例えば、図4(C)の中央境界線8参照)。また、第1の電位と第2の電位とは異なる電位であって駆動パルス信号のハイレベルとローレベルを表す電位である。なお、第1色と第2色とは、電気泳動表示装置が最低限表示可能な基本色である2色である。例えば、二粒子系マイクロカプセル型の電気泳動方式では、分散液は無色透明、電気泳動粒子は白色又は黒色のものがある。この方式の電気泳動表示部は、白色又は黒色の2色を基本色として少なくとも2色を表示可能である。このとき、第1色として電気泳動粒子の1つの色である黒色を割り当て、第2色として白色を割り当ててもよい。逆に、第1色として白色を、第2色として黒色を割り当ててもよい。
【0013】
複数の画素電極のそれぞれには、表示する画像に応じて第1の電位、第2の電位、および駆動パルス信号に基づく電圧のいずれかが印加される。例えば、表示部の全体を描画する全面駆動が行われる場合、複数の画素電極のそれぞれには第1の電位、又は第2の電位が表示する画像に応じて印加される。また、表示部の一部の画素が駆動される部分駆動が行われる場合、例えば色表示を変化させる画素の画素電極には駆動パルス信号を反転した信号が供給され、色表示を変化させない画素の画素電極には駆動パルス信号と同一の信号が供給される。
【0014】
(2)この電気泳動表示装置の駆動方法において、前記電気泳動粒子として、前記第1色を表示する第1の電気泳動粒子と、前記第2色を表示する第2の電気泳動粒子とが含まれ、前記第3パルス印加工程は、前記第2の電気泳動粒子の径が前記第1の電気泳動粒子の径よりも大きい場合には、前記第1色を表示させて前記共通電極の駆動を終了する前記駆動パルス信号を用い、前記第2の電気泳動粒子の径が前記第1の電気泳動粒子の径以下である場合には、前記第2色を表示させて前記共通電極の駆動を終了する前記駆動パルス信号を用いてもよい。
【0015】
画像書き換え工程において最後のパルスで表示させた色の電気泳動粒子が隣接画素の表示領域まで広がりやすいことが別の実験により確認されている。ここで、最後のパルスとは共通電極と画素電極とを駆動停止(ハイインピーダンス)状態にする直前のパルスを意味する。このとき、最後のパルスのパルス幅が短い場合には広がり方が小さくなるが、最後のパルスで表示させた色の電気泳動粒子が広がりやすいとの傾向は変わらない。
【0016】
ここで、電気泳動表示装置が第1色を表示するための第1の電気泳動粒子と、前記第2色を表示するための第2の電気泳動粒子とを含むとすると、径の大きい粒子の色の方が表示部において目立ちやすい(図7(E)参照)。径の小さい粒子は、径の大きい粒子の隙間に入り込んで分散して存在する可能性がある。一方、径の大きい粒子は1つであっても径の小さい粒子がいくつも固まっているのと同じような広い表示面積を占めることが可能だからである。
【0017】
よって、径の大きい粒子の色が最後のパルスによって広がった場合、隣接画素の表示領域にそれほど入っておらず中央境界線付近に存在する場合でも、目立ちやすさのために隣接画素の領域まで広がっているように見えてしまう。
【0018】
本発明では、第3パルス印加工程において、径の小さい方の電気泳動粒子の色を表示するように最後のパルスを駆動することでこの問題を解決し、微細な線、模様、形状を明瞭に表示するように見栄えを改善する。
【0019】
ここで、第1色として電気泳動粒子の1つの色である黒色を割り当て、第2色として白色を割り当てるとする。そして、白色(第2色)の電気泳動粒子の径の方が大きいとした場合の1つの具体例を説明する。大きな白色(第2色)粒子は負に帯電しており、小さな黒色(第1色)粒子は正に帯電しているとすると、視認される共通電極側に小さな黒色粒子が引き寄せられるように最後のパルスを駆動すればよい。表示部の全体を描画する全面駆動が行われているとすると、第3パルス信号の最後のパルスとしてローレベルを表す電位を共通電極に印加すればよい。このとき、目立ちにくい黒色粒子が広がっても、隣接画素の領域まで広がっているようには見えないため見栄えが改善される。
【0020】
(3)この電気泳動表示装置の駆動方法において、前記第3パルス印加工程は、前記第3の幅を前記第1の幅と等しくしてもよい。
【0021】
(4)この電気泳動表示装置の駆動方法において、前記第3パルス印加工程は、前記第3の幅を前記第1の幅よりも短くしてもよい。
【0022】
これらの発明によれば、さらに第3パルス印加工程の第3の幅を、第1パルス印加工程の第1の幅との関係に基づいて決定してもよい。例えば、第3の幅を第1の幅と等しくしてもよい。このとき、第1の電位のパルス幅を第1パルス印加工程と第3パルス印加工程とで共通化できるので回路規模を小さくすることができる。もし、第2の電位のパルス幅も共通であれば、更に回路規模を小さくできる。また、例えば、第3の幅を第1の幅よりも短くしてもよい。このとき、第3パルス印加工程を早く終了させることが可能であり、画像書き換え工程の全体の処理時間を早めることができる。
【0023】
(5)本発明は、電気泳動表示装置であって、一対の基板間に電気泳動粒子を含む電気泳動素子を狭持してなり、少なくとも第1色と第2色を表示可能な画素を複数配置する表示部と、前記表示部を制御する制御部と、を含み、前記表示部は、一方の前記基板と前記電気泳動素子との間に前記画素に対応して形成された画素電極と、他方の前記基板と前記電気泳動素子との間に、複数の前記画素電極と対向して形成された共通電極と、を含み、前記制御部は、前記共通電極に第1の電位と第2の電位とを繰り返す駆動パルス信号に基づく電圧を印加し、複数の前記画素電極のそれぞれに前記第1の電位、前記第2の電位、および前記駆動パルス信号に基づく電圧のいずれかを印加し、前記画素電極と共通電極との間に生じた電界によって前記電気泳動粒子を移動させることで前記表示部に表示される画像を書き換える画像書き換え制御を行い、前記画像書き換え制御において、前記第1の電位のパルス幅が第1の幅である前記駆動パルス信号を用いる第1パルス印加制御と、前記第1パルス印加制御の後に実行され、前記第1の電位のパルス幅が前記第1の幅よりも長い第2の幅である前記駆動パルス信号を用いる第2パルス印加制御と、前記第2パルス印加制御の後に実行され、前記第1の電位のパルス幅が前記第2の幅よりも短い第3の幅である前記駆動パルス信号を用いる第3パルス印加制御と、を行う。
