説明

電気炉を備えた分析装置

【課題】反応部の電気炉の加熱効率を低下させることなく、電気炉の外壁の破損を防止する。
【解決手段】炉心41の周囲は断熱材からなる外壁44で覆われている。外壁44は4つの部材が上下方向に積層され、その間に緩衝材44aが挟み込まれて接着剤により接着されて構成されている。外壁44を構成する各部材は、周方向とは垂直な方向に緩衝材44bが挟み込まれた貫通溝が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気炉を備えた分析装置に関し、例えば電気炉により試料を加熱して酸化分解するための反応部と、酸化分解後の試料を流通させるためのセル、セルに対して光を照射する光源及びセルを透過した光を検出するための検出器を有する測定部と、を備えた全有機体炭素測定装置(以下、TOC計)や、試料水中の全窒素を分析する全窒素計(TN計)などの分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水、河川水、工場排水などの水質を分析する水質分析計として、試料中に含まれている全有機体炭素(TOC)を測定するTOC計がある。TOC計では、採取した試料水を反応部に導入し、試料中の炭素成分を酸化分解してCO2に変換し、そのCO2を含むガスを測定部のセルに導入して吸光度を測定することにより、試料水のTC(全炭素)やTOC、IC(無機体炭素)を測定する(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−93290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
TOC計を初めとして、電気炉を備えた反応部を備えた分析装置では、反応部は、燃焼管が電気炉内に挿入された構造となっており、電気炉による燃焼管の加熱が高効率にかつ均一になされるように電気炉の外周は断熱材からなる外壁によって囲われている。この外壁に用いられている断熱材は一般的にセラミックファイバーやアルミナ質繊維を主成分としている。しかし、断熱材の中には、加熱炉が温度上昇したときに加熱炉の熱膨張などの形状変化に耐えられずに破損してしまうものもあった。断熱材の材質にセラミックファイバーやアルミナ質繊維の中でも強度の優れた素材を使用すればそのような破損を防止することは可能であるが、そうすると、電気炉の外壁の断熱性能が低下し、電気炉による燃焼管の加熱効率が低下することもある。
【0005】
そこで、本発明は、反応部の電気炉の加熱効率を低下させることなく、電気炉の外壁の破損を防止することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、炉心の少なくとも外周部が断熱材からなる外壁で囲われ、炉心の内部に燃焼管が挿入されて燃焼管に注入された試料に反応を起こさせる反応部を備えた分析装置であって、断熱材は少なくとも炉心の周方向に垂直な貫通溝を備え、貫通溝に弾力性をもつ緩衝材が挟み込まれていることを特徴とするものである。
【0007】
上記断熱材は炉心の周方向にも貫通溝を備え、周方向貫通溝にも弾力性をもつ緩衝材が挟み込まれていることが好ましい。そうすれば、炉心の周方向に垂直な方向への伸縮性を外壁に与えることができる。
【0008】
ところで、セラミックファイバーやアルミナ質繊維で構成された断熱材は、外部からの衝撃に対しても弱いという問題があった。TOC計の製造にあたり、電気炉を振動させたり落下させたりしたときの衝撃テストが行なわれるが、この衝撃テストの際に断熱材が破損してしまうという問題があった。
そこで、断熱材の外周面が金属製カバーで覆われていることが好ましい。そうすれば、電気炉の外周面を囲う断熱材の外部からの衝撃に対する強度を補強することができ、断熱材の破損を防止できる。
【0009】
