説明

電気的滴下監視

【課題】 試料の多様性に関して向上した性能を生み出す、滴下監視の技術的問題に対する代替的アプローチを提供すること。
【解決手段】 a)液体輸送装置を用いて、液体を含む容器から液体を吸引する工程、
b)前記液体輸送装置を、前記容器内の液面より距離d上の位置へ移動させる工程、および
c)測定時間Δtの間、前記液体輸送装置と前記容器内の残存する液体との間の電気的信号を測定する工程
を含み、ここで、工程c)で測定される前記電気的信号が前記測定時間Δtの間に変化する場合に、前記液体輸送装置の漏液が検出される、液体輸送装置の漏液を検出する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、液体輸送装置の漏液を検出する、方法、装置およびコンピュータープログラムを提供する。
【背景技術】
【0002】
(従来技術の背景)
産業および科学のプロセスの自動化および並行化の程度の上昇は、特に試料体積および結果までの時間を最適化するという操作上の要求に基づいた、ロボット工学の精度および信頼性への高い要求を供している。
【0003】
製薬産業および診断上の適用については、該自動化および並行化は、生物試料または試薬等の液体の取り扱いに関する。この点で顕著な例は、例えば386または1536もの個々の反応を有するマイクロタイタープレート形式でのPCR増幅の並行化である。かかる複数のアッセイを妥当な時間枠で取り扱うために、自動化は試薬および試料をマイクロタイタープレートに移すのに必須である。
【0004】
どのPCR増幅も全て、細胞の溶解、消化、分離および精製等の多くの個々の調製工程を含んでいる。誤った総合的な結果を避けるために、個々の調製工程のそれぞれは制御されなければならない。液体の取り扱いに関して、吸引される試料体積の量を制御すること、ならびに輸送装置の漏れおよび分注プロセスの完全性を検出することが重要である。
【0005】
特に、輸送される液体の量が正確でなければならないためだけでなく、漏液によって輸送プロセスの間にクロスコンタミネーションのリスクが生じるため、輸送装置の漏れの制御が重要である。
【0006】
最先端技術では、滴下監視ならびに吸引/分注制御は、殆どが液体輸送装置の圧力のモニタリングによって行われている。WO 96/41200は、ピペッティングシステムに接続されてピペッティングシステム内の内圧の変化を経時的に測定する圧力センサーに基づく漏れの検出を備えた、自動ピペッティング装置を開示している。US 5,503,036は、自動化された液体試料の吸引/分注装置の試料プローブが妨害されるかどうかを該試料プローブ内の圧力を測定することによって決定する、装置および方法を開示している。EP 1066532は、圧力の変化を検出する手段を含む手動または自動の吸引排出装置を用いて生物試料を吸い出す方法および装置を開示しているが、装置の侵入深さおよび該装置の外壁の対応する濡れを最小限にするために、液面検知(LLD)に圧力のモニタリングが用いられている。WO 01/88549は、圧力曲線の記録を含む、吸引プロセスの質を測定する方法を特許請求している。US 2001/14477は、分注される液体の体積の尺度として圧力の変化を検知する工程を含む、正確な量の輸送液体を分注するシステムを特許請求している。WO 02/73215は、液体を分けるプロセスの評価結果を表示するために、液体の吸引および/または分注プロセスの間に変化する状態を記録することを開示している。
【0007】
あるいは、液体の取り扱いは、電気的手段によって管理され得る。US 2001/49148は、キャピラリー内の可溶化液と表面に可逆的に固定された化合物との間の接触の指標となる電気的信号を検知する工程を含む、化合物のサンプリング方法を開示している。JP 2003-172744は、滴下部の先端で生じた小滴のみが基板の表面と接触するのを確実にするために基板と滴下部の先端との間の静電容量が測定される、滴下部の先端から基板の表面に液体を配置する方法を開示している。
【0008】
液体の取り扱いの最先端技術では、電気的手段はまた、吸引プロセスの前の液面検知(LLD)にも用いられ、主に2つの異なるアプローチ、抵抗によるLLD(rLLD)および容量によるLLD(cLLD)がある。rLLDを行うと、液体輸送装置と、例えば液体輸送装置の外側に取り付けられた電極との間の、電気抵抗が簡単に測定され、抵抗は、液面に達する際に有意に低下する(例えば、US 3,754,444)。cLLDを行うと、交流電圧源を用いて、液体輸送装置と液体を含む容器との間の電気容量の変化がモニタリングされる。かかる装置の異なる代替の態様があり、例えば液体輸送装置自体が第一の電極として構築され、吸引される液体を含む容器が第二の電極を形成する。液体輸送装置が該容器内の液面に近づいている場合、容量が変化する(EP 164679、EP 355791、US 4,818,492)。cLLDについての、より洗練されたアプローチはEP 555710に開示されており、そこでは、両方の電極が液体輸送装置の一部となっている。
【0009】
(発明の簡単な説明)
本発明は、電気的手段を用いて液体輸送装置の漏液を検出する、方法、装置およびコンピュータープログラムを開示する。当業者に公知の、圧力のモニタリングに基づいた、液体輸送装置の漏液を検出する方法がある。本発明の目的は、試料の多様性に関して向上した性能を生み出す、滴下監視の技術的問題に対する代替的アプローチを提供することであった。より具体的には、本発明は、液体輸送装置の電気的滴下監視のための、方法、装置およびコンピュータープログラムを開示する。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1] a)液体輸送装置を用いて、液体を含む容器から液体を吸引する工程、
b)前記液体輸送装置を、前記容器内の液面より距離d上の位置へ移動させる工程、および
c)測定時間Δtの間、前記液体輸送装置と前記容器内の残存する液体との間の電気的信号を測定する工程
を含み、ここで、工程c)で測定される前記電気的信号が前記測定時間Δtの間に変化する場合に、前記液体輸送装置の漏液が検出される、液体輸送装置の漏液を検出する方法。
[2] 工程b)における前記液体輸送装置が、まず、前記容器内の前記液面より第二の距離d2上の第二の位置に移動され、次いで、前記液体輸送装置が前記容器内の前記液面から距離d上の前記位置に配置される前に、前記液体に再び近づくように移動される、該[1]記載の方法。
[3] 前記容器内の前記液面からの前記液体輸送装置の前記距離dが、前記液体輸送装置で形成され得る体積Vdの小滴の直径より小さい、該[1]又は[2]記載の方法。
[4] 工程c)で測定される前記電気的信号が、前記液体輸送装置と前記容器内の前記残存する液体との間の電流である、該[1]〜[3]いずれか記載の方法。
[5] 工程c)で測定される前記電気的信号が、液体輸送装置の誘電環境に依存する電気容量である、該[1]〜[4]いずれか記載の方法。
[6] 工程c)で測定される電気的信号が前記測定時間Δtの間に変化しない場合、さらに、