【0024】
本発明によれば、制御部は画像を書き換える画像書き換え制御として、第1パルス印加制御、第2パルス印加制御、第3パルス印加制御の順に行うことで、フリッカの発生を抑制して高コントラストの表示を行いつつ、微細な線、模様、形状を明瞭に表示できる。
【0025】
まず、第2パルス信号に基づく電圧を印加するとフリッカが目立つ区間では、第1パルス印加制御が実行される。第1パルス印加制御では、第1の電位のパルス幅が第2パルス信号より短い第1パルス信号に基づく電圧が共通電極に印加されるので、色の急激な変化を抑えるのでフリッカが発生しない。そして、第2パルス信号に基づく電圧を印加してもフリッカが目立たない区間に移ってから第2パルス印加制御が実行され、第2パルス信号に基づく電圧が共通電極に印加される。第2パルス信号のパルス幅は、電気泳動粒子を十分移動させて所望の反射率を得られる程長い。そのため、コントラストを向上させることができる。その一方で、長いパルス幅により斜め方向の電界に沿って電気泳動粒子を隣接画素の表示領域まで移動させてしまい、表示画像をにじませる可能性がある。そこで、第3パルス印加制御を実行し、隣接画素の表示領域まで広がった電気泳動粒子を隣接画素との中央境界線付近まで戻す。
【0026】
第1パルス印加制御および第2パルス印加制御によって、フリッカの発生を抑制して高コントラストの表示を行うことができる。そして、第3パルス印加制御によって微細な線、模様、形状を明瞭に表示することができる。
【0027】
(6)この電気泳動表示装置において、前記電気泳動粒子として、前記第1色を表示する第1の電気泳動粒子と、前記第2色を表示する第2の電気泳動粒子とを含み、前記制御部は、前記第3パルス印加制御において、前記第2の電気泳動粒子の径が前記第1の電気泳動粒子の径よりも大きい場合には、前記第1色を表示させて前記共通電極の駆動を終了する前記駆動パルス信号を用い、前記第2の電気泳動粒子の径が前記第1の電気泳動粒子の径以下である場合には、前記第2色を表示させて前記共通電極の駆動を終了する前記駆動パルス信号を用いてもよい。
【0028】
径の大きい粒子の色の方が表示部において目立ちやすい。よって、径の大きい粒子の色が最後のパルスによって広がった場合、隣接画素の表示領域にそれほど入っておらず中央境界線付近に存在する場合でも、目立ちやすさのために隣接画素の領域まで広がっているように見えてしまう。
【0029】
本発明では、第3パルス印加制御において、径の小さい方の電気泳動粒子の色を表示するように最後のパルスを駆動することでこの問題を解決し、微細な線、模様、形状を明瞭に表示するように見栄えを改善する。
【0030】
(7)この電気泳動表示装置において、前記制御部は、前記第3パルス印加制御において、前記第3の幅を前記第1の幅と等しくしてもよい。
【0031】
(8)この電気泳動表示装置において、前記制御部は、前記第3パルス印加制御において、前記第3の幅を前記第1の幅よりも短くしてもよい。
【0032】
これらの発明によれば、さらに第3パルス印加制御の第3の幅を、第1パルス印加制御の第1の幅との関係に基づいて決定してもよい。例えば、第3の幅を第1の幅と等しくしてもよい。このとき、第1の電位のパルス幅を第1パルス印加制御と第3パルス印加制御とで共通化できるので回路規模を小さくすることができる。もし、第2の電位のパルス幅も共通であれば、更に回路規模を小さくできる。また、例えば、第3の幅を第1の幅よりも短くしてもよい。このとき、第3パルス印加制御を早く終了させることが可能であり、画像書き換え制御の全体の処理時間を早めることができる。
【0033】
(9)本発明は、前記電気泳動表示装置を含む電子機器であってもよい。
【0034】
本発明によれば、その制御部が画像を書き換える画像書き換え制御として、第1パルス印加制御、第2パルス印加制御、第3パルス印加制御の順に行う電気泳動表示装置を含むことで、フリッカの発生を抑制して高コントラストの表示を行いつつ、微細な線、模様、形状を明瞭に表示できる電子機器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】第1実施形態における電気泳動表示装置のブロック図。
【図2】第1実施形態における電気泳動表示装置の画素の構成例を示す図。
【図3】図3(A)は電気泳動素子の構成例を示す図。図3(B)〜図3(C)は電気泳動素子の動作の説明図。
【図4】図4(A)〜図4(B)は、問題となる表示例を示す図、およびy−y線に沿って切断された断面図。図4(C)は、改善された表示例を示す図、およびy−y線に沿って切断された断面図。
【図5】図5(A)〜図5(B)は、第1実施形態の駆動方法のフローチャート。
【図6】図6(A)〜図6(B)は、第1実施形態の駆動方法を説明する図。
【図7】図7(A)〜図7(D)は電気泳動表示装置の駆動方法の波形図。図7(E)は電気泳動素子の実際的な構成例を示す図。
【図8】図8(A)〜図8(D)は2画素市松模様の表示例を示す図。
【図9】図9(A)〜図9(B)は逆電位駆動を説明する図。
【図10】図10は変形例における駆動方法を説明する図。
【図11】図11(A)〜図11(B)は適用例における電子機器を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、変形例、適用例の説明において、第1実施形態と同様の構成については、同一符号を付し、説明を省略する。
【0037】
1.第1実施形態
本発明の第1実施形態について図1〜図8(D)を参照して説明する。
【0038】
1.1.電気泳動表示装置
1.1.1.電気泳動表示装置の構成
図1は、本実施形態に係るアクティブマトリックス駆動方式の電気泳動表示装置100のブロック図である。
【0039】
