説明

電気的絶縁性高分子組成物

少なくとも1種類の架橋性モノマー;少なくとも1種類の疎水性モノマー;および誘電増強モノマー、強誘電性粒子、および電気活性高分子から選択される少なくとも1種類の比誘電率増強剤を含む組成物が開示されている。この組成物の高分子を含むコーティング、および電気的絶縁性層を含む物品も開示されている。

【発明の詳細な説明】
【優先権の主張】
【0001】
本出願は、2009年2月26日に出願された米国特許第12/393296号の恩恵を主張するものである。この文献の内容およびその中に挙げられた任意の刊行物または特許文献の全開示がここに引用される。
【技術分野】
【0002】
本開示は、電気的絶縁性高分子組成物およびそれを含むコーティングおよび物品に関する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本開示は、少なくとも1種類の架橋性モノマー;少なくとも1種類の疎水性モノマー;および誘電増強モノマー、強誘電性粒子、および電気活性ポリマーから選択される少なくとも1種類の比誘電率増強剤を含む組成物を提供する。
【0004】
本開示は、少なくとも1種類の架橋性モノマー;少なくとも1種類の疎水性モノマー;および誘電増強モノマー、強誘電性粒子、および電気活性ポリマーから選択される少なくとも1種類の比誘電率増強剤の重合生成物を含むコーティングを提供する。
【0005】
本開示は、少なくとも1種類の架橋性モノマー;少なくとも1種類の疎水性モノマー;および誘電増強モノマー、強誘電性粒子、および電気活性ポリマーから選択される少なくとも1種類の比誘電率増強剤の重合生成物を含む電気的絶縁性層を含む物品を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
ここに具体的に議論されたもの以外の実施の形態も考えられ、本開示の範囲または精神から逸脱せずに実施してよい。以下の詳細な説明は制限ではない。与えられた定義は、頻繁に使用される特定の用語の理解を促すためであり、本開示を制限しない。
【0007】
別記しない限り、明細書および特許請求の範囲に使用された特徴サイズ、量および物理的性質を表す全ての数は、全ての場合において「約」という用語により修飾されているものと理解すべきである。したがって、そうではないと示されていない限り、先の明細書および添付の特許請求の範囲に述べられた数値のパラメータは、ここに開示された教示を利用して当業者により得られるのが求められている所望の性質に応じて様々であり得る近似である。
【0008】
端点による数の範囲の列挙は、その範囲内に包含される全ての数(例えば、1から5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、および5を含む)およびその範囲内の任意の範囲を含む。
【0009】
本明細書および添付の特許請求の範囲に使用されているように、文脈にそうではないと明白に示されていない限り、単数形は、複数を含む実施の形態を包含する。本明細書に使用されているように、文脈にそうではないと明白に示されていない限り、ある用語の単数形の使用は、そのような用語を複数含む実施の形態を包含し得る。例えば、「溶媒を加える」という語句は、文脈にそうではないと明白に示されていない限り、1種類の溶媒、または複数の溶媒を加えることを包含する。本明細書および添付の特許請求の範囲に使用されているように、文脈にそうではないと明白に示されていない限り、「または」という用語は、一般に、「いずれかもしくは両方」を含む意味で利用される。
【0010】
「含む」、「含んでいる」などの用語は、包含を意味し、以下に限られないが、すなわち、包括的であり、排他的ではない。
【0011】
本開示は、組成物、そのような組成物を含むコーティング、およびそのような組成物を含む物品を提供する。組成物、そのような組成物を含むコーティングおよび物品は、様々な性質を有し得る。実施の形態において、組成物は、高い耐透水性、高破壊電圧、比較的高い比誘電率の複合性質を有し、高い疎水性である電極および電子コーティングのための物理的バリアを提供できる。
【0012】
エレクトロウェッティング(electrowetting)素子では、一般に、エレクトロウェッティング電極に対する保護バリアを提供するために、無機膜と上側の疎水性膜の両方を使用する。しかしながら、そのような多層バリアは、液体と直接接触している間の絶縁破壊に耐えるのに十分に頑丈である素子を製造することができていない。本開示は、特にエレクトロウェッティング用途における透水のための物理的バリアも提供する電気的絶縁性コーティングを提供する。
【0013】
実施の形態において、本開示は、プレポリマー組成物または重合性組成物であり得る組成物を提供する。プレポリマー組成物は、一般に、重合組成物を形成するために重合できる組成物である。プレポリマー組成物は、1種類以上のモノマーを含み得る。本明細書に使用されるように、モノマーは、一般に、当業者に与えられた意味を有する。詳しくは、モノマーは、他のモノマーと化学結合して、ポリマーと称することもできるより大きい分子を形成するであろう比較的小さな分子である。1種類以上のモノマーを1種類以上の他のモノマーと化学結合させてポリマーを形成するプロセスは、重合と称することができる。
【0014】
例示の組成物は、少なくとも1種類の架橋性モノマー、少なくとも1種類の疎水性モノマー、および少なくとも1種類の比誘電率増強剤を含み得る。ある組成物は、例えば、1種類または複数種類の架橋性モノマー、1種類または複数種類の疎水性モノマー、および1種類または複数種類の比誘電率増強剤を含み得る。
【0015】
架橋性モノマーは、一般に、重合でき、得られたポリマーをそのようなモノマーで架橋させられる分子を称する。一般に、架橋は、1つの高分子鎖を別の高分子鎖に連結する結合、またはある高分子鎖の1つの部分をその同じ高分子鎖の別の部分に連結する結合を称する。架橋性モノマーは、重合できる分子の1つの部分、およびポリマーのある他の部分と化学結合を形成できる分子の1つの部分を含む。ポリマー(または異なる高分子鎖)のある他の部分と化学結合を形成できる分子の部分は、架橋性部分と称しても差し支えない。架橋は、例えば、重合中または重合後に生じ得る。
【0016】
架橋性部分は、ポリマーを形成するために利用できる分子の部分(重合性部分)と同じであっても異なっても差し支えない。実施の形態において、架橋性部分は重合性部分と同じであり得る。実施の形態において、架橋性部分は重合性部分と異なり得る。架橋性モノマーは、1つの架橋性部分または複数の架橋性部分を含み得る。