d)ある量の空気VAを吸引する工程、
e)前記液体輸送装置を、離れた位置に移動させる工程、および
f)前記液体を分注する工程
を含む、該[1]〜[5]いずれか記載の方法。
[7] 前記容器内の前記液面からの前記液体輸送装置の前記距離dが液面検知(LLD)に基づいて調節され、好ましくは前記LLDが電気的測定によって行われる、該[1]〜[6]いずれか記載の方法。
[8] a)液体輸送装置を用いて、容器から液体を吸引する吸引装置、
b)液体を含む前記液体輸送装置を、前記容器内の液面より距離d上の位置に配置する移動装置、
c)前記液体輸送装置の漏液を検出する電気的装置、および
d)漏液検出の時間Δtを制御する電子タイムレコーダー
を含み、ここで、液体輸送装置が前記時間Δtの間前記容器内の液面より前記距離d上に配置される間に、刺激を加え、前記液体輸送装置と前記容器内の残存する液体との間の電気的信号を測定することによって前記電気的装置が前記液体輸送装置の漏液を検出することができる、電気的漏液検出を具えた液体輸送装置。
[9] 前記電気的信号が測定時間Δtの間に変化した場合に前記液体輸送装置の前記漏液が検出される、該[8]記載の液体輸送装置。
[10] 前記電気的装置が、前記液体輸送装置と前記容器内の前記残存する液体との間の電流、または液体輸送装置の誘電環境に依存する電気容量を測定することができる、該[8]又は[9]記載の液体輸送装置。
[11] 前記容器内の液面からの液体輸送装置の前記距離dが、前記液体輸送装置で形成され得る小滴の直径より小さく、前記小滴の直径が前記液体輸送装置の結合構造および前記液体の表面張力によって予め定められる、該[8]〜[10]いずれか記載の液体輸送装置。
[12] 前記容器内の前記液面からの前記液体輸送装置の前記距離dを調節する液面検知(LLD)をさらに含み、好ましくは前記LLDが電気的LLDである、該[8]〜[11]いずれか記載の液体輸送装置。
[13] a)液体輸送装置の許容漏液速度VLを、測定時間Δt、および前記液体輸送装置の、容器内の液面より上の距離dに関して規定する工程、
b)液体を含む液体輸送装置を、前記容器内の液面より予め規定された距離d上の位置へ移動させる工程、および
c)前記液体輸送装置と前記容器内の液体との間の電気的信号を、前記規定された測定時間Δtの間測定する工程
を含み、ここで、前記規定された測定時間Δtの間に前記電気的信号が変化した場合に、(4/3・π・(d/2)3/Δt)より大きい漏液速度VLの漏液が検出される、該[8]〜[12]いずれか記載の液体輸送装置で実行可能な、液体輸送装置の漏液を検出するコンピュータープログラム。
[14] 前記電気的信号が、前記液体輸送装置と前記容器内の前記残存する液体との間の電流、または液体輸送装置の誘電環境に依存する電気容量である、該[13]記載のコンピュータープログラム。
[15] 前記容器内の液面からの液体輸送装置の前記距離dが、前記液体輸送装置で形成され得る体積Vdの小滴の直径より小さく、前記小滴の体積Vdが前記液体輸送装置の結合構造および前記液体の表面張力によって予め定められる、該[13]又は[14]記載のコンピュータープログラム。
[16] 前記容器内の前記液面からの前記液体輸送装置の前記距離dが液面検知(LLD)に基づいて調節され、好ましくは前記LLDが電気的測定によって行われる、該[13]〜[15]いずれか記載のコンピュータープログラム。
【0011】
本発明によると、液体輸送装置の漏液を検出する、方法、装置およびコンピュータープログラムが提供され得る。
【0012】
本発明の1つの主題は、
a)液体輸送装置を用いて、液体を含む容器から液体を吸引する工程、
b)該液体輸送装置を、該容器内の液面より距離d上の位置へ移動させる工程、および
c)該液体輸送装置と該容器内の残存する液体との間の電気的信号を、測定時間Δtの間測定する工程
を含む、液体輸送装置の漏液を検出する方法であり、ここで、工程c)で測定される該電気的信号が該測定時間Δtの間に変化する場合に、該液体輸送装置の漏液が検出される。
【0013】
本発明の範囲内で、液体輸送装置は、第一の位置で規定された量の液体を吸引すること、およびしばらく後に該量の液体全体を別の位置に分注するか、または一部分ずついくつかの他の位置に分注することに適した、任意の装置である。しかしながら、該液体輸送装置が、時間が経つにつれて吸引された液体の一部を失った場合、または該液体輸送装置で小滴が形成された場合、これは本願の範囲内において、漏液と呼ばれる。
【0014】
吸引される液体は、本発明を通して、ある種の容器中に提供され、ここで該容器は殆どの場合、単一の吸引プロセスに必要な量より多くの液体を含む。したがって、吸引プロセスの後、いくらかの液体が該容器中に残る。該容器内の該残存する液体と周囲の空気との間の界面は、該容器内の液面と呼ばれる。液体輸送装置の、該液面から上の距離dは、液体−空気界面に関する垂直距離として定義される。したがって、該液面まで一定の距離dを有する全ての位置は、周囲が容器である液体−空気界面より上の仮想平面を表す。
【0015】
本発明を通して、液体輸送装置の漏液は、電気的技術を用いて検出される。ある種の媒体に電気的刺激が加えられた場合、該媒体は電気的信号で応答し、ここで該電気的信号は、媒体の電気的特性の尺度である。結果として、電気的刺激を変化させることなく、時間が経過する間に該電気的信号が変化する場合、これは媒体の電気的特性が変化したことの指標である。
【0016】
本発明の別の側面は、
a)液体輸送装置を用いて容器から液体を吸引する吸引装置、
b)液体を含む該液体輸送装置を、該容器内の液面より距離d上の位置に配置する移動装置、
c)該液体輸送装置の漏液を検出する電気的装置、および
d)漏液検出の時間Δtを制御する電子タイムレコーダー
を含む、電気的な漏液検出を備えた液体輸送装置であり、ここで該電気的装置は、液体輸送装置が該時間Δtの間該容器内の液面より該距離d上に配置される間に、刺激を加え、該液体輸送装置と該容器内の残存する液体との間の電気的信号を測定することによって、該液体輸送装置の漏液を検出することができる。
【0017】
語句「吸引装置」は、制御された量の液体を、該液体を含む容器から液体輸送装置を用いて吸引できるようにする、全ての装置を要約する。一般には、かかる吸引装置は低圧で作動する。
【0018】
本発明を通しての移動装置は、液体輸送装置の、該容器内の液面に垂直ならびに平行な移動を可能にする装置である。
【0019】
本発明を通して、語句「電気的装置」は、電気的刺激を加えることならびに媒体の電気的応答を測定することに適した、各種の電気装置を要約する。両方の特徴を具えた単一の電気的装置、ならびにそれぞれが1つの特徴を具えた2つの分離した電気的装置を用いることが可能である。
【0020】
本発明の液体輸送装置は、漏液検出の時間Δtを制御する電子タイムレコーダーを含む。液体輸送装置が該容器内の液面より距離d上に配置される間に電気的信号を測定するプロセスは、本発明を通して、漏液検出と呼ばれる。漏液検出の時間Δtは電子タイムレコーダーによって制御されるが、十分な精度を有している限り、各種の電子タイムレコーダーが、本発明を通して適している。
