説明

電気炊飯器

【課題】鍋内の圧力を大気圧以上に維持して炊飯する炊飯器において、炊飯時に噴出する蒸気量を抑え、炊き上がりを良好なものにすること。
【解決手段】鍋と、鍋の加熱手段と、鍋内の温度検出手段と、鍋内の圧力を制御する圧力弁と、加熱制御手段とを備えている電気炊飯器において、立上加熱工程IIおよび沸騰維持工程IIIの間は常に圧力弁は閉塞され、沸騰維持工程IIIにおける温度は、加熱制御手段により、所定の圧力値に対応する沸騰温度以下であって100℃よりも高い加熱停止温度θU1および加熱再開温度θL1間の領域にて沸騰状態を維持するよう制御され、沸騰維持工程IIIの時間を炊飯量によって変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍋内の圧力を大気圧以上にして炊飯を行う電気炊飯器に関し、詳しくは炊飯時に発生する蒸気の排出を抑制することができ、おいしいご飯を炊きあげることができる電気炊飯器に関する。
【背景技術】
【0002】
電気炊飯器(以下、炊飯器という)は、一般家庭などにおいて、既に必需品となっており、様々なタイプのものが製品化されている。この種の炊飯器は、炊飯時に鍋内の圧力をほぼ常圧で炊飯するタイプのものと、所定圧力に昇圧して炊飯するタイプのものとに大別されている。
【0003】
中でも所定圧力に昇圧して炊飯するタイプの炊飯器は、圧力により炊き上げ時および沸騰維持中における水分が、米粒内に短時間に、かつ均一に浸漬されるため、炊飯時間を短くすることができるとともに、余分な水分が残らないことからベトつきが少ないおいしいご飯を炊き上げることができる。
【0004】
一方、炊飯器には、本質的な特徴として、炊飯中に蓋体から大気中に勢いよく蒸気が噴出される現象がある。この蒸気は、特に鍋内の温度が沸騰温度に達する付近から噴出され、沸騰維持中にも大量に噴出される。
【0005】
しかし、この蒸気が、台所内の天井や壁材に接触し、天井や壁材が剥がれたり変色を生じるという問題点があった。また、近年は炊飯器が台所内の棚に置かれることも多く、棚の天板に当たった蒸気が水滴へと変わり、炊飯器の置かれている棚が水浸しになってしまい、衛生上の問題を生じることもあった。
【0006】
上記のような問題点に鑑み、炊飯中に噴出される蒸気を少なくするようにした炊飯器の発明が下記特許文献1に開示されている。
【0007】
下記特許文献1に開示されている炊飯器は、鍋内温度が100℃に達する前から鍋内を密閉し、沸騰維持中は100℃よりも高い温度に制御して鍋内を大気圧以上に維持し、蒸気の発生を可能な限り低減するとともに、沸騰状態が所定時間を経過した時には強制的にドライアップ状態にしてご飯の炊き上げ状態が良好となるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−206559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1の炊飯器によれば、立上加熱時から沸騰維持中まで鍋内を密閉することによって、炊飯中に発生する蒸気を抑制することはできる。しかしながら、沸騰維持時間を炊飯量にかかわらず一定としているため、炊飯量が少ない場合、長時間炊飯されることになり、結果として極めて柔らかく、ぼたもちのような美味しくないご飯が炊き上がってしまう。
【0010】
本発明者等は、上記の従来技術の問題点を解決すべく種々検討を重ねた結果、沸騰維持工程での鍋内温度を蒸気が多量に出ない温度に保ちつつ、沸騰維持工程の時間を炊飯量に基いて決定することによって解決し得ることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明は、炊飯時に発生する蒸気の排出を抑制することができ、おいしいご飯を炊きあげることができる炊飯器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の電気炊飯器の発明は、所定量の炊飯物を入れる鍋と、前記鍋内の炊飯物を加熱する加熱手段と、前記鍋内の温度を検出する温度検出手段と、前記鍋内の圧力を制御する圧力弁と、前記温度検出手段からの出力を入力して所定の炊飯工程を実行する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記鍋内の炊飯物に所定量の水を吸水させる吸水工程、この吸水された炊飯物を沸騰するまで昇温加熱する立上加熱工程、この立上加熱工程後に鍋内を沸騰状態に維持する沸騰維持工程を含む一連の炊飯工程を実行する電気炊飯器において、前記制御手段は、前記鍋内の炊飯量を判定する炊飯量判定手段と、前記鍋内の温度を制御する加熱制御手段とを備え、