電気泳動表示装置100は、制御部6、記憶部160、表示部5を含む。制御部6は、表示部5を制御し、走査線駆動回路61、データ線駆動回路62、コントローラー63、共通電源変調回路64を含む。走査線駆動回路61、データ線駆動回路62,共通電源変調回路64は、それぞれコントローラー63と接続されている。コントローラー63は、記憶部160から読み出される画像信号等や図外から供給される同期信号に基づいて、これらを総合的に制御する。なお、制御部6は記憶部160を含む構成であってもよい。例えば、記憶部160は、コントローラー63に内蔵されたメモリーであってもよい。
【0040】
ここで、記憶部160は、SRAM、DRAM、その他のメモリーであってもよく、少なくとも表示部5に表示させる画像のデータ(画像信号)を記憶している。また、記憶部160には、コントローラー63によって制御に必要な情報が記憶されてもよい。
【0041】
表示部5には、走査線駆動回路61から延びる複数の走査線66と、データ線駆動回路62から延びる複数のデータ線68とが形成されており、これらの交差位置に対応して複数の画素40が設けられている。
【0042】
走査線駆動回路61は、m本の走査線66(Y、Y、…、Y)により各画素40に接続されている。走査線駆動回路61は、コントローラー63の制御に従って1行目からm行目までの走査線66を順次選択することで、画素40に設けられた駆動用TFT41(図2参照)のオンタイミングを規定する選択信号を供給する。
【0043】
データ線駆動回路62は、n本のデータ線68(X、X、…、X)により各画素40に接続されている。データ線駆動回路62は、コントローラー63の制御に従って、画素40のそれぞれに対応する1ビットの画像データを規定する画像信号を画素40に供給する。なお、本実施形態では、画素データ「0」を規定する場合には、ローレベルの画像信号を画素40に供給し、画像データ「1」を規定する場合には、ハイレベルの画像信号を画素40に供給するものとする。
【0044】
表示部5には、また、共通電源変調回路64から延びる低電位電源線49(Vss)、高電位電源線50(Vdd)、共通電極配線55(Vcom)、第1のパルス信号線91(S)、第2のパルス信号線92(S)が設けられており、それぞれの配線は画素40と接続されている。共通電源変調回路64は、コントローラー63の制御に従って上記配線のそれぞれに供給する各種信号を生成する一方、これら各配線の電気的な接続及び切断(ハイインピーダンス化、Hi−Z)を行う。
【0045】
1.1.2.画素部分の回路構成
図2は、図1の画素40の回路構成図である。なお、図1と同じ配線には同じ番号を付しており、説明は省略する。また、全画素に共通の共通電極配線55については記載を省略している。
【0046】
画素40には、駆動用TFT(Thin Film Transistor)41と、ラッチ回路70と、スイッチ回路80が設けられている。画素40は、ラッチ回路70により画像信号を電位として保持するSRAM(Static Random Access Memory)方式の構成をとる。
【0047】
駆動用TFT41は、N−MOSトランジスタからなる画素スイッチング素子である。駆動用TFT41のゲート端子は走査線66に接続され、ソース端子はデータ線68に接続され、ドレイン端子はラッチ回路70のデータ入力端子に接続されている。ラッチ回路70は転送インバーター70tと帰還インバーター70fとを備えている。インバーター70t、70fには、低電位電源線49(Vss)と高電位電源線50(Vdd)から電源電圧が供給される。
【0048】
スイッチ回路80は、トランスミッションゲートTG1、TG2からなり、ラッチ回路70に記憶された画素データのレベルに応じて、画素電極35(図3(B)、図3(C)参照)に信号を出力する。なお、Vaは、1つの画素40の画素電極へ供給される電位(信号)を意味する。
【0049】
ラッチ回路70に画像データ「1」(ハイレベルの画像信号)が記憶されて、トランスミッションゲートTG1がオン状態となると、スイッチ回路80はVaとして信号Sを供給する。一方、ラッチ回路70に画像データ「0」(ローレベルの画像信号)が記憶されて、トランスミッションゲートTG2がオン状態となると、スイッチ回路80はVaとして信号Sを供給する。このような回路構成により、制御部6はそれぞれの画素40の画素電極に対して供給する電位(信号)を制御することが可能である。なお、画素40の回路構成は一例であり、図2に示すものに限られない。
【0050】
1.1.3.表示方式
本実施形態の電気泳動表示装置100は、二粒子系マイクロカプセル型の電気泳動方式であるとする。分散液は無色透明、電気泳動粒子は白色又は黒色のものであるとすると、白色又は黒色の2色を基本色として少なくとも2色を表示できる。ここでは、電気泳動表示装置100は、第1色として黒色を、第2色として白色を表示するものとして説明する。そして、黒(第1色)を表示している画素を白(第2色)で表示すること、又は白を表示している画素を黒で表示することを反転と表現する。
【0051】
図3(A)は、本実施形態の電気泳動素子32の構成を示す図である。電気泳動素子32は素子基板30と対向基板31(図3(B)、図3(C)参照)との間に挟まれている。電気泳動素子32は、複数のマイクロカプセル20を配列して構成される。マイクロカプセル20は、例えば無色透明な分散液と、複数の白色粒子(電気泳動粒子)27と、複数の黒色粒子(電気泳動粒子)26とを封入している。本実施形態では、例えば白色粒子27は負に帯電しており、黒色粒子26は正に帯電しているとする。
【0052】
図3(B)は、電気泳動表示装置100の表示部5の部分断面図である。素子基板30と対向基板31は、マイクロカプセル20を配列してなる電気泳動素子32を狭持している。表示部5は、素子基板30の電気泳動素子32側に、複数の画素電極35が形成された駆動電極層350を含む。図3(B)では、画素電極35として画素電極35Aと画素電極35Bが示されている。画素電極35により、画素ごとに電位を供給することが可能である(例えば、Va、Vb)。ここで、画素電極35Aを有する画素を画素40Aとし、画素電極35Bを有する画素を画素40Bとする。画素40A、画素40Bは画素40(図1、図2参照)に対応する2つの画素である。
【0053】