【0021】
本発明のさらに別の側面は、
a)液体輸送装置の許容漏液速度VLを、測定時間Δtおよび容器内の液面から上の該液体輸送装置の距離dに関して規定する工程、
b)液体を含む液体輸送装置を、該容器内の液面より上に該予め定められた距離dを有する位置に移動させる工程、および
c)該規定された測定時間Δtの間、該液体輸送装置と該容器内の液体との間の電気的信号を測定する工程
を含む、本発明の液体輸送装置によって実行可能な、液体輸送装置の漏液を検出するコンピュータープログラムであり、ここで、該電気的信号が該規定された測定時間Δtの間に変化する場合、(4/3・π・(d/2)3/Δt)より大きい漏液速度VLの漏液が検出される。
【0022】
本発明の液体輸送を行うのに必要な時間枠ならびにクロスコンタミネーションのリスクに依存して、漏れに対する堅固さに関する液体輸送装置の要件は異なる。したがって、液体輸送装置の適用に依存して、異なる許容漏液速度VLを規定することが可能である。
【0023】
(発明の詳細な説明)
本発明の1つの主題は、
a)液体輸送装置を用いて、液体を含む容器から液体を吸引する工程、
b)該容器内の液面から距離d上の位置へ該液体輸送装置を移動させる工程、および
c)該液体輸送装置と該容器内の残存する液体との間の電気的信号を測定時間Δtの間測定する工程
を含む、液体輸送装置の漏液を検出する方法であり、ここで、工程c)で測定される該電気的信号が該測定時間Δtの間に変化する場合に、該液体輸送装置の漏液が検出される。
【0024】
本発明の範囲内で、液体輸送装置は、第一の位置で規定された量の液体を吸引すること、およびしばらく後に該量の液体全体を別の位置で分注するか、または一部分ずついくつかの他の位置に分注することに適した、任意の装置である。液体輸送プロセスは、誤った結果を避けるために、特に輸送装置の任意の潜在的な漏れの検出に関して、制御されなければならない。のみならず、試料体積の吸引および分注プロセスの完全性は、液体輸送プロセスのミスのもとである。
【0025】
輸送される液体の量が正確でなければならないためだけでなく、漏液によって輸送プロセスの間にクロスコンタミネーションのリスクが生じるため、液体輸送装置の漏れの制御は重要である。実験装置の設計に依存して、液体輸送装置は、分注位置への途中で該装置の特定の部分を横切り、小滴の喪失は、装置のコンタミネーションにつながる。例えばマイクロタイタープレートを有する装置を用いると、液体輸送装置は、輸送プロセスの間に一定量のウェルを横切り、小滴の喪失は、試料のクロスコンタミネーションにつながり得る。
【0026】
明らかに、漏液によるコンタミネーションに関する液体輸送装置の要件は、実験装置の設計に依存する。時間がかかり、液体輸送装置が大量の他の容器を横切る液体輸送プロセスでは、許容され得る漏液はより小さくなる。
【0027】
本発明を通して、液体輸送装置の漏液は、電気的技術を用いて検出される。ある種の媒体に電気的刺激が加えられた場合、該媒体は電気的信号で応答し、ここで該電気的信号は、媒体の特性の尺度である。したがって、電気的刺激を変化させることなく、該電気的信号が時間が経過する間に変化する場合、これは、媒体の電気的特性が変化したことの指標である。例えば、2つの電極の間の空間が空気で充填された場合、空気の非常に高い電気抵抗のために、かけられた電位に応じた電流は無視してよい。しかしながら、小滴の形成によって、間の空間が電解質によって充填されるようになった場合、かけられた同じ電位に応じた電流は、電解質の電気抵抗がより低いために、有意に上昇する。
【0028】
当業者に公知の圧力監視技術と比較して、本発明の電気的技術は、少なくとも、試料密度から独立しているという利点を有する。漏れの検出に圧力測定が用いられた場合、圧力曲線が試料液体の密度に依存していることを考慮しなければならない。言い換えれば、2つの試料の圧力曲線は密度の変化のために異なり得、したがって、漏れの検出が妨げられ得る。
【0029】
例えば血液試料の場合には10%にもなる試料密度の分布は、電気的滴下監視技術の性能に影響しない。本発明は、電気的滴下監視技術を行うことによって漏れの検出に対する試料密度の影響が除かれ得るという知見に一部基づいている。
【0030】
液体輸送装置と液面との間の距離dより小さい直径の落下する小滴は、現在の装置では検出され得ないことに留意されたい。液体輸送装置の先端で形成される小滴が、液体輸送装置と液面との間の液体架橋を引き起こすことが必要であり、ここで該液体架橋は、周期的(小滴の周期的な形成)または継続的(永続的な流出)であり得る。
【0031】
ここではピペットの配置が任意であるので、これは圧力監視技術と比較した、別の相違点である。言い換えれば、本発明の電気的滴下監視技術を実施するためには、滴の形成およびピペット配置の詳細な理解が先行条件である。
【0032】
理論的には、液体輸送装置の誘電環境のかかる小さい変化を検出するのに十分感度が高い容量測定が行われる場合、液体輸送装置と液面との間の液体架橋なしに小滴形成を検出することも、勿論可能である。したがって、本発明の範囲内でかかる感度の高い測定が行われる場合、液体輸送装置を該容器内の液面から一定距離d上に配置する必要条件が、もはや必要でなくなる。
【0033】
本発明の好ましい方法において、該吸引工程a)は、低圧を生じる手段、好ましくはエアポンプまたは水を充填したホースシステムを用いて行われる。
【0034】
液体の吸引のために、液体輸送装置は、該容器内の液体に部分的に浸漬させなければならない。液体輸送装置と試料中の液体との接触によってコンタミネーションのリスクが生じるため、および液体輸送装置の表面が液体によって濡れるために、液体輸送装置の浸漬深度は最小限にされるのが好ましい。液体輸送装置の外部の液体が結合し得、しばらく後にしたたり落ちることも可能であることに留意されたい。
【0035】
容器内の液面は吸引の間に変化するので、液体輸送装置の位置を継続的に調節する必要がある。吸引プロセス全体の間に液体輸送装置の十分な浸漬深度を確保するために、液体輸送装置の浸漬深度を、必要最小限の値より上に、大きくする必要があり得る。
【0036】
好ましくはエアポンプ、例えば標準的なシリンジを用いて、低圧をかけることによって、該容器内の液体に浸漬された液体輸送装置を用いて吸引を行い得る。システム液を充填したホースシステム、例えば水吸引ポンプもまた、好ましい。
【0037】
本発明の別の好ましい方法において、該液体輸送装置は、ピペットチップである。
【0038】