前記立上加熱工程および前記沸騰維持工程の間は常に前記圧力弁は閉塞されて所定の圧力値に維持され、前記沸騰維持工程における温度は、前記加熱制御手段により、前記所定の圧力値に対応する沸騰温度以下であって100℃よりも高い加熱停止温度および加熱再開温度間の領域にて沸騰状態を維持するよう制御され、前記沸騰維持工程の時間を炊飯量によって変化させることを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電気炊飯器において、前記制御手段は、前記沸騰維持工程の時間を、前記炊飯量判定手段によって判定された炊飯量が基準量よりも多い場合は短く、基準量よりも少ない場合は長くすることを特徴とする。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の電気炊飯器において、前記制御手段は、前記沸騰維持工程における前記加熱手段の加熱量を、前記炊飯量判定手段によって判定された炊飯量が基準量よりも多い場合に大きく、基準量よりも少ない場合に小さくすることを特徴とする。
【0015】
また、請求項4の発明は、請求項1に記載の電気炊飯器において、前記制御手段は、前記沸騰維持工程中に前記鍋内の温度が前記加熱停止温度を超えると加熱を停止し、前記加熱再開温度を下回ると加熱を再開するよう前記加熱制御手段を制御することを特徴とする。
【0016】
また、請求項5の発明は、請求項1に記載の電気炊飯器において、前記沸騰維持工程の初回における前記加熱停止温度および前記加熱再開温度は、前記沸騰維持工程の2回目以降における前記加熱停止温度および前記加熱再開温度と比較して低くされていることを特徴とする。
【0017】
また、請求項6の発明は、請求項1に記載の電気炊飯器において、前記加熱停止温度および前記加熱再開温度は、前記沸騰維持工程の開始時に加熱を停止し、所定時間後に判定された鍋底温度と、予め定められたルックアップテーブルにより定められることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1および2の発明によれば、沸騰維持工程時の温度が沸騰温度よりも若干低い温度で維持されるので、噴出される蒸気量を抑えることができ、さらに、沸騰維持工程の時間を調整することで丁度よい固さで食味がよい、おいしいご飯を炊きあげることができる。
【0019】
請求項3の発明によれば、噴出される蒸気量を抑えて沸騰を維持させることができる。
【0020】
請求項4の発明によれば、圧力弁を常に閉塞した状態で沸騰維持工程を行うことができ、鍋内の温度上昇を抑えることができるため、噴出される蒸気量を抑えることができる。
【0021】
請求項5の発明によれば、鍋内の温度が明確ではない沸騰維持工程の初回の加熱でも鍋内の温度の過度の上昇を抑制することができ、蒸気の噴出量を抑制することができる。
【0022】
請求項6の発明によれば、簡単な演算処理によって最適な沸騰維持工程の加熱条件を設定することができ、蒸気の発生を抑制しながら、炊飯物の炊き上がりを良好にすることが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例における電気炊飯器の正面図である。
【図2】本発明の実施例における電気炊飯器の縦断面図である。
【図3】本発明の実施例における電気炊飯器のブロック図である。
【図4】本発明の実施例における電気炊飯器での炊飯温度推移図である。
【図5】図4のV部分の拡大図である。
【図6】図6Aは本発明の実施例における電気炊飯器の炊飯量に基いた各工程の時間および電力を示した表であり、図6Bは加熱停止温度および加熱再開温度を決定するためのルックアップテーブルである。
