説明

電気素子、集積素子及び電子回路

【課題】温度較正を行う煩雑な工程を必要とせず、コストを抑える。
【解決手段】基板11上に、相変化物質15と相変化物質15を加熱する発熱部13とが積層されている。更には、相変化物質15における温度変化に伴う相転移としての相変化物質15の体積変化を検出する相転移検出層14を相変化物質15に当接して積層されている。相転移検出層14は圧電効果を有しており、温度変化に伴い相変化物質15の体積が変化するとこの体積変化が相転移検出層14への圧力変化となる。転移検出層14によって圧力変化に対する変位電圧を出力する。その変位電圧を検出することで、相変化物質の相転移が起きたことを検出する。そして、検出した相転移が起きたときの温度を既知の相転移温度とする温度較正を素子自身で行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度依存性を有する電気素子、集積素子及び電子回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ICやLSIなどの半導体素子の生産に関して、半導体装置メーカの販売する生産設備を導入することによって半導体素子生産への参入障壁が低く、生産拠点はグローバル化している。その結果、半導体素子の価格は非常に安価なものになっている。また、半導体集積回路の製造工程を用いたMEMS(Micro Electro Mechanical System)技術により、大量生産で特性の揃ったCMOSなどの半導体に組み込まれるセンサ等が数多く生産されている。現在のセンサ生産設備の主流はそのようなICやLSIの生産設備を流用している。そして、半導体集積回路の製造工程において、センサで得られる反応量を電圧などの物理量へ変換した値とする目盛付けを行うためには、センサでの反応量を基準となる計量標準に対比させて目盛付けのための温度較正が必要となる。
【0003】
ここでのセンサは温度依存性を持つセンサ、例えば温度変化を加味した測定値を出力可能な圧力センサや温度センサ等がある。この温度依存性を持つ圧力センサの温度較正は、圧力センサを検査器にセットし、検査者又はユーザが温度変化に伴って出力する圧力センサの圧力出力値を既存の圧力出力値のデータと照合することで行われている。また、温度センサには、熱電対、白金測温抵抗体、サーミスタなどがある。この中で、低価格であって広い測定範囲を持つことから汎用されている熱電対の温度センサを例として温度較正について説明する。この熱電対は異なる2種類の金属線の一端を接合した(対にした)接合部に温度を加えると両端の温度差に応じて発生する微弱な熱起電力を測定し、測定した熱起電力に対応する温度値を出力する温度センサである。つまり、このような温度センサは温度変化に対応した熱起電力を出力するものである。この温度センサが正確に温度測定を行うためには温度較正する必要がある。温度較正を行う一般的な方法としては、一定な環境下である恒温槽の中に温度センサを置き、恒温槽内の温度を変化させて温度センサの熱電対からの出力される熱起電力を測定し、測定した熱起電力を温度変化に対する熱起電力の標準値と比較する。そして、この比較値を補正値とし各温度センサの温度較正を行う。
【0004】
この熱電対の温度センサを用いて熱分析装置の温度較正を行う方法として、特許文献1に記載のものが知られている。この特許文献1に記載の温度較正を行う方法では、既知の相転移温度を持つ温度標準物質及び熱電対の温度センサを加熱炉内に設置する。そして、加熱炉内の温度を変化させていくと、温度標準物質の融点に相当する温度付近で温度標準物質の吸熱反応が発生する。この温度標準物質の吸熱反応は熱電対のリニアな出力変化での変曲点として検出される。そして、この変曲点の出力が検出されたときの温度を融点温度である温度標準とし、その温度標準を基づいて演算した補正値で熱電対の温度値を較正する。
【0005】
温度較正を行う他の方法として特許文献2に記載のものも知られている。この特許文献2に記載の装置は、高圧高温装置内を適温になるように加熱するヒータに標準物質を直列に接続し、高圧高温装置内の温度を検出しながらヒータへの投入電力を調整する。そして、ヒータによって高圧高温装置内を加熱していき標準物質の相転移が起きたことをヒータの電気抵抗又はヒータへの電圧・電流の変化で捕え、その時の温度を検出する。そして、その時のヒータへの投入電力を基準とし、温度較正を行うものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1によれば、温度較正工程では加熱炉内に温度標準物質を搬送して行われるため、較正精度は熱電対に対する温度標準物質の位置精度に依存する。このため、較正精度を上げるためには位置精度を上げなければならず、位置精度を上げる設備投資等によって素子自体のコスト増につながってしまう。また、上記特許文献1において、温度センサを製品に組み込んだ後に温度較正を行うときは特に製品から温度センサを取り外してユーザが上記温度較正を行うこととなり、この煩雑な温度較正自体がユーザの負担となっていた。また、上記特許文献2によれば、ヒータと相変化物質とが電気的に直列に接続されているので、相変化物質の相転移による電気伝導度の変化に加え、ヒータの電気伝導度の変化も生じる。このため、相変化物質の相転移温度が検出できその温度で較正できたとしても、ヒータの電気伝導度の変化に伴う影響で温度較正の精度が低下してしまうという課題があった。
【0007】
また、いずれの特許文献でも、一定の温度に制御した恒温環境となっている温度標準を備える大規模な設備が必要となる。更に、温度センサや湿度センサなどの熱を扱うセンサの中でも高い精度が求められるような高精度なセンサは細かい温度較正を行う必要となり、汎用なセンサの温度較正に比べて煩雑な工程を必要としていた。そのため、高精度なセンサは温度標準が一定の安定した恒温環境槽内に搬送されて温度変化を細かくして温度較正を行うために長い時間を要することになり、生産効率が悪くなる。そして、それ以外の素子が簡単な電送装置や光学装置で迅速に設定が完了するのに比べ、上記高精度なセンサでは大量生産の製造工程において大量に取り扱うのにボトルネックとなっていてコストを削減することができない。このため、温度較正に要するコストが付加され、温度較正に要した温度センサ本体の価格は温度較正に要しない温度センサ本体の価格に比して数倍ないし数十倍になっている。特に精度の高いものを生産するためには精度の高い温度較正を行うため費用と、かなりの時間を要していた。
【0008】
更に、現在センサの普及は目覚しいとはいえ、このように温度較正技術の進歩が遅いため、一般の半導体素子と同じように簡単に大量に扱われるまでにはなっていない。このため、製造工程において温度較正工程自体を無くすことが最も有効である。また、高い精度を維持しようとすれば、随時簡便に温度較正を実施することが求められるが、出荷後に使用者が温度較正を実施することは実質的に困難である。電気信号でのみ駆動する一般の半導体素子と同じく、電気信号でいつでもどこでも素子自身で温度較正を行うことができる電気素子の提供が望まれている。
【0009】
本発明は以上の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、温度較正のための煩雑な工程を必要とせず、コストを抑えることができる、電気素子、集積素子及び電子回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、温度依存性を有する電気素子において、既知の相転移温度を持つ少なくとも1つの相変化物質を有する相変化部と、温度の変化に伴って上記相変化物質の相転移が起きたことを圧電効果によって検出する検出部と、該検出部によって検出した相転移が起きたときの温度を既知の上記相転移温度とする温度較正を行う温度較正部と、を基板上に一体化して設けられていることを特徴とする電気素子である。
また、請求項2の発明は、請求項1記載の電気素子において、上記相変化物質を加熱する発熱部を設けたことを特徴とするものである。
更に、請求項3の発明は、請求項1記載の電気素子において、上記検出部によって温度変化に伴って既知の相転移温度時に上記相変化物質の体積変化としての変位電圧を検出し、検出した変位電圧を上記相変化物質における温度変化に伴う相転移が起きたとすることを特徴とするものである。
また、請求項4の発明は、請求項1記載の電気素子において、上記検出部によって温度変化に伴って既知の相転移温度時に上記相変化物質の応力変化としての変位電圧を検出し、検出した変位電圧を上記相変化物質における温度変化に伴う相転移が起きたとすることを特徴とするものである。
更に、請求項5の発明は、請求項1記載の電気素子において、上記検出部によって温度変化に伴って既知の相転移温度時に上記相変化物質の固有振動数変化としての変位電圧を検出し、検出した変位電圧を上記相変化物質における温度変化に伴う相転移が起きたとすることを特徴とするものである。
また、請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気素子において、少なくとも上記相変化部を設けた領域の上記基板に、空洞を設けることを特徴するものである。
