説明

電気磁気効果材料及びその製造方法

【課題】 室温付近かつ弱磁場の条件下で電気磁気効果を有する電気磁気効果材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の電気磁気効果材料は、一般式(Sr1-αBaα3(Co1-ββ2Fe2441+δ(但し、式中、BはNi、Zn、Mn、Mg及びCuからなる群から選ばれる一種以上の元素であり、α、β、δはそれぞれ0≦α≦0.3、0≦β≦0.3、−1≦δ≦1である。)で示される酸化物セラミックスを主要成分として構成され、250〜350Kの温度範囲かつ0.05テスラ以下の磁場範囲において電気磁気効果を有する。本発明の電気磁気効果材料の製造方法は、焼成を酸素又は空気雰囲気中で1100〜1300℃の温度範囲で行い、焼成後、酸素雰囲気中で温度を2〜100時間で室温まで冷却する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気磁気効果材料及びその製造方法、具体的には室温付近かつ弱磁場の条件下において電気磁気効果を有する電気磁気効果材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電気磁気効果、すなわち外部から印加された電界により物質の磁化が誘起される現象、また逆に、外部から磁場が印加された物質に電気分極が誘起される現象が知られており、電気磁気効果を有する材料は、デジタル情報記録用メモリ素子や各種デバイスに応用できるものとして注目されていた。
【0003】
最近では、磁場の印加によって、電気分極が顕著に変化する「巨大電気磁気効果」を示すマルチフェロイクス(磁気秩序誘起型強誘電体)についての研究が進められている。例えば特許文献1には、MCr24(M=Mn,Fe,Co,Ni)化合物であるクロム酸化物からなるマルチフェロイック素子が開示されている。また、特許文献2には、A22Fe1222のフェライト化合物であり、AはCa,Ba,Srもしくはこれらの二種類の元素の混合物からなり、BはMg,Zn,Co,Ni,Cuからなる元素であるマルチフェロイック素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開公報WO2007/135817号公報
【特許文献2】特開2009−224563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1及び2に開示されたマルチフェロイック素子を含む今までの磁気秩序誘起型強誘電体は、室温よりはるかに低い温度でしか電気磁気効果を発現できず、また、その多くは強磁場下でしか電気磁気効果を発現できないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記従来の問題を解決し、室温付近かつ弱磁場の条件下で電気磁気効果を有する電気磁気効果材料及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電気磁気効果材料は、一般式(Sr1-αBaα3(Co1-ββ2Fe2441+δ(但し、式中、Bは、Ni、Zn、Mn、Mg及びCuからなる群から選ばれる一種以上の元素であり、α、β、δは、それぞれ、0≦α≦0.3、0≦β≦0.3、−1≦δ≦1である。)で示される酸化物セラミックスを主要成分として構成され、250〜350Kの温度範囲かつ0.05テスラ以下の磁場範囲において、電気磁気効果を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の電気磁気効果材料の製造方法は、Srの酸化物又はその前駆物質と、Coの酸化物又はその前駆物質と、Feの酸化物又はその前駆物質と、Baの酸化物又はその前駆物質と、Bの酸化物又はその前駆物質とを、一般式(Sr1-αBaα3(Co1-ββ2Fe2441+δ(但し、式中、Bは、Ni、Zn、Mn、Mg及びCuからなる群から選ばれる一種以上の元素であり、α、β、δは、それぞれ、0≦α≦0.3、0≦β≦0.3、−1≦δ≦1である。)で示される化学量論量に相当する比率で配合して混合物を得る工程と、上記混合物を仮焼して仮焼粉末にする工程と、上記仮焼粉末を、酸素雰囲気中で、1100〜1300℃の温度範囲で焼成した後、2〜100時間で室温まで冷却する工程を含む。
【0009】
