説明

電気泳動表示装置

【課題】電気泳動表示装置の湿気による劣化を防いで長寿命化を図るとともに、安価に製造できるようにする。
【解決手段】電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュール10表示面側を覆う防湿性透明板3とその裏面側を覆う防湿性カバー部材5とを、それぞれディスプレイモジュールの周縁より延設した延設部3aと5aを貼り合わせて、そのディスプレイモジュール10を密封する。その防湿性カバー部材5の内側の面に沿って延設部5aまで、含有水分率が50%以上の吸湿状態の保湿材7を配設し、その防湿性カバー部材5の延設部5aと防湿性透明板3の延設部3aとを保湿材7を挟んで貼り合わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュールにより、文字、図形、時刻等の情報を表示する電気泳動表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薄型の表示装置としては、液晶表示装置が各種の電子機器に広く使用されており、近年ではコンピュータやテレビジョン等の大型カラーディスプレイとしても使用されるようになっている。テレビジョンの大型カラーディスプレイとしてはプラズマディスプレイも使用されている。
しかし、液晶表示装置やプラズマディスプレイはCRT表示器に比べれば格段に薄型になったとはいえ、まだ用途によっては充分に薄くはないし、曲げることは出来ない。また、携帯機器のディスプレイとして使用する場合には消費電力の一層の低減が臨まれる。
【0003】
そこで、一層の薄型化と低消費電力化を実現する表示装置として、電気泳動表示素子を用いた電子ペーパーとも称されるディスプレイモジュールが開発され、電子ブックや電子新聞、電子広告看板や案内表示板などへの利用が試みられている。
この電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュールは、例えば特許文献1に見られるように、基材、電極層、画像表示層、透明電極層、および透明な表面層からなる。
【0004】
その画像表示層は、異なる極性に帯電した白色粒子と黒色粒子及びそれらを分散する分散媒を収容した直径数十μmのマイクロカプセル(電子インク)による表示層であり、それを挟む上記電極層と透明電極層の間に発生する電界の向きに応じて、マイクロカプセル内の白色粒子と黒色粒子が電気泳動していずれか一方が表面側に集まり、白又は黒を表示する。そして、一度電界を与えて表示状態にすると、電界を印加しなくてもその表示状態を維持する不揮発性(メモリー性)を有するので、最初の表示時と表示内容を変えたり消去する時だけ電界を印加すればよいので、大幅な省電力化が可能である。
【0005】
このような電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュールには、ガラス基板を用いる場合もあるが、軽くて可撓性を有するプラスチック基板を用いて開発している。プラスチック基板および電気泳動表示素子を挟む一対のプラスチック基板の外周部を貼り合わせて封止する封止材は、空気中の水分を十分に遮断できないため、プラスチック基板や封止材を透過した水分(湿気)の影響によって表示素子の耐久性が低下し、表示品質が劣化したり寿命が短くなるという問題があった。
【0006】
そこで、このように一対のプラスチック基板間に電気泳動表示素子等の表示素子を挟持してなる電気光学装置において、その一対のプラスチック基板の内面に低透湿膜を設けるとともに、その外周部を溶着によって封止して、外部からの水分(湿気)の浸入を防止し、表示素子の劣化や寿命が短命化を防ぐことが、例えば特許文献2に見られるように提案されている。
【特許文献1】特開2005−156759号公報
【特許文献2】特許2005−227450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、プラスチック基板の内面に低透湿膜を設けても、高温高湿環境下において、水分(湿気)の透過を完全に防止することはできないため、電気泳動表示素子を封入した内部にプラスチック基板を通して僅かずつではあるが湿気が侵入し、電気泳動表示素子を劣化させる恐れがあった。また一対のプラスチック基板の外周部を溶着するために、レーザ光照射処理、超音波処理、熱板過加熱処理などの高度で複雑な工程が必要であるため、高価になるという問題があった。
