説明

電気泳動表示装置用の微粒子分散液

【課題】優れたカラー表示性能を有する電気泳動デバイスに適用可能な、光学特性及び電気特性に優れた有機性微粒子分散液の提供。
【解決手段】平均粒径が100nm〜1000nmであり、粒度分布(CV値)が10%〜50%である有機微粒子を含み、かつ、誘電率が0〜10である疎水性分散媒を含むことを特徴とする微粒子分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射型表示方式の電気泳動表示素子の要素として好適な微粒子分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報機器の高度化と低消費電力化の流れを受け、これまでディスプレイの主流であったCRT(カソードレイチューブ)が、消費電力及び表示性能に勝る液晶ディスプレイや有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイに置き換わってきている。ユビキタス社会が到来し、ディスプレイデバイスには可搬性が要求され、今後はさらなる軽さ、薄さ、低消費電力化が求められる見通しである。
【0003】
液晶ディスプレイは、ネマチック液晶にて偏光通過を制御し画像形成するものが主流であるが、これにはバックライトとしての光源を必要する。一方、有機ELは、電圧をかけて生じた蛍光を見るデバイスである。しかしながら、これらは、いずれも自発光が点滅、点灯するものである。
【0004】
自発光のデバイスは長時間使用した場合には目が疲労しやすいことが指摘されており、IT化に伴いVDT(Visual Display Terminals)作業時間が飛躍的に増大している今日では、健康面を心配する声が大きく、デバイスの改善が望まれていた。
【0005】
低消費電力と視覚への負担軽減が期待できる表示方式として、反射型表示方式を用いたデバイスが提案されている。表示素子としてコレステリック液晶や電気泳動素子等が挙げられるが、これらは電源を切っても画面が保持されるメモリ性があるため、消費電力を小さくすることができる。画像切替えの少ない静止画、例えば、電子書籍、電子値札等の用途においては好適であり、既に白黒表示方式の電気泳動素子を用いた製品が一大市場を形成しつつある。
【0006】
一方、次世代の反射型表示デバイスとして、カラー化技術に関心が集まっている。モバイル端末上での電子カタログ向けなどでの期待が大きく、低消費電力の電子看板・広告の分野等へのニーズも高まってきているが、現状では表示性能において問題があり、商品化には至っていない。
【0007】
カラー化の簡便な手法として、RGB又はCMYのフィルターを用いる方法が挙げられるが、フィルターを介することで反射率が低下しまうという欠点がある。各種の試みにより改善検討がされており、例えば、以下の特許文献1では、色違いの3種類の粒子を用いることで、フィルターを使わずにカラー化する方式を採っている。しかしながら、顔料の粒度分布が不均一であり、広い波長領域に渡り顔料由来の散乱が存在する。そのため、コントラストが劣るばかりか、階調表示する際には制御が難しいという問題が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−9092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、上記現状に鑑み、優れたカラー表示性能を有する電気泳動標示素子の要素として好適に適用可能な、光学特性及び電気特性に優れた有機性微粒子分散液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討し、実験を重ねた結果、セルロース微粒子を出発原料にして、濃染を試み、所望の波長における吸光度が大きい微粒子を得、さらに適当な基質で修飾することにより、疎水性溶媒に分散した微粒子を得ることに成功した。さらにこの微粒子分散液を電気泳動方式のディスプレイに適用したところ、優れたカラー表示性能を実現できることを見出し本発明に至った。
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
【0011】
[1]平均粒径が100nm〜1000nmであり、粒度分布(CV値)が10%〜50%である有機微粒子を含み、かつ、誘電率が0〜10である疎水性分散媒を含むことを特徴とする微粒子分散液。
【0012】
[2]前記有機微粒子の重量の20wt%〜80wt%がセルロース由来である、前記[1]に記載の微粒子分散液。