更に、請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気素子において、上記相変化物質は、国際温度目盛ITS−90に定義されている物質であることを特徴するものである。
また、請求項8の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の電気素子において、上記相変化部、上記相変化物質を加熱する発熱部及び上記検出部を上記基板上に積層することを特徴とするものである。
更に、請求項9の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の電気素子において、上記相変化部、上記相変化物質を加熱する発熱部及び上記検出部を上記基板上に並列に配置することを特徴とするものである。
また、請求項10の発明は、請求項1〜9のいずれか1項に記載の電気素子において、上記相変化物質を加熱する発熱部に離間させた箇所に上記相変化物質を分散配置したことを特徴とするものである。
更に、請求項11の発明は、請求項10記載の電気素子において、上記発熱部を蛇行配置し、蛇行状の上記発熱部に沿って上記相変化物質を並列に設けたことを特徴とするものである。
また、請求項12の発明は、請求項10記載の電気素子において、上記発熱部を蛇行配置し、蛇行状の上記発熱部に沿って上記相変化物質を積層に設けたことを特徴とするものである。
更に、請求項13の発明は、請求項10記載の電気素子において、上記発熱部と上記相変化物質と上記検出部とが、同心円となるようにそれぞれ配置したことを特徴とするものである。
また、請求項14の発明は、請求項10記載の電気素子において、上記発熱部を同心円の形状にし、上記相変化物質及び上記検出部を扇形に形成し、同心円の上記発熱部の円周内に、上記相変化物質及び上記検出部を上記発熱部と同心円となるように交互に配置したことを特徴とするものである。
更に、請求項15の発明は、請求項1〜14のいずれか1項に記載の電気素子において、上記相変化物質、上記相変化物質を加熱する発熱部、上記検出部又は上記基板のうち少なくとも1つが導電性材料で構成されていれば、導電性である部材を電気絶縁材で電気的に絶縁することを特徴とするものである。
また、請求項16の発明は、請求項1〜15のいずれか1項に記載の電気素子において、上記相変化物質を加熱する発熱部による温度検出範囲が上記相転移温度近傍の温度範囲内であることを特徴とするものである。
更に、請求項17の発明は、請求項1記載の電気素子において、上記検出部は、上記相変化物質を挟持し、温度の変化に伴って上記相変化物質の相転移が起きたことを検出することを特徴とするものである。
また、請求項18の発明は、請求項1〜17のいずれか1項に記載の電気素子において、上記相変化部が既知の上記相転移温度の異なる複数の相変化物質を有する場合、上記検出部は上記各相変化物質における温度変化に伴う各相転移を検出することを特徴とするものである。
更に、請求項19の発明は、請求項18記載の電気素子において、溶解して合金となる複数の上記相変化物質を設け、温度上昇によって上記各相変化物質が溶解して相変化物質の合金となり、合金の相変化物質の相転移を検出することを特徴とするものである。
また、請求項20の発明は、請求項1〜19のいずれか1項に記載の電気素子において、少なくとも上記相変化部の周囲を絶縁材で覆う表面保護膜を形成することを特徴とするものである。
更に、請求項21の発明は、請求項1〜20のいずれか1項に記載の電気素子を複数集積したこと特徴とするものである。
また、請求項22の発明は、請求項1〜21のいずれか1項に記載の電気素子と回路素子とを集積することを特徴とする集積回路である。
更に、請求項23の発明は、請求項1〜21のいずれか1項に記載の電気素子を、温度依存性のある半導体又は電子部品と共に集積することを特徴とする電子回路である。
【0011】
本発明においては、相変化部、相転移検出部及び温度較正部を一体化して基板上に設けて電気素子を構成している。そして、相転移検出部によって温度の変化に伴う相変化部の少なくとも1つの相変化物質の相転移が起きたことを相変化物質の圧電効果の作用によって検出する。温度較正部によって、相変化物質の相転移が起きたときの温度を既知の相転移温度とする。このように、電気素子自身によって、相変化物質の相転移が起きたときの温度を既知の相転移温度とする温度較正を行う。これにより、電気素子を恒温環境槽内に搬送しての温度較正を行う煩雑な工程を省くことができ、コストを抑えることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上本発明によれば、温度較正のための煩雑な工程を必要とせず、コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】1つの相変化物質において時間推移における温度変化及び電気抵抗値変化を示す特性図である。
【図2】1つの相変化物質において発熱部に供給される電流に対する発熱部の温度変化及び抵抗値変化を示す特性図である。
【図3】異なる相転移温度の2つの相変化物質において時間推移に対する温度変化を示す特性図である。
【図4】異なる相転移温度の2つの相変化物質において時間推移に対する発熱部の駆動電流値変化を示す特性図である。
【図5】異なる相転移温度の2つの相変化物質において時間推移に対する検出リード線間の出力電圧値変化を示す特性図である。
【図6】異なる相転移温度の2つの相変化物質において印加電圧と出力電圧とから算出した抵抗値変化を示す特性図である。
【図7】異なる相転移温度の2つの相変化物質において抵抗値−温度特性を示す特性図である。
【図8】実施形態の電気素子の積層構造を示す図である。
【図9】実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。
【図10】実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。
【図11】実施形態の電気素子の並列構造を示す図である。
【図12】実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。
【図13】実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。
【図14】実施形態の電気素子の別の積層構造を示す平面図である。
【図15】実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。
【図16】実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。
【図17】実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。
【図18】実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。
【図19】実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。
【図20】実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。
【図21】実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。
【図22】実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。
【図23】実施形態の電気素子の別の積層構造を示す平面図である。
【図24】実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。
【図25】実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。
【図26】実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。
【図27】実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。
【図28】実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。
【図29】実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。
【図30】実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。
【図31】実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。
【図32】実施形態の電気素子を含む集積素子の構成を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
はじめに、相変化物質の相転移を用いたキャリブレーションの原理について概説する。ここでは相変化物質の相転移を検出する要因が電気抵抗値変化とした例で説明する。