本発明を通して、語句「ピペットチップ」は、一方は該手段に取り付けられて低圧を生じるためのものでもう一方は液体の吸引のためのものである、2つの開口部を有する各種の中空体を要約する。試料のコンタミネーションを避けるために、使い捨てのピペットチップを使用することが好ましく、したがって、該低圧を生じる手段と該ピペットチップとの間の取り付けは、可逆的でなければならない。該ピペットチップは、好ましくは使い捨て部材なので、プラスチック製のチップを使用するのが有意義である。一方、ある態様については、該ピペットチップを電気的装置の電極として使用するために、伝導性のピペットチップを使用することが好ましい。該低圧を生じる手段のコンタミネーションを防ぐために、該ピペットチップにフィルターを備え付けることもまた、好ましい。
【0039】
本発明のより好ましい方法において、該ピペットチップは0.1 ml〜100 ml、最も好ましくは1 ml〜10 mlの容積を有する。該ピペットチップは、好ましくは、直径が0.1 mm〜10 mmの間の開口部を有する。
【0040】
本発明のさらに別の好ましい方法において、工程b)の該液体輸送装置は、まず該容器内の該液面より第二の距離d2上の第二の位置に移動され、次いで、該液体輸送装置が該容器内の該液面より距離d上の該位置に配置される前に、該液体に再び近づくように移動される。
【0041】
液体輸送装置の抜き取りの間に、液面検知が検知できないか、または不正確にしか検知できない場合、本発明のこの態様を用い得る。言い換えれば、液体輸送装置は、まず該液面より距離d2上に移動され、次いで、液面を検知するために、液体輸送装置は再び液体に近づくか、または接触する。該液面検知の後、液体輸送装置を、その最終的な距離dに配置する(図1b参照)。
【0042】
さらに、液体の粘性のために、液体輸送装置と容器内の液体との間で接触している液体は、液面から一定距離d'上に液体輸送装置が達するまでは切断されない。したがって、いくつかの態様において、液体輸送装置は、該距離dが距離d'より小さい場合に、まず、液体輸送装置がその最終的な距離dに配置され得る前に、該距離d'より大きい第二の距離d2の第二の位置へ移動されなければならない(図1b参照)。
【0043】
図1aおよび図1bに示される手順に従って液体輸送装置を距離dに正確に配置することは、漏液速度が高過ぎる場合には阻害されることに留意されたい。液体輸送装置を配置している間にすでに小滴の形成を伴う漏液の場合、配置は不正確になるか、不可能にさえなる。
【0044】
本発明の方法の別の好ましい態様において、該容器内の該液面からの該液体輸送装置の該距離dは、該液体輸送装置で形成され得る、体積Vdの小滴の直径より小さい。
【0045】
上述のように、電気的な漏液検出には、殆どの場合、液体輸送装置と容器内の液体との間の液体架橋が必要である(図2参照)。該容器内の該液体からの該液体輸送装置の距離dが大き過ぎる場合、液体輸送装置の先端で形成される小滴は、重力のために、液体架橋の形成前に落下する。したがって、液体小滴の脱離の前に液体架橋を生じさせるために、液体の粘性および液体輸送装置の結合構造に関して距離dを調節することが重要である。理論的には、液体輸送装置の誘電環境のかかる小さい変化を検出するのに十分感度が高い容量測定が行われる場合、液体輸送装置と液面との間の液体架橋なしでも、小滴の形成を検出することも可能である。
【0046】
本発明の方法のさらに別の好ましい態様において、該液体輸送装置の結合構造および該液体の表面張力によって、小滴の体積Vdは予め定められる。
【0047】
液体−空気界面の表面張力は、重力によって小滴の脱離が引き起こされる前の、所定の先端結合構造で形成され得る最大小滴サイズを定義する。理論に拘束されることなく、小滴の体積Vdは、Vd=(2・π・a・σ)/(g・ρ)(式中、aは液体輸送装置の開口部直径、σは表面張力、ρは液体の密度である)によると、高い表面張力および低い密度を有する液体については大きくなる。
【0048】
本発明の方法のより好ましい態様において、該小滴は、1μl〜1 mlの間、好ましくは3μl〜300μlの間の体積Vdを有する。
【0049】
約0.7 mmの開口部直径を有するピペットチップを用いて、例えば血漿を取り扱うと、4〜30μlの間の体積の小滴が形成される。水溶性試薬またはより大きい開口部直径を用いると、小滴の体積は、上述の式に従って増大する。
【0050】
本発明の方法の、同様に好ましい態様において、該容器内の該液面からの該液体輸送装置の該距離dは、1 mm〜15 mmの間、好ましくは2 mm〜4 mmの間である。
【0051】
該液体小滴の脱離の前に液体架橋を形成するために、該容器内の該液面からの該液体輸送装置の距離dは、殆どの態様について、小滴の直径よりもやや小さくなければならないことに留意されたい。小滴形成さえも検出するのに十分感度の高い容量測定が行われる場合、該容器内の該液面からの該液体輸送装置の該距離dは、小滴の直径より大きくもあり得る。
【0052】
本発明の好ましい方法は、工程c)で測定される該電気的信号が該液体輸送装置と該容器内の該残存する液体との間の電流である、方法である。
【0053】
該液体輸送装置と該容器内の該液体との間の電流を測定するために、2つの電極の間に電位がかけられなければならない。液体輸送装置自体が、2つの所望の電極の一方であることが好ましい(図3bおよび3c)。この目的のために、伝導性の液体輸送装置を用いることが、勿論必要である。しかしながら、孤立した液体輸送装置、および液体輸送装置内部の個々の電極を用いることが可能である(図3aおよび3d)。
【0054】
第二の所望の電極に関して、主に2つの可能な態様がある。1つの態様において、個々の電極は、輸送される液体を含む容器に浸漬される(図3aおよび3b参照)。別の好ましい態様において、輸送される液体を含む容器は、該第二の電極自体を表し、したがって、伝導性である必要がある(図3c)。
【0055】
本発明の別の好ましい方法は、工程c)で測定される該電気的信号が、液体輸送装置の誘電環境に依存する電気容量である、方法である。
【0056】
液体輸送装置と液体を含む容器との間の電気容量を測定するために、交流電圧がかけられる。2つの電極の間の電気容量Cは、「C〜ε/d」(電気容量Cは、距離dで割った誘電率εに比例する)に従って、接続材料の誘電率εとそれらの距離dに依存する。したがって、液体輸送装置と該容器との間の空間が少しずつ液体で充填された場合、液体の誘電率がより高いために(空気:ε=1、水:ε=80)、電気容量は上昇する。
【0057】
電流の測定に関して上述したように、容量測定にも異なる可能な電極装置がある。液体輸送装置自体が第一の電極として構築され得、吸引される液体を含む容器が第二の電極を形成し得る。cLLDの、より洗練されたアプローチは、EP 555710に開示されており、ここでは両方の電極が液体輸送装置の一部である。
【0058】
本発明のさらに別の好ましい方法は、該電気容量が、該液体輸送装置によって発生する電磁場を介して測定される、方法である。
【0059】
理論に拘束されることなく、液体輸送装置から出る電磁場は、誘電環境に依存する。したがって、液体輸送装置と離れた電極との間の誘電特性が経時的に変化する場合、別の離れた電極で測定される電磁信号は変化する。
【0060】
