説明

電気浸透流を用いた汚染物質除去方法及び汚染物質除去装置

【課題】 汚染物質の除去又は回収効率を向上させること。
【解決手段】
鉛、水銀、カドミウム、ヒ素、クロム、亜鉛、マンガン、ベリリウムなどの重金属、PCBやダイオキシン類などの有害有機化合物、有機金属化合物などの有害汚染物質5を含有する処理物、例えば、汚染土壌、ヘドロ、汚泥、焼却灰などの処理物に対して、直流電圧に交流電圧を重畳印加することによって、該処理物中の固相粒子1に振動を与え、これにより、該固相粒子1が密状態に変化するのを防止しながら、該処理物中の水分を電気浸透流Yで移動させて前記汚染物質5を効率よく除去回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気浸透流を用いた汚染物質回収技術に関する。より詳しくは、電気浸透流の形成段階において、直流電圧に交流電圧を重畳印加することにより汚染物質の回収効率を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工場跡地などの再開発を進めるにあたって、クロム、鉛、水銀その他の重金属、PCB、ダイオキシン類その他の有機化合物、有機金属化合物などの有害汚染物質による土壌汚染の問題が発生している。また、汚泥、ヘドロ、焼却灰などに含まれる前記有害汚染物質の有効な回収処理技術の開発が、強く要請されている。
【0003】
土壌浄化技術を一例とすると、土壌酸化法、バイオレメディエーション、ファイトレメディエーション、エレクトロレメディエーションなどの技術が提案されているが、これらの技術は、二次汚染の発生、コスト高、処理が長時間に及ぶ、土壌の種類によって浄化能に差が発生する、などの問題を抱えている。
【0004】
また、土壌浄化技術として、電気浸透現象を利用する方法が提案されている。即ち、土壌に直流電圧を印加して土中水を、電気浸透流によって一方向に移動させることにより、その中に含まれる汚染物質を回収する技術である。この技術の利点は、有害物質を溶液の状態で回収できること、低コストであること、原位置での浄化処理が可能であること、処理土壌の再利用が可能であること、などである。
【0005】
例えば、特許文献1には、汚染された土壌や汚泥等を陽極と陰極の間に介在させ、これに液体を存在させて直流電圧を印加し、電気浸透等により有害物質を液体とともに移動させて回収し、次いで回収液を電気分解する技術が開示されている。
【0006】
特許文献2には、直流電圧によって電気浸透現象を発生させ、汚染土壌中の汚染された土中水及び洗浄用水を陽極側から陰極側へ移動させて、陰極側の電極部材の被覆材をさせて汚染物質を吸着させて中空管に汚染水を集めて汲み上げる技術が開示されている。
【0007】
特許文献3には、直流電圧を印加することで得られる電気浸透現象を用いた脱水装置において、正電極から負電極に移動した汚染物質を含む溶媒を被処理物質(土)から除去洗浄する技術が開示されている。
【0008】
特許文献4には、汚染土壌を収納する容器の上下に配置した面状の正負電極に直流電圧を印加することによって、汚染土壌に広く均一に電気浸透の効果を与える技術が開示されている。
【0009】
特許文献5には、中心電極とこれを囲む複数の周辺電極を用いて、各電極間に直流電圧を並列的に印加して電気浸透により土壌の脱水を行い、次いで、印加電圧の極性を反転して処理域のpH値を回復させることにより、二次汚染を防止する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平08−281247号公報。
【特許文献2】特開平08−155429号公報。
【特許文献3】特開平06−287933号公報。
【特許文献4】特開2002−035736号公報。
【特許文献5】特開平06−226300号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の電気浸透現象を利用する土壌浄化技術は、土壌の性質の違いによって汚染物質の除去効率に差異が生ずるという問題等があるので、普及が進んでいない。この問題は、土壌が持つ様々なパラメータに起因していると考えられる。
【0011】
例えば、土壌に対する汚染物質の吸着は、電気浸透流(Electroosmosis Flow:EOF)による汚染物質の移動を困難にしてしまう。また、直流電圧を印加して電気浸透流を起こすと、電気泳動による影響や電気浸透流によって一方向に移動する微粒子がより大きな粒子の間隙に入り込むことで、溶液(土中水)の移動が妨げられるため、汚染物質の除去又は回収効率が、著しく低下するという技術的課題を抱えている。