【図7】本発明の実施例における炊飯工程のフローチャートである。
【図8】従来の電気炊飯器での炊飯温度推移図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の具体例を実施例及び図面を用いて詳細に説明する。但し、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための電気炊飯器の一例を例示するものであって、本発明をこの電気炊飯器に特定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態の電気炊飯器にも等しく適応し得るものである。
【実施例1】
【0025】
まず、図1及び図2を参照して、本発明の実施例に係る炊飯器の構造を説明する。なお、図1は本発明の実施例に係る炊飯器の正面図、図2は図1の縦断面図である。
【0026】
本発明の実施例に係る炊飯器1は、炊飯時に鍋内の圧力を大気圧以上、例えば1.2気圧程度に昇圧して炊飯する圧力式炊飯器となっている。
【0027】
この炊飯器1は、図1及び図2に示すように、米と水とを含む炊飯物を入れる鍋20と、上方にこの鍋20が収容される開口部及び内部にこの鍋20を加熱し炊飯物を加熱する加熱手段5を有する炊飯器本体(以下、本体という)2と、この本体2の一側に枢支されて鍋20及び本体2の開口部を覆い閉塞状態に係止する蓋体4と、この蓋体4に装着されて鍋20内の内圧を調整する圧力弁7と、この圧力弁7を開放制御する圧力弁開放機構8と、各種の炊飯コースを表示して選択する表示操作部9と、選択された炊飯コースに従って加熱手段5及び圧力弁開放機構8を制御して鍋20内の炊飯物を所定温度に加熱して一連の炊飯工程を実行する制御手段60(図3参照)と、を有している。
【0028】
一連の炊飯工程は、図4に示すように、鍋内の米に所定量の水を吸水させる吸水工程I、吸水後に鍋内を一気に加熱して沸騰させる立上加熱工程II、この沸騰状態を維持して米のデンプンを糊化させて炊き上げる沸騰維持工程III、炊き上ったご飯から余分な水分を除去するとともに糊化をさらに促進させるむらし1などを含むむらし工程IVとなっている。
【0029】
本体2は、図2に示すように、有底箱状の外部ケース22と、この外部ケース22に収容される内部ケース21とからなり、外部ケース22と内部ケース21との間に隙間が形成されて、この隙間に制御手段60を構成する制御回路基板6等が配設されている。内部ケース21には、深底の容器からなる鍋20が収容される。この鍋20は、例えばアルミニウムとステンレスとのクラッド材で形成されている。また、この内部ケース21は、その底部及び側部にそれぞれ鍋底ヒータ51及び側面ヒータ52などの加熱手段5が設けられ、底部に鍋底温度を検知するサーミスタ等からなる鍋底温度センサSが設けられている。鍋底ヒータ51には環状に巻装した電磁誘導コイル(以下、IHコイルともいう)が使用されている。
【0030】
本体2は、その内部に主に制御回路基板6及びインバータ(図示省略)を冷却する冷却手段が設けられている。この冷却手段は、制御回路基板6から発生する熱を放熱させるヒートシンク61と、このヒートシンク61及びインバータなどを強制冷却する冷却ファン62と有している。冷却ファン62は、底板部22aに設けた吸気口23aの近傍に配設されている。
【0031】
また、本体2には、図1及び図2に示すように、その正面に表示操作部9が設けられている。この表示操作部9には、各種の炊飯選択コース及び時刻等が表示される表示パネル91と、この表示パネル91の左右及び下方に設けられた複数個のスイッチ操作釦92とを備えている。これらのスイッチ操作釦92は、炊飯器1を作動させる炊飯/スタート釦92a、炊飯予約をする炊飯予約釦92b、炊飯等の設定を取消す取消/保温釦92c、炊飯する米を選択するお米選択釦92d、炊飯メニューを選択するメニュー選択釦92e、コースを選択するコース釦92f、及び表示パネル91に表示されたメニュー等を選択・決定する十字シフトキー92gとなっている。