【0017】
実施の形態において、架橋性モノマーは、重合性部分および少なくとも1つの架橋性部分を含む。重合性部分および少なくとも1つの架橋性部分を含む架橋性モノマーは、二官能性モノマーと称することができる。実施の形態において、架橋性モノマーは、重合性部分および少なくとも2つの架橋性部分を含む。重合性部分および少なくとも2つの架橋性部分を含む架橋性モノマーは、三官能性モノマーと称することができる。実施の形態において、架橋性モノマーは、重合性部分および少なくとも3つの架橋性部分を含み得る。重合性部分および少なくとも3つの架橋性部分を含む架橋性モノマーは、四官能性モノマーと称することができる。架橋性モノマーは、重合性部分および少なくとも4つの架橋性部分を含み得る。重合性部分および少なくとも4つの架橋性部分を含む架橋性モノマーは、五官能性モノマーと称することができる。実施の形態において、架橋性モノマーは、重合性部分および少なくとも5つの架橋性部分を含み得る。重合性部分および少なくとも5つの架橋性部分を含む架橋性モノマーは、六官能性モノマーと称することができる。
【0018】
実施の形態において、架橋性モノマーはどのタイプの官能性部分を含んでも差し支えない。例示の官能性部分としては、例えば、アクリレート部分、エポキシ部分、ウレタン部分、およびイミド部分などの有機部分が挙げられる。例示の官能性部分としては、シロキサン部分よびホスファゼン部分などの無機部分も含んで差し支えない。実施の形態において、架橋性モノマーはアクリレート部分を含み得る。
【0019】
実施の形態において、組成物は複数のタイプの架橋性モノマーを含み得る。例えば、組成物は少なくとも2つのタイプの架橋性モノマーを含み得る。実施の形態において、組成物は、1種類の架橋性モノマーおよび組成物の混和性を調節するように架橋性でもある(重合性部分および少なくとも1つの架橋性部分を含む)疎水性モノマーを含み得る。例えば、その架橋性モノマー(または複数の架橋性モノマー)は、組成物の残りの成分とそれほど混和性でなくても差し支えなく、よって組成物の全体の混和性を増加させるために疎水性モノマー(架橋性でもある)を加えて差し支えない。
【0020】
特定の例示のタイプの架橋性モノマーの例としては、エトキシル化プロパントリアクリレートモノマーおよびエトキシル化ペンタエリトリトールテトラアクリレートなどのエトキシル化アクリレートモノマーが挙げられる。使用できる特定の架橋性モノマーの例としては、エトキシル化(15)トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシル化(5)トリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシル化(5)ペンタエリトリトールテトラアクリレート、ジペンタエリトリトールペンタアクリレート、ジペンタエリトリトールヘキサアクリレート、メタクリル多面体オリゴマーシルセスキオキサン(POSS(登録商標))、および同様のモノマー、またはそれらの組合せが挙げられる。
【0021】
組成物は、1種類以上の架橋性モノマーを様々な量で含み得る。多量の架橋性モノマーによって、より高度に架橋され、したがって、比較的剛性でありそうであるポリマー(重合組成物)を生じ得る。実施の形態において、組成物は、全組成物(溶媒を含まない)の質量の約5%から約30%の架橋性モノマーを含み得る。実施の形態において、組成物は、全組成物(溶媒を含まない)の質量の約15%から約25%の架橋性モノマーを含み得る。実施の形態において、組成物は、全組成物(溶媒を含まない)の質量の約20%の架橋性モノマーを含み得る。
【0022】
上述したように、組成物は、少なくとも1種類の疎水性モノマーも含む。本明細書に使用されるように、疎水性は、一般に、当業者により与えられる意味を有する。詳しくは、疎水性は、主に水中に感知される量で溶解できない、または水からはじかれる、水に対して拮抗性であることを意味する。疎水性分子は、無極性であり、それゆえ、他の中性分子および無極性溶媒を好む傾向にある。例示の疎水性分子としては、フッ素含有分子、アルカン、油、脂肪、および一般に油性物質が挙げられる。
【0023】
疎水性モノマーは、重合性部分および少なくとも1つの疎水性部分、例えば、無極性の部分を含み得る。例示の疎水性分子の例としては、フッ素化部分またはアルキル部分が挙げられる。実施の形態において、疎水性モノマーは、5以上のフッ素原子、8以上のフッ素原子、16以上のフッ素原子、または23以上のフッ素原子を含むものである。実施の形態において、疎水性モノマーは、少なくとも6つの炭素原子、少なくとも12の炭素原子、または少なくとも18の炭素原子を有するアルキル鎖を含むものである。
【0024】
例示の特別なタイプの疎水性モノマーとしては、過フッ素化化合物、または長鎖アルキル化合物が挙げられる。特別な例示の過フッ素化疎水性モノマーの例としては、メタクリル酸ペンタフルオロベンジル;メタクリル酸ペンタフルオロフェニル;アクリル酸2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル;メタクリル酸2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル;メタクリル酸4,4,5,5,6,7,7,7−オクタフルオロ−2−ヒドロキシ−6−(トリフルオロメチル)ヘプチル;アクリル酸2,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプチル;アクリル酸2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9−ヘキサデカフルオロノニル;アクリル酸3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12,12−エイコサフルオロドデシル;およびそれらの組合せが挙げられる。特別な例示の長鎖疎水性モノマーの例としては、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0025】