また、他の本発明の電気磁気効果材料の製造方法は、Srの酸化物又はその前駆物質と、Coの酸化物又はその前駆物質と、Feの酸化物又はその前駆物質と、Baの酸化物又はその前駆物質と、Bの酸化物又はその前駆物質とを、一般式(Sr1-αBaα3(Co1-ββ2Fe2441+δ(但し、式中、Bは、Ni、Zn、Mn、Mg及びCuからなる群から選ばれる一種以上の元素であり、α、β、δは、それぞれ、0≦α≦0.3、0≦β≦0.3、−1≦δ≦1である。)で示される化学量論量に相当する比率で配合して混合物を得る工程と、上記混合物を仮焼して仮焼粉末にする工程と、上記仮焼粉末を、酸素雰囲気中又は空気雰囲気中で、1100〜1300℃の温度範囲で焼成し、酸素雰囲気中で、800〜1100℃の温度範囲で1〜50時間保持した後、2〜100時間で室温まで冷却する工程を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、室温付近、例えば250〜350Kの温度範囲、かつ弱磁場、例えば0.05テスラ以下の磁場範囲において、電気磁気効果を有する電気磁気効果材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の一実施形態であるSr3Co2Fe2441で示される酸化物セラミックスを主要成分として構成される電気磁気効果材料の粉末X線回折パターンを示す。
【図2】図2Aは、本発明の一実施形態であるSr3Co2Fe2441で示される酸化物セラミックスを主要成分として構成される電気磁気効果材料の200K及び300Kにおける磁化を示すグラフである。図2Bは、同比誘電率を示すグラフである。図2Cは、同電気磁気電流を示すグラフである。図2Dは、同電気分極を示すグラフである。
【図3】図3Aは、本発明の一実施形態であるSr3Co2Fe2441で示される酸化物セラミックスを主要成分として構成される電気磁気効果材料の300Kにおける電気磁気結合係数を示すグラフである。図3Bは、同電気分極を示すグラフである。
【図4】図4Aは、本発明の一実施形態であるSr3Co2Fe2441で示される酸化物セラミックスを主要成分として構成される電気磁気効果材料に+7×102kVm-1のポーリング電場を印加した後、磁場を0〜0.25Tの間で周期的に変化させたときの電気磁気電流及び電気分極を示すグラフである。図4Bは、本発明の一実施形態であるSr3Co2Fe2441で示される酸化物セラミックスを主要成分として構成される電気磁気効果材料に−7×102kVm-1のポーリング電場を印加した後、磁場を0〜0.25Tの間で周期的に変化させたときの電気磁気電流及び電気分極を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の電気磁気効果材料は、一般式(Sr1-αBaα3(Co1-ββ2Fe2441+δ(但し、式中、Bは、Ni、Zn、Mn、Mg及びCuからなる群から選ばれる一種以上の元素であり、α、β、δは、それぞれ、0≦α≦0.3、0≦β≦0.3、−1≦δ≦1である。)で示される酸化物セラミックスを主要成分として構成される。
【0013】
本発明において、主要成分とは、上記電気磁気効果材料全体に対して70重量%以上含有されている成分をいい、80重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましい。
【0014】
上記一般式(Sr1-αBaα3(Co1-ββ2Fe2441+δにおいて、αは0〜0.3であり、βは0〜0.3であり、電気磁気効果により優れるという観点から、αは0〜0.2であり、βは0〜0.2であることがより好ましく、α及びβのいずれも0であることがさらに好ましい。また、δは−1〜1であり、電気磁気効果に優れるという観点から、δは0〜1であることがより好ましい。
【0015】
また、上記一般式において、絶縁性に優れるという観点から、BはNi及びZnからなる群から選ばれる一種以上の元素であることが好ましい。
【0016】
上記電気磁気効果材料は、絶縁性に優れるという観点から、250〜350Kの温度範囲において、電気抵抗率が1.0×108Ω・cm以上であることが好ましく、1.0×109Ω・cm以上であることがより好ましく、2.0×109Ω・cm以上であることがさらに好ましい。
【0017】
