説明

電気泳動表示装置

【課題】電気泳動表示装置の湿気による劣化を防いで長寿命化を図るとともに、高コントラストの良好な表示品質を可能とする。
【解決手段】電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュール10と、ディスプレイモジュール10の表示面側を覆う防湿性透明板3および裏面側を覆う防湿性カバー部材5とを備え、ディスプレイモジュール10は、防湿性透明板3と防湿性カバー部材5との間で密封されており、少なくとも防湿性透明板3と防湿性カバー部材5によって密封した領域内に一定の湿度を保つ一定保湿膜7を配設したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュールにより、文字、図形、時刻等の情報を表示する電気泳動表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薄型の表示装置としては、液晶表示装置が各種の電子機器に広く使用されており、近年ではコンピュータやテレビジョン等の大型カラーディスプレイとしても使用されるようになっている。テレビジョンの大型カラーディスプレイとしてはプラズマディスプレイも使用されている。
【0003】
しかし、液晶表示装置やプラズマディスプレイはCRT表示器に比べれば格段に薄型になったとはいえ、まだ用途によっては充分に薄くはないし、曲げることは出来ない。また、携帯機器のディスプレイとして使用する場合には消費電力の一層の低減が臨まれる。
【0004】
そこで、一層の薄型化と低消費電力化を実現する表示装置として、電気泳動表示素子を用いた電子ペーパーとも称されるディスプレイモジュールが開発され、電子ブックや電子新聞、電子広告看板や案内表示板などへの利用が試みられている。
【0005】
この電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュールは、例えば特許文献1に見られるように、基材、電極層、画像表示層、透明電極層、および透明な表面層からなる。
【0006】
その画像表示層は、図2に図示するように、異なる極性に帯電した白色粒子23と黒色粒子24及びそれらを分散する分散媒22を収容した直径数十μmのマイクロカプセル(電子インク)20による表示層であり、それを挟む電極パターン16と透明電極層12の間に発生する電界の向きに応じて、マイクロカプセル20内の白色粒子23と黒色粒子24が電気泳動していずれか一方が表面側に集まり、白又は黒を表示する。そして、一度電界を与えて表示状態にすると、その後電界を印加しなくてもその表示状態を維持する不揮発性(メモリー性)を有するので、最初の表示時と表示内容を変えたり消去したりする時だけ電界を印加すればよいので、大幅な省電力化が可能である。
【0007】
このような電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュールは適切な内部湿度というものがあり、この適正湿度範囲(30%から70%)外であると、コントラストの低下が生じたり、白と黒の切り替えがスムーズ行われなかったりなどの問題が生じることが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
特許文献1では、可撓性を有する低透湿なフィルムで水蒸気の浸入を防いでいる。そして、防湿フィルムを越えて内部に侵入した水分をナイロン等の保湿剤へ吸着させることで、耐湿性能を向上させる取り組みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−3013号公報(第5−7頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に記載された電子泳動方式表示装置では、適正限界までの浸入水分量を大きくすることができるものの、水分浸入により、湿度が徐々に増加することは避け
られない。そのため、増加する内部湿度に伴い、応答時間が変化することを防げない。
【0011】
また、従来の適正湿度(30%から70%)といわれた範囲内であっても内部の湿度次第で、駆動させる電圧を印加してから表示が切り替わるまでの時間(応答時間)は異なる。図3に従来の電気泳動表示素子を用いた場合の湿度による応答時間の違いを示した。図3に示すように、内部湿度が変化すると、応答性が大きく変化してしまうのが明らかであった。特に適正湿度(30%から70%)範囲より高い湿度の場合、例えば湿度が90%であると、図3より、応答性がすこぶる低下し、かつ、白切り替えと黒切り替えとで応答性に大きな差が生じるのは明らかであるが、適正と言われた湿度範囲(30%から70%)内であっても、応答性が変化し、問題が生じることが分かった。
【0012】
また、ナイロンなどを用いて水分調整をさせる場合では、その水分吸着量はシリカゲルなど一般に乾燥剤として使われている材料に比べ限られている。他方、シリカゲルなどの乾燥剤を使用しては、内部の湿度がほぼ0%まで乾燥させてしまい。モジュールの性能を低下させる問題がある。
【0013】
また、ホットメルト剤を用い、熱ロールラミネータで圧着・封止する工程では、熱が掛かるため、表示体の水分の蒸発を伴う。そしてこの蒸発量を外部環境やラミネータの設定などによって管理することは難しい。
【0014】
よって、本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、電気泳動表示装置の湿度に対する応答速度の低下、コントラストの低下を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュールと、ディスプレイモジュールの表示面側を覆う防湿性透明板および裏面側を覆う防湿性カバー部材とを備え、ディスプレイモジュールは、防湿性透明板と防湿性カバー部材との間で密封されており、少なくとも防湿性透明板と防湿性カバー部材によって密封した領域内に一定の湿度を保つ一定保湿膜を配設したことを特徴とする。