図1は時間推移における温度変化及び電気抵抗値変化を示す特性図である。この例では1つの相変化物質の既知の融点をキャリブレーションに用いる例であり、この例において、図1に示すように一定の電流値の電流を供給させて相変化物質が相転移する温度(融点(凝固点):Mp)になると吸熱反応が生じる。相変化物質が個体であれば温度が上がっていくと相転移温度にて液体となりはじめ、全てが液体となる期間は相転移温度を維持し、全てが液体となった以降は再び温度が上昇する。そのため、発熱部の電気抵抗値において不連続な傾向が出現する。この発熱部の電気抵抗値R2のときの温度が相転移温度と判定できる。つまり、この電気抵抗値R2となったときが相転移温度となったことに相当する。相転移温度と電気抵抗値との関係が1対1の関係となり、この関係を用いることによりキャリブレーションを行うことができる。
【0015】
なお、発熱部の熱容量を小さくし、相変化物質は薄く、かつ均一な温度領域に形成することにより、相変化の時点をより正確に検出できる。具体的には、図1に示すように、相変化物質が固体から液体へ相転移すると、相変化物質が吸熱反応を示し、相変化開始から終了まで温度が変化しないので温度が維持され、発熱部の電気抵抗値の増加傾向が抵抗値の平行状態へ変化する現象として検出される。電気抵抗値の時刻T0から時刻T1の推移はデータとして記憶され、抵抗値と時間の関数として演算される。この関数と時刻T1後に得られるデータを比較し、時刻T2で関数にフィットしないデータが生じれば相転移し、この時既知の相転移温度Mpであると判断する。特に基板に空洞部を形成した熱容量の小さい相変化物質と発熱部の構造であれば、T2=0.1から10[msec]の時刻で、迅速かつ顕著な特性として得ることができる。例えば、後述する図15の発熱部や相変化物質の蛇行配置構造において、発熱部と相変化物質が形成されている箇所の寸法が厚さ2[μm]で100[μm]角、相変化物質がSnで231.928℃の相転移温度であれば、1[msec]で温度標準が得られ、寸法をより一層小さくするとより一層高速にできる。このように、図1に示すように、発熱部の電気抵抗値R2が既知の温度Mpであって、発熱部の既知の抵抗温度係数TCRを用いることによって、発熱部に対しジュール発熱させないように微弱の電流を供給して、発熱部の電気抵抗値を素子の環境温度の検出として用いることができる。なお、後述する複数の異なる相転移温度を得る構造であれば、発熱部の既知の抵抗温度係数TCRを用いずに、未知の抵抗温度係数TCRを導き出すことができる。なお、実施形態において相変化物質はある温度で相転移する物質であればよい。特に、高精度に温度が決められている国際温度目盛として定められる温度を示す物質を用いれば高精度にキャリブレーションできるので、その物質としてはIn、Snなどがある。
【0016】
図2は発熱部に供給される電流に対する発熱部の温度変化及び抵抗値変化を示す特性図である。図2に示すように、相変化物質が固体又は液体から気体へ既知の温度(昇華点又は沸点:Bp)で相転移するので、相変化物質が蒸散して発熱部の熱容量が相変化物質の分減少する。発熱部の熱容量の減少は発熱部の温度(電気抵抗値)を一定割合で増加させている発熱部へ供給する電力量(電気抵抗値)の推移において電流値を増加させ、沸点Bpに達した時に相変化物質が相転移する。熱容量が変化し電気抵抗値は不連続な特性として現れ、この不連続点が既知の沸点Bpである。図1と同様に、発熱部に対しジュール発熱させないように微弱の電流を供給して、発熱部の電気抵抗値を素子の環境温度の検出として用いることができる。
【0017】
次に、複数の相変化物質のそれぞれの既知の相転移温度を用いたキャリブレーションの原理について概説する。なお、以下では2つの相変化物質を用いた例で概説するものとする。
【0018】
図3は異なる相転移温度の2つの相変化物質において時間推移に対する温度変化を示す特性図である。同図に示すように、発熱部への電流供給を一定の割合で増加していくことによって、時刻T2で相変化物質Aが相転移する温度(相変化物質A固有の既知の値である融点(凝固点):Mpa)になる。更に、電流を供給し続け温度を上昇させると、時刻T4で相変化物質Bが相転移する温度(相変化物質B固有の既知の値である融点(凝固点):Mpb(>Mpa))になる。なお、これらの素子は、相変化物質を相転移させるのに発熱部を用いず、従来のように素子の環境温度を温度制御することによっても、図3に示す相変化物質の相転移を検出し、既知の温度であることが決定できるので、従来のキャリブレーション設備ほど高精度の温度標準設備でなく空間温度分布のある温度制御精度の低い設備を用いた方法によっても、個々の素子の相変化物質の相転移を検出し、高精度にキャリブレーションできる。そして、所定の抵抗温度係数を有する発熱部をジュール発熱させないように十分小さな電流値を印加し、発熱部の抵抗値を検出することによって、個々の素子の発熱部を温度検出器として用い高精度にキャリブレーションできる。
【0019】
なお、少なくともMpa≠Mpbであればよい。また、異なる相転移温度の2つの相変化物質において時間推移に対する発熱部の駆動電流値変化を示す特性図である図4に示すように、出力電圧値を測定し抵抗値に変換してRの偏曲点(多くはΔR=0)が2回出現する期間、時刻T0から時刻T4まで、電流値が増加させる。抵抗値の時間微分値ΔRについて、時刻T0から時刻T1のΔRを記憶し、時刻T2後のΔRと比較する。固体から液体へ相転移を完了するまでは吸熱反応によって印加電力を増しても温度の上昇はなくΔR=0であるので、時刻T2において所定の相変化物質Aは既知の相転移温度Mpaになったと判断できる。同様に、時刻T4において所定の相変化物質Bは既知の相転移温度Mpbになったと判断できる。これによって、図5に示すように、発熱部(ヒータと温度検出部との兼用)の時刻T2における供給電流値と出力電圧値Va、すなわち図6に示す抵抗値Raが温度Mpaの時の値である。また、時刻T4における供給電流値と出力電圧値Vb(図5参照)、すなわち抵抗値Rb(図6参照)が温度Mpbの時の値であることがわかり、図7に示すように発熱部の温度依存性(抵抗値の温度キャリブレーション)を温度と抵抗値の関数として近似する。また、図5に示すように、時刻T5、時刻T6において、測温抵抗体と同じく自己発熱させないように微小な定電流Isを供給することによって、図6に示すように、抵抗値V5/Is及び抵抗値V6/Isを検出し、先の温度と抵抗値の関数を用い、温度C5、温度C6として算出する。図6の破線に示す周囲温度が測定できる。
【0020】
このように、2つの異なる相変化物質がそれぞれ異なる相転移温度の物質であることにより、発熱部の温度が2つの異なる温度になったときにキャリブレーションすることができる。これにより、高精度の温度目盛が付与できる。なお、発熱部の温度依存性(抵抗値の温度キャリブレーション)が求まるので、未知の抵抗温度係数(TCR)の抵抗体材料を用いることができるし、発熱部の材料が予め既知の抵抗温度係数(TCR)の抵抗体材料を用いると図7の抵抗値−温度特性が更に精度が高くなる。例えば、発熱部にPtを用いると、
発熱部の抵抗値R(Ω)と温度S(℃)の温度依存性は以下の式(1)で表すことができる。
R=R0×(1+α・S)・・・・(式1)
【0021】
なお、温度係数(TCR)αは3.9083E−03(0℃〜850℃)であって、これに相変化物質Aが例えばInでMpa=156.5985℃のRa、相変化物質Bが例えばSnでMpb=231.928℃のRbにより、温度係数αの補正を行えばさらに精度が高く、0℃〜850℃では線形なので、MpaからMpbまでの範囲以外の温度領域でも精度が確保される。ちなみに、図面では相転移温度が異なる相変化物質の2種類を示しているが、非線形の温度依存性である場合はより多くの異なる既知の相転移温度が必要であって、図面上の相変化物質の種類を増やせばよい。また、相変化物質が相転移したことを検出する要因が電気抵抗値変化とした例で説明したが、その他の相変化物質が相転移したことを示すものとして、体積、応力、質量、熱容量、固有振動数、誘電率、粘性、光透過率、光反射率、光吸収率等がある。
【0022】
次に、実施形態の電気素子の構造について説明するが、1つの相変化物質を用いてその相変化物質の体積変化、応力変化、固有振動数又は誘電率を検出した例で説明する。