電圧差は、交流周波数に反比例する容量の交流抵抗に依存するので、誘電環境が変化する際に測定される電圧差を増大させるために、電磁場の周波数はやや高くあるべきである。一方、高周波数では、放射物による問題が生じ、高価な装置が必要になる。したがって、周波数は最適化される必要がある。本発明の好ましい方法において、50 kHzの周波数が適用される。
【0061】
本発明のより好ましい方法において、該液体輸送装置は電磁場を発生し、電磁信号を測定する。
【0062】
この好ましい態様において、液体輸送装置は、電磁場を発生するだけでなく、液体輸送装置の誘電環境に依存する電磁信号を測定する第二の電極としても作用する。この電極装置は、図3e)に示され、ここで容器は接地される。上で説明した装置を実現するために液体輸送装置が伝導性でなければならないことは明らかである。
【0063】
図3e)に示したような電極装置に適した、かかる好ましい液体輸送装置は、例えば、US 5,304,347に記載されている。ここで、液体輸送ニードルは、ニードルから、および互いに電気的に全て絶縁されている、周囲の同軸を有する2つの電極とともに、同軸の電極配置を形成する。この出願はまた、約50 kHzの比較的高周波数の交流電源を使用した、かかる同軸の電極配置に適した検出回路も開示している。
【0064】
本発明の方法の好ましい態様において、該電気的信号は、少なくとも1秒、好ましくは1〜4秒の間の、測定時間Δtの間測定される。
【0065】
電気的信号の測定時間は、許容漏液速度VLに依存する。測定時間Δtの間に電気的信号が検出されなかった場合、漏液速度VLは(4/3・π・(d/2)3/Δt)より低い。言い換えれば、液体輸送装置を通過する要件としてのいかなる電気的信号もなしに時間を増加させることは、装置の許容漏液速度を低下させる。さらに、装置の許容漏液速度は、液体輸送装置を吸引の場所から分注のための別の位置へと移動させるのに必要な輸送時間tに依存する。なぜならば、この時間の間に小滴の形成は起こり得ないからである。
【0066】
本発明の方法の別の好ましい態様は、工程c)で測定される電気的信号が該測定時間Δtの間に変化しない場合、さらに、
d)ある量の空気VAを吸引する工程、
e)該液体輸送装置を、離れた位置に移動させる工程、および
f)該液体を分注する工程
を含む。
【0067】
本発明の方法のこの態様において、液体輸送装置が工程c)の漏液試験を通過した後に一定量の空気VAを吸引することによって、さらに大きな安全性が得られる。この吸引される空気の量は、小滴の形成が可能になるまでの時間を増大させ、そのため、吸引された液体の全てまたは一部が分注される離れた位置への該液体輸送装置の移動の間の漏液のリスクを低下させる。
【0068】
本発明の方法の別の好ましい態様において、該空気の吸引は、低圧を生じる手段を用いて行われる。
【0069】
上述のように、好ましくはエアポンプ、例えば標準的なシリンジ、またはシステム液を充填したホースシステム、例えば水吸引ポンプを用いて、低圧を生じる。
【0070】
本発明の方法のさらに別の好ましい態様において、該空気の量VAは、(Vd/Δt)・tより大きいが、該離れた位置への液体輸送装置の移動には、時間tがかかる。
【0071】
吸引される空気の量は、液体輸送装置の漏液速度VL=(Vd/Δt)、および液体輸送装置を分注のための該離れた位置まで移動させるのに必要な時間tに依存する。工程c)で電気的信号が検出されなかった場合、漏液速度はVLより小さいことが知られている。したがって、(Vd/Δt)・tより大きい、ある量の空気VAが吸引される場合、時間tの間に小滴の形成は起こらない。
【0072】
本発明の方法のより好ましい態様において、該空気の量VAは、少なくとも3μl、好ましくは5〜500μlの間である。
【0073】
吸引され得る空気の最大量は、液体輸送装置の結合構造に依存することに留意されたい。吸引される空気の量が大き過ぎる場合、空気は液体輸送装置の内部で、泡の形で上昇する。
【0074】
分注工程f)に関して、該液体は、吸引のためにかけられた低圧を止めることによって分注される。あるいは、分注プロセスは、高圧をかけることによって、支持され得る。
【0075】
本発明の方法のさらに好ましい態様において、該容器内の該液面からの該液体輸送装置の該距離dは、液面検知(LLD)に基づいて調節され、好ましくは該LLDは電気的測定によって行われる。
【0076】
該距離を正確に知ることによってのみ液体輸送装置の漏液速度の測定が可能になるので、本発明の方法を行うために、該容器内の該液面から既知の距離dの位置に液体輸送装置を配置することが重要である。したがって、液体輸送装置の配置の前に、該容器内の液面を検知することが必要である。該容器内の液面の検知は、本発明を通して液面検知(LLD)と呼ばれる。
【0077】
該容器内の液面を、抜き取りの間に(図1a)、またはそれに続く液体輸送装置の接近によって(図1b)、吸引の後に検知することが可能である。上述のように、液体輸送装置の抜き取りの間に、液面検知が検知できないか、または不正確にしか検知できない場合、例えば液体架橋の分離の前に液体がメニスカスを形成する傾向がある場合、図1bの手順が用いられ得る。
【0078】
本発明の方法に関して、該電気的LLDが、該液体輸送装置と該容器内の該液体との間の電流の測定または液体輸送装置の誘電環境に依存する電気容量の測定を含むことが好ましい。
【0079】
上述したように、図1aおよび図1bに示される手順にしたがった、距離dへの液体輸送装置の正確な配置は、漏液速度が高過ぎる場合に、阻害される。液体輸送装置の配置の間にすでに小滴の形成を伴う漏液の場合、配置は不正確であるか、または不可能でさえある。
【0080】
本発明の方法の好ましい態様において、該液体は、生物試料、ヌクレオチド、酵素および/またはバッファー溶液を含む。
【0081】
本発明の方法は、液体の取り扱いを必要とする各種の適用に適している。本発明の範囲を制限しないが、妥当な適用は、生物試料のハイスループット解析、例えば血液スクリーニングへの適用である。別の例は、ヌクレオチド、酵素およびバッファー溶液等の複数の試薬が調製されなければならない、マイクロウェル形式での多重PCR増幅の作成である。
【0082】
本発明の別の側面は、
a)液体輸送装置を用いて容器から液体を吸引する吸引装置、
b)液体を含む該液体輸送装置を、該容器内の液面から距離d上の位置に配置する移動装置、
c)該液体輸送装置の漏液を検出する電極装置、および
d)漏液検出の時間Δtを制御する電子タイムレコーダー
を含む、電気的漏液検出を備えた液体輸送装置であり、ここで該電極装置は、該時間Δtの間液体輸送装置を該容器内の液面から該距離d上に配置する間に、刺激を加え、該液体輸送装置と該容器中の残存する液体との間の電気的信号を測定することによって、該液体輸送装置の漏液を検出することができる。
【0083】
本発明の液体輸送装置は、電気的手段によって液体輸送装置の漏液を検出することができる。該距離を正確に知ることによってのみ液体輸送装置の漏液速度の測定が可能になるので、その使用目的の性能のために、液体輸送装置は、該電極装置の電気的測定の前に、該容器内の液面から一定距離d上に配置されなければならない。