【0013】
[3]前記有機微粒子の重量の5wt%〜35wt%がポリシロキサンである、前記[1]又は[2]に記載の微粒子分散液。
【0014】
[4]ゼータ電位の絶対値が10mV〜80mVである、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の微粒子分散液。
【0015】
[5]前記有機微粒子は、その重量の10wt%〜70wt%の着色成分を含有する、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の微粒子分散液。
【0016】
[6]可視光領域(波長:400〜800nm)での透過法における吸光度測定において、最大吸光度/最低吸光度の比が5〜30の範囲にある、前記[5]に記載の微粒子分散液。
【0017】
前記[1]〜[6]のいずれかに記載の微粒子分散液を表示色要素として含むことを特徴とする電気泳動表示装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る有機微粒子は、所望の色に濃色で染色されているため、可視光領域において所望の波長域の吸収が大きく、また顔料由来の微粒子と比較して、粒度分布が狭いため、散乱光が少なく、さらに、水酸基を利用して表面修飾・改質を行うことにより疎水化できるため、低誘電率の疎水性溶媒に分散可能となり、電気泳動させることも可能である。反射型表示デバイスに応用に際し、特に、酸化チタン、カーボンブラック等の白色や黒色成分と同時に用いる場合、前記した散乱光が少ないという特徴が発揮されるため、コントラストに優れ、階調表示性能にも優れた表示が可能となる。また、かかる反射型表示デバイスは、目に優しく、省電力であるため、極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
<平均粒径>
本発明に係る有機微粒子とは、平均粒径が100nm〜1000nmの有機微粒子をいう。平均粒径の好ましい範囲は、200nm〜900nmであり、より好ましくは300nm800nmである。平均粒径が1000nmを超えると、反射型デバイスに用いた場合、光が散乱し過ぎてしまい、白度が増してしまい、濃色カラー表示の目的上好ましくない。一方、平均粒径が100nmを下回ると、可視光が透過しすぎるため、反射型デバイスには不適となる。
【0020】
<粒度分布>
本発明に係る有機微粒子は、下記式(1):
CV値(%)=(粒度分布測定装置より求めた体積粒度分布における標準偏差)/(粒度分布測定装置より求めた体積平均メジアン径)×100・・・式(1)
で表されるCV値(粒度分布)が10〜50%、好ましくは20〜40%であるものである。CV値が50%を超えると、巨大な粒子が多数存在することになり、散乱が強すぎるものとなってしまう。また、書換速度、階調表示等の要求性能が満足できないおそれがある。一方、粒度分布が10%未満となると電源OFF時の画像安定性が悪化する。その理由は定かではないが、電圧印加時の電極側面での粒子パッキングにおいて、所定の分布が、密なパッキングに効果的でこれが画像安定化に寄与するものと推察する。
【0021】
<分散媒及び微粒子濃度>
本発明の分散液における疎水性分散媒とは、誘電率が0〜10である比極性の疎水性溶媒を指す。誘電率の好ましい範囲は1〜7であり、より好ましくは2〜4である。誘電率が10を超える場合は、極性溶媒に位置づけられるが、微粒子を電気泳動させる際の分散媒として用いた場合、電界の遮蔽効果が過大となり、粒子泳動が困難となってしまう。分散媒の種類は、誘電率が範囲内にあれば特に限定されない。代表例としては、誘電率の2.0のn−ヘキサン、誘電率2.0のイソパラフィン、誘電率2.4のトルエン等が挙げられる。いずれを用いても構わない。分散性を向上させるため、少量の界面活性剤を用いてもよいが、分散媒中の微粒子濃度は、好ましくは0.1〜10wt%、より好ましくは0.3〜5wt%である。微粒子濃度が0.1wt%未満であるとカラー表示に充分な色の表示ができず、一方、10wt%を超えると表示デバイス中の粒子が過多となり、粒子泳動が緩慢になり、表示色の変更が困難になる。
【0022】
<有機微粒子素材>