図8は実施形態の電気素子の積層構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。図8に示すような積層配置した構造の電気素子では、発熱部13と相変化物質15が極近接し伝熱も均等になり、熱容量も小さく、迅速にキャリブレーションが完了し高精度の温度検出が可能になる。電気絶縁性材料のガラスやセラミックからなる基板11上に、Si、Pt、NiCr、SiC,Cなどの導電性物質からなる電力供給用の1組のリード12とリード先端の発熱部13とを配置し、発熱部13上に電気絶縁層17を介して圧電効果を有するPZT等のパターンを配した相転移検出層14を積層する。更に、相転移検出層14上に相変化物質15を積層して一体化している。相転移検出層14には検出用のリード16が形成されている。このような構造を有する電気素子によれば、既知の相転移温度を有する相変化物質が当該相転移温度に体積変化するので寸法変位として、あるいは軟化するので剛性が低下して応力が変化する。この体積変化又は応力変化を、圧電効果による検出によって、既知の相転移温度を基準温度に用いることができる。詳細には、既知の融点の物質が溶解時に軟化するので剛性が低下する。また、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTa1-xNbxO3)は相転移温度にて結晶の構造相転移を生じ、誘電率と二次電気光学定数(Kerr定数)が最大となり、発振周波数が相転移温度35.6℃付近で急激に変化する。これらを、固有振動数に関する変化を検出することによって、既知の温度を温度標準に用いることができる。図8の電気素子によれば、発熱部13にリード12を介して電流を供給して発熱部13によって発熱させる。そして、発熱部13に隣接された相変化物質15の相転移となると、相転移温度で相変化物質15の固有振動数や電圧が変化する。これにより、固有振動数の変化を検出リード16間の交流周波数変化として、あるいはピエゾ抵抗効果による変位電圧として検出することができる。これにより、上述した原理に基づいて交流周波数変化又は変位電圧を検出することで相変化物質15の相変移温度となったことを検知する。
【0023】
図9は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図において、図8と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。同図に示す基板11は導電性を有する物質であり、例えばAl、Ni、Siであって、リード12や発熱部13の導電性と干渉してしまうので、図9の電気素子では、基板11の表面に電気絶縁層17を形成している。この電気絶縁層17は、相変化物質15の相転移温度よりも低いと、相転移してしまうので、相転移温度が相変化物質15よりも高い物質を選択する必要があり、SiO、Si、Al等の耐熱性物質である。基板がSiであれば、周辺回路を集積しやすい。電気絶縁層17は、例えばSiの基板11を熱酸化させることによって表面にSiOを形成したり、SOI(Si On Insulator)構造基板によって得ることができる。
【0024】
図10は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図において、図9と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。図9と異なる図10の電気素子は、発熱部13及び相転移検出層14並びに相変化物質15にを配置している領域以外を、電気絶縁層17をマスクとして基板11上にエッチングにより空洞18を設けたものである。このような構造としたことにより、発熱部13を基板11と低熱容量の空間によって断熱性を高め、発熱部13の熱容量を小さくできる。積層した相変化物質15も発熱部13と近接し微小量なので、発熱部13とほぼ同じ温度になり、温度分布も均一になる。これによって、相変化物質15と発熱部13は迅速な温度制御が可能になるため、高精度のキャリブレーションが迅速に完了できる。これらの製造方法は、基板11上に、導電性物質の基板であれば電気絶縁層15を積層した後、導電性の電気抵抗物質を薄膜状に蒸着やスパッタリングによって積層し、リード12や発熱部13として半導体微細加工のフォトエッチング技術によってパターン加工する。そして、相変化物質15を、積層された相変化物質が導電性物質あれば電気絶縁層17を介して積層した後、相変化物質15を発熱部13に対応する領域にパターン加工する。基板11上に空洞18を設ける構造においては、発熱部13と相変化物質15の領域周辺に対向する基板となる部位をエッチング除去する。この空洞18によって大きな熱容量の基板の影響を小さくし、小さな熱容量の発熱部13及び相変化物質15の構造が得られ、高速に所定の温度に調節することができる。
【0025】
図11は実施形態の電気素子の並列構造を示す図である。同図において、図8と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。同図に示す並列構造の電気素子は、基板11上に電気抵抗物質のリード12と発熱部13とを配置し、この発熱部13に並列に離間して相転移検出層14を形成し、その相転移検出層14上に相変化物質15を積層して形成したものである。半導体微細加工のフォトエッチング技術によってパターン形成する場合には積層段差が加工寸法精度に影響を与えるので、発熱部13と相変移検出層14とを並列に同一平面上に配置することによって、図8の電気素子の積層構造より、積層段差を小さくし精度ばらつきが小さくできる。また、発熱部13と、相転移検出層14及び相変化物質15との間には間隔があるので、発熱部13と相変化物質15とは電気的に絶縁されていて、相変化物質15に導電性を有する場合であっても発熱部13への影響はない。
【0026】
図12は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図において、図14と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。図11と異なる電気素子は、発熱部13と相転移検出層14と相変化物質15を配置している領域以外を、電気絶縁層17をマスクとして基板11上にエッチングにより空洞18を設けたものである。このような構造としたことにより、発熱部13を基板11と低熱容量の空間によって断熱性を高め、発熱部13の熱容量を小さくできる。積層した相変化物質15も発熱部13と近接し微小量なので、発熱部13とほぼ同じ温度になり、温度分布も均一になる。これによって、相変化物質15と発熱部13は迅速な温度制御が可能になるため、高精度のキャリブレーションが迅速に完了できる。
【0027】
図13は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。同図において、図8と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。相変化物質が表面に露出している構造において、金属材料など酸化しやすい相変化物質の場合に、周囲雰囲気によって金属酸化物に変化して、相転移温度が変化する。また、相変化物質が液化する場合は流動変形によって、温度分布が変わるので、これらはキャリブレーションを繰り返すと再現性が得られない。そこで、図13の電気素子においては、相変化物質15が周囲雰囲気によって化学変化するのを防止するために相変化物質15を周囲雰囲気に接しないように電気絶縁層19でパッシベーションする。電気絶縁層19には、SiO、Si、Al等の耐熱性の電気絶縁材料が適している。また、国際温度目盛の定義定点を用い高精度にキャリブレーションする場合には、標準気圧下(10.1325Pa)にて物質の凝固点(融点)を検出する必要がある。この場合、耐熱性の電気絶縁層を被覆した剛性を有する構造によって、耐熱性の電気絶縁層の内部は一定圧力に維持されているので、周囲雰囲気の気圧が変化しても影響を受けず精度が高くなる。
【0028】
図14は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す平面図である。同図において、図8と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図に示す電気素子は、同一の基板11上に、発熱部13と相転移検出層14と相変化物質15を積層したユニットを複数設けて一体化したものである。このような構成によれば、一方のユニットにおけるキャリブレーションによる精度保証期間が終了したら、他方のユニットのキャリブレーションを行い、精度保証期間を長期間に渡って実現できる。
【0029】
図15は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のB−B'線断面図である。同図において、図10と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。また、同図において電気絶縁層19の表記は省略されている。同図に示す電気素子は、基板11の空洞18の領域に、空洞18と周囲雰囲気とが通気する一部開口領域を設けた電気絶縁層17に、発熱部13を蛇行配置させ、更に発熱部13に相転移検出層14を並列させて蛇行配置させ、相転移検出層14上に相変化物質15を積層している。このような蛇行配置とした発熱部13と、発熱部13に並列して蛇行配置とした相転移検出層14及び相変化物質15を、局所に高密度に集中配置し、温度分布を均一にさせ、効率良く高精度にキャリブレーションできる。なお、図15に示す電気素子は、相転移検出層14上に相変化物質15を積層させた構造であるが、相転移検出層14に隣接させて相変化物質15を並列させた構造でもよい。
【0030】