上述したように、疎水性モノマーは、同様に架橋性部分も含み得る。このことは、組成物の混和性が懸念される場合に有益であり得る。架橋性であり、組成物の混和性を変えるために加えてもよい例示の疎水性モノマーの例としては、ヘキサフルオロビスフェノールAジメタクリレート;1H,1H,6H,6H−オクタフルオロ−1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート;1H,1H,5H,5H−ヘキサフルオロ−1,4−ペンタンジオールジメタクリレート;ペンタエリトリトールジアクリレートモノステアレート、メタクリル酸ペンタフルオロベンジル、メタクリル酸ペンタフルオロフェニル、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0026】
実施の形態において、組成物は、複数タイプの疎水性モノマーを含み得る。例えば、組成物は、少なくとも2つのタイプの疎水性モノマー(例えば、疎水性モノマーおよび架橋性である疎水性モノマー)を含み得る。疎水性部分を含むが、架橋性でもある(例えば、重合性部分および少なくとも1つの架橋性部分を含む)モノマーが疎水性モノマーであると考えられる。組成物は、様々な量の1種類以上の疎水性モノマーを含み得る。多量の疎水性モノマーにより、より疎水性であり、したがって、水との接触角が大きくなり得るポリマー(重合組成物)が生じ得る。実施の形態において、組成物は、例えば、全組成物(溶媒を含まない)の質量の約20%から約85%の疎水性モノマーを含み得る。実施の形態において、組成物は、例えば、全組成物(溶媒を含まない)の質量の約50%から約80%の疎水性モノマーを含み得る。実施の形態において、組成物は、例えば、全組成物(溶媒を含まない)の質量の約60%から約80%の疎水性モノマーを含み得る。
【0027】
上述したように、組成物は、少なくとも1種類の比誘電率増強剤を含み得る。比誘電率増強剤の例としては、誘電増強モノマー、強誘電性粒子、電気活性粒子(電気活性ポリマーおよび導電性ナノ金属粒子などの)、および同様の物質、またはそれらの組合せが挙げられる。組成物は、1種類または複数種類の比誘電率増強剤を含み得る、例えば、組成物は、1種類または複数種類の誘電増強モノマーおよび1種類または複数種類の強誘電性粒子を含み得る。組成物は、特定の1種類または複数種類の比誘電率増強剤を含み得る、例えば、組成物は、少なくとも2種類の誘電増強モノマーまたは少なくとも2種類の誘電増強モノマーと1種類または複数種類の電気活性ポリマーを含み得る。
【0028】
誘電増強モノマーは、重合性部分および双極子部分を含むモノマーである。双極子部分は、一般に、原子間または分子間の距離だけ隔てられた反対の電荷(全または部分電荷)を有する原子または原子の群を含む。双極子部分の分極強度は、基電気陰性度(group electronegativity)の結果である。電気陰性度は、原子の電子を求引する傾向であり、基電気陰性度は、多原子基の電子を求引する傾向である。実施の形態において、利用できる誘電増強モノマーは、少なくとも約2.4の基電気陰性度を有し得る。モノマーなどの分子の基電気陰性度は、計算される性質である。モノマーの基電気陰性度は、一般に、ポリマー中の含まれているか否かにかかわらずに計算できる。説明の実例として、メタクリル酸ペンタブロモフェニル(Poly Sciences, Inc., カタログ番号04253)は3.00の基電気陰性度を有し、エトキシル化ビスフェノールジメタクリレート(Sartomer SR348)は2.74の基電気陰性度を有する。これらのモノマーの基電気陰性度は、DMol3(カリフォルニア州、サンディエゴ所在のAccelrys Software, Inc.,)を使用して計算した。DMol3により、各分子について電子親和力およびイオン化エネルギーの計算値を得た。次いで、これらの値を使用し、マリケン(Mulliken)の式(EA+IE)/2を使用して基電気陰性度を求めた。
【0029】
特定のタイプの誘電増強モノマーとしては、ハロゲン分子を含有するモノマー、またはジルコニウムおよびハフニウムなどの(IV)族元素を含むモノマーが挙げられる。(IV)族元素を含む例示のモノマーの例としては、アクリル酸ジルコニウム、ジルコニウムブロモノルボルナンラクトンカルボキシレートトリアクリレート、ジルコニウムカルボキシエチルアクリレート60%(n−プロパノール)、1−ブタノール中のハフニウムカルボキシエチルアクリレート60%、および同様のモノマー、またはそれらの組合せが挙げられる。他の特別な例示の誘電増強モノマーの例としては、メタクリル酸ペンタブロモフェニル、エトキシル化ビスフェノールジメタクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、メタクリル酸フルフリル、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸2−シアノエチル、ビニルフェロセン、メタクリル酸プロパギル、および同様のモノマー、またはそれらの組合せが挙げられる。
【0030】
実施の形態において、組成物は、複数タイプの誘電増強モノマーを含み得る。例えば、組成物は、少なくとも2つのタイプの誘電増強モノマーを含み得る。双極子部分を含むが架橋性である(例えば、重合性部分および少なくとも1つの架橋性部分を含む)モノマーが、誘電増強モノマーと考えられる。組成物は、様々な量の1種類以上の誘電増強モノマーを含み得る。多量の誘電増強モノマーにより、高い比誘電率を有し、したがって、良好な電気的絶縁体であるポリマー(重合組成物)を生成できる。実施の形態において、組成物は、例えば、全組成物(溶媒を含まない)の質量の約10%から約60%の誘電増強モノマーを含み得る。実施の形態において、組成物は、例えば、全組成物(溶媒を含まない)の質量の約20%から約60%の誘電増強モノマーを含み得る。
【0031】
強誘電性粒子を比誘電率増強剤として選択しても差し支えない。強誘電性粒子は、組成物中の唯一の比誘電率増強剤として単独で使用しても、または組成物中で1種類以上の他の比誘電率増強剤と組み合わせて使用しても差し支えない。強誘電性粒子は、高い比誘電率を有する材料である。実施の形態において、強誘電性粒子は、中間の比誘電率値および範囲を含む、少なくとも約10、少なくとも約20、少なくとも約70、または少なくとも約160である比誘電率を有する材料である。
【0032】
