説明

電気溶接機用変圧器

【課題】運転効率が高くかつ製造が容易な電気溶接機用変圧器の提供。
【解決手段】一次巻線コイル2の巻線腕に巻鉄心1が巻き付けられて鉄磁路が形成され、さらに「コ」の字形状をした一回巻の二次巻線コイル5が巻鉄線1内にスライド挿入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は性能向上と製造コスト低減を図った電気溶接機用変圧器に関する。
【背景技術】
【0002】
電気溶接機用変圧器はその動作の違いから数種類に分類されるが、その一つとして、入力部に制御装置が接続可能となった電気溶接機用変圧器がある。ここでいう制御装置とは電気溶接機の溶接通電時間および溶接断続周期を調節するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−327911
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気出力容量は電流×磁束量で示されることから、磁束量を増大させれば変圧器を小型化または大容量化することができる。しかしながら、従前の電気溶接機用変圧器の構成では、EI型打抜き電磁鋼板の積層体から鉄磁路の磁路が構成されるため磁束量増大には限りがあってそれに伴い小型化/大容量化にも限界がある。
【0005】
また、EI型打抜き電磁鋼板の積層体から鉄磁路の磁路が構成される電気溶接機用変圧器は、予め一次巻線コイルと二次巻線コイルとを形成したうえで所定枚数の電磁鋼板を1枚ずつ鉄磁路部に積層させることで製造されるが、この製法は量産化に不適で製造コスト低減が困難であった。そのため、製作コストを低減する方法や構成が要望されている。
【0006】
さらには、電気溶接機用変圧器では、二次巻線コイルを太い目の銅線を複数回コイル状に巻回して形成するため、その工程が困難で製造コストを押し上げるうえに、巻回した銅線を電気絶縁する処理が煩雑になり、その点も製造コストを押し上げる要因となっている。
【0007】
本発明は、上述のような点に鑑みて為されたものであって、小型化/大容量化が可能でありかつ製造コストの削減を図ることができる電気溶接機用変圧器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明の電気溶接機用変圧器は、巻鉄心からなる鉄磁路を有する。本発明は、巻線コイルを有し、前記巻線コイルに1つまたは複数の前記巻鉄心が巻回されているのが好ましい。本発明の構成は、例えば次のようにして形成される。すなわち、この構成の巻線コイルは、一次、二次の巻線コイルを含むものとなるが、そのうちの一次巻線コイルを予め形成したうえで、その一次巻線コイルに巻鉄心を巻き付けることでコア(鉄心)を変圧器に組み付けることができ、その作業は容易となって製造コストが低減される。そのうえコアの取り付け構造も簡単なものとなって小型軽量化される。
【0009】
本発明には、前記巻線コイルは、複数回巻回された巻導線からなる一次巻線コイルと、巻回数1回の「コ」の字形状導線からなる二次巻線コイルとを含んだものとするのがさらに好ましい。この好ましい態様によれば、予め一次巻線コイルに装着しておいた巻鉄心の中央部円筒空間に、必要個数の二次巻線コイルの「コ」の字状先端をスライド挿入させることで、変圧器全体を組み立てることが可能となり、工程がさらに簡略なものとなる。
【0010】
以上の構成を有する本発明の電気溶接機用変圧器では、次のような作用効果が得られる。すなわち、巻鉄心はEI打抜き電磁鋼板からなる鉄心に比較して磁気抵抗が小さく透磁率の高い磁気的性能を有している。そのためコイル巻回数が同一の巻線コイルに装着することを前提とした場合、巻鉄心はEI打抜き電磁鋼板の鉄心より発生させる磁束量が大きくなり電気出力を増大させることが可能となる。そのため、本発明の電気溶接機用変圧器の電気出力は従来のEI打抜き型電磁鋼板電気溶接機用変圧器に比べて大きくなり、その結果として形状を小型化することができる。さらには、本発明の構成では巻鉄心自体の鉄損が少なく、さらに一次巻線コイルの巻回数を減少させることが可能であるのでその分コイルの電気抵抗が減少して銅損が減少することから、本発明では変圧器の運転効率を高めることができる。
【0011】
本発明の巻鉄心型電気溶接機用変圧器では、大電流を流すことが要求されるため、二次巻線コイルとして1回巻の「コ」の字形状の平角導線が1個または複数個採用される。「コ」の字形状の二次巻線コイルは形状を形成する作業と電気絶縁処理作業とが容易となるうえ二次巻線コイル部での放熱条件が良好となる。そのため、放熱対策処理が簡素化されて製造コストの低減をさらに図ることが可能となる。
【0012】
以上の作用効果を得るうえで、本発明は、次の構成を有するのがさらに好ましい。すなわち、前記巻鉄線は前記一次巻線コイルが有する巻導線腕に巻き付け配置されており、前記二次巻線コイルは、前記巻鉄心と前記巻導線腕との間の隙間に挿入されている。具体的には、前記巻鉄線は、前記一時巻線コイルが有する一対の対向巻導線腕それぞれに巻回されており、前記二次巻線コイルは、当該二次巻線コイルのコイル終端から前記一対の巻導線腕それぞれと前記巻鉄心との間の隙間に挿入されている。
【0013】