【0084】
さらに、液体輸送装置の漏液速度の正確な測定のために、該電極装置によって漏液検出の時間Δtを正確にモニタリングすることも必要である。したがって、本発明の液体輸送装置は、本質的に、該漏液検出の時間Δtを制御する電子タイムレコーダーを含む。
【0085】
本発明の液体輸送装置の好ましい態様において、該液体輸送装置はピペットチップである。
【0086】
語句「ピペットチップ」の意味はすでに概略を述べており、液体輸送装置の電気的装置を単純化するために、該ピペットチップは伝導性であることが好ましい。
【0087】
本発明の液体輸送装置の別の好ましい態様において、該吸引装置は、低圧を生じる装置である。
【0088】
本発明を通して、液体輸送装置を用いて容器から液体を吸引する該吸引装置は、低圧をかける装置、好ましくはエアポンプ、例えば標準的なシリンジ、またはシステム液を充填したホースシステム、例えば水吸引ポンプである。
【0089】
本発明の液体輸送装置の、より好ましい態様において、該吸引装置は、空気の吸引もする装置である。
【0090】
液体の吸引の後に一定量の空気を吸引することによって、液体輸送装置の漏液速度は低下し、液体輸送装置をその分注位置に移動させるのに必要な時間、小滴の形成を避け得る。すでに説明したように、泡の形成によって空気の吸引が制限されることに留意されたい。
【0091】
語句「電気的手段」は、DC(直流)またはAC(交流)の刺激を発生することができ、刺激されたシステムの電気的応答を測定することができる、各種の装置を要約する。
【0092】
本発明の液体輸送装置の、さらに別の好ましい態様において、該電極装置は、刺激を加え、該液体輸送装置と該容器内の残存する液体との間の電気的信号を測定することによって、該液体輸送装置の漏液を検出することができるが、該液体輸送装置の該漏液は、測定時間Δtの間に該電気的信号が変化する場合に、検出される。
【0093】
本発明の液体輸送装置の、さらに別の好ましい態様において、該液体輸送装置の該漏液は、測定時間Δtの間に該電気的信号が変化する場合に、検出される。
【0094】
言い換えれば、本発明の液体輸送装置の漏液検出は、測定時間Δtの間の、該液体輸送装置と該容器内の残存する液体との間の電気的信号の変化に基づく。
【0095】
すでに述べたように、液体輸送装置の漏液は、該液体輸送装置の誘電環境を変化させ、該容器内の残存する液体への伝導性の液体架橋を形成し得る。一定時間Δtの間液体輸送装置と該容器内の残存する液体との間の空間の電気的特性をモニタリングすると、漏液の存在の検出ならびに漏液速度の推定の計算の機会ができる。
【0096】
本発明の液体輸送装置の、同様に好ましい態様において、該電極装置は、該液体輸送装置と該容器内の残存する液体との間の電流、または液体輸送装置の誘電環境に依存する電気容量を測定することができる。
【0097】
DC測定を行うと、液体輸送装置と該容器内の残存する液体との間の周期的または継続的な液体架橋を、電流の急な上昇の点から検出することができる。AC測定を行うと、液体輸送装置と該容器内の残存する液体との間の電気容量を測定することができる。
【0098】
本発明の範囲内で可能な2種類の測定を行う、いくつかの異なる電極装置がある。液体輸送装置自体が、2つの所望の電極の一方であることが好ましい(図3bおよび3c)。この目的のために、伝導性の液体輸送装置を使用することが、勿論必要である。しかし、孤立した液体輸送装置、および液体輸送装置内部の個々の電極を使用することも可能である(図3aおよび3d)。
【0099】
本発明の液体輸送装置の別の好ましい態様において、該電極装置は、該液体輸送装置と該第二の電極との間の電気的信号を測定する、第二の電極を含む。
【0100】
本発明の液体輸送装置の、より好ましい態様において、該第二の電極は容器である。
【0101】
第二の所望の電極に関して、主に2つの可能な態様がある。1つの態様において、個々の電極は、輸送される液体を含む容器に浸漬される(図3b参照)。別の好ましい態様において、輸送される液体を含む容器は該第二の電極自体を表し、したがって、伝導性である必要がある(図3c)。
【0102】
本発明の液体輸送装置の、さらに好ましい態様において、該液体輸送装置は電磁場を発生することおよび液体輸送装置の誘電環境に依存する電磁信号を測定することができ、該容器は接地される。
【0103】
電気容量が測定される場合、液体輸送装置は、液体輸送装置の誘電環境へ伝播する電磁場が発生するように配置され得る。また、液体輸送装置は、誘電環境からの電磁信号を測定し得るように構築されることもできる。この場合、容器が接地されて液体輸送装置と該接地との間に電位がかけられることが好ましい(図3e)。
【0104】
本発明の液体輸送装置の、さらに好ましい態様において、該容器内の液面からの液体輸送装置の該距離dは、該液体輸送装置で形成され得る小滴の直径より小さく、該小滴の直径は、該液体輸送装置の結合構造および該液体の粘性によって予め定められる。
【0105】
該容器内の液面からの液体輸送装置の該距離dは、該液体輸送装置で形成され得る小滴の直径に依存する。該直径自体は、使用される液体の表面張力および液体輸送装置の開口部の結合構造に依存する。これらの依存関係については、すでにより詳細に説明した。
【0106】
本発明の液体輸送装置の、別の好ましい態様は、該容器内の該液面からの該液体輸送装置の該距離dを調節する液面検知(LLD)をさらに含み、好ましくは、該LLDは電気的LLDである。
【0107】
本発明の液体輸送装置の、より好ましい態様において、該電気的LLDは、該液体輸送装置と該容器内の該液体からの電流、または液体輸送装置の誘電環境に依存する電気容量を測定する手段を含む。
【0108】
液体輸送装置は、該容器内の該液面からの該液体輸送装置の距離dが正確に調節される場合にのみ、液体輸送装置の漏液速度を正確に測定し得る。したがって、液体輸送装置の配置の前に該容器内の液面を検知することが必要であり、これは、好ましくは電気的測定を用いて行われる。
【0109】
本発明のさらに別の側面は、
a)液体輸送装置の許容漏液速度VLを、測定時間Δt、および該液体輸送装置の、容器内の液面から上の距離dに関して規定する工程、
b)液体を含む液体輸送装置を、該容器内の液面より上に該予め定められた距離dを有する位置へ移動させる工程、ならびに
c)該規定された測定時間Δtの間、該液体輸送装置と該容器内の液体との間の電気的信号を測定する工程
を含む、本発明の液体輸送装置によって実行可能な、液体輸送装置の漏液を検出するコンピュータープログラムであり、ここで、該規定された測定時間Δtの間に該電気的信号が変化する場合、(4/3・π・(d/2)3/Δt)より大きい漏液速度VLの漏液が検出される。
【0110】
本発明のコンピュータープログラムが実行され得る前に、測定時間Δtおよび該容器内の液面より上の該液体輸送装置の距離dに関して、該液体輸送装置の許容漏液速度VLを規定する必要がある。許容漏液速度VLは、液体輸送装置が分注位置に移動するのに必要な時間、必要な分注の精度および試料のコンタミネーションのリスクに依存する。