例示のタイプの強誘電性粒子の例としては、チタン酸塩、ジルコン酸塩、および同様の他の無機セラミック粒子、またはそれらの組合せが挙げられる。特別な例示の強誘電性粒子としては、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸アルミニウム(AlTiO3)、ジルコン酸バリウム(BaZrO3)、アルミナ(Al23)、Y3512、バリウム・ストロンチウム・ジルコン酸塩・チタン酸塩(「BSZT」)((Ba1-xSrx)(ZrxTi1-x)O3)、フラーレン、および同様の強誘電性粒子、またはそれらの組合せが挙げられる。
【0033】
実施の形態において、組成物は、複数タイプの強誘電性粒子を含み得る。例えば、組成物は、少なくとも2つのタイプの強誘電性粒子を含み得る。組成物は、様々な量の1種類以上の強誘電性粒子を含み得る。多量の強誘電性粒子により、高い比誘電率を有し、優れた電気的絶縁体であるポリマー(重合組成物)を生成できる。実施の形態において、組成物は、例えば、全組成物(溶媒を含まない)の質量の約5%から約50%の強誘電性粒子を含み得る。実施の形態において、組成物は、全組成物(溶媒を含まない)の質量の約20%から約40%の強誘電性粒子を含み得る。
【0034】
電気活性ポリマーを比誘電率増強剤として利用しても差し支えない。電気活性ポリマーは、電圧が印加されたときに形状変化を経験できる部類のポリマーである。電気活性ポリマーは、例えば、誘電性電気活性ポリマーまたはイオン性電気活性ポリマーに分類できる。誘電性電気活性ポリマーの場合、形状変形は、例えば、ポリマーが2つの電極間に配置されているときに、静電気力によって生じ得る。イオン性電気活性ポリマーについては、形状変形は、例えば、イオンのポリマー中の移動により生じ得る。誘電性電気活性ポリマー、イオン性電気活性ポリマー、またはそれらの組合せのいずれを利用しても差し支えない。電気活性ポリマーは、組成物中の唯一の比誘電率増強剤として単独で使用しても、または組成物中の1種類以上の他の比誘電率増強剤との組合せで使用しても差し支えない。例えば、組成物は、電気活性ポリマー(EAP)、および誘電増強モノマーを含んでも、または組成物は、EAP、および強誘電性粒子を含んでも差し支えない。実施の形態において、電気活性ポリマーは、少なくとも約5の比誘電率を有する材料であり得る。
【0035】
実施の形態において、使用できる電気活性ポリマーは、組成物のモノマー成分と共役性である(conjugatable)化学的性質を有し得る。これにより、電気活性ポリマーをポリマー全体に架橋させることができる。実施の形態において、電気活性ポリマーは、分散に役立ち、膜の全体の疎水性を維持するであろうペンダント疎水性官能基を含み得る。例示のタイプの電気活性ポリマーとしては、ポリチオフェンおよびポリアニリンが挙げられる。特別な例示の電気活性ポリマーとしては、導電性ポリアニリン、銅(II)フタロシアニン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリフルオレン、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、ポリナフタレン、ポリテトラチアフルバレン、チオフェンポリマーDS306PT−EG(American Dye ource, Inc.)、および同様のポリマー、またはそれらの組合せが挙げられる。
【0036】
実施の形態において、組成物は、複数タイプの電気活性ポリマーを含み得る。例えば、組成物は、少なくとも2つのタイプの電気活性ポリマーを含み得る。組成物は、様々な量の1種類以上の電気活性ポリマーを含み得る。多量の電気活性ポリマーにより、高い比誘電率を有し、優れた電気的絶縁体であるポリマー(重合組成物)を生成できる。実施の形態において、組成物は、例えば、中間値および範囲を含む、全組成物(溶媒を含まない)の質量の約2%から約20%の電気活性ポリマーを、全組成物(溶媒を含まない)の質量の約6%から約20%の電気活性ポリマーを、全組成物(溶媒を含まない)の質量の約6%から約10%の電気活性ポリマーを含み得る。
【0037】
組成物は、他の随意的な成分を含んでも差し支えない。例えば、組成物は1種類以上の開始剤を含み得る。熱開始剤および光開始剤の両方を利用し得る。実施の形態において、光開始剤を選択して差し支えない。例示の光開始剤は、Ciba Specialty Chemicals(スイス国、バーゼル)から市販されている開始剤のRIGACURE(登録商標)およびDAROCUR(登録商標)系統が挙げられる。開始剤が選択される実施の形態において、開始剤は、一般に公知の量で使用して差し支えない。例えば、開始剤は、全組成物(溶媒を含まない)の質量の約1%から約5%の量で加えて差し支えない。実施の形態において、開始剤は、全組成物(溶媒を含まない)の質量の約2%の量で加えて差し支えない。
【0038】
他の随意的な成分を組成物に加えて差し支えない。そのような他の随意的な成分の例としては、着色剤、染料、電界発光剤、量子ドット、PDOT、ナノ金属−ポリマー複合体、蛍光ドープシリカナノ粒子、安定剤などの光学的添加剤、および同様の成分、またはそれらの組合せが挙げられる。
【0039】
組成物は、モノマーを溶媒などの追加の成分と組み合わせることにより形成しても、組み合わせなくてもよい。実施の形態において、1種類または複数種類のモノマーを1種類または複数種類の溶媒と組み合わせても差し支えない。比較的多くの疎水性モノマーを含む実施の形態において、条件(すなわち、溶媒の量、モノマーの添加順序、または他の条件)は、組成物の混和性を維持するために調節することができる。実施の形態において、組成物は、誘電増強モノマーを架橋性モノマーと組み合わせ、次いで、疎水性モノマーを、例えば、モノマーの個性および量に基づいて、適切な溶媒と共にまたは含まずに、加えることによって形成できる。
【0040】
ここに開示された組成物は、重合されない、部分的に重合された、または完全に重合されたものであって差し支えない。少なくとも部分的に重合された組成物を高分子組成物と称しても差し支えない。ここに開示された組成物を基体上に被覆して、コーティングまたは層を形成しても差し支えない。一般に、組成物のコーティングは重合される。
【0041】
開示された組成物のコーティングは、本明細書を読んだ当業者に公知のように形成することができる。開示の組成物を利用したコーティングを形成する特別な方法は、先に開示された組成物を得または形成し、その組成物を基体上に被覆し、組成物を硬化させてコーティングを形成する各工程を含み得る。
【0042】