【0008】
また、高温低湿環境下において、電気泳動表示素子内の水分が、プラスチック基板内面の低透湿膜を通して、外部に出てしまい、電気泳動表示素子内の湿度が低下し、メモリー性が低下することで、表示コントラストの低下が発生した。
【0009】
この発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、電気泳動表示装置の湿気による劣化や、乾燥による劣化を防いで長寿命化を図るとともに、簡単な封入工程で安価に製造できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明による表示装置は、上記の目的を達成するため、電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュールと、その表示面側を覆う防湿性透明板および裏面側を覆う防湿性カバー部材とからなり、上記防湿性透明板と防湿性カバー部材のそれぞれディスプレイモジュールの周縁より延設した延設部を貼り合わせて、そのディスプレイモジュールを密封してなり、少なくとも上記防湿性透明板と防湿性カバー部材によって上記ディスプレイモジュールを密封した領域内に保湿材を配設したことを特徴とする。
【0011】
上記保湿材を、上記防湿性カバー部材の内側の全面に沿って上記延設部まで層状に配設し、その防湿性カバー部材の延設部と上記防湿性透明板の延設部とを上記保湿材の層を挟んで貼り合わせるようにするとよい。
あるいは、上記ディスプレイモジュールの表示面側と上記防湿性透明板との間に透明な保湿材を配設してもよいし、それと防湿性カバー部材の内側の面とディスプレイモジュールの裏面側との間の両方に保湿剤を配設してもよい。
【0012】
また、この発明による表示装置は、電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュールと、そのディスプレイモジュールの表示面側を覆う防湿性透明板とからなり、上記防湿性透明板の周縁部とディスプレイモジュールの下基板の周縁部とを封止材を用いて貼り合わせて、そのディスプレイモジュールを密封し、少なくとも上記防湿性透明板とディスプレイモジュールの下基板とによって上記ディスプレイモジュールを密封した領域内に保湿材を配設してもよい。
【0013】
あるいはまた、この発明による表示装置は、電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュールと、そのディスプレイモジュールの表示面側を覆う防湿性透明板および裏面側を覆う防湿性カバー部材とからなり、上記防湿性透明板の周縁部とディスプレイモジュールの下基板とを封止材を用いて貼り合わせ、その下基板の裏面に防湿性カバー部材を貼り付けてそのディスプレイモジュールを密封し、少なくとも上記下基板と上記防湿性カバー部材との間に保湿材を配設ししてもよい。
【0014】
上記保湿材がナイロン等の高分子材料を含む有機保湿材であるとよい。
また、上記吸湿材を含有水分率が50%以上に吸湿させた状態で配設するとよい。
【発明の効果】
【0015】
この発明による電気泳動表示装置は、防湿性透明板と防湿性カバー部材とによって電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュールを密封して、高温高湿環境下におけるディスプレイモジュールへの湿気の浸入を防止するとともに、防湿性透明板と防湿性カバー部材自体やその貼り合わせ部を通して少しづつ湿気が浸入したとしても、それを保湿材によって吸湿するため、内部の湿度が常に適正に保たれ、電気泳動表示装置の湿気による劣化を防いで長寿命化を図ることができる。
【0016】
また、この発明による電気泳動表示装置は、高温低湿環境下で、電気泳動素子内の水分が、防湿性透明板と防湿性カバー部材自体やその貼り合わせ部を通して少しずつ飛散したとしても、保湿材に含まれていた水分により、補てんされるため、内部の湿度が常に適正な範囲に保たれ、電気泳動表示装置の乾燥による劣化を防いで長寿命化を図ることができる。しかも、防湿性透明板と防湿性カバー部材による密封工程はその延設部を、例えばラミネータを通すだけの簡単な工程で貼り合わせるだけ、あるいは、防湿性透明板を封止材で接着するだけの簡単な工程で、安価に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて具体的に説明する。