本発明における有機微粒子素材は、所定の粒径であり、着色ができ、疎水性溶媒に分散可能な有機物であって、着色の長期安定性、所望の電気泳動を持たせることができるものである。共有結合性の反応染料により強固に染着でき、さらに誘導体化することにより疎水性及び電気的特性を適当に変更することができることから、セルロース類が好適である。セルロースの種類は、特に限定されず、再生セルロース、精製セルロース、天然セルロース等を用いることができる。
【0023】
誘導体化した有機微粒子においては、セルロースの割合が高すぎるとセルロース由来の白色が強くなりがちで、カラー表示用の電気泳動用素子として使用に適さないものとなる。電気泳動用分散液におけるセルロース由来の誘導化した有機微粒子の重量の内、20〜80wt%はセルロース成分であることが好ましく、30〜70wt%であることがより好ましい。
【0024】
<有機微粒子の製造方法>
本発明に係る有機微粒子の製造方法は、特に限定されない。湿式粉砕等による力学的な手法用いて、分級して所望の平均粒径の微粒子を得てもよいが、本発明ではセルロースをその良溶媒に溶解し、水、有機溶媒、アンモニア等を混合した凝固液を用いることでセルロース微粒子を調製している。この方法を用いることにより得られるセルロース微粒子の粒径又は粒度分布を、凝固液の組成や凝固時の操作によって調整することが可能となる。本発明に係る有機微粒子素材の製造方法を限定することを意図するものではないが、以下、これを、より詳細に説明する。
【0025】
まず、セルロースリンターをセルロースの良溶媒に溶解させる。本発明では良溶媒には公知の方法で調製した銅アンモニア溶液を用いる。そして凝固液としては有機溶媒+水+アンモニア混合系を主に用いる。この凝固液を適当な条件で攪拌しながら、調製しておいた銅アンモニアセルロース溶液を加えて凝固を行う。さらに硫酸を加え中和、再生を行うことで、目的のセルロース微粒子を含有したスラリーを得ることができる。このスラリーを希釈、精製、乾燥、再分散させることで、所望のセルロース微粒子やセルロース微粒子分散液を得ることができる。
【0026】
<染色方法>
本発明における有機微粒子素材の染色方法も特に限定されるものではなく、染料を用いる方法、顔料を用いる方法など様々なものを用いることができる。中でも発色強度を高くできる点で染料を用いる方法が好ましく、直接染料、含金染料、酸性染料、反応染料、塩基性染料、分散染料、硫化染料、植物染料、ナフトール染料等、各種の染色剤を用いることができる。セルロース微粒子を濃色に染めることができ、かつ長期間に亘り安定であるもの、すなわち湿潤堅牢度に優れたものとするため、共有結合をもって染着させる方法が好ましく、反応染料を用いる方法がより好ましい。
【0027】
<着色成分の割合>
セルロースの微粒子は繊維に比べると表面積が著しく大きいため、染着量を極めて大きくすることが可能である。濃色が発現した微粒子は、カラー表示の電気泳動素子として極めて有用である。電気泳動用のセルロース由来の微粒子においては、その重量に対して、着色成分又は染料は10wt%〜70wt%であることが好ましく、より好ましくは20wt%〜60wt%である。10wt%未満であると色相が淡く、カラー表示には好適ではない。70wt%を超えるものは、染色処理回数を大幅に増やす必要があり、経済的でないばかりか、セルロース由来の水酸基の殆どを消費してしまうため、その後の疎水化処理が極めて困難となる。
【0028】
<疎水化>
本発明に係る有機微粒子は、疎水化成分を有し、誘電率の低い疎水性溶媒への分散性を格段に高めていることを特徴とする。安定性、耐熱性の観点から、疎水化成分としてはポリシロキサン構造があることが好ましく、共有結合をもってベースとなるセルロース微粒子に結合していることが好ましい。ポリシロキサン構造は特に限定されるものではないが、珪素と酸素で形成されるユニットの繰り返し単位が0〜300の直鎖状であり、側鎖はアルキル化又はアルコキシ化されており、疎水性が向上したものが好ましい。セルロースとのカップリング反応は特に限定されない。エポキシ、イソシアネート、酸無水物等の反応性末端を有するポリシロキサンを使用することができる。
【0029】
セルロース由来微粒子に結合したポリシロキサン成分の該微粒子に占める割合は、分散液中に含まれるセルロース由来微粒子の重量に対して5〜35wt%であり、好ましくは10〜30wt%である。5wt%以下であると疎水性溶媒への分散性に劣り、一方、35wt%を超えると、疎水性溶媒に分散し易いものの、着色した微粒子を使用している場合に相対的に染料の割合が減少するため、電気泳動させる際に、色表示が不十分となる。
【0030】
<吸光度比>