選択された特定の被覆方法は、少なくとも一部には、被覆されている特定の基体、コーティングの所望の厚さ、ここに述べられていない他の検討事項、またはそれらの組合せに依存するであろう。選択された特定の被覆方法は、少なくとも一部には、組成物に溶媒が加えられるか否か、および加えられる場合には、加えられる溶媒の量を指示するであろう。選択された特定の被覆方法は、少なくとも一部には、組成物に他の成分が加えられるか否か、およびそうなら、加えられる成分の量を指示するであろう。組成物を被覆する特別な方法の例としては、スピンコート法、浸漬コーティング、超音波噴霧コーティング、蒸気コーティング、エレクトロスピニング、ナイフブレードドクタリング、ワイヤケータアプリケーション、RFマグネトロンスパッタリング、押出コーティング、カーテンコーティング、メニスカスコーティング、フレキソ堆積、および同様の方法、またはそれらの組合せが挙げられる。
【0043】
組成物を硬化させる工程は、本明細書を読んだ当業者に公知のように行って差し支えない。例示の硬化方法の例としては、熱硬化、および紫外線(UV)、マイクロ波、赤外線(IR)、および同様の化学線源を含む電磁硬化が挙げられる。
【0044】
開示された組成物から形成されるコーティングは、透水に対する物理的バリア、高い比誘電率、高破壊電圧、および同様の性質またはそれらの組合せを有する生成物を提供できる。透水に対する効果的な物理的バリアであるコーティングは、基体にピンホールのない被覆率、高い疎水性、比較的高い強度または剛性、またはそれらの組合せを有し得る。
【0045】
コーティングの完全性は、コーティングのマイクロまたはナノ表面を観察する様々な技法を使用して評価できる。例示の技法の例としては、走査型電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)、偏光解析法、示差走査熱量測定(DSC)、動的機械分析(DMA)、ナノインデンテーション、フーリエ変換赤外分光(FTIR)、および光学顕微鏡の他の同様の形態が挙げられる。そのような技法を使用して、コーティングは、完全性、熱安定性、化学的均一性を含む様々な性質について評価でき、ある場合には、ピンホールのないことが判定できる。コーティングは、ピンホールがないようであり、それでも、電圧を印加したときに、液体により突破され得る。開示されたコーティングがエレクトロウェッティング用途に使用するのに選択された場合、エレクトロウェッティングディスプレイまたはエレクトロウェッティング装置に液体が透過すると、そのシステムをショートさせ得るので、ピンホールのないコーティングが有益であり得る。
【0046】
組成物、または組成物から形成されたコーティングの疎水性は、例えば、材料のコーティング上の水の接触角を測定することによって、定量化できる。接触角は、液体/蒸気界面が固体表面と接触する角度である。接触角は、角度計を使用して測定できる。実施の形態において、開示された組成物は、コーティングに一度形成されると、中間値および範囲を含む、少なくとも約65°、少なくとも約90°、少なくとも約100°、少なくとも約110°、および少なくとも約114°の接触角を有し得る。
【0047】
より多く架橋性部分を有する架橋性モノマーを含む組成物により、より高度に架橋されたポリマーを生成できる。あるいは、架橋性モノマーをそれほど含まない組成物と比べてより多くの架橋性モノマーを含む組成物により、より高度に架橋したポリマーを生成できる。より高度に架橋したポリマーは、それほど架橋されていないポリマーより強力であり得る。実施の形態において、動的機械分析(DMA)は、膜の架橋程度を決定するための定量的手段を提供できる。ポリマー中の架橋の量は、ポリマーの架橋密度を測定することによって評価できる。ポリマーの架橋密度は、主鎖当たりの架橋したモノマー単位の数として定義できる。架橋密度(Γ)は、
【数1】

【0048】
と定義でき、ここで、

【0049】
は、未架橋ポリマーの数平均分子量であり、

【0050】
は、架橋間の数平均分子量である。架橋密度が高いほど、ポリマーはより剛性で、一般により強力である。実施の形態において、開示されたポリマーは、少なくとも約10%、または少なくとも約20%の架橋密度を有し得る。
【0051】
より高度に架橋したポリマーは、それほど架橋されていないポリマーよりも剛性であり得る。ポリマーの剛性は、ポリマーの弾性率を測定することによって測定できる。弾性率は、力が印加されたときに物質が弾性変形する傾向の記述である。弾性率の特定のタイプがヤング率(E)である。ヤング率は、引張弾性、またはある軸に沿って反対の力が印加されたときに、材料のその軸に沿って変形する傾向を記述する。ヤング率は、引張応力の引張歪みに対する比として定義される。材料のヤング率などの材料の弾性率を測定する一般に利用されている方法を利用して差し支えない。ヤング率は、ナノインデンテーション、動的機械分析、またはそれらの組合せによって測定できる。
【0052】
実施の形態において、開示されたコーティングは、例えば、約1MPaから約200GPa、または少なくとも約100MPa、または少なくとも約1GPaのヤング率を有し得る。
【0053】
開示されたコーティングは、比較的高い比誘電率の利点を有し得る。材料の比誘電率(k)は、真空が交流を伝達する能力と比較したその材料の交流を伝達する能力に関する数である。材料の比誘電率は、試験コンデンサにより測定できる。プレート間の真空に関する試験コンデンサの静電容量を測定し、プレート間の関心のある材料に関する試験コンデンサの静電容量を測定する。比誘電率は、真空に関する静電容量に対する試験材料の静電容量の比である。
【0054】
実施の形態において、開示されたコーティングは、少なくとも約1.5の比誘電率を有し得る。実施の形態において、開示されたコーティングは、少なくとも約2の比誘電率を有し得る。実施の形態において、開示されたコーティングは、少なくとも約4の比誘電率を有し得る。実施の形態において、開示されたコーティングは、少なくとも約7の比誘電率を有し得る。実施の形態において、開示されたコーティングは、少なくとも約10の比誘電率を有し得る。
【0055】