上記電気磁気効果材料は、室温付近かつ弱磁場において、例えば250〜350Kの温度範囲かつ0.05テスラ以下の磁場範囲において、磁場の印加によって電気分極が誘起される電気磁気効果を有する。また、弱磁場におけるより優れた電気磁気効果の観点から、上記電気磁気効果材料は、250〜350Kの温度範囲かつ0.05テスラ(T)以下の磁場範囲において、磁場の印加によって誘起される電気分極が1.0×100μC/m2以上となる領域を有することが好ましく、250〜350Kの温度範囲かつ0.04T以下の磁場範囲において、磁場の印加によって誘起される電気分極が1.0×100μC/m2以上となる領域を有することがより好ましく、250〜350Kの温度範囲かつ0.03T以下の磁場範囲において、磁場の印加によって誘起される電気分極が1.0×100μC/m2以上となる領域を有することがさらに好ましく、250〜350Kの温度範囲かつ0.02T以下の磁場範囲において、磁場の印加によって誘起される電気分極が1.0×100μC/m2以上となる領域を有することが特に好ましい。
【0018】
また、上記電気磁気効果材料は、より優れた電気磁気効果の観点から、250〜350Kの温度範囲かつ0.05T以下の磁場範囲において、電気磁気結合係数が1.0×10-11s/m以上となる領域を有することが好ましく、電気磁気結合係数が1.0×10-10s/m以上となる領域を有することがより好ましく、電気磁気結合係数が2.0×10-10s/m以上となる領域を有することがさらに好ましい。また、250〜350Kの温度範囲かつ0.03T以下の磁場範囲において、電気磁気結合係数が1.0×10-11s/m以上となる領域を有することが好ましく、1.0×10-10s/m以上となる領域を有することがより好ましく、2.0×10-10s/m以上となる領域を有することがさらに好ましい。また、250〜350Kの温度範囲かつ0.02T以下の磁場範囲において、電気磁気結合係数が1.0×10-11s/m以上となる領域を有することが好ましく、1.0×10-10s/m以上となる領域を有することがより好ましく、2.0×10-10s/m以上となる領域を有することがさらに好ましい。また、250〜350Kの温度範囲かつ0.01T以下の磁場範囲において、電気磁気結合係数が1.0×10-11s/m以上となる領域を有することが好ましく、1.0×10-10s/m以上となる領域を有することがより好ましく、2.0×10-10s/m以上となる領域を有することがさらに好ましい。
【0019】
本発明において、電気磁気結合係数は、印加した磁場に対して、どれだけの電気分極が誘起されるかということを表す指標であり、次の式(1)で定義されるαを電気結合係数と定義する。
【0020】
α=μ0(dP/dB) (1)
【0021】
但し、式(1)中、μ0は真空の透磁率(=4π×10-7 H/m)、dP/dBは磁場B[T]の変化に対する電気分極P[C/m2]の変化であり、(dP/dB)を変形すると(dP/dB)=(dP/dt)/(dB/dt)=J/(dB/dt)となり、t[s]は時間、J[A/m2]は、電気磁気電流である。
【0022】
本発明において、αすなわち電気磁気結合係数は、具体的には、電気磁気電流にμ0を乗じ、磁場掃引の速度で割ることにより得られる。
【0023】
本発明の電気磁気効果材料は、特に限定されないが、以下のように作製することが好ましい。先ず、Srの酸化物又はその前駆物質と、Coの酸化物又はその前駆物質と、Feの酸化物又はその前駆物質と、Baの酸化物又はその前駆物質と、Bの酸化物又はその前駆物質とを、一般式(Sr1-αBaα3(Co1-ββ2Fe2441+δ(但し、式中、Bは、Ni、Zn、Mn、Mg及びCuからなる群から選ばれる一種以上の元素であり、α、β、δは、それぞれ、0≦α≦0.3、0≦β≦0.3、−1≦δ≦1である。)で示される化学量論量に相当する比率で配合して混合物を得る。続いて、上記混合物を仮焼して仮焼粉末にする。その後、上記仮焼粉末を、酸素雰囲気中で1100〜1300℃の温度範囲で焼成した後、2〜100時間で室温まで冷却する。または、「上記仮焼粉末を、酸素雰囲気中で1100〜1300℃の温度範囲で焼成した後、2〜100時間で室温まで冷却する」に換えて、上記仮焼粉末を、空気雰囲気中又は酸素雰囲気中で、1100〜1300℃の温度範囲で焼成した後、酸素雰囲気中で800〜1100℃の温度範囲で1〜50時間保持した後、2〜100時間で室温まで冷却してもよい。
【0024】