可視分光光度計を用いて、吸光度測定を透過モードで行い400nm〜800nmの可視光範囲での吸光度のピーク最大値(ABS)と最小値(ABS)求め、最大値を最小値で除して吸光度比とする。かかる吸光度比は、吸収光と散乱光の比を端的に指標しており、有機微粒子の光吸収の効率や透明性を表わすものともいえる。本発明に係る有機微粒子の吸光度比は、好ましくは5〜30、より好ましくは10〜25である。吸光度比が5未満では散乱光が支配的であり、電気泳動粒子としては、色が淡く白っぽいものとなるため、コントラストが不明瞭な表示素子となってしまう。染料を大量に付着させれば吸光度比を増大させることができる。しかしながら、これは、吸光度比30以上を実現するためには染料を過大量に付着させることになるため、経済性の観点から、好ましくない。
【0031】
<電気泳動型表示素子>
これまでに様々な形態の電気泳動を利用した表示素子が知られているが、基本構造としては次の通りである。
少なくとも一方がITO電極の様な透明性電極を用いて、2枚の電極を所定の間隔をもって対向させ、その間に電気泳動粒子(表示用粒子)の分散液を封入する。電極間に電圧を印加することで表示用粒子をどちらかの電極に適宜移動させる。透明電極側から表示用粒子由来のコントラストが認識可能となる。
【0032】
<ゼータ電位(ζ電位)>
電気泳動を利用した表示素子としては、互いに色が異なり、粒子のゼータ電位が、一方がプラスで他方がマイナスである2種の粒子を混ぜたものが一般的に用いられている。例えば、ゼータ電位がプラスのカーボンブラック由来の黒色粒子と、ゼータ電位がマイナスの酸化チタン由来の白色粒子が挙げられる。これらを前述の様に非極性溶媒中で分散させ、透明電極側にプラスの電圧をもつように電圧を印加すると、マイナス電荷を有する酸化チタンが集積し、逆にカーボンブラックは遠ざけられる。この状態にて、透明電極側から観察すると表示素子が白色の状態となる。印加する電圧を0にしても、封入セルにプラス、マイナス2種の粒子が存在し、互いに集まって強い凝集を起こすことがなければ、そのままの色表示を長時間安定に存続させることが可能である。
【0033】
本発明に係る有機微粒子は、疎水性溶媒におけるゼータ電位の絶対値が、好ましくは10〜80mVの範囲にであり、より好ましくは20mV〜70mVにある。10mVを下回る場合には、電気泳動性が低く、応答が悪いディスプレイ素子となる。ゼータ電位の絶対値は高い程ど応答性は良好であるが、80mVを超えると、異符合の粒子で凝集してしまう傾向があり、電源OFF時の画像保持性が悪くなってしまう。
【実施例】
【0034】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
まず、本発明に係る有機微粒子又は微粒子分散体の測定法について具体的に説明する。
【0035】
(1)粒度(粒径)分布(%)
日機装社製ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150を用いてセルロース微粒子分散体を測定した。特記ない限り、セルロース微粒子を分散させる液体としてn−ヘキサンを用いた。セルロース微粒子濃度は約0.1wt%で測定し、積算回数は30回とした。また、CV値(%)は、30回の積算によって得られた体積粒度分布における標準偏差を体積平均メジアン径で割って算出した。
【0036】
(2)吸光度比
日本分光製JASCO・V−650を用いて、セルロース微粒子及び比較例となる着色ポリスチレンラテックス、顔料の吸光度を透過法にて測定した。400nm〜800nmの可視光範囲での吸光度ピーク最大値(ABS)を最小値(ABS)で割って吸光度の比を求めた。微粒子の重量パーセントで割り返し、0.01wt%辺りで算出した値を求めた。吸光度が飽和しない最適域のABS1〜3で評価を行うため、微粒子濃度は0.01wt%〜0.1wt%で測定した。
【0037】
(3)反応性活性基の導入可否の確認
反応性活性基を導入した有機微粒子分散液を乾燥し、反応性活性基を導入した有機微粒子を得た。パーキンエルマー製赤外分光分析装置Spectrum100を用い反射法にて赤外吸収スペクトルを測定し、導入前後の吸収スペクトルを比較、導入されていることを確認した。
また、有機微粒子分散体が凝集している場合には、かかる凝集物を解すために、マイクロフルイディックス社製油圧式超高圧ホモジナイザーM−110−E/Hを用いた。その際の処理圧力は50MPaであり、高圧部であるチャンバーを10回通す操作を行った。
【0038】
(4)ゼータ電位(ζ電位)