開示されたコーティングは、比較的高い破壊電圧の利点を有し得る。材料の破壊電圧は、材料を流れる電流がその電圧で突然増加する電圧である。破滅的な破壊は、材料が物理的および化学的に変えられ、不可逆的な損傷を伴う電圧である。開示されたコーティングの電圧破壊は、開示されたコーティングが2つの金属電極の間に挟まれている金属−絶縁体−金属構造を使用することによって測定できる。電圧は、破滅的な破損が生じるまで、段階的に増加させることができる。破滅的な破損は、例えば、誘電性材料のアーク放電、ポッピング、分裂、またはそれらの組合せにより表すことができる。開示された膜は、1800V/μmほど高い破壊電圧を有し得る。
【0056】
様々な材料の電圧破壊レベルは、加速電圧破壊プロトコルを使用することによって比較できる。加速破壊は、比較的高い電圧(例えば、約125ボルトRMS)で絶縁電極と接触するように水が配置され、水が所定の時間で電極に達して開示されたコーティングを破壊させるときに生じ得る。実施の形態において、開示されたコーティングは、120Vで少なくとも約20分間の安定、または120Vで少なくとも約40分間の安定の電圧破壊を有し得る。同じ条件下で、一般に利用されている非架橋の疎水性ポリマーであるテフロン(登録商標)は、9秒で破壊される。
【0057】
実施の形態において、コーティングは、大きい比誘電率または高破壊電圧のいずれかを有すれば、ある用途において都合よく利用できる。実施の形態において、コーティングは、大きい比誘電率および高破壊電圧の両方を有する。しかしながら、比較的大きい比誘電率は、より低い破壊電圧を補える。同様に、比較的高い破壊電圧は、低い比誘電率を補える。
【0058】
開示された組成物は、例えば、電子素子、光学素子、または電気光学素子に有用であり得る。この組成物を有益に使用できる特別なタイプの電気光学用途は、エレクトロウェッティングおよび誘電泳動の分野である。エレクトロウェッティング素子は、例えば、ディスプレイ、デジタルマイクロ流体工学、ゲノムDNA塩基配列決定、細胞選別、薬物送達装置、カメラ画像安定器、MEMS装置、三次元(3D)ディスプレイ、電池、保護装置、レンズ、反射型ディスプレイ、センサ、リソグラフィー装置、光ビームスプリッタ、太陽光発電、プログラム可能流体プロセッサ、タッチ感受性装置、微小位置決め装置、および化学マイクロリアクタ、および同様の用途、またはそれらの組合せを含む幅広い用途において有用である。エレクトロウェッティング技術は、速い切換え速度、低消費電力、および明るい反射型演色のために、例えば、ディスプレイ分野において都合よいであろう。
【0059】
開示された被覆組成物を含む物品の例としては、ここに開示された組成物の重合生成物を含む電気的絶縁性層が挙げられる。その物品は、他の随意的な構成要素を含んでも差し支えない。例えば、電気的絶縁性層は、電極に隣接し得る。実施の形態において、電気的絶縁性層は、電極に直接隣接し得る。実施の形態において、電気的絶縁性層は、電極上にまたはその上に直接、堆積され得る。開示された物品内に含まれ得る電極は、例えば、導電性ポリマー、金属、無機と有機両方の導電性物質を含有する複合材料、シリコンなどの半導体、超伝導体材料、および同様の材料、並びにそれらの組合せから製造することができる。
【0060】
実施の形態において、物品は接着力促進剤を含んでも差し支えない。接着力促進剤は、電極(または他の構成要素)と電気的絶縁性層との間に配置して差し支えない。例示の接着力促進剤の例としては、DYNASYLAN(登録商標)Glymoまたは「DYNASYLAN」DAMO−Tなどの「DYNASYLAN」材料(独国、エッセン所在のEvonik Degussa GmbH)、アクリレート、アミン、硫黄、ビニル、またはメタクリレート基などの結合官能基を含むシラン(例えば、グリシドキシプロピルトリメトキシシランZ−6040)が挙げられる。
【0061】
物品は、開示された組成物から形成された多数のコーティングを含み得る。ここに記載されたコーティングは、バックプレーンに取り付けられる「自立性」前面パネルディスプレイ装置に施すこともできる。
【0062】
実施の形態において、開示された組成物から形成された膜またはコーティングは、そのコーティング上に表面テキスチャーを有しても差し支えない。そのようなナノまたはマイクロ構造は、「ロータス・リーフ(Lotus leaf)」効果によりコーティングの疎水性をさらに向上させることができる。同様に、開示された膜またはコーティングは、そのコーティングの疎水性をさらに向上させるために、コーティングの露出表面に局所的に施された疎水性材料を有しても差し支えない。実施の形態において、ミクロ機械加工、エッチング、エキシマレーザアブレーション、またはそれらの組合せを利用して、膜上に表面特徴構造を導入しても差し支えない。
【0063】
エレクトロウェッティング装置の機能は、液体と表面との相互作用を変えるために絶縁性層上に静電電荷を蓄積させる誘電性膜の能力に基づく。界面液体の接触角の変化は、膜の比誘電率に正比例し、誘電性膜の厚さに反比例する。この理由のために、実施の形態は、高い比誘電率を有する比較的薄い重合膜を利用することができる。
【0064】
有益な実施の形態は、平行板コンデンサに関する式から分かるようにできるだけ大きい静電容量値を実現するために、比較的大きい比誘電率を有する比較的薄いコーティングを含んでよい:
【数2】

【0065】
ここで、ε0は自由空間の誘電率であり、εrは材料の相対比誘電率であり、Aは板の面積であり、およびtは膜の厚さである。静電容量が大きいほど、同じ接触角を実現するのに必要な電圧は小さくなる。直列のコンデンサに関する有効静電容量は、個々のコンデンサの静電容量の逆数の合計の逆数と等しいことに留意すべきである:
【数3】

【0066】
ここで、Ceffは有効静電容量であり、nはコンデンサの数である。このことは、高分子膜が、別の膜と共に使用された場合、静電容量を制限しないために、高分子膜は、他の膜の静電容量よりもずっと大きい静電容量を有するべきであることを示している。実施の形態において、高分子膜は、疎水性膜として働く別の膜に関するバリア層として使用しても差し支えない。
【0067】
静電エネルギー蓄積は、エレクトロウェッティング作動のためのエネルギー源である。静電エネルギー蓄積は、以下のように表される:
【数4】

【0068】
ここで、Vは印加電圧である。単層膜の比誘電率がG倍だけ増加したときに、要求される印加電圧は、Gの平方根分の一だけ減少する。我々の絶縁性材料の比誘電率は、約1.9の「テフロン」の比誘電率と比べて、約7であると測定された。これは、要求される電圧をほぼ半分にすることに相当する。
【0069】