図16は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A'線断面図、同図の(c)は同図の(a)のB−B'線断面図である。同図において、図15と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。また、同図の(a)において電気絶縁層19の表記は省略されている。同図に示す電気素子は、基板11の空洞18の領域に、空洞18と周囲雰囲気とが通気する一部開口領域を設けた円形の電気絶縁層17に、電気絶縁層17上に円形の電気絶縁層を同心円とする発熱部13を円周配置し、更に発熱部13の内側に離間して相転移検出層14を同心円に並列配置する。更に、相転移検出層14に接するように相変化物質15を同心円として並列配置させ、最上層に電気絶縁層19で被覆した集積構造を有している。このような同心円配置とした発熱部13と、発熱部13に並列して同心円配置とした相転移検出層14と相変化物質15を、局所に高密度に集中配置し、温度分布を均一にさせ、効率良く高精度にキャリブレーションできる。なお、図16に示す電気素子は、相転移検出層14に隣接して相変化物質15を並列させた構造であるが、相転移検出層14上に相変化物質15を積層させた構造でもよい。
【0031】
図17は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A'線断面図、同図の(c)は同図の(a)のB−B'線断面図である。同図において、図16と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。また、同図の(a)において電気絶縁層19の表記は省略されている。同図に示す電気素子は、基板11の空洞18の領域に、空洞18と周囲雰囲気とが通気する一部開口領域を設けた円形の電気絶縁層17に、電気絶縁層17上に円形の電気絶縁層を同心円とする発熱部13を円周配置する。更に、相転移検出層14と相変化物質15を扇形の平面形状に形成し、1つの相転移検出層14と相変化物質15とが互いに接するものを少なくとも1組、発熱部13の内側に並列配置させる。そして、最上層に電気絶縁層19で被覆した集積構造を有している。このような同心円配置とした発熱部13の内側に扇形形状の相変化物質15を交互に分割配置したことにより、発熱部13と相変化物質15の距離が均一となって応答性も均一となるため、温度分布を均一にさせ、効率良く高精度に、かつ高信頼性のあるキャリブレーションできる。なお、図17に示す電気素子は、相転移検出層14に隣接して相変化物質15を並列させた構造であるが、相転移検出層14上に相変化物質15を積層させた構造でもよい。
【0032】
図18は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図において、図8と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。誘電体は温度が変化すると電極部付近で分極反転が起こり、温度勾配の変化に非常に敏感である。μm以上の厚みの誘電体では温度変化による分極反転は1000分の1秒(1ミリ秒)程度で消失してしまうため、温度勾配の変化を示す信号を取り出すことが困難である。そのため、μm以下の厚みの誘電体薄膜を形成することで、温度勾配の変化を容易に、かつ微小な変化を捕らえることができる。よって、既知の相転移温度を有する相変化物質と誘電体とを組み合わせ、既知の温度における吸熱反応時を誘電率として検出することができる。図8と異なる図18の電気素子は、基板11上に相変化物質15を挟んで上下に相転移検出層14を積層し一体化している。このような構造としたことにより、相変化物質の相転移に伴う誘電率に関する変化を検出することができ、既知の相転移温度を温度基準に用いることができる。
【0033】
図19は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図において、図18と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。図18と異なる電気素子は、発熱部13と相転移検出層14と相変化物質15を配置している領域以外を、電気絶縁層17をマスクとして基板11上にエッチングにより空洞18を設けたものである。このような構造としたことにより、発熱部13を基板11と低熱容量の空間によって断熱性を高め、発熱部13の熱容量を小さくできる。積層した相変化物質15も発熱部13と近接し微小量なので、発熱部13とほぼ同じ温度になり、温度分布も均一になる。これによって、相変化物質15と発熱部13は迅速な温度制御が可能になるため、高精度のキャリブレーションが迅速に完了できる。
【0034】
図20は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図において、図18と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。誘電体は温度が変化すると電極部付近で分極反転が起こり、温度勾配の変化に非常に敏感である。μm以上の厚みの誘電体では温度変化による分極反転は1000分の1秒(1ミリ秒)程度で消失してしまうため、温度勾配の変化を示す信号を取り出すことが困難である。そのため、μm以下の厚みの誘電体薄膜を形成することで、温度勾配の変化を容易に、かつ微小な変化を捕らえることができる。よって、既知の相転移温度を有する相変化物質と誘電体とを組み合わせ、既知の温度における吸熱反応時を誘電率として検出することができる。図18と異なる図20の電気素子は、基板11上に相変化物質15を挟んで並列に相転移検出層14を並列し一体化している。このような構造としたことにより、相変化物質の相転移に伴う誘電率に関する変化を検出することができ、既知の相転移温度を温度基準に用いることができる。
【0035】
図21は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図において、図20と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。図20と異なる電気素子は、発熱部13と相転移検出層14と相変化物質15を配置している領域以外を、電気絶縁層17をマスクとして基板11上にエッチングにより空洞18を設けたものである。このような構造としたことにより、発熱部13を基板11と低熱容量の空間によって断熱性を高め、発熱部13の熱容量を小さくできる。積層した相変化物質14も発熱部13と近接し微小量なので、発熱部13とほぼ同じ温度になり、温度分布も均一になる。これによって、相変化物質14と発熱部13は迅速な温度制御が可能になるため、高精度のキャリブレーションが迅速に完了できる。
【0036】
図22は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。同図において、図18と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。相変化物質が表面に露出している構造において、金属材料など酸化しやすい相変化物質の場合に、周囲雰囲気によって金属酸化物に変化して、相転移温度が変化する。また、相変化物質が液化する場合は流動変形によって、温度分布が変わるので、これらはキャリブレーションを繰り返すと再現性が得られない。そこで、図22の電気素子においては、相変化物質15が周囲雰囲気によって化学変化するのを防止するために相変化物質15を周囲雰囲気に接しないように電気絶縁層19でパッシベーションする。電気絶縁層19には、SiO、Si、Al等の耐熱性の電気絶縁材料が適している。また、国際温度目盛の定義定点を用い高精度にキャリブレーションする場合には、標準気圧下(10.1325Pa)にて物質の凝固点(融点)を検出する必要がある。この場合、耐熱性の電気絶縁層を被覆した剛性を有する構造によって、耐熱性の電気絶縁層の内部は一定圧力に維持されているので、周囲雰囲気の気圧が変化しても影響を受けず精度が高くなる。
【0037】
図23は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す平面図である。同図において、図22と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図に示す電気素子は、同一の基板11上に、発熱部13と相転移検出層14と相変化物質15を積層したユニットを複数設けて一体化したものである。このような構成によれば、一方のユニットにおけるキャリブレーションによる精度保証期間が終了したら、他方のユニットのキャリブレーションを行い、精度保証期間を長期間に渡って実現できる。
【0038】
図24は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のB−B'線断面図である。同図において、図19と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。また、同図において電気絶縁層19の表記は省略されている。同図に示す電気素子は、基板11の空洞18の領域に、空洞18と周囲雰囲気とが通気する一部開口領域を設けた電気絶縁層17に、発熱部13を蛇行配置させ、更に発熱部13に相転移検出層14を並列させて蛇行配置させ、相転移検出層14上に相変化物質15を積層し、更に相変化物質15上に相転移検出層14を蛇行配置して積層している。このような蛇行配置とした発熱部13と、発熱部13に並列して蛇行配置とした相転移検出層14及び相変化物質15を、局所に高密度に集中配置し、温度分布を均一にさせ、効率良く高精度にキャリブレーションできる。なお、図24に示す電気素子は、2つの相転移検出層14で相変化物質15を挟持させて基板11上に積層させた構造であるが、2つの相転移検出層14で相変化物質15を挟持させて基板11上に並列させた構造でもよい。