マイクロテックニチオン製ZC−3000を用いて、電圧を印加して粒子を移動させ、レーザー照射による粒子の散乱光を画像解析して粒子の泳動速度を算出することにより、ゼータ電位を求めた。
【0039】
[実施例1]
<ベース微粒子(未着色粒子)の調製>
セルロースリンターを銅アンモニア溶液に溶解させ、次いで、水及びアンモニアで希釈して、セルロース濃度0.37wt%の銅アンモニアセルロース溶液を調製した。その溶液の銅濃度は0.13wt%であり、アンモニア濃度は1.00wt%であった。次いで、テトラヒドロフラン濃度90wt%、水濃度10wt%の凝固液を調製した。マグネティックスターラーを用い凝固液5000gをゆっくり攪拌しながら、予め調製しておいたセルロース濃度0.37wt%の銅アンモニアセルロース溶液500gを添加した。5秒程度攪拌を継続した後、10wt%の硫酸1000gを加え中和、再生を行い、目的のセルロース微粒子を含有したスラリー26500gを得た。得られたスラリーを10000rpmの速度で10分間遠心分離した。沈殿物をデカンテーションにより取り出し、脱イオン水を注入して攪拌し、再び遠心分離した。pHが6.0〜7.0になるまでこの操作を数回繰り返し、その後、高圧ホモジナイザーによる分散処理を行い、セルロース微粒子分散体150gを得た。尚、全ての操作は25℃の環境下で行った。純水中で分散させた際の平均粒径(nm)とCV値(%)を測定した結果を以下の表1に示す。
【0040】
<染色微粒子(着色粒子)の作製>
次に、前記のようにして調製したセルロース微粒子の染色を行った。微粒子濃度を1.0wt%に調整したセルロース微粒子分散体100gに対し、硫酸ナトリウム30g、反応性染料としてダイスター株式会社製Levafix Navy CA Gr.(登録商標)(以下、青系Aという。)1g、を加え攪拌させながら恒温槽を用いて60℃まで昇温した。60℃に昇温後に炭酸ナトリウム4gを加え、2時間染色を行った。次いで、得られた粗染色微粒子を水酸化ナトリウム5wt%水溶液で洗浄し、遠心分離で回収、純水にて水洗した後遠心分離で回収するという一連の操作を1サイクルとし、同様の操作を計3サイクルまで実施し、染色微粒子を得た。純水中で分散させた際の平均粒径(nm)とCV値(%)を測定した結果を以下の表1に示す。
【0041】
<微粒子の疎水化(疎水化粒子の作製)>
次に、得られた染色セルロース微粒子の疎水化を行った。微粒子をフリーズドライ法にて絶乾させ、アセトンに再分散させ1.0wt%に調整する。染色微粒子のアセトン分散液100gに対し、PolonMF−18T(信越化学工業製エポキシ変性シリコーン)を染色セルロース微粒子に対して5倍量仕込み、キュアリングした。その後、溶媒洗浄と遠心分離、乾燥処理を行い、ポリシロキサン付加にて疎水化した微粒子を得た。反応の進行はIRで確認した。n−ヘキサンにて分散させた際の平均粒径(nm)とCV値(%)を以下の表1に、そして重量組成から算出した各成分比(wt%)、吸光度比、ゼータ電位測定結果を、以下の表2に示す。
【0042】
<カラー粒子分散液調製及び電気泳動性の確認>
トルエン10gに、得られた疎水化着色セルロース微粒子1.0gを取り、超音波照射を行い、分散液Aを得た。次に、一対の透明電極膜(ITO膜)を塗布したガラスをスペーサーを介して対向配置させて空間を作り、その空間に分散液Aを注入後、両電極をクリップで固定して測定セルを作製し、その測定セルに直流電源を接続して、電界強度が10kV/cmとなるように電圧を印加した後、ガラスを分割してガラス表面上の分散液の状態を観察した。その結果、一方のガラス面上には微粒子の染料由来の青色の分散液が残り、他方のガラス面上には無色の分散媒が残存していることが確認できた。このことより、疎水化着色セルロース微粒子は電界中を泳動する機能を有するカラー粒子であることを確認した。
【0043】
<白色粒子分散液調製及び電気泳動性の確認>
トルエン10gに架橋型スチレン−アクリル系樹脂からなる中空粒子(JSR製)0.1gを加え、ボールミル分散を行い分散液Bを調製した。次に、一対の透明電極膜(ITO膜)を塗布したガラスをスペーサーを介して対向配置させて空間を作り、その空間に分散液Bを注入後、両電極をクリップで固定して測定セルを作製し、その測定セルに直流電源を接続して、電界強度が10kV/cmとなるように電圧を印加した後、ガラスを分割してガラス表面上の分散液の状態を観察した。その結果、両方のガラス面上には白色分散液が残存していることが確認できた。このことより、架橋型スチレン−アクリル系樹脂からなる中空粒子は、電界に対応して泳動する機能を有さない白色粒子であることを確認した。