本発明の反応部は、試料水中の炭素成分を酸化分解して二酸化炭素に変換する酸化反応部であり、該分析装置は、さらに前記酸化反応部からのガスを流通させるためのセル、前記セルに対して光を照射する光源及びセルを透過した光を検出するための検出器を有する測定部を備えた全有機体炭素測定装置とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の分析装置では、反応部の電気炉の炉心の周囲を囲う外壁が炉心の周方向に垂直な貫通溝を備え、貫通溝に弾力性をもつ緩衝材が挟み込まれているので、炉心の周方向に対する伸縮性を外壁にもたせることができ、炉心の温度上昇に伴なう変形によって外壁が破損されることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】TOC計の一実施例を示す流路構成図である。
【図2】同実施例の酸化反応部の構造を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は(A)のX−X位置における断面図、(B)は(A)のY−Y位置における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
分析装置の一実施例としてのTOC計について図1を用いて説明する。
TOC計2は、TOC測定部3と、TOC測定部3に設けられている酸化反応部40の燃焼管42にキャリアガスを送るキャリアガス供給部5と、それらを切り換える多ポートバルブ9によって構成されている。
【0013】
多ポートバルブ9の共通ポートには試料水を計量して採取するためのサンプリングシリンジ11が接続され、他のポートには試料導入部13、試料水から無機炭素成分を除去する際に使用される塩酸15、希釈水17、IC反応器19、燃焼管42及び排出用ドレン21がそれぞれ接続されており、オートサンプラから採取した試料をTOC測定部の燃焼管42に注入できるようになっている。
【0014】
サンプリングシリンジ11は容量5mLで、バレル下部にキャリアガスを導入するための通気ガス入口を備えている。その通気ガス入口は、電磁弁37を介してキャリアガス供給部5に接続されている。ガス通気機構は、ここでは、サンプリングシリンジ11によって実現される。
【0015】
キャリアガス供給部5は、高純度空気をキャリアガスとして供給するものであり、上流側から順にキャリアガス入口23、電磁弁25、圧力を調節する調圧弁27、その圧力を計量する圧力計29、流量を調節するマスフローコントローラ31、流量計33、及び加湿器35が接続されて構成されている。流量が計量されて加湿されたキャリアガスは燃焼管42に送られる。また、サンプリングシリンジ11にも加湿用の流量調整されたキャリアガスが通気ガスとして電磁弁37を介してサンプリングシリンジ11に供給される。
【0016】
酸化反応部40については後述するが、酸化反応部40の燃焼管42は上部に試料注入部43を備え、内部に試料中の炭素成分の全てをCO2に変換するための金属酸化物や貴金属からなる酸化触媒を備えている。燃焼管42は電気炉の炉心41に挿入されて加熱されるようになっている。試料注入部43にはキャリアガスの逆流を防止する逆止弁44を介してキャリアガス供給部5が接続されている。燃焼管42の下部の出口には、冷却部48と逆流防止トラップ49を介してIC反応器19のキャリアガス導入口に接続されている。
【0017】
IC反応器19はIC測定時にはIC反応液19aとしてリン酸53がポンプ55によって供給され、IC反応器19に試料水が直接注入され、注入された試料水中のICがCO2として発生し、除湿用電子クーラ51に導かれる。IC反応器19のIC反応液19aはドレン用電磁弁57から排出される。
【0018】
除湿用電子クーラ51を経たガスは水分を除去する除湿器やハロゲンスクラバ61及び異物を除去するためのメンブレンフィルタ63を介して非分散形赤外分析方式(NDIR)のセル65に導かれる。セル65の両端には光源67及び検出器69が対向して備えられており、検出器69の信号はTCに相当する。排出された二酸化炭素はCO2アブソーバ71に吸着される。除湿用電子クーラ51には水分除去するためのドレンポット59が接続されている。
【0019】
ここで、酸化反応部40について図2を用いて説明する。
酸化反応部40の電気炉は円筒形状の炉心41と炉心41の上面の一部を除いた周囲全体を囲う外壁44及びさらにその外周面を保護するカバー45により構成されている。炉心41の上面に燃焼管42を先端から挿入するための孔が設けられており、挿入された燃焼管42を加熱するようになっている。
【0020】