一方、対向基板31は透明基板であり、表示部5において対向基板31側に画像表示がなされる。表示部5は、対向基板31の電気泳動素子32側に、平面形状の共通電極37が形成された共通電極層370を含む。なお、共通電極37は透明電極である。共通電極37は、画素電極35と異なり全画素に共通の電極であり、電位Vcomが供給される。
【0054】
共通電極層370と駆動電極層350との間に設けられた電気泳動表示層360に電気泳動素子32が配置されており、電気泳動表示層360が表示領域となる。共通電極37と画素電極(例えば、35A、35B)との間の電位差に応じて、画素毎に所望の表示色を表示させることができる。
【0055】
図3(B)では、共通電極側電位Vcomが画素40Aの画素電極の電位Vaよりも高電位である。このとき、負に帯電した白色粒子27が共通電極37側に引き寄せられ、正に帯電した黒色粒子26が画素電極35A側に引き寄せられるため、画素40Aは白を表示していると視認される。
【0056】
図3(C)では、共通電極側電位Vcomが画素40Aの画素電極の電位Vaよりも低電位である。このときは逆に、正に帯電した黒色粒子26が共通電極37側に引き寄せられ、負に帯電した白色粒子27が画素電極35A側に引き寄せられるため、画素40Aは黒を表示していると視認される。なお、図3(C)の構成は図3(B)と同様であり説明は省略する。また、図3(B)、図3(C)ではVa、Vb、Vcomを固定された電位として説明したが、実際にはVa、Vb、Vcomは時間とともに電位が変化するパルス信号である。
【0057】
1.2.電気泳動表示装置の駆動方法
1.2.1.微細な表示を行う場合の問題
ここで、第1パルス信号を共通電極に加える第1パルス印加工程と、第1パルス信号に比べてパルス幅が長い第2パルス信号を共通電極に加える第2パルス印加工程とを続けて実行する電気泳動表示装置の駆動方法を比較例と呼ぶ(特許文献1)。比較例は、フリッカの発生を抑制して高コントラストの表示を行うが、最後のパルスで表示させた色が異なる色を表示している隣接画素の表示領域まで広がるような現象があることが実験により確認されている。この現象は常温(例えば25℃)においてもみられるが、特に電気泳動粒子が移動しやすい高温(例えば50℃)において顕著である。
【0058】
電気泳動表示装置には例えば1〜2画素幅といった微細な線により画像を明瞭に表示できるような表示性能が求められるようになってきている。1〜2画素幅とは例えば85〜170μm程度であり、比較例に係る駆動方法では、このような隣接画素への広がりによって微細な線がかすれたり、見栄えが悪くなったりする可能性がある。そこで、本実施形態では比較例を改良してこの問題の解決を図っている。以下に、図4(A)〜図4(C)を参照して、この問題の具体例を示す。
【0059】
図4(A)〜図4(B)は、比較例による色の広がりの例を示し、図4(C)は本実施形態によって見栄えが改善された例を示している。図4(A)〜図4(C)は、表示部5のうち5画素×5画素の領域における1画素の線幅をもつ黒色の線の表示例(左図)と、y−y線に沿った断面図(右図)を示す。中央境界線8は、行方向および列方向のそれぞれについて画素電極の間隔の中央を結んでできる線である。別の言い方をすると、画素のそれぞれに等しい面積を割り当てたときの行方向および列方向の境界を示す線である。なお、図4(A)〜図4(C)の左図における斜線は黒色での表示を示している。また、図4(A)〜図4(C)にはy−y線に沿って隣接する画素40A、40Bが含まれている。
【0060】
図4(A)〜図4(C)の右図において、Va、Vbはそれぞれ画素40Aの画素電極35A、画素40Bの画素電極35Bに供給される信号(電位)を表す。Vcomは共通電極37に供給される信号である。画素40Aと画素40Bの回路構成は図2と同じであり、それぞれのラッチ回路に保持された画像データに応じて、Va、VbとしてSまたはSを出力する。それぞれの信号Va、Vb、Vcomは、ハイレベル(VH)、ローレベル(VL)、またはハイインピーダンス状態(Hi−Z)をとり得るものとする。
【0061】
図4(A)は、比較例の第2パルス印加工程で最後のパルスを与えたときの状態を示している。比較例ではこの後に駆動停止(ハイインピーダンス状態)となり、その様子は図4(B)で表される。図4(A)では、白色表示を行うVcom(=VH)が共通電極37に供給され、ローレベルのVa(=VL)が供給されている画素電極35Aとの間で白色粒子を共通電極37側に引き寄せる電界が生じる。なお、共通電極37と同電位のVb(=VH)が供給されている画素電極35Bとの間には電界は生じない。
【0062】
ここで、図4(A)の中央のマイクロカプセルに着目する。共通電極37と画素電極35Aとの間で生じる電界は、これらの電極を最短距離で結ぶ垂直方向だけでなく、斜め方向にも生じる(図4(A)の矢印)。最後のパルスを含めて第2パルス印加工程のパルスの幅は長くなっているため、例えば第1パルス印加工程と比較しても、斜め方向の電界が電気泳動粒子に作用する時間が長くなっている。そのため、中央境界線8を越えた画素40B側においても白色粒子が共通電極37に引き寄せられて、白色の表示エリアが広がったように見える。そのため、図4(A)左図のように、理想的には中央境界線8で区切られて1画素の線幅をもつ黒色の線が、広がった白色のせいで幅が狭められてかすれたように見える。
【0063】
そして、図4(B)右図のように、比較例ではその後にハイインピーダンス状態となる。このとき、第2パルス印加工程のパルスの幅は長くなっているため、電気泳動粒子の移動量が大きい。そのため、ハイインピーダンス状態となっても、分散液の対流によってさらに最後のパルスで表示した色(この例では白色)の表示エリアが広がる傾向がある。すると、図4(B)左図のように、微細な線はさらにかすれて表示される恐れがある。
【0064】
そこで、本実施形態では、斜め方向の電界が電気泳動粒子に作用する時間を長くせず、電気泳動粒子の移動量を小さくして分散液の対流の影響を抑えて駆動停止状態に移行する。これにより比較例の問題を解決し、図4(C)右図のように電気泳動粒子が中央境界線8を越えないようにし、図4(C)左図のように1画素の線幅の線であっても明瞭に表示されるようにする。以下に本実施形態の電気泳動表示装置の駆動方法を図5(A)〜図5(B)を参照して説明する。