【0044】
<黒色粒子分散液調製及び電気泳動性の確認>
トルエン10gにチタンブラック(赤穂化成製黒色酸化チタン)0.1gを加え、超音波照射を行い分散液Cを調製した。次に、一対の透明電極膜(ITO膜)を塗布したガラスをスペーサーを介して対向配置させて空間を作り、その空間に分散液Aを注入後、両電極をクリップで固定して測定セルを作製し、その測定セルに直流電源を接続して、電界強度が10kV/cmとなるように電圧を印加した後、ガラスを分割してガラス表面上の分散液の状態を観察した。その結果、一方のガラス面上には黒色分散液が残り、他方のガラス面上には無色の分散媒が残存していることが確認できた。このことより、チタンブラック粒子は電界中を泳動する機能を有する黒色粒子であることを確認した。
【0045】
<カラー表示電気泳動デバイスの作製>
透明基板として厚さ3mmのガラス板を用い、その片面に透明導電膜(ITO膜)を1種形成させたものと、2種形成させたものを作製し、ナイロンビーズをスペーサとして対向配置させて、約150μmの空間を形成した。その空間に上記分散液A、B、及びCの電気泳動表示用液を注入後、両ガラス板をエポキシ樹脂系接着剤で封止することにより、電気泳動表示パネルを作製した。
【0046】
<カラー表示電気泳動デバイスのコントラスト評価>
電圧印加の仕方により、黒と白、又は染料由来の色調表示が得られるが、染料由来の色調が濃色で発現し、コントラストで極めて優れると目視判断できる場合を+++とし、やや優れる場合を++、実用で問題ないレベルにある場合を+、充分な色調ではない場合を−とした。結果を以下の表2に示す。前記にて得られた電気泳動表示セルに電界強度が10kV/cmとなるようにセル両側で電圧を印加したところ、濃く鮮やかな青色を表示することができた。
【0047】
<カラー表示電気泳動デバイスの階調表示性>
電界強度を1、5kV/cmと段階的に変化させた場合の表示濃度の追従性を見た。電界強度に応じて顕著に変化しているのが目視にて認められた場合を+++とし、変化が良く認められる場合を++、実用充分な程度で認められる場合を+、認められない場合を−とした。結果を以下の表2に示す。青色の濃さが電界強度に良く追従することが確認できた。
【0048】
<カラー表示で電気泳動デバイスの電源OFF時の安定性>
電界強度10kV/cmを印加してカラー表示させ、印加を止めて1週間静置した後に同色が表示されているかで判定した。表示残存が極めて優れる場合を+++、残存が優れる場合を++、実用充分な程度で認められる場合を+、色が認められず消失している場合を−とした。結果を以下の表2に示す。青色が残存していることが確認できた。
【0049】
[実施例2]
実施例1で得た未染色セルロース微粒子を、同様の操作で染色するが、計10サイクルまで実施し、染色微粒子を得、その後同様に疎水化を行った。粒子の評価結果を、以下の表1と表2に、そして、電気泳動評価結果を以下の表2に示す。
【0050】
[実施例3]
実施例1で得た未染色セルロース微粒子を、反応染料としてダイスター株式会社製Levafix Rubine CA Gr.(登録商標)(以下、赤系Bという。)1gを用いること以外は、実施例1と同様の方法で染色セルロース微粒子を得、その後、同様に疎水化を行った。粒子の評価結果を、以下の表1と表2に、そして目視による赤色の電気泳動評価結果を以下の表2に示す。赤色の良好な表示結果が得られた。
【0051】
[実施例4]
実施例1で得た染色セルロース微粒子に、シロキサン化合物として、X−41−1053(信越化学工業製アルコキシシリルオリゴマー)をキュアリングした。それ以外の操作は実施例1と同様に行った。粒子の評価結果を、以下の表1と表2に、そして電気泳動評価結果を以下の表2に示す。
【0052】
[実施例5]
凝固に用いる凝固液が、アセトン濃度26.5wt%、アンモニア濃度0.20wt%、水濃度73.3wt%であること以外は実施例1と同じ方法で、セルロース微粒子、及び染色セルロース微粒子を得、その後の疎水化も同様の方法で行った。粒子の評価結果を、以下の表1と表2に、そして電気泳動評価結果を以下の表2に示す。
【0053】
[比較例1]