炉心41を囲う外壁44は、例えばセラミックファイバーやアルミナ繊維質などを主成分とする断熱材により構成されており、炉心41による加熱の均一化と効率化が図られている。カバー45は例えばアルミニウム製の板状部材からなり、外壁44の外周面に巻かれた状態で例えばボルトとナットからなる締結具45によって固定されている。カバー45は外壁44の外部からの衝撃による破損等を防止するために設けられている。
【0021】
外壁44は上下方向に4の部材が積層され、各部材間に緩衝材44aが挟まれて接着剤で接着されて構成されている。外壁44が複数の部材の積層によって構成されているのは、炉心41を内部に収容した状態の外壁44を形成するための便宜上の理由であるが、この構造を利用し、各部材の間に緩衝材44aを挟み込むことで、緩衝材44aの弾力性を利用して外壁44に上下方向への伸縮性をもたせることができる。なお、外壁はこの例に限られず、3以下の部材で構成されていてもよいし、5以上の部材で構成されていてもよい。
【0022】
また、この例では、外壁44が炉心41の周面、下面及び上面周縁部を覆う構造となっているが、炉心41の上面をまったく覆わない構造や炉心41の周面のみを囲う構造であってもよい。その場合には、外壁44を複数の部材の積層によって構成する必要がなく、一体構造からなるものであってもよい。炉心41の上面をまったく覆わない構造や炉心41の周面のみを囲う構造では、炉心41の上下方向への伸縮による外壁44への影響を考慮する必要がないからである。
【0023】
外壁44を構成する各部材は、それぞれ炉心41の外周方向に対して垂直な方向に配置された2本の貫通溝をもち、その貫通溝に緩衝材44bが挟み込まれている。この貫通溝は炉心41を中心とする対称な位置に配置されている。また、緩衝材44bが挟み込まれている貫通溝は1箇所にのみ設けられていてもよいし、3箇所以上に設けられていてもよい。
【0024】
この例において緩衝材44bが挟み込まれた貫通溝の幅は2mm程度である。外壁44の上面を構成する最上部の部材の中央部には、燃焼管43の着脱を可能にする穴44cが設けられている。外壁44の内部の炉心41を収容する空洞部分の内径は炉心41の外形よりも僅かに大きく、外壁44と炉心41との間の隙間に緩衝材46が介在している。また、外壁44の最上部の部材と炉心41の上面との間には、例えば2mm程度の隙間が炉心41の熱膨張を考慮して設けられている。
【0025】
炉心41の温度が上昇すると炉心41と外壁44はともに熱膨張するが、炉心41と外壁44の材質の違いにより膨張量が異なる。この膨張量の異なりが原因となり、従来では反応部の外壁が破損するという問題があった。この実施例では、その膨張量の違いを吸収するために外壁44と炉心41との間の隙間に緩衝材46が挿入され、さらに外壁44には緩衝材44bが挟み込まれた炉心41の周方向に垂直な貫通溝が設けられている。緩衝材44bの存在によって外壁44に炉心41の周方向への伸縮性をもたせている。これにより、炉心41の熱膨張による外壁44の破損を防止している。
【0026】
なお、外壁44を構成する断熱材が高温でも寸法安定性に富んだ断熱材、例えばゾノトライト系ケイ酸カルシウムを主成分としたものや高アルミナ繊維等である場合には、緩衝材44aは多結晶質アルミナ短繊維からなるもので柔軟性に富んだ素材であることが好ましい。緩衝材44b及び46は緩衝材44aと同じものを用いればよい。
【0027】
次に同実施例の動作を説明する。
試料水はサンプリングシリンジ11によってオートサンプラ1から吸入された後、多ポートバルブ9がサンプリングシリンジ11が燃焼管42に接続されるポートに切り換えられて、サンプリングシリンジ11のプランジャが上昇させられることにより試料水が燃焼管42の試料注入部43に送られ、同時に、高純度空気がキャリアガスとしてキャリアガス供給部5から逆止弁45を介して試料注入部43に送られ、試料水と空気の混合物が燃焼管42に導入される。燃焼管42では電気炉41により680℃に加熱され、試料水の炭素成分は酸化されて二酸化炭素に変換される。
【0028】