【0012】
そこで、本発明は、土壌等に含まれる汚染物質の除去又は回収効率を著しく向上させることができる、電気浸透流を用いた汚染物質回収方法及び汚染物質回収装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
まず、本発明者らは、長年にわたる鋭意研究の末、電気浸透流を形成するために用いる直流電圧に対して、交流電圧を重畳させて印加すると、該交流電圧が粒子に振動(バイブレーション)を与えることによって、土壌粒子などの被処理物の粒子が、電気浸透流による移動過程で密な状態になってしまうという現象を有効に防止でき、これにより、電気浸透流を均一化し、汚染物質の除去又は回収効率を著しく向上させることができることを新規に見出した。
【0014】
そこで、本発明では、第一に、汚染物質を含有する被処理物に直流電圧を印加して、該被処理物中の水分を電気浸透流で移動させることにより、前記被処理物から汚染物質を除去する方法であって、前記電気浸透流の形成段階で、前記直流電圧に交流電圧を重畳させる汚染物質除去方法を提供する。即ち、この方法は、被処理物粒子(例えば、土壌粒子)に振動を与えながら、電気浸透流の採用で被処理物中の汚染物質含有水分を電極側へ移動させることを特徴とする。
【0015】
ここで、前記被処理物は、特に限定されないが、例えば、土壌、ヘドロ、汚泥、焼却灰(飛灰を含む。)の中から選択される一つ又はこれの組み合わせである場合において本発明は特に好適である。また、本発明において、直流電圧に重畳印加される交流電圧は、低周波交流電圧が好適である。
【0016】
また、前記交流電圧の印加は、直流電圧が印加される全時間にわたって並行印加する方法でもよいが、これに限定されることなく、電気浸透流の均一化を確実に達成できる、印加時間、印加回数、あるいは印加タイミングを、被処理物の種類などの条件に応じて、適宜選択すればよい。
【0017】
例えば、(1)直流電圧を印加開始して所定時間経過時点から電圧印加終了に至るまで、(2)直流電圧を印加開始後、断続的に、(3)直流電圧の印加開始から終了までの間の所定時間内、などのタイミングで交流電圧を印加すると、電気エネルギーを節約できる。本方法の実施範囲が広域化し、あるいは本方法を実施する装置の規模が大型化すればする程、この電気エネルギーの節約効果は大きくなる。
【0018】
次に、本発明では、第二に、汚染物質を含有する被処理物に対して交流電圧と直流電圧を重畳印加可能な手段によって前記被処理物中の水分を電気浸透流で移動させて、前記被処理物から前記汚染物質を除去することを特徴とする汚染物質除去装置を提供する。
【0019】
本装置は、低コストで有害汚染物質を溶液の状態で確実に回収でき、原位置での浄化処理も可能である。また、浄化処理した土壌などの被処理物から有害汚染物質を確実に除去できるので、処理物の再利用が可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電気浸透流を形成するために用いる直流電圧に交流電圧を重畳させて印加し、該交流電圧による粒子の振動作用(バイブレーション作用)によって、土壌粒子などの被処理物の粒子が密な状態になるのを有効に防止できる。この結果、電気浸透流を均一に発生させ、汚染物質の除去又は回収効率を著しく向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための好適な形態について、添付図面を参照しながら説明する。なお、添付図面に示された各実施形態は、本発明に係わる物や方法の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0022】
まず、図1は、本発明に係る汚染物質除去方法を実施するための装置の基本構成の概念図(粒子のゼータ電位がプラスの値の場合)、図2は、同装置の別の基本構成の概念図(粒子のゼータ電位がマイナスの値の場合)である。
【0023】
固相粒子1と液相2が存在する系に電圧を印加すると、固相粒子1と液相2の界面には電荷の分離が生じ、電気二重層3と呼ばれる層が形成される。このとき、固相粒子1のゼータ電位がプラスの値を示す場合では(図1参照)、液相2に対して直流電圧を印加すると、固相粒子1の近傍の溶媒4は、弱い逆電荷(この場合、負電荷)を持つ。反対に、固相粒子1のゼータ電位がマイナスの値を示す場合では(図2参照)、液相2に対して直流電圧を印加すると、固相粒子1の近傍の溶媒4は、弱い逆電荷(この場合、正電荷)を持つ。