【0065】
1.2.2.フローチャート
図5(A)は、第1実施形態における電気泳動表示装置の駆動方法を示すメインルーチンのフローチャートである。
【0066】
コントローラー63は表示部5に表示させる画像を書き換える場合、まず、記憶部160から画像信号を取得して、走査線駆動回路61、データ線駆動回路62を制御して各画素にデータを転送するデータ転送工程を実行する(S2)。
【0067】
次に、コントローラー63は、共通電源変調回路64によって、画像信号に基づいて表示部5に表示させる画像を書き換える画像書き換え工程を実行する(S6)。画像書き換え工程では、フリッカの発生を抑制して高コントラストの表示を行いつつ、微細な線、模様、形状を明瞭に表示するために、以下のサブルーチンのフローチャートに従う。
【0068】
図5(B)は、第1実施形態における画像書き換え工程S6のサブルーチンのフローチャートである。本実施形態では、画像書き換え工程S6は、第1パルス印加工程S60、第2パルス印加工程S61、第3パルス印加工程S62、駆動停止S64を含む。
【0069】
第1パルス印加工程S60は、第2パルス信号に基づく電圧を印加するとフリッカが目立つ区間において第1パルス信号に基づく電圧を共通電極に印加する。第1パルス信号は、第2パルス信号よりも第1の電位のパルス幅が短い。そのため、第1パルス印加工程S60では色の変化幅が小さくフリッカの発生を抑えることができる。フリッカが目立つ区間とは、画像書き換え工程の前半と決めてもよいし、例えば白色又は黒色を表す所望の反射率への到達度が80%程度になるまでとしてもよい。第1の電位とはハイレベル(VH)、又はローレベル(VL)であって、後述するように駆動方式によって適当に選択される。例えば、全面駆動を行う場合には等しい間隔でVHとVLを繰り返す駆動パルス信号が用いられるので、第1の電位がVHであるか、VLであるかは問題にならない。
【0070】
第2パルス印加工程S61は、フリッカが目立たない区間において第2パルス信号に基づく電圧を共通電極に印加する。長いパルス幅をもつ第2パルス信号によって、電界が電気泳動粒子に作用する時間を長くして、所望の反射率に近い反射率を得る。
【0071】
第3パルス印加工程S62は、微細な線、模様、形状を明瞭に表示するための工程であり、第2パルス印加工程S61の後に、第3パルス信号に基づく電圧を共通電極に印加する。前記の通り、第2パルス印加工程S61の後で駆動停止を行うと、最後のパルスで表示させた色が異なる色を表示している隣接画素の表示領域まで広がる。そのため微細な線等を明瞭に表示することができなかった。第3パルス印加工程S62は、第1の電位のパルス幅が第2パルス信号よりも短い第3パルス信号に基づく電圧を共通電極に印加して、その後に駆動停止を行うので微細な線等を明瞭に表示できる。つまり、第3パルス信号では電界が電気泳動粒子に作用する時間が短いために斜め方向の電界に沿った電気泳動粒子の移動が少ない。そのため最後のパルスで表示させた色が隣接画素の表示領域まで広がることを抑えることができる。
【0072】
そして、本実施形態では第3パルス印加工程S62の後に駆動停止S64する。このとき、第3パルス信号では大きな電気泳動粒子の移動はないので分散液の対流の影響はあまりなく、微細な線、模様、形状の明瞭な表示が維持されやすい。
【0073】
1.2.3.波形図と色の変化の例
図6(A)〜図6(B)は、第1実施形態の駆動方法によって全面駆動を行う場合の例を示す。なお、図中のVa、Vb、VcomやVH、VLは、図3(A)〜図4(C)と同じであり説明を省略する。
【0074】
図6(A)は、第1実施形態の電気泳動表示装置の駆動方法によって、画素40Aを黒色から白色に、画素40Bを白色から黒色に変化させる場合の波形図を示す。図6(A)では、画像書き換え工程を通じてVaはローレベル(VL)のままであり、Vbはハイレベル(VH)のままである。そして、Vcomは第1〜第3パルス印加工程のそれぞれでVLとVHとを等しい時間だけ繰り返している。つまり、図6(A)のT1=T2、T3=T4、T5=T6の関係が成立しており、後述する逆電位駆動の場合と異なり第1の電位をVLとしても、VHとしてもかまわない。この例では第1の電位をVLとして、T1(第1の幅)、T3(第2の幅)、T5(第3の幅)について説明する。
【0075】
第1パルス印加工程においては、フリッカが目立たないように、第1パルス信号のT1(第1の幅)は短い必要がある。ただし、T1短すぎると第1パルス印加工程に時間がかかるため、例えばT1=20msとする。
【0076】
第2パルス印加工程においては、第2パルス信号のT3(第2の幅)はT1(第1の幅)よりも大きな値である。十分な反射率が得られるまで電気泳動粒子を移動させられるように、例えばT3=200msとする。
【0077】
第3パルス印加工程においては、第3パルス信号のT5(第3の幅)はT3(第2の幅)よりも小さな値である。ここで、第3パルス印加工程は、隣接画素の表示領域まで広がった電気泳動粒子を隣接画素との中央境界線付近まで戻すための工程であり、本工程での電気泳動粒子の移動量は小さい。よって、T5はT1と同じかそれ未満のパルス幅でよい。例えば、T5=20msとする。このときT1=T5=20msとなり、パルスを発生させる回路の規模を小さくできる。別の例としてT5=10msでもよい。このとき、第3パルス印加工程を早く終了させることが可能であり、画像書き換え工程の全体の処理時間を早めることができる。
【0078】
なお、第1〜第3パルス印加工程において駆動パルス信号の繰り返し回数は、例えば第1パルス信号は20回、第2パルス信号は2回、第3パルス信号は10回としてもよい。実験によると、第1〜第3パルス印加工程において駆動パルス信号の繰り返し回数をこれより増やしてもあまり変化がないとの結果が得られている。
【0079】
図6(B)は、図6(A)の例による画素40A、画素40Bの色の変化を示す図である。まず、第1パルス印加工程ではフリッカを生じさせることなく所望の色の反射率に対して80%程度まで変化させる。そして、第2パルス印加工程では、パルス幅の長い第2パルス信号によってほとんど所望の色になるまで変化させて高いコントラストを得る。そして、第3パルス印加工程では、パルス幅の短い第3パルス信号によって、微細な線、模様、形状を明瞭に表示する。