図1はこの発明による電気泳動表示装置の第1の実施例の構成を模式的に示す縦断面図、図2はその防湿性透明板と保湿材層と防湿性カバー部材の詳細を示す部分的な拡大断面図、図3は図1に示した電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュールの表示原理を説明するための要部の模式的な拡大断面図である。
【0018】
図1に示す電気泳動表示装置1は、電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュール10と、そのディスプレイモジュール10の表示面側を覆う防湿性透明板(フロントバリアとも云う)3および裏面側を覆う防湿性カバー部材(リアバリアともいう)5とからなり、防湿性透明板3と防湿性カバー部材5のそれぞれディスプレイモジュール10の周縁より延設した延設部3aと5aを貼り合わせて形成した周辺部1aにより、ディスプレイモジュール10を密封している。そして、少なくとも防湿性透明板3と防湿性カバー部材5によってディスプレイモジュール10を密封した領域内に保湿材を配設するが、この例では、保湿材を層状にして、防湿性カバー部材5の内側の全面に沿って延設部5aまで保湿材7を配設し、防湿性カバー部材5の延設部5aと防湿性透明板3の延設部3aとを保湿材7を挟んで貼り合わしている。
【0019】
ここで、図2によってこの実施形態における防湿性透明板3と防湿性カバー部材5と保湿材7の詳細を説明する。
防湿性透明板3は、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなるシート(以下「PETシート」という)等の透明プラスチックシート31と33との間に透明な防湿性フィルム32を挟んでラミネートし、貼り合わせる側の全面にホットメルト接着剤層34を形成した撓曲可能なプラスチック板であり、全体の厚さが100μm程度である。透明プラスチックシート31,33として、PETシートの代わりにポリエステルシートを用いることも可能である。
その防湿性フィルム32は、PETシート等の透明フィルムに無機系酸化物を蒸着法やスパッタリング法を用いてコートしたものや、フッ素系の有機高分子フィルムなどを用いることができる。有機高分子フィルムとして、3フッ化塩化エチレンを用いたバリアフィルムであるAclar(登録商標)などが好適である。
【0020】
一方、防湿性カバー部材5は、PETシート等のプラスチックシート51の内面全体に防湿性が高いアルミニウム箔52をラミネートし、保湿剤7を貼り合わせる側の全面にホットメルト接着剤層53を形成した撓曲可能なシートである。あるいは、この防湿性カバー部材5のアルミニウム箔52上にさらに保湿材7を接着剤層53でラミネート形成してもよい。その場合は全体の厚さが100μm程度である。
また、プラスチックシート51として、PETシートの代わりにポリエステルシートを用いたり、防湿性カバー部材5として、PETシート/アルミニウム箔/ポリエステルシートでサインドイッチ構造としたフィルムを用いることも可能である。また、各種の金属箔や低透湿膜をコートした防湿性フィルムを用いてもよい。
【0021】
保湿材7は、保湿性フィルム71とホットメルト接着層72から形成され、保湿性フィルム71には、各種の無機吸着材や有機吸着材を使用することができる。無機吸着材としては、アルミナ、シリカゲル、ゼオライトなどの多孔質無機材料を混入した高分子フィルムなどがある。有機吸着材としては、例えばポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリスルホン等のいずれかあるいは2種類以上を混ぜ合わせた物質でもよい。
なお、上述したように、この保湿材7を防湿性カバー部材5と一体にラミネート形成してもよい。
【0022】
そして、図1に示したディスプレイモジュール10の外側の周辺部(一般に耳部という)1aにおいて、この防湿性透明板3と防湿性カバー部材5との間に保湿材7を挟んで重ね合わせ、ロールラミネータを通して熱圧着すことによって、防湿性透明板3と防湿性カバー部材5のそれぞれの延設部3aと5aを、防湿性透明板3のホットメルト接着剤層34と保湿材7のホットメルト接着剤層72を軟化させて接着させる。
【0023】
