説明

電気用アルミニウム、アルミニウム線の再利用方法、及び電線

【課題】亜鉛の含有量が従来の目標管理レベルを越えても実用上十分な特性が維持でき、再利用が可能な電気用アルミニウム、それを利用した電線、及びアルミ線の再利用方法を提供する。
【解決手段】Si:0.10質量%以下、Fe:0.25質量%以下、Cu:0.005質量%以下、Mn:0.005質量%以下、TiとVの合計:0.005質量%以下、Zn:0.01質量%より大きく0.05質量%以下の成分を含み、残部がアルミニウム及び不可避不純物の成分比率からなる電気用アルミニウムを用いて硬アルミ素線5a,5bとし、1本の円形断面形状の亜鉛めっき鋼線1aの外周に、同様な亜鉛めっき鋼線1bを6本撚り合わせた鋼心部3と、鋼心部3の外周に10本の円形断面形状の硬アルミ素線5aを撚り合わせ、さらに硬アルミ素線5aの外周に16本の同様な硬アルミ素線5bを撚り合わせたアルミ部7とで構成して鋼心アルミ撚線10とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気用アルミニウム、アルミニウム線(以下アルミ線という)の再利用方法、及び電線に係り、特に、亜鉛(Zn)の含有量が従来の目標管理レベルを越えても実用上十分な特性が維持できる電気用アルミニウム、アルミ線の再利用方法及び撤去した送電線の鋼心アルミ撚線を構成するアルミ線の再利用方法、及びそれらを利用した電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の架空送電線には主として鋼心アルミ撚線(ACSR)が使われている。
図2に、従来の鋼心アルミ撚線の例を示す。
この鋼心アルミ撚線20は、1本の円形断面形状の亜鉛めっき鋼線1aの外周に、同様な亜鉛めっき鋼線1bを6本撚り合わせた鋼心部3と、鋼心部3の外周に10本の円形断面形状の硬アルミ素線15aを撚り合わせ、さらに硬アルミ素線15aの外周に16本の同様な硬アルミ素線15bを撚り合わせたアルミ部7とで構成されている(特許文献1参照)。
【0003】
このアルミ部7を構成する硬アルミ素線15a,15bには、アルミ純度が99.65%以上と最高レベルのものが必要とされる。
この純度はJIS(日本工業規格)H2110「電気用アルミニウム地金」に規定されており、これは線引き後の素線が電線の導体としてJIS C3108「電気用硬アルミニウム線」の規格で要求される導電率及び引張強さ、伸びなどの特性を満足させるためである。
【0004】
このような鋼心アルミ撚線20は、送電線の設備改修または撤去等のために、撤去される場合がある。しかし、鋼心アルミ撚線20は長年月にわたって自然界に曝されているため、風雨、塵埃、大気などの影響を受けてアルミの表面が酸化、腐食または汚れの付着などが進んでいることから、電気用アルミニウムとしての特性を満足することが出来ず、これまでは撤去しても電線用に再利用することが難しく実現されなかった。
【0005】
一方、アルミの配電線においては絶縁被覆を被っていることから、アルミ線の酸化、腐食、汚れが裸送電線に比べて比較的少ないため、リサイクルが可能であり、既に実用化されている。
【0006】
しかしながら、アルミの配電線をリサイクルしていると言っても再利用のアルミだけを用いてリサイクルを繰り返すと不純物濃度が回を追うごとに増加し、JIS C3108に定めた電気特性や機械特性が低下する。これは、アルミのリサイクル過程において、亜鉛めっき鋼線の亜鉛が剥がれてアルミ撚線に付着したり、長年の使用によりアルミ撚線に亜鉛めっきが付着して不純物としてアルミの中に混入したりしてしまうのが主な原因である。このため、電気用アルミニウムとしての特性が得られるように再利用アルミと新品アルミとの混合比率を規定し、再利用品の混合比率を50%以下、亜鉛の成分比率を0.01%以下として運用されてきた(非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−90744号公報
【非特許文献1】フジクラ技報「再生アルミ配電線の開発」第83号、1992年10月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
実際に撤去された送電線の鋼心アルミ撚線からアルミ線を回収し溶解・分析すると、不純物として含まれる亜鉛の含有量が配電線のリサイクル品で設定している前記の目標管理レベルを越えてしまう場合があり、このようなアルミ線は、これまで純度の低いアルミでも使用可能な自動車の部品などに2次加工品用として再利用されるか、場合によっては、廃棄物として処理されていた。