【0032】
これらの釦及びキーは、押し釦式のスイッチを構成する操作釦等であって、これらの釦或いはキーを押圧することにより、各種のメニューなどが表示され選択・決定される。これらの操作釦92a〜92fのうち、メニュー選択釦92eは、各種炊飯メニューを表示パネル91に表示させるもので、この釦を押圧すると、ふつう、かため、やわらか、おかゆ、すしめし、カレー用、炊込み、おこわ、四季炊き、マルチ調理などの各種炊飯メニューが表示される。また、お米選択釦92dは、米の種類を選定するもので、例えば白米、無洗米、玄米、発芽玄米等の何れかを選択するものである。
【0033】
更に、コース釦92fは、うまみ保温、おやすみ保温、マルチ調理及びクリーニング等を選択するものである。また、十字シフトキー92gは、表示パネル91に表示された種々のメニューから所定のメニューを選択するもので、表示された炊飯メニュー、例えば、ふつう、かため、やわらか、おかゆ、すしめし、カレー用、四季炊き及びこだわり等から十字シフトキー92gを操作してカーソル(点滅表示)を上下及び左右に移動させて選択するものである。
【0034】
蓋体4は、図2に示すように、鍋20の開口部を閉蓋する内蓋42と、本体2の開口部全体を覆う外蓋41等とで構成されている。この蓋体4は、一側がヒンジ機構44により本体2に枢支され、他側がロック機構47により本体2の係止部にロックされる。
【0035】
図2に示すように、内蓋42には、圧力弁7が設けられている。この圧力弁7は圧力弁開放機構8によって開放される。圧力弁7は、所定径の弁孔71bが形成された弁座71aと、この弁孔71bを塞ぐように弁座71a上に載置される金属製のボール72と、このボール72の移動を規制することで弁座71a上にボール72を保持するカバー71cとで構成されている。
【0036】
また、圧力弁開放機構8は、電磁コイルが巻回されたシリンダ81と、このシリンダ81内から電磁コイルの励磁により入出されボール72を移動させるプランジャ82と、プランジャ82の先端に装着されたロッド83と、シリンダ81の一端部とロッド83との間に設けられたバネ84とで構成されている。
【0037】
圧力弁開放機構8は、制御手段60により制御される。すなわち、制御手段60からの指令に基づき、電磁コイルが励磁されると、プランジャ82がシリンダ81内に引き込まれ、この引き込みにより、ボール72が弁孔71b上に戻り、弁孔71bがボール72で閉塞される。また、閉塞状態において、電磁コイルへの励磁がストップされるとプランジャ82がバネの付勢力によりシリンダ81から飛出してボール72に衝突し、ボール72が所定方向に押し出される。この押し出しにより、ボール72は弁孔71b上で移動して弁孔71bを強制的に開放させる。
【0038】
内蓋42には、鍋20内の蒸気圧力が所定圧力以上の異常圧力に上昇したときに、鍋20内の圧力を外部に逃がす安全弁46が設けられている。また、この内蓋42には、蒸気温度センサ(図示省略)が取り付けられている。
【0039】
内蓋42と外蓋41とは、その間に所定広さの隙間空間をあけて結合されている。外蓋41には、鍋20から排出される水分を含むおねばを一時貯留する貯留タンク43が着脱自在に装着されている。この貯留タンク43は、おねばと蒸気とを分離する蒸気通路43aと、蒸気を外部へ逃がす蒸気口43bと、その内部に一時貯留されたおねばを鍋20へ戻すタンク弁43cとを有している。隙間空間及び貯留タンク43の蒸気通路43aは、おねばを一時貯留する貯留部となっている。
【0040】
なお、おねばとは粘り気のある糊状の汁であって、この糊状の汁は旨み成分を含んでおり、このおねばがそのまま鍋20外へ排出されてしまうとご飯が美味しく炊きあがらない。そこで、このおねばを貯留する貯留タンク43を設けて、この貯留タンク43におねばを一時貯留しておき、鍋20内の加熱が終了して鍋20内が負圧になったときにおねばを鍋20内に戻すことで旨み成分を含むおねばでご飯がコーティングされるため、ご飯を美味しく炊きあげることができる。
【0041】
次に、図2および図3を参照して、制御手段およびこの制御手段による炊飯工程を説明する。なお、図3は制御手段のブロック図である。