なお、保湿材7あるいは保湿性フィルム71を貼り合わせてある防湿性カバー部材5は、防湿性透明板3と接着させる工程の前に、水分を吸収させる必要がある。保湿材の水分として、保湿材が室温において吸収可能な飽和水分に対して、実際に吸収している水分の比率(含有水分率と定義する)を50%以上にしておくことが重要である。
すなわち、保湿材7の含有水分率が低すぎる(50%に達しない)と、高温低湿環境下での劣化防止効果が低下するので、保湿材7を含有水分率が0%以上の状態で、ディスプレイモジュール10を密閉する空間内に配設するのが好ましい。また、保湿材7の含有水分率が高過ぎる(90%を超える)と、高温高湿環境下での劣化防止効果が低下する場合もあるので、保湿材7の含有水分率が50〜90%の状態が最も好ましい。そこで、この実施例では、保湿材7を40゜Cで80%の高温恒湿槽に24時間放置し、保湿材の含有水分率が80%程度の状態に吸湿させた。
【0024】
図1に示した示すディスプレイモジュール10は、透明な樹脂基材11の裏面全体にITO(酸化インジューム錫)膜による透明電極12を形成し、その上に電子インクとも称されるマイクロカプセル表示層13を形成してフィルム状にしている。そのフィルムを、表面に画素毎の電極パターン16が形成されたポリイミドフィルムからなる下基板15上に、接着層18で接着している。
【0025】
そのマイクロカプセル表示層13は、バインダや界面活性剤、増粘剤、純水等の混合体中に直径が数十μm程度の微小なマイクロカプセル20が多数分散している。そのマイクロカプセル20は、図3に示すように、透明なメタクリル樹脂等からなるカプセル殻21の内部に、酸化チタン等からなる白色粒子23とカーボンブラック等からなる黒色粒子24が、シリコーンオイル等の粘性の高い透明な分散媒22に分散された状態で封入されている。そして、白色粒子23は負に帯電され、黒色粒子24は正に帯電されている。
【0026】
そこで、このマイクロカプセル表示層13を挟むように配置された電極のうち、一方の全面一体の透明電極12を接地し、他方の下基板15上の電極パターン16に負電圧を印加した部分では、その電界によってマイクロカプセル20内の負に帯電した白色粒子23が透明電極12側へ、正に帯電した黒色粒子24は電極パターン16側へ移動するので、視認側(図3の上方)から見ると白く見える。一方、電極パターン16に正電圧を印加した部分では、その逆向きの電界によってマイクロカプセル20内の正に帯電した黒色粒子24が透明電極12側へ、負に帯電した白色粒子23は電極パターン16側へ移動するので、視認側から見ると黒く見える。
【0027】
図3における中央のマイクロカプセル20のように、負電圧が印加された電極パターンと正電圧が印加された電極パターンとに跨った位置のマイクロカプセル20内では、白色粒子23の一部は透明電極12側へ、残りは電極パターン16側へ移動し、黒色粒子24の一部は電極パターン16側へ移動し、残りは透明電極12側へ移動するので、マイクロカプセルの直径よりも、細かい表示も可能である。
【0028】
また、印加電圧や、印加時間を調整することによって、黒色粒子24と白色粒子23を中間で混合した状態で保持して灰色等の中間調表示も可能である。
したがって、透明電極12と電極パターン16との間に印加する電圧の極性によって、白又は黒、あるいは灰色に表示状態を変化させることができる。このとき白色粒子23と黒色粒子24は分散媒22中を電気泳動によって移動するが、分散媒22の粘度が高く、さらに粒子間で働く分子間力が強いので、電圧を印加して表示状態を変化させた後、その電圧の印加を停止してもその表示状態を保持するメモリー性効果を持つ。
このように、このディスプレイモジュール10はメモリー性を有するため、表示を変化させる時だけ駆動電圧を印加すればよいので、電力消費量が極くわずかですむ。
【0029】
この様に構成したこの発明の第1の実施例である電気泳動表示装置1は、防湿性透明板3と防湿性カバー部材5とによって、電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュール10と含有水分率が50%以上の吸湿状態の保湿材7とを密封した構造にしている。したがって、高温高湿環境下において、防湿性透明板3と防湿性カバー部材5自体やその貼り合わせ部を通して少しずつ湿気が浸入したとしても、それが保湿材7によって吸湿される。また、防湿性透明板3と防湿性カバー部材5との張り合わせ部である延設部3aと5aは吸湿材層7を挟んで貼り合わされているので、外部から侵入しようとする湿気が内部に到達する前に吸湿材7によって吸湿されてしまうため、殆ど内部に侵入できない。また、高温低湿環境下において、マイクロカプセル表示層13の水分が飛散しても、保湿材7から水分が補給される。