【0008】
このような純度の低いアルミを利用したとしても、電気用アルミニウムとして使用出来る範囲の特性が得られれば、再度電線用の導体として再生させることが可能であり、新たにボーキサイトからアルミナを取り出し大量の電気を使ってのアルミ精錬・鋳造という膨大なエネルギーの消費に比べて、はるかに小さなエネルギーでアルミ電線の材料が得られることになり、省エネルギーおよび循環リサイクルの観点からも経済的に大きな効果が期待できる。
【0009】
従って、本発明の目的は、上記の課題に鑑み、亜鉛の含有量が従来の目標管理レベルを越えても実用上十分な特性が維持でき、再利用が可能な電気用アルミニウム、及びそれを利用した電線を提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の目的は、電気用アルミニウム地金の特性低下を最小限に抑えて、再度電線用の導体として再生させることができ、再利用が可能なアルミ線の再利用方法を提供することにある。
更に、本発明の他の目的は、撤去した送電線の鋼心アルミ撚線を構成するアルミ線の再利用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために調査・研究を重ねた結果、送電線として使用されたアルミ線が以下の特定の成分範囲においてもJIS C3108の所要特性を満足し、従来のリサイクルアルミにおいて規定されていたZnの範囲を超えても再利用可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
即ち、本発明の電気用アルミニウムは、Si:0.10質量%以下、Fe:0.25質量%以下、Cu:0.005質量%以下、Mn:0.005質量%以下、TiとVの合計:0.005質量%以下、Zn:0.01質量%より大きく0.05質量%以下の成分を含み、残部がアルミニウム及び不可避不純物の成分比率からなることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のアルミ線の再利用方法は、亜鉛の成分比率を0.01質量%以下とするアルミニウム線または0.01質量%より大きいとするアルミニウム線を回収し、該同じ成分比率および/または異なる成分比率のアルミニウム線を溶解し、鋳造することにより、組成が、Si:0.10質量%以下、Fe:0.25質量%以下、Cu:0.005質量%以下、Mn:0.005質量%以下、TiとVの合計:0.005質量%以下、Zn:0.01質量%より大きく0.05質量%以下の成分を含み、残部がアルミニウム及び不可避不純物からなる成分比率の電気用アルミニウムに再生させることを特徴とする。
【0014】
更に、本発明のアルミ線の再利用方法は、撤去した送電線の鋼心アルミニウム撚線を構成するアルミニウム線を回収し、該アルミニウム線を溶解し、鋳造することにより、Si:0.10質量%以下、Fe:0.25質量%以下、Cu:0.005質量%以下、Mn:0.005質量%以下、TiとVの合計:0.005質量%以下、Zn:0.05質量%以下の成分を含み、残部がアルミニウム及び不可避不純物からなる成分比率の電気用アルミニウムとなるように組成管理して送電線に利用することを特徴とする。
【0015】
前記した組成成分比率の電気用アルミニウムから成る素線を1本で形成、または複数本撚り合わせて形成して導体とした電線とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電気用アルミニウムによれば、従来品と比べてZn成分が高くても従来品と同等の引張強さ、伸び、導電率を有し、JISC3108の規格値を満足する特性が得られる。
【0017】
このため、この電気用アルミニウムを用いた電線は、亜鉛の含有量が従来の目標管理レベルを越えているにも拘わらず、実用上十分な特性を有するものとなり、架空送電線に好適に利用できる。
【0018】
また、本発明のアルミ線の再利用方法によれば、架空送電線や架空配電線等として使用されていたアルミ線が長年にわたってその使命を果たした後、回収、溶解されて再度送電線等の導体としての機能を発揮できるから、資源の有効活用、エネルギーロスの最小化に寄与し、循環リサイクルを実現できる。更に、新規にアルミ地金を鋳造する場合に比べて、アルミ線のコストダウンが図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1に、本実施形態に係る鋼心アルミ撚線の構造を示す。