【0042】
制御手段60は、図3に示すように、種々の演算処理を行うCPU、各種データの記憶を行うROMおよびRAMからなる記憶手段、選択された炊飯メニューを検出する炊飯メニュー検出回路、圧力弁7の開閉時間が設定する弁開閉タイマー、圧力弁7の開閉回数をカウントするカウンタと、鍋20内の加熱温度および加熱時間を制御する加熱制御手段、鍋内に入っている炊飯物の炊飯量を判定する炊飯量判定手段、表示パネル91に表示される表示画面を制御するための表示パネル制御回路、圧力弁開放機構8を駆動させて圧力弁7の開閉タイミングを制御する圧力弁開放機構8の駆動回路などを備えている。
【0043】
記憶手段には、各種の炊飯メニューに対応した炊飯プログラムが記憶されている。この炊飯プログラムは、吸水工程、立上加熱工程、沸騰維持工程、むらし工程およびこれらの炊飯工程終了後の保温工程となっている。また、加熱制御回路は、鍋底ヒータ51、側面ヒータ52および蓋ヒータ(図示省略)にそれぞれ接続されている。
【0044】
次に、図4、図5および図8を参照して、従来の炊飯器及び本発明の実施例における蒸気セーブを行う炊飯器の炊飯工程の概要を説明する。なお、図4は本発明の実施例における蒸気セーブを行う炊飯器の炊飯温度推移図、図5は図4のV部分の拡大図、図8は従来の炊飯器の炊飯温度推移図である。これらの炊飯工程図は、鍋内の温度及び圧力変化を示している。
(イ)従来例
最初に、図8を参照して、従来の炊飯器における炊飯工程の概要を説明する。まず、吸水工程I’では、圧力弁を開放した状態で加熱手段への通電を行って鍋内の温度を所定の吸水温度(40℃)で所定時間(10分)、鍋内の米に吸水させる。この吸水工程I’が終了すると、立上加熱工程II’へ移行する。この立上加熱工程II’では、圧力弁を閉成すると同時に加熱手段へフルパワー通電を行って鍋内を加圧状態にして鍋内を沸騰状態にする。蓋体などに設置した蒸気温度センサで鍋内の蒸気温度を検知し、この蒸気温度が所定温度(75℃)に達したときに次の沸騰維持工程III’へ移行させる。この沸騰維持工程III’では、所定の沸騰維持電力で鍋内を沸騰状態に維持する。この沸騰維持工程III’では、また、圧力弁開放機構を作動させて、圧力弁を強制的に所定の単位時間で複数(4回以上)回間歇的に開放させる。この圧力弁の間歇的な開放により、開放時には鍋内の状態が加圧状態から一気に大気圧近傍まで低下して鍋内に圧力変動が起こり、この圧力変動が間歇的に複数回に亘って繰り返される。
【0045】
この間歇的な圧力弁の開放により、鍋内の圧力が大きく変動し、その度毎に鍋内に激しい沸騰現象、いわゆる突沸現象が生じて大量の泡が発生すると、同時に鍋内の中央側の米粒が鍋内の側方へ或いは逆方向への移動を繰り返して鍋内の米粒が効率よく攪拌される。この攪拌により、米粒全体に十分な熱が加わり、加熱ムラがなくなる。また、この攪拌により、おねばも効率よく混ざり込み、米粒の周囲がこのおねばによってコーティングされる。おねばには、ご飯の旨み成分が多く含まれているので、炊き上がったご飯はこのおねばでコーティングされてより美味しいものになる。
【0046】
この沸騰維持工程III’において、圧力弁が強制的に複数回に亘り開放され後は、このようような強制的な開放動作をさせずに残りの沸騰維持工程を継続する。この残りの沸騰維持工程では、圧力弁はその弁口を塞ぐボールの自重と鍋内圧力とのバランスによって略一定の加圧状態が維持されるように小刻みな開閉動作が繰り返えされる。この沸騰維持工程が所定時間継続された後に、鍋底近傍などに設置した鍋底温度センサが所定の鍋底温度(130℃)を検出すると、制御手段は加熱手段への通電を停止し、むらし工程IV’内のむらし1へ移行する。このとき、圧力弁の開放動作は行わない。このむらし1が終了すると、追い炊きへ移行すると共に、圧力弁を開放させて加熱手段で再加熱する。この再加熱が終了すると、むらし2へ移行して、一連の炊飯工程を終了する。図8の曲線C’は従来の炊飯器の炊飯工程における鍋内の温度変化を示している。
(ロ)実施例(蒸気セーブ炊飯)