【0039】
図25は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A'線断面図、同図の(c)は同図の(a)のB−B'線断面図である。同図において、図24と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。また、同図の(a)において電気絶縁層19の表記は省略されている。同図に示す電気素子は、基板11の空洞18の領域に、空洞18と周囲雰囲気とが通気する一部開口領域を設けた円形の電気絶縁層17に、電気絶縁層17上に円形の電気絶縁層を同心円とする発熱部13を円周配置し、更に発熱部13の内側に離間して2つの相転移検出層14と各相転移検出層14に挟持された相転移物質15とを同心円に並列配置させ、最上層に電気絶縁層19で被覆した集積構造を有している。このような同心円配置とした発熱部13と、発熱部13に並列して同心円配置とした各相転移検出層14と相変化物質15を、局所に高密度に集中配置し、温度分布を均一にさせ、効率良く高精度にキャリブレーションできる。なお、図25に示す電気素子は、2つの相転移検出層14で相変化物質15を挟持させて基板11上に並列させた構造であるが、2つの相転移検出層14で相変化物質15を挟持させて基板11上に積層させた構造でもよい。
【0040】
図26は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のB−B'線断面図である。同図において、図25と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。また、同図の(a)において電気絶縁層19の表記は省略されている。同図に示す電気素子は、基板11の空洞18の領域に、空洞18と周囲雰囲気とが通気する一部開口領域を設けた円形の電気絶縁層17に、電気絶縁層17上に円形の電気絶縁層17を同心円とする発熱部13を円周配置する。更に、相転移検出層14と相変化物質15を扇形の平面形状に形成し、2つの相変化物質15を1組の相転移検出層14で挟んで互いに接するものを少なくとも1組(図25では2組)、発熱部13の内側に並列配置させる。また、相転移検出層14同士をリード線で接続する。回路としては2つのコンデンサを並列接続したことに等価となる。そして、最上層に電気絶縁層19で被覆した集積構造を有している。このような同心円配置とした発熱部13の内側に扇形形状の相転移検出層14と相変化物質15を分割配置したことにより、発熱部13と相変化物質15の距離が均一となって応答性も均一となるため、温度分布を均一にさせ、効率良く高精度に、かつ高信頼性のあるキャリブレーションできる。なお、図26に示す電気素子は、2つの相転移検出層14で相変化物質15を挟持させて基板11上に並列させた構造であるが、2つの相転移検出層14で相変化物質15を挟持させて基板11上に積層させた構造でもよい。
【0041】
次に、実施形態の電気素子の構造について説明するが、相転移温度が異なる2つの相変化物質を用いて体積変化、応力変化、固有振動数又は誘電率を検出したものを示す。
図27は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図において、図9と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。図8と異なる図27の電気素子は、電気絶縁性材料のガラスやセラミックからなる基板上11に、Si、Pt、NiCr、SiC,Cなどの導電性材料からなる電力供給用の1組のリード12とリード先端の発熱部13とを配置し、発熱部13に隣接して電気絶縁層17上に圧電効果を有するPZT等のパターンを配した相転移検出層14を積層する。更に、相転移検出層14上に相転移温度が互いに異なる相変化物質21、22を交互に配列して積層して一体化している。このような構造を有する電気素子によれば、異なる既知の相転移温度を有する相変化物質21、22が当該各相転移温度に体積変化するので寸法変位として、あるいは軟化するので剛性が低下して応力がそれぞれ変化する。この体積変化又は応力変化を、圧電効果による検出によって、既知の相転移温度を基準温度に用いることができる。また、空洞18上では基板11と分離しているので、圧電物質が変位もしくは振動しやすく、高感度で相転移が検出できる。
【0042】
図28は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図において、図26と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。図27と異なる図28の電気素子は、電気絶縁層17上に相変化物質21、22を交互に配置し、それらの相変化物質21、22を挟んで上下に相転移検出層14を積層し一体化している。そして、これらの積層体に対して平行に発熱部13を隣接して配置している。このような構造としたことにより、各相変化物質の相転移に伴う誘電率に関する変化を検出することができ、既知の相転移温度をそれぞれ温度基準に用いることができる。
【0043】
図29は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。Siのピエゾ抵抗効果を用いた圧力センサや加速度センサなどは、温度依存性が大きく、使用に当たっては予め温度依存性を求めておく必要がある。そこで、図28に示す電気素子は、圧力検出素子であり、詳細にはSOI構造の基板11の空洞18にSiダイアフラム31を形成し、Si層へ圧力ゲージとなる拡散抵抗32と発熱部13、拡散抵抗32上に相変化物質15を積層させた構造を有している。ブリッジ回路接続した拡散抵抗32と発熱部13へAl配線33を通じ電極VCCと電極GND間へ電力を供給する。発熱部13ヘ電極Wh間に供給した電力によって発熱し、相変化物質15が相転移すると発熱部13の不連続な電気特性が生じ、相変化物質15と拡散抵抗32が既知の温度になっていることがわかる。この時、電極−OUTと電極+OUT間のブリッジ回路の出力を、既知の温度における値としてキャリブレーションさせることができる。
【0044】
図30は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A'線断面図である。また、同図の(c)は平面図、同図の(d)は同図の(c)のB−B'線断面図である。既知の相転移温度で相転移する各相変化物質は、互いに接触していると相互に拡散し新たな合金や化合物に変化し相転移温度が変化してしまう。そのため、異なる相転移温度の複数の相変化物質を互いに分離させて形成する必要があった。ところが、各相変化物質からなる合金が既知の相転移温度を有することがわかっていれば、各相変化物質を互いに接触させて新たな合金や化合物を形成させておいてもよい。例えば、一方の相変化物質にInを、他方の相変化物質BにSnをそれぞれ選択し、In−Sn合金を形成させ、InとSnの混合比率により融点(凝固点)は2元合金の状態図を参照することにより得られる。そこで、当初から合金を作成しておいてその合金を単独の相変化物資として上述のように集積してもよいが、図30の(a),(b)に示すように、相変化物質41上に相変化物質42を積層しておくことでもよい。つまり、例えばInとSnの任意の混合比率を形成する電気素子の構造としては、基板11上に発熱部13を積層し、発熱部13上に電気絶縁層19を介して相変化物質41と相変化物質42とを積層配置している。なお、最上層として電気絶縁層で全体をパッシベーションしてもよい。そして、温度較正を行う際、あるいは事前に、発熱部13によって相変化物質41と相変化物質42とを積層したものを、2つの相変化物質の融点のうち高い融点まで加熱して各相変化物質を溶解し、図30の(c)、(d)に示すように相変化物質41と相変化物質42の合金である相変化物質43を生成する。なお、積層厚みの比率により、2つの相変化物質の混合比率が決まるので、2元合金の状態図を参照し相転移温度が設定できることになる。これにより、異なる相転移温度の2種類の相変化物質であっても、更に多数の相転移温度を得ることができる。
【0045】
図31は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A'線断面図である。また、同図の(c)は平面図、同図の(d)は同図の(c)のB−B'線断面図である。同図に示す電気素子において、相変化物質41と相変化物質42とを交互に接触させて隣接配置する。そして、温度較正を行う際、あるいは事前に、発熱部13によって相変化物質41と相変化物質42とを交互に隣接配列したものを、2つの相変化物質の融点のうち高い融点まで加熱して各相変化物質を溶解し、図31の(c)、(d)に示すように相変化物質41と相変化物質42の合金である相変化物質43を生成する。相変化物質41と相変化物質42とを配置する面積の比率により、2つの相変化物質の混合比率が決まるので、2元合金の状態図を参照し相転移温度が設定できることになる。これにより、異なる相転移温度の2種類の相変化物質であっても、更に多数の相転移温度を得ることができる。