【0024】
図1、図2に示す符号5は、液相2に存在する重金属や有害有機化合物からなる有害汚染物質を示している。重金属は、例えば、鉛、水銀、カドミウム、ヒ素、クロム、亜鉛、マンガン、ベリリウムなどであり、有害有機化合物は、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDDs)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)等のダイオキシン類、トリクロロエチレンやテトラクロロエチレン等の有機塩素系溶剤などを少なくとも含む。
【0025】
有害汚染物質5が存在する液相2に対して直流電圧を印加すると、電気二重層3付近で(電気泳動の方向(X)と反対方向に)電気浸透流Yが形成される。この電気浸透流Yの電気力学的作用によって、液相2(例えば、土中水)に陽極又は陰極側へ向く流れを生じさせることにより、該液相2中に含まれる有害汚染物質5を、陽極又は陰極側へ移動させ、回収することが可能となる。
【0026】
しかし、図1、図2に示すように、電気浸透流Yの向きと微細な固相粒子1aの電気泳動Xの向きが逆であるので、これが電気浸透流Yによる電気力学的作用に影響を及ぼしてしまう。さらには、直流電圧をかけると固相粒子が徐々に密状態となって、液相2の流れを阻害するようになる。これらの原因により、電気浸透流Yによる汚染物質5の除去効果(回収効果)は、低下してしまう。
【0027】
なお、固相粒子1が徐々に密状態となる変化を、例えば、図1、図2のモデルを用いて説明すると、固相粒子1、1間に、さらにより微細な固相粒子1aが多数入り込んで、液相2の領域を徐々に狭めていく状態と考えることができる。固相粒子1が正電荷を帯びているときは、陰極側で固相粒子1aが密となり詰まった状態となり、固相粒子1が負電荷を帯びているときは、陽極側で固相粒子1aが密となり詰まった状態となる。
【0028】
そこで、直流電圧に対して交流電圧を重畳するように印加することに工夫すると、該交流電圧は、微細な固相粒子1aを振動させ、固相粒子1aが徐々に密状態となる変化を有効に防止できる。即ち、電気浸透流Yを液相2に均一に形成できるようになる。
【0029】
次に、図3は、本発明に係る汚染物質除去装置の好適な実施形態を簡略に示す図である。
【0030】
図3中の符号10は、汚染物質除去装置(以下「装置」と略称。)を示している。この装置10は、被処理物6を収容するための収容部11と、該収容部11に洗浄水Wを供給するための洗浄水供給部12と、電気浸透流Yによって移動してきた汚染水Wを一次貯留するための汚染水回収部13と、を備える。
【0031】
前記収容部11の両端には、溶液を通過させることができるメッシュ状の対向電極E−Eが配設されている。この対向電極E−Eは、直流電源Gに接続されており、スイッチSのオン/オフ操作によって、収容部11に流入してきた洗浄水Wに直流電圧を印加可能な構成が採用されている。なお、図1中の符号Aは、電流計を表している。
【0032】
直流電源Gには、交流発振器14がスイッチSを介して接続されており、即ち、スイッチSのオン/オフ操作によって、直流電圧に交流電圧を所定タイミングで自在に重畳印加できる構成となっている。この構成でなくても、直流電圧に交流電圧を重ね合わすことができる回路であれば、採用可能である。
【0033】
ここで、交流電圧の周波数、アンプリチュードの最適条件は、固相粒子のサイズ分布やゼータ電位等の因子により決定できる。例えば、被処理物6の種類や性状によって、前記最適条件を見出し、設定すればよい。
【0034】
ここで、図4は、電圧印加の手順の代表例を示すタイミング図である。
【0035】
本発明では、直流電圧(DC)に対して交流電圧(AC)を重畳印加することを特徴とするが、その電圧印加の好適な手順例として、まず、図4の(I)に示されているように、電圧印加工程の全過程にわたって、直流電圧に対して交流電圧を絶えず重畳印加する手順を採用することができる。
【0036】
次に、図4の(II)に示されているように、電圧印加工程の後半段階から直流電圧に対して交流電圧を重畳印加する手順を採用することができる。交流電圧の印加開始時期は、固相粒子1(1a)が密状態となる変化が顕著に現れる前が望ましい。
【0037】