この鋼心アルミ撚線10は、1本の円形断面形状の亜鉛めっき鋼線1aの外周に、同様な亜鉛めっき鋼線1bを6本撚り合わせた鋼心部3と、鋼心部3の外周に10本の円形断面形状の硬アルミ素線5aを撚り合わせ、さらに硬アルミ素線5aの外周に16本の同様な硬アルミ素線5bを撚り合わせたアルミ部7とで構成されている。
【0020】
ここで、硬アルミ素線5a,5bは、Si:0.10質量%以下、Fe:0.25質量%以下、Cu:0.005質量%以下、Mn:0.005質量%以下、TiとVの合計:0.005質量%以下、Zn:0.01質量%より大きく0.05質量%以下の成分を含み、残部がアルミニウム及び不可避不純物の成分比率からなるものである。
【0021】
硬アルミ素線5a,5bにおいて、Znの上限を0.05質量%としたのは、導体として61%以上の導電率を確保し、かつ、導電率の低下を極力最小限に抑制するためである。
Znの混入による導電率への影響度合いは2.2[%IACS(International Annealed Copper Standard)/Wt%]であり、即ち、亜鉛が1%増えると導電率が2.2%悪くなる。従って、Znが0.05質量%以下であれば、導電率の低下を0.1%程度以下とすることが可能である。
また、Znを0.01質量%より大きくしたのは、前記した61%以上の導電率を有する従来のアルミ配電線用のリサイクルアルミと同等の導電率を有する導体とするためである。
【0022】
上記組成範囲内のアルミ材料を用いることにより、後述する実施例からも実証されるように、従来品と比べてZn成分が高くても従来品と同等の引張強さ、伸び、導電率を有し、JIS C3108の規格値を満足する特性が得られる。
【0023】
このため、このアルミ材料による硬アルミ素線5a,5bを用いた鋼心アルミ撚線10は、亜鉛の含有量が従来の目標管理レベルを越えているにも拘わらず、実用上十分な特性を有するものとなり、架空送電線に好適に利用できる。
【0024】
また、この鋼心アルミ撚線10は、亜鉛の成分比率を0.01質量%以下とするアルミ線または0.01質量%より大きいとするアルミ線を回収し、該同じ成分比率および/または異なる成分比率のアルミ線を溶解し、鋳造することにより、組成が、Si:0.10質量%以下、Fe:0.25質量%以下、Cu:0.005質量%以下、Mn:0.005質量%以下、TiとVの合計:0.005質量%以下、Zn:0.01質量%より大きく0.05質量%以下の成分を含み、残部がアルミニウム及び不可避不純物からなる成分比率の電気用アルミニウムに再生させた硬アルミ素線により形成することができる。
【0025】
更に、この鋼心アルミ撚線10は、撤去した送電線の鋼心アルミニウム撚線を構成するアルミニウム線を回収し、該アルミニウム線を溶解し、鋳造することにより、Si:0.10質量%以下、Fe:0.25質量%以下、Cu:0.005質量%以下、Mn:0.005質量%以下、TiとVの合計:0.005質量%以下、Zn:0.05質量%以下の成分を含み、残部がアルミニウム及び不可避不純物からなる成分比率の電気用アルミニウムとなるように組成管理して再生させた硬アルミ素線により形成して、送電線に利用することができる。
ここで、Znを0.05質量%以下として0.01質量%以下を包含するのは、絶縁被覆されたアルミ配電線はリサイクルアルミ材料として実用化させているが、絶縁被覆せず裸導体の鋼心アルミニウム撚線などからなる布設後に撤去されたアルミ送電線についてはまだ実用化されていない。よって、この撤去送電線を、JISC3108の特性を満足するアルミ素線用のリサイクルアルミ材料として再利用し、再び架空送電線に適用できるからである。
【0026】
よって、新たにボーキサイトからアルミナを取り出し大量の電気を使ってのアルミ精錬・鋳造という膨大なエネルギーの消費に比べて、はるかに小さなエネルギーで硬アルミ素線が得られることになり、省エネルギーおよび循環リサイクルの観点からも経済的に大きな効果が期待できる。
【0027】
なお、本実施形態では、鋼心アルミ撚線(ACSR)10を例に述べてきたが、硬アルミ素線5a,5bは耐熱アルミ線など各種の合金とすることができる。また鋼心部3において、亜鉛めっき鋼線1a,1bの代わりに、亜鉛めっきインバ線、アルミ被覆鋼線、アルミ被覆インバ線等であっても良い。