Srの酸化物又はその前駆物質としては、特に限定されないが、例えばSrCO3、SrOなどを用いることができる。また、Coの酸化物又はその前駆物質としては、特に限定されないが、例えばCo34、CoO、Co23などを用いることができる。Feの酸化物又はその前駆物質としては、特に限定されないが、例えばFe34、FeO、Fe23などを用いることができる。また、Baの酸化物又はその前駆物質としては、特に限定されないが、例えばBaCO3、BaOなどを用いることができる。また、Niの酸化物又はその前駆物質としては、特に限定されないが、例えばNiOなどを用いることができる。また、Znの酸化物又はその前駆物質としては、特に限定されないが、例えばZnOなどを用いることができる。また、Mnの酸化物又はその前駆物質としては、特に限定されないが、例えばMnOなどを用いることができる。また、Mgの酸化物又はその前駆物質としては、特に限定されないが、例えばMgOなどを用いることができる。また、Cuの酸化物又はその前駆物質としては、特に限定されないが、例えばCuOなどを用いることができる。
【0025】
仮焼は、特に限定されないが、空気雰囲気中又は酸素雰囲気中で、800〜1100℃で、10〜24時間行うことが好ましく、900〜1000℃で、20〜24時間行うことがより好ましい。
【0026】
仮焼後の焼成は、電気抵抗率を向上させるという観点から、酸素雰囲気中で、1100〜1300℃で、5時間以上行うことが好ましく、10時間以上行うことがより好ましく、20時間以上行うことがさらに好ましい。また、電気抵抗率を向上させるという観点から、焼成後の室温までの降温時間は、10時間以上であることが好ましく、20時間以上であることがより好ましい。また、電気抵抗率を向上させるという観点から、酸素流量は、3cc/min以上であることが好ましく、15〜100cc/minであることがより好ましい。
【0027】
また、仮焼後の焼成を、空気雰囲気中で行った場合は、焼成後、酸素雰囲気中、800〜1100℃の温度範囲で1〜50時間保持した後、2〜100時間で室温まで冷却することが好ましい。電気抵抗率を向上させるという観点から、焼成後の酸化物セラミックスを保持する温度は、800〜1000℃であることが好ましく、800〜900℃であることがより好ましい。また、電気抵抗率を向上させるという観点から、焼成後の酸化物セラミックスを保持する時間は、10〜100時間であることが好ましく、50時間以上であることがより好ましい。また、電気抵抗率を向上させるという観点から、焼成後の酸化物セラミックスを保持する酸素雰囲気の酸素流量は、3cc/min以上であることが好ましく、15〜100cc/minであることがより好ましい。
【0028】
Sr3Co2Fe2441酸化物セラミックスを主要成分として構成される電気磁気効果材料は、固相反応法によって、例えば以下のように合成できる。SrCO3の粉末、Co34の粉末及びFe23の粉末を用い、仮焼は、空気雰囲気中、800〜1000℃で16〜20時間行い、仮焼後の焼成は、酸素流量が3〜100cc/minである酸素雰囲気中、1150〜1200℃で5〜20時間行い、その後、5〜50時間をかけて室温まで冷却する。或いは、SrCO3の粉末、Co34の粉末及びFe23の粉末を用い、仮焼は、空気雰囲気中、800〜1000℃で16〜20時間行い、仮焼後の焼成は、酸素雰囲気中又は空気雰囲気中で、1150〜1200℃で5〜20時間行い、焼成後、酸素流量が3〜100cc/minである酸素雰囲気中で、800〜1000℃で5〜10時間保持した後、2〜100時間をかけて室温まで冷却する。
【0029】
本発明の電気磁気効果材料は、室温かつ弱磁場条件下で電気磁気効果を発揮しており、電気的検出及び制御可能なスピンのヘリシティとして、情報を記録するといった不揮発性メモリなどへのデバイスに応用できる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
Sr3Co2Fe2441の組成を持つ酸化物セラミックスを固相反応法によって合成した。まず、表1に示す配合割合のSrCO3の粉末、Co34の粉末及びFe23の粉末を秤量し、めのう乳鉢中で混合した。次に、混合した粉末試料を、空気雰囲気中で、1000℃で16時間仮焼きし、室温まで冷却した後、めのう乳鉢中でよく混合した。次に、得られた仮焼粉末をゴム風船中に詰めて、40MPaの静水圧をかけてプレスし、直径約5mm、長さ約30mmの棒形状試料を作製した。得られた棒形状試料を、酸素雰囲気中、1160℃で16時間焼成した後、19時間で室温まで冷却して、Sr3Co2Fe2441酸化物セラミックスを主要成分として構成される酸化物セラミックスを得た。
