説明

電気浸透脱水方法及び装置

【課題】被処理含水物に電解質を添加して汚泥の電気伝導率を高め、脱水物の含水率を低下させるようにした電気浸透脱水方法及び装置において、腐食性ガスを発生させることなく低コストにて被処理含水物を脱水処理することができる電気浸透脱水方法及び装置を提供する。
【解決手段】濾布よりなるコンベヤベルト1がローラ2,3間にエンドレスに架け渡されており、無端回動可能とされている。コンベヤベルト1の搬送方向に陽極ユニット21〜23が配列されている。被処理含水物に対し脱水助剤として炭酸水素ナトリウムを添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水の生物処理汚泥、上水汚泥などの含水物を脱水するための電気浸透脱水方法及び装置に関するものであり、特に被処理含水物の抵抗値に応じて脱水助剤の添加又は被処理含水物の供給量を制御するようにした電気浸透脱水方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排水の生物処理過程で発生する汚泥などの含水物を脱水処理する方法として、電気浸透脱水が周知である(特許文献1〜5、非特許文献1)。この電気浸透脱水処理では、被処理含水物に通電して、マイナスに荷電した汚泥を陽極側に引き寄せ、一方、汚泥の間隙水を陰極側に移動させて分離させながら加圧力をかけて脱水するため、機械的脱水処理の場合に比べて、脱水効率が高く、汚泥の含水率を更に低減することが可能である。
【0003】
特許文献1の電気浸透脱水装置は、無端回動する下側フィルタベルト(陰極)と無端回動する上側プレスベルト(陽極)との間で汚泥を電気浸透脱水処理するように構成したものである。
【0004】
特許文献2の電気浸透脱水装置は、上側プレスベルトとは別個に陽極としての電極ドラムを配置し、この電極ドラムによって上下のベルトを挟圧するように構成している。
【0005】
特許文献3の電気浸透脱水装置は、無端回動するコンベヤベルトの上に汚泥を供給し、コンベヤベルトの下側の陰極板とコンベヤベルトの上方の陽極ユニットとの間で含水物を挟圧すると共に電流を通電して電気浸透脱水するように構成したものである。陽極ユニットはコンベヤ移動方向に複数個配設されている。各陽極ユニットの底面部には水平な陽極板が設置されている。この陽極板はエアシリンダによって押し下げ可能とされると共に、スプリングによって引き上げ可能とされている。コンベヤは、陽極板を上昇させた状態で、1スパン(陽極ユニットの設置間隔)分だけ含水物を移動させる。
【0006】
特許文献4,5の電気浸透脱水装置は、両極を有した左右1対の濾板の間に2葉の濾布を配置している。濾布同士の間に汚泥を供給し、濾布を介して汚泥を挟圧すると共に、電極間に通電することにより、汚泥が電気浸透脱水処理される。処理後は、濾板を離反させ、次いで濾布同士を離反させて脱水物を取り出す。
【0007】
このような電気浸透脱水方法では、脱水量は通電量に比例するため、汚泥の電気伝導率を上げると脱水ケーキの含水率は下がりやすい。そこで、脱水効率を高めるために、食塩や硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなどの電解質を汚泥に添加することが特許文献4に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−189311
【特許文献2】特開平6−154797
【特許文献3】WO2007/143840
【特許文献4】特公平7−73646
【特許文献5】特許第3576269
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】水処理管理便覧(平成10年9月30日丸善)P.339〜341
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
脱水助剤としての食塩は、塩素を含んでいるため、電気浸透脱水により腐食性の塩素ガスを発生させるおそれがある。また、硫酸ナトリウムも腐食性の亜硫酸ガス等を発生させるおそれがある。炭酸ナトリウムは、コストが高く、被処理含水物の脱水処理コストが高くなる。
【0011】