図4、図5を参照して、本実施例にかかる蒸気セーブを行う炊飯器1における炊飯工程の概要を説明する。まず、吸水工程Iでは、圧力弁7を開放した状態で加熱手段5への通電を行って鍋20内の温度を所定の吸水温度θ1(例えばθ1=60℃)で所定の吸水時間TI(例えばTI=4分)を掛けてこの吸水工程Iを実行する。この吸水工程Iが終了すると、最初は圧力弁7を開成したままの状態で鍋20を全加熱量(フルパワー)で加熱すると共に、その途中で圧力弁7を閉成して立上加熱工程IIを実行する。不図示の蒸気温度センサで鍋20内の蒸気温度を検知し、この蒸気温度が所定温度θ2(例えばθ2=75℃)に達したときに次の沸騰維持工程IIIへ移行させる。
【0047】
この沸騰維持工程IIIでは、図4、図5に示されているように、所定の時間Ts(例えばTs=90秒)の間、IHコイル51への通電を停止し、加熱を行わない。この加熱停止によって下降した鍋底温度が鍋底温度センサSによって検出され、基準温度θBとして記憶される。その後、炊飯量(小、中、大)に基いた加熱電力PS、PN若しくはPL(W)(図6参照)で、炊飯量に基いた所定の沸騰維持継続時間TIIIS、TIIIN若しくはTIIIL(秒)(図6参照)の間加熱される。ここで、各加熱電力および各沸騰維持継続時間の関係は、PS<PN<PL、TIIIS>TIIIN>TIIILとなっている。なお、炊飯量の判定は、立上加熱工程などで行われ、判定法は公知の方法が使用される。
【0048】
この加熱によって鍋底温度が加熱停止温度θU1まで上昇すると、再度加熱を停止する。鍋底温度が加熱再開温度θL1まで下降すると加熱を再開する。加熱停止温度θU1および加熱再開温度θL1は、基準温度θBにより決定される。詳しくは後述する。
【0049】
このように鍋底温度を加熱停止温度θU1と加熱再開温度θL1との間で推移させることで沸騰維持を続ける。また、この沸騰維持工程IIIでは、圧力弁を常に閉塞した状態とする。開放してしまうと、鍋内の蒸気が外方へと噴出してしまうためである。
【0050】
沸騰維持工程経過時間tが炊飯量によって決定された沸騰維持継続時間であるTIIIS、TIIIN若しくはTIIIL(図6参照)に達すると、IHコイル51への通電量を増加し、ドライアップを行う。鍋底温度センサSが所定の鍋底温度θ4(例えばθ4=130℃)を検出すると、制御手段60はIHコイルへの通電を停止してむらし工程IV内のむらし1へ移行する。むらし1が終了すると、追い炊き工程へ移行すると共に、圧力弁7を閉成させたまま加熱手段5で再加熱を実行する。この再加熱が終了すると、むらし2へ移行して、その後は、保温工程へ移行して、蒸気セーブを行う炊飯器1による一連の炊飯工程を終了する。
【0051】
この本実施例の炊飯器1の蒸気セーブ炊飯では、沸騰維持工程IIIにおいて、沸騰維持温度を100℃〜103℃で維持させており、また、圧力弁7を常に閉塞した状態としているので、蒸気の噴出を抑えることができる。なお、図4の曲線Cは蒸気セーブを行う炊飯器の炊飯工程における鍋20内の温度変化を示している。
【0052】
以上説明したように、本実施例の炊飯器は、圧力式の炊飯器であって、特に、蒸気セーブの炊飯制御に特徴があるものとなっている。以下、この炊飯器の具体的構成、制御手段及びこの制御手段による炊飯制御を詳述する。
【0053】
図6、図7を参照して、本発明における炊飯工程を説明する。なお、図6Aは本発明の実施例における炊飯器の炊飯量に基いた各工程の時間、電力を示した表であり、図6Bは加熱停止温度および加熱再開温度を決定するためのルックアップテーブル、図7は蒸気セーブを行う炊飯器での炊飯工程を示すフローチャートである。
【0054】
まず、所定量の水と白米とを鍋20に入れ、この鍋20を本体2の内部ケース21内に収容し、吸水工程Iが開始される(ステップS01)。このとき、制御手段60により圧力弁開放機構8を作動させてボール72を移動せしめ、圧力弁7を開成状態にする(ステップS02)。
【0055】