開示された膜は、エレクトロウェッティング技術を使用する装置を製造するために使用することができる。上述した高い比誘電率および高破壊電圧(より薄い膜を可能にする)を有する絶縁性バリア膜は、少ない電圧を要求し、したがって、低消費電力の反射型ディスプレイを実現する機会を提供することが知られている。そのような装置は、エレクトロウェッティング技術に依存する低消費電力の反射型ディスプレイの開発に必要とされる。その上、上述した膜は、その高破壊電圧のために、破損せずに高電圧で動作するデジタル微小流体工学装置を提供するために使用することができる。
【実施例】
【0070】
材料および方法
全ての化学物質は、ウィスコンシン州、ミルウォーキー所在のSigma-Aldrich社から得た。モノマーのいくつかは、Dajac、Sartomer、American Dye Sources Inc.、またはPolymer Sciencesから得た。全てのモノマーおよび化学物質は、さらに精製せずに、そのまま使用した。
【0071】
破壊電圧の測定: 膜を、原子層堆積(ALD)により製造した、50nm(原子層堆積プロセスの制御された繰返しにより決定した)の二酸化ジルコニウム無機膜と比べた。膜の破壊電圧壊は、アルミニウム電極上に形成された膜と膜上に形成された第2のアルミニウム電極からなるサンドイッチアセンブリを使用して測定した。連続したAC電圧を、膜破壊が目視により観察されるまで、印加した。
【0072】
比誘電率: 比誘電率は、膜の厚さ(Zygo白色光干渉計(コネチカット州、ミドルフィールド所在のZygo Corporation)を使用して測定した)をLF Impedance Analyer Model Number HP4192A(カリフォルニア州、パロアルト所在のHewlett Packard社)を使用して測定した静電容量値と組み合わせることによって、推測した。
【0073】
水接触角: 水接触角は、スピンコートしたガラスのサンプル上で測定した。標準的な接触角測定は、各サンプル上の5カ所の異なる部位で記録し、平均して、接触角値を得た。接触角は、Connelly Applied Research(ペンシルベニア州、ナザレス所在)からの機器で測定した。前進および後退接触角も、前進接触角については液滴サイズを次第に増加させ、逆に後退接触角については液滴サイズを減少させる、静滴法(sessile drop method)を使用して測定した。各測定値は、水と表面の接触角の健全性を保持するために、サンプル上の異なる地点から採取した。得られたデータから各サンプルについて、履歴現象を判定した。履歴現象(H)は、前進接触角(θa)および後退接触角(θr)との間の差である;H=θa−θr。
【0074】
エレクトロウェッティングおよび誘電泳動により液滴の作動を行う能力: エレクトロウェッティングおよび誘電泳動を使用するカスタム電圧アドレス電極装置により液滴作動に使用される膜の能力も調査した。この装置において、一連のパルスA、BおよびCを、電極と接触している液体のパルス動作を可能にする個々の電極に同期させる。実験的に決定した液滴の突出度が、平板電極パッドの間の液滴の前進を可能にするのに必要であった。この研究における装置は、サンドイッチスタイルフォーマットで集成した。例えば、Muggle, F. et al., Electrowetting: from basics to applications, J. Phys.: Condens. Matter, 17 (2005): R705-R774の図25を参照のこと。
【0075】
「加水分解するまでの時間」試験による加速破損試験: これにより、水が膜のバリアを通り抜け、電極と接触して、加水分解により電極で気泡を形成するまでの時間を計る。所定の電圧でこの破損が生じる時間(「加水分解するまでの時間」)は、誘電性膜バリアの破損の定量的な視覚尺度を提供できる。125ボルトrmsのAC電圧に曝露される単一液滴を有する上述したサンドイッチ電極液滴作動装置を使用して、開示された高分子膜配合物に関する加水分解を観察するのに要する時間は、決まって、200倍以上も「テフロン」を超えた。
【0076】
実施例1〜10
実施例1から10について与えられた質量パーセントで表された表1に列記されたモノマーを組み合わせることによって、モノマー混合物を製造した。一般に、混合物は、架橋性モノマーを誘電増強モノマーに加え、次いで、疎水性モノマーを加えることによって形成した。
【0077】
次いで、表面にエッチングされたアルミニウム電極のアレイを有する10個の2.5インチ(約6.25cm)のガラス基板(Eagle XGガラス、1.1mm)を組成物で被覆した。この被覆は、基板上に1mlの溶液を塗布することにより行い、次いで、この基板を真空に保持されたスピンコート機器上に配置した。次いで、溶液を、1,800rpm/秒の5秒の増加速度で、60秒間に亘り2,500rpmでスピンコートした。
【0078】
サンプルを、300から400nmの波長を有する1つのランプを利用する「Xenon Model RC−801高強度パルス紫外(UV)光硬化システム」を使用して硬化させた。全体のユニットは、厚く赤いカーテン(UV線耐性)により囲まれたチャンバ内に囲まれていた。このチャンバは、基板を保持したパージボックスを収容し、硬化中に不活性環境(被覆のために)を作り出すために、基板が常に窒素でパージされていたことを確実にした。ガラス基板が、窒素充填パージボックス内に一旦配置されたら、60秒間のパージ時間を実施し、ついで、UVチャンバを閉じ、コーティングを約60秒間に亘り硬化させた。硬化後、基板を検査して、適切に硬化されたことを確実にした。適切な硬化を確実にするために、必要であれば、再硬化を行った。
【0079】
実施例1から10に関するモノマーの割合が、下記の表1に示されている。
【表1】

【0080】
実施例に含まれる特定の疎水性モノマーおよびその量に基づいて、接触角を推測した。高度にフッ素化されていないが、他の様式で匹敵する他のポリアクリレート膜の実験的判定に基づいて、弾性率を推測した。実施例1から10の予測値が、下記の表2に示されている。
【表2】

【0081】
実施例10をさらに調査した。平均の標準的な接触角は、上述したようにして、71.8°と判定された。平均の前進接触角は71.4°と測定され、平均の後退接触角は68.9°と測定された。適度に疎水性の高分子膜の履歴現象は2.5°であった。相対的に、「テフロン」は、114°から118°の範囲の水との接触角を有するのに対し、無機ZrO2膜は90°に近い接触角を有する。ZrO2膜表面の疎水性は、水との接触により、短時間で著しく減少する。このことは、最初に測定した後退接触角(78.17°)およびそのすぐ後に行った測定(64.18°)からの減少する接触角を比較することによって、判定される。このことは、ある無機マトリクスの初期の疎水性は、一貫して高い疎水性を必要とする用途にとっては理想的ではないであろうことを示唆している。