【0030】
そのため、ディスプレイモジュール10を密封している内部の湿度が常に適正(湿度30〜70%)に保たれ、ディスプレイモジュール10が湿気や乾燥により劣化するのを防いで長寿命化を図ることができる。しかも、防湿性透明板3と防湿性カバー部材5による密封工程はその各延設部3aと5aを貼り合わせるだけなので、例えばロールラミネータを通して熱圧着するだけの簡単な工程で安価に製造できる。
【0031】
特に、保湿材71として有機保湿材、特にナイロン等の高分子材料を含む保湿材を使用すると、吸湿性と適度な保湿性を有するため、内部の湿度が常に適正湿度状態に保つのに有効であり、かつ、事前に防湿性カバ−部材と一体化しておくことが簡単であり、安価に製造できる。
【0032】
また、従来は、2枚のバリア部材を貼り合わせた耳部あるいは額縁部(図1に示した周辺部1a相当する)を大きくして、その貼り合わせ部からの湿気の侵入を防いでいたので、有効な表示画面の大きさに対して表示装置全体の大きさがかなり大きくなってしまっていた。この第1の実施例によれば、上述のようにこの貼り合わせ部からの湿気の浸入は極めて少なくなるので、貼り合わせに必要な最小限の大きさにすることができ、耳部あるいは額縁部を狭くして、表示画面の大きさが同じ表示装置の全体の大きさを小さくすることができる。
【0033】
また、この第1の実施例のように、保湿材7を層状にして防湿性カバー部材5の内面全体に配設すれば、その保湿材が密封空間内に露出する面積が大きくなり、防湿性透明板3と防湿性カバー部材5との貼り合わせ部にも介在するので、その吸湿効果を十分に得ることができるが、それは必須ではなく、少なくとも防湿性透明板3と防湿性カバー部材5によってディスプレイモジュール10を密封した領域内に保湿材を配設すれば有効である。
【0034】
ここで、この発明による効果を確認するための実験結果を図4と図5によって説明する。図4および図5は電気泳動表示装置に保湿材を設けた上記第1の実施例の場合と、保湿材を設けない点以外は同じ電気泳動表示装置による信頼性試験(実験期間を短縮するために実際の使用状態に比べて遥かに過酷な状態にして行う試験)の結果を示し、図4は高温低湿環境(60゜Cdry)試験の経過日数に対する表示コントラスト比の変化を示す線図、図5は高温高湿環境(45゜C90%)試験の経過日数に対する表示コントラスト比の変化を示す線図である。いずれも、実線は保湿材を設けた上記第1の実施例の場合、破線は保湿材を設けない従来例の場合のコントラスト比を示す。
【0035】
図4からわかるように、保湿材を設けない場合には、高温低湿環境試験では、5日経過以降からマイクロカプセル表示層が乾燥し、メモリー性が低下するため白や黒を保持できなくなり、表示コントラスト比が大きく低下し始める。それに対し、保湿材を設けたこの発明の第1の実施例の場合は、コントラスト比は多少低下し始めるが、保湿材から水分が補給され、メモリー性が維持されるので、その低下度合いは、保湿材を設けない場合よりかなり少ない。
【0036】
また、図5からわかるように、高温高湿環境試験では、保湿材を設けない場合には、10日経過以降からマイクロカプセル表示層の抵抗が下がり、駆動電圧が接着層にかかり、表示層に充分に印加されないので、表示コントラスト比が低下し始める。それに対し、保湿材を設けたこの発明の第1の実施例の場合は、15日経過以降から、コントラストは多少低下し始めるが、その低下度合いは保湿材を設けない場合よりかなり少ない。これらの実験によって、この発明による電気泳動表示装置の長寿命化の効果が実証された。
【0037】
なお、この実施例では、吸湿材7をディスプレイモジュール10と防湿フィルム5との間に設けたが、ディスプレイモジュール10の表示面側と防湿性透明板3との間に透明な保湿材を配設することも可能である。あるいは、ディスプレイモジュール10と防湿フィルム5との間と、ディスプレイモジュール10の表示面側と防湿性透明板3との間の両方にそれぞれ保湿材を設けるとなおよい。
【0038】
つぎに、この発明の他の実施例について説明する。図6乃至図9はそれぞれこの発明による電気泳動表示装置の第2乃至第5の実施例の構成を模式的に示す縦断面図である。