本発明は、被処理含水物に電解質を添加して汚泥の電気伝導率を高め、脱水物の含水率を低下させるようにした電気浸透脱水方法及び装置において、腐食性ガスを発生させることなく低コストにて被処理含水物を脱水処理することができる電気浸透脱水方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の電気浸透脱水方法は、陽極と陰極との間で被処理含水物を挟み、圧搾しながら両極間に通電して脱水する電気浸透脱水方法であって、脱水助剤を被処理含水物に添加する電気浸透脱水方法において、脱水助剤として炭酸水素ナトリウムを添加することを特徴とするものである。
【0013】
本発明の電気浸透脱水装置は、対向配置された電極と、対向する電極間に通電する通電手段と、対向する電極同士の間に配置された濾材と、該濾材同士の間又は濾材と一方の電極との間で被処理含水物を挟圧するための挟圧手段と、を有する電気浸透脱水装置において、脱水助剤として炭酸水素ナトリウムを被処理含水物に添加する脱水助剤添加手段を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、被処理含水物に脱水助剤として炭酸水素ナトリウムを添加する。炭酸水素ナトリウムは、食塩や硫酸ナトリウムと異なり、電気浸透脱水工程で塩素ガスや亜硫酸ガス等の腐食性ガスを発生させない。また、炭酸水素ナトリウムは炭酸ナトリウムに比べて安価である。炭酸水素ナトリウムはアルカリ性であるため、電気浸透脱水装置の陽極に付着するスケールを除去する作用も有する。炭酸水素ナトリウムは、常温域における溶解度変化が小さいので、飽和溶液として使用しても、温度変化による添加量の変動が防止される。
【0015】
また、後述の実施例にも見られる通り、炭酸水素ナトリウムを用いた場合、硫酸ナトリウムを用いたときよりも電力消費量が低下することが認められる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)図は実施の形態に係る電気浸透脱水装置のプレス脱水時の概略的な縦断面図、(b)図及び(c)図は(a)図のB−B線及びC−C線に沿う断面図である。
【図2】(a)図は実施の形態に係る電気浸透脱水装置のベルト送り工程における概略的な縦断面図、(b)図は(a)図のB−B線断面図である。
【図3】別の実施の形態に係る電気浸透脱水装置の概略的な縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。第1図(a)及び第2図(a)は実施の形態に係る電気浸透脱水装置の長手方向(ベルト回動方向)に沿う縦断面図であり、第1図(b)、(c)は第1図(a)のB−B線、C−C線に沿う断面図、第2図(b)は同(a)のB−B線に沿う断面図である。なお、第1図は脱水工程の様子を示しており、第2図は、この電気浸透脱水装置のベルト送り工程の様子を示している。
【0018】
濾布よりなるコンベヤベルト1がローラ2,3間にエンドレスに架け渡されており、無端回動可能とされている。
【0019】
このコンベヤベルト1の上面側が汚泥の搬送側となっており、下面側が戻り側となっている。コンベヤベルト1の搬送側の下面に板状の陰極4が配置されている。この陰極4は金属などの導電材よりなる板状部材であり、上下方向に貫通する多数の孔を有している。陰極4はローラ2の直近からローラ3の直近まで延在している。
【0020】
このコンベヤベルト1の上面の搬送方向上流部に被処理含水物(この実施の形態では汚泥S)を供給するようにホッパー5が設けられている。
【0021】
コンベヤベルト1の搬送部の上方に陽極ユニット21,22,23が設置されている。なお、第1図(b),(c)の通り、コンベヤベルト1の搬送部の両サイドに電気絶縁性材料よりなる側壁板20が立設されており、コンベヤベルト1上の汚泥が側方へはみ出ないように構成されている。陽極ユニット21〜23は側壁板20,20間に配置されている。
【0022】
この実施の形態では陽極ユニットがコンベヤベルト搬送方向に3個配置されているが、これに限定されない。陽極ユニットは、コンベヤベルト搬送方向に通常は2〜5個程度配置されていればよい。
【0023】
各陽極ユニット21〜23は、下面に陽極板30を備えている。陽極ユニット21〜23は、エアシリンダ(図示略)によって昇降可能とされている。エアシリンダの上端は電気浸透脱水装置の本体であるビーム(図示略)に取り付けられている。このビームは、コンベヤベルト1の上方に固定設置されている。
【0024】
各陽極ユニット21〜23の陽極板30と陰極4との間に、直流電源装置(図示略)から直流電圧が印加され、直流電流が通電される。
【0025】