燃焼管42で発生したガス(二酸化炭素と水蒸気)は冷却部48で冷却され、二酸化炭素は逆流防止トラップ49を経由してIC反応器19に導入される。IC反応液19aから出たガスは除湿用電子クーラ51に導かれて水分が除去され、ハロゲンスクラバ61でハロゲン成分が除去され、メンブレンフィルタ63により濾過されて、セル65に導入される。そして、光源67からの赤外光が、セル65中に照射され、二酸化炭素の濃度に比例した信号が検出器69から得られる。この信号は液体試料のTCに相当する。そして排出された二酸化炭素はCO2アブソーバ71に吸着される。
【0029】
次に、サンプリングシリンジ11によってオートサンプラ1から吸入された試料水が、多ポートバルブ9の切替えとサンプリングシリンジ11の作動によってIC反応器19に送られる。IC反応器19では、下部からキャリアガスが送られてIC反応液19aがバブリングされる状態に保たれ、その状態で上部から導入された試料水は、IC反応液19aであるリン酸溶液に触れ、酸性化作用により二酸化炭素を生成する。この二酸化炭素を含むガスは、除湿用電子クーラ51に導かれてさらに水分が除去され、ハロゲンスクラバ61でハロゲン成分が除かれ、メンブレンフィルタ63により濾過されて、セル65に導入される。そして、光源67からの赤外光が、セル65中に照射され、二酸化炭素の濃度に比例した信号が検出器69から得られる。この二酸化炭素量はICに相当する。
このようにして測定されたTCからICを差し引きすれば、TOCを求めることができる。
【0030】
このTOC測定装置では、サンプリングシリンジ11に通気処理を行う機構とサンプリングシリンジ11に酸を注入する機構を備えているので、直接にTOCを測定することもできる。すなわち、試料水がサンプリングシリンジ11に採取された後、多ポートバルブ9がサンプリングシリンジ11を塩酸15を供給するポートに切り替えられて塩酸がサンプリングシリンジ11に吸引される。その後、多ポートバルブ9がドレン用のポートに接続され、サンプリングシリンジ11のプランジャがバレル下部の通気位置まで下げられ、電磁弁37が開かれて、高純度空気がキャリアガスとしてサンプリングシリンジ11内に導入され、サンプリングシリンジ11内の試料水を通気処理して多ポートバルブ9のドレン用ポートから排出される。このとき、試料水に溶解していたICが炭酸ガスとしてキャリアガスとともに試料水から排出される。その後、その試料水を燃焼管42に導いて炭素成分を測定すると、TOCが測定される。
【0031】
本発明はTOC計に限らず、TN計など、電気炉を備えた分析装置には同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 オートサンプラ
3 TOC測定部
5 キャリアガス供給部
9 多ポートバルブ
40 酸化反応部
41 電気炉
42 燃焼管
43 試料注入部
44 外壁
44a,44b,46 緩衝材
44c 穴
45 カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉心の少なくとも外周部が断熱材からなる外壁で囲われ、前記炉心の内部に燃焼管が挿入されて前記燃焼管に注入された試料に反応を起こさせる反応部を備えた分析装置において、
前記断熱材は少なくとも前記炉心の周方向に垂直な貫通溝を備え、前記貫通溝に弾力性をもつ緩衝材が挟み込まれていることを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記断熱材は前記炉心の周方向にも貫通溝を備え、前記周方向貫通溝にも弾力性をもつ緩衝材が挟み込まれている請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記断熱材の外周面が金属製カバーで覆われている請求項1に記載の全有機体炭素測定装置。
【請求項4】
前記反応部は、試料水中の炭素成分を酸化分解して二酸化炭素に変換する酸化反応部であり、該分析装置は、さらに前記酸化反応部からのガスを流通させるためのセル、前記セルに対して光を照射する光源及びセルを透過した光を検出するための検出器を有する測定部を備えた全有機体炭素測定装置である請求項1から3のいずれか一項に記載の分析装置。

【図1】
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【図2】
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