【0080】
1.2.4.電気泳動粒子の径が大きく異なる場合の問題
先の例では、黒色を表示させる電気泳動粒子(黒色粒子)と白色を表示させる電気泳動粒子(白色粒子)とがほぼ同じ径を持つとしている(図3(A)参照)。しかし、現実には大きく異なる場合がある。一例として、マイクロカプセルの直径が約30μmであるところ、黒色粒子の直径が10〜30nm、白色粒子の直径が100〜300nmであり、白色粒子が黒色粒子の10倍大きい。
【0081】
このとき、図7(E)のように表示部において白色が目立ちやすい。白色粒子の隙間に小さい黒色粒子が入り込んでしまう一方で、白色粒子は1つでも径の小さい粒子がいくつも固まっているのと同じような広い表示面積を占めることが可能だからである。なお、図7(E)の記号等は図3(A)と同じであり、説明を省略する。
【0082】
しかし、このような場合においても、駆動パルス信号をほとんど変えることなく第1実施形態の駆動方法を用いることが可能であり、微細な線、模様、形状を明瞭に表示することができる。
【0083】
1.2.5.駆動パルス信号を変更した場合の比較
第1実施形態の駆動方法および比較例を用いて、図7(E)のように白色粒子の方が大きい電気泳動素子32を含む電気泳動表示装置を駆動する場合について検討する。ここでは、駆動停止の直前に供給される最後のパルスを変えることによる2画素市松模様の見栄えの変化について、図7(A)〜図7(D)、図8(A)〜図8(D)を参照して説明する。2画素市松模様とは、白色または黒色の正方形が2画素×2画素で表示されている市松模様のことである。なお、この例では、最後のパルスが黒色を表示する場合を「黒書き」、白色を表示する場合を「白書き」と呼ぶ。また、図1〜図6(B)と同じ要素については同じ番号を付しており説明は省略する。
【0084】
図7(A)は、比較例によって白書きを行う場合の波形を示している。なお、画素電極については図6(A)のVa、VbのようにVH、VLのいずれかが供給されており図7(A)〜図7(D)においては表示を省略する。比較例では第2パルス印加工程の後に駆動停止するため、最後に書いた白色が大きく広がることになる。
【0085】
図8(A)は図7(A)の駆動方法による、2画素市松模様の表示例である。白色が斜め方向の電界や分散液の対流によって隣接画素の表示領域にまで大きく広がっている。この場合には、微細な形状を表示できておらず、特に黒色の表示部分の見栄えが悪い。
【0086】
図7(B)は、比較例によって黒書きを行う場合の波形を示している。図7(A)とは異なり駆動パルス信号がVLで終了している。比較例では第2パルス印加工程の後に駆動停止するため、最後に書いた黒色が大きく広がることになる。
【0087】
図8(B)は図7(B)の駆動方法による、2画素市松模様の表示例である。黒色が斜め方向の電界や分散液の対流によって隣接画素の表示領域にまで広くひろがっている。しかし、表示上白色の方が目立つため、黒色の広がり方は図8(A)の白色の場合に比べて小さく見える。それでも、微細な形状を表示できておらず、特に白色の表示部分の見栄えが悪い。
【0088】
図7(C)は、本実施形態の駆動方法によって白書きを行う場合の波形を示している。このときの波形は図6(A)と同一である。第3パルス印加工程の後に駆動停止するため、最後に書いた白色の広がりは抑制される。
【0089】
図8(C)は図7(C)の駆動方法による、2画素市松模様の表示例である。第3パルス印加工程を含む本実施形態の駆動方法により、図8(A)に比べて改善されている。しかし、中央境界線8付近に広がった白色粒子が表示上目立つため、ユーザーには白色が広がっているように感じられる。そのため、白色粒子の方が大きい場合には、次の駆動方法を行うことが好ましい。
【0090】
図7(D)は、本実施形態の駆動方法によって黒書きを行う場合の波形を示している。このときの波形は図6(A)において時刻t0で駆動停止したものと同一である。
【0091】
図8(D)は図7(D)の駆動方法による、2画素市松模様の表示例である。黒書きを行うことで中央境界線8付近には黒色粒子が広がっているが、表示上目立たないため隣接する画素にまで広がっているようには見えない。そのため、図8(A)〜図8(C)に比べて見栄えが改善され、微細な模様を明瞭に表示している。
【0092】
以上のように、本実施形態では、径が小さい方の電気泳動粒子が表す色を最後のパルスで表示させることにより、見栄えのよい微細な線、模様、形状を明瞭に表示することができる。
【0093】
2.変形例と適用例
本発明の第1実施形態の変形例と適用例について図9(A)〜図11(B)を参照して説明する。
【0094】
2.1.変形例
2.1.1.逆電位駆動パルスについて
電気泳動表示装置では、応答速度を速めるために、表示部の全体を描画する全面駆動だけでなく書き換え対象である一部のみを描画する部分駆動が行われることがある。前記の実施例では全面駆動の場合を示したが、第1実施形態の駆動方法は部分駆動についても適用可能である。このとき、逆電位駆動パルスを含む信号が用いられても良い。
【0095】
図9(A)は共通電極に供給される駆動パルス信号Vcomに含まれる逆電位駆動パルスの例を示す。Vcomは、あるパルス幅T7で第1の電位を共通電極に印加するパルスの後に、短いパルス幅T8で第2の電位を共通電極に印加するパルス(逆電位駆動パルス)が続き、それが繰り返される。ただし、白色表示又は黒色表示のパルス印加工程の最後では例外的に第1の電位を共通電極に印加して終了する。パルス幅の短い逆電位駆動パルスにより、部分書き換え時の駆動時間を短縮することができる。ここで、白色表示をする場合には第1の電位はVHであり、黒色表示をする場合には第1の電位はVLである。また、例えば、T8はT7の1%〜15%程の短い時間であってもよい。
【0096】