これらの図において、前述した第1の実施例を示した図1と対応する部分には同一の符号を付してあり、それらの説明は省略する。また、ディスプレイモジュール10の構成および機能は、図1および図3によって説明したものと同じである。
【0039】
図6に示す第2の実施例の電気泳動表示装置1′は、図1に示した第1の実施例の電気泳動表示装置1と同様な防湿性カバー部材5とディスプレイモジュール10との間の保湿材7Bに加えて、防湿性透明板3とディスプレイモジュール10の表示面側との間にも保湿材7Aを配設している。その保湿材7Aは、防湿性透明板3の内側の全面に沿ってその延設部3aまで層状に配設し、その防湿性透明板3の延設部3aと防湿性カバー部材5の延設部5aとを保湿材7A,7Bの層を挟んで貼り合わせている。この保湿材7Aはマイクロカプセル表示層13の上側に設置されるので、透明性が必要であり、透過率の高い有機保湿材を使用する。
【0040】
図7に示す第3の実施例の電気泳動表示装置1″は、上述した第2の実施例における防湿性カバー部材5とディスプレイモジュール10との間の保湿材7Bを省略して、防湿性透明板3とディスプレイモジュール10の表示面側との間だけに保湿材7Aを配設したものである。
【0041】
図8に示す第4の実施例の電気泳動表示装置25は、電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュール10と、そのディスプレイモジュール10の表示面側を覆う防湿性透明板3および透明な保湿材7とからなり、防湿性透明板3のディスプレイモジュール10の周縁より延設した周縁部である延設部3aとディスプレイモジュール10の下基板15の延設した周縁部15aとを封止材17を用いて貼り合わせ、周辺部25aでディスプレイモジュール10を密封している。そして、少なくとも防湿性透明板3と下基板15とによってディスプレイモジュール10を密封した領域内に保湿材を配設するが、この実施例では、透明な保湿材7を防湿性透明板3の内側の全面に亘って延設部3aまで層状に配設し、その防湿性透明板3の周縁部である延設部3aおよび保湿材7の延設部7aと下基板15の延設した周縁部15aとを封止材17を用いて貼り合わしている。
【0042】
ここで用いた防湿性透明板3やマイクロカプセル表示層13は、第1の実施例と同じである。この実施例に使用するディスプレイモジュール10も、マイクロカプセル表示層13と電極パターン16との間を接着層18で接着している。また、この第4の実施例では、第1の実施例で設けた防湿性カバー部材を設けていないが、ディスプレイモジュール10の下基板15の材料として、透湿性の低い厚いプリント基板を用いることで、マイクロカプセル表示層13の裏面からの水分の侵入を防いでいる。あるいは、下基板に、無機酸化物等を事前にコートした防湿性プラスチック基板等を用いることも可能である。
【0043】
封止材17は、エポキシ系やアクリル系の液体接着材を用い、ディスペンサーを用いて防湿性透明板3の延伸部3aと、下基板15の延伸部15aの間に流しこみ、熱や紫外線で硬化させて、接着させる。なお、封止材17からも水分が透過するので、透湿性のなるべく低い材料を選定した。この保湿材7も、マイクロカプセル表示層13の上側に設置されるので、透明性が必要であり、透過率の高い有機保湿材を使用した。
【0044】
なお、保湿材7を貼り合わせてある防湿性透明板3は、下基板15と接着させる前に保湿材7に水分を吸収させる必要がある。保湿材7の吸湿状態としては第1の実施例と同様に、含有水分率が50%以上、好ましくは50〜90%の状態であり、保湿材7を40゜C80%の高温恒湿槽に24時間放置し、保湿材の含有水分率が80%程度の状態になるように吸湿させた。
【0045】
この第2乃至第4の実施例の電気泳動表示装置によって、第1の実施例と同様な信頼性試験を行ったところ、第1の実施例と同様に、高温高湿環境試験と高温低湿環境試験において、表示コントラスト比の低下が抑えられる良好な結果が得られ、この発明による電気泳動表示装置の長寿命化の効果が実証された。
【0046】