【0032】
(実施例2〜8)
焼成温度、焼成時間、酸素流量及び室温までの降温時間を表2に示した条件にした以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜8の酸化物セラミックスを得た。
【0033】
(実施例9〜11)
Sr3(Co0.8Zn0.22Fe2441の組成を持つ酸化物セラミックスを固相反応法によって合成した。表1に示す配合割合で混合した粉末試料を用い、焼成温度、焼成時間、酸素流量及び室温までの降温時間を表2に示した条件にした以外は、実施例1と同様にして、実施例9〜11の酸化物セラミックスを得た。
【0034】
(実施例12)
Sr3(Co0.8Cu0.22Fe2441の組成を持つ酸化物セラミックスを固相反応法によって合成した。表1に示す配合割合で混合した粉末試料を用い、焼成温度、焼成時間、酸素流量及び室温までの降温時間を表2に示した条件にした以外は、実施例1と同様にして、実施例12の酸化物セラミックスを得た。
【0035】
(実施例13)
Sr3(Co0.8Ni0.22Fe2441の組成を持つ酸化物セラミックスを固相反応法によって合成した。表1に示す配合割合で混合した粉末試料を用い、酸素雰囲気中の焼成温度、焼成時間、酸素流量及び室温までの降温時間を表2に示した条件にした以外は、実施例1と同様にして、実施例13の酸化物セラミックスを得た。
【0036】
(実施例14)
(Sr0.9Ba0.13Co2Fe2441の組成を持つ酸化物セラミックスを固相反応法によって合成した。表1に示す配合割合で混合した粉末試料を用い、仮焼温度、仮焼時間、酸素雰囲気中の焼成温度、焼成時間、酸素流量及び室温までの降温時間を表2に示した条件にした以外は、実施例1と同様にして、実施例14の酸化物セラミックスを得た。
【0037】
(実施例15)
(Sr0.8Ba0.23Co2Fe2441の組成を持つ酸化物セラミックスを固相反応法によって合成した。表1に示す配合割合で混合した粉末試料を用い、仮焼温度、仮焼時間、酸素雰囲気中の焼成温度、焼成時間、酸素流量及び室温までの降温時間を表2に示した条件にした以外は、実施例1と同様にして、実施例15の酸化物セラミックスを得た。
【0038】
(実施例16)
焼成後、酸素流量100cc/minの酸素雰囲気中、1000℃で50時間保持し、その後、5時間で室温まで冷却した以外は、実施例14と同様にして、実施例16の酸化物セラミックスを得た。
【0039】
(実施例17)
焼成後、酸素流量100cc/minの酸素雰囲気中、1000℃で50時間保持し、その後、5時間で室温まで冷却した以外は、実施例15と同様にして、実施例17の酸化物セラミックスを得た。
【0040】
(実施例18)
仮焼を空気雰囲気中、800℃で20時間行い、焼成を空気雰囲気中、1150℃で20時間行い、焼成後、酸素流量100cc/minの酸素雰囲気中、1000℃で50時間保持し、その後、5時間で室温まで冷却した以外は、実施例1と同様にして、実施例18の酸化物セラミックスを得た。
【0041】
(実施例19)
仮焼を空気雰囲気中、800℃で20時間行い、焼成を空気雰囲気中、1160℃で20時間行い、焼成後、酸素流量100cc/minの酸素雰囲気中、1000℃で50時間保持し、その後、5時間で室温まで冷却した以外は、実施例1と同様にして、実施例19の酸化物セラミックスを得た。
【0042】
(実施例20)
仮焼を空気雰囲気中、1000℃で16時間行い、焼成を空気雰囲気中、1180℃で20時間行い、焼成後、酸素流量20cc/minの酸素雰囲気中、1000℃で1時間保持し、その後、50時間で室温まで冷却した以外は、実施例1と同様にして、実施例20の酸化物セラミックスを得た。
【0043】
(比較例1〜3)
焼成を、空気雰囲気中、表2に示しているような条件で行った以外は、実施例1と同様にして、比較例1〜3の酸化物セラミックスを得た。
【0044】
(比較例4)
Ba3Co2Fe2441の組成を持つ酸化物セラミックスを固相反応法によって合成した。表1に示す配合割合で混合した粉末試料を用い、表2に示した仮焼温度、仮焼時間、仮焼雰囲気、焼成温度、焼成時間、酸素流量及び室温までの降温時間を表2に示した条件にした以外は、実施例1と同様にして、比較例4の酸化物セラミックスを得た。