【0016】
この一定保湿膜は、ほぼ30%の湿度に保つ機能を有することを特徴とする。また、一定保湿膜は、防湿性透明板または防湿性カバー部材と、ディスプレイモジュールとの間に配設したことを特徴とする。また、ディスプレイモジュールは、電極を備えた下基板又は上基板を有し、下基板又は上基板は、防湿性カバー部材又は防湿性透明板を兼ねている構成であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
周囲の湿度をある任意の湿度でほぼ一定に保つことが可能な膜を一定保湿膜と称することにする。このような膜を電気泳動表示装置に組み込むことにより、高湿度環境下で外部より浸入する水分を、一定保湿膜が吸着することで、装置内部の湿度を一定に保ち、応答速度の変化を防ぐ。
【0018】
また、一定保湿膜による吸湿効果によって耐湿性(コントラストの低下防止)が格段に向上する。また、一定保湿膜を用いて、ラミネート後に一定保湿膜の効果により内部の湿度が調整されることで、電気泳動表示体内部の湿度を管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の電気泳動表示装置を模式的に示す断面図である。
【図2】電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュールの要部拡大断面図である。
【図3】内部湿度と応答性の関係を示したグラフである。
【図4】本発明の各層の詳細を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の電気泳動表示装置を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明の電気泳動表示装置を模式的に示す断面図である。
【図7】本発明の電気泳動表示装置を模式的に示す断面図である。
【図8】内部湿度と応答性の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて具体的に説明する。図1、図5、図6、及び図7はこの発明による電気泳動表示装置の実施例の構成を模式的に示す縦断面図、図4はその防湿性透明板と一定保湿膜と防湿性カバー部材の詳細を示す部分的な拡大断面図である。
【0021】
図1に示す電気泳動表示装置1は、電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュール10と、そのディスプレイモジュール10の表示面側を覆う防湿性透明板(フロントバリアとも云う)3および裏面側を覆う防湿性カバー部材(リアバリアともいう)5とからなり、防湿性透明板3と防湿性カバー部材5のそれぞれディスプレイモジュール10の周縁より延設した延設部3aと5aを貼り合わせて形成した周辺部1aにより、ディスプレイモジュール10を密封している。そして、少なくとも防湿性透明板3と防湿性カバー部材5によってディスプレイモジュール10を密封した領域内に一定保湿層7を配設するが、この例では、一定保湿膜を層状にして、防湿性カバー部材5の内側の全面に沿って延設部5aまで一定保湿層7を配設し、防湿性カバー部材5の延設部5aと防湿性透明板3の延設部3aとを一定保湿層7を挟んで貼り合わしている。
【0022】
ここで、図4によってこの実施形態における防湿性透明板3と防湿性カバー部材5と一定保湿層7の詳細を説明する。
【0023】
防湿性透明板3は、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなるシート(以下「PETシート」という)等の透明プラスチックシート31にシリコン酸化物層32を蒸着させ、透明プラスチックシート33でカバーした防湿シートである。貼り合わせる側の全面にホットメルト接着剤34を形成した撓曲可能なプラスチック板である。PETシートを他の材質へ変更してもよい。ポリエステル、ポリエチレンナフタレート等が可能である。防湿性を発現させる手法も上記のシリコン酸化物層32の蒸着に限らず、アルミナ蒸着、スパッタリング、有機高分子フィルムなども可能である。
【0024】
一方、防湿性カバー部材5は、PETシート等のプラスチックシート51の内面全体に防湿性が高く、安価であるアルミニウム箔52をラミネートし、この防湿性カバー部材5のアルミニウム箔52上にさらに一定保湿層7を接着剤層53でラミネート形成している。また、プラスチックシート51として、PETシートの代わりにポリエステルシートを用いたり、防湿性カバー部材5として、PETシート/アルミニウム箔/ポリエステルシートでサインドイッチ構造としたフィルムを用いたりすることも可能である。また、各種の金属箔や低透湿膜をコートした防湿性フィルムを用いてもよい。
【0025】
一定保湿層7は、一定保湿膜71を備えている。一定保湿膜71には、たとえば、佐々木化学薬品株式会社のドライキープ(登録商標)がある。低密度ポリエチレンのフィルムに吸湿剤を埋め込むことで、湿度をほぼ30%の一定に保つフィルムとなっている。この製品は、食品や薬品の包装の一部に使用されている材料である。一定保湿膜71の防湿性透明板3に面する側には全面にホットメルト接着剤72が形成されている。
【0026】
一定保湿膜による効果を得るには、図1に示した構造に限らず、防湿性透明板と防湿カ
バー部材、その他防湿性を得られる部材によって密封された内部であれば、一定保湿層7はいずれの場所にあっても構わない。たとえば、図5,図6,図7のような構造であっても構わない。
【0027】
図5は、ディスプレイモジュール10と防湿性透明板3との間、防湿性透明板3のすぐ内側に配設した構造である。図6と図7は、図1や図5とは異なり、防湿性透明板3と防湿性カバー部材5とを貼り合わせる構造ではなく、端部の封止材17によって貼り合わせる場合の構造である。
【0028】