【0028】
また、鋼心部3を設けずに、アルミだけの撚線からなる電線とすることもできる。更に、変電所等でアルミ母線として使われるものであってもよい。
【実施例】
【0029】
表1に示すような組成の成分比率(残部はアルミニウム)を有する従来品及び実施例1,2のアルミ材料を用いて、ホイールとベルトを用いた連続鋳造法の一種であるプロペルチ法により連続鋳造圧延し、外径9.5mmの荒引線を得た。この荒引線の特性を表2に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
更に、従来品及び実施例1,2の該荒引線を各サイズ(4.5mm、3.8mm、3.2mm、2.6mm)まで線引した後の特性試験結果を表3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
表2、表3の結果によれば、従来品と比べてZn成分が高い実施例1,2のアルミ材料においても従来品と同等の引張強さ、伸び、導電率を有しており、いずれもJIS C3108の規格値を満足する特性であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態の鋼心アルミ撚線(ACSR)の構成を示す断面図である。
【図2】従来の鋼心アルミ撚線の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1a 亜鉛めっき鋼線
1b 亜鉛めっき鋼線
3 鋼心部
5a 硬アルミ素線
5b 硬アルミ素線
7 アルミ部
10 鋼心アルミ撚線
15a 硬アルミ素線
15b 硬アルミ素線
20 鋼心アルミ撚線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:0.10質量%以下、Fe:0.25質量%以下、Cu:0.005質量%以下、Mn:0.005質量%以下、TiとVの合計:0.005質量%以下、Zn:0.01質量%より大きく0.05質量%以下の成分を含み、残部がアルミニウム及び不可避不純物の成分比率からなることを特徴とする電気用アルミニウム。
【請求項2】
亜鉛の成分比率を0.01質量%以下とするアルミニウム線または0.01質量%より大きいとするアルミニウム線を回収し、該同じ成分比率および/または異なる成分比率のアルミニウム線を溶解し、鋳造することにより、組成が、Si:0.10質量%以下、Fe:0.25質量%以下、Cu:0.005質量%以下、Mn:0.005質量%以下、TiとVの合計:0.005質量%以下、Zn:0.01質量%より大きく0.05質量%以下の成分を含み、残部がアルミニウム及び不可避不純物からなる成分比率の電気用アルミニウムに再生させることを特徴とするアルミニウム線の再利用方法。
【請求項3】
撤去した送電線の鋼心アルミニウム撚線を構成するアルミニウム線を回収し、該アルミニウム線を溶解し、鋳造することにより、Si:0.10質量%以下、Fe:0.25質量%以下、Cu:0.005質量%以下、Mn:0.005質量%以下、TiとVの合計:0.005質量%以下、Zn:0.05質量%以下の成分を含み、残部がアルミニウム及び不可避不純物からなる成分比率の電気用アルミニウムとなるように組成管理して送電線に利用することを特徴とするアルミニウム線の再利用方法。
【請求項4】
請求項1記載の電気用アルミニウムから成る素線を1本で形成、または複数本撚り合わせて形成した導体であることを特徴とする電線。
【請求項5】
請求項2又は3記載のアルミニウム線の再利用方法により得られたアルミニウム線を1本で形成、または複数本撚り合わせて形成した導体であることを特徴とする電線。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−277637(P2007−277637A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−105691(P2006−105691)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(501304803)株式会社ジェイ・パワーシステムズ (89)
【出願人】(591174368)富山住友電工株式会社 (50)
【Fターム(参考)】