【0045】
(比較例5)
(Sr0.5Ba0.53Co2Fe2441の組成を持つ酸化物セラミックスを固相反応法によって合成した。表1に示す配合割合で混合した粉末試料を用い、表2に示した仮焼温度、仮焼時間、仮焼雰囲気、焼成温度、焼成時間、酸素流量及び室温までの降温時間を表2に示した条件にした以外は、実施例1と同様にして、比較例5の酸化物セラミックスを得た。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
得られた実施例及び比較例の酸化物セラミックスの電気抵抗率、磁化、比誘電率、電気磁気電流、電気分極及び電気結合係数を、下記のように測定・判定した。下記表3に、温度300Kのおける電気抵抗率、電気磁気結合係数及び電気分極の結果、並びに電気分極の測定結果に基づいて判断した電気磁気効果の結果を示した。また、図1に、実施例1の酸化物セラミックスの粉末X線回折測定結果、図2に実施例1の酸化物セラミックスの200K及び300Kにおける磁化(図2A)、比誘電率(図2B)、電気磁気電流(図2C)及び電気分極(図2D)のデータ、図3に実施例1の酸化物セラミックスの300Kにおける電気結合係数(図3A)及び電気分極(図3B)のデータ、図4に実施例1の酸化物セラミックスの300Kで、0〜0.25Tの間で磁場を周期的に変化させた場合の、電気磁気電流及び電気分極の結果を示した。
【0049】
以下の測定において、酸化物セラミックスを直径約5mm、厚さ約0.5mmの薄膜に切り出し、電気物性の測定に必要な電極として使用するため、裏表両主面に銀を蒸着して、測定試料とした。
【0050】
(電気抵抗率)
エレクトロメータを用いた2端子法で、電気抵抗率を測定した。
【0051】
(磁化)
磁化は、市販の磁化測定装置を用いて測定した。
【0052】
(比誘電率)
LCRメータを用い、100kHzの交流電場を印加する条件下で、比誘電率を測定した。
【0053】
(電気磁気電流)
先ず、+7×102kVm-1又は−7×102kVm-1のポーリング電場により、測定試料を単分域化した後、ポーリング電場を切った。次に、1T/分の速度で磁場を掃引しながら、エレクトロメータを用い、電気磁気電流を測定した。
【0054】
(電気分極)
電気分極は、上述の電気磁気電流の測定で得られた電気磁気電流を時間積分することによって得た。
【0055】
(電気磁気結合係数)
上記で得られた電気磁気電流にμ0を乗じ、磁場掃引の速度で割ることにより得た。ここで、μ0は真空の透磁率(=4π×10-7H/m)である。
【0056】
(電気磁気効果)
有り:250〜350K温度範囲かつ0Tよりも大きく0.05T以下の磁場範囲において、電気分極が誘起される。
なし:250〜350K温度範囲かつ0Tよりも大きく0.05T以下の磁場範囲において、電気分極が観察されない。
【0057】
図1は、実施例1及び実施例20の酸化物セラミックスの粉末X線回折測定結果である。図1から分かるように、ピークのほとんどが格子定数aは5.87A,cは52.07Aを持つZ型構造で指数付けでき、主な相はZ型Sr3Co2Fe2441であった。図1において、□はU型(Ba,Sr)4Me2Fe3660(但し、Meは2価イオンを示す。)不純物相、△はW型(Ba,Sr)Me2Fe1627(但し、Meは2価イオンを示す。)不純物相を示す。実施例1および実施例20の酸化物セラミックスにおけるSr3Co2Fe2441酸化物セラミックス(Z型Sr3Co2Fe2441)の含有量は、各々80重量%および100重量%であった。なお、図示はないが、他の実施例の酸化物セラミックスについても粉末X線回折測定を行い、一般式(Sr1-αBaα3(Co1-ββ2Fe2441+δ(但し、式中、Bは、Ni、Zn、Mn、Mg及びCuからなる群から選ばれる一種以上の元素であり、α、β、δは、それぞれ、0≦α≦0.3、0≦β≦0.3、−1≦δ≦1である。)で示される酸化物セラミックスの含有量を得、その結果を下記表3に示した。
【0058】
図2に、実施例1のSr3Co2Fe2441酸化物セラミックスの200K及び300Kにおける磁化(図2A)、比誘電率(図2B)、電気磁気電流(図2C)、電気分極(図2D)を示している。図2B及び図2Cにおける比誘電率、電気磁気電流は、印加する交流電場及び観測電流が磁場の方向に対して垂直方向である場合のデータである。