さらに、図4の(III)に示されているように、直流電圧に対して断続的に交流電圧を重畳印加する手順、あるいは図4の(IV)に示されているように、直流電圧印加工程の途中の所定時間内に限定して交流電圧を重畳印加するようにしてもよい。
【0038】
いずれの電圧印加手順を採用するかは、例えば、被処理物6の種類や性状によって適宜選択すればよいが、(I)の電圧印加手順と比較すれば、(II)から(IV)の電圧印加手順の方が、消費電力を節約できるという点では、有利である。
【実施例】
【0039】
本発明者らは、本発明の効果を検証することを主な目的として、直流電圧のみを印加した試験(比較例)と、直流電圧に低周波交流電圧を重畳印加した試験(実施例1〜4)を実施した。即ち、実施例1〜4の結果を比較例の結果と比較対照することによって、本発明の効果を検証した。
【0040】
加えて、ゼータ電位がプラスであるアルミナ粒子を土壌粒子に想定した実施例1〜3のうち、「実施例1」(アルミナ粒子:平均粒径3.3μm(粒径1〜6μm)、「実施例2」(アルミナ粒子:平均粒径3.8μm(粒径1〜9μm))では、交流電圧の周波数の好適条件を検証し、「実施例3」は、交流電圧のアンプリチュード(Amplitude、振幅)の好適条件を検証した。「実施例4」は、実施例1〜3とゼータ電位が反対であるカオリン粒子を土壌粒子に想定した試験である。
【0041】
一連の試験は、図5に示されたような構成の模擬電圧印加装置20を用いて行った。本装置20は、内径1.0cm、長さ5.0cmのガラス製円筒セル21を備えている。該円筒セル21に酢酸/酢酸ナトリウム(緩衝溶液)でpH5にした硝酸銅溶液(0.1mol/L)を含む含水率19.4%のアルミナ(酸化アルミニウム、キシダ化学製特級試薬、平均粒径3.3μm(粒径1〜6μm)(「実施例2」は平均粒径3.8μm(粒径1〜9μm)を充填し、一定電位を印加できるように四電極(参照電極22a,22b:Ag/AgCl、対向電極23a,23b:メッシュ状白金)を用いて、汚染物質としての銅の除去実験を行った。また、円筒セルから粒子が漏れないよう、メンブランフィルター(ミリポア製、細孔径:0.1μm)で円筒セルの両端を被った。電解溶液にはpH5の酢酸/酢酸ナトリウム溶液を用いた。なお、アルミナ粒子は、ゼータ電位がプラスの値を示す土壌粒子等を想定したものである。
【0042】
円筒セル21の外側の電解溶液中の各々の電極に、図示しないポテンショスタット(北斗電工(株)製4電極ポテンショスタットHV-501)を接続し、四電極法により一定電位を印加できるようにした。なお、この「四電極法」は、対向電極23a−23b間に印加されている電圧を、試料の両端に置いた参照電極22a−22bにより電位制御を行ない、正確な一定電位を試料中に印加可能にするために採用し、直流電源の代わりに用いた。即ち、この実験では、4本の電極を介して、ポテンショスタットで電圧を印加することによって、正確な電圧、電流値を得ている。
【0043】
図示しない交流発振器(Stanford Research Systems製・ロックインアンプSR830の内蔵発振器のみ使用)をポテンショスタットに接続することで、直流電圧に交流電圧を重畳印加できるようにした。なお、交流電圧の印加状況は、オシロスコープで確認した。
(比較例)
直流電圧を5V(1.0V/cm)に設定し、該電圧条件で6時間電解した(交流電圧の重畳印加なし)。また、円筒セル21内の溶液は、酢酸/酢酸ナトリウム緩衝溶液を使用することによって、pHを5にした。銅の定量は、プラズマ発光分光分析装置(ジャーレルアッシュ製ICAP−757)を用いて行った。以下の結果においては、円筒セル中の粒子への銅の添加量に対して、陽極または陰極側の容器に移動した銅の量を、回収率(%)=(銅の移動率/銅の添加量)×100として示す。
【0044】
この結果を次の「表1」に示す。なお、本試験においても、土壌粒子のモデルとして想定した粒子は、後述する実施例1、実施例3と同様の粒径のアルミナ粒子である。
【0045】
【表1】

【0046】
前掲の「表1」に示されているように、交流電圧を印加しない場合(直流電圧のみの場合)の電気浸透現象では、汚染物質として想定した銅イオンの回収は、非常に低かった。即ち、陽極側溶液に回収された銅の割合は、1.0%にとどまった(「表1」参照)。
【0047】
アルミナ粒子のゼータ電位は、プラスの値であるので、銅イオン(二価陽イオン)は、電気浸透現象の原理によって、陽極側に移動するはずであるが(図1参照)、本比較例の結果は、その逆であった。
【0048】