この例では、画素40Aの画素電極へ供給されるVaはVcomの反転信号であり、画素40Bの画素電極へ供給されるVbはVcomと同じ信号である。画素40Aと画素40Bは例えば図3(B)で示される2つの画素である。画素40Aはパルス印加工程(白色表示)で黒色から白色へと書き換えられ、パルス印加工程(黒色表示)で白色から黒色へと書き換えられる。一方、画素40Bは共通電極と画素電極との間に電界を生じないため書き換えが行われず、黒色表示を続ける。
【0097】
図9(B)は、図9(A)の例による画素40A、画素40Bの色の変化を示す図である。まず、画素40Aについて説明する。画素40Aは区間t1以前には黒色で表示されているものとする。区間t1(図9(A)のT7に対応)では、画素電極の電位はVLで共通電極の電位はVHであるため白色表示に近づく。しかし、その後の区間t2(図9(A)のT8に対応)では、画素電極の電位はVHで共通電極の電位はVLであるため黒色表示に近づく。しかし、T7>T8であるため、画素40Aはパルス印加工程(白色表示)の最後には白色で表示される。また、画素40AはVcomの極性が反転したパルス印加工程(黒色表示)の最後には黒色で表示される。なお、区間t3は前記の区間t1に対応し、区間t4は前記の区間t2に対応する。
【0098】
一方、画素40Bは、常にVcomと同じ信号が画素電極に供給されているので電位差が生じることはなく区間t1以前の黒色表示を維持し続ける。このように部分駆動では、変化させたい画素のみを駆動することができ、画像の書き換えにおける応答速度を速めることができる。特に、パルス幅の短い逆電位駆動パルスを使用することで部分書き換え時の駆動時間を短縮することができる。
【0099】
2.1.2.逆電位駆動パルスを用いた変形例
図10は、逆電位駆動パルスを用いた変形例を示す。なお、図6(A)〜図6(B)、図9(A)〜図9(B)と同じ要素には同じ符号を付しており説明を省略する。
【0100】
図10は、本変形例の電気泳動表示装置の駆動方法によって、画素40Aを黒色から白色に変化させ、画素40Bを黒色のまま維持する場合の波形図を示す。図10では、画像書き換え工程を通じてVaはVcomの反転信号であり、VbはVcomと同じ信号である。そして、逆電位駆動パルスがとる電位と異なる電位が第1の電位であり、この例ではVHを第1の電位とする。よって、図10のTa(第1の幅)、Tc(第2の幅)、Te(第3の幅)の間で、第1実施形態と同じ大小関係が成り立つことが必要である。なお、逆電位パルスの幅Tb、Td、Tfについては、部分駆動に要する時間や第1〜第3パルス印加工程の各工程でフリッカを生じないこと等を考慮して決定される。
【0101】
第1パルス印加工程においては、フリッカが目立たないように、第1パルス信号のTa(第1の幅)は短い必要がある。ただし、Taが短すぎると第1パルス印加工程に時間がかかるため、例えばTa=20msとする。
【0102】
第2パルス印加工程においては、第2パルス信号のTc(第2の幅)はTa(第1の幅)よりも大きな値である。十分な反射率が得られるまで電気泳動粒子を移動させられるように、例えばTc=200msとする。
【0103】
第3パルス印加工程においては、第3パルス信号のTe(第3の幅)はTc(第2の幅)よりも小さな値である。よって、Taと同じかそれ未満のパルス幅でよい。例えば、Te=20msとする。
【0104】
第1パルス印加工程ではフリッカを生じさせることなく白色の反射率に対して80%程度まで変化させる。そして、第2パルス印加工程では、パルス幅の長い第2パルス信号によってほとんど白色になるまで変化させて高いコントラストを得る。そして、第3パルス印加工程では、パルス幅の短い第3パルス信号によって、微細な線、模様、形状を明瞭に表示する。
【0105】
なお、この例とは逆に、逆電位駆動パルスを用いた部分駆動によって白色の画素を黒色に書き換える場合には、第1の電位はVLとなる。
【0106】
2.2.適用例
本発明の適用例について図11(A)〜図11(B)を参照して説明する。前記の電気泳動表示装置100は、様々な電子機器に適用され得る。
【0107】
例えば、図11(A)は電子機器の1つである腕時計1000の正面図である。腕時計1000は、時計ケース1002と、時計ケース1002に連結された一対のバンド1003とを備える。時計ケース1002の正面には、電気泳動表示装置100からなる表示部1004が設けられ、表示部1004は時刻表示を含む表示1005を行っている。時計ケースの側面には、2つの操作ボタン1011と1012とが設けられている。なお、操作ボタン1011、1012によって、表示1005として時刻、カレンダー、アラームなど様々な表示形態が選択されてもよい。
【0108】
また、例えば図11(B)は電子機器の1つである電子ペーパー1100の斜視図である。電子ペーパー1100は可撓性を有し、電気泳動表示装置100からなる表示領域1101と本体1102を備える。
【0109】
電気泳動表示装置100を含む電子機器は、フリッカのない、高コントラストで高精細な画像を表示することができる。
【0110】
3.その他
前記の実施形態においては、電気泳動表示装置は、黒色粒子および白色粒子による白黒二粒子系の電気泳動が行われるものに限られず、青白等の一粒子系の電気泳動を行っても良く、また、白黒以外の組み合わせでも構わない。
【0111】
そして、電気泳動表示装置に限らず、メモリー性の表示手段に前記の駆動方法が適用されてもよい。例えば、ECD(Electrochromic Display=エレクトロクロミックディスプレイ)、強誘電性液晶ディスプレイ、コレステリック液晶ディスプレイ等である。
【0112】
これらの例示に限らず、本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0113】