【0059】
図2Aから分かるように、実施例1のSr3Co2Fe2441酸化物セラミックスの磁化は飽和状態に達するまでに2段階の段階的な増加を示す。具体的には、磁場の増加とともに、磁化は約0〜0.1Tの磁場領域で急速に増加し、約0.1〜0.7Tの磁場領域では緩やかに増加し、約1Tの磁場でほぼ飽和する。また、図2Bから分かるように、磁化の異常が観察された磁場では、比誘電率の異常が観測される。具体的には、比誘電率は、約0〜0.1Tの磁場領域では急激に減少し、約0.1〜0.7Tの磁場領域では緩やかに減少し、約1Tの磁場でほぼ一定な値になる。また、図2Cから分かるように、電気磁気電流は、磁化及び比誘電率が異常を示す約0.1T及び約0.7Tで各々顕著なディップ及びピークを示している。また、図2Dから分かるように、ゼロ磁場では、自発電気分極はほぼ観察されないが、磁場の印加により電気分極が出現し、約0.2Tまでは磁場の強度の増加とともに電気分極も増加し続ける。さらに磁場の強度が増加されると0.25〜0.3Tで電気分極は極大値を示し、その後、減少する。そして約1Tで電気分極は消失する。
【0060】
上記から、実施例1のZ型ヘキサフェライトであるSr3Co2Fe2441酸化物セラミックスを主要成分とする酸化物セラミックスが室温付近で電気磁気効果を示すことが分かる。また、電気磁気電流及び電気分極に対するポーリング電場及び印加磁場の符号の影響を調べた結果、磁場によって誘起される電気分極の符号は、印加磁場の符号には影響されないが、ポーリング電場の符号(向き)に依存することが分かった(図示なし)。
【0061】
図3に、300KにおけるSr3Co2Fe2441酸化物セラミックスの電気結合係数(図3A)及び電気分極(図3B)のデータが示されている。なお、図3A及び図3Bにおいて、白丸は電場を+0.05Tから−0.05Tへ掃引した場合の結果であり、黒丸は電場を−0.05Tから+0.05Tへ掃引した場合の結果である。図3Aから分かるように、実施例1のSr3Co2Fe2441酸化物セラミックスは、0.05T以下の磁場範囲で、電気磁気結合係数が1.0×10-11s/m以上となる領域を有する。また、図3Bから分かるように、Sr3Co2Fe2441酸化物セラミックスは、0.05T以下の磁場範囲で、磁場の印加によって誘起される電気分極が1.0×100μC/m2以上となる領域を有する。
【0062】
図4に、300Kで、0〜0.25Tの間で磁場を周期的に変化させた場合の、電気磁気電流及び電気分極の結果を示しており、図4Aは、ポーリング電場の符号が(+)の場合の結果であり、図4Bは、ポーリング電場の符号が(−)の場合の結果である。図4から分かるように、磁場の周期的変動に伴い、電気磁気電流と電気分極が、繰り返しの磁場の変化によってその強度を減少させることなく、再現性よく増減する。また、ポーリング電場の符号を切り替えることにより、電気磁気シグナルの符号の反転も可能である。
【0063】
【表3】

【0064】
表3から分かるように、実施例の酸化物セラミックスは、300Kにおいて、電気磁気効果を有する。また、実施例の酸化物セラミックスは、300Kにおいて、電気抵抗値が1.0×109Ω・cm以上である。一方、比較例の酸化物セラミックスは、300Kにおいて、電気抵抗値が低いことに関連して電気磁気効果を有していない。また、実施例の酸化物セラミックスは、250〜300Kの温度範囲かつ0.05T以下の磁場範囲で、電気磁気結合係数が1.0×10-11s/m以上となる領域を有する。また、実施例の酸化物セラミックスは、250〜300Kの温度範囲かつ0.05T以下の磁場範囲で、磁場の印加によって誘起される電気分極が1.0×100μC/m2以上となる領域を有する。また、図示していないが、実施例の酸化物セラミックスの磁化は飽和状態に達するまでに2段階の段階的な増加を示し、磁化の異常が観察された磁場では、比誘電率の異常も観測された。実施例の酸化物セラミックスの電気磁気効果は、室温付近(例えば250〜350K)、弱磁場(例えば0.05T以下)でも十分に発揮し得ることが分かる。
【0065】
表2及び表3から分かるように、酸素雰囲気中で、1100〜1300℃の温度範囲で焼成した後、2〜100時間で室温まで冷却することにより、300Kでの電気抵抗率が高く、300Kで電気磁気効果を有する、電気磁気効果材料が得られる。
【0066】