吸水工程I中はIHコイルへ通電を行い、鍋20内を加熱する。このとき、鍋底温度センサSにより鍋底温度θが計測される。この計測された鍋底温度θが所定温度θ1(例えばθ1=60℃)に達するまでIHコイル51への通電を行い、計測値θがθ1に達した段階で通電を停止し、計測値θが所定温度θ1’(例えばθ1’=59℃)に至るとIHコイル51への通電を再開する。そして吸水時間Tが予め設定された吸水工程Iに要する時間TIに達したか否かを検出し、時間TIに達したことが検出されると、立上加熱工程IIへ移行する(ステップS03)。
【0056】
次の立上加熱工程IIでは、短時間で沸騰状態になるようにIHコイル51に通電する電力を大きくし、大電力加熱を行うと共に圧力弁7を閉成する(ステップS04)。大電力加熱の制御及び圧力弁7の閉成は、制御手段60により行われる。圧力弁7は、圧力弁開放機構8を作動させてプランジャ82を引き戻すことによってボール72が自重により弁孔71b上に転がり弁孔71bを塞ぎ圧力弁7が閉成される。
【0057】
大電力加熱が開始されると、鍋20内の炊飯量の判定が開始される(ステップS05)。ステップS05における炊飯量の判定が開始されると、蒸気温度がθ2(例えばθ2=75℃)に達したかの判定を行い、大電力加熱の開始から蒸気温度がθ2に到達するまでの到達時間を計測し、この到達時間によって炊飯量の判定が行われる。すなわち、到達時間が長ければ炊飯量が多く、時間が短ければ炊飯量は少ないと判定される。
【0058】
炊飯量の判定が終了すると、炊飯量に基づいて沸騰維持工程IIIにおける継続時間TIIIおよび加熱電力PIIIの調整が行われる(ステップS06、S07)。鍋底温度θがθ3(例えばθ3=105℃)に達すると沸騰維持工程IIIへ移行する。
【0059】
沸騰維持工程IIIが開始されると(ステップS08)、沸騰維持工程経過時間tの計時を開始し(ステップS09)、IHコイルへの通電を所定時間Ts(例えばTs=90秒)の間停止させる(ステップS10)。この加熱停止によって下降した鍋底温度を検出し、制御基準温度θBとして記憶する。この制御基準温度θBとルックアップテーブル(図6B参照)に基いて、加熱停止温度θU1および加熱再開温度θL1の値を決定する。すなわち、加熱停止温度θU1および加熱再開温度θL1は、制御基準温度θBに、ルックアップテーブルから抜き出した所定の値を加算することによって決定される。ここで、上昇温度の関係は、αL1<αU1<αU2、αL1<αL2<αU2である。本実施例の場合、例えばθU1=θB+6、θL1=θB+5としている。IHコイルへの通電停止からTs秒間経過すると、IHコイルへの通電を開始し(ステップS11)、鍋内を加熱する。鍋底温度θを検出し、制御基準温度θBから所定温度高い温度である加熱停止温度θU1まで上昇したと検知されると(ステップS12)、IHコイルへの通電を停止する(ステップS13)。
【0060】
この後、鍋底温度が制御基準温度θBから所定温度高い温度である加熱再開温度θL1まで下降したと検知されると(ステップS14)、IHコイルへの通電を再開する(ステップS15)。この後、計時されている沸騰維持工程経過時間tと、炊飯量によって決定された沸騰維持工程の継続時間TIIIとを比較し、t<TIIIである場合、ステップS12における加熱停止温度をθU2(例えばθU2=θB+9)、ステップS14における加熱再開温度をθL2(例えばθL2=θB+6)として繰り返す(ステップS16)。
【0061】
このとき、最初の加熱停止温度θU1および加熱再開温度θL1は、2回目以降の加熱停止温度θU2および加熱再開温度θL2と比較して低く設定してある。これはステップS10において下降した鍋内の温度が明確ではないため、温度を上昇させすぎると鍋内が熱くなりすぎてしまい、蒸気が多量に噴出されてしまうためである。
【0062】
なお、沸騰維持工程III中は圧力弁13は常に閉成されており、これにより鍋の外へ噴出される蒸気量を抑えることができる。
【0063】