ホッパー5内に脱水助剤を添加するようにノズル11が設けられている。また、陽極ユニット21と陽極ユニット22との間にスプレーノズル12が配置されている。この実施の形態では、スプレーノズル12はコンベヤベルト1の幅方向に2個設けられているが、1個又は3個設けられてもよい。また、コンベヤベルト幅方向に長いスリット状噴霧口を有したスプレーノズルを設置してもよい。
【0026】
溶液よりなる脱水助剤を収容したタンク(図示略)から脱水助剤が薬注ポンプ10を介してノズル11,12に供給される。なお、図1では、ポンプ10からノズル11,12の双方に脱水助剤が供給されるよう構成されているが、一方のノズルのみを設けてもよい。また、脱水助剤をノズル11,12に択一的に供給するように切替弁を設けてもよい。
【0027】
脱水助剤としては、炭酸水素ナトリウムを用い、特に炭酸水素ナトリウムの水溶液を用いる。炭酸水素ナトリウム水溶液の濃度は、飽和濃度又はそれに近い濃度(例えば飽和溶解度の90%以上)であることが好ましい。このように高濃度の水溶液を用いると、脱水助剤添加に伴って被処理含水物に加えられる水量が少なく、脱水効率が良好となる。
【0028】
このように構成された電気浸透脱水装置によって汚泥の脱水処理を行うには、ホッパー5内に供給された汚泥Sをコンベヤベルト1上に送り出し、各陽極ユニット21〜23と陰極4との間に直流電流を通電すると共に、エアシリンダにエアを供給し、この汚泥を陽極ユニット21〜23の陽極板30で上方から押圧する。なお、必要に応じ、ノズル11からホッパー5内に脱水助剤を添加する。
【0029】
各陽極ユニット21〜23に対し同一の電圧を印加するのが装置の運転管理を容易とする点からして好適であるが、搬送方向下流側ほど電圧を高くしたり、逆に低くしたりしてもよい。また、各陽極ユニットの電流値が同一となるように通電制御してもよい。
【0030】
各陽極ユニット21〜23のエアシリンダに対し同一の圧力のエアを供給してもよく、下流側の陽極ユニットほど供給エア圧を大きく又は小さくするようにしてもよい。
【0031】
このように陽極ユニット21〜23と陰極板4との間に通電すると共に陽極ユニット21〜23の陽極板30で汚泥をプレスすることにより、汚泥が電気浸透脱水される。そして、脱水濾液がコンベヤベルト1を透過し、陰極板4の孔を通過して落下する。
【0032】
第1図のように各陽極ユニット21〜23に通電する共に、陽極ユニット21〜23によって汚泥をプレスするときには、コンベヤベルト1は停止している。陽極ユニット21〜23によって所定時間プレス及び通電を行った後、エアシリンダからエアを排出し、第2図の通り、陽極ユニット21〜23を上昇させる。そして、コンベヤベルト1を陽極ユニット21〜23の配列ピッチの1ピッチ分だけ移動させる。これにより、陽極ユニット23の下側に位置していた汚泥は、脱水汚泥として送り出され、各陽極ユニット21〜22の下側に位置していた汚泥はそれぞれ1段だけ下流側の陽極ユニット22〜23の下側に移動する。また、ホッパー5から未脱水処理汚泥が陽極ユニット21の下側に導入される。
【0033】
脱水助剤を脱水途中の汚泥に添加する場合には、このように陽極ユニット21〜23を上昇させ、コンベヤベルト1を1ピッチ分だけ送り移動させている間にスプレーノズル12から脱水助剤を噴霧し、コンベヤベルト1上の汚泥Sに添加する。
【0034】
コンベヤベルト1が1ピッチ分だけ送り移動した後、スプレーノズル12からの脱水濾液の噴霧を停止し、次いで、各陽極ユニット21〜23を押し下げると共に各陽極ユニット21〜23と陰極4との間に通電し、汚泥の電気浸透脱水処理を行う。以下、この工程を繰り返すことにより、汚泥を電気浸透脱水処理する。
【0035】
汚泥Sに脱水助剤を添加することにより、被処理汚泥の電気伝導率が高くなり、汚泥の脱水性が向上する。なお、スプレーノズル12から脱水助剤を脱水途中の被処理汚泥Sに添加することにより、脱水工程後半における被処理汚泥の電気伝導率が高くなり、陽極ユニット22,23と陰極板4との間の汚泥の電気伝導率が高くなり、脱水性が向上する。
【0036】
脱水助剤の添加量は、汚泥の性状及び脱水汚泥の含水率等に応じて実験的に定めるのが好ましい。通常の生物処理汚泥の場合、原汚泥に対し炭酸水素ナトリウムを炭酸水素ナトリウムの固形分量として0.1〜1wt%の間の添加量にて添加するのが好ましい。
【0037】