図6は、ディスプレイモジュール10の下基板15が、ガラス基板などの防湿性の高い材料を用いており、図1や図5の防湿カバー部材5と同じ機能を兼ねている構成となっている。このよう構成では、この下基板15と防湿性透明板3、封止材17によって密封された内部のいずれかに一定保湿膜を配設しさえすれば、効果が得られる。図6では防湿性透明板3の内側に配設されているが、ここに限らず、例えば封止材17に接する内側もあっても構わない。また、図6では下基板15が防湿カバー部材5を兼ねている構成としたが、上基板11が、防湿性透明板3を兼ねた構成としても構わない。
【0029】
図7は、下基板15aが防湿カバー部材を兼ねない場合で、下基板より外側に防湿カバー部材5を配設する構造である。このような構造では、下基板と防湿カバー部材の間に一定保湿層7を配設する。このような構成でも当然ながら同様な効果が得られる。
【0030】
また、これらの構成において、一定保湿膜は、電気泳動表示装置内に、完全に封止された状態で配置する必要ななく、この一定保湿膜や封止剤の端部が外部に露出する構造でも構わない。
【0031】
ここで、この発明による効果を確認するための実験結果を図8によって説明する。図8に電気泳動表示装置に一定保湿膜を設けた実施例の構造と、特許文献1に見られる同じ構造でもナイロンを配設した電気泳動表示装置による信頼性試験(実験期間を短縮するために実際の使用状態に比べて遥かに過酷な状態にして行う試験)の結果を示す。横軸は高温高湿環境(60゜C 90%)試験の経過日数を示し、縦軸には、経過日数に対する表示性能の変化を示している。表示性能は、白の明度から黒の明度を引いた値で、この値が高いほうが高いコントラストが得られていることになる。実線は一定保湿膜を設けた本実施例の場合、破線はナイロンを設けた従来例の場合の表示性能を示す。表示体の防湿構造は同じであるため、内部への浸入量は同じはずである。そのため表示性能の違いは吸湿剤の違い(一定保湿膜かナイロンか)によって説明できる。
【0032】
図8からわかるように、高温高湿環境試験において、ナイロンを設けた構造では表示性能の低下がみられ、水分浸入による影響を受けていることが分かる。それに対し、一定保湿膜を設けたこの発明の実施例の場合は、10日目までわずかな変化にとどまっている。これにより、一定保湿膜が浸入した水分を一定の湿度まで吸湿した効果が確認できた。
【0033】
ナイロン等への吸湿によって耐湿寿命を向上させる手法では、最適湿度の限界までの浸入水分量は増すものの、内部湿度を保つことにはならない。そのため、応答速度の変化を抑えることはできない。一方、一定保湿膜を用いれば、吸湿限界までは一定の湿度を保つことが可能で、応答速度の変化も抑えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
この発明によるディスプレイモジュールとともに一定保湿膜を密封した電気泳動表示装置(表示パネル)は、消費電力が極めて少なく、高温高湿環境下でも高温低湿環境下でも長寿命化でき、且つ安価に製造できるので、携帯電話や携帯型電子端末あるいは時計など
の携帯機器のディスプレイとして、さらには電子ブックや電子新聞など、多用な用途に利用できる。
【符号の説明】
【0035】
・ 1′,1″,25,26:電気泳動表示装置
・ 1a、25a、26a:周辺部(耳部)
3:防湿性透明板
3a:防湿性透明板の延設部
5:防湿性カバー部材
5a:防湿性カバー部材の延設部
7:一定保湿層
10:電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュール
11:上基板
12:透明電極
13:マイクロカプセル表示層
15:下基板
16:電極パターン
17:封止材
18:接着層
20:マイクロカプセル
21:カプセル殻
22:分散媒
23:白色粒子
24:黒色粒子
31,33:透明プラスチックシート
32:防湿性フィルムシリコン酸化物層
34:ホットメルト接着剤層
51:プラスルチックシート
52:アルミニウム箔
53:ホットメルト接着剤層
71:一定保湿膜
72:ホットメルト接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気泳動表示素子を用いたディスプレイモジュールと、該ディスプレイモジュールの表示面側を覆う防湿性透明板および裏面側を覆う防湿性カバー部材とを備え、
前記ディスプレイモジュールは、前記防湿性透明板と前記防湿性カバー部材との間で密封されており、
少なくとも前記防湿性透明板と防湿性カバー部材によって密封した領域内に一定の湿度を保つ一定保湿膜を配設したことを特徴とする電気泳動表示装置。
【請求項2】
前記一定保湿膜は、ほぼ30%の湿度に保つ機能を有することを特徴とする請求項1に記載の電気泳動表示装置。
【請求項3】
前記一定保湿膜は、前記防湿性透明板または前記防湿性カバー部材と、前記ディスプレイモジュールとの間に配設したことを特徴とする請求項1または2に記載の電気泳動表示装置。
【請求項4】
前記ディスプレイモジュールは、電極を備えた下基板又は上基板を有し、該下基板又は上基板は、前記防湿性カバー部材又は防湿性透明板を兼ねている構成であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電気泳動表示装置。


【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−83590(P2012−83590A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230331(P2010−230331)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【出願人】(000124362)シチズンセイミツ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】