【0082】
実施例10の膜も、エレクトロウェッティングおよび誘電泳動により液滴作動を行う能力について、上述したように評価した。実施例10の膜は、液滴作動を提供することが分かった。
【0083】
実施例11
200mgのヘキサフルオロビスフェノールAジメタクリレート粉末(Dajac、カタログ番号9386)(14質量%)を0.6mlのアセトン中に溶解させ、0.2mlのメタクリル酸ペンタフルオロベンジル(Dajac、カタログ番号8988(14質量%))と組み合わせた。この混合物を、約30分間に亘りまたは完全に混ざるまで、40℃におだやかに加熱した。次いで、上述した混合物に0.2mlのジペンタエリトリトールペンタ/ヘキサアクリレート(Sigma-Aldrich、407283)(16質量%)を加え、混ざるまでおだやかに撹拌した。次に、0.2mlのメタクリル酸フルフリル(14質量%)を組み合わせ、混ざるまで撹拌した。次いで、0.6mlのアクリル酸2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9−ヘキサデカフルオロノニル(Sigma-Aldrich、424266(42質量%))を加えた。次いで、0.15mlのN−メチルピロリドン(NMP)中の40mgのIgracur 818の溶液を加え、混合物中に溶解させた。最終的な溶液は、透明で琥珀色がかった色を有していた。
【0084】
この溶液を、実施例1におけるように被覆し、硬化させた。次いで、その膜の接触角を実施例1におけるように測定した。平均の標準接触角は114.4°と決定された。平均の前進接触角は115.5°と測定され、平均の後退接触角は111.8°と測定された。高疎水性膜の履歴現象は3.7°であった。
【0085】
実施例12
先の実施例10を、ポリアニリン粉末(ポリアニリンを含まない全組成物の質量に基づいて6質量%)を加えることによって変更した。溶液を、先の実施例1におけるように被覆し、硬化させた。次いで、膜の比誘電率を実施例1におけるように測定し、7であることが分かった。
【0086】
この膜の電圧破壊も測定し、約1800V/マイクロメートルであった。50nmの原子層堆積ZrO2膜の破壊電圧は、386V/マイクロメートルの平均誘電破壊強度を有することが分かり、「テフロン」膜は、約60V/マイクロメートルに近い報告された(測定された)破壊電圧を有する。その上、「加水分解するまでの時間」試験の定量測定は、125V RMSで30分をゆうに超える加水分解を与えた。比較のために、「テフロン」(DuPont)の市販形態を使用した同一の加速破壊電圧試験の下で、測定された加水分解するまでの時間は約9秒であった。
【0087】
上述した実施の形態および他の実施の形態は、以下の特許請求の範囲内である。当業者には、本開示は開示された実施の形態以外の実施の形態で実施できることが理解されよう。開示された実施の形態は、制限ではなく、説明の目的で提示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物において、
少なくとも1種類の架橋性モノマー、
少なくとも1種類の疎水性モノマー、および
誘電増強モノマー、強誘電性粒子、電気活性ポリマーおよびそれらの組合せからなる群より選択される少なくとも1種類の比誘電率増強剤、
を含む組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1種類の架橋性モノマーが、アクリレートモノマー、イミドモノマー、ウレタンモノマー、無機モノマー、またはそれらの組合せを含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1種類の架橋性モノマーが、三官能性、四官能性、五官能性、または六官能性モノマーであることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1種類の架橋性モノマーが、エトキシル化アクリレートモノマーであることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1種類の架橋性モノマーが、エトキシル化(15)トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシル化(5)トリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリトリトールペンタアクリレート、ジペンタエリトリトールヘキサアクリレート、またはそれらの組合せであることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項6】
ヘキサフルオロビスフェノールAジメタクリレート;1H,1H,6H,6H−オクタフルオロ−1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート;1H,1H,5H,5H−ヘキサフルオロ−1,4−ペンタンジオールジメタクリレート;ペンタエリトリトールジアクリレートモノステアレート、およびそれらの組合せからなる群より選択される第2の疎水性モノマーをさらに含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項7】
少なくとも約2.4の基電子陰性を有する誘電増強モノマーを含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。

【公表番号】特表2012−519224(P2012−519224A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552139(P2011−552139)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際出願番号】PCT/US2010/025304
【国際公開番号】WO2010/099254
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】