【0111】
工程c)で測定される電気的信号の変化が測定時間Δtの間に検出されない場合、漏液速度VLは(4/3・π・(d/2)3/Δt)より小さい。液体輸送装置で形成され得る小滴のサイズが液体輸送装置の結合構造および液体の表面張力に関する情報を用いて識別される場合、容器内の液面より上の該液体輸送装置の距離dが規定され得る。
【0112】
本発明のコンピュータープログラムの好ましい態様において、該電気的信号は、該液体輸送装置と該容器内の残存する液体との間の電流、または液体輸送装置の誘電環境に依存する電気容量である。
【0113】
本発明のコンピュータープログラムの、別の好ましい態様において、該容器内の液面からの液体輸送装置の該距離dは、該液体輸送装置で形成され得る、体積Vdの小滴の直径より小さく、該小滴の体積Vdは、該液体輸送装置の結合構造および該液体の表面張力によって予め定められる。
【0114】
本発明のコンピュータープログラムの、さらに別の好ましい態様において、該容器内の該液面からの該液体輸送装置の該距離dは、液面検知(LLD)に基づいて調節され、好ましくは該LLDは電気的測定によって行われる。
【0115】
本発明のコンピュータープログラムの、さらに別の好ましい態様において、該LLDは、該液体輸送装置と該容器内の該液体との間の電流の測定または液体輸送装置の誘電環境に依存する電気容量の測定によって行われる。
【0116】
以下の実施例および図面は本発明の理解を助けるために提供され、その真の範囲は添付の特許請求の範囲に示されている。本発明の精神から逸脱することなく、示される手順に変更がなされ得ることが理解されよう。
【0117】
実施例
図5〜8の電位対時間のプロットは、本発明の液体輸送装置の小滴チェック測定の間に記録した。
【0118】
使用した液体輸送装置は、使い捨てのプラスチックチップ4を回収することができるグリッパーユニット3(図4a参照)にプラスチック製管2(図4a参照、内径1.6 mm)を介して連結されたプランジャー稼動エアポンプ1(図4a参照、置換体積 約5 ml)を備え付けた、手製の試作品である。一定量の試料体積を吸引し、本発明の小滴の喪失に関してチェックして、その後でピペッターが届き得る任意の所望の位置に配置された別の容器に移されるために、使い捨てチップが容器に移動され得るように、完全なピペッティングシステム(エアポンプ、連結管およびグリッパーを含むピペッターとも呼ばれる)をx、y、z軸可動ステージ上に据え付けた。
【0119】
本発明を通して、以下の特徴を有する使い捨てチップが用いられた:最大吸引体積が3.5 mlで、グリッパーのコンタミネーションを避けるためのフィルター5(図4a参照)(30〜80μmの範囲の孔サイズ)が備え付けられ、伝導性プラスチック(主に寄与するものはポリプロピレン)で作られ、チップ開口部の直径は0.8 mmで全長が104 mm。
【0120】
この実施例に用いられる、吸引される試料を含む容器は、以下の特徴を有していた:血液のスクリーニングへの適用に典型的に用いられる、伝導性ポリプロピレンで作られた、直径13.3 mmの円筒形の標準的な10 ml試料チューブ(Becton Dickinson)。
【0121】
EDTA中の陰性ヒト血漿(内部の供給源由来)を用いて、以下の機械的機能を有する手製の装置で実験を行った:使い捨てチップのx、y、z軸の移動を可能にするピペッティングロボット工学、制御可能なピペッティング速度での試料体積の吸引/分注のための手段、および吸引前に使い捨て部材を回収し、吸引後に使い捨て部材を廃棄する能力を含むグリッパー。さらに、本発明の電気的滴下監視を行うために、使用される装置は、容量および抵抗を測定する手段を備え付けられていた。
【0122】
伝導性の使い捨て部材を用いると、液体輸送装置は、ピペットチップで電磁場を発生し、誘電環境に依存する電気的信号を測定することができたので、さらなる第二の電極を必要とすることなく、容量による液面検知(cLLD)を実現した。それでもやはり、第二の電極とピペットチップとの間の電流を測定するさらなる抵抗による液面検知(rLLD)を可能にするために、装置には、容器内の試料に浸漬された第二の電極(図4b参照、銅製)を備え付けられた。
【0123】
cLLDおよび抵抗による小滴検出を含む本発明の装置を用いる滴下チェック測定を含む例示的な吸引プロセスは、以下の工程:
1. 使い捨てのラックにグリッパーユニットを移動させる
2. グリッパーユニットを用いて使い捨て部材を回収する
3. 使い捨て部材(=ピペッター)を用いてグリッパーを試料ラックに移動させる
4. cLLDを作動して試料に近づく
5. 液面の検知の後に、試料に1.5 mm侵入させる
6. 試料を850μl吸引する
7. 試料からピペッターを抜き取る(試料より上にピペッターを持ち上げる、液体との接触なし→cLLD低)
8. rLLDを作動させ、rLLD信号電流をモニタリングする
9. cLLDを作動状態にして試料液体に近づく
10. 液面に達すると(cLLD高)、ピペッターをcLLD位置から正確に2 mm抜き取る
11. 少なくとも3秒の間rLLD信号を獲得して、使い捨てチップの堅固さをチェックする
を含む。
【0124】
本発明の装置は、基本的に液面検知に2つの異なる方法を必要としないこと、および容量または抵抗のいずれかによる検知を行えば十分であることに留意されたい。それでもやはり、両方の技術の実施によって、適切な測定手順の設計における柔軟性が上昇することになる。
【0125】
図5の実験データは、典型的な小滴チェック測定の間に得られたrLLDデータを示す。rLLDモニタリングは、上述のプロセスの工程8で名目上の体積の吸引の直後にピペッターが2回目に液体の表面に近づいたときに開始する。表面に接触することで、rLLD信号の信号電圧が突然低下する(図5中の「1」で示す)。このrLLD検知の後、ピペッターは自動的に表面から抜き取られ、液面の2 mm上に配置される。この移動の間に、陰性のrLLD信号が指数関数的に低下し、このとき、使い捨て部材と試料との間の物理的接触が分裂し、rLLD信号が、その「非接触レベル」に飛躍して戻る(図5の時間t=500 m秒での「2」で示す)。それに続く5.5秒の保持期の間、液面と使い捨てチップとの間の間隙が維持されていることを確認するrLLD信号は変化せず、これは小滴チェックの陽性の結果と同じ意味を表す。時間「3」で、ピペッターは分注のために目的の容器に移動される。
【0126】
図6〜8は、使い捨て部材が本発明の方法で検出されるのに十分大きい漏液速度を有する、小滴チェックの失敗の場合を示す。
【0127】
図6において、小滴チェックルーチンの間に、図5に関してすでに説明した「1」、「2」および「3」で示される傾斜に加えて、rLLD信号(「4」で示される)に2つの信号スパイクが起こる。これらの2つのスパイクのそれぞれは、保持期の間に形成された小滴の指標であり、使い捨て部材と試料液体との間の一次的な接触を生じる。小滴が脱離するとすぐに、2つの小滴の間で、シグナルは非接触レベルに戻り、使い捨て部材と試料液体との間の接触はもはやなくなる。