実施例5で得た未染色セルロース微粒子を、同様の方法でシロキサンにて疎水化を行うが、セルロースに対して等量仕込みを行い、キュアリングを行った。粒子の評価結果を、以下の表1と表2に、そして目視による電気泳動評価結果を以下の表2に示す。粒径が小さすぎるため、十分なコントラストが得られなかった。
【0054】
[比較例2]
実施例1で得られた染色セルロース微粒子を日本ミリポア株式会社製のポアサイズ0.45μのニトロセルロース由来のろ過膜を用いて、ろ過し、ろ液を採取した。また、2000RCFの条件にて5分間の遠心処理を行い、上澄み液を除去した。得られた沈降物(ペレット)を再分散したものを評価し、これを用いて実施例1と同様の疎水化処理を行った。得られた粒子の評価結果を、以下の表1と表2に、そして電気泳動評価結果を以下の表2に示す。粒度分布が狭すぎるため、電圧の印加をとり払うと、画像が安定しない傾向にあった。
【0055】
[実施例6]
凝固に用いる凝固液をテトラヒドロフラン濃度97wt%、水濃度3wt%として、セルロース微粒子を得、実施例3と同じ方法で染色を行うが2サイクルまでとして、染色セルロース微粒子を得た、疎水化処理は同様にして行い、微粒子を得た。得られた粒子の結果を、以下の表1と表2に、そして電気泳動評価結果を以下の表2に示す。
【0056】
[比較例3]
実施例6で得た染色セルロース微粒子を、実施例1と同様にシロキサン処理を行ったが、10倍量を用いた。得られた粒子の評価結果を、以下の表1と表2に、そして電気泳動評価結果を以下の表2に示す。粒径が過大であるため、光が透過し難くなる。そのため、コントラストや階調表示性能が低下した。
【0057】
[実施例7]
実施例1で得た染色セルロース微粒子を、比較例1と同様にシロキサンにて処理した。それ以外は実施例8と同様な操作を行い、染色微粒子を得た。得られた粒子の評価結果を、以下の表1と表2に、そして電気泳動評価結果を以下の表2に示す。階調表示性能、電源OFF時の画像安定性は実用で問題ないレベルであった。
【0058】
[実施例8]
実施例1で得た未染色セルロース微粒子を、染色サイクル1回とした以外は、実施例1と同様に染色し、疎水化して粒子を得た。粒子の評価結果を、以下の表1と表2に、そして電気泳動評価結果を以下の表2に示す。コントラスト、階調表示ともに実用レベルであった。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係る有機微粒子分散液は、電気泳動用の表示素子の分野に好適に利用可能である。カラー化した微粒子は、吸収が大きく、散乱が少ない特徴を有するため、酸化チタン、カーボンブラック等の白色や黒色粒子と共に用いてデバイスを形成した場合、コントラストに優れ、階調表示性能にも優れた反射型表示デバイスとなる。また、かかる反射型表示デバイスは、目に優しく、省電力であるため、極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が100nm〜1000nmであり、粒度分布(CV値)が10%〜50%である有機微粒子を含み、かつ、誘電率が0〜10である疎水性分散媒を含むことを特徴とする微粒子分散液。
【請求項2】
前記有機微粒子の重量の20wt%〜80wt%がセルロース由来である、請求項1に記載の微粒子分散液。
【請求項3】
前記有機微粒子の重量の5wt%〜35wt%がポリシロキサンである、請求項1又は2に記載の微粒子分散液。
【請求項4】
ゼータ電位の絶対値が10mV〜80mVである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の微粒子分散液。
【請求項5】
前記有機微粒子は、その重量の10wt%〜70wt%の着色成分を含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の微粒子分散液。
【請求項6】
可視光領域(波長:400〜800nm)での透過法における吸光度測定において、最大吸光度/最低吸光度の比が5〜30の範囲にある、請求項5に記載の微粒子分散液。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の微粒子分散液を表示色要素として含むことを特徴とする電気泳動表示装置。

【公開番号】特開2012−246361(P2012−246361A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117694(P2011−117694)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】