5…表示部、6…制御部、8…中央境界線、20…マイクロカプセル、26…黒色粒子、27…白色粒子、30…素子基板、31…対向基板、32…電気泳動素子、35…画素電極、35A…画素電極、35B…画素電極、37…共通電極、40…画素、40A…画素、40B…画素、41…駆動用TFT(Thin Film Transistor)、49…低電位電源線(Vss)、50…高電位電源線(Vdd)、55…共通電極配線(Vcom)、61…走査線駆動回路、62…データ線駆動回路、63…コントローラー、64…共通電源変調回路、66…走査線、68…データ線、70…ラッチ回路、80…スイッチ回路、91…第1のパルス信号線(S)、92…第2のパルス信号線(S)、100…電気泳動表示装置、160…記憶部、350…駆動電極層、360…電気泳動表示層、370…共通電極層、1000…腕時計、1002…時計ケース、1003…バンド、1004…表示部、1005…表示、1011…操作ボタン、1012…操作ボタン、1100…電子ペーパー、1101…表示領域、1102…本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の基板間に電気泳動粒子を含む電気泳動素子を狭持してなり、少なくとも第1色と第2色を表示可能な画素を複数配置する表示部を含み、一方の前記基板と前記電気泳動素子との間に前記画素に対応する画素電極が形成され、他方の前記基板と前記電気泳動素子との間に、複数の前記画素電極と対向する共通電極が形成された電気泳動表示装置の駆動方法であって、
前記共通電極に第1の電位と第2の電位とを繰り返す駆動パルス信号に基づく電圧を印加し、複数の前記画素電極のそれぞれに前記第1の電位、前記第2の電位、および前記駆動パルス信号に基づく電圧のいずれかを印加し、前記画素電極と前記共通電極との間に生じた電界によって前記電気泳動粒子を移動させることで前記表示部に表示される画像を書き換える画像書き換え工程を含み、
前記画像書き換え工程は、
前記第1の電位のパルス幅が第1の幅である前記駆動パルス信号を用いる第1パルス印加工程と、
前記第1パルス印加工程の後に実行され、前記第1の電位のパルス幅が前記第1の幅よりも長い第2の幅である前記駆動パルス信号を用いる第2パルス印加工程と、
前記第2パルス印加工程の後に実行され、前記第1の電位のパルス幅が前記第2の幅よりも短い第3の幅である前記駆動パルス信号を用いる第3パルス印加工程と、を含む電気泳動表示装置の駆動方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電気泳動表示装置の駆動方法において、
前記電気泳動粒子として、前記第1色を表示する第1の電気泳動粒子と、前記第2色を表示する第2の電気泳動粒子とが含まれ、
前記第3パルス印加工程は、
前記第2の電気泳動粒子の径が前記第1の電気泳動粒子の径よりも大きい場合には、前記第1色を表示させて前記共通電極の駆動を終了する前記駆動パルス信号を用い、
前記第2の電気泳動粒子の径が前記第1の電気泳動粒子の径以下である場合には、前記第2色を表示させて前記共通電極の駆動を終了する前記駆動パルス信号を用いる電気泳動表示装置の駆動方法。
【請求項3】
請求項1乃至2のいずれかに記載の電気泳動表示装置の駆動方法において、
前記第3パルス印加工程は、
前記第3の幅を前記第1の幅と等しくする、電気泳動表示装置の駆動方法。
【請求項4】
請求項1乃至2のいずれかに記載の電気泳動表示装置の駆動方法において、
前記第3パルス印加工程は、
前記第3の幅を前記第1の幅よりも短くする、電気泳動表示装置の駆動方法。
【請求項5】
電気泳動表示装置であって、
一対の基板間に電気泳動粒子を含む電気泳動素子を狭持してなり、少なくとも第1色と第2色を表示可能な画素を複数配置する表示部と、
前記表示部を制御する制御部と、を含み、
前記表示部は、
一方の前記基板と前記電気泳動素子との間に前記画素に対応して形成された画素電極と、
他方の前記基板と前記電気泳動素子との間に、複数の前記画素電極と対向して形成された共通電極と、を含み、
前記制御部は、
前記共通電極に第1の電位と第2の電位とを繰り返す駆動パルス信号に基づく電圧を印加し、複数の前記画素電極のそれぞれに前記第1の電位、前記第2の電位、および前記駆動パルス信号に基づく電圧のいずれかを印加し、前記画素電極と前記共通電極との間に生じた電界によって前記電気泳動粒子を移動させることで前記表示部に表示される画像を書き換える画像書き換え制御を行い、
前記画像書き換え制御において、
前記第1の電位のパルス幅が第1の幅である前記駆動パルス信号を用いる第1パルス印加制御と、
前記第1パルス印加制御の後に実行され、前記第1の電位のパルス幅が前記第1の幅よりも長い第2の幅である前記駆動パルス信号を用いる第2パルス印加制御と、
前記第2パルス印加制御の後に実行され、前記第1の電位のパルス幅が前記第2の幅よりも短い第3の幅である前記駆動パルス信号を用いる第3パルス印加制御と、を行う電気泳動表示装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電気泳動表示装置において、
前記電気泳動粒子として、前記第1色を表示する第1の電気泳動粒子と、前記第2色を表示する第2の電気泳動粒子とを含み、
前記制御部は、
前記第3パルス印加制御において、
前記第2の電気泳動粒子の径が前記第1の電気泳動粒子の径よりも大きい場合には、前記第1色を表示させて前記共通電極の駆動を終了する前記駆動パルス信号を用い、
前記第2の電気泳動粒子の径が前記第1の電気泳動粒子の径以下である場合には、前記第2色を表示させて前記共通電極の駆動を終了する前記駆動パルス信号を用いる電気泳動表示装置。
【請求項7】
請求項5乃至6のいずれかに記載の電気泳動表示装置において、
前記制御部は、
前記第3パルス印加制御において、
前記第3の幅を前記第1の幅と等しくする、電気泳動表示装置。
【請求項8】
請求項5乃至6のいずれかに記載の電気泳動表示装置において、
前記制御部は、
前記第3パルス印加制御において、
前記第3の幅を前記第1の幅よりも短くする、電気泳動表示装置。
【請求項9】
請求項5乃至8のいずれかに記載の電気泳動表示装置を含む電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−118351(P2012−118351A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268774(P2010−268774)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】