【0046】
図32は実施形態の電気素子を含む集積素子の構成を示す概略平面図である。同図に示す集積素子は、実施形態の電気素子1、電気素子1の電力供給や検出等を担う電子回路40、上位装置との信号のやり取りを行うための信号の入出力用の入出力端子群50を含んで構成されている。つまり、同図の集積素子は、温度キャリブレーション機能と温度検出を集積化させた素子であって、電気素子1、電子回路40及び出入力端子群50からなる。電子回路40には、インターフェイス、制御回路、レジスタ、ΔΣA/D、発信回路などを含んでいる。また、出入力端子群50には、アドレス、GND、クロック入力、データ入出力、アドレス入力、電源の各端子を備えている。そして、端子電気絶縁性材料のガラスやセラミックからなる基板上に、Si、Pt、NiCr、SiC,Cなどの導電性材料からなる電力供給用の1組のリードとリード先端の発熱部とを配置し、発熱部上に相転移温度が互いに異なる相変化物質を離間させて積層する。なお、2つの相変化物質導電性材料あれば電気絶縁層を介して積層した後、各相変化物質を発熱部に対応する領域にパターン加工する。また、基板がSiであれば、周辺回路を集積しやすい。例えば、バルクシリコン構造のSi基板を用いる場合は、発熱材料や相変化物質がSi基板を介して導電しないように、Si基板を熱酸化させることにより表面にSiOを形成するか、あるいはSi基板上にCVDやスパッタリングによりSiO、Si、Al等の単層または複層の電気絶縁層を形成する。次に、電気絶縁層上にCVDやスパッタリングによりSi、Pt、NiCr等の発熱材料を積層し、フォトエッチングによりパターン形成し発熱部として配置する。更に、各相変化物質をCVDやスパッタリングや各種薄膜製造方法によって成膜、フォトリソグラフによってパターン形成する。また、CMOS素子構造として、同一のチップ内に周辺回路を形成し集積することができる。また、SOI(Si On Insulator)構造のSi基板を用いる場合は、BOX層を電気絶縁層とし、SOI層をフォトエッチングによりパターン形成し発熱部として配置する。次に、表面に電気絶縁層を被覆後、電気絶縁層上にCVD、スパッタリングやゾルゲル法など各種薄膜製造方法によって相変化物質を成膜、フォトリソグラフによってパターン形成する。また、基板、BOX層やSOI層をCMOS素子構造として用いることにより、同一のチップ内に周辺回路を形成し集積することができる。
【0047】
なお、発熱部13はリード12よりも厚みが薄い、あるいは幅が細くなっているので電気抵抗値が大きく、電流を供給してジュール発熱させることができる。リード12の末端から電流を供給することによって発熱部13がジュール発熱によって温度上昇し、積層した相変化物質15、41、42も発熱部13と近接し微小量なので発熱部13とほぼ同じ温度になる。
【0048】
これらは、異なる相転移温度の複数の相変化物質を、発熱部によって相転移させる温度へ加熱し、それぞれの相転移を検出することによって温度検出部を既知の温度としてキャリブレーションする仕組みである。相変化物質は、狭い温度範囲を再現性良く高い精度で相転移するものである。また、相転移前後において、温度、電気抵抗値、体積、応力、質量、熱容量、固有振動数、誘電率、光透過率、または光反射率いずれかの変化を伴うが、その変化を検出することができる物質である。更に、高精度にキャリブレーションするためには、相変化物質は、利用する温度に近い相転移温度を有するものであって、狭い相転移温度の特性を持つ金属、酸化物、有機物質が好ましい。
【0049】
なお、より高精度な温度検出を得るためには、国際温度目盛り(ITS-90)に示されている標準物質の凝固点を用い、温度検出範囲に対してできるだけ相転移温度が近いことが好ましく、例えば、一般電子機器に用いられているIC温度センサの温度検出範囲である−40から+125℃であれば、相変化物質AにIn(Mpa=156.5985℃)相変化物質BにSn(Mpb=231.928℃)を選択し、発熱部、温度検出部の物質として、−40から+232℃の範囲で、電気抵抗値の温度依存性において2次以上の抵抗温度係数が小さく、目的の温度検出値の精度に影響を与えない線形の特性を持つ、Ptが適する。キャリブレーションポイントはMpaとMpbの2点であるが、それ以上の数であってもよく、発熱部の材料が高温度で安定したPtやSiであれば、Zn:419.527℃、Al:660.323℃、を用いることによって、さらに精度を高めることができる。
【0050】
また、上述したように相変化物質を相転移させるために発熱部を用いているが、電気素子の設置環境の温度によって温度制御することによっても、相変化物質の相転移を検出し、既知の相転移温度を決定することができる。よって、従来のキャリブレーション設備ほどの高精度の温度標準設備でなく空気温度分布のある温度制御精度の低い設備でよい。また、個々の電気素子の相変化物質の相転移を検出し、高精度にキャリブレーションを行うことができる。
【0051】
以上説明したように、実施形態によれば、図1に示すように、既知の相転移温度を有する相変化物質は、当該相転移温度において相変化する。この相変化を検出することで、既知の相転移温度に達したことが検知できる。相変化物質は既知の相転移温度になると、相変化物質の体積が変化し、あるいは固有振動数が変化する。そこで、図8に示すように、基板11上には、1つの相変化物質15を加熱する発熱部13を設ける。そして、発熱部13上には、相変化物質15の温度変化に伴う体積変化を検知して電位変化する、圧電効果を有する相転移検出層14が積層される。更に、この相転移検出層14上に直接に相変化物質15を積層する。このような構造の電気素子によれば、発熱部13によって加熱していくと、相変化物質15の体積が既知の相転移温度にて変化する。そして、相変化物質15の体積が変化すると相転移検出層14に圧力が加わり、圧電効果を有する相転移検出層14の電位が変化する。この電位変化を検出することで相変化物質15の相転移を検出する。これにより、発熱部13の加熱制御が簡単になり、発熱部13の加熱による温度分布が制御しやすく、温度精度が確保できる。また、相変化物質の電気伝導度に影響されないので、相変化物質の適用できる種類が多くなり、相転移温度を豊富に選択できキャリブレーション温度の自由度も大きい。そして、相変化物質の相転移温度は既知の値であるので、相転移現象の発生を精度良く検出すれば、温度を高精度に決定することができる。従来のようなキャリブレーション工程実施に伴うコストが削減され、いつでもどこでもだれでもキャリブレーションできるので長期間の精度が維持できる。
【0052】
また、実施形態によれば、図11に示すように、基板11上には、相変化物質15を加熱する発熱部13を設ける。そして、発熱部13に対して離間する箇所に相転移検出層14を並列に設け、この相転移検出層14上に直接相変化物質15を積層している。これにより、コストを抑え、複雑な制御を必要とせずに高精度な制御が可能となる。
【0053】
更に、実施態様によれば、発熱部13に隣接させた箇所に相変化物質13を分散配置するために、図15に示すように、発熱部13を蛇行配置し、蛇行状の発熱部13に沿って離間させて相転移検出層14を並列に設けて、その相転移検出層14上に相変化物質15を直接積層することにより、局所に高密度配置することができ、より一層高精度な制御が可能となる。また、図16に示すように、発熱部13と相変化物質15と相転移検出層14とが、同心円となるようにそれぞれ配置され、基板上11に並列又は積層される。これにより、発熱部から均等に加熱され、精度が向上する。
【0054】
また、実施形態によれば、図17に示すように、基板11上に、発熱部13を同心円の形状にして配置する。そして、相変化物質15及び相転移検出層14を扇形に形成し、同心円の発熱部13の円周内に、相変化物質15及び相転移検出層14を発熱部13と同心円となるように交互に配置して設ける。これにより、発熱部13の加熱制御が簡単になり、発熱部13の加熱による温度分布が制御しやすく、温度精度がより一層高まる。
【0055】
更に、実施形態によれば、相変化物質は既知の相転移温度になると、相変化物質の誘電率が変化する。そこで、図18に示すように、基板11上には、1つの相変化物質15を加熱する発熱部13を設ける。そして、相変化物質15を挟持するように圧電効果を有する相転移検出層14を設ける。このような構造の電気素子によれば、発熱部13によって加熱していくと、相変化物質15の誘電率が既知の相転移温度にて変化する。そして、相変化物質15の誘電率が変化すると挟持している相転移検出層14間の電位が変化する。この電位変化を検出することで相変化物質15の相転移を検出する。これにより、相変化物質の相転移温度は既知の値であるので、相転移現象の発生を精度良く検出すれば、温度を高精度に決定することができる。
【0056】