この実施の形態では、陽極ユニット21,22間にスプレーノズル12を配置している。このスプレーノズル12付近では汚泥はある程度脱水されて含水率が低くなっているため、スプレーノズル12から脱水濾液をスプレー添加した後、陽極ユニットで汚泥をプレスしても、陽極ユニット21,22間のスペースから汚泥が漏れ出すことはない。
【0038】
上記実施の形態の電気浸透脱水装置では陽極ユニット21,22間にスプレーノズル12を配置しているが、第3図のように両サイドの側壁板20にスプレーノズル13を設け、各スプレーノズル13からコンベヤベルト1上の汚泥Sに脱水濾液を噴霧添加するようにしてもよい。
【0039】
このようにすれば、陽極ユニット21,22同士の間の隙間を小さくし、汚泥プレス時に該陽極ユニット21,22間から汚泥が漏れ出すことを防止することができる。
【0040】
本発明では、陽極ユニット22と23との間にもスプレーノズルを配置してもよい。
【0041】
上記実施の形態では、陽極ユニット21〜23とコンベヤベルト1及び陰極4によって汚泥を電気浸透脱水するようにしているが、本発明は別型式の電気浸透脱水装置にも適用可能である。例えば、陽極ドラムと、陰極を兼ねるコンベヤベルトとの間で汚泥Sを挟圧する電気浸透脱水装置にも本発明を適用できる。また、濾材同士の間で被処理物を挟圧する形式の電気浸透脱水装置にも適用することができる。例えば、前記特許文献4(特公平7−73646)、特許文献5(特許第3576269)、非特許文献1(水処理管理便覧P.340表8・6)のように1対の濾板間で圧搾膜及び電極を介して汚泥を挟圧する加圧圧搾型電気浸透脱水装置にも適用することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0043】
第1図に示す電気浸透脱水装置を用い、含水率84.5%の下水処理汚泥を電気浸透脱水処理した。実施例では、脱水助剤をホッパー5に添加した。運転条件は次の通りである。
【0044】
陽極ユニットのコンベヤベルト搬送方向の配列数:3個
汚泥供給速度:360kg/hr
陽極ユニットへの印加電圧:60V
【0045】
<比較例1>
脱水助剤を添加することなく、上記の条件で汚泥の電気浸透脱水処理を行った。この結果、脱水汚泥の含水率は81.4%、電力消費量(1トンの脱離液を得るのに要した電力消費量)435kwh/ton−脱離液であった。
【0046】
<実施例1>
上記比較例1において、濃度9.3wt%の炭酸水素ナトリウム水溶液をホッパー5に添加した。添加量は、原汚泥に対し炭酸水素ナトリウム水溶液として3wt%とした。その結果を表1に示す。
【0047】
<比較例2>
脱水助剤として硫酸ナトリウム10水和物を10wt%水溶液の形態にて用いた。また、添加量は、この水溶液として原汚泥に対し6wt%(ナトリウム量として実施例1と同様)とした。その結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1から明らかな通り、脱水助剤を添加した実施例1及び比較例2は、脱水助剤無添加の比較例1に比べて脱水汚泥の含水率及び電力消費量がいずれも低く、特に実施例1は比較例2よりも含水率及び電力消費量がさらに低くなる。
【符号の説明】
【0050】
1 コンベヤベルト
2,3 ローラ
4 陰極
5 ホッパー
12,13 スプレーノズル
21〜23 陽極ユニット
30 陽極板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間で被処理含水物を挟み、圧搾しながら両極間に通電して脱水する電気浸透脱水方法であって、
脱水助剤を被処理含水物に添加する電気浸透脱水方法において、
該脱水助剤として炭酸水素ナトリウムを添加することを特徴とする電気浸透脱水方法。
【請求項2】
対向配置された電極と、
対向する電極間に通電する通電手段と、
対向する電極同士の間に配置された濾材と、
該濾材同士の間又は濾材と一方の電極との間で被処理含水物を挟圧するための挟圧手段と、
を有する電気浸透脱水装置において、
脱水助剤として炭酸水素ナトリウムを被処理含水物に添加する脱水助剤添加手段を備えたことを特徴とする電気浸透脱水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−179572(P2012−179572A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45347(P2011−45347)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】