そして、沸騰維持工程経過時間tが炊飯量によって決定された沸騰維持工程IIIの継続時間TIIIに達したか否かを検出し、時間TIIIに達したことが検出されると(ステップS16)、IHコイル51への通電量を増やし、鍋2内のドライアップを開始する(ステップ17)。そして、鍋底温度θが所定温度、例えばθ4(例えばθ4=130℃)になると、鍋20内の水が枯れて強制ドライアップが終了したと判断され、IHコイルへの通電を停止して沸騰維持工程IIIを終了し、むらし工程IV中のむらし1へと移行する(ステップS18)。むらし1中も蒸気が鍋の外へと噴出されないよう、圧力弁7は常に閉成されている。このむらし1が終了すると、追い炊きへ移行すると共に(ステップS19)、圧力弁を閉成させたまま加熱手段5で再加熱する。この再加熱が終了すると、むらし2へ移行して(ステップS20)、一連の炊飯工程を終了する。
【符号の説明】
【0064】
1 電気炊飯器
2 炊飯器本体
4 蓋体
5 加熱手段
6 制御回路基板
7 圧力弁
8 圧力弁開放機構
9 表示操作部
20 鍋
21 内部ケース
22 外部ケース
22a 底板部
23a 吸気口
41 外蓋
42 内蓋
43 貯留タンク
46 安全弁
60 制御手段
91 表示パネル
S 鍋底温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定量の炊飯物を入れる鍋と、前記鍋内の炊飯物を加熱する加熱手段と、前記鍋内の温度を検出するする温度検出手段と、前記鍋内の圧力を制御する圧力弁と、前記温度検出手段からの出力を入力して所定の炊飯工程を実行する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記鍋内の炊飯物に所定量の水を吸水させる吸水工程、前記吸水された炊飯物を沸騰するまで昇温加熱する立上加熱工程、前記立上加熱工程後に鍋内を沸騰状態に維持する沸騰維持工程を含む一連の炊飯工程を実行する電気炊飯器において、
前記制御手段は、前記鍋内の炊飯量を判定する炊飯量判定手段と、前記鍋内の温度を制御する加熱制御手段とを備え、
前記立上加熱工程および前記沸騰維持工程の間は常に前記圧力弁は閉塞されて所定の圧力値に維持され、
前記沸騰維持工程における温度は、前記加熱制御手段により、前記所定の圧力値に対応する沸騰温度以下であって100℃よりも高い加熱停止温度および加熱再開温度間の領域にて沸騰状態を維持するよう制御され、
前記沸騰維持工程の時間を炊飯量によって変化させることを特徴とする電気炊飯器。
【請求項2】
前記制御手段は、前記沸騰維持工程の時間を、前記炊飯量判定手段によって判定された炊飯量が基準量よりも多い場合は短く、基準量よりも少ない場合は長くすることを特徴とする請求項1に記載の電気炊飯器。
【請求項3】
前記制御手段は、前記沸騰維持工程における前記加熱手段の加熱量を、前記炊飯量判定手段によって判定された炊飯量が基準量よりも多い場合に大きく、基準量よりも少ない場合に小さくすることを特徴とする請求項1に記載の電気炊飯器。
【請求項4】
前記制御手段は、前記沸騰維持工程中に前記鍋内の温度が前記加熱停止温度を超えると加熱を停止し、前記加熱再開温度を下回ると加熱を再開するよう前記加熱制御手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の電気炊飯器。
【請求項5】
前記沸騰維持工程の初回における前記加熱停止温度および前記加熱再開温度は、前記沸騰維持工程の2回目以降における前記加熱停止温度および前記加熱再開温度と比較して低くされていることを特徴とする請求項1に記載の電気炊飯器。
【請求項6】
前記加熱停止温度および前記加熱再開温度は、前記沸騰維持工程の開始時に加熱を停止し、所定時間後に判定された鍋底温度と、予め定められたルックアップテーブルにより定められることを特徴とする請求項1に記載の電気炊飯器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−10873(P2012−10873A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149181(P2010−149181)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000214892)三洋電機コンシューマエレクトロニクス株式会社 (1,582)
【Fターム(参考)】