なお、単一の「コ」の字形状の二次巻線コイル(巻線数1回)では必要な出力電気特性が得られない場合には、前記二次巻線コイルを複数設け、前記二次巻線コイルそれぞれのコイル終端を短絡銅片で接続して必要巻線数にすればよく、そうすれば、上述した本発明の作用効果を維持した状態で、巻線数を任意に増やすことが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来のEI電磁鋼板型電気溶接機用変圧器と比べて第一に製造コストを押し下げる効果を有し、第二に小型軽量化を図ることが可能となる。さらには、巻鉄心として高性能磁性体を使用することで無負荷損と銅損とを低減させることが可能となるため、これに伴って運転効率が向上して省エネルギー効果をもたらすことも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明になる巻鉄心型電気溶接機用変圧器簡略図である。
【図2】巻鉄心型電気溶接機用変圧器製作手順(1)の概略図であって一次巻線コイルを示し巻鉄心の取付け前の図面を表す。
【図3】巻鉄心型電気溶接機用変圧器製作手順(2)の概略図であって巻鉄心取付け後の図面を表す。「コ」の字形状の二次巻線コイルはこの後にスライド挿入されて完成図は、図1の形状となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を実現するための構造図面を図1に示す。必要回数を巻いた形成済みの一次巻線コイル2と、「コ」の字形状の一回巻の二次巻線コイル5とからなる巻線コイルを基本構成とし、鉄磁路として巻線コイルの長辺部(巻導線腕)にそれぞれ2個ずつ合計4個の巻鉄心1が配置されている。ここで、巻線コイル長辺部(巻導線腕)とは、平面視長矩形形状や楕円形状に形成される巻線コイルにおいて、その長矩形形状(楕円形状)内で対向する長辺それぞれを示している。本実施の形態では、対向する巻線コイル長辺部(巻導線腕)それぞれに2個ずつ合計4個の巻鉄心1が配置されている。
【0017】
一次巻線コイル2と二次巻線コイル5と巻鉄心1とは次のようにして組み立てられる。すなわち、予め形成された一時巻線2の巻線コイル長辺部に巻鉄心1が巻き付けられることで鉄磁路が形成された後、二次巻線コイル5が巻鉄心1内にスライド挿入される。具体的には、予め一次巻線コイル2が形成されたうえで、形成された一時巻線2が有する巻線コイル長辺部(巻導線腕)の周囲に巻き付ける形状で巻鉄線1が配置される。さらに、二次巻線コイル5が、そのコイル終端すなわちコイル巻始め/巻き終り6、7から、巻鉄心1と一時巻線2の巻線コイル長辺部(巻導線腕)との間の隙間8に挿入配置される。
【0018】
図1は本発明を実施した最良の回路形態である。図1では二次巻線コイル5が1個の場合について示しているが、二次巻線コイル5が複数用いられる場合は、二次巻線コイル5それぞれのコイル終端(コイル巻始め/巻き終り6、7)が短絡銅片で接続されることで必要巻線数が構成される。
【0019】
次に本発明の実施の形態として、単相200V出力容量が5KVAの巻鉄心型電気溶接機用変圧器を製作して、実際に負荷を接続してその特性の測定を行なった結果を説明する。すなわち、測定の結果、負荷条件を溶接電流に相当する二次電流(1.75KA、2.56KA、3.30KA)をそれぞれ短時間流した時において、本実施の形態の巻鉄心型電気溶接機用変圧器に流れる一次電流は、それぞれ10.9A、15.2A、18.7Aであった。そして、この時、巻鉄心型電気溶接機用変圧器に生じる温度上昇は、B種絶縁温度上昇限度範囲内であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の巻鉄心型電気溶接機用変圧器は小型軽量化や製造原価の低減が可能であってさらには運転効率が高いので、電気溶接機用変圧器を扱う産業分野で多くの利用と導入が期待される。
【符号の説明】
【0021】
1 巻鉄心
2 二次巻線コイル
5 二次巻線コイル
6、7 コイル終端(コイル巻始め/巻き終り)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻鉄心からなる鉄磁路を有する、
ことを特徴とする電気溶接機用変圧器。
【請求項2】
巻線コイルを有し、
前記巻線コイルに1つまたは複数の前記巻鉄心が巻回されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の電気溶接機用変圧器。
【請求項3】
前記巻線コイルは、複数回巻回された巻導線からなる一次巻線コイルと、巻回数1回の「コ」の字形状導線からなる二次巻線コイルとを含む、
ことを特徴とする請求項2に記載の電気溶接用変圧器。
【請求項4】
前記巻鉄線は前記一次巻線コイルが有する巻線腕に巻き付け配置されており、
前記二次巻線コイルは、前記巻鉄心と前記巻導線腕との間の隙間に挿入されている、
ことを特徴とする請求項3に記載の電気溶接機用変圧器。
【請求項5】
前記巻鉄線は、前記一時巻線コイルが有する一対の対向巻導線腕それぞれに巻回されており、
前記二次巻線コイルは、当該二次巻線コイルのコイル終端から前記一対の巻導線腕それぞれと前記巻鉄心との間の隙間に挿入されている、
ことを特徴とする請求項4に記載の電気溶接機用変圧器。
【請求項6】
前記二次巻線コイルを複数設け、前記二次巻線コイルそれぞれのコイル終端を短絡銅片で接続して必要巻線数とする、
ことを特徴とする請求項3ないし5のいずれかに記載の電気溶接機用変圧器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−138591(P2012−138591A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−30310(P2012−30310)
【出願日】平成24年2月15日(2012.2.15)
【基礎とした実用新案登録】実用新案登録第3153280号
【原出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(509097666)