これは、アルミナにおける電気浸透流Yの向きと銅イオンの泳動の向き(微細固相粒子の電気泳動と同じ方向)が逆であるため、銅イオンの除去効果(回収効果)を低下させていると推定できる。
【0049】
また、本比較例試験の終了後における、陰極側のアルミナ粒子は、密状態となり、セル内に硬く詰まっていることを確認した。この結果から、電気泳動によって粒子が密になり、目詰まりを起こすことにより溶液の移動が起こらなくなったことも、電気浸透流による銅の回収効果を低下させている大きな因子であると推定できた。
【0050】
(実施例1)
次に、直流電圧に低周波交流電圧を重畳印加したときの銅の回収効果、並びに交流電圧の周波数と汚染物質に想定した銅の回収率との関係を調べるための試験を行なった。
【0051】
より具体的には、交流電圧の周波数条件を、0Hz(即ち直流電圧のみ:対照区)、2Hz、5Hz、10Hzの各条件に設定し、アンプリチュードを0.283V(0.056V/cm)に設定して試験を行なった。直流電圧は5V(1.0V/cm)に設定し、交流電圧の重畳印加条件で6時間電解した。
【0052】
本試験の結果を次の「表2」に示す。この「表2」は、陽極側溶液と陰極側溶液それぞれの銅イオン濃度を周波数条件毎に示している。
【0053】
【表2】

【0054】
前掲の「表2」に示されているように、ゼータ電位がプラスであるアルミナ粒子の存在下での銅の回収においては、周波数の最適条件は5Hzであった。電気浸透流によって銅を回収できる効率は、交流電圧を印加していない場合(比較例、「表1」参照)と比較して、約17倍(17.4/1.0)高くなった。
【0055】
(実施例2)
次に、実施例1よりも粒径が大きいアルミナ粒子を用いて、実施例1と同様の実験を行った。交流電圧の周波数は、0.5Hz、5Hz、20Hz、30Hzとした。なお、本試験では、直流電圧のみを印加した「対照区」を準備して、その結果を交流電圧印加の場合の結果と比較した。本試験の結果を、次の「表3」に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
前掲の「表3」に示されているように、アルミナ粒子の平均粒径が大きい系の場合でも、直流電圧に交流電圧を重畳印加することによって、陽極側溶液中での銅イオン濃度が高まったことから、銅イオンの除去又は回収効率を向上できることがわかった。
【0058】
上記した「実施例1」の結果と同様に、周波数5Hzの時が陽極側溶液中での銅イオン濃度が最も高かった。また、0.5Hz程度の周波数においても陽極側溶液中での銅の回収率の高まりが見られ、さらに、20Hz、30Hzの周波数域でも、陽極側溶液中での銅の回収率の高まりが見られた。
【0059】
また、「実施例2」の結果と「実施例1」の結果を比較すると、アルミナ粒子の平均粒径が大きい系である実施例2の方が、銅イオンの除去又は回収効率が良かった。例えば、周波数5Hz時の陽極側溶液の銅回収率は、実施例1では17.4%だったのに対して、実施例2では、23.6%であった。これは、アルミナ粒子の平均粒径が大きい系の方が、アルミナ粒子の密状態への変化が起こり難いからではないかと考えられる。
【0060】
以上の「実施例1」と「実施例2」の結果は、土壌粒子として想定できるアルミナ粒子を、重畳印加した低周波交流電圧によって小さく強制振動させることによって、電場形成によるアルミナ粒子の密状態への変化が防止され、試料中の溶液を効率よく移動させることができたからと推定できる。
【0061】
(実施例3)
次に、アンプリチュードの最適条件を検討するために、交流電圧の周波数を5Hzに設定して、本試験を行なった。アンプリチュードの条件は、0.071V、0.141V、0.283V、0.566Vとした。なお、使用したアルミナ粒子は、実施例1と共通である。その結果を次の「表4」に示す。この「表4」は、陽極側溶液と陰極側溶液それぞれの銅回収率を周波数条件毎に示している。
【0062】
【表4】

【0063】
前掲の「表4」に示されているように、アンプリチュード0.141Vの条件で、最も高い回収率を示し、陽極側溶液における銅回収率は、約22%であり、これは、アンプリチュード0.071Vの条件の約6倍強に相当する。
【0064】
(実施例4)
次に、土壌モデルとしてよく用いられるカオリン(はくとう土、和光純薬製化学用試薬、平均粒径6.9μm(粒径1〜12μm)(ゼータ電位は、アルミナと反対のマイナス)について、含水率31%の条件で、実施例1〜3と同様の実験を行なった。なお、この試験は、上記した図2に示すモデルに相当する。