つぎに、図9に示す第5の実施例の電気泳動表示装置26は、電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュール10と、そのディスプレイモジュール10の表示面側を覆う防湿性透明板3および裏面側を覆う防湿性カバー部材5からなり、その防湿性透明板3のディスプレイモジュール10の周縁より延設した周縁部である延設部3aとディスプレイモジュール10から延設した下基板15の周縁部15aとを、封止材17を用いて貼り合せている。さらに、下基板15の裏面に、保湿材7のフィルム(図2に示した保湿性フィルム71に相当)を貼り合わせた防湿性カバー部材5を貼り付けて、ディスプレイモジュール10をその周辺部26aで密封している。
【0047】
ここで用いた防湿性カバー部材5や保湿材7は、第1の実施例で用いた材料と同じであるが、図2に示した保湿材7を構成する保湿性フィルム71の表面に設けた接着層72には、室温で接着可能である粘着タイプのものを用いた。ディスプレイモジュール10の下基板15の材料としては、透湿性の高いポリイミド基板やPETフィルム、あるいは薄いプリント基板を用いることができる。
【0048】
この第5の実施例の電気泳動表示装置によって、第1の実施例と同様な信頼性試験を行ったところ、やはり第1の実施例と同様に、高温高湿環境試験と高温低湿環境試験において、表示コントラスト比の低下が抑えられる良好な結果が得られ、透湿性の高い下基板15を用いても、下基板の裏面に保湿材7と防湿性カバー部材5を設けることによって、この発明による電気泳動表示装置の長寿命化の効果が実証された。
【0049】
また、第4の実施例と第5の実施例では、ディスプレイモジュール10の樹脂基材11より、防湿性透明板3を周辺部25a又は26aに延設し、その延設部3aを封止材17を用いて下基板15の延設した周縁部15aと貼り合せたが、防湿性透明板3をディスプレイモジュール10の樹脂基材11と同じ外形に切断し、封止材17を下基板15の周縁部15a上から防湿性透明板3の周縁部である側面まで塗布して接着する構造も可能である。あるいは逆に、下基板15をディスプレイモジュール10の樹脂基材11と同じ外形に切断し、封止材17を防湿性透明板3の周縁部である延設部3aの下面から下基板15の周縁部である側面まで塗布して接着する構造も可能である。
【0050】
また、プラスチック基板を用いた電気泳動表示装置について説明してきたが、本発明はディスプレイモジュールの下基板15にガラスを用いた電気泳動表示装置においても、同様な効果が得られることは、明白である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
この発明によるディスプレイモジュールとともに保湿材を密封した電気泳動表示装置(表示パネル)は、消費電力が極めて少なく、高温高湿環境下でも高温低湿環境下でも長寿命化でき、且つ安価に製造できるので、携帯電話や携帯型電子端末あるいは時計などの携帯機器のディスプレイとして、さらには電子ブックや電子新聞など、多用な用途に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】この発明による電気泳動表示装置の第1の実施例の構成を模式的に示す縦断面図である。
【図2】その防湿性透明板と保湿材層と防湿性カバー部材の詳細を示す部分的な拡大断面図である。
【図3】図1に示した電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュールの表示原理を説明するための要部の模式的な拡大断面図である。
【図4】電気泳動表示装置における保湿材の有無による高温低湿環境試験の経過日数に対する表示コントラスト比の変化の相違を示す線図である。
【図5】電気泳動表示装置における保湿材の有無による高温高湿環境試験の経過日数に対する表示コントラスト比の変化の相違を示す線図である。
【図6】この発明による電気泳動表示装置の第2の実施例の構成を模式的に示す縦断面図である。
【図7】この発明による電気泳動表示装置の第3の実施例の構成を模式的に示す縦断面図である。
【図8】この発明による電気泳動表示装置の第4の実施例の構成を模式的に示す縦断面図である。
【図9】この発明による電気泳動表示装置の第5の実施例の構成を模式的に示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1,1′,1″,25,26:電気泳動表示装置
1a、25a、26a:周辺部(耳部)
3:防湿性透明板
3a:防湿性透明板の延設部 5:防湿性カバー部材
5a:防湿性カバー部材の延設部 7,7A,7B:保湿材
10:電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュール
11:樹脂基材 12:透明電極 13:マイクロカプセル表示層
15:下基板 16:電極パターン 17:封止材 18:接着層
20:マイクロカプセル 21:カプセル殻 22:分散媒
23:白色粒子 24:黒色粒子
31,33:透明プラスチックシート
32:防湿性フィルム 34:ホットメルト接着剤層
51:プラスルチックシート
52:アルミニウム箔 53:ホットメルト接着剤層
71:保湿性フィルム 72:ホットメルト接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュールと、該ディスプレイモジュールの表示面側を覆う防湿性透明板および裏面側を覆う防湿性カバー部材とからなり、
前記防湿性透明板と防湿性カバー部材のそれぞれ前記ディスプレイモジュールの周縁より延設した延設部を貼り合わせて、該ディスプレイモジュールを密封しており、
少なくとも前記防湿性透明板と防湿性カバー部材によって前記ディスプレイモジュールを密封した領域内に保湿材を配設したことを特徴とする電気泳動表示装置。
【請求項2】
前記保湿材を、前記防湿性透明板または前記防湿性カバー部材と、前記ディスプレイモジュールとの間に配設したことを特徴とする請求項1に記載の電気泳動表示装置。
【請求項3】
前記保湿材は、前記防湿性透明板または前記防湿性カバー部材の内側の全面に沿って前記延設部まで層状に配設し、該防湿性カバー部材の延設部と前記防湿性透明板の前記延設部とを前記保湿材の層を挟んで貼り合わせたことを特徴とする請求項1または2に記載の電気泳動表示装置。
【請求項4】
前記保湿材は、前記防湿性透明板と前記ディスプレイモジュールとの間、および前記防湿性カバー部材と前記ディスプレイモジュールとの間の両方に配設したことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電気泳動表示装置。
【請求項5】
前記防湿性透明板または前記防湿性カバー部材は、その全面に、前記保湿材を接着層を用いてラミネートし、該保湿材上に、ホットメルト接着剤層を形成した撓曲可能なシートであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の電気泳動表示装置。
【請求項6】
電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュールと、該ディスプレイモジュールの表示面側を覆う防湿性透明板とからなり、
前記防湿性透明板の前記ディスプレイモジュールの周縁部と前記ディスプレイモジュールの下基板の周縁部とを封止材を用いて貼り合わせて、該ディスプレイモジュールを密封しており、
少なくとも前記防湿性透明板と前記ディスプレイモジュールの下基板とによって前記ディスプレイモジュールを密封した領域内に保湿材を配設したことを特徴とする電気泳動表示装置。
【請求項7】
電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュールと、該ディスプレイモジュールの表示面側を覆う防湿性透明板および裏面側を覆う防湿性カバー部材とからなり、
前記防湿性透明板の前記ディスプレイモジュールの周縁部と前記ディスプレイモジュールの下基板の周縁部とを封止材を用いて貼り合わせ、前記下基板の裏面に防湿性カバー部材を貼り付けて前記ディスプレイモジュールを密封しており、
少なくとも前記下基板と前記防湿カバー部材との間に保湿材を配設したことを特徴とする電気泳動表示装置。
【請求項8】
前記保湿材が高分子材料を含む有機保湿材であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の電気泳動表示装置。
【請求項9】
前記保湿材を、含有水分率が50%以上に吸湿させた状態で配設したことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の電気泳動表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−3013(P2009−3013A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−161508(P2007−161508)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)