また、実施態様によれば、発熱部13に隣接させた箇所に相変化物質13を分散配置するために、図24に示すように、発熱部13を蛇行配置し、蛇行状の発熱部13に沿って離間させて2つの相転移検出層14によって挟持された相変化物質15を並列に設けることにより、局所に高密度配置することができ、より一層高精度な制御が可能となる。また、図25に示すように、発熱部13と相変化物質15と相転移検出層14とが、同心円となるようにそれぞれ配置され、基板上11に並列又は積層される。これにより、発熱部から均等に加熱され、精度が向上するとともに、局所に高密度配置することができ、より一層高精度な制御が可能となる。
【0057】
更に、実施形態によれば、図26に示すように、基板11上に、発熱部13を同心円の形状にして配置する。そして、相変化物質15及び相転移検出層14を扇形に形成し、同心円の発熱部13の円周内に、相変化物質15及びこの相変化物質15を挟持した2つの相転移検出層14を、発熱部13と同心円となるように交互に配置して設ける。そして、隣接する相転移検出層14同士はリード線で接続される。これにより、発熱部から均等に加熱され、局所に高密度配置することができ、より一層高精度な制御が可能となる。
【0058】
また、実施形態によれば、図10等に示すように、少なくとも相変化物質14を設けた領域の基板11に、空洞16を設けている。これにより、迅速な温度制御を行うことができる。
【0059】
更に、実施形態によれば、図13等に示すように、少なくとも相変化物質14の周囲を絶縁材で覆う電気絶縁層18を形成している。これにより、相変化物質が周囲雰囲気によって化学変化することを防止でき、高精度な制御を高信頼に行うことができる。
【0060】
また、実施形態によれば、電気素子と回路素子とを集積して集積回路を構成する。これにより、温度依存性のある回路素子の温度に対する制御を精度よく行うことができる。また、自己温度較正機能より回路素子の温度較正工程が不要となり、回路素子自体のコストを抑えることができる。
【0061】
更に、実施形態によれば、電気素子を温度依存性のある半導体又は電子部品に集積する。これにより、大量生産される半導体又は電子部品に対する温度較正する設備や工程が不要となり、どこの製造工場でも生産でき安価な価格で半導体又は電子部品を提供することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 電気素子
11 基板
12 リード
13 発熱部
14 相転移検出層
15 相変化物質
16 検出リード
17 電気絶縁層
18 空洞
21 相変化物質
22 相変化物質
31 Siダイアフラム
32 拡散抵抗
33 Al配線層
40 電子回路
41 相変化物質
42 相変化物質
43 相変化物質
50 入出力端子群
【先行技術文献】
【特許文献】
【0063】
【特許文献1】特許第4178729号公報
【特許文献2】特開平2−039213号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度依存性を有する電気素子において、
既知の相転移温度を持つ少なくとも1つの相変化物質を有する相変化部と、
温度の変化に伴って上記相変化物質の相転移が起きたことを圧電効果によって検出する検出部と、
該検出部によって検出した相転移が起きたときの温度を既知の上記相転移温度とする温度較正を行う温度較正部と、
を基板上に一体化して設けられていることを特徴とする電気素子。
【請求項2】
請求項1記載の電気素子において、
上記相変化物質を加熱する発熱部を設けたことを特徴とする電気素子。
【請求項3】
請求項1記載の電気素子において、
上記検出部によって温度変化に伴って既知の相転移温度時に上記相変化物質の体積変化としての変位電圧を検出し、検出した変位電圧を上記相変化物質における温度変化に伴う相転移が起きたとすることを特徴とする電気素子。
【請求項4】
請求項1記載の電気素子において、
上記検出部によって温度変化に伴って既知の相転移温度時に上記相変化物質の応力変化としての変位電圧を検出し、検出した変位電圧を上記相変化物質における温度変化に伴う相転移が起きたとすることを特徴とする電気素子。
【請求項5】
請求項1記載の電気素子において、
上記検出部によって温度変化に伴って既知の相転移温度時に上記相変化物質の固有振動数変化としての変位電圧を検出し、検出した変位電圧を上記相変化物質における温度変化に伴う相転移が起きたとすることを特徴とする電気素子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気素子において、
少なくとも上記相変化部を設けた領域の上記基板に、空洞を設けることを特徴する電気素子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気素子において、
上記相変化物質は、国際温度目盛ITS−90に定義されている物質であることを特徴する電気素子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の電気素子において、
上記相変化部、上記相変化物質を加熱する発熱部及び上記検出部を上記基板上に積層することを特徴とする電気素子。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の電気素子において、
上記相変化部、上記相変化物質を加熱する発熱部及び上記検出部を上記基板上に並列に配置することを特徴とする電気素子。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の電気素子において、
上記相変化物質を加熱する発熱部に離間させた箇所に上記相変化物質を分散配置したことを特徴とする電気素子。
【請求項11】
請求項10記載の電気素子において、
上記発熱部を蛇行配置し、蛇行状の上記発熱部に沿って上記相変化物質を並列に設けたことを特徴とする電気素子。
【請求項12】
請求項10記載の電気素子において、
上記発熱部を蛇行配置し、蛇行状の上記発熱部に沿って上記相変化物質を積層に設けたことを特徴とする電気素子。
【請求項13】
請求項10記載の電気素子において、
上記発熱部と上記相変化物質と上記検出部とが、同心円となるようにそれぞれ配置したことを特徴とする電気素子。
【請求項14】
請求項10記載の電気素子において、
上記発熱部を同心円の形状にし、上記相変化物質及び上記検出部を扇形に形成し、同心円の上記発熱部の円周内に、上記相変化物質及び上記検出部を上記発熱部と同心円となるように交互に配置したことを特徴とする電気素子。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の電気素子において、
上記相変化物質、上記相変化物質を加熱する発熱部、上記検出部又は上記基板のうち少なくとも1つが導電性材料で構成されていれば、導電性である部材を電気絶縁材で電気的に絶縁することを特徴とする電気素子。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の電気素子において、
上記相変化物質を加熱する発熱部による温度検出範囲が上記相転移温度近傍の温度範囲内であることを特徴とする電気素子。
【請求項17】
請求項1記載の電気素子において、
上記検出部は、上記相変化物質を挟持し、温度の変化に伴って上記相変化物質の相転移が起きたことを検出することを特徴とする電気素子。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の電気素子において、
上記相変化部が既知の上記相転移温度の異なる複数の相変化物質を有する場合、上記検出部は上記各相変化物質における温度変化に伴う各相転移を検出することを特徴とする電気素子。
【請求項19】
請求項18記載の電気素子において、
溶解して合金となる複数の上記相変化物質を設け、温度上昇によって上記各相変化物質が溶解して相変化物質の合金となり、合金の相変化物質の相転移を検出することを特徴とする電気素子。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか1項に記載の電気素子において、
少なくとも上記相変化部の周囲を絶縁材で覆う表面保護膜を形成することを特徴とする電気素子。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれか1項に記載の電気素子を複数集積したこと特徴とする電気素子。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれか1項に記載の電気素子と回路素子とを集積することを特徴とする集積回路。
【請求項23】
請求項1〜21のいずれか1項に記載の電気素子を、温度依存性のある半導体又は電子部品と共に集積することを特徴とする電子回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2012−78246(P2012−78246A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224817(P2010−224817)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】