【0128】
図7は、小滴チェックルーチンの間に記録された別のrLLD信号を示し、図6と同じ保持時間の間に9つの小滴の形成を伴う、強く滴が落ちている使い捨て部材を示す。
【0129】
図8は、rLLD信号の記録によって検出された、別の種類の小滴チェックの失敗を示す。ここで、使い捨て部材は、2つの小滴の形成(図6および7に関して説明したスパイクによって示される)の後に継続的な流出の形の漏液がある(3000 m秒あたりで開始)。
【0130】
この実施例の、全ての堅固でないかまたは滴が落ちる使い捨て部材は、使い捨て部材と使い捨て部材ハンドラーとの間の接触表面を引っかくことによって調製した。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】2段階(a)または3段階(b)での、液面より上への、液体輸送装置の配置。
【図2】液体輸送装置の先端での小滴形成。
【図3】電流または電気容量を測定するための電極装置。
【図4】使い捨て部材およびグリッパーの管系(a)、ならびに抵抗による小滴チェックを実現する例示的な電極装置(b)の概略図。
【図5】陽性の小滴チェックの電気的信号。
【図6】小滴チェックの失敗(droplet check failure)の、電気的信号の例。
【図7】小滴チェックの失敗の、電気的信号の例。
【図8】小滴チェックの失敗の、電気的信号の例。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)液体輸送装置を用いて、液体を含む容器から液体を吸引する工程、
b)前記液体輸送装置を、前記容器内の液面より距離d上の位置へ移動させる工程、および
c)測定時間Δtの間、前記液体輸送装置と前記容器内の残存する液体との間の電気的信号を測定する工程
を含み、ここで、工程c)で測定される前記電気的信号が前記測定時間Δtの間に変化する場合に、前記液体輸送装置の漏液が検出される、液体輸送装置の漏液を検出する方法。
【請求項2】
工程b)における前記液体輸送装置が、まず、前記容器内の前記液面より第二の距離d2上の第二の位置に移動され、次いで、前記液体輸送装置が前記容器内の前記液面から距離d上の前記位置に配置される前に、前記液体に再び近づくように移動される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記容器内の前記液面からの前記液体輸送装置の前記距離dが、前記液体輸送装置で形成され得る体積Vdの小滴の直径より小さい、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
工程c)で測定される前記電気的信号が、前記液体輸送装置と前記容器内の前記残存する液体との間の電流である、請求項1〜3いずれか記載の方法。
【請求項5】
工程c)で測定される前記電気的信号が、液体輸送装置の誘電環境に依存する電気容量である、請求項1〜4いずれか記載の方法。
【請求項6】
工程c)で測定される電気的信号が前記測定時間Δtの間に変化しない場合、さらに、
d)ある量の空気VAを吸引する工程、
e)前記液体輸送装置を、離れた位置に移動させる工程、および
f)前記液体を分注する工程
を含む、請求項1〜5いずれか記載の方法。
【請求項7】
前記容器内の前記液面からの前記液体輸送装置の前記距離dが液面検知(LLD)に基づいて調節され、好ましくは前記LLDが電気的測定によって行われる、請求項1〜6いずれか記載の方法。
【請求項8】
a)液体輸送装置を用いて、容器から液体を吸引する吸引装置、
b)液体を含む前記液体輸送装置を、前記容器内の液面より距離d上の位置に配置する移動装置、
c)前記液体輸送装置の漏液を検出する電気的装置、および
d)漏液検出の時間Δtを制御する電子タイムレコーダー
を含み、ここで、液体輸送装置が前記時間Δtの間前記容器内の液面より前記距離d上に配置される間に、刺激を加え、前記液体輸送装置と前記容器内の残存する液体との間の電気的信号を測定することによって前記電気的装置が前記液体輸送装置の漏液を検出することができる、電気的漏液検出を具えた液体輸送装置。
【請求項9】
前記電気的信号が測定時間Δtの間に変化した場合に前記液体輸送装置の前記漏液が検出される、請求項8記載の液体輸送装置。
【請求項10】
前記電気的装置が、前記液体輸送装置と前記容器内の前記残存する液体との間の電流、または液体輸送装置の誘電環境に依存する電気容量を測定することができる、請求項8又は9記載の液体輸送装置。
【請求項11】
前記容器内の液面からの液体輸送装置の前記距離dが、前記液体輸送装置で形成され得る小滴の直径より小さく、前記小滴の直径が前記液体輸送装置の結合構造および前記液体の表面張力によって予め定められる、請求項8〜10いずれか記載の液体輸送装置。
【請求項12】
前記容器内の前記液面からの前記液体輸送装置の前記距離dを調節する液面検知(LLD)をさらに含み、好ましくは前記LLDが電気的LLDである、請求項8〜11いずれか記載の液体輸送装置。
【請求項13】
a)液体輸送装置の許容漏液速度VLを、測定時間Δt、および前記液体輸送装置の、容器内の液面より上の距離dに関して規定する工程、
b)液体を含む液体輸送装置を、前記容器内の液面より予め規定された距離d上の位置へ移動させる工程、および
c)前記液体輸送装置と前記容器内の液体との間の電気的信号を、前記規定された測定時間Δtの間測定する工程
を含み、ここで、前記規定された測定時間Δtの間に前記電気的信号が変化した場合に、(4/3・π・(d/2)3/Δt)より大きい漏液速度VLの漏液が検出される、請求項8〜12いずれか記載の液体輸送装置で実行可能な、液体輸送装置の漏液を検出するコンピュータープログラム。
【請求項14】
前記電気的信号が、前記液体輸送装置と前記容器内の前記残存する液体との間の電流、または液体輸送装置の誘電環境に依存する電気容量である、請求項13記載のコンピュータープログラム。
【請求項15】
前記容器内の液面からの液体輸送装置の前記距離dが、前記液体輸送装置で形成され得る体積Vdの小滴の直径より小さく、前記小滴の体積Vdが前記液体輸送装置の結合構造および前記液体の表面張力によって予め定められる、請求項13又は14記載のコンピュータープログラム。
【請求項16】
前記容器内の前記液面からの前記液体輸送装置の前記距離dが液面検知(LLD)に基づいて調節され、好ましくは前記LLDが電気的測定によって行われる、請求項13〜15いずれか記載のコンピュータープログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−139767(P2007−139767A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−306108(P2006−306108)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】