また、表2及び表3から、焼成を空気雰囲気中で行った場合は、室温まで冷却する前に、酸素雰囲気中で800〜1100℃の温度範囲で1〜50時間保持した後、酸素雰囲気中で2〜100時間で室温まで冷却することで、300Kでの電気抵抗率が高く、300Kで電気磁気効果を有する、電気磁気効果材料が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の電気磁気効果材料は、室温かつ弱磁場条件下で電気磁気効果を発揮しており、電気的検出及び制御可能なスピンのヘリシティとして、情報を記録するといった不揮発性メモリなどへのデバイスに応用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(Sr1-αBaα3(Co1-ββ2Fe2441+δ(但し、式中、Bは、Ni、Zn、Mn、Mg及びCuからなる群から選ばれる一種以上の元素であり、α、β、δは、それぞれ、0≦α≦0.3、0≦β≦0.3、−1≦δ≦1である。)で示される酸化物セラミックスを主要成分として構成され、
250〜350Kの温度範囲かつ0.05テスラ以下の磁場範囲において、電気磁気効果を有することを特徴とする電気磁気効果材料。
【請求項2】
前記電気磁気効果材料は、250〜350Kの温度範囲かつ0.05テスラ以下の磁場範囲において、磁場の印加によって誘起される電気分極が1.0×100μC/m2以上となる領域を有する請求項1に記載の電気磁気効果材料。
【請求項3】
前記電気磁気効果材料は、250〜350Kの温度範囲かつ0.05テスラ以下の磁場範囲において、電気磁気結合係数が1.0×10-11s/m以上となる領域を有する請求項1又は2に記載の電気磁気効果材料。
【請求項4】
前記一般式において、α及びβがそれぞれ0である請求項1に記載の電気磁気効果材料。
【請求項5】
前記電気磁気効果材料は、250〜350Kの温度範囲において、電気抵抗率が1.0×109Ω・cm以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気磁気効果材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気磁気効果材料の製造方法であって、
Srの酸化物又はその前駆物質と、Coの酸化物又はその前駆物質と、Feの酸化物又はその前駆物質と、Baの酸化物又はその前駆物質と、Bの酸化物又はその前駆物質とを、一般式(Sr1-αBaα3(Co1-ββ2Fe2441+δ(但し、式中、Bは、Ni、Zn、Mn、Mg及びCuからなる群から選ばれる一種以上の元素であり、α、β、δは、それぞれ、0≦α≦0.3、0≦β≦0.3、−1≦δ≦1である。)で示される化学量論量に相当する比率で配合して混合物を得る工程と、
前記混合物を仮焼して仮焼粉末にする工程と、
前記仮焼粉末を、酸素雰囲気中で、1100〜1300℃の温度範囲で焼成した後、2〜100時間で室温まで冷却する工程を含む電気磁気効果材料の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気磁気効果材料の製造方法であって、
Srの酸化物又はその前駆物質と、Coの酸化物又はその前駆物質と、Feの酸化物又はその前駆物質と、Baの酸化物又はその前駆物質と、Bの酸化物又はその前駆物質とを、一般式(Sr1-αBaα3(Co1-ββ2Fe2441+δ(但し、式中、Bは、Ni、Zn、Mn、Mg及びCuからなる群から選ばれる一種以上の元素であり、α、β、δは、それぞれ、0≦α≦0.3、0≦β≦0.3、−1≦δ≦1である。)で示される化学量論量に相当する比率で配合して混合物を得る工程と、
前記混合物を仮焼して仮焼粉末にする工程と、
前記仮焼粉末を、酸素雰囲気中又は空気雰囲気中で、1100〜1300℃の温度範囲で焼成し、酸素雰囲気中で800〜1100℃の温度範囲で1〜50時間保持した後、2〜100時間で室温まで冷却する工程を含む電気磁気効果材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−1396(P2012−1396A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138467(P2010−138467)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】