【0065】
その結果、交流電圧印加なしの条件(対照区)では、銅回収率が陰極側溶液で、13.5%(陽極側溶液で0.96%)であったのに対して、周波数5Hz、アンプリチュード0.141Vの条件の交流電圧を直流電圧に重畳印加したところ、銅回収率が陰極側で29.7%(陽極側には0.58%)という結果が得られた。なお、この結果を、次の「表5」にまとめた。
【0066】
【表5】

【0067】
この「実施例4」の結果から、ゼータ電位がマイナスの粒子が存在した条件においても、交流電圧によって銅の除去効率(回収効率)を向上させることができることを検証できた。
【0068】
以上の試験の結果から、直流電圧に交流電圧を重畳印加することによって、銅の回収率が大幅に向上することがわかった。さらに周波数、アンプリチュードの観点から最適条件を求めることによって、さらに除去効率(回収効率)を向上させることが可能となることも検証できた。
【0069】
したがって、本発明は、汚染土壌などを対象とした汚染物質除去方法として全く新しい手法と評価することができ、また、汚染土壌だけでなく、小さな粒子が含まれる系における溶質の分離にも応用できると考えられる。
【0070】
さらに、ゼータ電位が異なるアルミナ粒子(プラス)とカオリン粒子(マイナス)が存在する両方の系において、銅イオンの回収効率を向上できることが明らかになったことから、様々の性状の汚染土壌などの被処理物の浄化技術として、本発明は有用であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係る方法又は装置は、鉛、水銀、カドミウム、ヒ素、クロム、亜鉛、マンガン、ベリリウムなどの重金属、PCBやダイオキシン類などの有害有機化合物、有機金属化合物などの有害汚染物質を含む土壌、ヘドロ、汚泥、焼却灰などの汚染物質除去回収技術として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に係る汚染物質除去方法を実施するための装置の基本モデルの概念図(粒子のゼータ電位がプラスの値の場合)である。
【図2】同装置の別の基本モデルの概念図(粒子のゼータ電位がマイナスの値の場合)である。
【図3】同装置の好適な実施形態を簡略に示す図である。
【図4】電圧印加の手順の代表例を示すタイミング図である。
【図5】実施例及び比較例に係わる試験で採用した電解装置の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0073】
1 固相粒子 (1a 微細な固相粒子)
2 液相
3 電気二重層
5 有害汚染物質
Y 電気浸透流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染物質を含有する被処理物に直流電圧を印加して、該被処理物中の水分を電気浸透流で移動させることにより、前記被処理物から汚染物質を除去する方法であって、前記電気浸透流の形成する段階で、前記直流電圧に交流電圧を重畳させることを特徴とする汚染物質除去方法。
【請求項2】
前記被処理物は、土壌、ヘドロ、汚泥、焼却灰の中から選択される一つ又はこれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1記載の汚染物質除去方法。
【請求項3】
前記交流電圧は、低周波交流電圧であることを特徴とする請求項1記載の汚染物質除去方法。
【請求項4】
前記交流電圧の印加を、次の(1)〜(3)のいずれかのタイミングで行うことを特徴とする請求項1記載の汚染物質除去方法。
(1)直流電圧を印加開始して所定時間経過時点から電圧印加終了に至るまで。
(2)直流電圧を印加開始後、断続的に。
(3)直流電圧の印加開始から終了までの間の所定時間内。
【請求項5】
汚染物質を含有する被処理物に対して交流電圧と直流電圧を重畳印加可能な手段によって前記被処理物中の水分を電気浸透流で移動させて、前記被処理物から前記汚染物質を除去することを特徴とする汚染物質除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−21079(P2006−21079A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−199301(P2004−199301)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】